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特許7457005急性の医学的状態の潜在的な発症を判定するための方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】急性の医学的状態の潜在的な発症を判定するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20240319BHJP
   A61B 7/04 20060101ALI20240319BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
A61B5/08
A61B7/04 A
A61B10/00 L
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021514455
(86)(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-09
(86)【国際出願番号】 AU2019050455
(87)【国際公開番号】W WO2019218008
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】2018901651
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】520448441
【氏名又は名称】レスピア テクノロジーズ ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】カウェッキ キャサリン
(72)【発明者】
【氏名】リークス クリスチャン
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0164433(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0119586(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0114260(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08-5/097
A61B 7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の、自身の生理系に関連する有害な状態を経験するリスクを管理する方法であって、
a. 前記生理系の機能における感知された周期的事象に関する出力を提供するように動作可能に構成された、装着可能な音響センサを前記被験者に提供する工程と、
b. 前記センサとデータ通信するデータプロセッサを提供する工程と、
c. 前記プロセッサに、
i. 観測された前記周期的事象に関する前記センサからの出力を監視すること、
ii. 予測数値モデルを適用して、直近に観測された事象周期の中の事象に関する出力から、観測される将来の周期の対応する事象に関する前記センサからの出力の予測を生成すること、
iii. 前記予測を、観測した場合の前記将来の周期における対応する事象に関する前記センサの出力と比較すること、及び
iv. 前記比較に基づいて応答を決定すること
をさせる工程と
備え、
前記予測数値モデルが、拡張カルマンフィルタリング(EKF)を含み、前記数値モデルを適用する際に、前記プロセッサが、前記センサの出力の成分に対してEKFを実行する、方法。
【請求項2】
前記EKFを実行すべき成分を特定するために、前記センサの出力に対して主成分分析を実行する工程を備える請求項に記載の方法。
【請求項3】
EKFが、特定された主成分のみに対して実行される請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記応答が、前記比較において使用されるデータを機械学習モデルに送信すること、並びに急性状態が差し迫っていることを前記比較が示すかどうかを判定するために、前記モデルに、病歴出力及び予測のデータベースを参照させることを含む請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記比較が前記予測と前記将来の周期における対応する事象との間の不一致を生じる場合に、増加した処理リソースを前記機械学習モデルの実行に割り当てることを含む請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記生理系の前記機能が呼吸機能に関するものであり、前記有害な状態が喘息である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
