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特許7456740移動端末装置及び無線ネットワークシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】移動端末装置及び無線ネットワークシステム
(51)【国際特許分類】
   H04W 52/18 20090101AFI20240319BHJP
   H04W 88/06 20090101ALI20240319BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H04W52/18
H04W88/06
H04B1/04 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019164887
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021044675
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】弁理士法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】寺田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】勝又 貞行
(72)【発明者】
【氏名】田部井 康
(72)【発明者】
【氏名】井上 健次
【審査官】倉本 敦史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/123148(WO,A1)
【文献】特開2016-225921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00-99/00
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送受信アンテナと、前記送受信アンテナに対しアンテナスイッチを介して切替可能に接続される送信フロントエンド部及び受信フロントエンド部とを有した無線フロントエンド回路と、前記無線フロントエンド回路に接続され、無線基地局への送信波の変調及び前記無線基地局からの受信波の復調を行なう変復調回路とを有した移動端末装置であって、
放送事業用連絡無線に割り当てられた160MHzから170MHzに至る第一周波数帯に対し、その上限周波数側に隣接する172.5MHzから202.5MHzに至る第二周波数帯が割り当てられた公共ブロードバンド移動通信システムに使用され、さらに
前記送信フロントエンド部に設けられるとともに、前記変復調回路からの送信変調波形信号を増幅し前記送受信アンテナに向けて出力するパワーアンプと、
前記パワーアンプの出力波形に含まれる、前記第二周波数帯から前記第一周波数帯側に漏洩するスプリアスレベルを検出するスプリアスレベル検出部と、
前記パワーアンプによる送信電力を検出された前記スプリアスレベルに応じて調整制御する送信電力制御部と、
を備えたことを特徴とする移動端末装置。
【請求項2】
前記送信電力制御部は、検出された前記スプリアスレベルを予め定められた閾値よりも大きい場合に前記送信電力を低減する制御を行なう請求項1記載の移動端末装置。
【請求項3】
前記送信電力制御部は、パケット送信に使用するリソースブロックの送信電力設定情報を前記無線基地局から受信するとともに、検出された前記スプリアスレベルが前記閾値よりも小さい場合は前記送信電力を、受信した前記送信電力設定情報が示す値に設定する一方、検出された前記スプリアスレベルが前記閾値よりも大きい場合は前記送信電力を、送信電力設定情報が示す値よりも小さく設定する請求項2記載の移動端末装置。
【請求項4】
前記送信電力制御部は、前記送信電力設定情報から一定のステップ幅Δpだけ送信強度
を下げる制御を、前記スプリアスレベルが前記閾値未満となるまで繰り返えす請求項3に記載の移動端末装置。
【請求項5】
前記変復調回路は、高次直交振幅変調方式と、該高次直交振幅変調方式よりも変調次数の低い直交位相変調方式とを含む複数の変調方式から随時1つのものを選択する形で前記送信波の適応変調を行なうように構成され、前記送信電力制御部は、前記変調方式が前記高次直交振幅変調方式である場合にのみ、前記送信電力を低減する制御を行なう請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の移動端末装置。
【請求項6】
前記受信フロントエンド部には、前記第二周波数帯を通過帯域に包含するバンドパスフィルタとして構成され、前記第二周波数帯の下限周波数側に隣接する160MHzから170MHzに至る周波数帯を使用する放送事業用連絡無線の通信波を、低域側妨害波として遮断する低域波側妨害波遮断フィルタが設けられてなる請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の移動端末装置。
【請求項7】
無線基地局に無線接続される移動端末装置間にて、172.5MHzから202.5MHzに至る割当周波数帯域において公共ブロードバンド移動通信を行なう無線ネットワークシステムにおいて、
前記移動端末装置は、送受信アンテナと、前記送受信アンテナに対しアンテナスイッチを介して切替可能に接続される送信フロントエンド部及び受信フロントエンド部とを有した無線フロントエンド回路と、前記無線フロントエンド回路に接続され送信波の変調及び受信波の復調を行なう変復調回路と、前記送信フロントエンド部に設けられるとともに、前記変復調回路からの送信変調波形信号を増幅し前記送受信アンテナに向けて出力するパワーアンプと、前記パワーアンプの出力波形に含まれる、放送事業用連絡無線に割り当てられた160MHzから170MHzに至る第一周波数帯から、その上限周波数側に隣接する172.5MHzから202.5MHzに至る第二周波数帯側に漏洩するスプリアスレベルを検出するスプリアスレベル検出部と、前記パワーアンプによる送信電力を検出された前記スプリアスレベルに応じて調整制御する送信電力制御部と、を備えたことを特徴とする無線ネットワークシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動端末装置及びそれを用いた無線ネットワークシステムに関するものであり、特にVHF帯を利用する公共ブロードバンド移動通信システムに好適な移動端末装置及び無線ネットワークシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、災害等の現場において使用される国や自治体、警察や消防・救急等の公共通信システムは音声が中心であったが、被災地等の正確な情報の共有のため、機動的かつ確実に映像伝送を行う手段が求められている。そこで、地上テレビジョン放送のデジタル化により空き周波数となったVHF帯の一部を、上記目的に合致した公共ブロードバンド移動通信システムに使用する検討が進められている。公共ブロードバンド移動通信システムは国土交通省により仕様化が進められており(非特許文献1)、200MHz帯(170MHzから202.5MHzに至るVHF帯)に周波数帯が割り当てられるとともに、以下のような利点を有する。
【0003】
・公共機関(国や自治体、警察や消防等)専用に用意されたVHF帯を使用するので、迅速な防災・災害対策が可能である。
