(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】水性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 123/14 20060101AFI20240319BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240319BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C09D123/14
C09D5/02
C09D167/00
(21)【出願番号】P 2020565710
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019051041
(87)【国際公開番号】W WO2020145171
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2019000925
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 美香
(72)【発明者】
【氏名】慶長 和明
(72)【発明者】
【氏名】天木 慎悟
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-229710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0149453(US,A1)
【文献】国際公開第2018/207891(WO,A1)
【文献】特開2016-148006(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0143628(US,A1)
【文献】特開2010-111879(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121242(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン(a1)を含有するポリオレフィン樹脂水分散体(A)、カルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)及び樹脂酸価が3~100mgKOH/gであるポリエステル樹脂の水分散体(C)を含有し、
前記ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対し、
前記架橋剤(B)の固形分含有量が、0.1~
15質量%であり、
前記ポリエステル樹脂の水分散体(C)の固形分含有量が、0.5~30質量%である、水性塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対し、前記ポリプロピレン(a1)の含有量が40質量%以上である、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水性塗料組成物による硬化塗膜を缶体の少なくとも一部に有する、塗装金属缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性、耐水性、加工性及び耐膜残り性に優れ、特に缶蓋用に適した水性塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
缶内面用の塗料としては、耐食性等の塗膜性能及び塗装作業性等の観点から、エポキシ系、ポリ塩化ビニル系、及びポリエステル系等の様々な塗料組成物が使用されてきた。
特に、ビスフェノールA(BPA)等を含む原料を用いて製造されたエポキシ樹脂を基体樹脂として含有する塗料組成物が広く一般的に使用されてきた。
【0003】
しかしながら、環境への影響の観点から、BPAを含有する原料(残留レベルのBPAを含有し得る原材料も含む)を使用しない缶内面用の塗料組成物が望まれている。例えば、特許文献1、2及び3に記載のビニル系やアクリル系の樹脂を基体樹脂とする塗料組成物等が開示されている。
【0004】
近年においてはさらに、BPA等だけでなく、スチレン、ホルムアルデヒド、イソシアネート等にも規制対象物質の範囲が拡張される法規制が特に欧米において制定されつつあり、規制は強化されつつある。
このように規制対象物質が増加し、塗料組成物に使用可能な原材料選択の自由度が限られていく現状において、缶内面用塗料組成物の基体樹脂として有力な樹脂の1つに、ポリオレフィン樹脂がある。
【0005】
さらには、缶内面用塗料においては、有機溶剤削減の観点から水性塗料が開発されつつある。
【0006】
ポリオレフィン樹脂を基体樹脂とする缶内面等用途の塗料組成物として、特許文献4には、ポリオレフィンを含む水性分散液とアルコールを含有する安定化溶媒組成物等を構成成分とするコーティング組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2005-120306号公報
【文献】日本国特開2005-179491号公報
【文献】日本国特開2016-113561号公報
【文献】日本国特表2016-501291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献4に記載のコーティング組成物は、貯蔵安定性に優れるが、得られる塗膜の耐食性、加工性、耐水性が不十分となる場合があった。また、缶の蓋部に塗装をする缶蓋用途に適用した場合に、耐膜残り性が不十分となる場合があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ビスフェノールA等の法規制物質を含有する原材料を使用することなく、耐食性、耐水性及び加工性に優れ、特に缶蓋用途に適用した際の耐膜残り性にも優れる、缶内面用途に適した水性塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ポリプロピレン(a1)を含有するポリオレフィン樹脂水分散体(A)、カルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)ならびに特定樹脂酸価範囲のポリエステル樹脂の水分散体(C)を含有する水性塗料組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記内容に関する。
1.ポリプロピレン(a1)を含有するポリオレフィン樹脂水分散体(A)、カルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)及び樹脂酸価が3~100mgKOH/gであるポリエステル樹脂の水分散体(C)を含有し、
前記ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対し、
前記架橋剤(B)の固形分含有量が、0.1~20質量%であり、
前記ポリエステル樹脂の水分散体(C)の固形分含有量が、0.5~30質量%である、水性塗料組成物。
2.前記ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対し、前記ポリプロピレン(a1)の含有量が40質量%以上である、上記1に記載の水性塗料組成物。
