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特許7456786エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体及びそれを含む水分散組成物
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  • 特許-エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体及びそれを含む水分散組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体及びそれを含む水分散組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 210/02 20060101AFI20240319BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20240319BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C08F210/02
C08F8/44
C08L23/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020010577
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2020117710
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-11-18
(31)【優先権主張番号】16/257,818
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】308007044
【氏名又は名称】エスケー イノベーション カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SK INNOVATION CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】26, Jong-ro, Jongno-gu, Seoul 110-728 Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】515215276
【氏名又は名称】エスケー ジオ セントリック カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】520032343
【氏名又は名称】エスケー ジーシー アメリカズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】チェン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク ド ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジャセック マーク
(72)【発明者】
【氏名】キム スク ジュン
(72)【発明者】
【氏名】シン ハイ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン ジュ ウン
(72)【発明者】
【氏名】ジョ ビュン チョン
(72)【発明者】
【氏名】バルホフ クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】カ ドゥ ユン
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-503330(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0130355(US,A1)
【文献】特表2009-527347(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0243331(US,A1)
【文献】特開平07-024973(JP,A)
【文献】特開2006-282968(JP,A)
【文献】特開2002-322212(JP,A)
【文献】特開2003-336191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 210/02
C08F 8/44
C08L 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3.5~8.0の範囲の多分散指数(PDI)を有し、190℃及び2.16kgの条件で測定されたメルトフローインデックス(MFI)が350~1,800g/10minであり、
(メタ)アクリル酸の含有量は15~30重量%であり、エチレンの含有量は70~85重量%である、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体。
【請求項2】
50~95℃の融点を有する、請求項1に記載のエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体。
【請求項3】
10,000~60,000の重量平均分子量を有する、請求項1に記載のエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体。
【請求項4】
それぞれゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で測定したz-平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)は、2.5~5である、請求項1に記載のエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体。
【請求項5】
それぞれゲル透過クロマトグラフィー(GPC)-光散乱(LS)検出器で測定したz-平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)は、4~12である、請求項1に記載のエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体。
【請求項6】
多分散指数(PDI)は3.8~6.0であり、メルトフローインデックス(MFI)は1,000~1,500g/10minである、請求項1に記載のエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体。
【請求項7】
3.5~8.0の範囲の多分散指数(PDI)を有し、190℃及び2.16kgの条件で測定されたメルトフローインデックス(MFI)が350~1,800g/10minであるエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体と、