・波長の長いVHF帯は回り込みが大きく、複雑な地形の我が国において不感地帯の最小化が求められる安心・安全の用途に適している。具体的には、見通し最大27.8km(理論値)の長距離伝送と、山や建物などで見通せない場所での通信が可能となる。また、天候の影響を受けにくく、例えば大雨や大雪でも通信が容易である。
・可搬型基地局と複数の移動端末装置との間で通信でき、公衆網に依存しない自営型の無線ネットワークを容易に構築できるとともに、既存のIPネットワークにも接続可能である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】国土交通省 公共ブロードバンド移動通信システム標準仕様書(国電通仕第56号(平成28年2月8日制定))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記公共ブロードバンド移動通信システムが使用する200MHz帯周辺の、我が国における電波利用状況に目を向けると、図13のようになる。アナログテレビジョン放送の12のチャネルは90MHz~222MHzのVHF帯に割り当てられていたが、その帯域全てがアナログテレビジョン放送に使用されていたのではなく、中間の108~170MHzの帯域は150MHz用移動無線と放送事業用連絡無線に割り当てられている。一方、その高周波側に隣接する公共ブロードバンド移動通信システムが使用する200MHz帯は、上限周波数が202.5MHzであり、マルチメディア放送等に使用される220MHz帯との間には、1つのチャネル幅に相当する5MHzのガードバンドが確保されている。放送事業用連絡無線は、緊急報道や番組制作時の連絡手段として活用されており、特に事情災害時においては、報道現場担当者が航空取材を行なうヘリコプタと交信したり、取材現場へ一斉連絡したりする上で必要不可欠な位置づけがなされている。この用途からもわかるように、公共ブロードバンド移動通信システムと放送事業用連絡無線とは用途と活用場面が生ずるタイミングがきわめて類似しており、特に緊急災害時には通信トラフィックの混雑が両方同時に発生する可能性が高い。
【0006】
ここで問題になるのは公共ブロードバンド移動通信の割当帯域の下限周波数(172.5MHz)と、放送事業用連絡無線の割当帯域の上限周波数(170MHz)との関係であり、前記した上限周波数側のガードバンドの半分、わずか2.5MHz分の空白帯域しか設けられていない。その結果、公共ブロードバンド移動通信が使用する200MHz帯の下限周波数側のチャネルは、放送事業用連絡無線への電波障害を極めて生じやすく、特に3次高調波に由来した送信スプリアスの影響により、正常な通信が困難になる問題がある。その結果、現状では、公共ブロードバンド移動通信システムは200MHz帯に設定される6つのチャネルのうち、上限周波数側の3つのチャネルしか用いられていないのが現状であり、電波資源が有効利用されているとはいいがたい。
【0007】
本発明の課題は、200MHz帯の下限周波数側に隣接する他局周波数帯への電波障害を効果的に抑制でき、ひいては200MHz帯の電波資源の有効活用を図ることができる公共ブロードバンド移動通信システム用の移動端末装置及びそれを用いた無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の移動端末装置は、送受信アンテナと、送受信アンテナに対しアンテナスイッチを介して切替可能に接続される送信フロントエンド部及び受信フロントエンド部とを有した無線フロントエンド回路と、無線フロントエンド回路に接続され、無線基地局への送信波の変調及び無線基地局からの受信波の復調を行なう変復調回路とを有した移動端末装置であって、放送事業用連絡無線に割り当てられた160MHzから170MHzに至る第一周波数帯に対し、その上限周波数側に隣接する172.5MHzから202.5MHzに至る第二周波数帯が割り当てられた公共ブロードバンド移動通信システムに使用され、さらに送信フロントエンド部に設けられるとともに、変復調回路からの送信変調波形信号を増幅し送受信アンテナに向けて出力するパワーアンプと、パワーアンプの出力波形に含まれる、第二周波数帯から第一波数帯側に漏洩するスプリアスレベルを検出するスプリアスレベル検出部と、パワーアンプによる送信電力を検出されたスプリアスレベルに応じて調整制御する送信電力制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明の無線ネットワークシステムは、無線基地局に無線接続される移動端末装置間にて、172.5MHzから202.5MHzに至る割当周波数帯域において公共ブロードバンド移動通信を行なう無線ネットワークシステムにおいて、移動端末装置は、送受信アンテナと、送受信アンテナに対しアンテナスイッチを介して切替可能に接続される送信フロントエンド部及び受信フロントエンド部とを有した無線フロントエンド回路と、無線フロントエンド回路に接続され送信波の変調及び受信波の復調を行なう変復調回路と 送信フロントエンド部に設けられるとともに、変復調回路からの送信変調波形信号を増幅し送受信アンテナに向けて出力するパワーアンプと、パワーアンプの出力波形に含まれる、第一周波数帯から第二周波数帯側に漏洩するスプリアスレベルを検出するスプリアスレベル検出部と、パワーアンプによる送信電力を検出されたスプリアスレベルに応じて調整制御する送信電力制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
送信電力制御部は、検出されたスプリアスレベルが予め定められた閾値よりも大きい場合に送信電力を低減する制御を行なうよう構成することができる。例えば、送信電力制御部は、パケット送信に使用するリソースブロックの送信電力設定情報を無線基地局から受信するとともに、検出されたスプリアスレベルが閾値よりも小さい場合は送信電力を、受信した送信電力設定情報が示す値に設定する一方、検出されたスプリアスレベルが閾値よりも大きい場合は送信電力を、送信電力設定情報が示す値よりも小さく設定するように構成することができる。
【0011】
また、検出されたスプリアスレベルが閾値よりも大きい場合に、スプリアスレベルの閾値に対する差分値が大きくなるほど、送信電力の低減幅が大きくなるように制御を行なうに構成することもできる。
【0012】
変復調回路は、高次直交振幅変調方式と、該高次直交振幅変調方式よりも変調次数の低い直交位相変調方式とを含む複数の変調方式から随時1つのものを選択する形で送信波の適応変調を行なうように構成できる。この場合、送信電力制御部は、変調方式が高次直交振幅変調方式である場合にのみ、送信電力を低減する制御を行なうように構成することができる。
【0013】
