(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】吸音器、吸音器の調整方法、天井構造、及び建物
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240319BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20240319BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20240319BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G10K11/16 140
G10K11/172
E04B1/82 M
E04B5/43 H
(21)【出願番号】P 2019208261
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2019025801
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046244
【氏名又は名称】旭化成ホームズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】渡部 和良
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 聡
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-021035(JP,A)
【文献】実開平03-071005(JP,U)
【文献】米国特許第04319661(US,A)
【文献】特開平11-152845(JP,A)
【文献】特開2015-163759(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1244461(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16-11/178
E04B 1/62- 1/99
E04B 5/43
E04B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の空気層に連通する開孔が設けられた箱型の吸音器であって、
天井裏空間に設置されており、
共鳴周波数が
前記天井裏空間の下方の室内空間の寸法に基づいて決定される半波長定在波の周波数に調整されており、
前記半波長定在波の周波数において、前記吸音器の開孔面のインピーダンスが空間インピーダンスと等しくなるよう構成されていることを特徴とする吸音器。
【請求項2】
前記吸音器の内部は、前記内部の空気層に連通する開孔を介して前記天井裏空間と連通している、請求項1に記載の吸音器。
【請求項3】
前記吸音器の開孔面から、該開孔面に対向する対向面までの距離が、100mm以上、650mm以下である、請求項1又は2に記載の吸音器。
【請求項4】
前記開孔の直径が、2mm以上、20mm以下である、請求項3に記載の吸音器。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の吸音器の調整方法であって、
前記開孔の数が5~100の範囲であり、閉塞部材で塞ぎ開孔の数を変化させることによって、前記共鳴周波数を調整することを特徴とする、調整方法。
【請求項6】
内部の空気層に連通する開孔が設けられた箱型の吸音器を備え、
前記吸音器は、共鳴周波数が天井裏空間の下方の室内空間の寸法に基づいて決定される半波長定在波の周波数に調整されており、
前記半波長定在波の周波数において、前記吸音器の開孔面のインピーダンスが空間インピーダンスと等しくなるよう構成されており、
前記吸音器が、前記天井裏空間の外周部に設置されていることを特徴とする天井構造。
【請求項7】
前記吸音器の内部は、前記内部の空気層に連通する開孔を介して前記天井裏空間と連通している、請求項6に記載の天井構造。
【請求項8】
前記吸音器の開孔が、前記天井裏空間の外周部に位置する音反射要素に向くように設置されている、請求項7に記載の天井構造。
【請求項9】
前記吸音器の開孔が、前記天井裏空間の中央側に向くように設置されている、請求項7に記載の天井構造。
【請求項10】
前記吸音器の開孔が、上方又は下方に向くように設置されている、請求項7に記載の天井構造。
【請求項11】
前記天井裏空間に設けられた部材の振動を低減する制振材が、該天井裏空間に設置されている、請求項6~10の何れか一項に記載の天井構造。
【請求項12】
前記制振材が、平面視で前記吸音器に重ならないように設置されている、請求項11に記載の天井構造。
【請求項13】
内部の空気層に連通する開孔が設けられた箱型の吸音器が、天井裏空間の外周部に設置されており、
