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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/01 20060101AFI20240319BHJP
   H03H 7/46 20060101ALI20240319BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20240319BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20240319BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20240319BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20240319BHJP
   H03H 9/70 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H03H7/01 A
H03H7/46 A
H03H9/72
H03H9/64 Z
H03H9/17 F
H03H9/54 Z
H03H9/70
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020029491
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021136500
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】井上 真
(72)【発明者】
【氏名】関根 英行
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-012796(JP,A)
【文献】特開2011-193080(JP,A)
【文献】特開2017-092143(JP,A)
【文献】国際公開第2014/156720(WO,A1)
【文献】特開2007-081769(JP,A)
【文献】特開2004-135316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 5/00- 7/13
H03H 7/30- 7/54
H03H 9/00- 9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1信号端子と、
第2信号端子と、
前記第1信号端子と前記第2信号端子との間に接続されたフィルタ回路と、
第1面に前記第1信号端子および前記第2信号端子が設けられ、前記第1面と反対の第2面側に前記フィルタ回路の少なくとも一部が設けられた基板と、
前記基板内における前記フィルタ回路より前記第1面側に設けられ、一端が前記第1信号端子および前記第2信号端子のいずれか一方に接続された線路と、
前記第1面に設けられ、前記線路の他端が接続され、前記基板を平面視したとき、前記線路と前記いずれか一方の信号端子とが重なる面積よりも大きい面積で前記線路と重なるグランド端子と、
を備えるフィルタ。
【請求項2】
前記線路と前記グランド端子とが重なる面積は前記線路の平面視における面積の1/2以上である請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
複数の前記線路と、
前記複数の線路の各々と個別に対応して接続される複数の前記グランド端子と、をさらに備え、
前記複数の線路のうち一部の線路は前記第1信号端子に接続され、前記基板を平面視したとき前記一部の線路と対応する前記グランド端子とが重なる面積は、前記一部の線路と前記第1信号端子とが重なる面積より大きく、
前記複数の線路のうち他の線路は前記第2信号端子に接続され、前記基板を平面視したとき前記他の線路と対応する前記グランド端子とが重なる面積は、前記他の線路と前記第2信号端子とが重なる面積より大きい請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項4】
複数の前記線路をさらに備え、
前記複数の線路のうち一部の線路は、前記第1信号端子と前記グランド端子との間を接続し、前記基板を平面視したとき前記一部の線路と前記グランド端子とが重なる面積は、前記一部の線路と前記第1信号端子とが重なる面積より大きく、
前記複数の線路のうち他の線路は、前記第2信号端子と前記グランド端子との間を接続し、前記基板を平面視したとき前記他の線路と前記グランド端子とが重なる面積は、前記他の線路と前記第2信号端子とが重なる面積より大きい請求項1または2に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記フィルタ回路は、弾性波共振器、インダクタおよびキャパシタを備える請求項1から4のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記フィルタ回路は、
一端が接地され、弾性波共振器、インダクタまたはキャパシタから選択される第1素子と、
前記第1信号端子と前記第2信号端子との間に接続され、前記第1素子が弾性波共振器のときインダクタおよびキャパシタから選択される素子であり、前記第1素子がインダクタまたはキャパシタのとき弾性波共振器である第2素子と、
前記第1信号端子と前記第2信号端子との間に前記第2素子と並列接続され、インダクタおよびキャパシタのうち前記第1素子または前記第2素子において選択されたインダクタおよびキャパシタとは異なる素子である第3素子と、
前記第1信号端子と前記第2信号端子との間に前記第3素子と直列接続されかつ前記第2素子と並列接続され、前記第3素子との間に前記第1素子の他端が接続され、インダクタおよびキャパシタのうち前記第3素子と同じ素子である第4素子と、
を備える請求項1から4のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記フィルタの通過特性は、前記弾性波共振器により形成される第1減衰極と、前記フィルタ回路により形成される第2減衰極と、前記フィルタ回路および前記線路により形成される第3減衰極と、を有し、
前記第1減衰極、前記第2減衰極および前記第3減衰極は前記フィルタの通過帯域より周波数が低く、
前記第2減衰極は前記第3減衰極と前記通過帯域との間に形成され、前記第1減衰極は前記第2減衰極と前記通過帯域との間に形成される請求項5または6に記載のフィルタ。
【請求項8】
一端が前記第1信号端子と前記第2素子との間、および前記第1信号端子と前記第3素子との間に接続された第1インダクタと、
一端が前記第2信号端子と前記第2素子との間、および前記第1信号端子と前記第4素子との間に接続された第2インダクタと、
