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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】乾燥野菜の製造方法並びに乾燥野菜
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/02 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
A23B7/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020084928
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2020188759
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2019092917
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000244109
【氏名又は名称】明星食品株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森本 友美子
(72)【発明者】
【氏名】今村 亮
(72)【発明者】
【氏名】石原 龍一
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-159860(JP,A)
【文献】国際公開第2006/009150(WO,A1)
【文献】増田 弥恵、殿塚 婦美子、香川 芳子,アクアガス(微細水滴含有過熱水蒸気)による農産物の加熱殺菌効果,日本食生活学会誌,日本食生活学会誌,2014年,第25巻、第2号,p.115-120
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥ネギ類及び乾燥玉ねぎ類から選択される、甘味が感じられる乾燥野菜の製造方法であって、(a)カットしたネギ類又は玉ねぎ類を微細水滴を含む過熱水蒸気により処理する工程、及び(b)前記工程(a)における処理後のネギ類又は玉ねぎ類を乾燥させる工程を含む、前記方法。
【請求項2】
前記工程(a)における処理を90℃以上140℃以下の温度条件下で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(a)における処理を1秒以上5分以下行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(a)の前に、(i)カットしたネギ類又は玉ねぎ類をpH調整液により処理する工程を含む、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記工程(a)と前記工程(b)との間に、(ii)前記工程(a)における処理後のネギ類又は玉ねぎ類をpH調整液又は水により処理する工程を含む、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記工程(i)又は(ii)における前記pH調整液のpHが5.0以上7.5以下である、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(i)又は(ii)における処理を5秒以上20分以下行う、請求項4~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記工程(i)又は(ii)における処理が浸漬又は噴霧である、請求項4~7のいずれか1つに記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥野菜が、40.0質量%以上の糖及び0.075質量%以下のピルビン酸を含む、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
糖の含有量が40.0質量%以上、ピルビン酸の含有量が0.075質量%以下である、甘味が感じられる乾燥野菜であって、乾燥ネギ類及び乾燥玉ねぎ類から選択される前記乾燥野菜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥野菜の製造方法及び乾燥野菜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乾燥野菜は、微生物等による汚染が少ない極めて保存安定性の高い食品であると認識されているが、汚染された乾燥野菜は、微生物の生育に好ましい条件が揃えば、微生物の増殖を促進させる危険性を含んでいるため、乾燥する前に殺菌し、安全性を高めることが必要である。
【0003】
ネギ類や玉ねぎ類等の食材の殺菌方法としては、次亜塩素酸ナトリウム等の殺菌剤や静菌剤を用いる方法やブランチング処理等の加熱方法が一般的である。しかしながらこれらの方法では食感や風味の損失、形状の壊れ、色調の劣化等、品質への影響が大きいことが知られている。
【0004】
特に次亜塩素酸ナトリウムを用いて殺菌する場合は、付着する独特の臭気除去の為に多量の水によって洗浄しなければならず、 数分~数十分の滞留時間が必要である。さらに連続殺菌の為の濃度は極めて変動しやすい等の欠点も持つ。また、独特の次亜塩素酸塩臭気により、野菜の風味が感じづらく、複数回の洗浄により野菜の風味が流出してしまうという欠点がある。
【0005】
また、ブランチング処理については、充分な殺菌効果を得るために80~100℃で数十秒~数十分程度のブランチング処理を行うと、風味の流出と水分を吸収することによる品質への影響、具体的には形状の壊れや組織が軟化することによる食感等の品質劣化が著しく起こるという欠点がある。
【0006】
ブランチング処理に関する技術として、特許文献1には、原料野菜を所要大にカットしてブランチングし、ブランチング処理した野菜を乳化油脂液に浸漬した後、凍結乾燥することを特徴とする乾燥野菜の製造法が開示されている。特許文献1には、野菜に乳化油脂を含有させて得られる凍結乾燥野菜、とりわけ葉物、軟弱野菜の凍結乾燥品では、風味や外観に悪影響を及ぼすことなく、凍結乾燥品の欠点である脆い性状に起因する壊れに対する抵抗性を付与できる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-178358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1においては、ブランチング処理後に何も処理をしないまま凍結乾燥したものに比べて壊れづらい乾燥品が得られることが記載されているが、引用文献1はあくまでブランチング処理に関する技術であり、上述のとおりブランチング処理による形状の壊れや組織の軟化による品質劣化が発生することは否めず、更なる形状、品質の向上が求められている。