3.上記1又は2に記載の水性塗料組成物による硬化塗膜を缶体の少なくとも一部に有する、塗装金属缶。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性塗料組成物は、基体樹脂であるポリオレフィンがポリプロピレンを含有するため、耐食性及び加工性に優れる。また、本発明の水性塗料組成物は、カルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤も含有することから、得られる塗膜は耐水性等の塗膜性能にも優れている。
【0013】
さらには、本発明の水性塗料組成物は特定樹脂酸価範囲のポリエステル樹脂も含有するため、缶蓋用途として求められる重要な性能である耐膜残り性、加工性にも優れている。
【0014】
上記の通り、本発明によれば、缶内面用に好適であり、特に缶蓋用途において、耐食性、耐水性、加工性及び耐膜残り性のいずれにも優れる塗膜を得ることができる水性塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ポリプロピレン(a1)を含有するポリオレフィン樹脂水分散体(A)、カルボキシル基と反応する官能基を有する架橋剤(B)及び樹脂酸価が3~100mgKOH/gであるポリエステル樹脂の水分散体(C)を含有し、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対し、架橋剤(B)の固形分含有量が、0.1~20質量%であり、ポリエステル樹脂の水分散体(C)の固形分含有量が、0.5~30質量%である水性塗料組成物(以下、略して、本塗料、と称することもある)に関する。
【0016】
以下、本発明の実施形態に係る内容を詳細に説明する。なお、本明細書において「質量」を基準とした割合(百分率、部など)は「重量」を基準とした割合(百分率、部など)と同じである。
【0017】
<水性塗料組成物>
〔ポリオレフィン樹脂水分散体(A)〕
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物におけるポリオレフィン樹脂水分散体(A)は、ポリオレフィン樹脂が、水を主成分とする媒体中に分散された態様で存在している分散液である。
【0018】
本塗料において、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の必須成分として、ポリプロピレン(a1)を含有する。
耐食性の観点から、ポリプロピレン(a1)の固形分含有量は、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対し、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。
【0019】
本塗料において、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)は、必須成分であるポリプロピレン(a1)に加え、ポリプロピレン(a1)以外のポリオレフィン樹脂(a2)を含有していてもよい。
【0020】
ポリオレフィン樹脂(a2)としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリ-1-ブテン、ポリ-3-メチル-1-ブテン、ポリ-3-メチル-1-ペンテン、ポリ-4-メチル-1-ペンテン、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-1-ブテンコポリマー、及びプロピレン-1-ブテンコポリマーで表されるような、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、及び1-ドデセン等の1つ以上のα-オレフィンのホモポリマー及びコポリマー(エラストマーを含む)、エチレン-ブタジエンコポリマー及びエチレン-エチリデンノルボルネンコポリマーで表され得るような、共役又は非共役ジエンを有する1つのα-オレフィンのコポリマー(エラストマーを含む)、ならびにエチレン-プロピレン-ブタジエンコポリマー、エチレン-プロピレン-ジシクロペンタジエンコポリマー、エチレン-プロピレン-1,5-ヘキサジエンコポリマー、及びエチレン-プロピレン-エチリデンノルボルネンコポリマーで表され得るような、共役または非共役ジエンを有する2つ以上のα-オレフィンのコポリマー等のポリオレフィン(エラストマーを含む)、エチレン-ビニルアセテートコポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、エチレン-ビニルクロライドコポリマー、エチレン-アクリル酸コポリマー、エチレン-メタクリル酸コポリマー、及びエチレン-(メタ)アクリレートコポリマー等のエチレン-ビニル化合物コポリマー等を挙げることができる。
【0021】
ポリオレフィン樹脂(a2)は、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、エステル基、無水物基等の官能基、又はこれらの官能基の2種以上を有するものであってもよい。ポリオレフィン樹脂(a2)は1種を単独で、もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお本明細書において「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
【0022】
ポリオレフィン樹脂水分散体(A)は、安定性(例えば、水分散体形成の促進)の観点から、安定化剤を含有することもできる。
安定化剤としては、例えば、界面活性剤、ポリマー等を挙げることができる。安定化剤は1種を単独で、もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等を挙げることができる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、スルホネート、カルボキシレート、及びホスフェート等を挙げることができる。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、四級アミン塩等を挙げることができる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレン等のノニオン基を含有するポリマー及びシリコーン界面活性剤等を挙げることができる。
界面活性剤としては、ポリオレフィン樹脂と反応性を有する反応性界面活性剤を使用することもできる。
【0024】
ポリマーとしては、例えば、極性基を有する極性ポリマーを挙げることができる。
極性ポリマーとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂等の樹脂に基づくものを挙げることができる。
極性ポリマーとしては、極性基を有するポリオレフィン樹脂も使用することができる。極性を有する官能基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基、エトキシ基、カルボキシル基、エステル基、無水物基等を挙げることができる。
【0025】
また、安定化剤として、例えば、12~60個の炭素原子を有する長鎖脂肪酸や、脂肪酸塩、脂肪酸アルキルエステル、エチレン-アクリル酸樹脂等を使用することもできる。
【0026】
