(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】骨接合材料
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20240319BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/58
(21)【出願番号】P 2019111221
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】塚原 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】平岡 智恵美
(72)【発明者】
【氏名】柘植 智仁
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-135892(JP,A)
【文献】特表2005-519654(JP,A)
【文献】特開平01-198553(JP,A)
【文献】特開平05-168647(JP,A)
【文献】Journal of Applied Polymer Science,2006年,Vol.100,pp.1983-1987
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
A61B 17/00
A61F 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形された生体吸収性材料からな
る骨接合材料であって、
前記骨接合材料のGPCによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が
20万以上
28万以下であり、
前記生体吸収性材料がラクチド-グリコール酸共重合体であ
り、前記ラクチドと前記グリコール酸とのモル比が79:21~85:15である
骨接合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定できるとともに骨の再生後は速やかに体内に吸収される骨接合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、骨折が治癒するまで骨を固定する骨接合材料としてステンレス、セラミック等より成るワイヤー、プレート、ねじ、ピン、ビス、ステープル、クリップ、ロッド等が用いられている。しかし、金属やセラミックからなる骨接合材料は、人体に吸収されないことから治癒後も体内に残存し、また、これらの骨接合材料は、SUS-316のステンレス製のもので323N/mm2程度、セラミック製のもので245~490N/mm2程度と、実用上充分な曲げ強度を有する一方で、人骨に比べて剛性が高すぎることから、適用部の骨が削られたり、持続刺激によって局部の骨の融解、新生骨の強度低下、再生骨の成長遅延等を生じたりする恐れがあるという問題点があった。
【0003】
これに対して、ポリ-L-乳酸等の生体吸収性材料からなる骨接合材料が開発されている。例えば、特許文献1には、生体吸収性材料の成形物を、該ポリマーのガラス転移点以上であって融点以下の温度で静水圧押出しして、生体吸収性材料の分子が長軸方向に配向した高密度成形体であって、浮沈法で測定した密度が1.260g/cm3以上である骨接合材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のポリ-L-乳酸からなる骨接合材料は、体内での分解速度が遅く、成長が早い小児の治療には適さない場合もあった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑み、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定できるとともに骨の再生後は速やかに体内に吸収される骨接合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生体吸収性材料からなり、重量平均分子量が14万以上32万以下である骨接合材料である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、驚くべきことに生体吸収性材料からなる骨接合材料において、重量平均分子量を特定の範囲とすることで、骨が再生するまでの間充分な強度を有する骨接合材料が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の骨接合材料は、生体吸収性材料からなる。
骨接合材料を生体吸収性材料によって構成することで、骨接合材料が時間の経過とともに体内へ徐々に吸収されることから、後に手術によって取り出す必要がない。
【0010】
上記生体吸収性材料としては、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコール酸共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン、ポリグリコールセバスチン酸等の合成高分子や、デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類や、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。なかでも、体内での分解速度が骨接合材料として用いるのに適していることからラクチド-グリコール酸共重合体であることが好ましい。なお、本明細書においてラクチドは、L-ラクチド、D-ラクチド、D,L-ラクチド(ラセミ体)のいずれをも含むが、好ましくはL-ラクチドである。これらの生体吸収性材料は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0011】
上記生体吸収性材料がラクチド―グリコール酸共重合体である場合、ラクチドとグリコール酸のモル比が70:30~95:5であることが好ましい。このような比率でラクチドとグリコール酸を含むラクチド―グリコール酸共重合体を用いることで、骨の再生まで充分な強度を有する骨接合材料とすることができる。上記ラクチド―グリコール酸共重合体におけるラクチドとグリコール酸のモル比は、75:25~90:10であることがより好ましく、79:21~85:15であることが更に好ましい。
