(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】電気接続部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 15/02 20060101AFI20240319BHJP
C25D 15/00 20060101ALI20240319BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20240319BHJP
H01R 43/16 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C25D15/02 G
C25D15/00 D
H01R13/03 D
H01R43/16
(21)【出願番号】P 2020016108
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】葉 楠
(72)【発明者】
【氏名】久保 利隆
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲夫
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-199839(JP,A)
【文献】国際公開第2011/116369(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 15/02
H01R 13/03
H01R 43/16
C25D 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続部と、前記接続部の表面に形成された、相手側端子接点と接触して電気的に接続される端子接点とを有し、前記端子接点が、導電性金属がインターカレーションされた酸化グラフェン膜である電気接続部材の製造方法であって、
酸化グラフェンと、導電性金属の塩とを含み、前記酸化グラフェンのゼータ電位が正となるように調整した水分散液に金属母材を浸漬し、電気泳動堆積法により、前記金属母材をカソード側とした状態で酸化グラフェン膜を形成する工程を含
み、
前記水分散液のpHを調整して前記酸化グラフェンのゼータ電位を正とする、電気接続部材の製造方法。
【請求項2】
前記水分散液における酸化グラフェンに対する導電性金属の塩の質量比率が0.01~0.1である、請求項
1に記載の電気接続部材の製造方法。
【請求項3】
前記酸化グラフェンのカソードへの移動速度と、前記導電性金属の塩に由来する導電性金属イオンのカソードへの移動速度とが等しくなるように、前記酸化グラフェンのゼータ電位と、前記導電性金属の塩の濃度とを調整する、請求項
1又は2に記載の電気接続部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相手側端子接点と接触して電気的に接続される端子接点を金属母材の表面に備える電気接続部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コネクタ等の電気接続部材には、相手側端子との高い接触信頼性と、相手側端子との接続部における高い耐摩耗性が求められている。そのため、コネクタの接点部には、一般的に、金、銀及び錫などの貴金属からなる貴金属めっきが施されている。しかし、高価な貴金属めっきを用いると、コネクタの生産コストが高くなりやすい。そこで、コネクタの接点部(端子接点)に、貴金属めっき層に代えてグラフェン膜を形成することが提案されている。グラフェン膜は炭素原子から構成された単原子膜であり、電気伝導性及び化学的安定性に優れることから、高い信頼性を持つ新たな端子接点材料として脚光を浴びている。そして、種々の部材の表面にグラフェン膜を形成する方法としては様々な提案がなされている(特許文献1~2参照)。
【0003】
特許文献1には、異種分子によってインターカレーションされた、複数層に積層されてなる多層グラフェンを熱CVD(化学気相成長)法で形成する方法が開示されている。熱CVD法は、真空下において高温で行われ、かつ、長時間を要する。また、熱CVD法に用いるCVD装置の構成が複雑であり、高コストであり、初期のコストが高くなる傾向にある。
【0004】
特許文献2には、熱CVD法における高温処理に製品(例えば、金属端子等)が晒されることによる損傷を防止するため、事前に合成されたグラフェン膜を製品の表面に転写する方法が開示されている。このようなグラフェン膜の転写には別途装置が必要であるし、転写によって形成されるグラフェン膜が一部欠落するため被覆率が低く、ひいては密着性が低下するといった問題がある。
