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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】植物の繊維を含む植物性紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 17/25 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
D21H17/25
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018552209
(86)(22)【出願日】2017-04-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 EP2017058121
(87)【国際公開番号】W WO2017174661
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-04-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-13
(31)【優先権主張番号】1652994
(32)【優先日】2016-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518100443
【氏名又は名称】エスダブリュエム・ルクセンブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セドリック・ルソー
(72)【発明者】
【氏名】レティシア・バラ
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】久保 克彦
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-198424(JP,A)
【文献】国際公開第2015/144893(WO,A1)
【文献】特表2017-518229(JP,A)
【文献】国際公開第2015/024908(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/134254(WO,A1)
【文献】特表2013-542216(JP,A)
【文献】特開2010-106373(JP,A)
【文献】特開平8-13367(JP,A)
【文献】特開2003-82592(JP,A)
【文献】加藤晴治、「和紙」、産業図書(株)、1958年10月5日、67ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥植物性紙であって、
・溶媒での抽出を経た植物の繊維を含み、
・溶媒に可溶な植物の抽出物を、前記植物性紙の乾燥物の質量の3%未満含み、
前記植物繊維の量は、植物性紙繊維の全量に対して少なくとも50質量%であり、
前記溶媒は、水または70から30の水/アルコールの混合物からなり
前記植物が、植物の一部であり、
前記植物の一部が、茶の木の葉、カカオ豆を保護する殻、コーヒー豆を包む膜、またはビール搾り滓から選択される、乾燥植物性紙。
【請求項2】
前記植物の一部が、樹木の辺材、心材、及び髄から選択される、製紙に使用される部分ではない、請求項1に記載の乾燥植物性紙。
【請求項3】
前記植物の一部がカカオ豆を保護する殻である、請求項1に記載の乾燥植物性紙。
【請求項4】
前記植物の一部がコーヒー豆を包む膜である、請求項1に記載の乾燥植物性紙。
【請求項5】
前記植物の一部が茶の木の葉である、請求項1に記載の乾燥植物性紙。
【請求項6】
前記植物性紙が、ボール紙である、請求項1から5のいずれか一項に記載の乾燥植物性紙。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に規定の乾燥植物性紙を含む包装紙。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に規定の乾燥植物性紙を含む装飾紙。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか1項に規定の乾燥植物性紙を含む便箋。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか1項に規定の乾燥植物性紙を含む衛生用紙。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか一項に規定の乾燥植物性紙を含む吸収紙。
【請求項12】
請求項1から6のいずれか一項に規定の植物性紙を含むクリーニングワイプ。
【請求項13】
ボディケアとしての使用または家庭用メンテナンス向けの、請求項12に記載のクリーニングワイプ。
【請求項14】
請求項1から6のいずれか一項に規定の乾燥植物性紙を含む化粧品。
【請求項15】
前記化粧品が、フェイスマスク、アイパッチ、またはボディー包膜である、請求項14に記載の化粧品。
【請求項16】
請求項1から6のいずれか1項に規定の乾燥植物性紙を含むハンカチ。
【請求項17】
請求項1から6のいずれか一項に規定の乾燥植物性紙と第2の紙とを含むハイブリッド紙であって、
前記第2の紙が、スパンボンド支持体であるか、又は湿式法、人工もしくは天然の長繊維を用いる乾式カード法、あるいは人工もしくは天然の長繊維を用いるエアレイド法により製造されている、ハイブリッド紙。
【請求項18】
下記の工程:
・1つ以上の植物部分を溶媒と混合して、溶媒に可溶な植物の抽出物を抽出する工程;
・次いで、溶媒に可溶な植物の抽出物を、植物の繊維性部分から分離して、本発明による繊維を得る工程;及び
・本発明による繊維を抄紙機に通して植物性紙を製造する工程;
を含み、
前記溶媒は、水または70から30の水/アルコールの混合物からなり
請求項1から6のいずれか一項に規定の乾燥植物性紙の製紙方法。
【請求項19】
溶媒が水であり、抽出が大気圧で行われ、水温が30℃から100℃である、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶媒で抽出された植物の繊維を含む植物性紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紙が林木繊維、主にセルロース繊維から形成されていることから、製紙産業は森林からの木材を非常に多く消費している。具体的には、従来の紙を1トン製造するためには、2から3トンの木材が必要である。さらに、1950年以来、紙の世界的な消費は絶えず増加しており、例えばフランスでは10倍になっている。この消費の増加は、地球の森林に影響を及ぼしており、その80%が人間の活動の結果として消失したといえる。
