(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】圧電デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/17 20060101AFI20240319BHJP
H03H 3/02 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H03H9/17 F
H03H3/02 B
(21)【出願番号】P 2020011707
(22)【出願日】2020-01-28
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】岸本 亮三
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/031748(WO,A1)
【文献】特開2018-113679(JP,A)
【文献】国際公開第2020/166120(WO,A1)
【文献】特開2005-333619(JP,A)
【文献】特開2010-136317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と、
前記下部電極上に設けられ、前記下部電極側の面に設けられた凹部と前記凹部から前記下部電極と反対側に通じる孔とを有する単結晶の圧電層と、
前記凹部および前記孔のうち前記凹部にのみ設けられ前記下部電極と接触する金属層と、
前記圧電層上に設けられ、前記圧電層の一部を挟み前記下部電極と重なる上部電極と、
を備える圧電デバイス。
【請求項2】
前記孔の側面は、前記孔において前記金属層側の幅が前記金属層の反対側の幅より小さい請求項
1に記載の圧電デバイス。
【請求項3】
前記金属層は前記下部電極と前記上部電極とが重なる領域以外に設けられている請求項1
または2に記載の
圧電デバイス。
【請求項4】
前記圧電層上に設けられ、前記孔を介し前記金属層または前記下部電極に接触する配線をさらに備える請求項1から
3いずれか一項に記載の
圧電デバイス。
【請求項5】
前記圧電デバイスは圧電薄膜共振器である請求項1から
4のいずれか一項に記載の
圧電デバイス。
【請求項6】
前記圧電層は、単結晶タンタル酸リチウム基板、単結晶ニオブ酸リチウム基板または単結晶水晶基板である請求項
5に記載の
圧電デバイス。
【請求項7】
下部電極と、前記下部電極と平面視において重なり前記下部電極と電気的に接続された金属層と、前記下部電極および前記金属層上に前記金属層に接触して設けられた単結晶の圧電層と、を有する積層体の前記圧電層を前記圧電層上からエッチングすることで前記圧電層を貫通する孔を平面視において前記金属層に重なって形成する工程と、
前記圧電層上に前記下部電極と平面視において重なる上部電極を形成する工程と、を含み、
前記積層体において、前記金属層は、前記圧電層の前記下部電極側の面に設けられた凹部内に少なくとも一部が設けられる圧電デバイスの製造方法。
【請求項8】
単結晶の圧電層の一方の面に形成された凹部内に
前記圧電層に接触する金属層の少なくとも一部を形成する工程と、
前記圧電層の前記面に、
前記金属層と平面視において重なり前記金属層に接触
して電気的に接続された下部電極を形成する工程と、
前記圧電層の前記面および前記下部電極を基板上に接合する工程と、
前記圧電層を前記圧電層上からエッチングすることで前記圧電層を貫通する孔を平面視において前記金属層に重なって形成する工程と、
前記圧電層上に前記下部電極と平面視において重なる上部電極を形成する工程と、
を含む圧電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電デバイスおよびその製造方法に関し、例えば、圧電層を有する圧電デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の無線端末の高周波回路用のフィルタおよびデュプレクサとして、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)およびSMR(Solid Mounted Resonator)等のBAW(Bulk Acoustic Wave)共振器が用いられている。BAW共振器は圧電薄膜共振器とよばれている。圧電薄膜共振器は、圧電層を挟み下部電極と上部電極とを設ける構造を有し、圧電層の少なくとも一部を挟み下部電極と上部電極とが対向する共振領域は弾性波が共振する領域である(例えば特許文献1から3)。また、圧電層を挟む下部電極と上部電極とを有するアクチュエータ等の圧電デバイスが知られている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-42878号公報
【文献】特開2008-42871号公報
【文献】特開2006-319479号公報
【文献】国際公開第2017/73317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧電層の上方から下部電極に電気的に接続するため圧電層を貫通する孔を形成する。しかしながら、単結晶の圧電層のように、圧電層と下部電極とでエッチングの選択性が低い場合、圧電層を貫通する孔を形成するときに孔が下部電極を貫通してしまうことがある。孔が下部電極を貫通すると、孔を介して下部電極と電気的に接続することが難しくなる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、下部電極との電気的な接続を容易とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下部電極と、前記下部電極上に設けられ、前記下部電極側の面に設けられた凹部と前記凹部から前記下部電極と反対側に通じる孔とを有する単結晶の圧電層と、前記凹部および前記孔のうち前記凹部にのみ設けられ前記下部電極と接触する金属層と、前記圧電層上に設けられ、前記圧電層の一部を挟み前記下部電極と重なる上部電極と、を備える圧電デバイスである。
