IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トプコンの特許一覧

<>
  • 特許-細隙灯顕微鏡 図1
  • 特許-細隙灯顕微鏡 図2
  • 特許-細隙灯顕微鏡 図3
  • 特許-細隙灯顕微鏡 図4
  • 特許-細隙灯顕微鏡 図5
  • 特許-細隙灯顕微鏡 図6
  • 特許-細隙灯顕微鏡 図7
  • 特許-細隙灯顕微鏡 図8
  • 特許-細隙灯顕微鏡 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】細隙灯顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/135 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
A61B3/135
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019042778
(22)【出願日】2019-03-08
(65)【公開番号】P2020141999
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-02-09
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(72)【発明者】
【氏名】水野 晃
(72)【発明者】
【氏名】山本 諭史
【合議体】
【審判長】石井 哲
【審判官】▲高▼見 重雄
【審判官】松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-159068(JP,A)
【文献】特開平11-231227(JP,A)
【文献】特開2017-121555(JP,A)
【文献】特開2011-177273(JP,A)
【文献】特開2012-249700(JP,A)
【文献】特開平6-294928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B3/00-3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリット光を被検眼に照射する照明系と、
前記被検眼を観察するための観察系であって、対物レンズと、接眼レンズと、前記対物レンズ及び前記接眼レンズの間に設けられたリレー光学系と、を備える観察系と、
前記リレー光学系に設けられ、前記スリット光とは異なる前記被検眼の観察用の特定光を前記被検眼に向けて照射する特定光照射系と、
を備える細隙灯顕微鏡。
【請求項2】
前記特定光照射系が、
前記リレー光学系に設けられた第1偏向光学素子と、
前記リレー光学系の光路外に設けられ、前記特定光を第1偏向光学素子に向けて出射する光源と、
を備え、
前記第1偏向光学素子が、前記光源から出射された前記特定光を、前記リレー光学系及び前記対物レンズを通して前記被検眼に向けて偏向する請求項1に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項3】
前記光源が、互いに異なる複数種類の前記特定光を選択的に出射する請求項2に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項4】
前記光源が、複数種類の前記特定光として、前記被検眼に照射されている前記スリット光の背景を照明するバックグラウンド光と、赤外光と、前記被検眼に投与された蛍光剤を励起発光させる励起光と、を選択的に出射する請求項3に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項5】
前記観察系が、前記対物レンズと、双眼の前記接眼レンズと、前記接眼レンズごとに前記対物レンズ及び前記接眼レンズの間に設けられた一対の前記リレー光学系と、を備え、
前記第1偏向光学素子が、一対の前記リレー光学系の一方である第1リレー光学系に設けられており、
一対の前記リレー光学系の他方である第2リレー光学系に設けられ、前記対物レンズを通過した前記被検眼の観察光の一部を、前記第2リレー光学系の光路外に偏向する第2偏向光学素子と、
前記第2リレー光学系の光路外に設けられ、前記第2偏向光学素子で偏向された前記観察光を撮像する撮像系と、
を備える請求項2から4のいずれか1項に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項6】
前記光源、前記第1偏向光学素子、前記第2偏向光学素子、及び前記撮像系が一体化されており、
前記対物レンズの光軸方向において前記第1偏向光学素子と前記第2偏向光学素子との位置が揃っている請求項5に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項7】
前記撮像系による前記観察光の撮像中に前記光源を点灯させ、且つ観察系による前記被検眼の観察中には前記光源を消灯させる光源制御部を備える請求項5又は6に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項8】
前記光源又は前記第1偏向光学素子を、前記第1偏向光学素子により前記特定光が前記被検眼に向けて偏向される偏向位置と、前記第1偏向光学素子により前記特定光が前記被検眼に向けて偏向されない退避位置と、の間で移動自在に支持する移動機構と、
前記移動機構を駆動して、前記光源又は前記第1偏向光学素子を、前記撮像系による前記観察光の撮像中には前記偏向位置に移動させ、且つ前記観察系による前記被検眼の観察中には前記退避位置に移動させる移動制御部と、
を備える請求項5又は6に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項9】