安定化剤を使用する場合、安定化剤の固形分含有量は、安定化剤の種類によっても異なるが、貯蔵安定性の観点から、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対して、5~35質量%が好ましく、特に10~30質量%の範囲内であることが好ましい。
【0027】
ポリオレフィン樹脂水分散体(A)には、必要に応じて中和剤として塩基性化合物を添加してもよい。
塩基性化合物としては、例えば、水酸化物、炭酸塩、アミン等を挙げることができる。
【0028】
水酸化物としては、例えば、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等を挙げることができる。
炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸塩カルシウム等を挙げることができる。
アミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アンモニア、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、モノ-n-プロピルアミン、ジメチル-n-プロピルアミン、N-メタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、N,N-ジメチルプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシルプロピル)エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、N,N’-エチレンビス[ビス(2-ヒドロキシプロピル)アミン]トルエン-p-スルホナート等を挙げることができる。塩基性化合物としては、耐水性の観点から、アミンが好ましい。
【0029】
ポリオレフィン樹脂水分散体(A)は、公知の方法により製造することができる。具体的には、例えば、ポリプロピレン(a1)、必要に応じて使用されるポリオレフィン樹脂(a2)、水、必要に応じて安定化剤、中和剤(塩基性化合物)等を添加し、溶融混練することにより製造することができる。
【0030】
具体的な製造手順としては、例えば、水及び1種以上の中和剤の存在下で、ポリプロピレン(a1)、必要に応じて使用されるポリオレフィン樹脂(a2)、必要に応じて使用される1種以上の安定化剤を溶融混合して乳化混合物を形成する。そして、必要に応じて熱を除去しながら該乳化混合物をさらなる希釈水と接触させ、水中に分散した粒子を形成させることにより水分散体を製造することができる。
【0031】
ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分の平均粒子径は、100~1000nmが好ましく、特に110~900nmが好ましく、さらに特に120~800nmの範囲内であることが塗装作業性の観点から好ましい。
平均粒子径は、粒子径測定装置、例えばコールター(coulter)(登録商標) N4MD(ベックマン・コールター社製、商品名)によって測定することができる。
【0032】
ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分含有量(固形分総量)は、高固形分化の観点から、25質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましい。また、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分含有量(固形分総量)は、製造性の観点から、65質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましい。
【0033】
〔架橋剤(B)〕
架橋剤(B)は、カルボキシル基と反応する官能基を有する化合物である。架橋剤(B)は、通常、カルボキシル基と反応する官能基を分子内に2つ以上有する。
架橋剤(B)を含有することで、本発明の実施形態に係る水性塗料組成物の硬化性を高め、得られる塗膜の耐食性、耐水性等の塗膜性能、特に耐水性を向上させることができる。
【0034】
カルボキシル基と反応する官能基としては、例えば、ヒドロキシアルキルアミド基、オキサゾリン基、アジリジン基、イミド基(特に、カルボジイミド基)、エポキシ基、水酸基、メチロール基等を挙げることができる。
上記官能基のうち、貯蔵安定性の観点から、ヒドロキシアルキルアミド基が好ましい。
【0035】
架橋剤(B)として、具体的には、例えば、ヒドロキシアルキルアミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、イミド系架橋剤(特に、カルボジイミド基を有する架橋剤)、エポキシ系架橋剤、水酸基を有する架橋剤等を挙げることができる。
【0036】
ヒドロキシアルキルアミド系架橋剤としては、例えば、ビス(N,N’-ジヒドロキシエチル)アジパミド等を挙げることができる。具体的には、スイスのEMS-GRILTECH社の市販品、PRIMID(登録商標)XL-522、PRIMID(登録商標)SF-4510等の、PRIMID(登録商標、架橋剤樹脂の商品名)を使用することができる。
【0037】
オキサゾリン系架橋剤としては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等のオキサゾリン基を含むビニル系モノマーを含有する成分が挙げられる。オキサゾリン基を含むビニル系モノマーを含有する成分としては、オキサゾリン基を含むビニル系モノマーの単独重合体や、複数のオキサゾリン基を含むビニル系モノマーを組み合わせた共重合体、又はオキサゾリン基を含むビニル系モノマーと他のモノマーとを共重合したビニル樹脂あるいはアクリル樹脂等を挙げることができる。市販品としては、株式会社日本触媒製のエポクロスWS-300、WS-500、WS-700、エポクロスK-2010、K-2020、K-2030(エポクロスは登録商標)等を挙げることができる。
【0038】
アジリジン系架橋剤としては、例えばグリセロール-トリス(1-アジリジニルプロピオネート)、グリセロール-トリス[2-メチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、グリセロール-トリス[2-エチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、グリセロール-トリス[2-ブチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート)、グリセロール-トリス[2-プロピル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、グリセロール-トリス[2-ペンチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、グリセロール-トリス[2-ヘキシル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、グリセロール-トリス[2,3-ジメチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、グリセロール-トリス[2,3-ジエチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、グリセロール-トリス[2,3-ジブチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート)、グリセロール-トリス[2,3-ジプロピル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、グリセロール-トリス[2,3-ジペンチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、グリセロール-トリス[2,3-ジヘキシル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス(1-アジリジニルプロピオネート)、トリメチロールプロパン-トリス[2-メチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス[2-エチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス[2-ブチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート)、トリメチロールプロパン-トリス[2-プロピル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス[2-ペンチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス[2-ヘキシル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス[2,3-ジメチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス[2,3-ジエチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス[2,3-ジブチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート)、トリメチロールプロパン-トリス[2,3-ジプロピル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス[2,3-ジペンチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、トリメチロールプロパン-トリス[2,3-ジヘキシル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス(1-アジリジニルプロピオネート)、テトラメチロールメタン-トリス[2-メチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス[2-エチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス[2-ブチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート)、テトラメチロールメタン-トリス[2-プロピル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス[2-ペンチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス[2-ヘキシル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス[2,3-ジメチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス[2,3-ジエチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス[2,3-ジブチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート)、テトラメチロールメタン-トリス[2,3-ジプロピル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス[2,3-ジペンチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラメチロールメタン-トリス[2,3-ジヘキシル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ(1-アジリジニルプロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラ[2-メチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ[2-エチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ[2-ブチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラ[2-プロピル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ[2-ペンチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ[2-ヘキシル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ[2,3-ジメチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ[2,3-ジエチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ[2,3-ジブチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート)、ペンタエリスリトール-テトラ[2,3-ジプロピル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ[2,3-ジペンチル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラ[2,3-ジヘキシル-(1-アジリジニル)]プロピオネート、テトラアジリジニルメタキシレンジアミン、テトラアジリジニルメチルパラキシレンジアミン、テトラメチルプロパンテトラアジリジニルプロピオネート、ネオペンチルグリコールジ(β-アジリジニルプロピオネート)、4,4’-イソプロピリデンジフェノールジ(β-アジリジニルプロピオネート)、4,4’-メチレンジフェノールジ(β-アジリジニルプロピオネート)、4,4’-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等を挙げることができる。
【0039】
イミド系架橋剤(特に、カルボジイミド基を有する架橋剤)としては、例えば1,3-ジイソプロピルカルボジイミド(すなわち、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド)、N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド、又はこれらの塩酸塩等のカルボジイミド誘導体を挙げることができる。
【0040】
