(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】梁接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/21 20060101AFI20240319BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
E04B1/21 B
E04B1/58 508A
E04B1/58 505A
(21)【出願番号】P 2020147664
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 直登
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-342684(JP,A)
【文献】特開平11-124952(JP,A)
【文献】特開2011-246884(JP,A)
【文献】特開2000-144893(JP,A)
【文献】特開2005-207084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/21
E04B 1/30
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状部材と、
前記柱状部材から張り出すコンクリートキャピタルと、
平面視にて格子状に配置され、前記コンクリートキャピタルの上部に埋設される複数のキャピタル主筋と、
前記柱状部材の周囲に、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置され、前記コンクリートキャピタルの側周面に接合される複数のコンクリート梁と、
前記コンクリート梁に埋設されるとともに、前記柱状部材に達しないように前記コンクリートキャピタル内へ延出し、前記キャピタル主筋の下に配置される梁主筋と、
を備える梁接合構造。
【請求項2】
前記コンクリートキャピタルの厚みは、前記コンクリート梁の梁成よりも厚い、
請求項1に記載の梁接合構造。
【請求項3】
前記コンクリートキャピタルは、前記コンクリート梁の上面よりも上方へ突出する、
請求項2に記載の梁接合構造。
【請求項4】
前記コンクリートキャピタルには、5本以上の前記コンクリート梁が接合され、
少なくとも2本の前記コンクリート梁が、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置される、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載の梁接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭と、鉄筋コンクリート造の基礎梁との接合構造が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-256849号公報
【文献】特開2013-256848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、柱には、平面視にて、互いに直交するX方向及びY方向に沿った鉄筋コンクリート造の4本のコンクリート梁が接合される。この場合、4本のコンクリート梁の梁主筋は、互いに干渉しないようにレベルが調整される。
【0005】
ところで、例えば、一のコンクリート梁に対し、平面視にて直交せず、かつ、平行しない他のコンクリート梁を柱に接合したいとの要望がある。
【0006】
しかしながら、この場合、複数のコンクリート梁の梁主筋のレベル調整が複雑化する可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の事実を考慮し、互いに直交せず、かつ、平行しない複数のコンクリート梁を柱に接合する場合に、複数のコンクリート梁の梁主筋のレベル調整を容易にし、又はレベル調整を不要にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の梁接合構造は、柱状部材と、前記柱状部材から張り出すコンクリートキャピタルと、平面視にて格子状に配置され、前記コンクリートキャピタルの上部に埋設される複数のキャピタル主筋と、前記柱状部材の周囲に、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置され、前記コンクリートキャピタルの側周面に接合される複数のコンクリート梁と、前記コンクリート梁に埋設されるとともに、前記柱状部材に達しないように前記コンクリートキャピタル内へ延出し、前記キャピタル主筋の下に配置される梁主筋と、を備える。