【0009】
また、野菜本来の甘みが好まれることがあり、このような野菜の乾燥品においても、殺菌処理を適正に行いながら甘味を残すことが求められることがある。本発明者らが検討したところ、後述の比較例2-1及び2-2に示すように、従来の次亜塩素酸ナトリウムやブランチングによる殺菌処理においては、処理後の野菜から甘味が失われてしまうことがわかった。
【0010】
以上のように、十分に殺菌処理され衛生的であり、かつ、食感、風味、形状、及び色調に優れ、乾燥ネギ類及び乾燥玉ねぎ類から選択される乾燥野菜が望まれている。また、甘味を十分に感じることができる乾燥野菜が望まれている。
本発明は、十分に殺菌処理され衛生的であり、かつ、食感、風味、形状、及び色調に優れ、乾燥ネギ類及び乾燥玉ねぎ類から選択される乾燥野菜を提供することを目的とする。また、甘味を十分に感じることができる乾燥野菜を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意研究した結果、(a)カットしたネギ類又は玉ねぎ類を微細水滴を含む過熱水蒸気により処理する工程を経て乾燥野菜を製造することにより、上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の具体的態様は以下のとおりである。なお、本明細書において、「A~B」を用いて数値範囲を表す際は、その範囲は両端の数値であるA及びBを含むものとする。
[1] 乾燥ネギ類及び乾燥玉ねぎ類から選択される乾燥野菜の製造方法であって、(a)カットしたネギ類又は玉ねぎ類を微細水滴を含む過熱水蒸気により処理する工程、及び(b)前記工程(a)における処理後のネギ類又は玉ねぎ類を乾燥させる工程を含む、前記方法。
[2] 前記工程(a)における処理を90℃以上140℃以下の温度条件下で行う、[1]に記載の方法。
[3] 前記工程(a)における処理を1秒以上5分以下行う、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記工程(a)の前に、(i)カットしたネギ類又は玉ねぎ類をpH調整液により処理する工程を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5] 前記工程(a)と前記工程(b)との間に、(ii)前記工程(a)における処理後のネギ類又は玉ねぎ類をpH調整液又は水により処理する工程を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の方法。
[6] 前記工程(i)又は(ii)における前記pH調整液のpHが5.0以上7.5以下である、[4]又は[5]に記載の方法。
[7] 前記工程(i)又は(ii)における処理を5秒以上20分以下行う、[4]~[6]のいずれか1つに記載の方法。
[8] 前記工程(i)又は(ii)における処理が浸漬又は噴霧である、[4]~[7]のいずれか1つに記載の方法。
[9] 前記乾燥野菜が、40.0質量%以上の糖及び0.075質量%以下のピルビン酸を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載の方法。
[10] 糖の含有量が40.0質量%以上、ピルビン酸の含有量が0.075質量%以下である乾燥野菜であって、乾燥ネギ類及び乾燥玉ねぎ類から選択される前記乾燥野菜。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、十分に殺菌処理され衛生的であり、かつ、食感、風味、形状、及び色調に優れ、乾燥ネギ類及び乾燥玉ねぎ類から選択される乾燥野菜が得られる。また、本発明の製造方法によれば、甘味を十分に感じることができる乾燥野菜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】微細水滴を含む過熱水蒸気を生成する装置を示す概略図である。
図2】実施例1-7~1-12及び比較例1-4~1-6の食感、風味、形状、及び色調の評価結果を示すグラフである。
図3】実施例2-1及び比較例2-1~2-4の糖の含有量及びピルビン酸の含有量の結果を示すグラフである。
図4】実施例2-2及び比較例2-5~2-8の甘味及び辛味の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の乾燥野菜の製造方法及び乾燥野菜を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0016】
(乾燥野菜の製造方法)
本発明の乾燥野菜の製造方法は、(a)カットしたネギ類又は玉ねぎ類を微細水滴を含む過熱水蒸気により処理する工程、及び(b)前記工程(a)における処理後のネギ類又は玉ねぎ類を乾燥させる工程を含む。
【0017】
工程(a)の処理を行うカットしたネギ類又は玉ねぎ類の種類は、特に限定されないが、ネギ類が特に好ましい。ネギ類としては、例えば白ネギ、青ネギ、九条ネギ、下仁田ネギ、リーキ、赤ネギ等が挙げられ、玉ねぎ類としては、黄玉ねぎ、赤玉ねぎ、ペコロス等が挙げられる。カットしたネギ類又は玉ねぎ類としては、生鮮品を使用しても良いし、冷凍品を使用しても良い。冷凍品については解凍を兼ねて加熱処理したネギ類又は玉ねぎ類を使用することも出来るし、調味後のネギ類又は玉ねぎ類を使用しても良い。ネギ類又は玉ねぎ類のカット方法は特に限定されないが、薄切り、斜め切りが好ましい。
【0018】
工程(a)における微細水滴を含む過熱水蒸気とは、過熱水蒸気中に高温の微細水滴を分散させた気液二相加熱媒体である。
【0019】
