(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20240319BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20240319BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01F17/00 D
H01F17/04 A
H01F41/04 C
(21)【出願番号】P 2019238902
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2021-07-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(72)【発明者】
【氏名】高井 駿
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠
【合議体】
【審判長】篠原 功一
【審判官】井上 信一
【審判官】小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-32791(JP,A)
【文献】特開平10-106840(JP,A)
【文献】特開2005-294725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00
H01F 17/04
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含む
積層体を焼成してなる積層コイル部品であって、
前記コイル導体層は、単層であり、
前記コイル導体層の厚みは、30μm以上60μm以下であり、
前記コイル導体層は
、積層方向から平面視した場合に矩形状に形成されており、該矩形状に形成されたコイル導体層のコーナー部の
最も外側の曲率半径は、0.08mm以上0.24mm以下であり、
前記コイル導体層と前記絶縁体部の間に空隙部が形成されており、
前記空隙部は、前記コイル導体層の一方の主面にのみ形成されており、
コイルの巻き線方向に垂直な断面において、前記空隙部の幅は、コイル導体層の幅よりも大き
く、
前記絶縁体部は、第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された積層体であり、
前記コイル導体層は、前記第1絶縁体層上に設けられ、
前記第2絶縁体層は、前記第1絶縁体層上に前記コイル導体層に隣接して設けられている、積層コイル部品。
【請求項2】
前記コイル導体層のアスペクト比は、0.15以上0.30以下である、請求項
1に記載の積層コイル部品。
【請求項3】
絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含み、
前記コイル導体層と前記絶縁体部の間に空隙部が形成されており、
前記空隙部は、前記コイル導体層の一方の主面にのみ形成されており、
コイルの巻き線方向に垂直な断面において、前記空隙部の幅は、コイル導体層の幅よりも大きい、積層コイル部品の製造方法であって、
工程(a)絶縁ペーストにより第1絶縁ペースト層を形成し、その上に樹脂ペーストにより樹脂ペースト層を形成すること、
工程(b)前記第1絶縁ペースト層および樹脂ペースト上に、導電性ペースト層を、
積層方向から平面視した場合に矩形状
となるように形成すること、
工程(c)前記第1絶縁ペースト層上に、前記導電性ペースト層に隣接して、絶縁ペーストにより第2絶縁ペースト層を形成すること、
前記工程(a)~(c)を繰り返して未焼成積層体を形成すること、
前記未焼成積層体を焼成
し、前記樹脂ペースト層を消失させて前記空隙部を形成すること
を含み、
前記導電性ペースト層は、単層であり、
前記導電性ペースト層の厚みは、50μm以上120μm以下であり、
前記導電性ペースト層のコーナー部の
最も外側の曲率半径は、0.10mm以上0.30mm以下である、製造方法。
【請求項4】
前記工程(a)~(c)において、第1絶縁ペースト層、導電性ペースト層および第2絶縁ペースト層を形成後に、各層を4MPa以上8MPa以下の圧力でプレスすることを含む、請求項