【0003】
紙の製造の際には、まず木材樹皮が除去され、その後、剥皮された木材は、製紙のための原材料である紙パルプの製造のための、様々な脱リグニン処理を受ける。これらの処理の目的は、木質繊維を脱リグニンすること、すなわち、木材中に存在して木質繊維間の凝集を維持するリグニンを溶解させ、それによって木質繊維を分離させることである。典型的には、これらの脱リグニン処理は、機械パルプ、熱機械パルプ、化学機械パルプ、または化学パルプ処理として知られるものである。これらの処理は非常にエネルギーを消費し、有害化学製品、例えば水酸化ナトリウムの使用を必要とし得る。
【0004】
さらにまた、使用する処理によらず、得られる紙パルプは褐色を帯びた色を有する。従って、漂白は、白い紙を製造するためには絶対に必要な処理である。しかしながら、紙の漂白には、有害な化合物である塩素または過酸化水素の使用を要する。
【0005】
製紙の影響を制限するために、1つのアイデアとして、再生木質繊維の再利用のための従来の紙のリサイクルがある。しかしながら、リサイクルは、回収及び再処理工場への運搬のための高価な経路の確立を要する。再生木質繊維はまた、大量の熱水を必要とし、このためエネルギーを消費する処理を経て、繊維が分離され、脱インキされねばならない。さらにまた、得られる紙パルプにも、漂白処理を行わねばならない。再生木質繊維から得られる紙は、品質に劣る。したがって、リサイクルでは、製紙の生態学的影響を完全に制限することはできない。
【0006】
製紙の生態学的影響を制限するために、木質繊維を、樹木ではない植物由来の植物性繊維で置き換えることも可能であり、これらの繊維は、工業的植物性残留物に由来するものであってよい。挙げられる例は、特許出願EP 0 645 491に記載の紙である。この紙では、木質繊維の5から40質量%が、植物由来の植物性物質で置換されており、前記植物性物質は、植物の繊維性部分及び非繊維性部分の両方を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】EP 0 645 491
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許出願EP 0 645 491に教示されるように、木質繊維の40質量%超がこの植物性物質で置換された場合、記載された紙の物理的及び機械的特性並びにその使用が損なわれる。結果として、記載された紙の木質繊維の少なくとも60質量%が上述の処理を受ける。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、溶媒での抽出を含む植物性紙を開発した。
【0010】
本発明は、溶媒での抽出を経た植物の繊維を含む植物性紙を記載する。本発明による植物性紙中の溶媒で抽出された植物の繊維の量は、前記植物性紙の繊維の総質量に対して少なくとも50質量%である。本発明による植物性紙は、溶媒に可溶な植物の抽出物を、前記植物性紙の乾燥物の質量の10%未満含む。
【0011】
本発明による繊維は、植物の繊維性部分に該当し、その一方で、溶媒に可溶な植物の抽出物は、溶媒に可溶な植物の全非繊維性部分に該当し、前記植物は、溶媒での抽出を経たものである。
【0012】
本発明による繊維を得るために実施される溶媒での抽出は、水酸化ナトリウムなどの化合物を含まない穏やかな方法である。これはまた、紙パルプの製造に用いられる脱リグニン処理とも、漂白処理とも異なる。典型的には、脱リグニン処理は、機械パルプ、熱機械パルプ、化学機械パルプ、または化学パルプ処理として既知のものである。典型的には、漂白処理は、塩素、二酸化塩素、酸素、オゾン、または過酸化水素を使用するものである。有利には、本発明による溶媒での抽出の生態学的影響は、上述の脱リグニン及び漂白処理のものよりも少ない。結果として、本発明による植物性紙の生態学的影響は、従来の紙の生態学的影響よりも小さい。
【0013】
特定の実施態様によれば、前記溶媒は水性溶媒であり、とりわけ前記溶媒は水である。
【0014】
典型的には、水性溶媒は、70から30の水/アルコールの混合物であってよい。
溶媒が水である実施態様によれば、抽出は大気圧で行われ、水温は40℃から100℃、特に60℃から90℃、とりわけ70℃から80℃である。
【0015】
典型的には、本発明による繊維は、溶媒での抽出及び溶媒に可溶な抽出物の分離の後に得られる。したがって、本発明による繊維は、溶剤に可溶な抽出物の残留画分を含んでよく、このことは、本発明による植物性紙が、溶媒に可溶な植物の抽出物を前記植物性紙の乾燥物の質量に対して10質量%未満含むことを裏付ける。典型的には、本発明による植物性紙は、前記植物性紙の乾燥物の質量の5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満の、溶媒に可溶な植物の抽出物を含む。特定の実施態様によれば、本発明による植物性紙は、溶媒に可溶な植物の抽出物を全く含まない。
【0016】
以下の技術が、植物性紙の乾燥物の質量に対する、溶媒に可溶な抽出物のパーセンテージを決定するために使用される。分析しようとする植物性紙は、2mm以下の粒径を達成するように粉砕される。次いで、粉砕した植物性紙を沸騰水と10分間混合して、溶媒に可溶な抽出物を抽出する。溶媒に可溶な植物性紙抽出物の乾燥物の質量は、植物性紙試料の乾燥質量と抽出後の繊維残量の乾燥質量との間の差によって算出される。
【0017】
溶媒での抽出により、本発明による植物性紙中の溶媒に可溶な抽出物を少量とすることが可能であり、無くすことさえ可能である。いかなる理論にも束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、溶媒での抽出により、本発明の植物性紙にその機械的及び官能特性がもたらされると考えている。典型的には、植物性紙の臭いは中性であり、その表面は非粘着性である。植物性紙の色もまた自然であってよい。
【0018】
植物性紙は、任意のタイプの植物、特にカカオ豆の木、コーヒーの木、茶の木、ブドウ、生姜、イチョウ、カモミール、トマト、ツタ、マテ、ルイボス、キュウリ、ミント、穀物、例えば、小麦、大麦、またはライムギ、あるいは樹木、例えば、広葉樹または樹脂木などから得られる。
【0019】