中和剤と、
水性分散媒とを含む、水分散組成物。
【請求項8】
20~50%の固形分を有する、請求項に記載の水分散組成物。
【請求項9】
30~40%の固形分を有する、請求項に記載の水分散組成物。
【請求項10】
25℃における粘度が100~10,000mPa・sである、請求項に記載の水分散組成物。
【請求項11】
25℃における粘度が100~2,500mPa・sである、請求項に記載の水分散組成物。
【請求項12】
前記エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体に含まれる酸基の中和度は、25~50%である、請求項11に記載の水分散組成物。
【請求項13】
前記中和剤は、NHOH、有機アミン、KOH、NaOH、CsOHおよびLiOHからなる群より選択される少なくとも一つを含む、請求項11に記載の水分散組成物。
【請求項14】
ポリオレフィン系の高分子をさらに含む、請求項に記載の水分散組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体及びそれを含む水分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-アクリル酸共重合体は、例えば、水性分散液で製造されてコーティング膜または接着層形成の用途で使用することができる。例えば、水性分散液は、高分子フィルム、紙、金属箔、織物などの表面上に塗布し、熱を加えて、接着または融着層を形成するのに用いることができる。
【0003】
また、ビニール、金属箔などの材質のバック(bag)をシール(sealing)するために、前記エチレン-アクリル酸共重合体を含む分散液を用いることができる。この場合には、分散液を対象体の一部に塗布した後、前記対象体と共に加熱を伴う圧着工程を行うことができる。
【0004】
シール工程時のシール開始のために加熱温度が増加しすぎる場合には、熱接着時に対象体が共に損傷することがある。また、分散液の粘度が高すぎる場合には、濡れ性が低下して均一なシール層を形成できないことがある。
【0005】
また、分散液中にエチレン-アクリル酸共重合体から生成される不溶性(non-dispersible)の成分が増加する場合には、接着力が低下し、シール層の形成に必要な分散液の量が増加することがある。
【0006】
前述した側面を考慮して、低温で信頼性を有するシール工程を行うために、エチレン-アクリル酸共重合体の物性を設計する必要がある。
【0007】
例えば、国際特許公開公報WO2005/085331号、WO2017/050589号では、水性重合体分散液を用いた加熱密封性コーティングの形成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際特許公開公報WO2005/085331号
【文献】国際特許公開公報WO2017/050589号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、向上した熱接着性および工程信頼性を有するエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体及びその製造方法を提供することである。
【0010】
また、本発明の課題は、熱接着性および工程信頼性を有するエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含む水分散組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
例示的な実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、3.5~8.0の範囲の多分散指数(PDI)を有し、190℃及び2.16kgの条件で測定されたメルトフローインデックス(MFI)が350~1,800g/10minである。
【0012】
一部の実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体中のアクリル酸の含有量は15~30重量%であり、エチレンの含有量は70~85重量%であってもよい。
【0013】
一部の実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の融点は50~95℃であってもよい。
【0014】
一部の実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の重量平均分子量は10,000~60,000であってもよい。
【0015】
一部の実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の、それぞれゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で測定されたz-平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)は2.5~5であってもよい。
【0016】
一部の実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のゲル透過クロマトグラフィー(GPC)-光散乱(LS)検出器で測定されたz-平均分子量(Mz)と、GPC-LS検出器で測定された重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)は、4~12であってもよい。
【0017】
一部の実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の多分散指数(PDI)は3.8~6.0であり、メルトフローインデックス(MFI)は1,000~1,500g/10minであってもよい。
【0018】
例示的な実施形態によると、水分散組成物は、3.5~8.0の範囲の多分散指数(PDI)を有し、190℃及び2.16kgの条件で測定されたメルトフローインデックス(MFI)が350~1,800g/10minであるエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体と、中和剤と、水性分散媒とを含む。
【0019】
一部の実施形態では、水分散組成物は20~50%の固形分を有することができる。
【0020】
一部の実施形態では、水分散組成物は30~40%の固形分を有することができる。
【0021】
一部の実施形態では、水分散組成物の25℃における粘度は100~10,000mPa・sであってもよい。
【0022】
一部の実施形態では、水分散組成物の25℃における粘度は100~2,500mPa・sであってもよい。
【0023】
一部の実施形態では、前記エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体に含まれる酸基の中和度は、25~50%であってもよい。
