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特許7456846魚釣用電動リールのスプール駆動制御装置、魚釣用電動リールのスプール駆動制御方法、及び魚釣用電動リールのスプール駆動制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】魚釣用電動リールのスプール駆動制御装置、魚釣用電動リールのスプール駆動制御方法、及び魚釣用電動リールのスプール駆動制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   A01K 89/017 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
A01K89/017
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020087311
(22)【出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021180628
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】原口 仁志
(72)【発明者】
【氏名】村山 聡
(72)【発明者】
【氏名】森 成秀
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-80540(JP,A)
【文献】特許第4408378(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2006/0076444(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/017
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプールをモータによって回転駆動させる魚釣用電動リールのスプール駆動制御装置であって、
釣糸を巻き上げる方向に前記スプールを回転駆動させるための駆動操作が行われる第1操作子と、
前記スプールの回転速度の一時速度変更のオン/オフ操作が行われる第2操作子と、
前記スプールの回転駆動を制御するスプール駆動制御部と、を備え、
前記スプール駆動制御部は、
前記駆動操作に応じて前記スプールが原回転速度で回転駆動されている状態において、前記一時速度変更のオン操作が行われたタイミングで、前記原回転速度所定の速度変化量を付与した結果に基づいて設定した変更回転速度により前記スプールを回転駆動させ
前記一時速度変更のオフ操作が行われたタイミングで、前記原回転速度により前記スプールを回転駆動させる
魚釣用電動リールのスプール駆動制御装置。
【請求項2】
ユーザの設定操作に応じて前記速度変化量を変更可能に設定する速度変化量設定部を備える
請求項1に記載のスプール駆動制御装置。
【請求項3】
前記第1操作子は、前記魚釣用電動リールに対して回転可能に設けられ、
前記第1操作子の前記魚釣用電動リールに対する相対的な回転位置に応じて、前記原回転速度としてのとしての前記スプールの回転速度を設定する回転速度設定部を備え、
前記スプール駆動制御部は、前記一時速度変更のオン操作が行われたタイミングで前記回転速度設定部により設定されていた前記原回転速度に所定の速度変化量を付与した結果に基づいて前記変更回転速度を設定する
請求項1または2に記載のスプール駆動制御装置。
【請求項4】
前記スプール駆動制御部により釣糸の張力が一定となるように前記スプールが回転駆動されている状態において前記一時速度変更のオン操作が行われたタイミングでのスプールの回転速度を検出する回転速度検出部を備え、
前記スプール駆動制御部は、前記回転速度検出部により検出された回転速度に所定の速度変化量を付与した結果に基づいて前記変更回転速度を設定する
請求項1または2に記載のスプール駆動制御装置。
【請求項5】
前記スプール駆動制御部は、前記一時速度変更のオン操作が行われたタイミングで、前記原回転速度に対して所定の速度変化量を付与した結果に基づいて求められる回転速度が負の値となる場合には、予め定められた所定の回転速度を前記変更回転速度として設定する
請求項1からのいずれか一項に記載のスプール駆動制御装置。
【請求項6】
前記スプール駆動制御部は、前記一時速度変更のオン操作が行われたタイミングで、前記原回転速度に対して所定の速度変化量を付与した結果に基づいて求められる回転速度が負の値となる場合には、前記スプールの回転を停止させる
請求項1から5のいずれか一項に記載のスプール駆動制御装置。
【請求項7】
前記スプール駆動制御部は、前記一時速度変更のオン操作が行われたタイミングで、前記原回転速度に対して所定の速度変化量を付与した結果に基づいて求められる回転速度がゼロとなる場合には、前記スプールの回転を停止させる
請求項またはのいずれか一項に記載のスプール駆動制御装置。
【請求項8】
前記スプール駆動制御部は、前記速度変化量の付与による変更回転速度の設定が無効に設定されている場合に、前記一時速度変更のオン/オフ操作にて操作されるのと同じ前記第2操作子に対する操作が行われたことに応じて、スプールの回転を停止させる
請求項1からのいずれか一項に記載のスプール駆動制御装置。
【請求項9】
前記スプール駆動制御部は、前記一時速度変更のオン操作が継続して行われている期間において、前記変更回転速度によりスプールを回転駆動させる
請求項1からのいずれか一項に記載のスプール駆動制御装置。
【請求項10】
釣糸を巻き上げる方向にスプールを回転駆動させるための駆動操作が行われる第1操作子と、前記スプールの回転速度の一時速度変更のオン/オフ操作が行われる第2操作子とを備え、前記スプールをモータによって回転駆動させる魚釣用電動リールのスプール駆動制御方法であって、
前記スプールの回転駆動を制御するスプール駆動制御部が、
前記駆動操作に応じて前記スプールが原回転速度で回転駆動されている状態において、前記一時速度変更のオン操作が行われたタイミングで、前記原回転速度所定の速度変化量を付与した結果に基づいて設定した変更回転速度により前記スプールを回転駆動させ
前記一時速度変更のオフ操作が行われたタイミングで、前記原回転速度により前記スプールを回転駆動させるスプール駆動制御ステップ
を備える魚釣用電動リールのスプール駆動制御方法。
【請求項11】
釣糸を巻き上げる方向にスプールを回転駆動させるための駆動操作が行われる第1操作子と、前記スプールの回転速度の一時速度変更のオン/オフ操作が行われる第2操作子とを備え、前記スプールをモータによって回転駆動させる魚釣用電動リールのスプール駆動制御装置としてのコンピュータを、
前記スプールの回転駆動を制御するスプール駆動制御部であって、前記駆動操作に応じて前記スプールが原回転速度で回転駆動されている状態において、前記一時速度変更のオン操作が行われたタイミングで、前記原回転速度所定の速度変化量を付与した結果に基づいて設定した変更回転速度により前記スプールを回転駆動させ