【0005】
一方、グラフェンを酸化してなる酸化グラフェンは、安価で大量に入手可能な黒鉛を化学的に酸化することにより合成される。また、酸化グラフェンは、カルボキシル基又は水酸基等の極性基を有するため、水などの極性溶媒中で分散性を示すとともに、極性溶媒中において帯電する。そのため、当該極性溶媒に基板を投入し、当該基板に電圧を印加すると、酸化グラフェンとは反対電荷を有する基板に堆積することができる。そこで、電気泳動堆積法(EPD)を用い、銅基板等の表面に酸化グラフェン膜を形成する方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-96411号公報
【文献】特表2015-518235号公報
【文献】国際公開第2011/116369号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載の方法により得られる酸化グラフェン膜は、層間抵抗が高いため、端子接点として利用するには酸化グラフェンを還元し、電気抵抗が低いグラフェンとする必要がある。また、特許文献3の電気泳動堆積法において、銅基板はアノード(陽極)として利用するため、酸化されやすいという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、酸化グラフェンを用いつつも電気抵抗が低い端子接点を備える電気接続部材、及び当該電気接続部材を、常温下で簡便に製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様に係る電気接続部材は、接続部と、
接続部の表面に形成された、相手側端子接点と接触して電気的に接続される端子接点と、を有し、
端子接点が、導電性金属がインターカレーションされた酸化グラフェン膜である。
【0010】
本発明の第2に態様に係る電気接続部材の製造方法は、相手側端子接点と接触して電気的に接続される端子接点として酸化グラフェン膜を金属母材の表面に備える電気接続部材の製造方法であって、
酸化グラフェンと、導電性金属の塩とを含み、前記酸化グラフェンのゼータ電位が正となるように調整した水分散液に金属母材を浸漬し、電気泳動堆積法により、金属母材をカソード側とした状態で酸化グラフェン膜を形成する工程を含む。
【0011】
本発明の第3の態様に係る電気接続部材の製造方法は、第2の態様の電気接続部材の製造方法に関し、水分散液のpHを調整して酸化グラフェンのゼータ電位を正とする。
【0012】
本発明の第4の態様に係る電気接続部材の製造方法は、第2又は第3の態様の電気接続部材の製造方法に関し、水分散液における酸化グラフェンに対する導電性金属の塩の質量比率が0.01~0.1である。
【0013】
本発明の第5の態様に係る電気接続部材の製造方法は、第2乃至第4の態様のいずれかの電気接続部材の製造方法に関し、酸化グラフェンのカソードへの移動速度と、前記導電性金属の塩に由来する導電性金属イオンのカソードへの移動速度とが等しくなるように、酸化グラフェンのゼータ電位と、導電性金属の塩の濃度とを調整する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、酸化グラフェンを用いつつも電気抵抗が低い端子接点を備える電気接続部材、及び当該電気接続部材を、常温下で簡便に製造することができる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の電気接続部材の一例を示す正面図である。
【
図3】本実施形態の製造方法により端子接点を得る過程を説明するための概念図である。
【
図4】電気泳動堆積法により酸化グラフェン膜が形成される様子を示す模式図である。
【
図5】水分散液のpHと酸化グラフェンのゼータ電位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本実施形態に係る端子接点の製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0017】
<電気接続部材>
本実施形態の電気接続部材は、接続部と、接続部の表面に形成された、相手側端子接点と接触して電気的に接続される端子接点と、を有し、端子接点が、導電性金属がインターカレーションされた酸化グラフェン膜である。
【0018】
