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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】工業油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240319BHJP
   C10M 105/38 20060101ALN20240319BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20240319BHJP
   C10M 137/02 20060101ALN20240319BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20240319BHJP
   C10M 133/40 20060101ALN20240319BHJP
   C10M 143/00 20060101ALN20240319BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240319BHJP
   C10M 133/44 20060101ALN20240319BHJP
   C10M 135/36 20060101ALN20240319BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240319BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/38
C10M107/02
C10M137/02
C10M129/10
C10M133/40
C10M143/00
C10M137/10 A
C10M133/44
C10M135/36
C10N10:04
C10N30:00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021043656
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143236
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-05-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 祐司
(72)【発明者】
【氏名】船木 亮佑
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-036031(JP,A)
【文献】特開2008-179669(JP,A)
【文献】国際公開第02/083823(WO,A1)
【文献】特開2002-348586(JP,A)
【文献】特開2017-160366(JP,A)
【文献】国際公開第2016/158534(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油として、トリメチロールプロパンエステル油および100℃における動粘度が5cSt以上であるパラフィン系炭化水素油から選ばれる少なくとも1種と、
酸化防止剤として、下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体とを含む、
工業油組成物。
【化1】
(前記式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【化2】
(前記式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【請求項2】
前記酸化防止剤として、さらに、下記式(D)で表されるヒンダードアミン化合物を含む、
請求項1に記載の工業油組成物。
【化3】
(前記式(D)中、Rd21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rd23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【請求項3】
さらに、ミスト防止剤として炭化水素系高分子化合物を含む、
請求項1または2に記載の工業油組成物。
【請求項4】
さらに、油性剤としてジアルキルジチオりん酸亜鉛を含み、
機械潤滑に用いられる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の工業油組成物。
【請求項5】
さらに、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体を含む、
請求項4に記載の工業油組成物。
【請求項6】
さらに、極圧剤として硫黄化合物を含み、
金属加工に用いられる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の工業油組成物。
【請求項7】
前記硫黄化合物が、活性硫黄化合物であり、
さらに、金属不活性剤としてチアジアゾール誘導体を含む、
請求項6に記載の工業油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基油として縮合リン酸エステルを含む難燃性潤滑油組成物が記載されている。具体的には、縮合リン酸エステルとしてビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-249486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の難燃性潤滑油組成物は、縮合リン酸エステルを含むため、他の鉱油または合成油を含む工業油組成物とは混ざり合わず、これら他の工業油組成物とは別に廃棄する必要がある。このように、取扱い性が悪いという問題がある。また、特許文献1の難燃性潤滑油組成物は、基油として縮合リン酸エステルを含むため、コストもかかるという問題がある。そこで、本発明の目的は、廃棄の際の取り扱いに優れており、コストも抑えられる工業油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の工業油組成物は、基油として、トリメチロールプロパンエステル油および100℃における動粘度が5cSt以上であるパラフィン系炭化水素油から選ばれる少なくとも1種と、酸化防止剤として、下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体とを含む。
【0006】
【化1】
【0007】
(上記式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0008】
【化2】
【0009】
(上記式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の工業油組成物は、廃棄の際の取り扱いに優れており、コストも抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0012】
実施形態の工業油組成物は、基油として、トリメチロールプロパンエステル油および100℃における動粘度(JIS K 2283)が5cSt以上であるパラフィン系炭化水素油から選ばれる少なくとも1種を含む。実施形態の工業油組成物は、上記特定の基油を含むため、他の鉱油または合成油を含む工業油組成物とも混ざり合う。したがって、これら他の工業油組成物と一緒に廃棄することができ、取扱い性に優れる。さらに、基油として縮合リン酸エステルを含まないため、コストを抑えられ、環境への負担も低減できる利点がある。
