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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】アテローム性動脈硬化症の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240319BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240319BHJP
   C07K 16/36 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P9/10 101
C07K16/36
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018552804
(86)(22)【出願日】2017-04-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 AU2017050297
(87)【国際公開番号】W WO2017173494
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-03-26
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】16164009.9
(32)【優先日】2016-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500021413
【氏名又は名称】シーエスエル、リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】コン・パノーシス
(72)【発明者】
【氏名】カールヘインツ・ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ハミッド・ホッセイニ
(72)【発明者】
【氏名】ヨン-チー・チェン
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】冨永 みどり
【審判官】岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/207199(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象においてアテローム性動脈硬化症を治療または防止する、および/または対象においてアテローム性動脈硬化プラーク形成を防止する、および/または対象において易損性アテローム性動脈硬化プラークを安定化する、および/または対象においてアテローム性動脈硬化プラークの破裂を防止するのに使用するための、第XII因子(FXII)のインヒビターを含む医薬組成物であって、FXIIのインヒビターは、抗FXIIa抗体のFvを含むタンパク質である、前記医薬組成物。
【請求項2】
(i)対象においてアテローム性動脈硬化プラーク形成を防止すること、および/または(ii)対象において易損性アテローム性動脈硬化プラークを安定化すること、および/または(iii)対象においてアテローム性動脈硬化プラークの破裂を防止することによって、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療または防止するのに使用するための、第XII因子(FXII)のインヒビターを含む医薬組成物であって、FXIIのインヒビターは、抗FXIIa抗体のFvを含むタンパク質である、前記医薬組成物。
【請求項3】
FXIIのインヒビターは:
(i)FXIIおよび/またはFXIIaに結合する;または
(ii)FXIIおよび/またはFXIIaに結合し、FXIIおよび/またはFXIIaの活性を阻害する、および/またはFXIIの活性化を阻害する、
請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
FXIIのインヒビターは、抗FXIIa抗体またはその抗原結合性断片である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
FXIIa抗体は:
(i)以下を含むVH
(a)配列番号6に記載される配列;もしくは
(b)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;配列番号10に記載される配列を含むCDR2;および配列番号12に記載される配列を含むCDR3;もしくは
(c)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;配列番号9に記載される配列を含むCDR2;および配列番号11に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むVL
(a)配列番号7に記載される配列;もしくは
(b)配列番号13に記載される配列を含むCDR1;配列番号14に記載される配列を含むCDR2;および配列番号16に記載される配列を含むCDR3;もしくは
(c)配列番号13に記載される配列を含むCDR1;配列番号14に記載される配列を含むCDR2;および配列番号15に記載される配列を含むCDR3
を含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
FXIIa抗体は:
(i)配列番号18に記載される配列を含むVHおよび配列番号19に記載される配列を含むVL、または
(ii)配列番号20に記載される配列を含む重鎖および配列番号21に記載される配列を含む軽鎖
を含む、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
FXIIa抗体は、IgG抗体である、請求項4~6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
FXIIのインヒビターは、融合パートナーに連結しており、好ましくは、融合パートナーは、ポリエチレングリコール(PEG)または半減期増強ポリペプチドを含み、好ましくは、半減期増強ポリペプチドは、アルブミン、アファミン、アルファ-フェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、ヒトアルブミン、免疫グロブリンおよびIgGのFcからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
半減期増強ポリペプチドは、リンカーを介してFXIIのインヒビターに連結している、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
FXIIのインヒビターは、リンカーペプチドを介してFXIIのインヒビターに連結されたヒトアルブミンを含む融合タンパク質である、請求項7または9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
FXIIのインヒビターは、対象に静脈内または皮下または髄腔内投与される、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
FXIIのインヒビターは:
(i)単回用量で;または
(ii)複数回の用量で;または
(iii)持続用量として
対象に投与される、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
FXIIのインヒビターは、約0.01~約100mg/kg体重の濃度で対象に投与され、好ましくは、FXIIのインヒビターは、約1~約20mg/kg体重の濃度で対象に投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
対象は、アテローム性動脈硬化症を発生する危険性がある、ならびに/または糖尿病および/もしくは肥満に罹患している、請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
対象におけるアテローム性動脈硬化症の治療または防止に使用するためのキットであって:
(a)請求項1~14のいずれか1項に記載の少なくとも1種の医薬組成物;
(b)対象におけるアテローム性動脈硬化症の治療または防止でキットを使用するための指示書;および
(c)場合により、少なくとも1つのさらなる治療的に活性な化合物または薬物
を含む、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療または防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アテローム性動脈硬化症は先進国における主な健康負荷であり、世界的に死亡および罹患の主因であり、健康管理システムに対する主な経済的負担となる。肥満および真性糖尿病の大流行が、心筋梗塞(MI)および卒中などのアテローム性動脈硬化症関連合併症の数をかなり増加させている。
【0003】
アテローム性動脈硬化症は、動脈壁に特異的な局在型の症状発現を有する慢性の炎症性疾患である。アテローム性動脈硬化症の発生は、自然および/または適応免疫系に属する多くの細胞および因子を含む炎症プロセスによって引き起こされる。
【0004】
アテローム性動脈硬化症の発生における炎症の役割が研究されている。例えば、血中白血球、宿主防衛および炎症の媒介物は、アテローム性動脈硬化症の最も初期の病変に局在化する。炎症マーカーの上昇が、心筋の損傷とは無関係に、急性冠動脈症候群の患者の転帰を予測すること示された。さらに、炎症マーカーのC反応性タンパク質のレベルによって示されるような低度の慢性炎症は、アテローム性動脈硬化性合併症の危険性と相関することが示された。
【0005】
アテローム性動脈硬化病変またはアテローム性動脈硬化プラークは、2つの広範なカテゴリー:安定および不安定(易損性とも呼ばれる)に分けられる。典型的には、無症候性の傾向がある安定なアテローム性動脈硬化プラークは細胞外基質および平滑筋細胞に富むが、不安定なプラークはマクロファージおよび泡沫細胞に富み、通常脆弱であり、破裂する傾向がある。アテローム性動脈硬化プラークの不安定性は、炎症プロセスによって引き起こされる。アテローム性動脈硬化プラークは、警告なしに不安定になり、破裂する可能性があり、その結果、閉塞性動脈血栓を形成する。破裂したプラークは、プラスミノーゲン活性化因子、カテプシンおよびマトリックスメタロプロテイナーゼを含めたタンパク質分解酵素を分泌する、マクロファージなどの炎症細胞、ならびに線維化組織によって、激しく浸潤される。破裂したアテローム性動脈硬化プラークは、心筋梗塞および卒中として臨床的に顕在化する。結果として、多くの患者が突然の心臓死または致死的な卒中を患う。
【0006】
アテローム性動脈硬化病変の最も一般的な治療選択は、脂質低下薬物、例えばスタチン(例えば、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチンおよびフルバスタチン)ならびに血液希釈薬物(例えば、アスピリン、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロル、ワルファリンおよびヘパリンのような抗凝固剤)の投与を含む。しかし、後者の治療剤の継続した使用は、危険な出血の危険性を高める。
【0007】
アテローム性動脈硬化症における凝固因子の役割も研究された。例えば、非特許文献1は、アポリポタンパク質Eおよび第XI因子(FXI)を欠くマウスにおいて、アテローム性動脈硬化症の発生を研究した。この著者らは、FXI欠損マウスでアテローム発生が遅くなることを発見した。しかし、これらの研究は、生まれたときからFXIを欠いた動物に基づいており、アテローム性動脈硬化症の発生後または発生中にこのタンパク質を阻害することの効果を研究しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Schnerbら(Arterioscler Thromb Vasc Biol.、36:475~481、2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、アテローム性動脈硬化症およびその血栓性の合併症に対する向上した治療が当技術分野において必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明をもたらす際に、本発明者らは、アテローム性動脈硬化症、例えば、アテローム性動脈硬化プラーク形成ならびに/またはアテローム性動脈硬化プラークの不安定性および破裂のマウスモデルにおける第XII因子(FXII)の阻害効果を研究した。本発明者らは、FXII阻害の効果を、このタンパク質が多数の生物学的経路に対して効果があり、それらのうちのいくつかがアテローム性動脈硬化症、例えば炎症に関与する可能性があるという本発明者らの理解に基づいて研究した。本発明者らは、FXIIの阻害が、アテローム性動脈硬化症の進行を遅らせるだけでなく、病変における炎症細胞の蓄積の低減、コラーゲン沈着の増大および壊死性コア領域の低減によって証明されたように、アテローム性動脈硬化病変の発生を減弱する、病変サイズを低減する、および不安定なアテローム性動脈硬化プラークを安定化することを発見した。本発明者らは、認められた、すなわちヒトで観察される状況を模倣する、アテローム性動脈硬化症の動物モデルにFXIIのインヒビターを投与することによって、これらの効果を実証した。実験的証拠は、FXIIインヒビターが、アテローム性動脈硬化病変の進行および発生を減弱すること、動脈炎を低減させることならびにプラークを安定化することによって、アテローム性動脈硬化症の治療および/または防止に有用であるという発見を含む。
【0011】
本発明者らによる発見は、FXIIを阻害することによって対象においてアテローム性動脈硬化症を治療または防止するための方法の基礎を提供する。本発明者らによる発見は、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療もしくは防止するための基礎、または対象においてアテローム性動脈硬化症を治療もしくは防止するのに使用するためのFXIIのインヒビターも提供する。
【0012】
言い換えれば、本発明者らは、(i)対象においてアテローム性動脈硬化プラーク形成を防止すること、および/または(ii)対象において易損性アテローム性動脈硬化プラークを安定化すること、および/または(iii)対象においてアテローム性動脈硬化プラークの破裂を防止することによって、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療もしくは防止するための基礎、または対象においてアテローム性動脈硬化症を治療もしくは防止するのに使用するための第XII因子のインヒビターを提供する。
【0013】
例えば、本開示は、FXIIのインヒビターを対象に投与することを含む、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療するための方法を提供する。別の例では、本開示は、FXIIのインヒビターを対象に投与することを含む、対象においてアテローム性動脈硬化症を防止するための方法を提供する。
【0014】
代替例では、本開示は、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療するのに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。別の例では、本開示は、対象においてアテローム性動脈硬化症を防止するのに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。
【0015】
本発明者らは、このインヒビターが対象においてアテローム性動脈硬化病変の進行を小さくすることができることも発見した。したがって、本開示はさらに、対象においてアテローム性動脈硬化症の進行を小さくする方法または対象においてアテローム性動脈硬化症の進行を小さくするのに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。例えば、本開示は、対象におけるアテローム性動脈硬化プラークの破裂の危険性を低減する、もしくは対象におけるアテローム性動脈硬化プラークの破裂を防止する方法、または対象におけるアテローム性動脈硬化プラークの破裂の危険性を低減する、もしくは対象におけるアテローム性動脈硬化プラークの破裂を防止するのに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。一例では、本開示は、不安定なアテローム性動脈硬化プラークの安定化のための方法、または不安定なアテローム性動脈硬化プラークの安定化に使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。一例では、本開示は、アテローム性動脈硬化プラーク形成を防止するための方法、またはアテローム性動脈硬化プラーク形成を防止するのに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。
【0016】
一例では、FXIIのインヒビターは直接的インヒビターである。一例では、FXIIのインヒビターは、FXIIおよび/またはFXIIaに結合する。一例では、FXIIのインヒビターはFXIIおよび/またはFXIIaに結合し、FXIIおよび/またはFXIIaの活性を阻害する。例えば、FXIIのインヒビターはFXIIaに結合し、FXIIaの活性を阻害する。別の例では、FXIIのインヒビターはFXIIに結合し、FXIIの活性化を阻害する。一例では、FXIIおよび/またはFXIIaの活性は少なくとも約50%阻害される。例えば、FXIIおよび/またはFXIIaの活性は約60%、または約70%、または約80%、または約85%、または約90%、または約95%、または約99%、または約100%阻害される。FXIIおよび/またはFXIIaの活性を決定するための方法は当技術分野で公知であり、および/または本明細書に記載される。
【0017】
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターである。例えば、FXIIインヒビターはInfestin-4である。別の例では、FXIIインヒビターはSPINK-1である。さらなる例では、FXIIインヒビターはInfestin-4またはSPINK-1の変異体である。
【0018】
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターではない。例えば、FXIIのインヒビターはInfestin-4ではない。例えば、FXIIのインヒビターはInfestin-4の変異体ではない。一例では、FXIIのインヒビターはSPINK-1ではない。例えば、FXIIのインヒビターはSPINK-1の変異体ではない。
【0019】
一例では、本開示の方法または本開示で使用するためのFXIIのインヒビターはFXIIのインヒビターを投与することを含み、このインヒビターは以下を含む:
(i)野生型Infestin-4ポリペプチド配列(配列番号1)、もしくは:
(a)配列番号1のN末端アミノ酸位置2~13の外側に1~5つのアミノ酸変異を含有するように改変された配列番号1;および/もしくは、
(b)配列番号1に対して少なくとも70%同一であり、配列番号1由来の6つの保存システイン残基を保持する配列
を含むポリペプチド配列;または、
(ii)野生型SPINK-1ポリペプチド配列(配列番号2)、もしくは:
(a)N末端アミノ酸位置2~13を配列番号1のN末端アミノ酸2~13と置き換えるように変異され;場合により、配列番号1の配列に対するポリペプチド配列の相同性を高める1~5つのさらなるアミノ酸変異を含有するようにさらに改変された配列番号2;および/もしくは、
(b)配列番号2に対して少なくとも70%同一であり、配列番号2由来の6つの保存システイン残基を保持する配列
を含むポリペプチド配列;ならびに/または、
(iii)SPINK-1突然変異体K1(配列番号3)、K2(配列番号4)もしくはK3(配列番号5)のうちの1つ。
【0020】
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターInfestin-4の配列を含む。例えば、FXIIのインヒビターは配列番号1に記載される配列を含む。
【0021】
一例では、FXIIのインヒビターは改変Infestin-4を含む。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号1のN末端アミノ酸位置2~13の外側に1~5つのアミノ酸変異を含有するように改変された、配列番号1に記載される配列を含む。
【0022】
別の例では、FXIIのインヒビターは、配列番号1に記載される配列に対して少なくとも70%の同一性を有し、配列番号1由来の6つの保存システイン残基を保持する配列を含む。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号1に対して約75%の同一性、または配列番号1に対して約80%の同一性、または配列番号1に対して約85%の同一性、または配列番号1に対して約90%の同一性、または配列番号1に対して約95%の同一性、または配列番号1に対して約98%の同一性、または配列番号1に対して約99%の同一性を有する。
【0023】
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターSPINK-1の配列を含む。例えば、FXIIのインヒビターは配列番号2に記載される配列を含む。
