(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】回転炉床炉及びその使用方法、並びに、還元鉄含有物及び亜鉛含有物の製造方法
(51)【国際特許分類】
F27B 9/16 20060101AFI20240319BHJP
F27B 3/06 20060101ALI20240319BHJP
C21B 13/10 20060101ALI20240319BHJP
F27D 17/00 20060101ALI20240319BHJP
C22B 19/38 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
F27B9/16
F27B3/06
C21B13/10
F27D17/00 105K
C22B19/38
(21)【出願番号】P 2019222715
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】中山 俊孝
(72)【発明者】
【氏名】嶋 真司
(72)【発明者】
【氏名】野田 悦郎
(72)【発明者】
【氏名】福田 良
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178253(JP,A)
【文献】特開2003-090686(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 9/00- 9/40
F27B 1/00- 3/28
F27D 17/00-99/00
C21B 11/00-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナを有する環状の炉体と、前記炉体の内部を回転する回転炉床と、前記炉体の天井壁に接続された排ガス管と、を備える回転炉床炉であって、
前記回転炉床と前記炉体で構成される炉内空間の幅及び高さをそれぞれW及びHとしたときに、H/Wが0.4以上であ
り、
前記排ガス管の上昇部の長さをL、及び、当該上昇部の内径をDとしたときに、L/Dが6.5以上である、回転炉床炉。
【請求項2】
前記排ガス管の上昇部における排ガスの流速が4.5m/秒以上である、請求項
1に記載の回転炉床炉。
【請求項3】
電気炉ダスト及び炭材を含むブリケットを前記回転炉床の上に導入する導入部と、
前記回転炉床の上から還元鉄含有物を導出する導出部と、
前記排ガス管の下流側に排ガスに含まれる亜鉛含有物を回収する回収部と、を備える、請求項1
又は2に記載の回転炉床炉。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の回転炉床炉を用いる還元鉄含有物の製造方法であって、
酸化鉄及び炭材を含むブリケットを加熱し、前記酸化鉄を還元することによって還元鉄を含む還元鉄含有物を得る工程を有する、還元鉄含有物の製造方法。
【請求項5】
前記ブリケットに含まれる鉄の飛散率が5%以下である、請求項
4に記載の還元鉄含有物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の回転炉床炉を用いる亜鉛含有物の製造方法であって、
酸化鉄、酸化亜鉛及び炭材を含むブリケットを加熱して得られる排ガスに含まれる亜鉛含有物を回収する工程を有する、亜鉛含有物の製造方法。
【請求項7】
亜鉛回収率が70%以上である、請求項
6に記載の亜鉛含有物の製造方法。
【請求項8】
前記亜鉛含有物における鉄の含有量が8質量%以下である、請求項
6又は
7に記載の亜鉛含有物の製造方法。
【請求項9】
バーナを有する環状の炉体と、前記炉体の内部を回転する回転炉床と、前記炉体の天井壁に接続された排ガス管と、を備える回転炉床炉の使用方法であって、
前記回転炉床の上に酸化鉄及び炭材を含むブリケットを導入する導入工程と、
前記回転炉床を回転させながら前記ブリケットを回転炉床と炉体で構成される炉内空間で加熱して前記酸化鉄を還元する加熱工程と、
前記加熱工程で生じた排ガスを前記炉内空間から前記排ガス管を介して排出する排出工程と、
還元鉄含有物を前記回転炉床の上から導出する導出工程と、を有し、
前記炉内空間の幅及び高さをそれぞれW及びHとしたときに、H/Wが0.4以上であ
り、
前記排ガス管の上昇部の長さをL、及び、当該上昇部の内径をDとしたときに、L/Dが6.5以上である、回転炉床炉の使用方法。
【請求項10】
