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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】イオン伝導体およびリチウム電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240319BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240319BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20240319BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240319BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/056
H01M10/052
C01G25/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020014386
(22)【出願日】2020-01-31
(62)【分割の表示】P 2019552304の分割
【原出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2020119895
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2018094291
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019009929
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】獅子原 大介
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雄基
(72)【発明者】
【氏名】近藤 彩子
(72)【発明者】
【氏名】彦坂 英昭
(72)【発明者】
【氏名】水谷 秀俊
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-219223(JP,A)
【文献】特開2017-4910(JP,A)
【文献】特開2017-91788(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018217(WO,A1)
【文献】特開2018-32621(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107946636(CN,A)
【文献】国際公開第2018/009018(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 10/056
C01G 25/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導性粉末を含むイオン伝導体において、
さらに、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含み、
前記イオン伝導体における前記イオン伝導性粉末の含有量と前記イオン液体の含有量との体積割合(vol%)は、前記イオン伝導性粉末:前記イオン液体=(100-X):X、ただし0<X≦16である、
ことを特徴とするイオン伝導体。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン伝導体において、
前記イオン伝導体の破断面においてXPS分析を行ったときの前記イオン液体の割合は、95%以上である、
ことを特徴とするイオン伝導体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のイオン伝導体において、
さらに、バインダを含み、
前記イオン伝導体における前記イオン伝導性粉末と前記イオン液体との含有量の合計と前記バインダの含有量との体積割合(vol%)は、前記イオン伝導性粉末+前記イオン液体:前記バインダ=(100-Y):Y、ただし0<Y≦6.5である、
ことを特徴とするイオン伝導体。
【請求項4】
LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導性粉末を含むイオン伝導体において、
さらに、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含み、
さらに、バインダを含み、
前記イオン伝導体における前記イオン伝導性粉末と前記イオン液体との含有量の合計と前記バインダの含有量との体積割合(vol%)は、前記イオン伝導性粉末+前記イオン液体:前記バインダ=(100-Y):Y、ただし0<Y≦6.5である、
ことを特徴とするイオン伝導体。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のイオン伝導体において、
さらに、バインダを含み、
前記イオン伝導体における前記イオン伝導性粉末の含有量と前記イオン液体の含有量との体積割合(vol%)は、前記イオン伝導性粉末:前記イオン液体=(100-X):X、ただし7≦X≦16であり、
前記イオン伝導体における前記イオン伝導性粉末と前記イオン液体との含有量の合計と前記バインダの含有量との体積割合(vol%)は、前記イオン伝導性粉末+前記イオン液体:前記バインダ=(100-Y):Y、ただし0<Y≦11.5である、
ことを特徴とするイオン伝導体。
【請求項6】
固体電解質層と、正極と、負極と、を備えるリチウム電池において、
前記固体電解質層と、前記正極と、前記負極との少なくとも1つは、請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のイオン伝導体を含む、
ことを特徴とするリチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、イオン伝導体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話等の電子機器の普及、電気自動車の普及、太陽光や風力等の自然エネルギーの利用拡大等に伴い、高性能な電池の需要が高まっている。なかでも、電池要素がすべて固体で構成された全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という)の活用が期待されている。全固体電池は、有機溶媒にリチウム塩を溶解させた有機電解液を用いる従来型のリチウムイオン二次電池と比べて、有機電解液の漏洩や発火等のおそれがないため安全であり、また、外装を簡略化することができるため単位質量または単位体積あたりのエネルギー密度を向上させることができる。