【0013】
ところで、摩擦接合ユニットを搭載した自動旋盤装置では、自動旋盤装置の装置自体の潤滑のための潤滑油組成物と、切削加工のための切削加工油組成物とが使用される。そして、上記自動旋盤装置では、摩擦接合時には金属を溶融するほどの高温になり、火花が飛び散る場合もある。
【0014】
上記自動旋盤装置において、実施形態の工業油組成物を潤滑油組成物として用いる場合(後述する実施形態1)、装置の使用に伴って、通常、上記工業油組成物が装置表面等にしみ出し得る。そのような状況で摩擦接合を行っても、実施形態の工業油組成物は、上記特定の基油を含むため、しみ出している上記工業油組成物への引火、火災の懸念が低減できる。また、上記自動旋盤装置において、実施形態の工業油組成物を切削加工油組成物として用いる場合(後述する実施形態2)、切削加工に伴って、通常、上記工業油組成物が装置周辺にも付着する。そのような状況で摩擦接合を行っても、実施形態の工業油組成物は、上記特定の基油を含むため、装置周辺に付着している上記工業油組成物への引火、火災の懸念が低減できる。
【0015】
また、摩擦接合ユニットを搭載した自動旋盤装置では、潤滑油組成物として、難燃性を有する、縮合リン酸エステルを含む従来の工業油組成物を用いることも可能である。ここで、環境を考慮して、切削加工油組成物として水溶性組成物が使用されていると、装置の使用に伴って、上記従来の工業油組成物と混ざり合って、縮合リン酸エステルが加水分解する問題が生じ得る。一方、潤滑油組成物として実施形態の工業油組成物を用いる場合は、基油にパラフィン系炭化水素油が含まれていれば、上記加水分解の問題が起こらない利点がある。なお、上記加水分解を好適に抑える観点から、基油100質量%において、パラフィン系炭化水素油が70質量%以上100質量%以下の量で、トリメチロールプロパンエステル油が0質量%以上30質量%以下の量で含まれていることが好ましい。さらに、基油としてパラフィン系炭化水素油のみを用いることがより好ましい。
【0016】
また、摩擦接合ユニットを搭載した自動旋盤装置では、切削加工油組成物として、難燃性を有する、縮合リン酸エステルを含む従来の工業油組成物を用いることも可能である。ここで、潤滑油組成物として鉱油を含む組成物が使用されていると、装置の使用に伴って、しみ出してきた潤滑油組成物と上記従来の工業油組成物とが混ざり合えず、上記従来の工業油組成物が表面被膜を形成する。上記従来の工業油組成物は、難燃性を有しているが、表面被膜となっていると、摩擦接合時の引火を防ぎきれない懸念がある。一方、切削加工油組成物として実施形態の工業油組成物を用いる場合は、上記基油を含むため、しみ出してきた鉱油を含む潤滑油組成物と混ざり合うことができる。このため、摩擦接合時の引火の懸念が好適に低減できる。
【0017】
<実施形態1の工業油組成物>
実施形態1の工業油組成物は、機械潤滑に好適に用いられる。実施形態1の工業油組成物は、基油と、酸化防止剤と、ミスト防止剤と、油性剤と、金属不活性剤とを含む。
【0018】
実施形態1の工業油組成物は、基油として、トリメチロールプロパンエステル油および100℃における動粘度(JIS K 2283)が5cSt以上であるパラフィン系炭化水素油から選ばれる少なくとも1種を含む。すなわち、基油として、トリメチロールプロパンエステル油およびパラフィン系炭化水素油のいずれか一方を含んでいてもよく、トリメチロールプロパンエステル油およびパラフィン系炭化水素油の両方を含んでいてもよい。実施形態1の工業油組成物は、このような基油を含むため、上述のように、取扱い性に優れ、コストを抑えられる利点がある。また、基油として、トリメチロールプロパンエステル油を用いると、添加剤の選択の幅が広がる利点がある。一方、基油として、パラフィン系炭化水素油を用いると、機械を構成する金属を溶解し難い利点がある。
【0019】
上記基油は、下記の要件(1)、(2)を満たすことができる。
(1)250℃に加熱した基油に、火炎を接触させた際に、燃焼を継続しない。
(2)250℃に加熱した基油に、700℃に加熱した金属棒を浸漬させた際に、引火しない。
なお、上記基油の発火点は、550℃以下である。
【0020】
また、上記基油に、後述する添加剤を後述する好ましい量で加えた工業油組成物も、通常、上記要件(1)、(2)を満たす。このような工業油組成物は、準難燃性の工業油組成物ということができ、安定して機械を潤滑可能である。
【0021】
トリメチロールプロパンエステル油は、合成エステル油の1種である。トリメチロールプロパンエステル油を構成するトリメチロールプロパンエステルは、フルエステルであっても、部分エステルであってもよい。トリメチロールプロパンエステルは、具体的には、トリメチロールプロパンと、炭素原子数4~18の直鎖または分岐脂肪酸とのエステルである。トリメチロールプロパンエステルは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。トリメチロールプロパンエステルとしては、たとえば、トリメチロールプロパン吉草酸ヘプタン酸混合トリエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸モノエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸ジエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸トリエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸モノエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸ジエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸トリエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸トリエステルが挙げられる。これらのうちで、100℃における動粘度は高めであるものの、刃先への回りがよいため、トリメチロールプロパンオレイン酸トリエステル(トリメチロールプロパントリオレエート)が好適に用いられる。
【0022】
パラフィン系炭化水素油を構成する重合体は、好ましくは炭素原子数が30以上、より好ましくは30~50のα-オレフイン重合体である。パラフィン系炭化水素油は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。このα-オレフイン重合体としては、たとえば、エチレンおよび炭素原子数3~18のα-オレフイン、好ましくは炭素原子数10~18のα-オレフインから選択される1種の単量体の単重合体、エチレンおよび炭素原子数3~18のα-オレフイン、好ましくは炭素原子数10~18のα-オレフインから選択される少なくとも2種以上の単量体の共重合体が挙げられる。具体的には、1-デセンの3量体、1-ウンデセンの3量体、1-ドデセンの3量体、1-トリデセンの3量体、1-テトラデセンの3量体、1-ヘキセンと1-ペンテンとの共重合体などが挙げられる。また、パラフィン系炭化水素油は、100℃での動粘度が5cSt以上15cSt以下であることが好ましい。より具体的には、蒸発率が小さいため、ポリ(1-デセン)(PAO5、100℃での動粘度が5cSt)が好適に用いられる。その他、ポリ(1-デセン)(PAO6、100℃での動粘度が6cSt)、ポリ(1-デセン)(PAO19、100℃での動粘度が10cSt)も好適に用いられる。
