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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】ヨウ素捕集装置及び原子力構造物
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/02 20060101AFI20240319BHJP
   G21C 9/004 20060101ALI20240319BHJP
   G21D 1/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
G21F9/02 511T
G21C9/004
G21F9/02 511C
G21F9/02 511S
G21D1/00 Y
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020184811
(22)【出願日】2020-11-05
(65)【公開番号】P2022074625
(43)【公開日】2022-05-18
【審査請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 宗平
(72)【発明者】
【氏名】石田 一成
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】富永 和生
(72)【発明者】
【氏名】田中 基
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢彰
【審査官】小林 幹
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-513684(JP,A)
【文献】特開2020-094979(JP,A)
【文献】特開2020-042040(JP,A)
【文献】国際公開第2016/045980(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/121714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00 - 9/36
G21C 9/00 - 9/06
G21D 1/00 - 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力構造物本体における気体中の有機ヨウ素を捕集可能な第1捕集剤を備え、
前記第1捕集剤は、
有機ヨウ素からヨウ化物イオンを生成し、生成したヨウ化物イオンを捕集する生成捕集成分と、
前記生成捕集成分とは異なる成分であり、少なくとも100℃~130℃において有機ヨウ素からヨウ化物イオンを生成し、生成したヨウ化物イオンを前記生成捕集成分に捕集させる生成成分とを含み、
前記生成捕集成分は、第4級ホスホニウムをカチオンとして含むイオン液体である
ことを特徴とするヨウ素捕集装置。
【請求項2】
記生成成分は第1還元剤である
ことを特徴とする請求項1に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項3】
前記生成成分の酸化還元電位が、ヨウ素が還元される標準電極電位である0.54Vよりも低い
ことを特徴とする請求項1に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項4】
前記生成成分の含有量は、前記生成捕集成分に対して0.07質量%以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項5】
前記生成捕集成分は疎水性である
ことを特徴とする請求項4に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項6】
前記気体に更に含まれるエアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方の成分を捕集可能であるとともに、第2還元剤を含む水溶液である第2捕集剤を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項7】
前記第2捕集剤を含む液相のpHがアルカリ性である
ことを特徴とする請求項6に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項8】
原子力構造物本体における気体中の有機ヨウ素を捕集可能な第1捕集剤を備え、
前記第1捕集剤は、
有機ヨウ素からヨウ化物イオンを生成し、生成したヨウ化物イオンを捕集する生成捕集成分と、
前記生成捕集成分とは異なる成分であり、少なくとも100℃~130℃において有機ヨウ素からヨウ化物イオンを生成し、生成したヨウ化物イオンを前記生成捕集成分に捕集させる生成成分とを含み、
前記気体に更に含まれるエアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方の成分を捕集可能であるとともに、第2還元剤を含む水溶液である第2捕集剤を備え、
前記生成捕集成分は親水性である
ことを特徴とするヨウ素捕集装置。
【請求項9】
前記生成成分の含有量は、前記生成成分及び前記第2還元剤の合計に対して0.07質量%以上である
ことを特徴とする請求項8に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項10】
前記気体に更に含まれるエアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方の成分を捕集可能であるとともに第2還元剤を含む水溶液である第2捕集剤を収容し、前記第2捕集剤の内部に開口したベント配管を通じて原子力構造物本体と連通する第1容器と、
前記気体中の放射性物質を除去する放射性物質除去フィルタと、
を備えるフィルタベント装置であり、
前記第2捕集剤の上層には前記第1捕集剤が配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項11】
