(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】軌道回路監視装置
(51)【国際特許分類】
B61L 1/18 20060101AFI20240319BHJP
G01R 19/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B61L1/18 Z
G01R19/00 H
(21)【出願番号】P 2021004851
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】松澤 正治
(72)【発明者】
【氏名】山中 秀観
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-008727(JP,A)
【文献】特開2012-117929(JP,A)
【文献】特開平04-113941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/18
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の区間に電気的に分割された鉄道レールの各区間について、第1の交流電圧が印加されるとともに列車の在線時に電気的に短絡される区間レールの電圧、及び、前記区間レールの近傍に設置されるとともに前記第1の交流電圧よりも振幅の大きな第2の交流電圧が印加される局部配電線の電圧、に基づいて前記区間の在線状態を検知するための軌道回路に対し、当該軌道回路の状態を監視する軌道回路監視装置において、
前記区間レールの電圧に基づき、当該区間レールとは電気的に絶縁された状態で軌道電圧を取得する軌道電圧取得部と、
前記局部配電線の電圧に基づき、当該局部配電線とは電気的に絶縁された状態で局部電圧を取得する局部電圧取得部と、
前記軌道電圧取得部で取得された前記軌道電圧、及び前記局部電圧取得部で取得された前記局部電圧、に基づいて前記軌道回路の状態を表す状態情報を生成する情報生成部と、
前記情報生成部で生成された前記状態情報を出力する情報出力部と、
を備え、
前記局部電圧取得部が、入力電圧を降圧しつつ後段に伝える降圧回路を、前記局部配電線の電圧の入力側に備えていることを特徴とする軌道回路監視装置。
【請求項2】
前記軌道電圧取得部及び前記局部電圧取得部は、各々、入力電圧を入力側とは電気的に絶縁しつつ後段に伝える絶縁アンプを備え、
前記局部電圧取得部が、前記降圧回路として、前記絶縁アンプの入力抵抗と、前記局部配電線の電圧の入力端子と、の間に直列状態で設置される直列抵抗、を備え、前記局部配電線の電圧を前記直列抵抗と前記入力抵抗とで分圧することで降圧して前記絶縁アンプに入力する回路を備えていることを特徴とする請求項1に記載の軌道回路監視装置。
【請求項3】
前記軌道電圧取得部及び前記局部電圧取得部は、各々、入力電圧を入力側とは電気的に絶縁しつつ後段に伝える絶縁アンプを備え、
前記局部電圧取得部が、前記降圧回路として、前記絶縁アンプの入力抵抗、当該入力抵抗に並列接続された並列抵抗、及び、当該並列抵抗と前記局部配電線の電圧の入力端子との間に直列状態で設置される直列抵抗、を備え、前記局部配電線の電圧を、前記直列抵抗と、前記並列抵抗及び前記入力抵抗の合成抵抗と、で分圧することで降圧して前記絶縁アンプに入力する回路を備えていることを特徴とする請求項1に記載の軌道回路監視装置。
【請求項4】
前記局部電圧取得部が、前記降圧回路として、前記絶縁アンプの出力端子とグラウンドとの間に直列接続された一対の抵抗を備え、前記絶縁アンプの出力電圧を前記一対の抵抗で分圧し、前記グラウンド側の抵抗に印加される電圧を降圧後の電圧として後段へと出力する回路を備えていることを特徴とする請求項
2又は3のうち何れか一項に記載の軌道回路監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道における在線状態を検知するための軌道回路を監視する軌道回路監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道における在線状態を検知するための軌道回路が設けられている。このような軌道回路では、複数の区間に電気的に分割された鉄道レールの各区間について在線状態が検知される。この在線状態の検知は、列車の在線時に各区分の区間レールが列車の車軸を介して電気的に短絡されるという構成を利用し、区間レールの電圧計測等に基づいて行われる。軌道回路による在線状態の検知により、例えば各区分に列車が1台だけ在線するように列車の運行を制御する等といった運用が可能となり、走行中の複数の列車が互いに接近し過ぎる等といった事態を効果的に回避することができる。
【0003】
ここで、このような軌道回路が正常に動作しているか否かを監視する軌道回路監視装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載の装置では、軌道回路における区間レールの電圧、及び、軌道回路において区間レールの近傍に設置される局部配電線の電圧、を含む各種パラメータに基づいて軌道回路が監視される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したような軌道回路監視装置では、区間レールの電圧と局部配電線の電圧とで電圧レベルが大幅(例えば100倍程度)に異なる場合が多い。その結果、軌道回路監視装置における区間レールの電圧の入力部と局部配電線の電圧の入力部との相互間で、回路部品や回路構成が異なって温度特性や周波数特性等に差異が生じ、これらの電圧を用いた処理精度が低下することがある。また、高圧側となることが多い局部配電線の電圧の入力部では、高電圧を処理するための回路部品が高価でコストが嵩みがちである。
【0006】