3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層コイル部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層コイル部品として、例えば、素体および当該素体内に設けられたコイルを備えた積層コイル部品が知られている(特許文献1)。特許文献1に開示される積層コイル部品は、素体を構成する磁性体層上に、厚さ30μm程度のコイル導体層を形成し、さらに、上記磁性体層上に段差吸収用の別の磁性体層を形成して、コイル導体印刷シートを形成し、かかるシートを複数枚圧着して未焼成積層体を得、これを焼成することを含む製造方法により製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電子機器の大電流化の傾向により、積層コイル部品は、直流抵抗が低いことが要求されるようになってきている。直流抵抗を低くするためには、一般的にコイルを構成する導体の断面積を大きくするために、厚みを厚くすることが求められる。このような場合、コイル導体層が形成されている箇所とコイル導体層が形成されてない箇所での厚みをそろえるために、コイル導体層が形成されてない箇所に磁性体ペーストを印刷する。この際、磁性体ペーストは、磁性体ペースト層の一部がコイル導体層の端部に重なるように印刷され得る(特許文献1)。このような磁性体ペーストの印刷の結果、磁性体ペースト層において、厚い部分と薄い部分が生じ、厚みの違いに起因して乾燥速度が異なることから応力が発生し、クラックが生じるという虞があった。
【0005】
本開示の目的は、コイル導体層が厚く、クラックが生じにくい積層コイル部品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品であって、
前記コイル導体層の厚みは、30μm以上60μm以下であり、
前記コイル導体層は矩形状に形成されており、該矩形状に形成されたコイル導体層のコーナー部の曲率半径は、0.08mm以上0.24mm以下である、積層コイル部品。
[2] 前記絶縁体部は、第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された積層体であり、
前記コイル導体層は、前記第1絶縁体層上に設けられ、
前記第2絶縁体層は、前記第1絶縁体層上に前記コイル導体層に隣接して設けられている、上記[1]に記載の積層コイル部品。
[3] 前記コイル導体層のアスペクト比は、0.15以上0.30以下である、上記[1]または[2]に記載の積層コイル部品。
[4] 前記コイル導体層と前記絶縁体部の間に空隙部が形成されている、上記[1]~[3]のいずれか1項に記載の積層コイル部品。
[5] 絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品の製造方法であって、
(a)絶縁ペーストにより第1絶縁ペースト層を形成し、
(b)前記第1絶縁ペースト層上に、導電性ペースト層を、矩形状に形成し、
(c)前記第1絶縁ペースト層上に、前記導電性ペースト層に隣接して、絶縁ペーストにより第2絶縁ペースト層を形成し、
前記行程(a)~(c)を繰り返して未焼成積層体を形成し、
前記未焼成積層体を焼成することを含み、
前記導電性ペースト層のコーナー部の曲率半径は、0.10mm以上0.30mm以下である、製造方法。
[6] 前記工程(a)~(c)において、第1絶縁ペースト層、導電性ペースト層および第2絶縁ペースト層を形成後に、各層を4MPa以上8MPa以下の圧力でプレスすることを含む、上記[5]に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示の積層コイル部品は、コイル導体層が厚く、クラックが生じにくい積層コイル部品、即ち、大電流の用途に用いることができ、信頼性の高い積層コイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の積層コイル部品1を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す積層コイル部品1のx-xに沿った切断面を示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す積層コイル部品1のy-yに沿った切断面を示す断面図である。
【
図4】
図4は、積層コイル部品1のコイル導体部分の断面の拡大図である。
【
図5】
図5(a)~(s)は、
図1に示す積層コイル部品1の製造方法を説明するための図である。
【
図6】
図6は、
図5(d)のコイル導体部分の断面の拡大図である。
【
図7】
図7は、曲率半径Rの求め方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本実施形態の積層コイル部品および各構成要素の形状および配置等は、図示する例に限定されない。
【0010】
本実施形態の積層コイル部品1の斜視図を
図1に、x-x断面図を
図2に、y-y断面図を
図3に示す。但し、下記実施形態の積層コイル部品および各構成要素の形状および配置等は、図示する例に限定されない。
【0011】
図1~
図3に示されるように、本実施形態の積層コイル部品1は、略直方体形状を有する積層コイル部品である。積層コイル部品1において、