自身の生理系に関する有害な状態を経験するリスクがある被験者が装着可能な、装着可能な状態管理装置であって、
a. 前記生理系の機能における観測された周期的事象に関する出力を提供するように動作可能に構成された音響センサと、
b. 前記センサとデータ通信するコンピュータプロセッサであって、前記プロセッサに、
i. 観測された前記周期的事象に関する前記センサからの出力を監視すること、
ii. 予測数値モデルを適用して、直近に観測された事象周期の中の事象に関する出力から、観測される将来の周期の対応する事象に関する前記センサからの出力の予測を生成すること、
iii. 前記予測を、観測した場合の前記将来の周期における対応する事象に関する前記センサの出力と比較すること、及び
iv. 前記比較に基づいて応答を決定すること
をさせる命令を実行するようにプログラムされているプロセッサと
含み、
前記予測数値モデルが、拡張カルマンフィルタリング(EKF)を含み、前記数値モデルを適用する際に、前記プロセッサが、前記センサの出力の成分に対してEKFを実行する、
装置。
【請求項8】
前記プロセッサが、前記センサの出力に対して主成分分析を実行して、EKFを実行すべき成分を特定するようにプログラムされる請求項に記載の装置。
【請求項9】
前記プロセッサが、特定された主成分のみに対してEKFを実行するようにプログラムされる請求項に記載の装置。
【請求項10】
前記応答が、前記比較で使用されるデータを機械学習モデルへ送信させ、有害な状態が差し迫っていることを前記比較が示すかどうかを判定するために、前記モデルに、病歴出力及び予測のデータベースを参照させる実行可能命令を含む請求項から請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記プロセッサが、前記比較が前記予測と前記将来の周期における対応する事象との間の不一致を生じる場合に、増加した処理リソースを前記機械学習モデルの実行に割り当てるように構成される請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記生理系の前記機能が呼吸機能に関するものであり、前記有害な状態が喘息である請求項から請求項11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記センサが、前記被験者の上気道内の炎症徴候に特徴的な周波数を受信するように構成された圧力音響感知手段を含む請求項12に記載の装置。
【請求項14】
急性の医学的状態を発症する既知のリスクを有する見込み患者において急性の医学的状態を予期する方法であって、
a. データ通信するように接続された音響センサ及び信号プロセッサを搭載した装着可能な装置を患者に提供する工程と、
b. 前記装置を前記患者の皮膚の選択された部分に動作可能に適用する工程と、
c. 前記プロセッサに、
i. 前記患者によって取得された各呼吸に関する信号を前記センサから収集すること、
ii. 各信号の主成分を分離しメモリに記憶すること、
iii. 前記患者の次の予想される呼吸に関する将来の信号の主成分の予測を生成する際に少なくとも1つの記憶された主成分を利用すること、
iv. 前記患者の次の呼吸からその実際の主成分を分離すること、
v. 実際と予測の間の分散を決定すること、及び
vi. 前記分散があらかじめ設定された限界を超える場合、差し迫った急性状態が発生したという警告を出力すること
をさせる工程と
を備える方法。
【請求項15】
前記予測された成分及び実際の成分を入力として利用するように動作可能な機械学習モジュールを提供する工程を備える請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記機械学習モジュールが、前記分散が予め設定された限界に近づいたときに起動される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記モジュールが、分散が予め設定された限界を超えたときに起動される請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記プロセッサに、記憶された成分値に基づいて前記分散の限界を決定させる工程を備える請求項16又は請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記プロセッサに、前記予め設定された限界に近づく分散を決定すると、強化された動作モードに進入させる工程を備える請求項14から請求項18