前記対物レンズから前記光源までの光路長が、前記対物レンズの焦点距離よりも短い請求項2から8のいずれか1項に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項10】
前記光源から出射された前記特定光を、前記光源と前記対物レンズとの間で一旦結像させる結像レンズを備え、
前記対物レンズから前記結像レンズによる前記特定光の結像位置までの光路長が、前記対物レンズの焦点距離よりも短い請求項2から8のいずれか1項に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項11】
前記結像レンズが、前記第1偏向光学素子と前記光源との間に設けられており且つ前記特定光を前記第1偏向光学素子に結像させる請求項10に記載の細隙灯顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明系及び観察系を備える細隙灯顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
細隙灯顕微鏡(スリットランプ又はスリットランプマイクロスコープともいう)は、眼科において被検眼の観察に用いられる。この細隙灯顕微鏡は、スリット光(細隙光ともいう)を用いて被検眼の注目部位の光切片を切り取ることによって注目部位の断面を観察したり、この断面の画像を取得したりする。
【0003】
細隙灯顕微鏡は、照明系及び観察系を備える(特許文献1参照)。照明系は、スリット幅が調整されたスリット光を被検眼に照射する。観察系は、被検眼に照射されたスリット光の戻り光を、対物レンズを通して接眼部の接眼レンズまで導く。検者は、観察系を通して被検眼の観察像を観察する。
【0004】
ところで、スリット光だけを被検眼に照射すると、例えばインフォームドコンセント時において顕微鏡で撮影した撮影画像を被検者に提示した場合に、被検者が被検眼のいずれの箇所にスリット光が照射されているのかが判り難いという問題がある。このため、細隙灯顕微鏡にはバックグラウンド光源(バックライト光源ともいう)が設けられている(特許文献2及び3参照)。このバックグラウンド光源から被検眼に向けて出射されるバックグラウンド光(バックライト光ともいう、特定光)によって、被検眼に照射されているスリット光の背景が照明される。
【0005】
特許文献2に記載の細隙灯顕微鏡では、顕微鏡の被検眼に対向する側の前面に複数のバックグラウンド光源を設けている。また、特許文献3に記載の細隙灯顕微鏡では、被検眼に対して斜め方向からバックグラウンド光を照射するバックグラウンド光源を偏向光学系に設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-177273号公報
【文献】特開2002-102173号公報
【文献】特許第5747924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2に記載の細隙灯顕微鏡では、顕微鏡の前面の全領域に複数のバックグラウンド光源が設けられているので、顕微鏡と偏向光学系の偏向光学素子との位置関係によっては、1又は複数のバックグラウンド光源から出射されたバックグラウンド光が偏向光学素子等によりケラレるおそれがある。
【0008】
また、特許文献3に記載の細隙灯顕微鏡では、バックグラウンド光源により、被検眼に対して斜め方向からバックグラウンド光を照射するので、被検眼の観察面に照度斑が生じるおそれがある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、特定光のケラレを防止し且つ被検眼の良好な観察を行うことができる細隙灯顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的を達成するための細隙灯顕微鏡は、スリット光を被検眼に照射する照明系と、被検眼を観察するための観察系であって、対物レンズと、接眼レンズと、対物レンズ及び接眼レンズの間に設けられたリレー光学系と、を備える観察系と、リレー光学系に設けられ、スリット光とは異なる特定光を被検眼に向けて照射する特定光照射系と、を備える。
【0011】
この細隙灯顕微鏡によれば、観察系から被検眼に向けて対物レンズと同軸に特定光を照射することができ、且つ検者は観察系を通して特定光が照明系によりケラレるか否かを確認することができるので、検者の意図に反して特定光がケラレることが防止される。
【0012】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、特定光照射系が、リレー光学系に設けられた第1偏向光学素子と、リレー光学系の光路外に設けられ、特定光を第1偏向光学素子に向けて出射する光源と、を備え、第1偏向光学素子が、光源から出射された特定光を、リレー光学系及び対物レンズを通して被検眼に向けて偏向する。これにより、観察系から被検眼に向けて対物レンズと同軸に特定光を照射することができ、且つ検者の意図に反して特定光がケラレることが防止される。
【0013】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、光源が、互いに異なる複数種類の特定光を選択的に出射する。これにより、複数種類の観察を実行することができる。
【0014】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、光源が、複数種類の特定光として、被検眼に照射されているスリット光の背景を照明するバックグラウンド光と、赤外光と、被検眼に投与された蛍光剤を励起発光させる励起光と、を選択的に出射する。可視光源からバックグラウンド光を出射することでスリット光の背景が照明され、赤外光源から赤外光を出射することで被検眼のマイボーム腺を鮮明に観察することができ、さらに励起光源から励起光を出射することで被検眼の蛍光観察が可能となる。
