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特許7456749摩耗量推定システムおよび演算モデル生成システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】摩耗量推定システムおよび演算モデル生成システム
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20240319BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019194618
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021067607
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】石坂 信吉
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-187418(JP,A)
【文献】特開2012-248087(JP,A)
【文献】特許第6551816(JP,B2)
【文献】特開2019-184405(JP,A)
【文献】特開2017-156295(JP,A)
【文献】特開2019-067221(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076420(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03318422(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00 - 17/10
B60C 1/00 - 19/12
B60C 23/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの温度および圧力を含むタイヤデータを取得するタイヤ情報取得部と、
道路上を走行し、前記タイヤが装着された車両の位置データを取得する位置情報取得部と、
タイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記タイヤデータ、前記位置データに基づき算出された走行距離、および前記位置データにおける高度データが入力されて前記演算モデルにより前記タイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、を備え、
前記摩耗量算出部は、前記高度データに基づいて車両が下り坂を走行している下り走行回数を算出する前処理部を有し、前記前処理部により算出された下り走行回数を前記演算モデルの入力とし、
前記摩耗量算出部は、前記前処理部によって、前記位置データに基づいて車両のブレーキング回数、車両の旋回半径および旋回速度のうち少なくとも1つを更に算出し、前記演算モデルの入力とすることを特徴とする摩耗量推定システム。
【請求項2】
前記摩耗量算出部は、前記前処理部によって、前記高度データに基づいて車両が上り坂を走行している上り走行回数を更に算出し、前記演算モデルの入力とすることを特徴とする請求項1に記載の摩耗量推定システム。
【請求項3】
前記摩耗量算出部は、前記前処理部によって、車両が連続して下り坂を走行している場合に、下り坂の勾配および距離を更に算出し前記演算モデルの入力とすることを特徴とする請求項1または2に記載の摩耗量推定システム。
【請求項4】
前記摩耗量算出部は、前記前処理部によって、前記位置データに基づいて車両の旋回回数を更に算出し前記演算モデルの入力とすることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の摩耗量推定システム。
【請求項5】
タイヤの温度および圧力を含むタイヤデータを取得するタイヤ情報取得部と、
道路上を走行し、前記タイヤが装着された車両の位置データを取得する位置情報取得部と、
タイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記タイヤデータ、前記位置データに基づき算出された走行距離、および前記位置データにおける高度データ入力されて前記演算モデルにより前記タイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、
前記タイヤで計測される摩耗量と前記摩耗量算出部により算出された摩耗量とを比較し、前記演算モデルを更新する演算モデル更新部と、を備え
前記摩耗量算出部は、前記高度データに基づいて車両が下り坂を走行している下り走行回数を算出する前処理部を有し、前記前処理部により算出された下り走行回数を前記演算モデルの入力とし、
前記摩耗量算出部は、前記前処理部によって、前記位置データに基づいて車両のブレーキング回数、車両の旋回半径および旋回速度のうち少なくとも1つを更に算出して前記演算モデルの入力とすることを特徴とする演算モデル生成システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に装着されるタイヤの摩耗量を推定する摩耗量推定システムおよび演算モデル生成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは走行状態や走行距離等に応じて摩耗が進行する。また昨今ではタイヤの圧力および温度を計測するセンサをタイヤに取り付け、計測した圧力および温度を表示する装置などが製品化されている。
