IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 矢崎総業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】信号送信装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20240319BHJP
   H04B 10/58 20130101ALI20240319BHJP
   H01P 1/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H04L27/26 300
H04B10/58
H01P1/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020023258
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021129233
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発の委託事業 研究開発課題 「IoT機器増大に対応した有無線最適制御型電波有効利用基盤技術の研究開発」 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】相葉 孝充
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-190301(JP,A)
【文献】特開2017-169069(JP,A)
【文献】特開2001-057455(JP,A)
【文献】特表2016-538751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
H04B 10/58
H01P 1/00
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ定められた間隔で第1の導電体と第2の導電体とが並走する並走部を有する結合回路と、
前記並走部において前記第1の導電体に入力された電気信号が前記第2の導電体に透過する透過周波数領域が存在し、前記透過周波数領域に含まれる周波数を有する前記電気信号が伝送される場合に、前記電気信号の周波数範囲の周波数が高くなるほど利得が減衰する利得減衰周波数領域を有する、前記第2の導電体の出力部に接続される電子デバイスと、を含み、
前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きによって、前記電子デバイスの前記利得減衰周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きが低減され
前記結合回路において、前記電気信号の前記周波数範囲における周波数に対する位相の推移は線形である信号送信装置。
【請求項2】
前記結合回路は少なくとも2回路以上が存在し、2回路以上の前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きによって、前記電子デバイスの前記利得減衰周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きが低減される請求項1に記載の信号送信装置。
【請求項3】
前記電気信号はOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)に使用されるマルチキャリアの少なくとも一つのキャリアおよび当該キャリアのベースバンド信号を含む複数の電気信号を含み、
前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾き、および、前記電子デバイスの前記利得減衰周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きは、前記複数の電気信号による平均の傾きを示す請求項1または2に記載の信号送信装置。
【請求項4】
前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数は、前記結合回路のn次結合周波数(nは1以上の奇数の自然数)をピークとする周波数帯域のいずれかの周波数帯域の周波数である請求項1からのいずれか一項に記載の信号送信装置。
【請求項5】
前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数は、前記結合回路の3次結合周波数をピークとする周波数帯域の周波数である請求項1からのいずれか一項に記載の信号送信装置。
【請求項6】
前記透過周波数領域を透過する前記電気信号の基本周波数における、前記結合回路利得の減衰量は6dB未満である請求項1からのいずれか一項に記載の信号送信装置。
【請求項7】
前記電子デバイスは発光素子であり、前記結合回路は前記発光素子のバイアスティー回路を構成し、前記発光素子の前記利得減衰周波数領域における前記電気信号の基本周波数における周波数に対する利得の傾きは負の傾きを有し、前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数における周波数に対する利得の傾きは正の傾きを有する請求項1からのいずれか一項に記載の信号送信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号送信装置、信号受信装置および信号伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)などのマルチキャリアで変調された信号は、使用される信号帯域内の周波数特性の平坦性が信号品質に影響を与えることが知られている。しかしながら、通信システムにおいて使用されるデバイスの周波数特性は、使用される信号帯域内で必ずしも平坦性が確保されているわけではない。このため、従来から、通信システムにおいて使用される信号帯域内の平坦性を確保するための技術が開発されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1では、伝達関数H(s)(s=2πif,iは虚数単位)を有する波形歪補償フィルタを開示している。当該波形歪補償フィルタは、伝送経路の全伝達関数H(s)と、H(s)の周波数依存性から適宜選択される受動帯域通過フィルタの伝達関数HBPF(s)との間に、H(s)≒HBPF(s)/H(s)の関係を成立させる。この関係式により、HBPF(s)の通過周波数帯における信号伝搬特性の周波数依存性の平坦性を確保し、電力供給の不必要なパルス信号の波形歪の補償処理が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-281573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成によれば、周波数特性が平坦な周波数領域を確保するために、ピーキング回路、イコライザ回路、フィルタ回路を用いて局所的に補償する構成も想定される。しかし、周波数特性が局所的に減衰している場合や、狭帯域な成分を増幅する場合にはピーキング回路を用いることも可能であるが、遮断周波数以下の領域であって、減衰が継続的に続く周波数領域の平坦性を向上させることはピーキング回路では困難である。また、イコライザ回路では信号電力が全体的に大きく減衰するので、信号電力が信号品質に大きく影響するOFDMなどの無線信号ではイコライザ回路の使用が困難になることも想定される。
【0006】
さらに、チェビシェフ型のフィルタ回路では、ピーキング回路と同様に、狭帯域な周波数に対してはリップルの大きさなどを調整することで、周波数特性の平坦性をある程度向上させることも可能である。しかし、遮断周波数以上の領域には、チェビシェフ型のフィルタ回路を適応させることは困難である。対応策としてハイパス型のフィルタ回路によって、遮断周波数以上の領域の減衰特性を相殺するような次数のフィルタを用いることも考えられる。しかし、当該フィルタでは、周波数に対する位相ずれが大きくなるので、必要とする周波数帯域の信号特性が劣化してしまう。
【0007】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、OFDMなどの広帯域なマルチキャリアおよびマルチキャリアコンポーネント信号に対し、位相ずれを抑制しながら周波数平坦性を改善することが可能な信号送受信装置を提供することにある。それとともに、周波数応答特性が不足しているデバイスを用いた伝送も可能な、低コストな信号送受信装置を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様に係る信号送信装置は、あらかじめ定められた間隔で第1の導電体と第2の導電体とが並走する並走部を有する結合回路と、前記並走部において前記第1の導電体に入力された電気信号が前記第2の導電体に透過する透過周波数領域が存在し、前記透過周波数領域に含まれる周波数を有する前記電気信号が伝送される場合に、前記電気信号の周波数範囲の周波数が高くなるほど利得が減衰する利得減衰周波数領域を有する、前記第2の導電体の出力部に接続される電子デバイスと、を含み、前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きによって、前記電子デバイスの前記利得減衰周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きが低減されることが好ましい。
【0009】
前記結合回路において、前記電気信号の前記周波数範囲における周波数に対する位相の推移は線形であることが好ましい。
【0010】
前記結合回路は少なくとも2回路以上が存在し、2回路以上の前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きによって、前記電子デバイスの前記利得減衰周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きが低減されることが好ましい。
【0011】
前記結合回路の少なくとも1回路以上は、前記電子デバイスから出力される前記電気信号を受信する信号受信装置に存在するように構成されることが好ましい。
【0012】
前記電気信号はOFDMに使用されるマルチキャリアの少なくとも一つのキャリアおよび当該キャリアのベースバンド信号を含む複数の電気信号を含むことが好ましい。(OFDM:(Orthogonal Frequency Division Multiplexing))。前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾き、および、前記電子デバイスの前記利得減衰周波数領域における前記電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きは、前記複数の電気信号による平均の傾きを示すことが好ましい。
【0013】
前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数は、前記結合回路のn次結合周波数(nは1以上の奇数の自然数)をピークとする周波数帯域のいずれかの周波数帯域の周波数であることが好ましい。
【0014】
前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数は、前記結合回路の3次結合周波数をピークとする周波数帯域の周波数であることが好ましい。
【0015】