【0015】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、観察系が、対物レンズと、双眼の接眼レンズと、接眼レンズごとに対物レンズ及び接眼レンズの間に設けられた一対のリレー光学系と、を備え、第1偏向光学素子が、一対のリレー光学系の一方である第1リレー光学系に設けられており、一対のリレー光学系の他方である第2リレー光学系に設けられ、対物レンズを通過した被検眼の観察光の一部を、第2リレー光学系の光路外に偏向する第2偏向光学素子と、第2リレー光学系の光路外に設けられ、第2偏向光学素子で偏向された観察光を撮像する撮像系と、を備える。これにより、被検眼に対する特定光の照射と、被検眼の観察光の撮像と、を同時に実行することができる。また、第2偏向光学素子及び撮像系の側方に空きスペースに、第1偏向光学素子及び光源を配置することができる。その結果、観察系のリーチングディスタンスを長くすることなく、第1偏向光学素子及び光源を配置することができる。
【0016】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、光源、第1偏向光学素子、第2偏向光学素子、及び撮像系が一体化されている。これにより、観察系のリーチングディスタンスを長くすることなく、第1偏向光学素子及び光源を配置することができる。
【0017】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、撮像系による観察光の撮像中に光源を点灯させ、且つ観察系による被検眼の観察中には光源を消灯させる光源制御部を備える。これにより、観察系による被検眼の観察中において、検者が特定光を眩しく感じることが防止される。
【0018】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、光源又は第1偏向光学素子を、第1偏向光学素子により特定光が被検眼に向けて偏向される偏向位置と、第1偏向光学素子により特定光が被検眼に向けて偏向されない退避位置と、の間で移動自在に支持する移動機構と、移動機構を駆動して、光源又は第1偏向光学素子を、撮像系による観察光の撮像中には偏向位置に移動させ、且つ観察系による被検眼の観察中には退避位置に移動させる移動制御部と、を備える。これにより、観察系による被検眼の観察中において、検者が特定光を眩しく感じることが防止される。
【0019】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、対物レンズから光源までの光路長が、対物レンズの焦点距離よりも短い。これにより、被検眼に照射される特定光を拡散照明にすることができる。
【0020】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、光源から出射された特定光を、光源と対物レンズとの間で一旦結像させる結像レンズを備え、対物レンズから結像レンズによる特定光の結像位置までの光路長が、対物レンズの焦点距離よりも短い。これにより、被検眼に照射される特定光を拡散照明にすることができ、且つ観察系における光源の配置の自由度を増やすことができる。
【0021】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、結像レンズが、第1偏向光学素子と光源との間に設けられており且つ特定光を第1偏向光学素子に結像させる。これにより、被検眼に照射される特定光を拡散照明にすることができ、且つ観察系における光源の配置の自由度を増やすことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、特定光のケラレを防止し且つ被検眼の良好な観察を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態の細隙灯顕微鏡の側面図である。
図2】上方側から見た顕微鏡の光学系の配置を示す光学配置図である。
図3図2中の第2リレー光学系の第2ビームスプリッタをその側方側から見た側面図である。
図4図2中の第1リレー光学系の第1ビームスプリッタをその側方側から見た側面図である。
図5】細隙灯顕微鏡の制御装置の機能ブロック図である。
図6】第2実施形態の細隙灯顕微鏡における顕微鏡の第1リレー光学系、光源、及び集光レンズの側面図である。
図7】第3実施形態の光源制御部による光源のオンオフ制御の流れを示すフローチャートである。
図8】第4実施形態の細隙灯顕微鏡における顕微鏡の第1リレー光学系、光源、及び集光レンズの側面図である。
図9】第5実施形態の細隙灯顕微鏡における顕微鏡の第1リレー光学系、光源、及び結像レンズの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施形態の細隙灯顕微鏡]
図1は、第1実施形態の細隙灯顕微鏡10の側面図である。図1に示すように、細隙灯顕微鏡10は、所謂Zeiss式(Littman式)であり、ベース12と、顔支持部材14と、電動駆動部16と、可動テーブル18と、操作レバー20と、第1の支持部材22と、顕微鏡支持アーム24と、回動軸26と、第2の支持部材28と、回動軸30と、照明系32と、顕微鏡34と、手元操作部38と、を備える。
【0025】
ベース12は、不図示の検眼テーブル上に載置されている。このベース12の上面で且つ被検者(被検眼E側)の前端部には顔支持部材14が設けられている。また、ベース12の上面には、電動駆動部16及び手元操作部38が設けられていると共に、可動テーブル18が水平方向(前後方向及び左右方向)に移動自在に保持されている。なお、前後方向は被検者に近づく前方向と被検者から遠ざかる後方向であり、左右方向は被検者の眼幅方向である。
【0026】