一端が前記第1インダクタの他端および前記第2インダクタの他端に接続され、他端が接地された第3インダクタと、
を備える請求項6に記載のフィルタ。
【請求項9】
前記フィルタの通過特性は、前記弾性波共振器により形成される第1減衰極と、前記第1素子、前記第2素子、前記第3素子および前記第4素子により形成される第2減衰極と、前記第1素子、前記第2素子、前記第3素子、前記第4素子、前記第1インダクタ、前記第2インダクタおよび前記第3インダクタにより形成される第3減衰極と、を有し、
前記第1減衰極、前記第2減衰極および前記第3減衰極は前記フィルタの通過帯域より周波数が低く、
前記第2減衰極は前記第3減衰極と前記通過帯域との間に形成され、前記第1減衰極は前記第2減衰極と前記通過帯域との間に形成される請求項8に記載のフィルタ。
【請求項10】
前記第1インダクタの一端と前記第2素子とを接続し、かつ前記第1インダクタの一端と前記第3素子とを接続する第1キャパシタと、
前記第2インダクタの一端と前記第3素子とを接続し、かつ前記第2インダクタの一端と前記第4素子とを接続する第2キャパシタと、
を備える請求項8または9に記載のフィルタ。
【請求項11】
前記第1インダクタの一端と前記第2インダクタの一端とを接続する第3キャパシタを備える請求項8から10のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項12】
前記第3インダクタのインダクタンスは前記第1インダクタのインダクタンスおよび前記第2インダクタのインダクタンスより小さい請求項8から11のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項13】
前記第1素子はインダクタである請求項8から12のいずれか一項に記載のフィルタ。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか一項に記載のフィルタを含むマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば弾性波共振器等を有するフィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波フィルタとして、インダクタおよびキャパシタを組み合わせたフィルタ(すなわちLCフィルタ)が広い通信分野において用いられている。LCフィルタは、例えばセラミックス層等の誘電体層を積層して構成される。通信機器分野の進化に伴い、近年には第5世代移動体通信システムのような新通信規格の関心が高まっている。このような規格に用いられるフィルタには高周波および高い抑圧度が求められる。LCフィルタでは、このような要求に十分対応することができないところがある。そこで、急峻性の優れた弾性波共振器とLCを組み合わせたフィルタが知られている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-129680号公報
【文献】特開2018-129683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弾性波共振器とLCを組み合わせたフィルタに整合回路としてインダクタを用いると、実装基板との距離により整合回路のインダクタのインダクタンスが変化しフィルタ特性が変化してしまう。または、抑圧域の抑圧が十分でないことがある。抑圧を高めるためフィルタ内の段数を増やすとフィルタが大型化する。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、フィルタ特性の変化の抑制することまたは抑圧特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1信号端子と、第2信号端子と、前記第1信号端子と前記第2信号端子との間に接続されたフィルタ回路と、第1面に前記第1信号端子および前記第2信号端子が設けられ、前記第1面と反対の第2面側に前記フィルタ回路の少なくとも一部が設けられた基板と、前記基板内における前記フィルタ回路より前記第1面側に設けられ、一端が前記第1信号端子および前記第2信号端子のいずれか一方に接続された線路と、前記第1面に設けられ、前記線路の他端が接続され、前記基板を平面視したとき、前記線路と前記いずれか一方の信号端子とが重なる面積よりも大きい面積で前記線路と重なるグランド端子と、を備えるフィルタである。
【0007】
上記構成において、前記線路と前記グランド端子とが重なる面積は前記線路の平面視における面積の1/2以上である構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、複数の前記線路と、前記複数の線路の各々と個別に対応して接続される複数の前記グランド端子と、をさらに備え、前記複数の線路のうち一部の線路は前記第1信号端子に接続され、前記基板を平面視したとき前記一部の線路と対応する前記グランド端子とが重なる面積は、前記一部の線路と前記第1信号端子とが重なる面積より大きく、前記複数の線路のうち他の線路は前記第2信号端子に接続され、前記基板を平面視したとき前記他の線路と対応する前記グランド端子とが重なる面積は、前記他の線路と前記第2信号端子とが重なる面積より大きい構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、複数の前記線路をさらに備え、前記複数の線路のうち一部の線路は、前記第1信号端子と前記グランド端子との間を接続し、前記基板を平面視したとき前記一部の線路と前記グランド端子とが重なる面積は、前記一部の線路と前記第1信号端子とが重なる面積より大きく、前記複数の線路のうち他の線路は、前記第2信号端子と前記グランド端子との間を接続し、前記基板を平面視したとき前記他の線路と前記グランド端子とが重なる面積は、前記他の線路と前記第2信号端子とが重なる面積より大きい構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記フィルタ回路は、弾性波共振器、インダクタおよびキャパシタを備える構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記フィルタ回路は、一端が接地され、弾性波共振器、インダクタまたはキャパシタから選択される第1素子と、前記第1信号端子と前記第2信号端子との間に接続され、前記第1素子が弾性波共振器のときインダクタおよびキャパシタから選択される素子であり、前記第1素子がインダクタまたはキャパシタのとき弾性波共振器である第2素子と、前記第1信号端子と前記第2信号端子との間に前記第2素子と並列接続され、インダクタおよびキャパシタのうち前記第1素子または前記第2素子において選択されたインダクタおよびキャパシタとは異なる素子である