(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】アクリロニトリル合成触媒、アクリロニトリル合成触媒の製造方法及びアクリロニトリルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/30 20060101AFI20240319BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20240319BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240319BHJP
C07C 253/24 20060101ALI20240319BHJP
C07C 255/08 20060101ALI20240319BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
B01J23/30 Z
B01J37/00 F
B01J37/08
C07C253/24
C07C255/08
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2019060995
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-12-02
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩貝 和幸
(72)【発明者】
【氏名】舘野 恵理
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】増山 淳子
【審判官】松井 裕典
(56)【参考文献】
【文献】特許第5190994号公報(JP,B2)
【文献】特開2004-231509(JP,A)
【文献】特開2002-320853(JP,A)
【文献】特表2007-530257(JP,A)
【文献】特開2000-229929(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0192966(US,A1)
【文献】米国特許第6383978(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 253/24
C07C 255/08
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の組成式(1)で表される金属酸化物を有する、アクリロニトリル合成触媒:
Mo
1V
aSb
bNb
cW
dCe
eM
fO
n (1)
(式(1)中、MはLi及びCaの少なくとも一方であり、a、b、c、d、e及びfは、Mo1原子当たりの原子比を表し、かつ、0.1≦a<0.3、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0.001≦d≦0.4、0≦e≦0.2、1.0≦b/a<1.5、及び0.0001≦f≦0.012を満たし、ここで、nは存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数である。)
【請求項2】
前記組成式(1)において、0.0012≦f≦0.01である、請求項1に記載のアクリロニトリル合成触媒。
【請求項3】
前記金属酸化物を担持するシリカを有し、前記金属酸化物と前記シリカの合計量に対するシリカ含有量が、SiO
2換算で、20~70質量%である、請求項1又は2に記載のアクリロニトリル合成触媒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のアクリロニトリル合成触媒の製造方法であって、
Mo、V、Sb、W及びNbを含む第1のスラリーを調製する工程と、
前記第1のスラリーに、Li及びCaの少なくとも一方を含むアルカリ化合物を添加して第2のスラリーを調製する工程と、
前記第2のスラリーを噴霧乾燥して乾燥粒子を得る乾燥工程と、
前記乾燥粒子を焼成する焼成工程と、
を含む、アクリロニトリル合成触媒の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ化合物におけるアルカリのカウンターアニオンがOH
-である、請求項4に記載のアクリロニトリル合成触媒の製造方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のアクリロニトリル合成触媒を用いる、アクリロニトリルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリロニトリル合成触媒、アクリロニトリル合成触媒の製造方法及びアクリロニトリルの製造方法に関する。