【0023】
実施形態1の工業油組成物は、酸化防止剤として、中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む。酸化防止剤として上記2種類を組み合わせて用いるため、工業油組成物の使用時に、酸化防止剤の分子が破壊され難くなり、酸化防止剤の消費を抑制できる。中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体をそれぞれ単独で用いるよりも、酸化防止剤の消費を抑制できる。したがって、工業油組成物の酸化防止能を長期に渡り持続できる。すなわち、実施形態1の工業油組成物は酸化安定性に優れ、粘度変化も抑制され、長期間使用可能となる。高温で使用する工業油組成物は、酸化防止機能を有することが重要となる。上記2種類の酸化防止剤の組み合わせによれば、工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能を長期に渡って持続できる。
【0024】
中性亜リン酸エステル誘導体は、下記式(B)で表される。中性亜リン酸エステル誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。中性亜リン酸エステル誘導体は、2量体であるため、蒸発しにくく、効率よく酸化防止性能を発揮できる。
【0025】
【化3】
【0026】
式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表す。
【0027】
炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)などの直鎖状のアルキル基が好適に用いられる。
【0028】
b25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0029】
炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基が挙げられる。
【0030】
中性亜リン酸エステルは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有しているため、酸化防止性能に加えて、耐摩耗性にも優れる。これは、Rb25~Rb28に特定の置換基を有していると、摺動部に付着させた工業油組成物の膜がより強固になるためであると考えられる。
【0031】
特に、Rb25およびRb27が炭素原子数1~6、好ましくは1~3の直鎖状のアルキル基であり、Rb26およびRb28が炭素原子数3~6、好ましくは3~4の分枝状のアルキル基であると、耐摩耗性の改善の効果がより高まる。
【0032】
b291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表す。
【0033】
炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基が挙げられる。
【0034】
ただし、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。したがって、たとえばRb291が水素原子のときは、Rb292は炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がメチル基のときは、Rb292は炭素原子数1~4の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、Rb291がエチル基のときは、Rb292は炭素原子数2~3の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。
【0035】
工業油組成物の膜がより強固になるため、Rb291が水素原子であり、Rb292が炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であることがより好ましい。
【0036】
2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、下記式(C)で表される。2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0037】
【化4】
【0038】
式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基が挙げられる。上記アルキル基であると、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体の相溶性が向上する。
【0039】
実施形態1の工業油組成物において、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体は、0.001質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましく、0.001質量部以上1質量部以下の量で含まれることがより好ましく、0.001質量部以上0.5質量部以下の量で含まれることがさらに好ましい。また、基油100質量部に対して、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体は、0.001質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましく、0.001質量部以上1質量部以下の量で含まれることがより好ましく、0.001質量部以上0.7質量部以下の量で含まれることがさらに好ましい。酸化防止剤が上記の量で含まれていると、酸化防止機能をより長期に渡って持続できる。
【0040】
実施形態1の工業油組成物は、酸化防止剤として、さらに、ヒンダードアミン化合物を含んでいることが好ましい。ヒンダードアミン化合物を用いると、工業油組成物の酸化防止機能をさらに向上できる。また、工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能をさらに向上できる。
【0041】
ヒンダードアミン化合物は、下記式(D)で表される。ヒンダードアミン化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0042】
【化5】
【0043】
d21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表す。
【0044】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝または環状の脂肪族炭化水素基であってもよく、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0045】
炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、イソプロピル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、t-ペンチル基、ネオペンチル基、イソヘキシル基、2-エチルヘキシル基などの直鎖もしくは分枝状のアルキル基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の直鎖もしくは分枝状のアルキル基がより好ましい。
【0046】
d23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0047】
炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、1,2-エチレン基、1,3-プロピレン基、1,4-ブチレン基、1,5-ペンチレン基、1,6-ヘキシレン基、1,7-ヘプチレン基、1,8-オクチレン基、1,9-ノニレン基、1,10-デシレン基、3-メチル-1,5-ペンチレン基などの2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基が好適に用いられる。これらのうちで、耐久性の向上の観点から炭素原子数5~10の2価の直鎖もしくは分枝状のアルキレン基がより好ましい。
【0048】
高温における耐久性の向上の観点から、上記の内でRd21、Rd22およびRd23の炭素原子数の和が16~30であることがより好ましい。
【0049】
実施形態1の工業油組成物において、ヒンダードアミン化合物を用いる場合は、基油100質量部に対して、0.002質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましく、0.002質量部以上1質量部以下の量で含まれることがより好ましく、0.002質量部以上0.5質量部以下の量で含まれることがさらに好ましい。
【0050】
実施形態1の工業油組成物は、ミスト防止剤として、炭化水素系高分子化合物を含む。炭化水素系高分子化合物を用いると、高温での工業油組成物の使用時に、ミストの発生を好適に抑えられる。
【0051】
炭化水素系高分子化合物としては、ポリイソブチレン、エチレン-プロピレンコポリマーが挙げられる。炭化水素系高分子化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらのうちで、ポリイソブチレンが好適に用いられる。
【0052】
また、炭化水素系高分子化合物の数平均分子量は、100,000以上3,000,000以下が好ましく、200,000以上2,000,000以下がより好ましく、250,000以上1,000,000以下がさらにより好ましく、300,000以上700,000以下が特に好ましい。ここで、数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した、ポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。
【0053】
実施形態1の工業油組成物において、基油100質量部に対して、炭化水素系高分子化合物は、ミスト防止の観点から、0.01質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0054】
実施形態1の工業油組成物は、油性剤として、ジアルキルジチオりん酸亜鉛を含む。実施形態1の工業油組成物にジアルキルジチオりん酸亜鉛が含まれていると、高温で使用する際にも、摺動性が向上され、摩耗を防止できる。また、実施形態1の工業油組成物は、金属不活性剤として、ベンゾトリアゾール誘導体を含む。実施形態1の工業油組成物にベンゾトリアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、金属表面が保護でき、腐食を防止できる。実施形態1の工業油組成物においては、上記特定の油性剤および金属不活性剤を組み合わせているため、より長期に渡って機械を潤滑できる。
【0055】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛が有するアルキル基は、第一級(プライマリー)タイプのアルキル基、第二級(セカンダリー)タイプのアルキル基が挙げられる。第一級(プライマリー)タイプのアルキル基および第二級(セカンダリー)タイプのアルキル基の両方を1分子中に有していてもよい。アルキル基は、直鎖であっても、分枝状であってもよい。アルキル基の炭素原子数は、特に制限はないが、摩耗を防止する観点から、3~12であることが好ましく、3~8であることがより好ましい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0056】
ベンゾトリアゾール誘導体は、好ましくは下記式(E)で表される。このようなベンゾトリアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、腐食をより防止できる。
【0057】
【化6】
【0058】
上記式(E)中、Re1は、水素原子または炭素原子数1~18のアルキル基を表し、Re2およびRe3は、それぞれ独立に、炭素原子数1~18のアルキル基を表す。ベンゾトリアゾール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0059】
実施形態1の工業油組成物において、基油100質量部に対して、ジアルキルジチオりん酸亜鉛は、0.1質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。また、実施形態1の工業油組成物において、基油100質量部に対して、ベンゾトリアゾール誘導体は、0.01質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0060】
実施形態1の工業油組成物は、通常、銅板腐食試験(JIS K 2513)において、変色番号が2以内の結果が得られる。なお、銅板腐食試験では、具体的には、実施形態1の工業油組成物に、よく磨いた銅板を浸し、100℃で3時間保った後、銅板を取り出し洗浄して、銅板腐食標準と比較する。
【0061】
また、実施形態1の工業油組成物は、通常、耐圧性(ASTM D 2783)が160kgf以上であり、摩擦係数(振り子式摩擦試験)が0.15以下である。
【0062】
実施形態1の工業油組成物は、上述した成分を適宜混合して調製することができる。
【0063】
実施形態1の工業油組成物によれば、上述のように、室温のみならず高温においても高い安定性を発揮できるため、長期に渡って機械を潤滑できる。さらに、上述のように、摩擦接合ユニットを搭載した自動旋盤装置においては、摩擦接合時には金属を溶融するほどの高温になったり、火花が飛び散ったりすることがある。そのような場合にも、装置の潤滑に用いている工業油組成物への引火による火災の懸念が低減できる。
【0064】
<実施形態2の工業油組成物>
【0065】
実施形態2の工業油組成物は、金属加工に好適に用いられる。実施形態2の工業油組成物は、基油と、酸化防止剤と、ミスト防止剤と、極圧剤と、金属不活性剤とを含む。
【0066】
実施形態2の工業油組成物は、基油として、トリメチロールプロパンエステル油および100℃における動粘度(JIS K 2283)が5cSt以上であるパラフィン系炭化水素油から選ばれる少なくとも1種を含む。実施形態2の工業油組成物は、このような基油を含むため、上述のように、取扱い性に優れ、コストを抑えられる利点がある。基油として、トリメチロールプロパンエステル油を用いると、添加剤の選択の幅が広がる利点がある。また、基油として、パラフィン系炭化水素油を用いると、金属加工装置のパッキング等の部品を溶解し難い利点がある。基油の詳細については、好ましい範囲、量、理由なども含め、実施形態1で説明したものと同様である。
【0067】
なお、上記基油に、実施形態2で用いる添加剤を後述する好ましい量で加えた工業油組成物も、通常、実施形態1で説明した上記要件(1)、(2)を満たす。したがって、実施形態2の工業油組成物は、準難燃性の工業ということができ、安定して金属加工可能である。
