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  • 特許-日焼け止め用の多層粒子 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】日焼け止め用の多層粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/29 20060101AFI20240319BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240319BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20240319BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A61K8/29
A61Q17/04
A61K8/02
A61Q19/00
A61Q5/00
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019088920
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020200239
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391023932
【氏名又は名称】ロレアル
【氏名又は名称原語表記】L’OREAL
【住所又は居所原語表記】14 Rue Royale,75008 PARIS,France
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【弁理士】
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】笹井 淳
(72)【発明者】
【氏名】白谷 俊史
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/150846(WO,A1)
【文献】米国特許第04168986(US,A)
【文献】国際公開第2006/063949(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/126722(WO,A1)
【文献】特開平08-268707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
C09C 1/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
奇数の、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層
を含む多層UV遮蔽剤粒子であって、
各層が、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有し、層の総数が少なくとも9で最大60であり、且つ前記粒子が基材を含有せず、
前記高屈折率材料がTiO 2 であり、1.7超の屈折率を有し、前記低屈折率材料がSiO 2 であり、1.65未満の屈折率を有し
前記高屈折率材料の層の厚さが3~100nmであり、前記低屈折率材料の層の厚さが10~150nmであり、
状又は楕円形の形状である、粒子。
【請求項2】
前記高屈折率材料が、1.8超の屈折率を有する、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
前記低屈折率材料が、1.60未満の屈折率を有する、請求項1又は2に記載の粒子。
【請求項4】
各層が、隣接層の屈折率とは少なくとも0.4異なる屈折率を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項5】
前記高屈折率材料の層の厚さが、4~80nmの範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項6】
前記低屈折率材料の層の厚さが、20~130nmの範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項7】
高屈折率材料と低屈折率材料との交互層のみで形成されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項8】
前記層が、蒸着法によって形成されている、請求項1から7のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項9】