【0009】
請求項1に係る梁接合構造によれば、柱状部材からは、コンクリートキャピタルが張り出す。このコンクリートキャピタルの上部には、平面視にて格子状に配置される複数のキャピタル主筋が埋設される。
【0010】
また、柱状部材の周囲には、複数のコンクリート梁が、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置される。これらのコンクリート梁は、コンクリートキャピタルの側周面に接合される。各コンクリート梁には、梁主筋が埋設される。
【0011】
各コンクリート梁の梁主筋は、柱状部材に達しないようにコンクリートキャピタル内へ延出し、キャピタル主筋の下に配置される。これにより、複数のコンクリート梁が、コンクリートキャピタルを介して柱状部材に接合される。
【0012】
ここで、応力発生時には、一のコンクリート梁の梁主筋に作用する応力(引張力)が、キャピタル主筋を介して柱状部材に伝達されるとともに、キャピタル主筋を介して他のコンクリート梁の梁主筋に伝達される。これにより、本発明では、例えば、複数のコンクリート梁の梁主筋同士を同レベルにすることができる。したがって、複数のコンクリート梁の梁主筋のレベル調整を容易にし、又はレベル調整を不要にすることができる。
【0013】
請求項2に記載の梁接合構造は、請求項1に記載の梁接合構造において、前記コンクリートキャピタルの厚みは、前記コンクリート梁の梁成よりも厚い。
【0014】
請求項2に係る梁接合構造によれば、コンクリートキャピタルの厚みは、コンクリート梁の梁成よりも厚い。これにより、コンクリートキャピタルのキャピタル主筋の下に梁主筋を容易に配置することができる。
【0015】
請求項3に記載の梁接合構造は、請求項2に記載の梁接合構造において、前記コンクリートキャピタルは、前記コンクリート梁の上面よりも上方へ突出する。
【0016】
請求項3に係る梁接合構造によれば、コンクリートキャピタルは、コンクリート梁の上面よりも上方へ突出する。
【0017】
ここで、コンクリートキャピタルをコンクリート梁の下面よりも下方へ突出させた場合、天井材等によってコンクリートキャピタルを下側から覆い隠さないと、意匠性が低下する可能性がある。
【0018】
これに対して本発明では、前述したように、コンクリートキャピタルをコンクリート梁の上面よりも上方へ突出させることにより、コンクリート梁の下面から下方へ突出するコンクリートキャピタルの突出量を低減し、若しくはコンクリートキャピタルの下面とコンクリート梁の下面とを面一にすることができる。したがって、天井材等によってコンクリートキャピタルを下側から覆い隠さずに、コンクリートキャピタルの意匠性を高めることができる。
【0019】
また、コンクリート梁の上面よりも上方へ突出するコンクリートキャピタルの上部(突出部)は、例えば、OAフロア等に床材によって上側から容易に覆い隠すことができる。したがって、コンクリートキャピタルの意匠性を確保することができる。
【0020】
請求項4に記載の梁接合構造は、請求項1~請求項3の何れか1項に記載の梁接合構造において、前記コンクリートキャピタルには、5本以上の前記コンクリート梁が接合され、少なくとも2本の前記コンクリート梁が、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置される。
【0021】
請求項4に係る梁接合構造によれば、コンクリートキャピタルには、5本以上のコンクリート梁が接合される。そして、少なくとも2本のコンクリート梁が、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置される。
【0022】
このように5本以上のコンクリート梁を柱状部材に接合する場合に、本発明は特に有効であり、複数のコンクリート梁の梁主筋を、キャピタル主筋を介して柱状部材に接合することにより、例えば、複数のコンクリート梁の梁主筋を同レベルに配置することができる。したがって、複数のコンクリート梁の梁主筋のレベル調整を容易にし、又はレベル調整を不要にすることができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、互いに直交せず、かつ、平行しない複数のコンクリート梁を柱に接合する場合に、複数のコンクリート梁の梁主筋のレベル調整を容易にし、又はレベル調整を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】一実施形態に係る梁接合構造が適用されたコンクリート柱、コンクリートキャピタル、及び複数のコンクリート梁を示す
