(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】吊り金具
(51)【国際特許分類】
B66C 1/66 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
B66C1/66 P
(21)【出願番号】P 2022569851
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2021044249
(87)【国際公開番号】W WO2022131003
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020207775
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000129367
【氏名又は名称】株式会社キトー
(74)【代理人】
【識別番号】100120101
【氏名又は名称】畑▲崎▼ 昭
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理佳
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】独国実用新案第202019102552(DE,U1)
【文献】独国特許出願公開第102016103050(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0079628(US,A1)
【文献】特表2014-503761(JP,A)
【文献】特開2004-001996(JP,A)
【文献】国際公開第2007/073108(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/66
F16B 35/06;45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷に取り付けると共に、リンクおよびこのリンクと連結されている回転金具を備える吊り金具であって、
前記回転金具は、前記荷に固定されるアンカー金具と、前記アンカー金具に対して回転軸を中心に回転自在かつ抜け止めされた状態で取り付けられている回転連結部材とを備え、
前記回転連結部材には、本体部が設けられていて、
前記本体部には、
前記回転軸を中心とするベース部と、
前記ベース部の周方向において離間している一対の隆起部と、
前記隆起部に連続すると共に、一対の前記隆起部とで囲まれた連結孔に前記リンクが枢動可能に連結される梁部と、
が一体形成されていて、
一対の前記隆起部には、前記ベース部よりも前記回転軸の軸線方向において前記アンカー金具から離れた位置に設けられると共に、前記リンクの先端が前記荷に対して所定の隙間を有する状態で前記リンクが当接する位置に設けられるリンク受け部が設けられている、
ことを特徴とする吊り金具。
【請求項2】
請求項1記載の吊り金具であって、
一対の前記隆起部のうち、前記軸線方向において前記アンカー金具から離れる側には、スロープ部が前記リンク受け部と連続して設けられていて、
前記スロープ部は、前記軸線方向に対して傾斜している傾斜面を有すると共に、前記ベース部と前記梁部に跨っている、
ことを特徴とする吊り金具。
【請求項3】
請求項1または2記載の吊り金具であって、
前記連結孔は、前記リンクの断面の直径に対して1.1~1.5倍の大きさに設けられている、
ことを特徴とする吊り金具。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の吊り金具であって、
前記リンク受け部は、凹曲面状に設けられている、
ことを特徴とする吊り金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊り金具に関する。
【背景技術】
【0002】
荷を吊り上げるための吊り金具の中には、リフティングポイントと呼ばれるものがある。この吊り金具は、環状のリンクと、リンクの連結部分が回転可能な回転金具を備えていて、回転金具には雄ネジ部が設けられている。一方、荷の中には、たとえば建築部材や金型等のように雌ネジ部が設けられているものがあり、そのような荷の雌ネジ部に、上記の雄ネジ部を捻じ込んで固定し、リンク部材にフック等を掛ける。それにより、荷を持ち上げて移動させることが可能となっている。
【0003】