【0024】
別の例では、FXIIのインヒビターは、N末端アミノ酸位置2~13を配列番号1のN末端アミノ酸2~13と置き換えるように変異され;場合により、配列番号1の配列に対するポリペプチド配列の相同性を高める1~5つのさらなるアミノ酸変異を含有するようにさらに改変された配列番号2に記載される配列を含む。
【0025】
別の例では、FXIIのインヒビターは、配列番号2に記載される配列に対して少なくとも70%の同一性を有し、配列番号2由来の6つの保存システイン残基を保持する配列を含む。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号2に対して約75%の同一性、または配列番号2に対して約80%の同一性、または配列番号2に対して約85%の同一性、または配列番号2に対して約90%の同一性、または配列番号2に対して約95%の同一性、または配列番号2に対して約98%の同一性、または配列番号2に対して約99%の同一性を有する。
【0026】
一例では、FXIIのインヒビターは可変領域断片(Fv)を含むタンパク質である。例えば、タンパク質は以下からなる群から選択される:
(i)単鎖Fv断片(scFv);
(ii)二量体scFv(di-scFv);または
(iii)ダイアボディ;
(iv)トリアボディ;
(v)テトラボディ;
(vi)Fab;
(vii)F(ab’)
(viii)Fv;
(ix)抗体の定常領域、Fcもしくは重鎖定常ドメイン(C)2および/もしくはC3に連結した(i)~(viii)のうちの1つ;または
(x)抗体。
【0027】
一例では、FXIIのインヒビターは抗体である。例えば、抗体は抗FXII抗体である。別の例では、抗体は抗FXIIa抗体である。
【0028】
例示的抗体は全長および/またはネイキッド抗体である。
【0029】
一例では、FXIIのインヒビターは組換え、キメラ、CDR移植、ヒト化、合成ヒト化、霊長類化、脱免疫化またはヒトのタンパク質である。
【0030】
一例では、抗体はIgG抗体である。
【0031】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号6に記載される配列を含む重鎖可変領域(V)を含む。
【0032】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号7に記載される配列を含む軽鎖可変領域(V)を含む。
【0033】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号6に記載される配列を含むVおよび配列番号7に記載される配列を含むVを含む。
【0034】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号6および配列番号7のVおよび/またはVの相補性決定領域(CDR)を含む可変領域を含む。
【0035】
一例では、タンパク質または抗体は、前述のタンパク質または抗体のうちのいずれかをコードする核酸によってコードされたタンパク質または抗体の任意の形態であり、例えば、コードされたC末端リジン残基を欠く変異体、脱アミド化変異体および/またはグリコシル化変異体および/または例えば、タンパク質のN末端にピログルタミン酸を含む変異体および/またはN末端残基を欠く変異体である。
【0036】
一例では、抗FXII抗体は以下を含む:
(i)以下を含むV
(a)配列番号6に記載される配列;もしくは
(b)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;配列番号10に記載される配列を含むCDR2;および配列番号12に記載される配列を含むCDR3;もしくは
(c)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;配列番号9に記載される配列を含むCDR2;および配列番号11に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むVL:
(a)配列番号7に記載される配列;もしくは
(b)配列番号13に記載される配列を含むCDR1;配列番号14に記載される配列を含むCDR2;および配列番号16に記載される配列を含むCDR3;もしくは
(c)配列番号13に記載される配列を含むCDR1;配列番号14に記載される配列を含むCDR2;および配列番号15に記載される配列を含むCDR3。
【0037】
一例では、抗FXII抗体は以下を含む:
(i)以下を含むV
(a)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;
(b)配列番号10に記載される配列を含むCDR2;および
(c)配列番号12に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むV
(a)配列番号13に記載の配列を含むCDR1;
(b)配列番号14に記載の配列を含むCDR2;および
(c)配列番号16に記載の配列を含むCDR3。
【0038】
一例では、抗FXII抗体は以下を含む:
(i)以下を含むV
(a)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;
(b)配列番号9に記載される配列を含むCDR2;および
(c)配列番号11に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むV
(a)配列番号13に記載の配列を含むCDR1;
(b)配列番号14に記載の配列を含むCDR2;および
(c)配列番号15に記載の配列を含むCDR3。
【0039】
一例では、抗FXII抗体は以下を含む:
(i)以下を含むV
(a)配列番号8に記載されるCDR1;
(b)配列番号10に記載されるCDR2(ここで、位置3のXはDであり、位置4のXはIであり、位置5のXはPであり、位置6のXはTであり、位置7のXはKであり、位置8のXはGである);および
(c)配列番号11に記載されるCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むV
(a)配列番号13に記載されるCDR1;
(b)配列番号14に記載されるCDR2;および
(c)配列番号15に記載されるCDR3。
【0040】
例えば、抗FXII抗体は、配列番号18に記載される配列を含むVおよび配列番号19に記載される配列を含むVを含む。
【0041】
一例では、抗FXII抗体はラムダ軽鎖定常領域を含む。
【0042】
一例では、抗FXII抗体はIgG4または安定化IgG4定常領域を含む。例えば、安定化IgG4定常領域は、Kabatのシステム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services、1987および/または1991)に従って、ヒンジ領域の位置241にプロリンを含む。
【0043】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号20に記載される配列を含む重鎖および配列番号21に記載される配列を含む軽鎖を含む。
【0044】
一例では、抗FXII抗体は組成物内に存在する。例えば、組成物は、本明細書に記載の抗体可変領域またはVまたはVまたは抗体を含むタンパク質を含む。一例では、組成物は、タンパク質または抗体の1種またはそれ以上の変異体をさらに含む。例えば、組成物は、コードされたC末端リジン残基を欠く変異体、脱アミド化変異体および/またはグリコシル化変異体および/または例えば、タンパク質のN末端にピログルタミン酸を含む変異体および/またはN末端残基、例えば、抗体もしくはV領域のN末端グルタミンを欠く変異体および/または分泌シグナルのすべてまたは一部を含む変異体を含む。コードされたアスパラギン残基の脱アミド化変異体は、イソアスパラギン酸およびアスパラギン酸アイソフォームを生成することができ、または隣接するアミノ酸残基を含むスクシンアミドさえもたらすことができる。コードされたグルタミン残基の脱アミド化変異体はグルタミン酸をもたらすことができる。特定のアミノ酸配列を参照する場合に、そのような配列および変異体の異種混合物を含む組成物が含まれることが意図される。
【0045】
本明細書に記載の任意の方法または本明細書に記載の使用のためのFXIIのインヒビターの一例では、FXIIのインヒビターは融合パートナーに連結している。例えば、融合パートナーは、ポリエチレングリコール(PEG)または半減期増強ポリペプチドを含む。
【0046】
一例では、FXIIのインヒビターは直接的に融合パートナーに連結している。別の例では、FXIIのインヒビターはリンカーを介して融合パートナーに連結している。例えば、FXIIのインヒビターは直接的に半減期増強ポリペプチドに連結している。別の例では、FXIIのインヒビターはリンカーを介して半減期増強ポリペプチドに連結している。一例では、FXIIのインヒビターは直接的にPEGに連結している。別の例では、FXIIのインヒビターはリンカーを介してPEGに連結している。
【0047】
一例では、リンカーは介在性ペプチドリンカーである。例えば、リンカーは切断可能なリンカーである。
【0048】
一例では、半減期増強ポリペプチドはアルブミン、アファミン、アルファ-フェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、ヒトアルブミン、免疫グロブリンおよびIgGのFcからなる群から選択される。例えば、半減期増強ポリペプチドはアルブミンである。
【0049】
一例では、FXIIのインヒビターは、リンカーペプチドを介してFXIIインヒビターに連結したヒトアルブミンを含む融合タンパク質である。
【0050】
一例では、FXIIのインヒビターは非経口的に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは静脈内または皮下または髄腔内に投与される。一例では、FXIIのインヒビターは皮下に投与される。別の例では、FXIIのインヒビターは静脈内に投与される。
【0051】
本明細書に記載の任意の方法の一例では、FXIIのインヒビターは、1回またはそれ以上の用量で対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは:
(i)単回用量で;または
(ii)複数回の用量で;または
(iii)持続注入もしくは塗布として
対象に投与される。
【0052】
一例では、FXIIのインヒビターは対象に単回用量で投与される。
【0053】
一例では、FXIIのインヒビターは複数回の用量で対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、2回用量または3回用量または4回用量または5回用量またはそれ以上の用量として対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は数時間の期間で隔てられる。例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は、約1時間または約2時間または約3時間または約4時間または約6時間または約8時間または約12時間または約16時間または約20時間または約24時間の期間で隔てられる。
【0054】
例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は数日の期間で隔てられる。例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は、約1日または約2日または約3日または約4日または約5日または約6日または約7日の期間で隔てられる。
【0055】
一例では、FXIIのインヒビターの各用量の投与は、少なくとも14日または少なくとも28日隔てられる。
【0056】
例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は数週間の期間で隔てられる。例えば、FXIIのインヒビターの各用量の投与は、約1週間または約2週間または約3週間または約4週間または約5週間または約6週間の期間で隔てられる。
【0057】
一例では、FXIIのインヒビターの各用量の投与は少なくとも1か月間隔てられる。
【0058】
一例では、FXIIのインヒビターの投与間の時間の長さは投与過程を通して同じである。一例では、FXIIのインヒビターの投与間の時間の長さは投与過程を通して異なる。例えば、FXIIのインヒビターは、所定の用量数に従って、療法の開始時に週1回の頻度で投与され、次いで月1回の頻度で投与される。一例では、FXIIのインヒビターの投与間の時間の長さは変動し得る。
【0059】
一例では、FXIIのインヒビターは持続用量として対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターはある期間にわたって持続注入として対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは約1分~約24時間の期間にわたって投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、約10分~約12時間または約10分~約6時間または約10分~約5時間または約10分~約4時間または約10分~約3時間または約10分~約2時間または約10分~約1時間または約30分の期間にわたって投与される。
【0060】
一例では、FXIIのインヒビターは複数回投与される。例えば、FXIIのインヒビターは1回またはそれ以上投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、アテローム性動脈硬化症が治療されるまたは防止されるまで投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、数日~数か月の期間にわたって投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、約1日または約2日または約3日または約4日または約5日または約6日または約1週間または約2週間または約4週間または約6週間または約2か月にわたって投与される。
【0061】
一例では、FXIIのインヒビターは治療的または予防的に有効な量で投与される。例えば、FXIIのインヒビターは約0.01mg/kg~約1000mg/kgの用量で対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、約0.01mg/kg体重または約0.1mg/kg体重または約1mg/kg体重または約50mg/kg体重または約100mg/kg体重または約200mg/kg体重または約500mg/kg体重または約1000mg/kg体重の用量で投与される。例えば、FXIIのインヒビターは、約0.001mg/kg~約100mg/kg体重または約0.01mg/kg~約100mg/kgまたは約0.01mg/kg~約50mg/kgまたは約0.1mg/kg~約30mg/kgまたは約0.1mg/kg~約10mg/kgまたは約0.1mg/kg~約5mg/kgまたは約0.1mg/kg~約2mg/kgまたは約0.1mg/kg~約1mg/kgの用量で投与される。一例では、FXIIのインヒビターは、約0.01mg/kg~約1000mg/kgまたは約0.1mg/kg~約1000mg/kgまたは約1mg/kg~約1000mg/kgまたは約1mg/kg~約500mg/kgまたは約10mg/kg~約200mg/kgまたは約10mg/kg~約100mg/kgまたは約50mg/kg~約500mg/kgまたは約50mg/kg~約200mg/kgまたは約100mg/kg~約200mg/kgの範囲の用量で投与される。一例では、FXIIのインヒビターは約10mg/kgの用量で投与される。一例では、FXIIのインヒビターは約20mg/kgの用量で投与される。
【0062】
一例では、対象はアテローム性動脈硬化症を有する。一例では、対象はアテローム性動脈硬化症に罹患していると診断されている。一例では、対象はアテローム性動脈硬化症の治療を受けている。一例では、対象はアテローム性動脈硬化症に関連した状態(すなわち、心筋梗塞)の治療を受けている。例えば、対象はスタチンまたはワルファリンまたはβ-遮断薬または抗血小板薬による治療を受けている。
【0063】
一例では、対象は以前に心筋梗塞に罹患している。一例では、対象はスタチン、ワルファリンおよびβ-遮断薬による治療を受けている。
【0064】
本明細書に記載の任意の方法または本明細書に記載の使用のためのFXIIのインヒビターの一例では、対象は、アテローム性動脈硬化症を発生する危険性がある。この関連で、FXIIのインヒビターは防止的もしくは予防的様式で使用され、または一次防止様式で使用されると言うことができる。アテローム性動脈硬化症を発生する危険性がある例示的対象は、糖尿病および/または肥満に罹患している。例えば、糖尿病は2型糖尿病である。
【0065】
アテローム性動脈硬化症に罹患する危険性がある対象のさらなるまたは代替の特徴としては、以下の特徴の1つまたはそれ以上が挙げられる:
・アンギナおよび/または卒中および/または心臓発作に既に罹患している;
・末梢動脈疾患を有する;
・心疾患の家族歴を有する;
・高い血漿低密度リポタンパク質レベルを有する;
・低い血漿高密度リポタンパク質レベルを有する;および/または
・高血圧を有する。
【0066】
一例では、アテローム性動脈硬化症に罹患する危険性がある対象は高い血漿低密度リポタンパク質レベルを有する。例えば、血漿低密度リポタンパク質レベルは少なくとも160mg/dLである。
【0067】
一例では、アテローム性動脈硬化症に罹患する危険性がある対象は低い血漿高密度リポタンパク質レベルを有する。例えば、血漿高密度リポタンパク質レベルは約50mg/dL未満である。
【0068】
一例では、アテローム性動脈硬化症に罹患する危険性がある対象は高血圧を有する。例えば、血圧レベルは少なくとも140/90mmHgである。
【0069】
一例では、対象はさらに55歳以上、例えば、65歳以上、または75歳以上の年齢である。
【0070】
一例では、対象は炎症マーカーのレベルが上昇している。例えば、対象はC反応性タンパク質のレベルが上昇している(例えば、3~5mg/L)。
【0071】
本明細書に記載の任意の方法の一例では、FXIIのインヒビターはアテローム性動脈硬化症の発症の前または後に対象に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは予防的または治療的に投与される。一例では、インヒビターは予防的に対象に投与される。一例では、インヒビターは治療的に対象に投与される。
【0072】
本明細書に記載の任意の方法または本明細書に記載の使用のためのFXIIのインヒビターの一例では、対象のアテローム性動脈硬化症は心筋梗塞または卒中を引き起こし得る。例えば、アテローム性動脈硬化プラークの破裂は破裂部位で閉塞性動脈血栓症を引き起こし得、これは、臨床的に心筋梗塞または卒中を顕在化する。したがって、本開示は、本明細書に記載の方法を実施することによって、閉塞性動脈血栓症および/または心筋梗塞および/または卒中の危険性を低減する方法をさらに提供する。別の例では、本開示は、本明細書に記載の方法を実施することによって、閉塞性動脈血栓症および/または心筋梗塞および/または卒中を防止する方法を提供する。
【0073】
前述のそれぞれを評価する方法は当技術分野で公知であり、および/または本明細書に記載される。
【0074】
一例では、FXIIのインヒビターは、以下の1つまたはそれ以上の効果を有するのに十分な量で投与される:
(i)対象において閉塞性動脈血栓の可能性を低減させる;
(ii)対象においてアテローム性動脈硬化プラークの病変サイズを低減させる;
(iii)対象においてプラークの安定化を増大させる;
(iv)対象においてアテローム性動脈硬化プラークの病変における炎症細胞の蓄積を低減させる;および/または
(v)対象においてアテローム生成促進的細胞集団を低減させる。
【0075】
一例では、FXIIのインヒビターは、アテローム性動脈硬化プラークを安定化するのに十分な量で投与される。例えば、対象のアテローム性動脈硬化プラークの病変における脂質蓄積が低減する。一例では、対象のアテローム性動脈硬化プラークの病変におけるコラーゲン沈着が増大する。一例では、対象のアテローム性動脈硬化プラークの病変における壊死性コア領域が低減する。一例では、対象のアテローム性動脈硬化プラークの病変における平滑筋細胞数が増加する。別の例では、対象のアテローム性動脈硬化プラークの病変における血管細胞接着分子-1(VCAM-1)の発現が低減する。したがって、本開示は、本明細書に記載の方法を実施すること、または本明細書に記載の使用のためのFXIIのインヒビターによって、対象のアテローム性動脈硬化プラークの病変において、脂質蓄積を低減させる、および/もしくはコラーゲン沈着を増大させる、および/もしくは壊死性コア領域を低減させる、および/もしくは平滑筋細胞数を増加させる、および/も
しくは血管細胞接着分子-1の発現を低減させるための方法、またはこれらに使用するためのFXIIのインヒビターを提供する。例えば、低減および/または増大は、FXIIのインヒビターで治療されない対象のアテローム性動脈硬化プラークに対するものである。一例では、低減および/または増大はFXIIのインヒビターによる治療の開始前の対象のアテローム性動脈硬化プラークに対するものである。
【0076】