前記結合回路の前記透過周波数領域を透過する前記電気信号の基本周波数における、1つの前記結合回路における利得の減衰量は6dB未満であることが好ましい。
【0016】
前記電子デバイスは発光素子であり、前記結合回路は前記発光素子のバイアスティー回路を構成し、前記発光素子の前記利得減衰周波数領域における前記電気信号の基本周波数における周波数に対する利得の傾きは負の傾きを有し、前記結合回路の前記透過周波数領域における前記電気信号の基本周波数における周波数に対する利得の傾きは正の傾きを有することが好ましい。
【0017】
本発明の他の態様に係る信号伝送システムは、信号送信装置と、信号送信装置に含まれる少なくとも一つの前記結合回路を含む信号受信装置と、前記信号送信装置と、前記信号受信装置とを接続する光ファイバまたは金属線と、を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、OFDMなどの広帯域なマルチキャリア信号に対し、位相ずれを抑制しながら周波数平坦性を改善することが可能であり、周波数応答特性が不足しているデバイスを用いた伝送も可能な、低コストな信号送受信装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る信号伝送システムの一例を示す模式図である。
図2A】本実施形態に係る結合回路の一例を示す模式図である。
図2B図2Aに示す結合回路の透過信号および反射信号の周波数特性の測定結果の一例を示す模式図である。
図3A】本実施形態に係る結合回路の一例を示す模式図である。
図3B図3Aの結合回路の結合ピーク周波数特性の測定結果の一例を示す模式図である。
図3C図3Aの結合回路の結合ピーク周波数特性の測定結果の他の一例を示す模式図である。
図4A】本実施形態に係る結合回路の透過信号の周波数特性の測定結果の一例を示す模式図である。
図4B図4Aに示す特性を有する結合回路の位相周波数特性の測定結果の一例を示す模式図である。
図5】本実施形態に係る信号伝送システムに含まれる発光素子の周波数特性の測定結果の一例を示す模式図である。
図6A図5に示す発光素子の周波数特性の一部を拡大した模式図である。
図6B図4Aに示す特性を有する結合回路の周波数特性の一部を拡大した模式図である。
図6C図6Aおよび図6Bに示す周波数特性を合成した周波数特性の模式図である。
図7A図5に示す発光素子の周波数特性の一部を拡大した模式図である。
図7B図6Bに示す周波数特性の約1/2の傾きを有する結合回路の周波数特性の模式図である。
図7C図7Aおよび図7Bに示す周波数特性を合成した周波数特性の模式図である。
図7D図7Cに示す周波数特性に図7Bに示す周波数特性をさらに合成した周波数特性の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態に係わる信号送受信装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で説明する実施形態は、包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示に限定する主旨ではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。さらに、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0021】
本実施形態に係る信号送信装置、信号受信装置および信号伝送システムを図1図7を用いて説明する。
【0022】
(信号送信装置および信号受信装置の適用例の概要)
本実施形態の信号送信装置および信号受信装置は結合線路を用いた結合回路を利用して、周波数応答特性が平坦ではないデバイスの周波数応答特性を広帯域に位相ずれ無く改善し平坦化可能とする。そのために、結合回路の周波数応答特性と、デバイスの周波数応答特性を相互に補償し、平坦性を向上させる構成を有する。また、複数の結合回路を、信号送信装置および信号受信装置に設けることによって、各結合回路の平坦性補償特性に自由度を持たせ、柔軟にデバイスの周波数応答特性を広帯域に位相ずれ無く平坦に改善可能とする。
【0023】
(信号伝送システムの概要)
図1に本実施形態に係わる信号送信装置および信号受信装置を含む信号伝送システムの概要について説明する。
【0024】
図1に示すように、信号伝送システム1000は、信号送信装置100s、信号受信装置100rおよび伝送路200を含んで構成される。なお、信号送信装置100sと信号受信装置100rの間ではACK(ACKnowledgement)等の制御信号の送受信が行われる。したがって、信号受信装置100rから信号送信装置100sへの信号の流れがあるが、図1では信号送信装置100sから信号受信装置100rに送信されるデータ情報の流れを概略的に示している。
【0025】
図1の信号伝送システム1000は二次変調方式にOFDMを採用しているので、制御部110sでは入力されたデータをサブキャリア毎の信号に変換し、制御部110sに記憶される符号化率および一次変調方式で信号処理を実行する。なお、一次変調方式にはBPSK,QPSK,QAM等の変調方式が挙げられる。次に、ベースバンド回路部120sでベースバンド信号を生成し、有線通信を実行するために発光素子140sにベースバンド信号を伝送する。伝送路200を介して、信号受信装置100rの受光素子150rはベースバンド信号を受信する。ベースバンド回路部120rはサブキャリア毎の信号を生成し、制御部110sではサブキャリア毎の信号を復調、復号および合成し、信号送信装置100sに入力されたデータに対応するデータを生成する。なお、伝送路200の一例には光ファイバが挙げられる。本実施形態の説明においては、伝送路200に光ファイバを用いた場合を主に説明する。以下、各ブロックについて詳細に説明する。