また、受信フロントエンド部には、172.5MHzから202.5MHzに至る公共ブロードバンド移動通信用の割当周波数帯域を通過帯域に包含するバンドパスフィルタとして構成され、割当周波数帯域の下限周波数側に隣接する160MHzから170MHzに至る周波数帯を使用する放送事業用連絡無線の通信波を、低域側妨害波として遮断する低域波側妨害波遮断フィルタを設けることができる。低域側妨害波遮断フィルタは、170MHzにおける減衰量が30dB以上70dB以下のSAWフィルタとして構成することができる。該SAWフィルタは通過帯域における挿入損失が5dB以上15dB以下のものを採用できる。また、アンテナスイッチと低域波側妨害波遮断フィルタとの間には、送受信アンテナが受信する受信波信号を増幅するメインローノイズアンプを設けることができる。さらに、該SAWフィルタの出力側に、SAWフィルタを通過後の受信波信号を増幅することによりSAWフィルタによる受信信号の挿入損失を補償する補償用ローノイズアンプを設けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、移動端末装置に、パワーアンプの出力波形に含まれる第一周波数帯から第二周波数帯側に漏洩するスプリアスレベルを検出するスプリアスレベル検出部と、パワーアンプによる送信電力を検出されたスプリアスレベルに応じて調整制御する送信電力制御部とを設けた。これにより、200MHz帯に公共ブロードバンド移動通信システムを構築した際に、下限周波数側の上記帯域の他局通信波(具体的には、放送事業用連絡無線の通信波)への電波障害問題、特に送信波の3次高調波に由来したスプリアス干渉の影響を効果的に抑制でき、ひいては200MHz帯の電波資源の有効活用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の無線通信システムの構成概要を示すブロック図。
図2】可搬型基地局装置の電気的構成の一例を示すブロック図。
図3】本発明の移動端末装置の電気的構成の一例を示すブロック図。
図4A】無線基地局部の無線通信部の電気的構成を示すブロック図。
図4B】実施形態に用いたSAWフィルタの通過特性を示すグラフ。
図5図4Aの無線通信部の変調部の電気的構成の一例を示すブロック図。
図6図4Aの無線通信部の復調部の電気的構成の一例を示すブロック図。
図7】IPパケットの概念図。
図8】3GPPのコントロールプレーンのプロトコルスタックを概念的に示す図。
図9】3GPPのユーザプレーンのプロトコルスタックを概念的に示す図。
図10】3GPPの下りリンクのチャネルマッピングを概念的に示す図。
図11】同じく上りリンクのチャネルマッピングを概念的に示す図。
図12】周波数バンドチャネル、及びリソースブロックの関係を示す概念図。
図13】VHF帯の通信周波数割り当て状況を示す説明図。
図14】パワーアンプの出力飽和と波形歪との関係を説明する図。
図15】第二周波数帯のチャネル配置を、出力スペクトル密度レベルの設定及び送信スプリアス規格とともに説明する図。
図16】パワーアンプの入出力特性と3次高調波との関係を示すグラフ。
図17】CQI表の一例を示す図。
図18】本発明の無線通信システムの一例における、移動端末装置の送信電力制御の処理の流れを示す通信フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を添付の図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の無線通信システムの一例を概念的に示す模式図である。無線通信システム50は3GPPで規定された方式(本実施形態では、LTEとするが、WiMAXなど他の方式であってもよい)の通信プロトコルスタックに従い、可搬型基地局装置1を介して複数のUE(移動端末装置)5間で無線通信を行なうものとして構成されている。
【0017】
無線通信システム50の可搬型基地局装置1は、災害等の現場に設置され、被災地等の正確な情報の共有のための映像伝送等が可能な公共ブロードバンド移動通信システムを構築する。該公共ブロードバンド移動通信システムには、使用周波数帯域として200MHzVHF帯、すなわち172.5MHzから202.5MHzに至る帯域が割り当てられている。可搬型基地局装置1は後述の通りバッテリーや自家発電装置等から電源電圧を調達でき、公衆網に依存しない自営型の無線ネットワークを容易に構築できる。UE5は可搬型基地局装置1の活動者が携行するものであり、各々可搬型基地局装置1に対し無線ベアラ57により接続される。
【0018】
可搬型基地局装置1は、無線基地局部(eNodeB(evolved NodeB(無線基地局))4と、無線基地局部4に有線接続され、該無線基地局部4に対する上位ネットワーク制御部として機能するEPC(Evolved Packet Core)機能部3とを有する。EPC機能部3は、コントロールプレーン側のゲートウェイとなるMME(Mobility Management Entity)2、ユーザプレーン側のゲートウェイとなるS-GW(Serving Gateway)6、及び上流側ネットワーク要素(ここでは、ルータ8)との結節点に位置し、上流側ネットワーク要素側に向けたIPアドレス管理を行なうP-GW(PDN (Packet Data Network) Gateway)7を有する。ルータ8は無線(例えば衛星通信)ないし有線により外部ネットワーク60と接続し、公共ブロードバンド通信の配信対象である動画(映像)等のコンテンツデータを取得する機能を果たす。
【0019】
コントロールプレーン側において無線基地局部(eNodeB)4は、S1-MMEインターフェースを介してMME2に接続される。また、ユーザプレーン側において無線基地局部4は、S1-Uインターフェースを介してS-GW6に接続される。S-GW6はS5インターフェースを介してP-GW7と接続される。
【0020】
図2は、可搬型基地局装置1の電気的構成の一例を示すブロック図である。EPC機能部3はマイコンハードウェアを主体に構成されており、CPU301、プログラム実行領域となるRAM302、マスクROM303(恒久的に書換えが不要なマイコンハードウェア周辺制御用等のファームウェアを格納している;以下、同様)及びそれらを相互に接続するバス306等からなる。また、バス306にはフラッシュメモリ305が接続され、ここにEPC用のLTEプロトコルスタックを含む通信ファームウェア305aと、前記LTEプロトコルスタックをプラットフォームとして、図2のMME2、S-GW6及びP-GW7の各機能を仮想的に実現するMMEエンティティ305b、S-GWエンティティ305c及びP-GWエンティティ305dの各プログラムがインストールされている。
【0021】
また、バス306には上流側通信インターフェース304A及び下流側通信インターフェース304Bが接続されている。P-GW用のIPパケットの入出力ポートは上流側通信インターフェース304Aに、S-GW用のIPパケットの入出力ポートは下流側通信インターフェース304Bにそれぞれ確保される。なお、上記の構成では、図2のMME2、S-GW6及びP-GW7をコンピュータハードウェア上でのソフトウェア的に実現される仮想機能ブロックとして構成しているが、各々独立したハードウェアロジックにより構成してもよい。
【0022】
無線基地局部4はマイコンハードウェアを主体に構成されており、CPU401、プログラム実行領域となるRAM402、マスクROM403及びそれらを相互に接続するバス406等からなる。バス406にはフラッシュメモリ405が接続され、ここに無線基地局用のLTEプロトコルスタックを含む通信ファームウェア405aが格納されている。また、バス406には無線ベアラの構築によりUE5と無線接続するための無線通信部412と、通信インターフェース404とが接続されている。通信インターフェース404はEPC機能部3の通信インターフェース304と有線の通信バス31により接続されている。