前記一時速度変更のオフ操作が行われたタイミングで、前記原回転速度により前記スプールを回転駆動させるスプール駆動制御部
として機能させるための魚釣用電動リールのスプール駆動制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
魚釣用電動リールのスプール駆動制御装置、魚釣用電動リールのスプール駆動制御方法、及び魚釣用電動リールのスプール駆動制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レバー形状のモータ出力調節体によるスプール駆動モータの駆動時に、ユーザがモータスイッチを押してON操作を行うと、このON操作の間、予め設定されたモータ出力レベル値でスプール駆動モータを駆動するようにされた魚釣用電動リールが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4408378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
魚釣用電動リールを使用した釣りにおいて、釣糸の巻き上げ中におけるスプールの回転速度を一時的に変化させて、仕掛けの動きにも一時的な速度変化を与えることが釣果につながる場合がある。このために、例えばユーザは、モータによりスプールを回転駆動させた釣糸の巻き上げ(モータ巻上)の実行中に、ハンドルを不規則に回すといった操作を行うようにされる。しかしながら、特にハンドルが短いような場合には、ユーザの意図に適うような巻上速度の変化を得ることが難しい場合がある。
特許文献1に記載される技術では、モータスイッチを操作することでスプールの回転速度を変化させることができるが、モータ出力調節体により設定されたスプールの回転速度に関わらず、予め定められたモータ出力レベルに応じた一定速度への変化となる。このため、巻上速度の変化がユーザの期待と異なることが多く、ユーザが違和感を覚えやすい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、モータ巻上の動作中の操作に応じたスプールの一時的な回転速度変化について、ユーザの違和感が緩和されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するための本発明の一態様は、釣糸を巻き上げるように魚釣用電動リールのスプールをモータによって回転駆動させている状態において、速度変更操作が行われたタイミングでのスプールの回転速度に所定の速度変化量を付与した結果に基づいて設定した変更回転速度によりスプールを回転駆動させるスプール駆動制御部を備える魚釣用電動リールのスプール駆動制御装置である。
上記構成によれば、スプールをモータによって回転駆動させたモータ巻上が行われている状態のもとで、ユーザにより速度変更操作が行われると、速度変更操作が行われたときのスプールの回転速度に対して、所定の速度変化量を付与した結果に基づいて設定された変更回転速度となるようスプールの回転速度が変更される。このような回転速度の変更であれば、速度変更操作が行われるまでのスプールの回転速度を基準に或る所定の変化量で変化させることが可能になる。これにより、速度変更操作に応じた巻上速度の変化について、ユーザの違和感が緩和される。
【0007】
また、本発明の一態様は、上記のスプール駆動制御装置であって、ユーザの操作に応じて前記速度変化量を変更可能に設定する速度変化量設定部を備えてよい。
上記構成によれば、ユーザが速度変化量を設定することができる。これにより、速度変化量をユーザの感覚に合わせて調整できることから、ユーザの違和感をさらに緩和することが可能になる。
【0008】
また、本発明の一態様は、上記のスプール駆動制御装置であって、操作に応じて前記スプールの回転速度を設定する回転速度設定部を備え、前記スプール駆動制御部は、前記速度変更操作が行われたタイミングで前記回転速度設定部により設定されていた回転速度に所定の速度変化量を付与した結果に基づいて前記変更回転速度を設定してよい。
上記構成によれば、例えばスプール駆動レバーの操作により設定されるスプールの回転速度で一定となるようにスプールが駆動制御される場合に対応して、適切に速度変更操作に応じたスプールの回転速度の変化を与えることができる。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記のスプール駆動制御装置であって、前記速度変更操作が行われたタイミングでのスプールの回転速度を検出する回転速度検出部を備え、前記スプール駆動制御部は、前記回転速度検出部により検出された回転速度に所定の速度変化量を付与した結果に基づいて前記変更回転速度を設定してよい。
上記構成によれば、例えば或る条件に伴うスプールの回転速度が変化している状況であっても、速度変更操作に応じて適切にスプールの回転速度の変化を与えることができる。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記のスプール駆動制御装置であって、前記スプール駆動制御部は、釣糸の張力が一定となるように前記スプールを回転駆動させている場合において、前記回転速度検出部により検出された回転速度に所定の速度変化量を付与して前記変更回転速度を設定してよい。
上記構成によれば、例えば釣糸の張力が一定となるようにスプールが駆動制御される場合に対応して、スプールの回転速度の変化に応じて適切に速度変更操作に応じたスプールの回転速度の変化を与えることができる。
【0011】
また、本発明の一態様は、上記のスプール駆動制御装置であって、前記スプール駆動制御部は、前記速度変更操作が行われたタイミングのスプールの回転速度に対して所定の速度変化量を付与して求められる回転速度が負の値となる場合には、予め定められた所定の回転速度を前記変更回転速度として設定してよい。
上記構成によれば、スプールの回転速度に対して所定の速度変化量を付与して求められる回転速度が負の値となっても、適切な変更回転速度を設定することができる。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記のスプール駆動制御装置であって、前記スプール駆動制御部は、前記速度変更操作が行われたタイミングのスプールの回転速度に対して所定の速度変化量を付与して求められる回転速度が負の値となる場合には、前記スプールの回転を停止させてよい。
上記構成によれば、スプールの回転速度に対して所定の速度変化量を付与して求められる回転速度が負の値となった場合に、スプールの回転を停止させることが好ましいような場合に対応することができる。
【0013】
また、本発明の一態様は、上記のスプール駆動制御装置であって、前記スプール駆動制御部は、前記速度変更操作が行われたタイミングのスプールの回転速度に対して所定の速度変化量を付与して求められる回転速度がゼロとなる場合には、前記スプールの回転を停止させてよい。
上記構成によれば、スプールの回転速度に対して所定の速度変化量を付与して求められる回転速度がゼロとなった場合に、スプールの回転を停止させることが好ましいような場合に対応することができる。