【0026】
信号送信装置100sは、制御部110s、ベースバンド回路部120s、結合回路130sおよび発光素子140sを含んで構成される。
【0027】
制御部110sにはあらかじめ定められた符号化率と一次変調方式の組み合わせを示すMCS(Modulation and Coding Scheme)を記憶するMCS記憶部が含まれる。二次変調方式にOFDMを採用しているので、制御部110sでは入力されたデータをサブキャリア毎の信号に変換し、制御部110sに記憶される符号化率および一次変調方式で信号処理を実行する。制御部110sは符号化率および一次変調方式を信号品質によって自由に変更することが可能であるが、詳細は省略する。
【0028】
ベースバンド回路部120sは、入力されたデジタル信号を信号処理し、ベースバンド信号を生成する機能を有する。なお、ベースバンド回路部120sは、ベースバンド信号の中心周波数を設定する機能も有する。
【0029】
結合回路130sは、結合線路を用いた回路であって、図4Aに示す一例としての利得周波数特性、および、図4Bに示す一例としての位相周波数特性を有する回路である。結合回路130sは、特定の周波数または周波数帯域を有する電気信号に対して、後段の発光素子140sの利得周波数特性における減衰する周波数特性を補償し、当該特定の周波数または周波数帯域の利得周波数特性を平坦化する機能を有する。また、結合回路130sは1つである必要はなく、複数の結合回路130sによって、当該特定の周波数または周波数帯域の利得周波数特性を平坦化する機能を有してもよい。また、電気信号の周波数帯域の一例にはOFDMにおいて使用される28GHz帯が一例として挙げられる。なお、詳細については後述する。
【0030】
発光素子140sは、ベースバンド信号を光信号に変換するための機能を有する。発光素子の周波数特性は、伝送路200の周波数特性に整合する必要があり、ベースバンド信号を歪ませない特性が求められる。
【0031】
伝送路200は、本実施形態では周波数特性が高周波数まで平坦性を有する光ファイバを想定しているが、後述するように、信号帯域幅が狭い場合には同軸ケーブル等のメタル線を使用することも可能である。
【0032】
信号受信装置100rは、受光素子140r、結合回路130r、ベースバンド回路部120rおよび制御部110rを含んで構成される。
【0033】
受光素子140rは、信号送信装置100sで生成された光信号としてのベースバンド信号を受信し、当該光信号を電気信号に変換してベースバンド信号を再生する機能を有する。
【0034】
結合回路130rは、結合線路を用いた回路であって、図4Aに示す一例としての利得周波数特性、および、図4Bに示す一例としての位相周波数特性を有する回路である。結合回路130sは、特定の周波数または周波数帯域を有する電気信号に対して、信号送信装置100sの発光素子140sの利得周波数特性における減衰する周波数特性を補償し、当該特定の周波数または周波数帯域の利得周波数特性を平坦化する機能を有する。また、結合回路130rは必須の構成ではなく、結合回路130sの利得周波数特性を補助するように機能してもよい。また、結合回路130rも1つである必要はなく、複数の結合回路130rによって、当該特定の周波数または周波数帯域の利得周波数特性を平坦化する機能を有してもよい。
【0035】
ベースバンド回路部120rは、入力されたベースバンド信号を信号処理し、サブキャリア毎にデータ信号としてのデジタル信号を生成する機能を有する。
【0036】
制御部110rにはあらかじめ定められた符号化率と一次変調方式の組み合わせを示すMCSを記憶するMCS記憶部が含まれる。二次変調方式にOFDMを採用しているので、制御部110rでは入力されたサブキャリア毎の信号に対して、制御部110rに記憶される符号化率および一次変調方式で信号処理を実行する。すなわち、サブキャリア毎に復調および復号を実行し、データを再生する。制御部110rは符号化率および一次変調方式を信号品質によって自由に変更することが可能である。
【0037】
なお、制御部110rは、入力された信号に誤り検出符号が含まれている場合には、誤り検出符号が示す誤りをカウントし、単位時間当たりの誤り数を記憶することができる。
【0038】
(回路基板に形成された結合回路の特徴の概要)
以上のような構成を実現するための結合回路の一例について最初に原理を説明する。なお、図1に示した結合回路130sおよび結合回路130rを総称して結合回路130として説明する。本実施形態の結合回路130の構成の一例としては、図2Aに示す回路基板300上に並走して設けられた2本の銅箔パターン、および、回路基板300の裏面にプレーンとして設けられるグランド500を基本構成とする。2本の銅箔パターンとは、銅箔パターンである第1の導電体131、および、銅箔パターンである第2の導電体132を意味する。ただし、ポート2(320)に終端抵抗(図示せず)を実装する構成を基本構成とすることもできる。また、以下の本実施形態の説明ではポート4(340)に接続される発光素子140sを駆動する結合回路の一例について説明する。
【0039】
ポート1(310)は、第1の導電体131における高周波交流信号の入力部である。基本的には特性インピーダンスが50Ωの同軸ケーブル等の伝送路が接続される。当該伝送路によって第1の導電体131に供給される高周波交流信号が伝送される。なお、高周波交流信号の一例には、ベースバンド回路部120sから出力される電気信号が挙げられる。
【0040】
ポート2(320)は、第1の導電体131の終端部である。終端部と回路基板300の裏面に設けられるグランド500との間に50Ωの終端抵抗が実装される場合と実装されない場合がある。図2Aでは基本作用を説明するために、終端抵抗が実装される場合を図示する。