前記気体に更に含まれるエアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方の成分を捕集可能であるとともに第2還元剤を含む水溶液である第2捕集剤を収容し、前記第2捕集剤の内部に突出したベント配管を通じて原子力構造物本体と連通する第1容器と、
前記第1容器の気相と連通する配管が接続され、前記第1捕集剤を収容した第2容器と、
前記気体中の放射性物質を除去する放射性物質除去フィルタと、
を備えるフィルタベント装置である
ことを特徴とする請求項1に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項12】
前記気体に更に含まれるエアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方の成分を捕集可能であるとともに第2還元剤を含む水溶液である第2捕集剤を収容し、前記第2捕集剤の内部に突出したベント配管を通じて原子力構造物本体と連通する第1容器と、
前記気体中の放射性物質を除去する放射性物質除去フィルタと、
前記第1容器と配管により接続され、前記第1容器に供給する前記第1捕集剤を収容した第3容器と、
前記第1容器と前記第3容器とを接続する前記配管の流通制御機構と、
を備えるフィルタベント装置である
ことを特徴とする請求項1に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項13】
前記ベント配管の開口の上方に、前記第1捕集剤又は前記第2捕集剤の少なくとも一方に浸かるように、多孔部材又は整流部材のうちの少なくとも一方である部材を備える
ことを特徴とする請求項10~12の何れか1項に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項14】
前記第1捕集剤を収容した容器は、前記第1容器の外側に配置される
ことを特徴とする請求項11又は12に記載のヨウ素捕集装置。
【請求項15】
原子力構造物本体と、前記原子力構造物本体における気体中の有機ヨウ素を捕集するヨウ素捕集装置とを備え、
前記ヨウ素捕集装置は、前記有機ヨウ素を捕集可能な第1捕集剤を備え、
前記第1捕集剤は、
有機ヨウ素からヨウ化物イオンを生成し、生成したヨウ化物イオンを捕集する生成捕集成分と、
前記生成捕集成分とは異なる成分であり、少なくとも100℃~130℃において有機ヨウ素からヨウ化物イオンを生成し、生成したヨウ化物イオンを前記生成捕集成分に捕集させる生成成分とを含み、
前記生成捕集成分は、第4級ホスホニウムをカチオンとして含むイオン液体である
ことを特徴とする原子力構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヨウ素捕集装置及び原子力構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉施設等の原子力構造物には、原子炉等の原子力構造物本体から放出された放射性物質が環境中に漏洩するのを抑制するために、フィルタベント装置等のヨウ素捕集装置が設置されている。例えば原子炉の事故で炉心損傷に伴い、格納容器内の圧力が異常上昇したりすると、格納容器が破損して大規模漏洩に至るため、格納容器内の蒸気が未然にベントされ、格納容器の過圧破損が抑制される。高温高圧の蒸気は、原子炉から格納容器内に放出されると、ヨウ素捕集装置に通され、大気中に放出される前に主要な放射性物質が捕集される。
【0003】
原子炉の事故時に放出される放射性物質としては、希ガス、エアロゾル、無機ヨウ素、有機ヨウ素等がある。ヨウ素捕集装置にて、希ガスを除くこれらの放射性物質が捕捉され、環境への放出が抑制される。原子炉から放出される有機ヨウ素は、ヨウ化メチルをはじめとして水に難溶(即ち疎水性)であり、ベント時に圧力抑制室のプール水又はスクラビング水に導入されても、十分には捕集されない。また、有機ヨウ素は、原子炉からの排気過程で、元素状ヨウ素の反応によって新生することもある。これらの理由で、有機ヨウ素を効率的に捕集できるヨウ素捕集装置が求められている。
【0004】
特許文献1には、ヨウ素捕集装置の一例としてフィルタベント装置が記載されている。特許文献1には、原子炉格納容器に連結したベント配管と接続され、放射性物質を除去するためのフィルタベント装置であって、内部にスクラビング水および放射性物質除去用のフィルタを有するフィルタベント容器と、前記フィルタベント装置内に配置され、有機ヨウ素を捕集することが可能な不揮発性の液体と、を備え、前記不揮発性の液体は、イオン液体であることを特徴としたフィルタベント装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-42040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
事故時に原子力構造物本体で生じる気体の温度はさまざまである。本発明者が検討したところ、原子力構造物本体で生じる気体の温度範囲の中でも比較的低温の温度範囲(例えば100℃~130℃)にある気体中の有機ヨウ素について、特許文献1に記載の技術には捕集効率に向上の余地があることがわかった。
本開示が解決しようとする課題は、広範な温度範囲の有機ヨウ素を高効率に捕集可能なヨウ素捕集装置及び原子力構造物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のヨウ素捕集装置は、原子力構造物本体における気体中の有機ヨウ素を捕集可能な第1捕集剤を備え、前記第1捕集剤は、有機ヨウ素からヨウ化物イオンを生成し、生成したヨウ化物イオンを捕集する生成捕集成分と、前記生成捕集成分とは異なる成分であり、少なくとも100℃~130℃において有機ヨウ素からヨウ化物イオンを生成し、生成したヨウ化物イオンを前記生成捕集成分に捕集させる生成成分とを含み、前記生成捕集成分は、第4級ホスホニウムをカチオンとして含むイオン液体である。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、広範な温度範囲の有機ヨウ素を高効率に捕集可能なヨウ素捕集装置及び原子力構造物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態のフィルタベント装置を説明する図である。