【0068】
実施形態2の工業油組成物は、酸化防止剤として、中性亜リン酸エステル誘導体および2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体を含む。酸化防止剤として上記2種類を組み合わせて用いるため、工業油組成物の酸化防止能を長期に渡り持続できる。すなわち、工業油組成物は酸化安定性に優れ、粘度変化も抑制され、長期間使用可能となる。また、上記2種類の酸化防止剤の組み合わせによれば、工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能を長期に渡って持続できる。また、酸化防止剤として、さらに、ヒンダードアミン化合物を含んでいることが好ましい。ヒンダードアミン化合物を用いると、工業油組成物の酸化防止機能をさらに向上できる。また、工業油組成物を高温で使用する際にも、酸化防止機能をさらに向上できる。酸化防止剤の詳細については、好ましい範囲、量、理由なども含め、実施形態1で説明したものと同様である。
【0069】
実施形態2の工業油組成物は、ミスト防止剤として、炭化水素系高分子化合物を含む。炭化水素系高分子化合物を用いると、高温での工業油組成物の使用時に、ミストの発生を好適に抑えられる。ミスト防止剤の詳細については、好ましい範囲、量、理由なども含め、実施形態1で説明したものと同様である。
【0070】
実施形態2の工業油組成物は、極圧剤として、硫黄化合物を含む。具体的には活性硫黄化合物を含む。実施形態2の工業油組成物に活性硫黄化合物が含まれていると、高温で使用する際にも、加工性が向上できる。また、実施形態2の工業油組成物は、金属不活性剤として、チアジアゾール誘導体を含む。実施形態2の工業油組成物にチアジアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、金属表面が保護でき、腐食を防止できる。また、銅系金属の加工も可能となる。実施形態2の工業油組成物においては、上記特定の極圧剤および金属不活性剤を組み合わせているため、より長期に渡って金属を加工できる。
【0071】
活性硫黄化合物は、分子内に活性硫黄を含有する化合物であればよい。ここで、活性硫黄化合物とは、たとえば、硫黄原子を含有し金属原子およびリン原子を含有しない化合物のうち、硫黄含量が1質量%になるように精製鉱油で希釈したものについて、JIS K2513(石油製品-銅板腐食試験方法;試験管法、100℃で1時間加熱)に準じて測定した銅板腐食が2~4であるものをいう。なお、一方、硫黄原子を含有し金属原子およびリン原子を含有しない化合物のうち、上記の試験法で、銅板腐食が1である化合物を不活性硫黄化合物という。活性硫黄化合物としては、ポリサルファイド、硫化油脂、粉末硫黄、硫化鉱油、硫化エステル、硫化オレフィンが挙げられる。これらのうちで、硫化オレフィンが好適に用いられる。活性硫黄化合物は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの活性硫黄化合物と、原料や硫黄含量が近似していても、製造条件等により、不活性硫黄化合物である場合がある。
【0072】
チアジアゾール誘導体は、好ましくは2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾールであり、下記式(F)で表される。このようなチアジアゾール誘導体が含まれていると、高温で使用する際にも、腐食をより防止できる。
【0073】
【化7】
【0074】
上記式(F)中、Rf1およびRf2は、それぞれ独立に、炭素原子数1~20のアルキル基を示し、aおよびbは、それぞれ独立に、1、2または3を表す。チアジアゾール誘導体は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0075】
実施形態2の工業油組成物において、基油100質量部に対して、硫黄化合物は、0.01質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。また、実施形態2の工業油組成物において、基油100質量部に対して、チアジアゾール誘導体は、0.01質量部以上5質量部以下の量で含まれることが好ましい。
【0076】
実施形態2の工業油組成物は、通常、銅板腐食試験(JIS K 2513)において、変色番号が2以内の結果が得られる。なお、銅板腐食試験では、具体的には、実施形態2の工業油組成物に、よく磨いた銅板を浸し、100℃で3時間保った後、銅板を取り出し洗浄して、銅板腐食標準と比較する。
【0077】
また、実施形態2の工業油組成物は、通常、耐圧性(ASTM D 2783)が160kgf以上であり、摩擦係数(振り子式摩擦試験)が0.15以下である。
【0078】
実施形態2の工業油組成物は、上述した成分を適宜混合して調製することができる。
【0079】
実施形態2の工業油組成物によれば、上述のように、室温のみならず高温においても高い安定性を発揮できるため、長期に渡って金属を加工できる。さらに、上述のように、たとえば摩擦接合ユニットを搭載した自動旋盤装置にも好ましく用いられる。具体的には、切削加工に用いる工業油組成物は、通常、装置周辺にも付着する。切削加工に続いて摩擦接合を行うと、金属を溶融するほどの高温になったり、火花が飛び散ったりすることがある。そのような場合にも、工業油組成物への引火による火災の懸念が低減できる。
【0080】
ところで、自動旋盤装置(具体的には摩擦接合ユニットを搭載した自動旋盤装置)においては、実施形態1の工業油組成物および実施形態2の工業油組成物を併用することが好ましい。すなわち、実施形態1の工業油組成物により、機械を潤滑し、実施形態2の工業油組成物により、切削加工を行うことが好ましい。これにより、実施形態1の工業油組成物および実施形態2の工業油組成物が、装置の稼働時に分離せずに混和する利点がある。
【0081】
<その他の実施形態の工業油組成物>
【0082】
その他の実施形態の工業油組成物として、実施形態1、2の工業油組成物に、さらに、その他の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤としては、塩素化パラフィンが挙げられる。その他の添加剤は、工業油組成物について長期の使用等の効果を妨げない範囲で含まれていることが好ましい。
【0083】
また、その他の実施形態の工業油組成物としては、実施形態1の工業油組成物に対して、ミスト防止剤、油性剤および金属不活性剤の少なくとも1種を含まない組成物であってもよい。
【0084】
あるいは、実施形態2の工業油組成物に対して、ミスト防止剤および金属不活性剤の少なくとも1種を含まない組成物であってもよい。実施形態2の工業油組成物において、上述した金属不活性剤を含まない場合は、銅系金属以外、たとえば鉄を含む金属の加工に好適に用いることができる。また、実施形態2の工業油組成物において、上述した金属不活性剤を含まない場合は、極圧剤として、活性硫黄化合物の代わりに不活性硫黄化合物を用いてもよい。
【0085】
いずれの工業油組成物も、酸化防止機能に優れ、常温のみならず高温で長期にわたって使用可能である。
【0086】
以上より、本発明は以下に関する。
