(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】接続体劣化診断装置及び接続体劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240319BHJP
G01R 31/58 20200101ALI20240319BHJP
【FI】
G01R31/12 B
G01R31/58
(21)【出願番号】P 2020116660
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦川 真也
(72)【発明者】
【氏名】石橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】田澤 和俊
(72)【発明者】
【氏名】廣川 光晴
(72)【発明者】
【氏名】田島 豊
(72)【発明者】
【氏名】三須 一成
(72)【発明者】
【氏名】袴田 将哉
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-002743(JP,A)
【文献】特開2007-285929(JP,A)
【文献】特開2001-183412(JP,A)
【文献】特開2002-078188(JP,A)
【文献】特開2006-050696(JP,A)
【文献】特開平08-105931(JP,A)
【文献】特開平10-160778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ケーブルを接続するための複数の接続部及び絶縁体を有し、所定周波数の交流高電圧が印加される接続体における電気絶縁特性の劣化を前記接続体の活線状態で診断するための接続体劣化診断装置であって、
前記接続体を含む配電経路の導電体に対して、前記交流高電圧とは周波数が異なる診断用交流電圧を印加する診断電圧印加部と、
前記接続体を含む配電経路上の少なくとも1箇所以上で、
前記高圧ケーブルと並べて配置され且つ接地線に接続されたメッセンジャワイヤに流れる電流、又は、前記接地線を流れる電流を計測することで、絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する電流測定部と、
前記電流測定部が検知した交流電流のうち、前記交流高電圧と前記診断用交流電圧とを重畳した結果として得られる特定周波数成分のレベルを所定の閾値と比較して、比較結果に応じた診断結果を出力する診断部と、
を備え
、
前記電流測定部は、前記接続体毎に、複数箇所でそれぞれ絶縁体を流れる交流電流を検知すると共に、前記複数箇所で検知した交流電流を、電気絶縁特性の劣化により生じる電流の向きを揃えた状態で加算する加算部を備え、
前記診断部は、前記加算部の加算結果に基づいて診断を実施する、
接続体劣化診断装置。
【請求項2】
高圧ケーブルを接続するための複数の接続部及び絶縁体を有し、所定周波数の交流高電圧が印加される接続体における電気絶縁特性の劣化を前記接続体の活線状態で診断するための接続体劣化診断装置であって、
前記接続体を含む配電経路の導電体に対して、前記交流高電圧とは周波数が異なる診断用交流電圧を印加する診断電圧印加部と、
前記接続体を含む配電経路上の少なくとも1箇所以上で、前記高圧ケーブルと並べて配置され且つ接地線に接続されたメッセンジャワイヤに流れる電流、又は、前記接地線を流れる電流を計測することで、絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する電流測定部と、
前記電流測定部が検知した交流電流のうち、前記交流高電圧と前記診断用交流電圧とを重畳した結果として得られる特定周波数成分のレベルを所定の閾値と比較して、比較結果に応じた診断結果を出力する診断部と、
を備え、
前記診断用交流電圧の周波数は、前記交流高電圧の周波数の倍数に所定値を加算した一定の周波数に固定され、
前記診断部は、前記所定値に相当する周波数成分を抽出するフィルタを備える、
接続体劣化診断装置。
【請求項3】
前記診断部は、予め用意されている複数の閾値を選択的に使用して、前記特定周波数成分のレベルを診断し、劣化の程度を判定する、
請求項1
又は請求項2に記載の接続体劣化診断装置。
【請求項4】
高圧ケーブルを接続するための複数の接続部及び絶縁体を有し、所定周波数の交流高電圧が印加される接続体における電気絶縁特性の劣化を前記接続体の活線状態で診断するための接続体劣化診断方法であって、
前記接続体を含む配電経路の導電体に対して、前記交流高電圧とは周波数が異なる診断用交流電圧を印加する手順と、
前記接続体を含む配電経路上の少なくとも1箇所以上で、
前記高圧ケーブルと並べて配置され且つ接地線に接続されたメッセンジャワイヤに流れる電流、又は、前記接地線を流れる電流を計測することで、絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する手順と、
検知された絶縁体を流れる交流電流のうち、前記交流高電圧と前記診断用交流電圧とを重畳した結果として得られる特定周波数成分のレベルを所定の閾値と比較して、比較結果に応じた診断結果を出力する手順と、
を有
し、
前記絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する手順では、前記接続体毎に、複数箇所でそれぞれ絶縁体を流れる交流電流を検知すると共に、前記複数箇所で検知した交流電流を、電気絶縁特性の劣化により生じる電流の向きを揃えた状態で加算し、
前記診断結果を出力する手順では、前記加算した結果に基づいて診断を実施する、
接続体劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧架空ケーブル用接続体などにおける電気絶縁体の劣化を検知するために利用可能な接続体劣化診断装置及び接続体劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば一般家庭や工場などの各需要家に供給される商用交流電力は、一般的には多数の電柱を経由する配電網を利用して配電される。また、それぞれの電柱の箇所においては、例えば6kV程度の高圧電力を扱う複数の高圧架空ケーブル同士を接続したり、幹線の高圧架空ケーブルから分岐して需要家の引き込み線や変圧器などに接続する分岐経路を接続する必要がある。このような接続箇所において、高圧架空ケーブル用接続体(以下、単に接続体ともいう)が用いられる。
【0003】
一般的に用いられる高圧架空ケーブル用接続体はπ形分岐接続体である。π形分岐接続体の場合、その左右両端に高圧架空ケーブルの幹線が接続され、さらに基端には分岐線とポールドロップ(PD)用アダプタが接続される。高圧架空ケーブル用接続体は、このように高圧架空ケーブルの幹線及び分岐線などに接続された状態で電柱上に設置された状態で使用される。
【0004】
