(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】引戸装置及び戸尻用弾性封止部材
(51)【国際特許分類】
B61D 19/02 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
B61D19/02 B
(21)【出願番号】P 2020073811
(22)【出願日】2020-04-17
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】521475989
【氏名又は名称】川崎車両株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100117662
【氏名又は名称】竹下 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100156177
【氏名又は名称】池見 智治
(72)【発明者】
【氏名】池田 龍哉
(72)【発明者】
【氏名】山田 穣二
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-094193(JP,A)
【文献】中国実用新案第209581488(CN,U)
【文献】米国特許出願公開第2019/0309570(US,A1)
【文献】実公昭45-016725(JP,Y1)
【文献】特開2015-067001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の開口に設けられる引戸装置であって、
前記開口に設けられる引戸用レールと、
前記引戸用レールに沿って前記開口を閉じる閉位置と前記開口を開く開位置との間で移動する引戸と、
長尺状の中空部が形成された変形促進部を含み、前記引戸が前記引戸用レールに沿って前記開位置から前記閉位置に移動する際に、前記変形促進部が変形し、前記引戸が前記閉位置に位置する状態で前記引戸の戸尻側縁と前記鉄道車両の車体との隙間を閉じる弾性封止部と、
を備え
、
前記変形促進部は、前記引戸が前記引戸用レールに沿って前記開位置から前記閉位置に移動する際に外力が作用する外力作用部と、前記中空部を介して前記外力作用部とは反対側に設けられる基部とを含み、前記外力作用部が前記基部よりも薄く、
前記引戸用レールに沿った前記引戸の移動方向において、前記外力作用部は、前記引戸が前記閉位置に移動する際に外力を受ける側に設けられ、その反対側に前記基部が設けられる、引戸装置。
【請求項2】
請求項1
に記載の引戸装置であって、
前記弾性封止部は、前記戸尻側縁に沿って取付けられる戸尻用弾性封止部材である、引戸装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2
に記載の引戸装置であって、
前記引戸が、前記開位置において、車内側仕切と車外側仕切との間の戸袋に収納され、
前記弾性封止部は、前記引戸が前記閉位置に位置する状態で、前記戸尻側縁と前記車内側仕切との隙間を閉じる車内側弾性封止部と、前記戸尻側縁と前記車外側仕切との隙間を閉じる車外側弾性封止部とを含む、引戸装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の引戸装置であって、
前記引戸が、前記開位置において、前記車体の外側に露出しており、
前記弾性封止部は、前記引戸が前記閉位置に位置する状態で、前記戸尻側縁と前記車体の外向き面との隙間を閉じる、引戸装置。
【請求項5】
請
求項1から請求項4のいずれか1つに記載の引戸装置であって、
前記弾性封止部のうち前記戸尻側縁又は前記車体に取付けられる部分とは反対側の先端部において、前記外力作用部が前記基部に対して角をなす側壁部を介して前記基部に連なっている、引戸装置。
【請求項6】
鉄道車両の開口に設けられる引戸装置であって、
前記開口に設けられる引戸用レールと、
前記引戸用レールに沿って前記開口を閉じる閉位置と前記開口を開く開位置との間で移動する引戸と、
長尺状の中空部が形成された変形促進部を含み、前記引戸が前記引戸用レールに沿って前記開位置から前記閉位置に移動する際に、前記変形促進部が変形し、前記引戸が前記閉位置に位置する状態で前記引戸の戸尻側縁と前記鉄道車両の車体との隙間を閉じる弾性封止部と、
を備え、
前記弾性封止部は、前記変形促進部から前記戸尻側縁又は前記車体に向けて延びて前記戸尻側縁又は前記車体に取付けられる取付部を含み、
前記取付部は、中空構造ではない板状であり、前記取付部は、前記変形促進部よりも厚い、引戸装置。
【請求項7】
鉄道車両の開口に設けられる引戸の戸尻用弾性封止部材であって、
長尺状の中空部が形成された変形促進部と、
前記変形促進部と一体形成され、前記引戸の戸尻側縁に取付けられる取付部と、
を備
え、
前記取付部は、中空構造ではない板状であり、前記取付部は、前記変形促進部よりも厚い、戸尻用弾性封止部材。
【請求項8】
請求項7に記載の戸尻用弾性封止部材であって、
前記変形促進部は、第1変形促進部と、第2変形促進部とを含み、
前記第1変形促進部と前記第2変形促進部との間に前記取付部が設けられる、戸尻用弾性封止部材。
【請求項9】
請求項7又は請求項8に記載の戸尻用弾性封止部材であって、
前記変形促進部は、前記引戸が前記開口を開く開位置から前記開口を閉じる閉位置に移動する際に外力が作用する外力作用部と、前記中空部を介して前記外力作用部とは反対側に設けられる基部とを含み、前記外力作用部が前記基部よりも薄い、戸尻用弾性封止部材。
【請求項10】
請求項9に記載の戸尻用弾性封止部材であって、
前記戸尻用弾性封止部材のうち前記取付部とは反対側の先端部において、前記外力作用部が前記基部に対して角をなす側壁部を介して前記基部に連なっている、戸尻用弾性封止部材。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の戸尻用弾性封止部材であって、
前記取付部の延長上に前記基部が設けられ、前記外力作用部が前記取付部及び前記基部から突出するように形成されている、戸尻用弾性封止部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、鉄道車両において引戸の戸尻側からの侵入音を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、付勢部によって追従部を引戸側に付勢すること、保護材が追従部と同じ変位だけ引戸直交方向に移動することによって、保護材が戸袋の開口部と引戸との隙間を塞ぐことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、保護材と戸袋の開口部との間に隙間が設けられる。この隙間を通じて、車外の音が車内に侵入する可能性がある。