図2】温度に対する有機ヨウ素の捕集性能を示すグラフである。
図3】第1捕集剤の使用量に対する有機ヨウ素の許容捕集量を示すグラフである。
図4】70℃の有機ヨウ素の捕集性能の計時変化を示すグラフである。
図5】第1捕集剤の製造方法を示すフローチャートである。
図6】第2実施形態のフィルタベント装置を説明する図である。
図7】第3実施形態のフィルタベント装置を説明する図である。
図8】第4実施形態のフィルタベント装置を説明する図である。
図9】第5実施形態のフィルタベント装置を説明する図である。
図10】多孔部材の上面図である。
図11】整流部材の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限られず、例えば異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更することがある。
【0011】
図1は、第1実施形態のフィルタベント装置30を説明する図である。原子力発電所20は、格納容器4及びフィルタベント装置30を少なくとも備える。フィルタベント装置30は、格納容器4の破損時等の過酷事故時に、格納容器4内の気体を大気放出する際に気体中の放射性物質を極力除去するものである。これにより、ドライウェル41及びウェットウェル42を備える格納容器4内の圧力を減少できる。
【0012】
なお、フィルタベント装置30はヨウ素捕集装置の一例であり、格納容器4は原子力構造物本体の一例であり、原子力発電所20は原子力構造物の一例であるが、ヨウ素捕集装置、原子力構造物本体、及び原子力構造物は、いずれもこれらに限られない。例えば、原子力構造物本体は、例えば原子力発電所のサプレッションプール、原子力発電所のオフガス機器、核燃料物質の保管容器又は輸送容器、炉内構造物の保管容器であってもよい。従って、これらを原子力構造物本体として、更にヨウ素捕集装置を備えた原子力構造物にすることができる。
【0013】
ヨウ素捕集装置を原子力発電所に適用する場合、原子炉の形式は特に制限されないが例えば、沸騰水型原子炉(Boiling Water Reactor:BWR)、改良型沸騰水型原子炉(Advanced Boiling Water Reactor:ABWR)、加圧水型原子炉(Pressurized Water Reactor:PWR)等の各種の形式に適用できる。
【0014】
例えば個々のプラント出力及び事故シナリオにより異なるが、事故時に発生する放射性物質のうち、格納容器4内部の圧力容器(不図示)が破損するような燃料破損が伴うシビアアクシデント時、1kg程度の有機ヨウ素及び20kg程度の無機ヨウ素が発生すると評価される。中でも、有機ヨウ素としては主にヨウ化メチル(CHI)が、無機ヨウ素としては主にヨウ素分子(I)が発生すると評価される。そこで、フィルタベント装置30は放射性物質であるエアロゾル、無機ヨウ素、有機ヨウ素の捕集に用いられる役割を持つ。
【0015】
フィルタベント装置30は、第1捕集剤2及び第2捕集剤13(いずれも後記)を収容するフィルタベント容器1(第1容器の一例)と、格納容器4に接続されたドライウェルベント配管7、ウェットウェルベント配管8及び入口配管9(いずれもベント配管の一例)とを備える。ドライウェルベント配管7及びウェットウェルベント配管8は、それぞれ、隔離弁5,6を備える。入口配管9は、一端側をドライウェルベント配管7及びウェットウェルベント配管8に接続し、他端側を、第2捕集剤13の内部に開口する。これにより、フィルタベント容器1は、ドライウェルベント配管7、ウェットウェルベント配管8及び入口配管9を通じて、格納容器4と連通する。
【0016】
フィルタベント装置30は、フィルタベント容器1の内部において気体中の放射性物質を除去する繊維フィルタ10(放射性物質除去フィルタの一例)と、繊維フィルタ10に接続される出口配管11と、排気筒12とを備える。これにより、詳細は後記するが、第1捕集剤2及び第2捕集剤13により有機ヨウ素、無機ヨウ素及びエアロゾルを含む気体から更に別の放射性物質が除去され、除染後の気体が排気筒12を通じて外部に放出される。
【0017】
フィルタベント容器1に収容される第1捕集剤2は、格納容器4から排出された、格納容器4における気体中の有機ヨウ素を捕集可能なものである。第1捕集剤2は、生成捕集成分及び生成成分を含む。生成捕集成分は、有機ヨウ素(RI。Rは任意の有機基)からヨウ化物イオン(I)を生成(即ち分解)し、生成したヨウ化物イオンを捕集(例えば溶解)するものである。生成捕集成分が作用する有機ヨウ素は、例えば130℃~160℃で作用する有機ヨウ素である。
【0018】
生成成分は、生成捕集成分とは異なる成分であり、少なくとも100℃~130℃において有機ヨウ素からヨウ化物イオンを生成し、生成したヨウ化物イオンを生成捕集成分に捕集させるものである。生成成分が作用する有機ヨウ素は、少なくとも100℃~130℃で作用する有機ヨウ素であればよいが、好ましくは70℃~130℃の有機ヨウ素である。
【0019】
シビアアクシデント時に圧力容器の破損に伴って格納容器4の内部で生じる気体の温度は例えば100℃~160℃程度である。そこで、第1捕集剤2は、生成捕集成分及び生成成分を含み、特に生成成分による比較的低温の温度範囲、即ち少なくとも100℃~130℃での有機ヨウ素の分解作用が強化されている。これにより、例えば100℃~160℃程度、好ましくは70℃~160℃程度の幅広い温度範囲で有機ヨウ素の捕集性能が奏される
【0020】
