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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】保護シート及びその設置方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20240319BHJP
   B32B 3/06 20060101ALI20240319BHJP
   D03D 15/267 20210101ALI20240319BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B3/06
D03D15/267
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021057861
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154703
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】391007460
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390018153
【氏名又は名称】日本毛織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田先 慶多
(72)【発明者】
【氏名】田中 謙二.
(72)【発明者】
【氏名】矢▲崎▼ 賢一
(72)【発明者】
【氏名】熊▲崎▼ 隆行
(72)【発明者】
【氏名】田中 義直
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-513962(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121545(WO,A1)
【文献】特表平06-506161(JP,A)
【文献】特許第7288877(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2003/0168248(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 3/06
B32B 27/12
D03D 15/267
G02B 6/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維強化織物を含む保護シートであって、
前記ガラス繊維強化織物は、経糸又は緯糸の一方の糸はガラス繊維フィラメント糸を芯糸とし、前記芯糸の周囲をスーパー繊維糸で被覆撚糸したカバリング糸であり、他方の糸はスーパー繊維糸又は前記カバリング糸であり、
前記強化織物の一方の表面には樹脂層が積層一体化されており、
前記樹脂層の表面には繊維製テープが配置され、前記繊維製テープは前記樹脂層及び前記ガラス繊維強化織物と複数個所で固定されていることを特徴とする保護シート。
【請求項2】
前記ガラス繊維強化織物は複数枚積層され、周囲が縫製により一体化されている請求項1に記載の保護シート。
【請求項3】
前記保護シートは光ファイバーケーブル用保護シートである請求項1又は2に記載の保護シート。
【請求項4】
前記保護シートは矩形である請求項1~3のいずれかに記載の保護シート。
【請求項5】
前記保護シートは長方形であり、前記繊維製テープは前記保護シートの長さ方向に沿って幅方向に複数本配置されている請求項1~4のいずれかに記載の保護シート。
【請求項6】
前記スーパー繊維は、強度:18cN/decitex以上、弾性率:380cN/decitex以上の高強度かつ高弾性繊維糸である請求項1~5のいずれかに記載の保護シート。
【請求項7】
前記スーパー繊維糸は、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、高分子量ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維糸である請求項1~6のいずれかに記載の保護シート。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の保護シートの設置方法であって、
光ファイバーケーブルが挿入されている樹脂製パイプの表面に前記保護シートを巻き付け、