【0014】
また、本発明の一態様は、上記のスプール駆動制御装置であって、前記スプール駆動制御部は、前記速度変化量の付与による変更回転速度の設定が無効に設定されている場合に、前記速度変更操作にて操作されるのと同じ操作子に対する操作が行われたことに応じて、スプールの回転を停止させてよい。
上記構成によれば、前記スプール駆動制御部は、前記速度変化量の付与による変更回転速度の設定が無効に設定されている場合には、速度変更操作にて操作されるのと同じ操作子を、モータ巻上中にスプールの回転を一時的に停止させる操作に用いることができるので操作性が向上する。また、魚釣用電動リールに備えられる有限個数の操作子を有効に活用できる。
【0015】
また、本発明の一態様は、上記のスプール駆動制御装置であって、前記スプール駆動制御部は、前記速度変更操作が継続して行われている期間において、前記変更回転速度によりスプールを回転駆動させてよい。
上記構成によれば、例えば所定のボタンのような操作子を継続して押圧させた状態としている間において、変更回転速度によるスプールの回転速度の変化を与えることができる。このような操作であれば、ユーザは、変更回転速度によるスプールの回転速度の変化を与えるタイミングをコントロールしやすくなる。
【0016】
また、本発明の一態様は、釣糸を巻き上げるように魚釣用電動リールのスプールをモータによって回転駆動させている状態において、速度変更操作が行われたタイミングでのスプールの回転速度に所定の速度変化量を付与した結果に基づいて設定した変更回転速度によりスプールを回転駆動させるスプール駆動制御ステップを備える魚釣用電動リールのスプール駆動制御方法である。
【0017】
また、本発明の一態様は、スプール駆動制御装置としてのコンピュータを、釣糸を巻き上げるように魚釣用リールのスプールを回転駆動させている状態において、速度変更操作が行われたタイミングでのスプールの回転速度に所定の速度変化量を付与した結果に基づいて設定した変更回転速度によりスプールを回転駆動させるスプール駆動制御部として機能させるための魚釣用電動リールのスプール駆動制御プログラムである。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、モータ巻上の動作中の操作に応じたスプールの一時的な回転速度変化について、ユーザの違和感が緩和されるようになるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態における魚釣用電動リールの外観例を示す図である。
図2】本実施形態における魚釣用電動リールの外観例を示す図である。
図3】本実施形態における魚釣用電動リールにおける表示操作パネル部の一例を示す図である。
図4】本実施形態における魚釣用電動リールの機能構成例を示す図である。
図5】本実施形態における速度変化量の設定操作の一例を示す図である。
図6】本実施形態における魚釣用電動リールが、速度一定モードが設定されているもとでの速度一時変更機能に関連して実行する処理手順例を示すフローチャートである。
図7】本実施形態における魚釣用電動リールが速度一定モードのもとで実行する変更回転速度設定処理の一例を示すフローチャートである。
図8】本実施形態における魚釣用電動リールが、張力一定モードが設定されているもとでの速度一時変更機能に関連して実行する処理手順例を示すフローチャートである。
図9】本実施形態における魚釣用電動リールが張力一定モードのもとで実行する変更回転速度設定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<実施形態>
以下、図面を参照して、本実施形態のスプール駆動制御装置としての魚釣用電動リール1について説明する。
本実施形態において、スプールの駆動とは、例えばモータ等を駆動して得られる動力によりスプールを回転させることをいう。
また、本実施形態において、スプールの駆動制御とは、スプールの駆動に関する制御をいう。このようなスプールの駆動制御には、スプールを回転させる制御、スプールの回転を停止させる制御、スプールの回転速度を変更する制御等が含まれる。
また、以降の説明において、スプールの「駆動」について、回転の動作を与えることを明確にすることなどを目的として「回転駆動」と記載する場合がある。
なお、以下の説明では、魚釣用電動リール1が両軸受リールである場合を例に挙げる。なお、図1図2において、各構成部材を視認可能な大きさとするために必要に応じて各構成部材の縮尺を適宜変更している場合がある。
【0021】
[魚釣用電動リールの構造例]
図1及び図2は、魚釣用電動リール1の外観例を示している。図1及び図2に示される魚釣用電動リール1は、外部電源から供給された電力により駆動されるとともに、手巻きの両軸受リールとして使用するときの電源を内部に有している。
【0022】
魚釣用電動リール1は、釣り竿に装着可能なリール本体2と、リール本体2に対してハンドル軸C1回りに回転可能に取り付けられたハンドル20と、リール本体2に対してハンドル軸C1と平行なスプール軸C2回りに回転可能で図示しない釣糸が巻かれるスプール3と、リール本体2に設けられ、スプール3に回転駆動力を伝達するモータ4とを備える。
また、魚釣用電動リール1は、クラッチ機構5を備える。クラッチ機構5は、スプール3とハンドル20とを連結する連結クラッチオン状態と、スプール3とハンドル20とを遮断する遮断(クラッチオフ)状態とで切り替え可能なようにされた機構部位である。クラッチオン状態とクラッチオフ状態との切り替えは、ユーザがクラッチ操作部材50を操作することによって可能とされている。
【0023】
ここで、本実施形態では、ハンドル軸C1及びスプール軸C2は、それぞれ平行に設けられ、これらの方向を必要に応じて左右方向L1として定義するとともに、左右方向L1に直交するとともにスプール3に巻かれた釣糸が繰り出される方向に沿う方向を前後方向L2として定義する。また、前後方向L2においてスプール3から釣糸が繰り出される方向を前方、その反対方向を後方と定義するとともに、魚釣用電動リール1を後方側から見た視点で左右を定義する。
図1は魚釣用電動リール1を上斜め後方から見た斜視図であり、図2は魚釣用電動リール1を下斜め前方から見た斜視図である。
【0024】
リール本体2は、本体フレーム21と、本体フレーム21の一部を覆うカバー22と、本体フレーム21の上側に位置する表示操作パネル部23と、を備えている。
本体フレーム21は、例えば合成樹脂または金属製の一体形成された部材である。本体フレーム21は、左右方向L1でスプール3を挟んでハンドル20側となる右側板21Aと、右側板21Aと反対側に位置する左側板21Bと、右側板21Aと左側板21Bとを連結する複数の連結部材21Cと、を有している。
右側板21Aと左側板21Bは、互いに左右方向L1に間隔を隔てて配置されている。また、それぞれの側板21A、21Bには、スプール3やモータ4を支持する支持部、及びクラッチ機構5等の回転駆動機構が配置されている。