微細水滴を含む過熱水蒸気の生成方法は、特に限定されず公知の装置を使用して生成させることが出来るが、特開2007-228870号公報に示された装置等の熱水を噴射させる装置と過熱水蒸気を噴射させる装置とを具備した加熱チャンバーを有した装置により生成することができる。このような微細水滴を含む過熱水蒸気を生成する装置としては、さらに伝導加熱、放射加熱、及び高周波加熱等で加熱チャンバー内を加温出来るものが望ましい。微細水滴を含む過熱水蒸気を生成する装置としては、株式会社タイヨー製作所製のアクアクッカー(登録商標)を使用することができる。
【0020】
微細水滴を含む過熱水蒸気を生成する装置の例を、図1に示す。図1において、微細水滴を含む過熱水蒸気を生成する装置は、チャンバー10、過熱水蒸気発生機20、及び微細水滴(熱水)発生機30により構成される。チャンバー10内の台の上に処理対象物である野菜40を載置し、庫内ヒーター50によりチャンバー10内を加熱することができる。過熱水蒸気発生機20は、ヒーター61及び流路71を含み、流路71を通過する水蒸気(V)をヒーター61により加熱し過熱水蒸気とすることができる。過熱水蒸気発生機20により生成された過熱水蒸気は、ノズル81からチャンバー10内に噴射される。微細水滴(熱水)発生機30は、ヒーター62及び流路72を含み、流路72を通過する水(W)をヒーター62により加熱し熱水とすることができる。微細水滴(熱水)発生機30により生成された熱水は、ノズル82からチャンバー10内に噴射され、チャンバー10内に満たされた過熱水蒸気に熱水を微細水滴として分散させる。
【0021】
工程(a)における微細水滴を含む過熱水蒸気の温度は、90℃以上140℃以下が好ましく、100℃以上140℃以下がより好ましい。
【0022】
工程(a)における微細水滴を含む過熱水蒸気による熱処理時間は、カット方法やサイズ、ネギ類又は玉ねぎ類の種類、温度条件により異なるが、1秒以上5分以下が好ましく、1秒以上150秒以下がより好ましく、5秒以上80秒以下がさらに好ましく、10秒以上30秒以下が最も好ましい。ただし、熱処理時間が長過ぎると形状の壊れや組織が軟化することによる品質劣化を起こす可能性があり、熱処理時間が短すぎると微生物制御が出来ない為、適宜設定する。
【0023】
微細水滴を含む過熱水蒸気の水量は、ネギ類又は玉ねぎ類の表面が覆われる程度の量であれば良く、加熱チャンバー内にカットしたネギ類又は玉ねぎ類もしくはカット後に酸処理したネギ類又は玉ねぎ類を入れ、微細水滴を含む過熱水蒸気と接触させればよい。
工程(a)における加熱チャンバー内の水量(100秒当たりにチャンバー内に導入される過熱水蒸気と熱水との合計量)(ml/100秒)は、1200ml以上3000ml以下が好ましく、1500ml以上2700ml以下がより好ましく、1800ml以上2400ml以下が最も好ましい。
【0024】
微細水滴を含む過熱水蒸気を生成する装置において、処理を行うネギ類又は玉ねぎ類はある程度重ならないように均一に置くのが良いが、層厚の状態であっても問題は無い。
【0025】
工程(b)における乾燥の方法は特に限定されないが、熱風乾燥、凍結乾燥等が挙げられ、この中でも凍結乾燥が好ましい。凍結乾燥時の圧力は、特に限定されないが、200Pa以下にすることが出来る。また、工程(b)において、例えば、庫内温度が-20~-35℃程度の冷凍庫で2~24時間程度予備凍結後、真空凍結乾燥機で凍結乾燥することができる。
工程(b)の前に、工程(a)における処理を行ったネギ類又は玉ねぎ類に対して糖浸漬や調味浸漬等を行っても良いし、油脂や乳化剤でネギ類又は玉ねぎ類の表面を処理しても良い。
【0026】
本発明の乾燥野菜の製造方法は、工程(a)の前に、(i)カットしたネギ類又は玉ねぎ類をpH調整液により処理する工程を含むことができる。また、本発明の乾燥野菜の製造方法は、工程(a)と工程(b)との間に、(ii)工程(a)における処理後の野菜をpH調整液又は水により処理する工程を含むことができる。上記工程(i)及び工程(ii)のいずれか一方又はその両方を行うことにより、工程(a)の処理後の野菜のpHを、好ましくは4.0以上8.0以下、より好ましくは4.5以上7.8以下、最も好ましくは5.0以上7.5以下に調整することができる。ネギ類又は玉ねぎ類のpHを調整することにより乾燥後のネギ類又は玉ねぎ類が褐色に変色すること(褐変)を防ぐことができる。このようにネギ類又は玉ねぎ類のpHを調整することにより、乾燥後のネギ類又は玉ねぎ類の褐変を防止できる理由は定かではないが、以下のように推察される。
微細水滴を含む過熱水蒸気の凝縮水のpHは、水に溶解している二酸化炭素が揮発して塩基性イオンが優位となることにより、9.0~10.0程度と高くなると考えられる。微細水滴を含む過熱水蒸気にて処理した後のネギ類又は玉ねぎ類が、乾燥工程等において加熱されると、ネギ類又は玉ねぎ類中に含まれるアミノ酸と還元糖とに起因して褐変現象、いわゆるメイラード反応が発生することがあると考えられる。メイラード反応は条件によって反応速度が異なり、高pH(塩基性)の条件下において反応が促進することが知られている。したがって、pHの高い水で処理後に、凍結乾燥時にメイラード反応が進みネギ類又は玉ねぎ類が褐変してしまうものと考えられる。本発明においては、微細水滴を含む過熱水蒸気による処理の前及び/又は後にpH調整液又は水により処理して中和させることにより、メイラード反応による褐変を抑制できているものと考えられる。
【0027】
pH調整液は、特に限定されないが、酸液であることが好ましい。酸液に用いられる酸としては有機酸が好ましく、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコン酸等、食品に使用できる酸を適宜選択して用いることができる。
pH調整液のpHは、好ましくは4.0以上8.0以下、より好ましくは4.5以上7.8以下、最も好ましくは5.0以上7.5以下に調整することができる。
工程(i)又は(ii)における処理時間は適宜設定することができるが、5秒以上30分以下が好ましく、5秒以上20分以下が好ましく、10秒以上20分以下が最も好ましい。
工程(i)又は(ii)における処理の種類は特に限定されないが、浸漬又は噴霧が好ましく、浸漬がより好ましい。
【0028】
本発明の製造方法により得られる乾燥野菜の糖の含有量は特に限定されないが、乾燥野菜全体に対して、40.0質量%以上が好ましく、45.0質量%以上がより好ましく、48.0質量%以上が最も好ましい。上記乾燥野菜の糖の含有量の上限値は特に限定されないが、糖の含有量上限値として、70.0質量%が好ましく、75.0質量%が最も好ましい。乾燥野菜の糖の含有量を上記数値範囲内とすることで、甘味に優れた乾燥野菜が得られる。