図3の1-1線断面図である。
【
図2】一実施形態に係る梁接合構造が適用されたコンクリート柱、コンクリートキャピタル、及び複数のコンクリート梁を示す
図3の2-2線断面図である。
【
図3】
図1に示されるコンクリートキャピタルを示す立断面図である。
【
図4】矢印X方向の曲げモーメントが、コンクリート梁からコンクリートキャピタルに伝達される伝達領域を示す
図1に対応する断面図である。
【
図5】矢印Y方向の曲げモーメントが、コンクリート梁からコンクリートキャピタルに伝達される伝達領域を示す
図1に対応する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る梁接合構造について説明する。
【0026】
(梁接合構造)
図1及び
図2には、本実施形態に係る梁接合構造が適用されたコンクリート柱10、コンクリートキャピタル20、及び複数(本実施形態では、5本)のコンクリート梁30が示されている。なお、各図に示される矢印X方向及び矢印Y方向は、互いに直交する水平二方向を示している。
【0027】
(コンクリート柱)
コンクリート柱10は、鉄筋コンクリート造とされている。また、コンクリート柱10は、断面円形状に形成されている。このコンクリート柱10は、複数の柱主筋12、及び複数のせん断補強筋14が埋設されている。なお、コンクリート柱10は、柱状部材の一例である。
【0028】
複数の柱主筋12は、コンクリート柱10の材軸方向に延びるとともに、コンクリート柱10の周方向に間隔を空けて配置されている。これらの柱主筋12の周囲には、複数のせん断補強筋14が配置されている。このコンクリート柱10の仕口部には、コンクリートキャピタル20を介して複数のコンクリート梁30が接合されている。
【0029】
なお、コンクリート柱10の断面形状は、円形状に限らず、矩形状であっても良い。
【0030】
(コンクリートキャピタル)
コンクリートキャピタル20は、鉄筋コンクリート造とされている。また、コンクリートキャピタル20は、点線に示されるように、平面視にて矩形状に形成されている。このコンクリートキャピタル20の中央部には、前述したコンクリート柱10が設けられている。そのため、コンクリートキャピタル20は、コンクリート柱10の仕口部から四方向へ張り出している。
【0031】
なお、
図1及び
図2には、コンクリートキャピタル20の外形が点線で示されている。また、コンクリートキャピタル20は、例えば、普通コンクリートで形成されており、繊維補強されていない。
【0032】
図3に示されるように、コンクリートキャピタル20には、複数の上端キャピタル主筋22、複数の下端キャピタル主筋24、及び複数のキャピタルせん断補強筋26が埋設されている。なお、上端キャピタル主筋22は、キャピタル主筋の一例である。
【0033】
複数の上端キャピタル主筋22は、コンクリートキャピタル20の側面視にて、C字形状(U字形状)に屈曲されたはかま筋とされている。これらの上端キャピタル主筋22は、C字形状の開口を下に向けた状態で、コンクリートキャピタル20の上部に埋設されている。また、複数の上端キャピタル主筋22は、平面視にて格子状に配置され、かご筋を構成している。
【0034】
なお、上端キャピタル主筋22は、平面視にて、矢印X方向及び矢印Y方向に沿って格子状に配置されている。
【0035】
上端キャピタル主筋22は、コンクリートキャピタル20の上面20U側に埋設される横筋22Aと、コンクリートキャピタル20の側周面20S側に埋設される一対の縦筋22Bとを有している。
【0036】
横筋22Aは、コンクリートキャピタル20の上面20Uに沿って配筋されるとともに、前述したように、平面視にて格子状に配筋されている。また、コンクリートキャピタル20の中央部に配筋された横筋22Aは、隣り合う柱主筋12の間に配筋されており、コンクリート柱10を横切っている。
【0037】
一対の縦筋22Bは、横筋22Aの両端部から下方へ延出している。また、一対の縦筋22Bは、コンクリートキャピタル20の両側の側周面20Sに沿ってそれぞれ配筋されている。これらの縦筋22Bによって、コンクリートキャピタル20(コンクリートキャピタル20)の側周面20Sのひび割れ等が抑制されている。