本実施形態の電気接続部材においては、端子接点として、導電性金属がインターカレーションされた酸化グラフェン膜を用いている。酸化グラフェンは、原子1個分の厚みの2次元構造であり、グラフェンと同様に化学的安定性及び機械強度が高い。そして、上述の通り、酸化グラフェン自体は層間抵抗が高いが、本実施形態においては、酸化グラフェン膜には導電性金属がインターカレーションしているため、層間抵抗が低くなっている。
【0019】
本実施形態の電気接続部材の一例として、雄型の電気接続部材について図面を参照して説明する。
図1は、雄型の電気接続部材の正面図である。
図2は、
図1に示す電気接続部材の平面図である。
図1及び
図2に示すように、電気接続部材100は、不図示の雌型の電気接続部材と嵌合するための接続部110と、接続部110に接続し電線210を圧着するための圧着部112とを有する。
【0020】
電気接続部材100の接続部110は、金属母材であって、導電性を有する材質からなる板状部材である。接続部110に用いられる導電性を有する材質としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、鉄、鉄合金、マグネシウム及びマグネシウム合金からなる群より選択される少なくとも一種以上の金属が挙げられる。
【0021】
電気接続部材100の接続部110の表面の少なくとも一部には、導電性金属がインターカレーションされた酸化グラフェン膜で構成される端子接点115が形成されている。端子接点115は、導電性金属がインターカレーションされた酸化グラフェン膜で構成され、かつ、雌型の電気接続部材と嵌合したときに、当該電気接続部材の端子接点と接触する。ここで、接続部110の表面の少なくとも一部とは、接続部110を構成する表面のうち、雌型の電気接続部材との嵌合時に、当該電気接続部材の端子接点と接触する表面のうちの、少なくとも一部、を意味する。
【0022】
ここで、導電性金属がインターカレーションされた酸化グラフェン膜は、酸化グラフェンが2層以上積層してなる積層体であり、層間に導電性金属が存在している。酸化グラフェンの積層体における酸化グラフェンの積層数は特に限定されない。電気接続部材100の端子接点115は、雄型の電気接続部材100と雌型の電気接続部材とが嵌合すると、雌型の電気接続部材の端子接点と物理的かつ電気的に接続されるようになっている。
【0023】
電気接続部材100の圧着部112は、電線210を電気接続部材100に圧着するための部材であり、接続部110に接続するように設けられる。電線210は、導電性材料からなる導体211と、導体211を被覆する電線被覆材212と、からなる。圧着部112は、導体211を圧着する導体圧着部112aと、電線被覆材212を圧着する被覆材圧着部112bとを備える。電気接続部材100の圧着部112のうち、少なくとも導体圧着部112aは、導電性を有する材質で構成される。導電性を有する材質としては、例えば、電気接続部材100の接続部110に用いられる材質と同様のものが用いられる。
【0024】
電線210を構成する導体211に用いられる導電性材料としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム及びアルミニウム合金等が用いられる。このうち、アルミニウム又はアルミニウム合金は、導体211及び電線210を軽量化することができるため好ましい。
【0025】
電線210を構成する電線被覆材212に用いられる材料としては、例えば、電気絶縁性を確保できる樹脂が用いられる。この樹脂としては、例えば、オレフィン系の樹脂又はポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とする樹脂が用いられる。ここで、主成分とは、電線被覆材112全体の50質量%以上の成分をいう。オレフィン系の樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン共重合体及びプロピレン共重合体からなる群より選択される1種以上からなる樹脂が用いられる。これらのうち、ポリプロピレン(PP)又はポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とする樹脂は、柔軟性や耐久性が高いため好ましい。
【0026】
以上の電気接続部材は、以下の本実施形態の電気接続部材の製造方法により製造することができる。
【0027】
<電気接続部材の製造方法>
本実施形態の電気接続部材の製造方法は、上述の本実施形態の電気接続部材を製造する製造方法である。そして、酸化グラフェンと、導電性金属の塩とを含み、酸化グラフェンのゼータ電位が正となるように調整した水分散液に金属母材を浸漬し、電気泳動堆積法により、金属母材をカソード側とした状態で酸化グラフェン膜を形成する工程を含む。