図1のL軸に垂直な面を「端面」と称し、W軸に垂直な面を「側面」と称し、T軸に垂直な面を「上面」および「下面」と称する。積層コイル部品1は、概略的には、素体2と、該素体2の両端面に設けられた外部電極4,5とを含む。素体2は、絶縁体部6と該絶縁体部6に埋設されたコイル7を含む。該絶縁体部6は、第1絶縁体層11および第2絶縁体層12を有する。上記コイル7は、コイル導体層15が、第1絶縁体層11を貫通する接続導体(図示していない)によりコイル状に接続されることにより構成される。
図3に示されるように、上記コイル7を構成するコイル導体層15を積層方向から平面視した場合に、該コイル導体層15は矩形状に形成されている。該矩形状に形成されたコイル導体層のコーナー部9(
図3において点線で囲んだ部分)は、丸みを帯びている。コイル7は、その両端に設けられた引き出し部において、外部電極4,5に接続される。上記絶縁体部6と上記コイル導体層15の主面(
図2では下方主面)との間、即ち第1絶縁体層11とコイル導体層15との間に空隙部21が設けられている。
【0012】
上記した本実施形態の積層コイル部品1を、製造方法とともに説明する。本実施形態では、絶縁体部6がフェライト材料から形成される態様について説明する。
【0013】
(1)フェライトペーストの調製
【0014】
まず、フェライト材料を準備する。フェライト材料は、主成分としてFe、Zn、およびNiを含み、所望によりさらにCuを含む。通常、上記フェライト材料の主成分は、実質的にFe、Zn、NiおよびCuの酸化物(理想的には、Fe2O3、ZnO、NiOおよびCuO)から成る。
【0015】
フェライト材料として、Fe2O3、ZnO、CuO、NiO、および必要に応じて添加成分を所定の組成になるように秤量し、混合および粉砕する。粉砕したフェライト材料を乾燥し、仮焼し、仮焼粉末を得る。この仮焼粉末に、所定量の溶剤(ケトン系溶剤など)、樹脂(ポリビニルアセタールなど)、および可塑剤(アルキド系可塑剤など)を加え、プラネタリーミキサー等で混錬した後、さらに3本ロールミル等で分散することでフェライトペーストを作製することができる。
【0016】
上記フェライト材料において、Fe含有量は、Fe2O3に換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0017】
上記フェライト材料において、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは5.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは10.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0018】
上記フェライト材料において、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは4.0モル%以上12.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0019】
上記フェライト材料において、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、ZnおよびCuの残部とし得る。
【0020】
一の態様において、上記フェライト材料は、Feは、Fe2O3に換算して40.0モル%以上49.5モル%以下、Znは、ZnOに換算して5.0モル%以上35.0モル%以下、Cuは、CuOに換算して4.0モル%以上12.0モル%以下、NiOは残部である。
【0021】
本開示において、上記フェライト材料は、さらに添加成分を含んでいてもよい。フェライト材料における添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、BiおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe2O3換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100重量部に対して、それぞれ、Mn3O4、Co3O4、SnO2、Bi2O3、およびSiO2に換算して、0.1重量部以上1重量部以下であることが好ましい。また、上記フェライト材料は、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0022】
なお、焼結フェライトにおけるFe含有量(Fe2O3換算)、Mn含有量(Mn2O3換算)、Cu含有量(CuO換算)、Zn含有量(ZnO換算)およびNi含有量(NiO換算)は、焼成前のフェライト材料におけるFe含有量(Fe2O3換算)、Mn含有量(Mn2O3換算)、Cu含有量(CuO換算)、Zn含有量(ZnO換算)およびNi含有量(NiO換算)と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0023】