【0041】
ポート3(330)は、第2の導電体132のポート4(340)に接続されるデバイスに供給される信号の入力部である。一例として、デバイスが発光素子140sである場合にはポート4(340)は発光素子140sに供給されるバイアス電流等の直流信号の入力部である。したがって、ポート3(330)には低出力インピーダンスの電源装置等(図示せず)が接続される場合がある。図2Aでは基本作用を説明するために、出力インピーダンスが50Ωの装置(図示せず)が接続される場合を図示する。
【0042】
ポート4(340)は、ポート3(330)から入力された直流信号に、第1の導電体131から第2の導電体132に透過した高周波交流信号が重畳されて出力される第2の導電体132における出力部である。ポート4(340)は、発光素子等の被駆動デバイスが接続されるポートである。
【0043】
並走部350は、第1の導電体131と第2の導電体132があらかじめ定められた距離で並走する区間である。並走部350において、第1の導電体131に入力された高周波交流信号が、ポート1(310)から第2の導電体132に透過する。高周波交流信号がポート1(310)からポート2(320)に向かう方向と同一の方向である、ポート3(330)からポート4(340)に向かう方向に当該高周波交流信号が次第に透過する。この透過は、第1の導電体131から第2の導電体132へ交流信号成分が結合する現象を利用している。
【0044】
最も効率的に結合する周波数は、並走部350の長さ、並走部350における第1の導電体131と第2の導電体132との間の間隔、および、回路基板300内外の伝送路の特性インピーダンス等のパラメータによって変化する。以下、並走部350の長さを結合伝送路長、並走部350における第1の導電体131と第2の導電体132との間の間隔を結合伝送路間隔と称する場合がある。
【0045】
図2Bは、ポート1(310)に高周波交流信号を入力した場合に、ポート1(310)からポート4(340)に透過した透過信号と、ポート2(320)からポート1(310)に反射した反射信号の周波数特性を示す。図2Bの例では、7.2GHz付近において最も効率的に結合し、透過信号の振幅の減衰が最も小さくなる様子を示している。以下、第1の導電体131と第2の導電体132との間で透過する高周波交流信号の振幅の減衰が最も小さい周波数を結合ピーク周波数と称する。なお、図2Bでは図示されていないが、結合ピーク周波数の奇数倍の周波数において極大値を有するn次(n:1以上の奇数の自然数)結合ピーク周波数が存在する。
【0046】
上述したように、結合ピーク周波数は、結合伝送路間隔および結合伝送路長を含むパラメータを変化させることによって、任意に選択可能である。また、これらの構成及び作用によれば、別途インダクタやキャパシタを設けなくとも回路パターンと終端抵抗のみでバイアスティーの機能を実現できることが分かる。
【0047】
(結合回路の具体的仕様)
図3Aは、結合回路のパラメータの一部を示す図である。Lは結合伝送路長であり、図3Aでは第1の導電体131と第2の導電体132の長さに対応する。gapは結合伝送路間隔であり、図3Aでは第1の導電体131と第2の導電体132との間隔に対応する。Wは伝送路幅であり、図3Aでは第1の導電体131と第2の導電体132の幅に対応する。図3Aでは第1の導電体131と第2の導電体132の幅は同一である。tは回路基板の厚みである。
【0048】
図3Bは、図3Aの結合回路において、結合伝送路間隔を変化させた時の、結合ピーク周波数の変化を示した図である。図2Bの横軸は結合伝送路間隔[mm]を示し、図3Bの縦軸は結合ピーク周波数[GHz]を示す。図3Bにおいて、結合伝送路間隔を2mmからに0.2mmに変化させた場合には、結合ピーク周波数が約12GHzから約6GHzに変化する。すなわち、結合伝送路間隔が狭くなるにつれて結合ピーク周波数は低くなる。
【0049】
図3Cは、図3Aの結合回路において、結合伝送路長を変化させた時の、結合ピーク周波数の変化を示した図である。図3Cの横軸は結合伝送路長[mm]を示し、図3Cの縦軸は結合ピーク周波数[GHz]を示す。図3Cにおいて、結合伝送路長を約175mmから約25mmに変化させた場合には、結合ピーク周波数は約5GHzから約43GHzに変化する。すなわち、結合伝送路長が短くなるほど、結合ピーク周波数は高くなる。
【0050】
上記構成例によれば、一般的なガラエポ系の10cm程度以内の回路パターンの構成を用いることによって10GHz以上の結合回路が簡素に構成可能となる。
【0051】
上記のような原理に基づいて、透過信号の結合ピーク周波数をFpeakとし、3Fpeakに2番目の結合ピーク周波数が現れる結合回路の利得周波数特性の模式図を図4Aに示す。上述して説明したように、透過特性が最大となるFpeakを設計によって決定することが可能である。
【0052】
例えば使用するデバイスにおいて不足する周波数応答特性の傾きをαとすると、伝送信号の周波数領域において、傾きαの逆の傾きを有する周波数応答特性を有する結合回路を設計することによって伝送信号の平坦性を担保することも可能になる。
【0053】
結合回路における透過特性が最大となる結合ピーク周波数をFpeakとし、Fpeakから離れた周波数領域にあるにおける傾きβはFpeakに依存している。したがって、使用するデバイスの周波数応答特性の傾きαに対して、βがαの逆の傾きに近くなるようにFpeakを設定する必要がある。
【0054】
