(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/49 20070101AFI20240319BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20240319BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/48 E
H02M7/12 X
(21)【出願番号】P 2021075726
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】慶本 裕史
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075844(JP,A)
【文献】特開2019-187151(JP,A)
【文献】特開2016-010240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
H02M 7/48
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流回路と直流回路との間に接続され、前記交流回路の交流電力と前記直流回路の直流電力との間の電力変換を行う複数の電力変換器と、
前記交流回路と前記複数の電力変換器との間に設けられ、前記交流回路に接続された1次巻線内で循環電流が流れるように接続され、前記複数の電力変換器にそれぞれ接続された複数の2次巻線を有する変圧器と、
前記複数の電力変換器を制御するゲートパルスを生成して、前記複数の電力変換器に供給する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記交流回路の交流電圧、前記交流回路の交流電流およびあらかじめ設定された電流指令値にもとづいて、第1制御量を生成し、
前記複数の電力変換器のそれぞれの前記直流回路の側の直流電圧平均値およびあらかじめ設定された直流電圧平均指令値にもとづいて、第2制御量を生成し、
前記第1制御量および前記第2制御量にもとづいて、直流電圧指令値を生成し、
前記複数の電力変換器のそれぞれの前記直流回路の側の直流電圧および前記直流電圧平均値にもとづいて、前記複数の電力変換器のそれぞれのための第3制御量を生成し、
所定の条件を満たした場合に、前記複数の電力変換器のそれぞれについて、あらかじめ設定された零相電流指令値にもとづいて、第4制御量を生成し、
前記直流電圧指令値、前記第3制御量および前記第4制御量にもとづいて、前記ゲートパルスを生成する電力変換装置。
【請求項2】
前記所定の条件は、前記複数の電力変換器のそれぞれの前記直流回路側の直流電圧が、あらかじめ設定されたしきい値を超えた場合である請求項1記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記所定の条件は、前記複数の電力変換器の前記交流回路側の電流が、あらかじめ設定されたしきい値を下回った場合である請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記複数の電力変換器の直流回路側は、互いに絶縁された請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記複数の電力変換器の直流回路側は、直列接続された請求項1~3のいずれか1つの記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記複数の電力変換器の前記直流電圧の設定値のうち、1つの電力変換器の直流電圧の設定値が他の電力変換器の直流電圧の設定値と異なる値とされた場合には、
前記制御装置は、前記1つの電力変換器の直流電圧の設定値は、あらかじめ設定された定数で正規化されて、前記第3制御量を生成する請求項1~5のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流-直流間の電力変換装置において、交流側で共通の交流回路に接続され、直流側で、異なる直流回路に接続されたり、直列接続されたりする電力変換装置がある。電力変換装置が異なる直流回路に接続される場合には、各電力変換器を柔軟に組み合せて、所望の直流電圧を得たいときもある。これらのような場合には、電力変換器の直流回路は、実質的に分割、分離され、直流回路同士で電力の融通ができないことがある。
【0003】