(2)コイル導体用導電性ペーストの調製
【0024】
まず、導電性材料を準備する。導電性材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられ、好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgである。所定量の導電性材料の粉末を秤量し、所定量の溶剤(オイゲノールなど)、樹脂(エチルセルロースなど)、および分散剤と、プラネタリーミキサー等で混錬した後、3本ロールミル等で分散することで、コイル導体用導電性ペーストを作製することができる。
【0025】
(3)樹脂ペーストの調製
【0026】
上記積層コイル部品1の空隙部を作製するための樹脂ペーストを調製する。かかる樹脂ペーストは、溶剤(イソホロンなど)に、焼成時に消失する樹脂(アクリル樹脂など)を含有させることにより作製することができる。
【0027】
(4)積層コイル部品の作製
【0028】
(4-1)素体の作製
まず、金属プレートの上に熱剥離シートおよびPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを積み重ね(図示していない)、フェライトペーストを所定回数印刷し、外層となる第1フェライトペースト層31を形成する(
図5(a))。この層は第1絶縁体層11に対応する。
【0029】
次に、空隙部21を形成する箇所に、上記樹脂ペーストを印刷し、樹脂ペースト層32を形成する(
図5(b))。
【0030】
次に、コイル導体層15を形成する箇所に、上記導電性ペーストを印刷し、導電性ペースト層33を形成する(
図5(c))。
【0031】
上記導電性ペースト層の厚みは、好ましくは50μm以上120μm以下、より好ましくは70μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは80μm以上100μm以下であり得る。導電性ペースト層の厚みを大きくすることにより、得られるコイル導体層の厚みが大きくなり、抵抗値がより小さくなる。
【0032】
上記導電性ペースト層は、上記コイルの巻き線部が積層方向から平面視した場合に矩形となるように形成される。即ち、導電性ペースト層は、矩形を描くように形成される。ただし、導電性ペースト層は完全な矩形である必要はなく、矩形の一部、好ましくは少なくとも2辺、より好ましくは少なくとも3辺、特に好ましくは少なくとも3辺と残りの辺の一部を描くように形成されてもよい。
【0033】
上記導電性ペースト層は、積層方向から平面視した場合に、コーナー部が丸みを帯びている。かかる導電性ペースト層のコーナー部の曲率半径Rは、0.10mm以上0.30mm以下、好ましくは0.15mm以上0.25mm以下であり得る。導電性ペースト層のコーナー部の曲率半径を、0.10mm以上にすることにより、乾燥時に生じる応力を抑制することができ、クラックの発生を抑制することができる。導電性ペースト層のコーナー部の曲率半径を、0.30mm以下とすることにより、磁性体部の体積を有効に利用することができ、良好な電気特性を得ることができる。ここに、導電性ペースト層のコーナー部の曲率半径Rとは、導電性ペースト層のコーナー部の最も外側の曲率半径である。
【0034】
上記導電性ペースト層は、アスペクト比が、好ましくは0.15以上0.30以下、より好ましくは0.20以上0.25以下となるように形成される。ここにアスペクト比とは、導電性ペースト層の厚さ/幅をいう。
【0035】
次に、導電性ペースト層33が形成されていない領域に、上記フェライトペーストを印刷し、第2フェライトペースト層34を形成する(
図5(d))。第2フェライトペースト層34は、好ましくは上記コイル導体層15の外縁部を覆うように設けられる(
図6)。この層は第2絶縁体層12に対応する。
【0036】
次に、積層方向に隣接するコイル導体層を接続する接続導体を形成する箇所以外の領域に、フェライトペーストを印刷し、第1フェライトペースト層41を形成する(
図5(e))。この層は第1絶縁体層11に対応する。上記接続導体を形成する箇所は、ホール42となる。
【0037】
次に、上記のホール42中に導電性ペーストを印刷して接続導体ペースト層43を形成する(
図5(f))。
【0038】
次いで、
図5(b)~(f)と同様の工程を繰り返して、各層を形成し(
図5(g)~(n)等)、最後に、フェライトペーストを所定回数印刷し、外層となる第1フェライトペースト層71を形成する(
図5(o))。この層は第1絶縁体層11に対応する。
【0039】