本発明による繊維はまた、植物混合物に由来してもよい。このため、有利には、本発明による繊維には幅広い選択肢が存在し、よって、その紙の使用に機械的及び官能特性を適合させ得る植物性紙が得られる。好ましい実施態様によれば、前記植物はカカオ豆の木、コーヒーの木、または茶の木である。典型的には、植物混合物は、茶の木及びミントである。
【0020】
典型的には、植物性紙は、植物全体、植物の一部、または様々な植物部分の混合物から得られる。植物部分とは、植物の一部そのもの、例えば茶葉であってよい。植物部分はまた、1つ以上の植物部分、例えば、豆の殻剥き過程から生じるカカオ豆を保護する殻、コーヒー豆を包む膜、ビール搾り滓、ブドウ搾りかす、キュウリ茎、またはトマト葉の、機械的、化学的、または機械化学的変換の結果であってもよい。特に、植物部分は、茶葉、豆の殻剥き過程から生じるカカオ豆を保護する殻、コーヒー豆を包む膜、ビール搾り滓、またはブドウ搾りかすである。
【0021】
好ましい実施態様によれば、植物部分は、カカオ豆を保護する殻、コーヒー豆を包む膜、または茶葉である。
【0022】
特定の実施態様によれば、植物部分は、製紙に使用される部分、特に、樹木の辺材、心材、及び髄ではない。この実施態様による植物性紙は、脱リグニン工程を伴わない。したがって、その生態学的影響は、従来の紙の生態学的影響よりもはるかに小さい。
【0023】
典型的には、本発明による繊維は、植物性紙の繊維の全量に対して、50から90質量%、特に60から80質量%を占める。
【0024】
植物性紙はまた、製紙産業において一般的に使用される脱リグニン繊維を含んでよい。典型的には、これらの繊維は、製紙産業において一般に使用される脱リグニン処理、及び任意に漂白処理を受けている。典型的には、これらの繊維は、テンセル(登録商標)繊維(N-メチルモルホリンN-オキシド一水和物に溶解した粉砕セルロース繊維)、あるいは麻、竹、綿、カポック、ココナッツ、亜麻、ラミー、ジュート、サイザル、ケナフ、アバカ、ラフィア、パピルス、リード、コムギ、サトウキビ、トウモロコシ、モロコシ、及び樹木、例えば、広葉樹または樹脂木由来の繊維であってよい。典型的には、本発明による植物性紙中のこれらの繊維の量は、植物性紙繊維の総量に対して、0質量%から50質量%、好ましくは10質量%から45質量%、さらにより好ましくは20質量%から40質量%である。
【0025】
製紙産業で一般的に使用される脱リグニン繊維に代えて、あるいはこれに加えて、植物性紙は合成繊維を含んでもよい。典型的には、合成繊維は、有機または無機の合成繊維である。例えば、有機合成繊維は、ポリ乳酸の繊維、ポリアミド、ポリエステル、例えばPETなど、ポリ塩化ビニル(chlorofibres)、アクリル繊維、ビニル繊維、ゴム(electodiene)、ビニラール(vinylal)、エラスタン、アラミド繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリフェノール繊維、ポリウレア繊維、ポリウレタン繊維、テキスタイル(textilene)、ビスコース、例えばレーヨンなど、またはこれらの混合物である。無機繊維は、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、例えば炭化ケイ素(SiC)など、延性材料、例えば金、銀、またはアルミニウムなどの繊維、炭素繊維、ホウ素繊維、またはこれらの混合物である。典型的には、本発明による植物性紙中の合成繊維の量は、植物性紙繊維の総質量に対して5質量%から50質量%、好ましくは10質量%から40質量%、さらにより好ましくは15質量%から30質量%である。
【0026】
製紙産業において一般的に使用される脱リグニン繊維及び合成繊維は、植物性紙に添加して前記植物性紙の特性を変性させることができる。典型的には、変性させ得る植物性紙の特性は、機械的強度特性、例えば引張強度、引裂強度、破裂強度、耐折性、または曲げ強度、表面強度、及びクリープ強度、特に機械的強度特性、例えば引張強度、引裂強度、破裂強度、耐折性、または曲げ強度、光学特性、例えば白色度、不透明度、または光沢、あるいは組織特性、例えば坪量、多孔性、あるいは空気もしくは液体の透過性である。
【0027】
典型的には、植物性紙は、従来の紙の製造に通常使用される添加剤を含んで、植物性紙の新たな特性、例えば、化学、光学、官能、または機械特性、例えば、引裂強度または耐折性を、生じさせるかまたはもたらすことができる。典型的には、添加剤は、湿潤強度剤、油バリア及び脂肪バリア剤、ブロッキング防止剤、乾燥強度剤、軟化剤、ローション組成物、湿潤剤、または表面パターンとして塗布されたラテックスなどのラテックス、特に湿潤強度剤、乾燥強度剤、軟化剤、ローション組成物、湿潤剤、またはラテックス、例えば、表面パターンとして塗布されたラテックス、特に湿潤強度剤、乾燥強度剤、軟化剤、ローション組成物、湿潤剤、またはラテックス、例えば、表面パターンとして塗布されたラテックスであってよい。
【0028】
湿潤強度剤は、植物性紙が液体、例えば水などと接触して配置された場合に、植物性紙の起こり得る劣化を軽減することを可能にする。典型的には、湿潤強度剤は、ポリアミド、例えばエピクロロヒドリン樹脂、ポリアミン-エピクロロヒドリン樹脂、ポリ(アミノアミド)-エピクロロヒドリン樹脂、尿素-ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂;アルキル-ケテン二量体;アルキルコハク酸無水物;ポリビニルアミン;酸化多糖類から選択して良い。典型的には、湿潤強度剤の量は、植物性紙の乾燥物の質量の0.1%から30%、好ましくは1%から15%、さらにより好ましくは5%から10%である。
【0029】
油バリア及び脂肪バリア剤は、紙による脂肪の吸収の減少を可能にする。典型的には、油バリア及び脂肪バリア剤は、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、アクリル酸エステル、及びラテックスから選択してよい。
【0030】
粘着防止剤は、材料の紙への接着を制限することを可能にする。典型的には、粘着防止剤は、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、アクリルエステル、シリコーン、及びラテックスから選択してよい。
【0031】