ところで、リンクは、当該リンクの線径よりも若干大きな内径を有する連結孔を介して、回転金具に取り付けられている。そのため、リンクは回転金具に対して移動および回動が自在となっている。そのため、振動等に際してリンクが回動することで、荷にリンクが衝突し、荷を傷つける場合がある。
【0004】
このようなリンクの荷に対する衝突を防ぐ構成としては、たとえば特許文献1および特許文献2に示すものがある。特許文献1には、リンクをクランプするクランプ機構が開示されている。このクランプ機構においては、連結孔に挿通する挿通孔にピン部材を格納し、そのピン部材をバネで押圧することで、リンクの姿勢を維持する構成となっている。また、特許文献2には、固定金具に対して、リンクを受け止めるための受け金具を取り付けている構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】DE102016103050A1号公報
【文献】DE202015100857U1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示の構成においては、リンクが荷に衝突するのを防ぐためにクランプ機構を設ける必要がある。そのため、リンクの動きが常に規制されるとともに、吊り金具の構成が複雑となり、その分だけ部品点数が増加すると共に挿通孔を形成する必要があるので、製品コストが上昇してしまう。
【0007】
また、特許文献2に開示の構成においても、受け金具を回転金具に取り付ける必要がある。そのため、受け金具の分だけ部品点数が増加し、また受け金具の取り付けのための工数が増加するので、製品コストが上昇してしまう。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みなされたもので、リンクの動きを必要以上には規制せず荷にリンクが衝突するのを防止可能であると共に、部品点数および製造の際の工数の増加を防止することが可能な吊り金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、荷に取り付けると共に、リンクおよびこのリンクと連結されている回転金具を備える吊り金具であって、回転金具は、荷に固定されるアンカー金具と、アンカー金具に対して回転軸を中心に回転自在かつ抜け止めされた状態で取り付けられている回転連結部材とを備え、回転連結部材には、本体部が設けられていて、本体部には、回転軸を中心とするベース部と、ベース部の周方向において離間している一対の隆起部と、隆起部に連続すると共に、一対の隆起部とで囲まれた連結孔にリンクが枢動可能に連結される梁部と、が一体形成されていて、一対の隆起部には、ベース部よりも回転軸の軸線方向においてアンカー金具から離れた位置に設けられると共に、リンクの先端が荷に対して所定の隙間を有する状態でリンクが当接する位置に設けられるリンク受け部が設けられている、ことを特徴とする吊り金が提供される。
【0010】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、一対の隆起部のうち、軸線方向においてアンカー金具から離れる側には、スロープ部がリンク受け部と連続して設けられていて、スロープ部は、軸線方向に対して傾斜している傾斜面を有すると共に、ベース部と梁部に跨っている、ことが好ましい。
【0011】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、連結孔は、リンクの断面の直径に対して1.1~1.5倍の大きさに設けられている、ことが好ましい。
【0012】
また、本発明の他の側面は、上述の発明において、リンク受け部は、凹曲面状に設けられている、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、リンクの動きを必要以上には規制せず荷にリンクが衝突するのを防止可能であると共に、部品点数および製造の際の工数の増加を防止することが可能な吊り金具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の位置実施の形態に係る吊り金具の構成を示す斜視図である
【
図3】
図1に示す吊り金具の構成を示す分解斜視図である。
【
図4】比較対象としてのスロープ部が存在しない吊り金具の構成を示す側面図である。
【
図5】
図1に示す吊り金具において、リンクがリンク受け部に当接した状態を示す斜視図である。