【0003】
全固体電池の固体電解質層や電極を構成するイオン伝導体として、例えば、Li(リチウム)とLa(ランタン)とZr(ジルコニウム)とO(酸素)とを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導性粉末を含むイオン伝導体が知られている。このようなイオン伝導体に含まれるイオン伝導性粉末としては、例えば、LiLaZr12(以下、「LLZ」という)や、LLZに対して、Mg(マグネシウム)とA(Aは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)およびBa(バリウム)から構成される群より選択される少なくとも一種の元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったもの(例えば、LLZに対してMgおよびSrの元素置換を行ったもの(以下、「LLZ-MgSr」という))が知られている(例えば、特許文献1参照)。以下、これらのイオン伝導性粉末を、「LLZ系イオン伝導性粉末」という。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-40767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
LLZ系イオン伝導性粉末は、該粉末を加圧成形した成形体(圧粉体)の状態においては、粒子間の接触が点接触であるために粒子間の抵抗が高く、リチウムイオン伝導性が比較的低い。LLZ系イオン伝導性粉末を高温で焼成することにより、リチウムイオン伝導性を高くすることはできるが、高温焼成に伴う反りや変形が起こるために電池の大型化が困難であり、また、高温焼成に伴う電極活物質等との反応により高抵抗層が生成されてリチウムイオン伝導性が低下するおそれがある。
【0006】
なお、このような課題は、全固体電池の固体電解質層や電極に用いられるイオン伝導体に限らず、リチウムイオン伝導性を有するイオン伝導体一般に共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示されるイオン伝導体は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導性粉末を含むイオン伝導体において、さらに、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含み、25℃におけるリチウムイオン伝導率が1.0×10-5S/cm以上である。本イオン伝導体は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導性粉末(LLZ系イオン伝導性粉末)に加えて、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含んでいる。そのため、高温焼成を行うことなく、加圧成形された成形体の状態において、LLZ系イオン伝導性粉末の粒界にイオン液体が介在して該粒界におけるリチウムイオン伝導性が向上し、その結果、1.0×10-5S/cm以上という高いリチウムイオン伝導性を発揮することができる。
【0010】
(2)上記イオン伝導体において、前記イオン伝導体における前記イオン伝導性粉末の含有量と前記イオン液体の含有量との体積割合(vol%)は、前記イオン伝導性粉末:前記イオン液体=(100-X):X、ただし0<X≦16である構成としてもよい。本イオン伝導体によれば、イオン液体の含有割合が過大となってイオン液体の染み出しが発生することを抑制しつつ、イオン液体の存在によりLLZ系イオン伝導性粉末の粒界におけるリチウムイオン伝導性を向上させてイオン伝導体のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。
【0011】
(3)上記イオン伝導体において、前記イオン伝導体の破断面においてXPS分析を行ったときの前記イオン液体の割合は、95%以上である構成としてもよい。本イオン伝導体によれば、LLZ系イオン伝導性粉末の粒界にイオン液体を良好に存在させることができ、イオン液体の存在によりLLZ系イオン伝導性粉末の粒界におけるリチウムイオン伝導性を効果的に向上させてイオン伝導体のリチウムイオン伝導性を効果的に向上させることができる。
【0012】
(4)上記イオン伝導体において、さらに、バインダを含み、前記イオン伝導体における前記イオン伝導性粉末と前記イオン液体との含有量の合計と前記バインダの含有量との体積割合(vol%)は、前記イオン伝導性粉末+前記イオン液体:前記バインダ=(100-Y):Y、ただし0<Y≦6.5である構成としてもよい。本イオン伝導体によれば、イオン伝導体の成形性を向上させつつ、バインダの存在に起因するリチウムイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0013】
(5)上記イオン伝導体において、さらに、バインダを含み、前記イオン伝導体における前記イオン伝導性粉末の含有量と前記イオン液体の含有量との体積割合(vol%)は、前記イオン伝導性粉末:前記イオン液体=(100-X):X、ただし7≦X≦16であり、前記イオン伝導体における前記イオン伝導性粉末と前記イオン液体との含有量の合計と前記バインダの含有量との体積割合(vol%)は、前記イオン伝導性粉末+前記イオン液体:前記バインダ=(100-Y):Y、ただし0<Y≦11.5である構成としてもよい。本イオン伝導体によれば、イオン伝導体の成形性を向上させつつ、バインダの存在に起因するリチウムイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0014】
(6)また、本明細書に開示されるリチウム電池は、固体電解質層と、正極と、負極と、を備え、固体電解質層と正極と負極との少なくとも1つは、上記イオン伝導体を含む。本リチウム電池によれば、固体電解質層と正極と負極との少なくとも1つのリチウムイオン伝導性を向上させることができ、ひいては、リチウム電池の電気的性能を向上させることができる。
【0015】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、イオン伝導体、イオン伝導体を含むリチウム電池、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池102の断面構成を概略的に示す説明図である。
図2】第1の性能評価結果を示す説明図である。
図3】第1の性能評価結果を示す説明図である。
図4】第2の性能評価結果を示す説明図である。
図5】第2の性能評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施形態:
A-1.全固体電池102の構成:
(全体構成)
図1は、本実施形態における全固体リチウムイオン二次電池(以下、「全固体電池」という)102の断面構成を概略的に示す説明図である。図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向という。
【0018】
全固体電池102は、電池本体110と、電池本体110の一方側(上側)に配置された正極側集電部材154と、電池本体110の他方側(下側)に配置された負極側集電部材156とを備える。正極側集電部材154および負極側集電部材156は、導電性を有する略平板形状部材であり、例えば、ステンレス鋼、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)、Fe(鉄)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、これらの合金から選択される導電性金属材料、炭素材料等によって形成されている。以下の説明では、正極側集電部材154と負極側集電部材156とを、まとめて集電部材ともいう。
【0019】
(電池本体110の構成)
電池本体110は、電池要素がすべて固体で構成されたリチウムイオン二次電池本体である。なお、本明細書において、電池要素がすべて固体で構成されているとは、すべての電池要素の骨格が固体で構成されていることを意味し、例えば該骨格中に液体が含浸した形態等を排除するものではない。電池本体110は、正極114と、負極116と、正極114と負極116との間に配置された固体電解質層112とを備える。以下の説明では、正極114と負極116とを、まとめて電極ともいう。電池本体110は、特許請求の範囲におけるリチウム電池に相当する。
【0020】
(固体電解質層112の構成)
固体電解質層112は、略平板形状の部材であり、固体電解質であるリチウムイオン伝導体202を含んでいる。固体電解質層112に含まれるリチウムイオン伝導体202の構成については、後に詳述する。
【0021】
(正極114の構成)
正極114は、略平板形状の部材であり、正極活物質214を含んでいる。正極活物質214としては、例えば、S(硫黄)、TiS、LiCoO、LiMn、LiFePO等が用いられる。また、正極114は、リチウムイオン伝導助剤としての固体電解質であるリチウムイオン伝導体204を含んでいる。正極114は、さらに電子伝導助剤(例えば、導電性カーボン、Ni(ニッケル)、Pt(白金)、Ag(銀))を含んでいてもよい。
【0022】
(負極116の構成)
負極116は、略平板形状の部材であり、負極活物質216を含んでいる。負極活物質216としては、例えば、Li金属、Li-Al合金、LiTi12、カーボン、Si(ケイ素)、SiO等が用いられる。また、負極116は、リチウムイオン伝導助剤としての固体電解質であるリチウムイオン伝導体206を含んでいる。負極116は、さらに電子伝導助剤(例えば、導電性カーボン、Ni、Pt、Ag)を含んでいてもよい。
【0023】
A-2.リチウムイオン伝導体の構成:
次に、固体電解質層112に含まれるリチウムイオン伝導体202の構成について説明する。なお、正極114に含まれるリチウムイオン伝導体204および負極116に含まれるリチウムイオン伝導体206の構成は、固体電解質層112に含まれるリチウムイオン伝導体202の構成と同様であるため、説明を省略する。
【0024】
本実施形態において、固体電解質層112に含まれるリチウムイオン伝導体202は、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導性粉末を含んでいる。このようなイオン伝導性粉末としては、例えば、LiLaZr12(以下、「LLZ」という)や、LLZに対して、MgとA(Aは、Ca、SrおよびBaから構成される群より選択される少なくとも一種の元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったもの(例えば、LLZに対してMgおよびSrの元素置換を行ったもの(以下、「LLZ-MgSr」という))が挙げられる。以下、LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導性粉末を、「LLZ系イオン伝導性粉末」という。
【0025】
また、本実施形態において、リチウムイオン伝導体202は、さらに、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含んでいる。リチウムイオン伝導性を有するイオン液体は、例えば、リチウム塩を溶解させたイオン液体である。なお、イオン液体は、カチオンおよびアニオンのみからなり、常温で液体の物質である。
【0026】
上記リチウム塩としては、例えば、4フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、6フッ化リン酸リチウム(LiPF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(Li(CFSO))、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)(以下、「Li-TFSI」という)、リチウム ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiN(CSO)等が用いられる。
【0027】
また、上記イオン液体としては、カチオンとして、
ブチルトリメチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム等のアンモニウム系、
1-エチル-3メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム等のイミダゾリウム系、
1-ブチル-1-メチルピペリジニウム、1-メチル-1-プロピルピペリジニウム等のピペリジニウム系、
1-ブチル-4-メチルピリジニウム、1-エチルピリジニウム等のピリジニウム系、
1-ブチル-1-メチルピロリジニウム、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム等のピロリジニウム系、
トリメチルスルホニウム、トリエチルスルホニウム等のスルホニウム系、
ホスホニウム系、
モルホリニウム系、
等を有するものが用いられる。
【0028】
また、上記イオン液体としては、アニオンとして、
Cl、Br等のハロゲン化物系、
BF 等のホウ素化物系、
(NC)
(CFSO、(FSO等のアミン系、
CHSO
CFSO 等のスルファート、スルホナート系、
PF 等のリン酸系、
等を有するものが用いられる。
【0029】