生成捕集成分の具体的種類は特に制限されないが、生成捕集成分としては不揮発性液体であることが好ましい。不揮発性液体は、有機ヨウ素を分解及びヨウ化物イオンを溶解する機能を有し、例えば160℃以下、好ましくは200℃以下で不揮発(実質的に揮発しない)で、かつ、熱分解しないことが好ましい。格納容器4の事故時には、100℃~160℃程度の蒸気のベントが想定されるため、湿式フィルタとして働く液体が不揮発性であれば、ベント時に高温高圧の気体が導入されたとしても、不揮発性液体の揮発を抑制できる。不揮発性液体は、運用時の温度(例えば100℃~160℃)において液体であればよく、室温(例えば25℃)では固体でもよいが、室温時にも液体であることが好ましい。
【0021】
不揮発性液体は、図示の例では疎水性である。疎水性の不揮発性液体を使用することで第1捕集剤2を疎水性にでき、同じく疎水性の有機ヨウ素に対して第1捕集剤2が作用し易くなり、捕集効率を向上できる。
【0022】
不揮発性液体としては、具体的には例えば、何れも疎水性の常温溶融塩、イオン液体、4級塩、界面活性剤、相関移動触媒、これらの混合物のうちの少なくとも一種が挙げられる。これらの不揮発性液体は、事故時にフィルタベント装置30に流入するとされるガス温度である約200℃という条件でも十分な耐熱性を持つ。このため、200℃以上でも液相である不揮発性液体を使用することで、事故時においても、不揮発性液体を安定して液相で存在させて、有機ヨウ素を十分に捕集させることができる。
【0023】
中でも、カチオン(X)とアニオン(Y)のみの組み合わせからなるイオン液体が好ましい。イオン液体は耐放射性にも優れ、かつ放射性物質等の基質をイオン液体中に高い濃度で捕集する性質を持つ。特に有機ヨウ素は水に難溶で高揮発性の物質であるため、イオン液体を使用することにより、有機ヨウ素の捕集効率を高くできる。
【0024】
イオン液体を構成するカチオンとしては、例えば、ホスホニウム、スルホニウム、アンモニウム、ピロリジニウム、ピぺリジニウム、モルホリニウム等の少なくとも一種の官能基を含む有機カチオンが挙げられる。具体的には例えば、第4級のアンモニウム塩、第4級のホスホニウム塩、第3級のスルホニウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩又はモルホリニウム塩が挙げられる。これらの中でも、リン元素、硫黄元素又は窒素元素を中心に、主に炭素等の置換基と結合したカチオンが好ましい。また、ヨウ化物イオンの溶解性を高く維持するために単結合の炭素鎖で主に構成されることが好ましいが、一部が二重結合、三重結合又は酸素元素で架橋されていてもよい。
【0025】
例えば、有機ヨウ素の一例であるヨウ化メチルは、疎水性の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドには溶解せず分離するが、同じアニオン構造でカチオン構造が異なる疎水性のトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドには溶解し均一に混じり合う。従って、疎水性の不揮発性液体は、分解促進の観点から、有機ヨウ素を溶解できるものを選択して使用することが好ましい。
【0026】
炭素鎖数が1の物質であるメチル基等は160℃の高温下で分解し揮発し易いため、炭素鎖数は2以上であることが好ましい。例えば1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヨージドは160℃においてカチオンのメチル基が脱離し、自己分解が生じ易い。このような観点で炭素鎖数が長く嵩高い有機カチオンであると、有機ヨウ素の溶解性及び耐熱性が高くなるため、有機ヨウ素を高い捕集効率で捕集できる。
【0027】
アニオンとしては、例えば、
炭素元素にアニオン電荷を帯びたH、HRC、HR、R、NC、RCC等の官能基、
硫黄元素にアニオン電荷を帯びたRS等の官能基、
窒素元素にアニオン電荷を帯びたN 、H、HRN、R等の官能基、
酸素元素にアニオン電荷を帯びたRO、RCO 、RPO 、RSO 、RPO 、RPO 、RCO等の官能基、
の少なくとも何れか1つの官能基を含む有機アニオンが挙げられる。また、
HO、NO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 等の官能基、
ハロゲン元素にアニオン電荷を帯びたF、Cl、Br、I、F 、Cl 、Br 、I 等の官能基、
の少なくとも何れか1つの官能基を含む無機アニオンが挙げられる。
これらの中でも、アニオンとしては、有機ヨウ素を分解する作用が強い点で、求核性が高いイオンが好ましく、特に電荷を帯びた元素が水素元素を除き末端に存在するアニオンが好ましい。
【0028】
例えば、Hと比べてR(R-N-R)などの電荷を帯びた窒素元素を中心に水素元素以外で構成されたアニオン分子は求核性が低くなり、ヨウ化メチルに対する分解性能が低下する。アニオンとしては求核性が高い点、加水分解を生じ難い点、フィルタベント容器1に注入された場合にスクラビング水のpHを変化させ難い点からH、HRC、HR、R、NC、RCC、RS、N 、H、HRN、R、RO、RCO 、RPO 、RSO 、RPO 、RPO 、RCO、HO、NO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 、F、Cl、Br、I、F 、Cl 、Br 、I の少なくとも何れか官能基を含むアニオンが好ましい。
【0029】
有機ヨウ素を高捕集性能のためには、不揮発性液体として好適なイオン液体中のカチオンによる有機ヨウ素の溶解と、アニオンの有機ヨウ素への求核攻撃により生じる有機ヨウ素の分解との双方の現象を生じることが好ましい。このような現象を生じさせる不揮発性液体としては、例えば、疎水性のトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリド等が挙げられる。
【0030】
不揮発性液体としてイオン液体を使用する場合、イオン液体(X-Y)と有機ヨウ素(RI。Rは任意の有機基)とは以下の式(1)で示す作用が生じると考えられる。

-Y + RI → X-Y + I+ R・・・式(1)