乾燥強度剤は、植物性紙が大きな機械的応力を受けた場合の、植物性紙の耐性を高めることを可能にする。乾燥強度剤は、澱粉及び変性ゴム、セルロースポリマー、合成ポリマー、例えば、カルボキシメチルセルロース及びポリアクリルアミドから選択してよい。典型的には、乾燥強度剤の量は、植物性紙の乾燥質量の0.1%から30%、好ましくは1%から15%、さらに好ましくは5%から10%である。
【0032】
軟化剤は、本発明による植物性紙の柔軟性の改善を可能にする。典型的には、軟化剤は、脂肪酸、シロキサン化合物、シリコーン化合物、アミノシリコーン化合物、アロエベラ抽出物、スイートアーモンド抽出物、カモミール抽出物、第四級アンモニウム化合物である。典型的には、軟化剤の量は、植物性紙の乾燥質量の0.1%から30%、好ましくは1%から15%、さらにより好ましくは5%から10%である。
【0033】
典型的には、添加剤はまた、充填剤、例えば、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム、ベントナイト、ゼオライト、ケイ酸塩、着色剤、またはこれらの混合物などであってもよい。この充填剤の添加は、植物性紙の機械的特性のいくつか、特にその表面に印刷または筆記することを可能にする特性を変更しうる。この充填剤はまた、植物性紙に所定の官能特性を付与することができる。典型的には、着色料は、植物性紙にその色を付与する。典型的には、本発明による植物性紙中の充填剤の量は、植物性紙の乾燥質量の0%から50%、好ましくは5%から30%、さらに好ましくは10%から20%である。
【0034】
その機械的特性及び官能特性のために、本発明による植物性紙は、包装紙として、または一次、二次、もしくは三次包装材、特に食品包装、化粧品包装、または洗剤包装として使用することができる。植物性紙は、装飾紙(壁紙)または便箋として使用してもよい。
【0035】
本発明の一実施態様によれば、特に食品包装、化粧品包装、または洗剤包装のための包装紙は、本発明による植物性紙、特に一次、二次、もしくは三次包装材としての本発明による植物性紙を含んで良い。
【0036】
食品包装紙が本発明による植物性紙を含む場合、本発明による植物性紙が含んでよい添加剤は、好ましくは、食品包装紙の製造に推奨される添加剤のリストから選択される。典型的には、こうしたリストは、推奨リストBFR XXXVI/1、推奨リストBFR XXXVI/2、FDA 21規則リスト、CFR 176.170規則リスト、またはCFR 176.180規則リストであってよい。
【0037】
本発明の一実施態様によれば、本発明による植物性紙は、植物性ボール紙であってよい。本発明の目的のためには、「植物性ボール紙」なる語は、200g/m2から500g/m2、特に225g/m2から300g/m2、とりわけ240g/m2から280g/m2の坪量を有する植物性紙を意味する。
【0038】
本発明の一実施態様によれば、装飾紙は、本発明による植物性紙を含むことができる。
【0039】
本発明の一実施態様によれば、便箋は、本発明による植物性紙を含むことができる。
【0040】
典型的には、食品包装紙に含まれる本発明による植物性紙は、あらゆる種類の食品、例えば、肉、魚、チーズ、昆虫、野菜、果物、飲料ボトル、ベーカリー製品、またはチョコレートなどを包装するために、低温の応用のためであるか、または例えば加熱用などの高温の応用のためであるかによらず、使用することができる。
【0041】
典型的には、化粧品包装紙に含まれる本発明による植物性紙は、あらゆる種類の固体化粧品、例えば、固形の石鹸(マルセイユ石鹸)、アイシャドウ、口紅、またはリップクリームなどを包装するために使用することができる。
【0042】
典型的には、洗剤包装紙に含まれる本発明による植物性紙は、固形の洗剤、例えば、洗浄製品、シミ抜き剤、食器洗い製品、家庭用洗浄剤、または脱臭剤などを包装するために使用することができる。
【0043】
本発明の植物性紙は、その用途に応じて、例えば、染毛、皮膚の着色、または減量などの化粧品特性を有する植物の抽出物、例えば、皮膚創傷の清浄化、頭皮のかゆみ及びフケへの対抗、皮膚の荒れもしくは乾燥肌、虫刺され、擦過傷、火傷及び臀部紅斑の緩和などの皮膚科学的特性を有する植物の抽出物、例えば、目の炎症、気管支障害、咳、または風邪などの治療用途に使用される植物の抽出物を含んで良い。
【0044】
その官能特性、特にその天然の色のために、本発明による植物性紙は、ハンカチ、クリーニングワイプ、または化粧品に組み込むことができる。具体的には、本発明による植物性紙の自然な色は、使用者が皮膚に使用しようとするクリーニングワイプまたは化粧品の非毒性の性質に関して、使用者の不安を取り除くことができる。
【0045】
典型的には、本発明によるハンカチは、本発明による植物性紙に加えて、柔軟剤、例えば、脂肪酸、シロキサン化合物、シリコーン化合物、アミノシリコーン化合物、アロエベラ抽出物、スウィートアーモンド抽出物、カモミール抽出物、第4級アンモニウム化合物、殺菌性化合物、例えば、消毒剤、抗菌剤、抗細菌剤、またはこれらの混合物など、充血緩和剤、例えば、メントールまたはユーカリの抽出物、芳香剤、保湿剤、例えば、ビタミンEなど、またはこれらの混合物を含んで良い。
【0046】
典型的には、本発明によるクリーニングワイプは、本発明による植物性紙に加えて、殺菌性化合物、例えば、消毒剤、抗菌剤、抗細菌剤、またはこれらの混合物などを含んで良い。
【0047】
典型的には、本発明によるクリーニングワイプは、ボディケアとして、または家庭用品メンテナンスのために使用することができる。
【0048】
典型的には、本発明による化粧品は、本発明による植物性紙に加えて、皮脂調節剤、抗菌剤、艶消し剤、収斂剤、酸性化剤、瘢痕化剤、剥離剤、または角質正常化(kerato-regulating)剤、閉塞剤、保護剤、皮膚軟化剤、栄養剤、保湿剤、抗老化剤、鎮静剤、充血緩和剤、または静脈強壮剤、UVスクリーニング剤、湿潤剤、吸湿剤、ゲル化剤、フリーラジカル捕捉剤、細胞再生剤、または細胞刺激剤、安定剤、張り付与剤、抗糖化剤、明色化剤、またはこれらの混合物から選択される有効成分を含んで良い。
【0049】
典型的には、化粧品は、フェイスマスク、アイパッチ、またはボディー包膜(body envelop)であってよい。
【0050】
典型的には、フェイスマスクは、30g/m2から150g/m2、特に40g/m2から100g/m2、とりわけ50g/m2から85g/m2の坪量を示す。
【0051】
典型的には、本発明による植物性紙を製造するために、製紙方法を使用してよい。とりわけ、溶媒に可溶な少量の抽出物は、植物性紙の製造の際に、製紙方法における本発明による繊維の使用を容易にする。具体的には、溶媒に可溶な抽出物中に自然に存在する糖、タンパク質、及びコロイド(ペクチン、デンプン)は、乾燥シリンダーへの接着、排液困難、またはタンク内の発酵の問題などの不都合を引き起こす可能性がある。