一例では、FXIIのインヒビターは、対象のアテローム性動脈硬化プラークの病変における炎症細胞の蓄積を低減するのに十分な量で投与される。例えば、対象のアテローム性動脈硬化プラークの病変におけるマクロファージの蓄積が低減する。
【0077】
一例では、FXIIのインヒビターは、アテローム性動脈硬化プラーク中のアテローム生成促進的細胞集団を低減させるのに十分な量で投与される。例えば、プラーク中の循環ナチュラルキラーおよび/またはナチュラルキラーT細胞集団が低減する。
【0078】
本明細書に記載の任意の方法の一例では、FXIIのインヒビターは、アテローム性動脈硬化症の発生の前または後に投与される。一例では、FXIIのインヒビターはアテローム性動脈硬化症の発生の前に投与される。一例では、FXIIのインヒビターはアテローム性動脈硬化症の発生の後に投与される。
【0079】
一例では、FXIIのインヒビターは、アテローム性動脈硬化症の症状の発症の後に投与される。一例では、FXIIのインヒビターは、アテローム性動脈硬化症の症状の1つまたはそれ以上を軽減または低減する用量で投与される。
【0080】
アテローム性動脈硬化症の症状は当業者に明らかであり、例えば、以下が挙げられる:
・労作またはアンギナによる胸痛;
・安静時の胸痛;
・腕、肩、腹部または顎の痛み;
・心停止;
・息切れ;
・全身の体調不良;
・対象の腕もしくは脚の麻痺もしくは脱力;
・発話困難もしくは不明瞭発語;
・一時的視力喪失;
・対象の顔の筋肉の下垂;および/または
・疲労。
【0081】
本明細書に記載の任意の方法または本明細書に記載の使用のためのFXIIのインヒビターの一例では、対象は哺乳動物、例えば、ヒトなどの霊長類である。
【0082】
本明細書に記載の使用のための治療方法またはFXIIのインヒビターは、アテローム性動脈硬化症の影響を低減する、治療するまたは防止するために、さらなる化合物を投与することをさらに含むことができる。
【0083】
本開示は、それらを必要とする対象においてアテローム性動脈硬化症を治療または防止するのに使用するためのFXIIのインヒビターを含む組成物も提供する。
【0084】
本開示は、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療または防止するための医薬の製造におけるFXIIのインヒビターの使用も提供する。
【0085】
本開示は、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療または防止するのに使用するために、指示書とともにパッケージ化された少なくとも1種のFXIIのインヒビターを含むキットも提供する。場合により、キットは治療的に活性な化合物または薬物をさらに含む。
【0086】
本開示は、場合により治療的に活性な化合物または薬物と組み合わせて、アテローム性動脈硬化症に罹患しているまたはアテローム性動脈硬化症に罹患する危険性がある対象にFXIIのインヒビターを投与するために、指示書とともにパッケージ化された少なくとも1種のFXIIのインヒビターを含むキットも提供する。
【0087】
アテローム性動脈硬化症の例示的影響およびFXIIのインヒビターは本明細書に記載され、前の5段落に示された本開示の例に準用すると解釈されるものとする。
【0088】
発明者は、ヒト対象の治療に使用するのに適するFXIIのインヒビター、例えば、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片も産生した。このインヒビターは、すべてではないがほとんどのフレームワーク領域中残基を生殖系列ヒト抗体のものと同じにするように改変され、それによって、免疫原性の可能性を低減する、親和性成熟ヒト抗体である。この抗体はまた、FXIIaを阻害することができ、優れた製造可能特性を有する。したがって、本開示は、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片も提供し、抗FXII抗体は、配列番号18に記載される配列を含むVおよび配列番号19に記載される配列を含むVを含む。
【0089】
一例では、抗FXII抗体はラムダ軽鎖定常領域を含む。
【0090】
一例では、抗FXII抗体はIgG4または安定化IgG4定常領域を含む。例えば、
安定化IgG4定常領域は、Kabatのシステム(Kabatら、Sequences
of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services、1987および/または1991)に従って、ヒンジ領域の位置241にプロリンを含む。
【0091】
一例では、抗FXII抗体は、配列番号20に記載される配列を含む重鎖および配列番号21に記載される配列を含む軽鎖を含む。
【0092】
一例では、本開示は、抗FXII抗体または抗原結合性断片および担体、例えば、医薬的に許容可能な担体を含む組成物を提供する。
【0093】
一例では、組成物は、タンパク質または抗体の1種またはそれ以上の変異体をさらに含む。例えば、組成物は、コードされたC末端リジン残基を欠く変異体、脱アミド化変異体および/またはグリコシル化変異体および/または例えば、タンパク質のN末端にピログルタミン酸を含む変異体および/またはN末端残基、例えば、抗体もしくはV領域のN末端グルタミンを欠く変異体および/または分泌シグナルのすべてまたは一部を含む変異体を含む。コードされたアスパラギン残基の脱アミド化変異体は、イソアスパラギン酸およびアスパラギン酸アイソフォームを生成することができ、または隣接するアミノ酸残基を含むスクシンアミドさえもたらすことができる。コードされたグルタミン残基の脱アミド化変異体はグルタミン酸をもたらすことができる。特定のアミノ酸配列を参照する場合に、そのような配列および変異体の異種混合物を含む組成物が含まれることが意図される。
【0094】
本開示は、医学的使用のための抗FXII抗体またはその抗原結合性断片も提供する。
【0095】
本開示は、対象において障害を治療または防止するための方法も提供し、この方法は、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含み、障害は静脈、動脈または毛細血管の血栓形成、心臓の血栓形成、ヒトまたは動物対象の血液を人工表面と接触させる間および/または後の血栓形成、血栓塞栓症からなる群から選択され、この方法は、血栓の形成および/または安定化を防止し、それによって、3次元の腔内血栓成長を防止することによるか、または腔内血栓;FXII/FXIIa誘導性キニン形成またはFXII/FXIIa媒介性補体活性化と関係がある、間質性肺疾患、炎症、神経学的炎症性疾患、補体活性化、線維素溶解、血管新生および疾患を防止および/または治療することによる。
【0096】
本開示は、ヒトまたは動物対象の腔内血栓の治療方法も提供し、この方法は、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片を対象に投与することを含み、腔内血栓は、静脈、動脈または毛細血管の血栓形成、心臓の血栓形成、ヒトまたは動物対象の血液を人工表面と接触させる間および/または後の血栓形成、血栓塞栓症;FXII/FXIIa誘導性キニン形成またはFXII/FXIIa媒介性補体活性化と関係がある、間質性肺疾患、炎症、神経学的炎症性疾患、補体活性化、線維素溶解、血管新生および疾患からなる群から選択される障害と関係がある。例えば、静脈または動脈の血栓形成は、卒中、心筋梗塞、深部静脈血栓症、門脈血栓症、腎静脈血栓症、頸静脈血栓症、脳静脈洞血栓症、バッド・キアリ症候群またはパジェット・シュレッター病である。
【0097】
一例では、FXII/FXIIa誘導性キニン形成と関係がある疾患は、遺伝性血管性浮腫、肺の細菌感染症、トリパノソーマ感染症、低血圧ショック、膵炎、シャーガス病、関節痛風、関節炎、播種性血管内凝固症候群(DIC)および敗血症の群から選択される。
【0098】
一例では、間質性肺疾患は線維増殖性および/または特発性肺線維症である。
【0099】
一例では、血栓形成は、ヒトまたは動物対象に実施される医療処置の間および/または後に、前記ヒトまたは動物対象の血液を人工表面と接触させる間および/または後に生じ、前記抗体またはその抗原結合性断片は、前記医療処置の前および/または間および/または後に投与され、さらに、
(i)人工表面は対象の血液量の少なくとも80%に曝露され、人工表面は少なくとも0.2mであり、または
(ii)人工表面は対象の体外で血液を採取するための容器であり、または
(iii)人工表面は、ステント、弁、腔内カテーテルまたは血液の体内補助ポンピングシステム(system for internal assisted pumping of blood)である。
【0100】
本開示は、本発明の抗体またはその抗原結合性断片でコーティングされた医療装置も提供し、この装置は心肺バイパス機、血液の酸素化のための体外膜型酸素供給システム、血液の補助ポンピング用装置、血液透析装置、血液の体外濾過用装置、血液の採取に使用するための貯蔵用容器、腔内カテーテル、ステント、人工心臓弁、ならびに/またはチューブ、カニューレ、遠心ポンプ、弁、ポートおよび/もしくはダイバーターを含めた、前記装置のうちのいずれか1つのための付属品である。
【0101】
本開示は、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片を医療処置を受けている患者に投与することを含む方法も提供し、医療処置は、
(a)心臓、
(b)以下から選択される少なくとも1つの血管:大動脈、大動脈弓、頸動脈、冠動脈、腕頭動脈、椎骨脳底循環、頭蓋内動脈、腎動脈、肝動脈、腸間膜動脈および/または心臓に対して頭方の動脈系血管、
(c)患者が既知の中隔欠損を有する場合、静脈血管;
の少なくとも1つとの接触を含み:
医療処置は、少なくとも1つの標的器官において虚血を引き起こし得る、体内の前記血管の少なくとも1つの中の少なくとも1つの塞栓の遊離、ならびに医療処置の前、間および/または後における抗体またはその抗原結合性断片の投与を含む。
【0102】
本開示は、血管透過性の増大、特に網膜の血管透過性の増大に関連する状態、例えば、進行性網膜症、網膜症の視力を脅かす合併症、黄斑浮腫、非増殖性網膜症、増殖性網膜症、網膜浮腫、糖尿病性網膜症、高血圧性網膜症および網膜外傷を治療または防止するための方法も提供し、この方法は、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片を投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0103】
図1】大動脈洞病変(A~E)および大動脈弓病変(F~H)におけるアテローム性動脈硬化症の発生に対する抗FXII抗体治療の効果を示す図である。抗FXII抗体治療は、全病変サイズ(A、F);脂質蓄積(B、G)、マクロファージ数(C、H)、コラーゲンの蓄積(D)および壊死性コア領域(E)を減弱する。平均±SEM;n=6;:対照と比較してP<0.05、対応のないT検定。
図2】抗FXII抗体で治療されたアテローム性動脈硬化病変を有するマウスの血液におけるリンパ球プロファイルのフローサイトメトリー解析を示す図である。平均±SEM;n=6;:対照と比較してP<0.05、対応のないT検定。
図3】抗FXIIで治療されたアテローム性動脈硬化病変を有するマウスのリンパ節におけるリンパ球プロファイルのフローサイトメトリー解析を示す図である。平均±SEM;n=6;:対照と比較してP<0.05、対応のないT検定。
図4】抗FXII治療が局部的炎症を低減し、大動脈洞病変(A、C、E、G)および大動脈弓病変(B、D、F、H)のプラークの安定化をもたらすことを示す図である。VCAM-1の発現(A、B);壊死性コア領域(C、D)、α-平滑筋アクチンの発現(E、F)およびコラーゲンの蓄積(G、H)について、大動脈洞病変を解析した。平均±SEM;n=6;:対照と比較してP<0.05、対応のないT検定。
図5】抗FXII抗体処理がプラークの安定化を達成することを示す図である。記載のタンデム狭窄手術を使用して不安定なアテローム性動脈硬化プラークをセグメントIに生成し(A)、アテローム性動脈硬化プラーク領域(B);脂質量(C);マクロファージの蓄積(D);VCAM-1の発現(E);壊死性コア領域(F);α-平滑筋アクチンの発現(G)およびコラーゲンの蓄積(H)について解析した。平均±SEM、抗FXIIa mAb:n=17、IgGアイソタイプ対照:n=16、:対照と比較してP<0.05、対応のないT検定。
【発明を実施するための形態】
【0104】
配列表の解説
配列番号1は野生型Infestin-4のアミノ酸配列である。
配列番号2は野生型SPINK-1のアミノ酸配列である。
配列番号3はSPINK-1突然変異体K1のアミノ酸配列である。
配列番号4はSPINK-1突然変異体K2のアミノ酸配列である。
配列番号5はSPINK-1突然変異体K3のアミノ酸配列である。
配列番号6は抗FXII抗体3F7のVからのアミノ酸配列である。
配列番号7は抗FXII抗体3F7のVからのアミノ酸配列である。
配列番号8は抗FXII抗体のV CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号9は抗FXII抗体のV CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号10は抗FXII抗体のV CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号11は 抗FXII抗体のV CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号12は抗FXII抗体のV CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号13は抗FXII抗体のV CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号14は抗FXII抗体のV CDR2からのアミノ酸配列である。
配列番号15は抗FXII抗体のV CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号16は抗FXII抗体のV CDR3からのアミノ酸配列である。
配列番号17は抗FXII抗体のV CDR1からのアミノ酸配列である。
配列番号18は抗FXII抗体gVR115のVのアミノ酸配列である。
配列番号19は抗FXII抗体gVR115のVのアミノ酸配列である。
配列番号20は抗FXII抗体gVR115の重鎖のアミノ酸配列である。
配列番号21は抗FXII抗体gVR115の軽鎖のアミノ酸配列である。
配列番号22はヒト第XII因子からのアミノ酸配列である。
配列番号23はヒトアルブミンの成熟型のアミノ酸配列である。
配列番号24はInfestin-4変異体のアミノ酸配列である。
配列番号25はInfestin-4変異体のアミノ酸配列である。
【0105】
一般原則
本明細書全体にわたって、特に記載のない限りまたは文脈上特に必要でない限り、単一工程、物質の組成物、一群の工程または一群の物質の組成物に対する言及は、そうした工程、物質の組成物、一群の工程または一群の物質の組成物の1つおよび複数(すなわち、1つまたはそれ以上)を包含すると解釈されるものとする。
【0106】
本開示が具体的に記載されるもの以外の変形および改変を受けることができることを当業者であれば理解するであろう。本開示がすべてのそのような変形および改変を含むことを理解されたい。本開示は、本明細書で個々にまたはまとめて言及されるまたは示される工程、特色、組成物および化合物のすべて、ならびに前記工程または特色のありとあらゆる組み合わせまたは任意の2つまたはそれ以上も含む。
【0107】
本開示は、本明細書に記載の特定例によって範囲が制限されるものではなく、特定例は、例示の目的のみを意図する。機能的に等価な生成物、組成物および方法は明らかに本開示の範囲内である。
【0108】
本明細書における本開示のいかなる例も、特に記載のない限り、本開示の任意の他の例に準用すると解釈されるものとする。
【0109】
特に他に定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術用語および科学用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、免疫学、免疫組織化学、タンパク質化学および生化学において)当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有すると解釈されるものとする。
【0110】
別段指示がない限り、本開示で利用される組換えタンパク質、細胞培養および免疫学的技法は標準的な手順であり、当業者に周知である。そのような技法は、J.Perbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、T.A.Brown(編)、Essential Molecular Biology:A Practical Approach、1および2巻、IRL Press(1991)、D.M.GloverおよびB.D.Hames(編)、DNA Cloning:A Practical Approach、1~4巻、IRL Press(1995および1996)ならびにF.M.Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までのすべての更新を含む)、Ed HarlowおよびDavid Lane(編)Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory(1988)ならびにJ.E.Coliganら(編)Current Protocols in Immunology、John Wiley&Sons(現在までのすべての更新を含む)などの出典の文献の全体にわたって記載および説明されている。
【0111】
本明細書における可変領域およびその一部、免疫グロブリン、抗体およびその断片の説明および定義は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest、National Institutes of Health、Bethesda、Md.、1987および1991、Borkら、J Mol.Biol.242、309~320、1994、ChothiaおよびLesk J.Mol Biol.196:901~917、1987、Chothiaら、Nature 342、877~883、1989、ならびに/またはAl-Lazikaniら、J Mol Biol 273、927~948、1997における議論によってさらに明らかになり得る。
【0112】
本明細書におけるタンパク質または抗体のいかなる議論も、製造および/または貯蔵の間に産生される、タンパク質または抗体の任意の変異体を含むと理解される。例えば、製造または貯蔵の間に、抗体は(例えば、アスパラギンまたはグルタミン残基において)脱アミド化される、および/またはグリコシル化の変化がある、および/またはピログルタミンに変換したグルタミン残基を有する、および/または除去されたもしくは「切り取られた(clipped)」N末端もしくはC末端残基を有する、および/または不完全にプロセッシングされた(結果として、抗体の末端に残る)シグナル配列の一部もしくはすべてを有する可能性がある。特定のアミノ酸配列を含む組成物は、記載されたもしくはコードされた配列および/または記載されたまたはコードされた配列の変異体の異種混合物でもよいことが理解されよう。
【0113】
用語「および/または」、例えば、「Xおよび/またはY」は、「XおよびY」か「XまたはY」のいずれかを意味すると理解されるものであり、両方の意味またはいずれかの意味に対する明確な支持を与えると解釈されるものとする。
【0114】
本明細書全体にわたって、単語「含む(comprise)」または「含む(comprises)」もしくは「含むこと」などの変形形態は、記載されるエレメント、要素(integer)もしくは工程または一群のエレメント、要素または工程の包含を意味するが、任意の他のエレメント、要素もしくは工程または一群のエレメント、要素または工程の排除を意味しないと理解される。
【0115】
本明細書で使用する場合、用語「に由来する」は、指定の要素を特定の供給源から得ることができる(必ずしも直接その供給源からとは限らない)ことを示すと解釈されるものとする。
【0116】
選択された定義
ハーゲマン因子またはFXIIとしても知られる凝固第XII因子は血漿タンパク質である。これは、セリンプロテアーゼ(またはセリンエンドペプチダーゼ)クラスの酵素である第XIIa因子の酵素前駆体形態である。ヒトでは、第XII因子はF12遺伝子によってコードされる。限定目的ではなく命名の目的のみのために、ヒト第XII因子の例示的配列は、NCBI参照配列:NP_000496.2;NCPIタンパク質受託番号NP_000496および配列番号22に記載されている。第XII因子のさらなる配列を本明細書および/もしくは公的に利用可能なデータベースに提供される配列を使用して決定することができ、ならびに/または(例えば、Ausubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience(1988、現在までのすべての更新を含む)またはSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)に記載されているような)標準的な技法を使用して決定することができる。