従って、本発明は、上記のような事情に着目し、安価で処理精度の高い軌道回路監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、軌道回路監視装置が、複数の区間に電気的に分割された鉄道レールの各区間について、第1の交流電圧が印加されるとともに列車の在線時に電気的に短絡される区間レールの電圧、及び、前記区間レールの近傍に設置されるとともに前記第1の交流電圧よりも振幅の大きな第2の交流電圧が印加される局部配電線の電圧、に基づいて前記区間の在線状態を検知するための軌道回路に対し、当該軌道回路の状態を監視する軌道回路監視装置において、前記区間レールの電圧に基づき、当該区間レールとは電気的に絶縁された状態で軌道電圧を取得する軌道電圧取得部と、前記局部配電線の電圧に基づき、当該局部配電線とは電気的に絶縁された状態で局部電圧を取得する局部電圧取得部と、前記軌道電圧取得部で取得された前記軌道電圧、及び前記局部電圧取得部で取得された前記局部電圧、に基づいて前記軌道回路の状態を表す状態情報を生成する情報生成部と、前記情報生成部で生成された前記状態情報を出力する情報出力部と、を備え、前記局部電圧取得部が、入力電圧を降圧しつつ後段に伝える降圧回路を、前記局部配電線の電圧の入力側に備えていることを特徴とする。
【0008】
上記の軌道回路監視装置によれば、区間レールに印加される第1の交流電圧よりも振幅の大きな第2の交流電圧が印加される局部配電線の電圧を受け取る局部電圧取得部において、その入力側に降圧回路が設けられている。これにより、降圧後の電圧レベルが、軌道電圧取得部が受け取って処理する区間レールの電圧と同程度の電圧レベルとなるように降圧回路を設計する等といった運用が可能となる。更には、局部電圧取得部において降圧後の電圧を処理する回路部分の回路部品や回路構成を、軌道電圧取得部の回路部品や回路構成に合わせる等といった運用も可能となる。上記の軌道回路監視装置によれば、このような運用を経て局部電圧取得部及び軌道電圧取得部の相互間で温度特性や周波数特性等を略一致させて、その後の情報生成部における処理精度を向上させることができる。また、局部電圧取得部において降圧後の電圧を処理する回路部分の回路部品や回路構成として、低電圧用の安価な回路部品や回路構成を採用してコストを低減させることもできる。つまり、上記の軌道回路監視装置は、安価で処理精度の高い装置となっている。
【0009】
ここで、前記軌道電圧取得部及び前記局部電圧取得部は、各々、入力電圧を入力側とは電気的に絶縁しつつ後段に伝える絶縁アンプを備え、前記局部電圧取得部が、前記降圧回路として、前記絶縁アンプの入力抵抗と、前記局部配電線の電圧の入力端子と、の間に直列状態で設置される直列抵抗、を備え、前記局部配電線の電圧を前記直列抵抗と前記入力抵抗とで分圧することで降圧して前記絶縁アンプに入力する回路を備えていることが好適である。
【0010】
この構成によれば、局部電圧取得部における局部配電線の電圧の入力端子に近い部分に、絶縁アンプの入力抵抗と直列抵抗とを備え、絶縁アンプに降圧後の電圧が入力される。その結果、絶縁アンプを含む局部電圧取得部の大部分の回路部品や回路構成を、軌道電圧取得部の回路部品や回路構成に合わせることができ、一層の処理精度の向上やコストの低減が可能となる。
【0011】
また、前記軌道電圧取得部及び前記局部電圧取得部は、各々、入力電圧を入力側とは電気的に絶縁しつつ後段に伝える絶縁アンプを備え、前記局部電圧取得部が、前記降圧回路として、前記絶縁アンプの入力抵抗、当該入力抵抗に並列接続された並列抵抗、及び、当該並列抵抗と前記局部配電線の電圧の入力端子との間に直列状態で設置される直列抵抗、を備え、前記局部配電線の電圧を、前記直列抵抗と、前記並列抵抗及び前記入力抵抗の合成抵抗と、で分圧することで降圧して前記絶縁アンプに入力する回路を備えていることも好適である。
【0012】
この構成でも、降圧回路が局部電圧取得部における局部配電線の電圧の入力端子に近い部分に設けられる。これにより、局部電圧取得部の大部分の回路部品や回路構成を、軌道電圧取得部の回路部品や回路構成に合わせて一層の処理精度の向上やコストの低減が可能となる。更に、降圧回路における局部配電線の電圧の降圧が、抵抗値の精密調整が可能な合成抵抗と直列抵抗での分圧によってなされることから、この点においても一層の処理精度の向上が可能となる。
【0013】
また、前記局部電圧取得部が、前記降圧回路として、前記絶縁アンプの出力端子とグラウンドとの間に直列接続された一対の抵抗を備え、前記絶縁アンプの出力電圧を前記一対の抵抗で分圧し、前記グラウンド側の抵抗に印加される電圧を降圧後の電圧として後段へと出力する回路を備えていることも好適である。
【0014】
この構成によれば、局部電圧取得部において局部配電線の電圧の入力側に配置される絶縁アンプの出力端子と直結するように降圧回路が設けられ、当該降圧回路で絶縁アンプの出力電圧を降圧して後段へと出力するように構成されている。その結果、局部電圧取得部における少なくとも絶縁アンプの後段側の回路部品や回路構成を、軌道電圧取得部の回路部品や回路構成に合わせることができ、一層の処理精度の向上やコストの低減が可能となる。
【発明の効果】
【0015】
上述の構成によれば、安価で処理精度の高い軌道回路監視装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】軌道回路監視装置の一実施形態の監視対象である軌道回路の一例を示す概略構成図である。
【
図2】
図1に示されている軌道回路監視装置を示す概略構成図である。
【
図3】
図1に示されている軌道回路監視装置が有する機能ブロックを示す模式図である。
【
図4】、第1の局部用降圧回路を局部用絶縁アンプとともに示す模式的な回路図である。
【
図5】第2の局部用降圧回路を局部用絶縁アンプとともに示す模式的な回路図である。
【
図6】第3の局部用降圧回路を局部用絶縁アンプとともに示す模式的な回路図である。
【
図7】第4の局部用降圧回路を局部用絶縁アンプとともに示す模式的な回路図である。
【
図8】
図1~
図3に示されている軌道回路監視装置における軌道電圧及び局部電圧の取得から軌道回路の状態情報の生成に至るまでの処理の流れを表した模式的なフローチャートである。
【
図9】
図8に示されている情報生成処理で在線状態が把握される様子を示す一例のチャート図である。
【
図10】
図8のチャート図で示されている例において生成される状態情報を示す図である。
【
図11】
図3に示されている情報出力部が読出し要求に応じて軌道回路の状態情報を出力する処理の流れを表した模式的なフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、軌道回路監視装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、軌道回路監視装置の一実施形態の監視対象である軌道回路の一例を示す概略構成図である。