カルボジイミド基を有する架橋剤としては、市販品として、例えば、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライト(商品名、登録商標)を使用することができる。カルボジライトとしては、水溶性タイプの「V-02」、「V-02-L2」、「SV-02」、「V-04」、「V-10」、「SW-12G」等(いずれも品名)、エマルションタイプの「E-02」、「E-03A」、「E-05」等(いずれも品名)を挙げることができる。
【0041】
エポキシ系架橋剤としては、分子内に少なくとも二つのエポキシ基(グリシジル基)を有するエポキシ樹脂(化合物)であれば公知のものを特に制限なく使用することができる。エポキシ樹脂(化合物)のなかでも、特に脂環式エポキシ化合物を好適に使用することができる。
【0042】
上記脂環式エポキシ化合物としては、市販品を使用することができ、具体的には、ナガセケムテックス株式会社製のデナコール(商品名、登録商標)を挙げることができる。
デナコールとしては、2官能タイプの「EX-211」、「EX-212」、「EX-252」、「EX-810」、「EX-811」、「EX-850」、「EX-851」、「EX-821」、「EX-830」、「EX-832」、「EX-841」、「EX-861」、「EX-911」、「EX-941」、「EX-920」、「EX-931」等(いずれも製品名)、多官能タイプの「EX-313」、「EX-314」、「EX-321」、「EX-411」、「EX-421」、「EX-512」、「EX-521」、「EX-612」、「EX-614」、「EX-614B」等(いずれも製品名)を挙げることができる。
【0043】
水酸基を有する架橋剤としては、例えばグリセリン、エチレングリコールペンタエリスリトール、ペンタグリセロール、ポリビニルアルコール等の脂肪族アルコール類;フロログルシトール、クエルシトール、イノシトール等の脂環式アルコール類;トリス(ヒドロキシ)ベンゼン等の芳香族アルコール類;でんぷん、D-エリトロース、L-アラビノース、D-マンノース、D-ガラクトース、D-フルクトース、L-ラムノース、サッカロース、マルトース、ラクトース等の糖類;エリトリット、L-アラビット、アドニット、キシリット等の糖アルコール類;等の2官能以上、好ましくは3官能以上の多価アルコールを挙げることができる。
【0044】
架橋剤(B)は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
架橋剤(B)の固形分含有量は、架橋剤の種類によっても異なるが、特に耐水性及び耐食性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対して、0.1~20質量%である。ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対する架橋剤(B)の固形分含有量は、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対する架橋剤(B)の固形分含有量は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0045】
〔ポリエステル樹脂の水分散体(C)〕
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、ポリエステル樹脂の水分散体(C)を含有する。ポリエステル樹脂の水分散体(C)により、本発明の実施形態に係る水性塗料組成物により得られる塗膜の柔軟性等の物性が向上し、特に缶蓋用途の重要性能である耐膜残り性、及び加工性を向上させることができる。なお、本明細書において膜残りとは、缶蓋を開口した時に、缶蓋開口タブに塗膜片が残ってしまう不具合のことをいう。
【0046】
ポリエステル樹脂の水分散体(C)が含有するポリエステル樹脂の樹脂酸価は、塗料組成物の水分散安定性及び得られる塗膜の耐水性の観点から、3~100mgKOH/gである。上記樹脂酸価は、好ましくは4mgKOH/g以上であり、より好ましくは5mgKOH/g以上である。また、上記樹脂酸価は、好ましくは95mgKOH/g以下であり、より好ましくは90mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは50mgKOH/g以下である。
樹脂酸価が3mgKOH/g以上であると、ポリエステル樹脂の水分散体(C)および得られる水性塗料組成物の安定性が向上する。また、樹脂酸価が100mgKOH/g以下であると、得られる塗膜の耐水性が向上する。
【0047】
ポリエステル樹脂の水分散体(C)が含有するポリエステル樹脂は、例えば、オイルフリーポリエステル樹脂、油変性アルキド樹脂、また、これらの樹脂の変性物、例えばウレタン変性ポリエステル樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂等のいずれであってもよい。これらのポリエステル樹脂のうち、オイルフリーポリエステル樹脂を好適に使用することができる。
【0048】
オイルフリーポリエステル樹脂は、一般に多塩基酸と多価アルコールとのエステル化物である。多塩基酸成分としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、コハク酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等から選ばれる二塩基酸が主として用いられる。多塩基酸成分としては、さらに必要に応じて無水トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、無水ピロメリット酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート等の3価以上の多塩基酸等も併用することができる。
上記オイルフリーポリエステル樹脂にスルホン酸基を導入する場合は、5-スルホイソフタル酸ナトリウム等のスルホン酸塩基含有多塩基酸を併用することもできる。
上記多塩基酸成分以外の酸成分として、必要に応じて、安息香酸、クロトン酸、p-tert-ブチル安息香酸等の一塩基酸も併用することができる。これらの酸成分は単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
多価アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチルペンタンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の二価アルコールが主として用いられる。多価アルコール成分としては、さらに必要に応じてグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコールも併用することができる。これらの多価アルコールは単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
両成分のエステル化反応は、公知の方法によって行うことができる。
【0050】
オイルフリーポリエステル樹脂は、上記エステル化反応において、多塩基酸のかわりに多塩基酸のアルキルエステル(例えばメチルエステル、エチルエステル等)を用い、エステル交換反応を行うことによっても得ることができる。両成分のエステル交換反応は、公知の方法によって行うことができる。
【0051】
上記オイルフリーポリエステル樹脂において、耐レトルト性及び耐内容物性の観点から、酸成分のうち、芳香族ジカルボン酸の占める割合が80~100モル%であることが好ましい。