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記強化された動作モードが、サンプリングレートを増加させる工程を備える請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記予測を生成する工程が、記憶された前記成分に拡張カルマンフィルタリングプロセスを適用することを含む請求項14から請求項20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記プロセッサが、前記患者の全地球的測位座標を、前記警告を受信するように前記患者によって指定された人のグループと関連づけられた携帯電話ハンドセットの全地球的測位座標と比較し、前記警告を前記人のうちで最も近い人、又は所定の範囲内の人に向けるようにプログラムされる請求項14から請求項21のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被験者の有害な状態を経験するリスクを管理するための装置及び方法に関する。このような装置及び方法は、急性の医学的状態の潜在的な発症を予測してもよい。当該方法及び装置は、生理的機能の機能に関するフィードバック、及び急性の医学的状態の前提を構成してもよいその機能の変化を検出するための手段を使用してもよい。本発明は、呼吸状態に、又は喘息症状の特定の予防若しくは軽減に関するが、これらに限定されない。
【背景技術】
【0002】
国内経済が負担するかなりの事業費は、回避可能な医療及び予防可能な状態の発症のコストに関連する。喘息は、まだ完全には解明されていない理由から、ますます多くの患者が患う病気である。
【0003】
喘息発作の真っ只中にいる人は、特に息切れやパニック等の精神混濁を伴う喘息症状を患っている最中に、どの薬剤を使用すべきか、いつ、どのように吸入器を用いてそれを投与するかについて混乱や不確かさを感じることがある。
【0004】
呼吸機能の変化を早期に検出することで、生命を脅かす症状の発症を先行的に回避できる可能性があると考えられている。
【0005】
米国特許第8807131号明細書は、喘息吸入器治療計画に対する患者のコンプライアンスを監視することができる装置を開示している。これは、典型的な使用のために喘息吸入器の動作を監視するための動作センサと、患者の近接を示すための温度センサとを有し、患者が装置を使用していることを推論できるようにする。警告は、治療レジメンのコンプライアンスに関してスマートフォンを介して発せられる。この装置は、喘息の急性発作の発症を感知するためには機能しない。
【0006】
米国特許出願公開第2011/0125044号明細書は、患者が急性事象を経験しているかどうかを示す呼吸器徴候及び症状を監視する、呼吸器疾患の自動監視システムを記載している。信号の時間領域及び周波数領域分析が行なわれ、背景音から目的の症状を識別し、有意性を確立するために候補音のスペクトル内容が用いられる。これらは、将来の呼吸事象の予測に使用されてもよい。
【0007】
米国特許出願公開第20170071506A1号明細書に記載されている実験装置は、現在の喘息症状を監視し、ユーザが自分たちの現状について自分たちの結論を再検討して引き出すことができるようにする。症状検出及び/又は薬物使用の監視に基づく他の装置には、RespiriによるAirsonea、InspiroMedicalによるInspiromatic、adheriumによるSmartinhaler、Propeller HealthによるCareTRx Sensor及びPropellerがある。
【0008】
オーストラリアでは、唯一利用可能な先制喘息治療は、一般開業医(GP)又は呼吸器専門医が所定の患者に対して手作業で作成する個別の喘息プランである。それは、日常的な予防薬及びリリーバー薬(典型的には、商標Ventolin(登録商標)の下で典型的に販売される)からなり、患者は、それが必要であると感じたときに自己投与する。
【0009】
従って、現在の喘息治療は、症状に対する反応に非常に重点を置いている。ある記録によれば、喘息のために入院した小児の84%が、大量の薬剤(通常はサルブタモール)を送達して気道を確保する装置であるネブライザーをすでに所有していることが示されている。ネブライザーの多くの例が入手可能であり、例えばPhilips RespironicsのInnoSpire Deluxeというブランドで入手可能な装置がある。
【0010】
本発明者らは、脅威となる医学的状況の制御を行う能力をユーザに付与し、上記状況を生じさせる状態の長期管理における行動変化を容易にし、促進するシステムの必要性を認識した。これは、とりわけ喘息の場合にそうである。