【0023】
次に、可搬型基地局装置1は、着脱式の二次電池モジュール21(例えば、リチウムイオン二次電池モジュールやニッケル水素二次電池モジュールなど)と、無線基地局部4及びEPC機能部3の各回路ブロックと、二次電池モジュール21からの入力電圧を各回路ブロックの駆動電圧に変換して出力する電源回路部22とが可搬型筐体23に一体的に組付けられた構造を有する。これにより、可搬型基地局装置1は、二次電池モジュール21から駆動電源電圧を自律的に調達でき、商用交流などの外部電源電圧が使用不能な設置場所(例えば停電している被災地など)においても問題なく使用可能である。可搬型筐体23は金属ないし強化型樹脂製の箱型である。
【0024】
放電により二次電池モジュール21の出力電圧が下がった場合は、可搬型筐体23から二次電池モジュール21を取り外し、例えば図示しない商用交流電源や自家発電装置に接続された専用の充電器に装着して充電することが可能である。また、電源回路部22は、上記商用交流や自家発電装置、あるいは電気自動車やハイブリッド車などのバッテリー搭載車の給電リッドなどからの外部電源電圧も受電できるようになっており、上記駆動電源電圧に変換出力が可能である。さらに、当該外部電源電圧により二次電池モジュール21の充電を実行できるように構成することもできる。例えば電源回路部22が商用交流等から受電している状態で、停電により該受電が途絶えた場合は二次電池モジュール21からの受電に切り替えることで、可搬型基地局装置1の動作が継続可能となるように構成することもできる。
【0025】
図3は、UE(移動端末装置)5の電気的構成の一例を示すブロック図である。UE5はマイコン100を処理主体として備えたスマートフォンとして構成されている。マイコン100は、CPU101、プログラム実行領域となるRAM102、ROM103、入出力部104及びそれらを相互に接続するバス106等からなる。また、バス106にはフラッシュメモリ105が接続され、ここにUE5の動作環境を構築するためのOS105s、UE用のLTEプロトコルスタックを含む通信ファームウェア105a、及び後述のスプリアスレベルを解析するスプリアスレベル解析プログラム105cがインストールされている。
【0026】
また、入出力部104にはグラフィックコントローラ1091を介してモニタ109が接続されている。モニタ109には入力部をなすタッチパネル110が重ね合わされ、モニタ109に表示形成される種々のソフト操作部と協働して、UE5の動作制御に必要な種々の情報入力がなされるようになっている。モニタ109は、公共ブロードバンド通信システムを介して配信される動画(映像)等の再生手段として機能する。タッチパネル110はタッチパネルコントローラ1101を介して入出力部104に接続されている。入出力部104には静止画ないし動画を撮影するためのカメラ111が接続されている。さらに、バス106には無線通信部500が接続されている。UE5は該無線通信部500にて、図1の無線通信ユニット1の無線基地局部4と、送受信アンテナ505により無線ベアラ57を介して無線接続される。
【0027】
図4Aは、無線通信部500の電気的構成の一例を示すブロック図である。無線通信部500は、図3のマイコンハードウェアのバス106との間でデジタル信号の入出力を行なうためのインターフェース部501と、該インターフェース部501のフロントエンド側に設けられた受信側ブロック510及び送信側ブロック550と、送受信アンテナ505と、マイコンハードウェア100側からの送受信切替信号を受けて、該送受信アンテナ505に対し受信側ブロック510及び送信側ブロック550を択一的に切替接続するアンテナスイッチ504とを備える。受信側ブロック510及び送信側ブロック550は、適応変調を実施するための複数の変復調方式、例えば4位相変位変調(QPSK:Quadrature Phase shift Keying)や、高次直交振幅変調(16QAM:16Quadrature Amplitude Modulation、あるいは64QAM:16Quadrature Amplitude Modulation)などに個々に対応するものであるが、それらの変復調回路の構成自体は周知であるため、ここではQPSKの変復調回路として構成したもので代表させて説明する。
【0028】
送信側ブロック550は、インターフェース部501から入力されるシリアル送信データ信号をベースバンド信号として搬送波を変調することによりアナログ送信波信号を生成する変調回路700と、そのアナログ送信波信号を増幅して送受信アンテナ505に供給する送信フロントエンド部730を備える。また、受信側ブロック510は、アンテナ受信信号から希望波を抽出して増幅する受信フロントエンド部630と、受信フロントエンド部630から出力される受信波信号からベースバンド信号を復調しシリアル受信データに変換する復調回路600を備える。送信フロントエンド部730と受信フロントエンド部630は無線フロントエンド回路を構成する。また、変調回路700及び復調回路600は変復調回路を構成する。
【0029】
図5は、変調回路700の構成例を示すものであり、シリアル送信データ信号の波形をシリアル/パラレル変換部720により2チャネル(Ich/Qch)のパラレルビット信号に分離し、各々D/A変換部717,719及びローパスフィルタ716,718を介してアナログベースバンド信号に変換する。各チャネルのアナログベースバンド信号は乗算器713,715にて、電圧制御発信回路VCOと位相同期ループ回路PLLとからなる発信回路712からの正弦波搬送波(一方が移相器714により90°進角される)により直交周波数変調波とされ、さらにそれらがデュプレクサ721にて混合され、アナログ送信波信号として送信フロントエンド部730(図4A)に出力される。
【0030】
図6は、復調回路600の構成例を示すものであり、受信フロントエンド部630からのアナログ受信波信号を乗算器613,615にて、発信回路612からの正弦波復調信号(一方が移相器614により90°進角される)により復調してIch及びQchのベースバンド信号とする。これらのベースバンド信号はさらにローパスフィルタ616,618及びA/D変換器617,619によりパラレルビット信号に変換され、さらにパラレル/シリアル変換部620によりシリアル受信データ信号に変換され、図4Aのインターフェース部501に向けて出力される。
【0031】
図4Aに戻り、送信フロントエンド部730は、変調回路700からのアナログ送信波信号は、追って詳述するごとく、可変アッテネータ551により入力レベルが調整された後、パワーアンプ553で増幅され、さらにバンドパスフィルタ552、アンテナスイッチ504及びアンテナ505を経て送信波として出力する。他方、受信フロントエンド部630は、アンテナ505が受信する受信波をメインローノイズアンプ513にて増幅し、さらにバンドパスフィルタ511を通過させ、アナログ受信波信号として復調回路600に向け出力する。可変アッテネータ551の減衰率は、マイコンハードウェア100(図3)側からの送信電力切替信号を受けて後述のごとく適宜切替設定される。これにより、パワーアンプ553の送信電力レベルが調整される。詳細については後述する。