第3素子と、前記第1信号端子と前記第2信号端子との間に前記第3素子と直列接続されかつ前記第2素子と並列接続され、前記第3素子との間に前記第1素子の他端が接続され、インダクタおよびキャパシタのうち前記第3素子と同じ素子である第4素子と、を備える構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記フィルタの通過特性は、前記弾性波共振器により形成される第1減衰極と、前記フィルタ回路により形成される第2減衰極と、前記フィルタ回路および前記線路により形成される第3減衰極と、を有し、前記第1減衰極、前記第2減衰極および前記第3減衰極は前記フィルタの通過帯域より周波数が低く、前記第2減衰極は前記第3減衰極と前記通過帯域との間に形成され、前記第1減衰極は前記第2減衰極と前記通過帯域との間に形成される構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、一端が前記第1信号端子と前記第2素子との間、および前記第1信号端子と前記第3素子との間に接続された第1インダクタと、一端が前記第2信号端子と前記第2素子との間、および前記第1信号端子と前記第4素子との間に接続された第2インダクタと、一端が前記第1インダクタの他端および前記第2インダクタの他端に接続され、他端が接地された第3インダクタと、を備える構成とすることができる
【0014】
上記構成において、前記フィルタの通過特性は、前記弾性波共振器により形成される第1減衰極と、前記第1素子、前記第2素子、前記第3素子および前記第4素子により形成される第2減衰極と、前記第1素子、前記第2素子、前記第3素子、前記第4素子、前記第1インダクタ、前記第2インダクタおよび前記第3インダクタにより形成される第3減衰極と、を有し、前記第1減衰極、前記第2減衰極および前記第3減衰極は前記フィルタの通過帯域より周波数が低く、前記第2減衰極は前記第3減衰極と前記通過帯域との間に形成され、前記第1減衰極は前記第2減衰極と前記通過帯域との間に形成される構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記第1インダクタの一端と前記第2素子とを接続し、かつ前記第1インダクタの一端と前記第3素子とを接続する第1キャパシタと、前記第2インダクタの一端と前記第3素子とを接続し、かつ前記第2インダクタの一端と前記第4素子とを接続する第2キャパシタと、を備える構成とすることができる。
【0016】
上記構成において、前記第1インダクタの一端と前記第2インダクタの一端とを接続する第3キャパシタを備える構成とすることができる。
【0017】
上記構成において、前記第3インダクタのインダクタンスは前記第1インダクタのインダクタンスおよび前記第2インダクタのインダクタンスより小さい構成とすることができる。
【0018】
上記構成において、前記第1素子はインダクタである構成とすることができる。
【0019】
本発明は、上記フィルタを含むマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、フィルタ特性の変化の抑制することまたは抑圧特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施例1および比較例1に係るフィルタの回路図である。
図2図2(a)は、実施例1および比較例1における弾性波共振器の平面図であり、図2(b)は、実施例1および比較例1における別の弾性波共振器の断面図である。
図3図3(a)および図3(b)は、それぞれ実施例1および比較例1に係るフィルタの断面図である。
図4図4(a)から図4(e)は、実施例1および比較例1における多層基板の平面図である。
図5図5(a)および図5(b)は、それぞれ実施例1および比較例1における多層基板の平面図である。
図6図6(a)および図6(b)は、比較例1に係るフィルタを実装基板に搭載した断面図である。
図7図7(a)から図7(c)は、比較例1における測定方法AおよびBのフィルタ特性を示す図である。
図8図8(a)から図8(c)は、シミュレーション1におけるそれぞれサンプルCからEの平面図である。
図9図9(a)から図9(c)は、シミュレーション1におけるそれぞれサンプルCからEの周波数に対するインダクタンスを示す図である。
図10図10(a)および図10(b)は、実施例1に係るフィルタを実装基板に搭載した断面図である。
図11図11(a)から図11(c)は、それぞれ実施例1の変形例1から3に係るフィルタの平面図である。
図12図12(a)から図12(d)は、実施例1の他の回路構成を示す回路図である。
図13図13(a)から図13(c)は、シミュレーション2におけるそれぞれフィルタF、GおよびHの回路図、図13(d)は、シミュレーション2における弾性波共振器の等価回路である。
図14図14(a)および図14(b)は、シミュレーション2におけるフィルタF、GおよびHの通過特性S21を示す図である。
図15図15(a)から図15(d)は、実施例2の他の回路構成を示す回路図である。
図16図16は、実施例3に係るダイプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0023】
図1は、実施例1および比較例1に係るフィルタの回路図である。図1に示すように、フィルタ100は、フィルタ回路F1、整合回路M1およびM2を備えている。フィルタ回路F1はノードN2とN3との間に接続されている。整合回路M1は信号端子T1とノードN2との間に接続されている。整合回路M2は信号端子T2とノードN3との間に接続されている。
【0024】
信号端子T1は入力端子であり、信号端子T2は出力端子である。フィルタ回路F1はハイパスフィルタであり、信号端子T1に入力した高周波信号のうち通過帯域の信号を通過させ、他の帯域の信号を抑圧する。整合回路M1およびM2は、それぞれ信号端子T1およびT2からフィルタ回路F1をみたインピーダンスを基準インピーダンス(例えば50Ω)に整合させる。
【0025】
ノードN2とN3との間には2つの経路が並列に設けられている。1つの経路にはキャパシタC3およびC4が直列接続されている。キャパシタC3とC4との間のノードN1とグランド端子Tgとの間にインダクタL1とキャパシタC9とが並列接続されている。ノードN2とN3との間の別の経路には弾性波共振器R2が接続されている。弾性波共振器R2は直列接続された弾性波共振器S1からS4および弾性波共振器S3に並列接続された弾性波共振器S5を含む。弾性波共振器R2とノードN2との間にインダクタL8が接続され、弾性波共振器R2とノードN3との間にインダクタL9が接続されている。
【0026】