【0011】
本発明の背景の前述の議論は、本発明の理解を容易にすることを意図している。しかしながら、その議論は、引用された資料のいずれも、本出願の優先日現在、オーストラリア又は他の国々における技術常識の一部であったということの確認又は承認ではないことが理解されるべきである。
【0012】
さらに、そして文脈上明らかに矛盾しない限り、本明細書及び特許請求の範囲を通して、「含む」等の語は、「これを含むが他の何も含まない」を意味する排他的又は網羅的な意味ではなく、「含むが、これらに限定されない」を意味する包括的な意味で解釈されるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】米国特許第8807131号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/0125044号明細書
【文献】米国特許出願公開第20170071506A1号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本明細書に開示されているのは、喘息治療におけるパラダイムシフトを表す予期的な予防的アプローチである。特に、喘息等の慢性的な医学的状態を管理する予測的方法に使用するための装置が開示される。当該方法は、任意に、生理学的変化に対する患者の反応の機械的学習を採用し、記憶されたデータの分析に基づいて介入の必要性を評価することに拡張される。従って、この評価は、生理学的変化及び/又は治療に対する患者の具体的な応答に基づいてもよい。(例えば、音響センサによって)行われる記録、各記録について行われる予測、及び/又は各記録について決定される応答は、メモリ(例えば、データベース)に記憶されてもよい。予測は、事実上、患者が喘息発作のような急性の医学的状態を経験するか否かの判定である。同様に、応答は、その後の記録又は測定に基づく患者の状態の変化であってもよい。これは、公知のプロセスを適用して、漸進的に改善され成長するデータセットを参照することによって、新たな記録及び予測(例えば、急性の医学的状態又は事象の切迫した発症を示すか否か)を分類し、応答を判定する機械学習モデルの開発又は改良を可能にする。
【0015】
この方法は、1つ以上のセンサから生理学的状態(例えば、呼吸数、呼吸周期、心拍数)信号を収集し、それによって、患者の健康状態を監視し、音声、視覚及び/又は触覚フィードバックを介して、予期される差し迫った関心ある医学的問題に対して患者に警告する工程を含んでよい。センサは、音声/音響、心電図(ECG)、筋電図(EMG)、位置(例えば、全地球的測位システム(GPS)を介する)等のうちの任意の1つ以上を含んでもよい。この方法は、センサ非依存的(sensor-agnostic)であってもよい。必要に応じて、アナログ信号はデジタル出力に変換され、次に主成分に分解される。この主成分は、機械学習を介して相関され、特定の健康状態が特定され、個々の装着者に関連する傾向が表示される。患者が、急性発作を起こすことがその患者において(例えば、患者についてのラベル付けされた過去のデータにおいて)示されている予備的な発症と相関する信号を示す場合、患者又はその介護者が、そのような発作を予防するか、又は少なくとも軽減するために先制的に行動することができるように、予期的な警告が発せられる。発作を緩和するために適切な処置が施されれば、その後の記録により患者が回復したことが示されることがある。これは、急性状態が差し迫っているという正確な予測を間違ってもたらし、差し迫った危険がないことを示すものとして分類される可能性がある。データセットを汚染する治療的処置を回避するために、予測が行われ応答として治療的行動が取られた測定値を無視するか、又は他の方法で分類し、それらの測定値が、急性の医学的状態が差し迫っていないことを示すデータセットの一部を最終的に形成しないようにしてもよい。
【0016】
本明細書に開示されるのは、自身の生理系に関連する急性の医学的状態を経験するリスクがある患者のために患者リスクを管理する方法であって、
a. 上記生理系の機能における感知された周期的事象に関する出力を提供するように動作可能に構成された、装着可能な音響センサを上記患者に提供する工程と、
b. 上記センサとデータ通信するデータプロセッサを提供する工程と、
c. 上記プロセッサに、
i. 観測された上記周期的事象に関する上記センサからの出力を監視すること、
ii. 予測数値モデルを適用して、直近に観測された事象周期の中の事象に関する出力から、観測される将来の周期(サイクル)の対応する事象に関する上記センサからの出力の予測を生成すること、
