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特許7456831金属検出器を動作させるための方法および金属検出器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】金属検出器を動作させるための方法および金属検出器
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/10 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
G01V3/10 F
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020062232
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2020177013
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】19169830
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511241516
【氏名又は名称】メトラー-トレド・セーフライン・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100092967
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 修
(72)【発明者】
【氏名】クリストス・クティスティス
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-111137(JP,A)
【文献】特開2012-083346(JP,A)
【文献】特開2016-075484(JP,A)
【文献】特開2014-002149(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0172868(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
G01N27/72-27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属検出器を動作させる方法であって、前記金属検出器は平衡コイルシステム(2)を備え、
前記平衡コイルシステム(2)が、少なくとも1つの固定のまたは選択可能な送信機周波数(fTX)、あるいは少なくとも2つの異なる送信機周波数(fTX)を含む波形を有する送信機信号(s1)を提供する送信機ユニット(1)に接続されている送信コイル(21)と、第1の位相検出器(34I)および第2の位相検出器(34Q)を備える受信機ユニット(3)に出力信号を提供する第1の受信コイル(22)および第2の受信コイル(23)と、を有し、
前記第1の位相検出器(34I)および前記第2の位相検出器(34Q)において、前記出力信号が、少なくとも1つの前記送信機周波数(fTX)に対応する関連する基準信号(sRI;sRQ)と比較され、前記出力信号の同相成分(s3I)および直交成分(s3Q)を生成するために互いに位相をオフセットされ、前記出力信号が、信号処理ユニット(4)に転送され、前記信号処理ユニット(4)が、物品またはノイズに起因する信号成分を抑制し、金属汚染物質に起因する信号成分をさらに処理する、方法であって、前記方法は、
a)前記コイルシステム(2)および制御可能スイッチ(25)に誘導結合されている試験コイル(24)を有する、少なくとも1つの試験ループ(28)を提供するステップであって、前記制御可能スイッチ(25)を用いて、前記制御可能スイッチ(25)に適用される第1の制御信号(c25)に応じて、試験ループ(28)が開閉される、ステップと、
b)第1の試験インターバル中に前記制御可能スイッチ(25)を閉じるために前記第1の制御信号(c25)を適用し、または前記第1の試験インターバル中に試験周波数に従って前記制御可能スイッチ(25)を繰り返し開閉するために前記第1の制御信号(c25)を適用し、試験信号(sTφ)を測定し、前記試験信号(sTφ)の位相角(φ)を決定するステップと、
c)第2の試験インターバル中に前記制御可能スイッチ(25)を閉じるために前記第1の制御信号(c25)を適用し、または前記第2の試験インターバル中に試験周波数に従って前記制御可能スイッチ(25)を繰り返し開閉するために前記第1の制御信号(c25)を適用し、試験信号(sTφ’)を測定し、前記試験信号(sTφ)の位相角(φ’;φ+δφ)を決定するステップと、
d)前記第1の試験インターバル中に測定される前記試験信号(sTφ)の前記位相角(φ)と、前記第2の試験インターバル中に測定される前記試験信号(sTφ’)の前記位相角(φ’;φ+δφ)とを比較し、関連する角度差(δφ)を決定するステップと、
e)決定された前記角度差(δφ)を補正するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属検出器を動作させる方法において、前記方法が、前記金属検出器の通常動作中に、または前記コイルシステム(2)の中に製品が存在しないときの試験インターバル中に、前記角度差(δφ)を決定し、補正するステップを含む、方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属検出器を動作させる方法において、前記角度差(δφ)を補正するステップを含み、当該ステップが
- 前記角度差(δφ)に従って前記基準信号(sRI;sRQ)の位相を変化させることにより、あるいは、
- 前記角度差(δφ)に従って前記信号処理ユニット(4、41)内の記録された信号スペクトルのベクトルを回転させることにより、あるいは、
- 前記角度差(δφ)に従って、物品に起因する信号成分(sP‘)を抑制するように設定されているマスクエリア(AMP)、または同位相のノイズに起因する信号成分(sV’)を抑制するように設定されているマスクエリア(AMV)を回転させることにより、
行われる、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の金属検出器を動作させる方法において、当該方法が、試験周波数を用いて前記第1の制御信号(c25)を前記制御可能スイッチ(25)に適用するステップと、得られた前記試験信号(sTφ)を、動作信号の残りのスペクトルから分離するステップと、前記試験信号(sTφ)の前記位相角(φ)を、または前記試験信号(sTφ)の前記位相角(φ)および大きさを決定するステップと、を含む、方法。
【請求項5】
請求項に記載の金属検出器を動作させるための方法において、当該方法が、
a)前記コイルシステム(2)の中に挿入されている、試験サンプルに関連する信号(s;s)を測定するステップと、
b)前記試験サンプルに関連する前記信号(s;s)の前記位相角を決定するステップと;
c)さらなる処理のための予め決定される位置まで、較正角(β)の分だけ、前記試験サンプルに関連する前記信号(s;s)の前記ベクトルを回転させるステップと、
d)較正を実行する前に存在する前記試験信号(sTα)の前記位相角(α)に前記較正角(β)を加え、前記試験信号(sTφ)の新しい位相角(φ)を記録するステップと、
e)後続の試験インターバル中に測定される前記試験信号(sTφ’)の位相角(φ)と比較するために、保存されている前記位相角(φ)を使用するステップと、
を含む、
方法。
【請求項6】
請求項5に記載の金属検出器を動作させる方法において、当該方法が、フェライトまたは製品などの、前記試験サンプルを使用するステップと、前記試験サンプルに関連する前記信号の前記同相成分(I)を最小にするように前記較正角(β)を選択するステップと、を含む、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の金属検出器を動作させるための方法において、当該方法が、前記試験信号(sTφ)の前記位相角(φ)の範囲内のエリアをマスキングすることにより前記試験信号(sTφ)を抑制するステップ、または前記試験信号(sTφ)の周波数に合うようにチューニングされているフィルタを適用することにより前記試験信号(sTφ)を抑制するステップを含む、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の金属検出器を動作させるための方法において、当該方法が、固定インピーダンス(26)を、前記試験コイル(24)におよび前記制御可能スイッチ(25)に直列に接続し、あるいは第2の制御信号(c26)により制御可能である制御可能なインピーダンス(26)を、前記試験コイル(24)におよび前記制御可能スイッチ(25)に直列に接続するステップと、所望の大きさ、および/あるいは好適には、試験サンプルにまたは製品に対応する位相角(φ)を前記試験信号(sTφ)が有する値に、前記制御可能なインピーダンス(26)を設定するステップと、を含む、方法。
【請求項9】
請求項8に記載の金属検出器を動作させるための方法において、当該方法が、
物品またはノイズに起因する前記信号成分を抑制するように前記信号処理ユニット(4)が設定される対象として前記試験ループ(28)が機能する値に、前記制御可能なインピーダンス(26)を設定するステップと、