【0032】
また、送信フロントエンド部730には、パワーアンプ553の出力波形に含まれる、第一周波数帯から第二周波数帯側に漏洩するスプリアスレベルを検出するスプリアスレベル検出部570が設けられている。スプリアスレベル検出部570は、バンドパスフィルタ552の下流側にてパワーアンプ553の出力を、方向性結合器574を介して分岐させる分岐信号線574と、該分岐信号線574上に設けられるバンドパスフィルタ571、検波ダイオード572、分岐信号線574から接地側に分岐する形で設けられたコンデンサ573及び検波後のスプリアス信号をデジタル化するA/D変換器574を備える。
【0033】
バンドパスフィルタ571は、パワーアンプ553の出力波形に含まれる第一周波数帯側へのスプリアス波形成分を抽出するものであり、本実施形態では第一周波数帯をカバーする160MHz~170MHzの通過帯域を有するものが使用されている。バンドパスフィルタ571にて抽出されたスプリアス波形信号は検波ダイオード572とコンデンサ573により包絡線検波され、さらにA/D変換器574にてデジタル化されて、スプリアスレベルを示す信号としてインターフェース部501を介しマイコン100(図3)に送られる。
【0034】
以下、LTE通信方式の概要について説明する。
図7は、UE5と可搬型基地局装置1との間のデータ伝送に使用するIPパケットの構造を示す模式図である。IPパケット1300はIPヘッダ1301とペイロード1302とからなり、IPヘッダ1301にはPDU識別番号、データの送信元アドレス1301a、送信先アドレス1301bなどが書き込まれる。図8及び図9は、LTEシステムにおける無線プロトコルスタックを示し、図8はユーザプレーンのプロトコルスタックを、図9はコントロールプレーンのプロトコルスタックを示している。該無線プロトコルスタックは、OSI参照モデルのレイヤ1~レイヤ3に区分されており、レイヤ1はPHY(物理)層である。レイヤ2は、MAC(Medium Access Control:メディアアクセス制御)層、RLC(Radio Link Control:無線リンク制御)層、及びPDCP(Packet Data Convergence Protocol:パケットデータ暗号化)層を含む。レイヤ3は、RRC(Radio Resource Control:無線リソース制御)層及びNAS(Non-Access Stratum:非アクセス)層を含む。
【0035】
各層の役割は以下の通りである。
・PHY層:符号化・復号、変調・復調、アンテナマッピング・デマッピング、及びリソースマッピング・デマッピングを行なう。UE5及び中継無線通信部9のPHY層と無線基地局部(eNodeB)4のPHY層との間では、物理チャネルを介してデータ及び制御信号が伝送される。
・MAC層:データの優先制御、HARQによる再送制御処理、及びランダムアクセス手順等を行なう。UE5のMAC層と無線基地局部4のMAC層との間では、トランスポートチャネルを介してデータ及び制御信号が伝送される。無線基地局部4のMAC層は、上下リンクのトランスポートフォーマット(トランスポートブロックサイズ、変調・符号化方式(MCS))及びUE5への割当リソースブロックを決定するスケジューラを含む。
【0036】
・RLC層:MAC層及びPHY層の機能を利用してデータを受信側のRLC層に伝送する。UE5のRLC層と無線基地局部4のRLC層との間では、論理チャネルを介してデータ及び制御信号が伝送される。
・PDCP層:PDUのヘッダ圧縮・伸張、及び暗号化・復号化を行なう。
・RRC層:制御信号を取り扱う制御プレーンでのみ定義される。UE5のRRC層と無線基地局部4のRRC層との間では、各種設定のためのメッセージ(RRCメッセージ)が伝送される。RRC層は、無線ベアラの確立、再確立及び解放に応じて、論理チャネル、トランスポートチャネル及び物理チャネルを制御する。UE5のRRCと無線基地局部4のRRCとの間に接続(RRC接続)がある場合、UE5はRRCコネクティッドモードとなり、そうでない場合はRRCアイドルモードとなる。
【0037】
以上の層はコントロールプレーン及びユーザプレーンの双方にて使用される。一方、コントロールプレーンのみ、UE5及びMME2には、RRC層よりさらに上位のセッション管理及びモビリティ管理等を行なうNAS層が設けられる。また、無線基地局部4のEPC機能部3側とのユーザデータ伝送インターフェースには、GTP-U(GPRS(General Packet Radio Service)Tunneling Protocol for User Plane)層が設けられている。GTP-U層は、接続先のUE5の識別や、使用する無線ベアラの識別を行なうためのものである。
【0038】
次に、図10は、LTEシステムにおける下りリンクのチャネルマッピングを示す。ここでは、論理チャネル(Downlink Logical Channel)、トランスポートチャネル(Downlink Transport Channel)及び物理チャネル(Downlink Physical Channel)相互間のマッピング関係を示している。以下、順に説明する。
・DTCH(Dedicated Traffic Channel:専用トラフィックチャネル)は、データの送信のための個別論理チャネルである。DTCHは、トランスポートチャネルであるDLSCH(Downlink Shared Channel:下りシェアドチャネル)にマッピングされる。
・DCCH(Dedicated Control Channel:専用制御チャネル):UE5とネットワークとの間の個別制御情報を送信するための論理チャネルである。DCCHは、UE5が無線基地局部4とRRC接続を有する場合に用いられる。DCCHは、DLSCHにマッピングされる。
・CCCH(Common Control Channel:共通制御チャネル):UE5及び中継無線通信部9と無線基地局部4との間の送信制御情報のための論理チャネルである。CCCHは、UE5が無線基地局部4との間でRRC接続を有していない場合に用いられる。CCCHは、DLSCHにマッピングされる。
【0039】
・BCCH(Broadcast Control Channel:放送制御チャネル):システム情報配信のための論理チャネルである。BCCHは、トランスポートチャネルであるBCH(Broadcast Channel、放送チャネル)又はDLSCHにマッピングされる。
・PCCH(Paging Control Channel:ページング制御チャネル):ページング情報、及びシステム情報変更を通知するための論理チャネルである。PCCHは、トランスポートチャネルであるPCH(Paging Channel:ページングチャネル)にマッピングされる。
【0040】
また、トランスポートチャネルと物理チャネルとの間のマッピング関係は以下の通りである。
・DLSCH及びPCH:PDSCH(Physical Downlink Shared Channel:物理下りシェアドチャネル)にマッピングされる。DLSCHは、HARQ、リンクアダプテーション、及び動的リソース割当をサポートする。
・BCH:PBCH(Physical Broadcast Channel:物理ブロードキャストチャネル)にマッピングされる。
【0041】