【0024】
一部の実施形態では、前記中和剤は、NHOH、有機アミン、KOH、NaOH、CsOHまたはLiOHのうちの少なくとも一つを含むことができる。
【0025】
一部の実施形態では、水分散組成物は、ポリオレフィン系の高分子をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0026】
例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、相対的に広い分子量分布を有しつつ、高いメルトフローインデックス(MFI)を有することができる。これにより、低い融点およびシール開始温度(SIT)を有することができる。
【0027】
したがって、低温でも容易に接着層またはシール層を形成することができ、対象体の熱損傷を防止することができる。
【0028】
また、熱工程における粘度の上昇および不溶性成分の発生が抑制され、接着信頼性および均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、実施例1、実施例2及び比較例1の水分散組成物の温度による熱接着強度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体>
本発明の実施形態によるエチレン-(メタ)アクリル酸(ethylene-acrylic acid:EAA)共重合体は、エチレン、および(メタ)アクリル酸を単量体として使用し、共重合反応により製造することができる。本出願で使用される用語「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸およびメタクリル酸、またはその誘導体(例えば、(メタ)アクリレート)の全てを意味するものとして使用される。
【0031】
例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、相対的に広い分子量分布を有し、高いメルトフローインデックス(melt flow index)を有することができる。
【0032】
例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、3.5~8.0の絶対分子量測定法によって計算された多分散指数(polydispersity index:PDI)を有することができる。
【0033】
エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の多分散指数が3.5未満であると、粘度の上昇を抑制しつつシール開始温度を十分に下げることが困難になることがある。エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の多分散指数が8.0を超えると、分子量分布の均一性が低下しすぎて不溶成分(non-dispersible)の量が増加することがある。
【0034】
好ましい一実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の多分散指数は3.8~6.0であってもよい。
【0035】
例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のメルトフローインデックス(melt flow index:MFI)は、190℃、2.16kgの条件で350~1,800g/10minの範囲であってもよい。
【0036】
メルトフローインデックスは、高分子の高温での流動性を示すことができる。例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のメルトフローインデックスを350g/10min以上に調節することで、低温シール工程でも迅速塗布および融着性を実現することができる。また、溶融性または流動性の増加により、均一なコーティング層を形成するとともに、安定した熱接着性を示すことができる。
【0037】
エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のメルトフローインデックスが増加しぎると、シール層または接着層の耐熱性、若しくは機械的強度が低下することがある。このため、例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のメルトフローインデックスを1,800g/10min以下に調節することができる。共重合体のメルトフローインデックスが1,800g/10minを超えると、製品の流動性が高すぎて、共重合体を例えばペレット状に製品化することが実質的に困難なことがある。
【0038】
好ましい一実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のメルトフローインデックスは1,000~1,500g/10minの範囲であってもよい。
【0039】
例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の全重量に対して、(メタ)アクリル酸(例えば、(メタ)アクリル酸由来の単位、または(メタ)アクリル酸由来のブロック)の含有量は、15~30重量%であってもよい。この場合には、エチレン(例えば、エチレン由来の単位、またはエチレン由来のブロック)の含有量は、70~85重量%であってもよい。好ましい一実施形態では、(メタ)アクリル酸の含有量が17~28重量%、エチレンの含有量が72~83重量%であってもよい。より好ましくは、(メタ)アクリル酸の含有量が19~26重量%、エチレンの含有量が74~81重量%であってもよい。
【0040】
相対的に(メタ)アクリル酸の含有量が小さいと、物質の水分酸性が低くなることがある。(メタ)アクリル酸の含有量が高いと、例えば、ポリアクリル酸の生成によって工程効率性が低下することがあり、また製造装置が過度に腐食することがある。したがって、(メタ)アクリル酸の含有量を前述の範囲に調節し、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含むコーティング層またはシール層の接着力を向上することができる。
【0041】
例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の融点(Tm)は、50℃~95℃であってもよい。これにより、95℃未満の低温でも容易に熱接着または熱融着工程を行うことができる。
【0042】
好ましくは、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の融点は60℃~90℃、より好ましくは70℃~80℃であってもよい。
【0043】