なお、本実施形態の電気接続部材の製造方法における金属母材は、上述の本実施形態の電気接続部材の接続部の由来となる部材である。また、上述の
図1及び
図2に示した電気接続部材100の接続部110において、導電性金属がインターカレーションされた酸化グラフェン膜は、その表面の一部に形成されている。すなわち、接続部110には当該酸化グラフェン膜が形成されていない領域が存在する。そのような領域は、電気泳動堆積法による処理時に金属母材にマスクを配置することで設けることができる。具体的には、酸化グラフェン膜を形成しない領域にマスクを配置し、電気泳動堆積法による処理を実行後にマスクを除去すればよい。
【0028】
本実施形態の製造方法により、
図3に示すように、複数の酸化グラフェン12の層間に導電性金属14が挿入された構造となる。すなわち、端子接点10は、導電性金属14が酸化グラフェン12の層間にインターカレーションされた構造となる。
【0029】
電気泳動堆積法は、基板上に膜を形成させるために用いられる手法であり、例えば、水中に粒子を分散させて分散液を調製して、当該分散液中に電極を挿入し、電圧を印加することで分散液中の帯電粒子を電極上に泳動させ堆積させる成膜法である。電気泳動堆積法は、熱処理を必要とせず、非真空、常温で成膜可能なため、酸化グラフェン膜の成膜を低コストで容易に行うことができる。
【0030】
本実施形態の製造方法においては、電気泳動堆積法により金属母材の表面に端子接点たる酸化グラフェン膜を形成するに当たり、正のゼータ電位を有する酸化グラフェンと、導電性金属の塩とを含む水分散液を用いる。そして、金属母材をカソード側として電気泳動堆積法による処理を実行すると、酸化グラフェンは電気泳動により、カソード側の金属母材に向けて移動し、金属母材上に堆積する。また、導電性金属の塩に由来する導電性金属イオンもカソード側の金属母材に向けて移動し、金属母材で電子を受け取り還元される。従って、上記のような水分散液を用いて電気泳動堆積法による処理を実行すると、酸化グラフェンの層間に導電性金属がインターカレーションされた状態となる。酸化グラフェンのみでは層間の電気抵抗が大きいが、本実施形態においては酸化グラフェンの層間に導電性金属がインターカレーションされるため電気抵抗が低い。また、導電性金属は酸化グラフェンの層間に存在し、空気に触れることないため酸化されにくい。そのため、導電性金属は酸化物ではなく単体として存在し、そのことからも、本実施形態で得られる酸化グラフェン膜は電気抵抗が低いと言える。さらに、電気泳動堆積法において、酸化グラフェンは、外部電場によるクーロン力によって移動し、金属母材表面に強固に堆積する。そのため、本実施形態で得られる酸化グラフェン膜と金属母材との密着性は、ファンデルワールス力が密着性の要因となるスピンコート等の成膜法で形成されるものより高い。
【0031】
図2は、本実施形態において、電気泳動堆積法による処理を実行するための装置を示している。
図2に示す装置は、電気泳動槽20と、電源22の正極に接続されるアノード24と、同負極に接続されるカソード側の金属母材26とを有する。電気泳動槽20には、酸化グラフェン12と導電性金属の塩とを含む水分散液28が満たされている。水分散液28中において、導電性金属の塩は、陽イオンたる導電性金属イオン14と、陰イオンとに解離している。また、
図2においては、酸化グラフェン12の周囲に対イオンが取り巻く電気二重層が形成された状態を示している。このような状態で電源22によりアノード24と金属母材26とに電圧を印加して電気泳動堆積法による処理を実行すると、正のゼータ電位を有する酸化グラフェン12は、カソード側の金属母材26に向けてに移動する。一方、導電性金属イオン14も、カソード側たる金属母材26に移動する。このような一連の挙動により、金属母材26の表面には、酸化グラフェン12が堆積して層状になるとともに、導電性金属イオン14が還元され金属として析出する。つまり、
図2に示すように、金属母材26には酸化グラフェン12の層及び導電性金属が交互に積層された構造、すなわち酸化グラフェンの層間に導電性金属がインターカレーションされた構造となる。なお、
図2において、金属母材26近傍の白抜きの円は堆積した酸化グラフェンを示し、ハッチングした円は析出した導電性金属を示している。
【0032】