より具体的には、上記イオン液体として、ブチルトリメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリメチルプロピルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(フルオロスルホニル)イミド(以下、「EMI-FSI」という)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム テトラフルオロボレート、1-メチル-1-プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が用いられる。
【0030】
なお、本実施形態のリチウムイオン伝導体202は、高温焼成を行うことにより形成された焼結体ではない。そのため、本実施形態のリチウムイオン伝導体202は、炭化水素を含んでいる。より具体的には、本実施形態のリチウムイオン伝導体202を構成するイオン液体は、炭化水素を含んでいる。なお、リチウムイオン伝導体202(イオン液体)が炭化水素を含んでいることは、NMR(核磁気共鳴)、GC-MS(ガスクロマトグラフィー質量分析法)、FT-IR(フーリエ変換赤外分光法)等の方法の内の1つまたは複数の組合せにより特定することができる。
【0031】
このように、本実施形態のリチウムイオン伝導体202は、LLZ系イオン伝導性粉末に加えて、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含んでおり、加圧成形された成形体の状態において高いリチウムイオン伝導性(25℃におけるリチウムイオン伝導率が1.0×10-5S/cm以上)を発揮する。本実施形態のリチウムイオン伝導体202がこのような高いリチウムイオン伝導性を有する理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
【0032】
LLZ系イオン伝導性粉末は、他の酸化物系リチウムイオン伝導体や酸化物系以外のリチウムイオン伝導体(例えば、硫化物系リチウムイオン伝導体)と比較して硬いため、該粉末を加圧成形した成形体(圧粉体)の状態においては、粒子間の接触が点接触となって粒子間の抵抗が高くなり、リチウムイオン伝導性が比較的低い。また、LLZ系イオン伝導性粉末を高温で焼成することにより、リチウムイオン伝導性を高くすることはできるが、高温焼成に伴い反りや変形が起こるために電池の大型化が困難であり、また、高温焼成に伴う電極活物質等との反応により高抵抗層が生成されてリチウムイオン伝導性が低下するおそれがある。しかしながら、本実施形態のリチウムイオン伝導体202は、LLZ系イオン伝導性粉末に加えて、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体を含んでいる。そのため、加圧成形された成形体の状態において、LLZ系イオン伝導性粉末の粒界にイオン液体が介在して該粒界におけるリチウムイオン伝導性が向上し、その結果、リチウムイオン伝導体202のリチウムイオン伝導性が向上したものと考えられる。
【0033】
なお、本実施形態のリチウムイオン伝導体202において、LLZ系イオン伝導性粉末の含有量とイオン液体の含有量との体積割合(vol%)は、LLZ系イオン伝導性粉末:イオン液体=(100-X):X、ただし0<X≦16であることが好ましい。このような構成とすれば、イオン液体の含有割合が過大となってイオン液体の染み出しが発生することを抑制しつつ、イオン液体の存在によりLLZ系イオン伝導性粉末の粒界におけるリチウムイオン伝導性を向上させてリチウムイオン伝導体202のリチウムイオン伝導性を向上させることができる。
【0034】
また、本実施形態のリチウムイオン伝導体202の破断面において、XPS分析を行ったときのイオン液体の割合は、95%以上であることが好ましい。リチウムイオン伝導体202の破断面においてイオン液体の割合が95%以上と非常に高い状態は、破断前にLLZ系イオン伝導性粉末の粒界にイオン液体が良好に存在しており、破断面を形成した瞬間に、LLZ系イオン伝導性粉末の表面をイオン液体が覆ったことにより形成されるものと考えられる。そのため、このような構成とすれば、イオン液体の存在によりLLZ系イオン伝導性粉末の粒界におけるリチウムイオン伝導性を効果的に向上させてリチウムイオン伝導体202のリチウムイオン伝導性を効果的に向上させることができる。
【0035】
また、本実施形態のリチウムイオン伝導体202は、LLZ系イオン伝導性粉末およびイオン液体に加えて、さらにバインダを含んでいてもよい。リチウムイオン伝導体202がバインダを含むと、成形性を向上させることができる。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体(以下、「PVDF-HFP」という)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド、ポリアミド、シリコーン(ポリシロキサン)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等が用いられる。
【0036】
リチウムイオン伝導体202がバインダを含む場合において、リチウムイオン伝導体202におけるLLZ系イオン伝導性粉末とイオン液体との含有量の合計とバインダの含有量との体積割合(vol%)は、LLZ系イオン伝導性粉末+イオン液体:バインダ=(100-Y):Y、ただし0<Y≦6.5であることが好ましい。リチウムイオン伝導体202がバインダを含むと、成形性を向上させることができる一方で、バインダの存在に起因してリチウムイオン伝導性が低下するおそれがある。しかし、このような構成とすれば、リチウムイオン伝導体202の成形性を向上させつつ、バインダの存在に起因するリチウムイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0037】
また、リチウムイオン伝導体202がバインダを含む場合において、リチウムイオン伝導体202におけるLLZ系イオン伝導性粉末の含有量とイオン液体の含有量との体積割合(vol%)が、LLZ系イオン伝導性粉末:イオン液体=(100-X):X、ただし7≦X≦16であり、かつ、リチウムイオン伝導体202におけるLLZ系イオン伝導性粉末とイオン液体との含有量の合計とバインダの含有量との体積割合(vol%)が、LLZ系イオン伝導性粉末+イオン液体:バインダ=(100-Y):Y、ただし0<Y≦11.5であることが好ましい。このような構成とすれば、リチウムイオン伝導体202の成形性を向上させつつ、バインダの存在に起因するリチウムイオン伝導性の低下を抑制することができる。
【0038】
