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  • 特許-止水構造及び止水方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】止水構造及び止水方法
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/72 20060101AFI20240319BHJP
   H01R 13/52 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01R4/72
H01R13/52 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020187798
(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公開番号】P2022077124
(43)【公開日】2022-05-23
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗谷川 勝
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-073312(JP,A)
【文献】特開2015-049956(JP,A)
【文献】特開2012-169123(JP,A)
【文献】特開2016-115579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/72
H01R 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
止水の対象となる内含物と、該内含物を覆う熱収縮チューブと、該熱収縮チューブの内面に設けられた接着剤とを備え、前記内含物を覆って収縮した後の前記熱収縮チューブの外面には、収縮量を確認するための凹状又は凹凸状の収縮量マークが形成され、該収縮量マークは、マーク底部分の厚みの変化が前記熱収縮チューブの収縮前後で抑制された部分に形成される
ことを特徴とする止水構造。
【請求項2】
請求項1に記載の止水構造において、
前記内含物は、電線端末と端子金具との接続部分であり、該接続部分における前記端子金具の基板外面側の所定位置に前記収縮量マークが配置される
ことを特徴とする止水構造。
【請求項3】
内面に接着剤が設けられた熱収縮チューブで内含物を覆う第一工程と、前記内含物の所定位置でマーク形成具を用いて前記熱収縮チューブを前記内含物に対し押す第二工程と、前記マーク形成具で押した状態で前記熱収縮チューブを収縮させる第三工程と、前記熱収縮チューブの収縮後に前記マーク形成具を取り外すことにより収縮量を確認するための凹状又は凹凸状の収縮量マークを形成する第四工程とを順に経る
ことを特徴とする止水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面に接着剤が設けられた熱収縮チューブを用いて止水する構造及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内面に接着剤が設けられた熱収縮チューブを用いて止水する構造及び方法に関しては、例えば下記特許文献1に開示された内容が知られる。下記特許文献1によれば、電線端末と端子金具との接続部分に熱収縮チューブが配置され、この後に熱収縮チューブを収縮させて上記接続部分を覆うことにより、水分の浸入が阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-77074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術にあっては、電線端末と端子金具との接続部分近傍まで熱収縮チューブが収縮しないと溶融した接着剤が隙間なく接続部分全体に行き渡らないため、熱収縮チューブの収縮量を適正に管理する必要がある。しかしながら、収縮後の現物(端子付き電線)の直接確認や直接管理は困難であるという問題点を有する。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、収縮後の熱収縮チューブの収縮量を容易に確認し管理することが可能な止水構造及び止水方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためになされた本発明の止水構造は、止水の対象となる内含物と、該内含物を覆う熱収縮チューブと、該熱収縮チューブの内面に設けられた接着剤とを備え、前記内含物を覆って収縮した後の前記熱収縮チューブの外面には、収縮量を確認するための凹状又は凹凸状の収縮量マークが形成され、該収縮量マークは、マーク底部分の厚みの変化が前記熱収縮チューブの収縮前後で抑制された部分に形成されることを特徴とする。