15nm以下のカットオフ遷移幅を呈する、請求項1から8のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項10】
基材を調製する工程と、
前記基材上に犠牲層を調製する工程と、
前記犠牲層上に、奇数の、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を堆積させて多層構造体を調製する工程と、
前記多層構造体を前記犠牲層から引き離す工程と、
前記多層構造体を微粉砕して多層UV遮蔽剤粒子を得る工程と
を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の多層UV遮蔽剤粒子を調製する方法であって、
前記多層構造体中の各層が、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有し、前記多層構造体中の層の総数が少なくとも9で最大60である、方法。
【請求項11】
前記堆積させる工程が、蒸着法を用いて行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
活性成分として、請求項1から9のいずれか一項に記載の粒子を含む、皮膚、頭皮、爪、唇、及び毛髪から選択されるケラチン物質のための局所的使用のための組成物。
【請求項13】
粉末状組成物又は液状組成物の形態にある、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1から9のいずれか一項に記載の多層UV遮蔽剤粒子の、UV線をカットオフするための活性成分としての、美容上の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層構造体を有するUV遮蔽性粒子、同粒子を製造する方法、及び同粒子を使用する美容方法に関する。
【背景技術】
【0002】
UV線を遮蔽するための材料として、種々のタイプのUV遮蔽剤が当技術分野で公知である。そのような材料には、例えば、二酸化チタン及び二酸化亜鉛等の無機UV遮蔽剤、並びにベンゾフェノン誘導体及びケイ皮酸誘導体等の有機UV遮蔽剤が挙げられる。UV遮蔽剤材料の中でも、多層粒子はまた、相互干渉効果によってUV線を効果的に遮蔽することも知られている。
【0003】
これまで、相互干渉多層粒子に関する様々な文献が公開されてきた。例えば、WO2014/150846は、奇数の、高屈折率材料又は低屈折率材料の交互層の層でコーティングされた板状の基材又は均一の板状の基材を含む顔料であって、各層が、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有し、且つ顔料が、280nm~400nmの波長を有する光の約40~約100%の反射率を有する、顔料を開示している。更に、JP-A-2013-171575は、高屈折率を有する金属酸化物と、低屈折率を有する金属酸化物との少なくとも3層を有する交互層でコーティングされたフレーク状又は平削り状の顔料を含む、積層相互干渉UV遮蔽性顔料を開示している。加えて、JP-A-2014-811は、基材を準備する工程と、該基材上へ犠牲層を堆積させる工程と、該犠牲層上に多層薄フィルムを堆積させる工程と、犠牲層と薄フィルムとを有する該基材を、該犠牲層と反応する化学的溶液に曝露して、それによってインタクトな多層薄フィルムを該基材から分離する工程とを含む、3層以上を有する独立型の多層薄フィルムを製造する方法を開示している。
【0004】
しかしながら、きわめて狭いカットオフ遷移範囲を有するUV線のみを反射することができ、且つ可視波長中に高透過率領域を有することができるUV遮蔽剤材料を提供する必要性が依然として存在する。更に、UV線及び青色光等の標的光のみをカットすることができるように設計されたUV遮蔽剤材料を提供する必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2014/150846
【文献】JP-A-2013-171575
【文献】JP-A-2014-811
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、きわめて狭いカットオフ遷移範囲を有するUV線のみを反射することができ、且つ可視波長中に高透過率領域を有することができ、並びに標的光のみをカットオフするように設計されている、多層UV遮蔽剤粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記の目的は、
奇数の、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層
を含む多層UV遮蔽剤粒子であって、