【0019】
この
図1に示されている軌道回路L1は、鉄道における在線状態を検知するための、鉄道レールL1aを含む回路である。鉄道レールL1aは、駅ST1を通る場内区間A2と、場内区間A2で挟まれた閉塞区間A1に分割される。場内区間A2と閉塞区間A1との境界には信号機SG1が設置されている。また、閉塞区間A1は、更に複数の区間A11に分割されている。各区間A11には区間レールL11が設けられており、隣り合う区間A11の相互間では区間レールL11が互いに電気的に分割されている。また、各区間A11の区間レールL11には、第1の電源E11から商用周波数で2V~3Vの第1の交流電圧が印加される。そして、区間A11を列車が通過する在線時には、列車の車軸によって区間レールL11が電気的に短絡されて当該区間レールL11の電圧が「0」になる。
【0020】
他方、区間レールL11の近傍には、第1の交流電圧と同じ商用周波数で100V~120Vの第2の交流電圧が第2の電源E12から印加される局部配電線L12が設置されている。また、区間レールL11は、在線状態を検出するための軌道リレーL13における軌道コイルL131に接続され、局部配電線L12は、この軌道リレーL13における局部コイルL132に接続されている。
【0021】
軌道回路L1では、在線時に区間レールL11の電圧が「0」になることを受けて軌道リレーL13が動作することで区間A11に列車が在線していることが検知される。また、軌道回路L1では、軌道コイルL131及び局部コイルL132の相互間における電圧の位相差が求められる。区間レールL11の電圧が「0」ではなく、且つ、軌道コイルL131が局部コイルL132に対して遅れ位相である場合に、当該区間A11には列車が在線していないが、進行方向の前方側の区間A11に列車が在線している前方在線であることが検知される。また、区間レールL11の電圧が「0」ではなく、且つ、軌道コイルL131が局部コイルL132に対して進み位相である場合に、当該区間A11にも進行方向の前方側の区間A11にも列車が在線していない非在線であることが検知される。
【0022】
そして、軌道回路監視装置1は、軌道コイルL131及び局部コイルL132の電圧、即ち、区間レールL11の電圧V11及び局部配電線L12の電圧V12が入力され、これらの電圧V11,V12に基づいて軌道回路L1を監視する装置となっている。
【0023】
図2は、
図1に示されている軌道回路監視装置を示す概略構成図である。
【0024】
軌道回路監視装置1は、
図1に示された軌道回路L1を監視する装置であり、軌道電圧処理部11と、局部電圧処理部12と、MPU13と、RS485伝送部14と、電源部15と、発振子16と、リセットIC17と、を備えている。
【0025】
軌道電圧処理部11は、
図1に示された区間レールL11の電圧V11が入力され、当該電圧V11に対する信号処理を行う。
【0026】
軌道電圧処理部11は、軌道用降圧回路111と、軌道用絶縁アンプ112と、第1の軌道用LPF113と、第1の軌道用HPF114と、第2の軌道用LPF115と、第2の軌道用HPF116と、軌道用反転増幅器117と、を備えている。軌道用降圧回路111は、入力された区間レールL11の電圧V11を0.99倍に降圧する回路である。軌道用絶縁アンプ112は、降圧された電圧を、軌道用降圧回路111側とは電気的に絶縁しつつ後段側へと伝達する回路である。また、この軌道用絶縁アンプ112は、入力された電圧に所定の直流オフセットを加える。この直流オフセットは、軌道電圧処理部11で最終的に得られる軌道電圧V111が常に正の値となるオフセット値に調整されている。第1の軌道用LPF113は、入力された電圧について、所定周波数(例えば219Hz)以下を通過させるローパスフィルタである。第1の軌道用LPF113の後段側に設けられた第1の軌道用HPF114は、入力された電圧について、所定周波数(例えば9.99Hz)以上を通過させるハイパスフィルタである。
【0027】
また、軌道電圧処理部11には、軌道電圧V111をMPU13に伝える2つのルートが設けられている。一方は、第2の軌道用LPF115、第2の軌道用HPF116、及び軌道用反転増幅器117を介して得られる軌道電圧V111をMPU13に伝えるルートとなっている。他方は、軌道用反転増幅器117のみを介して得られる軌道電圧V111をMPU13に伝えるルートとなっている。第2の軌道用LPF115は、入力された電圧について、所定周波数(例えば66.32Hz)以下を通過させるローパスフィルタである。第2の軌道用HPF116は、入力された電圧について、所定周波数(例えば33.66Hz)以上を通過させるハイパスフィルタである。軌道用反転増幅器117は、上述の2つのルートそれぞれの最終段に設けられ、入力された電圧について、所定倍(例えば5倍)に増幅して軌道電圧V111を得てMPU13に伝える反転増幅回路である。
【0028】
局部電圧処理部12は、
図1に示された局部配電線L12の電圧V12が入力され、当該電圧V12に対する信号処理を行う。
【0029】
局部電圧処理部12は、局部用降圧回路121と、局部用絶縁アンプ122と、局部用LPF123と、局部用HPF124と、局部用反転増幅器125と、を備えている。局部用降圧回路121は、入力された局部配電線L12の電圧V12を0.06倍に降圧する回路である。局部用絶縁アンプ122は、降圧された電圧を、局部用降圧回路121側とは電気的に絶縁しつつ後段側へと伝達する回路である。また、この局部用絶縁アンプ122は、入力された電圧に所定の直流オフセットを加える。この直流オフセットは、局部電圧処理部12で最終的に得られる局部電圧V121が常に正の値となるオフセット値に調整されている。局部用LPF123は、入力された電圧について、所定周波数(例えば219Hz)以下を通過させるローパスフィルタである。局部用LPF123の後段側に設けられた局部用HPF124は、入力された電圧について、所定周波数(例えば9.99Hz)以上を通過させるハイパスフィルタである。局部用反転増幅器125は、局部電圧処理部12の最終段に設けられ、入力された電圧について、所定倍(例えば0,75倍)に増幅して局部電圧V121を得てMPU13に伝える反転増幅回路である。