なお、リチウムイオン伝導体202の組成(LLZ系イオン伝導性粉末、イオン液体、(バインダを含有する場合には)バインダの含有割合(vol%))は、以下のように特定することができる。すなわち、対象物(例えば、リチウムイオン伝導体202から構成される固体電解質層112)を各物質が固定された状態を得るために、液体窒素等で凍結させ、もしくは、4官能性のエポキシ系等樹脂にて埋め込み固めた後、切断して切断面を露出させ、この切断面を研磨して研磨面を得る。この研磨面において無作為に選択した5000倍の視野を対象に、走査型電子顕微鏡(SEM)のエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて、LLZ系イオン伝導性粉末の元素(例えば、LLZ-MgSrの場合には、La,Zr)と、イオン液体の元素(例えば、EMI-FSIを含む場合には、S)と、バインダの元素(例えば、PVDFの場合には、F)の分布を特定したり、反射電子像のコントラストを画像解析したりすることにより、LLZ系イオン伝導性粉末、イオン液体、(バインダを含有する場合には)バインダの面積割合を特定し、これをLLZ系イオン伝導性粉末、イオン液体、(バインダを含有する場合には)バインダの体積割合とみなして、それらの体積割合を特定する。
【0039】
A-3.全固体電池102の製造方法:
次に、本実施形態の全固体電池102の製造方法の一例を説明する。はじめに、固体電解質層112を作製する。具体的には、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末と、リチウムイオン伝導性を有するイオン液体とを準備し、両者を所定の割合で混合して複合粉末を得る。得られた複合粉末を所定の圧力で加圧成形する、または、得られた複合粉末をバインダを用いてシート状に成形した後、所定の圧力で加圧成形する。これにより、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性を有するイオン液体とを含むリチウムイオン伝導体202から構成された固体電解質層112が作製される。
【0040】
次に、正極114および負極116を作製する。具体的には、正極活物質214の粉末と上述した複合粉末と必要により電子伝導助剤の粉末、バインダ、有機溶剤とを所定の割合で混合し、成形することにより正極114を作製する。また、負極活物質216の粉末と上述した複合粉末と必要により電子伝導助剤の粉末、バインダ、有機溶剤とを混合し、成形することにより負極116を作製する。
【0041】
次に、正極側集電部材154と、正極114と、固体電解質層112と、負極116と、負極側集電部材156とをこの順に積層して加圧することにより一体化する。以上の工程により、上述した構成の全固体電池102が製造される。
【0042】
A-4.LLZ系イオン伝導性粉末の好ましい態様:
上述したように、本実施形態におけるリチウムイオン伝導体は、LLZ系イオン伝導性粉末(LiとLaとZrとOとを少なくとも含有するガーネット型構造もしくはガーネット型類似構造を有するイオン伝導性粉末)を含んでいる。LLZ系イオン伝導性粉末としては、Mg、Al、Si、Ca(カルシウム)、Ti、V(バナジウム)、Ga(ガリウム)、Sr、Y(イットリウム)、Nb(ニオブ)、Sn(スズ)、Sb(アンチモン)、Ba(バリウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Bi(ビスマス)およびランタノイド元素からなる群より選択される少なくとも1種類の元素を含むものを採用することが好ましい。このような構成とすれば、LLZ系イオン伝導性粉末が良好なリチウムイオン伝導率を示す。
【0043】
また、LLZ系イオン伝導性粉末として、Mgと元素A(Aは、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素)との少なくとも一方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(1)~(3)を満たすものを採用することが好ましい。なお、Mgおよび元素Aは、比較的埋蔵量が多く安価であるため、LLZ系イオン伝導性粉末の置換元素としてMgおよび/または元素Aを用いれば、LLZ系イオン伝導性粉末の安定的な供給が期待できると共にコストを低減することができる。
(1)1.33≦Li/(La+A)≦3
(2)0≦Mg/(La+A)≦0.5
(3)0≦A/(La+A)≦0.67
【0044】
また、LLZ系イオン伝導性粉末としては、Mgと元素Aとの両方を含み、含有される各元素がモル比で下記の式(1´)~(3´)を満たすものを採用することがより好ましい。
(1´)2.0≦Li/(La+A)≦2.5
(2´)0.01≦Mg/(La+A)≦0.14
(3´)0.04≦A/(La+A)≦0.17
【0045】
上述の事項を換言すると、LLZ系イオン伝導性粉末は、次の(a)~(c)のいずれかを満たすことが好ましく、これらの中でも(c)を満たすことがより好ましく、(d)を満たすことがさらに好ましいと言える。
(a)Mgを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/La≦3、かつ、0≦Mg/La≦0.5 を満たす。
(b)元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、かつ、0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(c)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、1.33≦Li/(La+A)≦3、0≦Mg/(La+A)≦0.5、かつ0≦A/(La+A)≦0.67 を満たす。
(d)Mgおよび元素Aを含み、各元素の含有量がモル比で、2.0≦Li/(La+A)≦2.5、0.01≦Mg/(La+A)≦0.14、かつ0.04≦A/(La+A)≦0.17 を満たす。
【0046】