【0005】
そこで、本開示は、引戸の戸尻側からの侵入音を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、引戸装置は、鉄道車両の開口に設けられる引戸装置であって、前記開口に設けられる引戸用レールと、前記引戸用レールに沿って前記開口を閉じる閉位置と前記開口を開く開位置との間で移動する引戸と、長尺状の中空部が形成された変形促進部を含み、前記引戸が前記引戸用レールに沿って前記開位置から前記閉位置に移動する際に、前記変形促進部が変形し、前記引戸が前記閉位置に位置する状態で前記引戸の戸尻側縁と前記鉄道車両の車体との隙間を閉じる弾性封止部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
この引戸装置によると、中空部が形成された変形促進部が変形した状態で、弾性封止部が引戸の戸尻側縁と鉄道車両の車体との隙間を閉じる。このため、引戸の戸尻側からの侵入音が低減される。また、引戸が開位置から閉位置に移動する際に変形する変形促進部には中空部が形成されている。このため、変形促進部は、中空部が無い場合と比較して容易に変形することができる。このため、変形促進部は、相手側部材に対して大きい接触面積で接触することができ、侵入音が効果的に低減される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る引戸装置を備える鉄道車両を示す概略側面図である。
【
図2】
図1のII-II線における引戸装置の概略断面図である。
【
図3】
図1のII-II線における引戸装置の概略断面図である。
【
図5】他の変形例に係る鉄道車両を示す概略側面図である。
【
図6】
図5のVI-VI線における概略断面図である。
【
図7】変形促進部に係る変形例を示す概略断面図である。
【
図8】変形促進部に係る変形例を示す概略断面図である。
【
図9】変形促進部に係る変形例を示す概略断面図である。
【
図10】変形促進部に係る変形例を示す概略断面図である。
【
図11】鉄道車両における音圧の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態に係る引戸装置及び戸尻用弾性封止部材について説明する。
図1は引戸装置40を備える鉄道車両20を示す概略側面図である。
図1において、左側の引戸装置40は閉じており、左側の引戸装置40は開いている。
【0010】
鉄道車両20は、軌道10を走行する車両である。軌道10は、鉄道車両20を経路に沿って導く路である。軌道10は、平行状態で敷設された2つのレールを備えるものであってもよい。軌道は、モノレールのように、1つのレールで鉄道車両を案内するものであってもよい。
【0011】
鉄道車両20は、台車22と、車体30とを備える。台車22は、台車枠と、台車枠に回転可能に支持された車輪26とを備える。台車22が下部から車体30を支える。台車22が軌道10上を走行することで、車体30を含む鉄道車両20が軌道10に沿って走行することができる。本実施形態において、鉄道車両20の進行方向を前側、後退方向を後ろ側ということがある。また、鉄道車両20から進行方向を見た場合を基準として左右という場合がある。重力方向において重力が加わる側を下側、その反対側を上側という場合がある。なお、鉄道車両20は、軌道を走行する車両であればよく、電車、貨物列車の機関車、貨物列車の貨車、旅客列車の機関車、旅客列車の客車のいずれであってもよい。貨車又は客車は、機関車によって牽引される付随車であってもよいし、自身が動力を有する動力車であってもよい。機関車は、電気機関車であってもよいし、ディーゼル機関車等の内燃機関車であってもよい。
【0012】
車体30は、前後方向に長い箱形状部分を備える。車体30は、側構体32を備える。側構体32は、車体30のうち左右部分に設けられる。側構体32は、車体30の側壁を構成する強度部材である。側構体32は、車体30の左右において、車内と車外とを仕切る仕切としての役割をも果してもよい。側構体32に、方形状の開口34hが形成されている。開口34hは、側構体32の前後方向において部分的な領域に開口するように形成される。また、開口34hは、例えば、車体30の床上の位置からから屋根に向かう領域で開口するように形成される。開口34hを通じて人が出入りし又は物が出し入れされる。
図1では、側構体32の前後方向において離れた箇所に、2つの開口34hが形成される例が示される。開口34hは、1つ又は3つ以上設けられてもよい。本実施形態では、側構体32の開口34hに、引戸装置40が設けられる例が説明される。
【0013】
車体30は、妻構体38を備えている。妻構体38は、車体30の前後壁を構成する強度部材である。妻構体38は、車体30の前後において、車内と車外とを仕切る仕切としての役割を果してもよい。の一種である。妻構体38にも、人が出入り等する開口34hが形成される場合がある。本実施形態で説明する引戸装置40が、側構体32における開口34hに設けられることは必須ではない。例えば、引戸装置40は、妻構体38における開口に設けられてもよい。
【0014】
図2及び
図3は
図1のII-II線における引戸装置40の概略断面図である。
図2では引戸50が開位置と閉位置との間に位置する状態が示されている。
図3では引戸50が閉位置に位置する状態が示されている。
【0015】
図1から
図3に示すように、引戸装置40は、引戸用レール42、44と、引戸50と、弾性封止部60とを備える。
【0016】
図2及び
図3では、側構体32に対して車内側に室内キセ35が設けられる例が示される。室内キセ35には、開口34hと同様の開口が形成されている。室内キセ35は、側構体32の内側で、車内とその外側とを仕切る仕切の一種である。室内キセ35は、車内に露出していてもよい。側構体32の内側に室内キセ35が設けられる場合、側構体32と室内キセ35とが、車体30において車外と車内とを仕切る仕切であり、そのうち室内キセ35が車内側仕切であり、側構体32が車外側仕切である。側構体32と室内キセ35との間には、間隔aが設けられている。間隔aは、引戸50の厚みよりも大きく設定されている。引戸50は、側構体32と室内キセ35との間の空間に配置される。当該空間のうち開いた引戸50が収納される部分は、戸袋Eと呼ばれることがある。車体30において戸袋Eが存在しない場合もあり、その場合の例が後の変形例で説明される。
【0017】