接続体は、筒状の絶縁体の外周をアルミ製の筐体で被覆して構成される。また、高圧架空ケーブルの幹線の端末にはプラグインコネクタ・プラグが設けられており、絶縁体はこのプラグインコネクタ・プラグと接続(プラグイン接続)するためのプラグインコネクタ・レセップをその内側に収納する。
【0005】
接続体は、風雨などの天候や幅広い温度変化などの屋外環境に常時晒されて使用されるため、その影響を受けて内部の絶縁体が劣化する場合がある。絶縁体が劣化すると、接続体は機能しないばかりか、ショートや作業者等の感電が生じやすく電気的に危険な状況となる。したがって、この絶縁体の劣化が都度診断され、その絶縁体の劣化状況に応じて新品に取り換えられることが望ましい。
【0006】
例えば、特許文献1は配電用高圧架空ケーブル分岐接続体等の高圧機器の部分放電劣化を精度良く診断し、絶縁破壊による停電を防止するための技術を示している。具体的には、接続体5によって分岐された引込みケーブル6に取付けられた分離型の変流器1によって検出された高周波電流信号は、アンプ2により増幅された後、スペクトラムアナライザ3によって測定され、コンピュータ4内のメモリに記憶される。コンピュータ4において、メモリに記憶された高周波電流信号の波形パターンと周波数スペクトルを調べ、接続体5の部分放電の程度(絶縁劣化の度合)を診断する。
【0007】
特許文献2は、高圧架空ケーブル用接続体の絶縁劣化診断を低コストで行なうための技術を示している。具体的には、高圧架空ケーブル用接続体に接続されたいずれかの高圧架空ケーブルの遮蔽層に流れる電流波形を取得し、取得された電流波形から商用電源周波数成分を除去し、除去した電流波形が、所定の大きさを超える時間間隔を測定し、この時間間隔が一定周期の場合に、絶縁が劣化していると判定する。
【0008】
特許文献3は、部分放電信号のノイズを減少させて判定を容易かつ精度良く行うための技術を示している。具体的には、配電用高圧架空ケーブル分岐接続体の絶縁劣化により生じる部分放電の状態を部分放電発生部と電極を容量結合させるよう配電用高圧架空ケーブル分岐接続体筐体外側に電極を設置して、その電極の電位変動信号として検出し、配電用高圧架空ケーブル分岐接続体の絶縁劣化状態を診断する方法において、信号に混入しているノイズを信号の3相間の差分を取ることにより除去し、ノイズの少ない部分放電信号を得て絶縁劣化の診断を行うことを特徴とする。また、差分を取る信号において、3相間ではなく配電用高圧架空ケーブル分岐接続体に複数に設置した電極間および同じ配電線路に設置してある他の装柱の配電用高圧架空ケーブル分岐接続体間で差分を取る。
【0009】
特許文献4は、水トリーによる真の劣化信号を検出し、精度の高い診断を行うための技術を示している。具体的には、測定対象とする電力ケーブル3の遮へい層3aと接地間に接続された接地線4の途中に交流電源5を接続してある。また、交流電源5の周波数は商用周波数の整数倍±aHz(0<a≦10)とし、電力ケーブルから交流電源及び接地線を介して大地に流れる電流を測定し、この電流に基づいて電力ケーブルの絶縁劣化の程度を活線状態で診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2000-2743号公報
【文献】特開2019-27785号公報
【文献】特開平6-123756号公報
【文献】特開平9-318696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、高圧架空ケーブル用接続体の絶縁劣化に関しては、放電現象を伴わない劣化パターンも確認されている。したがって、特許文献1~特許文献3のように放電が発生することを前提として絶縁劣化の診断を行う技術では、絶縁劣化の診断精度を上げることが難しい。
【0012】
また、特許文献4の技術は、高圧地中ケーブルを対象としたものであり、接地が1ヵ所である場合に適用できるものであるが、高圧架空配電線路のような、遮蔽が複数箇所で接地されているものには適用できない。また、特許文献4の技術は、接続体としてエチレンプロピレンゴムが用いられたものに対する診断を想定したものではなかった。
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、放電現象を伴わない劣化パターンについても絶縁劣化の診断を可能にすると共に、遮蔽が複数箇所で接地されている接続体の診断を可能にする、接続体劣化診断装置及び接続体劣化診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために、本発明に係る接続体劣化診断装置及び接続体劣化診断方法は、下記(1)~(4)を特徴としている。
(1) 高圧ケーブルを接続するための複数の接続部及び絶縁体を有し、所定周波数の交流高電圧が印加される接続体における電気絶縁特性の劣化を前記接続体の活線状態で診断するための接続体劣化診断装置であって、
前記接続体を含む配電経路の導電体に対して、前記交流高電圧とは周波数が異なる診断用交流電圧を印加する診断電圧印加部と、
前記接続体を含む配電経路上の少なくとも1箇所以上で、前記高圧ケーブルと並べて配置され且つ接地線に接続されたメッセンジャワイヤに流れる電流、又は、前記接地線を流れる電流を計測することで、絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する電流測定部と、
前記電流測定部が検知した交流電流のうち、前記交流高電圧と前記診断用交流電圧とを重畳した結果として得られる特定周波数成分のレベルを所定の閾値と比較して、比較結果に応じた診断結果を出力する診断部と、
を備え、
前記電流測定部は、前記接続体毎に、複数箇所でそれぞれ絶縁体を流れる交流電流を検知すると共に、前記複数箇所で検知した交流電流を、電気絶縁特性の劣化により生じる電流の向きを揃えた状態で加算する加算部を備え、
前記診断部は、前記加算部の加算結果に基づいて診断を実施する、
接続体劣化診断装置。
【0016】
(2) 高圧ケーブルを接続するための複数の接続部及び絶縁体を有し、所定周波数の交流高電圧が印加される接続体における電気絶縁特性の劣化を前記接続体の活線状態で診断するための接続体劣化診断装置であって、
前記接続体を含む配電経路の導電体に対して、前記交流高電圧とは周波数が異なる診断用交流電圧を印加する診断電圧印加部と、
前記接続体を含む配電経路上の少なくとも1箇所以上で、前記高圧ケーブルと並べて配置され且つ接地線に接続されたメッセンジャワイヤに流れる電流、又は、前記接地線を流れる電流を計測することで、絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する電流測定部と、
前記電流測定部が検知した交流電流のうち、前記交流高電圧と前記診断用交流電圧とを重畳した結果として得られる特定周波数成分のレベルを所定の閾値と比較して、比較結果に応じた診断結果を出力する診断部と、