本発明において糖の含有量(質量%)とは、果糖の含有量(質量%)、ブドウ糖の含有量(質量%)、及びショ糖の含有量(質量%)を足し合わせた合計の値を意味する。果糖、ブドウ糖、及びショ糖のそれぞれの含有量(質量%)は、後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0029】
本発明の製造方法により得られる乾燥野菜のピルビン酸の含有量は特に限定されないが、乾燥野菜全体に対して、0.075質量%以下が好ましく、0.070質量%以下がより好ましく、0.065質量%以下が最も好ましい。上記乾燥野菜のピルビン酸の含有量の下限値は特に限定されず、比率が低い程好ましいが、ピルビン酸の含有量の下限値として、0.03質量%が好ましく、0.04質量%がより好ましく、0.05質量%が最も好ましい。乾燥野菜の糖の含有量を上記数値範囲内とすることで、甘味に優れた乾燥野菜が得られる。ピルビン酸の含有量(質量%)は、後述する実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0030】
このようにして製造された乾燥野菜類は、既存方法よりも湯戻しした際に生に近い食感と良好な風味及び形状、色調等の点で優れた特性を有する甘味の強いものとなる。
【0031】
(乾燥野菜)
本発明の乾燥野菜は、糖の含有量が40.0質量%以上、ピルビン酸の含有量が0.075質量%以下であって、乾燥ネギ類及び乾燥玉ねぎ類から選択される。糖の含有量及びピルビン酸の含有量としては、上述の(乾燥野菜の製造方法)に示した数値範囲のものを使用することができる。
本発明の乾燥ネギ類又は乾燥玉ねぎ類に使用するネギ類又は玉ねぎ類の種類は、特に限定されず、上述の(乾燥野菜の製造方法)に示した種類を使用することができる。
本発明の乾燥野菜について、その製造方法は特に限定されないが、上述の(乾燥野菜の製造方法)に示した製造方法を用いて製造することが好ましい。
【0032】
以下実施例を用いて本実施形態を具体的に説明する。
【実施例
【0033】
(実施例1) 微細水滴を含む過熱水蒸気処理品の優位性の確認
【0034】
(実施例1-1)
北海道産の根深ネギ(白ネギ)を洗浄し、次いで斜めに8mmの間隔でカットし、カットした白ネギのうち、葉鞘部の白い部分のみを取り出した。そして、取り出した葉鞘部の白い部分200gを、微細水滴を含む過熱水蒸気を利用した加熱調理機器(株式会社タイヨー製作所製、アクアクッカー(登録商標))の庫内に入れ、設定温度:120℃、加熱チャンバー内水量:2000ml/100秒の条件下で10秒間、処理を行った。加熱調理機器による処理後の白ネギを庫内温度-35℃の冷凍庫で予備凍結後、圧力100Pa、棚加熱温度50~70℃の条件で18時間、真空凍結乾燥を行い乾燥白ネギを得た。
【0035】
(実施例1-2)
加熱調理機器による処理時間を10秒間に代えて20秒間とした以外は実施例1-1と同様にして、乾燥白ネギを得た。
【0036】
(実施例1-3)
加熱調理機器による処理の後、かつ真空凍結乾燥の処理の前に、水を入れた容器を準備して容器内の水に白ネギを完全に浸漬させ10分間静置した処理を更に行った以外は実施例1-2と同様にして、乾燥白ネギを得た。
【0037】
(実施例1-4)
水を入れた容器を用いた水による処理の代わりに0.008%クエン酸水溶液(pH=5)を使用してクエン酸溶液に白ネギを浸漬させ10分間静置した処理を行った以外は実施例1-3と同様にして、乾燥白ネギを得た。
【0038】
(実施例1-5)
加熱調理機器による処理時間を10秒間に代えて40秒間とした以外は実施例1-1と同様にして、乾燥白ネギを得た。
【0039】
(実施例1-6)
加熱調理機器による処理時間を10秒間に代えて120秒間とした以外は実施例1-1と同様にして、乾燥白ネギを得た。
【0040】
(比較例1-1)
北海道産の根深ネギ(白ネギ)を洗浄し、次いで斜めに8mmの間隔でカットし、カットした白ネギのうち、葉鞘部の白い部分のみを取り出した。そして、200ppmの濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液を入れた容器を準備して、取り出した葉鞘部の白い部分200gを容器内の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に完全に浸漬させ10分間静置した後、容器から白ネギを取り出して水により十分に洗浄を行った。洗浄後の白ネギを庫内温度-35℃の冷凍庫で予備凍結後、圧力100Pa、棚加熱温度50~70℃の条件で18時間、真空凍結乾燥を行い乾燥白ネギを得た。
【0041】
(比較例1-2)
北海道産の根深ネギ(白ネギ)を洗浄し、次いで斜めに8mmの間隔でカットし、カットした白ネギのうち、葉鞘部の白い部分のみを取り出した。そして、沸騰水を入れた容器を準備して、取り出した葉鞘部の白い部分200gを容器内の沸騰水に完全に浸漬させ温度:98℃の条件下で150秒間ブランチング処理した後、容器から白ネギを取り出して冷水により十分に冷却を行った。冷却後の白ネギを庫内温度-35℃の冷凍庫で予備凍結後、圧力100Pa、棚加熱温度50~70℃の条件で18時間、真空凍結乾燥を行い乾燥白ネギを得た。
【0042】
(比較例1-3)
加熱調理機器による処理を行わずに取り出した葉鞘部の白い部分200gをそのまま凍結乾燥した以外は実施例1-1と同様にして、乾燥白ネギを得た。
【0043】
実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3の乾燥白ネギについて下記のように評価を行った。評価結果を下記表6に示す。
【0044】
(一般生菌数による評価)
実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3それぞれの乾燥白ネギについて、下記のように一般生菌数の測定を行った。検査は厚生労働省監修の「2015年版 食品衛生検査指針・微生物編」に準じて行い、培養は35℃、48時間の条件にて実施した。
一般生菌数が5.0×10以下であれば微生物が少なく、食品として衛生面で問題がないといえる。