前記吸音器の内部は、前記内部の空気層に連通する開孔を介して前記天井裏空間と連通しており、
前記吸音器の開孔が、前記天井裏空間の外周部に位置する音反射要素に向くように設置されて
おり、
前記吸音器の共鳴周波数が前記天井裏空間の下方の室内空間の寸法に基づいて決定される半波長定在波の周波数に調整されていることを特徴とする天井構造。
【請求項14】
請求項6~13の何れか一項に記載の天井構造を備えることを特徴とする建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音器、吸音器の調整方法、天井構造、及び建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2階建て以上の多層住宅や集合住宅では、上階で発生した生活音等が下階にいる住人にとって不快な騒音となることがあった。具体的には、子どもが飛び跳ねたり、家具を動かしたりすること等によって下階に伝わる鈍くて低い重量床衝撃音等の低減が望まれている。
【0003】
このような問題の対策として、例えば、床の剛性を高めたり、床重量を増大させたりすること等により騒音源となる部材の振動を低減することが一般的に検討されている。しかしながら、上記のような対策では、建物重量の増大によって構造的な負担が大きくなるため、建物全体としてのコストが増大してしまうという問題がある。
【0004】
また、特許文献1には、空気層を形成する箱型の吸音体(吸音器)を天井裏空間に設置することにより、上階から下階に伝わる床衝撃音の低減を図ることが提案されている。
特許文献2には、共鳴吸音手段を天井裏に設け、共鳴吸音手段(吸音器)の突出部が天井板に設けた開口部に配置され、この突出部の先に設けられた下の室内部分に露出した開口部から室内に入力してきた騒音を吸音することが提案されている。また、共鳴吸音手段(吸音器)において、共鳴周波数を下の室内空間の寸法に基づいて決定される半波長定在波の周波数に調整することが望ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-197914号公報
【文献】特開平11-152845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、吸音器を用いて吸音する音の周波数をどのように調整すれば騒音が効果的に低減されるかについて具体的に示されていない。したがって、上記のような吸音器を用いても騒音の低減効果は十分とは言えず、さらなる騒音低減性能の向上が要望されている。
【0007】
また、特許文献2には、吸音器を天井裏に設けるとともに天井板の開口部に吸音器の突出部を設置し、この突出部の先に設けられた下の室内部分に露出した開口部を設けることで、天井裏を通過して室内に入力した騒音を天井裏に設置した吸音器で吸音する手段が示されているが、例えば家具などによって開口部が塞がれた場合には、効果が得られないという問題がある。また、天井に孔をあけ、その孔に合わせて吸音器を設置するため、構造上、施工上複雑となるという問題がある。さらには天井に孔(開口部)を穿つことは意匠上好ましくないという問題もある。吸音器の共鳴周波数を下の室内空間の寸法に基づいて決定される半波長定在波の周波数に調整することが開示されているが、これは天井裏を通過して室内に入力した騒音について吸音する場合の調整について開示されているだけで、室内に入力される前の天井裏の騒音に対して吸音器を設置する場合、下の室内の騒音を効果的に低減するための周波数の調整については何ら開示はなされていない。さらには特定の周波数の騒音に対して高い吸音性能をえるためには、吸音器の共鳴周波数、すなわちインピーダンスの虚数部を特定の周波数に調整するだけでは十分ではなく、特定の周波数のインピーダンスの実数部も調整する必要があるが、このことについても何ら開示されていない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、上階から下階に伝わる騒音をより効果的に低減可能な吸音器、吸音器の調整方法、天井構造、及び建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る吸音器は、内部の空気層に連通する開孔が設けられた箱型の吸音器であって、
共鳴周波数が天井裏空間の下方の室内空間の寸法に基づいて決定される半波長定在波の周波数に調整されていることを特徴とするものである。
【0010】
なお、本発明の吸音器にあっては、前記吸音器の内部は、前記内部の空気層に連通する開孔を介して前記天井裏空間と連通していることが好ましい。
【0011】
また、本発明の吸音器にあっては、前記半波長定在波の周波数において、前記吸音器の開孔面のインピーダンスが空間インピーダンスと等しくなるよう構成されていることが好ましい。