引戸用レール42、44は、開口34hに設けられる。引戸用レール42、44は、間隔をあけて互いに平行姿勢で車体30に固定され、引戸50を開閉可能に案内する。より具体的には、引戸用レール42は、開口34hにおける下縁に沿うように、側構体32に固定されている。引戸用レール44は、開口34hにおける上縁に沿うように、側構体32に固定されている。引戸用レール42、44は、開口34hの下縁及び上縁の端部からさらに車体30の前後に延び出るように設けられる。本実施形態では、引戸用レール42、44は、開口34hの下縁及び上縁の端部から戸袋E内に延びている。引戸用レール42、44は、直線状に延在していてもよいし、引戸50を案内可能な範囲で部分的に又は全体的に曲っていてもよい。このため、引戸用レール42、44は、引戸50が開口34h内に位置する状態と、引戸50が開口34hから外方に移動して戸袋E内に位置する状態との間で、引戸50をガイドすることができる。
【0018】
引戸50は、開口34hを閉じる板状、ここでは、方形板状に形成されている。引戸50は、引戸用レール42、44に沿って開口34hを閉じる位置(
図1における左側の引戸50参照)と開口34hを開く開位置(
図1における右側の引戸50参照)との間で移動可能に設けられる。引戸用レール42、44が引戸50を移動可能に支持する構成は特に限定されない。例えば、引戸用レール42、44の少なくとも一方に細長いガイド突部が形成されており、当該ガイド突部が引戸50に形成されたガイド溝に移動可能に嵌る構成であってもよい。逆に、引戸用レール42、44に細長いガイド溝が形成されており、引戸50に設けられたガイド体が当該ガイド溝内を移動する構成であってもよい。
【0019】
本実施形態では、1つの開口34hに対して2つの引戸50が設けられる例が説明される。つまり、引戸装置40は、両引戸タイプである。本実施形態に拘らず、引戸装置は、1つの開口に対して1つの引戸が設けられる片引戸であってもよい。本実施形態では、1つの引戸50は、開口34hにおける開口幅の半分程度を塞ぐことができる大きさの板状に形成されている。2つの引戸50が開口34hにおける開口幅方向中央に移動することで、開口34hが閉じられる。この状態が、引戸50が閉位置に位置する状態である。2つの引戸50が開口34hにおける開口幅方向中央から遠ざかる方向に移動することで、開口34hが開かれる。本実施形態では、開位置において、引戸50は、戸袋E内に収納される。この状態で、引戸50が開位置に位置する。引戸50が閉じるように移動する際において、引戸50のうち移動方向前方の部分が戸先であり、引戸50のうち移動方向後方の部分が戸尻である。
【0020】
引戸50が閉位置に位置する状態で、引戸50のうち戸尻側の縁52は、側構体32のうち開口34h側の縁と重なった状態となっていてもよい。ここでは、引戸50のうち戸尻側の縁52は、戸袋E内に位置している。つまり、引戸50の幅は、開口34hの開口幅の半分よりも大きい。引戸50が開位置に位置する状態で、引戸50は開口34hから完全に退避してもよい。ここでは、戸袋Eは、引戸50の全体を収容可能な大きさに形成されている。
【0021】
弾性封止部60は、長尺状の中空部67、69が形成された変形促進部66、68を含む。中空部67、69は、変形促進部66の長手方向に沿って延びる。弾性封止部60は、ゴム等の弾性材料によって形成されている。引戸50が引戸用レール42、44に沿って開位置から閉位置に移動する際に、変形促進部66、68が変形する。引戸50が閉位置に位置する状態で、変形促進部66、68が引戸50の戸尻側の縁52と鉄道車両20の車体30との隙間を閉じる。変形促進部66、68は、閉位置に位置する引戸50の戸尻側の縁52の存在領域において、全体的に設けられてもよいし、部分的に設けられてもよい。
【0022】
上記のような弾性封止部60は、引戸50が閉位置に位置する状態で、引戸50の戸尻側の縁52に沿った位置に延在していれば、引戸50の戸尻側の縁52と鉄道車両20の車体30との隙間を閉じることができる。このため、弾性封止部60は、引戸50のうち戸尻に固定されてもよいし、側構体32に取付けられてもよいし、室内キセ35に取付けられてもよい。本実施形態では、弾性封止部60が引戸50の戸尻側の縁52に沿って取付けられる戸尻用弾性封止部材60である例が説明される。
【0023】
より具体的には、戸尻用弾性封止部材60は、取付部62と、第1変形促進部66と、第2変形促進部68とを含む。戸尻用弾性封止部材60は、ゴム等によって一体的に金型成形された部材であってもよい。
【0024】
取付部62は、引戸50の戸尻側の縁52に取付けられる部分である。ここでは、取付部62は、細長い板状に形成されている。取付部62の長さは、引戸50のうち戸尻側の縁52にある外向き面の上下長さと同じであってもよいし、この上下長さより短くてもよい。取付部62の幅は、引戸50のうち戸尻側の縁52にある外向き面の幅(引戸50の厚み)と同じであってもよいし、大きくてもよい。ここでは、取付部62の幅は、当該外向き面の幅よりも大きく、従って、取付部62の両側部が引戸50の両面側に突出している。取付部62は、ネジSによって引戸50の戸尻側の縁52に取付けられる。引戸50に対する取付部62の取付構成は特に限定されない。例えば、引戸の戸尻に形成された突起が取付部に形成された孔又は凹部に嵌り込んでもよい。あるいは、逆に、引戸の戸尻に形成された孔又は凹みに、取付部に形成された突起が嵌り込んでもよい。その他、取付部が接着剤、両面テープ、リベット等によって引戸に取付けられてもよい。ネジ、嵌り込み構造等、取付部62を着脱可能な構成によって、取付部62が引戸50に取付けられれば、磨耗、劣化時等に、戸尻用弾性封止部材60を交換することが容易となる。
【0025】
第1変形促進部66は、細長い中空部67が形成された細長い管状の部分である。この第1変形促進部66は、引戸50が閉位置に位置する状態で、引戸50の戸尻側の縁52と、車内側仕切である室内キセ35との隙間を閉じる車内側弾性封止部の一例である。
【0026】
第1変形促進部66は、取付部62のうちの一側部から室内側及び引戸50が閉じる側に環状に広がっている。例えば、第1変形促進部66の横断面(長手方向に対して直交する断面)形状は、半円状部分に対してその曲率中心側に鋭角部分が連なる形状、換言すれば、滴の外縁形状をなしている。より具体的には、第1変形促進部66の横断面形状は、延長部66aと、弧状部66bと、逆弧状部66cとで囲まれる形状に形成されている。延長部66aは、取付部62のうちの一側縁(室内側縁)から室内側に向けて真っ直ぐ延出している。弧状部66bは、延長部66aの端部から1周未満(例えば、3/4周程度)の弧を描きつつ、取付部62のうちの一側縁に向うように形成されている。逆弧状部66cは、前記弧状部66bとは逆向けに凸となるように湾曲する弧を描いて取付部62のうちの一側縁に繋がっている。延長部66aと、弧状部66bと、逆弧状部66cとの内側に中空部67が形成されている。
【0027】