各層が、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有し、層の総数が少なくとも9であり、且つ粒子が基材を含有しない、
多層UV遮蔽剤粒子によって達成することができる。
【0008】
高屈折率材料は、1.7超、好ましくは1.8超、より好ましくは1.9超、更により好ましくは2.0超、特に2.1超の屈折率を有してもよい。
【0009】
低屈折率材料は、1.65未満、好ましくは1.60未満、より好ましくは1.55未満の屈折率を有してもよい。
【0010】
各層は、隣接層の屈折率とは少なくとも0.4、より好ましくは少なくとも0.6、更により好ましくは少なくとも0.8異なる屈折率を有してもよい。
【0011】
高屈折率材料及び低屈折率材料は、金属酸化物であってもよい。
【0012】
高屈折率材料の層の厚さは、3~100nm、好ましくは4~80nm、より好ましくは5~70nmの範囲であってもよい。
【0013】
低屈折率材料の層の厚さは、10~150nm、好ましくは20~130nm、より好ましくは30~120nmの範囲であってもよい。
【0014】
粒子は、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層のみで形成されてもよい。
【0015】
層は、蒸着法によって形成されてもよい。
【0016】
粒子は、15nm以下のカットオフ遷移幅、より好ましくは12nm以下のカットオフ遷移幅を呈してもよい。
【0017】
本発明はまた、
基材を調製する工程と、
該基材上に犠牲層を調製する工程と、
該犠牲層上に、奇数の、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を堆積させて多層構造体を調製する工程と、
該多層構造体を犠牲層から引き離す工程と、
該多層構造体を微粉砕して多層UV遮蔽剤粒子を得る工程と
を含む、多層UV遮蔽剤粒子を調製する方法であって、
多層構造体中の各層が、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有し、多層構造体中の層の総数が少なくとも9である、
方法にも関する。
【0018】
堆積の工程は、蒸着法を用いて行われてもよい。
【0019】
本発明はまた、活性成分として粒子を含む、ケラチン物質のための局所使用のための組成物にも関する。
【0020】
該組成物は、粉末状組成物又は液状組成物の形態にあることができる。
【0021】
本発明はまた、多層UV遮蔽剤粒子の、UV線をカットオフするための活性成分としての美容上の使用にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】例示の粒子の「カットオフ遷移幅」の測定の一例の図である。図1(a)は、粒子の透過率の結果を表す図である。図1(b)は、図1(a)による透過率の、示差曲線の結果を表す図である。図1(c)は、ガウス最小二乗法を図1(b)による示差曲線に当てはめることによって得た近似曲線(点の曲線)を表す図である。図1(c)中のピーク位置の波長(点線)は、粒子のカットオフ波長を表す。ピークの半分の高さにおける幅が、「カットオフ遷移幅」と定義される。
図2】1つの例示的参照物としての、実施例4による多層構造体の、TEMを用いて観察された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
鋭意検討の結果、発明者らは、きわめて狭いカットオフ遷移範囲を有するUV光を反射する性質を有し、可視波長中に高透過率領域を有する性質を有し、並びに基材を含まない少なくとも9層を有する多層粒子によって標的光のみを反射するように設計され得る、UV遮蔽剤材料を提供することが可能であることを発見した。
【0024】
そのため、本発明は、
奇数の、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層
を含む多層UV遮蔽剤粒子であって、
各層が、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有し、層の総数が少なくとも9であり、且つ粒子が基材を含有しない、
多層UV遮蔽剤粒子に関する。
【0025】
以下に、本発明による粒子、組成物、方法及び使用を、より詳細に説明する。
【0026】
[粒子]
本発明は、奇数の、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を含む多層UV遮蔽剤粒子であって、各層が、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有し、層の総数が少なくとも9であり、且つ粒子が基材を含有しない、多層UV遮蔽剤粒子を対象とする。