【0007】
また、上記課題を解決するためになされた本発明の止水方法は、内面に接着剤が設けられた熱収縮チューブで内含物を覆う第一工程と、前記内含物の所定位置でマーク形成具を用いて前記熱収縮チューブを前記内含物に対し押す第二工程と、前記マーク形成具で押した状態で前記熱収縮チューブを収縮させる第三工程と、前記熱収縮チューブの収縮後に前記マーク形成具を取り外すことにより収縮量を確認するための凹状又は凹凸状の収縮量マークを形成する第四工程とを順に経ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、収縮後の熱収縮チューブの収縮量を容易に確認し管理することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の止水構造の一実施形態を概略的に示す構成図である。
図2図1における電線端末と端子金具との接続部分を示す図である。
図3】本発明の止水方法の第一工程を示す図である。
図4】本発明の止水方法の第二工程を示す図である。
図5】本発明の止水方法の第三工程を示す図である。
図6】本発明の止水方法の第二工程から第四工程にかけての変化を示す図である。
図7】収縮量マークの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
止水構造は、止水の対象となる内含物、すなわち電線端末及び端子金具の接続部分と、この接続部分を覆う熱収縮チューブと、熱収縮チューブの内面に設けられた接着剤とを備えて構成される。接続部分を覆って収縮した後の熱収縮チューブの外面には、収縮量を確認するための凹状又は凹凸状の収縮量マークが形成される。この収縮量マークは、マーク底部分の厚みの変化が熱収縮チューブの収縮前後で抑制された部分に形成される。収縮量マークの形成には、マーク形成具が用いられる。マーク形成具は、端子金具の基板外面に熱収縮チューブを押すようにして用いられる。
【実施例
【0011】
以下、図面を参照しながら実施例を説明する。図1は本発明の止水構造の一実施形態を概略的に示す構成図である。また、図2図1における電線端末と端子金具との接続部分を示す図、図3は本発明の止水方法の第一工程を示す図、図4は止水方法の第二工程を示す図、図5は止水方法の第三工程を示す図、図6は止水方法の第二工程から第四工程にかけての変化を示す図、図7は収縮量マークの斜視図である。
【0012】
<止水構造1について>
図1において、止水構造1は、電線2の端末と端子金具3との接続部分4に形成される。本実施例の止水構造1は、上記接続部分4を止水するための、いわゆる電線止水構造として形成される。尚、本実施例においては、接続部分4が特許請求の範囲に記載された「内含物」に相当するものとする(内含物は接続部分4に限らず、後述する熱収縮チューブ5を用いて水分の付着や浸入、浸透等を避けたい物であれば特に限定されないものとする。例えば端子金具3を含まずに電線2の端末同士のスプライス部分などが一例として挙げられるものとする)。止水構造1は、本実施例において、自動車に配索されるワイヤハーネスに適用される。このような止水構造1は、上記内含物である接続部分4と、熱収縮チューブ5と、この熱収縮チューブ5の内面に設けられた接着剤6とを備えて構成される。止水構造1は、接続部分4を覆って収縮した後の熱収縮チューブ5の外面に収縮量マーク7が形成される点が特徴になる。
【0013】
<電線2について>
図2において、電線2は、導電性を有する極細の素線からなる導体8と、この導体8の外側を被覆する絶縁性の絶縁体9とを備えて構成される。導体8は、銅や銅合金、或いはアルミニウムやアルミニウム合金により断面円形に形成される。絶縁体9は、熱可塑性樹脂材料を用いて導体8の外周面に押出成形される。絶縁体9は、断面円形状の被覆として形成される。絶縁体9は、所定の厚みを有して形成される。尚、上記熱可塑性樹脂としては、公知の様々な種類のものが使用可能であり、例えばポリ塩化ビニル樹脂やポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などの高分子材料から適宜選択される。以上のような電線2は、端末の絶縁体9が所定長さで皮剥されて導体8が露出した部分が形成される。すなわち、導体露出部10が形成される。電線2は特に図示しないが複数本用意され、上記ワイヤハーネスのハーネス本体を構成するものになる。
【0014】
<端子金具3について>