樹脂製結束バンドを繊維製テープの下を通して固定することを特徴とする保護シートの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度及び耐切創性が高く、草刈り機などが当たっても切断ないしは破壊しにくい保護シート及びその設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から防刃織物として、アラミド繊維等の高強度かつ高弾性繊維を用いた織物等が提案されている(特許文献1~2)。本発明者らは特許文献3~4において、特定の織物構造の多重織物及びこれを用いた積層シートを防刃衣類等に適用する提案をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3051449号公報
【文献】特開2002-371408号公報
【文献】特許第5156410号公報
【文献】特許第6577963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術は、防刃チョッキ、チェーンソー作業用レッグプロテクター等の防刃衣類に前記織物やシートを適用することが提案されている。
最近、高速道路ののり面(斜面)の上に光ファイバーケーブル用が樹脂製パイプの中に配置されて設置されるようになってきた。高速道路ののり面(斜面)は雑草が生い茂るため、時々草刈り作業が必要である。この作業に使用する草刈り機により、樹脂製パイプもその中の光ファイバーケーブルも切断されてしまう事故が起こるようになってきた。この樹脂製パイプは難燃性ポリエチレン樹脂を蛇腹構造に成形されており、凸部(波上部分)には鉄心が巻かれているが、凹部の前記ポリエチレン樹脂の部分に草刈り機の刃が入ると樹脂製パイプもその中の光ファイバーケーブルも切断されてしまう。従来の織物はこの問題を解決することができず、さらなる改善が要求されている。
【0005】
本発明は、強度及び耐切創性が高く、草刈り機などの刃部が当たっても切断ないしは破壊しにくく、光ファイバーケーブルを入れた樹脂製パイプに固定しやすい保護シート及びその設置方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ガラス繊維強化織物を含む保護シートであって、前記ガラス繊維強化織物は、経糸又は緯糸の一方の糸はガラス繊維フィラメント糸を芯糸とし、前記芯糸の周囲をスーパー繊維糸で被覆撚糸したカバリング糸であり、他方の糸はスーパー繊維糸又は前記カバリング糸であり、前記強化織物の一方の表面には樹脂層が積層一体化されており、前記樹脂層の表面には繊維製テープが配置され、前記繊維製テープは前記樹脂層及び前記ガラス繊維強化織物と複数個所で固定されている保護シートである。
【0007】
本発明の保護シートの設置方法は、光ファイバーケーブルが挿入されている樹脂製パイプの表面に前記保護シートを巻き付け、樹脂製結束バンドを繊維製テープの下を通して固定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の保護シートは、強化織物を含み、前記強化織物は、経糸又は緯糸の一方の糸はガラス繊維フィラメント糸を芯糸とし、前記芯糸の周囲をスーパー繊維糸で被覆撚糸したカバリング糸であり、他方の糸はスーパー繊維糸又は前記カバリング糸であり、前記強化織物の一方の表面には樹脂層が積層一体化されており、前記樹脂層の表面には、繊維製テープが配置され、前記保護シートと複数個所で固定されていることにより、草刈り機などの刃部が当たっても切断ないしは破壊しにくく、光ファイバーケーブルを入れた樹脂製パイプに固定しやすい保護シートを提供できる。また本発明の保護シートの設置方法は、効率よく合理的に保護シートを設置できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aは本発明の一実施形態の保護シートの模式的斜視図、図1B図1AのI-I線断面図である。
図2図2Aは本発明の一実施形態の保護シートの設置方法を示す模式的斜視図、図2B図2AのII-II線断面図である。
図3図3は本発明の別の実施形態の保護シートの設置方法を示す模式的斜視図である。
図4図4Aは本発明の一実施形態の織物に使用するシングルカバリング糸の模式的側面図、図4Bは同ダブルカバリング糸の模式的側面図、図4Cは別のダブルカバリング糸の模式的側面図である。
図5図5は同芯糸に添え糸を配置したダブルカバリング糸の模式的側面図である。