【0027】
用語「UV」は、本明細書では、UV-B領域(波長260~320nm)、UV-A領域(波長320~400nm)及び高エネルギー可視光領域(波長450~450nm)を含む。したがって、UV遮蔽剤は、UV線、具体的にはUV-A領域、UV-B領域及び高エネルギー可視光領域の波長における遮蔽効果を有する任意の材料を意味する。
【0028】
本発明による多層UV遮蔽剤粒子は、その構造体及び材料を修正することによって、標的長さの波長において活性であるように設計することができる。したがって、多層UV遮蔽剤粒子は、所望のUV-A領域、UV-B領域及び高エネルギー可視光領域において活性であることができる。
【0029】
多層UV遮蔽剤粒子は、結晶学的形態とは無関係に、任意の形態:薄片状、球形又は楕円形のものであってもよい。
【0030】
多層UV遮蔽剤粒子の平均粒径は限定されないが、一般に50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下である。多層UV遮蔽剤粒子の平均粒径は、0.2μm以上、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。本明細書で使用される用語「平均一次粒径」は、集団の半数に対して統計的粒径分布によって与えられる数平均粒子径を表し、D50と称される。例えば、数平均粒子径は、レーザー回折粒径分布アナライザー、例えばMalvern Corp社によるMastersizer 2000で測定することができる。
【0031】
本発明の一実施形態では、多層UV遮蔽剤粒子は、板状の形態又はフィルムの形態にある。この事例では、多層UV遮蔽剤粒子は、0.1~10nm、好ましくは0.2~6nm、より好ましくは0.3~3nmの範囲の厚さを有してもよい。本発明の目的では、用語「厚さ」は、本明細書では、粒子中の層の積層方向における長さを意味する。
【0032】
本発明による粒子は、多層構造体を有する。層の総数は奇数であり、少なくとも9である。層の総数の上限は限定されないが、一般に最大80、好ましくは最大60である。
【0033】
本発明による粒子の多層構造体は、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を含む。すなわち、本発明による粒子の多層構造体は、高屈折率材料から作製される高屈折率層と、低屈折率材料から作製される低屈折率層との交互層を含む。
【0034】
高屈折率層の厚さは限定されないが、一般に少なくとも3nm、好ましくは少なくとも4nm、より好ましくは少なくとも5nmであり、且つ100nm未満、好ましくは80nm未満、より好ましくは70nm未満である。したがって、高屈折率層の厚さは、3~100nm、好ましくは4~80nm、より好ましくは5~70nmの範囲であってもよい。
【0035】
低屈折率層の厚さは限定されないが、一般に少なくとも10nm、好ましくは少なくとも20nm、より好ましくは少なくとも30nmであり、且つ150nm未満、好ましくは130nm未満、より好ましくは120nm未満である。したがって、低屈折率層の厚さは、10~150nm、好ましくは20~130nm、より好ましくは30~120nmの範囲であってもよい。
【0036】
本発明による粒子において、各層は、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有する。すなわち、本発明中の高屈折率材料と低屈折率材料との差は、少なくとも0.2である。好ましくは、粒子中の各層は、隣接層の屈折率とは少なくとも0.4、より好ましくは少なくとも0.6、更により好ましくは少なくとも0.8異なる屈折率を有する。
【0037】
本発明の一実施形態では、高屈折率材料の層は、1.7超、好ましくは1.8超、より好ましくは1.9超、更により好ましくは2.0超、特に2.1超の屈折率を有する。高屈折率材料の屈折率の上限は限定されないが、一般に5.0未満、好ましくは4.0未満、より好ましくは3.0未満である。
【0038】