【0052】
油変性アルキド樹脂は、上記オイルフリーポリエステル樹脂の酸成分及びアルコール成分に加えて、さらに油脂肪酸を公知の方法で反応せしめることにより得られる樹脂である。
油脂肪酸としては、例えば、ヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、キリ油脂肪酸等を挙げることができる。
【0053】
ウレタン変性ポリエステル樹脂は、上記オイルフリーポリエステル樹脂を、ポリイソシアネート化合物と公知の方法で反応せしめることにより得られる樹脂である。ウレタン変性アルキド樹脂は、アルキド樹脂を、ポリイソシアネート化合物と公知の方法で反応せしめることにより得られる樹脂である。
ウレタン変性ポリエステル樹脂及びウレタン変性アルキド樹脂を製造する際に使用するポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、2,4,6トリイソシアナトトルエン等を挙げることができる。
【0054】
ポリエステル樹脂の水分散体(C)の固形分含有量は、ポリエステル樹脂の種類によっても異なるが、特に耐膜残り性及び加工性向上の観点から、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対して、0.5~30質量%である。ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対するポリエステル樹脂の水分散体(C)の固形分含有量は1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましい。また、ポリオレフィン樹脂水分散体(A)の固形分総量に対するポリエステル樹脂の水分散体(C)の固形分含有量は25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0055】
ポリエステル樹脂の水分散体(C)が含有するポリエステル樹脂はガラス転移温度(以下、「Tg」と略称することがある)が-20~100℃であることが好ましく、特に0~80℃の範囲内であることが好ましい。
ポリエステル樹脂のTgが100℃以下であることで、加工性が向上する。また、ポリエステル樹脂のTgが-20℃以上であることで、得られる塗膜の耐食性、耐水性が向上する。
【0056】
ポリエステル樹脂の水分散体(C)が含有するポリエステル樹脂は数平均分子量が3000~100000であることが好ましく、特に5000~50000であることが好ましく、さらに特に10000~30000の範囲内であることが耐食性、耐水性及び耐膜残り性の観点から好ましい。
【0057】
ポリエステル樹脂の水分散体(C)が含有するポリエステル樹脂は水酸基価が0.5~40mgKOH/gであることが好ましく、特に3~20mgKOH/gであることが、得られる塗膜の硬度、耐水性の観点から好ましい。
【0058】
本明細書において、Tgは示差走査熱量計を用いた示差熱分析(DSC)によって測定される。また数平均分子量は、下記のようなゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定される。
数平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(東ソー株式会社製、「HLC(登録商標)8120GPC」)で測定される保持時間(保持容量)を、ポリスチレンの数平均分子量を基準にして換算する値である。カラムは、「TSKgel G-4000HXL」、「TSKgel G-3000HXL」、「TSKgel G-2500HXL」、「TSKgel G-2000XL」(いずれも東ソー株式会社製、商品名、TSKgelは登録商標)の4本を用い、移動相:テトラヒドロフラン、測定温度:40℃、流速:1mL/分、検出器:RIの条件で行うことができる。
【0059】
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、水を主成分とする媒体を含有するものである。塗装作業性の観点から、本発明の実施形態に係る水性塗料組成物の固形分濃度は、10~50質量%であることが好ましく、特に20~40質量%であることが好ましく、さらに特に25~35質量%の範囲内であることが好ましい。
【0060】
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、上記の含有成分を公知の手段により適宜混合することにより調製することができる。本発明の実施形態に係る水性塗料組成物には、さらに必要に応じて、有機溶剤、消泡剤、シランカップリング剤、界面活性剤、潤滑剤、ワックス、粘性調整剤、顔料等の従来から公知の原料を適宜混合して使用することができる。
【0061】
本発明で用いることができる上記有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、イソブタノール、アミルアルコール、n-ヘキサノール、オクタノール、2-エチルヘキシルアルコールの如きアルキルアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ヘキシルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトールの如きグリコールエーテル類;又はメチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートの如きグリコールエーテルエステル類等であり、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ダイアセトンアルコール等を挙げることができる。これらの有機溶剤は2種類以上を併用することもできる。
【0062】
上記消泡剤としては、例えば、アクリル系、ビニルエーテル系、ジメチルポリシロキサン系等化合物を挙げることができ、これらは2種類以上を併用することもできる。
【0063】
上記シランカップリング剤としては、例えば、有機官能基としてビニル基を有するもの、アミノ基を有するもの、メタクリル基を有するもの、アクリル基を有するもの等を挙げることができ、これらは2種類以上を併用することもできる。
【0064】
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、種々の基材に適用することができる。基材としては、例えばアルミニウム板、鋼板、ブリキ板等の無処理の又は表面処理をした金属板、及びこれらの金属板にエポキシ系、ビニル系等のプライマーを塗装した金属板等、ならびにこれらの金属板を缶等に加工したものを挙げることができる。
【0065】
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物が塗装される缶としては、蓋部及び底部と一体化した胴体部との2つの部位で構成される2ピース缶や、蓋部と底部及び胴体部の3つの部位からなる3ピース缶、ボトル缶等の種々の形態を有する缶を挙げることができる。上記各缶の各部位に本発明の実施形態に係る水性塗料組成物を塗装することができる。
【0066】