を備え、
前記診断用交流電圧の周波数は、前記交流高電圧の周波数の倍数に所定値を加算した一定の周波数に固定され、
前記診断部は、前記所定値に相当する周波数成分を抽出するフィルタを備える、
接続体劣化診断装置。
【0017】
(3) 前記診断部は、予め用意されている複数の閾値を選択的に使用して、前記特定周波数成分のレベルを診断し、劣化の程度を判定する、
上記(1)又は(2)に記載の接続体劣化診断装置。
【0018】
(4) 高圧ケーブルを接続するための複数の接続部及び絶縁体を有し、所定周波数の交流高電圧が印加される接続体における電気絶縁特性の劣化を前記接続体の活線状態で診断するための接続体劣化診断方法であって、
前記接続体を含む配電経路の導電体に対して、前記交流高電圧とは周波数が異なる診断用交流電圧を印加する手順と、
前記接続体を含む配電経路上の少なくとも1箇所以上で、前記高圧ケーブルと並べて配置され且つ接地線に接続されたメッセンジャワイヤに流れる電流、又は、前記接地線を流れる電流を計測することで、絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する手順と、
検知された絶縁体を流れる交流電流のうち、前記交流高電圧と前記診断用交流電圧とを重畳した結果として得られる特定周波数成分のレベルを所定の閾値と比較して、比較結果に応じた診断結果を出力する手順と、
を有し、
前記絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する手順では、前記接続体毎に、複数箇所でそれぞれ絶縁体を流れる交流電流を検知すると共に、前記複数箇所で検知した交流電流を、電気絶縁特性の劣化により生じる電流の向きを揃えた状態で加算し、
前記診断結果を出力する手順では、前記加算した結果に基づいて診断を実施する、
接続体劣化診断方法。
【0019】
上記(1)の構成の接続体劣化診断装置によれば、接続体の活線状態で配電経路の導電体に対して、所定周波数の交流高電圧と、診断電圧印加部が発生する診断用交流電圧とが重畳した状態で同時に印加される。これにより、交流高電圧とは周波数が大きく異なる特定周波数成分として、絶縁体を流れる交流電流を検知できる。この交流電流のレベルを所定の閾値と比較することで、絶縁劣化を診断できる。しかも、接地線に特別な電圧を印加する必要がないので、感電等の問題も生じにくく診断作業を容易に実施できる。
【0020】
更に、上記(1)の構成の接続体劣化診断装置によれば、診断対象とする特定の絶縁体の劣化により当該絶縁体上を流れる電流が互いに異なる複数の経路に分流した状態で流れる状況においても、精度の高い絶縁特性診断が可能になる。すなわち、複数箇所で検知した交流電流を、電気絶縁特性の劣化により生じる電流の向きを揃えた状態で加算することにより、絶縁体の全体について電気絶縁特性の劣化を正しく評価可能になる。また、診断対象でない別の絶縁体を流れる電流の影響を減らすことが可能になる。
【0021】
上記(2)の構成の接続体劣化診断装置によれば、絶縁体を流れる交流電流を、所定値に相当する周波数成分として、効率よく検知し評価できる。特に、所定値を前記交流高電圧の周波数とは大きく異なる値にすることで、絶縁体を流れる交流電流の分離及び抽出が容易になる。
【0022】
上記(3)の構成の接続体劣化診断装置によれば、複数の閾値を利用することにより、劣化の有無だけでなく、劣化の程度を判断することも可能になる。
【0023】
上記(4)の構成の接続体劣化診断方法によれば、接続体の活線状態で配電経路の導電体に対して、所定周波数の交流高電圧と、診断電圧印加部が発生する診断用交流電圧とが重畳した状態で同時に印加される。これにより、交流高電圧とは周波数が大きく異なる特定周波数成分として、絶縁体を流れる交流電流を検知できる。この交流電流のレベルを所定の閾値と比較することで、絶縁劣化を診断できる。
更に、上記(4)の構成の接続体劣化診断方法によれば、診断対象とする特定の絶縁体の劣化により当該絶縁体上を流れる電流が互いに異なる複数の経路に分流した状態で流れる状況においても、精度の高い絶縁特性診断が可能になる。すなわち、複数箇所で検知した交流電流を、電気絶縁特性の劣化により生じる電流の向きを揃えた状態で加算することにより、絶縁体の全体について電気絶縁特性の劣化を正しく評価可能になる。また、診断対象でない別の絶縁体を流れる電流の影響を減らすことが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の接続体劣化診断装置及び接続体劣化診断方法によれば、放電現象を伴わない劣化パターンについても絶縁劣化の診断が可能になる。
【0025】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、1つの接続体の構成例を表す縦断面図である。
【
図2】
図2は、高圧架空ケーブル端部の構成例を示す正面図である。
【
図3】
図3は、1つの接続体と接続体劣化診断装置との接続状態を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、複数の接続体を直列に接続した場合の電流経路の例を表すブロック図である。
【
図5】
図5は、接続体劣化診断装置における特徴的な診断動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0028】
<診断対象の接続体、高圧架空ケーブルの説明>
1つの接続体10の構成例を
図1に示す。また、この接続体10に接続する高圧架空ケーブル20端部の構成例を
図2に示す。
図1に示した接続体10は、高圧架空ケーブル用接続体であって、複数の高圧架空ケーブル20等を相互に電気的に接続するために利用される。
【0029】
例えば、商用電力を供給する電力会社が工場や一般家庭などの需要家に対して商用電力を供給する場合には、例えば数kVの正弦波交流電圧として高圧架空ケーブル20を含む配電経路を介して商用電力を供給する。長い距離に亘って電力を配電する必要があるため、この配電経路には通常は高圧架空ケーブル20を支持する多数の電柱が含まれる。それぞれの電柱の箇所において、送電元に近い側の高圧架空ケーブル20と、送電先に近い側の高圧架空ケーブル20とを電気的に接続するために、この接続体10を使用する。また、各電柱の箇所では配電経路の幹線に1つ又は複数の分岐線を接続し、この分岐線から各需要家等の経路に対して電力を供給する必要がある。この分岐線を接続するために接続体10を使用する。そのため、接続体10は
図1に示した例のようにπ形に構成される場合が多い。
【0030】
この接続体10に要求される重要な機能は電気絶縁である。すなわち、高圧架空ケーブル20を流れる高圧電流が、各電柱の箇所で必要な部位以外に流れるのを阻止しないと作業者などが感電する事故に繋がるため、電気絶縁が必要になる。したがって、以下に説明するように絶縁体が接続体10に備わっている。