【0038】
複数の下端キャピタル主筋24は、直線状の鉄筋によって形成されている。これらの下端キャピタル主筋24は、コンクリートキャピタル20の下部に、平面視にて格子状に埋設されている。
【0039】
なお、下端キャピタル主筋24は、平面視にて、矢印X方向及び矢印Y方向に沿って格子状に配置されている。また、下端キャピタル主筋24の本数は、上端キャピタル主筋22の本数よりも少なくされている。
【0040】
(コンクリート梁)
複数のコンクリート梁30は、鉄筋コンクリート造とされている。また、複数のコンクリート梁30は、断面矩形状に形成されている。これらのコンクリート梁30は、コンクリート柱10の周囲に配置されており、コンクリートキャピタル20の側周面20S(
図3参照)に接合されている。
【0041】
複数のコンクリート梁30は、平面視にてコンクリート柱10を中心とし、コンクリートキャピタル20から放射状に延出している。より具体的には、複数のコンクリート梁30は、各々の材軸が、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置されている。
【0042】
図1に示されるように、隣り合うコンクリート梁30の間には、増打ち部40がそれぞれ設けられている。増打ち部40は、コンクリートキャピタル20を増し打ちすることにより形成されている。各増打ち部40は、平面視にて、コンクリート柱10側へ凸状を成す湾曲面40Aを有している。湾曲面40Aは、隣り合うコンクリート梁30の側面30S同士を、弧を描くように接続している。これらの増打ち部40によって、コンクリートキャピタル20の意匠性が高められている。なお、複数の増打ち部40は、省略可能である。
【0043】
図3に示されるように、各コンクリート梁30の梁成Hは、コンクリートキャピタル20の厚みTよりも低くされている。換言すると、コンクリートキャピタル20の厚みTは、各コンクリート梁30の梁成Hよりも厚くされている(T>H)。
【0044】
また、各コンクリート梁30の下面30Lと、コンクリートキャピタル20の下面20Lとは、面一とされている。これにより、コンクリートキャピタル20を下から見上げた場合の意匠性が高められている。
【0045】
コンクリートキャピタル20の上部は、各コンクリート梁30の上面30Uよりも上方へ突出している。そして、コンクリートキャピタル20の上面20Uと各コンクリート梁30の上面30Uとの間には、段差が形成されている。
【0046】
各コンクリート梁30には、複数の上端梁主筋32、複数の下端梁主筋34、及び複数のせん断補強筋36が埋設されている。複数の上端梁主筋32、及び複数の下端梁主筋34は、コンクリート梁30の材軸方向に沿って配筋されている。なお、上端梁主筋32は、梁主筋の一例である。
【0047】
複数の上端梁主筋32は、コンクリート梁30の上端側に、梁幅方向に間隔を空けて配筋されている。また、複数の上端梁主筋32は、上下二段で配筋されている。一方、複数の下端梁主筋34は、コンクリート梁30の下端側に、梁幅方向に間隔を空けて配筋されている。
【0048】
各コンクリート梁30の上端梁主筋32は、同レベル(同じ高さ)に配筋されている。これと同様に、各コンクリート梁30の下端梁主筋34は、同レベル(同じ高さ)に配筋されている。なお、ここでいう同レベルとは、厳密に同じレベルに限らず、施工誤差等による僅かずれも含む概念である。
【0049】
複数のせん断補強筋36は、コンクリート梁30の材軸方向に間隔を空けて配筋されている。また、複数のせん断補強筋36は、コンクリート梁30の外周部に配筋されており、複数の上端梁主筋32、及び下端梁主筋34を囲んでいる。
【0050】
図1に示されるように、複数の上端梁主筋32は、コンクリート柱10に達しないように、コンクリート梁30からコンクリートキャピタル20の上部に延出している。また、
図2に示されるように、複数の下端梁主筋34は、コンクリート柱10に達しないように、コンクリート梁30からコンクリートキャピタル20の下部に延出している。
【0051】
図3に示されるように、複数の上端梁主筋32、及び下端梁主筋34は、コンクリートキャピタル20の側面視にて、上端キャピタル主筋22と下端キャピタル主筋24との間に配置されている。すなわち、コンクリートキャピタル20の側面視にて、複数の上端梁主筋32は、上端キャピタル主筋22の下側に配置され、複数の下端梁主筋34は、下端キャピタル主筋24の上側に配置されている。なお、コンクリートキャピタル20には、複数のせん断補強筋36も埋設されている。