試験インターバル中に前記制御可能スイッチ(25)を閉じるために前記第1の制御信号(c25)を適用し、または試験インターバル中に試験周波数に従って前記制御可能スイッチ(25)を繰り返し開閉するために前記第1の制御信号(c25)を適用し、前記試験信号(sTφ)を測定し、前記試験信号(sTφ)が抑制されているかどうかを決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の金属検出器を動作させるための方法において、当該方法が、角度差が検出された場合にアラームを提供するステップ、および/または検出された前記角度差(δφ)の指示を表示するステップと、前記角度差(δφ)を好適には自動で補正するステップと、を含む、方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法に従って動作する金属検出器であって、
当該金属検出器が平衡コイルシステム(2)を備え、
当該平衡コイルシステム(2)が、送信コイル(21)と、第1の受信コイル(22)および第2の受信コイル(23)とを備え、
前記送信コイル(21)が送信機ユニット(1)に接続されており、前記送信ユニット(1)が少なくとも1つの固定のもしくは選択可能な送信機周波数(fTX)、または少なくとも2つの異なる送信機周波数(fTX)を含む波形を有する送信機信号(s1)を提供し、
前記第1の受信コイル(22)および前記第2の受信コイル(23)が出力信号を受信機ユニット(3)の入力部に提供し、
前記受信機ユニット(3)が第1の位相検出器(34I)および第2の位相検出器(34Q)を備え、
前記第1の位相検出器(34I)および前記第2の位相検出器(34Q)において、前記出力信号が、前記送信機周波数(fTX)に対応し、互いに位相をオフセットされている基準信号(sRI;sRQ)と比較され、それにより、前記出力信号の同相成分(I)および直交成分(Q)を生成し、前記出力信号が、物品またはノイズに起因する信号成分を抑制し、金属汚染物質に起因する信号成分をさらに処理する信号処理ユニット(4)に転送され、前記金属検出器が、前記コイルシステム(2)および制御可能スイッチ(25)に誘導結合されている試験コイル(24)を有する少なくとも1つの試験ループ(28)を備え、前記制御可能スイッチ(25)を用いて、前記制御可能スイッチ(25)に適用可能である第1の制御信号(c25)に応じて前記試験ループ(28)が閉じられることが可能であり、前記金属検出器が、制御プログラム(49)を有する制御ユニット(4、40)を備え、前記制御プログラム(49)が、
a)制御モジュール(41)であって、試験インターバル内において前記制御可能スイッチ(25)を閉じるために、または前記試験インターバル内において試験周波数に従って前記制御可能スイッチ(25)を繰り返し開閉するために、前記第1の制御信号(c25)を前記制御可能スイッチ(25)に適用可能である制御モジュール(41)と、
b)前記試験インターバル中に決定される前記試験信号(sTφ’)の前記位相角(φ’;φ+δφ)と、角度差(δφ)を決定するために前記試験信号(sTφ)の以前に記録されている位相角(φ)とを比較可能である評価モジュール(42)と、
c)決定された前記角度差(δφ)を補正可能である較正モジュール(43)と、
を備えることを特徴とする、金属検出器。
【請求項12】
請求項11に記載の金属検出器において、前記較正モジュール(43)により制御可能である位相シフタ(39)を備え、前記位相シフタ(39)を用いて、前記基準信号(sRI;sRQ)の位相が、較正角(β)の分だけおよび/または決定された前記角度差(δφ)の分だけ、前後にシフト可能である、金属検出器。
【請求項13】
請求項11または12に記載の金属検出器において、前記較正モジュール(43)内に設けられるソフトウェアモジュールを備え、前記ソフトウェアモジュールを用いて、測定された動作信号のベクトルが、較正角(β)の分だけおよび/または決定された前記角度差(δφ)の分だけ、前後に回転可能である、金属検出器。
【請求項14】
請求項11、12または13に記載の金属検出器において、前記較正モジュール(43)内に設けられるソフトウェアモジュールを備え、前記ソフトウェアモジュールを用いて、物品に起因する信号成分(s’)を抑制するように設定されているマスクエリア(AMP)、またはノイズに起因する信号成分(s’)を抑制するように設定されているマスクアリア(AMV)の位相が、決定された前記角度差(δφ)の分だけ回転可能である、金属検出器。
【請求項15】
請求項11から14のいずれか1項に記載の金属検出器において、固定インピーダンス(26)が、前記試験コイル(24)および前記制御可能スイッチ(25)に直列に接続されており、または制御可能なインピーダンス(26)が、前記試験コイル(24)および前記制御可能スイッチ(25)に直列に接続されており、セットアップモジュール(44)が、前記制御ユニット(4、40)内に設けられ、前記セットアップモジュール(44)を用いて、所定の大きさおよび/または位相角(φ)を有する試験信号(sTφ)が生成される値に、前記制御可能なインピーダンス(26)が調整可能である、金属検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、1つまたは複数の動作周波数を使用する金属検出器を動作させるための方法、およびこの方法に従って動作する金属検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]例えば米国特許第8587301(B2)号において説明されているような産業用金属検出システムは、製品中の金属汚染を検出するのに使用される。産業用金属検出システムは、適切に設置されて動作させられる場合、金属汚染を低減し、食品安全性を向上させるのを補助する。最近の金属検出器のほとんどが、「平衡コイルシステム」を備える探索ヘッドを利用する。このようなデザインの検出器は、生鮮製品および冷凍製品などの多種多様な製品の中にある、鉄、非鉄金属、およびステンレス鋼を含めた、あらゆる種類の金属汚染物質を検出することができる。
【0003】
[0003]「平衡コイル」の原理に従って動作する金属検出器は通常、非金属フレーム上に巻き付けられて通常は各々が他のコイルと平行である、送信コイルと、2つの等しい受信コイルと、の3つのコイルを備える。通常、受信コイルの間の中心に配置されている送信コイルを包囲する受信コイルが等しいことを理由として、各々の受信コイルには等しい電圧が誘導される。システムのバランスがとれているときにゼロである出力信号を受信するために、第1の受信コイルが、逆の向きの巻線を有する第2の受信コイルに直列に接続されている。したがって、システムのバランスがとれていて観察している製品中に汚染物質が存在しない場合、等しい振幅を有しかつ逆の極性を有する受信コイルに誘導される電圧が互いを相殺する。
【0004】
[0004]しかし、金属の粒子がこのコイル構成を通過するとすぐに、まず、一方の受信コイルの近くの電磁場、次いで、他方の受信コイルの近くの電磁場が乱される。この金属の粒子が受信コイルを通るように運ばれるとき、各々の受信コイルに誘導される電圧が変化する(ナノボルトの大きさで)。このようなバランスの変化により検出コイルの出力部において信号が生成され、この信号が受信ユニット内で処理および増幅され得、次いで、観察している製品中の金属汚染物質の存在を検出するのに使用され得る。
【0005】
[0005]受信機ユニットで、入力信号が、通常、同相成分と、直交成分とに分割される。これらの成分から構成されているベクトルが大きさおよび位相角を有し、このコイルシステムを通るように運ばれている製品および汚染物質の特性を表す。金属汚染物質を特定するために、「製品の影響」を取り除くかまたは低減する必要がある。製品の位相が既知である場合、対応する信号ベクトルが減少し、金属汚染物質に起因する信号を検出するための感度が高くなる。
【0006】
[0006]信号スペクトルからの望ましくない信号を排除するのに適用される方法は、金属汚染物質、製品、および他の外乱により磁界に対して多様な影響がありその結果として検出された信号の位相が異なってくる、という事実を利用するものである。高い導電性を有する材料は、より大きい負のリアクタンス(reactive)信号成分およびより小さい抵抗性信号成分(resistive signal component)を有する信号を生成させる。高い透磁率を有する材料は、小さい抵抗性信号成分および大きい正のリアクタンス信号成分を有する信号を生成させる。フェライトにより生成される信号は主としてリアクタンス性であり、対してステンレス鋼によって生成される信号は主として抵抗性である。導電性である製品は、通常、大きい抵抗成分を有する信号を生成させる。抵抗性信号成分とリアクタンス信号成分との間の信号ベクトルの位相角は、通常、金属検出器を通すように製品または汚染物質を運ぶとき、一定を維持する。
【0007】
[0007]位相検出器により多様な起源の信号成分の位相を識別することにより、製品および汚染物質に関する情報を得ることが可能となる。例えば、周波数混合器またはアナログ乗算回路などの、位相検出器が電圧信号を生成させ、この電圧信号が、受信コイルの出力信号などの入力する信号と送信機ユニットから受信機ユニットへと提供される基準信号との間の位相の差を表す。したがって、製品信号成分の位相に一致させるように基準信号の位相を選択することにより、位相検出器の出力部においてゼロである位相差および対応する製品信号が得られる。汚染物質に起因する信号の位相が製品信号の位相とは異なる場合、製品信号が抑制され得、対して汚染物質の信号がさらに処理され得る。しかし、汚染物質の信号の位相が製品信号の位相に近い場合、汚染物質の検出が失敗する。汚染物質の信号が製品信号と共に抑制されてしまうからである。製品信号の位相角を汚染物質の位相角から分離するために、適切な動作周波数が決定されて適用される。