取付部62は、上記第1変形促進部66よりも厚い。例えば、延長部66aと弧状部66bと逆弧状部66cとの厚みは、取付部62の厚みの半分である。延長部66aと、弧状部66bと、逆弧状部66cとの厚みは均一であってもよく、その場合、第1変形促進部66の内側形状は、その外側形状に対して相似形状である。
【0028】
第1変形促進部66は、上記断面形状が連続的に続く長尺形状であってもよい。第1変形促進部66の長手方向において部分的に、取付目的等のために、異なる断面形状部分が存在していてもよい。
【0029】
室内キセ35に、引戸50が閉位置に位置する状態で、第1変形促進部66と接触する第1当接部37が設けられている。第1当接部37は、室内キセ35のうち戸袋E側の面であって、開口34h側の縁に沿うように形成されている。第1当接部37は、例えば、ゴム等の弾性材料によって形成される。第1当接部37の横断面形状は、四角形状、例えば、台形状に形成される。第1当接部37は、戸袋Eへの異物の侵入を抑制する保護ゴムであってもよい。引戸50が閉位置に位置する状態で、第1当接部37は、第1変形促進部66よりも開口34hに近い側で、第1変形促進部66と接触し得る位置に設けられる。このため、引戸50が開位置から閉位置に移動する途中で、第1変形促進部66が第1当接部37に接触でき、さらに、引戸50が閉位置に位置する状態で、第1変形促進部66が第1当接部37に接触した状態を保つことができる。室内キセ35に対する第1当接部37の取付構成は、嵌込構造、ネジ止構造等、どのような構成であってもよい。
【0030】
第2変形促進部68は、細長い中空部69が形成された細長い管状の部分である。この第2変形促進部68は、引戸50が閉位置に位置する状態で、引戸50の戸尻側の縁52と、車外側仕切である側構体32との隙間を閉じる車外側弾性封止部の一例である。
【0031】
第2変形促進部68は、取付部62のうちの一側部から室外側及び引戸50が閉じる側に環状に広がっている。つまり、第1変形促進部66と第2変形促進部68との間に取付部62が設けられる。このため、取付部62が引戸50における戸尻側の縁52に取付けられると、第1変形促進部66と第2変形促進部68とが、引戸50に対して両面側に突出することができる。第2変形促進部68は、上記第1変形促進部66と同様形状であってもよい。ここでは、第2変形促進部68は、引戸50の厚み方向中心面を対称面として、第1変形促進部66と対称形状に形成されている。なお、第1変形促進部と第2変形促進部とが同じ形状であることは必須ではない。
【0032】
側構体32に、引戸50が閉位置に位置する状態で、第2変形促進部68と接触する第2当接部33が設けられている。第2当接部33は、側構体32のうち戸袋E側の面であって、開口34h側の縁に沿うように形成されている。第2当接部33は、例えば、ゴム等の弾性材料によって形成される。第2当接部33の横断面形状は、例えば、基部33aと、2つの突出部33b、33cを有する形状に形成される。基部33aは、細長い板状に形成されており、側構体32のうちの車内側の面に取付けられる。この取付構成は、嵌込構造、ネジ止構造等、どのような構成であってもよい。一方の突出部33bは、基部33aのうち開口34h側に近い縁から車内側に向けて突出する板状に形成されている。他方の突出部33cは、基部33aのうち戸袋Eの奥側の縁から車内側に向けて突出する板状に形成されている。突出部33cは、車内側に向かうに従って戸袋Eの奥側(引戸50が開く向き)に傾斜している。突出部33b、33bの先端縁部は、円柱縁状に形成されており、他の部分よりも肉厚に形成されている。第2当接部33は、隙間風等を抑制する風止めゴムであってもよい。引戸50が閉位置に位置する状態で、第2当接部33は、第2変形促進部68よりも開口34hに近い側で、第2変形促進部68と接触し得る位置に設けられる。このため、引戸50が開位置から閉位置に移動する途中で、第2変形促進部68が第2当接部33(ここでは突出部33c)に接触でき、さらに、引戸50が閉位置に位置する状態で、第2変形促進部68が第2当接部33(ここでは突出部33c)に接触した状態を保つことができる。
【0033】
第1当接部37、第2当接部33の形状は上記例に限られず、第1変形促進部66又は第2変形促進部68と接触することができる形状であればよい。第1当接部37及び第2当接部33の少なくとも一方は、金属、樹脂等によって形成されていてもよい。第1当接部37及び第2当接部33の少なくとも一方は、側構体32又は室内キセ35を構成する部分の一部が戸袋E側に突出した部分であってもよい。
【0034】
このように構成された引戸装置40では、引戸50が閉位置に向けて移動する途中で変形促進部66、68が当接部37、33に接触する。引戸50がさらに閉位置に向けて移動すると、変形促進部66、68のうち当接部37、33に接触した部分に、引戸50が移動する向きとは逆向きの力が作用する。この際、変形促進部66、68には、中空部67、69が形成されているので、変形促進部66、68は、当接部37、33に接触した部分を中心として容易に押潰されるように変形することができる(
図3参照)。そして、引戸50が閉位置に移動した状態で、変形促進部66、68が押潰されるように変形した状態で、戸尻用弾性封止部材60が引戸50の戸尻の縁と車体30との間を閉じることができる。具体的には、戸尻用弾性封止部材60のうち第1変形促進部66側の部分が、引戸50の戸尻側の縁52と室内キセ35との間を閉じることができる。また、戸尻用弾性封止部材60のうち第2変形促進部68側の部分が、引戸50の戸尻側の縁52と側構体32との間を閉じることができる。
【0035】
以上のように構成された引戸装置40及び戸尻用弾性封止部材60によると、変形促進部66、68が変形した状態で、戸尻用弾性封止部材60が引戸50の戸尻側の縁52と車体30との隙間を閉じることができる。このため、引戸50の戸尻側からの侵入音が抑制される。
【0036】
また、引戸50が開位置から閉位置に移動する際に変形する変形促進部66、68には、中空部67、69が形成されている。このため、変形促進部66、68は、中空部67、69が無い場合と比較して容易に変形することができる。このため、変形促進部66、68は、相手側部材である当接部37、33に対して大きい接触面積で接触することができ、侵入音が効果的に低減される。
【0037】