好ましい態様において、各フェライトペースト層、樹脂ペースト層、導電性ペースト層、および接続導体ペースト層を形成した後、プレスにより表面を平滑化してもよい。プレスは、好ましくは少なくとも導電性ペースト層および第2フェライトペースト層を形成した後に行われ、より好ましくは各層を形成する毎に行われる。プレス圧は、好ましくは4MPa以上8MPa以下、より好ましくは6MPa以上8MPa以下であり得る。プラス圧を4MPa以上とすることにより、各層の主面が平滑化され、積層コイル部品の信頼性を高めることができる。
【0040】
次に、金属プレートにとりつけたまま圧着した後、冷却を行い金属プレート、PETフィルムの順番で剥離することにより、素子の集合体(未焼成積層体ブロック)が得られる。この未焼成積層体ブロックをダイサーなどで切断して、各素体に個片化する。
【0041】
得られた未焼成の素体をバレル処理することにより、素体の角を削り、丸みを形成する。なお、バレル処理は、未焼成の積層体に対して行ってもよく、焼成後の積層体に対して行ってもよい。また、バレル処理は、乾式または湿式のどちらであってもよい。バレル処理は、素子同士を共擦する方法であってもよく、メディアと一緒にバレル処理する方法であってもよい。
【0042】
バレル処理後、例えば910℃以上935℃以下の温度で未焼成素体を焼成し、積層コイル部品1の素体2を得る。焼成により、樹脂ペースト層が消失し、空隙部21が形成される。
【0043】
(4-2)外部電極の形成
次に、素体2の端面にAgおよびガラスを含む外部電極形成用Agペーストを塗布し、焼き付けすることで下地電極を形成する。次に、電解めっきで下地電極の上に、Ni被膜、Sn被膜を順次形成することにより、外部電極を形成し、
図1に示すような積層コイル部品1が得られる。
【0044】
本開示は、上記の製造方法、具体的には
絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品の製造方法であって、
(a)絶縁ペーストにより第1絶縁ペースト層を形成し、
(b)前記第1絶縁ペースト層上に、導電性ペースト層を、矩形状に形成し、
(c)前記第1絶縁ペースト層上に、前記導電性ペースト層に隣接して、絶縁ペーストにより第2絶縁ペースト層を形成し、
前記行程(a)~(c)を繰り返して未焼成積層体を形成し、
前記未焼成積層体を焼成することを含み、
前記導電性ペースト層のコーナー部の曲率半径は、0.10mm以上0.30mm以下である。
【0045】
好ましい態様において、本開示の製造方法は、上記の積層コイル部品の製造方法であって、
上記工程(a)~(c)において、それぞれ、第1絶縁ペースト層、導電性ペースト層および第2絶縁ペースト層を形成後に、各層を4MPa以上8MPa以下の圧力でプレスすることを含む。
【0046】
以上、本発明の1つの実施形態について説明したが、本実施形態は種々の改変が可能である。
【0047】
例えば、上記では、各絶縁層に対応するフェライトシートを準備し、このシートに印刷をしてコイルパターンを形成し、これらを圧着して素子を得てもよい。
【0048】
上記した本開示の方法により製造された積層コイル部品は、コイル導体の抵抗値が低く、また、ひびなどの不具合が生じにくい。
【0049】
従って、本開示は、上記の製造方法により得られる積層コイル部品も提供する。
【0050】
具体的には、本開示は、
絶縁体部と、
前記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
前記絶縁体部の表面に設けられ、前記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品であって、
前記コイル導体層の厚みは、30μm以上60μm以下であり、
前記コイル導体層は矩形状に形成されており、該矩形状に形成されたコイル導体層のコーナー部の曲率半径は、0.08mm以上0.24mm以下である、積層コイル部品
を提供する。
【0051】
本実施形態の積層コイル部品1において、素体2は、絶縁体部6とコイル7から構成される。
【0052】
上記絶縁体部6は、第1絶縁体層11および第2絶縁体層12を含み得る。
【0053】
上記第1絶縁体層11は、積層方向に隣接するコイル導体層15の間、およびコイル導体層15と素体の上面または下面との間に設けられる。
【0054】
上記第2絶縁体層12は、コイル導体層15の周囲に、コイル導体層15の上面(
図2で上側の主面)が露出するように設けられる。換言すれば、第2絶縁体層12は、コイル導体層15と積層方向に同じ高さにある層を形成する。例えば、
図2において、第2絶縁体層12aは、コイル導体層15aと積層方向に同じ高さに位置する。
【0055】