【0012】
本発明の骨接合材料は、重量平均分子量が14万以上32万以下である。
従来の生分解性材料を用いた骨接合材料は、体内での吸収速度が速く、骨の再生が完了するまで充分な強度維持することが難しかった。本発明の骨接合材料は、驚くべきことに骨接合材料の重量平均分子量を上記範囲とすることで、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定することができる。また、骨の再生後は早期に体内へ吸収されるため、体内での異物反応を抑えることもできる。骨の再生が完了するまでの強度をより向上させるとともに、骨の再生後には骨接合材料を早く生体内へ吸収させる観点から、上記骨接合材料の重量平均分子量は18万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、30万以下であることが好ましく、28万以下であることが更に好ましい。上記重量平均分子量を上記範囲に調節する方法としては、原料である生体吸収性材料の重量平均分子量を調節する方法が挙げられるが、骨接合材料の重量平均分子量は原料の重量平均分子量のみによって決定されるものではなく、骨接合材料の製造工程の条件や処理等によっても影響される。
なお、ここで重量平均分子量とは、GPC(Gel Permeation Chromatography:ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。具体的には、カラム温度40℃において溶出液としてクロロホルム、カラムとして細孔多分散型有機溶媒系カラム(例えば、SHODEX GPCカラム LF-80、昭和電工社製)、GPC装置として日立ハイテクノロジーズ社製LaChrom Eliteシステムを用いて、ポリスチレン標準により決定することができる。
【0013】
本発明の骨接合材料の形状は特に限定されないが、プレート状やダンベル状等が挙げられる。また、骨接合材料を骨に固定するために、骨接合材料と同じ材料をねじ状としたものも本発明に含まれる。更に、本発明の骨接合材料のねじを通す穴の大きさや配置は適用する骨の部位に応じて適宜調節することができる。
【0014】
本発明の骨接合材料は、厚みが0.5mm以上2.0mm以下であることが好ましい。骨接合材料の厚みが上記範囲であることで、骨が再生するまでの間充分な強度を維持できるとともに、骨の再生後はより早く体内へ吸収されるようにすることができる。上記厚みは、0.9mm以上であることがより好ましく、1.5mm以下であることがより好ましい。
【0015】
本発明の骨接合材料の製造方法は特に限定されず、例えば、射出成形や切削をすることで製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定できるとともに骨の再生後は速やかに体内に吸収される骨接合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
(実施例1)
骨接合材料の原料としてラクチド(L体)-グリコール酸共重合体(ラクチドに由来する構成単位:ε-カプロラクトンに由来する構成単位のモル比=82:18、重量平均分子量:28万)を準備した。
上記原料を射出成形し、切削加工によりネジ挿入孔を形成することにより、4mm間隔に直径1.9mmの穴を有する、幅5.75mm、長さ26mm、厚み0.95mmの板状の骨接合材料を得た。得られた骨接合材料について、日立ハイテクノロジーズ社製LaChrom Eliteシステム及び細孔多分散型有機溶媒系カラム(SHODEX GPCカラム LF-80)を用いて、カラム温度40℃、溶出液クロロホルムの条件でGPC測定を行ったところ、重量平均分子量は26万であった。
【0019】
(実施例2)
形状を3.7mm間隔に直径2.3mmの穴を有する、幅6.5mm、長さ24.5mm、厚み1.4mmの板状とした以外は実施例1と同様にして骨接合材料を得た。
【0020】
(実施例3)
形状を3.7mm間隔に直径2.3mmの穴を有する、幅5.0mm、長さ23mm、厚み1.4mmのダンベル状とした以外は実施例1と同様にして骨接合材料を得た。
【0021】
(比較例1)
ラクトソーブ(Zimmer biomet社製、(品番)915-2413、ラクチド(L体)-グリコール酸共重合体、幅5.6mm、長さ22.9mm、厚み0.9mm、穴の直径1.5mm)をそのまま用いた。実施例1と同様の方法で重量平均分子量を測定したところ13万であった。
【0022】
(比較例2)
ラクトソーブ(Zimmer biomet社製、(品番)915-2210、ラクチド(L体)-グリコール酸共重合体、幅6.9mm、長さ21.2mm、厚み1.4mm、穴の直径2.0mm)をそのまま用いた。実施例1と同様の方法で重量平均分子量を測定したところ13万であった。
【0023】
<評価>
実施例、比較例で得られた骨接合材料について以下の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0024】
(1)耐曲げ性の評価
オートグラフを用いて3点曲げ試験を行い骨接合材料の曲げ方向に対する破断強力を測定することで、耐曲げ性を評価した。
【0025】
(2)耐引張性の評価
オートグラフを用いてJIS規格のK7113(プラスチックの引張試験方法)に準じて接合材料の引張方向に対する破断強力を測定することで、耐引張性を評価した。
【0026】
(3)分解性の評価
50℃のPBSに得られた骨接合材料を浸漬し、所定の時間経過したものについて上記耐曲げ性の評価と同様の方法で破断強力を測定した。得られた破断強力を上記耐曲げ性の評価で得られた破断強力で除することにより強力保持率(%)を算出することで、骨接合材料の分解性を評価した。なお、50℃のPBSに浸漬したものは生体内の約8倍の速度で分解するものと考えられる。
【0027】
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、骨が再生するまでの間充分な強度で骨を固定できるとともに骨の再生後は速やかに体内に吸収される骨接合材料を提供することができる。