顔支持部材14は、ベース12に固定され且つ上下方向に延びた一対の支柱14aと、一対の支柱14aの上下方向の中間部に設けられた顎受14bと、一対の支柱14aの上下方向の上端部に設けられた額当14cと、を有する。被検者が顎受14bに顎を載せると共に額当14cに額を当てることで、被検者の顔が顔支持部材14により支持される。これにより、被検眼Eの位置が固定される。
【0027】
電動駆動部16は、ベース12上で可動テーブル18を水平方向(前後方向及び左右方向)に移動させる移動機構である。また、可動テーブル18の上面で且つ後方向側(検者側)の後端部には操作レバー20が設けられている。さらに、可動テーブル18の上面には、第1の支持部材22が上下方向に移動可能(昇降可能)に設けられている。
【0028】
電動駆動部16は、不図示の複数のモータと、各モータの回転をそれぞれ水平方向及び上下方向の駆動力に変換する不図示の駆動伝達機構と、を備えている。この電動駆動部16は、操作レバー20の操作に応じて可動テーブル18を水平方向に移動させると共に、第1の支持部材22を上下方向に移動させる。これにより、被検眼Eに対する第1の支持部材22(照明系32及び顕微鏡34)の位置調整が可能となる。
【0029】
操作レバー20は、第1の支持部材22(照明系32及び顕微鏡34)を水平方向と上下方向とにそれぞれ手動で移動操作するための操作部材である。例えば、操作レバー20を前後方向又は左右方向に傾倒操作することで、電動駆動部16が可動テーブル18を前後方向又は左右方向に移動させる。また、操作レバー20の軸線周りの回動操作により、電動駆動部16が第1の支持部材22を上下方向に移動させる。なお、操作レバー20の頂部には、撮影等に用いるスイッチ20aが設けられている。
【0030】
第1の支持部材22には顕微鏡支持アーム24が配設されている。この顕微鏡支持アーム24は、水平アーム部24aと鉛直アーム部24bとを有しており、略L字状に形成されている。
【0031】
水平アーム部24aの前方向側の端部は、上下方向に延びた回動軸26を介して、第1の支持部材22上に水平回動可能に取り付けられている。また、この水平アーム部24a上には、回動軸26の延長線上に位置する回動軸30を介して、第2の支持部材28が水平回動可能に取り付けられている。
【0032】
なお、回動軸26を中心とした顕微鏡支持アーム24の水平回動、及び回動軸30を中心とした第2の支持部材28の水平回動は、検者の手動操作で行ったり或いは不図示の電動回動機構を用いて電動で行ったりしてもよい。
【0033】
鉛直アーム部24bの上端部には顕微鏡34が取り付けられている。また、第2の支持部材28には照明系32が設けられている。
【0034】
照明系32は、細隙灯44及び偏向光学系46を備える。細隙灯44は、偏向光学系46に向けてスリット光を出射する。偏向光学系46は、細隙灯44の上方位置に設けられており、且つ細隙灯44よりも上方位置に設けられた偏向光学素子48を有する。偏向光学素子48は、例えばミラー(反射鏡)又はプリズム等であり、細隙灯44から出射されたスリット光を被検眼Eに向けて偏向(反射を含む)する。なお、本実施形態では、偏向光学素子38としてプリズムを用いる。これにより、被検眼Eに対してスリット光が照射される。なお、細隙灯44及び偏向光学系46は図1に示したものに限定されるものでなく、Zeiss式の細隙灯顕微鏡10で用いられるものであれば、その形状、構造、及び配置は特に限定されない。
【0035】
照明系32は、回動軸30を中心として第2の支持部材28と一体に水平回動される。これにより、被検眼Eに対するスリット光の照射方向を調整することができる。
【0036】
顕微鏡34は、本発明の観察系に相当するものであり、照明系32からのスリット光が照射されている被検眼Eの観察、或いは後述の光源80(図4参照)からのバックグラウンド光が照射されている被検眼Eの観察に用いられる。この顕微鏡34の前方向側(被検眼E側)の前端部には対物レンズ50が設けられ、且つ後方向側(検者側)の後端部には接眼レンズ52が設けられている。図1中の符号LAは、顕微鏡34の対物レンズ50の光軸(観察軸)である。
【0037】
顕微鏡34は、回動軸26を中心として顕微鏡支持アーム24と一体に水平回動される。これにより、顕微鏡34による被検眼Eの観察方向を調整することができる。また、顕微鏡34には、顕微鏡34の光学系を介して被検眼Eを撮影するデジタルカメラ56(本発明の撮像系に相当)が設けられている。
【0038】
ベース12の上面で且つ後方向側(検者側)の後端部には、手元操作部38が設けられている。この手元操作部38は、詳しくは後述するが、検者による細隙灯44のオンオフ操作及び光量調整操作と、後述の光源80(図4参照)のオンオフ操作及び光量調整操作と、に用いられる。
【0039】
図2は、上方側から見た顕微鏡34の光学系の配置を示す光学配置図である。図2に示すように、顕微鏡34は、対物レンズ50と、双眼の接眼レンズ52と、接眼レンズ52ごとに設けられた一対の第1リレー光学系60及び第2リレー光学系62と、を備える。双眼の接眼レンズ52の一方は左眼用であり且つ他方は右眼用である。なお、図中の符号LB1は検者の左眼用の接眼レンズ52の光軸であり、図中の符号LB2は検者の右眼用の接眼レンズ52の光軸である。
【0040】
第1リレー光学系60は、被検眼Eから対物レンズ50に入射した被検眼Eの観察光を左眼用の接眼レンズ52まで導く光学系(光路)である。なお、被検眼Eの観察光には、照明系32から被検眼Eに照射されたスリット光の戻り光、及び後述の光源80(図4参照)から被検眼Eに照射されたバックグラウンド光等の特定光の戻り光などが含まれる。この第1リレー光学系60は、公知の変倍光学系66、絞り68、及びプリズムユニット70の他に、本発明の第1偏向光学素子に相当する第1ビームスプリッタ72を備える。