【0045】
(官能評価:食感)
発泡スチレンシート製容器(直径145mm、深さ75mm、丼状)の中に、実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3それぞれの乾燥白ネギを入れ、70mmの深さまで95℃の熱湯を入れ2分30秒の間静置し湯戻しを行った。湯戻し後、熱湯に浸かった状態の実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3それぞれの白ネギについて、5名のパネラーにより食感の評価を行った。各白ネギの食感の評価は、加熱調理機器による処理を行わずに乾燥を行った比較例1-3の白ネギを標準品とし、標準品と比較して同等であるものを3とし、各パネラーが下記の3段階の基準により評価し5名のパネラーの平均値を算出することにより行った。平均値が小数部を有する場合は小数第1位を四捨五入することにより点数を算出した。
【0046】
【表1】
【0047】
(官能評価:風味)
上記(官能評価:食感)と同様の手順により湯戻しを行った後、熱湯に浸かった状態の実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3それぞれの白ネギについて、5名のパネラーにより風味の評価を行った。各白ネギの風味の評価は、加熱調理機器による処理を行わずに乾燥を行った比較例1-3の白ネギを標準品とし、標準品と比較して同等であるものを3とし、各パネラーが下記の3段階の基準により評価し5名のパネラーの平均値を算出することにより行った。平均値が小数部を有する場合は小数第1位を四捨五入することにより点数を算出した。
【0048】
【表2】
【0049】
(形状の評価)
実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3それぞれの乾燥白ネギについて、形状を観察した。各乾燥白ネギの形状について、下記の3段階の点数の基準により評価を行った。
【0050】
【表3】
【0051】
(色調の評価)
実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3それぞれの乾燥白ネギについて、色調を観察した。各乾燥白ネギの色調について、下記の3段階の点数の基準により評価を行った。
【0052】
【表4】
【0053】
(総合評価)
実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3それぞれの乾燥白ネギについて、一般生菌数、並びに食感、風味、形状、及び色調の評価に関して、下記の基準により総合評価を行った。
【0054】
【表5】
【0055】
【表6】
【0056】
上記表6の結果からわかるように、微細水滴を含む過熱水蒸気で処理した実施例1-1~1-4は、一般生菌数が少なく十分な殺菌処理がなされており、また、食感、風味、形状、及び色調のいずれにおいても良い結果となっており十分な品質を有していた。特に、水に浸漬させる処理を更に行った実施例1-3、及びクエン酸水溶液に浸漬させる処理を更に行った実施例1-4は、これらの処理を行わなかった実施例1-1及び1-2に比べて、色調がより優れていた。
【0057】
一方、次亜塩素酸ナトリウム水溶液により処理した比較例1-1は、一般生菌数が少なく、食感の評価は優れていたものの、実施例1-1~1-6に比べて特に風味が劣り、また、白っぽく変色し、芯抜けが発生していた。ブランチング処理を行った比較例1-2は、一般生菌数が少なかったものの、実施例1-1~1-6に比べて特に食感、風味、及び形状が劣っていた。微細水滴を含む過熱水蒸気などの処理を行わなかった比較例1-3は、食感、風味、及び色調は良好であったものの、実施例1-1~1-6に比べて一般生菌数が多く、また、芯抜けが発生し実施例1-1~1-6に比べて形状の評価に劣っていた。
【0058】
実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3の結果より、微細水滴を含む過熱水蒸気にて処理することにより良好な食感、風味、形状、及び色調を有する乾燥白ネギが得られることがわかった。また、微細水滴を含む過熱水蒸気による処理に加えて、水又はクエン酸水溶液に浸漬させる処理を更に行うことにより、より色調の安定した乾燥白ネギが得られることがわかった。さらに、微細水滴を含む過熱水蒸気による短時間の処理でも微生物制御は可能であり、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による処理、ブランチング処理などの既存の方法よりも湯戻しした際に生に近い食感と風味及び色調等の点で優れた特性を有する乾燥白ネギが得られることがわかった。
【0059】
(実施例1-7~1-12及び比較例1-4~1-6)
上述の食感、風味、形状、及び色調の評価に関して、パネラー数を25名に増加して評価を行った。評価結果を下記表7及び図2に示す。
実施例1-7~1-12及び比較例1-4~1-6の乾燥白ネギは、それぞれ上記実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3と同様にして得たものである。
【0060】
(官能評価:食感)
各白ネギの食感の評価は、加熱調理機器による処理を行わずに乾燥を行った比較例1-6の白ネギを標準品とした。生の白ネギの状態に近くシャキシャキとした食感が残るかどうかという観点から、標準品と比較して同等であるものを「0」、標準品より優れている場合を「1」、標準品よりさらに優れている場合を「2」、標準品より劣っている場合を「-1」、標準品よりさらに劣っている場合を「-2」とした。そして、25名のパネラーの評価の平均値を算出した。
【0061】
(官能評価:風味)
各白ネギの風味の評価は、加熱調理機器による処理を行わずに乾燥を行った比較例1-6の白ネギを標準品とした。生の白ネギの状態に近く風味が良いかどうかという観点から、標準品と比較して同等であるものを「0」、標準品より優れている場合を「1」、標準品よりさらに優れている場合を「2」、標準品より劣っている場合を「-1」、標準品よりさらに劣っている場合を「-2」とした。そして、25名のパネラーの評価の平均値を算出した。
【0062】
(形状の評価)