【0025】
右側板21A及び左側板21Bには、スプール3のスプール回転軸(図示省略)の端部が回転自在に支持された状態で装着されている。図2に示す連結部材21Cは、板状をなし、右側板21A及び左側板21Bの下部を連結する。連結部材21Cのうちの1つには、左右方向L1の略中央部分に釣り竿に取り付けるための釣り竿装着部24が装着されている。
【0026】
カバー22は、右側カバー22A、左側カバー22B、及び前カバー22Cを備えている。右側カバー22Aは、右側板21Aを所定の収容空間を設けて覆い、右側板21Aの外縁部に例えばネジ止めされている。左側カバー22Bは、左側カバー22Bを所定の収容空間を設けて覆い、左側板21Bの外縁部に例えばネジ止めされている。前カバー22Cは、本体フレーム21の前部を覆っている。
また、図示は省略するが、右側板21Aの前方下部には、外部からの給電ケーブルを接続するためのコネクタが設けられている。
【0027】
表示操作パネル部23は、魚釣用電動リール1を使用するユーザに向けての表示と、ユーザによる操作(ここでは、ボタン操作となる)が行われる部位である。
表示操作パネル部23は、右側板21Aと左側板21Bとの間に配置されている。表示操作パネル部23は、操作部101と表示部102とを備える。
操作部101は、ユーザによるボタン操作が行われる部位である。同図の例では、操作部101において、ボタン操作が行われるボタン(操作子)として、第1ボタンBT-1、第2ボタンBT-2、第3ボタンBT-3の3つのボタンが配置されている。
なお、以降の説明にあたり、第1ボタンBT-1、第2ボタンBT-2、第3ボタンBT-3について特に区別しない場合には、ボタンBTと記載する。
【0028】
表示部102は、魚釣用電動リール1の動作に応じて所定の内容の表示が行われる部位である。表示部102として備えられる表示デバイスについては特に限定されないが、例えば液晶表示デバイス、有機EL表示デバイス等を挙げることができる。
【0029】
図3は、魚釣用電動リール1における表示操作パネル部23の態様例を示している。表示操作パネル部23においては、表示部102の下側に横方向に並ぶようにして、左から右にかけて、第1ボタンBT-1、第2ボタンBT-2、第3ボタンBT-3の3つのボタンが配置されている。また、表示操作パネル部23における第1ボタンBT-1、第2ボタンBT-2、第3ボタンBT-3のそれぞれに対応させた位置にて、各ボタンBTの機能を端的に示す文字が配置される。
【0030】
説明を図1図2に戻す。ハンドル20は、図1及び図2に示すように、ハンドル軸の先端部20aに回転不能に装着されたハンドルアーム25と、ハンドルアーム25の一端にハンドル軸C1と平行な軸回りに回転自在に装着されたハンドルノブ26とを有している。
また、リール本体2側にはドラグ27が設けられている。
ハンドル20からのトルクは、クラッチ機構5がクラッチオンされた状態においてスプール3に直接伝達される。
【0031】
スプール3は、右側板21Aと左側板21Bとの間でそれぞれ軸受(図示省略)をかいして回転自在に設けられている。スプール3は、不図示のスプール回転軸と、スプール回転軸と同軸に配置されて連動して回転可能な筒状の糸巻胴部32と、糸巻胴部32の両端に径方向の外側に向けて拡径されたフランジ部33と、を備えている。
スプール3は、モータ4から図示しないスプール駆動機構を介して回転駆動され、クラッチ操作部材50によって駆動されるクラッチ機構5が連動している。スプール回転軸は、右側カバー22A及び左側カバー22Bに軸受を介して回転自在に各別に支持されている。
【0032】
クラッチ機構5は、クラッチ操作部材50の操作によってハンドル20の回転をスプール3に伝達可能なクラッチオン状態と、ハンドル20の回転をスプール3に伝達不能なクラッチオフ状態とに切換可能である。クラッチオン位置では、ピニオンギアの回転がスプール回転軸に伝達され、クラッチオン状態になり、ピニオンギアとスプール回転軸とが一体回転可能になる。また、クラッチオフ位置では、ピニオンギアの回転がスプール回転軸に伝達されないため、クラッチオフ状態になり、スプール3は自由回転可能になる。
【0033】
クラッチ操作部材50は、図1に示すように、クラッチ機構5をクラッチオン状態とクラッチオフ状態とで切り換えるための操作が行われる部位である。
クラッチ操作部材50は、リール本体2の後部において、右側板21Aと左側板21Bとの間でリール本体2の後部に釣り竿装着部24に対して接近及び離反する方向に移動可能に設けられている。クラッチ操作部材50は、本実施形態において、スプール回転軸回りに揺動可能に設けられる。
【0034】
スプール駆動機構は、スプール3が糸巻取方向に回転するよう駆動する。また、巻き取り時にスプール3に対してドラグ27によりドラグ力を発生させて釣糸の切断を防止する。
ドラグ27は、ハンドル20のハンドルアーム25と右側カバー22Aとの間においてハンドル軸に同軸に設けられている。スプール駆動機構は、図示しないローラクラッチの形態の逆転防止部によって糸巻取方向の回転が禁止された上記のモータ4と、モータ4の回転を減速し、ハンドル20の回転を増速してスプール3に伝達する回転伝達機構と、を備えている。
【0035】
モータ4は、図2に示すように、魚釣用電動リール1の前部においてスプール3(図1参照)よりも前側の位置に配置され、半割れ形状のモータ収容体40に覆われた状態で設けられている。
【0036】
スプール駆動レバー28は、ユーザの操作に応じて、一定の回転範囲において回転軸C3回りに回転可能とされている。スプール駆動レバー28は、釣糸を巻き上げる方向に対応する回転方向によりスプールを駆動するための操作が行われる操作子である。スプール駆動レバー28は、回転位置に応じてスプール3の回転速度が変化するようにされている。例えばスプール駆動レバー28の回転位置が、例えば最も後方側に回転された位置(操作を行うユーザからみて場合には最も手前側)ではスプール3の駆動は停止された状態であり、ここから前方に回転させていくことに応じて、スプールの回転速度が段階的に高くなっていくようにされる。
【0037】
[魚釣用電動リールの機能構成例]
図4を参照して、本実施形態の魚釣用電動リール1の機能構成例について説明する。同図において、図1図2と同一部分には、同一符号を付して適宜説明を省略する。
同図の魚釣用電動リール1は、操作部101、表示部102、制御部103、記憶部104、モータ駆動回路105、モータ4、スプール3、回転センサ106を備える。
【0038】
制御部103は、魚釣用電動リール1における各種の制御を実行する。制御部103としての機能は、魚釣用電動リール1が備えるCPU(Central Processing Unit)がプログラムを実行することにより実現される。
制御部103は、回転速度設定部131、スプール駆動制御部132、速度変化量設定部133、及び回転速度検出部134を備える。
【0039】
