(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】無線操縦飛行機、演算処理装置
(51)【国際特許分類】
A63H 30/04 20060101AFI20240319BHJP
A63H 30/00 20060101ALI20240319BHJP
B64C 13/20 20060101ALI20240319BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20240319BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A63H30/04 A
A63H30/00 A
B64C13/20 Z
B64C39/02
G05B11/36 G
(21)【出願番号】P 2020173974
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】田中 昌廣
【審査官】柳 重幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-276724(JP,A)
【文献】特開2020-83104(JP,A)
【文献】国際公開第2014/068982(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00752634(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 30/00,30/04
B64C 13/20、39/02
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線送信されてくる操作信号として、第1アクチュエータに対する第1操作信号と、第2アクチュエータに対する第2操作信号と、第3アクチュエータに対する第3操作信号を受信する受信部と、
PID制御により前記第1アクチュエータに対する動作信号を生成することができる第1アクチュエータ制御部を備え、
前記第1アクチュエータ制御部は
、前記PID制御の積分制御量をフィルタリングするハイパスフィルタを有し、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数が、前記第2操作信号又は前記第3操作信号の操作値に応じたダンピングレートで可変設定されることで、前記第2操作信号又は前記第3操作信号の操作値に応じて前記PID制御における
積分制御量を低減させる構成とされている
無線操縦飛行機。
【請求項2】
無線送信されてくる操作信号として、第1アクチュエータに対する第1操作信号と、第2アクチュエータに対する第2操作信号と、第3アクチュエータに対する第3操作信号を受信する受信部と、
PID制御により前記第1アクチュエータに対する動作信号を生成することができる第1アクチュエータ制御部を備え、
前記第1アクチュエータ制御部は、前記第2操作信号又は前記第3操作信号
を検知した場合に前記PID制御から積分要素を用いない制御に切り替える構成とされている
無線操縦飛行機。
【請求項3】
前記第1アクチュエータはラダーのサーボモータであり、
前記第2アクチュエータはエルロンのサーボモータ、前記第3アクチュエータはエレベータのサーボモータである
請求項1又は請求項2に記載の無線操縦飛行機。
【請求項4】
前記第1アクチュエータはエレベータのサーボモータであり、
前記第2アクチュエータはエルロンのサーボモータである
請求項1又は請求項2に記載の無線操縦飛行機。
【請求項5】
無線送信されてくる操作信号として、第1アクチュエータに対する第1操作信号と、第2アクチュエータに対する第2操作信号と、第3アクチュエータに対する第3操作信号を受信する無線操縦飛行機に用いられる演算処理装置であって、
PID制御により前記第1アクチュエータに対する動作信号を生成することができる第1アクチュエータ制御部を備え、
前記第1アクチュエータ制御部は
、前記PID制御の積分制御量をフィルタリングするハイパスフィルタを有し、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数が、前記第2操作信号又は前記第3操作信号の操作値に応じたダンピングレートで可変設定されることで、前記第2操作信号又は前記第3操作信号の操作値に応じて前記PID制御における
積分制御量を低減させる構成とされている
演算処理装置。
【請求項6】
無線送信されてくる操作信号として、第1アクチュエータに対する第1操作信号と、第2アクチュエータに対する第2操作信号と、第3アクチュエータに対する第3操作信号を受信する無線操縦飛行機に用いられる演算処理装置であって、