このような電力変換装置では、各直流電力変換器の直流電圧間のバランスを制御する必要がある。しかし、交流側や直流側に流れる電流がゼロであったり、非常に小さい値であったりする場合には、各電力変換器の直流電圧のバランスを維持する制御を安定に行うことが困難である。直流電圧のバランスを維持する制御の中には、複数電力変換器間の直流電圧を維持する制御と、マルチレベル変換器の場合は各電力変換器の内部に存在する複数の直流回路相互のバランスを維持する制御を含む。
【0004】
たとえば、電力変換装置が接続される交流回路や直流回路に強制的に電流を流すように電流指令値を設定することによって、電力変換器の安定動作を確保することは可能になる。一方で、たとえば、交流回路が電力系統等の場合には、電力変換器によって不必要な有効電力の変動や無効電力の発生をもたらすこととなり、電力系統に電圧の変動をもたらすとの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態は、外部の回路に影響を与えずに、安定に動作する電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る電力変換装置は、交流回路と直流回路との間に接続され、前記交流回路の交流電力と前記直流回路の直流電力との間の電力変換を行う複数の電力変換器と、前記交流回路と前記複数の電力変換器との間に設けられ、前記交流回路に接続された1次巻線内で循環電流が流れるように接続され、前記複数の電力変換器にそれぞれ接続された複数の2次巻線を有する変圧器と、前記複数の電力変換器を制御するゲートパルスを生成して、前記複数の電力変換器に供給する制御装置と、を備える。前記制御装置は、前記交流回路の交流電圧、前記交流回路の交流電流およびあらかじめ設定された電流指令値にもとづいて、第1制御量を生成し、前記複数の電力変換器のそれぞれの前記直流回路の側の直流電圧平均値およびあらかじめ設定された直流電圧平均指令値にもとづいて、第2制御量を生成し、前記第1制御量および前記第2制御量にもとづいて、直流電圧指令値を生成し、前記複数の電力変換器のそれぞれの前記直流回路の側の直流電圧および前記直流電圧平均値にもとづいて、前記複数の電力変換器のそれぞれのための第3制御量を生成し、所定の条件を満たした場合に、前記複数の電力変換器のそれぞれについて、あらかじめ設定された零相電流指令値にもとづいて、第4制御量を生成し、前記直流電圧指令値、前記第3制御量および前記第4制御量にもとづいて、前記ゲートパルスを生成する。
【発明の効果】
【0008】
本実施形態では、外部の回路に影響を与えずに、安定に動作する電力変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1の実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図2】第1の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【
図3】第1の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【
図4】第2の実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
【
図5】第2の実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、電力変換装置10は、変圧器2を介して、交流回路1に接続される。交流回路1は、交流電源、交流負荷および交流送電線等を含むことができる。交流回路1は、たとえば、交流の電力系統である。変圧器2は、1次側がΔ結線された変圧器であり、たとえば、三相変圧器である。変圧器2は、1次側に循環する電流が流れるように閉じた回路となるように構成されていれば、三相に限らずさらに多相であってもよい。変圧器2の2次側は、複数の巻線が設けられており、複数の巻線は、互いに絶縁されている。
【0012】
電力変換装置10は、直流回路3に接続される。直流回路3は、直流電源、直流負荷および直流送電線等を含むことができる。この例では、電力変換器20が3レベル中性点クランプ形コンバータであり、直流回路3には、中性点から正負の端子間にコンデンサが設けられている。この例では、直流回路3は、複数の直流負荷を含んでいる。複数の電力変換器20は、それぞれの直流側で、複数の直流負荷にそれぞれ接続される。以下の説明では、これらの直流負荷同士は、電気的に絶縁されていたり、互いに高抵抗を介して接続されていたりしており、互いに直流電力を融通できないものとする。電力変換器20が出力する直流電圧値は、この例では、同一とされているが、同一に限らず、それぞれ異なる値としてもよい。