【0052】
図2に示されるように、コンクリートキャピタル20に対する複数の下端梁主筋34の定着長は、同じとされている。一方、
図1に示されるように、コンクリートキャピタル20に対する複数の上端梁主筋32の定着長は、梁幅方向の両端の上端梁主筋32よりも梁幅方向の中央側の上端梁主筋32の方が長くなっている。これにより、複数の上端梁主筋32とコンクリートキャピタル20との間の応力の伝達効率が高められている。
【0053】
なお、コンクリートキャピタル20に対する複数の上端梁主筋32の定着長は、下端梁主筋34と同様に、同じであっても良い。
【0054】
また、上端梁主筋32及び下端梁主筋34の端部には、定着金物等の機械式定着50が設けられている。これらの機械式定着50によって、コンクリートキャピタル20に対する上端梁主筋32及び下端梁主筋34の定着強度が高められている。
【0055】
なお、コンクリートキャピタル20の形状、及び大きさは、隣り合うコンクリート梁30の上端梁主筋32同士、及び下端梁主筋34同士が干渉せず、かつ、コンクリートキャピタル20に対する上端梁主筋32及び下端梁主筋34の必要定着長を確保可能に適宜設定される。また、機械式定着50(
図3参照)は、必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0056】
(上端キャピタル主筋の配筋量)
次に、コンクリートキャピタル20に配筋される上端キャピタル主筋22及び下端キャピタル主筋24の配筋量について説明する。
【0057】
複数のコンクリート梁30が、コンクリートキャピタル20を介してコンクリート柱10に接合される。ここで、本実施形態では、複数のコンクリート梁30とコンクリートキャピタル20との接合形式を、計算上(構造計算上)、ピン接合として扱う。この場合、コンクリートキャピタル20と複数のコンクリート梁30との間の曲げモーメントの伝達は、主として、上端キャピタル主筋22及び上端キャピタル主筋22を介して行われる。そのため、以下では、上端キャピタル主筋22の配筋量について説明する。
【0058】
なお、計算上、複数のコンクリート梁30とコンクリートキャピタル20との接合形式を剛接合として扱う場合は、例えば、上端キャピタル主筋22と同様の方法で、下端キャピタル主筋24の配筋量が設定される。
【0059】
上端キャピタル主筋22の配筋量は、複数のコンクリート梁30からコンクリートキャピタル20に伝達される曲げモーメントの伝達領域の重複領域を考慮して、適宜設定される。
【0060】
具体的には、
図4及び
図5に示されるように、複数のコンクリート梁30からコンクリートキャピタル20に伝達される曲げモーメントの伝達領域を、互いに直交する水平二方向(矢印X方向及び矢印Y方向)に分けて検討する。
【0061】
なお、以下では、説明の便宜上、複数のコンクリート梁30をコンクリート梁30A,30B,30C,30D,30Eとする。また、
図4及び
図5では、上端キャピタル主筋22及び下端キャピタル主筋24の図示を省略している。
【0062】
先ず、矢印X方向の曲げモーメントの伝達領域について検討する。矢印X方向の曲げモーメントは、コンクリート梁30A,30Dからコンクリートキャピタル20の伝達領域R
A,R
Dに伝達される。伝達領域R
A,R
Dは、平面視にて、コンクリート梁30A,30Dからコンクリート柱10に向かって広がっている。これらの伝達領域R
A,R
Dの重複領域L
Xに必要な上端キャピタル主筋22(
図1参照)の配筋量(以下、「X方向必要配筋量」という)を算出する。
【0063】
次に、矢印Y方向の曲げモーメントの伝達領域について検討する。矢印Y方向の曲げモーメントは、コンクリート梁30B,30C,30Eからコンクリートキャピタル20の伝達領域R
B,R
C,R
Eに伝達される。伝達領域R
B,R
C,R
Eは、平面視にて、コンクリート梁30B,30C,30Eからコンクリート柱10に向かって広がっている。これらの伝達領域R
B,R
C,R
Eの重複領域L
Yに、必要な上端キャピタル主筋22(
図1参照)の配筋量(以下、「Y方向必要配筋量」という)を算出する。
【0064】
そして、コンクリートキャピタル20の矢印X方向については、X方向必要配筋量以上に上端キャピタル主筋22が配筋され、コンクリートキャピタル20の矢印Y方向については、Y方向必要配筋量以上に上端キャピタル主筋22が配筋される。