PID制御により前記第1アクチュエータに対する動作信号を生成することができる第1アクチュエータ制御部を備え、
前記第1アクチュエータ制御部は、前記第2操作信号又は前記第3操作信号
を検知した場合に前記PID制御から積分要素を用いない制御に切り替える構成とされている
演算処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信により操縦される無線操縦飛行機及び無線操縦飛行機に用いられる演算処理装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば操縦機器の操作に基づく無線通信により飛行する無線操縦飛行機が知られている。下記特許文献1には、無線通信によって操縦を行う無線操縦飛行機であって、エルロン、ラダー、エレベータを駆動して機体の姿勢や飛行方向を制御するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
無線操縦飛行機において、飛行中の機体の安定性を保つために、例えば角速度検出部(ジャイロ)を搭載して、ヨー軸、ピッチ軸、ロール軸のそれぞれの軸回りの回転を検出し、それに応じてエルロン、ラダー、エレベータを駆動するものがある。
この場合にPID(Proportional-Integral-Differential)制御、即ちP(比例要素)、I(積分要素)、D(微分要素)を含む制御を行うことで、機体の姿勢保持力を強化できる。
【0005】
ところがPID制御を行うことで飛行動作が不自然になり、操縦が難しくなることがある。例えばラダーについてPID制御を行うと、直進飛行時のいわゆる風見鶏効果を打ち消すために旋回後の直進飛行の進路調整が難しくなったり、操縦者が意図しないコースをたどったりする。
このような事象を考慮し、本発明はPID制御による姿勢保持力は維持しつつ、不自然な動作が生じないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る無線操縦飛行機は、無線送信されてくる操作信号として、第1アクチュエータに対する第1操作信号と、第2アクチュエータに対する第2操作信号と、第3アクチュエータに対する第3操作信号を受信する受信部と、PID制御により前記第1アクチュエータに対する動作信号を生成することができる第1アクチュエータ制御部を備え、前記第1アクチュエータ制御部は、前記PID制御の積分制御量をフィルタリングするハイパスフィルタを有し、前記ハイパスフィルタのカットオフ周波数が、前記第2操作信号又は前記第3操作信号の操作値に応じたダンピングレートで可変設定されることで、前記第2操作信号又は前記第3操作信号の操作値に応じて前記PID制御における積分制御量を低減させる構成とされている。
本発明に係る演算処理装置は、少なくとも上記の第1アクチュエータ制御部を備えるものである。
例えばラダー、エルロン、エレベータについての各アクチュエータを有する無線操縦飛行機などにおいてPID制御を行うことを考える。この場合に、或るアクチュエータ(第2アクチュエータ又は第3アクチュエータ)に対する操作信号を受信したときに、他のアクチュエータ(第1アクチュエータ)に対するPID制御の積分要素(I項による制御量)を低減させる。
【0007】
また本発明に係る無線操縦飛行機は、同様に前記受信部と、前記第1アクチュエータ制御部を備える構成において、前記第1アクチュエータ制御部は、前記第2操作信号又は前記第3操作信号を検知した場合に前記PID制御から積分要素を用いない制御に切り替える構成とされるものでもよい。
本発明に係る演算処理装置としても、このような第1アクチュエータ制御部を備えるものでもよい。
例えば或るアクチュエータ(第2又は第3アクチュエータ)に対する操作信号を受信したときに、他のアクチュエータ(第1アクチュエータ)に対するPID制御を停止させ、P制御又はPD制御とする。
【0008】
これらの構成において、前記第1アクチュエータはラダーのサーボモータであり、前記第2アクチュエータはエルロンのサーボモータ、前記第3アクチュエータはエレベータのサーボモータであることが考えられる。
例えば旋回時は、エルロン、エレベータを操作するが、その際にラダーに関して積分要素を低減又はカットする。
【0009】
またこれらの構成において、前記第1アクチュエータは、エレベータのサーボモータであり、前記第2アクチュエータは、エルロンのサーボモータであることが考えられる。