なお、
図1において、実際の接続体10の外周はアルミ製の筐体で被覆されるが、接続体の構造を分かり易くするためにその筐体の断面の図示は省略されている。
【0031】
図1に示すように、接続体10は、商用電源を伝送する高圧架空ケーブル(
図2参照)20同士を仲介して接続するために用いられる。また、接続体10には、伝送のために所定の運転電圧が通常印加されている。その運転電圧の周波数は、日本国の東日本では50Hzであり、西日本では60Hzである。
【0032】
接続体10は、エチレンプロピレンゴム(以下EPゴムともいう。)及び半導電性EPゴムなどによって一体モールド成形され、接続体10の内部に配置される筒状の絶縁体11を含んで構成される。絶縁体は、3層構造で設けられており、具体的には、EPゴムからなる絶縁層が基層として中心に配置され、この絶縁層の内側には半導電性EPゴムからなる内部半導電性層が配置され、絶縁層の外側には半導電性EPゴムからなる外部半導電性層が配置される。すなわち、絶縁体11の絶縁層は、径方向両側から半導電性層で挟まれて設けられている。
【0033】
また、絶縁体11は、外部半導電性層でアルミ製の筐体14と電気的に接触した状態で、絶縁体11の外周がアルミ製の筐体14により被覆される。アルミ製の筐体14は電気的に遮蔽層として機能する。また、絶縁体11の絶縁層の一部は、接続体10の外部に露出されて設けられており、この露出部分には検電端子部12が設けられる。そして、検電端子部12には半導電性EPゴムからなる検電端子キャップ13が被覆される。
【0034】
また、接続体10及び絶縁体11は、外形がπ形に形成されている。そして、幹線の各高圧架空ケーブル20と接続するための幹線接続部15が、絶縁体11の左右両端にそれぞれ配置されている。更に、分岐線の高圧架空ケーブル20と接続するための分岐接続部16が絶縁体11の一対の基端部にそれぞれ配置されている。
【0035】
また、高圧架空ケーブル20の末端に設けられる接続端子21をプラグイン式で接続可能とするため、幹線接続部15及び分岐接続部16にはプラグインコネクタ・レセップ(不図示)が組み込まれる。プラグインコネクタ・レセップはその周囲を絶縁体によって被覆される。また、プラグインコネクタ・レセップは、導体として電気伝導性に優れた銅合金材料などから一体に設けられる。
なお、接続体10の外形はπ形に限定されない。その他、例えばT形でもよいし、ポールドロップ(PD)アダプタ用の接続部を有してもよい。
【0036】
図2に示すように、各高圧架空ケーブル20の末端には接続端子21が取り付けられる。この接続端子21は、プラグインコネクタ・プラグ22、防水筒24、及びスペーサを有している。プラグインコネクタ・プラグ22は、接続端子21の先端部に配置され、接続体10のプラグインコネクタ・レセップに対応する形状に形成されている。防水筒24は、接続端子21の基端部に配置され、高圧架空ケーブル20の遮蔽層と電気的に接続するために半導電性EPゴムにより構成されている。スペーサは、プラグインコネクタ・プラグ22と防水筒24との間に配置され、プラグインコネクタ・プラグ22を含む導体と防水筒24を含む遮蔽層を絶縁するための機能を有する。
【0037】
プラグインコネクタ・プラグ22は、接続体10の幹線接続部15及び分岐接続部16のプラグインコネクタ・レセップに対し挿入容易且つ圧縮接続可能に設けられる。また、防水筒24は、接続体10の外部半導電性層と接触することで電気的に接続する。
なお、高圧架空ケーブル20も接続体10と同様に、接続端子21の外周は筐体26によって被覆される。
【0038】
また、接続端子21には、外部に露出する接地線端子25が設けられる。この接地線端子25は、その一端で接続端子21の防水筒24に電気的に接続されており、その他端で遮蔽用接地線などに接続される。このとき、接続体10の外部半導電性層と高圧架空ケーブル20の接続端子21の防水筒24は電気的に接続されるので、結果的に外部半導電性層は接続された接続端子21を介して接地されることになる。
なお、プラグインコネクタ・プラグ22は、プラグインコネクタ・レセップ17と同様に導体として電気伝導性に優れた銅合金材料などから一体に設けられる。
【0039】
上述のように構成される接続体10は、各電柱上に設置された架台によって支持される。したがって、この接続体10は風雨などの天候や幅広い温度変化などの屋外環境に常時晒される環境で使用される。また、絶縁体11は、常時電気的ストレスに曝されている。そのため、天候や電気的ストレスなどの影響を受けて接続体10内部の絶縁体11が劣化する可能性があり、劣化が進んでいる場合、接続体10を取り換える必要がある。しかしながら、取り換えの際には配電系統の停電作業が伴う。そのため、絶縁体11の劣化状況に応じて、この停電作業や取換作業を計画的に実行して、家庭や電気需要施設への影響を最小限とすることが望ましい。すなわち、接続体10内部の絶縁体11の劣化状況が事前に汎用性高く、且つ精度よく把握可能であることが求められる。
以下に説明する接続体劣化診断装置30は、接続体10の内部に配置される絶縁体11の劣化状況を診断するために利用できる。
【0040】
<接続体および接続体劣化診断装置の構成例>
1つの接続体10と接続体劣化診断装置30との接続状態の一例を
図3に示す。
本実施形態における接続体劣化診断装置30は、重畳装置42及び診断装置45を備えている。
図3に示した例では、接続体10が接続体劣化診断装置30の診断対象となる。重畳装置42は、診断のための特別な交流電圧を、配電線44上の交流電圧に重畳するための機能を有している。診断装置45は、接続体10の絶縁体を流れる複数経路の電流を、電流i1、i2、i3として検知し、絶縁劣化の診断を行うための機能を有している。
【0041】
図3に示した例では、電力会社が供給する商用電源41の電圧が3.8kV、周波数f0が50Hzの場合を想定している。この商用電源41の周波数f0に基づいて、重畳装置42が生成する診断用の交流電圧の周波数f1が例えば次式のように決定される。
f1=2・f0+Δf
Δf:f0よりも十分小さい定数(例えば5Hz)
【0042】
したがって、
図3の例では重畳装置42に備わっている診断用交流電源42aが生成する診断用交流電圧の周波数を105Hzに定めてある。この電圧は100V、正弦波である。
【0043】
このような診断用交流電圧を重畳するために、重畳装置42は商用電源41と並列に接続してある。また、重畳装置42の内部には、診断用交流電源42aの他に絶縁トランス42b及び結合コンデンサ42cが備わっている。診断用交流電源42aの2つの出力端子は診断用交流電源42aの一次側巻線に接続され、その一方は大地(アース)43と接続されている。絶縁トランス42bの二次側巻線は、その一端が結合コンデンサ42cを介して商用電源41及び配電線44と接続され、他端が商用電源41及び大地43と接続されている。