【0117】
本明細書で使用する場合、用語「第XII因子インヒビター」または「FXIIインヒビター」または「FXIIのインヒビター」は、第XII因子(活性化より前、すなわち、その酵素前駆体)と活性化第XII因子(FXIIa)のいずれかまたは両方およびFXIIの活性化のインヒビターを指す。したがって、「FXIIのインヒビター」は、FXIIとFXIIa(αFXIIaとも称される)のいずれかまたは両方ならびにFXIIa切断生成物のFXIIaアルファおよびFXIIaベータ(FXIIfとも称される)を含めたFXIIの活性化のインヒビターを含むことができる。FXIIインヒビターは、野生型インヒビターの機能的な変異体および断片を包含する。機能的な変異体または断片は、野生型分子がFXII、FXIIaまたはFXIIの活性化を阻害する能力の少なくとも50%(例えば、約50%、または約60%、または約70%、または約80%、または約90%、または約95%、または約99%、または約100%)を保持する分子である。一例では、FXIIインヒビターは非内在性インヒビターであり;すなわち、これは、ヒトまたは動物の体内に天然に存在するインヒビターではない。
【0118】
本明細書で使用する場合、用語「直接的FXIIインヒビター」または「直接的インヒビター」は、FXII(またはFXIIa)との接触(例えば、結合)を介して作用するインヒビターを指し、すなわち、FXIIインヒビターは、FXIIおよび/またはFXIIaに結合し、その活性および/または活性化を阻害する。これに対して、間接的インヒビターは、FXII(またはFXIIa)タンパク質と接触することなしに作用することができる。例えば、アンチセンスRNAは、FXII遺伝子の発現を低下させるのに使用することができ、または小分子は、第XI因子のような下流のFXIIa反応パートナーとの相互作用を介して、FXIIaの効果を阻害することができ;これらは、FXIIタンパク質と直接的に相互作用しない。したがって、間接的インヒビターは、直接的インヒビターとは対照的に、FXIIタンパク質の上流または下流で作用する。一例では、FXIIインヒビターはFXIIまたはFXIIaに特異的であり、特にヒトFXIIまたはFXIIaに特異的である。
【0119】
本明細書で使用する場合、用語「結合する」は、タンパク質またはその抗原結合部位と抗原との相互作用に関連して、相互作用が抗原の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存していることを意味する。例えば、抗体は、一般に、タンパク質ではなく、特定のタンパク質構造を認識し、それに結合する。抗体がエピトープ「A」に結合する場合、標識された「A」およびタンパク質を含有する反応において、エピトープ「A」を含有する分子(または遊離した非標識の「A」)の存在は、抗体に結合している標識された「A」の量を低減する。
【0120】
本明細書で使用する場合、用語「特異的に結合する(specifically binds)」または「特異的に結合する(binds specifically)」は、タンパク質またはその抗原結合部位が、別の抗原または細胞と比べて、より頻度に、より迅速に、より長い持続時間で、および/またはより大きな親和性で、特定の抗原またはそれを発現する細胞と反応または結合することを意味すると解釈されるものとする。例えば、タンパク質またはその抗原結合部位は、これが、多反応性自然抗体(すなわち、ヒトで天然に見られる様々な抗原に結合することが知られている天然に存在する抗体)によって一般に認識される他の血液凝固因子または抗原に結合するよりも、実質的に大きな親和性(例えば、1.5倍または2倍または5倍または10倍または20倍または40倍または60倍または80倍~100倍または150倍または200倍)で、FXII(またはFXIIa)に結合する。一般に、必ずしもそうとは限らないが、結合への言及は特異的結合を意味し、各用語は他の用語に対する明示的な支持を提供することを理解されたい。
【0121】
用語「アミド分解活性」は、FXIIのインヒビターが別のポリペプチド中の少なくとも1つのペプチド結合の加水分解を触媒する能力を指す。
【0122】
本明細書で使用する場合、用語「同一性」または「同一の」は、同一の、または保存的置換を構成するアミノ酸のパーセンテージ数を指す。相同性は、参照によって本明細書に組み入れる、GAP(Deverauxら、1984、Nucleic Acids Research 12、387~395)などの配列比較プログラムを使用して、決定することができる。このような方法で、アライメント中にギャップを挿入することによって、本明細書で引用されるものと同様のまたは実質的に異なる長さの配列を比較することができ、そのようなギャップは、例えば、GAPが使用する比較アルゴリズムによって、決定される。
【0123】
「半減期増強ポリペプチド」または「HLEP」は、患者においてまたは動物においてFXIIインヒビターの半減期をin vivoで増大させることができる、ポリペプチド融合パートナーである。例としては、アルブミンならびに免疫グロブリンおよびFcドメインなどのその断片、またはその誘導体が挙げられ、これらは、直接的にまたは切断可能なもしくは切断不可能なリンカーを介してFXIIインヒビターに融合することができる。Ballanceら(WO2001/79271)は、ヒト血清アルブミンに融合した数多くの異なる治療的ポリペプチドを含む融合ポリペプチドを記載した。
【0124】
本明細書で使用する場合、用語「アルブミン」および「血清アルブミン」は、ヒトアルブミン(HA)およびその変異体を包含する。限定目的ではなく命名の目的のみのために、完全成熟型のアルブミンの例示的配列が配列番号23に記載され、ならびに他の種由来のアルブミンおよびそれらの変異体も記載される。本明細書で使用する場合、「アルブミン」は、アルブミンのポリペプチドもしくはアミノ酸配列またはアルブミンの1つもしくはそれ以上の機能活性(例えば、生物活性)を有するアルブミン変異体を指す。ある種の例では、アルブミンは、FXIIインヒビターの治療活性を安定化するまたは延ばすために使用される。アルブミンは、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジまたはブタに由来し得る。非哺乳類のアルブミンも使用することができ、限定はされないが、ニワトリおよびサケ由来のアルブミンが挙げられる。アルブミン結合型ポリペプチドのアルブミン部分は治療的ポリペプチド部分と異なる動物由来でもよい。アルブミン融合タンパク質の例については、参照によりその全体を本明細書に組み入れるWO2008/098720を参照されたい。
【0125】
用語「組換え体」は、人工の遺伝子組換えの生成物を意味すると理解されたい。したがって、抗体可変領域を含む組換えタンパク質の文脈において、この用語は、B細胞の成熟中に生じる天然の組換えの生成物である、対象の体内に天然に存在する抗体を包含しない。しかし、そのような抗体が単離される場合、これは、抗体可変領域を含む単離タンパク質であるとみなされるべきである。同様に、タンパク質をコードする核酸が単離され、組換え手段を使用して発現される場合、得られるタンパク質は組換えタンパク質である。組換えタンパク質は、例えばそれが発現される細胞、組織または対象内にある場合、人工の組換え手段によって発現されるタンパク質も包含する。
【0126】
用語「タンパク質」は、単一のポリペプチド鎖、すなわち、ペプチド結合で連結された一連の連続的なアミノ酸または共有結合的もしくは非共有結合的に互いに連結された一連のポリペプチド鎖(すなわち、ポリペプチド複合体)を含むと解釈されるものとする。例えば、一連のポリペプチド鎖は、適切な化学結合またはジスルフィド結合を使用して共有結合させることができる。非共有結合の例としては、水素結合、イオン結合、ファンデルワールス力および疎水性相互作用が挙げられる。
【0127】
用語「ポリペプチド」または「ポリペプチド鎖」は、前述の段落から、ペプチド結合で連結された一連の連続的なアミノ酸を意味すると理解される。
【0128】
「抗体」は、一般に、複数のポリペプチド鎖、例えば、軽鎖可変領域(V)を含むポリペプチドおよび重鎖可変領域(V)を含むポリペプチドで構成されている可変領域を含むタンパク質であるとみなされることを当業者であれば認識しているであろう。抗体は一般に定常ドメインも含み、そのうちのいくつかは、重鎖の場合には、定常断片または結晶性断片(Fc)を含む定常領域中に配置される可能性がある。VおよびVは相互作用して、1つまたは少数の密接に関連する抗原に特異的に結合することができる抗原結合領域を含むFvを形成する。一般に、哺乳動物の軽鎖はκ軽鎖またはλ軽鎖のいずれかであり、哺乳動物の重鎖はα、δ、ε、γまたはμである。抗体は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgAおよびIgA)またはサブクラスのものでもよい。用語「抗体」は、ヒト化抗体、霊長類化抗体、ヒト抗体、合成ヒト化抗体およびキメラ抗体も包含する。
【0129】
「抗FXII抗体」は、FXIIの酵素前駆体ならびにFXIIaアルファおよびFXIIaベータ切断断片を含めた活性化タンパク質(FXIIa)のいずれかもしくは両方に結合するおよび/またはこれらを阻害する抗体を含む。いくつかの例では、抗体は、FXIIaまたはFXIIaのアルファもしくはベータ鎖断片に特異的に結合する。
【0130】
用語「全長抗体」、「インタクト抗体」または「全抗体」は互換的に使用されて、抗体の抗原結合性断片とは対照的に、その実質的にインタクトな形態の抗体を指す。特に、全抗体は、Fc領域を含む重鎖および軽鎖を有するものを含む。定常ドメインは野生型配列定常ドメイン(例えば、ヒト野生型配列定常ドメイン)でもよいし、またはそれらのアミノ酸配列変異体でもよい。
【0131】
本明細書で使用する場合、「可変領域」は、抗原に特異的に結合することができ、相補性決定領域(CDR);すなわち、CDR1、CDR2およびCDR3ならびにフレームワーク領域(FR)のアミノ酸配列を含む、本明細書で定義されるような抗体の軽鎖および/または重鎖の一部を指す。例示的可変領域は、3つまたは4つのFR(例えば、FR1、FR2、FR3および場合によりFR4)を3つのCDRとともに含む。IgNARに由来するタンパク質の場合には、タンパク質はCDR2を欠いていてもよい。Vは重鎖の可変領域を指す。Vは軽鎖の可変領域を指す。
【0132】
本明細書で使用する場合、用語「相補性決定領域」(同義語はCDR;すなわち、CDRl、CDR2およびCDR3)は、その存在が抗原結合に必要である、抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。各可変ドメインは、典型的には、CDR1、CDR2およびCDR3として特定された3つのCDR領域を有する。CDRおよびFRに割り当てられるアミノ酸位置は、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest、National Institutes of Health、Bethesda,Md.、1987および1991、または本開示の実施における他の番号付けシステム、例えば、ChothiaおよびLesk J.Mol Biol.196:901~917、1987;Chothiaら、Nature 342、877~883、1989;ならびに/もしくはAl-Lazikaniら、J Mol Biol 273:927~948、1997の標準的番号付けシステム;Lefrancら、Devel.And Compar.Immunol.、27:55~77、2003のIMGT番号付けシステム;もしくはHonnegherおよびPlukthun J.Mol.Biol.、309:657~670、2001のAHO番号付けシステムに従って定義することができる。
【0133】
「フレームワーク領域」(FR)はCDR残基以外のそれらの可変ドメイン残基である。
【0134】
本明細書で使用する場合、用語「可変領域断片」または「Fv」は、複数のポリペプチドから構成されるか、単一のポリペプチドから構成されるかに関わらず、VおよびVを含み、VおよびVが結合して、抗原結合部位を有する、すなわち、抗原に特異的に結合することができる複合体を形成する、任意のタンパク質を意味すると解釈されるものとする。抗原結合部位を形成するVおよびVは、単一のポリペプチド鎖中または異なるポリペプチド鎖中に存在することができる。さらに、本開示のFv(および本開示の任意のタンパク質)は、同じ抗原に結合してもよいし結合しなくてもよい、複数の抗原結合部位を有し得る。この用語は、抗体に直接由来する断片および組換え手段を使用して産生される、そのような断片に対応するタンパク質を包含すると理解されたい。いくつかの例では、Vは重鎖定常ドメイン(C)1に連結しておらず、および/またはVは軽鎖定常ドメイン(C)に連結していない。例示的Fv含有ポリペプチドまたはタンパク質としては、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、scFv、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディもしくは高次複合体、または定常領域もしくはそのドメイン、例えばC2またはC3ドメインに連結した前述のうちのいずれか、例えば、ミニボディまたは抗体が挙げられる。「Fab断片」は、抗体の一価抗原結合性断片からなり、酵素パパインで全抗体を消化してインタクトな軽鎖および重鎖の一部からなる断片をもたらすことによって産生することができ、または組換え手段を使用して産生することができる。抗体の「Fab’断片」は、全抗体をペプシンで処理し、続いて還元して、インタクトな軽鎖ならびにVおよび単一の定常ドメインを含む重鎖の部分からなる分子をもたらすことによって、得ることができる。このように処理した抗体あたり2つのFab’断片が得られる。Fab’断片は、組換え手段によって産生することもできる。抗体の「F(ab’)2断片」は、2つのジスルフィド結合によって互いに結合している2つのFab’断片の二量体からなり、全抗体分子を酵素ペプシンで処理し、その後の還元を行わないことによって得られる。「Fab」断片は、例えばロイシンジッパーまたはC3ドメインを使用して連結された2つのFab断片を含む組換え断片である。「単鎖Fv」または「scFv」は、抗体のFvを含有する組換え分子であり、軽鎖の可変領域と重鎖の可変領域は適切な可動性ポリペプチドリンカーで共有結合している。前述の議論から明らかなように、この用語は、抗体またはVおよびVを含むその抗原結合性断片を包含する。
【0135】
本明細書で使用する場合、用語「防止すること」、「防止する」または「防止」は、本開示の化合物を投与して、それによって、状態の少なくとも1つの症状の発生を止めるまたは妨げることを含む。
【0136】
本明細書で使用する場合、用語「治療すること」、「治療する」または「治療」は、本明細書に記載のタンパク質を投与して、それによって、特定の疾患または状態の少なくとも1つの症状を低減もしくは除去すること、または疾患または状態の進行を遅らせることを含む。
【0137】
本明細書で使用する場合、用語「対象」は、ヒトを含めた任意の動物、例えば哺乳動物を意味すると解釈されるものとする。例示的対象としては、限定されないが、ヒトおよび非ヒト霊長類が挙げられる。例えば、対象はヒトである。
【0138】
アテローム性動脈硬化病変の治療または防止
本明細書における本開示は、例えば、第XII因子のインヒビターを対象に投与することを含む、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療または防止するための方法を提供する。
【0139】
本開示は、第XII因子のインヒビターを対象に投与することを含む、対象においてアテローム性動脈硬化プラークの破裂を防止するための方法も提供する。
【0140】
一例では、対象はアテローム性動脈硬化症またはアテローム性動脈硬化病変に罹患している。アテローム性動脈硬化病変は、安定でもよいし、不安定でもよい。一例では、アテローム性動脈硬化病変は不安定である。例えば、アテローム性動脈硬化症に罹患している対象は、以下のような、アテローム性動脈硬化症の臨床的に許容される症状に罹患していた:
・労作もしくはアンギナによる胸痛;
・安静時の胸痛;
・腕、肩、腹部もしくは顎の痛み;
・心停止;
・息切れ;
・全身の体調不良;
・対象の腕もしくは脚の麻痺もしくは脱力;
・発話困難もしくは不明瞭発語;
・一時的視力喪失;
・対象の顔の筋肉の下垂、および/または
・疲労。
【0141】
一例では、対象はアテローム性動脈硬化症に関連する状態に罹患していたか、罹患する。例えば、対象は心筋梗塞に罹患していた。一例では、対象は卒中に罹患していた。
【0142】
本開示の方法は、動脈系のアテローム性動脈硬化症の任意の形態に容易に適用することができる。例えば、対象は、心臓または脳または脚または骨盤または腕または腎臓のアテローム性動脈硬化症の徴候および/または症状を示し得る。したがって、本開示の方法は、動脈系のアテローム性動脈硬化症を治療または防止するのに適用するために講じられると予想される。
【0143】
一例では、対象は、アテローム性動脈硬化症またはアテローム性動脈硬化病変を発生する危険性があるが、アテローム性動脈硬化症の発症はまだ起こっていない。対象は、対象が対照集団よりもアテローム性動脈硬化症を発生する危険性がより高い場合、危険性がある。対照集団は、アンギナ、卒中および/または心臓発作に罹患したことがない、またはこれらの家族歴を有する、(例えば、年齢、性別、人種および/または民族性がマッチする)一般集団から無作為に選択される1またはそれ以上の対象を含むことができる。対象を、アテローム性動脈硬化症に関連する「危険因子」がその対象に関連することが見出される場合、アテローム性動脈硬化症の危険性があるとみなすことができる。危険因子としては、例えば、対象の集団に対する統計学的または疫学的研究によって所与の障害に関連する、任意の活性、形質、事象または特性を挙げることができる。したがって、たとえ根底にある危険因子を特定する研究が対象を特に含んでいなかったとしても、アテローム性動脈硬化症の危険性があると対象を分類することができる。例えば、高い血漿低密度リポタンパク質レベルを有する対象は、アテローム性動脈硬化症を発生する危険性があり、これは、アテローム性動脈硬化症の頻度が、高い血漿低密度リポタンパク質レベルを有する対象の集団において、そうでない対象の集団と比べて増大するからである。
【0144】
一例では、アテローム性動脈硬化症の危険性がある対象としては、高コレステロール血症、糖尿病、肥満および/または高血圧の患者が挙げられる。特に高い危険性がある対象は、アンギナおよび/または卒中および/または心臓発作に既に罹患しているものである。
【0145】
上記で論じたように、本開示の方法は以下の1つまたはそれ以上の効果を達成する:
・対象において閉塞性動脈血栓の可能性を低減させる;
・対象においてアテローム性動脈硬化プラークの病変サイズを低減させる;
・対象においてプラークの安定化を増大させる;
・対象においてアテローム性動脈硬化プラークの病変における炎症細胞の蓄積を低減させる;および/または
・対象においてアテローム生成促進的細胞集団を低減させる。
【0146】
プラークの病変サイズを評価する方法は当技術分野で公知であり、例えば、血管造影解析、血管内超音波または光干渉断層撮影(OCT)が挙げられる。
【0147】
プラークの安定化を評価する方法は当技術分野で公知であり、例えば、血管内超音波解析または頸動脈のMRIが挙げられる。
【0148】
一例では、本開示の方法は、当技術分野で公知のまたは本明細書に記載のアテローム性動脈硬化症の任意の症状を低減する。
【0149】
当業者に明らかであるように、対象におけるアテローム性動脈硬化症の症状または影響の「低減」は、アテローム性動脈硬化症に同様に罹患しているが、本明細書に記載の方法による治療を受けていない別の対象、または治療前の対象に対する比較に基づく。これは、2つの対象の並列比較を必ずしも必要とするとは限らない。むしろ、集団データを信頼することができる。例えば、本明細書に記載の方法による治療を受けていない、アテローム性動脈硬化症に罹患する対象の集団(場合により、治療される対象と、例えば、年齢、体重、糖尿病状態、コレステロールレベルが同様の対象の集団)が評価され、平均値が本明細書に記載の方法で治療される対象または対象の集団の結果と比較される。
【0150】
第XII因子のインヒビター
一例では、FXIIのインヒビターは直接的FXIIインヒビター、例えば特異的FXIIインヒビターである。例えば、特異的FXIIインヒビターは、1:1のモル比で使用される場合、FXIIおよび/またはFXIIa以外の血漿セリンプロテアーゼまたは他の内在性タンパク質を約25%以下阻害する。例えば、FXIIの特異的インヒビター/FXIIaインヒビターは、前記インヒビターが、それぞれの血漿セリンプロテアーゼ対前記インヒビターについて1:1のモル比で使用される場合、FXIIおよび/またはFXIIa以外の血漿セリンプロテアーゼを約25%以下阻害する。一例では、FXIIインヒビターは、1:1のモル比で使用される場合、FXIIおよび/またはFXIIa以外の血漿セリンプロテアーゼを約20%以下または約15%以下または約10%以下または約5%以下または約1%以下阻害する。例えば、特異的FXII抗体は、血漿セリンプロテアーゼFXIaを約5%阻害し、ここで、前記抗体に対するFXIaのモル比は1:1であり、一方で、同FXII抗体はFXIIaを少なくとも約80%、または少なくともFXIIaを約90%阻害する。