例えば着陸時におけるエルロン操作の際にエレベータに関して積分要素を低減又はカットする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の無線操縦飛行機又は演算処理装置によれば、第1アクチュエータについてPID制御が行われているときに、第2又は第3アクチュエータに対する操作が行われた場合に、第1アクチュエータについてPID制御の積分要素が低減されるか、カットされる。これにより一時的に強固な姿勢制御を弱め、旋回等の動作における不自然さを解消でき、また操縦を容易化できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態の飛行操縦システムの説明図である。
【
図2】実施の形態の無線操縦飛行機の構成のブロック図である。
【
図3】第1の実施の形態のラダー制御部の構成のブロック図である。
【
図4】第1の実施の形態のエレベータ制御部の構成のブロック図である。
【
図5】第2の実施の形態のラダー制御部の構成のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を次の順序で説明する。
<1.飛行操縦システムの概要>
<2.無線操縦飛行機の構成>
<3.第1の実施の形態>
<4.第2の実施の形態>
<5.まとめ及び変形例>
【0013】
なお、説明にあたり参照する図面に記載された各構成は、本発明に係る要部の構成のみを抽出したものである。図面は模式的なものに過ぎず、各構造の厚みと平面寸法の関係、比率等は一例に過ぎない。また図面に記載された構成は、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲であれば設計などに応じて種々な変更が可能である。
また、一度説明した構成、処理は、それ以降同一の符号を付して説明を省略することがある。さらに、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0014】
<1.飛行操縦システムの概要>
本実施の形態における飛行操縦システム100の概要について
図1を参照して説明する。飛行操縦システム100は、例えば無線操縦飛行機1と操縦機器2から構成される。以下の説明では、無線操縦飛行機1の機体を前後に貫く軸をロール軸とする。また機体を上下に貫く軸をヨー軸とする。さらに機体を左右に貫く軸をピッチ軸とする。
【0015】
無線操縦飛行機1は、操縦機器2と無線通信可能とされ、操縦機器2に対する操縦者の入力操作に応じて各種動作を行う。無線操縦飛行機1は、例えば主翼3、水平尾翼4、及び垂直尾翼5が設けられている。
主翼3には、例えば機体をロール軸回りに回転させるために動作するエルロン6が設けられている。また水平尾翼4には、例えば機体をピッチ軸回りに回転させるために動作するエレベータ7が設けられている。さらに垂直尾翼5には、例えば機体をヨー軸回りに回転させるために動作するラダー8が設けられている。エルロン6、エレベータ7、及びラダー8を動作させることで、無線操縦飛行機1の飛行姿勢を変化させることができる。
【0016】
<2.無線操縦飛行機の構成>
無線操縦飛行機1の構成について
図2を参照して説明する。
無線操縦飛行機1は、受信部10、エルロン・サーボモータ20、エレベータ・サーボモータ21、ラダー・サーボモータ22、及び演算処理装置50を有している。
【0017】
受信部10は、操縦機器2から受信した操縦者の操作に基づく各サーボモータの動作量に関する操作信号や制御モードに関する操作信号等の変調信号を受信し、復調した操作信号を演算処理装置50に供給する。
【0018】
エルロン・サーボモータ20は、例えば無線操縦飛行機1をロール軸回りに回転させるために、演算処理装置50からの駆動制御信号に基づき
図1に示すエルロン6を動作させる。
エレベータ・サーボモータ21は、例えば無線操縦飛行機1をピッチ軸回りに回転させるために、演算処理装置50からの駆動制御信号に基づきエレベータ7を動作させる。
ラダー・サーボモータ22は、例えば無線操縦飛行機1をヨー軸回りに回転させるために演算処理装置50からの駆動制御信号に基づきラダー8を動作させる。
【0019】
演算処理装置50は、受信処理部51、角速度検出部52、及び演算部53を有している。
受信処理部51は、受信部10から供給された操作信号をデコードし、認識した各種操作信号内容の情報を演算部53に出力する。
【0020】
角速度検出部52は、例えばロール軸回りの回転の角速度(ロール軸角速度JR)を検出するロール軸角速度センサ、ピッチ軸回りの回転の角速度(ピッチ軸角速度JP)を検出するピッチ軸角速度センサ、及びヨー軸回りの回転の角速度(ヨー軸角速度JY)を検出するヨー軸角速度センサを有している。具体的には角速度検出部52は、いわゆる3軸ジャイロセンサにより構成することができる。
角速度検出部52は、各角速度センサにより検出したロール軸角速度JR、ピッチ軸角速度JP、及びヨー軸角速度JYを演算部53に出力する。