【0052】
本発明による好ましい実施態様によれば、製紙方法が使用される。この実施態様によれば、本発明による植物性紙は、製紙処理により得られる植物性紙である。
【0053】
本発明による植物性紙は、以下の工程を含む製紙方法により製造される:
・1つ以上の植物部分を溶媒と混合して、溶媒に可溶な植物抽出物を抽出する工程;
・次いで、溶媒に可溶な抽出物を、植物の繊維性部分から分離して、本発明による繊維を得る工程;
・本発明による繊維を抄紙機に通して植物性紙を製造する工程。
【0054】
典型的には、本発明による繊維は、抽出及び分離方法によって得られる。こうした方法では、1つ以上の植物部分を溶媒と、例えば抽出器中で混合して、溶媒に可溶な植物の抽出物を抽出する。次いで、溶媒に可溶な植物抽出物を、例えばこれをスクリュープレスに通すことによって繊維性部分から分離し、一方では本発明による繊維を、他方では溶媒に可溶な抽出物を得る。こうした抽出及び分離方法では、本発明による繊維を抽出し、次いで溶媒に可溶な抽出物から分離する。
【0055】
一実施態様によれば、本発明による繊維は、様々な植物に由来し得る。
【0056】
この実施態様によれば、各植物の、本発明による繊維を別々に得ることが可能である。
様々な植物部分の1つ以上を組み合わせ、その後これらを溶媒と、例えば抽出器中で混合して、溶媒に可能な様々な植物の抽出物を抽出することにより、本発明による繊維をまとめて得ることも可能である。溶媒温度は、処理しようとする植物に、特に、溶媒に可溶なこの植物の抽出物を抽出するために最も高い溶媒温度を要する植物に、適合させる。次いで、溶媒に可溶な様々な植物の抽出物を、例えば、スクリュープレスを通過させることによって繊維性部分から分離し、一方では本発明による繊維を、他方では溶媒に可溶な様々な植物の抽出物を、単離して得る。この代替法によれば、溶媒温度は、処理しようとする様々な植物の部分に適合させてよい。この代替実施態様は、様々な植物の本発明による繊維を得ることを、いくつかの方法を並行して使用することなく可能にすることから、非常に有利である。
【0057】
特定の実施態様によれば、溶媒は水性溶媒であり、とりわけ、前記溶媒は水である。
【0058】
溶媒が水である実施態様によれば、抽出は大気圧下で行われ、水温は、処理しようとする植物、特に処理しようとする植物部分に適合させてよい。典型的には、水温は40℃から100℃、特に60℃から90℃、とりわけ70℃から80℃である。
【0059】
植物性紙が様々な植物由来の本発明による繊維を含む場合、本発明による様々な繊維を、抄紙機を通過する前に混合して、本発明による植物性紙を製造してもよい。本発明による様々な繊維はまた、規定のスキームにより、またはこれに代えて、抄紙機を通って本発明による植物性紙を製造することができる。
【0060】
植物性紙が製紙産業において一般的に使用される脱リグニン繊維を含む場合、本発明による繊維及び製紙産業において一般的に使用される脱リグニン繊維を、抄紙機を通過させる前に混合して、本発明による植物性紙を製造して良い。本発明による繊維及び製紙産業において一般的に使用される脱リグニン繊維を、あるいはまた、抄紙機を通過させて、本発明による植物性紙を製造してもよい。
【0061】
植物性紙が合成繊維を含む場合、本発明による繊維及び合成繊維を、抄紙機を通過させる前に混合して、本発明による植物性紙を製造してもよい。本発明による繊維及び合成繊維を、あるいはまた、抄紙機を通過させて、本発明による植物性紙を製造してもよい。
【0062】
植物性紙が製紙工業において一般的に使用される脱リグニン繊維及び合成繊維を含む場合、本発明による繊維、製紙産業で一般に使用される脱リグニン繊維、及び合成繊維を、抄紙機を通過させる前に混合して、本発明による植物性紙を製造してもよい。本発明による繊維、製紙産業で一般に使用される脱リグニン繊維、及び合成繊維を、規定のスキームに従ってまたはこれに代えて、抄紙機を通過させて、本発明による植物性紙を製造してもよい。
【0063】
植物性紙が湿潤強化剤を含む場合、この湿潤強化剤を、本発明による繊維に、これを抄紙機に通過させる前に添加して、本発明による植物性紙を製造してもよい。湿潤強化剤はまた、サイズプレス、コーティング、または噴霧によって、形成された植物性紙に直接添加してもよい。
【0064】
植物性紙が、添加剤、例えば、油バリア及び脂肪バリア剤、及び/または粘着防止剤などを含む場合には、この添加剤は、サイズプレス、コーティングまたは噴霧によって紙表面に添加して、本発明による植物性紙を製造してもよい。
【0065】
植物性紙が乾燥強度剤を含む場合、この乾燥強度剤を、本発明による繊維に、これを抄紙機に通す前に添加して、本発明による植物性紙を製造してもよい。乾燥強度剤はまた、サイズプレス、コーティング、または噴霧によって、形成された植物性紙に直接添加してもよい。
【0066】
植物性紙が添加剤を含む場合、この添加剤を、本発明による繊維に、これを抄紙機に通す前に添加して、本発明による植物性紙を製造してもよい。添加剤はまた、サイズプレス、コーティング、または噴霧によって、形成された植物性紙に直接添加してもよい。
【0067】
典型的には、本発明による繊維を、例えば、精製機に通して、精製繊維を得ることができる。これらの精製繊維を、次いで抄紙機に通して、本発明による植物性紙を製造することができる。
【0068】
いったん製造されると、植物性紙は乾燥装置で乾燥させてよい。
【0069】
次に、植物性紙を、シートまたはリーフレットに形成するか、またはロールとして巻き上げて、リール、ストリップ、皿、カップ、マグ、ボウル、サラダボウル、バイアル、釜、瓶、ストロー、菅、またはディスクなどに切断してよい。
【0070】
植物性紙は、製紙産業において既知の追加処理を経ても良い。
【0071】
典型的には、これらの処理の1つにより、複数のヘッドボックスを使用する多層植物性紙の製造が可能となる。
【0072】