前記排ガス管を流通した前記排ガスから亜鉛含有物を回収する回収工程を
有する、請求項
9に記載の回転炉床炉の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転炉床炉及びその使用方法、並びに、還元鉄含有物及び亜鉛含有物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄廃棄物に含まれる酸化鉄を再利用するため、製鉄廃棄物を還元剤及びバインダと混練し造粒したペレットを回転炉床炉に装入し、加熱還元することにより還元鉄を製造するプロセスが知られている。また、亜鉛を含む製鉄廃棄物を処理する場合には、亜鉛を酸化物として回収するプロセスも知られている。これは還元によって気化した亜鉛を炉内又は排ガスダクト内の酸素により酸化して固体の酸化亜鉛とし、排ガス系の後段の集塵装置によって回収するプロセスである。
【0003】
このようなプロセスでは排ガス中に含まれる固形分が排ガスダクト内に固着する場合がある。そこで、特許文献1では、回転炉床炉内で発生する微細な酸化亜鉛が排ガスダクト内で付着することを抑制するため、排ガスダクト内の排ガス流速を所定の範囲とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、回転炉床炉で処理される原料は、廃棄物に由来することから、組成が変動しやすい。組成が変動すると、ブリケットの強度も変化する。例えば、揮発分が増加するとブリケットの強度は低下する傾向にある。強度が低くなると、回転炉床炉内で加熱している最中に粉化して原料に含まれる鉄分が飛散し易くなる。飛散量が多くなると、還元鉄の収率が低下したり、酸化亜鉛の純度が低下したりして、生産性が低下することが懸念される。
【0006】
そこで、本開示は、一つの側面において、製造品の生産性を向上することが可能な回転炉床炉及びその使用方法を提供する。本開示は、一つの側面において、還元鉄の収率を向上することが可能な還元鉄含有物の製造方法を提供する。本開示は、一つの側面において、亜鉛含有物に含まれる不純物を低減することが可能な亜鉛含有物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係る回転炉床炉は、バーナを有する環状の炉体と、炉体の内部を回転する回転炉床と、炉体の天井壁に接続された排ガス管と、を備える回転炉床炉であって、回転炉床と炉体で構成される炉内空間の幅及び高さをそれぞれW及びHとしたときに、H/Wが0.4以上である。
【0008】
上述の回転炉床炉は、H/Wが所定範囲にあるため、排ガスに同伴して炉内空間から排ガス管に流入する鉄分を低減することができる。これによって、排ガスに同伴して排ガス管から導出される鉄分が低減され、還元鉄含有物等の製造品の生産性を向上することができる。また、排ガス中に含まれる亜鉛含有物を回収する場合に、亜鉛含有物への鉄分の混入を抑制し、不純物が低減された亜鉛含有物を製造することができる。
【0009】
上述の回転炉床炉は、幾つかの実施形態において、排ガス管の上昇部の長さをL、及び、当該上昇部の内径をDとしたときに、L/Dが6.5以上であってよい。これによって、製鉄ダストと炭材を含むブリケットを加熱処理する場合に、排ガス管から導出される鉄分を一層低減することができる。また、排ガス中に含まれる亜鉛含有物を回収する場合に、亜鉛含有物への鉄分の混入を一層抑制し、亜鉛含有物の不純物を一層低減することができる。したがって、製造品の生産性を一層向上することできる。
【0010】
上述の回転炉床炉は、幾つかの実施形態において、排ガス管の上昇部における排ガスの流速が4.5m/秒以上であってよい。これによって、排ガス中に含まれる亜鉛含有物を回収する場合に、亜鉛含有物の回収率を高くして、製造品の生産性を一層向上することができる。
【0011】
上述の回転炉床炉は、幾つかの実施形態において、電気炉ダスト及び炭材を含むブリケットを炉体の内部に導入する導入部と、回転炉床の上から還元鉄含有物を導出する導出部と、排ガス管の下流側に排ガスに含まれる亜鉛含有物を回収する回収部と、を備えてよい。電気炉ダストは、めっきに由来する酸化亜鉛を多く含有する。このため、電気炉ダストを含むブリケットは加熱すると粉化しやすい。上記回転炉床炉であれば、ブリケットが粉化しても鉄分の飛散が抑制され、還元鉄を高収率で生産しつつ、不純物が低減された亜鉛含有物を生産することができる。
【0012】