【0021】
演算部53は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータなどで構成され、モード制御部54、エルロン制御部56、エレベータ制御部57、ラダー制御部58としての演算機能を有する。
【0022】
モード制御部54は、例えばノーマル制御モードとPID制御モードの切替制御を行う。この例では、ノーマル制御モードは、例えばP(比例要素)及びD(微分要素)を用いた制御とする。或いは、ノーマル制御モードは、例えばP(比例要素)のみを用いた制御としてもよい。即ち本実施の形態の場合、ノーマル制御モードは、I(積分要素)を用いない制御であるとする。
一方、PID制御モードは、P(比例要素)、I(積分要素)、D(微分要素)を含む制御を行うモードである。
ノーマル制御モードとPID制御モードは、ユーザが操縦機器2を用いたモード操作により切り替えることができる。
モード制御部54はユーザのモード操作信号に応じてモード制御信号modをエルロン制御部56、エレベータ制御部57、ラダー制御部58に出力する。
【0023】
エルロン制御部56は、操縦者のエルロン操作量やロール軸角速度JRに応じてPID制御モード又はノーマル制御モードでエルロン動作信号Dailを生成し、エルロン・サーボモータ20に供給してエルロン6を動作させる。
エレベータ制御部57は、操縦者のエレベータ操作量やピッチ軸角速度JPに応じてPID制御モード又はノーマル制御モードでエレベータ動作信号Deleを生成し、エレベータ・サーボモータ21に供給してエレベータ7を動作させる。
ラダー制御部58は、操縦者のラダー操作量やヨー軸角速度JYに応じてPID制御モード又はノーマル制御モードでラダー動作信号Drudを生成し、ラダー・サーボモータ22に供給してラダー8を動作させる。
【0024】
<3.第1の実施の形態>
第1の実施の形態として、第1アクチュエータの制御を行う第1アクチュエータ制御部が、第2,第3アクチュエータ制御部に対する操作信号に応じて、PID制御の積分要素を低減させる構成を説明する。
【0025】
図3は第1アクチュエータ制御部の例としてのラダー制御部58を示している。つまりラダー・サーボモータ22を第1アクチュエータと考えた場合である。
ラダー制御部58は、角速度指令値生成部31、偏差演算部32、P制御演算部33、D制御演算部34、I制御演算部35、HPF(ハイパスフィルタ)36,37、合成部38、ラダー動作信号生成部39R、ダンピングレート生成部40R、モードスイッチ41を有する。
【0026】
操縦機器2から送信され、受信部10で復調され、受信処理部51でデコードされたラダー操作信号Srudは角速度指令値生成部31に入力される。操縦機器2では、例えばポテンショメータによるラダー操作レバー等の操作量をエンコードし、変調して無線送信するものとされる。従って復調・デコードされて入力されるラダー操作信号Srudは、ラダー操作の操作量を表す情報となっている。この情報を角速度指令値生成部31において角速度情報Jrudに変換する。
【0027】
この角速度情報Jrudと、角速度検出部52からのヨー軸角速度JYは偏差演算部32に供給される。偏差演算部32では角速度情報Jrudとヨー軸角速度JYの偏差Rerrが求められる。
【0028】
ユーザがPID制御モードを選択する操作を行った場合、モード制御部54からのモード制御信号modによりモードスイッチ41がオンとされている。これにより、偏差演算部32で求められた偏差Rerrは、P制御演算部33、D制御演算部34、I制御演算部35のそれぞれに供給される。
【0029】
P制御演算部33は、例えば偏差Rerrに所定の比例ゲインPgainを乗じることにより時点tの比例制御量Ptを得る。即ちPt=Rerr・Pgainとされる。
【0030】
D制御演算部34は、例えば偏差Rerrを微分して得られる微分値に所定の微分ゲインDgainを乗じることにより時点tの微分制御量Dtを得る。但し、得られた微分制御量Dtは、HPF36において所定のカットオフ周波数でフィルタリングされることでダンピングされる。微分要素による応答を過大にしないためである。
【0031】
I制御演算部35は、例えば偏差Rerrを積分して得られる積分値に所定の積分ゲインIgainを乗じることにより時点tの積分制御量Itを得る。但し、得られた積分制御量Itは、HPF37において、ダンピングレート生成部40Rにより設定されたダンピングレートDPRに応じたHPF係数(カットオフ周波数)でフィルタリングされることでダンピングされる。
従ってIt=Rerr・Igain+ΣIt-1・Idampとされる。