【
図6】
図5に示す状態において、リンク受け部とリンクとの当接部を通る平面(XZ平面)で吊り金具を切断した状態を示す断面図である。
【
図7】
図1に示す吊り金具において、リンクがリンク受け部に当接した状態を示す側面図である。
【
図8】
図5に示す状態からリンクが傾斜してスロープ部に当接した状態を示す斜視図である。
【
図9】
図1に示す吊り金具において、アンカー金具の金具連結部の下端部から連結孔の上端部までの寸法L1、およびリンクの傾斜角度θ1を示す図である。
【
図10】
図1に示す吊り金具において、リンクの長手方向の寸法と、リンクの内孔の幅寸法L3を示す図である。
【
図11】
図1に示す吊り金具において、対向する外周部32bの間の寸法L4を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態に係る、吊り金具10について、図面に基づいて説明する。なお、本実施の形態では、連結孔66の延伸方向をX方向とし、
図1において右上側をX1側、それとは逆の
図1における左下側をX2側とする。また、
図1において略U字形状の梁部65の両端を結ぶ方向をY方向とし、
図1において右下側をY1側、それとは逆の
図1における左上側をY2側とする。また、雄ネジ部31の軸方向をZ方向とし、雄ネジ部31から見て本体部60側をZ1側(上側)、それとは逆の本体部60から見て雄ネジ部31側をZ2側(下側)とする。
【0016】
<吊り金具の構成について>
図1は、吊り金具10の構成を示す斜視図である。
図2は、吊り金具10の構成を示す側面図である。
図3は、回転金具20の構成を示す分解斜視図である。
図1から
図3に示すように、吊り金具10は、回転金具20と、リンク80とを有している。これらのうち、回転金具20は、アンカー金具30と、回転連結部材40と、軸受70とを有している。
【0017】
アンカー金具30は、不図示の荷に取り付けられる部分であり、本実施の形態では、アンカー金具30は、概ね六角ボルトの頭部に凹みを形成した形状に設けられている。このアンカー金具30には、雄ネジ部31を有する軸部と、六角ボルトの頭部に相当する部分には金具連結部32とを有している。雄ネジ部31は、ネジが形成されている軸状の部分であり、その雄ネジ部31が荷の取り付け穴に設けられた雌ネジに捻じ込まれる。それにより、アンカー金具30が荷に固定される。
【0018】
また、金具連結部32は、回転連結部材40と連結される部分である。
図3に示すように、金具連結部32には、凹状の連結凹部32aが設けられていて、この連結凹部32aに回転連結部材40の回転軸部50が入り込む。なお、金具連結部32の外周部32bは、スパナ等の工具が嵌合可能な形状(たとえば六角形状)に設けられていて、この外周部32bに工具の作用部を嵌合させることで、雄ネジ部31を、荷の雌ネジ部に捻じ込み締め付ける際の作業性が向上する。
【0019】
また、金具連結部32には、投入孔32cが設けられている(
図3参照)。この投入孔32cからは、軸受70を構成する複数のベアリング球が投入される。また、投入孔32cは、ネジ孔であり、この投入孔32cには封止用の六角穴付きネジ90が捻じ込まれる。それにより、回転連結部材40はアンカー金具30に対して回転不能なロック状態となる。
【0020】
図1から
図3に示すように、回転連結部材40には、回転軸部50と、本体部60とが設けられている。回転軸部50は、アンカー金具30の連結凹部32aに差し込まれる軸状の部分である。この回転軸部50と連結凹部32aの間には、軸受70を構成する複数のベアリング球が配置され、それによって回転連結部材40がアンカー金具30に対して回転自在となっている。
【0021】
また、本体部60は、吊り金具10の軸方向(Z方向)において、回転軸部50よりもアンカー金具30から離れる側に位置している部分である。この本体部60は、ベース部61と、隆起部62と、梁部65とを有している。ベース部61は、回転連結部材40のうちアンカー金具30側に位置している部分であり、また平面視した形状が円形状となる部分である。
【0022】