【0041】
第2リレー光学系62は、被検眼Eから対物レンズ50に入射した被検眼Eの観察光を右眼用の接眼レンズ52まで導く光学系(光路)である。この第2リレー光学系62は、変倍光学系66、絞り68、及びプリズムユニット70の他に、本発明の第2偏向光学素子に相当する第2ビームスプリッタ74を備える。
【0042】
図3は、図2中の第2リレー光学系62の第2ビームスプリッタ74をその側方側から見た側面図である。なお、図3では、第2ビームスプリッタ74以外の第2リレー光学系62の各部については図示を省略している。
【0043】
図3に示すように、第2ビームスプリッタ74の下方向側であって且つ第2リレー光学系62の光路外には、既述のデジタルカメラ56が設けられている。第2ビームスプリッタ74は、対物レンズ50を通過した被検眼Eの観察光の一部をデジタルカメラ56に向けて偏向すると共に、この観察光の残りを透過して右眼用の接眼レンズ52に向けて出射する。
【0044】
デジタルカメラ56は、結像レンズ56aと、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型又はCCD(Charge Coupled Device)型の撮像素子56bと、を有する。結像レンズ56aは、第2ビームスプリッタ74により偏向された被検眼Eの観察光を撮像素子56bの撮像面に結像させる。撮像素子56bは、結像レンズ56aを通して結像された被検眼Eの観察光を撮像して、被検眼Eの撮像画像データを出力する。
【0045】
図4は、図2中の第1リレー光学系60の第1ビームスプリッタ72をその側方側から見た側面図である。なお、図4では、第1ビームスプリッタ72以外の第1リレー光学系60の各部については図示を省略している。
【0046】
図4及び既述の図2に示すように、第1ビームスプリッタ72の下方向側であって且つ第1リレー光学系60の光路外には、光源80及び集光レンズ82が設けられている。これら第1ビームスプリッタ72、光源80、集光レンズ82は、本発明の特定光照射系を構成する。
【0047】
光源80は、集光レンズ82を通して、例えば白色光等の可視光の波長域の光であるバックグラウンド光を第1ビームスプリッタ72に向けて出射する。このバックグラウンド光は、本発明の特定光に相当する。
【0048】
第1ビームスプリッタ72は、対物レンズ50から入射した被検眼Eの観察光の少なくとも一部を透過して左眼用の接眼レンズ52に向けて出射する。また、第1ビームスプリッタ72は、集光レンズ82を通して光源80から入射したバックグラウンド光を、第1リレー光学系60及び対物レンズ50を通して被検眼Eに向けて偏向する。これにより、顕微鏡34から被検眼Eに向けて光軸LAと同軸にバックグラウンド光が照射される(図2中の符号BGL参照)。その結果、被検眼Eに照射されているスリット光の背景がバックグラウンド光により照明される。このため、例えばインフォームドコンセント時においてデジタルカメラ56で撮影した被検眼Eの撮像画像データを被検者に提示する場合に、被検眼Eのいずれの箇所にスリット光が照射されているのかを被検者に容易に認識させることができる。
【0049】
またこの際に、検者は顕微鏡34を通した被検眼Eの観察を事前又は同時に実行している。このため、検者は、顕微鏡34の観察視野内に偏向光学素子48が存在する場合には、この偏向光学素子48が観察の妨げにならないように照明系32と顕微鏡34との位置調整(各々の水平回動操作)を行っている。その結果、検者の意図に反して光軸LA上に偏向光学素子48が存在することでこの偏向光学素子48によりバックグラウンド光がケラレることが防止される。すなわち、検者の意図に反してバックグラウンド光がケラレることが防止される。
【0050】
さらに、バックグラウンド光は、顕微鏡34からその光軸LAと同軸に出射されるので、スリット光の背景をバックグラウンド光により照明する際に照明ムラ(照度斑)の発生が抑えられる。さらにまた、顕微鏡34を水平回動させた場合であっても被検眼Eへの均質なバックグラウンド光の照明が確保される。
【0051】
第1ビームスプリッタ72、光源80、及び集光レンズ82は、第2ビームスプリッタ74及びデジタルカメラ56の側方位置の空きスペースに配置されると共に、第2ビームスプリッタ74及びデジタルカメラ56と一体化されている。このため、顕微鏡34には、第1ビームスプリッタ72、光源80、及び集光レンズ82と、第2ビームスプリッタ74及びデジタルカメラ56と、を含む撮像・光源ユニット84(図2参照)が設けられている。
【0052】
このように顕微鏡34に第2ビームスプリッタ74及びデジタルカメラ56が設けられている場合には、これらの側方の空きスペースを活用することで、顕微鏡34のリーチングディスタンスを長くすることなく、顕微鏡34に第1ビームスプリッタ72、光源80、及び集光レンズ82を設けることができる。なお、リーチングディスタンスとは、接眼レンズ52(検者眼)から対物レンズ50(被検眼E)までの距離である。また、第1ビームスプリッタ72、光源80、及び集光レンズ82と、第2ビームスプリッタ74及びデジタルカメラ56と、を撮像・光源ユニット84に一体化(1ユニット化)することで、省スペース化及びコンパクト化が図れる。
【0053】
また、本実施形態では、対物レンズ50から第1ビームスプリッタ72までの距離D1と第1ビームスプリッタ72から光源80までの距離D2との合計値を、対物レンズ50から光源80までの光路長とした場合に、この光路長を対物レンズ50の焦点距離よりも短くしている。これにより、光源80から集光レンズ82、第1ビームスプリッタ72、及び対物レンズ50等を経て被検眼Eに照射されるバックグラウンド光を拡散照明にすることができる。その結果、バックグラウンド光により被検眼Eを均一(略均一を含む)に照明することができる。