【0151】
一例では、それぞれの血漿セリンプロテアーゼ対インヒビターについて1:1のモル比で使用される場合、他の1つの血漿セリンプロテアーゼが約50%より多く阻害される。
【0152】
本開示の別の例では、それぞれの血漿セリンプロテアーゼ対インヒビターについて1:1のモル比で使用される場合、他の2つの血漿セリンプロテアーゼが約50%より多く阻害される。
【0153】
セリンプロテアーゼインヒビター
一例では、FXIIのインヒビターはセリンプロテアーゼインヒビターである。例えば、FXIIのインヒビターは、Infestin-4またはその変異体に対応する配列を含む。一例では、FXIIのインヒビターは、SPINK-1またはその変異体に対応する配列を含む。
【0154】
Infestin-4
一例では、本開示は、infestinドメイン4(「Infestin-4」と称される)を含むFXIIのインヒビターを提供する。Infestinは、シャーガス病を引き起こすことが知られている寄生体トリパノソーマ・クルージの主な媒介体である吸血性昆虫ブラジルサシガメの中腸に由来するセリンプロテアーゼインヒビターのクラスである(Campos ITNら、32 Insect Biochem.Mol.Bio.991~997、2002;Campos ITNら、577 FEBS Lett.512~516、2004;WO2008/098720)。この昆虫は、これらのインヒビターを使用して、摂取した血液の凝固を防ぐ。infestin遺伝子は、凝固経路の異なる因子を阻害することができるタンパク質をもたらす4つのドメインをコードする。特に、ドメイン4は、FXIIaの強いインヒビターであるタンパク質(Infestin-4)をコードする。Infestin-4は、出血合併症をもたらすことなくマウスに投与された(WO2008/098720;Hagedornら、Circulation 2010;121:1510~17)。
【0155】
一実施形態では、FXIIのインヒビターはInfestin-4を含む。本明細書で使用する場合、用語「Infestin-4」は、FXIIを阻害する能力を保持する、野生型ペプチドの変異体または断片を包含する。限定目的ではなく命名の目的のみのために、Infestin-4の例示的配列を配列番号1に示す。
【0156】
一例では、Infestin-4はFXIIaを阻害するその能力のために選択される。一例では、Infestin-4はInfestin-4の変異体を含み、変異体はInfestinドメイン4、場合により、Infestinドメイン1、2および/または3を含む。一例では、Infestin-4は(His)-タグが付けられたInfestin-4構築物である。
【0157】
別の例では、Infestin-4は、infestin-4に連結または結合した半減期増強ポリペプチド(例えば、アルブミン、IgGのFcドメインまたはPEG)などの融合パートナーを含む融合タンパク質である。一例では、リンカーが融合パートナーをInfestin-4に接続する。様々な実施形態では、Infestin-4はHagedornら、Circulation 2010;117:1153~60に記載されているrHA-Infestin-4タンパク質である。一例では、組成物は、Hagedornら、Circulation 2010;117:1153~60に記載されているrHA-Infestin-4タンパク質に可動性リンカーによって結合しているアルブミンを含む。別の例では、他のFXIIのInfestin-4インヒビターが使用され、その例は、WO2008/098720およびHagedornら、Circulation 2010;117:1153~60に記載されており、これらの両方は、その全体を参照によって組み入れる。
【0158】
一例では、FXIIのインヒビターはInfestin-4の変異体である。本明細書で使用する場合、Infestin-4の「変異体」という用語は、1つまたはそれ以上のアミノ酸変異を有するポリペプチドを指し、「変異」は、野生型Infestin-4配列(配列番号1)に対する置換、欠失または付加と定義される。Infestin-4の「変異体」という用語は、野生型の機能的断片または変異されたInfestin-4配列も含む。
【0159】
一例では、野生型Infestin-4配列に対する1つまたはそれ以上の変異は、FXIIを阻害するためのポリペプチドの機能的能力を実質的に変えない。例えば、1つまたはそれ以上の変異は、FXIIを阻害するためのポリペプチドの能力を完全にまたは実質的に除去しない。例えば、変異体は、野生型Infestin-4の阻害能力の少なくとも約20%、または約30%、または約40%、または約50%、または約60%、または約70%、または約80%、または約90%、または約95%、または約98%、または約99%またはそれ以上を保持する。
【0160】
一例では、FXIIのインヒビターは、配列番号1に記載の野生型Infestin-4配列のアミノ末端からの残基2~13を含むInfestin-4変異体を含む。例えば、Infestin-4変異体は配列番号24に記載されるアミノ酸配列を含む。
【0161】
一例では、FXIIのインヒビターは、配列番号1の残基2~13を含み、配列番号1の残基2~13の外側に、野生型Infestin-4配列(配列番号1)と比べて少なくとも1つのアミノ酸変異も含むInfestin-4変異体を含む。例えば、Infestin-4変異体は、少なくとも2つのアミノ酸変異または少なくとも3つのアミノ酸変異または少なくとも4つのアミノ酸変異または少なくとも5つのアミノ酸変異を含む。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号1のN末端アミノ酸位置2~13の外側に1~5つのアミノ酸変異を含有するように改変された配列番号1を含むポリペプチド配列を含む。
【0162】
一例では、FXIIのインヒビターは、野生型Infestin-4配列由来の6つの保存システイン残基を保持するInfestin-4変異体である。一例では、6つの保存システイン残基は、野生型Infestin-4配列(配列番号1)の位置6、8、16、27、31および48のアミノ酸である。一例では、Infestin-4変異体は、位置48に最終的な保存システインを含む。別の例では、システイン残基の正確な位置および互いの相対位置は、Infestin-4変異体配列における挿入または欠失が原因で、野生型Infestin-4配列の位置6、8、16、27、31および48から変化し得る。
【0163】
一例では、Infestin-4変異体は野生型Infestin-4配列に対して少なくとも約70%同一である。例えば、Infestin-4は、野生型Infestin-4配列に対して少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の同一性を有する。例えば、FXIIのインヒビターは、配列番号1に対して少なくとも70%同一であり、配列番号1由来の6つの保存システイン残基を保持する配列を含むポリペプチド配列を含む。
【0164】
一例では、FXIIのインヒビターはInfestin-4変異体であり、野生型Infestin-4配列由来の6つの保存システイン残基を保持し、および/または野生型Infestin-4配列に対して少なくとも約70%同一の配列を有する。
【0165】
一例では、FXIIのインヒビターは配列番号1のN末端アミノ酸位置2~13の外側に1~5つのアミノ酸変異を含有するように改変された配列番号1;および配列番号1に対して少なくとも70%同一であり、配列番号1由来の6つの保存システイン残基を保持する配列を含むInfestin-4変異体である。
【0166】
一例では、Infestin-4変異体は、野生型Infestin-4配列の保存されたN末端領域アミノ酸2~13を、および野生型Infestin-4配列との違いをもたらす、これらの保存されたN末端アミノ酸の外側の少なくとも1つの、場合により5つまでのアミノ酸変異を含む。本明細書で使用する場合、Infestin変異体の「N末端アミノ酸の外側」という用語は、配列番号1由来のアミノ酸2~13である配列番号24の配列を含むアミノ酸の連続的なストレッチ以外の、変異体のポリペプチド鎖に沿った任意のアミノ酸を指す。
【0167】
一例では、Infestin-4変異体は、配列番号1由来の6つのすべての保存システイン残基および/または野生型Infestin-4配列(配列番号1)に対して少なくとも約70%同一である配列を含む。例えば、Infestin-4変異体は、野生型Infestin-4配列(配列番号1)に対して約70%、または約75%、または約85%、または約90%、または約91%、または約92%、または約93%、または約94%、または約95%、または約96%、または約97%、または約98%、または約99%の同一性を有する配列を含むことができる。
【0168】
一例では、Infestin-4変異体は、配列番号1由来のアミノ酸2~13および6つのすべての保存システイン残基を保持し、野生型Infestin-4配列(配列番号1)に対して少なくとも約70%同一である。例えば、Infestin-4変異体は、野生型Infestin-4配列(配列番号1)に対して約70%、または約75%、または約85%、または約90%、または約91%、または約92%、または約93%、または約94%、または約95%、または約96%、または約97%、または約98%、または約99%の同一性を有する配列を含むことができる。
【0169】
一実施形態では、FXIIインヒビターは野生型Infestin-4ポリペプチド配列の変異体を含み、Infestin-4変異体は、配列番号1のN末端アミノ酸2~13;N末端アミノ酸の外側の少なくとも1つの、場合により5つまでのアミノ酸変異;6つの保存システイン残基;および/または野生型Infestin-4配列(配列番号1)に対して少なくとも70%の同一性を含む。例えば、Infestin-4変異体は、野生型Infestin-4配列(配列番号1)に対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する配列を含む。
【0170】
一例では、Infestin-4変異体は配列番号25に記載される配列を含む。一例では、配列番号24が断片または全長野生型Infestin-4配列(配列番号1)のN末端に、またはその近くに付加され、これは、ヒトタンパク質SPINK-1に由来する。
【0171】
一例では、Infestin-4は、野生型Infestin-4または変異体Infestin-4と融合パートナーとの融合構築物を含む。例えば、融合パートナーは、PEGまたは半減期増強ポリペプチドを含む。一例では、Infestinは、半減期増強ポリペプチド、ヒトアルブミン(「HA」と称される)含む。いくつかの実施形態では、HAは組換えタンパク質(「rHA」と称される)である。ある種の実施形態では、Infestin-4とHAタンパク質は、直接的に、またはリンカーペプチドを介して結合している。例えば、FXIIのインヒビターは、リンカーペプチドを介してInfestin-4に連結されたヒトアルブミンを含む融合タンパク質である。
【0172】
一例では、FXIIのインヒビターは、FXIIを阻害する能力を保持する、Infestin-4の変異体である。例えば、Infestin-4の変異体は、Infestin-4と同じ、FXIIを阻害する能力を有する。一例では、Infestin-4の変異体はFXII活性および/またはFXIIの活性化を阻害する。
【0173】
一例では、本開示のFXIIのインヒビターはヒト第XIIa因子-ベータへの結合についてInfestin-4と競合する。
【0174】
FXIIの機能的阻害活性を評価する方法は当技術分野で公知であり、例えば、FXII酵素活性の阻害を試験するための直接アッセイ、長引く凝固時間(例えば、活性化部分トロンボプラスチン時間、aPTT)、凝固の内在性経路に対処する臨床的凝血試験、または凝固を評価するin vivo方法を含めた、in vitroおよび/またはin vivoの特性評価が挙げられる。
【0175】
SPINK-1
一例では、FXIIのインヒビターは、Infestin-4に高い類似性を有するヒトタンパク質を含む。例えば、FXIIのインヒビターはSPINK-1である。SPINK-1は膵臓で発現しているKazalタイプのセリンプロテアーゼインヒビターである(膵分泌性トリプシンインヒビターまたはPSTIとしても知られる)。Kazalタイプセリンプロテアーゼインヒビターファミリーは、公知のセリンプロテアーゼインヒビターの多数のファミリーのうちの1つである。様々な種由来の多くの同様のタンパク質が記載されている(Laskowski MおよびKato I、49 Ann.Rev.Biochem.593~626、1980.)。限定目的ではなく命名の目的のみのために、SPINK-1の例示的配列を配列番号2に示す。
【0176】
一例では、FXIIのインヒビターは、配列番号2に示したSPINK-2の野生型配列を含む。
【0177】
用語「SPINK-1」は、FXIIを阻害する能力を実質的に保持する、SPINK-1の機能的な変異体および断片も包含する。一例では、FXIIのインヒビターはSPINK-1変異体である。例えば、Infestin-4に対するSPINK-1配列の同一性を高めるために、野生型配列(すなわち、配列番号2)の変異体を生成することができる。本明細書で使用する場合、用語「変異体」は、SPINK-1の断片または変異されたSPINK-1配列を含む。
【0178】
一例では、位置2~13のN末端アミノ酸は配列番号1のN末端アミノ酸2~13と置き換えるようにSPINK-1(配列番号2)が変異される。
【0179】
一例では、FXIIのインヒビターは、野生型Infestin-4配列のN末端部を含むSPINK-1変異体である。例えば、SPINK-1変異体は配列番号1のアミノ酸2~13を含む。
【0180】
一例では、FXIIのインヒビターは、野生型Infestin-4配列に対するSPINK-1変異体の同一性を高める少なくとも1つのさらなるアミノ酸変異をN末端アミノ酸の外側に含むSPINK-1変異体である。例えば、SPINK-1変異体は、野生型Infestin-4配列に対するSPINK-1変異体の同一性を高める、少なくとも1つの、または少なくとも2つの、または少なくとも3つの、または少なくとも4つの、または少なくとも5つのさらなるアミノ酸変異をN末端アミノ酸の外側に含む。
【0181】
変異は、置換、欠失および/または付加を含むことができる。「N末端アミノ酸の外側」の変異は、配列番号24の配列、すなわち、配列番号1のアミノ酸2~13を含む連続的なアミノ酸ストレッチ以外の、変異体のポリペプチド鎖に沿った任意のアミノ酸の1つまたはそれ以上の変異を指す。
【0182】
一例では、FXIIのインヒビターは、位置2~13のN末端アミノ酸を配列番号1の位置2~13のN末端アミノ酸と置き換えるように変異され;場合により、配列番号1の配列に対してポリペプチド配列の同一性を高める1~5つのさらなるアミノ酸変異を含有するようにさらに改変された配列番号2を含むポリペプチド配列を含む。
【0183】
一例では、FXIIのインヒビターは、野生型Infestin-4配列(すなわち、配列番号1)に対して変異体の同一性を高めるように変異されたSPINK-1配列を含むSPINK-1変異体を含む。
【0184】
一例では、SPINK-1変異体は野生型Infestin-4配列のN末端部を含む。例えば、SPINK-1変異体は配列番号1のアミノ酸2~13を含む。
【0185】
一例では、FXIIのインヒビターは、配列番号2の6つの保存システイン残基を含むSPINK-1変異体を含む。
【0186】
一例では、SPINK-1の6つの保存システイン残基は野生型SPINK-1配列(例えば、配列番号2)の位置9、16、24、35、38および56のアミノ酸でもよい。一例では、変異体は、野生型SPINK-1配列の最終的なシステイン(すなわち、配列番号2の位置56のシステイン)を含む。一例では、6つの保存システイン残基は変異していないが、システイン残基の正確な位置および互いの相対位置は、SPINK-1変異体配列における他の場所での挿入および/または欠失が原因で、野生型SPINK-1配列の位置9、16、24、35、38および56から変化し得る。それにもかかわらず、これらの例では、SPINK-1変異体は6つのすべてのシステイン残基を含む。
【0187】
一例では、FXIIのインヒビターは、配列番号2に対して少なくとも70%同一の配列を含むSPINK-1変異体を含む。例えば、SPINK-1変異体は、配列番号2に対して少なくとも約75%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一の配列を含む。
【0188】
一例では、FXIIのインヒビターは、配列番号2に対して少なくとも70%同一の配列を含み、配列番号2由来の6つの保存システイン残基を保持するSPINK-1変異体を含む。
【0189】
一例では、SPINK-1の6つの保存システイン残基は変異していない。一例では、SPINK-1配列は野生型Infestin-4配列のN末端部を含むように変異される。例えば、配列番号1のアミノ酸2~13を含むようにSPINK-1配列は変異される。
【0190】
一例では、SPINK-1配列は野生型Infestin-4配列のN末端部を含むように、および/または野生型SPINK-1配列に対して少なくとも70%同一の配列を有するように変異される。例えば、SPINK-1配列は、野生型SPINK-1配列に対して少なくとも約70%、または少なくとも約75%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも99%同一の配列を含むように変異される。
【0191】
一例では、SPINK-1配列は野生型Infestin-4配列のN末端部を含むように、および/または野生型SPINK-1配列に対して少なくとも70%同一の配列を有するように、および/またはN末端アミノ酸の外側のSPINK-1配列において少なくとも1つの変異を含むように変異される。
【0192】
一例では、FXIIのインヒビターは、位置2~13のN末端アミノ酸を配列番号1の位置2~13のN末端アミノ酸と置き換えるように変異され;場合により、配列番号1の配列に対してポリペプチド配列の同一性を高める1~5つのさらなるアミノ酸変異を含有するようにさらに改変された配列番号2を含むSPINK-1変異体を含む。
【0193】
一例では、FXIIのインヒビターは、位置2~13のN末端アミノ酸を配列番号1の位置2~13のN末端アミノ酸と置き換えるように変異され;場合により、配列番号1の配列に対してポリペプチド配列の同一性を高める1~5つのさらなるアミノ酸変異および配列番号2に対して少なくとも70%同一であり、配列番号2由来の6つの保存システイン残基を保持する配列を含有するようにさらに改変された配列番号2を含むSPINK-1変異体を含む。
【0194】
一例では、FXIIのインヒビターは、FXIIを阻害するその能力を実質的に保持するSPINK-1変異体を含む。例えば、SPINK-1変異体は、野生型SPINK-1の阻害活性の少なくとも約20%、または約30%、または約40%、または約50%、または約60%、または約70%、または約80%、または約90%、または約95%、または約98%、または約99%を保持する。
【0195】
一例では、本開示のFXIIのインヒビターはヒト第XIIa因子-ベータへの結合についてSPINK-1と競合する。
【0196】
一例では、FXIIのインヒビターは、K1(配列番号3)、K2(配列番号4)、およびK3(配列番号5)からなる群から選択されるSPINK-1変異体である。
【0197】
一例では、SPINK-1変異体は配列番号3に記載のK1である。
【0198】
一例では、SPINK-1変異体は配列番号4に記載のK2である。
【0199】
一例では、SPINK-1変異体は配列番号5に記載のK3である。
【0200】
一例では、Infestin-4に対する同一性を高めるために、K1に対してN末端の外側でさらなるアミノ酸置換を行うことができる。
【0201】
一例では、Infestin-4に対する同一性を高めるために、K3に対してN末端の外側でさらなるアミノ酸置換を行うことができる。例えば、K3に対してN末端の外側の5つのアミノ酸置換はInfestin-4に対する同一性を高める。
【0202】
一例では、SPINK-1変異体は、野生型SPINK-1配列と少なくとも約70%の同一性を有する。例えば、SPINK-1変異体は、野生型SPINK-1配列と少なくとも約75%、または少なくとも約80%、少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約91%、または少なくとも約92%、または少なくとも約93%、または少なくとも約94%、または少なくとも約95%、または少なくとも約96%、または少なくとも約97%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%の同一性を有する。
【0203】
第XII因子抗体
例示的第XII因子(FXII)のインヒビターは抗原可変領域を含み、例えば、FXIIに結合し、FXIIシグナリングを中和する抗体またはその抗原結合性断片である。例えば、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片は、FXIIおよび/またはFXIIaに結合し、FXIIおよび/またはFXIIaの活性化および/または活性を阻害する。