図6図6は本発明の一実施形態の2/1ツイル(単層)織物の組織図である。
図7図7は本発明の別の実施形態の2/2ツイル(単層)織物の組織図である。
図8図8は本発明のさらに別の実施形態の4/2ツイル(単層)織物の組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、経糸又は緯糸の一方の糸はガラス繊維フィラメント糸を芯糸とし、前記芯糸の周囲をスーパー繊維糸で被覆撚糸したカバリング糸であり、他方の糸はスーパー繊維糸又は前記カバリング糸で構成されるガラス繊維強化織物を使用する。この織物は、強度も切創力も高い。このガラス繊維強化織物の一方の表面には樹脂層が積層一体化されている。これにより、草刈り機などの刃部が当たっても滑りやすく、切断ないしは破壊しにくい。
【0011】
前記織物は1枚でもよいし複数枚積層してもよい。織物は1枚の場合は、前記特許文献4に記載の2~5層の多重織物を使用するのが好ましく、織物を複数枚積層する場合は、前記特許文献4に記載の単層織物を使用するのが好ましい。単層織物を複数枚積層すると、軟らかく巻き付けやすく光ファイバーケーブル用保護シート等に好適である。前記複数枚積層された織物は、周囲を縫製により一体化して使用するのが好ましい。一体化されていると光ファイバーケーブルを入れた樹脂製パイプに巻き付けやすい。
【0012】
前記保護シートは光ファイバーケーブル用保護シートに好適である。とくに、高速道路ののり面(斜面)の上に光ファイバーケーブル用が樹脂製パイプの中に配置されて設置されている場合、雑草が生い茂るため、時々草刈り作業が必要であるが、この作業に使用する草刈り機により、光ファイバーケーブルが切断される事故を未然に防げる。光ファイバーケーブルが切断されると、修復には多額の費用がかかるため、これを防ぐのは重要である。
【0013】
前記保護シートは、ガラス繊維強化織物の表面に樹脂層が積層一体化されているのが好ましい。樹脂層はプラチゾルなどの塗液を塗布して乾燥及び硬化させるか、又は樹脂フィルムをラミネートにより一体化するのが好ましい。これにより、表面が滑りやすくなり、草刈り機の刃物が当たっても表面を滑るだけで作業者に衝撃を与えない効果がある。ガラス繊維強化織物の表面に樹脂層がないと、草刈り機の刃物が当たると食い込み、作業者に衝撃を与えて傷つけてしまう問題がある。また、樹脂層により、防水効果もある。樹脂層は目立ちやすい着色、例えばイエロー色、オレンジ色などに着色されているのが好ましい。樹脂層は塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン樹脂などいかなる樹脂でもよい。この中でも、例えば塩化ビニル樹脂のように難燃性があり、耐光性も良好な樹脂が好ましい。高速道路ののり面(斜面)は大きな自動車事故で火災になることもあり、難燃性があると好適である。また、高速道路ののり面(斜面)は直射日光に曝されるので、耐光性も重要である。
【0014】
本発明の保護シートは、樹脂層の表面には繊維製テープが配置され、前記保護シートと複数個所で固定されている。保護シートの長さ方向に複数本配置するのが好ましい。繊維製テープは、織物テープ、編み物テープ、組み物テープなどがあるが、強力が高く伸びが低いことから織物テープが好ましい。素材は耐光性の高いものが良く、ポリプロピレン製が好ましい。幅は15~30mm、厚さは0.5~3mmが好ましい。繊維製テープがあると次のような利点がある。
(1)光ファイバーケーブルが挿入されている樹脂製パイプの表面に保護シートを巻き付けるが容易である。繊維製テープは手に持ちやすく、巻き付け作業がしやすい。
(2)巻き付け作業の際、繊維製テープを目視観察することにより、保護シートが所定方向にきちんと巻き付けられているか否かを判断できる。すなわち、繊維製テープが歪んでいたり、所定角度からずれていると、巻き付け作業はうまくいっていないと判定できる。
(3)樹脂製結束バンドを繊維製テープの下を通して固定でき、樹脂製結束バンドが動きにくい。樹脂製結束バンドは、例えばインシュロック(登録商標)が好ましく、これを複数本の繊維製テープの少なくとも1本、好ましくは2本の下を通して固定すると、強固に固定できる。
(4)光ファイバーケーブルが挿入されている樹脂製パイプの長さ方向に保護シートを連続して巻き付ける際に、保護シートの端を重ねるのが好ましいが、この場合、重なった保護シートのそれぞれの繊維製テープの下を通して結束バンドを固定すると、重なり部が開口せずに巻き付け作業ができる。