【0054】
図5は、細隙灯顕微鏡10の制御装置90の機能ブロック図である。図5に示すように、制御装置90は、例えば可動テーブル18内に設けられており(細隙灯顕微鏡10の外部でも可)、細隙灯顕微鏡10の各部の動作を統括的に制御する。この制御装置90は、例えばパーソナルコンピュータのような演算装置であり、各種のプロセッサ(Processor)及びメモリ等から構成された演算回路を備える。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、制御装置90の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0055】
制御装置90は、不図示の制御プログラムを実行することで、電動駆動制御部92、光源制御部94、及び撮像制御部96として機能する。
【0056】
電動駆動制御部92は、検者による操作レバー20に対する入力操作に応じて、電動駆動部16の駆動を制御する。電動駆動制御部92は、操作レバー20の前後方向又は左右方向の傾倒操作に応じて、電動駆動部16を駆動して可動テーブル18を前後方向又は左右方向に移動させ、且つ操作レバー20の軸線周りの回動操作に応じて、電動駆動部16を駆動して第1の支持部材22を上下方向に移動させる。
【0057】
光源制御部94は、検者による手元操作部38に対する細隙灯44のオンオフ(点灯/消灯)操作及びスリット光の光量調整操作の入力に応じて、細隙灯44のオンオフを切り替えると共に細隙灯44から出射されるスリット光の光量調整を行う。また、光源制御部94は、検者による手元操作部38に対する光源80のオンオフ操作及びスリット光の光量調整操作の入力に応じて、光源80のオンオフを切り替えると共に光源80から出射されるバックグラウンド光の光量調整を行う。
【0058】
撮像制御部96は、検者による操作レバー20のスイッチ20aのオン操作(撮像開始操作)に応じて、デジタルカメラ56(撮像素子56b)による被検眼Eの観察光の撮像を実行させる。これにより、デジタルカメラ56から制御装置90に対して、観察光の撮像画像データが出力される。この撮像画像データは、例えば、被検者に対するインフォームドコンセント時において被検者に対して提示される。
【0059】
[本実施形態の効果]
以上のように本実施形態では、第1ビームスプリッタ72の下方向側に光源80及び集光レンズ82を設け、光源80から出射されたバックグラウンド光を第1リレー光学系60及び対物レンズ50等を通して被検眼Eに向けて偏向することができる。その結果、顕微鏡34から被検眼Eに向けて光軸LAと同軸にバックグラウンド光を照射することができる。これにより、バックグラウンド光を被検眼Eに対して水平(略水平を含む)に入射させることができ、被検眼Eの観察面に照度斑が生じることが防止される。また、検者は、事前に顕微鏡34を通してその視野範囲内を確認することで、バックグラウンド光が偏向光学素子48によりケラレないように照明系32と顕微鏡34との位置調整を行うことができるので、検者の意図に反してバックグラウンド光が偏向光学素子48等によりケラレることが防止される。その結果、被検眼Eに照射されるバックグラウンド光のケラレを防止し且つ被検眼Eの良好な観察を行うことができる。
【0060】
また、本実施形態では、第1ビームスプリッタ72、光源80、及び集光レンズ82と、第2ビームスプリッタ74及びデジタルカメラ56と、を撮像・光源ユニット84に1ユニット化することで、省スペース化及びコンパクト化が図れると共に、リーチングディスタンスの増加が防止される。
【0061】
[第2実施形態の細隙灯顕微鏡]
図6は、第2実施形態の細隙灯顕微鏡10における顕微鏡34の第1リレー光学系60、光源80、及び集光レンズ82の側面図である。上記第1実施形態の顕微鏡34の光源80はバックグラウンド光のみを出射するが、第2実施形態の光源80は互いに異なる複数種類(ここでは3種類)の特定光を選択的に出射する。なお、第2実施形態の細隙灯顕微鏡10は、光源80が3種類の特定光を出射する点を除けば、上記第1実施形態の細隙灯顕微鏡10と基本的に同じ構成であるので、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0062】
図6に示すように、第2実施形態の光源80には、可視光源80a、赤外光源80b(赤外線光源ともいう)、及び励起光源80c(蛍光用光源ともいう)を含む3種類の光源が設けられている。これら可視光源80a、赤外光源80b、及び励起光源80cとしては、例えばLED(light emitting diode)光源が用いられる。
【0063】
可視光源80aは、上記実施形態と同様にバックグラウンド光を出射する。これにより、集光レンズ82、第1リレー光学系60、及び対物レンズ50を通して被検眼Eにバックグラウンド光が照射され、既述の通り被検眼Eに照射されているスリット光の背景がバックグラウンド光により照明される。
【0064】
赤外光源80bは、本発明の特定光として、赤外波長域の光である赤外光(近赤外光を含む)を出射する。これにより、集光レンズ82、第1リレー光学系60、及び対物レンズ50を通して被検眼Eに赤外光が照射される。このように被検眼Eを赤外光で照明することで、顕微鏡34を通して、被検眼Eのマイボーム腺を鮮明に観察することができる。
【0065】
励起光源80cは、本発明の特定光として、公知の蛍光剤であるフルオレセインを励起発光させる励起光(例えば波長470nmの青色光)を出射する。これにより、集光レンズ82、第1リレー光学系60、及び対物レンズ50を通して被検眼Eに励起光が照射される。蛍光剤が投与されている被検眼Eに対して、励起光を照射して蛍光剤を励起発光させることで、顕微鏡34を用いた被検眼Eの蛍光観察及び蛍光撮影が可能となる。その結果、被検眼Eの表面状態を容易に観察することができる。この際に、本実施形態では光源80に蛍光観察専用の励起光源80cを設けることで、従来の細隙灯顕微鏡10に設けられているような白色光を励起光に変換するフィルター機構が不要となり、省スペース化及び省コスト化が図れる。