図2において、端子金具3は、導電性を有する金属板をプレス加工することにより例えば図示形状に形成される。端子金具3は、電気接触部11と、電線接続部12と、連結部13とを有する。電気接触部11は、図示しない相手端子との接続部分として形成される。本実施例の電気接触部11は雄形に形成される(一例であり雌形であってもよいものとする)。電気接触部11は、相手端子との接続部分になることから、後述する熱収縮チューブ5で覆われないものとする。このような電気接触部11に対し連結部13を介して連続する電線接続部12は、基板14と、一対の導体加締め部15と、一対の被覆加締め部16とを有する。基板14は、連結部13に連続する部分であって、電線接続部12におけるベース部分に形成される。また、基板14は、導体露出部10(導体8)及び絶縁体9の受け部分として形成される。このような基板14の左右両側に連続する一対の導体加締め部15及び一対の被覆加締め部16は、導体露出部10を加締めて圧着する部分及び絶縁体9を加締めて保持する部分として形成される。
【0015】
<接続部分4について>
図2において、接続部分4は、一対の導体加締め部15及び一対の被覆加締め部16と、導体露出部10(導体8)及び絶縁体9とを加締めることにより形成される。接続部分4は、水分の付着や浸入、浸透等を避けたい部分であって、そのため本発明では、後述する熱収縮チューブ5を用いた止水構造1が採用される。
【0016】
<熱収縮チューブ5について>
図3において、熱収縮チューブ5は、熱を受けると収縮する円形のチューブに形成される。熱収縮チューブ5は、予め電線2に挿通されて、接続部分4の形成後にこの接続部分4を覆うことができる大きさに形成される(別な言い方をすれば、覆うことができる大きさのものが採用される)。熱収縮チューブ5は、例えばポリオレフィン系樹脂などの合成樹脂材料を用いて成形機により成形される。尚、特許文献の欄で挙げた特許文献1にも開示されているが、熱収縮チューブ5は、押出成形により細い管状に成形された樹脂部材が、架橋処理後、加熱された状態で太い管状に引きのばされ、この引きのばされた後に冷却が施されて形成される。図3に示す熱収縮チューブ5は、引きのばされた後に冷却が施されて形成されたものである。このような熱収縮チューブ5は、熱を受けると、引きのばされる前の細い管状まで収縮する形状記憶特性を有する。以上のような、加熱され収縮した熱収縮チューブ5は、接着剤6により接続部分4に密着する。
【0017】
<接着剤6について>
図3において、接着剤6は、熱収縮チューブ5の内面(内周面)全体に設けられる。接着剤6は、所定の厚みを有するように設けられる(厚みは部分的に薄くしたりするような加工を施してもよいものとする)。接着剤6は、変性オレフィン系又はポリエステル系のホットメルト接着剤などが一例として挙げられるものとする。接着剤6は、熱収縮チューブ5の内側で接続部分4に対し密着して固化するようになる。
【0018】
<収縮量マーク7について>
図1において、収縮量マーク7は、接続部分4を覆って収縮した後の熱収縮チューブ5の外面に形成される。収縮量マーク7は、熱収縮チューブ5の上記形状記憶特性を利用して形成される。収縮量マーク7は、マーク底部分17の厚みの変化が熱収縮チューブ5の収縮前後で抑制された部分に形成される(別な言い方をすれば、厚みが変わらないような部分に形成される)。収縮量マーク7は、例えばマーク底部分17までの深さに基づき熱収縮チューブ5の収縮量を直接確認する部分として、また、収縮量を適正に管理する部分(直接管理をする部分)として形成される。収縮量マーク7は、本実施例において凹状の形状部分に形成される(凹状の形状部分は一例であるものとする。例えば凹凸状の形状部分に形成されてもよいものとする)。収縮量マーク7は、端子金具3における電線接続部12の基板14側に配置される。具体的には、被覆加締め部16の位置に合わせて基板14側に配置される(導体加締め部15の位置や、導体加締め部15及び被覆加締め部16の間の位置に合わせてもよいものとする)。
【0019】
<止水方法について>
図1において、止水方法は、止水構造1を形成するための方法であって、本実施例においては、いわゆる電線止水方法として提供される。止水方法は、第一工程~第四工程までを順に経る方法である。以下、第一工程~第四工程について説明をする。
【0020】
図3において、第一工程では、内面に接着剤6が設けられた熱収縮チューブ5を用いて接続部分4を覆う作業を行う。具体的には、予め電線2に挿通しておいた熱収縮チューブ5をスライドさせて、このスライドさせた熱収縮チューブ5により端子金具3の連結部13から電線2の絶縁体9にかけて覆う作業を行う。尚、収縮前の熱収縮チューブ5は、接続部分4に対しブカブカの状態でありスライド自在になる。