【0065】
なお、各伝達領域RA,RB,RC,RD,REの広がりは、例えば、応力解析等によって求める。
【0066】
(作用)
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0067】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態に係る梁接合構造によれば、コンクリート柱10からは、コンクリートキャピタル20が張り出している。このコンクリートキャピタル20の上部には、平面視にて格子状に配置される複数の上端キャピタル主筋22が埋設されている。
【0068】
また、コンクリート柱10の周囲には、複数のコンクリート梁30が、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置されている。これらのコンクリート梁30は、コンクリートキャピタル20の側周面20Sに接合されている。各コンクリート梁30には、複数の上端梁主筋32、及び複数の下端梁主筋34が埋設されている。
【0069】
各コンクリート梁30の上端梁主筋32及び下端梁主筋34は、コンクリート柱10に達しないようにコンクリートキャピタル20内へ延出し、上端キャピタル主筋22の横筋22Aと下端梁主筋34との間に配置されている。
【0070】
より具体的には、各コンクリート梁30の上端梁主筋32は、上端キャピタル主筋22の横筋22Aの下に配置され、各コンクリート梁30の下端梁主筋34は、下端キャピタル主筋24の上に配置されている。これにより、複数のコンクリート梁30が、コンクリートキャピタル20を介してコンクリート柱10に接合されている。
【0071】
ここで、応力発生時には、例えば、一のコンクリート梁30の上端梁主筋32に作用する応力(引張力)が、上端キャピタル主筋22を介してコンクリート柱10に伝達されるとともに、上端キャピタル主筋22を介して他のコンクリート梁30の上端梁主筋32に伝達される。また、例えば、一のコンクリート梁30の下端梁主筋34に作用する応力は、下端キャピタル主筋24を介してコンクリート柱10に伝達されるとともに、下端キャピタル主筋24を介して他のコンクリート梁30の下端梁主筋34に伝達される。
【0072】
これにより、本実施形態では、例えば、複数のコンクリート梁30の上端梁主筋32同士を同レベルにすることができるとともに、下端梁主筋34同士を同レベルにすることができる。したがって、複数のコンクリート梁30の上端梁主筋32及び下端梁主筋34のレベル調整を容易にし、又はレベル調整を不要にすることができる。
【0073】
また、例えば、コンクリートキャピタル20を用いずに、コンクリート柱10の仕口部に5本のコンクリート梁30を接合する場合、複数のコンクリート梁30の上端梁主筋32及び下端梁主筋34のレベル調整が複雑化する。
【0074】
このようにコンクリート柱10に5本以上のコンクリート梁30を接合する場合に本実施形態は特に有効であり、コンクリート柱10の仕口部にコンクリートキャピタル20を介して5本のコンクリート梁30を接合することにより、複数のコンクリート梁30の上端梁主筋32及び下端梁主筋34のレベル調整を容易にし、又はレベル調整を不要にすることができる。
【0075】
また、
図3に示されるように、コンクリートキャピタル20の厚みTは、複数のコンクリート梁30の梁成Hよりも厚い(T>H)。これにより、コンクリートキャピタル20の上端キャピタル主筋22の下に複数のコンクリート梁30の上端梁主筋32を容易に配置することができる。
【0076】
さらに、コンクリートキャピタル20の上部は、コンクリート梁30の上面30Uよりも上方へ突出している。
【0077】
ここで、コンクリートキャピタル20の下部をコンクリート梁30の下面30Lよりも下方へ突出させた場合、天井材等によってコンクリートキャピタル20の下部を下側から覆い隠さないと、意匠性が低下する可能性がある。
【0078】
これに対して本実施形態では、前述したように、コンクリートキャピタル20の上部をコンクリート梁30の上面30Uよりも上方へ突出させることにより、コンクリート梁30の下面30Lから下方へ突出するコンクリートキャピタル20の突出量を低減し、若しくはコンクリートキャピタル20の下面20Lとコンクリート梁30の下面30Lとを面一にすることができる。したがって、天井材等によってコンクリートキャピタル20を下側から覆い隠さずに、コンクリートキャピタル20の意匠性を高めることができる。