【0030】
MPU13は、CPU(Central Processing Unit)等を有するマイクロプロセッサである。MPU13は、後述する各種動作等を内蔵するメモリに記憶されたプログラムにより実行する。また、MPU13は、ADコンバータ131,132,133と、UART134,135と、を備えている。
【0031】
ADコンバータ131は、局部電圧処理部12における局部用反転増幅器125からの局部電圧V121の直流オフセット付きの交流波形が入力され、アナログ信号をデジタル信号に変換する。ADコンバータ132は、軌道電圧処理部11において軌道用反転増幅器117のみを経るルートからの軌道電圧V111の直流オフセット付きの交流波形が入力され、アナログ信号をデジタル信号に変換する。ADコンバータ133は、軌道電圧処理部11において第2の軌道用LPF115、第2の軌道用HPF116、及び軌道用反転増幅器117を経るルートからの軌道電圧V111の直流オフセット付きの交流波形が入力される。ADコンバータ133は、このように入力された交流波形のアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0032】
UART134は、RS485伝送部14へ送信するパラレルデータをシリアルデータに変換し、RS485伝送部14から受信したシリアルデータをパラレルデータに変換するインターフェース回路である。UART134は、MPU13で演算された軌道回路L1の状態を表す状態情報をシリアルデータとして出力する。また、UART134は、RS485伝送部14が受信した軌道回路L1の監視に関する各種指示信号等が入力されパラレルデータとしてMPU13内に出力する。UART135は、各種設定用のPC3とシリアル通信するためにパラレルデータをシリアルデータに変換する。また、PC3から受信したシリアルデータをパラレルデータに変換する。
【0033】
RS485伝送部14は、UART134から入力された情報等を外部機器2に出力する。また、RS485伝送部14は、外部機器2から入力された各種指示信号等をUART134に出力する。本実施形態では、軌道回路監視装置1と外部機器2との間はRS485規格により通信を行っているが、RS485規格に限らず、有線、無線を問わず他の通信規格であってもよい。
【0034】
電源部15は、電源4から供給された電力を軌道回路監視装置1の各ブロックが必要とする電圧等に変換して供給する。
【0035】
発振子16は、例えば水晶発振子により構成され、MPU13が動作するためのクロック信号を生成する。
【0036】
リセットIC17は、電源4の出力電圧がMPU13の動作電圧以上になったことを監視し、MPU13へのリセット信号を解除することでMPU13を起動させる周知の回路である。
【0037】
外部機器2は、軌道回路監視装置1が出力した情報を受信する。外部機器2は、RS485伝送部21と、マイコン回路22と、を備えている。RS485伝送部21は、軌道回路監視装置1から出力された情報を受信する。マイコン回路22は、マイクロプロセッサ等を備え、軌道回路監視装置1から受信した情報に基づいて、例えば内部への蓄積や監視センター等への送信等の処理を行う。
【0038】
PC3は、軌道回路監視装置1の各種設定用の端末等となるコンピュータである。PC3は、設定等の必要な際に接続される。電源4は、軌道回路監視装置1へ電力(例えば直流5V)を供給する。
【0039】
本実施形態では、以上に説明した軌道回路監視装置1において、以下に説明する機能ブロックが構築される。
【0040】
図3は、
図1に示されている軌道回路監視装置が有する機能ブロックを示す模式図である。
【0041】
本実施形態の軌道回路監視装置1は、軌道用降圧回路111を含む軌道電圧取得部1Aと、局部用降圧回路121を含む局部電圧取得部1Bと、情報生成部1Cと、情報出力部1Dと、を備えている。
【0042】
軌道電圧取得部1Aは、軌道電圧処理部11、及びMPU13のADコンバータ132,133によって構築される機能ブロックである。軌道電圧取得部1Aは、区間レールL11の電圧V11に基づき、軌道用絶縁アンプ112によって当該区間レールL11とは電気的に絶縁された状態で軌道電圧V111を取得して後段の情報生成部1Cに引き渡す。この軌道電圧取得部1Aにおける軌道用降圧回路111は、入力電圧を降圧しつつ後段に伝える回路であって、軌道電圧取得部1Aにおける区間レールL11の電圧V11の入力側に設置されている。この軌道用降圧回路111は、上述したように、入力された区間レールL11の電圧V11を、0.99倍という僅かな比率で降圧する回路となっている。軌道電圧取得部1Aは、この降圧後の区間レールL11の電圧V11に軌道用絶縁アンプ112で直流オフセットを加えて各種フィルタや増幅器を通過させることで、軌道電圧V111がアナログ値で得られる。そして、このアナログ値の軌道電圧V111が、ADコンバータ132,133において取得されてデジタル化される。
【0043】
局部電圧取得部1Bは、局部電圧処理部12、及びMPU13のADコンバータ131によって構築される機能ブロックである。局部電圧取得部1Bは、局部配電線L12の電圧V12に基づき、局部用絶縁アンプ122によって当該局部配電線L12とは電気的に絶縁された状態で局部電圧V121を取得して後段の情報生成部1Cに引き渡す。この局部電圧取得部1Bにおける局部用降圧回路121は、入力電圧を降圧しつつ後段に伝える回路であって、局部電圧取得部1Bにおける局部配電線L12の電圧V12の入力側に設置されている。この局部用降圧回路121は、上述したように、入力された局部配電線L12の電圧V12を、0.06倍という大幅な比率で降圧する回路となっている。局部電圧取得部1Bは、この降圧後の局部配電線L12の電圧V12に局部用絶縁アンプ122で直流オフセットを加えて各種フィルタや増幅器を通過させることで、局部電圧V121がアナログ値で得られる。そして、このアナログ値の局部電圧V121が、ADコンバータ131において取得されてデジタル化される。
【0044】