【0044】
絶縁トランス42bを利用しているので、診断用交流電源42a等の一次側回路は高電圧の影響を受けないようにその系統から分離することができる。絶縁トランス42bの巻き数比は例えば4に定めることが想定される。その場合、重畳装置42から出力される400V程度の交流電圧が、商用電源41の出力に重畳される。
【0045】
結合コンデンサ42cの静電容量は、105Hzの周波数(f1)に対するインピーダンスが比較的小さくなり、50Hzの周波数(f0)に対するインピーダンスが比較的大きくなるように定められる。そのため、重畳装置42はそれが生成する105Hzの診断用交流電圧を効率よく配電線44の電圧に重畳することができる。
【0046】
診断装置45は、集合部45a、電流検出部45b、フィルタ部45c、及び測定・診断部45dを備えている。
集合部45aは、電流検出部45bの入力側で複数のリード線46、47、及び48が共通に接続される部位であり、各経路の電流i1、i2、及びi3を加算するための機能を有している。
【0047】
電流i1、i2、及びi3は、それぞれ変流器CT1、CT2、及びCT3における計測値を示す電流信号である。変流器CT1、CT2、及びCT3は、計測対象の絶縁体に劣化が生じた場合に発生する各々の経路における電流の向きの順方向に対して正極性の電流をそれぞれが出力するように、向きを揃えた状態で各電流経路にクランプしてある。つまり、計測対象の接続体10の絶縁体に劣化が生じた場合に、各リード線46、47、48から集合部45aに向かって流れ込む方向に各電流i1、i2、i3が流れる。したがって、各電流i1、i2、i3を集合部45aで極性を揃えた状態で加算することができる。
【0048】
電流検出部45bは、例えば演算増幅器により構成され、入力される電流に比例する電圧を生成することができる。
フィルタ部45cは、電流検出部45bの出力に現れる交流信号の中から、特定の周波数成分だけを抽出する機能を有している。本実施形態では、フィルタ部45cは5Hzの周波数(Δf)の成分だけを抽出するバンドパスフィルタとして機能する。
【0049】
なお、診断用交流電圧(f1)の重畳により得られる特定の周波数成分(Δf)の電流については、接続体10における絶縁体の絶縁抵抗、すなわち劣化との相関性が高いことが、本発明者の実験により明らかになっている。したがって、接続体10における絶縁体の劣化との相関性が高い信号だけをフィルタ部45cで抽出することができる。
【0050】
測定・診断部45dは、フィルタ部45cが抽出した信号成分のレベル、すなわち電流値の大きさを予め用意した複数の閾値と比較し、接続体10における絶縁体の劣化の有無や劣化の程度を診断するための処理を行う。この詳細については後で説明する。
【0051】
図3に示した架台31は、1つの電柱上に設置されている。そして、接続体10は架台31上に支持され固定されている。
図3の例では、接続体10の左端側に高圧架空ケーブル20-1の一端が接続され、接続体10の右端側に高圧架空ケーブル20-2の一端が接続されている。
【0052】
また、高圧架空ケーブル20-1に余計な張力が加わるのを防止するために設けられたメッセンジャワイヤ32が、高圧架空ケーブル20-1と並べて配置されており、メッセンジャワイヤ32の一端は架台31と接続されている。同様に、高圧架空ケーブル20-2に余計な張力が加わるのを防止するために設けられたメッセンジャワイヤ33が、高圧架空ケーブル20-2と並べて配置されており、メッセンジャワイヤ33の一端は架台31と接続されている。メッセンジャワイヤ32及び33は、それぞれ鋼製であり導電体である。
【0053】
高圧架空ケーブル20-1、及び20-2は、それぞれ導体20a、絶縁体20b、遮蔽銅テープ20c、及びシース20dにより構成されている。つまり、芯線である導体20aの外周が絶縁体20bで覆われ、絶縁体20bの外側が遮蔽銅テープ20cで覆われ、遮蔽銅テープ20cの外側がシース20d、すなわち外皮で覆われたケーブルとして構成されている。
【0054】
電力供給側に近い高圧架空ケーブル20-1の導体20aは、それと同等の配電線44を経由して商用電源41と接続されている。また、配電線44に重畳装置42が接続されているので、接続体劣化診断装置30が稼働している時には、商用電源41の出力する交流電圧(50Hz)と、重畳装置42の出力する診断用の交流電圧(105Hz)とが重畳された状態で高圧架空ケーブル20-1の導体20aに印加される。また、高圧架空ケーブル20-1の導体20aは、接続体10の内部導体を経由して高圧架空ケーブル20-2の導体20aと電気的に接続されている。したがって、高圧架空ケーブル20-2の導体20aにも、商用電源41の交流電圧(50Hz)と、重畳装置42の交流電圧(105Hz)とが重畳された状態で印加される。
【0055】
高圧架空ケーブル20-1上のある中間部位において、遮蔽銅テープ20cが接地線GL1を介して接地点GP1で接地されている。また、架台31の中央部位が、接地線GL2を介して接地点GP2で接地されている。更に、高圧架空ケーブル20-2上のある中間部位において、遮蔽銅テープ20cが接地線GL3を介して接地点GP3で接地されている。
【0056】
また、メッセンジャワイヤ32はその一端が架台31と接続され、他端が接地線GL1と接続され、中間部位が接地線G21を介して接地線GL2と接続されている。また、メッセンジャワイヤ33はその一端が架台31と接続され、他端が接地線GL3と接続され、中間部位が接地線G22を介して接地線GL2と接続されている。また、接地線GL1、GL2、及びGL3は、それぞれ低圧中性線34と接続されている。
【0057】
また、接続体10の左端側では、筐体14が接地線G31を介して架台31と近い位置で接続されている。また、接続体10の右端側では、筐体14が接地線G32を介して架台31と近い位置で接続されている。
【0058】
接続体劣化診断装置30の変流器CT1は、メッセンジャワイヤ32の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10及び架台31からメッセンジャワイヤ32に向かって流出する方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT1をクランプしてある。
【0059】
また、変流器CT2は接地線GL2の外周を囲む状態でクランプしてあり、この接地線GL2を通る電流が接続体10及び架台31から接地点GP2に向かって流出する方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT2をクランプしてある。変流器CT3は、メッセンジャワイヤ33の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10及び架台31からメッセンジャワイヤ33に向かって流出する方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT3をクランプしてある。