【0003】
特許文献1には従来のタイヤ摩耗推定装置が記載されている。このタイヤ摩耗推定装置は、車両速度検出手段を有し、GPS受信器で受信した衛星からの信号に基づいて当該車両の位置データを算出し、位置データから車両速度Vを検出する。またタイヤ摩耗推定装置は、車輪速センサにより車輪回転速度を測定し、圧力センサで検知したタイヤ内圧に基づいて補正した車輪回転速度Vwに変換する。補正された車輪回転速度の車両速度に対する比である速度比R=(Vw /V)を算出し、速度比Rに基づいてタイヤの摩耗量を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-143460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のタイヤ摩耗推定装置では、車両速度に対する車輪回転速度の比である速度比がタイヤ摩耗量の大きさと高い相関関係を持つとしている。本発明者は、例えば車両が上り坂や下り坂を走行している場合に、平坦な道路を走行している場合に対してタイヤへの負担が変化することから、このような要因を取り入れることによってタイヤ摩耗量の推定精度を良くする改善の余地があることに気づいた。また本発明者は、下り坂でのブレーキングなどの要因も取り入れることでタイヤ摩耗量の推定精度が更に改善されると考えた。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、タイヤ摩耗量を精度良く推定することができる摩耗量推定システムおよび演算モデル生成システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様の摩耗量推定システムは、タイヤが装着された車両の位置データを取得する位置情報取得部と、車両の高度に関する情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記位置データにおける高度データを入力して前記演算モデルにより前記タイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様は演算モデル生成システムである。演算モデル生成システムは、タイヤが装着された車両の位置データを取得する位置情報取得部と、車両の高度に関する情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデルを有し、前記位置データにおける高度データを入力して前記演算モデルにより前記タイヤの摩耗量を算出する摩耗量算出部と、前記タイヤで計測される摩耗量と前記摩耗量算出部により算出された摩耗量とを比較し、前記演算モデルを更新する演算モデル更新部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タイヤ摩耗量を精度良く推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る演算モデル生成システムの機能構成を示すブロック図である。
図2】演算モデルの学習について説明するための模式図である。
図3】演算モデル生成システムによる演算モデル生成の手順を示すフローチャートである。
図4】車両の高度の時間変遷を示すグラフである。
図5】車両の高度の時間変遷の一部を拡大したグラフである。
図6】車両の高度の時間変遷の一部をさらに拡大したグラフである。
図7】車両の緯度および経度をプロットしたグラフである。
図8】実施形態2に係る摩耗量推定システムの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図1から図8を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る演算モデル生成システム100の機能構成を示すブロック図である。演算モデル生成システム100は、位置情報取得部31によって取得された位置情報、並びにタイヤ10に配設されたセンサ20によって計測された空気圧および温度等のタイヤ物理量に基づいて、タイヤ摩耗量を算出する演算モデル33bを生成する。
【0013】
演算モデル生成システム100は、演算モデルとして例えばニューラルネットワーク等の学習型モデルを用い、タイヤ10において実際に計測したタイヤ摩耗量を教師データとし、演算の実行と演算モデルの更新による学習を繰り返すことによって演算モデル33bの精度を高める。摩耗量推定装置30は、演算モデル33bに学習させた後、タイヤ摩耗量を推定する装置として機能する。
【0014】
演算モデル生成システム100は、ある仕様のタイヤ10について、タイヤ10(ホイールを含む)を装着した車両の走行によって演算モデルの学習を実行することができる。タイヤの仕様には、例えばメーカー、商品名、タイヤサイズ、タイヤ幅、扁平率、タイヤ強度、静的剛性、動的剛性、タイヤ外径、ロードインデックス、製造年月日など、タイヤの性能に関する情報が含まれる。