ここで、本実施形態では、上述したように区間レールL11には、第1の電源E11から商用周波数の第1の交流電圧が印加される。また、局部配電線L12には、第2の電源E12から、第1の交流電圧と同じ商用周波数の第2の交流電圧が印加される。第1の交流電圧及び第2の交流電圧の周期は、日本における2種類の商用電源の周波数の周期である1/50秒周期と1/60秒周期の中から選択された一の周期となる。このとき、軌道電圧取得部1A及び局部電圧取得部1Bは、各々、上述した2つの周期の最小公倍数の整数倍をサンプリング時間とし、当該サンプリング時間中おける一定間隔毎のサンプリング値に基づいて、軌道電圧V111及び局部電圧V121を取得する。具体的には、1/50秒周期と1/60秒周期の最小公倍数である100m秒の整数倍(ここでは1倍)である100m秒がサンプリング時間として採用されている。そして、この100m秒の間に、0.2m秒間隔で得られる500個のサンプリング値から軌道電圧V111及び局部電圧V121が軌道電圧取得部1A及び局部電圧取得部1Bで取得される。軌道電圧取得部1A及び局部電圧取得部1Bでは、MPU13のADコンバータ131,132,133でデジタル値に変換された軌道電圧V111及び局部電圧V121が100m秒間隔で順次に取得される。尚、本実施形態では、50Hz、60Hzの周期の最小の公倍数である100m秒をサンプリング時間に設定したが、公倍数であれば最小である必要はない。サンプリング時間の基準を100m秒の整数倍に設定することにより、50Hz地域では5波形分の倍数、60Hz地域では6波形分の倍数のデータを処理することができる。そのため測定データにおける波形の山欠け等がなく測定が可能となり、両者の周波数の相違による影響を除外できる。また、ここではサンプリング周期は0.2m秒に設定したが、これは使用するMPUの能力、必要とする測定精度、特に後述の位相差算出の為の局部交差時刻、軌道交差時刻、入力される交流電圧の周波数などから適宜選択される。短いサンプリング周期とすることにより更に分解能を上げることができるが、使用するMPU、ADコンバータ等を高速動作に適したものにしなければならず、測定精度、経済性などから設定する。
【0045】
情報生成部1Cは、MPU13の動作によって構築される機能ブロックであり、軌道電圧取得部1Aで取得された軌道電圧V111、及び局部電圧取得部1Bで取得された局部電圧V121、に基づいて軌道回路L1の状態を表す状態情報を生成する。本実施形態では、情報生成部1Cは、まず、軌道電圧V111と局部電圧V121との位相差を算出する。さらに、情報生成部1Cは、軌道電圧V111及び位相差に基づいて、一の区間A11の在線状態を把握するとともに、軌道電圧V111、局部電圧V121、及び位相差それぞれについて所定の閾値との比較等による異常判定を行う。そして、軌道電圧V111、局部電圧V121、位相差、区間A11の在線状態、及び異常判定の判定結果を有する情報を、軌道回路L1の状態を表す状態情報として生成する。生成された状態情報は、MPU13の内部メモリに記憶される。
【0046】
情報出力部1Dは、MPU13におけるUART134及びRS485伝送部14によって構築される機能ブロックであり、情報生成部1Cで生成された状態情報を出力する。本実施形態では、外部機器2からの指示に応じてMPU13の内部メモリから状態情報を読み出して外部機器2へと出力する。
【0047】
次に、軌道電圧取得部1Aにおける軌道用降圧回路111と、局部電圧取得部1Bにおける局部用降圧回路121と、について説明する。尚、軌道用降圧回路111と局部用降圧回路121は、降圧の比率を除いて互いに同様の回路構成を有している。以下では、局部用降圧回路121を代表例として挙げ、その回路構成について説明を行う。尚、ここでは、この局部用降圧回路121について、第1~第4の4つの形態の回路を挙げて説明する。
【0048】
図4は、第1の局部用降圧回路を局部用絶縁アンプとともに示す模式的な回路図である。
【0049】
この
図4には、第1の局部用降圧回路121aが、その一部が構成部品として利用される局部用絶縁アンプ122とともに示されている。局部用絶縁アンプ122は、入力電圧を入力側とは電気的に絶縁しつつ後段へと出力する回路部品である。そして、第1の局部用降圧回路121aは、局部用絶縁アンプ122の入力抵抗Riと、局部電圧取得部1Bにおける局部配電線L12の電圧V12の入力端子Vinと、の間に直列状態で設置される直列抵抗R1、を備えている。局部用絶縁アンプ122の入力抵抗Riの、直列抵抗R1と反対側の端部は第1のグラウンドGND1に接続され、局部用絶縁アンプ122の出力側の接地端子が第2のグラウンドGND2に接続される。また、局部用絶縁アンプ122の出力端子Voutは、
図2に示されている局部用LPF123に接続されている。
【0050】
第1の局部用降圧回路121aは、入力端子Vinに入力された局部配電線L12の電圧V12を、直列抵抗R1と入力抵抗Riとで分圧することで降圧して局部用絶縁アンプ122に入力する回路となっている。そして、降圧された電圧が出力端子Voutから局部用LPF123へと出力される。
【0051】
図5は、第2の局部用降圧回路を局部用絶縁アンプとともに示す模式的な回路図である。尚、この
図5では、
図4に示されている構成要素と同じ構成要素については
図4と同じ符号が付されており、以下では、それらの構成要素に関する重複説明を割愛する。
【0052】
この
図5に示される第2の局部用降圧回路121bは、入力側回路部分121b-1と出力側回路部分121b-2とを有している。入力側回路部分121b-1は、
図4に示されている第1の局部用降圧回路121aと同じ回路で、局部用絶縁アンプ122の入力抵抗Riと直列抵抗R1を備えている。他方、出力側回路部分121b-2は、局部用絶縁アンプ122の出力端子Voutと第2のグラウンドGND2との間に直列接続された一対の抵抗をR3,R4備えている。この出力側回路部分121b-2は、局部用絶縁アンプ122の出力電圧を一対の抵抗R3,R4で分圧し、第2のグラウンドGND2側の抵抗R4に印加される電圧を降圧後の電圧として出力端子121b-2aから後段へと出力する。
【0053】
第2の局部用降圧回路121bは、局部配電線L12の電圧V12を入力側回路部分121b-1で降圧して局部用絶縁アンプ122に入力し、その出力電圧を出力側回路部分121b-2で更に降圧して局部用LPF123へと出力する回路となっている。
【0054】
図6は、第3の局部用降圧回路を局部用絶縁アンプとともに示す模式的な回路図である。尚、この