高屈折率材料に好適な材料には、真空蒸着された二酸化チタン(TiO2、2.43)、酸化セリウム(CeO2、2.53)、酸化ニオブ(Nb2O3、2.4)、五酸化ニオブ(Nb2O5、2.4)、酸化ハフニウム(HfO2、1.9~2.0)、酸化ジルコニウム(ZrO2、2.36)、酸化アルミナ(Al2O3、1.75)、酸化イットリウム(Y2O3、1.75)、ゲルマニウム(Ge、4.0~5.0)、クロム(Cr、3.0)、テルリウム(Te、4.6)、硫化スズ(SnS、2.6)、ガリウムヒ素(GaSb、4.5~5.0)、インジウムヒ素(InAs、4.0)、カルコゲナイドガラス(2.6)、ケイ素(Si、3.7)、リン酸インジウム(InP、3.5)、タングステン(W、2.5)、ガリウムヒ素(GaAs、3.53)、窒化ガリウム(GaN、2.5)、リン酸ガリウム(GaP、3.31)、マンガン(Mn、2.5)、バナジウム(V、3)、セレン化ヒ素(As2Se3、2.8)、テルル化亜鉛(ZnTe、3.0)、CuAlSe2(2.75)、カルコゲナイドガラス+Ag(3.0)、セレン化亜鉛(ZnSe、2.5~2.6)、硫酸亜鉛(ZnSO4、2.5~3.0)、硫化亜鉛(ZnS、2.3)、アルミニウム(Al、2.0)及び窒化ケイ素(SiN、2.1)が挙げられるがこれらに限定されない。かっこ内の数値は、材料の屈折率を表す。2種以上のタイプの高屈折率材料が組み合わせて使用されてもよい。好ましくは、高屈折率材料は、金属酸化物、例えばTiO2、CeO2、Nb2O3、Nb2O5、HfO2、Al2O3、Y2O3及びZrO2から選択される。
【0039】
本発明の一実施形態では、低屈折率材料の層は、高屈折率材料の屈折率よりも少なくとも0.2低い屈折率を有する。例えば、低屈折率材料は、1.65未満、好ましくは1.60未満、より好ましくは1.55未満の屈折率を有してもよい。
【0040】
低屈折率材料に好適な材料には、無機材料、例えばシリカ(SiO2、1.5)、真空蒸着されたシリカ(SiO2、1.46)、酸化インジウムスズ(ITO、1.46)、フッ化アルミニウムナトリウム(Na3AlF6、1.6)、フッ化マグネシウム(MgF2、1.37)、フッ化鉛(PbF2、1.6)、フッ化カリウム(KF、1.5)、フッ化リチウム(LiF4、1.45)、フッ化カルシウム(CaF2、1.43)、フッ化バリウム(BaF2、1.5)、フッ化ストロンチウム(SrF2、1.43)、フッ化リチウム(LiF、1.39)、アルミニウムヒ素(AlAs、1.56)、マイカ(1.56)及びフッ化ナトリウム(NaF、1.5)、並びに有機材料、例えばポリアミド-イミド(PEI、1.6)、ポリスチレン(PS、1.6)、ポリエーテルスルホン(PES、1.55)、ポリエチレン(1.5)、PMMA(1.5)、PKFE(1.6)、ポリアロマー(PA、1.492)、ポリブチレン(1.50)、フルオロカーボン(FEP、1.34)、イオノマー(1.51)、ポリテトラフルロ-エチレン(TFE、1.35)、ナイロン(PA)II型(1.52)、アクリルマルチポリマー(1.52)、クロロトリフルオロ-エチレン(CTFE、1.42)、プロピオン酸セルロース(1.46)、スチレンブタジエン(1.52~1.53)、酢酸酪酸セルロース(1.46~1.49)、PVC(1.52~1.55)、酢酸セルロース(1.46~1.50)、ナイロン(ポリアミド)6/6型(1.53)、メチルペンテンポリマー(1.485)、尿素ホルムアルデヒド(1.54~1.58)、アセタールホモポリマー(1.48)、アクリル(1.49)、スチレンアクリロニトリルコポリマー(1.56~1.57)、ニトロセルロース(1.49~1.51)、エチルセルロース(1.47)、ポリプロピレン(1.49)、ポリスルホン(1.633)及びポリカーボネートが挙げられるがこれらに限定されない。かっこ内の数値は、材料の屈折率を表す。2種以上のタイプの低屈折率材料が組み合わせて使用されてもよい。好ましくは、低屈折率材料は、金属酸化物、例えばSiO2及びITO、並びにフッ化物、例えばNa3AlF6、MgF2、PbF2、CaF2、KF、LiF、BaF2、NaF及びSrF2から選択され、特に金属酸化物、例えばSiO2及びITOから選択される。
【0041】
本発明による粒子は、基材を含有しない。粒子の、本発明の目的では、用語「基材」は、本明細書では、粒子の層と直接接触しているが本発明による粒子の層よりも薄いものであり得る物質を意味する。一般に、基材は、板状であり、粒子の多層構造体を製造するための支持体として機能する。
【0042】
本発明の一実施形態では、粒子は、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層のみで形成されている。すなわち、粒子は、高屈折率材料と低屈折率材料との層のみを含む。
【0043】
本発明による多層UV遮蔽剤粒子は、きわめて狭いカットオフ遷移範囲を有するUV線を遮蔽することができ、且つ可視波長中で高透過率領域を有することができる。この性質は、本発明による粒子が、きわめて特定の波長範囲において、UV遮蔽効果、すなわち鮮明なUVカット性を有すると同時に、可視波長中に高透過率領域を維持することを意味する。したがって、本発明は、それが化粧用組成物中に使用されるとき、化粧用組成物に、優れたUV遮蔽効果、並びに透明で自然な外観を付与することができる。