【0060】
接続体10内の絶縁体に劣化が生じた場合には、高圧架空ケーブル20-1の導体20a、及び接続体10内の導体が正極性の電位になっている時に、劣化した絶縁体を通り、大地43に向かって流れ出す方向に電流が流れる。
【0061】
この電流の代表例としては、接続体10内の絶縁体から架台31及びメッセンジャワイヤ32を通って大地43に流れる電流I1と、接続体10内の絶縁体から架台31及び接地線GL2を通って大地43に流れる電流I2と、接続体10内の絶縁体から架台31及びメッセンジャワイヤ33を通って大地43に流れる電流I3とが想定される。
【0062】
変流器CT1は上記電流I1を電流i1として検出する。変流器CT2は上記電流I2を電流i2として検出する。変流器CT3は上記電流I3を電流i3として検出する。診断装置45内の集合部45aは、上記電流i1~i3(I1~I3)を全て加算した結果を出力するので、診断装置45は接続体10内の絶縁体の劣化により生じた電流について、3種類の経路を通った電流の総和としてその大小を評価することができる。
【0063】
<電流経路の例>
複数の接続体10-1、10-2、10-3を直列に接続した場合の電流経路の例を
図4に示す。
【0064】
図4において、架台31-1は例えば1つの電柱上に設置されている。またその電柱と隣接する別の電柱上に架台31-2が設置され、更に隣接する別の電柱上に架台31-3が設置されている。接続体10-1、10-2、及び10-3は、それぞれ互いに異なる架台31-1、31-2、及び31-3に支持され固定されている。したがって、接続体10-1と接続体10-2との間を接続する高圧架空ケーブル20-2の長さは電柱間の距離、例えば50m程度とすることが想定される。他の高圧架空ケーブル20-1、20-3、20-4についても同様である。つまり、実際の配電経路における複数の接続体10の接続状況が
図4に示されている。
【0065】
図3の構成と同様に、
図4中の接続体10-1の一端に接続した高圧架空ケーブル20-1の導体20aは、商用電源41及び重畳装置42とそれぞれ接続されている。また、
図4中の高圧架空ケーブル20-1の導体20aは、接続体10-1内部の導体を経由して高圧架空ケーブル20-2の導体20aと電気的に接続されている。同様に、高圧架空ケーブル20-2の導体20aは、接続体10-2内部の導体を経由して高圧架空ケーブル20-3の導体20aと電気的に接続されている。更に、高圧架空ケーブル20-3の導体20aは、接続体10-3内部の導体を経由して高圧架空ケーブル20-4の導体20aと電気的に接続されている。
【0066】
接続体10-1における絶縁体劣化の検出を可能にするために、変流器CT11、CT12、及びCT13が備わっている。変流器CT11は、メッセンジャワイヤ32-1の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10-1及び架台31-1からメッセンジャワイヤ32-1に向かう方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT11をクランプしてある。
【0067】
また、変流器CT12は接地線GL12の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10-1及び架台31-1から接地線GL12を通って大地43に流れる方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT12をクランプしてある。変流器CT13は、メッセンジャワイヤ32-2の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10-1及び架台31-1からメッセンジャワイヤ32-2に向かう方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT13をクランプしてある。
【0068】
上記と同様に、接続体10-2における絶縁体劣化の検出を可能にするために、変流器CT21、CT22、及びCT23が備わっている。変流器CT21は、メッセンジャワイヤ32-2の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10-2及び架台31-2からメッセンジャワイヤ32-2に向かう方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT21をクランプしてある。
【0069】
また、変流器CT22は接地線GL22の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10-2及び架台31-2から接地線GL22を通って大地43に流れる方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT22をクランプしてある。変流器CT23は、メッセンジャワイヤ32-3の外周を囲む状態でクランプしてあり、接続体10-2及び架台31-2からメッセンジャワイヤ32-3に向かう方向の電流を検出した場合にその信号が正極性になる向きで変流器CT23をクランプしてある。
【0070】
変流器CT11、CT12、及びCT13の出力は、それぞれリード線46-1、47-1、及び48-1を介して診断装置45の集合部45a-1と接続されている。また、変流器CT21、CT22、及びCT23の出力は、それぞれリード線46-2、47-2、及び48-2を介して診断装置45の集合部45a-2と接続されている。
【0071】
図4の例では、集合部45a-1は電流検出部45b-1の入力と接続してあり、集合部45a-2は電流検出部45b-2の入力と接続してある。
図4のように複数の接続体10-1、10-2を診断の対象とする場合には、
図3中に示した1台の診断装置45の中に複数の電流検出部45b-1、45b-2を装備してこれらの一方を選択的に使用できるように構成してもよいし、複数の集合部45a-1、45a-2をスイッチなどで選択的に1つの電流検出部45bの入力に接続できるように構成してもよい。
【0072】
図4において、接続体10-2の中央付近の劣化点Pxで絶縁体の劣化が生じ、他の接続体10-1及び10-3は劣化していない状況を想定すると、劣化した絶縁体を流れる電流は、
図4中に示した各矢印のような経路で流れる。
【0073】