本開示の一側面に係る還元鉄含有物の製造方法は、上述のいずれかに記載の回転炉床炉を用いる還元鉄含有物の製造方法であって、酸化鉄及び炭材を含むブリケットを加熱し、酸化鉄を還元することによって還元鉄を含む還元鉄含有物を得る工程を有する。この製造方法では、上述のいずれかに記載の回転炉床炉を用いていることから、炉内空間から排ガス管に導出される鉄分が低減され、還元鉄の収率を向上することができる。
【0013】
上述の還元鉄含有物の製造方法は、幾つかの実施形態において、ブリケットに含まれる鉄分の飛散率が5%以下であってよい。これによって、還元鉄の収率を一層向上することができる。
【0014】
本開示の一側面に係る亜鉛含有物の製造方法は、上述のいずれかに記載の回転炉床炉を用いる亜鉛含有物の製造方法であって、酸化鉄、酸化亜鉛及び炭材を含むブリケットを加熱して得られる排ガスに含まれる亜鉛含有物を回収する工程を有する。この製造方法では、上述のいずれかに記載の回転炉床炉を用いていることから、亜鉛含有物への鉄分の混入を抑制し、亜鉛含有物の不純物を低減することができる。
【0015】
上述の亜鉛含有物の製造方法では、幾つかの実施形態において、亜鉛回収率が70%以上であってよい。これによって、亜鉛含有物の生産性を向上することができる。また、亜鉛含有物における鉄の含有量が8質量%以下であってよい。これによって、亜鉛含有物の不純物を一層低減することができる。
【0016】
本開示の一側面に係る回転炉床炉の使用方法は、バーナを有する環状の炉体と、炉体の内部を回転する回転炉床と、炉体の天井壁に接続された排ガス管と、を備える回転炉床炉を使用する。この使用方法は、回転炉床の上に酸化鉄及び炭材を含むブリケットを導入する導入工程と、回転炉床を回転させながら回転炉床と炉体で構成される炉内空間でブリケットを加熱して酸化鉄を還元する加熱工程と、加熱工程で生じた排ガスを炉内空間から排ガス管を介して排出する排出工程と、回転炉床の上から還元鉄含有物を導出する導出工程と、を有する。そして、回転炉床炉の炉内空間の幅及び高さをそれぞれW及びHとしたときに、H/Wが0.4以上である。
【0017】
上記使用方法では、H/Wが所定範囲にあるため、排出工程で排ガス管に流入する排ガスに同伴される鉄分を抑制することができる。これによって、排ガスに同伴して排ガス管から導出される鉄分が低減され、還元鉄含有物の生産性を向上することができる。また、排ガス中に含まれる亜鉛含有物を回収する場合に、亜鉛含有物への鉄分の混入を抑制し、不純物が低減された亜鉛含有物を製造することができる。
【0018】
上述の回転炉床炉の使用方法では、排ガス管を流通した排ガスから亜鉛含有物を回収する回収工程を有し、排出工程において、排ガス管の上方に延びる部分における排ガスの流速を4.5m/秒以上に維持してよい。これによって、回収工程による亜鉛含有物の回収率を高くして、製造品の生産性を一層向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示は、一つの側面において、製造品の生産性を向上することが可能な回転炉床炉及びその使用方法を提供することができる。本開示は、一つの側面において、還元鉄の収率を向上することが可能な還元鉄含有物の製造方法を提供する。本開示は、一つの側面において、亜鉛含有物に含まれる不純物を低減することが可能な亜鉛含有物の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、回転炉床炉の一実施形態を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、回転炉床炉の炉体と排ガス管との接続部付近の断面図である。
【
図3】
図3は、炉内空間の幅Wに対する同高さHの比と、亜鉛含有物における鉄の含有量との関係の一例を示すグラフである。
【
図4】
図4は、排ガスの流速と亜鉛回収率との関係の一例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、V
2×(L/D)の値と鉄の飛散率との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、場合により図面を参照して、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。各図面において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用い、場合により重複する説明は省略する。