【0012】
また、本発明の吸音器にあっては、前記吸音器の開孔面から、該開孔面に対向する対向面までの距離が、100mm以上、650mm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の吸音器にあっては、前記開孔の直径が、2mm以上、20mm以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る吸音器の調整方法は、前記開孔の数が5以上、100以下の範囲であり、閉塞部材で塞ぎ開孔の数を変化させることによって、前記共鳴周波数を調整することを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明に係る天井構造は、内部の空気層に連通する開孔が設けられた箱型の吸音器が、前記天井裏空間の外周部に設置されていることを特徴とするものである。
【0016】
なお、本発明の天井構造にあっては、前記吸音器の内部は、前記内部の空気層に連通する開孔を介して前記天井裏空間と連通していることが好ましい。
【0017】
なお、本発明の天井構造にあっては、前記吸音器の開孔が、前記天井裏空間の外周部に位置する音反射要素に向くように設置されていることが好ましい。
【0018】
また、本発明の天井構造にあっては、前記吸音器の開孔が、前記天井裏空間の中央側に向くように設置されていてもよい。
【0019】
また、本発明の天井構造にあっては、前記吸音器の開孔が、上方又は下方に向くように設置されていてもよい。
【0020】
また、本発明の天井構造にあっては、前記天井裏空間に設けられた部材の振動を低減する制振材が、該天井裏空間に設置されていることが好ましい。
【0021】
また、本発明の天井構造にあっては、前記制振材が天井裏空間に設置されることにより低減された振動の周波数成分の内、前記制振材では十分低減できない周波数域に、前記吸音器による吸音効果を有する周波数域が含まれるように調整されていることが好ましい。
【0022】
また、本発明の天井構造にあっては、前記制振材が、平面視で前記吸音器に重ならないように設置されていることが好ましい。
【0023】
また、本発明の建物は、上記の何れかの天井構造を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、上階から下階に伝わる騒音をより効果的に低減可能な吸音器、吸音器の調整方法、天井構造、及び建物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態としての吸音器の斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態としての天井構造を示す平面図である。
【
図3】
図1の吸音器の設置方法の例を示す斜視図である。
【
図4】
図1の吸音器の設置方法の例を示す側面図である。
【
図5】本発明における他の実施形態としての天井構造を示す平面図である。
【
図6】本発明におけるさらに他の実施形態としての天井構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図において共通する構成には同一の符号を付している。
【0027】
図1は、本実施形態の吸音器1の斜視図である。吸音器1は箱型であり、内部の空気層(内部空間A)に連通する開孔5が設けられている。具体的に、本例の吸音器1は、平坦な矩形の天板部2と、天板部2の外周縁部から垂下する側板部3と、側板部3の下端部を閉塞する底板部4とを有する。側板部3は、開孔5が設けられた正面側板部3aと、正面側板部3aに対向する背面側板部3bと、正面側から見て左側に位置する左側板部3cと、正面側から見て右側に位置する右側板部3dとからなる。天板部2、側板部3、及び底板部4を構成する板材の材料は特に限定されるものではないが、例えば、合板、又はパーティクルボードとすることができる。また、本例の天板部2、側板部3、及び底板部4の板厚は15mmであるが、各板材の板厚は特に限定されず、適宜変更可能である。
【0028】
本例の吸音器1は直方体状の箱型であり、幅Wが610mm、奥行Dが305mm、高さHが140mmである。開孔5の直径が4mmであり、開孔5の長さnは、正面側板部3aの板厚であり、本例では15mmとしている。また、アクリルパイプ等の筒状部材を開孔5に連なるように設けて開孔5の長さnを調整してもよい。その場合、筒状部材は、開孔5から吸音器1の内部空間A側に突出するようにもうけてもよいし、吸音器1の外側に突出するように設けてもよい。なお、吸音器1の形状は直方体に限定されず、適宜変更可能である。
【0029】