回転速度設定部131は、速度一定モードでのモータ巻上に際して、操作に応じてスプール3の回転速度を設定する。具体的に、本実施形態の回転速度設定部131は、スプール駆動レバー28に対して行われた操作に応じてスプール3の回転速度を設定する。
スプール駆動レバー28はユーザの操作に応じて回転位置(段数)が変更される。回転速度設定部131は、速度一定モードでのモータ巻上が行われているときに、スプール駆動レバー28の回転位置を検出し、検出された回転位置に応じたスプール3の回転速度を設定する。回転速度設定部131は、回転速度記憶部142から、検出された回転位置に対応付けられたスプール3の回転速度を取得し、取得した回転速度を設定してよい。
【0040】
なお、スプール駆動レバー28は、連続的に回転位置が変化するようにされてよい。この場合、回転速度設定部131は、操作に応じたスプール駆動レバー28の回転位置の変化に対して連続的にスプール3の回転速度を変更するようにしてもよい。
また、魚釣用電動リール1における所定のボタンに、回転速度を調節するアップボタン、ダウンボタンとしての機能を割り当て、回転速度設定部131が、アップボタン、ダウンボタンに対して行われた操作に応じて回転速度を設定するようにされてもよい。
【0041】
スプール駆動制御部132は、スプール3をモータ4によって回転駆動させる制御(スプール駆動制御)を行う。
スプール駆動制御として、スプール駆動制御部132は、スプール駆動レバー28の回転位置に応じて回転速度設定部131が設定した回転速度によりスプール3を回転駆動させる。
また、スプール駆動制御部132は、スプール駆動制御として、速度変更操作が行われているとき、当該速度変更操作が行われたタイミングでのスプールの回転速度に所定の速度変化量を付与した結果に基づいて変更回転速度を設定する。スプール駆動制御部132は、設定された変更回転速度によりスプール3を回転駆動させる。
【0042】
速度変化量設定部133は、ユーザの操作に応じて速度変化量を設定する。つまり、本実施形態においては、変更回転速度の設定に利用される速度変化量について、ユーザが操作を行って変更可能とされている。
【0043】
回転速度検出部134は、スプール3の回転速度を検出する。
【0044】
記憶部104は、魚釣用電動リール1に対応する各種の情報を記憶する。記憶部104は、速度変化量記憶部141、回転速度記憶部142、巻上トルク記憶部143を備える。
速度変化量記憶部141は、ユーザの操作に応じて速度変化量設定部133により設定(登録)された、速度変化量のパラメータ値を記憶する。
回転速度記憶部142は、速度一定モードに対応して、スプール駆動レバー28の回転位置ごとに対応付けられた回転速度を記憶する。
巻上トルク記憶部143は、張力一定モードに対応して、スプール駆動レバー28の回転位置ごとに対応付けられた巻上トルクを記憶する。巻上トルク記憶部143は、巻上トルクとしてモータに流すべき電流値を記憶してもよい。
【0045】
モータ駆動回路105は、スプール駆動制御部132の制御に応じてモータ4を駆動する回路である。スプール3は、モータ4が回転して得られる動力によって回転するように駆動される。
【0046】
回転センサ106は、スプールの回転について検出する。制御部103の回転速度検出部134は、回転センサ106の検出出力に基づいて、スプール3の回転速度を検出してよい。回転センサ106は、例えばポテンショメータ等を備えてスプール3の回転位置を検出するようなものであってもよいし、角速度センサ等により回転速度を検出するようなものであってもよい。
【0047】
[モータ巻上の速度一時変更機能の概要]
本実施形態の魚釣用電動リール1は、速度一時変更機能を有する。速度一時変更機能は、ユーザがスプール駆動レバー28を操作して釣糸の巻き上げ(モータ巻上)を行っているときに、第1ボタンBT-1がユーザの操作によって押圧されている状態とされたことに応じてオンとなり、一時的にスプール3の回転速度を変更させる機能である。ユーザが第1ボタンBT-1を押圧した状態を解除すれば、速度一時変更機能はオフとなり、スプール駆動レバー28の回転位置に応じた回転速度に戻ってモータ巻上が継続される。
なお、速度一時変更機能のオン、オフに用いられる操作子は、第1ボタンBT-1以外であってもよい。
【0048】
モータ巻上の途中においてスプール3の回転速度を一時的に変化させることが釣果につながる場合がある。一具体例として、スルメイカ釣りにおいては、最初のアタリの後にプラヅノに微妙な速度変化を与えることで追い食いを促すことができる。本実施形態の速度一時変更機能は、このようなスルメイカ釣りにおいてプラヅノに一時的な速度変化を与えるのに使用することができる。
【0049】
速度一時変更機能におけるモータ巻上速度の変更は、スプール駆動レバー28の回転位置に応じたスプール3の回転速度(原回転速度)に対して、速度変化量を付すことによって行われる。つまり、速度一時変更機能における変更後の回転速度(変更回転速度)は、原回転速度に対して速度変化量を付与した結果に基づいて設定される。
【0050】
そのうえで、本実施形態における速度変化量は、ユーザの操作によって予め設定(登録)しておくことが可能である。速度変化量をユーザが設定可能とされることで、速度一時変更機能によるスプール3の回転速度の変化の度合いを、ユーザの意図する感覚に近づけることができる。
【0051】
速度変化量の設定(登録)操作の一例について説明する。ユーザは、例えば釣糸が所定の巻上停止長まで巻き上げられたことでモータ巻上が停止(船縁停止)している状態のもとで、操作部101における所定のボタンに対して所定操作を行うことで、速度変化量のパラメータ値の設定が可能なパラメータ設定画面を表示部102に表示させる。
当該パラメータ設定画面を表示させるのに操作されるボタンは特に限定されないが、例えば第1ボタンBT-1であってよい。前述のように、速度一時変更機能のオン、オフは第1ボタンBT-1に対する操作によって行われる。そこで、モータ巻上の停止しているときに同じ第1ボタンBT-1を操作することで、速度一時変更機能に対応するパラメータを変更することができるようにすれば、ユーザにとっても操作を覚えやすい。
【0052】
図5は、速度変化量のパラメータ値を設定する操作が可能なパラメータ設定画面Pの一例を示している。同図のパラメータ設定画面Pにおいて、速度変化量設定領域AR1が速度変化量の設定に対応する領域である。
パラメータ設定画面Pが最初に表示された状態では、速度変化量設定領域AR1は特にパラメータ値は表示されていない状態にある。この状態のもとで、第1ボタンBT-1を押打する操作を行うと、速度変化量設定領域AR1において、現在設定されている速度変化量のパラメータ値が所定時間(例えば2秒)において表示される。
そのうえで、現在設定値が表示されている間において、さらに第1ボタンBT-1を押打する操作(パラメータ値変更操作)が行われるごとに、速度変化量設定領域AR1において表示されるパラメータ値が変更されていく。
【0053】