【0022】
図1は、回転炉床炉の一実施形態を模式的に示す図である。回転炉床炉100は、天井壁11aと側壁11bで構成される炉体11と、炉体11の内部を炉体11の円周方向に沿って回転する回転炉床12と、炉体11の天井壁11aに接続された排ガス管30と、排ガス管30の下流側に接続されるガス冷却部35と、ガス冷却部35の下流側に接続される回収部40と、を備える。
図1の炉体11は、その内部構造を示すために、一部が切り欠いて示されている。
【0023】
環状の炉体11は、炉体11の内部を加熱するために、外側面及び内側面の両方に複数のバーナ14を有する。なお、バーナ14は、外側面及び内側面の一方のみに設けられてもよい。回転炉床12は、炉体11の内部において、炉体11の円周方向に沿って回転する。
【0024】
回転炉床炉100は、ブリケット22を搬送する搬送部24と、搬送部24によって搬送されたブリケット22を回転炉床12の上に導入する導入部21と、回転炉床12から還元鉄含有物を導出する導出部60と備える。導入部21は、例えば、スリットを有する振動篩機で構成される。ブリケット22は、振動篩機のスリットを通過して回転炉床12の上に導入される。ブリケット22は、例えば、製鋼ダスト、炭材及びバインダを含んでいてよい。ブリケット22が電気炉ダストを含む場合、回転炉床炉100では、製造品として、主成分として還元鉄を含む還元鉄含有物、及び、酸化亜鉛を主成分として含有する亜鉛含有物を製造してもよい。ただし、製造品は限定されず、これら以外のものを製造してもよいし、還元鉄含有物のみ、又は亜鉛含有物のみを製造してもよい。
【0025】
回転炉床炉100は、搬送部24の上流側に、ブリケット22を成形する成形部を有していてもよい。成形部では、例えば、酸化鉄を含むダスト、炭材及びバインダを混錬して得られる混錬物をダブルロール成形機で成形してブリケット22(成形体)が作製される。
【0026】
酸化鉄を含むダストとしては、製鉄ダストであってよく、電気炉ダスト、高炉ダスト、転炉ダスト及び焼結ダストの少なくとも一つを含んでいてよい。ダストは、酸化鉄、酸化亜鉛及びその他の成分を含んでよい。ダストの全鉄量(T.Fe)は、例えば10~60質量%であってよく、ZnOの含有量は2~40質量%であってよい。炭材は、例えば微粉炭であってよい。
【0027】
回転炉床12の上に導入されたブリケット22は、回転炉床12の回転に伴って炉体11の内部を移動しながら加熱される。ブリケット22が酸化鉄及び酸化亜鉛を含む場合、加熱に伴って以下の反応式で表される酸化還元反応が進行する。なお、nは、任意の数値であってよく、例えば1,2又は3であってよい。mは、任意の数値であってよく、例えば1、3又は4であってよい。
【0028】
FenOm+mC → nFe+mCO
FenOm+mCO → nFe+mCO2
ZnO+C → Zn+CO
ZnO+CO → Zn+CO2
C+O2 → CO2
C+CO2→ 2CO
【0029】
ブリケットに含まれる酸化鉄は還元されて還元鉄となる。導出部60からは還元鉄を含む還元鉄含有物が導出される。還元鉄含有物は、冷却部62で冷却された後、例えば電気炉等の原料として用いられてよい。排ガス管30から排出される排ガスには、亜鉛、鉄及びこれらの酸化物が同伴し得る。排ガス管30から排出された排ガスは、ガス冷却部35において冷却される。
【0030】
回収部40では、排ガスに含まれる酸化亜鉛等の固形分が捕捉され回収される。回収部40は例えばバグフィルタを有していてよい。回収される固体分は、酸化亜鉛を主成分として含む亜鉛含有物である。この亜鉛含有物は、酸化亜鉛等の亜鉛化合物を含んでいてよいし、酸化鉄等の鉄分を含んでいてもよい。回収部40で固体分を除去して得られるガスは、ブロア45で吸引され、煙突50によって例えば大気放出される。
【0031】
排ガス管30は、導入部21を基準として、導出部60よりも回転炉床12の回転方向の上流側に接続されてよく、導出部60よりも導入部21寄りに接続されてよい。炉体11内のガスは、回転炉床12の回転方向とは逆方向に流通してよい。この場合、回転炉床12とともに炉体11内を回転するブリケット22と炉体11内のガスは、炉内空間10で向流接触する。向流接触することによって、ブリケット22の加熱及び反応を効率よく進行させることができる。