【0007】
上記構成において、前記孔の側面は、前記孔において前記金属層側の幅が前記金属層の反対側の幅より小さい構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記金属層は前記下部電極と前記上部電極とが重なる領域以外に設けられている構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記圧電層上に設けられ、前記孔を介し前記金属層または前記下部電極に接触する配線をさらに備える構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、前記圧電デバイスは圧電薄膜共振器である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記圧電層は、単結晶タンタル酸リチウム基板、単結晶ニオブ酸リチウム基板または単結晶水晶基板である構成とすることができる。
【0016】
本発明は、下部電極と、前記下部電極と平面視において重なり前記下部電極と電気的に接続された金属層と、前記下部電極および前記金属層上に前記金属層に接触して設けられた単結晶の圧電層と、を有する積層体の前記圧電層を前記圧電層上からエッチングすることで前記圧電層を貫通する孔を平面視において前記金属層に重なって形成する工程と、前記圧電層上に前記下部電極と平面視において重なる上部電極を形成する工程と、を含み、前記積層体において、前記金属層は、前記圧電層の前記下部電極側の面に設けられた凹部内に少なくとも一部が設けられる、圧電デバイスの製造方法である。
【0017】
本発明は、単結晶の圧電層の一方の面に形成された凹部内に前記圧電層に接触する金属層の少なくとも一部を形成する工程と、前記圧電層の前記面に、前記金属層と平面視において重なり前記金属層に接触して電気的に接続された下部電極を形成する工程と、前記圧電層の前記面および前記下部電極を基板上に接合する工程と、前記圧電層を前記圧電層上からエッチングすることで前記圧電層を貫通する孔を平面視において前記金属層に重なって形成する工程と、前記圧電層上に前記下部電極と平面視において重なる上部電極を形成する工程と、を含む圧電デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、下部電極との電気的な接続を容易とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。
【
図2】
図2(a)から
図2(d)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図3】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図4】
図4(a)から
図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その3)である。
【
図5】
図5(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図5(b)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図7】
図7(a)から
図7(c)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図8】
図8(a)から
図8(c)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図9】
図9は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図10】
図10(a)から
図10(c)は、実施例1の変形例2の製造方法を示す断面図、
図10(d)は、比較例2に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
【
図11】
図11(a)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図11(b)および
図11(c)は、それぞれ
図11(a)のA-A断面図およびB-B断面図である。
【
図12】
図12(a)から
図12(c)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その1)である。
【
図13】
図13(a)から
図13(c)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図(その2)である。
【
図14】
図14は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
【
図15】
図15(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、