ここでは、速度変化量のパラメータ値の可変範囲が「-5」、「-4」「-3」、「-2」、「-1」、「OF」、「+1」、「+2」、「+3」、「+4」、「+5」のように段階的に定められている場合を例に挙げる。この速度変化量のパラメータ値の可変範囲は一例であり、適宜変更されてよい。この場合、パラメータ値変更操作に応じた速度変化量のパラメータ値の変更パターンとしては、同図に例示するように、第1ボタンBT-1を押打する操作が行われるごとに、「-5」、「-4」「-3」、「-2」、「-1」、「OF」、「+1」、「+2」、「+3」、「+4」、「+5」の順で循環的に変更される。
「OF」の速度変化量のパラメータ値を除く、「-5」、「-4」「-3」、「-2」、「-1」、「+1」、「+2」、「+3」、「+4」、「+5」の速度変化量のパラメータ値には、それぞれ所定の速度変化量の実値が対応付けられている。
「-5」、「-4」「-3」、「-2」、「-1」の速度変化量のパラメータ値は、それぞれ負の値の速度変化量の実値が対応付けられる。「-5」、「-4」「-3」、「-2」、「-1」の速度変化量のパラメータ値の順で、対応付けられる負の値の速度変化量の実値は大きくなる。「-5」、「-4」「-3」、「-2」、「-1」の速度変化量のパラメータ値のいずれかが設定されている場合には、速度変更操作が行われることでスプール3の回転速度が低くなる。
「+1」、「+2」、「+3」、「+4」、「+5」の速度変化量のパラメータ値は、それぞれ正の値の速度変化量の実値が対応付けられる。「+1」、「+2」、「+3」、「+4」、「+5」の速度変化量のパラメータ値の順で、対応付けられる正の値の速度変化量の実値は大きくなる。「+1」、「+2」、「+3」、「+4」、「+5」の速度変化量のパラメータ値のいずれかが設定されている場合には、速度変更操作が行われることでスプール3の回転速度は高くなる。
また、「OF」の速度変化量のパラメータ値は、速度一時変更機能をオフ(無効)とすることに対応する。
【0054】
速度一時変更機能がオフの場合には、スプール駆動レバー28の回転位置に応じた回転速度でモータ巻上が行われているときに、ユーザが速度変更操作を行うのと同じ第1ボタンBT-1を押圧した状態としたことに応じて、スプール3の回転が停止される。そして、ユーザが第1ボタンBT-1の押圧した状態を解除すると、スプール駆動レバー28の回転位置に応じた回転速度でのモータ巻上が再開される。
【0055】
ユーザは、パラメータ値変更操作により自分の設定したいパラメータ値を速度変化量設定領域AR1にて表示させると、例えば特に操作を行うことなく一定時間(例えば2秒)待機する。一定時間が経過すると、例えば速度変化量設定領域AR1におけるパラメータ値の表示が消去されるとともに、速度変化量設定領域AR1において最後に表示されていたパラメータ値が設定(登録される)される。
上記のように設定されたパラメータ値は、速度変化量設定部133によって速度変化量記憶部141に記憶される。なお、「-5」、「-4」「-3」、「-2」、「-1」、「+1」、「+2」、「+3」、「+4」、「+5」のパラメータ値には、それぞれ所定の速度変化量の値(例えば、Xrpmで表される)が対応付けられている。速度変化量記憶部141は、設定されたパラメータ値に対応する速度変化量の値を記憶してもよい。
【0056】
また、本実施形態において、スプール駆動レバー28の回転位置に応じたモータ巻上は、制御モードとして速度一定モードと張力一定モードとで切り替えることができる。モータ巻上の制御モードの切り替えは、例えば操作部101に対するユーザの所定操作に応じて行われてよい。
【0057】
速度一定モードは、スプール駆動レバー28の回転位置(段数)に応じて定められた回転速度が一定となるようにスプール3の駆動制御を行う制御モードである。
【0058】
張力一定モードは、釣糸の張力が、スプール駆動レバー28の回転位置(段数)に対応して設定される巻上トルクに対して一定となるようにスプール3の駆動制御を行う制御モードである。
【0059】
速度一定モードによるモータ巻上が行われているときの速度一時変更機能に応じた動作は以下のようになる。
つまり、速度一定モードによるモータ巻上が行われているときにユーザが第1ボタンBT-1を押圧した状態とする操作(速度変更操作)を行った。スプール駆動制御部132は、速度変更操作が行われたときのスプール駆動レバー28の回転位置に応じて定められているスプール3の回転速度Vpを取得する。スプール駆動制御部132は、取得された回転速度Vpに対して、現在設定されている速度変化量Vmを付与して算出される変更回転速度Va(=Vp+Vm)によりスプール3を回転駆動させる。
【0060】
ただし、速度変化量Vmが減速に対応する負の値である場合には、回転速度Vpに速度変化量Vmを加算した値が0以下となる場合がある。このような値をそのまま変更回転速度Vaとして適用すると、変更回転速度Vaは0もしくは負の値となる。
変更回転速度Vaが0以下となったことに応じてスプール3の回転を停止させてもよいのであるが、速度一時変更機能のもとで要求される釣りのテクニックなどを考慮すると、スプール3の回転を停止させることは好ましくないとの考えを採ることができる。
そこで、本実施形態においては、回転速度Vpに速度変化量Vmを加算した値が0以下となった場合、例えばスプール駆動レバー28の回転位置に応じた回転速度のうちで最も低い回転速度(最低回転速度)を変更回転速度Vaとして、スプール3を回転駆動させるようにする。
【0061】
第1ボタンBT-1を押圧した状態の解除により速度変更操作が解除される。速度変更操作の解除に応じて、スプール駆動制御部132は、スプール3の回転速度を、変更回転速度Vaから、スプール駆動レバー28の回転位置に応じたスプール3の回転速度Vpに戻してスプール3を回転駆動させる。
【0062】
また、張力一定モードによるモータ巻上が行われているときの速度一時変更機能の動作は以下のようになる。
張力一定モードによるモータ巻上が行われているときにユーザが第1ボタンBT-1により速度変更操作を行った。張力一定モードにおいては、釣糸の張力を一定とするためにスプール3の回転速度が変動している。そこで、この場合には、回転速度検出部134が、速度変更操作が行われたタイミングでの実際のスプール3の回転速度(回転速度Vr)を検出する。スプール駆動制御部132は、検出された回転速度Vrに対して、現在設定されている速度変化量Vmを付与して算出される変更回転速度Va(=Vr+Vm)によりスプール3を回転駆動させる。
【0063】
張力一定モードにおいても、速度一定モードと同様に、速度変化量Vmが減速に対応する負の値である場合には、回転速度Vrに速度変化量Vmを加算した値が0以下となる場合がある。そこで、張力一定モードにおいても、速度一定モードと同様に、回転速度Vrに速度変化量Vmを加算した値が0以下となった場合には、スプール駆動レバー28の操作により得られる回転速度のうちで最も低い回転速度を変更回転速度Vaとして、スプール3を回転駆動させてよい。
