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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】運動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/04 20060101AFI20240319BHJP
   F16H 19/04 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
F16C29/04
F16H19/04 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020038021
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021139442
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】趙 彬
(72)【発明者】
【氏名】芳野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 慎史
(72)【発明者】
【氏名】雨宮 容平
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-176820(JP,A)
【文献】特開平06-088418(JP,A)
【文献】特開2002-327742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/04
F16H 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って延びる転走面が形成されると共に、互いに相対移動可能な一対の軌道部材と、前記転走面に沿って配列される複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器とを備え、
前記保持器は、前記軌道部材に取り付けられたラック部と噛み合うと共に回転自在に取り付けられた歯車を備え、
前記ラック部は、前記軌道部材が互いに対向する面のうち、前記転走面以外の面に前記転走面の少なくとも一方の縁部に沿って形成されたラック取付面に前記ラック取付面に形成された取付穴に係合する係合部を有する一体化手段によって前記軌道部材と一体に形成されると共に、前記軌道部材とは異なる材質で構成され、前記軌道部材が互いに対向する方向と略直交する方向に突出するラック歯と、前記転走面の延設方向に沿って形成された逃げ溝を備えることを特徴とする運動案内装置。
【請求項2】
請求項に記載の運動案内装置において、
前記取付穴の内壁には凸部又は凹部の少なくともいずれか一方が形成されることを特徴とする運動案内装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の運動案内装置において、
前記軌道部材は金属で形成され、前記ラック部は合成樹脂で形成されることを特徴とする運動案内装置。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の運動案内装置において、
前記歯車の回転軸は、前記一対の軌道部材の対向する方向と略平行に配置されることを特徴とする運動案内装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、XYテーブルや物品搬送装置などのFA機器においては、駆動手段によって物品や部材等を移動させるために、移動方向に沿って配置された運動案内装置が用いられている。
【0003】
このような運動案内装置は、長手方向に沿って延びる転走面が形成されると共に、互いに相対移動可能な一対の軌道部材と、該転走面に沿って配列された複数の転動体と、該転動体を保持する保持器を備えている。転動体は、転走面の間を荷重を負荷しながら転走するため、該転走に伴って保持器の位置がずれないようにずれ防止機構を備えた運動案内装置が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された運動案内装置は、機械部品を取付けかつこれを縦移動軸の方向に案内する直線運動案内装置であって、機械部品に固定されるように設けられた第1のガイド要素は、同様に機械部品に固定されるように設けられた第2のガイド要素に関して縦移動軸に沿って複数の転動体によって案内され、この目的で、各ガイド要素は縦移動軸に平行に延びる溝状凹部を有しており、各ガイド要素の凹部の境界面は転動体の転動面として設けられており、転動体は、2つのガイド要素間で少なくとも1つの保持器に1つ又は複数の列で順次に配列されており、保持器は少なくとも1つの第1の確動ガイド手段を備えており、第1の確動ガイド手段を備える保持器は、2つのガイド要素にそれぞれ固定された2つの第2の確動ガイド手段によって案内され、これら2つの第2の確動ガイド手段のうち、一方の第2の確定ガイド手段は第1のガイド要素に対して所定の場所に固定され、他方の第2の確定ガイド手段は第2のガイド要素に対して所定の場所に固定されているものにおいて、2つの第2の確動ガイド手段は、溝状凹部以外の所で2つのガイド要素の少なくとも1つの外面にそれぞれ固定され、かつ第1の確動ガイド手段を案内するために2つのガイド要素の間に突出しており、ここで第1の確動ガイド手段と作用可能に連結されている。
【0005】