図15(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
以下の実施例では圧電デバイスとして圧電薄膜共振器を例に説明する。
図1(a)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA-A断面図である。圧電層14の法線方向をZ方向、圧電層14の平面方向のうち上部電極16の引き出し方向を+X方向、X方向に直交する方向をY方向とする。
【0022】
図1(a)および
図1(b)に示すように、基板10上に絶縁層18が設けられている。絶縁層18上に下部電極12が設けられている。下部電極12上に圧電層14が設けられている。圧電層14上に上部電極16が設けられている。圧電層14の少なくとも一部を挟み下部電極12と上部電極16とが対向する領域は共振領域50である。
【0023】
下部電極12と上部電極16との間に高周波電力を印加すると、共振領域50内の圧電層14に弾性波が励振する。弾性波の波長は下部電極12、圧電層14および上部電極16の厚さの合計のほぼ2倍である。基板10および絶縁層18に空隙30が設けられている。平面視において、空隙30は共振領域50と重なる。圧電層14を伝搬する弾性波は下部電極12と空隙30の界面により反射される。
【0024】
下部電極12が共振領域50から引き出される領域は引き出し領域52である。引き出し領域52には上部電極16は設けられていない。上部電極16が共振領域50から引き出される領域は引き出し領域54である。引き出し領域54には下部電極12は設けられていない。
【0025】
引き出し領域52において、下部電極12上の圧電層14の下面に凹部20が設けられ、凹部20内に金属層22が設けられている。圧電層14の下面および金属層22の下面は略平坦面である。金属層22は下部電極12に接触している。金属層22は共振領域50には設けられていない。金属層22上の圧電層14に孔24が設けられている。平面視において孔24は金属層22より小さい。孔24の側面および圧電層14上に金属層26が設けられている。金属層26は、孔24を介し金属層22と接触し、金属層22を介し下部電極12と電気的に接続されている。引き出し領域54において、上部電極16上に金属層28が設けられている。金属層26および28は、下部電極12および上部電極16を外部と電気的に接続するためのパッド、および/または下部電極12および上部電極16を他の圧電薄膜共振器と電気的に接続するための配線として機能する。
【0026】
基板10は、例えばシリコン基板であり、例えばサファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs(ガリウム砒素)基板等でもよい。圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム層、単結晶ニオブ酸リチウム層または単結晶水晶基板である。圧電層14が単結晶タンタル酸リチウムまたは単結晶ニオブ酸リチウムの場合、圧電層14には、厚みひずみ振動の弾性波が励振される。
【0027】
絶縁層18は、例えば酸化シリコン層であり、例えば窒化シリコン層、酸化アルミニウム層または樹脂膜でもよい。下部電極12および上部電極16は、例えばアルミニウム(Al)膜であり、例えばルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはイリジウム(Ir)等の単層膜またはこれらの積層膜である。
【0028】
金属層22は、例えばアルミニウム層、金層または銅層等の低抵抗層である。金属層26および28は例えば、金層、銅層またはアルミニウム層等の低抵抗層である。金属層22、26および28は、下部電極12または上部電極16と接触するチタン膜、クロム膜またはニッケル膜等の密着膜を含んでもよい。
【0029】
例えば、圧電層14に励振する弾性波が厚みひずみ振動させる例を説明する。圧電層14を回転Yカットニオブ酸リチウム基板とする。このとき、圧電層14の上面の法線方向(Z方向)は結晶方位のY軸Z軸平面内の方向となる。これにより、圧電層14の平面方向に厚みすべり振動が生じる。また、X方向を結晶方位でX軸方向とし、Z方向を、結晶方位のY軸Z軸平面内においてZ軸方向からY軸方向に105°回転させた方向とする。これにより、厚みすべり振動の方向はY方向となる。
【0030】
別の例として、圧電層14をXカットタンタル酸リチウム基板とする。このとき、圧電層14の上面の法線方向(Z方向)は結晶方位のX軸方向である。これにより、圧電層14の平面方向では厚みすべり振動が生じる。また、Y方向を結晶方位の+Y軸方向から-Z軸方向に42°回転させた方向とする。これにより、厚みすべり振動の方向はY方向となる。
【0031】
例えば、共振周波数を2GHzとする場合、圧電層14を厚さが1000nmの回転Yカットニオブ酸リチウム基板とし、下部電極12および上部電極16を各々厚さが100nmのアルミニウム層とする。下部電極12および上部電極16の厚さは各々圧電層14の厚さの1%~20%である。金属層22の厚さは例えば圧電層14の20%~80%である。金属層26および28の厚さは例えば各々0.1μm~5μmである。孔24のX方向の幅は例えば1μmから100μmである。共振領域50のX方向の幅は例えば10μm~500μmである。
【0032】
[実施例1の製造方法]
図2(a)から