例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の重量平均分子量(Mw)は、前記のPDIを満たし、10,000~60,000の範囲であってもよい。好ましい一実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の重量平均分子量は10,000~40,000、より好ましくは12,000~30,000の範囲であってもよい。
【0044】
一部の実施形態では、エチレン-アクリル酸共重合体の相対的な方法で測定された重量平均分子量(Mw)に対するz-平均分子量(Mz)の比(Mz/Mw)は2.5~5の範囲であってもよい。例えば、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で測定された重量平均分子量とz-平均分子量の比(Mz/Mw)の値は、2.5~5の範囲であってもよい。
【0045】
好ましくは、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で測定された重量平均分子量(Mw)とz-平均分子量の比(Mz/Mw)の値は、2.5~3.5の範囲であってもよい。
【0046】
一部の実施形態では、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の絶対分子量測定法により測定されたMzと、絶対分子量測定法により測定されたMwの比は、4~12の範囲、好ましくは6~10であってもよい。例えば、絶対分子量測定法は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)-光散乱(LS)検出器で測定するものである。
【0047】
前述した分子量分布に関する数値範囲では、より広い分子量分布のエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を用いて、粘度の抑制、シール開始温度の低減をより効果的に実現することができる。
【0048】
本発明の実施形態は、前述したエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の製造方法を提供する。例示的な実施形態によると、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、連続フロー反応器(CSTR)を用いた連続工程で重合することができる。
【0049】
例えば、単量体としてエチレンおよび(メタ)アクリル酸をCSTR反応器内に開始剤と共に投入することができる。開始剤は、例えば、有機ペルオキシド、アゾ系化合物などの自由ラジカル開始剤を含むことができる。
【0050】
一部の実施形態では、連鎖移動剤(chain transfer agent:CTA)を共に反応器内に導入することもできる。連鎖移動剤は、成長中の重合体鎖を終結させて、最終の分子量分布を調整するために含むことができる。例えば、連鎖移動剤によって延長される鎖の重合反応が終結し、新しい重合体の鎖の成長が開始され得る。連鎖移動剤により、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体のメルトフローインデックスをより容易に調節することができる。
【0051】
連鎖移動剤は、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、イソブタンなどの炭化水素系の化合物;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン系の化合物;メタノール、エタノールなどのアルコール類などを含むことができる。
【0052】
一部の実施形態では、連鎖移動剤は、エチレンまたはアクリル酸単量体を伝達する溶媒として用いることもできる。連鎖移動剤の含有量は、反応器内に投入する全成分の体積に対して2~4体積(vol)%の範囲で調節することができる。前記範囲内であると、前述したメルトフローインデックスの範囲を維持しつつ、十分に広い分子量分布を容易に得ることができる。
【0053】
例示的な実施形態によると、反応器内の圧力は20,000~30,000psiの範囲に維持することができる。反応器内の温度は200~260℃に維持することができる。前記の圧力、温度の範囲であると、前述した広い分子量分布および高いメルトフローインデックスを容易に実現することができる。
【0054】
反応器から得られた生成物は、例えばペレット状に加工して製品化することができる。
【0055】
<水分散組成物>
例示的な実施形態によると、前述したエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を含む水分散組成物が提供される。水分散組成物は、前記エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体と、中和剤と、水性分散媒とを含むことができる。
【0056】
前述のように、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、3.5~8の多分散指数を有し、かつ約350~1,800g/10min(196℃、2.16kg)のメルトフローインデックスを有することができる。例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体は、水分散組成物の全重量に対して5~60重量%で含むことができる。
【0057】
中和剤は、例えば、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体と共に混合され、実質的に水分散組成物が安定的な粘性流体として提供され得る。
【0058】
中和剤としては、塩基性化合物を特に制限なく使用することができる。好ましい実施形態では、中和剤は、水酸化アンモニウムまたはアミン系化合物のような有機系の塩基を含むことができる。中和剤は、KOH、NaOH、CsOHなどの無機塩基を含むこともできる。これらは、単独であるいは2以上を組み合わせて使用することができる。
【0059】
中和剤によるエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の中和度が増加するほど、前記水分散組成物の分散性が増加し、不溶成分の量が減少し得る。しかし、中和度が増加するほど、水分散組成物の粘度が増加し、コーティング性および接着性の側面で不利なことがある。
【0060】
しかし、例示的な実施形態によると、前述のように、相対的に分子量分布が大きく、高い溶融流動性を有するエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を使用することにより、粘度の過度の上昇を抑制し、十分な中和度を確保することができる。
【0061】
本明細書で使用する用語「中和度」とは、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体に含まれる酸基(カルボン酸グループ)における中和剤によって反応または中和された割合を意味し得る。
