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特許7456898速硬コンクリートおよび速硬コンクリートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】速硬コンクリートおよび速硬コンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240319BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240319BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240319BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20240319BHJP
   B28C 7/04 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/26 E
C04B22/08 B
C04B22/08 Z
C04B22/14 A
B28C7/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020152051
(22)【出願日】2020-09-10
(65)【公開番号】P2022046142
(43)【公開日】2022-03-23
【審査請求日】2023-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】金掘 雄伍
(72)【発明者】
【氏名】長塩 靖祐
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-203921(JP,A)
【文献】特開2000-219554(JP,A)
【文献】特開2017-178739(JP,A)
【文献】特開2018-172236(JP,A)
【文献】特開2005-054093(JP,A)
【文献】国際公開第2006/059723(WO,A1)
【文献】特開2019-064877(JP,A)
【文献】特開2005-154239(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109535340(CN,A)
【文献】特開2021-102535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
B28C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、速硬性混和材と、21μm以下の粒子含有率が5~30体積%であり、且つ181μm以上の粒子含有率が10~40体積%である粉体状ポリカルボン酸系減水剤とを含む速硬コンクリート。
【請求項2】
前記速硬性混和材は、硝酸塩、亜硝酸塩、アルミン酸塩、硫酸アルミニウム及びカルシウムアルミネート類から選ばれる一種もしくは二種以上を主成分とすることを特徴とする請求項1に記載の速硬コンクリート。
【請求項3】
少なくとも速硬性混和材を含む速硬コンクリートを製造した後、21μm以下の粒子含有率が5~30体積%であり、且つ181μm以上の粒子含有率が10~40体積%である粉体状ポリカルボン酸系減水剤を添加することを特徴とする速硬コンクリートの製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速硬コンクリートおよび速硬コンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にモルタルやコンクリートのセメント組成物は、道路における緊急工事や一般工事の工期短縮を目的とする場合に於いて、早期強度発現性を有することが必要とされる。また、コンクリート製品についても硬化促進効果を付与したコンクリートであれば早期脱型が可能となり製造量が増加することから最終的にコスト減に繋がる。
モルタルやコンクリートの硬化を早期に促進する材料としては、各種の急硬性材料が知られており、例えば特許文献1では、長い可使時間の確保が可能で、かつ高い短時間強度発現性を付与できる急硬性材料及び該急硬性材料を含むセメント組成物が開示されている。
一方、粉体状減水剤における減水剤の比率を高め、減水性、流動保持性に優れた粉体状減水剤の製造方法について開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-60154号公報
【文献】特開2014ー141354号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
速硬コンクリートは、ベースとなるコンクリート内のセメント100質量部に対して、配合の外割で5~100質量部の速硬性混和材を添加することで作製する。その為、速硬コンクリートの結合材量は一般的なコンクリートよりも多くなり、流動性は小さくなる傾向にある。混練後の速硬コンクリートの流動性が小さい場合、(1)液体状減水剤の後添加、(2)粉体状減水剤の後添加による対処方法が考えられる。しかし、(1)の場合には流動性の改善は期待できるが、単位水量が増加することにより、強度発現の遅延、強度低下などの問題があった。(2)による方法は従来使用されていた粉体状減水剤は溶解性が不十分で、適当な流動性(スランプ:15.0~22.0cm程度)を得る為には多量の添加が必要であるとともに、一定の添加量以上では効果が頭打ちとなり十分な改善効果が得られなかった。