【0032】
図2は、
図1の回転炉床炉100を、鉛直方向に平行で、排ガス管30と炉体11との接続部を通る鉛直面で切断したときの断面図である。炉体11の内部には、炉体11と回転炉床12とで構成される炉内空間10がある。回転炉床12上には導入部21から導入されたブリケット22が配置される。回転炉床12は、その下面側に設けられる走行車輪16によって、炉体11の円周方向に沿って回転可能に支持されている。ブリケット22は、回転炉床12とともに回転しながら炉内空間10において加熱される。炉内空間10は例えば1000~1300℃に加熱されている。炉内空間10の上部では、例えば以下の酸化反応が進行する。
2Zn+O
2 → 2ZnO
2Co+O
2 → 2CO
2
【0033】
上述の酸化還元反応によってブリケット22の少なくとも一部は粉化する。特に、ブリケット22が酸化亜鉛を含む場合、亜鉛の気化に伴って粉化が促進される。
【0034】
炉内空間10の幅Wに対する炉内空間10の高さHの比(H/W)は0.4以上である。幅Wは炉体11の内側の側壁間の距離である。高さHは、回転炉床12の上面と炉体11の天井面11cとの距離である。H/Wが上述の値であることから、ブリケット22を加熱して粉化したときの粉状物が、排ガス管30に流入することが抑制される。粉状物の流入を一層抑制する観点から、H/Wは、0.5以上であってよく、0.6以上であってもよい。H/Wの上限は、炉内空間10の有効利用を図る観点から、2以下であってよく、1.5以下であってもよい。
【0035】
排ガス管30の一端は炉体11の天井壁11aに接続されている。排ガス管30は、炉体11との接続部から上方に延びる上昇部31と、上昇部31の最高到達点から水平に延びる水平部32とを有する。排ガス管30のうち、排ガス管30の下端から上方に延びる部分、すなわち上昇部31の長さをL、及び、排ガス管30の上昇部31における内径をDとする。
【0036】
長さLは、炉体11の天井面11cの高さから上昇部31の最高到達点までの排ガス管30の中心線CLに沿う長さである。この長さLが長くなると、炉内空間10から排ガス管30内に流入した粉状物が上昇部31の中で管内壁との摩擦及び重力等の影響によって減速し、落下して炉内空間10に回帰し易くなる。内径Dは小さくなると、排ガス管30内における管摩擦が大きくなり、炉内空間10から排ガス管30内に流入した粉状物が炉内空間10に回帰し易くなる。排ガス管30の上昇部31が円管ではない場合、又は、上昇部31において内径Dが変化している場合は、圧力損失を計算する場合の等価直径を上昇部31の内径Dとして、以下のL/Dを計算することができる。
【0037】
内径Dに対する長さLの比(L/D)を大きくすれば、回転炉床12の上にあるブリケット22から生じた粉化物が排ガス管30の上昇部31よりも下流側に排出されることが抑制される。その結果、回転炉床炉100の導出部60から導出される還元鉄の量が増加し、還元鉄を高い収率で製造することができる。また、排ガス管30を介して排出される排ガスから亜鉛含有物を回収する際に、亜鉛含有物に混入する鉄分等の不純物を低減することができる。
【0038】
還元鉄の収率を十分に高くしつつ、亜鉛含有物の不純物を十分に低減する観点から、L/Dは6.5以上であってよい。L/Dの上限は、設備の設置場所確保の観点、及び、亜鉛回収率を高くする観点から、30以下であってよく、20以下であってもよい。
【0039】
典型的な亜鉛鉱石の鉄の含有量は約8質量%である(ZnS濃度は約84質量%)。このため、回転炉床炉100の排ガスから回収される亜鉛含有物の製造品としての付加価値を高くする観点から、亜鉛含有物における鉄の含有量は8質量%以下であってよく、3質量%以下であってもよい。なお、ここでいう鉄の含有量は、金属鉄のみならず、酸化鉄等に含まれる鉄も含む、全鉄量(T.Fe)である。
【0040】
電気炉ダストは亜鉛の含有量が高いため、ブリケット22に含まれるダストが電気炉ダストである場合、回転炉床12上でブリケット22が粉化し易い。そこで、亜鉛含有物における鉄の含有量を8質量%以下にするために、ブリケット22に含まれる鉄の飛散率φをどの程度に抑制する必要があるかを以下に推定する。
【0041】