〔1〕 基油として、トリメチロールプロパンエステル油および100℃における動粘度が5cSt以上であるパラフィン系炭化水素油から選ばれる少なくとも1種と、酸化防止剤として、下記式(B)で表される中性亜リン酸エステル誘導体および下記式(C)で表される2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体とを含む、工業油組成物。上記〔1〕の工業油組成物は、廃棄の際の取り扱いに優れており、コストも抑えられる。また、常温のみならず高温においても長期間使用可能である。
【0087】
【化8】
【0088】
(上記式(B)中、Rb21~Rb24は、それぞれ独立に、炭素原子数10~16の脂肪族炭化水素基を表し、Rb25~Rb28は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基を表し、Rb291およびRb292の炭素原子数の合計は、1~5である。)
【0089】
【化9】
【0090】
(上記式(C)中、Rc1は、炭素原子数1~12の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。)
【0091】
〔2〕 上記酸化防止剤として、さらに、下記式(D)で表されるヒンダードアミン化合物を含む、〔1〕に記載の工業油組成物。上記〔2〕の工業油組成物は、酸化防止機能がさらに向上されている。また、上記〔2〕の工業油組成物は、高温で使用する際にも、酸化防止機能がさらに向上されている。
【0092】
【化10】
【0093】
(上記式(D)中、Rd21およびRd22は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の脂肪族炭化水素基を表し、Rd23は、炭素原子数1~10の2価の脂肪族炭化水素基を表す。)
【0094】
〔3〕 さらに、ミスト防止剤として炭化水素系高分子化合物を含む、〔1〕または〔2〕に記載の工業油組成物。上記〔3〕の工業油組成物は、ミストの発生を好適に抑えられる。
〔4〕 さらに、油性剤としてジアルキルジチオりん酸亜鉛を含み、機械潤滑に用いられる、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の工業油組成物。上記〔4〕の工業油組成物は、高温で使用する際にも、摺動性が向上され、摩耗を防止できる。
〔5〕 さらに、金属不活性剤としてベンゾトリアゾール誘導体を含む、〔4〕に記載の工業油組成物。上記〔5〕の工業油組成物は、より長期に渡って機械を潤滑できる。
〔6〕 さらに、極圧剤として硫黄化合物を含み、金属加工に用いられる、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の工業油組成物。上記〔6〕の工業油組成物は、高温で使用する際にも、加工性が向上できる。
〔7〕 上記硫黄化合物が、活性硫黄化合物であり、さらに、金属不活性剤としてチアジアゾール誘導体を含む、〔6〕に記載の工業油組成物。上記〔7〕の工業油組成物は、より長期に渡って金属を加工できる。
【0095】
[実施例]
以下実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0096】
下記の試料および実施例の工業油組成物を用意した。
[試料1-1]基油1-1
トリメチロールプロパントリオレエート(Oleon社製、Radialube7364(商品名))
[試料1-2]基油1-2
トリメチロールプロパン吉草酸ヘプタン酸混合トリエステル(ランクセス社製、HATCOL 2915(商品名))
【0097】
[試料2-1]基油2-1
ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO5(商品名)、100℃での動粘度5cSt)
[試料2-2]基油2-2
ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO6(商品名)、100℃での動粘度6cSt
[試料2-3]基油2-3
ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO10(商品名)、100℃での動粘度10cSt
【0098】
[試料3]基油3
トリメチロールプロパントリオレエート(Oleon社製、Radialube7364(商品名)):ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO5(商品名)、100℃での動粘度5cSt)を1:1(質量比)で混合した基油
【0099】
[実施例1-1]
基油として、トリメチロールプロパントリオレエート(Oleon社製、Radialube7364(商品名))を用いた。
この基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)0.2質量部と、ミスト防止剤としてポリイソブチレン(商品名:PARATAC、Triiso社製)0.1質量部と、油性剤としてジアルキルジチオりん酸亜鉛(商品名:アディティン(登録商標)RC308、ランクセス株式会社製)1質量部と、金属不活性剤として1-(N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール(商品名:イルガメット(登録商標)39、BASFジャパン株式会社製)0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0100】
[実施例1-2]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例1-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.001質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.001質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、ミスト防止剤0.1質量部と、油性剤1質量部と、金属不活性剤0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0101】
[実施例1-3]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例1-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体5質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体5質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、ミスト防止剤0.1質量部と、油性剤1質量部と、金属不活性剤0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0102】
[実施例1-4]
ヒンダードアミン化合物を用いなかった以外は、実施例1-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.5質量部と、ミスト防止剤0.1質量部と、油性剤1質量部と、金属不活性剤0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0103】
[実施例1-5]
ミスト防止剤を用いなかった以外は、実施例1-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、油性剤1質量部と、金属不活性剤0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0104】