隆起部62は、ベース部61から上側(Z1側)に向かって隆起している部分である。この隆起部62は2つ設けられていて、それら2つの隆起部62は、ベース部61の周方向において180度間隔で設けられている。また、梁部65は、2つの隆起部62に跨るように配置されているアーチ状の部分である。このように、2つの隆起部62に跨って梁部65を配置することで、本体部60の上面側には環状の部分が形成される。また、梁部65と2つの隆起部62により環状の部分が形成されることで、本体部60には、リンク80の一部分が位置する連結孔66が設けられている。
【0023】
上記の隆起部62には、スロープ部63と、リンク受け部64が設けられている。スロープ部63は、吊り金具10の軸方向(Z方向)に対して傾斜している傾斜面を有する部分であり、その下側(Z2側)にはリンク受け部64が存在している。本実施の形態では、回転連結部材40を平面視したときの形状は、X方向およびY方向において、対称となっているので、スロープ部63も合計4箇所存在している。
【0024】
また、スロープ部63は、下方側(Z2側)に向かうにつれて、その幅(X方向の寸法)が広くなるように設けられている。ただし、
図1に示すように、本実施の形態では、スロープ部63の上端は、連結孔66の高さ方向(Z方向)の中間位置よりも高い位置に設けられている。それにより、スロープ部63の下方側(Z2側)において、当該スロープ部63の幅を広く取ることが可能となっている。
【0025】
このようなスロープ部63の存在により、リンク80の内周側に、連結孔66に面する角の部分が衝突することで、リンク80の内周側が損傷して凹みが形成されるのを防止することが可能となっている。また、連結孔66の中心軸方向にリンク80が移動しても、リンク80の可動範囲を大きく取ることが可能となっている。
【0026】
図4は、比較対象として、スロープ部63が存在しない吊り金具10Aの構成を示す側面図である。なお、
図4に示す、比較対象としての吊り金具10Aに関しては、吊り金具10における各部位と同一の部位については、同一の符号を用いて説明する。
【0027】
図4に示すように、スロープ部63が存在しない場合には、
図4に示す吊り金具10Aの回転連結部材40における本体部60Aのように、本体部60には、上端面60A1が形成される状態となる。したがって、
図4に示す構成では、
図1におけるスロープ部63に、肉盛りされた状態となる(
図4において、この肉盛りされた部分を、肉盛り部67Aと称呼する)。このため、リンク80が回動する際に、この肉盛り部67Aのうち、連結孔66に面する角の部分がリンク80の内周側に衝突するので、その衝突を繰り返すことで、その衝突部位が凹み、リンク80の損傷の原因となる。また、リンク80が連結孔66の中心軸方向に沿って若干移動すると、リンク80が回動する際に、上記の肉盛り部67Aが支障となり、回動範囲が狭く制限される。
【0028】
これに対し、本実施の形態では、本体部60にはスロープ部63が設けられていて、肉盛り部67Aに対応する部分が存在しない構成となっている。このため、リンク80の内周側に凹みが形成されるのを防止することが可能となっている。また、リンク80が連結孔66の中心軸方向に沿って若干移動しても、肉盛り部67Aによって回動が阻害されず、リンク80の回動範囲を大きく取ることが可能となっている。
【0029】
図5は、リンク80がリンク受け部64に当接した状態を示す斜視図である。
図6は、
図5に示す状態において、リンク受け部64とリンク80との当接部を通る平面(XZ平面)で吊り金具10を切断した状態を示す断面図である。
図7は、リンク80がリンク受け部64に当接した状態を示す側面図である。
図1から
図3、
図5から
図7に示すように、スロープ部63の下方側(Z2側)には、リンク受け部64が設けられている。リンク受け部64は、フリー状態のリンク80が、連結孔66への挿通部位を支点として回動したときに、リンク80と当接して、当該リンク80が雄ネジ部31側(下側;Z2側)に向かうように回動するのを規制する部位である。このリンク受け部64は、連結孔66の底部T1よりも高い位置に設けられることで、リンク80が荷と衝突するのを防止している。
【0030】
また、
図6から明らかなように、本体部60の径方向の中心からリンク受け部64までの距離(半径)は、本体部60の径方向の中心からベース部61の外周面までの距離(半径)よりも、小さく設けられている。また、
図4および
図5から明らかなように、リンク受け部64には、リンク80の直線に沿う棒状部分ではなく、円弧に沿う曲がり部分が接触する。そのため、リンク受け部64が、リンク80の棒状部分に接触する場合と比較して、回転連結部材40の小径化が可能となっている。