即ち、本開示の積層コイル部品において、上記絶縁体部は、第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された積層体であり、上記コイル導体層は、上記第1絶縁体層上に設けられ、上記第2絶縁体層は、上記第1絶縁体層上に上記コイル導体層に隣接して設けられていると言える。
【0056】
従って、本開示は、
第1絶縁体層および第2絶縁体層が積層された絶縁体部と、
上記絶縁体部に埋設され、複数のコイル導体層が電気的に接続されたコイルと、
上記絶縁体部の表面に設けられ、上記コイルと電気的に接続された外部電極と
を含む積層コイル部品であって、
上記コイル導体層は、上記第1絶縁体層上に設けられ、
上記第2絶縁体層は、上記第1絶縁体層上に上記コイル導体層に隣接して設けられ、換言すれば、上記第2絶縁体層は、上記第1絶縁体層上であって上記コイル導体層が形成されていない領域に設けられ、
上記コイル導体層の厚みは、30μm以上60μm以下であり、
上記コイル導体層は矩形状に形成されており、該矩形状に形成されたコイル導体層のコーナー部の曲率半径は、0.08mm以上0.24mm以下である、積層コイル部品。
を提供する。
【0057】
一の態様において、第2絶縁体層12は、その一部がコイル導体層15の外縁部分に乗り上げるように設けてもよい。換言すれば、第2絶縁体層12は、コイル導体層15の外縁部分を覆うように設けてもよい。即ち、第2絶縁体層12は、互いに隣接するコイル導体層15および第2絶縁体層12を上面側から平面視した場合に、コイル導体層15の外縁よりも内側にまで存在し得る。
【0058】
上記第1絶縁体層11および第2絶縁体層12は、素体2において、一体化していてもよい。この場合、第1絶縁体層11は、コイル導体層15間に存在し、第2絶縁体層12は、コイル導体層15と同じ高さに存在すると考えることができる。
【0059】
上記絶縁体部6は、好ましくは磁性体、さらに好ましくは焼結フェライトから構成される。上記焼結フェライトは、主成分として、少なくともFe、Ni、およびZnを含む。焼結フェライトは、さらにCuを含んでいてもよい。
【0060】
上記第1絶縁体層11および上記第2絶縁体層12は、同じ組成であっても、異なる組成であってもよい。好ましい態様において、上記第1絶縁体層11および上記第2絶縁体層12は、同じ組成である。
【0061】
一の態様において、上記焼結フェライトは、主成分として、少なくともFe、Ni、ZnおよびCuを含む。
【0062】
上記焼結フェライトにおいて、Fe含有量は、Fe2O3に換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0063】
上記焼結フェライトにおいて、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは5.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは10.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0064】
上記焼結フェライトにおいて、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは4.0モル%以上12.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0065】
上記焼結フェライトにおいて、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、ZnおよびCuの残部とし得る。
【0066】
一の態様において、上記焼結フェライトは、Feは、Fe2O3に換算して40.0モル%以上49.5モル%以下、Znは、ZnOに換算して5.0モル%以上35.0モル%以下、Cuは、CuOに換算して4.0モル%以上12.0モル%以下、NiOは残部である。
【0067】
本開示において、上記焼結フェライトは、さらに添加成分を含んでいてもよい。焼結フェライトにおける添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、BiおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe2O3換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100重量部に対して、それぞれ、Mn3O4、Co3O4、SnO2、Bi2O3、およびSiO2に換算して、0.1重量部以上1重量部以下であることが好ましい。また、上記焼結フェライトは、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0068】
上記したように、上記コイル7は、コイル導体層15がコイル状に相互に電気的に接続されることにより構成されている。積層方向に隣接するコイル導体層15は、絶縁体部6(具体的には、第1絶縁体層11)を貫通する接続導体により接続されている。