本実施形態において、端子接点としての酸化グラフェン膜が形成される金属母材としては特に限定はなく、電気接続部材に使用される種々のものを使用することができる。具体的には、銅、アルミニウム、鉄、又はこれらの金属を含む合金等の導電性を有する金属からなるものが好適に使用される。金属母材の形状としては、板状、棒状、これらを組み合わせた形状等種々の形状があり、厚み等の寸法は、用途に応じて種々選択可能である。
【0033】
また、本実施形態で得られる端子接点と接触して電気的に接続される相手側端子接点としても特に限定はない。例えば、本実施形態で得られる電気接続部材と接続される雄雌の関係をなすコネクタなどの電気接続部材における端子接点が挙げられる。
【0034】
以下、本実施形態の製造方法で用いる、酸化グラフェンと、導電性金属の塩とを含む水分散液について説明し、次いで、酸化グラフェン膜を形成する工程について説明する。
【0035】
酸化グラフェンは、グラフェンに、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、カルボニル基等が結合した構造を有する。酸化グラフェンは極性を有する溶液中においては、官能基中の酸素がマイナスに帯電するため、異なる酸化グラフェン同士で凝集しにくい。そのため、酸化グラフェンは、極性溶媒中において均一に分散しやすい。本実施形態においては、後述するように、酸化グラフェンは、水分散液中でゼータ電位が正となるように調整する。
【0036】
酸化グラフェンは、公知の方法で作製することができるが、市販の酸化グラフェンを用いてもよい。さらには、酸化グラフェンは、市販の酸化グラフェンを水に分散させた分散液、または市販の酸化グラフェン分散液を用いてもよい。
【0037】
本実施形態において、酸化グラフェンは、単層でサイズが1~10μmのものが好ましい。ここで、酸化グラフェンのサイズとは、当面積円相当径を指す。
【0038】
本実施形態において、水分散液中の酸化グラフェンの濃度は、適度な厚みの酸化グラフェン膜を形成する観点から、0.001~0.1質量%とすることが好ましく、0.005~0.01質量%とすることがより好ましい。
【0039】
本実施形態においては、酸化グラフェンはゼータ電位が正となるように調整するが、当該調整は水分散液のpHを調整することにより行うことができる。ここで、水分散液のpHと酸化グラフェンのゼータ電位との関係について説明する。
図3は、水分散液のpHに対する酸化グラフェンのゼータ電位の関係を示すグラフである。
図3より、酸化グラフェンのゼータ電位を正とするには、水分散液のpHを小さくなるようにすればよいことが分かる。具体的には、水分散液のpHは、1~7とすることが好ましく、1~3とすることがより好ましい。
水分散液のpHを小さくするには、酸を添加すればよく、酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等が挙げられる。本実施形態においては、0.1Mの硫酸を添加することによりpHを調整することが好ましい。
【0040】
導電性金属の塩の由来となる導電性金属は、金、銀、銅、錫、ニッケル、鉄、アルミニウム等、導電率の高いものを利用することができる。当該導電性金属の塩としては、硫酸塩、硝酸塩等が挙げられる。本実施形態においては、硫酸銅、硝酸銅が好ましい。
【0041】
本実施形態において、水分散液中の導電性金属の塩の濃度は、酸化グラフェン膜の電気抵抗を低下する観点から、0.0005~0.01質量%とすることが好ましく、0.001~0.002質量%とすることがより好ましい。
【0042】
本実施形態において、水分散液における酸化グラフェンに対する導電性金属の塩の質量比率は、導電性金属が適度にインターカレーションされた膜を形成する観点から0.01 ~0.1であることが好ましく、0.02~0.04であることがより好ましい。
【0043】
水分散液には、酸化グラフェン、導電性金属の塩の他に、pH緩衝液、防腐剤等を添加することができる。
【0044】
酸化グラフェンと導電性金属の塩とを含む水分散液は、適量を量りとった水の中に、酸化グラフェンと、導電性金属の塩とを投入して調製することができる。あるいは、酸化グラフェンの水分散液又は導電性金属の塩を含む溶液を調製して両者を混合してもよい。あるいは、酸化グラフェンの水分散液を調製し、その中に導電性金属の塩を添加して調製してもよい。さらには、導電性金属の塩を含む溶液を調製し、その中に酸化グラフェンを添加して調製してもよい。
【0045】