【0031】
また、本実施の形態では、リンク受け部64は、平面状の傾斜面63aとは異なり、凹曲面状に設けられている。すなわち、リンク受け部64は、スロープ部63の傾斜面63aを凹曲面状に切り取られたような形態となっている。それにより、リンク80がリンク受け部64に入り込み易くなっている。
【0032】
また、連結孔66は、リンク80が挿通される孔部分である。この連結孔66は、ベース部61と梁部65とで囲まれているが、ベース部61および梁部65の幅方向(X方向;交差方向に対応)の中央部の内径が最も小さくなるように設けられている。また、連結孔66は、上記の中央部から離れるにつれて、その内径が大きくなるように形成されている。それにより、連結孔66のうち内径が最も小さい部位を支点として、リンク80が回動し易い構成となっている。なお、連結孔66は、その軸線方向がX方向となっているが、このX方向は交差方向に対応しているが、連結孔66の軸線方向は、Z方向と交差する方向であってX方向とは異なる方向であっても良い。なお、このような方向も、交差方向に対応する。
【0033】
なお、本実施の形態では、連結孔66の内径は、リンク80の断面の直径に対して1.1~1.5倍の大きさに設けられている。それにより、リンク80が回動した際に、連結孔66内でリンク80の移動を抑えながら、リンク受け部64でのリンク80の当接により、リンク80が荷に向かって回動するのを規制することが可能となっている。
【0034】
また、上記の連結孔66の底部T1は、連結孔66のうち、最も低い高さ位置の部位となっている。しかしながら、底部T1の位置は、連結孔66のうち、最も低い高さ位置でなくても良い。すなわち、上述したように、連結孔66は、その軸線方向(X方向)の中央部の内径が最も小さくなるように設けられている。このため、底部T1は、連結孔66の中心軸線を、連結孔66の下方に投影した投影線の線上に存在していれば良い。この場合、本体部60をXY平面に沿って切断したときに、その断面において投影線上の位置が最も低い位置となる。
【0035】
なお、
図1等から明らかなように、回転連結部材40の幅方向(X方向)の両端付近には、上部側(Z1側)に梁部65が存在しないため、回転連結部材40には凹状部分が設けられている。しかしながら、本実施の形態では、この凹状部分も、連結孔66と称呼する。
【0036】
<スロープ部63、リンク受け部64および連結孔66について>
上記のスロープ部63、リンク受け部64および連結孔66について、以下に詳述する。スロープ部63は、リンク80が接触した際に、そのリンク80をリンク受け部64に向けてガイドする部分となっている。たとえばリンク80の振動等によって、リンク80が荷(雄ネジ部31)に向かって移動した場合、スロープ部63にリンク80が衝突する。
図8に、このような状態の一例を示す。
図8に示すような衝突状態においては、リンク80のいずれかの部位がスロープ部63のいずれかの部位に接触する。
【0037】
ここで、リンク80の長手方向が、
図8に示すようにY方向に対して傾斜する向き(
図8の矢示F方向)に引っ張られているとき、リンク80は、スロープ部63のうち連結孔66の内周縁部のいずれかの部位との当接状態を維持する。そのとき、リンク80が、スロープ部63の内周縁部と干渉するので、それ以上、下側(Z2側)に移動しない状態となる。したがって、リンク80の先端側(リンク80の長手方向において連結孔66から離れる側)は、
図5および
図7に示すよりも、上側(Z1側)に位置する状態となる。
【0038】
一方、リンク80に対し、外部から引っ張り等の力が作用しないフリーの状態では、リンク80はスロープ部63の内周縁部に沿って下降し、リンク受け部64にリンク80が当接することで、リンク80の下降が停止する。このとき、リンク80は、連結孔66の幅方向(X方向)の中央部の当接位置P1と、梁部65よりも幅方向(X方向)の一方側(X1側)に位置するリンク受け部64の当接位置P2と、梁部65よりも幅方向(X方向)の他方側(X2側)に位置するリンク受け部64の当接位置P3の3点に当接する。この状態を側面から見た状態が、
図7である。
【0039】
なお、
図7に示す状態では、リンク80の最も下側(Z2側)の部位は、金具連結部32の最も下側(Z2側)の底面32dよりも上側(Z1側)に位置している。