【0015】
演算モデル生成システム100は、位置情報取得部31によって車両の位置データを取得する。演算モデル生成システム100は、高度データに基づいて走行時に車両が上り坂を走行しているか、下り坂を走行しているかを推定し、演算モデル33bの入力とする。また、演算モデル生成システム100は、車両が下り坂を走行している場合に、下り坂の勾配および距離を演算モデル33bの入力とする。
【0016】
また演算モデル生成システム100は、車両のブレーキング回数を推定し、推定したブレーキング回数を演算モデル33bの入力とする。更に、演算モデル生成システム100は、車両の旋回回数を推定し、推定した旋回回数を演算モデル33bの入力とする。
【0017】
タイヤ10またはホイール15には、圧力センサ21、温度センサ22および加速度センサ23が配設されている。圧力センサ21および温度センサ22は、例えばタイヤ10のエアバルブへの装着やホイール15への固定によって配設されており、それぞれタイヤ10の空気圧および温度を計測する。また圧力センサ21および温度センサ22は、タイヤ10のインナーライナー等に配設されていてもよい。
【0018】
加速度センサ23は、例えばタイヤ10またはホイール15に配設されており、タイヤ10で発生している加速度を計測する。尚、タイヤ10は、各タイヤを識別するために、例えば固有の識別情報が付与されたRFID等が取り付けられていてもよい。演算モデル生成システム100は、高度データに加えて、空気圧、温度および加速度等のタイヤで計測されるタイヤデータを演算モデル33bへ入力する要因として用いてもよい。
【0019】
摩耗量推定装置30は、位置情報取得部31、タイヤ情報取得部32、摩耗量算出部33、演算モデル更新部34およびを有する。摩耗量推定装置30は、例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の情報処理装置である。摩耗量推定装置30における各部は、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする電子素子や機械部品などで実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラムなどによって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろな形態で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0020】
位置情報取得部31は、GPS受信機50によって計測される車両の位置データを取得する。位置データは、緯度、経度および高度データを含む。高度データは、上り坂または下り坂のいずれを車両が走行しているかを推定するために用いられる。また緯度および経度情報は、車両の旋回回数等を推定するために用いられる。位置情報取得部31は、取得した緯度、経度および高度データを摩耗量算出部33へ出力する。
【0021】
タイヤ情報取得部32は、無線通信等により圧力センサ21、温度センサ22および加速度センサ23からタイヤ10で計測された空気圧、温度、加速度および計測した時刻を含むタイヤデータを取得し、摩耗量算出部33へ出力する。
【0022】
摩耗量算出部33は、前処理部33aおよび演算モデル33bを有する。前処理部33aは、高度データに基づいて上り坂を走行しているか、下り坂を走行しているかを推定し、上り坂を走行している上り走行回数、および下り坂を走行している下り走行回数を算出する。また前処理部33aは、車両が連続して下り坂を走行している場合に、下り坂の勾配および距離を算出する。
【0023】
また前処理部33aは、位置データに基づいて車両の位置変化を求めてブレーキング回数を推定してもよい。車両の位置変化が大きい場合には、車両は加速しており、位置変化が小さくなると車両がブレーキングしていると推定する。
【0024】
また前処理部33aは、緯度および経度データに基づいて車両の旋回回数を算出する。尚、前処理部33aは、位置情報取得部31から時々刻々に位置データを取得しており、走行開始から現在までの位置データに基づき走行距離を、位置データの時間変化に基づき速度、旋回半径および旋回速度を求めることができる。
【0025】
前処理部33aにおいて、上りおよび下り走行回数、下り坂の勾配、ブレーキング回数、車両の旋回回数等を正確に求めるために、GPS受信機50によるデータ取得におけるサンプリング頻度を、少なくとも10秒に1回、好ましくは1秒に1回、更に好ましくは0.1秒に1回とする。リアルタイムでの算出処理が必要でない場合には、GPS受信機50によるデータ取得におけるサンプリング頻度を少なくし、地図データの高度データ等を用いて補完するようにしてもよい。例えば、一日の走行終了後、位置データの推移からルート上の上り坂および下り坂の数、勾配、距離を導き出し、演算モデル33bに入力してもよい。
【0026】