本実施形態において、導電性金属イオンが金属母材において還元され導電性金属単体となるプロセスは、電解めっきのプロセスである。従って、アノードに用いる電極としては、電解めっきで用いる電極を適用することができる。当該電極は、可溶性陽極としてもよいし、不溶性陽極としてもよい。
可溶性陽極とする場合、その材料としては、導電性金属の塩の金属イオンと同じ金属を含む金属が好ましい。具体的には、金属イオンが銅の場合、電気銅、無酸素銅、含燐銅等の可溶性陽極を用いることができる。金属イオンがニッケルの場合、電解ニッケルを用いることが好ましい。
不溶性陽極としては、カーボン、白金、白金コーティングを施したチタン等を用いることができる。
【0046】
本実施形態においては、上述の通り、電気泳動堆積法により、酸化グラフェンは外部電場によるクーロン力によって移動し、金属母材表面に強固に堆積する。従って、酸化グラフェンの密着力はクーロン力により調整することができる。ここで、外部電場をE(V/m)、電解をQ(C)としたとき、クーロン力F(N)は、F=qEで与えられる。すなわち、水分散液中において酸化グラフェンが受けるクーロン力は、印加電圧又は酸化グラフェンの電荷によって制御することができる。また、酸化グラフェンの電荷はゼータ電位によって、すなわち水分散液のpHによって調整することができる。従って、酸化グラフェン膜の金属母材との密着性を向上するためにクーロン力を増大するには、印加電圧を上げる及び/又は水分散液のpHを小さくすることより実現することができる。
【0047】
以上のことから、アノード及びカソードの各電極に印加する電圧は1~100Vとすることが好ましい。なお、電気泳動槽において、アノード及びカソードの各電極間距離は、適宜設定することができる。
【0048】
一方、本実施形態において、酸化グラフェン膜は、導電性金属がインターカレーションされた構造であるが、酸化グラフェンと導電性金属とが規則正しく交互に積層された構造であることが理想的である。そのためには、電気泳動堆積法による処理において、酸化グラフェンのカソードへの移動速度と、前記導電性金属の塩に由来する導電性金属イオンの移動速度とが等しくなるようにすることが好ましい。それらの移動速度を等しくするためには、酸化グラフェンのカソードへの堆積速度と、還元されて析出する導電性金属の析出速度とが等しくなるようすればよく、酸化グラフェンのゼータ電位と、導電性金属の塩の濃度とを調整すればよい。具体的には、酸化グラフェンのゼータ電位を大きくすればその移動速度が向上し、導電性金属の塩の濃度を高くするとその移動速度が向上する。従って、移動速度が等しくなるように酸化グラフェンのゼータ電位と、導電性金属の塩の濃度とを調整すればよい。
【0049】
なお、本実施形態においては、酸化グラフェンの層間に導電性金属が規則正しく交互に積層されない場合があっても、酸化グラフェンのみからなる膜と比較して電気抵抗が小さいと考えられる。すなわち、導電性金属が酸化グラフェンの層間にランダムにインターカレーションされることがあるが、酸化グラフェン膜に導電性金属がインターカレーションされている以上、電気抵抗が低くなる。そのため、本実施形態の製造方法により得られる酸化グラフェン膜は低抵抗であり、端子接点として十分に性能を発揮し得る。
【0050】
酸化グラフェン膜の厚さは、電気泳動堆積法により処理における電荷量により制御することができる。すなわち、水分散液における各成分の濃度、電流又は通電時間を調整することで厚さを制御することができる。
【0051】
以上のようにして、酸化グラフェン膜を形成した後は、金属母材を水分散液から引き上げ、その後乾燥する。酸化グラフェン膜を乾燥させる際の乾燥温度としては、80~120℃とすることが好ましい。乾燥時間としては、5~30分とすることが好ましい。
【0052】
上述の通り、本実施形態の製造方法により、電気抵抗が低い酸化グラフェン膜が形成することができる。電気抵抗の更なる低抵抗化を図るため、必要に応じて、酸化グラフェンを還元してもよい。還元は、化学還元処理、熱還元処理、光還元処理等により行うことができる。
【0053】
本実施形態の製造方法により、金属母材の表面に、導電性金属がインターカレーションされた酸化グラフェン膜が形成される。そして、当該酸化グラフェン膜は、電気抵抗が低く、密着性に優れるため、電気接続部材の端子接点として有用である。
【符号の説明】
【0054】
10 端子接点
12 酸化グラフェン
14 導電性金属(イオン)
20 電気泳動槽
22 電源
24 アノード
26 金属母材(カソード)
28 水分散液
100 電気接続部材
110 接続部
115 端子接点