【0062】
一部の実施形態によると、水分散組成物において、中和度は25%~50%であってもよい。中和度が25%未満であると、十分な分散性、コーティング均一性が確保されないことがある。中和度が50%を超えると、粘度の上昇が十分に抑制されないことがある。
【0063】
好ましくは、水分散組成物の中和度は25~40%であってもよい。前記範囲内であると、水分散組成物の粘度の上昇を抑制し、コーティング均一性をより効果的に確保することができる。
【0064】
例示的な実施形態によると、水分散組成物の25℃における粘度は100~10,000mPa・sの範囲であってもよい。好ましくは、水分散組成物の25℃における粘度は、100~2,500mPa・sの範囲であってもよい。
【0065】
前述したように、高分散度および高溶融流動性を有するエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体を使用することにより、低温でも容易に均一な接着層またはシール層を形成できる水分散組成物を提供することができる。
【0066】
例示的な実施形態によると、水分散組成物のシール開始温度(sealing initiation:SIT)は、125℃ 、好ましくは120℃以下であってもよい。シール開始温度とは、ピーリング(peeling)テストにより所定の結合力(bond strength)が維持される最低温度を意味する。例示的な実施形態によると、シール開始温度は、100mm/minの速度で180℃ピーリングテストのとき、300gf/25mmの結合力が確保される最小温度を意味し得る。
【0067】
一部の実施形態では、水分散組成物は、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体による低温接着、高分散性、低粘度特性を阻害しない範囲内で、追加の高分子または樹脂をさらに含んでいてもよい。
【0068】
例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系の樹脂を、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の酸価特性、粘度特性を阻害しない範囲内で共に添加してもよい。
【0069】
一実施形態では、水分散組成物の全重量に対して、固形分は20~50%、好ましくは30~40%であってもよい。前記範囲内であると、低温で容易に揮発成分が除去され、接着層またはシール層を形成することができる。
【0070】
水分散組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレートなどを含む包装用フィルムのシール材として用いることができる。例えば、包装用フィルムのシール部の表面上に前記水分散組成物をコーティングした後、熱圧着によって容易にシール層または接着層を形成することができる。
【0071】
前述のように、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体または水分散組成物は、120℃以下のシール開始温度を有するので、高温でフィルムが損傷することなく、容易にシール工程を行うことができる。
【0072】
また、水分散組成物は、紙、樹脂フィルム、金属箔などの様々な対象体にコーティングされ、接着層、帯電防止層、エンキャプセレーション層などの絶縁性の構造を形成するのに用いることができる。
【0073】
水分散組成物は、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体による分散性、熱的特性などの物性を阻害しない範囲内で他の添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば、添加剤は、帯電防止剤、界面活性剤、無機粒子、アンチブロッキング剤などを含むことができる。
【0074】
以下、本発明の理解を助けるために具体的な実施例及び比較例を含む実験例を提示するが、これらの実施例は本発明を例示するものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を制限するものではない。これらの実施例に対し、本発明の範疇および技術思想の範囲内で種々の変更および修正を加えることが可能であることは当業者にとって明らかであり、これらの変形および修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然のことである。
【0075】
実施例及び比較例
実施例1
(1)エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の製造
単量体としてのエチレン及びアクリル酸(AA)、開始剤としてのt-ブチルペルオクトエート(t-butyl peroctoate)、及び連鎖移動剤としてのイソブタンを一定の投入比を維持しつつ連続フロー反応器(CSTR)内に持続的に注入し、エチレン-アクリル酸共重合体を製造した。具体的には、共重合体中のAAの重量比を20%に調整し、開始剤の効率、即ち共重合体1kgを生産するための開始剤の量が1gとなるように調節した。連鎖移動剤は、全成分の体積に対して4.1vol%で投入した。
【0076】
反応器の圧力は27,000psiに維持され、反応器内の温度は240℃に維持された。反応器からの排出ガス温度(outlet gas temperature)は75℃に維持された。
【0077】
生成された共重合体反応物は分離され、押出機を経てペレット状に剤形された。
【0078】
(2)エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の物性の測定
1)共重合体の分子量の測定(Mw、Mn、Mz、相対Mz/Mw、絶対Mz/Mw)
GPC測定の前に、前記のようにして合成された共重合体製品の酸基をエステルに転換して、GPCカラムにパッキングされた充填体の表面に吸収されないようにした。前記転換は、公知の方法で行った(YOSHIYUKI IWASE、J.POLYM.SCI.PART A:POLYM.CHEM:VOL.29(1991)を参照)。2~5mgのサンプルを取って、システムの溶出液として使用されるブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)200ppm含有1,2,4-Trichlorobenzene 1Mを用いて溶解した。このとき、試料は、前処理機(Agilent PL-SP 260 VS Sample Preparation System)を使用して、150℃で4時間撹拌して製造した。
【0079】
溶解された試料を、3本のカラム(モデル名:Agilent社製のPLgel Olexis 7.5X300mm、13μm)と、ガードカラム1本(モデル名:Agilent社製のPLgel Olexis 7.5X50mm、13μm)が連結されており、温度160℃、GPC流量1mL/minに設定されたGPCシステムに200μLを注入した。