【0002】
従来、プロピレン又はイソブチレンを気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化して対応する不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造する方法がよく知られている。近年、プロピレン又はイソブチレンに替わって、プロパン又はイソブタンを気相接触酸化又は気相接触アンモ酸化によって対応する不飽和カルボン酸又は不飽和ニトリルを製造する方法が着目されており、種々の触媒及び反応方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1において、SbとMoとVとNbとMn及び/又はWとを適切な組成で含む触媒を用いることにより、長時間高収率を安定して維持できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の触媒は、前述の必須元素の他、アルカリ土類金属及び希土類金属からなる群より選択される任意元素を広く含有することができ、その含有量としてもMo1原子当たりの原子比で0~1と広く許容するものであり、さらに、任意元素を含む態様として具体的に開示されているものは、Ceを原子比0.01で含有する触媒である。かかる触媒については、高収率を長期間維持する観点からは改善がみられるものの、選択率と活性(転化率)のバランスの観点からは更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明は、以上の従来技術が有する問題点に鑑みなされたものであり、選択率と活性(転化率)のバランスの観点から高い性能を有するアクリロニトリル合成触媒、アクリロニトリル合成触媒の製造方法及びアクリロニトリルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、触媒中の必須元素として、SbとMoとVとNbとWに加え、Li及び/又はCaを選択し、さらに、Li及び/又はCaの含有量を所定の範囲に調整することにより、当該課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]
下記の組成式(1)で表される金属酸化物を有する、アクリロニトリル合成触媒:
Mo1VaSbbNbcWdCeeMfOn (1)
(式(1)中、MはLi及びCaの少なくとも一方であり、a、b、c、d、e及びfは、Mo1原子当たりの原子比を表し、かつ、0.1≦a<0.3、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0.001≦d≦0.4、0≦e≦0.2、1.0≦b/a<1.5、及び0.0001≦f≦0.012を満たし、ここで、nは存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数である。)
[2]
前記組成式(1)において、0.0012≦f≦0.01である、[1]に記載のアクリロニトリル合成触媒。
[3]
前記金属酸化物を担持するシリカを有し、前記金属酸化物と前記シリカの合計量に対するシリカ含有量が、SiO2換算で、20~70質量%である、[1]又は[2]に記載のアクリロニトリル合成触媒。
[4]
Mo、V、Sb、W及びNbを含む第1のスラリーを調製する工程と、
前記第1のスラリーに、Li及びCaの少なくとも一方を含むアルカリ化合物を添加して第2のスラリーを調製する工程と、
前記第2のスラリーを噴霧乾燥して乾燥粒子を得る乾燥工程と、
前記乾燥粒子を焼成する焼成工程と、
を含む、アクリロニトリル合成触媒の製造方法。
[5]
前記アルカリ化合物におけるアルカリのカウンターアニオンがOH-である、[4]に記載のアクリロニトリル合成触媒の製造方法。
[6]
[1]~[3]のいずれかに記載のアクリロニトリル合成触媒を用いる、アクリロニトリルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、選択率と活性(転化率)のバランスの観点から高い性能を有するアクリロニトリル合成触媒、アクリロニトリル合成触媒の製造方法及びアクリロニトリルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0011】
[アクリロニトリル合成触媒]
本実施形態のアクリロニトリル合成触媒は、下記の組成式(1)で表される金属酸化物を有する:
Mo1VaSbbNbcWdCeeMfOn (1)