有機ヨウ素(RI)のうち、有機基(R)はプラスの電荷を帯び、ヨウ素(I)はマイナスの電荷を帯びる。このため、イオン液体は、例えば130℃~160℃のような高温の温度範囲で有機基を攻撃することで有機ヨウ素を分解し、ヨウ化物イオンを生成できる。ヨウ化物イオンは、有機ヨウ素と比較して液相中でより安定であり、かつ不揮発性液体を構成するカチオンと相互作用することで、ヨウ化物イオンを安定的に保持できる。この結果、有機ヨウ素を液相に保持でき、環境への漏洩を抑制できる。
【0031】
なお、イオン液体以外の不揮発性液体であっても、イオン液体と同様に有機ヨウ素を不揮発性液体中で攻撃し、ヨウ化物イオンの生成が生じる。これにより、不揮発性液体に、有機ヨウ素を保持できる。
【0032】
次に、第1捕集剤2に含まれる生成成分の具体的種類は特に制限されないが、生成成分としては第1還元剤であることが好ましい。「第1還元剤」は、後記する「第2還元剤」と区別するために付した名称であり、化学的性質の観点でみれば、単なる「還元剤」と同義である。以下、生成捕集成分として不揮発性液体を、生成成分として第1還元剤を例示して本開示を説明する。ただし、生成捕集成分及び生成成分は、それぞれ、不揮発性液体及び第1還元剤に限定されるものではなく、不揮発性液体及び第1還元剤以外の材料に対しても以下の説明が同様に適用される。
【0033】
第1還元剤は、不揮発性液体中で、上記式(1)で示した作用と同様の作用により、有機ヨウ素を分解するものである。ただし、第1還元剤による有機ヨウ素の分解は、不揮発性液体による分解時の温度(例えば130℃~160℃)よりも低温の100℃~130℃、好ましくは70℃~130℃のような低温度範囲で進行する。第1還元剤は、不揮発性液体に溶解してもよく、分散していてもよいが、捕集効率向上の観点から溶解していることが好ましい。分解により生成したヨウ化物イオンは、不揮発性液体に捕集される。
【0034】
第1還元剤(生成成分の一例)としては、酸化還元電位が、ヨウ素が還元される標準電極電位である0.54Vよりも低い第1還元剤が好ましい。このような第1還元剤を使用することで、有機ヨウ素に含まれるヨウ素の還元によりヨウ化物イオンを遊離させて、液相で安定なヨウ化物イオンを液体の第1捕集剤2に保持し易くできる。
【0035】
第1捕集剤2における第1還元剤の含有量は、不揮発性液体に対して0.07質量%(700ppm)以上であることが好ましい。これにより、70℃程度の低温においても有機ヨウ素の捕集を促進でき、除染前放射能濃度を除染後放射能濃度で割った後である除染係数(DF。図2記載のグラフの縦軸)を50以上にできる。
【0036】
第1還元剤は、例えば、H、(COOH)、NHOH、BHNa、NOH、C(アスコルビン酸)、(NHS、HNCSH等の少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、高温でも安定して存在し、取り扱いのしやすさ又は入手性等により決めることが望ましい。
【0037】
図2は、温度に対する有機ヨウ素の捕集性能を示すグラフである。横軸は有機ヨウ素を含む気体の温度、縦軸は、除染前(流通前)放射能濃度を除染後(流通後)放射能濃度で割った後である除染係数(DF)である。図2のグラフは、有機ヨウ素として0.005質量%(50ppm)の濃度でヨウ化メチルを含む気体を、不揮発性液体にはトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムクロリドを、第1還元剤にはアスコルビン酸等を使用した試験により得られたものである。試験は、不揮発性液体及び第1還元剤を含む第1捕集剤2を収容した円筒状のカラムに、有機ヨウ素を含む上記気体を流して行った。カラムの内径及び流通方向長さから算出されるカラム内での気体の流通時間(滞留時間)は0.25秒とした。
【0038】
図2において、丸は不揮発性液体に対する第1還元剤濃度が2.1質量%(21000ppm)、三角は不揮発性液体に対する第1還元剤濃度が0.35質量%(3500ppm)、四角は不揮発性液体に対する第1還元剤濃度が0.07質量%(700ppm)、菱形は不揮発性液体に対する第1還元剤濃度が0質量%(0ppm。即ち第1還元剤を使用せず)のプロットである。図2の丸、三角及び四角のプロットに示すように、第1還元剤濃度を0.07質量%(700ppm)以上にすることで、例えば130℃~160℃という高温範囲に加えて、70℃~130℃という低温範囲においても、除染係数を50以上にできた。
【0039】
一方で、菱形のプロットに示すように、第1還元剤を含まなければ、70℃~130℃という低温範囲では、除染係数が50以下であり、有機ヨウ素の捕集が不十分であることが示された。この結果は、上記の図1を参照して説明したように、例えば70℃~130℃という低温の温度範囲で有機ヨウ素を分解して不揮発性液体に保持させる第1還元剤の不使用に起因すると考えられる。
【0040】
また、図示はしないが、別途の実験により、有機ヨウ素は、第1還元剤を含む水溶液(後記の第2捕集剤13に相当)には殆ど捕集されないこともわかった。これは、有機ヨウ素が疎水性であるが、水溶液は親水性であるため、水中の第1還元剤が疎水性の有機ヨウ素に十分に作用しないためと考えられる。従って、不揮発性液体と第1還元剤とを併存させることで、有機ヨウ素の捕集性能を向上できることが実験により明らかとなった。
【0041】
図3は、不揮発性液体の使用量に対する有機ヨウ素の許容捕集量を示すグラフである。図3のグラフは、事故時において、除去係数が50以下となる迄に発生する1kg程度の有機ヨウ素の捕集に必要な不揮発性液体の使用量を示し、図2と同じ条件で行って得られたものである。図3のグラフから、1kg程度の有機ヨウ素を捕集するためには、0.2m以上の不揮発性液体の使用が好ましいことがわかる。
【0042】
従って、例えば0.2mという比較的小さな体積の不揮発性液体で済むため、上記の特許文献1に記載の設計を大きく変更することなく、幅広い温度範囲において有機ヨウ素を効率的に捕集できる。これにより、処理コストを削減できる。また、大掛かりな装置を導入する必要がないため、現存するフィルタベント装置30に適用する際にも、フィルタベント装置30の静的システムを維持できる。