各乾燥白ネギの形状の評価は、比較例1-6の乾燥白ネギを標準品とした。形状が良好であるか(芯抜けや潰れが発生していないかどうか)という観点から、標準品と比較して同等であるものを「0」、標準品より優れている場合を「1」、標準品よりさらに優れている場合を「2」、標準品より劣っている場合を「-1」、標準品よりさらに劣っている場合を「-2」とした。そして、25名のパネラーの評価の平均値を算出した。
なお、ここで言う芯抜けとはネギ中心の芯部とそれを囲む層状の葉が分離する現象のことである。
【0063】
(色調の評価)
各乾燥白ネギの色調の評価は、比較例1-6の乾燥白ネギを標準品とした。生の白ネギの状態に近い色調かどうかという観点から、標準品と比較して同等であるものを「0」、標準品より優れている場合を「1」、標準品よりさらに優れている場合を「2」、標準品より劣っている場合を「-1」、標準品よりさらに劣っている場合を「-2」とした。そして、25名のパネラーの評価の平均値を算出した。
【0064】
【表7】
【0065】
上記表7及び図2の結果からわかるように、微細水滴を含む過熱水蒸気で処理した実施例1-7~1-10は、また、食感、風味、形状、及び色調のいずれにおいても良い結果となっており十分な品質を有していた。特に、水に浸漬させる処理を更に行った実施例1-9、及びクエン酸水溶液に浸漬させる処理を更に行った実施例1-10は、これらの処理を行わなかった実施例1-7及び1-8に比べて、色調がより優れていた。
【0066】
一方、次亜塩素酸ナトリウム水溶液により処理した比較例1-4は、実施例1-7~1-12に比べて、特に風味及び形状が劣っていた。ブランチング処理を行った比較例1-5は、実施例1-7~1-12に比べて特に食感、風味、及び形状が劣っていた。
【0067】
実施例1-7~1-12及び比較例1-4~1-6の結果より、微細水滴を含む過熱水蒸気にて処理することにより良好な食感、風味、形状、及び色調を有する乾燥白ネギが得られることがわかった。また、微細水滴を含む過熱水蒸気による処理に加えて、水又はクエン酸水溶液に浸漬させる処理を更に行うことにより、より色調の安定した乾燥白ネギが得られることがわかった。さらに、微細水滴を含む過熱水蒸気による処理は、次亜塩素酸ナトリウム水溶液による処理、ブランチング処理などの既存の方法よりも、湯戻しした際に生に近い食感と風味及び色調等の点で優れた特性を有する乾燥白ネギが得られることがわかった。
【0068】
実施例1-7~1-12及び比較例1-4~1-6の結果は、実施例1-1~1-6及び比較例1-1~1-3の結果と極めて良く整合している。そして、図2に示したように、実施例1-7~1-12、並びに比較例1-4及び1-5の結果は、比較例1-6を基準とした場合の有意差:*p<0.05、**p<0.01を示すものを多数含んでおり、極めて信頼性の高い結果であるといえる。
【0069】
(実施例2) 加熱処理ごとの官能検査及び糖とピルビン酸分析
処理方法によるネギの甘味の感じ方について、官能検査と糖及びピルビン酸の含有量との関係性に関する解析を行った。ネギ類の辛味やにおい等の刺激性物質の前駆物質である含硫成分のシスティンスルホキシド類は、細胞の損傷や破壊により細胞内に存在する酵素アリイナーゼの作用を受けて分解されチオスルフィネート類等の刺激性物質が生成され、この過程でピルビン酸が同時に生成される。この特性を生かし、揮発性が高く定量が難しい揮発性物質を測定する代わりにピルビン酸を測定し、辛味の原因である刺激性物質の生成量の指標とした。
【0070】
(実施例2-1)
実施例1-2と同様にして乾燥白ネギを得た。
【0071】
(比較例2-1)
比較例1-1と同様にして乾燥白ネギを得た。
【0072】
(比較例2-2)
比較例1-2と同様にして乾燥白ネギを得た。
【0073】
(比較例2-3)
北海道産の根深ネギ(白ネギ)を洗浄し、次いで斜めに8mmの間隔でカットし、カットした白ネギのうち、葉鞘部の白い部分のみを取り出した。そして、取り出した葉鞘部の白い部分200gを、飽和蒸気を利用した加熱調理機器の庫内に入れ、設定温度:98℃、飽和蒸気量:120kg/hの条件下で20秒間、処理を行った。加熱調理機器による処理後の白ネギを庫内温度-35℃の冷凍庫で予備凍結後、圧力100Pa、棚加熱温度50~70℃の条件で18時間、真空凍結乾燥を行い乾燥白ネギを得た。
【0074】
(比較例2-4)
比較例1-3と同様にして乾燥白ネギを得た。
【0075】
実施例2-1及び比較例2-1~2-4の乾燥白ネギについて下記のように評価を行った。評価結果を下記表10に示す。
【0076】
(官能評価:甘味)
上記実施例1の(官能評価:食感)と同様の手順により湯戻しを行った後、熱湯に浸かった状態の実施例2-1及び比較例2-1~2-4それぞれの白ネギについて、5名のパネラーにより甘味の評価を行った。各白ネギの甘味の評価は、加熱調理機器による処理を行わずに乾燥を行った比較例2-4の白ネギを標準品とし、標準品と比較して同等であるものを3とし、各パネラーが下記の5段階の基準により評価し5名のパネラーの平均値を算出することにより行った。平均値が小数部を有する場合は小数第1位を四捨五入することにより点数を算出した。
【0077】
【表8】
【0078】
(官能評価:辛味)
上記実施例1の(官能評価:食感)と同様の手順により湯戻しを行った後、熱湯に浸かった状態の実施例2-1及び比較例2-1~2-4それぞれの白ネギについて、5名のパネラーにより辛味の評価を行った。各白ネギの辛みの評価は、加熱調理機器による処理を行わずに乾燥を行った比較例2-4の白ネギを標準品とし、標準品と比較して同等であるものを4とし、各パネラーが下記の5段階の基準により評価し5名のパネラーの平均値を算出することにより行った。平均値が小数部を有する場合は小数第1位を四捨五入することにより点数を算出した。
【0079】
【表9】
【0080】
(糖の含有量の測定)
実施例2-1及び比較例2-1~2-4の乾燥白ネギについて、果糖、ブドウ糖、及びショ糖の含有量(質量%)を下記の手順に従って各々分析し、その総和を求め乾燥ネギ中の糖の含有量(質量%)を求めた。糖の測定は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法によった。実施例2-1及び比較例2-1~2-4それぞれの乾燥白ネギをコーヒーミルで粉砕し、粉砕した乾燥白ネギ1gに、純水約40mLを加え、攪拌し、超音波水槽内で10分間抽出後、抽出した水溶液をメスフラスコ50mLに移し、純水を加えて50mL定容した。得られた水溶液をろ紙でろ過後、0.45μmのフィルターを通し、HPLC試料を得た。果糖、ブドウ糖及びショ糖の1%溶液を標準液とし、得られたHPLC試料をHPLCにより定量した。