【0044】
本発明による粒子のきわめて特異なUV遮蔽効果の性質は、粒子の、いわゆる「カットオフ遷移幅」によって特徴づけることができる。「カットオフ遷移幅」は、粒子の透過率を測定し、透過率の示差曲線を算出し、ガウス最小二乗法を示差曲線に当てはめ、次いで当てはめた曲線中のピークの半値幅をガウス最小二乗法で測定することによって得ることができる。
【0045】
図1は、所与の粒子の「カットオフ遷移幅」の測定の一例を示す。図1(a)は、粒子の透過率を示す。図1(b)は、図1(a)による透過率の、示差曲線を示す。図1(c)は、ガウス最小二乗法を図1(b)による示差曲線に当てはめて得た近似曲線(点線)を示す。図1(c)中のピーク位置(点線)の波長は、粒子のカットオフ波長を表す。ピークの半分の高さにおける幅が、「カットオフ遷移幅」であると定義される。カットオフ遷移幅が狭いほど、UVにおける、可視波長中の高透過率から低透過率までの遷移範囲は狭い。
【0046】
本発明による粒子は、好ましくは15nm以下のカットオフ遷移幅、より好ましくは12nm以下のカットオフ遷移幅を呈する。
【0047】
加えて、本発明の発明者らは、驚くべきことに、本発明による粒子が、多層構造体を修正することによって、すなわち層の数、並びに各層(すなわち高屈折率又は低屈折率を有する各層)の厚さ及び各層の組成を修正することによって、波長の所望の幅を防御するように設計され得ることを見出した。したがって、多層UV遮蔽剤粒子は、UV-A領域、UV-B領域及び高エネルギー可視光領域中の所望の領域において活性であることができる。
【0048】
本発明の好ましい一実施形態では、粒子の高屈折率材料と低屈折率材料との交互層は、周知の蒸着法及び液体堆積法、例えば化学的蒸着法、物理的蒸着法、噴霧堆積法及びミスト堆積法で形成されている。このような堆積法で形成された層は、精密で均一な厚さを有することができる。
【0049】
したがって、本発明はまた、
蒸着法によって形成された、奇数の、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を含む多層UV遮蔽剤材料であって、
各層が、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有し、層の総数が少なくとも9であり、且つ粒子が基材を含有しない、
多層UV遮蔽剤材料にも関する。
【0050】
[調製]
本発明はまた、本発明による多層UV遮蔽剤粒子を調製する方法にも関する。
【0051】
本発明による多層UV遮蔽剤粒子を調製する方法は、
基材を調製する工程と、
該基材上に犠牲層を調製する工程と、
該犠牲層上に、奇数の、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を堆積させて多層構造体を調製する工程と、
該多層構造体を該犠牲層から引き離す工程と、
該多層構造体を微粉砕して多層UV遮蔽剤粒子を得る工程と
を含み、
多層構造体中の各層は、隣接層の屈折率とは少なくとも0.2異なる屈折率を有し、多層構造体中の層の総数は、少なくとも9である。
【0052】
基材を調製する工程は、粒子の多層構造体を製造するための支持体としての基材を調製する工程である。
【0053】
調製方法における基材は、それが粒子の多層構造体を製造するための支持体として使用され得る限り限定されない。一般に、板状材料、例えばガラスプレート及びプラスチックフィルムを基材として使用することができる。
【0054】
基材上に犠牲層を調製する工程は、該基材の片側上に犠牲層を置く工程である。
【0055】
「犠牲層」は、本明細書では、粒子の多層構造体を製造するための支持体として機能することができ、且つ該多層構造体の調製後に多層構造体から引き離すことができる、任意の材料を意味する。一般に、犠牲層は、フィルム、テープ又はシートの形態にある。
【0056】
犠牲層の材料は、それが上記の目的を満たしている限り限定されない。犠牲層に好適な材料には、例えば、ポリアミドフィルム及びポリエステルフィルム等の有機フィルム、並びに水に、溶媒に、酸性溶液などに可溶な材料、例えば水に、溶媒に、酸性溶液などに可溶なポリマー、好ましくは水可溶性ポリマー、例えばポリビニルアルコール及びポリアクリルアミドが挙げられる。
【0057】