結合回路における透過特性は、図4Aに示すように周期性を有するので、必要な周波数領域におけるβを取得するために、βを大きくする場合には、Fpeakから周波数を離していく必要がある。Fpeakから周波数を離していくと、図4Aからも分かるように、透過率も次第に減衰する。信号電力が信号品質に大きく影響するOFDMにおいては、Fpeakから周波数を離しすぎると、十分な振幅が得られない可能性もあるので、Fpeakから離れる周波数は0.5×Fpeak程度以内であることが好ましい。しかし、1番目の結合ピーク周波数であるFpeakから0.5×Fpeakにおける傾きが十分に取れない場合もある。例えば、結合回路の0.5×Fpeakを28GHzに設計した場合に、28GHzの傾きβが使用するデバイスの周波数応答特性の傾きαよりも小さい場合がある。このような場合には、2番目の結合ピーク周波数である3×Fpeakを使用し、βを得る周波数を3×Fpeak~2.5×Fpeak程度以内で、Fpeak~0.5×Fpeak以内よりも大きな傾きを得ることも可能である。
【0055】
具体的な一例として、使用するデバイスとしての発光素子の周波数応答特性の一例を図5に示す。図5の横軸はGHz単位で周波数を示しており、0~50GHzまでの周波数範囲を示している。縦軸は、発光素子に入力する信号の減衰特性を示しており、10GHz周辺で最も減衰が小さくなっているが、10GHz以降はなだらかに入力信号が減衰する特性が示されている。使用する周波数を28GHz周辺とすると、28GHz周辺の傾きαは約-2dB/GHzとなっている。図4Aにおいて、0.5×Fpeakにおいて、βが+2dB/GHzを有するように設計することも可能であるが、より広い信号帯域で平坦化した周波数特性を得るために、2.5×Fpeakにおいて、βが+2dB/GHzを有するように設計も可能である。
【0056】
また、図4Bは結合回路の位相周波数特性を示す図である。結合回路の位相が周波数変動に対して線形に推移することがわかる。例えば、電気信号が28GHz帯であれば、結合回路の位相が線形に推移することが示されている。
【0057】
図6Aは、図5において示した発光素子の周波数応答特性を27GHz~31GHzの周波数領域において拡大した図を示したものである。27GHzにおいて-24dB程度の減衰量があり、31GHzにかけて減衰量が増大している。28GHz付近の傾きは、約-2dB/GHzとなっている。
【0058】
図6Bは、図4Aに示した結合回路の2.5×Fpeakを28GHz周辺に設計し、2.5×Fpeakにおけるβが、図5において示した発光素子の28GHz周辺におけるαの逆数になるように設計した測定結果を示した図である。すなわち、2.5×Fpeakにおいて、βが+2dB/GHzを有するように設計されている。27GHzにおいて-5~-6dB程度の減衰量があり、31GHzにかけて減衰量が低減し、発光素子の周波数応答特性を相殺する特性を有する。
【0059】
図6Cは、図6Bの周波数応答特性を有する図4Aに示した結合回路の図1におけるポート4に相当する端子に、図6Aの周波数応答特性を有する発光素子を接続した場合の当該発光素子の出力の周波数応答特性の測定結果を示した図である。図6Cに示されるように、図6Aの周波数応答特性が図6Bの周波数応答特性を有する図4Aに示した結合回路を信号が透過した信号によって平坦化されている様子が示されている。
【0060】
本実施形態の信号送受信装置は結合線路を用いた結合回路を利用して、周波数応答特性が平坦ではないデバイスの周波数応答特性を広帯域に位相ずれ無く改善し平坦化することが可能となる。
【0061】
上述した実施形態では、1つの結合回路の傾きβを使用して、図6Aの周波数応答特性を有する発光素子の傾きαを平坦化する方法を示したが、本実施形態は上記実際形態に限定されるものではない。例えば、発光素子の傾きαの逆数である傾きβよりも小さい結合回路の傾きを利用すれば、平坦化可能な周波数領域を広く取得可能な場合もある。例えば、複数の結合回路のFpeakに近い周波数領域を組み合わせて発光素子の傾きαの逆数の傾きβを形成し、より広い周波数領域を平坦化する。このような例の一例について図7A図7Dを使用して説明する。図7A図7Dにおいては、信号送信装置側に1つの結合回路を用い、信号受信装置側に1つの結合回路を用いている。
【0062】
図7A図6Aと同一の図であって、図5において示した発光素子の周波数応答特性を27GHz~31GHzの周波数領域において拡大した図を示したものである。27GHzにおいて-24dB程度の減衰量があり、31GHzにかけて減衰量が増大している。28GHz付近の傾きは、約-2dB/GHzとなっている。
【0063】
図7Bは、図4Aに示した結合回路の2.5×Fpeakを28GHz周辺に設計し、2.5×Fpeakにおけるβが、図4において示した発光素子の28GHz周辺におけるαの逆数にはならず、αの逆数の約1/2になるように設計した測定結果である。すなわち、2.5×Fpeakにおいて、βが約+1dB/GHzを有するように設計されている。27GHzにおいて-5~-6dB程度の減衰量があり、31GHzにかけて減衰量が低減し、発光素子の周波数応答特性の約半分を相殺する特性を有する。
【0064】
図7Cは、図7Bの周波数応答特性を有する図4Aに示した結合回路の図2Aにおけるポート4に相当する端子に、図7Aの周波数応答特性を有する発光素子を接続した場合の当該発光素子の出力の周波数応答特性の測定結果を示した図である。図7Cに示されるように、図7Aの周波数応答特性が図7Bの周波数応答特性を有する図4Aに示した結合回路を信号が透過した信号によって半分ほど平坦化されている様子が示されている。
【0065】