図4(c)は、実施例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図2(a)に示すように、圧電層14として圧電基板を準備する。圧電層14上にフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い凹部20を形成する。凹部20の形成には例えばイオンビームを用いたエッチングまたはウェットエッチングを用いる。
【0033】
図2(b)に示すように、圧電層14上および凹部20内に金属層22を形成する。金属層22の形成には例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いる。圧電層14の上面を例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用い平坦化する。これにより、金属層22が凹部20内に埋め込まれ、圧電層14の上面および金属層22の上面は略平坦面となる。略平坦とは、例えば、金属層22の厚みの1/2倍以下程度の段差があってもよい。
【0034】
図2(c)に示すように、圧電層14および金属層22上に下部電極12を形成する。下部電極12の形成には、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法(例えばイオンビームを用いたエッチングまたはドライエッチング)を用い下部電極12を所望形状にパターニングする。下部電極12はリフトオフ法を用い形成してもよい。これにより、金属層22に接触する下部電極12が形成される。
【0035】
図2(d)に示すように、圧電層14および下部電極12上に絶縁層18を形成する。絶縁層18の形成は、例えばCVD法、スパッタリング法または真空蒸着法を用いる。絶縁層18の上面を例えばCMP法を用い平坦化する。これにより、絶縁層18の下面は略平坦化され、圧電層14、金属層22、下部電極12および絶縁層18を有する積層体38が形成される。
【0036】
図3(a)に示すように、積層体38を上下逆にする。積層体38の絶縁層18の下面を基板10の上面に接合させる。接合には例えば表面活性化法を用いる。基板10と絶縁層18との間にはシリコン膜等の接合層を設けてもよい。
【0037】
図3(b)に示すように、圧電層14を薄膜化する。薄膜化には、例えば研削法および/またはCMP法を用いる。例えば研削法を用い圧電層14をほぼ所望の厚さとし、CMP法を用い上面を平坦化する。これにより、圧電層14の上面は製造誤差程度に略平坦面となる。
【0038】
図3(c)に示すように、圧電層14上に上部電極16を形成する。上部電極16の形成には、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法(例えばイオンビームを用いたエッチングまたはドライエッチング)を用い上部電極16を所望形状にパターニングする。上部電極16はリフトオフ法を用い形成してもよい。
【0039】
図4(a)に示すように、圧電層14に金属層22に達する孔24を形成する。孔24の形成は例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いる。エッチングには例えばイオンビームを用いたエッチング(イオンミリング法)を用いる。
【0040】
図4(b)に示すように、孔24の側面および圧電層14の上面に金属層22と接触する金属層26を形成する。上部電極16上に金属層28を形成する。金属層26および28の形成は、例えばスパッタリング法または真空蒸着法を用いる。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い金属層26をパターニングする。金属層26および28はリフトオフ法により形成してもよい。金属層26および28は例えば同時に形成される。
【0041】
図4(c)に示すように、基板10および絶縁層18に空隙30を形成する。空隙30の形成は例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いる。以上により圧電薄膜共振器が製造される。
【0042】
[比較例1]
図5(a)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の断面図、
図5(b)は、比較例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図5に示すように、比較例1では、金属層22が設けられておらず、金属層26は孔24を介し下部電極12に接している。その他の構成は実施例1と同じである。
【0043】
図5(b)に示すように、比較例1に係る圧電薄膜共振器を製造するときに、圧電層14を貫通する孔24を形成する。単結晶の圧電層14に用いられる材料は、化学的な反応性が低い(例えばドライエッチングで用いられる弗素系エッチングガスおよび塩素系エッチングガスとの反応性が低い)場合が多い。このため、孔24の形成にはイオンビームを用いたエッチングまたはブラスト法等の物理的なエッチングを用いる。物理的なエッチングでは圧電層14と下部電極12との選択比が小さくなる。このため、孔24が下部電極12を貫通する可能性がある。孔24が下部電極12を貫通すると、金属層26と下部電極12との電気的な接続が難しくなる。特に、圧電層14として、例えば単結晶ニオブ酸リチウム層またはタンタル酸リチウム層を用いる場合、圧電層14の化学的なエッチングが難しい。
【0044】
実施例1によれば、
図2(a)から