また、例えば、引戸が閉じた状態で、中空部が存在しない部材を当接部に接触させる構成を想定する。この場合、引戸が閉じる途中で硬い部材同士が接触してしまうと、当接による大きな反力が生じる。仮に、引戸が電動扉であると、閉じ動作の完了直前に大きな反力を検知することで、戸先に異物を挟んだと誤検知する可能性がある。また、仮に空気式扉であると、引戸を完全に閉めるために設計値より大きな力が必要となり、扉が閉まりきらない可能性がある。これらを避けるためには、引戸が閉じた状態で、中空部が存在しない部材がちょうど当接部に接触するように、高精度な取付けを行うか、意図的に僅かな隙間を設けることが考えられる。前者の場合には、取付作業及びその後のメンテナンス作業の困難性を生じさせ得る。後者の場合には、音、風、水等が侵入し得る。また、中空部が存在せず、かつ、変形名容易な部材として、薄い弾性部材を用いるとすると、十分な接触面積、十分な押付け圧力を得ることが難しく、上記中空部67、69を形成した変形促進部66、68と比較して、侵入音の抑制効果が小さい。
【0038】
また、弾性封止部60は、引戸50における戸尻側の縁52に沿って取付けられる戸尻用弾性封止部材60であるため、弾性封止部が戸袋E内において側構体32又は室内キセ35に取付けられる場合と比較して、その取付、交換、メンテナンス作業等が容易である。また、第1当接部37、第2当接部33に対して、異物侵入防止、風止ゴム等に適した形状を付与しつつ、戸尻用弾性封止部材60を侵入音の抑制に適した形状に形成することができる。
【0039】
また、引戸50の戸尻側の縁52と室内キセ35との隙間が戸尻用弾性封止部材60のうち第1変形促進部66側の部分により閉じられ、引戸50の戸尻側の縁52と側構体32との隙間が戸尻用弾性封止部材60のうち第2変形促進部68側の部分により閉じられる。このため、引戸50の戸尻側において、車体30の内外間に、戸尻用弾性封止部材60のうち第1変形促進部66と第2変形促進部68とで仕切られる空間が形成される。この空間によって、遮音性が高められる。
【0040】
また、戸尻用弾性封止部材60は、第1変形促進部66と第2変形促進部68との間に取付部62が設けられた構成であるため、取付部62を引戸50における戸尻側の縁52に取付けると、第1変形促進部66を引戸50に対して車内側に位置させ、第2変形促進部68を引戸50に対して車外側に位置させることができる。これにより、容易に遮音性が高められる。
【0041】
なお、側構体32と室内キセ35とが存在する場合において、車内側弾性封止部(第1変形促進部66)と車外側弾性封止部(第2変形促進部68)との両方が存在することは必須ではない。そのうちの一方だけ設けられてもよい。
【0042】
また、変形促進部66、68は、取付部62よりも薄い。このため、取付部62によって変形促進部66、68を、当接部37、33に接触させる位置にしっかりと支持しつつ、変形促進部66、68をなるべく大きく変形させて、接触面積を高めることができる。
【0043】
各種変形例について説明する。
【0044】
図4は弾性封止部60に対応する弾性封止部170を室内キセ35に設け、さらに、弾性封止部60に対応する弾性封止部180を側構体32に設けた変形例を示す概略断面図である。
【0045】
この変形例では、引戸50における戸尻側の縁52に、板状の当接部160が設けられる。当接部160は、引戸50の厚みよりも大きい幅の細長い板状に形成されている。当接部160は、ネジ止等によって、引戸50における戸尻側の縁52に取付けられる。当接部160は、引戸50の構成部分を、引戸50の厚み方向に突出させた部分であってもよい。
【0046】
上記第1当接部37の代りに、弾性封止部170が設けられる。弾性封止部170は、上記第1当接部37のうち開口34hから遠い側(戸袋Eの奥側、或いは、引戸50が閉る側)の部分に、第1変形促進部66と同様形状の第1変形促進部172が設けられた構成とされている。第1変形促進部172は、弾性封止部170のうち室内キセ35に取付けられる本体部171のうち開口34hから遠い側の部分に対して、さらに開口34hから遠い側に突出するように形成されている。
【0047】
上記第2当接部33の代りに、弾性封止部180が設けられる。弾性封止部180は、上記第2当接部33において、突出部33cの代りに、第1変形促進部66と同様形状の第2変形促進部182が設けられた構成とされている。第2変形促進部182は、基部33aのうち開口34hから遠い側の縁から室内側及び開口34hから遠い側に突出するように形成されている。
【0048】
本変形例によっても、引戸50が開位置から閉位置に向う途中で、変形促進部172、182が相手側部材である当接部160に接触する。引戸50がさらに閉位置に向けて移動すると、変形促進部172、182のうち当接部160に接触した部分に、引戸50が移動する向きの力が作用する。この際、変形促進部172、182には、中空部173、183が形成されているので、変形促進部172、182は、当接部160に接触した部分を中心として容易に押潰されるように変形することができる。このため、上記実施形態で説明したのと同様に、引戸50の戸尻側からの侵入音が抑制される。
【0049】
また、本変形例において、弾性封止部170は、引戸50の戸尻側の縁52と室内キセ35との隙間を閉じる車内側弾性封止部の一例であり、弾性封止部180は、引戸50における戸尻側の縁52と側構体32との隙間を閉じる車外側弾性封止部の一例である。このため、上記実施形態と同様に、引戸50の戸尻側において、車体30の内外間に、弾性封止部170と弾性封止部180とで仕切られる空間が形成される。この空間によって、遮音性が高められる。
【0050】
その他、弾性封止部を戸尻用弾性封止部材60とすることによる作用効果を除き、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
なお、本変形例において、弾性封止部170及び弾性封止部180の両方が存在することは必須ではなく、それらのうちの一方だけ設けられてもよい。
【0052】
また、車内側弾性封止部と車外側弾性封止部との両方が存在する場合において、そのうちの一方が戸尻側に、他方が側構体又は室内キセに設けられてもよい。また、車内側弾性封止部が戸尻側及び室内キセの両方に設けられてもよい。さらに、車外側弾性封止部が、戸尻側及び側構体の両方に設けられてもよい。
【0053】
図5は、引戸50が車体230の外側に露出した状態で開閉する例を示す概略側面図である。
図6は
図5のVI-VI線概略断面図である。
図5において、左側の引戸装置240は閉じており、左側の引戸装置240は開いている。
図6では引戸50が開位置と閉位置との間に位置する状態が示されている。
【0054】
本変形例においては、上記車体30に対応する車体230では、室内キセ35が省略されている。引戸用レール42、44は、側構体32よりも外側に位置している。引戸用レール42、44の案内によって、引戸50は、側構体32の外側で開位置と閉位置との間で移動する。
【0055】