これらの追加処理の別の例は、水流交絡である。この処理は、高圧ウォータージェットを使用して繊維を交絡させる。格子と圧縮小片との間に挟持された本発明による植物性紙を、まず圧縮し、湿潤化させて、空気ポケットの形成を防止する。本発明による植物性紙は、目の細かいガーゼで覆われた有孔シリンダー上を循環しており、高圧ウォータージェットを、典型的には150から250バールで一方の面に、次いで他方の面に施す。インジェクターは、典型的には直径80から150μmの孔であり、1ミリメートル毎に孔が1から3の割合で、典型的には3から5mm離れた列に並んでいる。水圧は、最初から最後のインジェクターに亘って増加する。本発明による植物性紙の浸水を防止するために、シリンダーの内部は負圧状態にある。残留水を、まず吸引により、次いで乾燥によって除去する。
【0073】
有利には、水流交絡処理を受けた植物性紙の官能特性、特に柔軟性及び吸収性能は、改善される。さらにまた、水流交絡処理を経た植物性紙は、浮遊状態で調和のとれたひだを形成することができ、これは、より強度の引張り強さを有し、容易に形成される。したがって、水流交絡処理を受けた植物性紙は、心地よい感触が基本である用途、例えば、衛生用紙などとして使用されてよい。これはまた、吸収紙として使用してもよい。その官能特性、特にその柔軟性の改善のために、水流交絡処理を受けた植物性紙はまた、有利に、既述のハンカチ、クリーニングワイプ、または化粧品に組み込むことができる。
【0074】
本発明の一実施態様によれば、衛生用紙は、本発明による植物性紙を含むことができる。
【0075】
本発明の一実施態様によれば、吸収紙は、本発明による植物性紙を含むことができる。
【0076】
本発明による植物性紙はまた、第2の紙と共に用いられてハイブリッド紙を形成してもよい。この第2の紙は、当業者には既知の、湿式法、人工もしくは天然の繊維を用いる乾式カード法、あるいは人工もしくは天然の繊維を用いるエアレイド法により製造することができる。この第2の紙は、スパンボンド支持体であってもよい。
【0077】
本発明の一実施態様によれば、ハイブリッド紙は、本発明による植物性紙及び第2の紙を含んでよく、特に、植物性紙は、第2の紙と複合化される。
【0078】
典型的には、ハイブリッド紙は、水流交絡法により、本発明による植物性紙を第1の層として使用し、第2の紙を第2の層として使用して得ることができる。
【0079】
一実施態様によれば、本発明はまた、本発明による植物性紙が水流交絡により第2の紙と複合化される、ハイブリッド紙の製造方法にも関する。
【0080】
この実施態様によれば、第2の紙は、ハイブリッド紙に関して上述した通りである。
【0081】
特定の実施態様によれば、植物はカカオ豆の木であり、本発明による繊維は、カカオ豆を保護する殻から得られる。
【0082】
有利には、前記殻は、カカオの工業生産に由来する廃棄材料である。本発明による植物性紙に含まれる本発明による繊維を得るために殻を使用することにより、この廃棄材料が回収されることになり、ひいてはこの植物性紙の生態学的影響を制限することができる。
【0083】
典型的には、植物性紙は、任意の種類のカカオ豆(例えば、トリニタリオ、クリオロ、フォラステロ、クプアス、ナシオナル、またはカカオ豆の木種の混合物)を保護する殻から得ることができる。典型的には、植物性紙は、様々な種類のカカオ豆を保護する殻の処理から得られるものである。
【0084】
典型的には、カカオ豆を保護する殻から生じる、本発明による繊維の植物性紙中の量は、植物性紙繊維の全量に対して、少なくとも50質量%、特に50から90質量%、とりわけ60から80質量%である。
【0085】
典型的には、カカオ豆を保護する殻から生じる本発明による繊維を含む植物性紙は、溶媒に可溶な抽出物を、植物性紙の乾燥物の質量の10質量%未満、5質量%未満、4質量%未満、3質量%未満、2質量%未満、1質量%未満含む。特定の実施態様によれば、カカオ豆を保護する殻から生じる本発明による繊維を含む植物性紙は、溶媒に可溶な抽出物を全く含まない。
【0086】
有利には、カカオ豆を保護する殻から生じる本発明による繊維を含む本発明による植物性紙は、脆性が低く、特に耐折性である。さらにまた、その臭いは中性である。カカオ豆を保護する殻から生じる本発明による繊維を含む本発明による植物性紙には、印刷することも可能である。
【0087】
その機械的及び官能特性のために、カカオ豆を保護する殻から生じる本発明による繊維を含む本発明による植物性紙は、特に食品包装、化粧品包装、洗剤包装のための包装紙として、または、調理用紙、装飾紙(壁紙)、便箋として、またはクリーニングワイプもしくは化粧品として、使用することができる。
【0088】
典型的には、こうした植物性紙のチョコレート製品を包装するための使用は、チョコレートを製造する方法の上流で生成する副生成物を再生して、循環経済の概念に参加できることから、特に魅力的である。カカオ豆を保護する殻に基づくこの植物性紙は、さらに、多数の包装:錠剤包装、チョコレート四角包装、箱及び包装、可撓性小袋、菓子包装などの製造のために使用することができる。
【0089】
典型的には、カカオ豆を保護する殻から生じる本発明による繊維を含む本発明による植物性紙は、以下の工程を含む製紙方法によって製造される:
・カカオ豆を保護する殻を溶媒と混合して、溶媒に可溶なカカオ豆の木の抽出物を抽出する工程;
・次に、溶媒に可溶なカカオ豆の木の抽出物をカカオ豆の木の繊維性部分から分離して、本発明による繊維を得る工程;
・本発明による繊維を抄紙機に通して植物性紙を製造する工程。
【0090】
典型的には、カカオ豆を保護する殻は、溶媒に可溶な抽出物を、殻の総質量に対して50質量%まで含んでよい。従って、前記方法を、溶媒に可溶な抽出物から、殻の本発明による繊維を抽出し、次いで分離することに適合させる必要がある。
【0091】
特定の実施態様によれば、溶媒は水性溶媒であり、特に、溶媒は水である。
【0092】
溶媒が水である実施態様によれば、抽出は大気圧で行われ、水温は30℃から100℃、特に40℃から90℃、とりわけ60℃から80℃である。
【0093】
典型的には、混合時間は5分から180分、特に10分から60分、とりわけ20分から45分である。
【0094】
抄紙機を通過する前に、本発明による繊維は、溶媒に可溶な抽出物を、本発明による繊維の総質量に対して10質量%未満含む。
【0095】
溶媒に可溶な抽出物の残留質量は、抽出される繊維を抽出の前後に秤量することによって測定される。
【0096】
特定の実施態様によれば、植物はコーヒーの木であり、本発明による繊維は、コーヒー豆を包む膜から得られる。
【0097】
有利には、前記膜は、コーヒーの工業生産に由来する廃棄材料である。本発明による植物性紙に含まれる本発明による繊維を得るために膜を使用することにより、この廃棄材料が回収されることになり、ひいてはこの植物性紙の生態学的影響を制限することができる。