図7Dは、図7Bの周波数応答特性を有する図4Aに示した結合回路を発光素子に対する受光デバイスを有する信号受信装置に接続した場合の受信装置の出力の周波数応答特性の測定結果を示した図である。図7Dに示されるように、図7Bの周波数応答特性を有する図4Aに示した結合回路を信号送信装置と信号受信装置とに設けることによって図7Aの周波数応答特性が平坦化されている様子が示されている。また、結合回路では図4Bに示されるように使用する周波数帯域で位相推移がリニアであるために、信号送信装置と信号受信装置の2か所に結合回路を適用しても伝送信号の周波数帯域で位相特性に影響を与えることはない。
【0066】
(変形例1)
上記実施形態においては、信号送信装置100sに結合回路130を一回路設ける場合、および、信号送信装置100sおよび信号受信装置100rに結合回路130をそれぞれ一回路設ける場合を説明したが、本実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、信号送信装置100sおよび信号受信装置100rに結合回路130をそれぞれ複数設けることも可能である。また、信号送信装置100sだけに結合回路130を複数設ける構成、または、信号送信装置100sだけに結合回路130を複数設ける構成とすることも可能である。
【0067】
(変形例2)
図6A図6Cの説明、および、図7A図7Dの説明においては、単一の周波数における利得周波数特性の傾きを対象としているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。すなわち、特定の周波数帯域を有する信号の平均の利得周波数特性の傾きを対象とすることも可能である。例えば、28GHz周辺の周波数帯域において使用される複数の電気信号の利得周波数特性の傾きを平均化して、図6A図6Cにおいて説明された機能、および、図7A図7Dにおいて説明された機能を実現することも可能である。利得周波数特性の傾きを平均化する手法としては、算術平均等の従来の平均化手法を使用することが可能である。
【0068】
(変形例3)
上記実施形態においては、2番目の結合ピーク周波数である3×Fpeakを含む周波数帯域における、利得周波数特性の傾きを使用する例について主に説明したが、本実施形態はこれに限定されるわけではない。1番目の結合ピーク周波数であるFpeakを含む周波数帯域における、利得周波数特性の傾きを使用することに加え、3番目の結合ピーク周波数である5×Fpeakを含む周波数帯域における、利得周波数特性の傾きを使用することも可能である。すなわち、任意の順番の結合ピーク周波数を含む周波数帯域における、利得周波数特性の傾きを使用することも可能である。ただし、結合ピーク周波数の順番が大きいほど、電気信号の減衰量が大きくなるので、アプリケーションによっては高次の結合ピーク周波数を含む周波数帯域における、利得周波数特性の傾きを使用することが困難になる場合もある。
【0069】
以下に、本実施形態の信号送信装置100s、信号受信装置100rおよび信号伝送システム1000の特徴について記載する。
【0070】
本発明の第1の態様に係る信号送信装置100sは、あらかじめ定められた間隔で第1の導電体131と第2の導電体132とが並走する並走部350を有する結合回路130を含むことが好ましい。結合回路130は、並走部350において第1の導電体131に入力された電気信号が第2の導電体132に透過する透過周波数領域が存在する。透過周波数領域に含まれる周波数を有する電気信号が伝送される場合に電気信号の周波数範囲の周波数が高くなるほど利得が減衰する利得減衰周波数領域を有する、第2の導電体132の出力部に接続される発光素子140s等の電子デバイスを含むことが好ましい。結合回路130の透過周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きによって、電子デバイスの利得減衰周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きが低減されることが好ましい。
【0071】
上記構成によれば、OFDMなどの広帯域なマルチキャリア信号に対し、周波数応答特性が不足しているデバイスを用いた場合にも、位相ずれを抑制しながら周波数平坦性を改善する低コストな信号送信装置を提供することが可能になる。
【0072】
本発明の第2の態様に係る信号送信装置100sの結合回路130において、電気信号の周波数範囲における周波数に対する位相の推移は線形であることが好ましい。
【0073】
使用する電気信号の周波数範囲における周波数に対する位相の推移が非線形である場合には、群遅延特性等が悪化して使用する電気信号にひずみが発生する場合がある。しかし、上記構成によれば、使用する電気信号の周波数範囲における周波数に対する位相の推移が線形であるので、使用する電気信号に発生する可能性があるひずみ等を抑制することが可能になる。
【0074】
本発明の第3の態様に係る信号送信装置100sにおいて、結合回路130は少なくとも2回路以上が存在することが好ましい。2回路以上の結合回路130の透過周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きによって、電子デバイスの利得減衰周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きが低減されることが好ましい。
【0075】
電子デバイスの利得減衰周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きが大きい場合に、1つの結合回路130によって当該傾きを相殺しようとすると、電気信号の減衰が大きくなりすぎる場合も想定される。しかし、上記構成によれば、2回路以上の結合回路130の透過周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きを合算することによって、当該傾きを相殺すれば、電気信号の減衰を低減することも可能になる場合がある。また、1つの結合回路130の平坦性補償特性に自由度を持たすことが可能になる。