引戸50のうち戸尻側の縁52に、戸尻用弾性封止部材60に対応する戸尻用弾性封止部材260が設けられる。戸尻用弾性封止部材260は、上記戸尻用弾性封止部材60において車外に向う第2変形促進部68が省略された構成とされている。つまり、戸尻用弾性封止部材260は、取付部262と、変形促進部266とを備える。取付部262は、上記取付部62に対応する部分であり、ここでは、側構体32側に突出した状態で、引戸50における戸尻側の縁52に取付けられる。変形促進部266は、上記変形促進部66と同様形状であり、取付部262の側構体32側の縁から、側構体32側(車内側)及び開口34h側(引戸50が閉る側)に向けて突出するように設けられる。
【0056】
側構体32に、引戸50が閉位置に位置する状態で、変形促進部266と接触する当接部270が設けられる。当接部270は、側構体32のうち車外側の面であって、開口34h側の縁に沿うように形成されている。当接部270は、例えば、ゴム等の弾性材料によって形成される。当接部270の横断面形状は、四角い形状等に形成されてもよい。当接部270は、異物の侵入を抑制する保護ゴムであってもよい。当接部270が弾性材料によって形成されていることは必須ではない。例えば、当接部270は、金属によって形成されていてもよい。引戸50が閉位置に位置する状態で、当接部270は、変形促進部266よりも開口34h側で、変形促進部266と接触し得る位置に設けられる。このため、引戸50が開位置から閉位置に移動する途中で、変形促進部266が当接部270に接触でき、さらに、引戸50が閉位置に位置する状態で、変形促進部266が当接部270に接触した状態を保つことができる。側構体32に対する当接部270の取付構成は、嵌込構造、ネジ止構造等、どのような構成であってもよい。
【0057】
本変形例によっても、上記実施形態と同様に侵入音が効果的に低減される。特に、引戸50の戸尻側の縁52と車体230の外向き面との隙間が弾性封止部の一例である戸尻用弾性封止部材260によって閉じられるため、外吊対応の引戸50の戸尻側からの侵入音が低減される。
【0058】
その他、引戸50を戸袋Eに収納する構成に関する作用効果を除き、上記実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0059】
本変形例において、弾性封止部が、
図4に示す変形例と同様に、側構体に設けられてもよい。
【0060】
図7から
図10は、変形促進部に係る各種変形例を示す概略断面図である。
【0061】
図7では取付部62の一側部に変形促進部360が連なっている。
図7では上記第1変形促進部66の外形が2点鎖線で示されている。この変形例に係る変形促進部360は、上記第1変形促進部66と相似形状であるが、より小さい環状を描いている。変形促進部360における中空部362も、第1変形促進部66における中空部67より小さい。変形促進部66、360及び中空部67、362の大小に拘らず、変形促進部66、360は、中空部67、362を潰すように容易に変形することができ、これにより、侵入音を効果的に低減することができる。
【0062】
図8に示す変形促進部460は、基部461と、外力作用部462とを含む。基部461は、取付部62の一側部からさらに外方に延長された板状に形成されている。外力作用部462は、取付部62及び基部461から突出するように形成されている。より具体的には、外力作用部462は、U字状をなしており、その両端部が基部461の両縁に連なっている。基部461と外力作用部462との間に中空部463が形成される。基部461の厚みは、取付部62の厚みよりも小さいが、これは必須ではない。外力作用部462の厚みは、基部461の厚みよりも小さい。このため、外力作用部462は、基部461よりも容易に変形することができる。引戸50の閉状態において、外力作用部462が引戸50の戸尻側の縁52と車体30との隙間を閉じる形状として想定された適切な形状に変形し得るように、基部461の厚み及び取付部62の厚み等が選択される。
【0063】
外力作用部462は、引戸50が引戸用レール42、44に沿って開位置から閉位置に移動する際に外力が作用する部分である。基部461は、中空部463を介して上記外力作用部462とは反対側に設けられる部分である。この変形促進部460が引戸50における戸尻側の縁52に設けられる場合、外力作用部462は、基部461に対して、開口34h側(引戸50が閉じる側)に設けられる。変形促進部460が側構体32又は室内キセ35に設けられる場合外力作用部462は、基部461に対して、開口34hから遠い側(引戸50が開く側)に設けられる。これにより、外力作用部462は、引戸50が閉位置に移動する際に外力を受ける側に設けられ、その反対側に基部461が設けられることになる。
【0064】
また、外力作用部462の中間部は弧状を描いており、その両端部は互いに平行に真っ直ぐに延在する。外力作用部462の両端部は、基部461に対して角をなす側壁部462aである。よって、外力作用部462は、基部461に対して角をなす(ここでは直角)側壁部462aを介して基部461に連なる。ここで、外力作用部462が主として取付部62とは反対側に膨らむように変形することを避けることができる程度で、外力作用部462が基部461に対して角をなす側壁部462aを介して基部461に連なっていればよい。このため、例えば、側壁部462aが基部461に対して、80度から100度の角度をなす関係にあればよい。この際、両者の連結部分に、面と面とが実際に角をなして交わっている表面形状部分が存在することは必須ではい。
【0065】
本変形例によると、外力作用部462は基部461よりも薄いため、引戸50が開位置から閉位置に移動する際に、基部461よりも外力作用部462を大きく変形させることで、変形促進部360が相手側部材に接触する面積を大きくすることができる。この際、基部461が外力作用部462に対して厚いため、基部461が外力作用部462を相手側部材に密着した状態を保ち易い。
【0066】
特に、外力作用部462が、引戸50が閉位置に移動する際に外力を受ける側に設けられるため、外力を外力作用部462に作用させつつ、その反対側から基部461が外力作用部462をしっかりと受止めることができる。
【0067】
また、取付部62とは反対側において、外力作用部462が基部461に対して角をなす側壁部462aを介して基部461に連なっている。このため、外力作用部462に作用した力が弾性封止部のうち取付部62とは反対側の先端部に逃げ難く、外力作用部462を十分に変形させ易い。
【0068】
取付部62及び基部461との関係では、外力作用部462は、取付部62及び当該取付部62から延長された基部461から突出しているため、取付部62の延長上の基部461上で、外力作用部462がしっかりと支持される。このため、外力作用部462が大きく変形し、相手側部材との接触面積を大きくすることができる。