iii. 上記予測を、観測した場合の上記将来の周期における対応する事象に関するセンサの出力と比較すること、及び
iv. 上記比較に基づいて応答を決定すること
をさせる工程と
を備える方法である。
【0017】
本明細書で使用する場合、
センサによってなされる「観測」は、そのセンサが「感知した」もの、例えば生理学的パラメータ、と等価である。
「有害な状態」は「急性の医学的状態」であってもよい。
「被験者」は、患者であってもよいし、急性の医学的状態を経験するリスクのある患者又は人であってもよく、健康な被験者であってもよい。
【0018】
同様に、「観測された上記周期的事象に関する」という語句は、周期的事象が表される信号、例えば、吸息期間及び呼息期間並びに特徴(例えば、耳障りなノイズ)を決定することができるための音響信号を指すことができる。装着可能な音響センサは、信号を処理するために、プロセッサをも含む装置に搭載されてもよく、音響センサ及び信号プロセスは、データ通信していてもよい。センサ、従って、それを組み込んだ装置は、被験者の皮膚の選択された部分に「動作可能に適用される」ことによって「動作可能に構成される」ことができる。同様に、「動作可能に適用される」とは、センサ及び一般に装置が、その機能を実行することができるように、患者の皮膚上に配置され、及び/又は取り付けられることを指す。例えば、「動作可能に構成される」とは、例えば、装着者の胸部若しくは頸部上に患者の呼吸機能を示す音響信号を捕捉するように配置されること、又は呼吸機能を測定することができるための音響信号を捕捉するように別の態様で構成されていることを意味することができる。工程c.i.~c.iv.は、
i. それぞれの呼吸に対応する、信号の主成分を分離しメモリに記憶すること、
ii. 患者の次の予想される呼吸に関する将来の信号の主成分の予測を生成する際に少なくとも1つの記憶された主成分を利用すること、
iii. 患者の次の呼吸からその実際の主成分を分離すること、
iv. 実際と予測の間の分散(相違)を決定すること、及び
v. 上記分散があらかじめ設定された限界を超える場合、差し迫った急性状態が発生したという警告を出力すること
によって実施されてもよい。
【0019】
上記予測数値モデルは、拡張カルマンフィルタリング(extended Kalman Filter:EKF)を含むことが好ましく、この数値モデルを適用する際に、上記プロセッサは、センサ出力の成分に対してEKFを実行する。
【0020】
さらに好ましくは、当該方法は、EKFを実行すべき成分を特定するために、上記センサ出力に対して主成分分析を実行する工程を備える。
【0021】
さらにより好ましくは、EKFは、特定された主成分のみに対して実行される。
【0022】
本発明の好ましい形態によれば、上記将来の周期は、直近に観測された周期の後の次の周期である。同様に、将来の信号は、将来の周期について測定される信号であってもよい。
【0023】
本発明のさらに好ましい形態では、センサ出力は、上記生理系の機能において検出される音響信号に関する。
【0024】
本発明のなおさらに好ましい形態では、上記応答は、上記比較において使用されるデータを機械学習モデルに送信すること、並びに急性状態が差し迫っていることを上記比較が示すかどうかを判定するために、上記モデルに、病歴出力及び予測のデータベースを参照させる(調べさせる)ことを含む。この病歴データは、特定の患者及び/又は患者のプールについての事前記録を含んでもよい。この病歴データはまた、各記録について、上記の方法に従って決定された予測及び/又は応答を含んでもよい。
【0025】
病歴データはまた、被験者の呼吸の予測可能性に関する情報を含んでもよい。誤った予測は、被験者の呼吸が異常であったり、以前の予測と一致しなかったりすることを示す可能性がある。例えば、以前の予測が急性の医学的状態の切迫した発症を示したが、より最近の記録に関連してはそのような状態がまだ誘発されていない場合、患者の呼吸は改善された可能性がある。逆に、以前の予測が急性の医学的状態の切迫した発症を示していなかったが、より最近の記録に関連してそのような状態が誘発された場合、患者の呼吸は、(例えば、空気中の花粉により)異常である可能性があり、重篤な場合には、悪化した、すなわち呼吸機能が低下した可能性がある。
【0026】
本発明のなおさらに好ましい形態では、当該方法はまた、上記比較が上記予測と上記将来の周期における対応する事象との間の不一致を生じる場合に、増加した処理リソースを上記機械学習モデルの実行に割り当てることを含む。