【0069】
コイル導体層15を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられる。上記コイル導体層15を構成する材料は、好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgである。導電性材料は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0070】
上記コイル導体層15の厚みは、好ましくは30μm以上60μm以下、より好ましくは35μm以上60μm以下であり、さらに好ましくは40μm以上60μm以下であり得る。コイル導体層の厚みを大きくすることにより、抵抗値がより小さくなる。ここに厚みとは、積層方向に沿ったコイル導体層の厚みをいう。
【0071】
上記コイル導体層の厚みは、以下のようにして測定することができる。
チップのLT面を研磨紙に向けた状態で研磨を行い、コイル導体層のW寸中央部で研磨を停止する。その後、マイクロスコープで観察を行う。コイル導体層のL寸中央部の厚みを、マイクロスコープに付属している測定機能にて測定する。
【0072】
上記コイル導体層15は、コイル7の巻き線部が積層方向から平面視した場合に矩形となるように形成される。即ち、コイル導体層15は、矩形状に形成されている。ただし、コイル導体層は完全な矩形を形成する必要はなく、矩形の一部、好ましくは少なくとも2辺、より好ましくは少なくとも3辺、特に好ましくは少なくとも3辺と残りの辺の一部を描くように形成されてもよい。
【0073】
上記コイル導体層15は、積層方向から平面視した場合に、コーナー部9が丸みを帯びている。かかるコイル導体層15のコーナー部9の曲率半径Rは、0.08mm以上0.24mm以下、好ましくは0.12mm以上0.20mm以下であり得る。コイル導体層のコーナー部の曲率半径を、0.08mm以上にすることにより、クラックの発生を抑制することができる。コイル導体層15のコーナー部の曲率半径を、0.24mm以下とすることにより、磁性体部の体積を有効に利用することができ、良好な電気特性を得ることができる。ここに、コイル導体層のコーナー部の曲率半径Rとは、コイル導体のコーナー部の最も外側の曲率半径である。
【0074】
上記コイル導体層のコーナー部の曲率半径は、以下のようにして測定することができる。
チップのLW面をT方向に研磨し、
図3に示すようにコイル導体を露出させる。コイル導体のコーナー部をデジタルマイクロスコープで撮影し、
図3に示すような仮想線16を引き、
図7に示すw寸法とh寸法を測定する。測定したwとhから、下記式に従って、曲率半径Rを求めることができる。
【数1】
【0075】
上記コイル導体層15のアスペクト比は、好ましくは0.15以上0.30以下、より好ましくは0.20以上0.25以下である。ここにアスペクト比とは、コイル導体層の厚さ/幅をいう。ここに厚さは上記したコイル導体層の厚さと同意義であって上記と同様に測定することができる。該幅は、コイル導体層の断面において最も長い部分をいう。
【0076】
上記接続導体は、第1絶縁体層11を貫通するように設けられる。接続導体を構成する材料は、上記コイル導体層15に関して記載した材料であり得る。接続導体を構成する材料は、コイル導体層15を構成する材料と同じであっても異なっていてもよい。好ましい態様において、接続導体を構成する材料は、コイル導体層15を構成する材料と同じである。好ましい態様において、接続導体を構成する材料は、Agである。
【0077】
上記空隙部21は、いわゆる応力緩和空間として機能する。
【0078】
空隙部21の厚みは、好ましくは1μm以上30μm以下、より好ましくは5μm以上15μm以下である。
【0079】
上記空隙部の幅および厚みは、以下のようにして測定することができる。
チップのLT面を研磨紙に向けた状態で研磨を行い、コイル導体層のW寸中央部で研磨を停止する。その後、マイクロスコープで観察を行う。コイル導体層のL寸中央部に位置する空隙幅および厚みを、マイクロスコープに付属している測定機能にて測定する。
【0080】
一の態様において、上記空隙部は、コイルの巻き線方向に垂直な断面において、幅がコイル導体層15の幅よりも大きい。即ち、コイル導体層の両端から、コイル導体層から離れる方向に延伸するように設けられる。
【0081】
外部電極4,5は、素体2の両端面を覆うように設けられる。上記外部電極は、導電性材料、好ましくはAu、Ag、Pd、Ni、SnおよびCuから選択される1種またはそれ以上の金属材料から構成される。
【0082】