【0066】
なお、赤外光源80bからの赤外光の出射時、及び励起光源80cからの励起光の出射時には、照明系32からのスリット光の照射は停止される。また、上記第1実施形態の図4に示したように、対物レンズ50から光源80までの光路長を、対物レンズ50の焦点距離よりも短くすることで、赤外光及び励起光についても拡散照明にすることができる。
【0067】
第2実施形態の光源制御部94は、手元操作部38に入力されたオンオフ操作及び光量調整操作に基づき、オンオフ操作に対応する光源のオンオフを切り替えると共に、光量調整操作に対応する光源から出射される特定光の光量を調整する。このように第2実施形態では、検者が手元操作部38を操作することで、光源ごとに独立してオンオフと光量調整とが可能になる。これにより、光源の切替及び光量調整等を、手動操作(例えばフィルター切り替え等)で行う場合と比較して簡単に実行することができる。
【0068】
なお、第2実施形態の光源80(可視光源80a、赤外光源80b、及び励起光源80c)は、被検眼Eに対して互いに異なる3種類の光(可視光、赤外光、及び励起光)を選択的に照射しているが、2種類以上の光源から同時に光を被検眼Eに照射してもよい。例えば光源80に赤色光源、緑色光源、及び青色光源が設けられている場合には、各色光源の光量を適宜調整することで、被検眼Eに照射される光の色調を任意に調整することができる。
【0069】
また、第2実施形態の光源80には、可視光源80a、赤外光源80b、及び励起光源80cがそれぞれ1つずつ設けられているが、それぞれ2以上設けられていてもよい。さらに、第2実施形態の光源80には、可視光源80a、赤外光源80b、及び励起光源80cの計3種類の光源が設けられているが、光源の種類は2種類又は4種類以上であってもよい。
【0070】
[第3実施形態の細隙灯顕微鏡]
上記各実施形態では、照明系32から被検眼Eへのスリット光の照射に合せて、光源80から出射されたバックグラウンド光を、集光レンズ82、第1リレー光学系60、及び対物レンズ50を通して被検眼Eに照射している。この際に、バックグラウンド光の一部が第1リレー光学系60及び対物レンズ50により検者眼に向けて反射されることで検者が眩しく感じる場合がある。そこで、第3実施形態の細隙灯顕微鏡10では、被検眼Eに対するバックグラウンド光の照射が必要なタイミングのみ、すなわちデジタルカメラ56による被検眼Eの観察光の撮像中にのみ、光源80からのバックグラウンド光の出射を行う。
【0071】
なお、第3実施形態の細隙灯顕微鏡10は、上記各実施形態の細隙灯顕微鏡10と基本的に同じ構成であるので、上記各実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0072】
図7は、第3実施形態の光源制御部94による光源80のオンオフ制御の流れを示すフローチャートである。図7に示すように、第3実施形態の光源制御部94は、操作レバー20のスイッチ20aが押下されていない状態、すなわち検者が顕微鏡34による被検眼Eを行っている観察中には、光源80をオフ(消灯)させる(ステップS1,S2)。これにより、バックグラウンド光の一部が検者眼に入射することが防止される。
【0073】
一方、光源制御部94は、操作レバー20のスイッチ20aが押下されている状態、すなわちデジタルカメラ56による被検眼Eの観察光の撮像を行っている撮像中には、光源80をオン(点灯)させる(ステップS1,S3)。これにより、被検眼Eに照射されているスリット光の背景がバックグラウンド光により照明されるので、既述の通り被検眼Eのいずれの箇所にスリット光が照射されているのかを被検者に容易に認識させることができる。以下、細隙灯顕微鏡10による観察及び撮像が終了するまで、上述のステップS1からステップS3までの処理が繰り返し実行される(ステップS4)。
【0074】
このように第3実施形態では、デジタルカメラ56による撮像中にのみ光源80をオンさせ、且つ顕微鏡34による被検眼Eの観察中には光源80をオフさせるようにしたので、検者が観察中(被検眼Eに対するバックグラウンド光の照射が不要なタイミング)にバックグラウンド光を眩しく感じることが防止される。
【0075】
[第4実施形態の細隙灯顕微鏡]
図8は、第4実施形態の細隙灯顕微鏡10における顕微鏡34の第1リレー光学系60、光源80、及び集光レンズ82の側面図である。この第4実施形態では、上記第3実施形態とは異なる方法を用いて、検者が顕微鏡34による被検眼Eの観察中にバックグラウンド光を眩しく感じることを防止する。
【0076】
図8に示すように、第4実施形態の細隙灯顕微鏡10は、顕微鏡34が移動機構100を備えると共に、制御装置90が移動制御部102として機能する点を除けば、上記各実施形態の細隙灯顕微鏡10と基本的に同じ構成である。このため、上記各実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0077】
移動機構100は、第1ビームスプリッタ72を、第1ビームスプリッタ72によりバックグラウンド光が被検眼Eに向けて偏向される偏向位置(図中、実線で表示)と、第1ビームスプリッタ72によりバックグラウンド光が被検眼Eに向けて偏向されない退避位置(図中、2点鎖線で表示)と、の間で移動自在に支持する。ここで、偏向位置とは、例えば、第1リレー光学系60の光路と光源80の出射光軸との交点であり、退避位置とは偏向位置から任意の方向にずれた位置である。なお、図中では、退避位置が、偏向位置に対して上方向側にずれた位置であるが、下方向側、前方向側、及び後方向側のいずれの方向にずれていてもよい。