【0008】
[0008]米国特許出願公開第2013338953(A1)号はコイルベース(coil based)の金属検出器のための方法を開示しており、この金属検出器は、製品固有の検出エンベロープまたはマスクエリアを決定するように構成されている較正モジュールと、検出モジュールであって、金属検出器信号のベクトル表示を製品固有の検出エンベロープと比較し、この信号のベクトル表示が検出エンベロープまたはマスクエリアの範囲外のエリアまで延びる場合に製品中の金属汚染物質の存在を示すように構成されている検出モジュールとを備える。したがって、金属検出器が適切に較正される場合、製品に関連する信号がマスクエリアによって抑制され、対して汚染物質に関連する信号が検出される。
【0009】
[0009]米国特許出願公開第2012206138(A1)号は、少なくとも2つの送信機周波数においてかつ第1の金属汚染物質の少なくとも2つの粒子サイズにおいて少なくとも第1の金属汚染物質のための関連信号の位相および大きさを決定するステップと;少なくとも2つの送信機周波数において特定の製品のための関連信号の位相および大きさを決定するステップと;少なくとも第1の金属汚染物質について確立されている情報と、製品について確立されている情報とを比較するステップと;少なくとも第1の金属汚染物質の最も小さいサイズの粒子の信号成分の位相および振幅を製品信号の位相および振幅とは十分な程度でまたは最大限に異なるものとするために用いる送信機周波数を決定するステップと;製品を測定するためのこの送信機周波数を選択するステップと、を含む、コイルベースの金属検出システムを動作させる方法を開示している。
【0010】
[0010]WO2009144461A2は、電気伝導度分布、誘電率分布、または透磁率分布、のうちの少なくとも1つを有するサンプルを励磁することを目的として放射線を発するように構成されている励磁コイルと;励磁されるサンプルから受信された電磁放射線を検出信号へと変換するように構成される受信コイルと、を備える磁気誘導トモグラフィ装置を開示している。
【0011】
[0011]米国特許第4070612(A)号は、地形導電性(terrain conductivity)の直接の読取値を提供するように較正される運搬可能な装置を開示している。
【0012】
[0012]米国特許第2995699(A)号は地球物理調査装置を開示している。
[0013]米国特許出願公開第20150234075(A1)号は、コイルシステム内の不均衡を補償するためのならびに振動およびノイズの影響を抑制するための方法を開示している。金属検出器が、ノイズに起因する信号に類似するフェライトによって生成される信号を抑制するように較正される。結果として、フェライトに起因する信号を排除することにより、振動およびノイズによって生成される信号も自動で抑制される。この方法によると、コイルシステム内でのフェライトの存在下で金属検出器の出力信号が測定され、デジタル方式で調整され、その結果、フェライトの抵抗性信号成分が排除される。
【0013】
[0014]金属検出器が例えば上述の方法に従って較正された後、金属検出器により汚染物質を検出するのにならびに製品およびノイズに起因する信号を抑制するのに用いられる位相設定を基準とした、汚染物質、製品、振動、およびノイズによって生成される信号の位相整合が維持されることが重要である。金属検出器の位相応答が変化する場合、製品、振動およびノイズに起因する信号がそれ以上抑制され得ず、フォールスアラームを生成させる可能性があり、この間、汚染物質に起因する信号がそれ以上検出されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第8587301(B2)号
【文献】米国特許出願公開第2013338953(A1)号
【文献】米国特許出願公開第2012206138(A1)号
【文献】WO2009144461A2
【文献】米国特許第4070612(A)号
【文献】米国特許第2995699(A)号
【文献】米国特許出願公開第20150234075(A1)号
【文献】米国特許第5892692(A)号
【文献】米国特許出願公開第2007067123(A1)号
【非特許文献】
【0015】
【文献】https://en.wikipedia.org/wiki/Rotation_matrix
【文献】https://en.wikipedia.org/wiki/Atan2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
[0015]したがって、本発明は、1つまたは複数の動作周波数を使用する金属検出器を動作させるための改善された方法と、この方法に従って動作する改善された金属検出器とを提供するという目的に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
[0016]本発明の方法およびこの方法に従って動作する金属検出器は、金属検出器内で最適な動作条件を常に維持することを可能にするものである。
[0017]金属検出器を補正または再較正することの必要性および処置が労せず確認され得る。補正および再較正は、好適には、使用者による相互作用を必要とされることなく、自動で実行されるものである。
【0018】
[0018]好適には、このような補正プロセスおよび再較正プロセスが金属検出器の通常動作中に実行され得るものであり、この間、製品が検査されるかまたは短時間のインターバルにある。
【0019】
[0019]補正および再較正が、いかなる試験サンプルの使用も必要とせずに実行され得るものである。
[0020]また、本発明の方法は、望ましくない信号を適切に抑制するのを保証することを目的とした金属検出器の試験を可能にするものである。
【0020】
[0021]本発明の方法は、有利には、1つの動作周波数のみまたは複数の動作周波数で動作する金属検出器で実施可能であるものである。
[0022]較正、再較正、および試験は、好適には自動で、労力を最小にして、すべての動作周波数において実行可能であるものである。
【0021】
[0023]本発明の第1の幅広い態様では、金属検出器を動作させるための方法が提供され、この金属検出器は、少なくとも1つの固定のまたは選択可能な送信機周波数、あるいは少なくとも2つの異なる送信機周波数を含む波形を有する送信機信号を提供する送信機ユニットに接続されている送信コイルと、第1の位相検出器および第2の位相検出器を備える受信機ユニットに出力信号を提供する第1および第2の受信コイルとを有する、平衡コイルシステムを備え、出力信号が、少なくとも1つの送信機周波数に対応し、互いに位相をオフセットされる関連する基準信号と比較され、それにより、受信された信号の同相成分および直交成分を生成し、受信された信号が、物品またはノイズに起因する信号成分を抑制し、金属汚染物質に起因する信号成分をさらに処理する信号処理ユニットに転送される。
【0022】
[0024]本発明の方法は、
a)コイルシステムおよび制御可能スイッチに誘導結合されている試験コイルを備える少なくとも1つの試験ループを提供するステップであって、制御可能スイッチを用いて、制御可能スイッチに適用される第1の制御信号に応じて試験ループが開閉され得る、ステップと;
b)試験インターバル中に制御可能スイッチを閉じるために第1の制御信号を適用し、または試験インターバル中に試験周波数に従って制御可能スイッチを繰り返し開閉するために第1の制御信号を適用し、試験ループに関連する試験信号を測定し、試験信号の位相角を決定するステップと;
c)試験インターバル中に測定される試験信号の位相角と、試験信号の以前に記録(又は表示)されている位相角とを比較し、関連する角度差を決定するステップと;
d)決定された角度差を補正するステップと、
を含む。
【0023】
[0025]例えばCMOSスイッチである制御可能スイッチまたはアナログスイッチを電子的に作動させて、試験信号の位相変化を決定するために関連の試験信号を測定および分析することにより、金属検出器の試験が行われ得る。このような位相変化が、記録されている信号スペクトルの個別のベクトルの共通の回転を生じさせる金属検出器の位相応答の変化を示す。有利には、金属検出器の位相応答の試験が、試験サンプルをコイルシステムに入れることなく、行われ得る。
【0024】
[0026]好適には、最終試験中、製造された金属検出器が較正され、試験ループに関連する試験信号が記録および分析される。
[0027]記録されている試験信号の少なくとも位相角がデータベースまたはルックアップ・テーブルに保存されている。好適には、信号強度または試験信号のベクトルの大きさがさらに後での使用のために記録される。金属検出器の位相応答が変化する場合、記録されている動作スペクトルの信号の位相が試験信号の位相と共に変化する。したがって、試験信号の位相を測定して、既に記録されて保存されている位相値を比較した場合の試験信号の最新の位相の角度差を決定することにより、金属検出器の位相応答の変化が正確に決定され得る。
【0025】