[実施例1-6]
金属不活性剤を用いなかった以外は、実施例1-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、ミスト防止剤0.1質量部と、油性剤1質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0105】
[実施例1-7]
油性剤および金属不活性剤を用いなかった以外は、実施例1-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、ミスト防止剤0.1質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0106】
[実施例1-8-1~1-8-6]
中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)(Rb21~Rb24=トリデシル基、Rb25、Rb27=メチル基、Rb26、Rb28=t-ブチル基、Rb291=水素原子、Rb292=n-プロピル基)の代わりに、上記式(B)中の置換基を表1の置換基に変更した化合物を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0107】
【表1】
【0108】
[実施例1-9-1~1-9-6]
ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)(Rd21、Rd22=n-オクチル基、Rd23=1,8-オクチレン基)の代わりに、上記式(D)中の置換基を表2の置換基に変更した化合物を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0109】
【表2】
【0110】
[実施例1-10]
基油として、トリメチロールプロパントリオレエートのかわりに、トリメチロールプロパン吉草酸ヘプタン酸混合トリエステル(ランクセス社製、HATCOL 2915(商品名))を用いた以外は、実施例1-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0111】
[実施例2-1]
基油として、ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO5(商品名)、100℃での動粘度5cSt)を用いた。
この基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)0.2質量部と、ミスト防止剤としてポリイソブチレン(商品名:PARATAC、Triiso社製)0.1質量部と、油性剤としてジアルキルジチオりん酸亜鉛(商品名:アディティン(登録商標)RC308、ランクセス株式会社製)1質量部と、金属不活性剤として1-(N,N-ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル)ベンゾトリアゾール(商品名:イルガメット(登録商標)39、BASFジャパン株式会社製)0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0112】
[実施例2-2]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.001質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.001質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、ミスト防止剤0.1質量部と、油性剤1質量部と、金属不活性剤0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0113】
[実施例2-3]
下記の量で成分を混合した以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体5質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体5質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、ミスト防止剤0.1質量部と、油性剤1質量部と、金属不活性剤0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0114】
[実施例2-4]
ヒンダードアミン化合物を用いなかった以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.5質量部と、ミスト防止剤0.1質量部と、油性剤1質量部と、金属不活性剤0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0115】
[実施例2-5]
ミスト防止剤を用いなかった以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、油性剤1質量部と、金属不活性剤0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0116】
[実施例2-6]
金属不活性剤を用いなかった以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、ミスト防止剤0.1質量部と、油性剤1質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0117】
[実施例2-7]
油性剤および金属不活性剤を用いなかった以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。すなわち、基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物0.2質量部と、ミスト防止剤0.1質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0118】
[実施例2-8-1~2-8-6]
中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)(Rb21~Rb24=トリデシル基、Rb25、Rb27=メチル基、Rb26、Rb28=t-ブチル基、Rb291=水素原子、Rb292=n-プロピル基)の代わりに、上記式(B)中の置換基を表3の置換基に変更した化合物を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0119】
【表3】
【0120】
[実施例2-9-1~2-9-6]
ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)(Rd21、Rd22=n-オクチル基、Rd23=1,8-オクチレン基)の代わりに、上記式(D)中の置換基を表4の置換基に変更した化合物を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0121】
【表4】
【0122】
[実施例2-10]
基油として、ポリ(1-デセン)(PAO5)のかわりに、ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO6(商品名)、100℃での動粘度6cSt)を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0123】