【0015】
前記保護シートは矩形であるのが好ましい。矩形であると光ファイバーケーブルに巻き付けやすい。また、保護シートは織物から作成するため、矩形であると無駄な部分がなくなり、歩留まりが良好となる。矩形の保護シートは、長方形が好ましく、例えば長さ1000mm、幅350mm程度とするのが好ましい。
【0016】
経糸又は緯糸の一方の糸はガラス繊維フィラメント糸を芯糸とし、前記芯糸の周囲をスーパー繊維糸で被覆撚糸したカバリング糸であり、他方の糸はスーパー繊維糸又は前記カバリング糸で構成される織物を使用する。緯糸は織物製造の際に経糸と筬により大きな摩擦力を受けるため、経糸のようなカバリング糸では芯糸と被覆糸とが分離しやすいこともあるため、スーパー繊維単独糸としてもよい。なお、「スーパー繊維」は、本宮達也ら著、「繊維の百科事典」、丸善、2002年3月25日、522頁にも記載されている通り、当業者の一般的技術用語である。
【0017】
前記カバリング糸は、芯糸のガラス繊維フィラメント糸にスーパー繊維糸からなる添え糸が配置されているのが好ましい。これにより、芯糸と被覆撚糸との一体性はさらに良好となり、毛羽やモケ等の織物欠点の発生が少なく、さらに良好に織物の目風を整えた織物となる。
【0018】
ガラス繊維フィラメント糸の撚り撚り係数Kは500~20000)が好ましく、さらに好ましくは1000~15000)である。ガラス繊維フィラメント糸は複数本引き揃えるか、あるいは合撚して使用できる。前記において撚り係数Kは次の式で算出する。
=T×D 1/2
但し、T:糸長1メートルあたりの撚り数
:糸の繊度(単位:decitex)
【0019】
ガラス繊維は粘弾性が高く、横方向からの衝撃にも強いことから好ましい。ガラス繊維糸はEガラスの場合、密度2.55g/cm、引張強度2410MPa,ヤング率69GPaであり、炭素繊維糸は東レ社製、製品名”T1000G”の場合、密度1.80g/cm、引張強度6370MPa,ヤング率297GPaであり、強度が高く、耐切創性も耐衝撃性も良好である。ガラス繊維フィラメント糸の繊度は200~2000decitexが好ましく、単繊維総本数は400~4000本程度が好ましい。
【0020】
前記スーパー繊維は、強度:18cN/decitex以上、弾性率:380cN/decitex以上の高強度かつ高弾性繊維糸であるのが好ましい。具体的には、アラミド(パラ系、メタ系を含む)繊維、ポリアリレート繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維、ポリ(p-フェニレンベンゾビスチアゾール)(PBZT)繊維、高分子量ポリエチレン繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維及びポリビニルアルコール繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維糸であるのが好ましい。これらの繊維は混合して使用することもできる。経糸と緯糸は同一であっても良いし、異なっていても良い。この中でも耐熱性の高いアラミド繊維(例えば、東レ・デュポン社製、商品名“ケブラー”、テイジントワロン社製、商品名“トワロン”、帝人社製、商品名“テクノーラ”)、ポリアリレート繊維(例えば、クラレ社製、商品名“ベクトラン”)、ポリ(p-フェニレンベンゾビスオキザール)(PBO)繊維(例えば、東洋紡社製、商品名“ザイロン”)が好ましい。また、高強力、高切創性繊維として、高分子量ポリエチレン繊維(例えば、東洋紡社製、商品名“イザナス”)が好ましい。
【0021】
スーパー繊維は、マルチフィラメント糸でもよいし、紡績糸を使用してもよい。マルチフィラメント糸のトータル繊度は100~3000decitex(単繊維の繊度:1~20decitex)程度が好ましい。紡績糸の場合の繊度は、綿番手で1~50番程度が好ましい。単糸で使用することもできるし、複数本引き揃えるか、あるいは合撚して使用できる。マルチフィラメント糸は加工糸でもよい。
【0022】
本発明で使用する織物は、経糸又は緯糸の一方の糸はガラス繊維フィラメント糸を芯糸とし、前記芯糸の周囲をスーパー繊維糸で被覆撚糸したカバリング糸であり、他方の糸はスーパー繊維糸又は前記カバリング糸で構成される。前記カバリング糸は、芯糸と被覆撚糸との一体性を高く保つため、及び耐切創性を高く維持するために使用する。カバリング糸はシングルカバリング糸でもよいし、ダブルカバリング糸でもよいが、ダブルカバリング糸が好ましい。ダブルカバリング糸を使用すると切創力がより高くなる。