[0028]試験信号の位相の新しい値が第1の試験インターバルにおいて決定された後、試験信号の位相応答の最新の値が保存され得、将来の試験インターバルにおいて試験信号の位相との比較に使用され得る。したがって、金属検出器が、周囲の影響または緩和プロセスにより可能性として起こるような位相ずれまたは位相ドリフトを補償するために継続的に再較正され得る。信号位相の間の位相コヒーレンスと、望ましくない信号を抑制するように設定されるマスクまたはマスクエリアの位相位置とが、常に維持される。
【0026】
[0029]本発明の方法は、金属検出器の通常動作中の、またはコイルシステム内に製品が存在しない場合の試験インターバル中の、角度差を決定および補正することを可能にする。好適な実施形態では、金属検出器の位相応答が、継続的に監視され、好適には自動で補正される。
【0027】
[0030]角度差または位相ずれの補正は、金属検出器の適切な較正を再確立するように、多様な手法で行われ得る。したがって、物品またはノイズに起因する信号成分が再び抑制されること、および金属汚染物質に起因する信号成分が検出されることが重要である。例えば金属検出器のドリフトまたは外部の影響を理由とする座標系内でのマスクエリアを基準とした信号ベクトルの回転量である角度差が、補正される。この補正がハードウェアドメインまたはソフトウェアドメインで行われ得る。ハードウェアドメインでは、検出された角度差を補償するために、基準信号の位相がシフトさせられ得る。ソフトウェアドメインでは、通常、信号プロセッサのソフトウェアモジュールまたは較正モジュールにより、検出した信号が、座標系内の特定の角度に位置するマスクエリアを基準としてシフトまたは回転させられ得るか、あるいはマスクエリアが検出した信号を基準としてシフトまたは回転させられ得、それにより、抑制されることになる製品およびノイズに起因する信号などの信号に対してのこれらのマスクエリアの重複を再確立する。
【0028】
[0031]したがって、決定された角度差δφを補正するということは、金属検出器を以前に確立した較正状態へと戻すということを意味する。好適には、これが、
- 決定された角度差に従って基準信号の位相を変化させることにより、あるいは、
- 角度差に従って信号処理ユニット内の記録された信号スペクトルのベクトルを回転させることにより、あるいは、
- 角度差に従って、物品に起因する信号成分を抑制するように設定されているマスクエリア、および/または同位相のノイズに起因する信号成分を抑制するように設定されているマスクエリアを回転させることにより、
行われる。
【0029】
[0032]位相ずれはいずれの方向にも起こる可能性があることから、角度差を補正するには、信号ベクトルおよび/またはマスクエリアを時計回りにまたは反時計回りにシフトまたは回転させるのを必要とする可能性がある。
【0030】
[0033]しかし、金属検出器で起こった決定された角度差または位相ずれの補正は、例えば位相ずれの原因を補正することなどにより、他の手法でも補正され得る。金属検出器の近傍で金属体の配置または温度設定などの何かしらが変化する場合、位相ずれを生じさせている可能性のあるこれらの変化が逆行させられ得、それにより、金属検出器により示されている角度差または位相ずれが補正される。したがって、位相ずれの原因を取り除くことにより、またはこれらの原因の影響を補正または補償することによりつまり決定された角度差を補償することにより、補正が行われ得る。特には、オペレータが複数の金属検出器を使用する事例では、第1のステップで、予防的に位相ずれを回避するためには、位相ずれの原因を取り除いてこのような将来確実に起こるべきこと(positive future)を回避することが好ましい可能性がある。
【0031】
[0034]好適な実施形態では、決定された角度差が検出されて自動で補正されるが、ここでは好適には、この補正が行われていることのおよびこの補正がどの程度おこなわれたかのオペレータに対しての指示が用いられる。したがって、オペレータに対して位相ずれが生じていることが知らされ、金属検出器に対しての望ましくない影響を回避するためにこの原因に関して金属検出器の環境が検査され得る。位相補正が、可能性として音響アラームと共に、スクリーン上に表示され得る。
【0032】
[0035]金属検出器の位相応答の変化を原因とする検出された角度差は、ハードウェアドメインまたはソフトウェアドメインで補正または補償される。角度差は、例えば、位相検出器に適用される基準信号の位相を変化させることにより、ハードウェアドメインで補正され得る。試験信号の測定された角度差に従って、基準信号の位相がシフトさせられる。
【0033】
[0036]代替として、角度差に従って、信号処理ユニットで記録した信号スペクトルのベクトルを回転させることにより、試験信号の角度差または位相偏移がソフトウェアドメインで補正される。このような回転は、https://en.wikipedia.org/wiki/Rotation_matrixで説明されている通りに実施され得る。
【0034】
[0037]制御可能スイッチがある時間インターバルにおいて閉じられる場合、記録した信号スペクトルに試験信号が生成されるが、この試験信号は、金属検出器の通常動作を中断しなければならないことから、望ましくない可能性がある。したがって、制御可能スイッチがインターバルでは閉じられることが可能であり、ここでは製品が検査されない。試験が非常に短い時間インターバルで実行され得ることを理由として、検査のために製品を供給することの遅延を利用することが可能である。好適な実施形態では、製品の遅れての到着を検出することにより、この遅延が測定され、したがって、この遅延が試験インターバルに使用され得る。
【0035】
[0038]本発明の別の実施形態では、製品および汚染物質によって生成される信号スペクトルに試験信号が現れることが回避される。この目的のために、試験周波数を用いて第1の制御信号が制御可能スイッチに適用され、その結果、製品および汚染物質によって生成される信号に対して試験信号の周波数がオフセットされる。ハードウェアドメインまたはソフトウェアドメイン内の処理チャンネル内で、試験信号が受信機信号から抽出され、試験信号の位相角を決定するかまたは試験信号の位相角および大きさを決定するために、評価される。
【0036】
[0039]試験周波数を用いて電子的に制御可能であるスイッチを作動させることにより、受信機に適用される信号が変調される。受信機または信号処理ユニット内の任意の後続の処理ステージにおいて、試験信号が搬送波および製品/汚染物質信号から取り除かれ、試験信号の位相を得るために評価され得る。好適な実施形態では、500Hzから750Hzの範囲内の試験周波数が、制御可能スイッチを切り換えるために選択される。最初に、金属検出器動作周波数が、評価のためにベースバンドへ戻すように試験信号をシフトさせることを目的として、変調した動作信号を復調するために使用される;次いで、試験信号が、位相検出器によって供給される同相成分および直交成分からフィルタリングされ得る。位相検出器によって供給されるこれらの同相成分および直交成分が、ベースバンドである信号スペクトルの信号と、重ね合わせの試験信号とを含む。結果として、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタによりベースベンド信号から試験周波数を分離することにより、試験信号が再獲得され得る。
【0037】
[0040]好適な実施形態では、コイルシステムに導入される試験サンプルを使用することにより、金属検出器が較正される。このような試験サンプルは、既知の位相角を有する金属であってよい。金属検出器の較正は製品を基準としても行われ得る。試験サンプルとして最も適するのはフェライトである。その理由は、フェライトによって生成される信号の位相角が、振動およびノイズによって生成される信号の位相角に等しいからである。したがって、フェライトを使用することにより金属検出器を較正することにより、振動およびノイズが現れているところの位相領域を特定してマスキングすることが可能となる。
【0038】
[0041]例えばフェライトなどの試験サンプルに関連する信号の位相角が特定された後、試験サンプルに関連するこの位相角が、例えば試験サンプルの同相信号成分が消える位置まで較正角の分だけさらに回転させられ得る。試験信号が、同じ較正角の分だけ回転させられる。したがって、較正前の試験サンプルの位相角と較正角との合計が試験サンプルの新しい位相角に等しく、この新しい位相角がその後での参照のためにデータベースまたはルックアップ・テーブルに保存される。
【0039】
[0042]別の好適な実施形態では、固定インピーダンス(またはインピーダンス要素;以下同じ)が、試験コイルおよび制御可能スイッチに直列に接続される。対応するインピーダンスを選択することにより、試験信号の位相角が、例えば計画される試験手順を考慮して決定されている所望の値となるように設定され得る。
【0040】
[0043]別の好適な実施形態では、第2の制御信号によって制御可能である電子的に制御可能なインピーダンスが、試験コイルおよび制御可能スイッチに直列に接続される。制御可能なインピーダンスは、試験信号がフェライトなどの試験サンプルにまたは製品に好適には対応する所望の位相角を有する値に、選択的に設定され得る。選択される位相角を有する試験信号が、較正のために、および試験のために、使用され得る。試験信号の選択可能な位相角が、金属検出器の位相応答を補正または再較正するための基準角として使用され得る。さらに、例えば製品の位相角といったように特定の角度となるように設定されている試験信号を用いることにより、この製品の信号が適切にマスキングされて抑制されているかどうかを検証することが可能である。試験インターバル中、試験信号が製品信号の位相角に合うように設定されており、適切に試験信号が抑制されているかどうかがチェックされる。