【0013】
電力変換装置10は、複数の電力変換器20と、制御装置50と、を備える。複数の電力変換器20の交流側は、変圧器2の複数の2次側巻線にそれぞれ接続されている。複数の電力変換器20の直流側は、直流回路3に接続されている。この例において、複数の電力変換器20は、直流回路3に応じた台数が設けられており、9台を超えて設けられている。なお、電力変換器20の台数は、この例の場合に限らず、2台以上であればよい。
【0014】
制御装置50は、複数の電力変換器20に接続されている。制御装置50は、交流回路1の相電圧v1、交流回路1の線電流i1、複数の電力変換器20の交流側に流れる交流電流i2および複数の電力変換器20の直流側の直流電圧V3のそれぞれの検出値を入力し、複数の電力変換器20の動作のためのゲートパルスGPを生成して、複数の電力変換器20にそれぞれに供給する。
【0015】
なお、図では、相電圧v1および線電流i1は、各相の電圧および電流を表しており、交流回路1が三相交流の場合には、三相分の相電圧および線電流の検出値が制御装置50に入力される。また、交流電流i2および直流電圧V3は、複数の電力変換器20のそれぞれの検出値であり、10台の電力変換器20の場合には、10組の交流電流i2および直流電圧V3の検出値が制御装置50に入力される。
【0016】
図2は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図2には、電力変換器20の主回路の部分が示されている。
図2に示すように、電力変換器20は、この例では、3レベル中性点クランプ式のコンバータ回路を主回路とする。電力変換器20は、スイッチング素子22a~22hと、ダイオード24a~24dと、を含む。スイッチング素子22a~22hは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)等の自己消弧型の半導体素子であり、ダイオードが逆並列に接続されている。電力変換器20は、交流側の端子21a,21bと、直流側の端子21c,21d,21eと、を含む。端子21a,21bには、変圧器2の2次巻線が接続される。端子21c,21dには、コンデンサが接続され、端子21d,21eにもコンデンサが接続される。これらのコンデンサは、この例では、直流回路3を構成する回路素子とされている。
【0017】
スイッチング素子22a,22bは、接続ノードn1で直列に接続されている。スイッチング素子22c,22dは、接続ノードn2で直列に接続されている。スイッチング素子22e,22fは、接続ノードn3で直列に接続されている。スイッチング素子22g,22hは、接続ノードn4で直列に接続されている。スイッチング素子22a,22b、スイッチング素子22c,22d、スイッチング素子22e,22fおよびスイッチング素子22g,22hそれぞれの直列接続回路をアームと呼ぶ。
【0018】
スイッチング素子22a,22bによるアームは、スイッチング素子22c,22dによるアームと直列に接続されている。スイッチング素子22a,22bによるアームおよびスイッチング素子22c,22dによるアームの接続ノードは、交流側の端子21aに接続されている。
【0019】
接続ノードn1,n2の間には、直列に接続されたダイオード24a,24bが接続されている。ダイオード24a,24bの直列接続回路の接続ノードは、直流側の中性点である端子21dに接続されている。
【0020】
スイッチング素子22e,22fによるアームは、スイッチング素子22g,22hによるアームと直列に接続されている。スイッチング素子22e,22fによるアームおよびスイッチング素子22g,22hによるアームの接続ノードは、交流側の端子21bに接続されている。
【0021】
接続ノードn3,n4の間には、直列に接続されたダイオード24c,24dが接続されている。ダイオード24c,24dの直列接続回路の接続ノードは、端子21dに接続されている。
【0022】