従って、本発明が解決しようとする課題は、後添加でも溶解性が良好な粉体状減水剤を用いた適当な流動性を有する速硬コンクリートを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔3〕を提供するものである。
〔1〕少なくとも、速硬性混和材と、21μm以下の粒子含有率が5~30体積%であり、且つ181μm以上の粒子含有率が10~40体積%である粉体状ポリカルボン酸系減水剤とを含む速硬コンクリート。
〔2〕前記速硬性混和材は、硝酸塩、亜硝酸塩、アルミン酸塩、硫酸アルミニウム及びカルシウムアルミネート類から選ばれる一種もしくは二種以上を主成分とする〔1〕の速硬コンクリート。
〔3〕少なくとも速硬性混和材を含む速硬コンクリートを製造した後、21μm以下の粒子含有率が5~30体積%であり、且つ181μm以上の粒子含有率が10~40体積%である粉体状ポリカルボン酸系減水剤を添加することを特徴とする速硬コンクリートの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の粉体状ポリカルボン酸系減水剤を用いることで、混練後の速硬コンクリートの流動性が小さい場合においても、良好な流動性を確保することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明で用いられるセメントとしては、工業的に製造されるポルトランドセメントが使用できる。例えば、普通、早強、超早強、低熱及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。また、前記ポルトランドセメントに、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカフューム又は石灰石微粉末等が混合された各種の混合セメントが挙げられる。これらセメントの一種であっても、二種以上のものであっても良い。配合量は、300~500kg/mが好ましい。
【0008】
本発明で用いられる速硬性混和材は、セメントに添加することによって早期に硬化を促進する材料を指す。いわゆるセメント・コンクリート用の硬化促進剤と呼ばれるものであり、具体的には、硝酸塩、亜硝酸塩、アルミン酸塩、硫酸アルミニウム及びカルシウムアルミネート類から選ばれる一種もしくは二種以上を主成分とすることが好ましい。特に短時間強度発現性の観点からは、カルシウムアルミネート類を主成分として含む速硬性混和材が好ましい。ここでカルシウムアルミネート類とは、CaO、Alを主成分として構成される化合物をいい、具体的には、3CaO・Al、12CaO・7Al、CaO・Al、CaO・2Al等のカルシウムアルミネート、ならびに、CaO、Al以外の成分として、Fe成分を含むカルシウムフェロアルミネート、あるいはSO成分を含むカルシウムサルホアルミネート、あるいはハロゲン成分を含むカルシウムハロアルミネート、あるいはSiO成分を含むカルシウムアルミノシリケート等が挙げられる。これらは、結晶質、非晶質いずれであってもよい。速硬性混和材の添加量としてはセメント100質量部に対して5~100質量部が好ましく、10~70質量部がより好ましく、15~50質量部がさらに好ましい。
【0009】
本発明において用いられる粉体状減水剤は、ポリカルボン酸系減水剤である。具体的には、側鎖の立体反発により分散を安定にし、少ない添加量でも優れた減水性、流動保持性を得られるものが好ましく、例えば、ポリカルボン酸エーテル系の複合体、ポリカルボン酸エーテル系と架橋ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と配向ポリマーの複合体、ポリカルボン酸エーテル系と高変性ポリマーの複合体、ポリエーテルカルボン酸系高分子化合物、マレイン酸共重合物、マレイン酸エステル共重合物、マレイン酸誘導体共重合物、カルボキシル基含有ポリエーテル系、末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリマー、ポリカルボン酸系グラフトコポリマー、ポリカルボン酸系化合物、ポリカルボン酸と変性リグニン、ポリカルボン酸エーテル系ポリマーなどいずれのものでも構わない。
【0010】
本発明の粉体状ポリカルボン酸系減水剤は、21μm以下の粒子を5~30体積%、181μm以上の粒子を10~40体積%含有するものである。21μm以下の粒子は溶解性が高く初期(練混ぜ直後)における流動性に対して寄与する。5体積%未満では初期における流動性が低下し、30体積%以上ではその効果は頭打ちとなる。一方、181μm以上の粒子は流動性の保持効果が高く、長期(練混ぜ60分後)における流動性に対して寄与する。10体積%未満では長期における流動性が低下し、40体積%を超えると材齢6時間における圧縮強度が低下する。
従って、粉体状ポリカルボン酸系減水剤の粒度を、21μm以下の粒子を5~30体積%、181μm以上の粒子を10~40体積%の範囲に調製することによって、初期および長期における流動性、ならびに強度発現性が良好な速硬コンクリートを得ることができる。なお、粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した値とする。例えば、Sympatec GmbH社製レーザー回折式粒度分布測定装置HELOS&RODOS等を用いることができる。
【0011】
粒度分布の調製方法は特に限定されず、例えば、粉体状減水剤を篩分け(分級)し、分級した粉体状減水剤を適当な粒度分布となるよう調整する方法が考えられる。また、減水剤の配合量は、結合材100質量部(セメントと速硬性混和材の合量)に対して、0.01~0.20質量部が好ましい。