【0041】
[0044]別の好適な実施形態では、1つの試験コイルが2つ以上のスイッチに並列に接続されており、ここでは各々のスイッチが固定のまたは制御可能なインピーダンスを有する。
【0042】
[0045]別の好適な実施形態では、コイルシステムと、制御可能なスイッチと、固定のまたは制御可能なインピーダンスとに誘導結合されている試験コイルを各々が有する2つ以上の試験ループが提供され、これらの2つ以上の試験ループの各々に対して試験信号が生成される。異なる試験信号の位相角は、上述したように、固定の位相であってよいかまたは調整可能な位相であってよい。
【0043】
[0046]本発明の方法は、金属検出器の多様な実施形態で実施され得る。本発明の金属検出器は、複数の周波数から選択可能となり得る少なくとも1つの周波数を生成させるように設計され得る。さらに、本発明の金属検出器はまた、2つ以上の周波数を同時に生成させるようにまたは少なくとも2つの周波数を含む波形を生成させるように設計され得る。例えば米国特許第5892692(A)号および米国特許出願公開第2007067123(A1)号に開示されている波形オシレータまたは波形生成装置を用いて任意適切な波形が生成され得る。
【0044】
[0047]金属検出器は、好適には、制御プログラムを有する制御ユニットを備え、この制御プログラムは、
a)制御モジュールであって、試験インターバルにおいて制御可能スイッチを閉じるために、または試験インターバルにおいて試験周波数に従って制御可能スイッチを繰り返し開閉するために、前記制御モジュールを用いて、第1の制御信号を制御可能スイッチに適用可能である、制御モジュールと、
b)評価モジュールであって、これを用いて、試験インターバル中に決定される試験ループに関連する試験信号の位相角と、角度差を決定するために試験信号の以前に記録されている位相角とを比較可能である、評価モジュールと、
c)決定された角度差を補正可能である較正モジュールと
を有する。
【0045】
[0048]試験信号の相変化を評価することに加えて、試験信号の大きさの変化が評価され得、さらには処理され得る。大きさの減少が所与の閾値を超える場合、金属検出器の保守管理が必要であることを自動的にシグナルで知らせることができる。
【0046】
[0049]以下で、図面を参照して、本発明の詳細な態様および実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】送信機1と、コイルシステム2と、受信機3と、好適には制御ユニット40および試験ループ28に一体化されている信号処理ユニット4と、を備える、本発明の金属検出器の好適な実施形態を示す図であり、試験ループ28が、コイルシステム2に誘導結合されている試験コイル24と、制御可能なインピーダンス26と、制御可能スイッチ25とを備え、制御可能スイッチ25を用いて、試験信号sTφを誘導するために試験ループ28が開けられるかまたは閉じられる、図である。
図2a】試験数周波数fを制御可能スイッチ25に適用することにより生成される試験信号sTφを抽出するためのモジュール47、48、49を備える好適な実施形態の信号プロセッサ4を記号で示した図である。
図2b】デジタル信号プロセッサ4および制御ユニット40のソフトウェアモジュールを記号で示した図であり、これらを用いて、第1の試験ループ28の制御可能スイッチ25および第2の試験ループ28’の制御可能スイッチ25’を作動させ、第1の試験ループ28の制御可能なインピーダンス26および第2の試験ループ28’の制御可能なインピーダンス26’を調整する。
図3a】汚染物質の信号ベクトルsと、製品の信号ベクトルsと、フェライトの信号ベクトルsと、フェライトの信号ベクトルsに位置合わせされている、振動およびノイズから得られる信号ベクトルsと、試験ループ28の信号ベクトルsTαと、を有する未較正の金属検出器からとられたベクトル図である。
図3b】製品に起因する信号sを覆うために角度λ1で設定されている第1のマスクエリアAMPと、振動またはノイズに起因する信号sを覆うために角度μ1で設定されている第2のマスクエリアAMVとを備える、フェライトの信号ベクトルsをリアクタンス軸(reactive axis)Qに位置合わせして、それにより試験ループ28の信号ベクトルsTφの位相角をαからφまで変化させるために選択される較正角βの分だけすべてのベクトルが反時計回りに回転された状態にある金属検出器の較正後の、図3aのベクトル図である。
図3c】位相ずれδφが生じて、その結果として、振動およびノイズにより得られる信号ベクトルsがマスクエリアAから離れて、抑制されない動作期間後の、図3bのベクトル図である。
図3d】金属検出器を再較正して、その結果として、試験ループ28の調整された信号ベクトルsTφの位相角が位相角δφの分だけ減少してφ’からφに戻され、較正角が位相角δφの分だけ減少してβからβ’に戻された後の、図3cのベクトル図である。
図3e】金属検出器を再較正して、その結果として、マスクまたはマスクエリアAMP、AMNの位相角が、決定された位相ずれδφの分だけシフトさせられ、それにより、製品の信号ベクトルsまたは振動およびノイズにより得られる信号ベクトルsにそれぞれマスクまたはマスクエリアAMP、AMNを再位置合わせした後の、図3cのベクトル図である。
図4a】汚染物質の信号ベクトルsと、製品の信号ベクトルsと、試験ループ28に関連する信号ベクトルsTαと、を有する未較正の金属検出器からとられたベクトル図である。
図4b】試験ループ28の信号ベクトルsTφが、製品の信号ベクトルsに位置合わせされている状態の、図4aのベクトル図である。
図4c】試験ループ28に関連する信号ベクトルsTφおよび製品の信号ベクトルsがマスクまたはマスクエリアAMPによって覆われている状態の、図4bのベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
[0050]図1は、好適な実施形態における本発明の金属検出器のブロック図を示しており、本発明の金属検出器は、送信機ユニット1と、送信コイル21ならびに第1の受信コイル22および第2の受信コイル23を備える平衡コイルシステム2と、受信機ユニット3と、信号処理ユニット4と、例えば、標準的なインターフェース、入力デバイス、およびディスプレイなどの出力デバイスを備えるパーソナルコンピュータなどの、制御ユニット40とを備える。図1がコンベア6をさらに示しており、コンベア6上で製品Pが送信コイル21および受信コイル22、23を通るように移送される。製品Pcが金属で汚染されている。
【0049】
[0051]送信機ユニット1が、送信機周波数fTXを有する送信機信号s1を平衡コイルシステム2の送信コイル21に提供し、送信機周波数fTXを有する基準信号sを受信機ユニット3に提供する。送信機信号s1が、システムのバランスがとれている限りにおいてつまり運ばれる製品Pが金属で汚染されていない限りにおいて等しい振幅を有するが逆の極性を有する等しい受信コイル22、23内に信号s22、s23を誘導する。
【0050】
[0052]汚染された製品Pが平衡コイルシステム2を通過するとすぐに、等しい受信コイル22、23内に誘導された信号s22、s23が変化することになる。その結果、受信コイル22、23内に誘導される送信機周波数fTXがベースバンド信号を用いて変調され、ベースベンド信号の振幅および周波数が、物体の、電磁特性と、寸法と、移動速度とによって決定される。
【0051】
[0053]好適な実施形態では、受信コイル22、23の出力信号s22およびs23が、受信コイル22、23を反映する平衡変圧器31のセンタータップ付き1次巻線に適用される。さらに、平衡変圧器31が2つの等しいセンタータップ付き2次巻線を備え、これらの2つのセンタータップ付き2次巻線の両側の尾端が増幅器32に接続されている。増幅器32の出力部がフィルタユニット33に接続され、フィルタユニット33が、増幅およびフィルタリングされているが依然変調されている信号s3を同相チャンネルI-CHおよび直交チャンネルQ-CHに提供し、同相チャンネルI-CHおよび直交チャンネルQ-CHが等しく設計されている。同相チャンネルI-CHおよび直交チャンネルQ-CHの各々が位相検出器34I;34Qを備え、位相検出器34I;34Qがフィルタステージ35I;35Qに接続されており、フィルタステージ35I;35Qには、ゲインステージ36I;36Qおよびアナログ・デジタル変換器37I、37Qが続く。
【0052】
[0054]復調器として機能する位相検出器34I;34Qが、それらの出力部のところで、運ばれる製品Pおよび汚染物質Cに起因するベースバンド信号の同相成分s3Iまたは直交成分S3Qを提供する。
【0053】
[0055]位相検出移34I;34Qの出力部のところで提供される同相信号s3Iおよび直交信号s3Qが、フィルタユニット35I;35Qを介してゲインユニット36I;36Qに転送され、ゲインユニット36I;36Qが処理される信号の振幅を所望に値に設定するのを可能にする。次いで、フィルタリングおよび較正された信号が、アナログ・デジタル変換器37I;37Q内で、アナログ信号からデジタル信号へと変換される。アナログ・デジタル変換器37I;37Qの出力部のところに提供されるデジタル信号が、デジタル信号プロセッサなどの信号処理ユニット4に転送され、ここで、信号が分析され、汚染物質に関連する信号が検出される場合にアラームが発せられる。