HPLC条件は以下の通りである。
カラム:ULTRON PS-80N 300×8.0mmI.D.×2+PS-80N.G 50×8.0mmI.D.(信和加工)、移動相:水、流速0.8mL/min、温度:60℃、検出器:示差屈折計。
【0081】
(ピルビン酸生成量の測定)
実施例2-1及び比較例2-1~2-4それぞれの乾燥白ネギをコーヒーミルで粉砕し、粉砕した乾燥白ネギ1gに、純水約40mLを加え、攪拌し、超音波水槽内で10分間抽出後、抽出した水溶液をメスフラスコ50mLに移し、純水を加えて50mL定容した。得られた水溶液をろ紙でろ過後、0.45μmのフィルターを通し、濾液を取り出した後、濾液0.5mlに対して6%トリクロロ酢酸2mlを加え攪拌後、室温で1時間放置した。得られた混合液に対して0.0125%ジニトロフェニルヒドラジン(2mol・L-1HCLに溶解)1mlを加え、攪拌した後、37℃で10分保持した。得られた混合液に対して0.8mol・L-1NaOH5mlを加え攪拌を5分間行い、得られた混合液について、比色計を用い420nmにおける吸光度の測定を行った。ピルビン酸標準液で検量線を作成し、当該検量線に基づいて得られた吸光度から乾燥白ネギ中のピルビン酸の含有量(質量%)を算出した。
【0082】
【表10】
【0083】
表10の糖の含有量(質量%)とピルビン酸の含有量(質量%)との関係をグラフとして図3に示す。
【0084】
上記表10及び図3の結果からわかるように、微細水滴を含む過熱水蒸気で処理した実施例2-1について、強い甘味を示しており、一方、辛みは全く感じなかった。
【0085】
一方、次亜塩素酸ナトリウム水溶液により処理した比較例2-1は、実施例2-1に比べて、糖の含有量及びピルビン酸の含有量のいずれも高いことがわかった。また、比較例2-1は、実施例2-1に比べて、糖の含有量が多いのにも関わらず、甘味が弱く、かつ辛みが強いことがわかった。比較例2-1は、実施例2-1と異なり、次亜塩素酸臭気が残存していた。
【0086】
ブランチング処理を行った比較例2-2は、実施例2-1に比べて、糖の含有量が低く、ピルビン酸の含有量が高いことがわかった。また、比較例2-2は、実施例2-1に比べて、甘味が弱く、かつ辛みが強いことがわかった。
【0087】
飽和蒸気を利用した加熱調理機器により処理した比較例2-3は、実施例2-1に比べて、糖の含有量は同程度であったが、ピルビン酸の含有量が高いことがわかった。また、比較例2-3は、実施例2-1に比べて、糖の含有量が同程度であるにも関わらず、甘味が弱く、かつ辛みが強いことがわかった。
【0088】
微細水滴を含む過熱水蒸気による処理などを行っていない比較例2-4は、実施例2-1に比べて、糖の含有量及びピルビン酸の含有量のいずれも高いことがわかった。また、比較例2-4は、実施例2-1に比べて、糖の含有量が多いのにも関わらず、甘味が弱く、かつ辛みが強いことがわかった。
【0089】
上記より、甘味は、糖の含有量だけではなく、ピルビン酸の含有量に基づいて判断できる刺激性物質の量によっても変動するものと推察される。微細水滴を含む過熱水蒸気で処理することにより、刺激性物質の含有量が減少し、これにより甘味が強くなり、一方、辛みが弱くなるものと推察される。
【0090】
実施例2-1は、ピルビン酸比率が最も低く且つ糖比率をある程度保持していることから、甘味を最も強く感じられる状態であると言え、このような状態にあることは官能評価の結果によっても裏付けられている。実施例2に示すように、微細水滴を含む過熱水蒸気で処理することで従来法よりも甘味を強く感じられる乾燥野菜の製造が可能であることがわかった。
【0091】
(実施例2-2及び比較例2-5~2-8)
上述の甘味及び辛味の評価に関して、パネラー数を25名に増加して評価を行った。評価結果を下記表11及び図4に示す。
実施例2-2及び比較例2-5~2-8の乾燥白ネギは、それぞれ上記実施例2-1及び比較例2-1~2-4と同様にして得たものである。
【0092】
(官能評価:甘味)
各白ネギの甘味の評価は、加熱調理機器による処理を行わずに乾燥を行った比較例2-8の白ネギを標準品とした。標準品と比較して同等であるものを「0」、標準品より優れている場合を「1」、標準品よりさらに優れている場合を「2」、標準品より劣っている場合を「-1」、標準品よりさらに劣っている場合を「-2」とした。そして、25名のパネラーの評価の平均値を算出した。
【0093】
(官能評価:辛味)
各白ネギの辛味の評価は、加熱調理機器による処理を行わずに乾燥を行った比較例2-8の白ネギを標準品とした。標準品と比較して同等であるものを「0」、標準品より優れている場合を「1」、標準品よりさらに優れている場合を「2」、標準品より劣っている場合を「-1」、標準品よりさらに劣っている場合を「-2」とした。そして、25名のパネラーの評価の平均値を算出した。
【0094】
【表11】
【0095】
上記表11及び図4の結果からわかるように、微細水滴を含む過熱水蒸気で処理した実施例2-2は、微細水滴を含む過熱水蒸気による処理などを行っていない比較例2-8に比べて、極めて強い甘味を示しており、一方、辛みは非常に弱かった。
【0096】
一方、次亜塩素酸ナトリウム水溶液により処理した比較例2-5は、実施例2-2に比べて、甘味が弱く、かつ辛みが非常に強いことがわかった。
【0097】
ブランチング処理を行った比較例2-6及び飽和蒸気を利用した加熱調理機器により処理した比較例2-7は、実施例2-2に比べて、甘味が弱く、かつ辛みが強いことがわかった。
【0098】
実施例2-2及び比較例2-5~2-8の結果より、微細水滴を含む過熱水蒸気で処理することで従来法よりも甘味を強く感じられる乾燥野菜の製造が可能であることがわかった。
【0099】
実施例2-2及び比較例2-5~2-8の結果は、実施例2-1及び比較例2-1~2-4の結果と極めて良く整合している。そして、図4に示したように、実施例2-2及び比較例2-5~2-7の結果は、いずれも比較例2-8を基準とした場合の有意差:**p<0.01を示しており、極めて信頼性の高い結果であるといえる。