(式(1)中、MはLi及びCaの少なくとも一方であり、a、b、c、d、e及びfは、Mo1原子当たりの原子比を表し、かつ、0.1≦a<0.3、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0.001≦d≦0.4、0≦e≦0.2、1.0≦b/a<1.5、及び0.0001≦f≦0.012を満たし、ここで、nは存在する他の元素の原子価要求を満足させるのに必要な酸素の原子数である。)
このように構成されているため、本実施形態のアクリロニトリル合成触媒は、十分な選択率を有すると共に優れた活性を発揮することができる。
【0012】
上記式(1)において、a~fは、それぞれ、元素V、Sb、Nb、W、Ce、MのMo1原子当たりの原子比を表している。ここで、MはLi及びCaの少なくとも一方を表す。すなわち、Mとしては、Li及びCaのいずれか単独であってよく、Li及びCaの双方を含んでいてもよい。アルカリ金属やアルカリ土類金属を含むアクリロニトリル合成触媒は、選択率が向上する代わりに活性が低下する傾向にあるが、本実施形態においては、数あるアルカリ金属やアルカリ土類金属の中でも、Li及びCaの少なくとも一方をMとして選択することとし、かつ、その原子比fを所定の範囲に制限しているため、選択率と活性(転化率)のバランスの観点から高い性能を有するアクリロニトリル合成触媒となる。ここで、Mの原子比fが0.012を超える場合、選択率が向上するものの活性が低下するため、結果として所望とする収率を得ることができない。一方、Mの原子比fが0.0001に満たない場合、十分な活性が得られたとしても選択率としては十分でなく、結果として所望とする収率を得ることができない。この理由は明らかではないが、Mの含有量が触媒表面における活性点に影響しているものと考えられる。すなわち、Mの原子比fが0.012を超える場合は、プロパンからアクリロニトリルへの反応に寄与する活性点が過剰量のMによって失活し、結果として反応が阻害されるため、活性が低下すると考えられる。一方、Mの原子比fが0.0001に満たない場合は、プロパンからアクリロニトリル以外の化合物への副反応に寄与する望ましくない活性点がMによって失活しないので、十分な選択率が得られないと考えられる。このように、プロパンからアクリロニトリルへの反応に寄与する活性点を確保しつつ、プロパンからアクリロニトリル以外の化合物への副反応に寄与する望ましくない活性点のみを失活させるため、Mの範囲(原子比f)を0.0001以上0.012以下とする必要があるものと考えられる。ただし、本実施形態の作用機序を上記に限定する趣旨ではない。したがって、上記式(1)におけるfは、0.0001≦f≦0.012を満たす必要があり、上記同様の観点から、0.0012≦f≦0.01であることがより好ましい。
【0013】
本実施形態において、a~eの範囲としては、選択率と活性(転化率)のバランスの観点から、それぞれ、0.1≦a<0.3、0.15≦b≦0.5、0.01≦c≦0.5、0.001≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、好ましくは、それぞれ、0.2≦a≦0.25、0.18≦b≦0.3、0.01≦c≦0.4、0.01≦d≦0.3、0.001≦e≦0.1である。
【0014】
本実施形態のアクリロニトリル合成触媒は、シリカ担持触媒であることが好ましい。本実施形態のアクリロニトリル合成触媒がシリカ担持触媒の場合、高い機械的強度を有するので、流動床反応器を用いたアンモ酸化反応に好適である。シリカ担体の含有量は、触媒構成元素の酸化物とシリカ担体からなるアクリロニトリル合成触媒(シリカ担持触媒)の全質量に対して、SiO2換算で20~70質量%であることが好ましく、より好ましくは30~70質量%である。
【0015】
[アクリロニトリル合成触媒の製造方法]
本実施形態に係るアクリロニトリル合成触媒の製造方法は、組成式(1)を構成する元素の原料化合物を含む混合液を乾燥すること以外は、特に限定されず、一般的な方法で調製することができる。ここで、本明細書中、「組成式(1)を構成する元素を含む混合物を乾燥する」とは、原料化合物を含む混合物を乾燥させて触媒前駆体の固体を得ることをいう。この製造方法によると、原料を含む溶液又はスラリーを単に乾燥するだけで触媒前駆体を得ることができるので、水熱合成の場合のように、溶液又はスラリーを加圧したり長時間に渡って高温にして固体を析出させる必要がない。
【0016】