整合回路M1は、インダクタL5およびキャパシタC5を備えている。インダクタL5は信号端子T1とノードN4との間に接続されている。キャパシタC5は信号端子T1とノードN2との間に接続されている。整合回路M2は、インダクタL6およびキャパシタC6を備えている。インダクタL6は信号端子T2とノードN4との間に接続されている。キャパシタC6は信号端子T2とノードN3との間に接続されている。ノードN4はグランド端子Tgに接続されている。
【0027】
図2(a)は、実施例1および比較例1における弾性波共振器の平面図であり、図2(b)は、実施例1および比較例1における別の弾性波共振器の断面図である。図2(a)の例では、弾性波共振器は弾性表面波共振器である。基板41の上面にIDT(Interdigital Transducer)40と反射器42が設けられている。IDT40は、互いに対向する1対の櫛型電極40aを有する。櫛型電極40aは、複数の電極指40bと複数の電極指40bを接続するバスバー40cとを有する。反射器42は、IDT40の両側に設けられている。IDT40が基板41に弾性表面波を励振する。基板41は、例えば、タンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または水晶基板等の圧電基板である。基板41は、例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、水晶基板またはシリコン基板等の支持基板上に圧電基板が接合された複合基板でもよい。IDT40および反射器42は例えばアルミニウム膜または銅膜により形成される。基板41上にIDT40および反射器42を覆うように保護膜または温度補償膜が設けられていてもよい。
【0028】
図2(b)の例では、弾性波共振器は圧電薄膜共振器である。基板41上に圧電膜46が設けられている。圧電膜46を挟むように下部電極44および上部電極48が設けられている。下部電極44と基板41との間に空隙45が形成されている。圧電膜46の少なくとも一部を挟み下部電極44と上部電極48とが対向する領域が共振領域47である。共振領域47内の下部電極44および上部電極48は圧電膜46内に、厚み縦振動モードの弾性波を励振する。基板41は、例えばサファイア基板、スピネル基板、アルミナ基板、ガラス基板、水晶基板またはシリコン基板である。下部電極44および上部電極48は例えばルテニウム膜等の金属膜である。圧電膜46は例えば窒化アルミニウム膜である。空隙45の代わりに音響反射膜が設けられていてもよい。
【0029】
図3(a)および図3(b)は、それぞれ実施例1および比較例1に係るフィルタの断面図である。図3(a)および図3(b)に示すように、実施例1のフィルタ100および比較例1のフィルタ110では、多層基板10上に電子部品20および22が実装されている。電子部品20は、弾性波共振器R2が実装された部品である。電子部品20下面には端子21が設けられている。電子部品22は、セラミックス層等の誘電体層が積層された積層体である。電子部品22には、図1のうちインダクタL5およびL6以外のインダクタおよびキャパシタが設けられている。電子部品22の下面には端子23が設けられている。
【0030】
多層基板10は、積層された複数の絶縁層11aから11cを備えている。絶縁層11aから11cは、例えばガラスエポキシ樹脂等の樹脂、またはLTCC(Low Temperature Co-fired Ceramics)もしくはHTCC(High Temperature Co-fired Ceramics)等のセラミックスである。絶縁層11aおよび11bの上面には金属層12aおよび12bが設けられている。絶縁層11cの下面には端子14が設けられている。絶縁層11aから11cを貫通するビア配線13aから13cが設けられている。金属層12a、12b、ビア配線13aから13cおよび端子14は、例えば銅層、金層またはアルミニウム層等の金属層である。絶縁層11c下面には開口15aを有するソルダーレジスト15が設けられている。ソルダーレジスト15の開口15aから端子14の少なくとも一部が露出する。ソルダーレジスト15は、エポキシ樹脂等の樹脂層である。端子14は、信号端子T1、T2およびグランド端子Tgを含む。
【0031】
多層基板10の上面の金属層12aと電子部品20の下面の端子21および電子部品22の下面の端子23とははんだ24により接続されている。多層基板10上には、電子部品20および22を封止する封止部26が設けられている。封止部26は例えばエポキシ樹脂等の樹脂層である。樹脂層には無機フィラーが含まれていてもよい。封止部26が設けられておらず、電子部品20および22上に金属板または絶縁板である天板が設けられていてもよい。
【0032】
図4(a)から図4(e)は、実施例1および比較例1における多層基板の平面図である。図4(a)から図4(e)では、実施例1と比較例1の平面図は同じである。また、インダクタL5およびL6以外の金属層およびビア配線の図示を省略している。
【0033】
図4(a)に示すように、絶縁層11a上に金属層12aが設けられている。金属層12aは電子部品20および22が接続される端子として機能する。図4(b)に示すように、絶縁層11aを貫通するビア配線13aが設けられている。図4(c)に示すように、絶縁層11b上に金属層12bが設けられている。金属層12bはインダクタL5の少なくとも一部を形成する線路16a、およびインダクタL6の少なくとも一部を形成する線路16bを含む。図4(d)に示すように、絶縁層11bを貫通するビア配線13bが設けられている。図4(e)に示すように、絶縁層11cを貫通するビア配線13cが設けられている。
【0034】
図5(a)および図5(b)は、それぞれ実施例1および比較例1における多層基板の平面図である。図5(a)および図5(b)は、上方から絶縁層11cの下面を透視した平面図である。図5(a)および図5(b)に示すように、絶縁層11cの下面に端子14が設けられている。端子14として信号端子T1、T2およびグランド端子Tgが設けられている。
【0035】
図4(a)から図5(b)のように、線路16aおよび16bの一端はビア配線13bおよび13cを介しそれぞれ信号端子T1およびT2に電気的に接続されている。線路16aおよび16bの他端はビア配線13bおよび13cを介しグランド端子Tgに電気的に接続されている。線路16aおよび16bの一端は、ビア配線13aおよび金属層12aを介し電子部品22に電気的に接続されている。
【0036】
図3(a)および図5(a)のように、実施例1のフィルタ100では、グランド端子Tgは信号端子T1およびT2より大きく、平面視において線路16aおよび16bの半分程度と重なっている。図3(b)および図5(b)のように、比較例1のフィルタ110では、グランド端子Tgは信号端子T1およびT2とほぼ同じ大きさであり、平面視においてグランド端子Tgが線路16aおよび16bとほとんど重なっていない。