【0040】
上記の当接位置P1~P3は、一直線上にはなく、これら当接位置P1~P3を結ぶと、所定の大きさの三角形を描く状態となっている。また、
図7に示すように、当接位置P1は、当接位置P2,P3よりも上側(Z1側)に位置している。さらに、当接位置P2,P3は、底部T1よりも高い位置に設けられている。この状態では、
図7の当接位置P1において矢示A方向にリンク80が移動しようとしても、これ以上、移動できない。また、リンク80は
図7の当接位置P2,P3において矢示B方向に移動しようとしても、これ以上、移動できない。
【0041】
したがって、上記のような移動規制により、リンク80が当接位置P1を回転の支点として
図7に示す矢示C方向に回動しようとしても、当接位置P2,P3でリンク80がリンク受け部64に干渉することで、それ以上、回動するのが規制される。
【0042】
ここで、アンカー金具30、回転連結部材40およびリンク80の主要な部分の寸法関係について、以下に説明する。まず、
図9に示すように、アンカー金具30の金具連結部32の下端部(Z2側の端部)から、連結孔66の上端部(Z1側の端部)までの寸法を寸法L1とする。また、
図10に示すように、リンク80の長手方向の寸法を寸法L2とし、リンク80の内孔80aの幅寸法を寸法L3とする。また、
図11に示すように、金具連結部32を平面視した際の平面形状または金具連結部32をXY平面で切断したときの断面形状において、対向する外周部32bの間の寸法を寸法L4とする。また、
図9に示すように、連結孔66の中心を通ると共に金具連結部32の下端部に対して平行な線C1に対する、連結孔66の当接位置P1とリンク受け部64の当接位置P2,P3に当接する状態のリンク80の傾斜角度を傾斜角度θ1とする。
【0043】
この場合、吊り金具10の製作を容易とするために、上記の寸法L1~L4、傾斜角度θ1の間には、以下のような関係が存在することが好ましい。ただし、荷にリンク80が衝突(接触)しない寸法L1~L4、傾斜角度θ1とすることが必要である。
L1:L2=1:1.4~2.1
L4:L3=1:0.5~1.1
20度≦θ1≦35度
【0044】
なお、上記のように、L1:L2=1:1.4~2.1とする場合には、アンカー金具30の高さ(寸法L1)を抑えつつリンク80の長手方向の長さ(寸法L2)をバランスさせることが可能となる、さらには吊り金具10の小型化と、リンク80への玉掛けのし易さを両立させることが可能となる。また、L4:L3=1:0.5~1.1とする場合には、吊り金具10の小型化とリンク80への玉掛けのし易さを両立させることが可能となる。また、傾斜角度θ1に関して、20度≦θ1≦35度とする場合には、不使用時のリンク80の出っ張り減少を図ると共に、振動等に対して安定性を向上させることが可能となり、さらにはアンカー金具30の高さ(寸法L1)を抑えつつリンク80の長手方向の長さ(寸法L2)をバランスさせることが可能となる。
【0045】
<効果について>
以上のような構成の吊り金具10においては、回転金具20は、荷のネジ孔に捻じ込まれる雄ネジ部31を有するアンカー金具30と、アンカー金具30に対して回転軸を中心に回転自在かつ抜け止めされた状態で取り付けられている回転連結部材40を備え、回転連結部材40には、本体部60が設けられている。
【0046】
そして、本体部60には、上記の回転軸を中心とするベース部61と、ベース部61の周方向において離間している一対の隆起部62と、隆起部62に連続すると共に、一対の隆起部62とで囲まれた連結孔66にリンク80が枢動可能に連結される梁部65と、が一体形成されていて、一対の隆起部62には、ベース部61よりも回転軸の軸線方向(Z方向)においてアンカー金具30から離れた位置に設けられると共に、リンク80の先端が荷に対して所定の隙間を有する状態でリンク80が当接する位置に設けられるリンク受け部64が設けられている。
【0047】
このように、リンク80の先端側が荷に向かって回動したときにリンク80がリンク受け部64と当接するので、それ以上、リンク80が荷に向かって回動するのが規制される。このため、荷にリンク80が衝突(接触)するのを防止可能となる。
【0048】