【0078】
移動制御部102は、デジタルカメラ56による観察光の撮像中には、移動機構100を駆動して第1ビームスプリッタ72を偏向位置に移動させる。これにより、光源80から出射されたバックグラウンド光が、集光レンズ82、第1リレー光学系60、及び対物レンズ50を通して被検眼Eに照射される。
【0079】
一方、移動制御部102は、顕微鏡34による被検眼Eの観察中には、移動機構100を駆動して第1ビームスプリッタ72を退避位置に移動させる。これにより、光源80から出射されたバックグラウンド光の一部が検者眼に向けて反射されることが防止される。
【0080】
このように第4実施形態では、デジタルカメラ56による撮像中には第1ビームスプリッタ72を偏向位置に移動させ、且つ顕微鏡34による被検眼Eの観察中には第1ビームスプリッタ72を退避位置に移動させるようにしたので、上記第3実施形態と同様の効果が得られる。
【0081】
なお、上記第4実施形態では、移動機構100により第1ビームスプリッタ72を偏向位置と退避位置との間で移動させているが、光源80を偏向位置と退避位置との間で移動させるようにしてもよい。この場合の偏向位置とは、光源80から出射されたバックグラウンド光が第1ビームスプリッタ72により被検眼Eに向けて偏向される位置である。また、退避位置とは、光源80から出射されたバックグラウンド光が第1ビームスプリッタ72により被検眼Eに向けて偏向されない位置、例えば光源80から第1ビームスプリッタ72に対してバックグラウンド光が照射されない位置である。
【0082】
[第5実施形態の細隙灯顕微鏡]
図9は、第5実施形態の細隙灯顕微鏡10における顕微鏡34の第1リレー光学系60、光源80、及び結像レンズ82Aの側面図である。既述の図4に示したように、上記第1実施形態では、被検眼Eに照射されるバックグラウンド光を拡散照明にするために、対物レンズ50から光源80までの光路長を対物レンズ50の焦点距離よりも短くしている。これに対して、第5実施形態では、対物レンズ50から第1ビームスプリッタ72までの光路長(距離D1)を対物レンズ50の焦点距離よりも短くすることで、被検眼Eに照射されるバックグラウンド光を拡散照明にする。
【0083】
なお、第5実施形態の細隙灯顕微鏡10は、集光レンズ82の代わりに、結像レンズ82Aを備える点を除けば、上記各実施形態の細隙灯顕微鏡10と基本的に同じ構成である。このため、上記各実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0084】
図9に示すように、結像レンズ82Aは、光源80から出射されたバックグラウンド光(赤外光及び励起光も同様)を、第1ビームスプリッタ72の接合面に結像させる。この場合、第1ビームスプリッタ72の接合面が本発明の結像位置に相当する。そして、バックグラウンド光を第1ビームスプリッタ72の接合面に一旦結像させることにより、対物レンズ50から第1ビームスプリッタ72までの光路長(距離D1)を対物レンズ50の焦点距離よりも短くすることで、バックグラウンド光を拡散照明にすることができる。これにより、顕微鏡34における光源80の配置の自由度を増やすことができる。
【0085】
なお、上記第5実施形態では、結像レンズ82Aによるバックグラウンド光の結像位置を第1ビームスプリッタ72の接合面に設定しているが、光源80と対物レンズ50との間の位置であれば上述の結像位置については特に限定はされない。
【0086】
[その他]
上記各実施形態では、本発明の第1偏向光学素子及び第2偏向光学素子として、ビームスプリッタ(第1ビームスプリッタ72及び第2ビームスプリッタ74)を例に挙げて説明しているが、例えばハーフミラーのような光を分割及び重ね合わせ可能な各種の光学素子を用いてもよい。
【0087】
上記各実施形態では、第1リレー光学系60に第1ビームスプリッタ72、光源80、及び集光レンズ82を配置し且つ第2リレー光学系62に第2ビームスプリッタ74及びデジタルカメラ56を配置しているが、第1リレー光学系60にデジタルカメラ56等を配置し且つ第2リレー光学系62に光源80等を配置してもよい。
【0088】
上記各実施形態では、本発明の特定光照射系として第1ビームスプリッタ72、光源80、及び集光レンズ82を例に挙げて説明したが、第1リレー光学系60の光路上(光軸上)又はその近傍に配置された透過型の照明装置[例えば、有機EL(electro-luminescence)ディスプレイ等]を用いて上述の各種特定光を被検眼Eに照射してもよい。
【0089】
上記各実施形態では、Zeiss式(Littman式)の細隙灯顕微鏡10を例に挙げて説明を行ったが、例えば、照明系32が偏向光学素子48の上方に設けられている公知のHaag式(Goldmann式)の細隙灯顕微鏡10にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10…細隙灯顕微鏡,
32…照明系,
34…顕微鏡,
38…手元操作部,
44…細隙灯,
46…偏向光学系,
48…偏向光学素子,
50…対物レンズ,
52…接眼レンズ,
56…デジタルカメラ,
56a…結像レンズ,
56b…撮像素子,
60…第1リレー光学系,
62…第2リレー光学系,
72…第1ビームスプリッタ,
74…第2ビームスプリッタ,
80…光源,
80a…可視光源,
80b…赤外光源,
80c…励起光源,
82…集光レンズ,
82A…結像レンズ,
84…撮像・光源ユニット,
90…制御装置,
92…電動駆動制御部,
94…光源制御部,
96…撮像制御部,
100…移動機構,
102…移動制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9