【0027】
急性状態が示される場合、当該方法は、好ましくは、プロセッサに、被験者(例えば、患者)及び患者の介護者又は医師のうちの1人以上によって受信するための警告信号を出力させることを含む。
【0028】
本発明の好ましい実施形態では、上記警告信号は触覚技術を含む。
【0029】
当該方法は、主成分分析を実行する前に、センサ出力を予備フィルタリングにかけることをさらに含んでもよい。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、生理的機能は呼吸機能に関するものであり、急性の医学的状態は喘息である。呼吸機能は、多くの方法、例えば、吸息/呼息比、粘液蓄積、筋肉の収斂、膨張及び収縮、呼息の化学組成、例えば肺における炎症を示す呼息の温度、呼吸数、血中酸素レベル、静かで一貫した呼吸音等で測定することができる。同様に、呼吸機能を評価するために使用されるセンサは、測定されるパラメータと適合する(例えば、呼吸音を測定するための音声センサ、胸部の拡張及び収縮を測定するための胸部ベルト)。
【0031】
本発明の第2の態様によれば、自身の生理系に関する急性の医学的状態を経験するリスクがある患者が装着可能な、装着可能な医学的状態管理装置であって、
d. 上記生理系の機能における観測された周期的事象に関する出力を提供するように動作可能に構成された音響センサと、
e. 上記センサとデータ通信するコンピュータプロセッサであって、このプロセッサに、
i. 観測された上記周期的事象に関する上記センサからの出力を監視すること、
ii. 予測数値モデルを適用して、直近に観測された事象周期の中の事象に関する出力から、観測される将来の周期の対応する事象に関する上記センサからの出力の予測を生成すること、
iii. 上記予測を、観測した場合の上記将来の周期における対応する事象に関するセンサの出力と比較すること、及び
iv. 上記比較に基づいて応答を決定すること
をさせる命令を実行するようにプログラムされているプロセッサと
を含む装置が提供される。
【0032】
当該装着可能な装置は、医学的状態予期装置であってもよい。上記プロセッサは、上記音響センサから信号を収集するために上記音響センサとデータ通信するマイクロプロセッサであってもよい。信号は、特に被験者が急性呼吸状態を発症する既知のリスクを有する場合、被験者の呼吸機能に関連してもよい。それゆえ、上記マイクロプロセッサは、実行されると、上記マイクロプロセッサに、
上記患者によって取得された各呼吸に関する信号をセンサから収集し、
ii.収集された信号からデータを蓄積し記憶(保存)すること
によって特徴e.i.を実施すること、
上記データを、第1の強度レベルで上記プロセッサ上で稼動している機械学習モジュールに入力することによって、特徴e.ii.を実施すること、
上記患者の呼吸における呼吸の異常について収集された直近の信号をスクリーニングし、
受信及び計算された成分を機械学習アルゴリズムに提示することであって、この機械学習アルゴリズムは、呼吸周期あたり1回以下(すなわち、周期的及び/又は被験者の呼吸状態の重症度に依存する頻度で、例えば、切迫した状態が予測されるか、又は被験者の重症度が上昇する場合、呼吸周期あたり1回以上)等の比較的低い頻度のレベルで動作していてもよい、提示すること
によって特徴e.iii.を実施すること、
スクリーニングが異常を示す場合、上記モジュールを、第2の、上記第1のレベルと比較して比較的高いレベルの強度で動作させ、
上記異常を、その異常が差し迫っている急性状態の前兆であることを示す予め設定された警告基準に対して検定し、
警告基準が満たされた場合に警告を出力する
ることにより工程e.iv.を実施すること
をさせる命令でプログラムされてもよい。
【0033】
いくつかの実施形態では、工程e.iiiは、将来の周期に対応する上記センサからの出力を受信し、上記予測を将来の周期に対応する出力と比較することを含んでもよい。
【0034】
好ましくは、上記予測数値モデルは、センサ出力の成分に対して実行される拡張カルマンフィルタリング(EKF)を含む。
【0035】
さらに好ましくは、上記プロセッサは、センサ出力に対して主成分分析(PCA)を実行して、EKFを実行すべき成分を特定するようにプログラムされる。
【0036】
当該装置では、上記プロセッサは、特定された主成分のみに対してEKFを実行するようにプログラムされてもよい。
【0037】
好ましい実施形態では、上記将来の周期は、直近に観測された周期の後の次の周期である。
【0038】
さらに好ましい実施形態では、上記センサ出力は、上記生理系の機能において検出される音響信号に関する。