次に、図11は、LTEシステムにおける上りリンクのチャネルマッピングを示す。図8と同様に、論理チャネル(Downlink Logical Channel)、トランスポートチャネル(Downlink Transport Channel)及び物理チャネル(Downlink Physical Channel)相互間のマッピング関係を示している。以下、順に説明する。
【0042】
・CCCH(Common Control Channel:共通制御チャネル):UE5とEPC機能部3との間の制御情報を送信するために使用される論理チャネルであり、EPC機能部3と無線リソース制御(RRC:Radio Resource Control)接続を有していないUE5によって使用される。
・DCCH(Dedicated Control Channel:専用制御チャネル):1対1(point-to-point)の双方向の論理チャネルであり、UE5とEPC機能部3と間で個別の制御情報を送信するために利用するチャネルである。専用制御チャネルDCCHは、RRC接続を有しているUE5によって使用される。
・DTCH(Dedicated Traffic Channel:専用トラフィックチャネル):1対1の双方向論理チャネルであり、特定のUE又は中継無線通信部専用のチャネルであって、ユーザ情報の転送のために利用される。
【0043】
・ULSCH(Uplink Shared Channel:上りリンク送受信チャネル):HARQ)、動的適応無線リンク制御、間欠送信(DTX:Discontinuous Transmission)がサポートされるトランスポートチャネルである。
・RACH(Random Access Channel:ランダムアクセスチャネル):制限された制御情報が送信されるトランスポートチャネルである。
【0044】
・PUCCH(Physical Uplink Control Channel:物理上りリンク制御チャネル):下りリンクデータに対する応答情報(ACK(Acknowledge)/NACK(Negative acknowledge))、下りリンクの無線品質情報(CQI: Channel Quality Indicator)、および、上りリンクデータの送信要求(スケジューリングリクエスト:Scheduling Request:SR)を無線基地局部4に通知するために使用される物理チャネルである。
・PUSCH(Physical Uplink Shared Channel:物理上りリンク送受信チャネル):上りリンクデータを送信するために使用される物理チャネルである。
・PRACH(Physical Random Access Channel:物理ランダムアクセスチャネル):主にUE5から無線基地局部4への送信タイミング情報(送信タイミングコマンド)を取得するためのランダムアクセスプリアンブル送信に使用される物理チャネルである。ランダムアクセスプリアンブル送信はランダムアクセス手順の中で行なわれる。
【0045】
図11に示すように、上りリンクでは、次のようにトランスポートチャネルと物理チャネルのマッピングが行われる。上りリンク送受信チャネルULSCHは、物理上りリンク送受信チャネルPUSCHにマッピングされる。ランダムアクセスチャネルRACHは、物理ランダムアクセスチャネルPRACHにマッピングされる。物理上りリンク制御チャネルPUCCHは、物理チャネル単独で使用される。また、共通制御チャネルCCCH、専用制御チャネルDCCH、専用トラフィックチャネルDTCHは、上りリンク送受信チャネルULSCHにマッピングされる。
【0046】
次に、LTEシステムの下りリンクにおいては、UE5は無線基地局部4に対してOFDM(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing、直交周波数分割多重)アクセス(OFDMA)により無線接続する。OFDMA方式は、周波数分割多重と時間分割多重とを複合させた二次元の多重化アクセス方式として特徴づけられる。具体的には、直交する周波数軸と時間軸のサブキャリアを分割してUE5に割り振り、各サブキャリアの信号がゼロ(0点)になるように、周波数軸上で直交するサブキャリアを分割する。サブキャリアを分割して周波数軸上に割り当てることにより、あるサブキャリアがフェージングの影響を受けても影響のない別のサブキャリアを選択することができるので、ユーザは無線環境に応じてより良好なサブキャリアを使用でき、無線品質を維持できる利点が生ずる。
【0047】
そして、OFDMA方式においては、周波数軸と時間軸とが張る仮想平面上で定義されるリソースブロック(Resource Block)RBが無線リソースとして採用される。RBは図12に示すように、上記平面を180kHz/0.5msecでマトリックスに区切ったブロックとして定義され、各リソースブロックRBは周波数軸上では15kHz間隔で隣接する12個のサブキャリアを、時間軸上ではフレームの1スロット分(7シンボル)を含む。このRBは時間軸上で隣接する2つ(1msec)を1組としてUE5に割り当てられる。他方、LTEシステムの上りリンクにおいても、SC-FDM(Single Career Frequency-Division Multiplexing)アクセス(SC-FDMA)が採用される点を除き、同様の概念のリソースブロックRBが無線リソースとして用いられる。OFDMAでは1つのリソースブロックが周波数軸上で12のサブキャリア(帯域幅:15kHz)に分割されるのに対し、SC-FDMAはサブキャリアへの分割がなされないシングルキャリア方式である。
【0048】
例えば下りリンクへのリソースブロックの割当については、通常のLTEプロトコルにおいて次のような手順にて決定されている。UE5及び中継無線通信部9は、定められた周波数単位ごとに、eNodeB4より送信されるCQI参照信号を受信し、下りチャネルの受信品質を示す指示子であるCQIを測定してCQI情報を作成する。CQI情報は、図17に示すように、測定により得られる受信品質を変調方式毎に符号化率と周波数利用効率の2つのパラメータにて表したもので、上りリンクの制御チャネル(前述のPUCCH)を用いてUE5からeNodeB4にCQIインデクスを用いて報告される。eNodeB4は、複数のUE5から通知されたCQI情報を基に、個々のUE5との無線ベアラにリソースブロックを割り当てる。各UE5のCQI情報の内容に応じて受信信号レベルの高い周波数ブロックを各々のUE5に対して最適に割当てを行うことにより、UE5のダイバーシチ効果(マルチユーザダイバーシチ)を得ることができ、ユーザスループットおよびセル当りのスループットを向上できる。
【0049】
MAC層上で動作する前述のスケジューラは、図12に示す如く、公共ブロードバンド移動通信の割当周波数帯域に設定される6つのチャネル(CH1~CH6)のいずれが使用される場合でも、図1の無線ベアラ57の構築にあたって、図12の方式によるリソースブロックRBの割当制御が行われる。図3の無線基地局部4においては、スケジューラが割り当てたリソースブロックRBが特定する周波数に基づき、図5及び図6における変調部700及び復調部600の電圧制御発信回路VCOに対する搬送波周波数及び変調方式の設定指示がなされる。
【0050】