犠牲層上に、奇数の、高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を堆積させて多層構造体を調製する工程は、上で説明した高屈折率材料と低屈折率材料との交互層を含む本発明による粒子の多層構造体を製造する工程である。
【0058】
堆積の工程は、既知の蒸着法及び液体堆積法、例えば化学的蒸着法、物理的蒸着法、噴霧堆積法及びミスト堆積法、又は当技術分野で既知の湿式化学的方法を用いて実施することができる。蒸着法がきわめて有利であり、その理由は、それが精密で均一な厚さを有する層を生成することができるからである。蒸着の工程は、少なくとも9つの層を含む多層構造体が得られるまで繰り返される。高屈折率材料及び低屈折率材料は、上に定義したものである。
【0059】
多層構造体を犠牲層から引き離す工程は、得られた多層構造体を犠牲層から分離する工程である。
【0060】
犠牲層の材料が有機ポリマーであるとき、多層構造体は、例えば、犠牲層を曲げることによって、物理的に引き離すことができる。犠牲層の材料が可溶性材料であるとき、多層構造体は、犠牲層を溶解することによって引き離すことができる。したがって、犠牲層に好適な可溶性材料は、水可溶性材料、例えばポリビニルアルコールであり、その理由は、溶媒又は酸性溶液よりも穏やかである水に犠牲層を溶解させることによって多層構造体を引き離すことができるからである。
【0061】
多層構造体を微粉砕して多層UV遮蔽剤粒子を得る工程は、引き離した多層構造体を微粉砕して本発明による粒子を得る工程である。
【0062】
多層構造体を微粉砕する方法は、粉末の形態にある多層構造体が得られる限り限定されない。例示的な微粉砕方法には、例えば、ペストル及びスパチュラ等の装置で、且つミルを用いて、粉砕することが挙げられる。
【0063】
[化粧用組成物]
本発明はまた、本発明による多層UV遮蔽剤粒子を含む組成物、好ましくは化粧用組成物にも関する。本発明による組成物は、粉末状組成物であることができ、例えば、コンパクト粉末又はプレス粉末、ブラッシャー又はルースパウダーの形態にある粉末状組成物、又は液状組成物、例えば、エマルション(O/W若しくはW/O形態)、水性ゲル、水性溶液、ローション、ミルキーローション、クリーム、泡、ペースト、セラムなど等の形態にある液状組成物であることができる。本発明による粒子は、組成物中でUV線を遮蔽するための活性成分として機能する。
【0064】
組成物が粉末状組成物であるとき、多層UV遮蔽剤粉末は、一般に、組成物中に、組成物の総質量に対して、1質量%~40質量%の範囲、好ましくは5質量%~30質量%の範囲、より好ましくは10質量%~25質量%の範囲の割合で存在することができる。
【0065】
組成物が液状組成物であるとき、多層UV遮蔽剤粉末は、一般に、組成物中に、組成物の総質量に対して、1質量%~30質量%の範囲、好ましくは3質量%~20質量%の範囲、より好ましくは5質量%~15質量%の範囲の割合で存在することができる。
【0066】
本発明による粒子が、多層構造体を修正することによって、所望の範囲の波長を防御するように設計され得るため、組成物は、異なるUV波長を反射するように設計されている2種以上の多層UV遮蔽剤粒子を組み合わせて含むことができる。例えば、組成物が、UV-B領域にあるUV線をカットオフするように設計された多層UV遮蔽剤粒子と、UV-A領域にあるUV線をカットオフするように設計された多層UV遮蔽剤粒子とを組み合わせて含んでいることが好ましい。したがって、本発明による組成物が、本発明による粒子のみを使用してUV-A領域とUV-B領域との両方においてUV線を遮蔽することが可能である。
【0067】
したがって、本発明の一実施形態では、組成物は、本発明による多層UV遮蔽剤粒子以外のUV遮蔽剤材料を含まない。本発明の別の実施形態では、組成物は、有機UV遮蔽剤を含まない。本発明のなおも別の実施形態では、組成物は、本発明による多層UV遮蔽剤粒子以外の無機UV遮蔽剤を含まない。
【0068】
本発明による組成物は、局所用の化粧用組成物としての使用が意図されてもよい。そのため、本発明による組成物は、ケラチン物質上への適用が意図されてもよい。ケラチン物質は、本明細書では、ケラチンを主要構成要素として含有する材料を意味し、その例としては、皮膚、頭皮、爪、唇、毛髪等が挙げられる。詳細には、本発明による組成物は、皮膚をUV線から防御するための皮膚のサンケア化粧用組成物であってもよい。
【0069】
[方法及び使用]
本発明による粒子は、UV線をカットオフするための活性成分として使用することができる。したがって、本発明はまた、非治療的方法、例えば美容方法、又は多層UV遮蔽剤粒子の、UV線をカットオフするための活性成分としての使用にも関する。
【実施例