【0043】
また、第1捕集剤2において疎水性の不揮発性液体と第1還元剤とを併存させ、不揮発性液体と第1還元剤とを同一形態に存在させることで、不揮発性液体による有機ヨウ素の捕集を第1還元剤が促進でき、効率的に捕集性能を向上できる。また、疎水性の不揮発性液体に第1還元剤を含ませることで、事故が起きておらず静置状態では、第1捕集剤2の第1還元剤と第2捕集剤13とを液-液界面のみで接触でき、接触面積を小さくできる。これにより、第1捕集剤2の第1還元剤の加水分解、及び、第2捕集剤13のpH変動による第1還元剤の劣化を抑制し、第1捕集剤2中で第1還元剤を安定的に保持できる。
【0044】
図4は、70℃の有機ヨウ素の捕集性能の計時変化を示すグラフである。図4のグラフは、0.005質量%(50ppm)の濃度でヨウ化メチルを含む70℃の気体を連続的にカラムに流し、第一還元剤の濃度を2.1質量%(21000ppm)程度としたこと以外は図2のグラフと同様の条件で試験を行った。この結果、240分経過後であっても、除染係数が10000以上という極めて高い除染性能を示した。従って、不揮発性液体及び第1還元剤を含む第1捕集剤2を使用することで、70℃という低温においても、長期間に亘って捕集性能を維持できた。
【0045】
図1に戻って、事故時には比較的温度の高い気体がフィルタベント容器1に流入するため、有機ヨウ素は通常はガス状である。従って、液体の第1捕集剤2の中で、有機ヨウ素は気泡として存在する。有機ヨウ素は、気泡と液体の第1捕集剤2との接触によって拡散泳動、熱泳動、ブラウン拡散、対流等を生じて捕集される。このため、接触時間を確保するため、滞留時間を長くすることが好ましい。具体的には、設置コストを勘案しながら、第1捕集剤2の液量を多くすることが好ましい。
【0046】
フィルタベント装置30は、フィルタベント容器1の内部において、第2還元剤を含む水溶液である第2捕集剤13を備える。第2捕集剤13は、格納容器4から排出された、格納容器4における気体に更に含まれるエアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方の成分を捕集可能なものであり、図示の例では、気体を洗浄するスクラバ水である。上記第1捕集剤2によって有機ヨウ素を捕集でき、第2捕集剤13によってエアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方の成分を例えば溶解により捕集できる。図示の例では、第1捕集剤2及び第2捕集剤13はいずれも液体であり、第2捕集剤13の上層に第1捕集剤2が配置される。第2還元剤は、上記の第1還元剤と同じ種類であってもよく、異なっていてもよい。
【0047】
第2捕集剤13を含む液相のpHがアルカリ性であることが好ましい。ここでいう第2捕集剤13を含む液相のpHは、上記のように不揮発性液体が疎水性であり、疎水性の不揮発性液体と水溶液である第2捕集剤13とが二相に分離している場合には、第2捕集剤13のpHである。第2捕集剤13を含む液相のpHをアルカリ性にすることで、特に無機ヨウ素の再揮発を抑制できる。pHは、具体的には例えば10以上14以下である。
【0048】
また、上記のように、入口配管9の他端は第2捕集剤13の内部に開口することで、入口配管9を通じ第2捕集剤13に供給された気体のうち、エアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方の成分を第2捕集剤13で捕集できる。一方で、当該成分を捕集後の気体は、気泡となって第2捕集剤13の内部を上昇し、上層の第1捕集剤2に至る。これにより、気泡中の有機ヨウ素を第1捕集剤2で捕集できる。
【0049】
図1を用いてフィルタベント装置30の動作原理を説明する。事故時に格納容器4へ放出された放射性物質は、隔離弁5又は隔離弁6を開くことで格納容器4に接続されるドライウェルベント配管7又はウェットウェルベント配管8に流入する。その後、放射性物質を含む気体は入口配管9を経由してフィルタベント容器1内の第2捕集剤13に流入し、エアロゾル及び無機ヨウ素が第2捕集剤13で捕集される。捕集されなかった有機ヨウ素は疎水性の第1捕集剤2に流入し、ヨウ化物イオンに分解され捕集される。有機ヨウ素捕集後の気体は、出口配管11を通り排気筒12によって放射性物質が充分に除去された状態で外部に放出される。
【0050】
なお、放射性物質で汚染された第1捕集剤2等(後記する)液体等は、例えば、フィルタベント容器1に備えられた例えばサンプリング口(不図示)を通じて抜き出し、例えば特表2003-507185号に記載された方法等で処理及び再生することができる。
【0051】
以上のフィルタベント装置30によれば、例えば事故発生時に生じる幅広い温度範囲の気体のうち、比較的低温の温度範囲、即ち例えば100℃~160℃、好ましくは70℃~160℃のような幅広い温度範囲で、有機ヨウ素を高効率(例えば98%以上)に捕集できる。
【0052】
図5は、第1捕集剤2の製造方法を示すフローチャートである。第1捕集剤2は、不揮発性液体及び第1還元剤を含めばよく、第1捕集剤2の製造方法は任意であるが、例えば図5に示すフローチャートに沿って製造できる。
【0053】
まず、アルカリ水溶液と不揮発性液体とが混合され(ステップS1)、混合液体についてpHが測定される(ステップS2)。pHが例えば6以上、好ましくは10以上になるように、酸又はアルカリ水溶液を用いてpHが調整される(ステップS3)。そして、不揮発性液体を分取するとともに(ステップS4)、分取後に残った液体から例えば加熱により水溶液を蒸発させ(ステップS4)、分取物と混ぜることでpHを調整した不揮発液液体が得られる。次いで、pHを調整した不揮発性液体と、第1還元剤を含む水溶液(第1還元剤の濃度既知)とを混合し(ステップS6)、ステップS4及びステップS5と同様して不揮発性液体の分取(ステップS7)及び水分の蒸発(ステップS8)により、第1捕集剤2が得られる。