スイッチング素子22a~22dの直列回路およびスイッチング素子22e~22hの直列回路は、直流側の端子21c,21eの間で並列に接続されている。スイッチング素子22a,22bによるアーム、スイッチング素子22c,22dによるアーム、スイッチング素子22e,22fによるアーム、およびスイッチング素子22g,22hによるアームは、交流側の端子21a,21bおよび直流側の端子21c,21eを有するフルブリッジ回路である。このフルブリッジ回路は、ダイオード24a~24cdによって、端子21dの電位にクランプされる。端子21dの電位が中性点である。
【0023】
電力変換器20は、端子21a,21bを介して、変圧器2の2次巻線に接続される。電力変換器20は、端子21c~21eを介して、直流回路3に接続される。端子21c,21d間にはコンデンサが接続され、端子21d,21e間にもコンデンサが接続される。に
図1に示したように、複数の電力変換器20の中性点の端子21dは、相互に接続されていなくてもよいし、相互に接続されてもよい。相互に接続された場合には、端子21dは、たとえば大地等に接地するようにしてもよい。
【0024】
図3は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図3には、
図1に示した電力変換装置10の制御装置50の詳細な構成例が示されている。
図3に示すように、制御装置50は、dq変換部51と、電流制御器53と、平均値演算部54と、直流電圧制御器55と、逆dq変換部61と、ゲートパルス生成部62と、直流電圧バランス制御部64と、零相電流制御器65と、中性点電位制御部66と、を含む。
【0025】
dq変換部51、電流制御器53、平均値演算部54および直流電圧制御器55は、複数の電力変換器20に共通に用いられる。逆dq変換部61、ゲートパルス生成部62、直流電圧バランス制御部64、零相電流制御器65および中性点電位制御部66は、複数の電力変換器20のそれぞれのために設けられている。つまり、電流制御器53の出力は、電力変換器20ごとに、直流電圧バランス制御部64および零相電流制御器65の出力が加算され、逆dq変換部61に入力される。
【0026】
dq変換部51には、電圧検出器4および電流検出器5によって、交流回路1の相電圧v1の検出値および線電流i1の検出値が入力される。dq変換部51は、入力された相電圧v1の検出値および線電流i1の検出値をdq変換し、d軸成分およびq軸成分を出力する。
【0027】
電流制御器53は、電流指令値演算回路52から出力される電流指令値およびdq変換部51の出力値を入力し、dq変換部51の出力が電流指令値に追従するように制御量(第1制御量)を出力する。電流指令値演算回路52は、外部から与えれる電流指令値を出力してもよいし、与えられた電力指令値にもとづいて電流指令値を演算し、出力する。なお、図示しないが、dq変換部51は、有効電流に対応するd軸出力値および無効電流に対応するq軸出力値をそれぞれ出力する。したがって、電流制御器53および電流指令値演算回路52は、d軸出力およびq軸出力に対応するように2組設けられている。
【0028】
平均値演算部54は、複数の各電力変換器20のそれぞれが出力する直流電圧V3の検出値を入力する。平均値演算部54は、入力した複数の直流電圧V3の平均値を計算して出力する。電力変換器20がn台設けられており、n台の電力変換器20が出力する直流電圧をV1,V2,…,Vnとすると、平均値演算部54が出力する直流電圧平均値Vaveは、(V1+V2+…+Vn)/nで計算される。
【0029】
直流電圧制御器55は、平均値演算部54によって計算された直流電圧平均値Vaveを入力し、直流電圧平均値Vaveがあらかじめ設定された直流電圧指令値V3*に追従するように制御量(第2制御量)を生成して出力する。直流電圧制御器55が出力する制御量は、電流制御器53が出力する制御量に加算されて、各電力変換器20のための逆dq変換部61に供給される。
【0030】
直流電圧バランス制御部64には、直流電圧平均値Vaveが入力される。直流電圧バランス制御部64には、各電力変換器20の直流回路側に設けられた電圧検出器7によって検出された直流電圧Vi(i=1~n)の検出値が入力される。つまり、i番目の電力変換器20が出力する直流電圧Viは、i番目の電力変換器20に対応して設けられた直流電圧バランス制御部64に入力される。直流電圧バランス制御部64は、直流電圧Viの検出値が直流電圧平均値Vaveに追従するように、制御量(第3制御量)を生成し出力する。出力された制御量は、電流制御器53が出力する制御量に加算される。
【0031】