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物から得られる塗膜は、耐食性、耐水性及び加工性に優れているため、飲料缶等の缶内面の塗装に好適に使用することができる。さらに、本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、特に耐膜残り性に優れることから、製造過程において凹凸状の変化を繰返し受け、また、開口部タブを有する蓋部の塗装に特に好適に使用することができる。
また、本発明の実施形態に係る水性塗料組成物は、缶内面のシーム部(つなぎ目部)の補修塗装、缶蓋の外面やタブ等の缶外面の塗装に使用することもできる。
【0067】
本発明の実施形態に係る水性塗料組成物を基材に塗装する方法としては、公知の各種の方法、例えばロールコータ塗装、スプレー塗装、浸漬塗装や電着塗装等を適用することができる。なかでもロールコータ塗装もしくはスプレー塗装が好ましい。
【0068】
塗布量は用途によって適宜選定すればよいが、硬化塗膜重量で通常10~200mg/100cm2程度が好ましく、特に20~150mg/100cm2程度が好ましい。塗装塗膜の乾燥条件としては、通常、素材到達最高温度が120~300℃となる条件で乾燥時間が10秒間~30分間であることが好ましく、特に素材到達最高温度が200~280℃で乾燥時間が15秒間~10分間の範囲内であることが好ましい。
【0069】
〔塗装金属缶〕
本発明の実施形態に係る塗装金属缶は、上記の水性塗料組成物による硬化塗膜を缶体の少なくとも一部に有する。
【0070】
上記塗装金属缶に用いる水性塗料組成物は、上記<水性塗料組成物>における水性塗料組成物を用いることができ、好ましい態様も同様である。また、上記塗装金属缶において、水性塗料組成物の塗装の方法等も特に限定されず、上記<水性塗料組成物>における水性塗料組成物の塗装方法等を適宜採用することができる。上記缶体としては、上記<水性塗料組成物>において挙げたものと同様、種々の形態を有する缶を挙げることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。ここで単に「部」及び「%」と記す場合はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0072】
<製造例1 ポリオレフィン樹脂水分散体(A1)の製造>
212g/分で添加されるポリプロピレン(6D43(商品名)、Braskem America社製)、68g/分で添加されるPRIMACOR(登録商標) 5980i(商品名、エチレン-アクリル酸コポリマー、Dow Chemical社製)及び23g/分で添加されるLICOCENE(登録商標)6452(商品名、プロピレン-無水マレイン酸グラフトコポリマー、Clariant社製)を160℃に昇温した二軸押出機に供給した。脱イオン水を70g/分、ジメチルエタノールアミンを30g/分で押出機に供給し、希釈水を最終固形分が47%になるように押出機の希釈区画中の2つの位置に供給した。押出機温度プロファイルを、押出機の終わりまでに、100℃未満の温度に下げた。1200rpmで背圧調整しながら押出し、固形分47質量%のポリオレフィン樹脂水分散体(A1)を得た。
なお、ポリオレフィン樹脂水分散体(A1)は、固形分総量のうち、ポリプロピレンの固形分含有量が70質量%である。
【0073】
<製造例2 ポリオレフィン樹脂水分散体(A2)の製造>
150g/分で添加されるポリプロピレン(6D43(商品名)、Braskem America社製)、108g/分で添加されるPRIMACOR(登録商標) 5980i(商品名、エチレン-アクリル酸コポリマー、Dow Chemical社製)、及び45g/分で添加されるLICOCENE(登録商標)6452(商品名、プロピレン-無水マレイン酸グラフトコポリマー、Clariant社製)を160℃に昇温した二軸押出機に供給した。脱イオン水を70g/分、ジメチルエタノールアミンを30g/分で押出機に供給し、希釈水を最終固形分が47%になるように押出機の希釈区画中の2つの位置に供給した。押出機温度プロファイルを、押出機の終わりまでに、100℃未満の温度に下げた。1200rpmで背圧調整しながら押出し、固形分47質量%のポリオレフィン樹脂水分散体(A2)を得た。
なお、ポリオレフィン樹脂水分散体(A2)は、固形分総量のうち、ポリプロピレンの固形分含有量が49.5質量%である。
【0074】
<製造例3 ポリエステル樹脂の水分散体(C1)の製造>
(ポリエステル樹脂(c1)の合成)
攪拌機、コンデンサー、温度計を装備したステンレス製反応釜に表1に記載の各成分モル%になるように酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、及び5-スルホイソフタル酸ナトリウム、アルコール成分としてエチレングリコール、及びネオペンチルグリコール、重合触媒として塩基性酢酸アルミニウム(ヒドロキシアルミニウムジアセテート、シグマ アルドリッチ社製)及びIrganox1222(リン化合物、BASF社製)を仕込み、窒素雰囲気下、150~220℃でエステル化反応を行なった。次いで260℃まで加温しながら徐々に減圧し60分間かけて13.3Pa減圧とし、この温度ならびに減圧条件下で1時間重合を行なうことによりポリエステル樹脂(c1)を得た。得られたポリエステル樹脂(c1)の組成及び特性値を表1に示す。
【0075】
(ポリエステル樹脂の水分散体(C1)の製造)
ポリエステル樹脂(c1)100質量部(固形分量)、メチルエチルケトン120質量部、2-プロパノール30質量部、及び水10質量部を、攪拌機、コンデンサー、及び温度計を装備した反応缶に仕込み、50rpmで攪拌しながら、70℃まで昇温した。さらに3時間攪拌することにより、樹脂を完全に溶解した。
そこに、70℃の温水を300質量部添加し、水分散体を作製した。さらに容器内の温度を徐々に昇温し、有機溶剤を蒸留溜去した。反応缶内温度を室温まで冷却し、さらに200メッシュフィルターでろ過することにより、ポリエステル樹脂の水分散体(C1)を得た。
【0076】
<製造例4 ポリエステル樹脂の水分散体(C2)、(C3)の製造>
上記ポリエステル樹脂(c1)の合成と同様にして、表1に示した組成で各ポリエステル樹脂(c2)、(c3)を合成した。得られた各ポリエステル樹脂の特性値も併せて表1に示す。更に上記ポリエステル樹脂の水分散体(C1)の製造と同様にして各ポリエステル樹脂の水分散体(C2)、(C3)を得た。
【0077】
<製造例5 ポリエステル樹脂の水分散体(C4)の製造)>
(ポリエステル樹脂(c4)の合成)
攪拌機、コンデンサー、及び温度計を装備したステンレス製反応釜に表1に記載の各成分モル%になるように酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、及びトリメリット酸、アルコール成分としてエチレングリコール、及びネオペンチルグリコール、重合触媒として、製造例3で用いたものと同様の塩基性酢酸アルミニウム及びIrganox1222を仕込み、窒素雰囲気下150~220℃でエステル化反応を行なった。次いで240℃まで加温しながら徐々に減圧し60分間かけて13.3Pa減圧とした。
さらに系を220℃に保ち、窒素ガスで真空状態を解除し、窒素雰囲気下、所定量の無水トリメリット酸及びエチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートを添加し、30分間攪拌することによりポリエステル樹脂(c4)を得た。得られたポリエステル樹脂(c4)の組成及び特性値を表1に示す。