【0076】
本発明の第4の態様に係る信号送信装置100sにおいて、結合回路130の少なくとも1回路以上は、電子デバイスから出力される電気信号を受信する信号受信装置100rに存在するように構成されることが好ましい。
【0077】
上記構成によれば、2回路以上の結合回路130の透過周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きを合算する場合に、結合回路を信号送信装置と信号受信装置に分散することによって、それぞれの装置の小型化を図ることが可能になる。また、1つの結合回路130の平坦性補償特性に自由度を持たすことが可能になる。
【0078】
本発明の第5の態様に係る信号送信装置100sにおいて、電気信号はOFDMに使用されるマルチキャリアの少なくとも一つのキャリアおよび当該キャリアのベースバンド信号を含む複数の電気信号を含むことが好ましい。結合回路130の透過周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾き、および、電子デバイスの利得減衰周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得の傾きは、複数の電気信号による平均の傾きを示すことが好ましい。(OFDM:(Orthogonal Frequency Division Multiplexing))。
【0079】
上記構成によれば、OFDMに使用されるマルチキャリアおよび当該キャリアのベースバンド信号に本構成を適用することも可能になる。また、位相ずれを抑制しながら周波数平坦性を改善することが可能であり、周波数応答特性が不足しているデバイスを用いた伝送も可能な、低コストな信号送信装置を提供することが可能になる。
【0080】
本発明の第6の態様に係る信号送信装置100sの結合回路130の透過周波数領域における電気信号の基本周波数は、結合回路のn次結合周波数(nは1以上の奇数の自然数)をピークとする周波数帯域のいずれかの周波数帯域の周波数であることが好ましい。
【0081】
上記構成によれば、電子デバイスの利得減衰周波数領域における電気信号の基本周波数の周波数に対する利得のさまざまな傾きに対して、結合回路の周波数特性を利用することが可能になる。したがって、電子デバイスの利得減衰周波数領域の周波数平坦性を適切に改善することも可能になる。
【0082】
本発明の第7の態様に係る信号送信装置100sの結合回路130の透過周波数領域における電気信号の基本周波数は、結合回路の3次結合周波数をピークとする周波数帯域の周波数であることが好ましい。
【0083】
上記構成によれば、結合回路130の3次結合周波数をピークとする周波数帯域において、減衰量が比較的小さく、比較的広い周波数帯域における傾きが均一な帯域を使用可能になるので、電気信号の周波数平坦性を適切に改善することも可能になる。
【0084】
本発明の第8の態様に係る信号送信装置100sの結合回路130の透過周波数領域を透過する電気信号の基本周波数における、1つの結合回路における利得の減衰量は6dB未満であることが好ましい。
【0085】
電気信号の全体的な信号電力がある程度低下すると、OFDMなどのRF信号における信号品質が低下するが、上記構成によれば、電気信号の周波数平坦性を適切に改善しながら、OFDMなどのRF信号における信号品質の低下を抑制することが可能になる。
【0086】
本発明の第9の態様に係る信号送信装置100sの電子デバイスは発光素子140sであり、結合回路130は発光素子140sのバイアスティー回路を構成することが好ましい。発光素子140sの利得減衰周波数領域における電気信号の基本周波数における周波数に対する利得の傾きは負の傾きを有し、結合回路130の透過周波数領域における電気信号の基本周波数における周波数に対する利得の傾きは正の傾きを有することが好ましい。
【0087】
上記構成によれば、結合回路130をバイアスティー回路として使用することで、装置の小型化を図りながら、信号伝送システム1000における電気信号の周波数平坦性を適切に改善することが可能になる。
【0088】
本発明の第10の態様に係る信号伝送システム1000は、第1の態様から第9の態様のいずれかの信号送信装置100sを含むことが好ましい。また、信号伝送システム1000は、第1の態様から第9の態様のいずれかの信号送信装置100sに含まれる少なくとも一つの結合回路130を含む信号受信装置100rを含むことが好ましい。さらに、信号伝送システム1000は、信号送信装置100sと、信号受信装置100rとを接続する光ファイバまたは金属線等の伝送路200を含むことが好ましい。
【0089】
上記構成によれば、OFDMなどの広帯域なマルチキャリア信号に対し、位相ずれを抑制しながら周波数平坦性を改善することが可能であり、周波数応答特性が不足しているデバイスを用いた伝送も可能な、低コストな信号送受信装置を提供することが可能になる。
【0090】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。また、さまざまな実施形態の一部または全部を組み合わせて新たな実施形態とすることも可能である。
【符号の説明】
【0091】
100s 信号送信装置
110s 制御部
120s ベースバンド回路部
130s 結合回路
140s 発光素子
100r 信号受信装置
110r 制御部
120r ベースバンド回路部
130r 結合回路
140r 受光素子
200 伝送路
1000 信号伝送システム
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D