上記外部電極は、単層であっても、多層であってもよい。一の態様において、上記外部電極は、多層、好ましくは2層以上4層以下、例えば3層であり得る。
【0083】
一の態様において、外部電極は多層であり、AgまたはPdを含む層、Niを含む層、またはSnを含む層を含み得る。好ましい態様において、上記外部電極は、AgまたはPdを含む層、Niを含む層、およびSnを含む層からなる。好ましくは、上記の各層は、コイル導体層側から、AgまたはPd、好ましくはAgを含む層、Niを含む層、Snを含む層の順で設けられる。好ましくは、上記AgまたはPdを含む層はAgペーストまたはPdペーストを焼き付けた層であり、上記Niを含む層およびSnを含む層は、めっき層であり得る。
【0084】
本開示の積層コイル部品は、好ましくは、長さが0.4mm以上3.2mm以下であり、幅が0.2mm以上2.5mm以下であり、高さが0.2mm以上2.0mm以下であり、より好ましくは長さが0.6mm以上2.0mm以下であり、幅が0.3mm以上1.3mm以下であり、高さが0.3mm以上1.0mm以下である。
【実施例】
【0085】
実施例
・フェライトペーストの調製
Fe2O3、ZnO、CuO、およびNiOの粉末を、これらの合計に対してそれぞれ、49.0モル%、25.0モル%、8.0モル%、および残部となるように秤量した。これらの粉末を、混合および粉砕し、乾燥し、700℃で仮焼して、仮焼粉末を得た。この仮焼粉末に、所定量のケトン系溶剤、ポリビニルアセタール、およびアルキド系可塑剤を加え、プラネタリーミキサーで混錬した後、さらに3本ロールミルで分散することでフェライトペーストを作製した。
【0086】
・コイル導体用導電性ペーストの調製
導電性材料として、所定量の銀粉末を準備し、オイゲノール、エチルセルロース、および分散剤と、プラネタリーミキサーで混錬した後、3本ロールミルで分散することで、コイル導体用導電性ペーストを作製した。
【0087】
・樹脂ペーストの調製
イソホロンに、アクリル樹脂を混合することにより、樹脂ペーストを調整した。
【0088】
・積層コイル部品の作製
上記のフェライトペースト、導電性ペースト、および樹脂ペーストを用いて、
図5に示す手順により、未焼成の積層体ブロックを作製した。導電性ペースト層の厚みは70μmとした。また、導電性ペースト層のコーナー部の曲率半径が0.05mm、0.10mm、0.20mm、および0.30mmとなるような印刷板を用いて、それぞれの曲率半径を有する積層体ブロックを得た。さらに、各曲率半径において、導電性ペースト層を形成後、4MPa、6MPaまたは8MPaプレスを行い、積層体を形成した。
【0089】
次に、積層体ブロックをダイサー等で切断し、素子に個片化した。得られた素子をバレル処理することにより、素子の角を削り、丸みを形成した。バレル処理後、930℃の温度で素子を焼成し、素体を得た。
【0090】
次に、素体の端面にAgおよびガラスを含む外部電極形成用Agペーストを塗布し、焼き付けすることで下地電極を形成した。次に、電解めっきで下地電極の上に、Ni被膜、Sn被膜を順次形成することにより、外部電極を形成して、積層コイル部品を得た。
【0091】
上記で得られた積層コイル部品は、いずれもL(長さ)=1.6mm、W(幅)=0.8mm、T(高さ)=0.8mmであった。
【0092】
評価
上記で得られた積層コイル部品の各30個について、ひびの発生の有無を評価した。ひびが発生した積層コイル部品の数を、下記表1に示す。なお、導体パターンの曲率半径Rが0および0.05mm(焼成後のコイル導体層の曲率半径Rが0および0.04)の積層コイル部品は、比較例である。
【0093】
【0094】
上記の結果から、導体パターンの曲率半径Rまたはコイル導体層の曲率半径Rが本発明の範囲内であるものは、焼成後もひびが生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本開示の積層コイル部品は、インダクタなどとして幅広く様々な用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0096】
1…積層コイル部品
2…素体
4,5…外部電極
6…絶縁体部
7…コイル
9…コーナー部
11…第1絶縁体層
12…第2絶縁体層
15…コイル導体層
16…仮想線
21…空隙部
31…第1フェライトペースト層
32…樹脂ペースト層
33…導電性ペースト層
34…第2フェライトペースト層
41…第1フェライトペースト層
42…ホール
43…接続導体ペースト層
44…樹脂ペースト層
45…導電性ペースト層
46…第2フェライトペースト層
55…導電性ペースト層
56…第2フェライトペースト層
61…第1フェライトペースト層
63…接続導体ペースト層
64…樹脂ペースト層
65…導電性ペースト層
71…第1フェライトペースト層