【0054】
[0056]データ信号処理ユニット4が、好適には、例えば、動作プログラム49を装備するパーソナルコンピュータなどの、制御ユニット40の一部であり、動作プログラム49が、本発明の方法を実施するところの本発明の単一周波数または複数同時周波数(multi-simultaneous frequency)の金属検出器の機能を果たすように設計されている。
【0055】
[0057]金属検出器のこの好適な実施形態では、信号プロセッサ4が、送信機ユニット1および受信機ユニット3の中に設けられる種々のモジュールの機能を制御する。この目的のため、信号プロセッサ4が制御信号c32を増幅器ユニット32まで転送し、制御信号c33を第1のフィルタユニット33まで転送し、制御信号c35を第2のフィルタユニット35I;35Qまで転送し、制御信号c36をゲインユニット36I;36Qまで転送し、制御信号c37をアナログ・デジタル変換器37I、37Qまで転送する。これらの制御信号c32、c33、c35、c36、およびc37を用いて、個別の受信機ユニット32、33、35、36、および37の増幅特性およびフィルタ特性が選択または調整され得る。別の制御信号c12が、例えば適切な送信機周波数を選択するために、送信機ユニット1まで転送される。
【0056】
[0058]送信機ユニット1から、基準信号sが任意選択で、制御可能な位相シフタ39を介して、同相チャンネルI-CHの位相検出器34Iの基準入力部まで転送され、固定の位相シフタ38を介して、直交チャンネルQ-CHの位相検出器34Qの基準入力部まで転送される。供給される同相基準信号SRIまたは直交基準信号sRQに基づいて、位相検出器34I、34Qが、関連のチャンネル34I;34Q内で、変調された信号s3のベースバンド信号の、同相成分s3I、直交成分s3Qを提供する。
【0057】
[0059]図3aに示されるように、汚染物質の信号と製品の状態信号の同相成分sCI、sPIおよび直交成分sCQ、sPQを用いて、関連のベクトルs、sがベクトル図に描かれ得る。送信機周波数が、これらの2つのベクトルにより異なる位相角を呈することになるように、選択される。デジタル信号プロセッサ4で、汚染物質に関連する信号sが重要なものとして扱われ、対して製品に起因する信号sが好適には重要なものとして扱われず、つまり無視される。
【0058】
[0060]図1が、コイルシステム2が、受信コイル22、23および送信コイルに非対称に誘導結合される少なくとも1つの試験コイル24、24’をさらに備える、ことを示している。試験コイル24が、電子的に制御可能であるスイッチ25および任意選択で存在する電子的に制御可能であるかまたは固定であるインピーダンス26と共に、試験ループ28を形成し、試験ループ28が制御可能スイッチ25によって閉じられ得る。制御可能スイッチ25が、信号処理ユニット4または制御ユニット40によって提供される制御信号c25によって制御される。制御可能なインピーダンス26が、信号処理ユニット4または制御ユニット40によって提供される制御信号c26によって制御される。制御可能なインピーダンス26が、好適には、試験信号により受信機チャンネルを飽和状態にしないようにおよび実質的に遅延なしで金属検出器を正常な状態に戻すように、設定されているか、または試験信号により通常動作を乱すことのないように、設定されている。
【0059】
[0061]制御可能なインピーダンス26が存在しないと仮定すると、つまり短絡によって取って代わられると仮定すると、試験ループ28が、インダクタンスを表す試験コイル24と、制御可能スイッチ25と、電気抵抗を表す導電性ワイヤとから構成されている。閉じた試験ループ28がコイルシステム2と相互作用し、金属検出器を通るように運ばれている製品、汚染物質、または試験サンプルなどの物体と同様に振る舞う不均衡を受信機上に生成させる。結果として、リアクタンスおよび抵抗が存在することにより、試験ループによって生成される試験信号sがさらに、送信機信号と同相である抵抗成分sTIと、制御ユニット40のディスプレイ上に示される送信機信号に対して90°だけ位相をシフトされている抵抗成分または直交成分sTQとを呈することになる。示される試験信号sが、抵抗性の同相成分sTIとの間に、未補正の位相角αまたは補正された位相角φを包囲する。未補正の角度αは金属検出器の位相応答のみによって決定される。補正された角度φは、金属検出器の位相応答と、さらには適用される較正角βとによって決定される。
【0060】
[0062]較正角βは信号スペクトルの信号ベクトルの位相を適切な位置までシフトさせるために適用されるものであり、この適切な位置では、図3aおよび図3bを参照して後で説明するように、望ましくない信号成分が抑制され得る。
【0061】
[0063]試験ループ28が、試験コイル24、制御可能スイッチ25、および短絡ワイヤのみから構成されている場合、位相角αまたはφおよび大きさが、主として、試験コイル24のインダクタンスおよび抵抗と、金属検出器の位相応答と、適用される較正角βとによって決定される。例えば大きさが大きすぎるなどして受信機チャンネルが飽和状態であることを理由として、または任意の他の理由で、この角度αまたはφおよび大きさの値が適切ではない場合、固定インピーダンス26が試験ループ28に追加され得、それに応じて位相角αまたはφおよび大きさの値を変化させる。この新しい固定の位相角αまたはφおよび大きさは、一部の送信機周波数には適する可能性があるが、他の送信機周波数には不適である可能性がある。
【0062】
[0064]例えば多様な動作周波数のために、必要に応じて位相角αまたはφを固定値から多様な値へと選択的に設定するのを可能にすることを目的として、電子的に制御可能であるインピーダンス26が試験ループ28に追加される。制御信号c26を用いて、制御可能なインピーダンス26のインピーダンスが、試験信号sの位相角αまたはφおよび大きさにより汚染物質の検出および製品信号の抑制が干渉を受けることのないようにする値に設定され得る。したがって、制御ユニット40のモニタ上に表示される信号ベクトルsが選択可能な位置まで回転させられ得る。
【0063】
[0065]制御信号c25を用いて、制御可能スイッチ25が、例えば数秒以上といったような選択可能な長さのつまり継続時間の試験インターバル中に閉じられ得る。この試験インターバル中、試験信号sが測定され、関連するベクトルの位相角αまたはφが決定され、データベース、ルックアップ・テーブル、あるいは例えば制御ユニット40または信号プロセッサユニット4内に設けられる任意の他のメモリユニットに保存されている。次いで、測定されて決定された位相角αまたはφが、試験信号sの既に記録されている位相角と比較され、関連する角度差が決定されて補正される。長期間の動作後に生じる可能性がある角度差は、通常、金属検出器の位相応答のシフトまたはドリフトを表す。試験信号sの既に記録されている位相角は、例えば、金属検出器の較正時に製造場所で記録されているものであるかまたは以前の試験インターバル中に顧客側で記録されているものである。
【0064】
[0066]代替として、制御信号c25が切り換え周波数を有することができ、この切り換え周波数を用いて、対応する毎秒回数で制御可能スイッチ25が開閉される。このような切り換え周波数または試験周波数fを用いることにより、受信機3のところの入力信号がそれに応じて変調される。したがって、受信機3の入力部において、2つの重ね合わせの信号の組み合わせから構成されている入力信号fTXが現れ、この2つの重ね合わせの信号の一方は、金属検出器を通過する物体により振幅を変調される送信機周波数fTXからの信号であり、もう一方は、ループ28の試験周波数により振幅を変調される送信機周波数fTXによる信号である。
【0065】
[0067]入力信号fTXがステージ32、33で増幅およびフィルタリングされ、復調器または位相検出器34I、34Qに適用され、ここで、入力信号fTXが復調され、その結果、位相検出器34I、34Qの出力部のところで、製品または汚染物質に関連するベースベンド信号の同相成分s3Iおよび直交成分s3Qならびに試験信号sの同相成分および直交成分が現れる。この時点では、試験信号が依然として、例えば615Hzといったような試験周波数fを呈する。
【0066】
[0068]試験のために、信号プロセッサが、特定の範囲の位相角を有する信号を無効することにより、生成した試験信号sをマスキングすることができるかまたは暴露することができる。代替として、例えば615Hzといったような試験信号sTφの周波数に合うようにチューニングされているフィルタを適用することにより、試験信号sを抑制することができる。
【0067】
[0069]図2aは、較正モジュール43からローパスフィルタ46を介して主処理モジュール400までつながる主信号経路から、試験周波数を呈する試験信号sTφを抽出するためのモジュール47、48、49を備える好適な実施形態の信号プロセッサ4を記号で示している。受信機3から較正モジュール43へと供給される同相成分s3Iおよび直交成分s3Qの位相が較正角βの分だけ前方にシフトさせられ、また存在する場合には、後述の実施例において図3a~図3dを参照して説明されるような決定された角度差δφの分だけ後方にシフトさせられる。