【0037】
実施例1および比較例1では整合回路M1およびM2のインダクタL5およびL6の少なくとも一部を形成する線路16aおよび16bを多層基板10内に設けることで、フィルタ100および110の小型化が可能となる。しかし、比較例1では以下のような課題が存在する。
【0038】
図6(a)および図6(b)は、比較例1に係るフィルタを実装基板に搭載した断面図である。図6(a)および図6(b)をそれぞれ測定方法AおよびBとする。図6(a)に示すように、測定方法Aでは、比較例1のフィルタ110の検査のため、フィルタ110を導電シート36を介し実装基板30上にフィルタ110を搭載する。フィルタ110の端子14と実装基板30上の端子32とは導電シート36を介し電気的に接続される。
【0039】
図6(b)に示すように、測定方法Bでは、比較例1のフィルタ110をはんだ34を用い実装基板30上にフィルタ110を搭載する。フィルタ110の端子14と実装基板30上の端子32とははんだ34を介し電気的に接続される。
【0040】
図6(a)の測定方法Aでのフィルタ110の下面と実装基板30の上面との距離D1は図6(b)の測定方法Bでのフィルタ110の下面と実装基板30の上面との距離D2より長くなる。これにより、図6(a)の測定方法Aの端子14と端子32との間のインダクタンスが図6(b)の測定方法Bの端子14と端子32との間のインダクタンスより大きくなる。よって、インダクタL5およびL6のインダクタンスが異なることとなり、フィルタ特性が異なってしまう。
【0041】
図7(a)から図7(c)は、比較例1における測定方法AおよびBのフィルタ特性を示す図である。図7(a)は、測定方法AおよびBにおける信号端子T1における反射特性S11を示すスミスチャートである。図7(b)および図7(c)は、それぞれ測定方法AおよびBにおける信号端子T1からT2の通過特性S21(減衰量)を示す図である。図7(b)および図7(c)において、破線はグラフの右側の縦軸の目盛に対応し、実線はグラフの左側の縦の目盛に対応する。破線は実線の減衰量を拡大した減衰量を示している。マーカーm1およびm2は通過帯域を示し、それぞれ5150MHzおよび7125MHzである。1000MHzから10000MHzまでの特性を測定した。各素子のインダクタンスおよびキャパシタンスは後述するシミュレーション2のフィルタFとほぼ同じである。
【0042】
図7(a)に示すように、測定方法AとBでは、マーカーm1より低い(すなわち通過帯域より低い)周波数において反射特性が異なる。マーカーm1とm2の間(すなわち通過帯域内)の反射特性はほぼ基準インピーダンスである。
【0043】
図7(b)および図7(c)に示すように、通過帯域より低い周波数では3つの極小を有する減衰極50から52が形成されている。減衰極50は主に弾性波共振器R2により形成される減衰極である。減衰極51は主にフィルタ回路F1により形成される減衰極である。減衰極52はフィルタ回路F1および整合回路M1およびM2の全体で形成される減衰極である。
【0044】
図7(b)および図7(c)のように、減衰極50は測定方法AとBとでほとんど変わらない。減衰極51は、測定方法AではBより周波数がやや低くなっている。減衰極52は、測定方法AではBより周波数が高くなっている。このように、測定方法AではBに比べ、主に減衰極52が低周波数に移動するため、4000MHzあたりの減衰量が大きくなっている。
【0045】
このように、比較例1では、多層基板10の下面と実装基板30の上面との距離が変化すると、フィルタ特性が大きく変化しまう。これにより、例えば図6(a)と図6(b)のように、フィルタ110を検査するときと、実装基板30に実装したときとでフィルタ特性が変化してしまう。また、実装基板30にフィルタ110を実装したときのはんだ34の厚さによりフィルタ特性が変化してしまう。
【0046】
[シミュレーション1]
グランド端子Tgの大きさを変えたインダクタL5の実装基板30の端子32間のインダクタンスを3次元有限要素法を用いシミュレーションした。絶縁層11bおよび11cの厚さの合計を85μm、絶縁層11bおよび11cの比誘電率を4.4とした。測定方法Aにおける距離D1を150μm、測定方法Bにおける距離D2を10μmとした。
【0047】
図8(a)から図8(c)は、シミュレーション1におけるそれぞれサンプルCからEの平面図である。図8(a)から図8(c)では、絶縁層11c、金属層12b、ビア配線13b、13c、端子14、線路16aおよび端子32を図示している。線路16aのうち信号端子T1に重なる領域56およびグランド端子Tgに重なる領域54のクロスハッチングを密にしている。サンプルCは比較例1に相当し、サンプルDおよびEは実施例1に相当する。
【0048】
図8(a)に示すように、サンプルCでは、グランド端子Tgは信号端子T1とほぼ同じ平面面積である。領域54は、線路16aのうち、線路16aがビア配線13bおよび13cを介し接続されたグランド端子Tgに平面視において重なる領域である。領域56は、線路16aのうち、線路16aがビア配線13bおよび13cを介し接続された信号端子T1に平面視において重なる領域である。領域58は金属層12bのうち領域54および56以外の領域である。領域54は領域56と同程度の面積である。線路16aの中央部で端子14cと重なるが端子14cと金属層12bとはフィルタ内では電気的に接続されていない。
【0049】
図8(b)に示すように、サンプルDでは、グランド端子Tgは信号端子T1より平面面積が大きい。領域54の平面面積は金属層12bの平面面積の半分以上である。
【0050】
図8(c)に示すように、サンプルEでは、グランド端子Tgは信号端子T1より平面面積がサンプルDより大きい。グランド端子Tgは絶縁層11cの下面のうち信号端子T1およびT2以外の領域に広がっている。領域54の平面面積は金属層12bの平面面積の80%以上である。
【0051】
図9(a)から図9(c)は、シミュレーション1におけるそれぞれサンプルCからEの周波数に対するインダクタンスを示す図である。図9(a)に示すように、サンプルCでは、測定方法Aでは測定方法Bよりインダクタンスが大きい。6GHzにおける測定方法AおよびBのインダクタンスはそれぞれ1.25nHおよび0.97nHであり、測定方法BからAへの増加率は129%である。
【0052】