LLZ系イオン伝導性粉末は、上記(a)を満たすとき、すなわち、Li、La、ZrおよびMgを、モル比で上記式(1)および(2)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系イオン伝導性粉末がMgを含有すると、Liのイオン半径とMgのイオン半径とは近いので、LLZ結晶相においてLiが配置されているLiサイトにMgが配置されやすく、LiがMgに置換されることで、LiとMgとの電荷の違いにより結晶構造内のLiサイトに空孔が生じてLiイオンが動きやすくなり、その結果、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系イオン伝導性粉末において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するイオン伝導性粉末だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、また別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系イオン伝導性粉末におけるMgの含有量が多くなるほどLiサイトにMgが配置され、Liサイトに空孔が生じ、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、Mgを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。このMgを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するイオン伝導性粉末の含有量が小さくなる。Mgを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、Laと元素Aとの和に対するMgのモル比が0.5を超えると、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0047】
LLZ系イオン伝導性粉末は、上記(b)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zrおよび元素Aを、モル比で上記式(1)および(3)を満たすように含むとき、良好なリチウムイオン伝導率を示す。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系イオン伝導性粉末が元素Aを含有すると、Laのイオン半径と元素Aのイオン半径とが近いので、LLZ結晶相においてLaが配置されているLaサイトに元素Aが配置されやすく、Laが元素Aに置換されることで、格子ひずみが生じ、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。LLZ系イオン伝導性粉末において、Laと元素Aとの和に対するLiのモル比が1.33未満または3を超えると、ガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するイオン伝導性粉末だけでなく、別の金属酸化物が形成されやすくなる。別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、また別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。LLZ系イオン伝導性粉末における元素Aの含有量が多くなるほどLaサイトに元素Aが配置され、格子ひずみが大きくなり、かつLaと元素Aとの電荷の違いにより自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率が向上するが、Laと元素Aとの和に対する元素Aのモル比が0.67を超えると、元素Aを含有する別の金属酸化物が形成されやすくなる。この元素Aを含有する別の金属酸化物の含有量が大きくなるほど相対的にガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するイオン伝導性粉末の含有量が小さくなり、また元素Aを含有する別の金属酸化物のリチウムイオン伝導率は低いので、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0048】
上記元素Aは、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種類の元素である。Ca、SrおよびBaは、周期律表における第2族元素であり、2価の陽イオンになりやすく、いずれもイオン半径が近いという共通の性質を有する。Ca、SrおよびBaは、いずれもLaとイオン半径が近いので、LLZ系イオン伝導性粉末におけるLaサイトに配置されているLaと置換されやすい。LLZ系イオン伝導性粉末が、これらの元素Aの中でもSrを含有することが、焼結により容易に形成されることができ、高いリチウムイオン伝導率が得られる点で好ましい。
【0049】
LLZ系イオン伝導性粉末は、上記(c)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mgおよび元素Aを、モル比で上記式(1)~(3)を満たすように含むとき、焼結により容易に形成されることができ、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。また、LLZ系イオン伝導性粉末が、上記(d)を満たすとき、すなわち、Li、La、Zr、Mgおよび元素Aを、モル比で上記式(1´)~(3´)を満たすように含むとき、リチウムイオン伝導率がより一層向上する。そのメカニズムは明らかではないが、例えば、LLZ系イオン伝導性粉末におけるLiサイトのLiがMgに置換され、また、LaサイトのLaが元素Aに置換されることで、Liサイトに空孔が生じ、かつ自由なLiイオンが増加し、リチウムイオン伝導率がより一層良好になると考えられる。さらに、LLZ系イオン伝導性粉末が、Li、La、Zr、MgおよびSrを上記式(1)~(3)を満たすように、特に上記式(1´)~(3´)を満たすように含むことが、高いリチウムイオン伝導率が得られ、また、高い相対密度を有するリチウムイオン伝導体が得られる点から好ましい。
【0050】
なお、上記(a)~(d)のいずれの場合においても、LLZ系イオン伝導性粉末は、Zrを、モル比で以下の式(4)を満たすように含むことが好ましい。Zrを該範囲で含有することにより、ガーネット型結晶構造またはガーネット型類似の結晶構造を有するイオン伝導性粉末が得られやすくなる。
(4)0.33≦Zr/(La+A)≦1
【0051】
A-5.性能評価:
全固体電池102の各層(固体電解質層112、正極114、負極116)に含まれるリチウムイオン伝導体202、204、206について、リチウムイオン伝導性に関する性能評価を行った。図2および図3は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末(具体的には、上述したLLZ-MgSr)とイオン液体(具体的には、上述したLi-TFSIを溶解させたEMI-FSI(以下、「EMI-FSI(LiTFSI)」という))とから構成されたリチウムイオン伝導体についての性能評価(以下、「第1の性能評価」という)の結果を示す説明図である。また、図4および図5は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末(同)とイオン液体(同)とバインダ(具体的には、上述したPVDF-HFP)とから構成されたリチウムイオン伝導体についての性能評価(以下、「第2の性能評価」という)の結果を示す説明図である。
【0052】