【0012】
本発明で用いられる骨材としては、通常のコンクリートの製造に使用される細骨材及び粗骨材を何れも使用することができる。そのような細骨材及び粗骨材として、例えば川砂、海砂、山砂、砕砂、人工細骨材、スラグ細骨材、再生細骨材、珪砂、川砂利、陸砂利、砕石、人工粗骨材、スラグ粗骨材、再生粗骨材等が挙げられる。骨材の配合量は、1300~2200kg/mが好ましく、さらに1400~2000kg/mが好ましい。
【0013】
本発明で用いられる水は、特に限定されるものではなく、水道水などを使用することができる。水の配合量(単位水量)は、150~180kg/mとすることが、材料分離抵抗性を高めることから好ましい。また、水の配合量は、セメント100質量部に対し、35~65質量部とすることが好ましい。
【0014】
本発明の速硬コンクリートには、十分な可使時間を確保する観点から、さらに凝結遅延剤を添加することが好ましい。具体的には、例えばクエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸などの有機酸、又はその塩、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩等の無機塩、糖類などが挙げられる。凝結遅延剤の添加量としては、結合材100質量部に対して、0.05~2.0質量部であることが好ましい。
【0015】
本発明の速硬コンクリートには、前記成分の他にも、必要に応じて、本発明の特長が損なわない程度において、さらに各種混和剤(材)を添加することを妨げない。例えば、増粘剤、収縮低減剤、膨張材、セメント用ポリマー、防水材、防錆剤、凍結防止剤、保水剤、顔料、白華防止剤、発泡剤、消泡剤、撥水剤、繊維等が挙げられる。
【実施例
【0016】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0017】
<粉体状カルボン酸系減水剤の作製>
粒度調製を行い、粒度分布の異なる9種類(A1~A5、B1~B4)の粉体状ポリカルボン酸系減水剤を得た。表1に示す。粒度分布は、Sympatec GmbH社製レーザー回折式粒度分布測定装置HELOS&RODOSを用いて測定した。
【0018】
【表1】
【0019】
<速硬コンクリートの製造>
粒度調製した粉体状ポリカルボン酸系減水剤を用いた速硬コンクリートを製造して評価した。速硬コンクリートの製造に使用した材料を表2に示す。また、コンクリート配合を表3に示す。なお、AE減水剤(Ad)はセメント100質量部に対して1.0質量部を添加し、速硬性混和材(F)は結合材(記号B;B=C+F)100質量部に対して30質量部、凝結遅延剤(R)は結合材100質量部に対して1.0質量部を添加した。
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
表3に示した配合の速硬コンクリートを強制2軸式コンクリートミキサで混練し製造した。具体的には、凝結遅延剤(R)およびAE減水剤(Ad)を水(W)に溶解し、その溶解液と粗骨材(G)、細骨材(S)、セメント(C)、速硬性混和材(F)をミキサ内に投入し、180秒間混練することでスランプ5.0cmの速硬コンクリートを製造した。次に、その速硬コンクリートに対して、粉体状ポリカルボン酸系減水剤(A1~A4、B1~B5)を所定量添加し、更に120秒間混練した。なお、速硬コンクリートの製造は環境温度20℃にて実施した。
【0023】
<品質評価試験>
製造した速硬コンクリートの性能は下記に示す試験を行い評価した。なお、試験の環境温度は20℃とした。
(1)スランプ試験
JIS A 1101「コンクリートのスランプ試験方法」に準拠し、混練直後のスランプ(SL1)および混練60分後におけるスランプ(SL2)を測定した。初期流動性については混練直後のスランプ(SL1)で、長期流動性についてはスランプ比(SL2/SL1)を用いて評価した。なお、高流動のコンクリートについては、スランプに替えてスランプフローで評価した。スランプフローの測定は、JIS A 1105「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準拠し測定した。スランプフローを測定した場合は、スランプフローの比をもってスランプ比とした。
(2)圧縮強度試験
JIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準拠し、材齢6時間及び材齢24時間(アンボンドキャッピング)における圧縮強度を測定した。
【0024】
<試験結果>
試験結果を表4に示す。21μm以下の粒子を5~30体積%、181μm以上の粒子を10~40体積%含有する水準(A1~A5)においては、結合材の0.20質量%以下添加することで、初期流動性(練混ぜ直後のスランプ)、長期流動性(練混ぜ60分後のスランプ)、圧縮強度、いずれも良好な傾向が確認された。また、添加率の増加に比例して流動性の増大を確認でき、スランプフロー75.0cm程度まで流動性を調整可能であった。一方、21μm以下の粒度が少ない水準(B1)では、所定の初期流動性を得る為に多大な添加率が必要であり、一定の添加量以上では効果が頭打ちとなった。21μm以下の粒度が多い水準(B2)また、181μm以上の粒度が少ない水準(B3)では、長期における流動性のロスが大きくなった。181μm以上の粒度が多い水準(B4)では、材齢6時間における圧縮強度が小さくなる傾向が確認された。
【0025】
【表4】