図9(b)に示すように、サンプルDでは、測定方法Aと測定方法Bとのインダクタンスの差はサンプルCより小さい。6GHzにおける測定方法AおよびBのインダクタンスはそれぞれ1.07nHおよび0.93nHであり、測定方法BからAへの増加率は116%である。図9(c)に示すように、サンプルEでは、測定方法Aと測定方法Bとのインダクタンスの差はサンプルDより小さい。6GHzにおける測定方法AおよびBのインダクタンスはそれぞれ1.01nHおよび0.91nHであり、測定方法BからAへの増加率は111%である。
【0053】
このように、領域54の面積を大きくすると測定方法AとBとのインダクタンスの差が小さくなる。
【0054】
図10(a)および図10(b)は、実施例1に係るフィルタを実装基板に搭載した断面図である。図10(a)および図10(b)では、比較例1の図6(a)および図6(b)に比べグランド端子Tgが金属層12bと重なる領域54が大きい。領域54が大きくなると、端子14と32との距離D1とD2が異なってもインダクタL5への影響が小さくなるものと考えられる。
【0055】
図11(a)から図11(c)は、それぞれ実施例1の変形例1から3に係るフィルタの平面図である。図11(a)から図11(c)は、主に絶縁層11c、金属層12b、端子14、ソルダーレジスト15の開口15a、線路16a、16bおよび端子32を図示している。
【0056】
[実施例1の変形例1]
図11(a)に示すように、実施例1の変形例1では、インダクタL5およびL6の少なくとも一部をそれぞれ形成する線路16aおよび16bが設けられている。線路16aおよび16bともに、領域54の平面面積は金属層12bの平面面積の50%以上である。線路16aおよび16bがそれぞれ接続される2つのグランド端子Tgは分離して設けられている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0057】
[実施例1の変形例2]
図11(b)に示すように、実施例1の変形例2では、線路16aおよび16bがそれぞれ接続されるグランド端子Tgは共通に設けられている。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0058】
[実施例1の変形例3]
図11(c)に示すように、実施例1の変形例3では、グランド端子Tgが信号端子T1とT2との間に設けられている。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0059】
実施例1およびその変形例によれば、フィルタ回路F1は信号端子T1(第1信号端子)と信号端子T2(第2信号端子)との間に接続されている。多層基板10(基板)の下面(第1面)に信号端子T1およびT2並びにグランド端子Tgが設けられ、上面(第1面と反対の第2面)側(すなわち多層基板10の上面またはその上方)にフィルタ回路F1を形成する電子部品20および22が設けられている。線路16a(第1線路)は多層基板10内に設けられ、線路16aの一端は信号端子T1に接続され、他端はグランド端子Tg(第1グランド端子)に接続されている。グランド端子Tgは、多層基板10を平面視したとき、線路16aと信号端子T1とが重なる面積よりも大きい面積で線路16aと重なる。これにより、実装基板30と多層基板10との距離の変化に起因するフィルタ特性の変化を抑制できる。
【0060】
多層基板10の上面側にフィルタ回路F1を設ける例を説明したが、フィルタ回路F1の一部(例えばキャパシタおよびインダクタの少なくとも一部)は多層基板10内に設けられていてもよい。すなわち、多層基板10の上面側にフィルタ回路F1の少なくとも一部が設けられていればよい。この場合、線路16aおよび16bはフィルタ回路F1より多層基板10の下面側に設けられる。線路16aおよび線路16bと多層基板10の下面との間には他のキャパシタ、インダクタおよび線路は設けられていないことが好ましい。線路16aおよび16bが設けられる例を説明したが、線路16aおよび16bのいずれか一方が設けられていればよい。
【0061】
実施例1の変形例1のように、線路16aおよび16bが複数設けられ、線路16aおよび16bの各々と個別に対応して接続される複数のグランド端子Tgが設けられている。このとき、一部の線路16aは信号端子T1に接続され、多層基板10を平面視したとき線路16aと対応するグランド端子とが重なる面積は、線路16aと信号端子T1が重なる面積より大きい。また、他の線路16bは信号端子T2に接続され、多層基板10を平面視したとき線路16bと対応するグランド端子Tgとが重なる面積は、線路16bと信号端子T2とが重なる面積より大きい。これにより、実装基板30と多層基板10との距離の変化に起因するフィルタ特性の変化を抑制できる。
【0062】
シミュレーション1の結果のように、領域54の面積が大きくなると、実装基板30と多層基板10との距離の変化に起因するフィルタ特性の変化を抑制できる。よって、線路16aおよび16bの少なくとも一方において、領域54の面積は領域56の面積の2倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましく、10倍以上がさらに好ましい。また、領域54の面積は線路16aの平面視における面積の50%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0063】
なお、信号端子T1およびT2がそれぞれ入力端子および出力端子の例を説明したが、信号端子T1およびT2はそれぞれ出力端子および入力端子でもよい。
【0064】
実施例1の変形例2および3のように、一部の線路16aは、信号端子T1とグランド端子Tgとの間を接続し、多層基板10を平面視したとき線路16aとグランド端子Tgが重なる面積は、線路16aと信号端子T1とが重なる面積より大きい。線路16bは、信号端子T2とグランド端子Tgとの間を接続し、多層基板10を平面視したとき線路16bとグランド端子Tgが重なる面積は、線路16bと信号端子T2とが重なる面積より大きい。これにより、グランド端子Tgと実装基板30の端子32との間に、後述する実施例2のフィルタGにおけるインダクタL7が形成できる。よって、後述するように減衰域の減衰特性を向上できる。
【0065】
フィルタ回路F1の回路構成は実施例1には限られないが、フィルタ回路F1は、信号端子T1とT2との間に接続された弾性波共振器R2、インダクタおよびキャパシタを備えることが好ましい。
【0066】
[他の回路構成]
図12(a)から図12(d)は、実施例1の他の回路構成を示す回路図である。図12(a)に示すように、インダクタL8、L9、キャパシタC5、C6およびC9は設けられていなくてもよい。一端が接地され他端がノードN1に接続された素子を第1素子とし、信号端子T1とT2との間に接続された素子を第2素子とし、信号端子T1とT2との間に第2素子と並列接続された素子を第3素子、信号端子T1とT2との間に第3素子と直列接続され、第2素子と並列接続された素子を第4素子とすると、第1素子はインダクタL1、第2素子は弾性波共振器R2、第3素子はキャパシタC3、第4素子はキャパシタC4である。その他の回路構成は図1と同じであり説明を省略する。