但し「It-1」は1サンプル前のI制御量、「Idamp」はダンピングレートDPRに応じて可変設定されるHPF37のフィルタ係数である。
HPF37は、I制御によりオフセットが無限時間残るため、これをリセットするために設けられている。
【0032】
このように或る時点tにおいて得られる比例要素(比例制御量Pt)、微分要素(微分制御量Dt)、積分要素(積分制御量It)は、合成部38で合成され、合成制御量がラダー動作信号生成部39Rに供給される。
ラダー動作信号生成部39Rは、合成制御量に応じたラダー動作信号Drudを生成し、ラダー・サーボモータ22に出力する。
【0033】
ユーザがノーマル制御モードを指示した場合、モード制御信号modにより、モードスイッチ41がオフとされる。これにより、偏差演算部32で求められた偏差Rerrは、I制御演算部35には供給されず、P制御演算部33、D制御演算部34のそれぞれに供給される。
この場合、比例要素(比例制御量Pt)と微分要素(微分制御量Dt)が合成部38で合成され、ラダー動作信号生成部39Rは、合成制御量に応じたラダー動作信号Drudを生成し、ラダー・サーボモータ22に出力する。
【0034】
なお、ノーマル制御モードでは比例要素(比例制御量Pt)のみに基づいてラダー動作信号Drudが生成されるものとしてもよい。
【0035】
このようなラダー制御部58で、PID制御モードにおいてHPF37により積分制御量Itがダンピングされることについて説明する。
ダンピングレート生成部40Rには、ラダー操作信号Srudが入力され、ラダー操作量に応じてダンピングレートを設定することで、上述のようにオフセット分をリセットしていくが、さらにダンピングレート生成部40Rには、エルロン操作信号Sail、エレベータ操作信号Seleも入力される。
【0036】
例えばダンピングレート生成部40Rは、ラダー操作信号Srudに対応するダンピングレートDPR(Srud)に、エルロン操作信号Sailに対応するダンピングレートDPR(Sail)、エレベータ操作信号Seleに対応するダンピングレートDPR(Sele)を乗算した値を、実際にHPF37に設定するダンピングレートDPRとする。
即ちHPF37に設定するダンピングレートDPRは、
DPR=DPR(Srud)・DPR(Sail)・DPR(Sele)
とする。
【0037】
これによりエレベータ操作量やエルロン操作量に応じてラダー制御における積分制御量Itのダンピング量が大きくなるようにする。
このようにすることで、PID制御モードで角速度検出部52によって検出されるヨー軸角速度JYに応じてラダー制御されているときに、旋回のためにエルロン操作やエレベータ操作が行われた場合に、積分要素の影響が、より迅速に低減されるようにする。
【0038】
具体的に、旋回時のユーザの操作は次のようになる。
(1)エルロン操作を行って目的角まで機体を傾ける。
(2)目的角になったら、エルロン操作をニュートラルに戻す。
(3)正面であればエレベータ操作としてアップ方向操作をし、背面であればエレベータ操作としてダウン方向操作をする。
(4)目的の進行方向に機体が向いたら、エレベータ操作をニュートラルに戻す。
(5)エルロン操作を行って、機体を水平状態に戻す。
【0039】
このような一連の操作の過程で、エルロン操作又はエレベータ操作が行われた際に、ダンピングレートDPRがその操作量に応じて高くなり、HPF37のカットオフ周波数が上げられる。例えばこれにより事実上、積分制御量Itが無効化され、一時的にPD制御が行われる状態(ノーマル制御モードと同様の状態)となる。これによりユーザが感じる操作感が、ノーマル制御モードのときの操作感に近づく。
【0040】
旋回のためにエルロン6、エレベータ7についての操作をしたときに、ラダー8がヨー軸角速度JYに基づいて制御されるが、PID制御を行っていると、ラダー8が積分制御量Itの影響で戻りにくい。するとエルロン操作とエレベータ操作による旋回が、ユーザの意図しない不自然な動きになる。
これを解消するには、上記の(1)から(5)の操作過程でラダー操作を行う必要がある。
これに対して
図3の構成の場合、エルロン操作とエレベータ操作により、積分制御量Itが低減され、結果としてラダー8は、ヨー軸角速度JYにより駆動されても比較的早く元の状態に戻る。これにより、旋回動作が安定することになる。
【0041】
PID制御を行っている状態で、操縦者がエルロン6、エレベータ7を操作して旋回させるときには、操縦者がラダー8を微妙且つ正確に操作することで、不自然な動作とならないようにすることはできるが、このラダー操作はベテランパイロットでも極めて難しいものである。