開孔5は、正面側板部3aを貫通しており、吸音器1の内部の空気層(内部空間A)に連通している。吸音器1は、ヘルムホルツ共鳴器を構成しており、その共鳴周波数fは、以下の式で表される。
【0030】
【0031】
[数2]
le = n + a・d ・・・・・・(2)
上記の数式(1)において、cは音速であり、Sは開孔5の総面積であり、Vは内部の空気層体積であり、leは(2)式で表される開孔5の実効長である。(2)式のdは開孔5の直径、aは定数で通常0.6以上、1.7以下の値を取り、開孔5の両端の外の空気が粘性により引きずられ、開孔の筒状の空間が長さnで決まる体積より若干大きく振舞う効果を加味したものである。Sの値は、開孔5の数を変更することにより調整することができる。また、Sの値は各開孔5の面積を変更することにより調整することも可能である。Vの値は、吸音器1の幅W、奥行D、及び高さH等の寸法の変更により調整することができる。また、Vの値は、天板部2、側板部3、及び底板部4の各板厚を変更することにより調整することもできる。開孔5の長さnの値は、開孔5が設けられた正面側板部3aの板厚、または、アクリルパイプ等の筒状部材が開孔5に設けられている場合にはその長さを変更することにより調整することができる。
【0032】
ここで、開孔5の長さnは、開孔5を構成する板材の騒音による耐振動強度の観点から、1mm以上であることが好ましい。また、開孔5の長さnは、開孔5を構成する板材に木質合板を使用する場合の騒音による耐振動強度の観点で、10mm以上であることがさらに好ましい。また、開孔5の長さnは、重量床衝撃音において低減が難しい低周波数の63Hz帯の周波数に対する高い吸音率の実現の観点で、150mm以下であることが好ましい。また開孔5の長さnは、開孔面6に対向する対向面7までの距離Fが200mm以上、350mm以下の場合、低周波数の63Hz帯の周波数に対する高い吸音率の実現の観点で80mm以下であることが好ましい。
【0033】
なお、本例では12個の開孔5が、縦4列、横3列となるように等間隔で配列されているが、少なくとも1つの開孔5が設けられていればよく、開孔5の数及び配置は適宜変更可能である。また、本例において、各開孔5の形状は、全て直径が4mmの円形となっているが、開孔5の形状及び面積も適宜変更可能である。
【0034】
吸音器1は、上記の数式(1)におけるS、V、n等のパラメータを変更することにより、共鳴周波数fを所望の値に調整することができる。吸音器1の調整方法としては、開孔5の数を変化させることによって、共鳴周波数fを調整することが好ましい。これにより、吸音器1による吸音率を比較的高く維持したまま、容易に共鳴周波数fを調整することができる。なおその場合、例えば、正面側板部3aに開孔5を(予想される必要数の上限で)多めに設けておき、不要な開孔5を、気密性を有する閉塞部材で塞ぎ、必要な開孔5のみを内外に連通する開放状態とすることにより、開孔5の数を容易に調整することができる。
【0035】
具体的に、開孔5の数が5以上、100以下の範囲であり、閉塞部材で塞ぎ開孔の数を変化させることによって、共鳴周波数を調整することが好ましい。63Hz1/1オクターブバンド(45Hz以上、90Hz以下)の上限(90Hz)から下限(45Hz)でチューニングが1Hz以上、2Hz以下程度の解像度でできることを考えると開孔の数は100程度、下限付近でのみ調整ができればよければ開孔の数は5程度とすることが好ましい。より具体的に、室内の半波長定在波の周波数に合わせるためには部屋の面積の種類(例えば4.5畳以上、10畳以下)を考慮すると45Hz以上、65Hz以下でのチューニングが1Hz以上、2Hz以下程度の解像度でできることが望ましい。このためには65Hzで開孔の数が20以上、30以下、また、45Hzで開口の数が10以上、15以下程度とすることが好ましい。ただし、複数の開孔の数の吸音器を用意して狭い範囲で調節する(8畳の50Hz用に開孔の数を15程度にする)ことも可能である。上記を踏まえ、開孔5の数の好適な範囲は10以上、40以下であり、より好適には、30以上、40以下とすることが望ましい。これによれば、吸音器1の製造も容易であり、現場での開孔数調整も容易となる。
【0036】
図2は、本発明の一実施形態に係る天井構造10を示す平面図であり、建物の上階と下階の間に位置する天井裏空間Cに、吸音器1が設置されている。建物は、例えば、重量鉄骨構造の2階建て住宅とすることができる。一例としての建物の全体構成について説明すると、建物は、地盤に固定された基礎構造体と、当該基礎構造体上に固定される上部構造体と、で構成される。基礎構造体は、上部構造体の下方に位置し、その骨組みを支持するものであり、例えば、鉄筋コンクリート造の布基礎とすることができる。上部構造体は、複数の柱と、柱間に架設された複数の梁とで構成される骨組み(躯体)と、この躯体の外周側に配置される外壁と、躯体を構成する梁上に配置される各階の床及び屋根と、を備える構成とすることができる。なお、骨組みを構成する部材は、予め規格化(標準化)され、予め工場にて製造されたのち建築現場に搬入されて組み立てられるものとすることができる。