すなわち、劣化した接続体10-2の近傍では、接続体10-2及び架台31-2からメッセンジャワイヤ32-2に向かう電流経路と、接続体10-2及び架台31-2から接地線GL22に向かう電流経路と、接続体10-2及び架台31-2からメッセンジャワイヤ32-3に向かう電流経路とがそれぞれ形成される。これらの各経路の電流は、それぞれ変流器CT21、CT22、及びCT-23で検出される。
【0074】
ここで、3つの電流経路の電流の方向は接続体10-2から外側に向かって流出する方向に揃っている。したがって、変流器CT21、CT22、及びCT-23でそれぞれ検出された電流の検出レベルは、集合部45a-2で同極性の信号として加算されるので、接続体10-2の絶縁体が劣化している場合は電流検出部45b-2の出力レベルが大きくなる。このレベルの大小を識別することにより、診断装置45は接続体10-2の絶縁体劣化を検知できる。
【0075】
一方、接続体10-2及び架台31-2からメッセンジャワイヤ32-2を経由して隣接する別の架台31-1側に流れる電流経路も存在する。この経路の電流は、更に分岐して接地線GL2を介して大地43に流れる電流経路と、メッセンジャワイヤ32-1、接地線GL11を介して大地43に流れる電流経路とに分かれる。
【0076】
したがって、接続体10-2の絶縁体劣化により流れる電流は、隣の接続体10-1を診断するために設けられた変流器CT11、CT12、及びCT13においても検知される。但し、変流器CT13が検出する電流の方向は、メッセンジャワイヤ32-2から架台31-1に向かって流入する方向であり、通常とは逆極性(負極性)になる。また、変流器CT11及びCT12が検出する電流の方向は通常と同じであり正極性である。
【0077】
そのため、劣化した接続体10-2側から接続体10-1側に流入する電流を変流器CT11、CT12、及びCT13が検出する場合には、正極性の変流器CT11、CT12の各信号と、負極性の変流器CT13の信号とを集合部45a-1で加算する際に、極性の違うレベルが相殺される。つまり、集合部45a-1で検出される電流のレベルは、集合部45a-2で検出される電流のレベルに比べて大幅に減少する。したがって、互いに位置が異なる複数の集合部45a-1、45a-2における電流レベルの違いにより、接続体10-1の劣化と、接続体10-2の劣化とを確実に区別できる。
【0078】
<特徴的な診断動作>
接続体劣化診断装置30における特徴的な診断動作を
図5に示す。
図5に示す動作は、例えば測定・診断部45dを構成するコンピュータの動作として実現できる。また、
図5の例では、予め用意した3種類の閾値Th1、th2、及びTh3を使用して診断する場合を想定している。これらの閾値Th1~Th3は、次の関係式の条件を満たすように事前に決定される。
Th1<th2<Th3
また、閾値Th1~Th3の各数値は、例えば数十から数百[nA]程度の範囲内の微少な電流値を表すように決定される。すなわち、放電を伴わない接続体10の劣化を診断する場合には、絶縁体を流れる微少な電流を検知する必要がある。
【0079】
なお、
図5に示した動作については、一般的にはコンピュータを用いて定期的に繰り返し実行することが想定されるが、同様の動作を作業者の手動操作および判断により実現することも可能である。コンピュータが制御する場合を想定した
図5の動作について以下に説明する。
【0080】
図5の最初のステップS11では、コンピュータが診断用交流電源42aの動作をオンに切り替える。商用電源41は商用交流電力を常時供給するので、S11を実行した結果として、重畳装置42の出力する105Hzの診断用交流電圧が、50Hzの商用交流電力に重畳された状態で配電線44に印加される。そして、50Hzの商用交流電力と105Hzの診断用交流電圧とが重畳された交流電圧が高圧架空ケーブル20-1の導体20aに印加される。
【0081】
ステップS12では、コンピュータが診断装置45を制御して、接続体10-1における絶縁体劣化との相関性が高い重畳周波数成分Δf(例えば5Hz)の電流レベルを計測する。すなわち、集合部45aで加算された電流(i1+i2+i3)を電流検出部45bで電圧に変換した後、フィルタ部45cで重畳周波数成分Δfを抽出し、その電圧を測定・診断部45dが特定することで、接続体10-1の絶縁体に流れるΔfの交流重畳電流を把握する。
【0082】
コンピュータは、S12で計測したΔfの交流重畳電流のレベルを、複数の閾値Th1~Th3とそれぞれ比較する(S13、S15、S17)。そして、交流重畳電流のレベルが1番目の閾値Th1より小さい場合はS14に進み、2番目の閾値Th2より小さい場合はS16に進み、3番目の閾値Th3より小さい場合はS18に進み、3番目の閾値Th3以上の場合はS19に進む。
【0083】
コンピュータがステップS14を実行する時には、検出したΔfの交流重畳電流が非常に小さいので、診断対象の接続体10-1における絶縁体が未劣化であることをコンピュータが認識し、その認識結果を例えば数値や文字のメッセージとして表示する。
【0084】
また、コンピュータがステップS16を実行する時には、検出したΔfの交流重畳電流が比較的小さいので、診断対象の接続体10-1における絶縁体の劣化程度が小さいことをコンピュータが認識し、その認識結果を例えば数値や文字のメッセージとして表示する。
【0085】
コンピュータがステップS18を実行する時には、検出したΔfの交流重畳電流が中程度の大きさなので、診断対象の接続体10-1における絶縁体が中程度に劣化していることをコンピュータが認識し、その認識結果を例えば数値や文字のメッセージとして表示する。
【0086】
コンピュータがステップS19を実行する時には、検出したΔfの交流重畳電流が非常に大きいので、診断対象の接続体10-1における絶縁体の劣化の程度が大きいことをコンピュータが認識し、例えば接続体10-1の部品交換が必要であることを示す数値や文字のメッセージを表示する。
【0087】
例えば、
図4に示した例のように、接続体10-2上の劣化点Pxで絶縁体が劣化している場合には、診断装置45が集合部45a-2の電流を計測するとΔfの交流重畳電流が大きくなるので、
図5のS17が実行され、コンピュータにより接続体10-2の劣化が認識される。一方、診断装置45が集合部45a-1の電流を計測する時には、複数経路の電流の極性の違いにより加算された電流値が低下するので、例えば
図5のS14、又はS16が実行され、コンピュータにより接続体10-1における絶縁体劣化が小さいことが認識される。
【0088】
<接続体劣化診断装置30の利点>
図3に示した接続体劣化診断装置30においては、高圧架空ケーブル20-1の導体20aに対して、商用電源41の出力と重畳装置42の出力とを重畳した交流電圧を印加することができる。また、商用電源41の周波数f0(例えば50Hz)に対して診断用交流電源42aの周波数f1(例えば105Hz)を適切に定めることで、接続体10における絶縁体劣化の診断に役立つ特定の周波数成分Δf(例えば5Hz)を生成することができる。接続体10内部の絶縁体を流れる電流の周波数成分Δfについては、接続体10の絶縁抵抗と高い相関があることを本発明者が実験により確認している。したがって、放電を伴わない接続体10の劣化についても、接続体10内部の絶縁体を流れる電流の周波数成分Δfのレベルの大小により検出できる。例えば、