ブリケットに含まれる電気炉ダストの量をB、電気炉ダストの鉄の含有量をx(質量%)、電気炉ダストの酸化亜鉛の含有量をz(質量%)、回転炉床炉100で回収される酸化亜鉛における鉄の含有量をy(質量%)、ブリケット22に含まれる鉄(=電気炉ダストに含まれる鉄)の飛散率をφとし、電気炉ダストに含まれる酸化亜鉛が回収部40で全量回収されるとすると、以下の関係が成立する。ここで、鉄の飛散率φとは、電気炉ダストに含まれる鉄(T.Fe)のうち亜鉛含有物に混入する鉄(T.Fe)の割合である。
【0042】
y=B・x・φ/(B・z+B・x・φ)
=x・φ/(z+x・φ)
【0043】
亜鉛含有物の鉄の含有量が亜鉛鉱石の鉄の含有量と同じになるとき、すなわち、y=8質量%となるときの鉄の飛散率φは、上式を用いて以下のとおり算出される。ここで、x及びzは、電気炉ダストにおける鉄の含有量及び酸化亜鉛の含有量として、40質量%及び25質量%をそれぞれ用いる。
【0044】
8質量%=[40質量%×φ/(25質量%+40質量%×φ)]×100
φ=2/36.8×100≒0.05=5%
【0045】
上述の関係式から、排ガスから亜鉛含有物を回収する場合に、電気炉ダスト(ブリケット22)に含まれる鉄の飛散率φを5%以下にすれば、鉄濃度が亜鉛鉱石と同等以下の亜鉛含有物を回収することができる。ブリケット22に含まれる鉄の飛散率は、4%以下であってよく、3%以下であってもよい。
【0046】
排ガス管30の上昇部31における排ガスの流速は、例えば4.5m/秒以上に維持してよく、6m/秒以上に維持してもよい。このように排ガスの流速を高いレベルで維持すれば、排ガスから亜鉛含有物を回収する場合に、亜鉛含有物の回収率を向上することができる。一方、排ガスの流速が過大になると、亜鉛含有物への鉄分の混入が増加する傾向、及び、還元鉄の収率が低下する傾向にある。このため、排ガス管30の上昇部31における排ガスの流速は、9m/秒未満であってもよい。
【0047】
次に、回転炉床炉の使用方法の一実施形態を、回転炉床炉100を用いた場合を例として以下に説明する。なお、上述の回転炉床炉100の説明内容は以下の使用方法にも適用可能である。また、以下の使用方法の説明内容は、上述の回転炉床炉100にも適用可能である。
【0048】
本例の使用方法は、回転炉床12の上に酸化鉄及び炭材を含むブリケット22を導入する導入工程と、回転炉床12を回転させながらブリケット22を炉内空間10で加熱して酸化鉄を還元する加熱工程と、加熱工程で生じた排ガスを炉内空間10から排ガス管30を介して排出する排出工程と、回転炉床12の上から還元鉄含有物を導出する導出工程と、排ガス管30を介して排出された排ガスから亜鉛含有物を回収する回収工程を有する。
【0049】
導入工程は
図1の導入部21によって行ってよい。ブリケット22は、酸化鉄を含むダストと、石炭等の炭材と、バインダとを含んでよい。導入工程ではブリケット22を回転炉床12の上に連続的に導入する。導入工程の前に、酸化鉄及び酸化亜鉛を含むダスト、炭材及びバインダを混錬して得られる混錬物をダブルロール成形機で成形してブリケット22を得る成形工程を有していてもよい。
【0050】
加熱工程では、ブリケット22をバーナ14からの輻射熱で加熱する。これによって、上述の反応式で表される酸化還元反応が進行する。これらの反応の進行に伴ってブリケット22に空隙が生じ、少なくとも一部が粉化する。粉化物の一部は、排出工程において、排ガスに同伴して炉内空間10から排ガス管30に流入してよい。ただし、本例で用いる回転炉床炉100の炉内空間10はH/Wが0.4以上であることから、炉内空間10から排ガス管30に流入する鉄分を十分に低減することができる。このため、還元鉄のロスが低減され、還元鉄の収率を高くすることができる。また、回収工程において回収される亜鉛含有物への鉄分の混入を抑制し、不純物が低減された亜鉛含有物を製造することができる。
【0051】
排出工程では、加熱工程で生じた排ガスを、炉体11の天井壁11aに接続された排ガス管30を介して、排ガス管30の下流側に排出する。排ガス管30の上昇部31における排ガスの流速は上述の範囲に維持してよい。このとき、L/Dは6.5以上であってよい。これによって、回収工程で回収される亜鉛含有物の回収率を向上したり、亜鉛含有物への鉄分の混入を低減したりすることができる。
【0052】
導出工程では、還元鉄含有物を回転炉床12の上から導出する。還元鉄含有物における鉄の金属化率は例えば70%以上であってよい。導出された還元鉄含有物は冷却部62で冷却された後、電気炉等の原料として用いてよい。