【0023】
前記カバリング糸は、芯糸に対する被覆糸の撚り係数Kが2000~30000、より好ましくは3000~26000の範囲で巻き付いているのが好ましい。これにより撚り構造が強固となり、切創力はより高くなる。この結果、単層織物でもJIS-T8052における切創試験で50N以上、好ましくは60N以上の織物となる。
=T×D 1/2
但し、T:糸長1メートルあたりの撚り数
:糸の繊度(単位:decitex)
【0024】
本発明で使用する織物は、単層織物又は2~5層の多重織物が好ましいが、製造コストからすると単層織物が好ましい。単層織物としては平織、綾織、朱子織等が使用できる。この中でも織物の目風がきれいな綾織(ツイル)が好ましい。綾織(ツイル)は1/2ツイル、2/1ツイル、2/2ツイル等いかなるものであっても良い。多重織物としては、両外側の経糸は最外層の緯糸1本の間を交差して配置し、内層の経糸は、厚さ方向に隣り合う2本の緯糸の間を交差して配置した織物構造が好ましい。多重織物は、断面方向から見て経糸が3~8本であり、緯糸が2~7層であっても良い。
【0025】
本発明で使用する織物は、JIS-T8052における切創試験で30N以上であることが好ましく、さらに好ましくは50N以上であり、とくに好ましくは100N以上である。100Nを超えると「100N以上」という評価になるが、本発明で使用する織物は実際に「100N以上」という評価になるものが存在する。前記切創試験で30N以上であれば、耐切創性も耐衝撃性も良好である。
【0026】
単層織物は、たて糸密度は50本/25.4mm以上、よこ糸密度は35本/25.4mm以上であるのが好ましい。さらに好ましくは、単層織物で、たて糸密度は50~80本/25.4mm、よこ糸密度は40~60本/25.4mmである。このようにすると単層織物でもJIS-T8052における切創試験で50N以上となる。
【0027】
前記ガラス繊維強化織物は複数枚積層され、周囲が縫製により一体化されているのが好ましい。樹脂層側(外層)のガラス繊維強化織物のスーパー繊維がポリアリレート繊維であるのが好ましい。外層のガラス繊維強化織物のスーパー繊維がポリアリレート繊維であると難燃性が高い利点があり、表面の樹脂層との積層一体化も強固にできる。非樹脂層側(内層)のガラス繊維強化織物のスーパー繊維は高分子量ポリエチレン繊維が好ましい。これにより軽くでき、高強力で高切創性となる。
【0028】
本発明の保護シートの設置方法は、光ファイバーケーブルが挿入されている樹脂製パイプの表面に前記保護シートを巻き付け、その外側から樹脂製結束バンドを繊維製テープの下を通して固定する。本発明の保護シートは織物であるため柔軟性があり、光ファイバーケーブルが挿入されている樹脂製パイプの表面に巻き付けやすく、長いケーブルであっても隙間なく巻き付けられる。巻き付けた後は外側から樹脂製結束バンド、例えばインシュロック(登録商標)を繊維製テープの下を通して固定するため、作業も容易である。
【0029】
本発明の保護シートは、光ファイバーケーブル、電線、ガス管、水道管などの長尺物体を保護するのに好適である。
【0030】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1Aは本発明の一実施形態の保護シートの模式的斜視図、図1B図1AのI-I線断面図である。この保護シート10は、経糸又は緯糸の一方の糸はガラス繊維フィラメント糸を芯糸とし、前記芯糸の周囲をスーパー繊維糸で被覆撚糸したカバリング糸であり、他方の糸はスーパー繊維糸又は前記カバリング糸で構成される織物を1枚又は複数枚使用する。保護シート10は、周囲に縁布14を配置し、縁布縫製部15によって一体化されている。この保護シート10は、内側(光ファイバーケーブル側)の強化織物13と、外側の強化織物11が積層されている。外側の強化織物11の表面には樹脂層12が積層一体化されている。樹脂層12は厚さ20~1000μmの塩化ビニル樹脂が好ましい。塩化ビニル樹脂の場合は、塩化ビニル樹脂溶液をキャスティングし、紫外線で硬化させるUVコールドラミネート加工法も採用できる。