【0037】
また、建物の1階(下階)には、四方を壁で囲まれた部屋(室内空間R)が区画形成されている。本例において、室内空間Rは、平面視で縦方向(短手方向:
図2のy方向)が3.3mであり、縦方向に垂直な横方向(長手方向:
図2のx方向)が3.6mとなっている。また、当該室内空間Rの天井板と上階の部屋床との間の天井裏空間Cにおいて、天井裏空間Cの外周部に設けられた大梁11(11x、11y)に沿って16台の吸音器1が均等に設置されている。天井裏空間Cは、音を反射する大梁11等の梁、外壁、及び界壁等の音反射要素で区画形成された(囲まれた)空間とすることができる。
【0038】
図2に示すように、横方向(x方向)に延在する大梁11xに沿って配置される吸音器1xは、近接する大梁11xの方に開孔5が向くように設置されている(
図4参照)。また、この吸音器1xの共鳴周波数fは、室内空間Rの縦方向(y方向)の長さLyに基づいて決定される半波長定在波の周波数となるように調整されている。
【0039】
ここで、吸音器1の共鳴周波数fが、室内空間Rの寸法で決定される半波長定在波の周波数に調整されている、とは、当該半波長定在波の周波数に調整された状態での吸音率の半値幅の範囲内となるように吸音器の共鳴周波数fが設定されていることを意味している。なお、好適には、吸音器1の共鳴周波数fが室内空間Rの半波長定在波の周波数に調整された状態での吸音率の80%以上となる周波数の範囲内に共鳴周波数fが設定されていることが好ましい。
【0040】
縦方向(y方向)に延在する大梁11yに沿って配置される吸音器1yは、近接する大梁11yの方に開孔5が向くように設置されている。また、この吸音器1yの共鳴周波数fは、室内空間Rの横方向(x方向)の長さLxに基づいて決定される半波長定在波の周波数となるように調整されている。
【0041】
なお、天井裏空間Cの四隅(本例では、室内空間Rの四隅でもある)にそれぞれ設置された吸音器1cは、四隅それぞれの角部に向けて配置されている。すなわち、本例の吸音器1cは、正面側板部3aが大梁11x及び大梁11yに対して45度となる向きに配置されている。また、この吸音器1cの共鳴周波数fは、室内空間Rの縦方向(y方向)の長さLyに基づいて決定される半波長定在波の周波数と、室内空間Rの横方向(x方向)の長さLxに基づいて決定される半波長定在波の周波数との間の周波数となるように調整されている。
【0042】
上記の通り、吸音器1の共鳴周波数fは、天井裏空間Cの下方の室内空間Rの寸法に基づいて決定される半波長定在波の周波数となるように調整(設定)される。室内空間Rの形状が平面視で上記のような長方形である場合、横方向の長さ(内壁面間の距離)Lxと、横方向に垂直な縦方向の長さ(内壁面間の距離)Lyとして、室内空間Rの横方向の長さLxによって決定される半波長定在波の周波数に合うように、吸音器1yの共鳴周波数fを調整する。そして、室内空間Rの横方向の向きに、当該吸音器1yを天井裏空間Cに設置する。同様に、室内空間Rの縦方向の長さLyで決定される半波長定在波の周波数に合うように共鳴周波数fを調整した吸音器1xを、天井裏空間Cに縦方向の向きで設置する。
【0043】
このように、吸音器1の共鳴周波数fが、天井裏空間Cの下方の室内空間Rの寸法に基づいて決定される半波長定在波の周波数に調整されていることにより、室内空間Rで定在波を生じる周波数の音を効果的に吸音器1で吸音することができるので、上階から天井裏空間Cを通して下階の室内空間Rに伝わる騒音を効果的に低減することができる。
【0044】
また、本実施例のように、短手方向が3.3m、長手方向が3.6mと比較的寸法の差が小さく、このことにより室内空間Rの寸法で決定される半波長定在波の周波数の差が短手方向と長手方向で小さい場合は、吸音器1x、1y、1cともに、室内空間Rの縦方向(y方向)の長さLyに基づいて決定される半波長定在波の周波数に共鳴周波数を調整する、室内空間Rの横方向(x方向)の長さLxに基づいて決定される半波長定在波の周波数に共鳴周波数を調整する、または、長さLyに基づいて決定される半波長定在波の周波数と、長さLxに基づいて決定される半波長定在波の周波数との間の周波数に共鳴周波数を調整する、といったように、より周波数調整が容易な手法をとっても、室内空間Rで定在波を生じる周波数の音を効果的に吸音器1x、1y、1cで吸音することができるので、上階から天井裏空間Cを通して下階の室内空間Rに伝わる騒音を効果的に低減することができる。