【0021】
図4において、第二工程では、マーク形成具18を用いて熱収縮チューブを接続部分4に対し押す作業を行う。具体的には、端子金具3の被覆加締め部16の位置に合わせてマーク形成具18を押し上げ、そして、マーク形成具18の先端19と端子金具3の基板14との間に熱収縮チューブ5を挟み込むような状態にする作業を行う。マーク形成具18は、この先端19が凸状となる形状部分に形成される。具体的には、所定の高さに突出し且つ図の紙面垂直方向に真っ直ぐのびるリブ状(突条)となる形状に先端19は形成される(形状は一例であるものとする。例えば環状のリブ形状であってもよいものとする。収縮量マーク7(図1参照)が凹状又は凹凸状に形成できれば特に限定されないものとする)。マーク形成具18の先端19は、後述する取り外しに配慮して、側面が若干テーパを有する形状に形成される。
【0022】
図5において、第三工程では、マーク形成具18にて押した状態で熱収縮チューブ5を収縮させる作業を行う。熱収縮チューブ5は、図の上下等に配置されたヒーター20からの熱を受けると、二点鎖線で示すような状態までに収縮する。この収縮についてもう少し詳しく説明をすると、熱収縮チューブ5は、ヒーター20からの熱を受けて収縮し、図6(a)から図6(b)の状態へと変化する。すなわち、熱収縮チューブ5は上記形状記憶特性によって、引きのばされる前の細い管状まで収縮しようとすることから、その際、熱収縮チューブ5の厚みT1(引きのばされた後の厚み)が厚みT2(引きのばされる前の厚み、若しくはこれに近い厚み)へと変化する。この変化は、マーク形成具18の先端19で押されている図5の熱収縮チューブ5を見ても分かるように、図の下側の実線よりも二点鎖線の方が外側(下側)に描かれるような変化になる。
【0023】
図6において、第四工程では、収縮後の熱収縮チューブ5からマーク形成具18を取り外すことで、この取り外した部分を収縮量マーク7にする作業を行う。別な言い方をすれば、取り外したマーク形成具18の先端19の跡(凹状の跡)を収縮量マーク7として形成する作業を行う。第四工程で形成された収縮量マーク7は、マーク底部分17の厚みの変化が熱収縮チューブ5の収縮前後で抑制された部分になることから、マーク底部分17までの深さに基づき熱収縮チューブ5の収縮量を直接確認することができ、また、収縮量を直接管理することもできる。以上、第四工程まで順に経ることにより、接続部分4に収縮量マーク7を有する止水構造1が形成される(図1及び図7参照)。
【0024】
<止水構造1及び止水方法の効果について>
以上、図1ないし図7を参照しながら説明してきたように、本発明の一実施形態である止水構造1によれば、収縮後の熱収縮チューブ5の外面に収縮量マーク7が形成されることから、この収縮量マーク7の凹の状態を直接確認することで、収縮量を容易に把握することができる。また、収縮量の直接管理も容易に行うことができる。
【0025】
また、止水構造1によれば、内含物が電線2の端末と端子金具3との接続部分4であることから、収縮量マーク7により接続部分4における止水状態の直接確認・直接管理をすることができる。また、止水構造1によれば、端子金具3の基板14の外面側に収縮量マーク7が配置されることから、収縮量マーク7の裏に金属の基板14が存在することになり、その結果、収縮量マーク7の形成状態を安定させることができる(マーク形成具18の先端19による熱収縮チューブ5の押し付け状態を安定させることができ、以て収縮量マーク7の形成状態を安定させることもできる)。これにより収縮量の信頼性を確保することもできる。
【0026】
一方、本発明の一実施形態である止水方法によれば、上記第一工程~第四工程までを順に経ることで、収縮量マーク7を有する止水構造1を接続部分4に形成できることから、止水構造1と同様の効果を奏するのは勿論である。
【0027】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0028】
1…止水構造、 2…電線、 3…端子金具、 4…接続部分(内含物)、 5…熱収縮チューブ、 6…接着剤、 7…収縮量マーク、 8…導体、 9…絶縁体、 10…導体露出部、 11…電気接触部、 12…電線接続部、 13…連結部、 14…基板、 15…導体加締め部、 16…被覆加締め部、 17…マーク底部分、 18…マーク形成具、 19…先端、 20…ヒーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7