樹脂層12の表面には、保護シート10の長さ方向に沿って3本の繊維製テープ8a,8b,8cが縫製によって、ややたるみが出るように固定されている。この例においては、繊維製テープ8a,8b,8cのそれぞれの固定箇所は両端を含めて計6か所とした。繊維製テープは、織物テープが好ましく、例えば幅25mm、厚さ約1.2mmとした。
【0031】
図2Aは本発明の一実施形態の保護シートの設置方法を示す模式的斜視図、図2B図2AのII-II線断面図である。保護シート10は、光ファイバーケーブル18が挿入されている樹脂製パイプ19の表面に保護シート10を巻き付けられている。保護シート10は長さ1000mm、幅350mmの長方形とし、長さ方向が光ファイバーケーブル18を入れた樹脂製パイプ19に沿うように巻き付けた。その外側から結束バンド16a,16b,16c,16d、例えばインシュロック(登録商標)を繊維製テープ8a,8b,8cの少なくとも1本、好ましくは2本の下を通して固定した。樹脂製パイプ19は外径50~60mm程度の既存のものを使用できる。このようにして光ファイバーケーブル保護体17とする。
【0032】
図3は本発明の別の実施形態の保護シートの設置方法を示す模式的斜視図であり、光ファイバーケーブル18に対して保護シート10を斜めに巻き付けた例である。この実施形態は光ファイバーケーブル18が挿入されている樹脂製パイプ19を複数本とするか、樹脂製パイプ19自体が太い場合に有効である。保護シート10を斜めに巻き付ける際には、繊維製テープ8a,8b,8cの巻き付け角度を同一にすればよく、巻き付けやすい。なお、図3には結束バンドを省略しているが、図2Aのように結束バンドを用いて固定する。
【0033】
図4Aは本発明の一実施形態の織物に使用するシングルカバリング糸1の模式的側面図である。このシングルカバリング糸1は、撚りを加えた2本のガラス繊維フィラメント糸を芯糸2a,2bとし、スーパー繊維からなる被覆糸3で被覆している。図4Bは同ダブルカバリング糸4の模式的側面図である。被覆糸3a,3bで被覆している。被覆糸3a,3bは撚り方向が異なっている。図4Cは別のダブルカバリング糸5の模式的側面図である。被覆糸3a,3cは撚り方向が同じである。この中でも図4Bのダブルカバリング糸4が、撚り構造が強固であるため好ましい。
【0034】
図5は別の例の織物に使用するダブルカバリング糸6であり、芯糸2a,2bに添え糸7配置したダブルカバリング糸6の模式的側面図である。添え糸7はスーパー繊維糸を使用する。このようにすると芯糸と被覆糸との一体性がより高くなる。
【0035】
図6は本発明の一実施形態の2/1ツイル織物(裏織り, 単層織物)の組織図である。黒の部分は経糸が表に現れている箇所であり、白の部分は裏に隠れている箇所である。図の下の数字1,2,3で1サイクルであることを示す。図7は本発明の別の実施形態の2/2ツイル(単層)織物の組織図である。数字1~4で1サイクルである。図8は本発明のさらに別の実施形態の4/2ツイル(単層)織物の組織図である。
【実施例
【0036】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
<切創抵抗試験>
JIS-T8052 2005(防護服-機械特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法)に従って測定した。なお、JIS-T8052 2005はISO13997と同一の試験方法である。この結果は切創力(N)として表示し、100N以上は「100N以上」と表示する。
【0037】
(実施例1)
<織物1>
(1)経糸
経糸として、繊度675decitexのガラス繊維フィラメント糸(構成繊維本数:800本)を2本撚糸して芯糸とした。撚り数は150T/m(撚り係数K:5511)、撚り方向:Sとした。この芯糸の表面に295decitexのポリアリレート紡績糸(クラレ社製、商品名“ベクトラン”)1本をZ方向に910T/m(撚り係数K:15630)で撚り掛けし、さらにもう1本をS方向に1180T/m(撚り係数K:20267)で撚り掛けし、図4Bに示すWカバリング糸を作成した。トータル繊度は2150decitexであった。
(2)緯糸
緯糸は繊度:1100decitex,単繊維本数:200本のポリアリレートフィラメント繊維糸(クラレ社製、商品名“ベクトラン”,撚り数25T/M)1本を使用した。
(3)織物製造