【0078】
(ポリエステル樹脂の水分散体(C4)の製造)
ポリエステル樹脂(c4)100質量部(固形分量)及びメチルエチルケトン120質量部を攪拌機、コンデンサー及び温度計を装備した反応缶に仕込み、50rpmで攪拌しながら、70℃まで昇温した。さらに3時間攪拌することにより、樹脂を完全に溶解した。そこに、2-プロパノール30質量部、トリエチルアミン25質量部、70℃の温水を300質量部添加し、水分散体を作製した。さらに容器内温度を徐々に昇温し、有機溶剤を蒸留溜去した。反応缶内温度を、室温まで冷却し、さらに200メッシュフィルターでろ過することにより、ポリエステル樹脂の水分散体(C4)を得た。
【0079】
<製造例6 ポリエステル樹脂の水分散体(C5)~(C10)の製造>
上記ポリエステル樹脂(c4)の合成と同様にして、表1に示した組成で各ポリエステル樹脂(c5)、(c6)、(c7)、(c8)、(c9)、(c10)を合成した。得られた各ポリエステル樹脂の特性値も併せて表1に示す。更に上記ポリエステル樹脂の水分散体(C4)の製造と同様にして各ポリエステル樹脂の水分散体(C5)、(C6)、(C7)、(C8)、(C9)、(C10)を得た。
【0080】
【0081】
<実施例1 水性塗料組成物No.1の製造>
表2に記載の原材料を表2に記載の組成比(質量固形分比)で混合し、脱イオン水で希釈しながらエチレングリコールモノブチルエーテルを7質量%、ヘキシレングリコールを2質量%となるように加え、ジメチルエタノールアミンでpHを8.0に調整して質量固形分濃度30%の水性塗料組成物No.1を得た。なお、ここでのエチレングリコールモノブチルエーテルおよびヘキシレングリコールの添加量は、表中の各塗料組成物の固形分総量に対する量(質量%)である。
表2及び表3中の各原材料の量の値は、各原材料の固形分の質量比(質量固形分比)を表す。また、表2及び表3中の注1~注4は下記のとおりである。
(注1)PRIMID(登録商標) XL-522:ヒドロキシアルキルアミド系架橋剤、EMS-GRILTECH社製
(注2)エポクロス(登録商標)WS-700:オキサゾリン系架橋剤、オキサゾリン基含有ポリマー、株式会社日本触媒製
(注3)カルボジライト(登録商標)E-02:イミド系架橋剤、カルボジイミド樹脂、日清紡ケミカル株式会社製
(注4)KBM-903:γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製
【0082】
<実施例2~17、参考例18、実施例19~23及び比較例1~7 水性塗料組成物No.2~No.30の製造>
上記実施例1と同様にして、表2及び表3に記載の原材料を表2及び表3に記載の組成比(質量固形分比)で混合し、各水性塗料組成物No.2~No.30を製造した。水性塗料組成物No.24~No.30は比較例用である。
【0083】
<試験用塗装板の作製>
上記実施例、参考例及び比較例で得た各水性塗料組成物を、厚さ0.26mm、JIS A5182のアルミニウム板に硬化塗膜重量が90~100mg/100cm2となるようにロールコータ塗装し、コンベア搬送式の熱風乾燥炉内を通過させて焼付けることにより試験用塗装板を得た。焼付条件は、素材到達最高温度(PMT)が250℃、乾燥炉内通過時間が20秒間の条件とした。得られた各試験用塗装板について下記の試験方法に従って各試験を行った。なお、各試験において、A~Bの評価が実用範囲である。試験結果は表2及び表3に示す。
【0084】
<Tベンド折り曲げ加工性>
試験用塗装板を圧延方向に5cm、垂直方向に4cmの長さで切断した後、下部を短辺と平行に2つ折りにした。20℃の室内にて、この試験用塗装板の試験片の折曲げ部の間に、厚さ0.26mmのアルミニウム板を2枚挟み、特殊ハゼ折り型デュポン衝撃試験器にセットした。50cmの高さから接触面が平らな重さ1kgの鉄のおもりを落下させて、前記折曲げ部に衝撃を与えた後、折曲げ先端部に印加電圧6.5Vで6秒間通電し、前記折曲げ先端部の20mm幅の電流値(mA)を測定し、下記の基準で評価した。
A :電流値が10mA未満である。
B :電流値が10mA以上、且つ40mA未満である。
C :電流値が40mA以上、且つ80mA未満である。
D :電流値が80mA以上である。
また、加工部のセロテープ(登録商標、ニチバン株式会社製)剥離による密着性試験を行い、下記の基準で評価した。
A :塗膜の剥離面積が全体の10%未満である。
B :塗膜の剥離面積が全体の10%以上でかつ20%未満である。
C :塗膜の剥離面積が全体の20%以上でかつ40%未満である。
D :塗膜の剥離面積が全体の40%以上である。
【0085】
<耐水性>
試験用塗装板を水に浸漬し、100℃で30分間処理した後、塗膜の白化状態を目視にて観察し、下記の基準により評価した。
A :全く白化が認められない。
B :部分的な白化がわずかに認められる。
C :かなり白化が認められる。
D :著しく白化が認められる。
【0086】
<耐食性>
試験用塗装板を、クエン酸、リンゴ酸、塩化ナトリウムを各3%溶解した混合水溶液に浸漬し、40℃で2週間放置した後、塗面状態を目視にて観察し、下記の基準により評価した。
A :ツヤビケ、腐食が認められない。
B :ツヤビケがあるが、腐食が認められない。
C :腐食がわずかに認められる。
D :腐食がかなり認められる。
【0087】
<耐膜残り性>
試験用塗装板を、製蓋プレス機を用いて製蓋加工し、内面側に塗膜面を有する缶蓋を作製した。作製した缶蓋を、100℃の沸騰水中に10分間浸漬した後、前記塗膜面を下向きにした状態で、その缶蓋の上面に設けられた開口片(タブ)を上方に引き上げて、開口部を開口させた。開口部の開口端部からの塗膜の剥離幅を測定し、下記の基準により評価した。
A :塗膜の最大剥離幅が0.2mm未満である。
B :塗膜の最大剥離幅が0.2mm以上で0.5mm未満である。
C :塗膜の最大剥離幅が0.5mm以上で1.0mm未満である。
D :塗膜の最大剥離幅が1.0mm以上である。
【0088】
<塗料安定性>
各水性塗料組成物を、室温で1週間静置し目視判定し、下記の基準により評価した。
A : 沈殿が認められない。
B : ほとんど沈殿が認められない。
C : わずかに沈殿が認められる。
D : 相当量の沈殿物が認められる。
【0089】
【0090】
【0091】
性能試験の結果、本発明に係る水性塗料組成物は、塗料安定性、耐食性、耐水性及び加工性に優れ、かつ、耐膜残り性にも優れていた。これに対し、比較例となる塗料組成物を用いた塗膜は上記効果を奏することができなかった。
【0092】
本発明を詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は、2019年1月8日出願の日本特許出願(特願2019-000925)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、耐食性、耐水性及び加工性に優れ、さらに、特に耐膜残り性に優れた水性塗料組成物を提供することができる。また、本発明によれば、ビスフェノールA等法規制対象物質を含有しない水性塗料組成物を提供することができる。本発明の水性塗料組成物は、缶内面用に好適であり、特に缶蓋用途に好適に用いることができる。