一方でエルロン6、エレベータ7を操作して旋回するときに、ラダー8の制御に関して積分要素が自動的に低減されることで、旋回時の不自然な動きがなくなる。これにより、操縦者が思っている方向やコースで旋回できないといった事象を解消できる。
従って、PID制御により安定した飛行を行いながら、旋回時には、その旋回の操作を困難にすることなく安定した旋回飛行を行うことができるようになる。
【0042】
次に、同じく第1の実施の形態として、第1アクチュエータの制御を行う第1アクチュエータ制御部が、第2,第3アクチュエータ制御部に対する操作信号に応じて、PID制御の積分要素を低減させる構成を、エレベータ制御部57の例で説明する。
【0043】
図4は第1アクチュエータ制御部の例としてのエレベータ制御部57を示している。つまりエレベータ・サーボモータ21を第1アクチュエータと考えた場合である。
エレベータ制御部57は、上述のラダー制御部58とほぼ同様の構成であり、異なる点は次のようになる。
【0044】
角速度指令値生成部31には、エレベータ操作信号Seleが入力され、これを角速度情報Jeleに変換する。
この角速度情報Jeleと、角速度検出部52からのピッチ軸角速度JPが偏差演算部32に供給される。偏差演算部32では角速度情報Jeleとヨー軸角速度JYの偏差Rerrが求められる。
【0045】
PID制御モードでは、モードスイッチ41がオンとされているため、偏差演算部32で求められた偏差Rerrは、P制御演算部33、D制御演算部34、I制御演算部35のそれぞれに供給される。
そして比例制御量Pt、微分制御量Dt、積分制御量Itが合成部38で合成され、エレベータ動作信号生成部39Eは、合成制御量に応じたエレベータ動作信号Deleを生成し、エレベータ・サーボモータ21に出力する。
【0046】
ノーマル制御モードでは、モードスイッチ41がオフとされ、偏差演算部32で求められた偏差Rerrは、P制御演算部33、D制御演算部34のそれぞれに供給される。
そして比例制御量Pt、微分制御量Dtが合成部38で合成され、エレベータ動作信号生成部39Eは、合成制御量に応じたエレベータ動作信号Deleを生成し、エレベータ・サーボモータ21に出力する。
【0047】
このようなエレベータ制御部57で、PID制御モードにおいてHPF37により積分制御量Itがダンピングされる。
ダンピングレート生成部40Eには、エレベータ操作信号Seleが入力され、エレベータ操作量に応じてダンピングレートを設定するが、さらにダンピングレート生成部40Eには、エルロン操作信号Sailも入力される。
そして例えばダンピングレート生成部40Eは、エレベータ操作信号Seleに対応するダンピングレートDPR(Sele)に、エルロン操作信号Sailに対応するダンピングレートDPR(Sail)を乗算した値を、実際にHPF37に設定するダンピングレートDPRとする。
即ちHPF37に設定するダンピングレートDPRは、
DPR=DPR(Sele)・DPR(Sail)
とする。
【0048】
これによりエルロン操作量に応じてエレベータ制御における積分制御量Itのダンピング量が大きくなるようにしている。
このようにすることで、例えば着陸時にエルロン操作量に応じてエレベータのPID制御における積分制御量Itを低下させることで、エレベータ7に積分要素に起因するオフセットが残らず、失速しにくくなるという効果を得ることができる。
【0049】
<4.第2の実施の形態>
第2の実施の形態として、第1アクチュエータの制御を行う第1アクチュエータ制御部が、第2,第3アクチュエータ制御部に対する操作信号に応じて、PID制御の積分要素をカットする構成説明する。
図5は第1アクチュエータ制御部の例としてのラダー制御部58を示している。
図5の構成は、
図3の例と次の点が異なる。
【0050】
ダンピングレート生成部40Rには、ラダー操作信号Srudが入力され、ラダー操作量に応じてダンピングレートDPRを設定する。
即ちHPF37に設定するダンピングレートDPRは、
DPR=DPR(Srud)となる。
【0051】
図5の場合、モードスイッチ41を制御するモード切替部42が設けられる。モード切替部42は、モード制御信号modに応じて、モードスイッチ41をオン/オフする。
またモード切替部42には、エルロン操作信号Sail、エレベータ操作信号Seleも入力される。そしてモード切替部42は、PID制御モードのときにエルロン操作信号Sail又はエレベータ操作信号Seleを検知した場合に、モードスイッチ41をオフとする制御を行う。
【0052】
従って、例えば旋回時などに上述の(1)から(5)の操作によりエルロン6やエレベータ7が駆動されているときには、一時的に積分制御量ItがカットされたPD制御の状態となる。