【0204】
一例では、抗体可変領域はFXIIに特異的に結合する。
【0205】
例えば、FXIIのインヒビターは、FXIIおよび/またはFXIIaに結合し、FXIIおよび/またはFXIIaの活性を阻害する。
【0206】
別の例では、FXIIのインヒビターは、FXIIおよび/またはFXIIaに結合し、FXIIaへのFXIIの活性化を阻害する。
【0207】
適切な抗体およびその可変領域を含むタンパク質は当技術分野で公知である。
【0208】
例えば、抗第XII因子抗体およびその断片はWO2006/066878およびRavonら、Blood 86:4134~43(1995)に記載されている。さらなる抗第XII因子抗体がWO2013/014092に記載されている。
【0209】
一例では、抗FXII抗体またはその抗原結合性断片はFXIIおよび/またはFXIIaに結合する抗体である。
【0210】
一例では、FXIIおよび/またはFXIIaの活性は少なくとも約50%阻害される。例えば、FXIIおよび/またはFXIIaの活性は約60%、または約70%、または約80%、または約85%、または約90%、または約95%、または約99%、または約100%阻害される。
【0211】
一例では、本開示のFXIIのインヒビターは、FXIIaを少なくとも約80%阻害する。例えば、本開示のFXIIのインヒビターは、FXIIa対インヒビターについて1:0.5のモル比で使用される場合、第XIIa因子-アルファを少なくとも約80%阻害する。例えば、FXIIのインヒビターは、第XIIa因子対インヒビターについて1:0.5のモル比で使用される場合、第XIIa因子を少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約96%、または少なくとも約97%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%、または約100%阻害する。
【0212】
第XIIa因子の活性の阻害を検出する方法は当技術分野で公知であり、例えば、WO2013/014092に開示されているようなin vitroのFXIIaアミド分解活性アッセイが挙げられる。
【0213】
一例では、抗FXII抗体はヒト第XIIa因子のアミド分解活性を阻害することができる。
【0214】
一例では、本開示のFXIIのインヒビターは、抗体3F7またはgVR115の結合親和性または特異性と類似した、ヒトFXIIaに対する結合親和性または特異性を有する。
【0215】
一例では、本開示のFXIIのインヒビターは、FXIIまたはgVR115への抗体3F7の結合を競合的に阻害する。
【0216】
一例では、抗FXII抗体は、失活したヒトFXIIに対するものよりも少なくとも2倍高い、ヒト第XIIa因子-ベータに対する結合親和性を有する。例えば、ヒト第XIIa因子-ベータに対する結合親和性は、失活したヒトFXIIに対するものよりも少なくとも約3倍、または少なくとも約4倍、または少なくとも約5倍高い。
【0217】
一例では、本開示のFXIIのインヒビターは、約1×10-8M以下、例えば9.5×10-9M以下、例えば9×10-9M以下、例えば8.5×10-9M以下、例えば8×10-9M以下、例えば7.5×10-9M以下、例えば7×10-9M以下、例えば6.5×10-9M以下、例えば6×10-9M以下、例えば5.5×10-9M以下、例えば5×10-9Mの平衡解離定数(K)で、ヒト第XIIa因子-ベータに結合する。
【0218】
一例では、抗FXII抗体またはその断片は、配列番号6に記載される配列を含むVおよび配列番号7に記載される配列を含むVを含む。
【0219】
一例では、抗FXII抗体またはその断片は、配列番号6に記載される配列に対して少なくとも85%同一の配列を含むVを含む。例えば、V配列は、配列番号6に記載される配列に対して少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一である。CDRに対する変異の例示的位置は本明細書に記載される。当業者は、フレームワーク領域に対する変異の位置を容易に特定できると予想される。一例では、列挙される配列に対する任意の変化の位置はフレームワーク領域中にある。
【0220】
一例では、抗FXII抗体またはその断片は、配列番号7に記載される配列に対して少なくとも85%同一の配列を含むVを含む。例えば、V配列は、配列番号7に記載される配列に対して少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一である。CDRに対する変異の例示的位置は本明細書に記載される。当業者は、フレームワーク領域に対する変異の位置を容易に特定できると予想される。一例では、列挙される配列に対する任意の変化の位置はフレームワーク領域中にある。
【0221】
一例では、FXIIのインヒビターは、抗FXII抗体のV(配列番号6)およびV(配列番号7)の相補性決定領域(CDR)を含むタンパク質である。例えば、タンパク質は以下を含む:
(i)以下を含むV
(a)配列番号6に記載される配列;もしくは
(b)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;
(c)配列番号9もしくは配列番号10に記載される配列を含むCDR2;
(d)配列番号11もしくは配列番号12に記載される配列を含むCDR3;および/または
(ii)以下を含むV
(a)配列番号7に記載される配列;もしくは
(b)配列番号13もしくは配列番号17に記載される配列を含むCDR1;
(c)配列番号14に記載される配列を含むCDR2;
(d)配列番号15もしくは配列番号16に記載される配列を含むCDR3。
【0222】
別の例では、タンパク質は以下を含む:
(i)以下を含むV
(a)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;
(b)配列番号10に記載される配列を含むCDR2;および
(c)配列番号12に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むVL:
(a)配列番号13に記載の配列を含むCDR1;
(b)配列番号14に記載の配列を含むCDR2;および
(c)配列番号16に記載の配列を含むCDR3。
【0223】
一例では、タンパク質は以下を含む:
(i)以下を含むV
(a)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;
(b)配列番号9に記載される配列を含むCDR2;および
(c)配列番号11に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むV
(a)配列番号13に記載の配列を含むCDR1;
(b)配列番号14に記載の配列を含むCDR2;および
(c)配列番号15に記載の配列を含むCDR3。
【0224】
別の例では、タンパク質は以下を含む:
(i)以下を含むV
(a)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;
(b)配列番号10に記載される配列を含むCDR2;および
(c)配列番号11に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むV
(a)配列番号13に記載の配列を含むCDR1;
(b)配列番号14に記載の配列を含むCDR2;および
(c)配列番号15に記載の配列を含むCDR3。
【0225】
別の例では、タンパク質は以下を含む:
(i)以下を含むV
(a)配列番号8に記載される配列を含むCDR1;
(b)配列番号9に記載される配列を含むCDR2;および
(c)配列番号11に記載される配列を含むCDR3;ならびに/または
(ii)以下を含むV
(a)配列番号17に記載の配列を含むCDR1;
(b)配列番号14に記載の配列を含むCDR2;および
(c)配列番号15に記載の配列を含むCDR3。
【0226】
一例では、タンパク質は、配列番号8に記載のCDR1を含むVを含む。
【0227】
一例では、タンパク質は、配列番号8に記載される配列に対して少なくとも80%同一のCDR1を含むVを含む。例えば、タンパク質は、配列番号8に記載される配列に対して少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一のCDR1を含むVを含む。
【0228】
一例では、タンパク質は、配列番号9に記載のCDR2を含むVを含む。
【0229】
一例では、タンパク質は配列番号9に記載される配列に対して少なくとも60%同一のCDR2を含むVを含む。例えば、タンパク質は、配列番号9に記載される配列に対して少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一のCDR2を含むVを含む。
【0230】
一例では、タンパク質は、配列番号10に記載のCDR2を含むVを含む。
【0231】
一例では、VCDR2のアミノ酸配列は、アルギニン(R)、アスパラギン(N)もしくはアスパラギン酸(D)を位置3に、および/またはプロリン(P)、バリン(V)、イソロイシン(I)もしくはメチオニン(M)を位置4に、および/またはセリン(S)、プロリン(P)もしくはアラニン(A)を位置5に、および/またはグリシン(G)、ロイシン(L)、バリン(V)もしくはスレオニン(T)を位置6に、および/または任意のアミノ酸を位置7に、および/またはスレオニン(T)、グリシン(G)もしくはセリン(S)位置8に含む。
【0232】
一例では、V CDR2のアミノ酸配列は、アスパラギン(N)を位置3に、およびバリン(V)を位置4に、およびプロリン(P)を位置5に、およびロイシン(L)を位置6に、およびチロシン(Y)を位置7に、およびグリシン(G)位置8に含む。
【0233】
一例では、V CDR2のアミノ酸配列は、アスパラギン(N)を位置3に、およびバリン(V)を位置4に、およびプロリン(P)を位置5に、およびバリン(V)を位置6に、およびグルタミン(Q)を位置7に、およびグリシン(G)位置8に含む。
【0234】
一例では、V CDR2のアミノ酸配列は、アスパラギン酸(D)を位置3に、およびイソロイシン(I)を位置4に、およびプロリン(P)を位置5に、およびスレオニン(T)を位置6に、およびリジン(K)を位置7に、およびグリシン(G)位置8に含む。
【0235】
一例では、V CDR2のアミノ酸配列は、アスパラギン酸(D)を位置3に、およびメチオニン(M)を位置4に、およびプロリン(P)を位置5に、およびスレオニン(T)を位置6に、およびリジン(K)を位置7に、およびグリシン(G)位置8に含む。
【0236】
一例では、タンパク質は、配列番号11に記載のCDR3を含むVを含む。
【0237】
一例では、タンパク質は、配列番号11に記載される配列に対して少なくとも80%同一のCDR3を含むVを含む。例えば、タンパク質は、配列番号11に記載される配列に対して少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一のCDR3を含むVを含む。
【0238】
一例では、タンパク質は、配列番号12に記載のCDR3を含むVを含む。
【0239】
一例では、V CDR3のアミノ酸配列は、イソロイシン(I)、メチオニン(M)もしくはバリン(V)を位置9に、および/またはセリン(S)もしくはリジン(K)を位置10に、および/またはプロリン(P)、リジン(K)、スレオニン(T)もしくはヒスチジン(H)を位置11に、および/またはヒスチジン(H)、アスパラギン(N)、グリシン(G)もしくはグルタミン(Q)を位置12に含む。
【0240】
一例では、タンパク質は、配列番号13に記載のCDR1を含むVを含む。
【0241】
一例では、タンパク質は、配列番号13に記載される配列に対して少なくとも50%同一のCDR1を含むVを含む。例えば、タンパク質は、配列番号13に記載される配列に対して少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一のCDR1を含むVを含む。
【0242】
一例では、タンパク質は、配列番号17に記載のCDR1を含むVを含む。
【0243】
一例では、タンパク質は、配列番号17に記載される配列に対して少なくとも50%同一のCDR1を含むVを含む。例えば、タンパク質は、配列番号17に記載される配列に対して少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一のCDR1を含むVを含む。
【0244】
一例では、タンパク質は、配列番号14に記載のCDR2を含むVを含む。
【0245】
一例では、タンパク質は、配列番号14に記載される配列に対して少なくとも50%同一のCDR2を含むVを含む。例えば、タンパク質は、配列番号14に記載される配列に対して少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一のCDR2を含むVを含む。
【0246】
一例では、タンパク質は、配列番号15に記載のCDR3を含むVを含む。
【0247】
一例では、タンパク質は、配列番号15に記載される配列に対して少なくとも50%同一のCDR3を含むVを含む。例えば、タンパク質は、配列番号15に記載される配列に対して少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一のCDR3を含むVを含む。
【0248】
一例では、タンパク質は配列番号16に記載のCDR3を含むVを含む。
【0249】
一例では、V CDR3のアミノ酸配列は、アラニン(A)もしくはセリン(S)を位置2に、および/またはアスパラギン酸(D)、チロシン(Y)、グルタミン酸(E)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)もしくはセリン(S)を位置4に、および/またはアラニン(A)、アスパラギン(N)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、バリン(V)、プロリン(P)、グルタミン(Q)もしくはグルタミン酸(E)を位置5に、および/またはセリン(S)、アスパラギン酸(D)、プロリン(P)、グルタミン酸(E)、グルタミン(Q)もしくはアルギニン(R)を位置6に、および/またはロイシン(L)もしくはバリン(V)を位置7に、および/またはグリシン(G)、ロイシン(L)もしくはリジン(K)を位置9に、および/またはバリン(V)、アラニン(A)、アスパラギン酸(D)、スレオニン(T)、メチオニン(M)もしくはグリシン(G)を位置10に含む。
【0250】
一例では、FXIIのインヒビターは親和性成熟抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体もしくはヒト化抗体またはその抗原結合性断片である。一例では、抗FXII抗体は抗体3F7の親和性成熟形態である。例えば、抗FXII抗体は、VR115、VR112、VR24、VR110またはVR119から選択される(これらの抗体のHCDR1~3およびLCDR1~3の配列番号を表1において以下に示す)。
【0251】
【表1】
【0252】
配列番号10はコンセンサス配列である。VR119は、位置3のXがNであり、位置4のXがVであり、位置5のXがPであり;位置6のXがLであり、位置7のXがYであり;位置8のXがGである、配列番号10を含む。VR112は、位置3のXがNであり、位置4のXがVであり、位置5のXがPであり、位置6のXがVであり、位置7のXがQであり、位置8のXがGである、配列番号10を含む。VR115は、位置3のXがDであり、位置4のXがIであり、位置5のXがPであり、位置6のXがTであり、位置7のXがKであり、位置8のXがGである、配列番号10を含む。VR110は、位置3のXがDであり、位置4のXがMであり、位置5のXがPであり、位置6のXがTであり、位置7のXがKであり、位置8のXがGである、配列番号10を含む。VR24は、配列番号17に記載されるLCDR1を含む。
【0253】
一例では、本明細書に記載の抗体はIgG4または安定化IgG4定常領域を含む。用語「安定化IgG4定常領域」は、Fabアーム交換もしくはFabアーム交換を受ける傾向または半抗体の形成もしくは半抗体を形成する傾向を低減するように改変されたIgG4定常領域を意味すると理解される。「Fabアーム交換」は、IgG4重鎖および結合した軽鎖(半分子)が別のIgG4分子の重-軽鎖対とスワップされる、ヒトIgG4に対するタンパク質改変のタイプを指す。したがって、IgG4分子は、2つの異なる抗原を認識する2つの異なるFabアームを獲得することができる(その結果、二重特異性分子が生じる)。Fabアーム交換は、in vivoで天然に生じ、精製された血液細胞または還元剤、例えば還元型グルタチオンによってin vitroで誘導することができる。「半抗体」は、IgG4抗体が解離して単一重鎖および単一軽鎖をそれぞれ含有する2つの分子を形成する場合に形成される。
【0254】
一例では、安定化IgG4定常領域は、Kabatのシステム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services、1987および/または1991)に従って、ヒンジ領域の位置241にプロリンを含む。この位置は、EU番号付けシステム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services、2001、およびEdelmanら、Proc.Natl.Acad.SciUSA、63、78~85、1969)によるヒンジ領域の位置228に対応する。ヒトIgG4では、この残基は通常セリンである。セリンをプロリンに置換した後に、IgG4ヒンジ領域は配列CPPCを含む。この関連で、「ヒンジ領域」は、抗体の2つのFabアームに可動性を与える、FcとFab領域を連結する抗体重鎖定常領域のプロリンリッチ部分であることを当業者は認識するであろう。ヒンジ領域は、重鎖間ジスルフィド結合に関与するシステイン残基を含む。これは、一般に、Kabatの番号付けシステムに従って、ヒトIgG1のGlu226からPro243のストレッチと定義される。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、重鎖間ジスルフィド(S-S)結合を形成する最初および最後のシステイン残基を同じ位置に配置することによって、IgG1配列と整列させることができる(例えば、WO2010/080538を参照されたい)。
【0255】
安定化IgG4抗体のさらなる例は、(例えば、WO2006/033386に記載されているように)、ヒトIgG4の重鎖定常領域の位置409のアルギニン(EU番号付けシステムに従う)がリジン、スレオニン、メチオニンまたはロイシンで置換されている抗体である。定常領域のFc領域は、405(EU番号付けシステムに従う)に対応する位置で、以下:アラニン、バリン、グリシン、イソロイシンおよびロイシンからなる群から選択される残基をさらにまたは代わりに含むことができる。場合により、ヒンジ領域は、(上記のように)プロリンを位置241(すなわち、CPPC配列)に含む。
【0256】
一例では、本開示のFXIIのインヒビターは抗体3F7またはそのキメラ、CDR移植もしくはヒト化バージョン、またはその抗原結合性断片である。
【0257】
一例では、抗体3F7は、配列番号6に記載される配列を含むVおよび配列番号7に記載される配列を含むVを含む。一例では、抗体3F7は、V(配列番号6)およびV(配列番号7)の相補性決定領域(CDR)を含む。
【0258】
例えば、抗体3F7は、配列番号8に記載されるCDR、配列番号9に記載されるCDR2、配列番号11に記載されるCDR3を含むV、ならびに配列番号13に記載されるCDR1、配列番号14に記載されるCDR2および配列番号15に記載されるCDR3を含むVを含む。
【0259】
一例では、本開示のXIIのインヒビターは抗体VR115である。
【0260】
例えば、抗体VR115は、配列番号8に記載されるCDR1、配列番号10に記載されるCDR2(ここで、位置3のXはDであり、位置4のXはIであり、位置5のXはPであり、位置6のXはTであり、位置7のXはKであり、位置8のXはGである)および配列番号11に記載されるCDR3を含むV、ならびに配列番号13に記載されるCDR1、配列番号14に記載されるCDR2および配列番号15に記載されるCDR3を含むVを含む。
【0261】
一例では、抗体は生殖系列抗体である。「生殖系列」抗体は、フレームワーク残基に変化を導入したいくつかまたはすべての体細胞変異が、ゲノム、例えばヒトゲノム中に存在する元の配列に回復している抗体である。この関連で、生殖系列抗体において、すべての変化が回復している必要はない。
【0262】
例えば、抗体は生殖系列VR115抗体(gVR115)である。
【0263】
例えば、gVR115は、配列番号18に記載される配列を含むVおよび配列番号19に記載される配列を含むVを含む。
【0264】
一例では、gVR115はラムダ軽鎖定常領域を含む。
【0265】
一例では、gVR115は、IgG4または安定化IgG4定常領域を含む。例えば、安定化IgG4定常領域は、Kabatのシステム(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest Washington DC United States Department of Health and Human Services、1987および/または1991)に従って、ヒンジ領域の位置241にプロリンを含む。