図6でも、
図4に示されている構成要素と同じ構成要素については
図4と同じ符号が付されており、以下では、それらの構成要素に関する重複説明を割愛する。
【0055】
この
図6に示される第3の局部用降圧回路121cは、局部用絶縁アンプ122の入力抵抗Ri、並列抵抗R2、及び直列抵抗R1、を備えている。並列抵抗R2は、局部用絶縁アンプ122の入力抵抗Riに並列接続された抵抗である。直列抵抗R1は、並列抵抗R2と局部配電線L12の電圧V12の入力端子Vinとの間に直列状態で設置された抵抗である。入力抵抗Ri及び並列抵抗R2それぞれの、直列抵抗R1と反対側の端部が第1のグラウンドGND1に接続される。また、局部用絶縁アンプ122の出力側の接地端子が第2のグラウンドGND2に接続され、局部用絶縁アンプ122の出力端子Voutは、
図2に示されている局部用LPF123に接続されている。
【0056】
第3の局部用降圧回路121cは、入力端子Vinに入力された局部配電線L12の電圧V12を、直列抵抗R1と、並列抵抗R2及び入力抵抗Riの合成抵抗と、で分圧することで降圧して局部用絶縁アンプ122に入力する回路となっている。
【0057】
図7は、第4の局部用降圧回路を局部用絶縁アンプとともに示す模式的な回路図である。尚、この
図7では、
図6に示されている構成要素と同じ構成要素については
図6と同じ符号が付されており、以下では、それらの構成要素に関する重複説明を割愛する。
【0058】
この
図7に示される第4の局部用降圧回路121dは、入力側回路部分121d-1と出力側回路部分121d-2とを有している。入力側回路部分121d-1は、
図6に示されている第3の局部用降圧回路121cと同じ回路で、局部用絶縁アンプ122の入力抵抗Ri、並列抵抗R2、及び直列抵抗R1、を備えている。他方、出力側回路部分121d-2は、局部用絶縁アンプ122の出力端子Voutと第2のグラウンドGND2との間に直列接続された一対の抵抗R3,R4を備えている。この出力側回路部分121d-2は、
図5に示されている第2の局部用降圧回路121bの出力側回路部分121b-2と同じ回路である。
【0059】
第4の局部用降圧回路121dは、局部配電線L12の電圧V12を入力側回路部分121d-1で降圧して局部用絶縁アンプ122に入力する。更に、局部用絶縁アンプ122の出力電圧を出力側回路部分121d-2で更に降圧して出力端子121d-2aから局部用LPF123へと出力する回路となっている。
【0060】
本実施形態では、局部用降圧回路121を代表例として挙げて説明した降圧回路を、軌道電圧取得部1A及び局部電圧取得部1Bの双方が備えている。上述したように、軌道用降圧回路111の降圧比は0.99倍で、局部用降圧回路121の降圧比は0.06倍となっている。これらの降圧比は、入力される区間レールL11の電圧V11及び局部配電線L12の電圧V12を、MPU13への入力が可能な電圧レベルまで下げるもので、軌道用と局部用とで互いの電圧レベルが同程度となるように調整されている。
【0061】
尚、軌道電圧取得部1Aについては、区間レールL11の電圧V11が元々それほど大きくないことから、本実施形態とは異なり、降圧回路は設けず、局部電圧取得部1Bにのみ降圧回路を設けることとしてもよい。
【0062】
次に、
図1~
図3に示されている軌道回路監視装置1の動作について
図8~
図11を参照して説明する。
【0063】
図8は、
図1~
図3に示されている軌道回路監視装置における軌道電圧及び局部電圧の取得から軌道回路の状態情報の生成に至るまでの処理の流れを表した模式的なフローチャートである。
【0064】
電源が投入されて軌道回路監視装置1が起動すると、まず、軌道電圧取得部1A及び局部電圧取得部1Bによる取得処理S11が実行されて、軌道電圧V111及び局部電圧V121がサンプリング時間毎に取得されてMPU13の内部メモリに記憶される。
【0065】
次に、情報生成部1Cによって、軌道回路L1の状態情報を生成する情報生成処理S12が実行される。情報生成処理S12では、軌道電圧V111と局部電圧V121との位相差が算出され、軌道電圧V111及び位相差に基づいて一の区間A11の在線状態が把握される。
【0066】
図9は、
図8に示されている情報生成処理で在線状態が把握される様子を示す一例のチャート図であり、
図10は、
図8のチャート図で示されている例において生成される状態情報を示す図である。
【0067】
まず、
図9及び
図10に示されているように、情報生成処理S12で生成される状態情報J11は、鉄道レールL1aにおける複数の区間A11それぞれについて生成される。
図9及び
図10の例は、複数の区間A11のうちの一の区間A11を例に挙げ、時間経過とともに列車が進行することで在線状態が、非在線、在線、前方在線、非在線の順で変化する例である。即ち、前方側の区間A11及び一の区間A11に列車が存在していない非在線から、当該一の区間A11に列車が進入して在線となり、列車が前方側の区間A11へと移動して前方在線となり、更に列車が次の区間A11へと移動して非在線となる例が示されている。
【0068】
情報生成処理S12では、上記のように変化する在線状態が、軌道電圧V111及び位相差θに基づいて把握される。
【0069】
図9に示されているように、取得処理S11で取得される軌道電圧V111は交流電圧である。区間A11が非在線のときには、軌道電圧V111は、
図1に示されている第1の電源E11からの第1の交流電圧に応じた交流電圧となる。この軌道電圧V111は、区間A11が在線になると区間レールL11が短絡されて振幅が0Vとなり、前方在線になると波形が反転した交流電圧となる。そして、区間A11が前方在線から非在線に変化すると波形が更に反転して軌道電圧V111は元の交流電圧に戻る。取得処理S11では、列車が進行するにつれてこのように波形が変化する軌道電圧V111が取得される。情報生成処理S12では、まず、このような軌道電圧V111の振幅V111aが算出される。振幅V111aは、非在線と前方在線では略同値(
図9及び
図10では一例として1.2V)となり、在線では0Vとなる。また、前方在線から非在線への変化時には、
図1に示されている軌道リレーL13での切替動作に応じて瞬間的に0Vとなる。