【0068】
[0070]較正モジュール43の入力部および出力部のところの同相成分s3Iおよび直交成分s3Qが、試験信号の同相成分sTIおよび直交成分sTQの試験周波数fを依然として含む。この試験周波数fが主信号経路内のローパスフィルタ46によって抑制され、その結果、製品および汚染物質のベースバンド信号のみが主処理モジュール400まで転送される。ローパスフィルタ46によって妨害される、較正モジュール43の出力部のところに存在する試験信号の同相成分s3I+βおよび直交成分s3Q+βがハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタ47まで転送され、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタ47が、試験信号の同相成分sTIおよび直交成分sTQが位相決定装置48を通過するのを可能するようにチューニングされ、位相決定装置48内で、試験信号sの位相角φおよび好適には大きさが決定される。
【0069】
[0071]位相決定装置48内で、好適には、試験信号sのための位相情報を得るためにarctan2関数またはatan2関数が適用される。arctan2関数はhttps://en.wikipedia.org/wiki/Atan2で説明されている。位相決定装置48の出力が、<1Hz(1Hz未満)のカットオフ周波数を有するローパスフィルタ49を介して主処理モジュール400まで転送される。主処理モジュール400内で、試験信号sTφの決定された位相角φ’が既に保存されている位相角φと比較され、それにより角度差δφの存在を決定する。決定された角度差δφが補正信号cδφとして較正モジュール43まで戻される形で報告され、それにより、金属検出器の位相応答の反時計回りの角度変化δφを補償することを目的として受信機3から供給される同相成分s3Iおよび直交成分s3Qに角度δφの分の時計回り方向の回転を適用する。これらの補正により、試験信号sの位相角φが常に同じ値に戻されるようになる。このシステムは、試験信号sの位相角φを一定に維持する制御ループとして機能する。したがって、試験信号sおよび関連の一定の位相角φを基準として、製品および汚染物質によって生成される信号を処理するための主処理モジュール400内で実施されるすべてのステップが、常に適切に実行される。適用されるマスクを基準とした製品および汚染物質の信号ベクトルの回転が回避される。したがって、製品、振動、およびノイズに関連する信号などの望ましくない信号が、常に、高い信頼性で抑制される。
【0070】
[0072]図2bは、ハードウェアドメインHD内にあるモジュールと、ソフトウェアドメインSD内にあるモジュールとを備える金属検出器の部分を記号で示している。上述したように、位相補正および位相設定がハードウェアドメインHD内でまたはソフトウェアドメインSD内で行われ得る。図1からの、制御可能スイッチ25、25’;制御可能なインピーダンス26、26’、および制御可能な位相シフタ39である、ハードウェアモジュールが図2bに示される。図1のコイルシステム2がさらに示されており、ここでは、第1の試験ループ28および別の試験ループ28’を備え、別の試験ループ28’が第1の試験ループ28と等しくてよいが、異なる固定のまたは制御可能なインピーダンス26’を備えることができ、異なる制御信号c25’、c26’を受信することができる。
【0071】
[0073]ソフトウェアドメインSD内では、デジタル信号プロセッサ4および制御ユニット40が、主処理モジュール400と、制御モジュール41と、評価モジュール42と、較正モジュール43と、セットアップモジュール44とを備える動作プログラム49を備える。これらのモジュール400、41、42、43、44が、本発明の方法の機能を実行するために、互いに相互作用することができるかまたはハードウェアモジュールと相互作用することができ、特には、制御可能な位相シフタ39と相互作用することができる
[0074]主処理モジュール400が、汚染物質の信号を検出するための、ならびに例えば製品信号、および対象となるものではないが測定に干渉するような振動およびノイズに関連する信号などの、信号をマスクキングおよび抑制するための、例えば米国特許第8587301(B2)号で説明されるような金属検出器の機能を実行する。主処理モジュール400がさらに、本発明の方法による機能を実行することができる。
【0072】
[0075]制御モジュール41が、試験インターバル中に制御可能スイッチ25を閉じるためにまたは試験インターバル中に試験周波数に従って制御可能スイッチ25を繰り返し開閉するために、第1の制御信号c25を制御可能スイッチ25に適用する。この目的のために、制御モジュール41が、試験周波数を制御可能スイッチ25に提供するオシレータを起動することができかまたは停止させることができる。第2の制御装置28’の制御可能スイッチ25’が、同じ制御信号c25または別の制御信号c25’を用いて制御され得る。
【0073】
[0076]評価モジュール42が、試験信号sTφの既に記録されている位相角φの位相角に対して、測定された試験信号sTφ’の決定された位相角φ’を比較し、角度差δφを決定する。較正モジュール43が、決定された角度差δφを較正モジュール43に適用することにより金属検出器の位相応答で生じる位相ずれを補正する。代替として、角度差δφに対応する制御信号c39が、基準信号sRI;sRQをシフトさせることを目的として位相シフタ39に適用され得、それに応じて基準信号sRI;sRQが位相検出器34I、34Qに適用される。したがって、決定された角度差δφがハードウェアドメインHDまたはソフトウェアドメインSDで補正され得る。
【0074】
[0077]角度差δφに従って信号スペクトルのベクトルの位相をシフトさせることによりハードウェアドメインHDまたはソフトウェアドメインSDで角度差δφを補正する場合と同様の手法で、製造した金属検出器を最初に較正するときにも、信号スペクトルのベクトルの位相が較正角βの分だけシフトさせられ得る。較正角βに対応する信号が較正モジュール43まで転送され得る。代替として、それに対応する形で基準信号sRI;sRQをシフトさせることを目的として、較正角βに対応する制御信号c39が位相シフタ39に適用され得る。好適には、較正角βと角度差δφとの差β-δφが、制御可能な位相シフタ39または較正モジュール43に適用される。
【0075】
[0078]セットアップモジュール44を用いて、制御可能なインピーダンス26が、所定の位相角φを有する試験信号sTφを生成させるときの値となるように調整され得る。制御信号c26が制御可能なインピーダンス26に適用され、制御可能なインピーダンス26が、例えば、調整可能な抵抗器と、コンデンサとから構成され得るか、または調整可能なコンデンサと、抵抗器とから構成され得る。制御可能なインピーダンス26を調整することにより、任意の所望の位相角δおよび大きさを有する第1の試験ループ28に関連する試験信号sが生成され得る。存在する場合、第2の試験ループ28’の制御可能なインピーダンス26’が、好適には、別の制御信号c26’によって制御され、その結果、異なる位相角を有する試験信号sが生成される。インピーダンス26’は、制御ユニット40のディスプレイ上に示されるように、異なる位相角φ1、φ2を有する試験信号sT1、sT2を生成させるように、選択または設定され得る。試験ループ28、28’は、必要に応じて、個別にまたは同時に、設計され得、動作させられ得、起動され得る。試験信号sを用いて、金属検出器の位相ドリフトが検出され得、反対方向の位相ずれを適用することにより、補正され得る。代替として、製品または汚染物質の信号に位相および大きさが対応している試験信号sが生成され得る。したがって、金属検出器がこのような汚染物質を適切に検出しているかまたは望ましくない信号を適切に抑制しているかを試験することができる。
【0076】
[0079]図3aは、汚染物質の信号ベクトルsと、製品の信号ベクトルsと、フェライトの信号ベクトルsと、振動およびノイズから得られる信号ベクトルsと、起動された試験ループ28の未調整の信号ベクトルsTαと、を有する未較正の金属検出器からとられたベクトル図を示している。振動およびノイズから得られる信号ベクトルsがフェライトの信号ベクトルsに位置合わせされる。汚染物質の信号ベクトルs、製品の信号ベクトルsに関して、関連の同相成分sCI、sCQおよび直交成分sPI、sPQが示されている。試験ループ28が起動されていることから、抵抗軸Iとの間に角度αを包囲する信号ベクトルSTαが、ベクトル図の第1象限に示されている。金属検出器を較正する前に決定された位相角αが、試験金属検出器および試験ループ28の位相応答を表す。較正角βの分だけの較正および回転の後、信号ベクトルsTφが、位相角αおよびβの合計に対応する位相角αを有する。
【0077】