図2は演算モデル33bの学習について説明するための模式図である。演算モデル33bへの入力データのうち位置データに関する入力は、前処理部33aによって算出された、上り走行回数、下り走行回数、下り坂の勾配および距離、ブレーキング回数、並びに旋回回数である。またタイヤデータに関する入力は、空気圧、温度、および加速度等である。入力データは、これらの他、気象データや、車両に搭載されたデジタルタコグラフのデータ、路面状況の情報を用いてもよい。
【0027】
気象データは、例えば走行地域の気温、降水量などを演算モデル33bへの入力データとして用いる。またデジタルタコグラフのデータは、例えば車重、速度データなどを演算モデル33bへの入力データとして用いる。また路面状況の情報は、例えば車両が走行している路面の凹凸、温度および乾湿等の状況を演算モデル33bへの入力データとして用いる。
【0028】
演算モデル33bは、例えばニューラルネットワーク等の学習型モデルを用いる。演算モデル33bは、タイヤデータ、走行距離、速度、および旋回半径等を入力層のノードへ入力し、中間層への重みづけを設けた入力層からのパスによって演算を実行する。演算モデル33bは、中間層から出力層への重みづけを設けたパスによって更に演算を行い、出力層のノードからタイヤ摩耗量を出力する。ニューラルネットワーク等の学習モデルでは、線形演算に加えて、活性化関数などを用いて非線形演算を実行するようにしてもよい。
【0029】
演算モデル更新部34は、演算結果としてのタイヤ摩耗量と教師データとを比較して演算モデル33bを更新する。演算モデル更新部34は、摩耗量比較部34aおよび更新処理部34bを有する。摩耗量比較部34aは、演算モデル33bによって算出されたタイヤ摩耗量を、タイヤ計測装置40によって計測された教師データとしてのタイヤ摩耗量と比較し、誤差を更新処理部34bへ出力する。
【0030】
更新処理部34bは、演算モデル33bによって算出された摩耗量の誤差に基づいて、演算モデル上のパスの重みづけを更新する。演算モデル33bによるタイヤ摩耗量の演算、摩耗量比較部34aによる教師データとの比較、および更新処理部34bでの演算モデルの更新を繰り返すことによって、演算モデルの精度が高められる。
【0031】
タイヤ計測装置40は、タイヤ10のトレッドに設けられた溝の深さを直接計測する。作業者が計測器具やカメラ、目視等によって各溝の深さを計測し、タイヤ計測装置40は、作業者が入力する計測データを記憶するものであってもよい。また、タイヤ計測装置40は、機械的あるいは光学的な方法によって溝の深さを計測して記憶する専用の装置であってもよい。
【0032】
具体的には、タイヤ計測装置40は、例えば、タイヤの溝が4本あった場合に、幅方向の4か所で計測し、さらに同一溝の周方向、例えば120°間隔で、3か所計測する。これにより、タイヤの幅方向または周方向での偏摩耗データもタイヤ計測装置40に記憶される。なお、タイヤ計測装置40は、タイヤの摩耗で直径が変わるため、走行距離とタイヤの回転数・速度の情報から計算によって溝の深さを間接的に計測してもよい。加えて、溝の深さを直接計測するものに、走行距離とタイヤの回転数・速度から計算によって予測するもの、とを併用してもよい。
【0033】
次に演算モデル生成システム100の動作を説明する。図3は、演算モデル生成システム100による演算モデル生成の手順を示すフローチャートである。摩耗量推定装置30は、位置情報取得部31によって位置データの取得を開始する(S1)。またタイヤ情報取得部32によって圧力センサ21、温度センサ22および加速度センサ23から、タイヤ10で計測された空気圧、温度および加速度を含むタイヤデータの取得を開始する(S2)。前処理部33aは、位置情報取得部31によって取得された位置データに基づいて、上り走行回数および下り走行回数を算出する(S3)。前処理部33aは、ステップS3において、更に下り坂の勾配および距離、ブレーキング回数、旋回回数、旋回半径並びに旋回速度を算出するようにしてもよい。
【0034】
前処理部33aはデータを所定期間に亘って蓄積する(S4)。所定期間は例えば車両の1回の走行期間としてもよいし、数日または一週間などとするが、これらに限られるものではない。前処理部33aは、所定期間経過後、演算モデル33bへ各データを入力し、タイヤ摩耗量を推定する(S5)。摩耗量比較部34aは、演算モデル33bによって算出されたタイヤ摩耗量と、タイヤ計測装置40によって計測された教師データとしてのタイヤ摩耗量とを比較する(S6)。摩耗量比較部34aは、比較の結果として演算モデル33bによって算出されたタイヤ摩耗量とタイヤ計測装置40によって計測されたタイヤ摩耗量との誤差を更新処理部34bへ出力する。
【0035】
更新処理部34bは、摩耗量比較部34aから入力されたタイヤ摩耗量の誤差に基づいて演算モデルを更新し(S7)、処理を終了する。摩耗量推定装置30は、これらの処理を繰り返すことによって、演算モデルを更新し、タイヤ摩耗量の推定の精度が高められる。
【0036】
図4は車両の高度の時間変遷を示すグラフであり、図5は車両の高度の時間変遷の一部を拡大したグラフである。図4において丸印で囲んだ箇所aおよびb等に示すように車両の高度は、走行中に時々刻々と変化している。図5において、車両が下り坂を走行していると推定される部分を丸く囲んでいる。前処理部33aでは、車両が下り坂を走行していると推定される部分の発生回数を下り走行回数として算出する。尚、下り坂と同様に、上り坂についても高度の時間変遷を示すグラフから上り走行回数を算出する。