【0266】
一例では、gVR115は、配列番号20に記載される配列を含む重鎖および配列番号21に記載される配列を含む軽鎖を含む。
【0267】
別の例では、抗体またはその可変領域を含むタンパク質は、例えば当該技術分野において知られているような標準的な方法を使用して、産生することができる。
【0268】
第XII因子インヒビターの融合パートナー
一例では、FXIIのインヒビターは融合パートナーに連結している。例えば、融合パートナーはポリエチレングリコール(PEG)を含む。一例では、融合パートナーは半減期増強ポリペプチド(HLEP)を含む。
【0269】
ポリエチレングリコール(PEG)
一例では、FXIIのインヒビターは融合パートナーに連結している。例えば、融合パートナーはポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0270】
一例では、融合パートナーはモノ-またはポリ-(例えば、2-4)ポリエチレングリコール(PEG)部分を含む。例えば、モノ-ポリ-(例えば、2-4)ポリエチレングリコール(PEG)部分は、FXIIインヒビターのin vivo半減期を延ばす。
【0271】
利用可能なペグ化反応のうちのいずれかによって、ペグ化を行うことができる。ペグ化タンパク質生成物の調製の例示的方法は、一般に、(a)タンパク質が1つまたはそれ以上のPEG基に結合するようになる条件下で、ポリペプチドをポリエチレングリコール(例えば、PEGの反応性エステルまたはアルデヒド誘導体)と反応させること;および(b)反応生成物を得ることを含むことができる。
【0272】
限定されないが、例えば、EP0401384;Malikら、Exp.Hematol.、20:1028~1035(1992);Francis、Focus on Growth Factors、3(2):4~10(1992);EP0154316;EP0401384;WO92/16221;WO95/34326;米国特許第5,252,714号に記載されているものを含めた、様々なPEG結合方法を当業者は認識するであろう。
【0273】
半減期増強ポリペプチド(HLEP)
一例では、FXIIのインヒビターは融合パートナーに連結している。例えば、融合パートナーは半減期増強ポリペプチド(HLEP)を含む。
【0274】
様々な半減期増強ポリペプチドが当業者に知られており、限定されないが、本明細書に記載のものが挙げられる。
【0275】
アルブミンタンパク質およびそれらの変異体
一例では、半減期増強ポリペプチドは、アルブミン、アファミン、アルファ-フェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、ヒトアルブミン、免疫グロブリンおよびIgGのFcからなる群から選択される。例えば、半減期増強ポリペプチドはアルブミンまたはその変異体である。
【0276】
一例では、半減期増強ポリペプチドは、リンカーを介してFXIIのインヒビターに連結している。例えば、FXIIのインヒビターは、リンカーペプチドを介してFXIIのインヒビターに連結されたヒトアルブミンを含む融合タンパク質である。
【0277】
一例では、アルブミン変異体は、ヒトアルブミン(HA)配列(例えば、配列番号23)由来の少なくとも10、または少なくとも20、または少なくとも40、または少なくとも50、または少なくとも60、または少なくとも70アミノ酸の長さである。
【0278】
一例では、アルブミン変異体は、ヒトアルブミン(HA)配列(例えば、配列番号23)由来の少なくとも約15、または少なくとも20、または少なくとも約25、または少なくとも約30、または少なくとも約50またはそれ以上の連続的なアミノ酸である。
【0279】
一例では、アルブミン変異体は、HAの特定のドメインの一部またはすべてを含む。アルブミン変異体は、アミノ酸の置換、欠失または付加、保存的または非保存的置換のいずれかを含んでもよく、そのような変化は、半減期増強ポリペプチドの治療活性を与える活性部位または活性ドメインを実質的に変えない。これらの変異体は、ヒトアルブミン(HA)配列と約70%、または約75%、または約80%、または約85%、または約90%、または約91%、または約92%、または約93%、または約94%、または約95%、または約96%、または約97%、または約98%、または約99%の同一性を有し得る。
【0280】
一例では、アルブミン変異体は断片である。一例では、アルブミン変異体は、アルブミンの少なくとも1つのドメインおよび/またはそれらのドメインの断片を含む。例えば、アルブミン変異体は、ドメイン1(配列番号23のアミノ酸1~194)またはドメイン2(配列番号23のアミノ酸195~387)またはドメイン3(配列番号23のアミノ酸388~585)の少なくとも1つを含む。一例では、アルブミン変異体は、少なくともドメイン1および2(配列番号23の1~387)またはドメイン2および3(配列番号23の195~585)またはドメイン1および3(配列番号23のアミノ酸1~194およびアミノ酸388~585)を含む。
【0281】
各ドメインは、それ自体、残基Lys106~Glu119、Glu292~Val315およびGlu492~Ala511を含む可動性サブドメイン間リンカー領域をともなって、2つの相同なサブドメイン、すなわち、配列番号23の残基1~105、120~194、195~291、316~387、388~491および512~585で構成されている。
【0282】
一例では、アルブミン変異体は、アルブミンの少なくとも1つのサブドメイン全体を含む。例えば、アルブミン変異体は、配列番号23の残基1~105または残基120~194または残基195~291または残基316~387または残基388~491または残基512~585を含む。
【0283】
一例では、限定されないが、アルファ-フェトプロテイン(WO2005/024044;BeattieおよびDugaiczyk、20 Gene 415~422、1982)、アファミン(Lichensteinら、269(27)J.Biol.Chem.18149~18154、1994)ならびにビタミンD結合タンパク質(CookeおよびDavid、76 J.Clin.Invest.2420~2424、1985)を含めた、構造的または進化的にアルブミンと関連している他のタンパク質(「アルブミンファミリータンパク質」)をHLEPとして使用することができる。これらのタンパク質をコードする遺伝子は、ヒト、マウスおよびラットにおいて同じ染色体領域にマッピングされる、構造的および機能的な類似性を有する多重遺伝子クラスターを示す。アルブミンファミリーメンバーの構造的類似性は、これらをHLEPとして使用することができることを示唆する。例えば、アルファ-フェトプロテインは、結合している治療的ポリペプチドの半減期をin vivoで延ばすことが主張された(WO2005/024044)。
【0284】
一例では、半減期増強ポリペプチドは、アルファ-フェトプロテインおよびビタミンD結合タンパク質からなる群から選択される。例えば、半減期増強ポリペプチドはアルファ-フェトプロテインである。一例では、半減期増強ポリペプチドはビタミンD結合タンパク質である。
【0285】
一例では、アルブミンファミリータンパク質またはそれらの変異体は、治療活性を安定化するまたは延長することができる。
【0286】
一例では、アルブミンファミリータンパク質またはそれらの変異体は、FXIIまたはFXIIaインヒビターに連結したHLEPとして使用される。
【0287】
一例では、アルブミンファミリータンパク質またはそれらの変異体は任意の脊椎動物に由来する。例えば、脊椎動物は哺乳動物である。一例では、哺乳動物は、ヒトでも、サルでも、ウシでも、ヒツジでも、ブタでもない。一例では、脊椎動物は非哺乳動物である。例えば、非哺乳動物はトリまたはサケである。
【0288】
一例では、アルブミン変異体は少なくとも10アミノ酸の長さを含む。例えば、アルブミン変異体は、それらが由来するそれぞれのタンパク質配列の約15、または約20、または約25、または約30、または約50個の連続的なアミノ酸を含む。一例では、アルブミン変異体は、それぞれのタンパク質の特定のドメインの一部またはすべてを含む。
【0289】
本明細書で論じるように、アルブミンファミリーメンバーの融合タンパク質は天然に存在する多形変異体を含むことができる。
【0290】
免疫グロブリン
一例では、半減期増強ポリペプチドは免疫グロブリン(Ig)である。
【0291】
上述したように、用語「免疫グロブリン」は、Fc領域または1つまたはそれ以上のIg定常ドメインなどの機能的断片およびその変異体を包含する。一例では、IgはFc領域または免疫グロブリン定常ドメインの一部を含む。定常領域は、IgM、IgG、IgD、IgAまたはIgE免疫グロブリンのものでもよい。一例では、治療的ポリペプチド部分は、抗体のヒンジ領域またはペプチドリンカーを介してIgに接続しており、これは切断可能であり得る。
【0292】
治療用タンパク質の半減期をin vivoで延ばすための、免疫グロブリン定常領域への治療用タンパク質の融合方法は当技術分野で公知であり、例えば、US2004/0087778、WO2005/001025、WO2005/063808、WO2003/076567、WO2005/000892、WO2004/101740、US6,403,077に記載されている。
【0293】
一例では、半減期増強ポリペプチドは免疫グロブリン領域である。例えば、免疫グロブリン領域はFcドメインもしくは免疫グロブリンのFc断片および/またはそれらの変異体である。
【0294】
一例では、FXIIのインヒビターはHLEPとしてのFcドメインまたは免疫グロブリン定常領域の一部に融合している。
【0295】
一例では、融合タンパク質は、原核または真核宿主細胞で発現される組換え分子として調製される。例えば、融合タンパク質は、細菌、もしくは酵母、もしくは植物、もしくは動物(昆虫を含める)もしくはヒト細胞株で、またはトランスジェニック動物で調製される。
【0296】
原核または真核細胞における融合タンパク質の発現方法は当技術分野で公知であり、例えば、WO2008/098720に記載されている。
【0297】
リンカー
一例では、半減期増強ポリペプチドはリンカーを介してFXIIのインヒビターに連結している。例えば、リンカーはリンカーペプチドである。
【0298】
一例では、治療的ポリペプチドとHLEPの間に介在性ペプチドリンカーを導入することができる。
【0299】
一例では、リンカーは切断可能なリンカーである。例えば、HLEPが治療的ポリペプチドの比活性を干渉する(例えば、立体障害による干渉)可能性がある場合、リンカーは切断可能なリンカーである。
【0300】
一例では、リンカーは凝固に関与する酵素によって切断可能である。例えば、リンカーは、内在性、外来性または共通の凝固経路の凝固プロテアーゼによって切断可能である。内在性経路の凝固プロテアーゼとしては、接触活性化経路のプロテアーゼ、例えば、FXIIa、FXIaまたはFIXaが挙げられる。一実施形態では、リンカーはFXIIaによって切断される。外来性経路のプロテアーゼとしては、組織因子経路のプロテアーゼ、例えばFVIIaが挙げられる。共通経路のプロテアーゼとしては、フィブリンへのフィブリノーゲンの変換に関与するプロテアーゼ、例えば、FXa、FIIaおよびFXIIIaが挙げられる。
【0301】
スクリーニングアッセイ
FXIIシグナリングを阻害する化合物は、例えば以下に記載するような当技術分野で公知の技法を使用して特定することができる。同様に、本明細書に記載の方法における使用に適するFXIIインヒビターの量は、例えば以下に記載するような当技術分野で公知の技法を使用して、決定または推定することができる。
【0302】
FXIIaアミド分解活性
FXIIに結合するインヒビターについて、FXIIaアミド分解活性のインヒビターのレベルを決定するためのin vitroアッセイを使用することができる。
【0303】
一例では、FXIIのインヒビターおよび緩衝液の存在下におけるFXIIの切断のアッセイによって、アミド分解活性を測定することができる。例えば、FXIIのインヒビターまたは対照の存在下または非存在下でFXIIをインキュベートする。インキュベーションおよび検出基質の添加に続いて、光学濃度の変化(すなわち、色の変化)として、アミド分解活性を分光光度的に決定する。
【0304】
アミド分解活性を効果的に阻害することが見出される化合物をFXIIのインヒビターとして特定する。
【0305】
in vivo動物モデル
一例では、アテローム性動脈硬化症の動物モデルにおいて治療効果または予防効果についてFXIIのインヒビターを試験する。
【0306】
アテローム性動脈硬化病変に対するFXIIのインヒビターの効果を評価するための動物モデルは当技術分野で公知であり、および/または本明細書で例示される。例示的動物モデルとしては、例えば、ApoEノックアウト(-/-)マウスモデルおよびタンデム狭窄マウスモデルが挙げられる。
【0307】
ApoEノックアウト動物モデル
一例では、動物モデルはApoEノックアウトマウスモデルである。
【0308】
例えば、FXIIのインヒビターまたは対照がアテローム性動脈硬化症のモデル、例えば、ApoE-/-マウスモデルに投与され、FXIIのインヒビターの治療効能が評価される。
【0309】
一例では、ApoE-/-(ApoE-KO)マウスは、隔日で、FXIIのインヒビターまたは対照によって、皮下で処置される。一例では、ApoE-/-マウスは、21%の脂肪および0.15%のコレステロールを含有する高脂肪食(HFD)が与えられる。
【0310】
一例では、FXIIのインヒビターの治療効能は、アテローム性動脈硬化病変の組織学的および/または形態学的解析によって評価される。
【0311】
FXIIのインヒビターの非存在下と比較して、FXIIのインヒビターの存在下における動物モデルにおけるアテローム性動脈硬化病変の減弱は、FXIIのインヒビターはアテローム性動脈硬化症の治療およびアテローム性動脈硬化プラークの安定化に有用であることを示す。
【0312】
タンデム狭窄動物モデル
一例では、動物モデルはタンデム狭窄マウスモデルである。
【0313】
例えば、FXIIのインヒビターまたは対照がアテローム性動脈硬化症のモデル、例えば、タンデム狭窄マウスモデルに投与され、FXIIのインヒビターの治療効能が評価される。
【0314】
一例では、マウスはApoE-/-ノックアウトマウスである。一例では、マウスは、21%の脂肪および0.15%のコレステロールを含有する高脂肪食(HFD)が与えられる。
【0315】
一例では、タンデム狭窄は頚動脈分岐近くの右総頚動脈に挿入される。
【0316】
FXIIのインヒビターの非存在下と比較して、FXIIのインヒビターの存在下における動物モデルにおけるアテローム性動脈硬化病変の減弱は、FXIIのインヒビターはアテローム性動脈硬化症の治療およびアテローム性動脈硬化プラークの安定化に有用であることを示す。
【0317】
アテローム性動脈硬化病変の形態学的解析
一例では、アテローム性動脈硬化病変の発生を減弱するFXIIのインヒビターは、組織学的解析を実施することによって特定される。
【0318】
形態学的解析の適切な方法は当技術分野で公知であり、例えば、全病変サイズ、脂質領域、壊死性コア領域、コラーゲンの蓄積、マクロファージの蓄積ならびに例えば、VCAM-1およびα-平滑筋アクチンを含めたいくつかのマーカーの発現の解析が挙げられる。
【0319】
一例では、動物モデル由来のアテローム性動脈硬化病変の凍結切片は、脂質および全病変領域を検出するためのオイルレッドO(ORO)標準、アテローム性動脈硬化病変の壊死性コア領域(無細胞領域)を決定するためのマイヤーのヘマトキシリン/エオシン(H&E)、コラーゲンを検出するためのピクロシリウスレッドのいずれかで組織学的に染色される。各セグメントの組織学的試料の定量化は、120μm間隔で得られる連続的な6μmの切片に対して行われる。様々なプラーク成分のパーセンテージは、全内膜プラーク領域で割った、特定の各パラメーターに対する陽性領域として定量化される。壊死性コアは、細胞性組織のない全プラーク領域と定義される。相対的キャップ厚は、最大の内膜厚で割った、肩と中央プラーク領域におけるキャップ厚の比と定義される。アテローム性動脈硬化病変内のORO陽性領域および無細胞領域に対するイメージングが光学顕微鏡を使用して行われ、脂質沈着の断面領域が画像解析ソフトウェア(例えば、Optimas6.2Video Pro-32)を使用して定量化される。各マウスについて、病変サイズが30mm間隔で少なくとも4つの断面領域において測定される。
【0320】
フローサイトメトリー
一例では、フローサイトメトリー解析が、脾臓、リンパ節および血液における細胞集団の解析について行われる。
【0321】
一例では、脾臓、リンパ節および血液のBリンパ球および非Bリンパ球集団が、BD FACS Canto-IIで、蛍光色素コンジュゲート化抗体を用いて解析される。例えば、B細胞の解析については、PEコンジュゲート化抗CD19、APCコンジュゲート化抗CD5およびAPC-Cy7コンジュゲート化抗CD11b Abが使用される。例えば、非Bリンパ球集団の解析については、パシフィックブルーコンジュゲート化抗CD4、PerCPコンジュゲート化抗CD8a、FITCコンジュゲート化抗TCR-bおよびPE-Cy7コンジュゲート化抗NK1.1Abが使用される。
【0322】
FXIIのインヒビターの非存在下と比較して、FXIIのインヒビターの存在下における動物モデルにおけるアテローム性動脈硬化病変の減弱は、FXIIのインヒビターはアテローム性動脈硬化症の治療およびアテローム性動脈硬化プラークの安定化に有用であることを示す。
【0323】
医薬組成物および治療方法
本開示のいくつかの例では、FXIIインヒビターは、80%を超える、または95%、96%、97%、98%もしくは99%を超える純度を有し得る。一例では、FXIIインヒビターは、混入する巨大分子、例えば、他のタンパク質および核酸に対して99.9%を超えて純粋であり、感染性および発熱性の薬剤を含んでいない可能性がある、医薬的に純粋な状態を有し得る。
【0324】
FXIIを阻害する化合物(同義語は活性成分)は、予防的または治療的処置のために、非経口、局所、経口もしくは局部投与、エアロゾル投与または経皮投与に有用である。一例では、FXIIのインヒビターは非経口的に、例えば皮下または静脈内に投与される。例えば、FXIIのインヒビターは皮下に投与される。
【0325】
投与されるFXIIインヒビターの製剤は、選択される投与経路および製剤(例えば、溶液剤、乳剤、カプセル剤)によって変わり得る。投与されるFXIIインヒビターを含む適切な医薬組成物は、生理学的に許容可能な担体中で調製することができる。溶液剤または乳剤については、適切な担体としては、例えば、生理食塩水および緩衝化媒体を含めた、水性またはアルコール性/水溶液、乳濁液または懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル油または不揮発性油を挙げることができる。水、緩衝水、緩衝生理食塩水、ポリオール(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコール)、デキストロース溶液およびグリシンを含めた、様々な適切な水性担体が当業者に知られている。静脈内用ビヒクルとしては、様々な添加剤、防腐剤または流体、栄養素もしくは電解質補液を挙げることができる(一般に、Remington’s Pharmaceutical Science、第16版、Mack編、1980を参照されたい)。組成物は、おおよその生理的条件に適合するように、pH調整および緩衝剤ならびに毒性調整剤、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムおよび乳酸ナトリウムなどの医薬的に許容可能な補助物質を場合により含有することができる。さらなる医薬添加剤としては、例えば、マンニトール、デンプン、グルコース、ラクトース、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセリンモノステアレート、タルク、脱脂粉乳およびエタノールが挙げられる。FXIIインヒビターは液体の段階で貯蔵することができ、または技術分野で公知の凍結乾燥および再構成技法に従って貯蔵のために凍結乾燥し、使用前に適切な担体中で再構成することができる。
【0326】
あるいはまたはさらに、担体または賦形剤は、FXIIインヒビターの活性を増強する、ならびに/またはFXIIインヒビター、例えば、プロテアーゼインヒビターおよび/もしくはDNaseインヒビターおよび/もしくはRNaseインヒビターの阻害を低減し、それによってインヒビターの安定性を増強する化合物を含む。
【0327】
選択される媒体中の活性成分の最適濃度は、当業者に公知の手順に従って経験的な方法で決定することができ、所望の最終医薬製剤に依存する。
【0328】
本開示のFXIIインヒビターの投与のための投薬量範囲は、所望の効果をもたらすのに十分大きいものである。例えば、組成物は、治療的または予防的に有効な量のFXIIインヒビターを含む。
【0329】