【0054】
第1捕集剤2における第1還元剤の濃度は、可能であれば第1捕集剤2中の第1還元剤濃度を直接測定してもよいが、ステップS6で使用した水溶液中の第1還元剤濃度(濃度既知)と、ステップS8で残存した第1還元剤量とを比較し、減少分を不揮発性液体における第1還元剤濃度とすることができる。
【0055】
図6は、第2実施形態のフィルタベント装置31を説明する図である。第2実施形態では、第1実施形態での疎水性の不揮発性液体に代えて、親水性の不揮発性液体が使用される。親水性の不揮発性液体を使用しても、有機ヨウ素を捕集できる。不揮発性液体が親水性であるため第1捕集剤2も親水性であり、第1捕集剤2は、水溶液である第2捕集剤13と相溶する。従って、第2実施形態では、いずれも第1捕集剤2を構成する不揮発性液体及び第1還元剤と、いずれも第2捕集剤13を構成する水及び第2還元剤と、が併存する。なお、上記のように、第1還元剤と第2還元剤とが同種である場合、フィルタベント装置31においては、第1還元剤と第2還元剤とを区別できずこれらは一体になって含まれる。
【0056】
第1還元剤は、親水性の不揮発性液体に内包されているか、又は、水中で不揮発性液体と相互作用すると考えられる。このため、疎水性の有機ヨウ素であっても、親水性の不揮発性液体及び第1還元剤を含む水中で第1還元剤が作用し、ヨウ化物イオンが生成し、不揮発性液体に捕集されると考えられる。
【0057】
不揮発性液体は、第1実施形態と同様に、イオン液体が好ましい。イオン液体を構成するカチオンとしては、イミダゾリウム、ピリジニウム、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ピロリジニウム、ピペリジニウム、モルホリニウム等の少なくとも一種の官能基を含む有機カチオンが挙げられる。具体的には例えば、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、第4級のアンモニウム塩、第4級のホスホニウム塩、第3級のスルホニウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩又はモルホリニウム塩等が挙げられる。
【0058】
例えば、有機ヨウ素であるヨウ化メチルは、親水性の1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヨージドにはわずかに溶解するが、同じハロゲンアニオン構造でカチオン構造が異なる親水性の1-ブチル-3-ドデシルイミダゾリウムブロミドには溶解し均一に混じり合う。従って、親水性の不揮発性液体は、有機ヨウ素を溶解できるものを選択して使用することが好ましい。
【0059】
アニオンとしては、例えば、
酸素元素にアニオン電荷を帯びたRO、RCO 、RPO 、RSO 、RPO 、RPO 、RCO等の有機アニオン、
HO、NO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 等の無機アニオン、
ハロゲン元素にアニオン電荷を帯びたF、Cl、Br、I、F 、Cl 、Br 、I 等の無機アニオン、
が挙げられる。
【0060】
これらの中でも、有機ヨウ素を分解する作用が強い点で、求核性が高いイオンが好ましく、特に電荷を帯びた元素が水素元素を除き末端に存在するものが好ましい。更に、これらの中でも、求核性が高い点、加水分解を生じ難い点、フィルタベント容器1に注入された場合に第2捕集剤13のpHを変化させ難い点から、RO、RCO 、RPO 、RSO 、RPO 、RPO 、RCO、HO、NO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 、FO 、ClO 、BrO 、IO 、F、Cl、Br、I、F 、Cl 、Br 、I の少なくとも何れか1種が好ましい。
【0061】
親水性の不揮発性液体としては、例えば1-ブチル-3-ドデシルイミダゾリウムブロミド等が挙げられる。第1捕集剤2と第2捕集剤13とが相溶した液体において、不揮発性液体の濃度は10質量%以上(100000ppm以上)が好ましい。また、第1還元剤(生成成分の一例)の含有量は、第1還元剤及び第2還元剤の合計に対して0.07質量%以上(700ppm以上)であることが好ましい。これにより、上記の除染係数を50以上にできる。なお、第1還元剤と第2還元剤とが同じ種類である場合、当該液体において還元剤を区別できないため、この場合には還元剤濃度として例えば0.07質量%以上であることが好ましい。
【0062】
上記の第1実施形態と同様に、第2捕集剤13を含む液相のpHがアルカリ性であることが好ましい。ここでいう第2捕集剤13を含む液相のpHは、上記のように不揮発性液体が親水性であり、親水性の不揮発性液体と水溶液である第2捕集剤13とが混じっている場合には、不揮発性液体及び第2捕集剤13の混合液体のpHである。第2捕集剤13を含む液相、即ち混合液体のpHをアルカリ性にすることで、特に無機ヨウ素の再揮発を抑制できる。
【0063】
図2を用いてフィルタベント装置31の動作原理を説明する。第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、入口配管9は第2捕集剤13の内部に開口する。ただし、第2実施形態では、入口配管9は、第2捕集剤13と相溶する第1捕集剤2の内部にも開口する。このため、入口配管9を通じてフィルタベント容器1の内部に供給された気体は、第1捕集剤2によって有機ヨウ素を、第2捕集剤13によってエアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方を捕集する。これらを捕集後の気体は、出口配管11を通り排気筒12によって放射性物質が充分に除去された状態で外部に放出される。
【0064】