【0069】
また、変形促進部460は、取付部62よりも薄いため、取付部62によって変形促進部460を所定位置に支持しつつ、変形促進部460をなるべく大きく変形させて、接触面積を高めることができる。
【0070】
図9に示す変形促進部560は、基部561と、外力作用部562とを含む。
図8に示す変形促進部460と、
図9に示す変形促進部560との相違点は、基部561に対する外力作用部562の連結部分である。すなわち、変形促進部460では、基部561に対する外力作用部562の連結部分の内側コーナー部が直角に形成されている。本変形例では、基部561に対する外力作用部562の連結部分の内側コーナー部560aが丸められた形状とされている。この場合でも、
図8に示す変形例と同様の作用効果を得ることができる。
【0071】
図10に示す変形促進部660は、取付部62の一側部から一方主面側に突出する環状形状に形成されている。この変形促進部660の内部に円状の中空部662が形成されている。変形促進部660における外周面と内周面との間の厚みは、取付部62の厚みと同じであってもよいし、取付部62の厚みより小さくてもよい。
図10には、2点鎖線で別の変形例に係る変形促進部760が示されている。変形促進部760は、上記変形促進部660よりも小径に形成されている。変形促進部760の内部の中空部762も、上記中空部662より小径である。
【0072】
これらの変形例に係る変形促進部660、760によっても、中空部662、762を扁平に変形させるようにして、変形促進部660、760が容易に変形することができる。このため、上記実施形態と同様に、引戸50の戸尻側の縁52と車体30との隙間を閉じて侵入音を効果的に低減することができる。
【0073】
上記各変形促進部360、460、560、660、760に係る構成は、上記実施形態及び各変形例で説明したように、戸袋E内に収納される引戸50に組込まれてもよいし、外吊タイプの引戸50に適用されてもよいし、また、室内キセ35、側構体32に組込まれてもよい。
【0074】
図11は鉄道車両20における音圧の変化を示す図である。
図11における横軸は、鉄道車両20が所定の軌道10における所定位置を通過した時刻からの経過時間を示しており、縦軸は走行中の室内における音圧を示している。
図11における線L1は
図2に示す戸尻用弾性封止部材60が組込まれた鉄道車両20における音圧の変化を示している。線L2は、引戸50における戸尻側の縁52に、
図2に示す戸尻用弾性封止部材60に代えて、中空部が無い剛体が取付けられた鉄道車両20における音圧の変化を示している。なお、剛体については、通常作業として想定し得る程度の精度で、当該剛体を第1当接部37及び第2当接部33になるべく近づけるように設定した。鉄道車両20の室内における音は、主に車外からの音(車輪26が軌道10上を転がる音等)に起因するため、室内の音圧が小さくなれば、侵入音が低減されていることがわかる。
【0075】
図11から鉄道車両20が所定の軌道10における所定範囲を通過する際、戸尻用弾性封止部材60が組込まれた鉄道車両20における音圧が、剛体が取付けられた鉄道車両20における音圧よりも4dB程度小さくなり、一定の効果を得ることができることが判明した。
【0076】
なお、上記実施形態及び各変形例において、変形促進部における外周形状と内周形状とは相似形状であってもよいし、相似形状でなくてもよい。相似形状であれば、変形促進部における周方向厚みを同じにし易い。変形促進部内に設けられる中空部は、1つであってもよいし、複数であってもよい。
【0077】
また、上記実施形態及び各変形例では、中空部67、69、173、183、362、463、662、762の周り全体が、変形促進部66、68、172、182、266、360、460、560、660、760によって囲まれる例が示された。この場合、変形促進部66、68、172、182、266、360、460、560、660、760の変形形状を制御し易い。
【0078】
中空部67、69、173、183、362、463、662、762の周り全体が、変形促進部66、68、172、182、266、360、460、560、660、760によって囲まれる必要はない。例えば、変形促進部66、68、172、182、266、360、460、560、660、760にその長手方向に沿って延びるスリットが形成されていてもよい。この場合において、例えば、中空部67、69、173、183、362、463、662、762の周り2/3以上、あるいは、3/4以上が変形促進部66、68、172、182、266、360、460、560、660、760によって囲まれていてもよい。スリットは、隙間があるスリットであってもよいし、切れ目のようにほとんど隙間がないスリットであってもよい。スリットが形成される場合において、引戸50が閉位置に位置する状態で、スリットが閉じられように、変形促進部66、68、172、182、266、360、460、560、660、760が変形してもよい。例えば、
図8に示す変形促進部460において、外力作用部462のうちのいずれか一方側の端部(例えば取付部62側の端部)と基部461との間にスリットが形成されていてもよい。
【0079】
なお、上記実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組合わせることができる。
【0080】
上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【0081】
本明細書及び図面は、以下の各態様を開示する。
【0082】
第1の態様は、鉄道車両の開口に設けられる引戸装置であって、前記開口に設けられる引戸用レールと、前記引戸用レールに沿って前記開口を閉じる閉位置と前記開口を開く開位置との間で移動する引戸と、長尺状の中空部が形成された変形促進部を含み、前記引戸が前記引戸用レールに沿って前記開位置から前記閉位置に移動する際に、前記変形促進部が変形し、前記引戸が前記閉位置に位置する状態で前記引戸の戸尻側縁と前記鉄道車両の車体との隙間を閉じる弾性封止部と、を備える。
【0083】
この引戸装置によると、中空部が形成された変形促進部が変形した状態で、弾性封止部が引戸の戸尻側縁と鉄道車両の車体との隙間を閉じる。このため、引戸の戸尻側からの侵入音が低減される。また、引戸が開位置から閉位置に移動する際に変形する変形促進部には中空部が形成されている。このため、変形促進部は、中空部が無い場合と比較して容易に変形することができる。このため、変形促進部は、相手側部材に対して大きい接触面積で接触することができ、侵入音が効果的に低減される。