[0080]フェライトの信号ベクトルsを測定して位相をシフトさせることにより、振動およびノイズから得られる信号ベクトルsが所望の位相位置へとシフトさせられ得、所望の位相位置では、信号ベクトルsが容易に抑制され得る。したがって、フェライトは、金属検出器を較正するための適切な試験材料である。フェライトは、高い透磁率を有する弱導電体である。これを理由として、ベクトル図の第1象限に位置するフェライトの信号ベクトルsが、無視できる程度の抵抗成分および大きいリアクタンス部分を示す。したがって、理想的には、角度βがゼロである。しかし、受信機チャンネルでの、また特にはフィルタステージ33での、遅延を理由として、またさらにはチューニングされている送信機ユニット1およびチューニングされている受信機ユニット3のチューニングの不正確さを理由として、ベクトルsが、図のリアクタンス軸つまり垂直軸との間に、比較的小さい角度βを包囲する。振動およびノイズから得られる信号を容易に抑制することを目的として、フェライトの信号ベクトルsならびに同時に振動およびノイズに関連する信号ベクトルsの位相がリアクタンス軸Qと一致するようにシフトさせられる。これが、実際には、ベクトルsの角度を補正し、理論上ではベクトルsの角度が有るべき場所にベクトルsの角度を配置する。この目的のために、すべての信号ベクトルを備える信号スペクトル全体が較正角βの分だけ反時計回りに回転させられる。上述したように、較正角βの分だけのこの回転がハードウェアドメインまたはソフトウェアドメインで行われ得る。
【0078】
[0081]図3bは、フェライトの信号ベクトルsをリアクタンス軸Qに位置合わせするように選択された較正角βの分だけすべてのベクトルが反時計回りに回転させられた状態にある金属検出器の較正後の、図3aのベクトル図を示している。したがって、閉じられた試験ループ28の調整された信号ベクトルsTφの位相角がαからφまで変化させられている。振動およびノイズから得られる信号ベクトルsがマスクエリアAMVによってマスキングされ、金属検出器のさらなる動作中に抑制されることになる。別のマスクAMPが、測定プロセス中に生成される製品信号sを覆うように設定されている。フェライトから構成されている試験サンプルが取り除かれており、さらなる再較正プロセスにおいては必要とされない。
【0079】
[0082]図3cは、反時計回り方向の金属検出器の位相応答の位相ずれδφが生じて、その結果として、振動およびノイズから得られる信号ベクトルsならびに製品の信号ベクトルsがマスクエリアAMV、AMPから離れて、抑制されていない状態の、動作期間後の図3bのベクトル図を示している。しかし、汚染物質の信号ベクトルsが製品のマスクエリアAMPの方にターンされており、減少することができる。試験信号の信号ベクトルsTφの位相角が角度差δφの分だけ増加して位相角αおよびβとδφとの合計に達しており、位相角φから位相角φ’まで変化させられている。構成要素の経年劣化または緩和を理由としてあるいは温度変化などの周囲の影響を理由として位相ずれδφが生じ、これが金属検出器のチューニングに影響する、ということが仮定される。
【0080】
[0083]図3dは、金属検出器を再較正した後の図3bのベクトル図を示している。決定された角度差δφの分だけ時計回り方向に後退させるように信号スペクトルを回転させることにより、試験信号の信号ベクトルsTφの位相角が前の値φまで戻されている。上述したように、角度差δφの分だけのこの回転は、ハードウェアドメインまたはソフトウェアドメインで行われ得る。
【0081】
[0084]振動およびノイズに関連する信号ベクトルsならびに製品の信号ベクトルsが再びマスキングされ、金属検出器のさらなる動作中に抑制されることになる。金属検出器および試験ループ28の位相応答が角度差δφの分だけαからα’まで変化されている。金属検出器および試験ループ28の位相応答が角度差δφの分だけ増加していることから、角度差δφの補正の分だけ較正角βが減少しており、新たな較正角β’に達している(β--->β’)。したがって、試験信号sの位相角φは、金属検出器および試験ループ28の新たな位相応答α’と、新たな較正角β’との合計から構成されている(φ=α’+β’)。
【0082】
[0085]図3eは、金属検出器を再較正して、その結果として、マスクまたはマスクエリアAMP、AMNの位相角が検出した位相ずれδφの分だけシフトさせられ、それにより、製品の信号ベクトルsまたは振動およびノイズにより得られる信号ベクトルSにそれぞれマスクまたはマスクエリアAMP、AMNを再位置合わせした後の、図3cのベクトル図を示している。マスクエリアAMPが、補正角δφの分だけ、位相位置λ1から位相位置λ2まで回転させられており、位相位置λ2では、製品に関連する信号ベクトルsが再び覆われる。マスクエリアAMVが、補正角δφの分だけ、位相位置μ1から位相位置μ2まで回転させられており、位相位置μ2では、振動およびノイズに関連する信号ベクトルsが再び覆われる。マスクエリアAMPが回転させられて、汚染物質に関連する信号ベクトルsおよび製品に関連する信号から離れており、再較正後に再び最大感度で汚染物質に関連する信号sが検出される。
【0083】
[0086]図4aは、汚染物質の信号ベクトルsと、製品の信号ベクトルsと、閉じられた試験ループ28に関連する未調整の信号ベクトルsTαとを有する、未較正の金属検出器からとられたベクトル図を示しており、閉じられた試験ループ28に関連する未調整の信号ベクトルsTαが、抵抗軸Iとの間に、初期の角度αを包囲している。上述した較正のためにおよび追加の試験のために、試験ループ28の信号ベクトルsTαが、試験および較正の目的に適する位相角φまで回転させられる。試験ループ28の信号ベクトルsTαの回転がセットアップモジュール44によって行われ得、セットアップモジュール44が、それに応じる形で、制御信号c26を用いて、試験ループ28の制御可能なインピーダンス26を調整する。
【0084】
[0087]本実施例では、信号ベクトルsTαが角度βの分だけ反時計回りに回転させられて位相角α+βに達し、位相角α+βが製品信号sの位相角に対応する。この時点で、試験ループ28の信号ベクトルsTφおよび製品の信号ベクトルsが一致する。上述した較正プロセスと比較すると、試験ループ28の信号ベクトルsTφのみが回転させられ、対して、ベクトル図の残りの信号ベクトルがそれらの位置に留まった。したがって、本発明の方法は、ベクトル図内の任意の位置で試験信号sTφを生成するのを可能にする。試験ループ28の信号ベクトルsTφの回転は、上述したように制御可能なインピーダンス26を調整することにより、自動で行われ得る。
【0085】
[0088]試験ループ28の信号ベクトルsTφが所望の位置に設定された後、試験および測定が実行され得る。長時間の動作後、上述したように既に保存されている値φを参照して、試験信号sTφの位相角φ’および関連の角度差δφを決定することにより、金属検出器の位相応答のドリフトが再び測定され得る。さらに上述したように、次いで、図2aおよび図2bを参照して説明したように角度差δφを有する補正信号を適用することにより、生じた位相ずれが補正され得る。やはり、この補正は、ハードウェアドメインまたはソフトウェアドメインで行われ得る。
【0086】
[0089]図4bは、試験ループ28の信号ベクトルsTφが製品の信号ベクトルsに位置合わせされている状態の、図4aのベクトル図を示している。
[0090]図4cは、試験ループ28に関連する信号ベクトルsTφと、マスクエリアAMSによって覆われている製品の信号ベクトルsとを有する、図4bのベクトル図を示している。通常動作中、製品の信号ベクトルsがマスキングされているかまたは抑制されている。金属検出器を通して運ばれる製品が存在しないときの試験インターバル中、制御可能スイッチ25を閉じることにより試験ループ28が起動され得、それにより試験信号sTφを生成させる。この時点で、試験信号sTφが、較正のために、および試験のために、使用され得る。位相ずれδφが生じているかどうか、および試験信号sTφのベクトルの大きさが変化しているかどうか、をチェックすることができる。この目的のために、マスクAMSが取り除かれるかまたは試験信号sTφの位相がマスクAMSの適用前に計算される。適切な較正が検証された後、マスクAMSが元の状態に設定され得、それにより試験信号STφをマスキングする。試験信号sTφの任意の一部分または対応するベクトルの一部が依然として存在する場合、マスクが補正され得る。この手順を用いることで、試験信号sTφが、金属検出器内で実行されるすべての識別プロセスを試験するのに使用され得る。製品および振動に起因する信号などの望ましくない信号が適切に抑制されているかどうかが検証され得、任意の種類の汚染物質に起因する信号が適切に検出され得、位相ずれが補正され得、それにより金属検出器の適切な機能を自動的に保証することができる。
【符号の説明】
【0087】
[0091]
1 送信機ユニット
2 コイルシステム
20 フレーム
21 送信コイル
22、23 受信コイル
24、24’ 試験コイル
25 制御可能スイッチ
26 制御可能なインピーダンス
28 試験ループ
3 受信機ユニット
31 平衡変圧器
32 増幅器
33 フィルタユニット
34I、34Q 位相検出器
35I、35Q フィルタユニット
36I、36Q ゲインユニット
37I、37Q アナログ・デジタル変換器
38 固定の位相シフタ
39 制御可能な位相シフタ
4 デジタル信号プロセッサ
40 制御ユニット
400 主処理モジュール
41 制御モジュール
42 評価モジュール
43 較正モジュール
44 セットアップモジュール
46 ローパスフィルタ
47 ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ
48 位相決定装置
49 ローパスフィルタ(<1Hz)
6 コンベア
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
図4a
図4b
図4c