上記のように、還元剤を含む水溶液である第2捕集剤13のみでは有機ヨウ素は十分に捕集されないが、親水性の不揮発液体と還元剤(更に水も併用してよい)とを併用した第1捕集剤2とすることで、有機ヨウ素を高効率に捕集できる。
【0065】
図7は、第3実施形態のフィルタベント装置32を説明する図である。フィルタベント装置32は、第2捕集剤13を収容したフィルタベント容器1に加え、収容容器14(第2容器、容器の一例)を備える。収容容器14は、フィルタベント容器1の気相と連通する出口配管11(配管の一例)が接続され、第1捕集剤2を収容したものである。収容容器14は、フィルタベント容器1の外側に配置される。
【0066】
フィルタベント装置32では、入口配管9を通じ第2捕集剤13に供給された気体のうち、エアロゾル又は無機ヨウ素の少なくとも一方の成分が第2捕集剤13で捕集される。一方で、捕集されなかった有機ヨウ素を含む気泡は、第2捕集剤13の内部を上昇し、繊維フィルタ10及び出口配管11を通じて、収容容器14に供給される。出口配管11は、第1捕集剤2の内部に開口しているため、気泡中の有機ヨウ素が第1捕集剤2で捕集される。
【0067】
フィルタベント装置32によれば、第1捕集剤2と第2捕集剤13とが異なる容器に収容されているため、事故時におけるフィルタベント装置32の使用時までの長期間において、第1捕集剤2及び第2捕集剤13の相互作用に起因する劣化(加水分解等)を抑制できる。また、第1捕集剤2を収容した収容容器14がフィルタベント容器1の外側に配置されることで、このような相互作用を特に抑制できる。
【0068】
図8は、第4実施形態のフィルタベント装置33を説明する図である。フィルタベント装置33は、第2捕集剤13を収容したフィルタベント容器1に加え、保管容器15及び弁17を備える。保管容器15(第3容器、容器の一例)は、フィルタベント容器1と注入配管16(配管の一例)により接続され、フィルタベント容器1に供給する第1捕集剤2を収容したものである。弁17(流通制御機構の一例)は、フィルタベント容器1と保管容器15とを接続する注入配管16での第1捕集剤2の流通を制御する機構である。
【0069】
事故発生時、弁17が開弁されることで、第1捕集剤2がフィルタベント容器1に供給される。このとき、不活性ガス供給機構(不図示)を使用して保管容器15に不活性ガスを供給することで、保管容器15からの第1捕集剤2の排出、即ち、フィルタベント容器1への供給を促進してもよい。第1捕集剤2の供給により、フィルタベント容器1の内部に第1捕集剤2及び第2捕集剤13を併存でき、上記各実施形態で説明した作用によって有機ヨウ素等が捕集される。
【0070】
フィルタベント装置33によれば、上記第3実施形態(図7)で説明したように、第1捕集剤2と第2捕集剤13とが異なる容器に収容されているため、事故時におけるフィルタベント装置32の使用時までの長期間において、第1捕集剤2及び第2捕集剤13の相互作用に起因する劣化(加水分解等)を抑制できる。また、第1捕集剤2を収容した収容容器14がフィルタベント容器1の外側に配置されることで、このような相互作用を特に抑制できる。
【0071】
図9は、第4実施形態のフィルタベント装置34を説明する図である。フィルタベント装置34は、入口配管9の開口91の上方に、第2捕集剤13に浸かるように、多孔部材21(図10)又は整流部材22(図11)のうちの少なくとも一方である部材23を備える。なお、部材23は、第2捕集剤13に浸かる図示の例に限定されず、第1捕集剤2又は第2捕集剤13の少なくとも一方に浸かればよい。部材23を備えることで、部材23が浸っている第1捕集剤2又は第2捕集剤13の少なくとも一方での気泡の滞留時間を長くでき、有機ヨウ素、エアロゾル及び無機ヨウ素の捕集効率を向上できる。
【0072】
図10は、多孔部材21の上面図である。多孔部材21は例えば数mm~数cm(例えば5mm~5cm)の孔211を備える円形の多孔板であり、円筒形状のフィルタベント装置33の内部に嵌め込まれる。多孔板の厚さは薄い方が好ましく、具体的には例えば数cm(例えば1cm~5cm)にすることができる。開口91(図9)から供給された気体は、気泡になって上昇することで多孔部材21に接触し、散点的に形成された孔211を通じて、上方に抜ける。このようにすることで、多孔部材21の下方で気泡を滞留させて、捕集効率を向上できる。
【0073】
図11は、整流部材22の上面図である。整流部材22は例えばスタティックミキサといわれる整流板であり、例えばステンレス製の金網により構成される。整流部材22は例えば円形であり、円筒形状のフィルタベント装置33の内部に嵌め込まれる。整流板の厚さは厚い方が好ましく、具体的には例えば数十cm(例えば10cm~50cm)にすることができる。開口91(図9)から供給された気体は、気泡になって上昇することで整流部材22に接触し、整流部材22のメッシュ部221を通じて、上方に抜ける。このようにすることで、整流部材22の下方で気泡を滞留させて、捕集効率を向上できる。
【0074】
フィルタベント装置34(図9)によれば、フィルタベント容器1の内部で、第1捕集剤2及び第2捕集剤13と接触する気泡の滞留時間を長くできる。これにより、捕集効率を向上できる。
【符号の説明】
【0075】
1 フィルタベント容器(第1容器)
10 繊維フィルタ(放射性物質除去フィルタ)
11 出口配管(配管)
12 排気筒
13 第2捕集剤
14 収容容器(第2容器、容器)
15 保管容器(第3容器、容器)
16 注入配管(配管)
17 弁
2 第1捕集剤
20 原子力発電所(原子力構造物)
21 多孔部材
211 孔
22 整流部材
221 メッシュ部
23 部材
30,31,32,33,34 フィルタベント装置(ヨウ素捕集装置)
4 格納容器(原子力構造物本体)
41 ドライウェル
42 ウェットウェル
5,6 隔離弁
7 ドライウェルベント配管(ベント配管)
8 ウェットウェルベント配管(ベント配管)
9 入口配管(ベント配管)
91 開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11