【0037】
摩耗量推定装置30は、車両の走行時における高度データを演算モデル33bの入力とすることにより、車両が上り坂や下り坂を走行していることなどを考慮した演算モデル33bを構築し、演算モデル33bによってタイヤ摩耗量を精度良く推定することができる。摩耗量推定装置30は、上り走行回数および下り走行回数を演算モデル33bの入力として用いることで、タイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。摩耗量推定装置30は、下り走行回数を演算モデル33bの入力として用いることで、タイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0038】
また摩耗量推定装置30は、下り坂を走行していると推定される部分が連続して発生している場合に、それぞれの下り坂における勾配および距離を算出し、演算モデル33bの入力として用いてもよく、さらにタイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0039】
図6は、車両の高度の時間変遷の一部をさらに拡大したグラフである。車両がブレーキングをしたと推定される箇所を丸印で囲んでいる。図6において矢印は、車両の位置の変化を示しており、矢印の長さが変化している箇所では車両のブレーキングが発生していると推定される。摩耗量推定装置30は、車両のブレーキング回数を演算モデル33bの入力とすることで、タイヤ摩耗量の推定精度をさらに高めることができる。
【0040】
図7は、車両の緯度および経度をプロットしたグラフである。前処理部33aは、車両の緯度および経度のデータから旋回があった箇所を推定することができ、車両の旋回回数を算出する。摩耗量推定装置30は、車両の旋回回数を演算モデル33bの入力とすることで、タイヤ摩耗量の推定精度をさらに高めることができる。また、図7に示すグラフから車両が右旋回したか、左旋回したかについても推定することができ、それぞれ右旋回回数および左旋回回数を推定して演算モデル33bの入力としてもよい。さらに、図7に示すグラフから車両が急旋回したか、緩旋回したかについても推定することができ、それぞれ急旋回および緩旋回を推定して演算モデル33bの入力としてもよい。さらに、車両の緯度および経度をプロットしたグラフに基づいて、前処理部33aで車両の旋回半径および旋回速度のうち少なくとも1つまたは両方を算出し、演算モデル33bの入力とすることで、タイヤ摩耗量の推定精度をさらに高めることができる。
【0041】
また、演算モデル生成システム100は、下り走行回数や旋回回数を演算モデル33bの入力とすることで、タイヤ10の偏摩耗についても演算モデル33bに学習させることができる。演算モデル生成システム100によって生成された演算モデル33bに基づく摩耗量推定によって、車両の各タイヤの偏摩耗の状況に応じたタイヤ10のローテーションなどを提案することもできる。
【0042】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係る摩耗量推定システム110の機能構成を示すブロック図である。上述のように実施形態1に係る演算モデル生成システム100によってタイヤ摩耗量を推定する演算モデル33bが生成された後、演算モデル33bを備える摩耗量推定装置30を構成することができる。摩耗量推定システム110は、GPS受信機50、センサ20および摩耗量推定装置30を備え、演算モデル生成システム100によって生成された演算モデル33bを用いて、車両に装着されたタイヤ10の摩耗量を精度良く推定する。
【0043】
摩耗量推定装置30は、位置情報取得部31、タイヤ情報取得部32、摩耗量算出部33および報知部35を備え、車両に搭載して用いることができる。位置情報取得部31およびタイヤ情報取得部32は、実施形態1における構成および作用と同等であり、簡潔化のため説明を省略する。
【0044】
摩耗量算出部33は、演算モデル33bとして実施形態1に係る演算モデル生成システム100によって生成された演算モデルを使用する。摩耗量算出部33は、位置情報取得部31およびタイヤ情報取得部32により取得した各データを所定期間蓄積した後、タイヤ摩耗量を算出してもよいし、取得したタイミングで時々刻々タイヤ摩耗量を算出するようにしてもよい。
【0045】
前処理部33aは、実施形態1における構成および作用と同等であり、位置データから上り走行回数、下り走行回数、下り坂の勾配および距離、ブレーキング回数、並びに旋回回数、旋回半径並びに旋回速度を算出し、演算モデル33bへの入力データとする。前処理部33aは、実施形態1において説明した通り、演算モデル33bの生成において考慮した入力に合わせて、入力として必要になる上り走行回数、下り走行回数、下り坂の勾配および距離、ブレーキング回数、旋回回数、旋回半径並びに旋回速度を算出する。
【0046】