本実施形態のアクリロニトリル合成触媒を製造するための成分金属の原料は、特に限定されないが、必須元素を考慮して、Mo原料、V原料、Sb原料、Nb原料及びW原料を使用し、必要に応じて他の任意元素を含む原料を使用することができる。例えば、MoとVの原料は、それぞれ、ヘプタモリブデン酸アンモニウム[(NH4)6Mo7O24・4H2O]と、メタバナジン酸アンモニウム[NH4VO3]とを好適に用いることができる。Nbの原料としては、ニオブ酸、ニオブの無機酸塩及びニオブの有機酸塩を用いることができ、ニオブ酸が好ましい。ニオブ酸はNb2O5・nH2Oで表され、ニオブ水酸化物又は酸化ニオブ水和物とも称される。さらに、ジカルボン酸/ニオブのモル比が1~5、好ましくは1.5~4.5のニオブ酸含有水性混合液として用いることが好ましく、ジカルボン酸はシュウ酸が好ましい。
【0017】
Wの原料としてはメタタングステン酸アンモニウム〔(NH4)6[H2W12O40]・nH2O〕が好ましい。Sbの原料としてはアンチモン酸化物が好適であり、特に三酸化二アンチモン〔Sb2O3〕が好ましい。前記組成式(1)中の成分Mの原料としては、Ca及び/又はLiの水酸化物が好ましい。すなわち、本実施形態では、アルカリ化合物におけるアルカリのカウンターアニオンがOH-であることが好ましい。
【0018】
触媒がシリカ担体に担持された場合のシリカの原料は、シリカゾルを好適に用いることができるが、シリカ原料の一部又は全量に、粉体シリカを用いることもできる。この粉体シリカは高熱法で製造されたものが好ましい。さらに、前記粉体シリカは水に分散させて使用することが好ましい。
【0019】
原料混合物の水性媒体として通常は水を用いるが、原料化合物の水性媒体に対する溶解性を調節するため、得られる触媒に悪影響のない範囲でアルコールを水に混合して用いてもよい。用いることのできるアルコールの例としては、炭素数1~4のアルコールが挙げられる。
【0020】
本実施形態のアクリロニトリル合成触媒の第1の製造方法として、(i-a)原料を調合する工程、(ii)工程(i-a)で得られた原料混合物を乾燥し、触媒前駆体を得る工程、(iii)工程(ii)で得られた触媒前駆体を焼成する工程の3つの工程を経る方法がある。
【0021】
以下、第1の製造方法の具体例について工程ごとに詳述する。
【0022】
(工程i-a:原料調合工程)
ヘプタモリブデン酸アンモニウム、メタバナジン酸アンモニウム、三酸化二アンチモン粉末を水に添加し、80℃以上に加熱して混合液(A)を調製する。例えば硝酸セリウムを用いる場合は、同時に添加することができる。
また、上記とは別途、ニオブ酸とシュウ酸を水中で加熱撹拌して混合液(B)を調製する。混合液(B)は、例えば、以下に示す方法で得られる。すなわち、水にニオブ酸とシュウ酸を加え、撹拌することによって予備的ニオブ水溶液又は予備的ニオブ水性懸濁液を得る。懸濁する場合は、少量のアンモニア水を添加するか、又は加熱することによってニオブ化合物の溶解を促進することができる。このとき、ジカルボン酸の使用量は、ニオブ換算のニオブ化合物に対するジカルボン酸のモル比が3~6程度となるようにすることが好ましい。ジカルボン酸の使用量が多すぎると、ニオブ化合物は充分溶解するが、得られた予備的ニオブ含有水溶液又は水性懸濁液を冷却した際に過剰のジカルボン酸が多量に析出する。その結果、添加したジカルボン酸のうち実際に利用される量が少なくなる傾向にある。逆に、ジカルボン酸の使用量が少なすぎると、ニオブ化合物が充分溶解しないために、添加したニオブ化合物のうち実際に利用される量が少なくなる傾向にある。また、加熱する場合の加熱温度は通常は50~100℃、好ましくは70~99℃、更に好ましくは80~98℃である。上記予備的ニオブ水溶液又は予備的ニオブ水性懸濁液におけるニオブ化合物の濃度(ニオブ換算)は、0.2~0.8(mol-Nb/kg-液)程度とすることが好ましい。次いで、この水溶液又は水性懸濁液を冷却し、濾別することによって、ニオブ原料液を得る。冷却は簡便には氷冷によって、濾別は簡便にはデカンテーション又は濾過によって実施できる。得られたニオブ原料液にシュウ酸を適宜加え、好適なシュウ酸/ニオブ比に調製することもできる。シュウ酸/ニオブのモル比は2~5とすることが好ましく、2~4とすることがより好ましい。さらに、得られたニオブ混合液(B)に過酸化水素を添加し、混合液(B0)を調製してもよい。このとき、過酸化水素/ニオブのモル比は0.5~20とすることが好ましく、1~10とすることがより好ましい。