【0070】
本発明を、実施例によってより詳細に説明するが、これは本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0071】
[粒子]
Table 1(表1及び表2)に示す、実施例1~7(Ex.1~7)並びに比較例1及び2(Comp. Ex.1及び2)による以下の粒子を、以下の手順によって調製した。
【0072】
[調製の手順]
(1)ガラスプレートを基材として調製した。
(2)該ガラスプレートの片側上にポリイミドテープを載置した。
(3)該ポリイミドフィルム上に、所定の数の、TiO2とSiO2との交互層を、真空蒸着法によって積層させて、フィルムの形態にある多層構造体を調製した。実施例1~7並びに比較例1及び2の各層の数をTable 1(表1及び表2)に記載する。
(4)得られた多層構造体を、ポリイミドテープを曲げることによって、該テープから引き離した。砕いた多層構造体の断片の全てを水で洗浄し、ろ過して回収した。
(5)引き離した多層構造体を、スパチュラでの粉砕によって微粉砕して、多層UV遮蔽剤粒子を得た。
【0073】
[評価]
(厚さの測定)
実施例1~7並びに比較例1及び2のそれぞれによる多層構造体の各層の厚さを、試料のそれぞれの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより、測定した。各試料を、集束イオンビーム(FIB)によってきわめて薄い断片へと切断して、試料を調製した。実施例1~7並びに比較例1及び2による各層の組成を、エネルギー分散X線分光分析(EDS)で確認した。
【0074】
図2は、1つの例示的参照物としての、実施例4による多層構造体の、TEMを用いて観察された断面を示す。
【0075】
実施例1~7並びに比較例1及び2のそれぞれによる粒子の各層の組成及び測定した厚さをTable 1(表1及び表2)にまとめる。
【0076】
(UV遮蔽性)
実施例1~7並びに比較例1及び2のそれぞれによる粒子1mgを、100μLのイオン交換水に分散させてサスペンションを得、該サスペンションの総量を、ピペットを用いてスライドガラス上に注いだ。スライドガラスを一晩乾燥させて水を除去し、粒子をスライドガラスの表面上に固定した。得られた試料のスポットは、約2cmの直径を有していた。該スポットの透過率を、積分球を用いる分光光度計(JASXO V-550)で測定した。「カットオフ遷移幅」を、透過率の示差曲線を算出し、ガウス最小二乗法を示差曲線に当てはめ、次いで、当てはめた曲線におけるピークの半値幅をガウス最小二乗法により測定することによって得、これは、図1及び本明細書で説明している通りである。
【0077】
(SPF値)
粒子のインビトロSPF値を、紫外線透過率分析器(Labsphere社 UV-2000S)を用いて測定した。
【0078】
実施例1~7並びに比較例1及び2のそれぞれによる粒子のUV遮蔽性及びSPF値を、Table 2(表3)にまとめる。Table 2(表3)中で、項目[A]の「標的カットオフ波長(nm)」は、製造前に定義した標的カットオフ波長値を意味する。項目[B]の「粒子のカットオフ波長(nm)」は、粒子のカットオフ波長の実測値を意味する。したがって、Table 2(表3)中の「[A]-[B]の差」は、カットオフ波長の標的値と測定値との差を示唆している。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2A】
【0081】
【表2B】
【0082】
【表3】
【0083】
Table 2(表3)から見られるように、少なくとも9つの層からなる実施例1~7による粒子は、5つのみの層からなる比較例1及び2のものよりも高いSPF値及び狭いカットオフ遷移幅を呈した。
【0084】
加えて、実施例1~7による粒子では、製造前に規定した標的カットオフ波長値を意味する「[A]標的カットオフ波長(nm)」と、粒子のカットオフ波長の実測値を意味する「[B]粒子のカットオフ波長(nm)」との差において、比較例1及び2のものと比べて、きわめて低い値が呈された。例えば、実施例3による粒子は、誤差わずか1nmを有する377nmのカットオフ波長を達成した(標的波長は378nmであった)。加えて、実施例7による粒子は、誤差わずか1nmを有する462nmのカットオフ波長を達成した(標的波長は461nmであった)。この結果は、本発明による粒子が、所望の波長を事実上カットオフするように設計され得ることを示唆している。
【0085】
したがって、本発明による粒子は、UV線を遮蔽するための活性成分としてきわめて好ましいと結論づけることができる。
図1
図2