このような運動案内装置によれば、第1の確動ガイド手段としてのピニオン歯車と第2の確動ガイド手段としてのラック部材とが噛み合っていることで、軌道部材が互いに相対移動した場合であっても、転動体の転走に伴って保持器の位置がずれることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4061572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のずれ防止構造は、ラック部材を軌道部材とは別部材で作製し、接着剤やボルトなどの締結手段によってラック部材を軌道部材に固定している。このような固定方法によると、ラック部材を軌道部材に固定する際に、締結不良などの人為的なミスが生じる可能性があるという問題があった。
【0008】
また、ラック部材と軌道部材とを別部材で構成していることから、部品点数を抑制することが難しいという問題があった。さらに、従来の固定方法によるとラック部材の取付部を軌道部材の外面に取り付ける構造となることから、該取付部が運動案内装置の外部に露出することとなり、運動案内装置の小型化を阻害するという問題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、ラック部材を軌道部材に固定する際に人為的なミスを生じさせないように良好な組み立て性を有すると共に、部品点数の抑制及び運動案内装置の小型化を図ることができる運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明に係る運動案内装置は、長手方向に沿って延びる転走面が形成されると共に、互いに相対移動可能な一対の軌道部材と、前記転走面に沿って配列される複数の転動体と、前記転動体を保持する保持器とを備え、前記保持器は、前記軌道部材に取り付けられたラック部と噛み合うと共に回転自在に取り付けられた歯車を備え、前記ラック部は、前記軌道部材が互いに対向する面のうち、前記転走面以外の面に前記転走面の少なくとも一方の縁部に沿って形成されたラック取付面に前記ラック取付面に形成された取付穴に係合する係合部を有する一体化手段によって前記軌道部材と一体に形成されると共に、前記軌道部材とは異なる材質で構成され、前記軌道部材が互いに対向する方向と略直交する方向に突出するラック歯と、前記転走面の延設方向に沿って形成された逃げ溝を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る運動案内装置によれば、ラック部を軌道部材と一体に形成すると共に、軌道部材とラック部とを異なる材質で構成しているので、軌道部材にラック部を固定する工程を削減することで組み立て性を向上させることができる。また、軌道部材とラック部を一体に構成しているので、部品点数の抑制及び運動案内装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る運動案内装置の斜視図。
図2】本発明の実施形態に係る運動案内装置の分解図。
図3】本発明の実施形態に係る運動案内装置の軌道部材の分解図。
図4図2におけるA-A断面図。
図5図4におけるB部拡大図。
図6】本発明の実施形態に係る運動案内装置のラック部材の取付状態の変形例を示す拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る運動案内装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の斜視図であり、図2は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の分解図であり、図3は、本発明の実施形態に係る運動案内装置の軌道部材の分解図であり、図4は、図2におけるA-A断面図であり、図5は、図4におけるB部拡大図であり、図6は、本発明の実施形態に係る運動案内装置のラック部材の取付状態の変形例を示す拡大図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る運動案内装置1は、長手方向に沿って互いに相対移動可能な一対の軌道部材10,10を備えた、所謂クロスローラガイドである。運動案内装置1は、軌道部材10に形成された固定孔14にボルトなどの締結手段によって相手部材に固定される。なお、軌道部材10は、互いに同一の形状の軌道部材10を上下を反転させることで組み合わされている。このように互いに同一形状の軌道部材10を用いることで、部品点数を低減してコスト抑制を図ることができる。
【0016】
図2及び図3に示すように、本実施形態に係る運動案内装置1は、長手方向に沿って延びる転走面11が形成された軌道部材10と、転走面11に沿って配列される複数の転動体20と、該転動体20を所定の間隔で保持する保持器21とを備えている。転走面11は、略90°に形成されたV字状の溝として形成されており、該転走面11に転動体20が転走可能に配列されている。
【0017】
軌道部材10の転走面11の軌道部材10が互いに対向する面のうち、転走面11以外の面には、ラック部12が軌道部材10と一体に形成されている。本実施形態に係る運動案内装置1では、転走面11と並列して形成されたラック取付面18にラック部12を後述する一体化手段によって取り付けている。ラック部12は、後述する歯車22に噛み合うラック歯13が形成されている。また、ラック部12は、軌道部材10とは異なる材質で構成されており、例えば、軌道部材10が金属で構成され、ラック部12が、例えば、POM(ポリアセタール)などの合成樹脂で構成することができる。
【0018】
軌道部材10の長手方向の両端にはストッパ取付部16が形成されており、当該ストッパ取付部16には、転走面11を転走する転動体20の脱落を防止するストッパ15が取り付けられている。
【0019】