【0067】
図12(b)に示すように、第1素子はキャパシタC1、第2素子は弾性波共振器R2、第3素子はインダクタL3、第4素子はインダクタL4でもよい。図12(c)に示すように、第1素子は弾性波共振器R1、第2素子はキャパシタC2、第3素子はインダクタL3、第4素子はインダクタL4でもよい。図12(d)に示すように、第1素子は弾性波共振器R1、第2素子はインダクタL2、第3素子はキャパシタC3、第4素子はキャパシタC4でもよい。
【0068】
このように、第1素子は、弾性波共振器R1、インダクタL1またはキャパシタC1から選択される。第2素子は第1素子が弾性波共振器R1のときインダクタL2およびキャパシタC2から選択される素子であり、第1素子がインダクタL1またはキャパシタC1のとき弾性波共振器R2である。第3素子は、インダクタL3およびキャパシタC3のうち第1素子または第2素子において選択されたインダクタおよびキャパシタとは異なる素子である。第4素子は、インダクタL4およびキャパシタC4のうち第3素子と同じ素子である。
【0069】
図7(b)および図7(c)のように、フィルタの通過特性は、1または複数の弾性波共振器R1またはR2により形成される減衰極50(第1減衰極)と、フィルタ回路F1により形成される減衰極51(第2減衰極)と、フィルタ回路F1、線路16aおよび16bにより形成される減衰極52(第3減衰極)と、を有する。減衰極50から52は通過帯域より周波数が低く、減衰極51は減衰極52と通過帯域との間に形成され、減衰極50は減衰極51と通過帯域との間に形成される。このように、弾性波共振器R1またはR2により通過帯域と減衰域との減衰量の急峻性を高めることができる。このようなフィルタでは、減衰極52の周波数が変化すると、フィルタの減衰特性が変化しやすい。そこで、領域54を領域56より大きくすることが好ましい。
【0070】
実施例1およびその変形例では、フィルタ100がハイパスフィルタを例に説明したが、ローパスフィルタでまたはバンドパスフィルタもよい。ローパスフィルタでは、減衰極50から52は通過帯域より高い周波数となる。整合回路M1およびM2として用いるインダクタL5およびL6では減衰極52は低い周波数に形成しやすい。この観点から、フィルタ100はハイパスフィルタであることが好ましい。
【0071】
弾性波共振器R2は1つの弾性波共振器もよいが、図1のように複数の弾性波共振器でもよい。
【実施例2】
【0072】
[シミュレーション2]
実施例2に係るフィルタのシミュレーションを行った。図13(a)から図13(c)は、シミュレーション2におけるそれぞれフィルタF、GおよびHの回路図である。フィルタFは比較例2に相当し、フィルタGおよびHは実施例2に相当する。
【0073】
図13(a)に示すように、フィルタFでは、図1の弾性波共振器R2が1つの弾性波共振器R2である以外は図1と同じであり説明を省略する。図13(b)に示すように、フィルタGではノードN4とグランド端子Tgとの間にインダクタL7が接続されている。その他の回路はフィルタFと同じであり説明を省略する。図13(c)に示すように、フィルタHでは、信号端子T1とT2との間にフィルタ回路F1と並列にキャパシタC7が接続されている。
【0074】
フィルタFにおけるキャパシタC5およびC6のキャパシタンスを1.8pFとした。フィルタGでは、インダクタL7のインダクタンスが0.05nHのときのキャパシタC5およびC6を2.1pF、インダクタL7のインダクタンスが0.07nHおよび0.12nHのときのキャパシタC5およびC6を2.2pFとした。フィルタHにおけるキャパシタC5およびC6のキャパシタンスを2.5pFとし、インダクタL7のインダクタンスを0.12nH、キャパシタC7のキャパシタンスを0.04pFとした。フィルタF、GおよびHにおけるインダクタL5およびL6のインダクタンスを1.3nHとした。その他のキャパシタのキャパシタンスおよびインダクタのインダクタンスは所望の減衰特性が得られるように設定し、フィルタF、GおよびHでほぼ同じ値とした。
【0075】
図13(d)は、シミュレーション2における弾性波共振器の等価回路である。図13(d)に示すように、弾性波共振器R2の端T01とT02との間に抵抗R01とキャパシタC02が直列に接続され、キャパシタC02にキャパシタC01およびインダクタL01が並列接続されている。シミュレーション2では、抵抗R01の抵抗値、キャパシタC01およびC02のキャパシタンスおよびインダクタL01のインダクタンスをそれぞれ5Ω、9.8fF、0.19pFおよび97.9nHとした。
【0076】
図14(a)および図14(b)は、シミュレーション2におけるフィルタF、GおよびHの通過特性S21を示す図である。図14(a)はフィルタFとフィルタGのL7が0.05nHおよび0.07nHの通過特性を示し、図14(b)はフィルタGのL7が0.07nHおよび0.12nHおよびフィルタHの通過特性を示す。
【0077】
図14(a)に示すように、フィルタFでは減衰極52が1000MHz以下となり、4000MHzあたりの減衰量が小さくなる。フィルタGでは、インダクタL7のインダクタンスを大きくすると減衰極52の極小の周波数は高くなる。これにより、4000MHzあたりの減衰極が大きくなる。このように、インダクタL7を設けることで、減衰域の減衰量を大きくできる。
【0078】
図14(b)に示すように、フィルタGにおいて、インダクタL7のインダクタンスが0.12nHとなると減衰極51と52とが一体となり減衰量が小さくなる。フィルタHのように、キャパシタC7を設けることで、減衰極51と52が分離し、4000MHzあたりの減衰量が大きくなる。このように、インダクタL7のインダクタンスを小さくできない場合でもキャパシタC7を設けることで、減衰域の減衰量を大きくできる。
【0079】
[他の回路構成]
図15(a)から図15(d)は、実施例2の他の回路構成を示す回路図である。図15(a)に示すように、インダクタL8、L9、キャパシタC5、C6およびC9は設けられていなくてもよい。一端が接地され他端がノードN1に接続された素子を第1素子とし、信号端子T1とT2との間に接続された素子を第2素子とし、信号端子T1とT2との間に第2素子と並列接続された素子を第3素子、信号端子T1とT2との間に第3素子と直列接続され、第2素子と並列接続された素子を第4素子とすると、第1素子はインダクタL1、第2素子は弾性波共振器R2、第3素子はキャパシタC3、第4素子はキャパシタC4である。その他の回路構成は図13(b)と同じであり説明を省略する。