零相電流制御器65には、交流回路1に設けられた電圧検出器4による相電圧v1の検出値および電力変換器20の交流側に設けられた電流検出器6による交流電流i2の検出値が入力される。この例では、零相電流制御器65は、直流電圧バランス検出機能を有している。直流電圧バランス検出機能は、電力変換器20の直流側に設けられた電圧検出器7によって直流電圧Viの検出値が入力され、直流電圧Viの検出値があらかじめ設けられた直流電圧バランスしきい値を超えると、零相電流制御器65に零相電流指令値を供給する。つまり、零相電流制御器65は、いずれかの電力変換器20の直流電圧Viの検出値が直流電圧バランスしきい値を超えたときに、零相電流指令値に応じた制御量(第4制御量)を生成し出力し、すべての電力変換器20の直流電圧Viの検出値が、直流電圧バランスしきい値よりも低いときには、零相電流指令値に応じた制御を出力しない。
【0032】
零相電流制御器65が零相電流指令値に応じた制御量を生成し出力するかどうかは、上述に限らず、交流側の電流検出器5によって検出される交流電流i2の検出値を用いてもよい。たとえば、零相電流制御器65は、交流電流検出機能を有しており、交流電流i2の検出値が交流電流検出機能にあらかじめ設定された交流電流しきい値を下回ったときに、零相電流指令値に応じた制御量を生成し出力する。零相電流制御器65は、交流電流i2の検出値が交流電流しきい値よりも大きいときには、零相電流指令値に応じた制御量は出力しない。
【0033】
逆dq変換部61は、各電力変換器20に応じて設けられており、電流制御器53が出力する制御量に、直流電圧バランス制御部64および零相電流制御器65から出力される制御量を加算して、入力する。逆dq変換部61は、これらの制御量の加算値を逆dq変換して、電圧指令値を生成し出力する。
【0034】
中性点電位制御部66は、逆dq変換部61の出力および電力変換器20の交流側の交流電流i2の検出値を入力して、各電力変換器20の直流側の中性点である端子21dの電位を維持する中性点電位制御のための制御量を生成し出力する。中性点電位制御部66から出力される制御量は、逆dq変換部61が出力する電圧指令値に加算される。
【0035】
ゲートパルス生成部62は、i番目の電力変換器20に応じた位相を有する三角波発信器を有している。ゲートパルス生成部62は、三角波発信器が生成する三角波と、逆dq変換部61および中性点電位制御部66によって生成された電圧指令値とを比較することによって、i番目の電力変換器20に応じたゲートパルスを生成し出力する。
【0036】
上述の例では、各電力変換器20の直流電圧V3は、同一であるものとしたが、直流電圧の設定値の異なるものを含む場合には、各直流電圧の値を直流電圧指令値V3*について正規化して用いる必要がある。単純化のために3台の電力変換器20の場合について説明する。
【0037】
3台の電力変換器20の直流電圧の設定値が、100V,200V,300Vの場合に、直流電圧指令値V3*を200Vとすると、直流電圧の設定値が100V,200V,300Vの電力変換器20の正規化定数は、それぞれ“2”,“1”,“2/3”とされる。
【0038】
各電力変換器20の電圧検出器6によって検出された直流電圧には、正規化定数が乗じられて、平均値演算部54、直流電圧バランス制御部64および零相電流制御器65に入力される。これによって、制御装置50は、上述と同様に、直流電圧バランス制御を行い、零相電流制御器65の直流電圧バランス検出機能を動作させることが可能になる。
【0039】
なお、直流電圧指令値V3*は、各直流電圧の設定値の平均値としたが、任意の値とすることができるのは、言うまでもない。また、上述に限らず、電圧検出器6によって検出された直流電圧をそのまま入力し、電力変換器20ごとに直流電圧平均値Vaveを正規化定数で除した値を用いてもよい。この場合には、直流電圧指令値V3*は、各電力変換器20の直流電圧の設定値の平均値とされる。
【0040】
本実施形態の電力変換装置10の動作および効果について説明する。
本実施形態の電力変換装置10では、dq変換部51、電流制御器53、平均値演算部54および直流電圧制御器55によって生成され出力された、d軸およびq軸に対応する制御量を、n台すべての電力変換器20のための電流指令値として出力する。そして、電力変換装置10では、各電力変換器20に対応して設けられた、直流電圧バランス制御部64および零相電流制御器65によって、各電力変換器20に応じた制御量を生成し出力して、すべての電力変換器20のための制御量に加算して、電流指令値を補正して出力する。