【0070】
ここで、取得処理S11で取得される局部電圧V121も交流電圧であるが、区間レールL11とは別に設置された局部配電線L12の電圧であるので、局部電圧V121は列車の進行の影響は受けず、一定の交流電圧の波形が維持される。
【0071】
情報生成処理S12では、後述の状態情報の生成に供するために、この局部電圧V121についても、その振幅V121aが算出される。波形が変化しない局部電圧V121の振幅V121aは略一定(
図9及び
図10では一例として110V)の値となる。
【0072】
このような振幅V111a,V121aの算出の後、情報生成処理S12では、在線状態の把握が行われる。この把握に、軌道電圧V111の振幅V111aと位相差θとが用いられる。局部電圧V121に対する軌道電圧V111の位相差θは、
図9に示されているように、非在線では+90°の進み位相となり、在線では0°となり、前方在線では-90°の遅れ位相となる。情報生成処理S12では、まず、軌道電圧V111の振幅V111aが0Vで位相差θが0°であるか否かによって、区間A11が在線であるか否かが判定される。また、軌道電圧V111の振幅V111aが0Vを超える有値で位相差θの符号が+の進み位相であるか否かによって、区間A11が非在線であるか否かが判定される。更に、軌道電圧V111の振幅V111aが0Vを超える有値で位相差θの符号が-の遅れ位相であるか否かによって、区間A11が前方在線であるか否かが判定される。尚、情報生成処理S12では、振幅V111a及び位相差θの絶対値の評価までは行われない。
【0073】
このようにして在線状態が把握されると、情報生成処理S12では、次に、異常判定が行われる。この異常判定では、把握された在線状態に基づいて軌道電圧V111、局部電圧V121、及び位相差θそれぞれの異常判定閾値が決定される。軌道電圧V111及び局部電圧V121については、それぞれの振幅V111a,V121aに対する異常判定閾値が決定される。本実施形態では、非在線、在線、及び前方在線、の3つの在線状態それぞれについて、軌道電圧V111、局部電圧V121、及び位相差θそれぞれの異常判定閾値が、予め設定されてMPU13の内部メモリに記憶されている。異常判定では、把握された在線状態に対応する軌道電圧V111、局部電圧V121、及び位相差θそれぞれの異常判定閾値を内部メモリから読み出すことで各異常判定閾値の決定が行われる。そして、軌道電圧V111の振幅V111a、局部電圧V121の振幅V121a、及び位相差θ、のそれぞれが、在線状態に応じて決定された異常判定閾値と比較されることで異常判定が行われる。
【0074】
最後に、情報生成処理S12では、軌道電圧V111、局部電圧V121、位相差θ、区間A11の在線状態J111、及び異常判定の判定結果を有する情報が、軌道回路L1の状態情報J11として生成され、MPU13の内部メモリに記憶される。
【0075】
このようにして状態情報J11が生成されると、
図8のフローチャートで表される処理では、取得処理S11に処理が戻り、以降の処理が繰り返される。この処理により、上述のサンプリング時間(一例として100m秒)毎に状態情報J11が生成されてMPU13の内部メモリに記憶されていくこととなる。
【0076】
本実施形態では、このように生成されて記憶される軌道回路L1の状態情報J11が、
図2に示されている外部機器2からの読出し要求に応じ、
図3に示されている情報出力部1Dによって出力される。
【0077】
図11は、
図3に示されている情報出力部が読出し要求に応じて軌道回路の状態情報を出力する処理の流れを表した模式的なフローチャートである。
【0078】
このフローチャートの処理は、軌道回路監視装置1に電源が投入されて起動すると開始される。すると、まず、各要素のイニシャライズS21が行われ、その後、
図1に示されている外部機器2から読出し要求が送られてきたか否かを判定する判定待機状態S22となる。外部機器2からの読出し要求が無い場合(NO判定)には、判定待機状態S22が続けられる。そして、外部機器2から読出し要求が送られてくると(YES判定)、情報出力処理S23が実行される。この情報出力処理S23では、MPU13の内部メモリから状態情報J11が読み出されて出力される。
【0079】
以上に説明した軌道回路監視装置1によれば、区間レールL11の電圧V11よりも振幅の大きな局部配電線L12の電圧V12を受け取る局部電圧取得部1Bにおいて、その入力側に局部用降圧回路121が設けられている。これにより、降圧後の電圧レベルが、区間レールL11の電圧V11と同程度の電圧レベルとなるように局部用降圧回路121を設計する等といった運用が可能となる。更には、局部電圧取得部1Bにおいて降圧後の電圧を処理する回路部分の回路部品や回路構成を、軌道電圧取得部1Aの回路部品や回路構成に合わせる等といった運用も可能となる。上記の軌道回路監視装置1によれば、このような運用を経て局部電圧取得部1B及び軌道電圧取得部1Aの相互間で温度特性や周波数特性等を略一致させて、その後の情報生成部1Cにおける処理精度を向上させることができる。また、局部電圧取得部1Bにおいて降圧後の電圧を処理する回路部分の回路部品や回路構成として、低電圧用の安価な回路部品や回路構成を採用してコストを低減させることもできる。つまり、上記の軌道回路監視装置1は、安価で処理精度の高い装置となっている。
【0080】
ここで、
図4に示されている第1の局部用降圧回路121a及び
図5に示されている第2の局部用降圧回路121bは、次のような構成を有している。即ち、第1の局部用降圧回路121a及び第2の局部用降圧回路121bは、何れも、局部用絶縁アンプ122の入力抵抗Riと直列抵抗R1を備えている。この構成によれば、局部電圧取得部1Bにおける局部配電線L12の電圧V12の入力端子Vinに近い部分に、局部用絶縁アンプ122の入力抵抗Riと直列抵抗R1とを備え、局部用絶縁アンプ122に降圧後の電圧が入力される。その結果、局部用絶縁アンプ122を含む局部電圧取得部1Bの大部分の回路部品や回路構成を、軌道電圧取得部1Aの回路部品や回路構成に合わせることができ、一層の処理精度の向上やコストの低減が可能となる。
【0081】
また、
図6に示されている第3の局部用降圧回路121c及び