[実施例2-11]
基油として、ポリ(1-デセン)(PAO5)のかわりに、ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO10(商品名)、100℃での動粘度10cSt)を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0124】
[実施例2-12]
基油として、ポリ(1-デセン)(PAO5)100質量部のかわりに、トリメチロールプロパントリオレエート(Oleon社製、Radialube7364(商品名)):ポリ(1-デセン)(PAO5)を1:1(質量比)で混合した基油100質量部を用いた以外は、実施例2-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0125】
[実施例3-1]
基油として、トリメチロールプロパントリオレエート(Oleon社製、Radialube7364(商品名))を用いた。
この基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)0.2質量部と、ミスト防止剤としてポリイソブチレン(商品名:PARATAC、Triiso社製)0.1質量部と、極圧剤として活性硫黄化合物である硫化オレフィン(商品名:GS-440L、DIC株式会社製)1質量部と、金属不活性剤として2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール(商品名:R100、DIC株式会社製)0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
【0126】
[実施例3-2]
基油として、トリメチロールプロパントリオレエートのかわりに、トリメチロールプロパン吉草酸ヘプタン酸混合トリエステル(ランクセス社製、HATCOL 2915(商品名))を用いた以外は、実施例3-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0127】
[実施例4-1]
基油として、ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO5(商品名)、100℃での動粘度5cSt)を用いた。
この基油100質量部に対して、中性亜リン酸エステル誘導体として4,4'-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル ジトリデシルフォスファイト)0.2質量部と、2,6-ジ-t-ブチルフェノール誘導体としてオクチル=3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパノアート(CAS 125643-61-0、商品名:イルガノックス(登録商標)L135、BASFジャパン株式会社製)0.5質量部と、ヒンダードアミン化合物としてデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)ピペリジン-4-イル)0.2質量部と、ミスト防止剤としてポリイソブチレン(商品名:PARATAC、Triiso社製)0.1質量部と、極圧剤として活性硫黄化合物である硫化オレフィン(商品名:GS-440L、DIC株式会社製)1質量部と、金属不活性剤として2,5-ビス(アルキルジチオ)-1,3,4-チアジアゾール(商品名:R100、DIC株式会社製)0.5質量部とを混合して、工業油組成物を得た。
[実施例4-2]
基油として、ポリ(1-デセン)(PAO5)のかわりに、ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO6(商品名)、100℃での動粘度6cSt)を用いた以外は、実施例4-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0128】
[実施例4-3]
基油として、ポリ(1-デセン)(PAO5)のかわりに、ポリ(1-デセン)(シェブロンテキサコ社製、PAO10(商品名)、100℃での動粘度10cSt)を用いた以外は、実施例4-1と同様にして、工業油組成物を得た。
【0129】
[評価方法および評価結果]
〔引火性〕
引火性の評価試験として、具体的には、下記の評価試験(1)~(2)を行った。
(1)評価対象を250℃に加熱し、ユーティリティーライターの火炎を1~2秒接触させた。この際に、評価対象に引火するか否かを調べた。引火しなかった場合を合格、引火した場合を不合格とした。
(2)金属棒(直径4.5mm、長さ86mm)を、予め、1400~1600℃のトーチ(商品名:強力耐風バーナー パワートーチ RZ-840AK、新富士バーナー株式会社製)で30秒加熱しておいた。これにより、金属棒は、700℃以上に加熱されていた。評価対象を250℃に加熱し、その中に、上記のように予め加熱しておいた金属棒を浸漬した。この際に、評価対象に引火するか否かを調べた。引火しなかった場合を合格、引火した場合を不合格とした。
【0130】
〔酸化防止機能〕
まず、円柱状のディスク(直径30mm、厚さ5mm、SUJ2製)を2枚用意した。一方のディスクの底面に実施例で得られた工業油組成物を塗布し、塗布した工業油組成物の上に他方のディスクの底面を重ね合わせた。容器中の80℃に加熱した実施例で得られた工業油組成物に、重ね合わせた2枚のディスクを、底面が地面と垂直となる方向に浸漬した。次いで、上記一方のディスクに対して、上記他方のディスクを150kgの圧力をかけて押しつけながら、上記一方のディスクを1000rpmで3時間または6時間回転させた。このようにして、3時間または6時間の熱履歴を受けた工業油組成物を作製した。
次いで、3時間または6時間の熱履歴を受けた工業油組成物について、振り子式摩擦試験を行い、摩擦係数を求めた。具体的には、3時間または6時間回転後のディスク間に存在する工業油組成物とともに容器中の工業油組成物を合わせて振り子式摩擦試験に用いた。また、作製したままの状態(熱履歴なしの状態)にある実施例で得られた工業油組成物についても、同様に、摩擦係数を求めた。
表5に結果を示す。
【0131】
【表5-1】
【0132】
【表5-2】
【0133】
〔潤滑性・加工性〕
自動旋盤装置(製品名:シンコムL32、シチズンマシナリー株式会社製)に、摩擦接合ユニットを搭載した試作機において、自動旋盤装置の摺動部に実施例1-1で得られた工業油組成物を用い、切削加工時に実施例3-1で得られた工業油組成物を用いて、チタン部材を切削加工してチタン部品を100個製造した。また、チタン部品の製造後、自動旋盤装置の摺動部を観察したところ、摩耗は見られなかった。実施例3-1で得られた工業油組成物により、適切にチタン部品を切削加工でき、実施例1-1で得られた工業油組成物により、適切に摺動部を潤滑できることが分かった。
さらに、チタン部品の製造後、摩擦接合ユニットを用いて、チタン部材の摩擦接合を行った。この際、火花が散っても自動旋盤装置やその周囲に付着している工業油組成物に引火することなく、安全に行うことができた。
なお、実施例1-1で得られた工業油組成物の代わりに、実施例1-2~1-10、2-1~2-12で得られた工業油組成物を使用した場合、また、実施例3-1で得られた工業油組成物の代わりに、実施例3-2、4-1~4-3で得られた工業油組成物を使用した場合も、上記と同様の結果が得られた。