【0053】
回収工程では、例えばバグフィルタを有する回収部40を用いて亜鉛含有物を回収する。排出工程における上昇部31における排ガスの流速を大きくすることによって、亜鉛含有物の回収率を高くすることができる。亜鉛回収率は70%以上であってよく、80%以上であってもよい。亜鉛回収率は、ブリケット22に含まれる亜鉛の量(金属亜鉛換算)に対する、回収工程で回収される亜鉛含有物に含まれる亜鉛の量(金属亜鉛換算)の比率である。
【0054】
上述の使用方法によれば、炉内空間10の外部への鉄分の飛散を抑制し、鉄分を導出工程で得られる還元鉄含有物中に十分に取り込んで回収することができる。したがって、還元鉄含有物を高い歩留まりで製造することができる。また、ブリケットに含まれる亜鉛分を、回収工程で回収される亜鉛含有物中に十分に取り込んで回収することができる。さらに、亜鉛含有物に混入する鉄分を低減して、亜鉛含有物における亜鉛純度を十分に高くすることができる。なお、本使用方法では、製造品として還元鉄含有物と亜鉛含有物の2つを製造したが、別の例では、回収工程で亜鉛含有物を回収せずに、製造品として還元鉄含有物のみを製造してもよい。この場合、ブリケットの調製に用いられるダストは酸化亜鉛を含まなくてもよい。さらに別の例では、製造品として亜鉛含有物のみを製造してもよい。
【0055】
還元鉄含有物の製造方法の一実施形態は、回転炉床炉100を用いて、酸化鉄及び炭材を含むブリケット22を加熱し、酸化鉄を還元することによって還元鉄を含む還元鉄含有物を得る工程を有する。この製造方法では、回転炉床炉100を用いていることから、炉内空間10から鉄分が飛散することを抑制することができる。したがって、還元鉄含有物を高い歩留まりで製造することができる。ブリケット22に含まれる鉄の飛散率は、例えば、5%以下であってよく、4%以下であってもよい。還元鉄含有物は酸化鉄を含んでいてもよい。還元鉄含有物における鉄の金属化率は例えば70%以上であってよい。本実施形態の還元鉄含有物の製造方法には、上述の回転炉床炉100及びその使用方法の説明内容を適用可能である。
【0056】
亜鉛含有物の製造方法の一実施形態は、回転炉床炉100を用いて、酸化鉄、酸化亜鉛及び炭材を含むブリケット22を加熱して得られる排ガスに含まれる亜鉛含有物を、排ガス管30の下流側の回収部40で回収する工程を有する。この製造方法では、回転炉床炉100を用いていることから、炉内空間10から鉄分が飛散することを抑制することができる。したがって、鉄分の混入が抑制された亜鉛含有物を製造することができる。
【0057】
炉内空間10で飛散する際には還元されていた金属亜鉛は、排ガス中の酸素によって酸化され、回収部40及び排ガス管30の間に設けられるガス冷却部35で冷却される。亜鉛含有物における鉄及び鉄化合物の含有量は、鉄に換算して、8質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、1質量%以下であってよい。本実施形態の亜鉛含有物の製造方法には、上述の回転炉床炉100及びその使用方法の説明内容を適用可能である。
【0058】
以上、本開示の幾つかの実施形態を説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されない。例えば、上述の回転炉床炉100では、排ガス管30の上昇部31は水平部32と連なっているが、これに限定されない。例えば、変形例では、上昇部31は、水平部32ではなく、最高到達点から下降する下降部と連なって、逆U字状となっていてもよい。なお、水平部32(又は下降部)よりも下流側に排ガスの流れに沿って上昇する2つ目以降の上昇部があったとしても、この部分の長さは上述のLには含めない。これは、2つ目以降の上昇部で鉄分等が落ちてきても、炉内空間10まで回帰できるとは限らないためである。
【0059】
また、ブリケットに含まれる亜鉛分が少ない場合、回転炉床炉及びその使用方法において、亜鉛含有物を回収しなくてもよい。この場合、回転炉床炉では、製造品として還元鉄含有物のみを製造してもよい。また、バーナ14は、炉体11の内側と外側の両側面ではなく、どちらか一方の側面のみに設けられてもよい。
【実施例】
【0060】
以下の実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0061】
(実施例1、比較例1)