図7に示されている第4の局部用降圧回路121dは、次のような構成を有している。即ち、第3の局部用降圧回路121c及び第4の局部用降圧回路121dは、局部用絶縁アンプ122の入力抵抗Ri、並列抵抗R2、及び直列抵抗R1を備えている。入力された局部配電線L12の電圧V12は、直列抵抗R1と、並列抵抗R2及び入力抵抗Riの合成抵抗と、で分圧される。この構成でも、第3の局部用降圧回路121c及び第4の局部用降圧回路121dは局部電圧取得部1Bにおける局部配電線L12の電圧V12の入力端子Vinに近い部分に設けられる。これにより、局部電圧取得部1Bの大部分の回路部品や回路構成を、軌道電圧取得部1Aの回路部品や回路構成に合わせて一層の処理精度の向上やコストの低減が可能となる。更に、第3の局部用降圧回路121c及び第4の局部用降圧回路121dでの降圧が、抵抗値の精密調整が可能な合成抵抗と直列抵抗R1での分圧によってなされることから、この点においても一層の処理精度の向上が可能となる。
【0082】
また、
図5に示されている第2の局部用降圧回路121b及び
図7に示されている第4の局部用降圧回路121dは、次のような構成を有している。即ち、第2の局部用降圧回路121b及び第4の局部用降圧回路121dは、局部用絶縁アンプ122の出力端子Voutと第2のグラウンドGND2との間に直列接続された一対の抵抗R3,R4を備えている。そして、局部用絶縁アンプ122の出力電圧がこれら一対の抵抗R3,R4で分圧される。この構成によれば、局部電圧取得部1Bにおける入力側に配置される局部用絶縁アンプ122の出力端子Voutと直結するように第2の局部用降圧回路121b及び第4の局部用降圧回路121dが設けられる。そして、局部用絶縁アンプ122の出力電圧が降圧されて後段へと出力されるように構成されている。その結果、局部電圧取得部1Bにおける少なくとも局部用絶縁アンプ122の後段側の回路部品や回路構成を、軌道電圧取得部1Aの回路部品や回路構成に合わせることができ、一層の処理精度の向上やコストの低減が可能となる。
【0083】
尚、以上に説明した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、これに限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の軌道回路監視装置の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【0084】
例えば、上述の実施形態では、軌道回路の一例として、区間レールL11と局部配電線L12とが軌道リレーL13を介して連結され、当該軌道リレーL13によって在線状態を検知する軌道回路L1が例示されている。しかしながら、軌道回路はこれに限るものではなく、区間レールの電圧と局部配電線の電圧とに基づいて在線状態を検知するための回路であれば、その具体的な回路構成を問うものではない。
【0085】
また、上述の実施形態では、情報生成部の一例として、軌道回路L1の状態情報J11を生成してMPU13の内部メモリに記憶する情報生成部1Cが例示されている。しかしながら、情報生成部はこれに限るものではなく、例えば内部メモリに記憶することなく、生成した状態情報を後段の情報出力部に渡すもの等であってもよい。
【0086】
また、上述の実施形態では、降圧回路の一例として、
図4~
図7に示されている第1~第4の局部用降圧回路121a,・・・,121dが例示されている。しかしながら、降圧回路はこれら4つの例に限るものではなく、例えば
図2に示されている局部用LPF123の入力側等の位置に備えられて、入力電圧を降圧しつつ後段に伝えるものであれば、その具体的な回路構成を問うものではない。ただし、降圧回路として、
図4~
図7に示されている第1~第4の局部用降圧回路121a,・・・,121dを採用することで、一層の処理精度の向上やコストの低減が可能となる点は上述した通りである。
【0087】
また、上述の実施形態では、軌道電圧取得部の一例として、降圧の比率を除いて局部用降圧回路121と回路構成が同様の軌道用降圧回路111を備えた軌道電圧取得部1Aが例示されている。しかしながら、軌道電圧取得部は、これに限るものではなく、上述したように降圧回路を設けないこととしてもよく、あるいは、降圧回路を設けるにしても、局部用降圧回路とは回路構成の異なる降圧回路を設けることとしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 軌道回路監視装置
1A 軌道電圧取得部
1B 局部電圧取得部
1C 情報生成部
1D 情報出力部
2 外部機器
3 PC
4 電源
11 軌道電圧処理部
12 局部電圧処理部
13 MPU
14,21 RS485伝送部
15 電源部
16 発振子
17 リセットIC
22 マイコン回路
111 軌道用降圧回路
112 軌道用絶縁アンプ
113 第1の軌道用LPF
114 第1の軌道用HPF
115 第2の軌道用LPF
116 第2の軌道用HPF
117 軌道用反転増幅器
121 局部用降圧回路
121a 第1の局部用降圧回路
121b 第2の局部用降圧回路
121b-1,121d-1 入力側回路部分
121b-2,121d-2 出力側回路部分
121b-2a,121d-2a 出力端子
121c 第3の局部用降圧回路
121d 第4の局部用降圧回路
122 局部用絶縁アンプ
123 局部用LPF
124 局部用HPF
125 局部用反転増幅器
131,132,133 ADコンバータ
134,135 UART
A1 閉塞区間
A11 区間
A2 場内区間
E11 第1の電源
E12 第2の電源
J11 状態情報
J111 在線状態
L1 軌道回路
L1a 鉄道レール
L11 区間レール
L12 局部配電線
L13 軌道リレー
L131 軌道コイル
L132 局部コイル
R1 直列抵抗
R2 並列抵抗
R3,R4 抵抗
Ri 入力抵抗
GND1 第1のグラウンド
GND2 第2のグラウンド
S11 取得処理
S12 情報生成処理
S21 イニシャライズ
S22 判定待機状態
S23 情報出力処理
V11 区間レールの電圧
V12 局部配電線の電圧
V111 軌道電圧
V111a,V121a 振幅
V121 局部電圧
Vin 入力端子
Vout 出力端子
GL1,GL2 時間変化が描く線
ST1 駅
SG1 信号機
θ 位相差
Δt 時間差