転動体20は、円筒状のローラであり、隣り合う転動体20を交互に直交させて組み込まれている。このように隣り合う転動体20を互いに直交するように配列することで、運動案内装置1にかかる様々な方向の荷重を負荷することができる。さらに、転動体20は、保持器21によって所定の間隔に保持されている。
【0020】
保持器21は、合成樹脂や金属で構成されると好適であり、転動体20の間に介在する間座部25及び、間座部25を長手方向に沿って連結する連結帯24を備えている。間座部25は、転動体20が保持器21から脱落しないように脱落防止手段が形成されると好適であり、転走面11の間を円滑に移動することができるように、長手方向の直交断面形状が転走面11に対応した形状となっている。また、連結帯24は、ラック部12に形成された逃げ溝26と干渉しないように、軌道部材10の間に介在している。
【0021】
このように、本実施形態に係る運動案内装置1は、軌道部材10の相対移動に伴って転動体20が転走面11を転走することで、荷重を負荷することができる。また、転動体20は転走面11間を直線的に往復動する所謂有限軌道を構成しており、転走面11の両端に転動体20が至った場合にストッパ15と当接することで軌道部材10のストローク範囲を規制している。
【0022】
また、保持器21には、歯車22が回転自在に取り付けられており、該歯車22は、ラック部12に形成されたラック歯13と噛み合っている。このラック部12と歯車22の噛み合いによって、軌道部材10が相対移動した場合に、転動体20のすべりなどから生じる軌道部材10の位置ずれを防止する位置ずれ防止機構を構成している。
【0023】
歯車22は、回転軸23を保持器21に挿入することによって回転自在に配置されており、回転軸23は、軌道部材10の対向する方向と略平行に配置されており、円板状の歯車22が軌道部材10の間に介在するように配置されている。このように歯車22の回転軸23を軌道部材10の対向する方向と略平行に配置することで、運動案内装置1の小型化を図ることができる。
【0024】
次に、図4から6を参照して軌道部材10とラック部12の一体化方法について説明を行う。図4に示すように、ラック部12は、軌道部材10のラック取付面18に取り付けられており、ラック取付面18に所定の間隔で形成された取付穴19にラック部12の係合部17を係合させて一体化されている。
【0025】
軌道部材10とラック部12の一体化手段は、金属と合成樹脂などの互いに異なる材質を一体化することができる手段であればどのように構成しても構わないが、例えば、軌道部材10にラック部12をインサート成型して形成されると好適である。このように軌道部材10に予めラック部12をインサート成型することで、ラック部12を軌道部材10に固定する作業を削減することができ、人為的なミスを生じさせずに組み立て性を向上させることができる。
【0026】
また、図5に示すように、取付穴19は、開口から穴底に向かって内径が漸次広がる略円錐状に形成されると、インサート成型によって取付穴19内に溶融した合成樹脂が充填された後、合成樹脂が固化することでラック部12の脱落を防止するラック脱落防止手段を構成することができる。
【0027】
このラック脱落防止手段は、図5に示すような取付穴19を略円錐状に形成することに限定されず、例えば、図6に示すように、取付穴19の内壁19aをタップ加工することで係合部17aに対応した凸部及び凹部を有するねじ溝を形成し、該ねじ溝に溶融した合成樹脂を充填して構成しても構わない。また、内壁に形成する形状は、ねじ溝に限定されず、凸部又は凹部の少なくともいずれか一方を形成しても構わない。
【0028】
このように、本実施形態に係る運動案内装置1は、軌道部材10に一体に形成されたラック部12を備えているので、ラック部12を軌道部材10に組付ける工程を削減することで組み立て性を向上させることができる。
【0029】
また、ラック部12は、軌道部材10が互いに対向する面であるラック取付面18に一体に形成され、歯車22を軌道部材10の間に介在するように配置しているので、軌道部材10の対向する方向の幅寸法を増大させずに歯車22とラック部12による位置ずれ防止機構を構成することができる。
【0030】
また、本実施形態に係る運動案内装置1は、軌道部材10とラック部12を異なる材質で構成し、軌道部材10に形成した取付穴19にラック部12の係合部17をインサート成型によって係合させているので、インサート成型後の追加加工を必要とせず、製造コストを抑えることができる。
【0031】
なお、上述した実施形態においては、転動体として、円筒状のローラを用いた場合について説明を行ったが、転動体はローラに限らず、例えば、球状のボールを用いても構わない。また、ラック部12を軌道部材10のラック取付面18に形成し、回転軸23を軌道部材10の対向する方向と略平行に配置した歯車22によって位置ずれ防止機構を構成した場合について説明を行ったが、ラック部12を略V字状の転走面11の底部にラック取付面を形成し、該転走面11の底部に取り付けたラック部12に回転軸を軌道部材10の対向する方向と略直交する方向に配置した歯車を噛み合わせて位置ずれ防止機構を構成しても構わない。
【0032】
また、ストッパ15を削減することで、更なる部品点数を抑制しても構わない。さらに、ラック取付面18に形成した取付穴19は、略等間隔に形成した場合について説明を行ったが、軌道部材10の長さやラック部12の取付強度によって適宜その数や間隔を変更しても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0033】
1 運動案内装置, 10 軌道部材,11 転走面, 12 ラック部, 17 係合部, 19 取付穴, 20 転動体, 21 保持器, 22 歯車, 23 回転軸。
図1
図2
図3
図4
図5
図6