図3中の診断装置45においては、フィルタ部45cが周波数成分Δfを抽出するので、測定・診断部45dは接続体10内部の絶縁体を流れる電流の周波数成分Δfのレベルの大小を識別できる。
【0089】
しかも、各接地線GL1、GL2、GL3に対して特別な電圧を印加することなく診断を実施できる。そのため、診断の際に作業者等が接地線GL1、GL2、GL3等の箇所に触れても感電する心配は無い。また、重畳装置42及び診断装置45を常時接続しておくことも可能になるため、診断の自動化が可能であり、定期的に診断を実施することも容易である。
【0090】
また、接続体10内部の絶縁体を流れる電流が複数の経路に分流して流れる場合であっても、
図3のようにそれぞれの経路の電流を複数の変流器CT1~CT3で検出し、その複数の出力を集合部45aで加算することにより、絶縁体劣化の程度と相関の高いレベルの電流を得ることができる。
【0091】
また、
図5に示すように診断装置45が検出した電流のレベルを複数の閾値Th1~Th3とそれぞれ比較することにより、接続体10における絶縁体の劣化の程度を特定することが可能になる。
【0092】
また、接続体10における絶縁体の劣化に対して、当該絶縁体を流れる電流の方向を考慮して、複数の変流器CT1~CT3が検出する電流の方向に対する極性を揃えて集合部45aで加算することにより、劣化の診断精度を上げることが可能になる。特に、
図4に示すように複数の接続体10-1、10-2、10-3、・・・が直列に接続されている状況においては、集合部45a-1、45a-2の位置毎に異なる電流レベルが検知されるので、劣化している接続体10-2と、劣化していない接続体10-1とを区別することが可能になる。
【0093】
なお、接続体劣化診断装置30の診断対象になる接続体10については、π形に限定されるものではなく様々な種類の接続体に対応できる。また、接続体劣化診断装置30の用途については、高圧架空ケーブル20の接続体10に限らず様々な配電経路の接続体に適用できる。
【0094】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る接続体劣化診断装置及び接続体劣化診断方法の特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 高圧ケーブル(高圧架空ケーブル20-1、20-2)を接続するための複数の接続部及び絶縁体を有し、所定周波数の交流高電圧(商用電源41)が印加される接続体(10)における電気絶縁特性の劣化を前記接続体の活線状態で診断するための接続体劣化診断装置であって、
前記接続体を含む配電経路の導電体(導体20a)に対して、前記交流高電圧とは周波数が異なる診断用交流電圧を印加する診断電圧印加部(重畳装置42)と、
前記接続体を含む配電経路上の少なくとも1箇所以上で、絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する電流測定部(変流器CT1~CT3)と、
前記電流測定部が検知した交流電流のうち、前記交流高電圧と前記診断用交流電圧とを重畳した結果として得られる特定周波数成分(Δf)のレベルを所定の閾値と比較して、比較結果に応じた診断結果を出力する診断部(診断装置45)と、
を備える接続体劣化診断装置(30)。
【0095】
[2] 前記電流測定部は、前記接続体毎に、複数箇所でそれぞれ絶縁体を流れる交流電流を検知すると共に、前記複数箇所で検知した交流電流を、電気絶縁特性の劣化により生じる電流の向きを揃えた状態で加算する加算部(集合部45a-1、45a-2)を備え、
前記診断部は、前記加算部の加算結果に基づいて診断を実施する、
上記[1]に記載の接続体劣化診断装置。
【0096】
[3] 前記診断用交流電圧の周波数(f1)は、前記交流高電圧の周波数(f0)の倍数に所定値を加算した一定の周波数に固定され、
前記診断部は、前記所定値に相当する周波数成分(Δf)を抽出するフィルタ(フィルタ部45c)を備える、
上記[1]又は[2]に記載の接続体劣化診断装置。
【0097】
[4] 前記診断部は、予め用意されている複数の閾値(Th1~Th3)を選択的に使用して、前記特定周波数成分(Δf)のレベルを診断し、劣化の程度を判定する(S13~S19)、
上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の接続体劣化診断装置。
【0098】
[5] 高圧ケーブルを接続するための複数の接続部及び絶縁体を有し、所定周波数の交流高電圧が印加される接続体における電気絶縁特性の劣化を前記接続体の活線状態で診断するための接続体劣化診断方法であって、
前記接続体を含む配電経路の導電体に対して、前記交流高電圧とは周波数が異なる診断用交流電圧を印加する手順(S11)と、
前記接続体を含む配電経路上の少なくとも1箇所以上で、絶縁体を流れる交流電流の大きさを検知する手順(S12)と、
検知された絶縁体を流れる交流電流のうち、前記交流高電圧と前記診断用交流電圧とを重畳した結果として得られる特定周波数成分のレベルを所定の閾値と比較して、比較結果に応じた診断結果を出力する手順(S13~S19)と、
を有する接続体劣化診断方法。
【符号の説明】
【0099】
10,10-1,10-2,10-3 接続体
11 絶縁体
12 検電端子部
13 検電端子キャップ
14 筐体
15 幹線接続部
16 分岐接続部
20,20-1,20-2,20-3,20-4 高圧架空ケーブル
20a 導体
20b 絶縁体
20c 遮蔽銅テープ
20d シース
21 接続端子
22 プラグインコネクタ・プラグ
23 スペーサ
24 防水筒
25 接地線端子
26 筐体
30 接続体劣化診断装置
31,31-1,31-2,31-3 架台
32,32-1,32-2,32-3,32-4,33 メッセンジャワイヤ
34 低圧中性線
41 商用電源
42 重畳装置
42a 診断用交流電源
42b 絶縁トランス
42c 結合コンデンサ
43 大地
44 配電線
45 診断装置
45a 集合部
45b 電流検出部
45c フィルタ部
45d 測定・診断部
46,47,48 リード線
CT1,CT2,CT3 変流器
CT11,CT12,CT13,CT21,CT22,CT23 変流器
GL1,GL2,GL3,G21,G22,G31,G32 接地線
GL11,GL12,GL13,GL21,GL22,GL32,GL33 接地線
GP1,GP2,GP3 接地点
i1,i2,i3 電流
Px 劣化点
Th1,Th2,Th3 閾値