【0100】
(参考例) 糖とピルビン酸による官能評価
実施例2の結果より糖の含有量が単純に甘さの指標にはならず、ピルビン酸の含有量も甘さの指標に関係していると考えられる。これを実証するために、実施例2の乾燥白ネギにおける糖の含有量及びピルビン酸の含有量と同等の値を有する水溶液を準備し、甘味の感じ方について検証した。
【0101】
(参考例1)
精製水に所定量の果糖、ブドウ糖、及びショ糖を加え加熱して溶解させ、得られた水溶液に所定量のピルビン酸を加えることにより、果糖21.3質量%、ブドウ糖24.2質量%、ショ糖3.1質量%、及びピルビン酸0.062質量%の水溶液を調製した。参考例1は実施例2-1に対応するものである。
【0102】
(参考例2)
精製水に所定量の果糖、ブドウ糖、及びショ糖を加え加熱して溶解させ、得られた水溶液に所定量のピルビン酸を加えることにより、果糖22.6質量%、ブドウ糖23.0質量%、ショ糖3.7質量%、及びピルビン酸0.062質量%の水溶液を調製した。
【0103】
(参考例3)
精製水に所定量の果糖、ブドウ糖、及びショ糖を加え加熱して溶解させ、得られた水溶液に所定量のピルビン酸を加えることにより、果糖22.6質量%、ブドウ糖23.0質量%、ショ糖3.7質量%、及びピルビン酸0.091質量%の水溶液を調製した。参考例3は比較例2-3に対応するものである。
【0104】
(参考例4)
精製水に所定量の果糖、ブドウ糖、及びショ糖を加え加熱して溶解させ、得られた水溶液に所定量のピルビン酸を加えることにより、果糖24.2質量%、ブドウ糖26.0質量%、ショ糖2.5質量%、及びピルビン酸0.212質量%の水溶液を調製した。参考例4は比較例2-4に対応するものである。
【0105】
(参考例5)
精製水に所定量の果糖、ブドウ糖、及びショ糖を加え加熱して溶解させ、得られた水溶液に所定量のピルビン酸を加えることにより、果糖24.2質量%、ブドウ糖26.0質量%、ショ糖2.5質量%、及びピルビン酸0.091質量%の水溶液を調製した。
【0106】
参考例1~5の水溶液について下記のように評価を行った。評価結果を下記表14に示す。
【0107】
(官能評価:甘味)
参考例1~5の水溶液について、5名のパネラーにより甘味の評価を行った。各水溶液の甘味の評価は、各パネラーが下記の5段階の基準により評価し5名のパネラーの平均値を算出することにより行った。参考例1~5それぞれについて、糖の含有量が同じでピルビン酸を含まない標準品を準備し、参考例1~5それぞれの標準品と比較して同等もしくはそれ以上の甘さのものを5、標準品より落ちるが甘味を感じるものを4、甘味は感じるが酸味も感じるものを3、酸味の方を強く感じるものを2、全く甘味を感じないものを1として評価を行った。平均値が小数部を有する場合は小数第1位を四捨五入することにより点数を算出した。
【0108】
【表12】
【0109】
(官能評価:酸味)
参考例1~5の水溶液について、5名のパネラーにより酸味の評価を行った。各水溶液の酸味の評価は、各パネラーが下記の5段階の基準により評価し5名のパネラーの平均値を算出することにより行った。参考例1~5それぞれについて、糖の含有量が同じでピルビン酸を含まない標準品を準備し、参考例1~5それぞれの標準品と比較して同等もしくはそれ以上の酸味のものを5、標準品より落ちるが酸味を感じるものを4、酸味は感じるが甘味も感じるものを3、甘味の方を強く感じるものを2、全く酸味を感じないものを1として評価を行った。平均値が小数部を有する場合は小数第1位を四捨五入することにより点数を算出した。
【0110】
【表13】
【0111】
【表14】
【0112】
上記表14の結果からわかるように、微細水滴を含む過熱水蒸気で処理した実施例2-1に対応させて調製した参考例1について、強い甘味を呈しており、一方、酸味は全く感じなかった。
【0113】
参考例2は、糖の含有量を参考例3と同程度とし、ピルビン酸の含有量を参考例1と同程度とした試料である。参考例2は、参考例1と同様に、強い甘味を呈しており、一方、酸味は全く感じなかった。
【0114】
一方、飽和蒸気を利用した加熱調理機器により処理した比較例2-3に対応させて調製した参考例3は、参考例1と比べた場合に、糖の含有量は同程度であり、ピルビン酸の含有量が高い試料である。参考例3はピルビン酸の酸味が後味として残り甘味を感じにくかった。参考例3は、参考例2と比べて、糖の含有量が同程度であるにも関わらず、甘味が弱く、かつ酸味が強いことがわかった。
【0115】
微細水滴を含む過熱水蒸気による処理などを行っていない比較例2-4に対応させて調製した参考例4は、参考例1と比べて、糖の含有量が高いのにも関わらず、甘味が弱く、かつ酸味が強いことがわかった。参考例4の水溶液のpHを測定したところ、1.7とかなり低い値となっており、甘味よりも酸味が強くえぐみを感じる状態であった。
【0116】
参考例5は、糖の含有量を参考例4と同程度とし、ピルビン酸の含有量を参考例3と同程度にした試料である。参考例5は、参考例1に比べて、糖の含有量が高いのにも関わらず、甘味が弱く、かつ酸味が強いことがわかった。
参考例4及び5の結果より、ピルビン酸による強い酸味及びえぐみは糖を添加することで多少相殺されるが、甘味の感じ方についてはピルビン酸の含有量によるところが大きいことがわかった。
【0117】
参考例1~5の結果より、甘味は少量のピルビン酸添加であっても減少しピルビン酸の添加量を増すに従ってさらに減少することがわかった。従って、甘味の指標として、官能評価と合わせて糖の含有量とピルビン酸の含有量を使用できることがわかった。ピルビン酸の含有量が少なく且つある程度糖の含有量が保持された状態であれば、甘味を感じやすい状態であると言える。
実際には糖とピルビン酸以外の成分も含まれており、またテクスチャーの違いなどの複数の要因が絡み食味を形成するが、実施例2及び参考例の結果より、ネギ中においてもピルビン酸の含有量が甘味の感じ方に影響を及ぼしていると考えられる。
【符号の説明】
【0118】
10…チャンバー
20…過熱水蒸気発生機
30…微細水滴(熱水)発生機
40…野菜
50…庫内ヒーター
61、62…ヒーター
71、72…流路
81、82…ノズル
V…水蒸気
W…水
図1
図2
図3
図4