図2(d)のように、下部電極12と、下部電極12と平面視において重なり設けられ下部電極12と電気的に接続可能な金属層22と、下部電極12および金属層22上に設けられた単結晶の圧電層14と、を備える積層体38を形成する。
図4(a)のように、積層体38の圧電層14を圧電層14の上からエッチングすることで圧電層14を貫通する孔24を形成する。
図3(c)のように、圧電層14上に下部電極12と平面視において重なる上部電極16を形成する。
【0045】
このように、下部電極12上に金属層22を設け、孔24を金属層22に達するように形成する。これにより、
図4(a)において、孔24が金属層22および下部電極12を貫通することを抑制できる。よって、上方から下部電極12に電気的に接続することが容易となる。
【0046】
図2(d)のように、積層体38において、金属層22は、圧電層14の下部電極12側の面に設けられた凹部20内に少なくとも一部が設けられる。これにより、
図4(a)のように、比較例1の
図5(b)に比べ孔24を浅くできる。よって、孔24の形成が容易となる。
【0047】
積層体38を形成する工程において、
図2(b)のように、圧電層14の下面(
図2(b)では上面、すなわち一方の面)に形成された凹部20内に金属層22の少なくとも一部を形成する。
図2(c)のように、圧電層14の下面(
図2(c)では上面)に金属層22に接触する下部電極12を形成する。
図3(a)のように、圧電層14の下面および下部電極12を基板10上に接合する。これにより、単結晶の圧電層14のように、基板10上に形成が難しい圧電層14を基板10上に形成できる。
【0048】
金属層22は共振領域50以外に設けられている。これにより、金属層22が共振特性に影響することを抑制できる。
【0049】
金属層26(配線)は、圧電層14上に設けられ、孔24を介し金属層22に接触する。これにより、下部電極12に圧電層14の上から電気的に接続することができる。
【0050】
圧電層14が単結晶タンタル酸リチウム基板、単結晶ニオブ酸リチウム基板または単結晶水晶基板である場合、圧電層14の化学的なエッチングが難しく、比較例1のように孔24が下部電極12を貫通し易い。そこで、実施例1のように金属層22を設けることが好ましい。
【0051】
実施例1のように、圧電薄膜共振器を製造すると、圧電層14は、下部電極12上に設けられ、下部電極12側の面に設けられた凹部20と凹部20から下部電極12の反対側に通じる孔24とを有し、金属層22は凹部20および孔24のうち凹部20にのみ設けられる。
【0052】
孔24を形成するときに金属層22が貫通されない観点から、金属層22の厚さは、下部電極12の厚さより大きいことが好ましく、下部電極12の厚さの2倍以上がより好ましい。また、金属層22の厚さは、圧電層14の厚さの0.1倍以上が好ましく、0.2倍以上がより好ましく、0.4倍以上がさらに好ましい。金属層22が厚すぎると、凹部20内への埋込が難しくなる。この観点から、金属層22の厚さは圧電層14の厚さの0.8倍以下が好ましく、0.6倍以下がより好ましい。
【0053】
[実施例1の変形例1]
図6は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図6に示すように、実施例1の変形例1では、絶縁層18の上面に凹部21が形成されている。凹部21内に下部電極12下に下部電極12と接触する金属層22が設けられ、圧電層14には凹部20は設けられていない。孔24は圧電層14を貫通する。金属層26は孔24を介し下部電極12または金属層22に接触する。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0054】
[実施例1の変形例1の製造方法]
図7(a)から
図8(c)は、実施例1の変形例1に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図7(a)に示すように、圧電層14には凹部20は形成されておらず、圧電層14の上面は平坦である。
図2(c)と同様に、圧電層14の平坦な上面上に下部電極12を形成する。
【0055】
図7(b)に示すように、下部電極12上に金属層22を形成する。金属層22は例えばスパッタリング法、真空蒸着法を用い形成する。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い金属層22をパターニングする。金属層22はリフトオフ法を用い形成してもよい。
【0056】
図7(c)に示すように、圧電層14、下部電極12および金属層22上に、
図2(d)と同様に絶縁層18を形成する。絶縁層18の上面を平坦化する。絶縁層18には金属層22が埋め込まれた凹部21が形成される。これにより、積層体38が形成される。
【0057】
図8(a)に示すように、積層体38の上下を逆にし、絶縁層18の下面を基板10上に接合する。接合方法は
図3(a)と同様である。
図8(b)に示すように、
図3(b)と同様に、圧電層14を平坦化した後、
図3(c)と同様に、圧電層14上に上部電極16を形成する。
【0058】
図8(c)に示すように、圧電層14を貫通する孔24を形成する。孔24の形成は例えばフォトリソグラフィ法およびエッチング法を用いる。このとき、孔24は圧電層14を貫通し下部電極12を貫通しないことが理想である。しかし、圧電層14と下部電極12との選択比が小さいと、