【0041】
零相電流制御器65では、通常の運転において、零相電流制御器65は、零相電流指令値に応じた制御量を出力しない。そのため、各電力変換器20の交流側に不必要な零相電流を流すことがないので、電力変換装置10自体の変換効率等の性能を向上させることができる。
【0042】
零相電流制御器65では、いずれかの電力変換器20が出力する直流電圧V3が、他の電力変換器20が出力する直流電圧とバランスがくずれた場合に、制御装置50は、その電力変換器20の動作のための入力または出力電流が不足し、安定した制御を維持することが困難であると判断し、変圧器2の1次側に零相電流を循環電流として流すように動作する。
【0043】
このように、本実施形態では、各電力変換器20と交流回路1との間に、1次巻線がΔ結線された変圧器2を用いる。これによって、制御装置50の零相電流制御器65が零相電流指令値を出力したときに、変圧器2のΔ結線内に零相電流を循環電流として流すことができる。Δ結線内に流れる零相電流は、Δ結線から外部に流れ出したり、Δ結線内に流れ込んだりしないので、零相電流を流している間でも、交流回路1に影響を与えることなく、動作を継続することができる。
【0044】
零相電流制御器65では、i番目の電力変換器20の直流電圧Viの検出値を比較して、直流電圧バランスしきい値と比較して、直流電圧Viの検出値が直流電圧バランスしきい値以上のときに、零相電流指令値に応じた制御量を出力するようにできる。そのため、電力変換器20ごとに制御に必要な電流が不足しているか否かを判定することができ、確実に零相電流指令値に応じた制御量を出力して、安定した制御を実現することができる。
【0045】
本実施形態の電力変換装置10では、零相電流制御器65が制御出力を出力するための条件として、上述に代えて、交流回路1の交流電流i2を検出するようにすることもできる。零相電流制御器65が制御出力を出力するための交流電流しきい値を適切に設定することによって、安定な制御動作を確実に実現することができる。
【0046】
(第2の実施形態)
図4は、本実施形態に係る電力変換装置を例示する模式的なブロック図である。
本実施形態では、複数の電力変換器220は、直流側で直列に接続されている。複数の電力変換器220は、上述の他の実施形態の場合とは異なり、2レベルフルブリッジ回路である。フルブリッジ回路については、図示しないが、スイッチング素子の直列回路が2つ並列に接続され、コンデンサがスイッチング素子の直列回路に並列に接続されている。交流回路1は、スイッチング素子の直列回路の接続ノードに接続される。直流回路203は、コンデンサの両端に接続される。コンデンサの両端の電圧が直流電圧V3である。
【0047】
本実施形態では、電力変換器220を2レベルフルブリッジ形式としたことによって、制御装置250の構成が上述の他の実施形態の場合と相違する。上述の他の実施形態の場合と構成要素が同一の場合には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略する。なお、電力変換器の主回路では、フルブリッジ回路に代えて、ハーフブリッジ回路としてもよい。上述の他の実施形態の場合と同様に、中性点クランプ式の3レベル変換器としてももちろん構わない。
【0048】
図4に示すように、本実施形態の電力変換装置210は、複数の電力変換器220と、制御装置250と、を備える。
複数の電力変換器220は、直流回路203で直列に接続されている。複数の電力変換器220は、変圧器2の2次巻線にそれぞれ接続されている。n台の電力変換器220が同一の直流電圧V3とされている場合には、電力変換装置210が直流回路203に供給し、直流回路203から供給される直流電圧は、n×V3となる。なお、各電力変換器220の直流回路203側の直流電圧は、上述のように同一値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0049】
制御装置250には、交流回路1の相電圧v1の検出値、交流回路1の線電流i1の検出値、複数の電力変換器220の交流電流i2の検出値および複数の電力変換器220の直流側の直流電圧V3の検出値が入力される。制御装置250は、v1,i1,i2,V3にもとづいて、ゲートパルスGPを生成して、複数の電力変換器220に供給する。
【0050】