【0079】
また、コンクリート梁30の上面30Uよりも上方へ突出するコンクリートキャピタル20の上部は、例えば、OAフロア等に床材によって上側から容易に覆い隠すことができる。したがって、コンクリートキャピタル20の意匠性を確保することができる。
【0080】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0081】
上記実施形態では、コンクリートキャピタル20に上端キャピタル主筋22及び下端キャピタル主筋24が埋設されている。しかし、コンクリートキャピタル20には、少なくとも上端キャピタル主筋22を埋設することができる。この場合、上端キャピタル主筋22の下には、少なくとも上端梁主筋32が配置されていれば良い。
【0082】
また、上記実施形態では、コンクリートキャピタル20の上端キャピタル主筋22が、横筋22A及び一対の縦筋22Bを有している。しかし、一対の縦筋22Bは、適宜省略可能である。つまり、上端キャピタル主筋は、平面視にて、格子状に配置された直線状の複数の鉄筋とされても良い。
【0083】
また、上記実施形態では、コンクリートキャピタル20の下端キャピタル主筋24が、直線状に鉄筋とされている。しかし、下端キャピタル主筋は、コンクリートキャピタル20の側面視にて、上方が開口したC字形状(U字形状)に屈曲させても良い。
【0084】
また、上記実施形態では、コンクリートキャピタル20の下面20Lと複数のコンクリート梁30の下面30Lとが面一とされている。しかし、コンクリートキャピタル20の下面20Lと複数のコンクリート梁30の下面30Lとの間には、段差が形成されても良い。
【0085】
また、上記実施形態では、コンクリートキャピタル20の上部が、複数のコンクリート梁30の上面30Uよりも上方へ突出している。しかし、コンクリートキャピタル20の下部を、複数のコンクリート梁30の下面30Lよりも下方へ突出させても良い。
【0086】
また、上記実施形態では、コンクリートキャピタル20の厚みTが、複数のコンクリート梁30の梁成Hよりも厚くされている。しかし、コンクリートキャピタル20の厚みTは、複数のコンクリート梁30の梁成Hと同じであっても良い。つまり、コンクリートキャピタル20の厚みTは、複数のコンクリート梁30の梁成H以上に設定することができる。
【0087】
また、上記実施形態では、5本のコンクリート梁30が、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置されている。しかし、5本のコンクリート梁30のうち、少なくとも2本のコンクリート梁30が、平面視にて互いに直交せず、かつ、平行しないように配置されていれば良い。
【0088】
また、上記実施形態では、コンクリート柱10に5本のコンクリート梁30が接合されている。しかし、コンクリート柱10には、少なくとも2本のコンクリート梁30を接合することができる。なお、コンクリートキャピタル20の形状は、コンクリート柱10に接合されるコンクリート梁30の本数に応じて適宜変更可能である。
【0089】
また、上記実施形態では、コンクリート柱10が現場打ちとされている。しかし、コンクリート柱10は、プレキャストコンクリート(プレキャストコンクリート柱)によって形成されても良い。
【0090】
また、柱状部材は、コンクリート柱10に限らず、鉄骨柱やCFT柱等の柱であっても良い。さらに、柱状部材は、柱に限らず、コンクリート杭や鋼製杭等の杭であっても良い。
【0091】
なお、上記実施形態におけるコンクリートキャピタルとは、柱状部材から張り出し、コンクリート梁が接合されるコンクリート部材を意味し、例えば、柱状部材としての柱の柱脚部や、柱状部材としての杭の杭頭部から張り出すフーチング等も含む概念である。
【0092】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0093】
10 コンクリート柱(柱状部材)
20 コンクリートキャピタル
22 上端キャピタル主筋(キャピタル主筋)
30 コンクリート梁
30A コンクリート梁
30B コンクリート梁
30C コンクリート梁
30D コンクリート梁
30E コンクリート梁
32 上端梁主筋(梁主筋)
T コンクリートキャピタルの厚み
H コンクリート梁の梁成