つまりPID制御モード中に、ラダー8に関して、エルロン操作やエレベータ操作に応じて一時的にノーマル制御モードとする。
これによっても、
図3の構成例と同様に、旋回中に不自然な動作を起こすことがないようにされる。
【0053】
なお、ノーマル制御モードをPD制御ではなくP制御とし、PID制御モード中に、ラダー8に関して、エルロン操作やエレベータ操作に応じて一時的にP制御が行われる状態としてもよい。
【0054】
また、
図5のモードスイッチ41は、I制御演算部35及びHPF37の入力側と出力側のスイッチを同時にオン/オフするものとしたが、例えばエルロン操作信号Sail又はエレベータ操作信号Seleを検知した場合の制御としては、例えばモードスイッチ41における出力側のスイッチのみをオフとする制御を行うようにしてもよい。つまり積分制御量の演算は継続させながら、一時的に積分要素を反映させないようにする例である。
【0055】
また
図4のようなエレベータ制御部57においても、
図5のような第2の実施の形態の構成を適用し、PID制御モード中に、エルロン操作に応じて、一時的にPD制御又はP制御が行われるようにすることもできる。
【0056】
<5.まとめ及び変形例>
以上説明したように、第1の実施の形態の無線操縦飛行機1は、無線送信されてくる操作信号として、第1アクチュエータに対する第1操作信号と、第2アクチュエータに対する第2操作信号と、第3アクチュエータに対する第3操作信号を受信する受信部10と、PID制御により第1アクチュエータに対する動作信号を生成することができる第1アクチュエータ制御部を備える。そして第1アクチュエータ制御部は、第2操作信号又は第3操作信号の操作値に応じてPID制御における積分要素を低減させる構成とされている。
PID制御を行うことで、飛行中の機体の安定性などが向上されるが、特定の動作において、不自然な動作になってしまうことがある。特定の動作のためのラダー8、エルロン6、エレベータ7についての各アクチュエータのいずれかの操作がおこなわれたとき(舵を打ったとき)に、舵が打たれていないアクチュエータのPID制御において積分要素を低減させることで、その時点の飛行動作において不自然な状態を解消できるようになる。
【0057】
図3の例では、第1アクチュエータはラダー・サーボモータ22であり、第2アクチュエータはエルロン・サーボモータ20、第3アクチュエータはエレベータ・サーボモータ21であるとした。
また
図4の例では、第1アクチュエータは、エレベータ・サーボモータ21であり、第2アクチュエータは、エルロン・サーボモータ20であるとした。
これらそれぞれの場合で、PID制御における積分要素の低減を行うことで、不自然な飛行動作を解消したり、着陸の安定性を上げたりすることができる。
なお、第1アクチュエータをエルロン・サーボモータ20とする例も考えられる。
【0058】
第2の実施の形態では、第1アクチュエータ制御部は、第2操作信号又は第3操作信号を検知した場合にPID制御から積分要素を用いない制御に切り替える構成とする例を述べた。
舵が打たれていないアクチュエータについて一時的にPID制御を行わないようにすること、つまり積分要素をカットすることでも、不自然な飛行動作を解消できるようになる。
【0059】
図5の例では、第1アクチュエータはラダー・サーボモータ22であり、第2アクチュエータはエルロン・サーボモータ20、第3アクチュエータはエレベータ・サーボモータ21であるとした。
これに限らず、第1アクチュエータは、エレベータ・サーボモータ21であり、第2アクチュエータは、エルロン・サーボモータ20である例も好適である。
さらに第1アクチュエータをエルロン・サーボモータ20とする例も考えられる。
【0060】
なお、以上の本実施の形態の効果は、ヘリコプタ等の回転翼を持つ飛行体よりも、固定翼のいわゆる模型飛行機において顕著に得られる。
【0061】
また実施の形態の演算処理装置50は、本発明請求項に挙げた演算処理装置の例となる。このような演算処理装置50を提供することで、機体の姿勢制御に優れた無線操縦飛行機の実現が容易化される。
【符号の説明】
【0062】
1 無線操縦飛行機
2 操縦機器
6 エルロン
7 エレベータ
8 ラダー
10 受信部
20 エルロン・サーボモータ
21 エレベータ・サーボモータ
22 ラダー・サーボモータ
31 角速度指令値生成部
32 偏差演算部
33 P制御演算部
34 D制御演算部
35 I制御演算部
36,37 HPF
38 合成部
39R ラダー動作信号生成部
39E エレベータ動作信号生成部
40R,40E ダンピングレート生成部
41 モードスイッチ
42 モード切替部
50 演算処理装置
56 エルロン制御部
57 エレベータ制御部
58 ラダー制御部