【0080】
相対(relative)分子量(Mn、Mw、Mz)の測定は、屈折率検出器(Refractive Index Detector)が連結されたGPCシステム(PL-GPC220(Agilent))を用いて、ポリスチレン標準物を使用して行った。
【0081】
絶対分子量(Mw(abs)、Mn(abs)、Mz(abs))は、2角レーザー光散乱検出器(Dual Angle Light Scattering Detector、モデル名:PD2040)が連結された多重検出器GPC(Multi-detector GPC)を用いて測定した。
【0082】
分子量データは、Data Stream(モデル名:Agilent PL-DataStream)からの信号をAgilent GPC/SEC SoftwareTM(相対分子量)と、CirrusTM MultiDetector Software(絶対分子量)により処理した。
【0083】
2)メルトフローインデックス(MFI)の測定法
メルトフローインデックス(MFI)は、ASTM D1238により測定した。測定温度は125℃であり、錘の重量は2.16kgである。測定温度190℃と錘の重量2.16kgの条件でのメルトフローインデックス(MFI)は、ASTM D1238(125℃/2.16kg)により測定した値の20倍の相関関係を用いて示した。
【0084】
3)アクリル酸の含有量(AA %)の測定法
EAA中のアクリル酸(AA%)の含有量は、フーリエ変換赤外分光器(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)を用いて測定した。Deuterated Triglycine Sulfateを検出器として用いて、ResolutionProTM ソフトウェア(Agilent社製)を用いて値を算出した。
【0085】
具体的には、ペレット状のEAA共重合体試料120mgを油圧式ホットプレス(130℃ )内で30秒間加圧して50μmのシートを製造した。バックグラウンドスペクトルの測定後、シートで製作した試料をIRビームが通過するフィルム用ホルダーの中央に固定した。透過モードで解像度4cm-1、繰り返し測定数32scanで測定を行った。
【0086】
アクリル酸の含有量が知られている標準試料の3種を測定試料と同様に前処理し、アクリル酸の含有量に対するC-Oピーク積分値の一次式の検量式を算出した。その後、測定試料のC-Oピーク積分値を検量線に代入し、アクリル酸の含有量(%)を算出した。
【0087】
4)融点(Tm)の測定法
融点は、示差走査熱量法(Differential Scanning Calorimeter、測定機器:TA社製のQ20)を用いて測定した。
【0088】
具体的には、ペレット状のEAA共重合体試料10mgをとってアルミクルーシブル(Crucible)に入れ、ピンホール(Pinhole)を含む蓋(lid)をした。
【0089】
パージ気体として窒素を50mL/minの流量で供給しながら、-50~180℃ の範囲で10℃/minで昇温(第1次昇温区間)した後、180℃で1分間等温保持した。その後、180℃から-50℃に10℃/minの速度で冷却して試料を結晶化した。第2次昇温区間で-50~180℃、10℃/minで温度を変更し、2次昇温区間で発生する溶融ピークの温度(Tm)を測定した。
【0090】
(3)水分散組成物の調製
水151gを500mLの二重ガラスジャケット容器に充填し、前述のように製造されたEAA共重合体102gを投入して撹拌しながら、中和剤として10wt%KOH水溶液46.6gを投入した。その後、容器を閉鎖した後、撹拌を継続しながら90℃まで加熱した。1時間後、容器を60℃まで冷却し、未分散の成分は濾過して除去した。
【0091】
実施例2
EAA共重合体の製造時の連鎖移動剤の含有量を3.9vol%とした以外は、実施例1と同様の方法で水分散組成物を調製した。
【0092】
比較例1
下記表1に示す分子量分布及びMFIを有するEAA共重合体ペレット製品を用いて、実施例1の方法と同様な方法で水分散組成物を調製した。
【0093】
比較例2
下記表1に示す分子量分布を有するEAA共重合体ペレット製品を用いて、以下のようにして水分散組成物を調製した。まず、水190gを500mLの二重ガラスジャケット容器内に充填し、EAA共重合体75gを投入して撹拌しながら、中和剤として30wt%濃度のKOH水溶液を35.7g投入した。容器を閉鎖した後、撹拌を継続しながら90℃まで加熱した。1時間後、容器を60℃まで冷却し、未分散の成分は濾過して除去した。
【0094】
実施例及び比較例に基づいて調製された水分散組成物に含まれる共重合体の物性を下記表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
水分散組成物の物性の評価
1)シール開始温度(SIT)の測定
実施例及び比較例の水分散組成物をワイヤー-コーティングバーを用いて110μm厚さのアルミ箔上に均一に塗布した後、110℃で10分間乾燥して、30μmのコーティング膜を形成した。コーティング膜を含む箔を横幅2.5cm及び長さ15cmの大きさに切断し、コーティングサンプルを製造した。
【0097】
製造されたサンプルを幅2.5cm及び長さ1cmのサイズを有する5個のヒーティングブロックを備えたホットプレス機器上に配置した。一方、非コーティングのアルミ箔(幅2.5cm、長さ15cm)をサンプル上に配置した。コーティング・サンプルと非コーティング・サンプルを0.2MPaの圧力で接合した。
【0098】
SITはユニバーサル試験機(UTM)を用いて、100mm/minの速度で180°ピーリングテストのとき、300gf/25mmの結合力が確保される最小温度で測定された。
【0099】
2)粘度の測定
中和剤を添加後、実施例及び比較例の水分散組成物の25℃における粘度を粘度計(Brookfield DV-II、Rotor No.2)を用いて測定した。測定結果は、下記表2に示す。
【表2】
【0100】
表2を参照すると、実施例1の水分散組成物の場合には、比較例1よりも20℃程度低いSITを示した。具体的には、図1を参照すると、実施例1及び実施例2の場合には、300gf/25mmの結合力(bond strength)が確保される温度(bond temperature)がいずれも120℃以下で形成された。
【0101】
また、実施例1の場合には、比較例2よりも中和度が顕著に低いにもかかわらず、近似した粘度を示した。比較例2の共重合体は、実施例1と同じ固形分重量%と中和度で水分散液を製造することができなかった。また、固形分の含有量を30重量%以上に上げると、分散液中に共重合体がゲル化して粘度を測定することができなかった。
図1