表1に示すとおり、幅W及び高さHが異なる複数種類の回転炉床炉を準備した。いずれの回転炉床炉も
図1及び
図2に示すような構造を有していた。電気炉ダストと微粉炭とバインダを用いてブリケットを作製した。このブリケットを回転炉床炉に導入して還元鉄含有物及び亜鉛含有物の製造を行った。各回転炉床炉を用いた場合に、排ガス管30の下流側に設けられたバグフィルタ(回収部40)に回収された亜鉛含有物に含まれる鉄の含有量を分析した。なお、鉄の含有量は、金属鉄のみならず、酸化鉄等に含まれる鉄も含む、全鉄量(T.Fe)である。この含有量は、化学分析によって求めた。結果は表1及び
図3に示すとおりであった。
【0062】
【0063】
表1及び
図3に示すとおり、H/Wを所定値以上にすることによって、バグフィルタで回収される亜鉛含有物における鉄の含有量が十分に低くなることが確認された。
【0064】
(実施例2)
表2に示すとおり、円筒形状を有する排ガス管30の内部の断面積が異なる複数種類の回転炉床炉を準備した。いずれの回転炉床炉も
図1及び
図2に示すような構造を有していた。電気炉ダストと微粉炭とバインダを用いてブリケットを作製した。このブリケットを回転炉床炉に導入して還元鉄含有物及び亜鉛含有物の製造を行った。各回転炉床炉を用いた場合の亜鉛回収率を求めた。ブリケットとしては、電気炉ダストと微粉炭とバインダとを用いて作製したものを用いた。亜鉛回収率は、ブリケットに含まれる亜鉛の量(金属亜鉛換算)に対する、バグフィルタ(回収部40)で回収された亜鉛含有物に含まれる亜鉛の量(金属亜鉛換算)の比率である。結果は表2及び
図4に示すとおりであった。
【0065】
【0066】
表2及び
図4に示すとおり、排ガスの流速を大きくすることによって、亜鉛回収率を大きくできることが確認された。
図4によれば、排ガスの流速を4.5m/秒以上に維持すれば、亜鉛回収率を80%以上にすることができる。
【0067】
(実施例3)
表3に示すとおり、排ガス管30の内径Dと排ガス管30の上昇部31の長さLが異なる複数種類の回転炉床炉を準備した。いずれの回転炉床炉も
図1及び
図2に示すような構造を有していた。電気炉ダストと微粉炭とバインダを用いてブリケットを作製した。このブリケットを回転炉床炉に導入して還元鉄含有物及び亜鉛含有物の製造を行った。各回転炉床炉を用いた場合の鉄の飛散率φを求めた。鉄の飛散率φは、ブリケットに含まれる全鉄量(T.Fe)に対する、バグフィルタ(回収部40)で回収された亜鉛含有物に含まれる全鉄量(T.Fe)の比率である。結果は表3及び
図5に示すとおりであった。表3には、排ガス管30における排ガスの流速Vと、管摩擦係数を構成する要素であるV
2×(L/D)の計算値を示した。
図5は、横軸をV
2×(L/D)、縦軸を鉄の飛散率とする、両対数グラフである。
【0068】
【0069】
表3及び
図5に示すとおり、管摩擦係数を構成する要素であるV
2×(L/D)が大きくなると鉄の飛散率φが
小さくなることが確認された。これは、炉内空間10から排ガス管30の上昇部31内に一旦流入した鉄分が、上昇部31の内壁との摩擦の影響によって炉内空間10内に戻り、還元鉄含有物として回収されること示している。
図5に示すとおり、鉄の飛散率φ=5%のときのV
2×(L/D)の値は132であった。すなわち、電気炉ダストを含むブリケットを用いた場合に、V
2×(L/D)の値が132(m
2/秒
2)以上となるような運転条件を設定すれば、回収される亜鉛含有物に混入する鉄分を十分に低減することができると推定される。
【0070】
実施例2の表2及び
図4の結果から、亜鉛回収率を高くするためには、排ガスの流速Vを4.5m/秒以上に維持する必要がある。回収される亜鉛含有物に混入する鉄分を十分に低減するために、表3及び
図5から導出されるV
2×(L/D)≧132(m
2/秒
2)の関係式において、V=4.5m/秒を代入すると、L/D≧6.5となる。したがって、L/Dは6.5以上にすることが好ましいといえる。
【符号の説明】
【0071】
10…炉内空間、11…炉体、11a…天井壁、11b…側壁、11c…天井面、12…回転炉床、14…バーナ、16…走行車輪、21…導入部、22…ブリケット、24…搬送部、30…排ガス管、31…上昇部、32…水平部、35…ガス冷却部、40…回収部、50…煙突、60…導出部、62…冷却部、100…回転炉床炉、H…高さ、W…幅、L…長さ、D…内径。