本実施形態では、上述した他の実施形態の場合と同じく、変圧器2は、交流回路1側でΔ結線されており、制御装置250によって生成され出力されたゲートパルスGPによって駆動された複数の電力変換器220は、変圧器2のΔ結線内に零相電流を循環させ、電力変換器220に流れる負荷電流が小さい場合であっても、安定して動作を継続することができる。
【0051】
図5は、本実施形態の電力変換装置の一部を例示する模式的なブロック図である。
図5には、本実施形態の電力変換装置210が備える制御装置250の構成を示している。
図5では、制御装置250に入力される相電圧v1、線電流i1、交流電流i2および直流電圧V3のそれぞれの検出が示され、電力変換器220側のブロックが示されていないが、上述の他の実施形態の場合の
図3と同様である。
【0052】
本実施形態では、電力変換器220の構成が2レベルフルブリッジ回路であるため、中性点電位制御を行うブロックが設けられていない点で、上述の他の実施形態の場合と相違する。他の点では、制御装置250は、第1の実施形態の場合の制御装置50と同様の構成を有している。すなわち、制御装置250は、dq変換部51と、電流制御器53と、平均値演算部54と、直流電圧制御器55と、逆dq変換部61と、ゲートパルス生成部62と、直流電圧バランス制御部64と、零相電流制御器65と、を含む。
【0053】
dq変換部51、電流制御器53、平均値演算部54および直流電圧制御器55は、複数の電力変換器220に共通に用いられ、逆dq変換部61、ゲートパルス生成部62、直流電圧バランス制御部64および零相電流制御器65は、複数の電力変換器220のそれぞれのために設けられている。つまり、電流制御器53の出力は、電力変換器20ごとに、直流電圧バランス制御部64および零相電流制御器65の出力が加算され、逆dq変換部61に入力される。
【0054】
本実施形態の電力変換器220の制御装置250では、直流電圧バランス制御部64が生成し出力する制御量は、逆dq変換部61が出力する制御量に加算される。また、零相電流制御器65が生成し出力する制御量も、逆dq変換部61が出力する制御量に加算される。
【0055】
これらにより、直流電圧バランス制御部64および零相電流制御器65にそれぞれ設定されるゲインが適切に調整される。なお、第1の実施形態の場合の制御装置50の構成と同じにすることもできる。また、第1の実施形態の場合においても、制御装置50の直流電圧バランス制御部64および零相電流制御器65の出力は、電流制御器53から出力される制御量に代えて、逆dq変換部61から出力される制御量に加算されるようにしてもよい。
【0056】
直流電圧バランス制御部64は、入力される直流電圧V3の検出値が平均値演算部54から供給される直流電圧平均値Vaveに追従するように制御量を生成し出力する。
【0057】
零相電流制御器65は、対象とする電力変換器220の直流電圧V3が他の電力電力変換器の直流電圧とのバランスがくずれた場合に、零相電流指令値に追従するように制御量を生成し出力する。
【0058】
このようにして、本実施形態の電力変換装置210では、零相電流制御器65によって、変圧器2のΔ結線内に零相電流を流すことができる。そのため、外部回路によって、電力変換器220に流れる電流が無負荷となったり、小さな値となったりするような場合であっても、安定して電力変換装置210を動作させることができる。
【0059】
各実施形態において、電力変換器の回路構成は、3レベル中性点クランプ式であってもよいし、2レベルのフルブリッジ形式やハーフブリッジ形式であってもよい。また、3レベル中性点クランプ式の場合であっても、上述の一般的な回路形式に限らず、各種改良型等であってもよい。制御装置では、直流電圧バランス制御部64および零相電流制御器65を含むほかは、電力変換器の回路構成に応じて、適切な構成が選択される。
【0060】
このようにして、外部の回路に影響を与えずに、安定に動作する電力変換装置を実現することができる。
【0061】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 交流回路、2 変圧器、3 直流回路、10,210 電力変換装置、20,220 電力変換器、50,250 制御装置、51 dq変換部、53 電流制御器、54 平均値演算部、55 直流電圧制御器、61 逆dq変換部、62 ゲートパルス生成部、64 直流電圧バランス制御部、65 零相電流制御器、66 中性点電位制御部