図2および図3に示すように、第1の性能評価には、6個のサンプル(S1~S6)が用いられた。各サンプルは、リチウムイオン伝導体の組成、より具体的には、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とイオン液体との含有量の体積割合(vol%)が、互いに異なっている。なお、サンプルS1のリチウムイオン伝導体は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末のみから構成されており、イオン液体を含んでいない。また、図3のグラフの各プロットに付された数字は、図2に示されたサンプル番号を示している。
【0053】
また、図4および図5に示すように、第2の性能評価には、8個のサンプル(S11~S18)が用いられた。各サンプルは、リチウムイオン伝導体の組成、より具体的には、図4において「リチウムイオン伝導体の組成1」として示すように、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とイオン液体とバインダとの含有量の体積割合(vol%)が、互いに異なっている。なお、図4において「リチウムイオン伝導体の組成2」として示すように、サンプルS11~S14では、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末およびイオン液体のみに注目すると、両者の含有量の体積割合(vol%)は、第1の性能評価に用いられたサンプルS3と同一である。同様に、サンプルS15~S17では、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末およびイオン液体のみに注目すると、両者の含有量の体積割合(vol%)は、第1の性能評価に用いられたサンプルS4と同一である。また、図5のグラフの各プロットに付された数字は、図4に示されたサンプル番号を示している。
【0054】
第1の性能評価および第2の性能評価におけるサンプルの作製方法および評価方法は、以下の通りである。
【0055】
(第1の性能評価)
組成:Li6.95Mg0.15La2.75Sr0.25Zr2.012(LLZ-MgSr)となるように、LiCO、MgO、La(OH)、SrCO、ZrOを秤量した。その際、焼成時のLiの揮発を考慮し、元素換算で15mol%程度過剰になるように、LiCOをさらに加えた。この原料をジルコニアボールとともにナイロンポットに投入し、有機溶剤中で15時間、ボールミルで粉砕混合を行った。粉砕混合後、スラリーを乾燥させ、1100℃で10時間、MgO板上にて仮焼成を行った。仮焼成後の粉末にバインダを加え、有機溶剤中で15時間、ボールミルで粉砕混合を行った。粉砕混合後、スラリーを乾燥させ、直径12mmの金型に投入し、厚さが1.5mm程度となるようにプレス成形した後、冷間静水等方圧プレス機(CIP)を用いて1.5t/cmの静水圧を印加することにより、成形体を得た。この成形体を成形体と同じ組成の仮焼粉末で覆い、還元雰囲気において1100℃で4時間焼成することにより焼結体を得た。なお、焼結体のリチウムイオン伝導率は、1.0×10-3S/cmであった。この焼結体をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で粉砕し、LLZ-MgSrの粉末を得た。
【0056】
また、イオン液体であるEMI-FSI(和光純薬製)に、リチウム塩であるLi-TFSI(高純度化学製)を0.8mol/l複合し、リチウム塩を溶解させたイオン液体であるEMI-FSI(LiTFSI)を得た。
【0057】
アルゴン雰囲気において、上述の方法により作製されたLLZ-MgSr粉末と、EMI-FSI(LiTFSI)とを、全量を0.5gとして、サンプル毎に定められた体積割合で配合し、乳鉢を用いて混合することにより、LLZ-MgSrとEMI-FSI(LiTFSI)との複合粉末を得た。なお、上述したように、サンプルS1では、この複合粉末の代わりにLLZ-MgSr粉末が用いられた。
【0058】
アルゴン雰囲気において、上述した方法により作製された複合粉末(ただし、サンプルS1ではLLZ-MgSr粉末、以下同様)を直径10mmの絶縁性筒に投入し、上下から500MPaの圧力で加圧成形を行うことより、リチウムイオン伝導体の成形体(圧粉体)を作製した。作製されたリチウムイオン伝導体の成形体を、加圧治具を用いて8Nのトルクでネジ固定し、室温(25℃)でのリチウムイオン伝導率を測定した。
【0059】
(第2の性能評価)
第1の性能評価と同様に、LLZ-MgSrとEMI-FSI(LiTFSI)との複合粉末を作製した。この際の配合比を、サンプルS11~S14では第1の性能評価に用いられたサンプルS3の配合比と同一とし、サンプルS15~S17では第1の性能評価に用いられたサンプルS4の配合比と同一とした。また、サンプルS18では図4に示された配合比とした。
【0060】
アルゴン雰囲気において、作製されたLLZ-MgSrとEMI-FSI(LiTFSI)との複合粉末と、PVDF-HFPバインダとを、有機溶剤と共に乳鉢にて混合し、アルミニウム箔(厚さ:20μm)の上でアプリケータ(クリアランス:500μm)を用いて成膜し、70℃で1時間の減圧乾燥を行うことにより、LLZ-MgSrとEMI-FSI(LiTFSI)とを含むシートを得た。
【0061】
アルゴン雰囲気において、上述した方法により作製されたシートを直径10mmの絶縁性筒に投入し、上下から500MPaの圧力で加圧成形を行うことより、リチウムイオン伝導体の成形体を作製した。作製されたリチウムイオン伝導体の成形体を、加圧治具を用いて8Nのトルクでネジ固定し、室温(25℃)でのリチウムイオン伝導率を測定した。
【0062】
(第1の性能評価の結果)
図2および図3に示すように、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末(LLZ-MgSr)のみから構成されたサンプルS1のリチウムイオン伝導率は、4.0×10-6S/cmと低い値であった。一方、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とイオン液体(EMI-FSI(LiTFSI))とを含むサンプルS2~S5のリチウムイオン伝導率は、いずれも1.7×10-4S/cm以上であり、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末のみから構成されたサンプルS1のリチウムイオン伝導率を上回った。ただし、サンプルS6は、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とイオン液体とを含んでいるが、イオン液体の添加量が過大であり(16vol%を超えており)、評価前のプレス時にイオン液体の染み出しが発生したため、想定したイオン液体の含有割合での評価を行うことができなかった。この結果から、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とイオン液体とを含むリチウムイオン伝導体は、焼成を行うことなく加圧成形するだけで、高いリチウムイオン伝導性を発揮することが確認された。また、リチウムイオン伝導体において、イオン液体の含有割合が過大となってイオン液体の染み出しが発生することを抑制しつつ、高いリチウムイオン伝導性を発揮させるためには、LLZ系イオン伝導性粉末の含有量とイオン液体の含有量との体積割合(vol%)が、LLZ系イオン伝導性粉末:イオン液体=(100-X):X、ただし0<X≦16であることが好ましいことが確認された。