目的とする組成に合わせて、混合液(A)、混合液(B)(又は混合液(B0))を好適に混合して、原料混合物を得る。組成式(1)にWやCeを含む場合、WやCeを含む化合物を好適に混合して原料混合物を得る。WやCeを含む化合物としては、通常、硝酸塩、カルボン酸塩、カルボン酸アンモニウム塩、シュウ酸塩、ペルオキソカルボン酸アンモニウム塩等を使用することができる。好ましくは、硝酸セリウムやメタタングステン酸アンモニウムが使用される。Ceを含む化合物やWを含む化合物は、混合液(A)の中に添加することもできるし、混合液(B)(又は混合液(B0))と(A)を混合する際に、混合液(B)(又は混合液(B0))や(A)とは別に添加することもできる。本実施形態のアクリロニトリル合成触媒がシリカ担持触媒の場合、シリカゾルを含むように原料混合物が調製され、シリカゾルは適宜添加することができる。
また、混合液(A)又は調合途中の混合液(A)の成分を含む液に、過酸化水素を添加することが好ましい。このとき、H2O2/Sb(モル比)は0.01~5とすることが好ましく、0.05~4とすることがより好ましい。また、このとき、30℃~70℃で、30分~2時間撹拌を続けることが好ましい。このようにして得られる原料混合物は均一な溶液の場合もあるが、通常はスラリーである。
【0023】
本実施形態においては、上記のようにして得られるスラリーを乾燥工程に供する前に、当該スラリーに対し、Li及びCaの少なくとも一方を含むアルカリ化合物を添加することが好ましい。すなわち、本実施形態に係るアクリロニトリル合成触媒の製造方法は、Mo、V、Sb、W及びNbを含む第1のスラリーを調製する工程と、前記第1のスラリーに、Li及びCaの少なくとも一方を含むアルカリ化合物を添加して第2のスラリーを調製する工程と、前記第2のスラリーを噴霧乾燥して乾燥粒子を得る乾燥工程と、前記乾燥粒子を焼成する焼成工程と、を含むことが好ましい。このように、アルカリ化合物を添加するタイミングを乾燥工程直前とすることにより、pHの観点からスラリーの状態が好ましくなり、結果として選択率と活性(転化率)のバランスの観点からより高い性能を有するアクリロニトリル合成触媒を得ることができる。
【0024】
(工程ii:乾燥工程)
原料調合工程で得られた混合物(第2のスラリー)を噴霧乾燥法によって乾燥させ、乾燥粉体を得る。噴霧乾燥法における噴霧化は、遠心方式、二流体ノズル方式又は高圧ノズル方式によって行うことができる。乾燥熱源は、スチーム、電気ヒーターなどによって加熱された空気を用いることができる。熱風の乾燥機入口温度は150~300℃が好ましい。得られた乾燥粉体は、通常、速やかに次の焼成工程に供給される。乾燥粉体を保管する必要がある場合は、吸湿しないように保管することが好ましい。
【0025】
(工程iii:焼成工程)
乾燥工程で得られた乾燥粉体を焼成することによって酸化物触媒を得る。焼成は窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの実質的に酸素を含まない不活性ガス雰囲気下あるいは真空下、好ましくは、不活性ガスを流通させながら実施する。一方、焼成雰囲気中に酸化性成分又は還元性成分を添加してもよい。焼成工程は、前段焼成と本焼成に分けることが可能である。本焼成とは、触媒とするために焼成された過程の中で最も高い温度で保持された段階をいい、前段焼成とはそれ以前の焼成段階をいう。前段焼成は、不活性ガス流通下、250℃~450℃、好ましくは300℃~400℃で、一旦保持することが好ましい。保持時間は30分以上、好ましくは3~8時間である。前段焼成が更に数段に分かれていてもよい。焼成をバッチ式で行う場合は、不活性ガスの供給量は乾燥触媒前駆体1kg当たり、50Nリットル/Hr以上である。好ましくは50~5000Nリットル/Hr、更に好ましくは50~3000Nリットル/Hrである(Nリットルは、標準温度・圧力条件、即ち0℃、1気圧で測定したリットルを意味する)。
焼成を連続式で行う場合は、不活性ガスの供給量は乾燥触媒前駆体1kg当たり、50Nリットル以上であることが好ましく、より好ましくは50~5000Nリットルであり、更に好ましくは50~3000Nリットルである。連続流通式焼成の場合、焼成管に供給される乾燥粉体とともに空気が混入する可能性があるが、不活性ガスを向流で流通すれば問題ない。前段焼成後に粉体を焼成装置から回収する場合は、空気と接触させないように回収することが好ましい。本焼成は、酸素不存在下、好ましくは500~800℃であり、より好ましくは550~720℃で実施することができる。焼成時間は好ましくは0.5~40時間であり、より好ましくは1~30時間である。
焼成は、回転炉(ロータリーキルン)、トンネル炉、管状炉、流動焼成炉等を用いて行うことができる。焼成は反復することができる。特に回転炉(ロータリーキルン)、流動焼成炉を好適に用いることができる。
【0026】
[アクリロニトリルの製造方法]