図8(c)のように、孔24が下部電極12を貫通することがある。その後、
図4(b)および
図4(c)の工程を行う。これにより、実施例1の変形例1の圧電薄膜共振器が製造される。
【0059】
実施例1の変形例1によれば、積層体38において、金属層22は下部電極12の基板10側に設けられている。このように、金属層22が下部電極12の下に設けられてもよい。
図6および
図8(c)のように、孔24が下部電極12を貫通しても、金属層26は金属層22を介し下部電極12と電気的に接続される。
【0060】
積層体38を形成する工程において、
図7(a)のように圧電層14の一方の面に下部電極12を形成する。
図7(b)のように、下部電極12を介して圧電層14と反対側に下部電極12に接続する金属層22を形成する。
図8(a)のように、圧電層14の下面、金属層22および下部電極12を基板10上に接合する。これにより、単結晶の圧電層14のように、基板10上に形成が難しい圧電層14を基板10上に形成できる。
【0061】
[実施例1の変形例2]
図9は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の断面図である。
図9に示すように、凹部20の側面は傾斜しており、凹部20は基板10側が基板10の反対側より幅が広い。孔24の側面は傾斜しており、孔24は基板10側が基板10の反対側より幅が狭い。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0062】
[実施例1の変形例2の製造方法]
図10(a)から
図10(c)は、実施例1の変形例2の製造方法を示す断面図である。
図10(a)に示すように、圧電層14に凹部20を形成する。エッチング法を用い圧電層14に凹部20を形成すると凹部20の側面が傾斜することがある。例えば単結晶タンタル酸リチウムおよび単結晶ニオブ酸リチウム基板はRIE(Reactive Ion Etching)によるエッチングが難しいためイオンミリング法を用いる。この場合、圧電層14の表面に対する凹部20の側面の角度θは例えば略45°となる。
【0063】
図10(b)に示すように、
図2(b)から
図2(d)と同様に積層体38を形成する。
図10(c)に示すように、
図3(a)から
図3(c)と同様の構成を行った後、圧電層14に孔24を形成する。孔24は凹部20と同様に傾斜する。圧電層14の表面に対する孔24の側面の角度θは例えば略45°となる。孔24の上面の幅はW1である。その後、
図4(b)および
図4(c)の工程を行う。これにより、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器が製造される。
【0064】
[比較例2]
図10(d)は、比較例2に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図10(d)に示すように、金属層22が設けられていないときに、圧電層14に孔24を形成する。圧電層14の表面に対する孔24の側面の角度θが45°程度の場合、孔24の上面の幅W1が広くなってしまう。これにより、圧電薄膜共振器が大型化する。
【0065】
孔24の側面が、孔24の下部電極12側の幅が下部電極12と反対側の幅より小さくなるように形成されているとき、実施例1の変形例2のように金属層22を設ける。これにより、孔24の深さを浅くできるため、角度θが同じでも比較例2に比べ孔24の幅W1を小さくできる。よって、圧電薄膜共振器を小型化できる。
【0066】
金属層22を設けることで幅W1を狭くする効果を得る観点から、角度θは80°以下が好ましく、60°以下がより好ましい。角度θが小さいと金属層22を設けても孔24の幅W1が広くなってしまう。この観点から角度θは10°以上が好ましく、30°以上がより好ましい。凹部20の側面の角度と孔24の側面の角度が略同じ場合、凹部20の深さと孔24の深さが略等しいときに幅W1が最も小さくなる。この観点から、金属層22の厚さは圧電層14の厚さの0.2倍以上かつ0.8倍以下が好ましく、0.3倍以上かつ0.7倍以下がより好ましい。
【0067】
[実施例1の変形例3]
図11(a)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図11(b)および
図11(c)は、それぞれ
図11(a)のA-A断面図およびB-B断面図である。
【0068】
図11(a)から
図11(c)に示すように、空隙30は絶縁層18の上部に設けられ、基板10には設けられていない。共振領域50の+Y方向および-Y方向に圧電層14を貫通する孔34が設けられている。孔34は空隙30に通じている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0069】
[実施例1の変形例3の製造方法]
図12(a)から
図13(c)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の製造方法を示す断面図である。
図12(a)に示すように、
図2(a)から
図2(c)と同様に、圧電層14の凹部20に金属層22を埋め込み、圧電層14の上面および金属層22の上面に下部電極12を形成する。
【0070】