【0064】
また、張力一定モードのもとで速度変更操作が解除された場合、スプール駆動制御部132は、変更回転速度Vaとする駆動制御から、釣糸の張力がスプール駆動レバー28の回転位置に応じて設定される巻上トルクに対して一定となるようにスプール3を回転させる駆動制御に切り替える。
【0065】
[処理手順例]
図6のフローチャートを参照して、魚釣用電動リール1が、速度一定モードが設定されているもとでの、モータ巻上における速度一時変更機能に関連して実行する処理手順例について説明する。
【0066】
ステップS101:魚釣用電動リール1において回転速度設定部131は、速度一定モードが設定されているもとでモータ巻上のためのスプール駆動レバー28の操作が行われたか否かを判定する。
【0067】
ステップS102:ステップS101によりスプール駆動レバー28の操作が行われと判定されると、回転速度設定部131は、操作により変更された回転位置に対応付けられている回転速度Vpを取得する。
速度一定モードにおいてスプール駆動レバー28の回転位置ごとに対応付けられた回転速度Vpの情報は、回転速度記憶部142が記憶している。回転速度設定部131は、スプール駆動レバー28の操作により得られた回転位置に対応付けられている回転速度Vpを、回転速度記憶部142から取得する。
【0068】
ステップS103:回転速度設定部131は、モータ巻上として、ステップS102にて取得された回転速度Vpで一定となるようにスプール3を回転させる駆動制御を開始する。
【0069】
ステップS104:ステップS103の処理の後、あるいはステップS101にてスプール駆動レバー28の操作が行われないと判定された場合、スプール駆動制御部132は、モータ巻上の実行中において、速度変更操作が開始されたか否かを判定する。速度変更操作は、モータ巻上の実行中において、第1ボタンBT-1を押圧する状態が開始されたことにより開始される。
【0070】
ステップS105:速度変更操作が開始されたことに応じて、スプール駆動制御部132は、変更回転速度Vaを設定する処理(変更回転速度設定処理)を実行する。
【0071】
ステップS106:スプール駆動制御部132は、ステップS105により設定された変更回転速度Vaによりスプール3を回転させる駆動制御を開始する。
【0072】
ステップS107:ステップS106の処理によって変更回転速度Vaでスプール3が回転されている状態のもとで、スプール駆動制御部132は、ステップS104に対応して開始された速度変更操作が解除されるのを待機する。
【0073】
第1ボタンBT-1の押圧された状態が解除されたことにより速度変更操作が解除されると、ステップS102に処理が戻される。これにより、スプール3は、スプール駆動レバー28の回転位置に応じた回転速度Vpで一定となるように駆動される状態に戻る。
【0074】
図7のフローチャートを参照して、図6のステップS105としての変更回転速度設定処理の一例について説明する。
ステップS201:スプール駆動制御部132は、速度変更操作が開始されたタイミングでのスプール駆動レバー28の回転位置に対応付けられた回転速度Vpを記憶部104から取得する。このときスプール3は回転速度Vpで一定となるように回転している状態にある。
【0075】
ステップS202:スプール駆動制御部132は、速度変化量記憶部141に記憶されている速度変化量のパラメータ値に対応付けられた速度変化量Vmを取得する。
例えば、記憶部104は、速度変化量のパラメータ値ごとに速度変化量の値を対応付けた速度変化量テーブルを記憶するようにされてよい。この場合、スプール駆動制御部132は、速度変化量テーブルを参照することで、速度変化量記憶部141に記憶されている速度変化量のパラメータ値に対応付けられた速度変化量Vmを取得してよい。あるいは、スプール駆動制御部132は、速度変化量記憶部141に記憶されている速度変化量のパラメータ値を利用した所定の演算により速度変化量Vmを算出してよい。
【0076】
ステップS203:スプール駆動制御部132は、算出回転速度Veを算出する。算出回転速度Veは、単純に、回転速度Vpに速度変化量Vmを加算(付与)して算出される回転速度の値である。
【0077】
ステップS204:スプール駆動制御部132は、ステップS203により算出された算出回転速度Veが0以下(即ち、0または負の値)であるか否かを判定する。
【0078】
ステップS205:ステップS204にて算出回転速度Veが0より大きいと判定された場合、スプール駆動制御部132は、算出回転速度Veを変更回転速度Vaとして設定する。
【0079】
ステップS206:ステップS204にて算出回転速度Veが0以下であると判定された場合、スプール駆動制御部132は、最低回転速度Vminを変更回転速度Vaとして設定する。
最低回転速度Vminは、スプール駆動レバー28の回転位置に応じた回転速度のうちで最も低い回転速度である。従って、本実施形態の場合には、算出された算出回転速度Veが最低回転速度Vmin以下である場合に、変更回転速度Vaとして最低回転速度Vminが設定されることになる。
【0080】
図8のフローチャートを参照して、魚釣用電動リール1が、張力一定モードが設定されているもとでの、モータ巻上における速度一時変更機能に関連して実行する処理手順例について説明する。
【0081】
ステップS301:魚釣用電動リール1においてスプール駆動制御部132は、張力一定モードが設定されているもとでモータ巻上のためのスプール駆動レバー28の操作が行われたか否かを判定する。
【0082】
ステップS302:ステップS301によりスプール駆動レバー28の操作が行われと判定されると、スプール駆動制御部132は、操作により得られた回転位置に対応付けられている巻上トルクTcを取得する。
張力一定モードにおけるスプール駆動レバー28の回転位置ごとに対応付けられた巻上トルクTcの情報は、巻上トルク記憶部143が記憶している。スプール駆動制御部132は、スプール駆動レバー28の操作により得られた回転位置に対応付けられている巻上トルクTcを、巻上トルク記憶部143から取得する。
【0083】
ステップS303:スプール駆動制御部132は、モータ巻上として、ステップS302にて取得された巻上トルクTcに対して釣糸の張力が一定となるようにスプール3を回転させる駆動制御を開始する。
巻上トルクTcに対して一定となるようにスプール3を回転させるにあたり、スプール駆動制御部132は、現在のスプール3の回転回数に応じて算出されるスプール3の1回転あたりの釣糸長さから糸巻径を求める。スプール駆動制御部132は、モータ駆動回路105の実巻上トルクに応じたモータ駆動電流でモータ4を駆動する。スプール駆動制御部132は、実巻上トルクを糸巻径で補正することにより釣糸の張力を算出する。スプール駆動制御部132は、算出される張力が一定範囲内に収まるようにモータ4の駆動電流を変更する制御を行う。
【0084】