本実施形態に係るアクリロニトリルの製造方法は、本実施形態のアクリロニトリル合成触媒を用いるものである。より詳細には、本実施形態のアクリロニトリル合成触媒の存在下、プロパンを気相接触アンモ酸化反応させて、アクリロニトリルを製造することができる。触媒は焼成後そのまま反応に用いることができる。
【0027】
プロパンとアンモニアの供給原料は必ずしも高純度である必要はなく、工業グレードのガスを使用できる。供給酸素源として空気、酸素を富化した空気又は純酸素を用いることができる。さらに、希釈ガスとしてヘリウム、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気、窒素などを供給してもよい。
【0028】
プロパンのアンモ酸化反応は、例えば、以下の条件で行うことができる。
反応系に供給するアンモニアのプロパンに対するモル比は0.3~1.5が好ましく、より好ましくは0.8~1.2である。
反応系に供給する分子状酸素のプロパンに対するモル比は0.1~6が好ましく、より好ましくは0.1~4である。
反応圧力は0.5~5atmが好ましく、より好ましくは1~3atmである。
反応温度は350℃~500℃が好ましく、より好ましくは380℃~470℃である。
接触時間は0.1~10(sec・g/cc)が好ましく、より好ましくは0.5~5(sec・g/cc)である。接触時間は次式で定義される。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)
ここで、W=充填触媒量(g)、F=標準状態(0℃、1.13*105Pa)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)、T=反応温度(℃)である。
【0029】
反応方式は、固定床、流動床、移動床など従来の方式を採用できるが、反応熱の除去が容易な流動床反応器が好ましい。また、本発明の反応は、単流式であってもリサイクル式であってもよい。
【実施例】
【0030】
次に、本実施形態を実施例及び比較例により更に詳細に説明する。ただし、本実施形態はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
【0031】
プロパンのアンモ酸化反応の成績は、反応ガスを分析した結果を基に、次式で定義されるプロパン転化率、アクリロニトリル選択率及び活性を指標として評価した。
プロパン転化率(%)=(反応したプロパンのモル数)/(供給したプロパンのモル数)×100
アクリロニトリル選択率(%)=(生成したアクリロニトリルのモル数)/(反応したプロパンのモル数)×100
活性(1/hr)=3600/(接触時間×ln((100-プロパン転化率)/100))
【0032】
(ニオブ原料液の調製)
以下の方法でニオブ原料液を調製した。
水5630gにNb2O5として80.2質量%を含有するニオブ酸860gとシュウ酸二水和物〔H2C2O4・2H2O〕3270gを混合した。仕込みのシュウ酸/ニオブのモル比は5.0、仕込みのニオブ濃度は0.53(mol-Nb/kg-液)であった。この混合液を95℃で1時間加熱撹拌することによって、ニオブが溶解した水溶液を得た。この水溶液を静置、氷冷後、固体を吸引濾過によって濾別し、均一なニオブ含有液を得た。このニオブ含有液のシュウ酸/ニオブのモル比は下記の分析により2.28であった。
るつぼにこのニオブ含有液10gを精秤し、95℃で一夜乾燥後、600℃で1時間熱処理し、Nb2O5 0.8912gを得た。この結果から、ニオブ濃度は0.6706(mol-Nb/kg-液)であった。300mLのガラスビーカーにこのニオブ含有液3gを精秤し、約80℃の熱水200mLを加え、続いて1:1硫酸10mLを加えた。得られた溶液をホットスターラー上で液温70℃に保ちながら、攪拌下、1/4規定KMnO4を用いて滴定した。KMnO4によるかすかな淡桃色が約30秒以上続く点を終点とした。シュウ酸の濃度は、滴定量から次式に従って計算した結果、1.527(mol-シュウ酸/kg)であった。
2KMnO4+3H2SO4+5H2C2O4→K2SO4+2MnSO4+10CO2+8H2O
得られたニオブ含有液は、シュウ酸/ニオブのモル比を調整することなく、下記の触媒調製のニオブ原料液として用いた。
【0033】
(実施例1)
(触媒の調製)
仕込み組成式が、Mo1V0.22Sb0.2Nb0.12W0.03Ce0.005Ca0.0013On/50質量%-SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