また、本実施の形態においては、本体部60には、ベース部61と、一対の隆起部62と、梁部65とが設けられていて、これらが一体形成され、さらに一対の隆起部62にはリンク受け部64が設けられている。このため、本体部60に対して別体的なリンク受け部64を設ける構成と比較して、部品点数を低減することができ、吊り金具10の製造の際の工数の増加を防ぐことが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態では、一対の隆起部62のうち、雄ネジ部31の軸線方向(Z方向)において雄ネジ部31から離れる側には、スロープ部63がリンク受け部64と連続して設けられていて、スロープ部63は、雄ネジ部31の軸線方向(Z方向)に対して傾斜している傾斜面63aを有すると共に、ベース部61と梁部65に跨っている。
【0050】
このようなスロープ部63が存在しない場合には、
図4に示すような、肉盛り部67Aが存在する状態となる。この場合には、リンク80が回動する際に、肉盛り部67Aのうち、連結孔66に面する角の部分がリンク80の内周側に衝突し、その衝突部位が凹み、リンク80の損傷の原因となる。また、リンク80が連結孔66の中心軸方向に沿って若干移動すると、リンク80が回動する際に、上記の肉盛り部67Aが支障となり、回動範囲が狭く制限される。
【0051】
これに対し、本実施の形態では、上記のようなスロープ部63が存在し、肉盛り部67Aに対応する部分が存在しないので、リンク80の内周側に凹みが形成されるのを防止することが可能となる。また、リンク80が連結孔66の中心軸方向に沿って若干移動しても、肉盛り部67Aによって回動が阻害されず、リンク80の回動範囲を大きく取ることが可能となる。
【0052】
また、本実施の形態では、連結孔66は、リンク80の断面の直径に対して1.1~1.5倍の大きさに設けられている。このため、リンク80が連結孔66の内部で大きく移動するのを防止することができる。そのため、リンク80が回動した際に、連結孔66内でリンク80が当接位置P1で当接した状態となることで、それ以上、
図7における矢示A方向にリンク80が移動するのを抑えながら、リンク受け部64でリンク80と当接する。このため、リンク80が荷に向かって回動するのを規制することが可能となる。
【0053】
また、本実施の形態では、リンク受け部64は、凹曲面状に設けられている。このため、連結孔66の周囲の角部がリンク80と接触する場合と比較して、リンク受け部64がリンク80に対して比較的広い面積で接触する状態とすることができる。それにより、リンク80の損傷を防止することができる。また、リンク受け部64が凹曲面状に設けられることで、よりリンク80の外面形状にフィットする状態とすることができ、リンク80の保持性を向上させることができる。
【0054】
<変形例>
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0055】
上述の実施の形態では、吊り金具10は、回転金具20と、リンク80を備えている。しかしながら、吊り金具は、回転金具20のみから構成されても良い。
【0056】
また、上述の実施の形態では、回転連結部材40の本体部60には、スロープ部63が設けられている。しかしながら、リンク受け部64は設けるもののスロープ部63を設けずに省略する構成を採用しても良い。
【0057】
また、上述の実施の形態における傾斜面63aを有するスロープ部63に変えて、複数の段部を有する段形状の部位(段形状部)を設けるようにしても良い。
【0058】
また、上述の実施の形態におけるアンカー金具30は、雄ネジ部31を有し、吊り上げ対象の荷の取り付け穴に取り付ける構成としている。しかしながら、アンカー金具30においては、雄ネジ部31は必須ではない。たとえば、別部材のボルト等の締結具によりアンカー金具を荷の取り付け面に固定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0059】
10,10A…吊り金具、20…回転金具、30…アンカー金具、31…雄ネジ部、32…金具連結部、32a…連結凹部、32b…外周部、32c…投入孔、32d…底面、40…回転連結部材、50…回転軸部、60,60A…本体部、61,61A…ベース部、61A1…上端面、62…隆起部、63…スロープ部、63a…傾斜面、64…リンク受け部、65…梁部、66…連結孔、67A…肉盛り部、70…軸受、80…リンク、90…六角穴付きネジ、P1~P3…当接位置、T1…底部