【0084】
第2の態様は、第1の態様に係る引戸装置であって、前記弾性封止部は、前記戸尻側縁に沿って取付けられる戸尻用弾性封止部材とされている。引戸の戸尻側の縁に対する戸尻用弾性封止部の取付を容易に行うことができる。
【0085】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係る引戸装置であって、前記引戸が、前記開位置において、車内側仕切と車外側仕切との間の戸袋に収納され、前記弾性封止部は、前記引戸が前記閉位置に位置する状態で、前記戸尻側縁と前記車内側仕切との隙間を閉じる車内側弾性封止部と、前記戸尻側縁と前記車外側仕切との隙間を閉じる車外側弾性封止部とを含むものである。前記戸尻側縁と前記車内側仕切との隙間が車内側弾性封止部により閉じられ、前記戸尻側縁と前記車外側仕切との隙間が車外側弾性封止部により閉じられる。このため、引戸の戸尻側において、車体の内外間に、車内側弾性封止部と車外側弾性封止部とで仕切られる空間が形成される。この空間によって遮音性が高められる。
【0086】
第4の態様は、第1又は第2の態様に係る引戸装置であって、前記引戸が、前記開位置において、前記車体の外側に露出しており、前記弾性封止部は、前記引戸が前記閉位置に位置する状態で、前記戸尻側縁と前記車体の外向き面との隙間を閉じるものである。前記戸尻側縁と前記車体の外向き面との隙間が弾性封止部により閉じられる。このため、外吊タイプの引戸の戸尻側からの侵入音が低減される。
【0087】
第5の態様は、第1から第4のいずれか1つの態様に係る引戸装置であって、前記変形促進部は、前記引戸が引戸用レールに沿って前記開位置から前記閉位置に移動する際に外力が作用する外力作用部と、前記中空部を介して前記外力作用部とは反対側に設けられる基部とを含み、前記外力作用部が前記基部よりも薄い。引戸が開位置から閉位置に移動する際に、基部よりも外力作用部を大きく変形させることで、変形促進部が相手側に接触する面積を高めることができる。
【0088】
第6の態様は、第5の態様に係る引戸装置であって、前記弾性封止部のうち前記戸尻側縁又は前記車体に取付けられる部分とは反対側の先端部において、前記外力作用部が前記基部に対して角をなす側壁部を介して前記基部に連なっているものである。外力作用部に作用した力が弾性封止部の先端側に逃げ難く、外力作用部を十分に変形させ易い。
【0089】
第7の態様は、第5又は第6の態様に係る引戸装置であって、前記引戸用レールに沿った前記引戸の移動方向において、前記外力作用部は、前記引戸が前記閉位置に移動する際に外力を受ける側に設けられ、その反対側に前記基部が設けられるものである。
【0090】
第8の態様は、第1から第7のいずれか1つの態様に係る引戸装置であって、前記弾性封止部は、前記変形促進部から前記戸尻側縁又は前記車体に向けて延びて前記戸尻側縁又は前記車体に取付けられる取付部を含み、前記取付部は、前記変形促進部よりも厚い。取付部によって変形促進部を支持しつつ、変形促進部をなるべく大きく変形させて、接触面積を高めることができる。
【0091】
第9の態様に係る戸尻用弾性封止部材は、鉄道車両の開口に設けられる引戸の戸尻用弾性封止部材であって、長尺状の中空部が形成された変形促進部と、前記変形促進部と一体形成され、前記引戸の戸尻側縁に取付けられる取付部と、を備える。
【0092】
この戸尻用封止部材によると、中空部が形成された変形促進部が変形した状態で、戸尻用弾性封止部が引戸の戸尻側縁と鉄道車両の車体との隙間を閉じることができる。このため、戸の戸尻側からの侵入音が低減される。また、引戸が開位置から閉位置に移動する際に変形する変形促進部には中空部が形成されている。このため、変形促進部は、中空部が無い場合と比較して容易に変形することができる。このため、引戸を閉める際に、弾性封止部が大きな反力を作用させることが抑制される。
【0093】
第10の態様は、第9の態様に係る戸尻用弾性封止部材であって、前記変形促進部は、第1変形促進部と、第2変形促進部とを含み、前記第1変形促進部と前記第2変形促進部との間に前記取付部が設けられるものである。取付部が引戸の戸尻側縁に取付けられれば、第1変形促進部と第2変形促進部との一方を引戸に対して車外側に位置させ、他方を引戸に対して車内側に位置させることができる。これにより、戸尻側縁に対して車外側及び車内側のそれぞれで、第1変形促進部又は第2変形促進部を用いて隙間を閉じることができる。これにより、遮音性が高められる。
【0094】
第11の態様は、第9又は第10の態様に係る戸尻用弾性封止部材であって、前記変形促進部は、前記引戸が前記開口を開く開位置から前記開口を閉じる閉位置に移動する際に外力が作用する外力作用部と、前記中空部を介して前記外力作用部とは反対側に設けられる基部とを含み、前記外力作用部が前記基部よりも薄い。引戸が開位置から閉位置に移動する際に、基部よりも外力作用部を大きく変形させることで、変形促進部が相手側に接触する面積を高めることができる。
【0095】
第12の態様は、第11の態様に係る戸尻用弾性封止部材であって、前記戸尻用弾性封止部材のうち前記取付部とは反対側の先端部において、前記外力作用部が前記基部に対して角をなす側壁部を介して前記基部に連なっているものである。外力作用部に作用した力が弾性封止部の先端側に逃げ難く、外力作用部を十分に変形させ易い。
【0096】
第13の態様は、第11又は第12の態様に係る戸尻用弾性封止部材であって、前記取付部の延長上に前記基部が設けられ、前記外力作用部が前記取付部及び前記基部から突出するように形成されているものである。取付部の延長上の基部で、外力作用部をしっかりと支持できる。外力作用部を大きく変形させることができ、接触面積を大きくすることができる。
【0097】
第14の態様は、第9から第13のいずれか1つの態様に係る戸尻用弾性封止部材であって、前記取付部は、前記変形促進部よりも厚いものである。取付部によって変形促進部を支持しつつ、変形促進部をなるべく大きく変形させて、接触面積を高めることができる。
【符号の説明】
【0098】
10 軌道
20 鉄道車両
30,230 車体
32 側構体
33 第2当接部
33,160,270 当接部
34h 開口
35 室内キセ
37 第1当接部
40,240 引戸装置
42,44 引戸用レール
50 引戸
52 引戸の戸尻側の縁
60,170,180 弾性封止部
60,260 戸尻用弾性封止部材
62,262 取付部
66,172 第1変形促進部
68,182 第2変形促進部
67,69,173,183,362,463,662,762 中空部
266,360,460,560,660,760 変形促進部
461,561 基部
462,562 外力作用部
462a 側壁部
E 戸袋