図12(b)に示すように、圧電層14および下部電極12上に犠牲層32を形成する。犠牲層32は、例えば、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ゲルマニウムまたは酸化シリコン等であり、例えば真空蒸着法、スパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ法およびエッチング法を用い犠牲層32をパターニングする。
【0071】
図12(c)に示すように、圧電層14、下部電極12および犠牲層32上に、
図2(d)と同様に絶縁層18を形成する。絶縁層18の上面を平坦化する。これにより、積層体38が形成される。
【0072】
図13(a)に示すように、積層体38の上下を逆にし、絶縁層18の下面を基板10上に接合する。接合方法は
図3(a)と同様である。
図13(b)に示すように、
図3(c)から
図4(b)と同様の工程を行う。
図13(c)に示すように、孔24からエッチング液を導入することで犠牲層32を除去し、空隙30を形成する。犠牲層32のエッチングには、下部電極12、圧電層14および絶縁層18等をエッチングしないエッチング液を用いる。これにより、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器が製造される。
【0073】
実施例1の変形例3のように、実施例1およびその変形例1および2において、絶縁層18の上面または基板10の上面に凹部を設け、凹部を空隙30としてもよい。
【0074】
[実施例1の変形例4]
図14は、実施例1の変形例4に係る圧電薄膜共振器の断面図である。空隙30の代わりに音響反射膜31が設けられている。音響反射膜31では、音響インピーダンスの低い膜31aと音響インピーダンスの高い膜31bとが交互に設けられている。膜31aおよび31bの膜厚は例えばそれぞれほぼλ/4(λは弾性波の波長)である。これにより、音響反射膜31は弾性波を反射する。膜31aと膜31bの積層数は任意に設定できる。音響反射膜31は、音響特性の異なる少なくとも2種類の層が間隔をあけて積層されていればよい。また、基板10が音響反射膜31の音響特性の異なる少なくとも2種類の層のうちの1層であってもよい。例えば、音響反射膜31は、基板10中に音響インピーダンスの異なる膜が一層設けられている構成でもよい。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0075】
実施例1の変形例4のように、実施例1およびその変形例1から3の空隙30を音響反射膜31としてもよい。実施例1およびその変形例1から3のように、圧電薄膜共振器は下部電極12下に空隙30が設けられるFBARでもよい。実施例1の変形例4のように、圧電薄膜共振器は下部電極12下に弾性波反射する音響反射膜31が設けられるSMRでもよい。
【0076】
実施例1およびその変形例では、共振領域50の平面形状が略矩形の例を説明したが、共振領域50は略楕円形状でもよいし、多角形状でもよい。
【実施例2】
【0077】
実施例2は、実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いたフィルタおよびデュプレクサの例である。
図15(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図である。
図15(a)に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS4が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1からP4が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS4および1または複数の並列共振器P1からP4の少なくとも1つの共振器に実施例1およびその変形例の圧電薄膜共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。
【0078】
図15(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
図15(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。
【0079】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0080】
実施例1およびその変形例では、圧電デバイスの例として、圧電薄膜共振器について説明した。圧電デバイスは、弾性波デバイス以外に例えばLamb波デバイス、アクチュエータおよびセンサ等でもよい。アクチュエータとしては、例えばインクジェットを用いたマイクロポンプ、RF(Radio Frequency)-MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)、および光ミラーである。センサは、例えば加速度センサ、ジャイロセンサ、およびエナジーハーベストセンサである。下部電極12の下に別の圧電層が設けられていてもよい。
【0081】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0082】
10 基板
12 下部電極
14 圧電層
16 上部電極
18 絶縁層
20、21 凹部
22、26、28 金属層
24 孔
30 空隙
31 音響反射膜
32 犠牲層
38 積層体
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
50 共振領域
52、54 引き出し領域