ステップS304:ステップS303の処理の後、あるいはステップS301にてスプール駆動レバー28の操作が行われないと判定された場合、スプール駆動制御部132は、モータ巻上の実行中において、速度変更操作が開始されたか否かを判定する。
【0085】
ステップS305:速度変更操作が開始されたことに応じて、スプール駆動制御部132は、変更回転速度Vaを設定する処理(変更回転速度設定処理)を実行する。
【0086】
ステップS306:スプール駆動制御部132は、ステップS305により設定された変更回転速度Vaによりスプール3を回転させる駆動制御を開始する。
【0087】
ステップS307:ステップS306の処理によって変更回転速度Vaでスプール3が回転されている状態のもとで、スプール駆動制御部132は、ステップS304に対応して開始された速度変更操作が解除されるのを待機する。
【0088】
速度変更操作が解除されると、ステップS302に処理が戻される。これにより、スプール3は、スプール駆動レバー28の回転位置に対応付けられた巻上トルクTcに対して釣糸の張力が一定となるように駆動制御される状態に変化する。
【0089】
図9のフローチャートを参照して、図6のステップS305としての変更回転速度設定処理の一例について説明する。
ステップS401:スプール駆動制御部132は、速度変更操作が開始されたタイミングでの回転速度Vrを、回転センサ106の検出出力に基づいて検出する。
【0090】
ステップS402:スプール駆動制御部132は、速度変化量記憶部141に記憶されている速度変化量のパラメータ値に対応付けられた速度変化量Vmを取得する。
【0091】
ステップS403:スプール駆動制御部132は、算出回転速度Veを算出する。この場合の算出回転速度Veは、回転速度Vrに速度変化量Vmを加算(付与)して算出される回転速度の値である。
【0092】
ステップS404~S406の処理は、図7のステップS202~S204と同様となる。
【0093】
<変形例>
以下、本実施形態の変形例について説明する。
上記実施形態では、スプール駆動制御部132は、変更回転速度Vaの設定にあたり、算出回転速度Ve((Vp+Vm)または(Vr+Vm))が0以下である場合には、最低回転速度Vminを変更回転速度Vaとして設定していた。
しかしながら、スプール駆動制御部132は、算出回転速度Veが0以下である場合には、例えば変更回転速度Vaとして0を設定してスプール3の回転を停止させてもよい。
あるいは、スプール駆動制御部132は、例えば算出回転速度Veが0の場合には、変更回転速度Vaとして最低回転速度Vminを設定し、算出回転速度Veが負の値の場合には、変更回転速度Vaとして0を設定してもよい。
あるいは、スプール駆動制御部132は、例えば算出回転速度Veが0の場合には、変更回転速度Vaとして0を設定し、算出回転速度Veが負の値の場合には、変更回転速度Vaとして最低回転速度Vminを設定してもよい。
【0094】
速度変更操作は、上記実施形態のように第1ボタンBT-1等の所定のボタン操作子を押圧状態とする態様に限定されない。
例えば、速度変更操作は、例えば所定のボタン操作子を1回押打する操作を行ったことに応じて変更回転速度による駆動制御がオンとなり、次に、所定のボタン操作子を1回押打する操作を行ったことに応じて変更回転速度による駆動制御がオフとなるようにされてよい。この場合において、変更回転速度による駆動制御をオンとするボタン操作子とオフとするボタン操作子とは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また、速度変更操作は、例えばスプール駆動レバー28以外のレバー操作子を操作することによって、変更回転速度による駆動制御のオン、オフを切り替える態様であってもよい。
【0095】
上記実施形態において、速度一時変更機能のオン、オフ(有効、無効)に関する操作は、図5に例示したように、速度変化量のパラメータ値の変更のもとで、速度変化量に対応するパラメータ値(「-5」~「-1」、「+1」~「+5」)と「OF」のパラメータ値とのいずれかを選択することにより行われていた。しかしながら、速度一時変更機能のオン、オフ(有効、無効)を切り替える操作は、例えば速度変化量のパラメータ値の変更とは別に、魚釣用電動リール1に設けられた所定の操作子に対する操作によって行わるようにされてよい。
【0096】
上記実施形態の魚釣用電動リール1は、モータ巻上について速度一定モードと張力一定モードとで切り替えが可能とされていた。しかしながら、実施形態の魚釣用電動リール1は、例えば速度一定モードによるモータ巻上と張力一定モードによるモータ巻上とのいずれか一方のみを実行可能なようにされてもよい。
【0097】
なお、上記実施形態における魚釣用電動リール1としての機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより上述の魚釣用電動リール1としての処理を行ってもよい。ここで、「記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行する」とは、コンピュータシステムにプログラムをインストールすることを含む。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、インターネットやWAN、LAN、専用回線等の通信回線を含むネットワークを介して接続された複数のコンピュータ装置を含んでもよい。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。このように、プログラムを記憶した記録媒体は、CD-ROM等の非一過性の記録媒体であってもよい。また、記録媒体には、当該プログラムを配信するために配信サーバからアクセス可能な内部または外部に設けられた記録媒体も含まれる。配信サーバの記録媒体に記憶されるプログラムのコードは、端末装置で実行可能な形式のプログラムのコードと異なるものでもよい。すなわち、配信サーバからダウンロードされて端末装置で実行可能な形でインストールができるものであれば、配信サーバで記憶される形式は問わない。なお、プログラムを複数に分割し、それぞれ異なるタイミングでダウンロードした後に端末装置で合体される構成や、分割されたプログラムのそれぞれを配信する配信サーバが異なっていてもよい。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、ネットワークを介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、上述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 魚釣用電動リール、3 スプール、4 モータ、5 クラッチ機構、20 ハンドル、23 表示操作パネル部、28 スプール駆動レバー、50 クラッチ操作部材、101 操作部、102 表示部、103 制御部、104 記憶部、105 モータ駆動回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9