演算モデル33bについても、実施形態1における構成および作用と同等であり、入力として、上り走行回数および下り走行回数、または下り走行回数を用いる場合等がある。また、演算モデル33bは、実施形態1と同様に、更に下り坂の勾配および距離、ブレーキング回数、旋回回数、旋回半径並びに旋回速度を入力として用いてもよい。摩耗量推定システム110は、演算モデル33bを含む摩耗量の算出部分を通信ネットワークで接続された車両外部のサーバ装置等に設け、車両から位置データ等の情報を該サーバ装置等へ送信し、摩耗量を推定するようにしてもよい。
【0047】
報知部35は、車両の運転者等の搭乗者に対して、現在のタイヤ摩耗量を知得させるべく、表示装置51による表示やスピーカ52による音声出力等によって、タイヤ摩耗量を報知する。また、報知部35は車両に搭載された車両制御装置53に対して現在のタイヤ摩耗量を報知するようにしてもよい。車両制御装置53では、現在のタイヤ摩耗量に基づいて自動運転や衝突回避などの車両制御を行うことができる。
【0048】
次に各実施形態に係る摩耗量推定システム110、および演算モデル生成システム100の特徴について説明する。
摩耗量推定システム110は、位置情報取得部31および摩耗量算出部33を備える。位置情報取得部31は、タイヤ10が装着された車両の位置データを取得する。摩耗量算出部33は、車両の高度に関する情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデル33bを有し、位置データにおける高度データを入力して演算モデル33bによりタイヤ10の摩耗量を算出する。これにより、摩耗量推定システム110は、高度データに基づき車両が上り坂や下り坂を走行していることなどを考慮した演算モデル33bを構築し、演算モデル33bによってタイヤ摩耗量を精度良く推定することができる。
【0049】
また摩耗量算出部33は、高度データに基づいて車両が上り坂を走行している上り走行回数および下り坂を走行している下り走行回数を算出する前処理部33aを有し、前処理部33aにより算出された上り走行回数および下り走行回数を演算モデル33bの入力とする。これにより、摩耗量推定システム110はタイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0050】
また摩耗量算出部33は、高度データに基づいて車両が下り坂を走行している下り走行回数を算出する前処理部33aを有し、前処理部33aにより算出された下り走行回数を演算モデル33bの入力とする。これにより、摩耗量推定システム110はタイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0051】
また前処理部33aは、車両が連続して下り坂を走行している場合に、下り坂の勾配および距離を演算モデル33bの入力とする。これにより、摩耗量推定システム110はさらにタイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0052】
また前処理部33aは、車両のブレーキング回数を推定し演算モデル33bの入力とする。これにより、摩耗量推定システム110はさらにタイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0053】
また前処理部33aは、位置データに基づいて車両の旋回回数を算出し、演算モデル33bの入力とする。これにより、摩耗量推定システム110はさらにタイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0054】
また前処理部33aは、位置データに基づいて車両の旋回半径および旋回半径のうち少なくとも1つを算出し演算モデル33bの入力とする。これにより、摩耗量推定システム110はさらにタイヤ摩耗量の推定精度を高めることができる。
【0055】
演算モデル生成システム100は、位置情報取得部31、摩耗量算出部33および演算モデル更新部34を備える。位置情報取得部31は、タイヤ10が装着された車両の位置データを取得する。摩耗量算出部33は、車両の高度に関する情報に基づいてタイヤ摩耗量を算出する演算モデル33bを有し、位置データにおける高度データを入力して演算モデル33bによりタイヤ10の摩耗量を算出する。演算モデル更新部34は、タイヤ10で計測される摩耗量と摩耗量算出部33により算出された摩耗量とを比較し、演算モデル33bを更新する。これにより、演算モデル生成システム100は、高度データに基づき車両が上り坂や下り坂を走行していることなどを考慮した演算モデル33bを生成し、演算モデル33bによってタイヤ摩耗量を精度良く推定することができる。
【0056】
以上、本発明の実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【符号の説明】
【0057】
10 タイヤ、 31 位置情報取得部、 33 摩耗量算出部、
33b 演算モデル、 34 演算モデル更新部、
100 演算モデル生成システム、 110 摩耗量推定システム。
図1
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図5
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図7
図8