【0045】
また、例えば、室内空間Rの寸法に基づいて調整した吸音器1の共鳴周波数fが63Hz帯である場合には、天井裏空間Cに設置した吸音器1によって重量床衝撃音を効果的に低減することができる。
【0046】
また、本実施形態の吸音器1にあっては、室内空間Rの半波長定在波の周波数において、吸音器1の開孔5が設けられた開孔面のインピーダンスが空間インピーダンスと等しくなるよう構成されていることが好ましい。つまり、共鳴周波数f(虚数部が0となる)において、比音響インピーダンス比の実数部分が1に近く、吸音率が1となるように、吸音器1の各パラメータ(S、V、n等)が設定されていることが好ましい。このような構成により、さらに吸音器1の吸音性能を高め、効果的に室内空間Rへの騒音を低減することができる。
【0047】
また、本実施形態の吸音器1にあっては、
図4に示すように、吸音器1の開孔面6(正面側壁部3aの内面)から、該開孔面6に対向する対向面7(背面側板部3bの内面)までの距離Fが、100mm以上、650mm以下であることが好ましい。このような構成により、通常の室内空間寸法Rにおいて半波長定在波周波数であり、重量床衝撃音において低減が難しい低周波数の63Hz帯の周波数に対し、吸音器1による吸音率を比較的高く維持したまま、容易に共鳴周波数fを調整することができる。また、吸音率帯域を広くする観点から、距離Fは200mm以上であることがより好ましい。また、天井裏空間Cに設置し易いという観点から、距離Fは500mm以下であることが好ましい。さらに、施工性を向上させる観点から、距離Fは350mm以下であることがより好ましい。なお、本例では、上記開孔面6と対向面7の距離Fが275mmとなっている。
【0048】
また、本実施形態の吸音器1にあっては、開孔5の直径は、2mm以上、20mm以下であることが好ましい。このような構成により、通常の室内空間寸法Rにおいて半波長定在波周波数であり、重量床衝撃音において低減が難しい低周波数の63Hz帯の周波数に対し、吸音器1による吸音率を比較的高く維持したまま、容易に共鳴周波数fを調整することができる。開孔5の直径を2mm以上とすることで、加工性が向上する。また、寸法の精度向上、及び開孔5の数が多くなり過ぎない(開孔密度が大きくなり過ぎない)という観点から、開孔5の直径は4mm以上であることがより好ましい。開孔5の数の調節により吸音器1の共鳴周波数を調整する機能を向上する観点から、開孔5の直径は10mm以下であることがより好ましい。
【0049】
ここで、
図2に示すように、吸音器1は天井裏空間Cの外周部に設置されていることが好ましい。天井裏空間Cの外周部は、天井裏空間Cの中央部に比べて定在波の音圧が大きくなるため、音圧の大きい領域に吸音器1を設置することで、室内空間Rに伝わる騒音をより効果的に低減することができる。
【0050】
室内空間Rに伝わる騒音を、より効果的に低減する観点から、平面視での天井裏空間Cの形状が室内空間Rの形状と一致していることが好ましい。これによれば、天井裏空間C内に存在する定在波の周波数が、室内空間Rに存在する定在波の周波数と一致もしくは同等となるので、当該定在波の周波数に調整された吸音器1によって天井裏空間C内の騒音をより効果的に吸音することができる。その結果、天井裏空間Cを通して室内空間Rに伝わる騒音をより効果的に低減することができる。
【0051】
さらに、本実施形態の吸音器1にあっては、天井裏空間Cに設けられた野縁や天井板等の部材の振動を低減する制振材が、天井裏空間Cに設置されていることが好ましい。このような構成により、吸音器1のみでは低減し難い周波数の騒音等を、制振材を用いて低減することができるので、室内空間Rに伝わる騒音をより効果的に低減することが可能となる。また、本実施形態の吸音器1にあっては、制振材が天井裏空間Cに設置されることにより低減された振動の周波数成分の内、制振材では十分低減できない周波数域に、吸音器1による吸音効果を有する周波数域が含まれるように調整されていることが好ましい。これによれば、部屋へ伝わる振動をより効果的に低減できる。なお、この場合、吸音器1は、室内の半波長定在波の周波数に調整されていることが好ましい。
【0052】
ここで、より好ましくは、制振材が平面視で吸音器1に重ならないように設置されていることが望ましい。これによれば、野縁受け等の部材が固定端となる部分に吸音器1を設置し、固定端とならない部分に制振材を配置することで、天井の重量増加に対する床衝撃音の低減効果を高めることができる。具体的には、大梁11等の梁、外壁、及び界壁等の音反射要素と平面視で重なる位置では野縁や天井板が固定端となるため制振材の効果が得られにくく、一方で音反射要素付近では吸音器1による吸音効果が得られ易い。したがって、例えば、吸音器1を天井裏空間Cの外周部に配置し、制振材をその内側部に配置して、吸音器1と制振材が平面視で重ならないように配置するのが好ましく、これによれば、天井の重量増加に対する床衝撃音の低減効果を高めることができる。