【0098】
この実施態様によれば、植物性紙は、任意の様々なコーヒーの木から得られる。典型的には、植物性紙は、様々な種類のコーヒーの木の処理から生じる。
【0099】
典型的には、コーヒー豆を包む膜に由来する本発明による繊維の、植物性紙中の量は、植物性紙の繊維の全量に対して、少なくとも50質量%、特に50から90質量%、とりわけ60から80質量%である。
【0100】
典型的には、コーヒー豆を包む膜に由来する本発明による繊維を含む植物性紙は、溶媒に可溶な抽出物を、植物性紙の乾燥物の質量の10質量%未満、5質量%未満、4質量%未満、3質量%未満、2質量%未満、1質量%未満含む。特定の実施態様によれば、コーヒー豆を包む膜に由来する本発明による繊維を含む植物性紙は、溶媒に可溶な抽出物を全く含まない。
【0101】
有利には、コーヒー豆を包む膜に由来する本発明による繊維を含む植物性紙は、かくして脆性が低く、特に耐折性である。さらにまた、その臭いは中性である。
【0102】
その機械的及び官能特性のために、コーヒー豆を包む膜に由来する本発明による繊維を含む植物性紙は、特に食品包装、化粧品包装、洗剤包装のための包装紙として、または、装飾紙(壁紙)、便箋として、またはクリーニングワイプもしくは化粧品として、使用することができる。
【0103】
典型的には、こうした植物性紙の、コーヒー粉末などのコーヒーを含む製品を包装するための使用は、これらの製品を製造する方法の上流で生成する副生成物を再生して、循環経済の概念に参加できることから、特に魅力的である。
【0104】
典型的には、コーヒー豆を包む膜に由来する本発明による繊維を含む植物性紙は、以下の工程を含む製紙方法によって製造される:
・コーヒー豆を包む膜を溶媒と混合して、溶媒に可溶なコーヒーの木の抽出物を抽出する工程;
・次に、溶媒に可溶なコーヒーの木の抽出物をコーヒーの木の繊維性部分から分離して、本発明による繊維を得る工程;
・本発明による繊維を抄紙機に通して植物性紙を製造する工程。
【0105】
典型的には、コーヒー豆を包む膜は、溶媒に可溶な抽出物を、膜の総質量に対して40質量%まで含んでよい。従って、前記方法を、溶媒に可溶な抽出物から、膜の本発明による繊維を抽出し、次いで分離することに適合させる必要がある。
【0106】
特定の実施態様によれば、溶媒は水性溶媒であり、特に、溶媒は水である。
【0107】
溶媒が水である実施態様によれば、抽出は大気圧で行われ、水温は30℃から100℃、特に40℃から90℃、とりわけ60℃から80℃である。
【0108】
典型的には、混合時間は5分から180分、特に10分から60分、とりわけ20分から45分である。
【0109】
抄紙機を通過する前に、本発明による繊維は、水抽出物を、本発明による繊維の総質量に対して10質量%未満含む。
【0110】
溶媒に可溶な抽出物の残留質量は、抽出される繊維を抽出の前後に秤量することによって測定される。
【0111】
特定の実施態様によれば、植物は茶の木であり、本発明による繊維は、茶葉から得られる。
【0112】
典型的には、使用される茶葉は、脱穀、または茶葉の混合及び小片への細断、または茶葉粉に由来する。使用される茶葉は、有利には、茶の工業生産に由来する廃棄材料である。本発明による植物性紙に含まれる本発明による繊維を得るためにこれらを使用することにより、この廃棄材料は、かくして改良され、ひいては植物性紙の生態学的影響を制限することができる。
【0113】
この実施態様によれば、植物性紙は、任意の様々な茶の木から得ることができる。典型的には、植物性紙は様々な種類の茶の木の処理から生じる。
【0114】
典型的には、茶葉に由来する本発明による繊維の量は、植物性紙繊維の全量に対して、少なくとも50質量%、特に50から90質量%、とりわけ60から80質量%である。
【0115】
典型的には、茶葉に由来する本発明の繊維を含む植物性紙は、溶媒に可溶な抽出物を、植物性紙の乾燥物質の5質量%未満、4質量%未満、3質量%未満、2質量%未満、1質量%未満含む。特定の実施態様によれば、茶葉に由来する本発明による繊維を含む植物性紙は、溶媒に可溶な抽出物を全く含まない。
【0116】
有利には、茶葉に由来する本発明による繊維を含む本発明による植物性紙は、かくして脆性が低く、特に耐折性である。さらにまた、その臭いは中性であり、べたつかない。
【0117】
その機械的及び官能特性のために、茶葉から生じる本発明による繊維を含む本発明による植物性紙は、特に食品包装、化粧品包装、洗剤包装のための包装紙として、または、装飾紙(壁紙)として、便箋として、またはクリーニングワイプもしくは化粧品として、使用することができる。
【0118】
典型的には、茶を含む製品包装用のこうした植物性紙の使用は、これら製品の製造方法の上流で生成する副生成物を再生して、循環経済の概念に参加できることから、特に魅力的である。
【0119】
典型的には、茶葉に由来する本発明による繊維を含む本発明による植物性紙は、以下の工程を含む製紙方法によって製造される:
・茶葉を溶媒と混合して、溶媒に可溶な茶葉の抽出物を抽出する工程;
・次に、溶媒に可溶な茶葉の抽出物を、茶の木の繊維性部分から分離して、本発明による繊維を得る工程;
・本発明による繊維を抄紙機に通して植物性紙を製造する工程。
【0120】
典型的には、茶葉は、溶媒に可溶な抽出物を、葉の総質量に対して50質量%まで含んでよい。従って、前記方法を、溶媒に可溶な葉抽出物から、葉の本発明による繊維を抽出し、次いで分離することに適合させる必要がある。
【0121】
特定の実施態様によれば、溶媒は水性溶媒であり、特に、溶媒は水である。
【0122】
溶媒が水である実施態様によれば、抽出は大気圧で行われ、水温は30℃から100℃、特に40℃から90℃、とりわけ60℃から80℃である。
【0123】
典型的には、混合時間は5分から180分、特に10分から60分、とりわけ20分から45分である。
【0124】
抄紙機を通過する前に、本発明による繊維は、溶媒に可溶な抽出物を、本発明による繊維の総質量に対して10質量%未満含む。
【0125】
溶媒に可溶な抽出物の残留質量は、抽出される繊維を抽出の前後に秤量することによって測定される。
【実施例
【0126】
1)カカオ豆の木の植物性紙