そして、割当周波数帯域の下限周波数(172.5MHz)がチャネル下限周波数と一致するCH1が使用される場合も、スケジューラは該チャネル内に設定される全てのリソースブロックを選択の対象として割当のスケジューリングを実行する。そして、本発明においては、UE5にて、パワーアンプ553が出力する送信波形信号に含まれるスプリアス波形信号のレベル(スプリアスレベル)をスプリアスレベル検出部570にて検出し、パワーアンプ553による送信電力を検出されたスプリアスレベルに応じて調整制御する処理がなされる(送信電力制御部の機能)。以下、その詳細について説明する。
【0051】
図13に示すように、公共ブロードバンド移動通信の割当周波数帯域である第二周波数帯には該第二周波数帯全体をカバーするように6つのチャネル(CH1~CH6:中心周波数がそれぞれ175、180、185、190、195及び200MHz、帯域幅は各5MHz)が設定されている。LTE方式を採用する本実施形態の通信システム50(図1)は、6つのチャネル全てを使用可能に構成されており、上記第二周波数帯の下限周波数(172.5MHz)がチャネル下限周波数と一致するCH1(第1チャネル)を使用する場合に、上記のごとく、該チャネル内に設定されるリソースブロックを、最低周波数リソースブロックEBを含めもれなく使用する形で通信を行なう。この最低周波数リソースブロックEBは、放送事業用連絡無線の割当帯域である第一周波数帯との周波数間隔が2.5MHzと極めて狭小であるから、第一周波数帯への電波障害を極めて生じやすい。この場合、特に問題となるのは、最低周波数リソースブロックEBが使用された時の送信波の3次高調波によるスプリアス発射である。
【0052】
具体的には、図14に示すように、送信波を増幅するパワーアンプ553(図4A)は、入出力特性の線形領域を超えて送信電力が設定された場合に、波形の頂部がつぶれる形で歪む。この波形歪は、基本波に対する高調波を生ずる。このうち、強度レベルの最も高いのは3次高調波であり、基本波の周波数の両側に比較的近接した形で表れるので、最低周波数リソースブロックによる送信時にこの3次高調波が高レベルで発生すると、周波数間隔が狭小な第一周波数帯側へのスプリアスレベルが上昇し、電波障害につながる。
【0053】
図15は、上記第二周波数帯を使用した公共ブロードバンド移動通信システムにおけるスプリアス規格の概要を示すものであり、各チャネルの送信電力密度(縦軸)レベルを棒グラフにて示しているが、第一周波数帯との間の空白帯域におけるスプリアスレベルの上限値(灰色実線)は-30dBm/100kHzと、極めて厳しい値が求められていることがわかる。
【0054】
図16に示すように、パワーアンプ553の入出力特性は、ある上限入力レベルまでは基本波が歪まず線形性を保持しているが、これを超えて出力レベルが増大すると3次高調波の発生により線形性が失われ、特性曲線が低出力側へと屈曲する。図中には、入力レベルに対する3次高調波成分のレベル変化も合わせて表示しており、上限入力レベル以上で3次高調波歪のレベルは基本波の線形領域よりも大きな勾配(対数表示で3倍)で増加している。これは、数学的には3次高調波のレベルが基本波のレベルの3乗に比例することに由来する。基本波の線形領域の入出力直線の延長と、3次高調波レベルを示す直線との交点は3次インターセプトポイントと称され、この値が大きいほどパワーアンプ553の線形性がより高出力の領域にまで維持できることを意味する。また、基本波の線形領域の延長に対し、実際の出力が1dB小さくなる動作点を1dB圧縮点と称する。パワーアンプ553については、この1dB圧縮点よりも低い入力レベルで動作させる動作を基本とし、入力レベルは通常は該1dB圧縮点に対応するレベルの60~70%の範囲内に収まるように調整される。しかしながら、このような設定においても入力レベルの瞬時値が1dB圧縮点に接近したり、これを若干超えたりすることがあり、3次高調波の発生要因となる。特に、変調方式として16QAMや64QAMなどの高次直交振幅変調が採用されているときは、過入力による3次高調波の発生が特に起きやすいことも判明している。
【0055】
そこで、本実施形態では、上記のUE5によるパケット送信時におけるスプリアス発射の低減対策として、図18に示す処理フローに従い、UE5の送信電力を調整する処理を行なう。UE5がU1にて無線基地局部4にアタッチ要求すると、U2にてUE5、無線基地局部4及びEPC機能部3の間で周知のアタッチシーケンスが実行され、無線ベアラがセットアップされる。次いで、具体的なパケット送信手順に移行し、まずU3では無線基地局部4からUE5にCQI測定用の参照信号が送信される。UE5ではこれを受信し、CQI測定が行われ、U5にてその測定結果をCQIインデックス(図17)の形で返す。
【0056】
無線基地局部4では、接続中の全てのUEからのCQI測定結果を参照し、リソースブロックの割当スケジュール(つまり、どのリソースブロックをどのUEに割り当てるか)を決定する。U7では、割当RBの位置、変調方式及び送信電力設定指示値を含むリソースブロック設定情報が無線基地局部4にて作成され、U8にてUE5に送信される。UE5ではこれを受信し、U9にて該リソースブロック設定情報を参照することにより、割当リソースブロックに対応する周波数・変調方式を設定し、さらに送信電力の設定を行なう。U10では、該設定に従う送信条件にて上りパケットの送信を開始する。
【0057】
次いで、U11では、スプリアスレベル検出部570(図4A)が検出したスプリアスレベルIsを特定する。スプリアスレベルIsは直近の予め定められた時間平均値を用いてもよい。U12では特定されたスプリアスレベルIsを予め定められた閾値と比較する。閾値を超えていない場合はU14へ進み、無線基地局部4から受信した送信電力設定指示値が維持されるよう、図4Aの可変アッテネータ551によるパワーアンプ553への入力信号の減衰率を指定する。一方、U12で、特定されたスプリアスレベルIsが閾値を超えていた場合はU13に進み、送信電力を抑制する設定を行なう。具体的には、図4Aの可変アッテネータ551に対し、リソースブロック設定情報に含まれる送信電力設定指示値から一定のステップ幅Δpだけ送信強度が下がるように、減衰率を設定変更するための送信電力切替信号を出力する。その後、U11に戻り、スプリアスレベルIsを再度特定し、閾値と比較する。スプリアスレベルIsが依然閾値より大きければ、U13にて送信強度がさらにΔpだけ下がるように減衰率を変更する。以上の処理を、特定されるスプリアスレベルIsが閾値未満となるまで繰り返し、Isが閾値未満となった時点でU14に進み、送信電力設定(可変アッテネータ551の減衰率)を維持する。以上の処理が終了すれば、U15において調整後の送信電力設定によりパケット送信を行なう。
【0058】
上記、U11~U15の処理は、無線基地局部4からの指示によりリソースブロック設定が切り替わるごとに繰り返し実行される。この場合、リソースブロックとして、図12の最低周波数リソースブロックEBが使用されていない場合、例えばCH2~CH6のいずれかが使用されている場合や、CH1内のリソースブロックにおいても下限周波数からの隔たりが例えば2.5MH以上となるリソースブロックが選択される場合は、無線基地局部4からの設定指示値に対応する送信電力で送信を行なってもスプリアスレベルIsが最初から閾値未満となり、送信電力の抑制は必然的に実施されない流れとなる。