今村機械社製、商品名“KR-Z”、ニードルレピア織物装置を用いて、経糸本数2760本、緯糸1本(緯糸はレピアシャトルにより打ち込み)、織物幅1000mm、織物組織は図7に示す2/2ツイル(単層織物)、織物厚み1.48mm,単位面積当たりの質量918g/m(経糸使用量688g/m、緯糸使用量230g/m)であった。得られた織物1の切創抵抗試験の結果、切創力は51.5Nであった。
(4)樹脂層の積層一体化
織物1をタテ350mm,ヨコ1000mm(織物幅)にカットし、その一表面に塩化ビニル樹脂溶液をキャスティングし、紫外線を照射して硬化させた。硬化後の平均厚さは約500μmとした。
(5)繊維製テープの取り付け
図1A-Bに示すように、織物11の表面の樹脂層12側には、保護シート10の長さ方向に沿って3本の繊維製テープ8a,8b,8cを縫製によって、ややたるみが出るように固定した。繊維製テープ8a,8b,8cのそれぞれの固定箇所は両端を含めて計6か所とした。繊維製テープはカワナ社製、商品名”RP1.2×25”(織物テープ、幅25mm、厚さ1.2mm、素材:ポリプロピレン100%、黒色原着品、質量15.8g/m)を用いた。
<織物2>
(1)経糸・緯糸共通
繊度675decitexのガラスフィラメント糸(構成繊維本数:800本)を2本撚糸して芯糸とした。撚数は150T/m、撚り方向:Sとした。
この芯糸の表面に330decitexの超高分子量ポリエチレン繊維(東洋紡社製、商品名“イザナス”)1本をZ方向に700T/mで撚り掛けし、さらにもう1本をS方向に700T/mで撚り掛けし、図4Bと同様にWカバリング糸を作成した。トータル繊度は1344decitexであった。
(2)織物製造
今村機械社製、商品名“KR-Z”、ニードルレピア織物装置を用いて、経糸本数1665本、緯糸1本(緯糸はレピアシャットルにより打込み)、織物幅1000mm、織物組織は図8に示す4/2ツイル(単層織物)、織物厚み1.24mm、単位面積当たりの質量613g/m(経糸使用量322g/m、緯糸使用量291g/m)であった。得られた織物2の切創抵抗試験の結果、切創値は51.5Nであった。この織物2もタテ350mm,ヨコ1000mm(織物幅)にカットした。
<保護シート>
図1A-Bに示すように、前記織物1及び織物2を積層し、周囲に縁布を介在させて縫製し、保護シート10を作成した。1枚当たりの重量は660gであった。この保護シートは長さ1000mm、幅350mmの長方形であった。
<光ファイバーケーブルへの巻き付け試験>
外径60mm,内径50mm,厚さ2mmで,6mm間隔に凹と凸が形成されている蛇腹構造の樹脂製パイプの中に光ファイバーケーブルが配置されているケーブル体に対して図2A,Bに示すように保護シート10を巻き付け、その外側から結束バンド16a,16b,16c,16dとしてインシュロック(登録商標)を繊維製テープ8a,8bの下を通して固定した。このようにして光ファイバーケーブル保護体17とした。
この光ファイバーケーブル保護体17を草の生えている地面に置き、電動草刈り機で草を刈りながら接触させたところ、電動草刈り機の刃部は保護シートの表面で滑り、保護シートの表面は若干傷がついたが、内部に達する傷はつかなかった。草刈り作業員にショックを与えることもなく、怪我もなかった。
【0038】
(比較例1)
保護シートを使用せず、樹脂製パイプの中に光ファイバーケーブルが配置されているケーブル体に対して実施例1と同様に電動草刈り機で草を刈りながら接触させたところ、電動草刈り機の刃部が樹脂製パイプの長さ方向に対して直角に当たった場合で、かつ樹脂製パイプの凹部に当たった場合、樹脂製パイプは破壊され、内部に配置した光ファイバーケーブルまで切断された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の保護シートは、光ファイバーケーブル、電線、ガス管、水道管などの長尺物体を保護するのに好適である。
【符号の説明】
【0040】
1 シングルカバリング糸
2a,2b 芯糸
3,3a,3b,3c 被覆糸
4,5,6 ダブルカバリング糸
7 添え糸
8a,8b,8c 繊維製テープ
9 繊維製テープ縫製部
10 保護シート
11 外側の強化織物
12 樹脂層
13 内側(光ファイバーケーブル側)の強化織物
14 縁布
15 縁布縫製部
16a,16b,16c,16d 結束バンド
17 光ファイバーケーブル保護体
18 光ファイバーケーブル
19 樹脂製パイプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8