【0080】
図15(b)に示すように、第1素子はキャパシタC1、第2素子は弾性波共振器R2、第3素子はインダクタL3、第4素子はインダクタL4でもよい。図15(c)に示すように、第1素子は弾性波共振器R1、第2素子はキャパシタC2、第3素子はインダクタL3、第4素子はインダクタL4でもよい。図15(d)に示すように、第1素子は弾性波共振器R1、第2素子はインダクタL2、第3素子はキャパシタC3、第4素子はキャパシタC4でもよい。
【0081】
このように、第1素子は、弾性波共振器R1、インダクタL1またはキャパシタC1から選択される。第2素子は第1素子が弾性波共振器R1のときインダクタL2およびキャパシタC2から選択される素子であり、第1素子がインダクタL1またはキャパシタC1のとき弾性波共振器R2である。第3素子は、インダクタL3およびキャパシタC3のうち第1素子または第2素子において選択されたインダクタおよびキャパシタとは異なる素子である。第4素子は、インダクタL4およびキャパシタC4のうち第3素子と同じ素子である。
【0082】
インダクタL5(第1インダクタ)は、一端が信号端子T1と第2素子および第3素子との間のノードN2に接続されている。インダクタL6(第2インダクタ)は、一端が信号端子T2と第2素子および第4素子との間のノードN3に接続されている。インダクタL7(第3インダクタ)は、一端がインダクタL5の他端およびインダクタL6の他端に接続され、他端が接地されている。これにより、フィルタGのように、フィルタの段数を増加させずに減衰域における減衰特性を向上できる。インダクタL7は、実施例1の多層基板10内に形成してもよいが、多層基板10のグランド端子Tgと実装基板30の端子32との間のはんだ34により形成されるインダクタでもよい。
【0083】
図7(b)および図7(c)のように、フィルタの通過特性は、1または複数の弾性波共振器R1またはR2により形成される減衰極50(第1減衰極)と、フィルタ回路F1により形成される減衰極51(第2減衰極)と、フィルタ回路F1およびインダクタL5からL7により形成される減衰極52(第3減衰極)と、を有する。減衰極50から52は通過帯域より周波数が低く、減衰極51は減衰極52と通過帯域との間に形成され、減衰極50は減衰極51と通過帯域との間に形成される。このように、弾性波共振器R1またはR2により通過帯域と減衰域との減衰量の急峻性を高めることができる。また、インダクタL7を設けることで、減衰極52を高い周波数に移動することができる。これにより、減衰域の減衰特性を向上できる。
【0084】
図14(b)のように、インダクタL7のインダクタンスが大きすぎると減衰域の減衰量が低下する。よって、インダクタL7のインダクタンスはインダクタL5のインダクタンスおよびインダクタL6のインダクタンスより小さいことが好ましい。インダクタL7のインダクタンスは、インダクタL3のインダクタンスおよびインダクタL6のインダクタンスの1/5倍以下がより好ましく、1/15倍以下がさらに好ましい。インダクタL7のインダクタンスが小さすぎると、減衰特性向上の効果が小さくなる。この観点からインダクタL7のインダクタンスは、インダクタL3のインダクタンスおよびインダクタL6のインダクタンスの1/100倍以上がより好ましく、1/50倍以上がより好ましい。
【0085】
フィルタGのように、インダクタL5の一端と第2素子および第3素子とを接続するキャパシタC5(第1キャパシタ)と、インダクタL6の一端と第3素子および第4素子とを接続するキャパシタ(第2キャパシタ)と、が設けられていてもよい。これにより、インダクタL5とキャパシタC5とで整合回路M1を形成でき、インダクタL6とキャパシタC6とで整合回路M2を形成できる。
【0086】
インダクタL7のインダクタンスを小さくできない場合がある。例えば、インダクタL7が多層基板10のグランド端子Tgと実装基板30の端子32との間のはんだ34により形成されるインダクタの場合、インダクタL7のインダクタンスを小さくできないことがある。そこで、図13(c)のフィルタHのように、インダクタL5の一端とインダクタL6の一端とを接続するキャパシタC7(第3キャパシタ)を設ける。これにより、図14(b)のフィルタHのように、減衰域の減衰特性を向上できる。
【0087】
キャパシタC7のキャパシタンスは、キャパシタC5のキャパシタンスおよびキャパシタC6のキャパシタンスより小さいことが好ましく、キャパシタC5のキャパシタンスおよびキャパシタC6のキャパシタンスの1/10倍以下がより好ましい。
【0088】
弾性波共振器R1またはR2は1つの弾性波共振器もよいが、複数の弾性波共振器でもよい。
【実施例3】
【0089】
実施例3は、実施例1、2およびその変形例が用いられるマルチプレクサの例である。図16は、実施例3に係るトリプレクサの回路図である。図16に示すように、トリプレクサ60はフィルタ62、64および66を備えている。共通端子Antと端子LB、MBおよびHBとの間にそれぞれフィルタ62、64および66が接続されている。共通端子Antにはアンテナ68が接続されている。フィルタ62は例えばローパスフィルタであり、ローバンドの高周波信号を通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。フィルタ64は例えばバンドパスフィルタであり、ローバンドより高い周波数のミドルバンドの高周波信号を通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。フィルタ66は例えばハイパスフィルタであり、ミドルバンドより高い周波数のハイバンドの高周波信号を通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。
【0090】
フィルタ62、64および66の少なくとも1つのフィルタを実施例1または2のフィルタとすることができる。マルチプレクサの例としてトリプレクサの例を説明したが、マルチプレクサはダイプレクサ、デュプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0091】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0092】
10 多層基板
11a~11c 絶縁層
12a、12b 金属層
13a~13c ビア配線
14、21、23、32 端子
15 ソルダーレジスト
15a 開口
16a、16b 線路
20、22 電子部品
24、34 はんだ
図1
図2
図3
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