カカオ豆の木に由来する繊維を含む本発明による植物性紙を、以下の方法に従って製造した。カカオ殻をナイフミルを用いて粉砕し、約1mmのサイズの粒子を得た。次いで、粉砕した殻材料と水とを、70℃で20分間に亘って、殻/水の比率1/10で混合した。その後、混合物を遠心分離して、水性部分(カカオ殻液)を不溶性部分(カカオ殻繊維)から分離する。繊維画分を、ディスクリファイナを用いて精製する。精製後、樹脂木由来の脱リグニン繊維を、本発明による精製繊維画分に、脱リグニン繊維/カカオ豆の木由来の本発明による繊維の比率40%/60%で添加して、植物性紙シートを製造する。次いで、植物性紙シートをホットプレート上で乾燥させる。
【0127】
2)コーヒーの木の植物性紙
コーヒーの木に由来する繊維を含む本発明による植物性紙を、以下の方法に従って製造した。コーヒー豆を包む膜と水とを、70℃で20分間に亘って、膜/水の質量比率1/5で混合した。その後、混合物は水圧プレスでの抽出工程を経て、水性部分(コーヒー膜液)を不溶性部分(コーヒー膜繊維)から分離する。回収された不溶性部分を、70℃で10分間に亘って、不溶性部分/水の質量比率1/5で再度加熱する。追加の抽出(プレスによる)の後、試料を、ディスクリファイナを用いて精製する。精製後、樹脂木由来の脱リグニン繊維を、本発明による精製繊維画分に、脱リグニン繊維/コーヒーの木由来の本発明による繊維の比率10%/90%で添加して、植物性紙シートを製造する。次いで、植物性紙シートをホットプレート上で乾燥させる。
【0128】
3)茶の木の植物性紙
茶の木に由来する繊維を含む本発明による植物性紙を、以下の方法に従って製造した。紅茶葉と水とを、70℃で20分間に亘って、茶/水の質量比率1/5で混合した。その後、混合物は水圧プレスでの抽出工程を経て、水性部分を不溶性部分(茶繊維)から分離する。回収された不溶性部分を、70℃で10分間に亘って、不溶性部分/水の質量比率1/5で再度加熱する。追加の抽出(プレスによる)の後、試料を、ディスクリファイナを用いて精製する。精製後、セルロース繊維(アバカ、樹脂木パルプ、及び広葉樹パルプの、比率60/10/30の混合物)を、精製脱リグニン繊維に、脱リグニン繊維/茶の木由来の本発明による繊維の比率10%/90%で添加して、植物性紙シートを製造する。次いで、植物性紙シートをホットプレート上で乾燥させる。
【0129】
4)二次包装用緑茶の植物性ボール紙(茶カートン)
茶の木に由来する繊維を含む本発明による植物性ボール紙を以下の方法に従って製造した。緑茶葉をナイフミルを用いて粉砕し、約1mmのサイズの粒子を得た。次いで、粉砕した葉材料と水とを、70℃で45分間に亘って、葉/水の比率1/10で混合する。その後、混合物を遠心分離して、水性部分(茶葉液)を不溶性部分(茶繊維)から分離する。不溶性部分を、ディスクリファイナを用いて精製する。精製後、樹脂木由来の脱リグニン繊維を、精製不溶性部分に、脱リグニン繊維/精製不溶性部分の比率50%/50%で添加して、植物性ボール紙を製造する。次いで、ボール紙を、抄紙機において約275g/m2の坪量で製造する。
【0130】
5)二次包装用カカオの植物性ボール紙(チョコレートボックス)
カカオ豆の木の殻に由来する繊維を含む本発明による植物のボール紙を、以下の方法に従って製造した。殻をナイフミルを用いて粉砕し、約1mmの大きさの粒子を得た。次いで、粉砕した殻材料と水とを、70℃で45分間に亘って、殻/水の比率1/10で混合した。その後、混合物を遠心分離して、水性部分(カカオ豆の木の殻由来の液)を不溶性部分(カカオ殻繊維)から分離する。不溶性部分は、ディスクリファイナーを用いて精製される。精製後、樹脂木由来の脱リグニン繊維を、精製不溶性部分に、脱リグニン繊維/精製不溶性部分の比率50%/50%で添加して、植物性ボール紙を製造する。次いで、ボール紙を、抄紙機において約250g/m2の坪量で製造する。
【0131】
6)その他の例
植物性紙の様々な例が、以下の表に示す植物繊維及び植物部分から得られ、前記植物の繊維は水で抽出される。例示された植物性紙を得るために使用される方法は、植物からの水溶性抽出物の量が、植物性紙の乾燥物の10質量%未満となるように適合させる。
【0132】
【表1】
【0133】
5)フェイスマスクのデザイン例
茶/ミント繊維を含む植物性マスク
茶の木及びペパーミントに由来する繊維を含む本発明による植物性紙を以下の方法に従って製造した。60%/40%の比率の緑茶葉及びミントと水とを、70℃で20分間に亘って、(茶+ミント)/水の質量比率1/5で混合した。その後、混合物は水圧プレスでの抽出工程を経て、水性部分を不溶性部分(茶及びミント繊維)から分離する。回収された不溶性部分を、70℃で10分間に亘って、不溶性部分/水の質量比率1/5で再度加熱する。追加の抽出(プレスによる)の後、試料を、ディスクリファイナを用いて精製する。精製後、セルロース繊維(アバカ)を、精製脱リグニン繊維に、脱リグニン繊維/茶及びミントの本発明による繊維の比率1/1で添加し、湿潤強化剤を強化剤/繊維合計の比率1/9で添加して、約80g/m2の坪量を有する植物性紙シートを製造する。次いで、植物性紙シートをホットプレート上で乾燥させる。
【0134】
他の実施例では、アバカ繊維は亜麻繊維で置き換えられ、脱リグニン繊維/本発明による植物繊維の比率は、1/9から1/1の範囲である。
【0135】
水流交絡用の緑茶繊維を含む植物性マスク
茶の木に由来する繊維を含む本発明による植物性紙を、以下の方法に従って製造した。緑茶葉と水とを、70℃で20分間に亘って、茶/水の質量比率1/5で混合した。その後、混合物を水圧プレスでの抽出工程を経て、水性部分を不溶性部分(茶繊維)から分離する。回収された不溶性部分を、70℃で10分間に亘って、不溶性部分/水の質量比率1/5で再度加熱する。追加の抽出(プレスによる)の後、試料を、ディスクリファイナを用いて精製する。精製後、脱リグニンアバカ繊維及びテンセル(登録商標)10mm繊維を、茶の木及びミントの本発明の繊維に、アバカ/テンセル(登録商標)/茶の比率4/1/5で添加して、植物性紙シートを製造する。その後、生成したシートを水流交絡させる。
【0136】
別の例では、テンセル(登録商標)繊維に代えて合成繊維(レーヨン、PET)を、脱リグニンアバカ繊維及び茶の木由来の本発明の繊維に、アバカ/合成繊維/茶の比率4/1/5で添加する。
【0137】
分析結果
1)カカオ豆の木の植物性紙
【表2】
【0138】
2)コーヒーの木の植物性紙
【表3】
コーヒーの木の植物性紙の破裂強度は、標準紙と同程度であるが、二つの紙の坪量は非常に異なる。
【0139】
3)緑茶の植物性ボール紙
【表4】
【0140】
4)カカオ豆の木の植物性ボール紙
【表5】
【0141】
5)水流交絡用の緑茶繊維を含む植物性マスク
【表6】