【0053】
なお、制振材の配置は特に限定されず、例えば、制振材が天井裏周囲まで置かれていて、吸音器1が制振材の上に置かれていてもよい。この場合、野縁受け等の部材が固定端部分であるので、制振材の効果は損なわれず、また、吸音器1自体の効果も、制振材の上に置かれていることで効果は損なわれない。
【0054】
ここで、
図3は、吸音器1、1’、1’’を設置する向きを例示している。吸音器1は、開孔5が、天井裏空間の外周部に位置する音反射要素である梁11に向くように設置された例である。このような構成とすることにより、定在波の音圧が高くなり易い音反射要素(梁11)に近接する位置に開孔5を配置することができるので、吸音器1を用いて効率的に吸音することができる。また、この場合、
図4に示すように、吸音器1の開孔5が設けられた表面(正面側板部3aの表面)と音反射要素(梁11)との距離K(正面側板部3aの表面から梁11の中心までの距離)は、40mm以上、400mm以下であることが好ましい。このような構成により、吸音器1と音反射要素(梁11)との間に適度な空間を確保しつつ、音圧の高い音反射要素(梁11)の近傍に開孔5を配置することで、吸音器1の吸音効果を適切に発揮させることができる。低減効果を高める観点から、50mm以上、200mm以下であることがより好ましい。
【0055】
なお、
図3に示す吸音器1’は、開孔5が、天井裏空間Cの中央側に向くように設置されている例であり、
図3に示す吸音器1’’は、開孔5が上方に向くように設置されている例である。また、図示は省略するが、例えば吸音器1を上から吊り下げること等により天井板から浮かせた状態で設置し、開孔5が下方に向くようにしてもよい。
【0056】
図5、6はそれぞれ、本発明の他の実施形態としての天井構造20、30を示している。天井構造20、30において、室内空間Rの寸法は先の実施形態と同様に短手方向が3.3m、長手方向が3.6mである。また、天井構造20、30には、幅Wが610mm、奥行Dが305mm、高さHが140mmである先の実施形態と共通の吸音器1x、1yと、幅Wが305mmで他の寸法は吸音器1と共通とした吸音器21x、21yとが設置されている。また、天井構造20、30には、一部の吸音器1x、1y、21x、21yは、上下二段に重ねて設置されている。
【0057】
図5に示すように、天井構造20には、天井裏空間Cの外周部に位置する一対の大梁11xに沿って配置された12台の吸音器1x、及び3台の吸音器21xと、一対の大梁11yに沿って配置された10台の吸音器1y、及び4台の吸音器21yとが設置されている。各吸音器1x、1y、21x、21yは、各吸音器1x、1y、21x、21yに近接する音反射要素としての大梁11x、11yに開孔5が向くように配置されている。天井構造20では、天井裏空間Cの四隅(且つ、室内空間Rの四隅)に近い位置で、吸音器1x、1y、21x、21yを上下二段に重ねて設置している。このように、定在波の音圧が大きくなり易い天井裏空間Cの四隅付近に吸音器1x、1y、21x、21yを集中的に設置することで、室内空間Rに伝わる騒音をより効果的に低減することができる。
【0058】
また、
図6に示す天井構造30には、大梁11xに沿って配置された10台の吸音器1x、及び1台の吸音器21xと、一対の大梁11yに沿って配置された8台の吸音器1y、及び4台の吸音器21yとが設置されている。この天井構造30では、
図5に示す天井構造20よりも台数の少ない吸音器1x、1y、21x、21yを、天井裏空間Cの四隅付近に集中して配置している。これにより、吸音器1x、1y、21x、21yの設置コストを抑えつつ、効率的に室内空間Rに伝わる騒音を低減することができる。
【0059】
本発明は、上述した実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲で記載された内容を逸脱しない範囲で、様々な構成により実現することが可能である。例えば、上記実施形態では、建物を2階建ての住宅としたが、建物を3階建て以上の集合住宅としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1、1’、1’’:吸音器
2:天板部
3:側板部
3a:正面側板部
3b:背面側板部
3c:左側板部
3d:右側板部
4:底板部
5:開孔
6:開孔面
7:対向面
10:天井構造
11:梁(音反射要素)
A:内部空間(空気層)
C:天井裏空間
R:室内空間
W:吸音器の幅
D:吸音器の奥行
H:吸音器の高さ
F:開孔面から対向面までの距離
K:音反射要素との距離