本明細書で使用する場合、用語「有効量」は、対象においてFXIIおよび/またはFXIIaのシグナリングを阻害する/低減する/防止するのに十分なFXIIインヒビターの量を意味すると解釈されるものとする。そのような量は、例えば、FXIIインヒビターならびに/または特定の対象ならびに/または治療を受けるアテローム性動脈硬化症のタイプおよび/もしくは重症度に依存して変わることを当業者は認識するであろう。したがって、この用語は、FXIIインヒビターの特定の量、例えば、重量または数に本開示を限定すると解釈されるべきでない。
【0330】
投薬量は、有害な副作用、例えば、過粘稠度症候群、肺水腫、うっ血性心不全などを引き起こすほど大きくすべきでない。一般に、投薬量は、患者の年齢、状態、性別および疾患の程度によって変わり、当業者が決定することができる。いかなる合併症の場合においても、個々の医師が投薬量を調整することができる。
【0331】
投薬量は、1日または数日にわたる毎日の1またはそれ以上の用量の投与において、約0.1mg/kg~約300mg/kgまで、例えば約0.2mg/kg~約200mg/kgまで、例えば約0.5mg/kg~約20mg/kgまで変動する可能性があり、例えば約10mg/kgである。
【0332】
いくつかの例では、FXIIインヒビターは、後続のもの(維持量)よりも高い初回(または負荷)用量で投与される。例えば、FXIIインヒビターは、約10mg/kg~約30mg/kgの間の初回用量で投与される。次いで、FXIIインヒビターは約0.0001mg/kg~約10mg/kgの間の維持量で投与される。維持量は、7~100日毎、例えば、14日または28日または56日または84日毎に投与することができる。
【0333】
いくつかの例では、用量漸増レジームが使用され、これは、FXIIインヒビターが後続の用量で使用されるよりも低い用量で最初に投与される。この投薬量レジームは、最初に有害事象に苦しむ対象の場合に有用である。
【0334】
治療に十分に応答していない対象の場合には、1週間以内に複数回用量を投与することができる。あるいは、またはさらに、漸増用量を投与することができる。
【0335】
1回より多い曝露または一連の用量、例えば、化合物の少なくとも約2回の曝露、例えば、約2~60回の曝露、より詳細には約2~40回の曝露、最も詳細には約2から20回の曝露を与えることによって、FXIIインヒビターで対象を再治療することができる。
【0336】
別の例では、定められた間隔で任意の再治療を与えることができる。例えば、様々な間隔で、例えば、約24~28週または48~56週またはそれ以上などで続いて曝露を施すことができる。例えば、そのような曝露は、約24~26週または約38~42週または約50~54週のそれぞれの間隔で施される。
【0337】
本開示の方法は、アテローム性動脈硬化症またはアテローム性動脈硬化プラークの破裂の防止または治療のための別の治療的に有効な薬剤の投与をともなう、本開示による少なくとも1種のFXIIインヒビターの同時投与を含むこともできる。
【0338】
一例では、本開示のFXIIインヒビターは、アテローム性動脈硬化症を防止または治療するために現在使用されているか、または開発中であるか、少なくとも1つのさらなる公知の化合物と組み合わせて使用される。そのような公知の化合物の例としては、限定されないが、スタチン(例えば、ロバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチンおよびフルバスタチン)ならびに血液希釈薬(例えば、アスピリン、ワルファリンおよびヘパリン)が挙げられる。
【0339】
前述の内容から明らかであるように、本開示は、有効量の第1の化合物および第2の化合物をそれらを必要とする対象に投与することを含む、対象の併用治療的処置の方法を提供し、前記第1の薬剤はFXIIインヒビターであり、第2の薬剤はアテローム性動脈硬化症の防止または治療のためのものである。
【0340】
本明細書で使用する場合、成句「併用治療的処置」にあるような用語「併用」は、第2の薬剤の存在下で第1の薬剤を投与することを含む。併用治療的処置方法は、第1、第2、第3のまたはさらなる薬剤が同時投与される方法を含む。併用治療的処置方法は、第2のまたはさらなる薬剤の存在下で第1のまたはさらなる薬剤が投与される方法も含み、ここで、第2のまたはさらなる薬剤は、例えば、以前に投与していてもよい。併用治療的処置方法は、異なる実施者によって段階的に行うことができる。例えば、ある実施者が第1の薬剤を対象に投与することができ、および第2の実施者として第2の薬剤を対象に投与することができ、投与工程は、第1の薬剤(および/またはさらなる薬剤)が第2の薬剤(および/またはさらなる薬剤)の存在下での投与の後である限り、同時に、またはほぼ同時に、または離れた時間に行うことができる。実施者および対象は同じエンティティ(例えば、ヒト)でもよい。
【0341】
一例では、本開示は、対象においてアテローム性動脈硬化症を治療または防止するための方法も提供し、この方法は、本開示のFXIIインヒビターを含む第1の医薬組成物および1種または複数のさらなる化合物を含む第2の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0342】
一例では、本開示の方法は、アテローム性動脈硬化症に罹患しており、かつ(例えば、糖尿病および/またはコレステロールのための)別の治療を受けている対象にFXIIインヒビターを投与することを含む。
【0343】
キットおよび他の物質の組成物
本開示の別の例は、上記のアテローム性動脈硬化症の治療に有用なFXIIインヒビターを含有するキットを提供する。
【0344】
一例では、キットは、(a)場合により医薬的に許容可能な担体または希釈剤中に、本明細書に記載のFXIIインヒビターを含む容器;および(b)対象においてアテローム性動脈硬化症を治療するための指示を有する添付文書を含む。
【0345】
本開示のこの例によれば、添付文書は容器上にあるか、容器に付随している。適切な容器としては、例えば、ボトル、バイアル、注射器などが挙げられる。ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から容器を形成することができる。容器は、アテローム性動脈硬化症を治療するのに有効である組成物を保持するか含有し、無菌のアクセスポートを有することができる(例えば、容器は、静脈輸液バッグでもよいし、皮下注射針によって穴をあけることができるストッパーを有するバイアルでもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性薬剤はFXIIインヒビターである。ラベルまたは添付文書は、治療に適格な対象、例えば、アテローム性動脈硬化症を有するまたはその傾向がある対象を、提供されるFXIIインヒビターおよび任意の他の医薬の投薬量および間隔に関する特定のガイダンスを用いて治療するために組成物が使用されることを示す。キットは、医薬的に許容可能な希釈緩衝液、例えば、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル溶液および/またはデキストロース溶液を含むさらなる容器をさらに含むことができる。キットは、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針および注射器を含めた、商業的および使用者の観点から望ましい他の材料をさらに含むことができる。
【0346】
キットは、場合により、第2の医薬を含む容器をさらに含み、FXIIインヒビターは第1の医薬であり、この物品は、有効量で、またはアテローム性動脈硬化症に対する別の治療で第2の医薬を用いて対象を治療するための指示を添付文書にさらに含む。第2の医薬は、上記のもののうちのいずれでもよい。
【0347】
本開示は、以下の非限定例を含む。
【実施例
【0348】
実施例1:第XII因子インヒビター治療はアテローム性動脈硬化病変の進行および発生を減弱する
C57BL/6Jバックグラウンドの雄のApoE-/-(ApoE-KO)マウス(6週齢)に、隔日で、抗第XIIa因子モノクローナル抗体3F7(1mg/kg)またはIgGアイソタイプ対照(MuBM4-MuG1K)を皮下に与えると同時に、21%の脂肪および0.15%のコレステロールを含有する高脂肪食(HFD)(SF00-219、Specialty Feeds、Western Australia)を8週間与えた。
【0349】
動物を屠殺し、カテーテルを左心室に設置して、10ml PBS、pH7.4を用いて生理的圧力下で灌流した。灌流後、腕頭動脈ならびに右および左頸動脈をともなう大動脈弓全体を最適切断温度(OCT)化合物(Sakura Finetechnical)中で包埋し、液体窒素で凍結し、切片化するまで-80℃で貯蔵した。
【0350】
クリオスタット(Zeiss MICROM HM 550)を使用して、6μm厚の横断凍結切片である凍結した頸動脈、大動脈弓および大動脈洞切片を調製した。脂質および全病変領域を検出するためのオイルレッドO(ORO)標準、アテローム性動脈硬化病変の壊死性コア領域(無細胞領域)を決定するためのマイヤーのヘマトキシリン/エオシン(H&E)、コラーゲンを検出するためのピクロシリウスレッドのいずれかで、切片を組織学的に染色した。120μm間隔で得られる連続的な6μmの切片に対して、各セグメントについて組織学的試料の定量化を実施した。様々なプラーク成分のパーセンテージを、全内膜プラーク領域で割った特定の各パラメーターに対する陽性領域として定量化した。壊死性コアを細胞性組織のない全プラーク領域と定義した。相対的キャップ厚を最大の内膜厚で割った肩および中央プラーク領域におけるキャップ厚の比と定義した。アテローム性動脈硬化病変内のORO陽性領域および無細胞領域に対するイメージングを光学顕微鏡を使用して行い、画像解析ソフトウェア(Optimas6.2Video Pro-32、Bedford Park、South Australia、Australia)を使用して脂質沈着の断面領域を定量化した。各マウスについて、30mm間隔で4つの断面領域において病変サイズを測定した。
【0351】
大動脈根のアテローム性動脈硬化病変のオイルレッドO染色によって、全病変サイズ(図1A)および脂質蓄積(図1B)の非常に有意な低減(それぞれ60%および70%)が明らかになった(すべてP<0.05)。
【0352】
マクロファージはアテローム性動脈硬化病変の主な要素であるので、CD68染色を行い、マクロファージの蓄積も45%に顕著に低減することが明らかになった(P<0.05;図1C)。アテローム性動脈硬化病変のさらなる評価によって、病変におけるコラーゲン沈着の50%の有意な増大が示された(P<0.05;図1D)。H&E染色によって、病変における壊死性コア領域の52%の有意な低減が明らかになった(P<0.05;図1E)。大動脈弓のアテローム性動脈硬化症も研究し、全病変、脂質およびマクロファージの蓄積の低減(それぞれ、50%、47%および60%)が明らかになった(すべてP<0.05;図1F~H)。
【0353】
脾臓、リンパ節および血液における細胞集団の解析について、フローサイトメトリー解析を実施した。脾臓、LNおよび血液のBリンパ球および非Bリンパ球集団を、BD FACS Canto-II(BD Biosciences)で、蛍光色素コンジュゲート化抗体(別段の記載がない限り、BD Pharmingen、San Diego、CA由来)を用いて解析した。B細胞については、PEコンジュゲート化抗CD19、APCコンジュゲート化抗CD5およびAPC-Cy7コンジュゲート化抗CD11b Abを使用した。非Bリンパ球集団については、パシフィックブルーコンジュゲート化抗CD4、PerCPコンジュゲート化抗CD8a、FITCコンジュゲート化抗TCR-bおよびPE-Cy7コンジュゲート化抗NK1.1Abを使用した。
【0354】
リンパ球細胞集団のフローサイトメトリー解析によって、FXIIインヒビターによる長期にわたる治療が、他のリンパ球に影響を及ぼすことなく、NKおよびNKT細胞集団を血液(図2)においてそれぞれ35%および42%、リンパ節(図3)においてそれぞれ38%および47%低減することが明らかになった(P<0.05)。
【0355】
実施例2:第XII因子インヒビター治療は動脈炎を低減し、アテローム性動脈硬化プラーク中の平滑筋細胞数を増大する
FXIIインヒビター治療がプラーク発生の推進力としての炎症を低減したかどうかを決定するための、大動脈根および大動脈弓のアテローム性動脈硬化病変における血管細胞接着分子-1(VCAM-1;クローンsc-1504、Santa Cruz)の発現に対する長期にわたるFXIIインヒビター(3F7)治療の効果を調べた。大動脈根(43%)および大動脈弓(33%)のアテローム性動脈硬化病変において、VCAM-1の発現の低減が観察された(すべてP<0.05;図4A、B)。
【0356】
H&E染色によって、アイソタイプIgGモノクローナル抗体治療対照群と比較して、3F7治療マウスにおいて大動脈根および大動脈弓のアテローム性動脈硬化病変の無細胞領域(壊死性コア)のサイズの有意な低減(それぞれ、33%および50%)も明らかになった(すべてP<0.05;図4C、D)。
【0357】
さらに、本発明者らは、α-平滑筋アクチン抗体(クローン1A4;1:100希釈;Sigma Aldrich)を使用する免疫組織化学的検査によって、アテローム性動脈硬化プラーク中の平滑筋細胞の数に対するFXIIインヒビター治療の効果を評価した。FXIIインヒビター治療は、大動脈根および大動脈弓において、アテローム性動脈硬化プラーク中の平滑筋細胞の数を増加させた(すべてP<0.05;図4E、F)。興味深いことに、大動脈根と大動脈弓のどちらの病変のコラーゲン量も変化しなかった(図4G、H)。
【0358】
すべての免疫組織化学的解析では、Vectastain ABCキットおよびDAB基質によって検出を行った。ラットIgG2B対照抗体を使用して、適用したラット抗体の染色特異性を検証した。他のアイソタイプ対照抗体(ヤギIgG、ウサギIgG)を一次抗体による各免疫染色の検証に使用した。Optimus6.2VideoPro-32を使用して抗原の発現を定量化し、染色されたセグメントを全プラーク領域のパーセンテージとして表した。
【0359】
実施例3:3F7治療はプラークの安定化をもたらす
3F7がプラークを安定化する可能性があるかどうかという疑問に特に対処するために、プラーク不安定性/破裂の最近開発された独自のマウスモデルを使用した。
【0360】
このモデルでは、雄のApoE-/-(ApoE-KO)マウスに高脂肪食を6週間与えて、樹立されたアテローム性動脈硬化症を発生させた。高脂肪食の開始から6週後の12週齢で、腹腔内注射によって、ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(10mg/kg)の混合物でApoE-KOマウスに麻酔をかけた。首に切り込みを入れ、右総頚動脈を周囲の結合組織から切断した。150μm(または450μm)の外径のタンデム狭窄を、頚動脈分岐から1mmの遠位ポイントおよび遠位狭窄から3mmの近位ポイントで導入した。6-0青色編組ポリエステル線維縫合糸を、それに縛り付けられ、後に除去される150または450μmの針とともに頸動脈の周囲に設置することによって、狭窄の径を得た。タンデム狭窄手術の直後に、FXIIインヒビターまたはIgG対照のいずれかの同じレジメンでマウスを治療すると同時に、マウスに高脂肪食をさらに7週間与えた。実施例1および2で上述したように、動物および組織を処理した。
【0361】
図5Aに示すように、セグメント1はプラーク不安定性の領域を示す。FXIIインヒビターで治療したマウスで、32%の全病変サイズの低減が観察された(図5B)。脂質およびマクロファージの蓄積も顕著に低減した(それぞれ52%および53%)(すべてP<0.05;図5C、D)。プラーク炎症の主な尺度としてのVCAM-1の発現は、3F7で治療したマウスのセグメント1において30%低減した(図5E)。プラーク不安定性のマーカーと再度みなされた壊死性コアサイズは、3F7治療によって32%低減した(図5F)。最も印象的なことは、ほぼ2.5倍という、セグメント1のアテローム性動脈硬化病変における平滑筋細胞発現の有意な増大であった(P<0.05;図5G)。興味深いことに、3F7によるFXIIaの阻害はコラーゲン阻害の変化をもたらさず、これは、様々なプラークの安定化機構に対する非常に特異的な効果を主張するものである(図5H)。
【0362】
実施例4:治療動物の脂質プロファイル
3F7または対照抗体のいずれかで治療したApoE-/-(ApoE-KO)マウスの血漿中のコレステロールプロファイル(総コレステロール、高密度リポタンパク質コレステロール、超低密度リポタンパク質/LDLコレステロールおよびトリグリセリド)を以下に記載するように測定した。
【0363】
コレステロール
Beckman Coulter Diagnostics Australiaから供給される試薬およびキャリブレーターを用いて、Beckman Coulter LX20PROアナライザーを使用する標準的な市販の酵素アッセイによって、コレステロールレベルを測定した。
【0364】
CHOL試薬を、タイムドエンドポイント方法によってコレステロール濃度を測定するのに使用した。この反応では、コレステロールエステラーゼ(CE)がコレステロールエステルを加水分解して、遊離コレステロールと脂肪酸にした。遊離コレステロールはコレステロールオキシダーゼ(CO)によって酸化されて、コレステン-3-オンと過酸化水素になった。ペルオキシダーゼが過酸化水素と4-アミノアンチピリン(4-AAP)およびフェノールの反応を触媒して、着色キノンイミン生成物を産生した。
【0365】
SYNCHRON LX(登録商標)システムによって、適切な試料および試薬量をキュベット中に自動的に配分した。使用した比率は試料1部対試薬100部であった。このシステムによって、520ナノメートルでの吸光度の変化をモニターした。吸光度のこの変化は、試料中のCHOLの濃度に正比例し、CHOL濃度を計算し、表すためにシステムによって使用した。
【0366】
HDLコレステロール
Beckman Coulter Diagnostics Australiaから供給される試薬およびキャリブレーターを用いて、Beckman Coulter LX20PROアナライザーを使用する標準的な市販の酵素アッセイによって、HDLコレステロールを測定した。
【0367】
この直接HDLコレステロール方法は、いかなるオフラインの前処理または遠心分離工程も必要ない、均一なアッセイであった。この方法は界面活性剤を使用し、これが、HDLリポタンパク質粒子のみを可溶化し、HDLコレステロールを遊離させ、これが、色素原の存在下でコレステロールエステラーゼおよびコレステロールオキシダーゼと反応して、着色生成物が産生された。同じ界面活性剤はまた、コレステロール酵素とLDL、VLDLおよびカイロミクロンリポタンパク質との反応を、これらの表面に吸着することによって阻害した。試薬中に含有されるポリアニオンは、LDL、VLDLおよびカイロミクロンリポタンパク質を複合体化することによって、HDLコレステロールアッセイに対する選択性を高めた。
【0368】
HDLD試薬を使用して、タイムドエンドポイント方法によってコレステロール濃度を測定した。SYNCHRON LX(登録商標)システムによって、適切なHDLコレステロール試料および試薬量をキュベット中に自動的に配分した。使用した比率は、試料1部対試薬93部であった。このシステムによって、560ナノメートルでの吸光度の変化をモニターした。吸光度のこの変化は、試料中のコレステロールの濃度に正比例し、HDL-コレステロール濃度を計算し、表すためにシステムによって使用された。
【0369】
トリグリセリド
Beckman Coulter Diagnostics Australiaから供給される試薬およびキャリブレーターを用いて、Beckman Coulter LX20PROアナライザーを使用する標準的な市販の酵素アッセイによって、トリグリセリドを測定した。
【0370】
トリグリセリドGPO試薬を使用して、タイムドエンドポイント方法によってトリグリセリド濃度を測定した。リパーゼの作用によって、試料中のトリグリセリドをグリセリンおよび遊離脂肪酸に加水分解した。グリセリンキナーゼ(GK)、グリセロリン酸オキシダーゼ(GPO)および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HPO)を使用する一連の3つの連動した酵素工程によって、3,5-ジクロロ-2-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(DHBS)と4-アミノアンチピリンとの酸化カップリングが生じて、赤色キノンイミン色素が形成された。
【0371】
SYNCHRON LX(登録商標)システムによって、適切な試料および試薬量をキュベット中に自動的に配分した。使用した比率は試料1部対試薬100部であった。このシステムによって、520ナノメートルでの吸光度の変化をモニターした。吸光度のこの変化は、試料中のTGの濃度に正比例し、TG濃度を計算し、表すためにシステムによって使用された。
【0372】
結果
アッセイの結果を表2に示す。これらの結果は、FXIIのインヒビター(3F7)が、コレステロールレベルを変えることなくアテローム性動脈硬化症の文脈において有益効果をもたらすことを示す。
【0373】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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