【0039】
本発明の好ましい形態では、上記応答は、上記比較で使用されるデータを機械学習モデルへ送信させ、急性状態が差し迫っていることを上記比較が示すかどうかを判定するために、上記モデルに、病歴出力及び予測のデータベースを参照させる実行可能命令を含む。
【0040】
本発明のさらに好ましい形態では、上記プロセッサは、上記比較が上記予測と上記将来の周期における対応する事象との間の不一致を生じる場合に、増加した処理リソースを機械学習モデルの実行に割り当てるように構成される。
【0041】
急性状態が示される場合、上記プロセッサは、好ましくは、患者及び患者の介護者又は医師のうちの1人以上によって受信するための警告信号を出力する。
【0042】
好ましくは、上記警告信号は触覚技術を含む。
【0043】
上記プロセッサは、上記主成分分析を実行する前に、センサ出力を予備フィルタリングにかけるようにプログラムされてもよい。
【0044】
当該装置によって応答される生理的機能は、好ましくは、呼吸器系機能に関する。上記急性の医学的状態は、慢性の呼吸器疾患又は医学的状態に関連してもよく、この慢性の呼吸器疾患又は医学的状態としては、喘息が挙げられるが、これに限定されない。
【0045】
好ましい実施形態では、上記センサは、患者の上気道内の炎症徴候に特徴的な周波数を受信するように構成された音響感知手段を含む。この周波数は、既知の喘鳴周波数に対応してもよい。
【0046】
本発明の第3の態様によれば、急性の医学的状態を発症する既知のリスクを有する見込み患者において急性の医学的状態を予期する方法であって、
a. データ通信するように接続されたセンサ及び信号プロセッサを搭載した装着可能な装置を患者に提供する工程と、
b. 上記装置を上記患者の皮膚の選択された部分に動作可能に適用する工程と、
上記プロセッサに、
i. 上記患者によって取得された各呼吸に関する(例えば各呼吸についての)信号を上記センサから収集すること、
ii. 各信号の主成分を分離し記憶することであって、これは、各呼吸について、それぞれの信号の主成分を分離し記憶することを含んでもよく、その上、元の信号自体が記憶されてもよい、分離し記憶すること、
iii. 上記患者の次の予想される呼吸に関する将来の信号の主成分の予測を生成する際に少なくとも1つの記憶された主成分を利用すること、
iv. 上記患者の次の呼吸からその実際の主成分を分離すること(これは、患者の次の呼吸に関連する信号を上記センサから収集することを含んでもよい)、
v. 実際と予測の間の分散を決定すること、及び
vi. 上記分散があらかじめ設定された限界を超える場合、差し迫った急性状態が発生したという警告を出力すること
をさせる工程と
を備える方法が提供される。
【0047】
好ましくは、当該方法は、上記プロセッサに、予測された成分及び実際の成分を記憶させる工程を備える。
【0048】
一実施形態では、当該方法は、上記プロセッサに上記信号を記憶させる工程を備える。
【0049】
当該方法は、予測された成分及び実際の成分を入力として利用するように動作可能な機械学習モジュールを提供する工程をさらに備えてもよい。
【0050】
上記機械学習モジュールは、好ましくは、上記分散が予め設定された限界に近づいたときに起動される。
【0051】
当該方法は、上記プロセッサに、記憶された成分値に基づいて分散限界を決定させる工程を備えてもよい。
【0052】
本発明の好ましい形態では、当該方法は、上記プロセッサに、予め設定された限界に近づく分散を決定すると、強化された動作モードに進入させる工程を備える。この強化された動作モードは、好ましくは、信号サンプリングレートを増加させる工程を備える。
【0053】
上記予測を生成する工程は、好ましくは、記憶された成分にカルマンフィルタリングプロセスを適用することを含む。
【0054】
上記フィルタリングプロセスは、拡張カルマンフィルタリングであることが好ましい。
【0055】
本発明の第5の態様によれば、装着可能な医学的状態予期装置は、急性呼吸状態を発症する既知のリスクを有する患者の呼吸機能に関する信号を収集するように選択されたセンサとデータ通信するマイクロプロセッサを備え、このプロセッサは、このプロセッサに、
i. 上記患者によって取得された各呼吸に関する信号を上記センサから収集すること、
ii. 収集された信号からデータを蓄積し記憶すること;
iii. 上記データを、第1の強度レベルで上記プロセッサ上で稼動している機械学習モジュールに入力すること、
iv. 上記患者の呼吸における呼吸の異常について収集された直近の信号をスクリーニングすること、