【0059】
パワーアンプ553(図4A)による3次高調波の発生レベルは、基本波の送信電力レベルに対し3乗に比例して変化する。よって、基本波の送信電力レベルを例えば1dB下げるだけで、3次高調波に由来したスプリアス発射レベルは3dB(30倍)低減することができる。この場合、パワーアンプ553の入力レベルの瞬時最大値が上記1dB圧縮点に対応するレベル未満に収まるように、可変アッテネータ551の最終的な減衰率が設定されることが望ましい。なお、上記の処理ではパワーアンプ553の送信電力を、スプリアスレベルIsが閾値を下回るまで、一定のステップ幅Δpずつ段階的に低減する処理を行なったが、より簡便な方法として、スプリアスレベルIsが閾値を上回った時点で、より大きく定められたステップ幅Δpだけ送信電力を低減する処理を1回のみ実施する方式を採用するようにしてもよい。
【0060】
以上の構成により、上記のごとく200MHz帯に公共ブロードバンド移動通信システムを構築した際に、UE5による最低周波数リソースブロックを用いたパケット送信時において、放送事業用連絡無線へのスプリアス発射による妨害を効果的に抑制できることが明らかである。また、この妨害の懸念により、公共ブロードバンド移動通信においては200MHz帯の6チャネルのうち、低周波側の3チャネルの積極的な活用がこれまで見送られてきたが、上記構成に採用により、これら3つのチャネルも問題なく活用でき、200MHz帯の電波資源の有効活用を図ることができる。
【0061】
次に、本実施形態では、図4Aに示すように、受信フロントエンド部630に低域波側妨害波遮断フィルタをなすバンドパスフィルタ511を設けている。これにより、放送事業用連絡無線帯域からの妨害波を効果的にブロッキングでき、UE5における高品質の受信が可能となる。図12において、最低周波数ソースブロックEBが無線ベアラ57の構築に割り当てられた場合においても、放送事業用連絡無線帯域からの妨害波が効果的にブロッキングされ、UE5における高品質の受信が可能となる。以下、これについて説明する。
【0062】
バンドパスフィルタ511の仕様は、公共ブロードバンド移動通信側の希望波を過度(例えば15dB以内)に減衰させず、かつ2.5MHzだけ低周波側に離れた放送事業用連絡無線の通信波は十分(例えば25dB以上)に減衰できる急峻な通過特性を有したものが要求される。しかしながら、200MHz帯の通信波の波長は75cm程度と大きく、例えば減衰が深く急峻な通過特性を得られるキャビティフィルタは極度に寸法が大型化するため、移動端末装置5を携帯端末装置等の小型機器への組み込みは不能である。
【0063】
そこで、図4Aのバンドパスフィルタ511(低域側妨害波遮断フィルタ)として、本実施形態ではSAW(Surface Acoustic Wave:表面弾性波)フィルタ(以下、SAWフィルタ511ともいう)が採用されている。SAWフィルタは圧電体基板上にくし形電極を対向配置した構造を有し、電気信号として入力された高周波信号は、圧電体基板の圧電効果によりその表層部にて数μm程度の波長の表面弾性波に変換される。そして、その表面弾性波に含まれる所望の周波数の成分が圧電体基板上を伝搬する際に抽出され、これを再び電気信号として取り出すものである。フィルタの通過帯域幅と中心周波数は、くし型電極の構造周期と圧電体及び電極の物性により種々に調整可能である。SAWフィルタの採用により、バンドパスフィルタ511(低域側妨害波遮断フィルタ)は、上記のような波長の大きい周波数帯域においても携帯端末装置に面実装素子等として組み込み可能な程度のサイズに縮小可能である。
【0064】
上記のSAWフィルタ511は、放送事業用連絡無線の割当帯域の上限周波数に相当する170MHz付近において、その減衰量が25dB以上となるものを採用するのがよい。該周波数における減衰量が25dB未満では、低域側妨害波の遮断効果が十分でなくなる。この減衰量の上限値に特に制限はないが、例えば70dB程度の該上限値を定めることができる。他方、200MHz帯の下限周波数に相当する172.5MHzでの減衰量は15dB以下となっていることが望ましい。図4Bは、本実施形態に用いたSAWフィルタの通過特性を示すグラフであり、170MHzでの減衰特性は40dB程度と急峻である。このような、深く急峻な減衰特性を有したSAWフィルタ511の採用により、放送事業用連絡無線の送信パワーによる受信ブロッキング特性 (特にCH1(中心周波数:175MHz)の受信特性)を効果的に改善できる。
【0065】
上記のようなSAWフィルタ511を採用した場合、通過帯域内の希望信号の減衰量は5dB以上15dB以下(例えば10dB)と大きくなる。一方、希望信号に対するバックグラウンドノイズ(例えば熱雑音が主体となるもの)はSAWフィルタ511を通過させても減衰せず同レベルで残ることがあり、この場合は希望信号のNF(Noise Figure)が悪化する問題を生ずる。そこで、図4Aに示すように、アンテナスイッチ504とSAWフィルタ511(低域波側妨害波遮断フィルタ)との間に、送受信アンテナ505が受信する受信波信号を増幅する前述のメインローノイズアンプ513を設ける一方、SAWフィルタ511の出力側には、SAWフィルタ511を通過後の受信波信号を増幅することによりSAWフィルタ511による受信信号の挿入損失を補償する補償用ローノイズアンプ512を設けることができる。このような補償用ローノイズアンプ512を設けることにより、SAWフィルタ511の挿入損失による希望信号の減衰を補償でき、NFが悪化する問題を効果的に解消することができる。補償用ローノイズアンプ512のゲインは、SAWフィルタ511の挿入損失レベルの0.5倍以上2倍以下程度に設定するのがよい。なお、SAWフィルタは減衰率の低いものを複数カスケード接続して使用することも可能である。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、あくまで例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図18の処理において、U9にて設定した変調方式が高次直交振幅変調方式である場合にのみ、送信電力を低減する制御(U11~U13)を行なうように構成することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 可搬型基地局装置
2 MME
3 EPC機能部
4 無線基地局部
5 UE(端末装置)
6 S-GW
7 P-GW
8 ルータ
21 二次電池モジュール
22 電源回路部
23 可搬型筐体
50 無線通信システム
57 無線ベアラ
301 CPU
302 RAM
303 マスクROM
305 フラッシュメモリ
305a 通信ファームウェア
305b MMEエンティティ
305c S-GWエンティティ
305d P-GWエンティティ
306 バス
401 CPU
402 RAM
403 マスクROM
404 通信インターフェース
405 フラッシュメモリ
405a 通信ファームウェア
406 バス
412 無線通信部
551 可変アッテネータ(送信電力制御部)
553 パワーアンプ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18