水3558gにヘプタモリブデン酸アンモニウム〔(NH4)6Mo7O24・4H2O〕を523.8g、メタバナジン酸アンモニウム〔NH4VO3〕を75.8g、三酸化二アンチモン〔Sb2O3〕を86.0g、硝酸セリウム〔Ce(NO3)3・6H2O〕6.52gを加え、攪拌しながら90℃で2時間加熱した後、約68℃まで冷却して混合液A-1を得た。得られた混合液A-1にSiO2として34.2質量%を含有するシリカゾル891.2gを添加した。更に、H2O2として30質量%を含有する過酸化水素水166.5gを添加し、64℃で1時間撹拌を続けて混合液A-2を得た。
別の容器に、粉体シリカ300.0gを水3030gに分散させ、室温で3時間以上撹拌混合した粉体シリカ分散液を調製した。次に、前述にて調製したニオブ原料液451.6gにシュウ酸2.51g、水100.7gを混合したもの、WO3として49.9質量%を含むメタタングステン酸アンモニウム41.06g、粉体シリカ分散液、27.8wt%のアンモニア水溶液54.8gを混合液A-2に添加して混合液A-3を得た。
さらに別の容器に水を200g、水酸化カルシウム〔Ca(OH)2〕を0.316g添加して得られたアルカリ溶液を混合液A-3に添加して原料混合物を得た。
上記のようにして得られた原料混合物を、遠心式噴霧乾燥器に供給して乾燥し、微小球状の乾燥粉体を得た。乾燥機の入口温度は210℃、そして出口温度は120℃であった。得られた乾燥粉体100gをガラス製キルン炉に充填し、1.75NL/hrの窒素ガス流通下、680℃で5時間焼成して触媒を得た。
【0034】
(プロパンのアンモ酸化反応)
内径25mmのバイコールガラス流動床型反応管に、実施例1(触媒の調製)工程で得られた触媒を35g充填し、反応温度450℃、反応圧力常圧下にプロパン:アンモニア:酸素:ヘリウム=1:0.8:2.8:15のモル比の混合ガスを接触時間2.8(sec・g/cc)で供給した。反応ガスを分析した結果を表1に示す。なお、ここでの接触時間は次式で定義される値とした。
接触時間(sec・g/cc)=(W/F)×273/(273+T)
(上記式中、W=充填触媒量(g)、F=標準状態(0℃、1.13*105Pa)での原料混合ガス流量(Ncc/sec)、T=反応温度(℃)である。)
【0035】
(実施例2)
(触媒の調製)
仕込み組成式が、Mo1V0.22Sb0.2Nb0.12W0.03Ce0.005Li0.0013On/50質量%-SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
実施例1の水酸化カルシウム〔Ca(OH)2〕を水酸化リチウム〔LiOH〕に変えて0.173gを水200gに添加した以外は実施例1と同様にして実施例2に係る触媒を得た。
【0036】
(プロパンのアンモ酸化反応)
実施例2で得られた触媒を用いて、実施例1と同様の方法でアンモ酸化反応を行った。実施例1と同様に反応ガスを分析した結果を表1に示す。
【0037】
(比較例1)
仕込み組成式が、Mo1V0.22Sb0.2Nb0.12W0.03Ce0.005Li0.0130On/50質量%-SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
実施例1の水酸化カルシウム〔Ca(OH)2〕を水酸化リチウム〔LiOH〕に変えて1.73gを水200gに添加した以外は実施例1と同様にして比較例1に係る触媒を得た。
【0038】
(比較例2)
仕込み組成式が、Mo1V0.22Sb0.2Nb0.12W0.03Ce0.005Na0.0013On/50質量%-SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
実施例1の水酸化カルシウム〔Ca(OH)2〕を水酸化ナトリウム〔NaOH〕に変えて0.172gを水200gに添加した以外は実施例1と同様にして比較例1に係る触媒を得た。
【0039】
(プロパンのアンモ酸化反応)
比較例1、2で得られた触媒を用いて、実施例1と同様の方法でアンモ酸化反応を行った。実施例1と同様に反応ガスを分析した結果を表1に示す。
【0040】
(比較例3)
仕込み組成式が、Mo1V0.22Sb0.2Nb0.12W0.03Ce0.005On/50質量%-SiO2で示される酸化物触媒を次のようにして調製した。
実施例1の水酸化カルシウム〔Ca(OH)2〕を添加しなかった以外は実施例1と同様にして比較例2に係る触媒を得た。
【0041】
(プロパンのアンモ酸化反応)
比較例3で得られた触媒を用いて、実施例1と同様の方法でアンモ酸化反応を行った。実施例1と同様に反応ガスを分析した結果を表1に示す。
【0042】