【0063】
なお、サンプルS3のリチウムイオン伝導体を対象として破断面のXPS測定を行ったところ、LaおよびZrのピークは一切確認されなかった。XPS測定は、物体の表面の数nmの深さの情報が得られる測定方法であるため、この測定結果から、このリチウムイオン伝導体では、LLZ系イオン伝導性粉末の粒子がイオン液体によって覆われていることが確認されたと言える。
【0064】
(第2の性能評価の結果)
図4および図5に示すように、サンプルS11~S14は、LLZ系イオン伝導性粉末およびイオン液体のみに注目したときの両者の含有割合(図4に示すリチウムイオン伝導体の組成2)は互いに等しい(97vol%:3vol%)が、バインダの含有割合が互いに異なっている。同様に、サンプルS15~S17は、LLZ系イオン伝導性粉末およびイオン液体のみに注目したときの両者の含有割合(図4に示すリチウムイオン伝導体の組成2)は互いに等しい(93vol%:7vol%)が、バインダの含有割合が互いに異なっている。また、サンプルS18は、バインダの含有割合がサンプルS13,S17と等しいが、イオン液体の含有割合がサンプルS13,S17より高くなっている。
【0065】
図4および図5に示すように、リチウムイオン伝導体において、バインダの含有割合が高くなると、リチウムイオン伝導性が低下する傾向にある。ここで、LLZ系イオン伝導性粉末およびイオン液体のみに注目したときの両者の含有割合が互いに等しいサンプルS11~S14に注目すると、サンプルS12を基準としたサンプルS13のリチウムイオン伝導率の低下量は、サンプルS11を基準としたサンプルS12のリチウムイオン伝導率の低下量より大きい。同様に、LLZ系イオン伝導性粉末およびイオン液体のみに注目したときの両者の含有割合が互いに等しいサンプルS15~S17に注目すると、サンプルS16を基準としたサンプルS17のリチウムイオン伝導率の低下量は、サンプルS15を基準としたサンプルS16のリチウムイオン伝導率の低下量より大きい。すなわち、リチウムイオン伝導体におけるバインダの含有割合が6.5vol%から11.5vol%に増加したことに起因するリチウムイオン伝導率の低下量は、リチウムイオン伝導体におけるバインダの含有割合が2.9vol%から6.5vol%に増加したことに起因するリチウムイオン伝導率の低下量より大きい。この結果から、リチウムイオン伝導体がバインダを含む場合において、バインダの存在に起因するリチウムイオン伝導性の低下を抑制するためには、リチウムイオン伝導体におけるLLZ系イオン伝導性粉末とイオン液体との含有量の合計とバインダの含有量との体積割合(vol%)は、LLZ系イオン伝導性粉末+イオン液体:バインダ=(100-Y):Y、ただし0<Y≦6.5であることが好ましいことが確認された。
【0066】
また、図4および図5に示すように、バインダの含有割合が11.5vol%以下の範囲において、バインダの含有割合が略同一である(具体的には11.5vol%である)サンプルS13,S17,S18を比較すると、図4に示すリチウムイオン伝導体の組成2においてイオン液体の含有割合が7vol%未満であるサンプルS13に比べて、イオン液体の含有割合が7vol%以上であるサンプルS17,S18では、リチウムイオン伝導性が高くなっている。なお、上述したように、第1の性能評価の結果から、LLZ系イオン伝導性粉末の含有量とイオン液体の含有量との体積割合(vol%)は、LLZ系イオン伝導性粉末:イオン液体=(100-X):X、ただし0<X≦16であることが好ましいことが確認されている。これらの結果から、リチウムイオン伝導体がバインダを含む場合において、バインダの存在に起因するリチウムイオン伝導性の低下を抑制するためには、LLZ系イオン伝導性粉末の含有量とイオン液体の含有量との体積割合(vol%)が、LLZ系イオン伝導性粉末:イオン液体=(100-X):X、ただし7≦X≦16であり、かつ、リチウムイオン伝導体におけるLLZ系イオン伝導性粉末とイオン液体との含有量の合計とバインダの含有量との体積割合(vol%)が、LLZ系イオン伝導性粉末+イオン液体:バインダ=(100-Y):Y、ただし0<Y≦11.5であることが好ましいことが確認された。なお、サンプルS18ではリチウムイオン伝導性が特に高くなっていることから、LLZ系イオン伝導性粉末の含有量とイオン液体の含有量との体積割合(vol%)は、LLZ系イオン伝導性粉末:イオン液体=(100-X):X、ただし13≦X≦16であることがさらに好ましいと言える。
【0067】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上記実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0068】
上記実施形態における全固体電池102の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、LLZ系リチウムイオン伝導性粉末とリチウムイオン伝導性を有するイオン液体とを含有するリチウムイオン伝導体が、固体電解質層112と正極114と負極116とのすべてに含まれているが、該リチウムイオン伝導体が、固体電解質層112と正極114と負極116との少なくとも1つに含まれているとしてもよい。
【0069】
また、本明細書に開示される技術は、全固体電池102を構成する固体電解質層や電極に限られず、他のリチウム電池(例えば、リチウム空気電池やリチウムフロー電池等)を構成する固体電解質層や電極にも適用可能である。
【符号の説明】
【0070】
102:全固体リチウムイオン二次電池 110:電池本体 112:固体電解質層 114:正極 116:負極 154:正極側集電部材 156:負極側集電部材 202:リチウムイオン伝導体 204:リチウムイオン伝導体 206:リチウムイオン伝導体 214:正極活物質 216:負極活物質
図1
図2
図3
図4
図5