v. 受信及び計算された成分を、比較的低い頻度のレベルで動作している機械学習アルゴリズムに提示すること;
vi. スクリーニングが異常を示す場合、上記モジュールを、第2の、上記第1のレベルと比較して比較的高いレベルの強度で動作させること、
vii. 上記異常を、その異常が差し迫っている急性状態の前兆であることを示す予め設定された警告基準に対して検定することであって、警告基準は、任意の所望の治療計画に従って、又は呼吸状態の変化が示されるという確信度に基づいて設定されてもよい(例えば、「治療計画」に関しては、呼息期間が所定の量短くなった場合に警告を鳴らすことができ、「確信度」に関しては、被験者の呼吸がゾーン1からゾーン2に移動した-図1を参照-ことを所定の確信度で判定した場合に、警告を鳴らすことができる)、検定すること、並びに
viii. 警告基準が満たされた場合に警告を出力すること、
をさせる命令を実行するようにプログラムされている。
【0056】
本発明の第6の態様によれば、急性の医学的状態を予防する方法は、
a. 急性の医学的状態を発症する既知のリスクを有する見込み患者に、データ通信するように接続されたセンサ及びプログラミングされた信号プロセッサを搭載した装着可能な装置を提供する工程と、
b. 上記装置を上記患者の皮膚の選択された部分に動作可能に適用する工程と、
c. 上記プロセッサに、
i. 上記患者によって取得された各呼吸に関する信号を上記センサから収集すること、
ii. 収集された信号からデータを蓄積し記憶すること、
iii. 上記データを、第1の強度レベルで上記プロセッサ上で稼動している機械学習モジュールに入力すること、
iv. 上記患者の呼吸における呼吸の異常について収集された直近の信号をスクリーニングすること、
v. 受信及び計算された成分を、比較的低い頻度のレベルで動作している機械学習アルゴリズムに提示すること、
vi. スクリーニングが異常を示す場合、上記モジュールを、第2の、上記第1のレベルと比較して比較的高いレベルの強度で動作させること、
vii. 上記異常を、その異常が差し迫っている急性状態の前兆であることを示す予め設定された警告基準に対して検定すること、並びに
viii. 警告基準が満たされた場合に警告を出力すること
をさせる工程と
を備える。
【0057】
上記スクリーニング工程は、次の呼吸についての信号を予測し、受信されたときの実際の信号に対する上記予測の精度を検定することを含んでもよい。
【0058】
本発明の第7の態様によれば、急性症状を特徴とする慢性呼吸状態を患うユーザに、症状のない(又は症状が最小限の)生活を提供するための手段を含むパーソナルメディカルアシスタントであって、上記手段は、生理的機能データをプロセッサに供給するように動作可能に構成された装着可能センサを含み、上記プロセッサは、上記慢性呼吸状態に関連する差し迫った回避可能な急性の医学的状態の指標である成分を検出するためにデータを分析するようにプログラムされており、この分析は、予測数値プロセスを含み、周期的信号の将来の予測を観測されたときの上記信号と比較する、パーソナルメディカルアシスタントが提供される。
【0059】
好ましくは、上記手段は、上記センサの装着者に投薬するための薬剤を充填可能な吸入器デバイスをさらに含む。さらに好ましくは、この吸入器デバイスは、上記医学的状態に対処するための有効用量で薬剤を分配するために装着者によって操作可能な作動手段であって、分配事象の詳細を記録するために上記プロセッサと通信する作動手段を含む。
【0060】
本発明の目的は、先行技術の欠点に対処し、その際に、喘息等の急性症状を有する治療可能な状態のための早期予期システムを提供し、早期予期が症状の発症の初期段階で適切な治療薬の提供を容易にすることである。
【0061】
本発明のさらなる目的は、慢性医学的状態の患者を補助して、そのような状態の急性症状を回避する方法を提供することである。
【0062】
克服すべき技術的課題は、症状になる前に喘息徴候を検出するために、容易に検出可能であるが、ノイズの多い(汚染された、理想的ではない、現実の世界のデータである)音響信号を利用することである。ここでいう「症状」とは、患者について発症した症状を示す容易に認識できる指標を指す。症状の特定は、本文中で使用されている「喘息徴候」の検出と比較すると、喘息発作の発現から比較的先立つ時期に行われる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0063】
本発明が容易に理解され、実用的に実施され得るように、ここで、添付の図面を参照する。
【0064】
図1図1は、喘息症状の重症度分類と、患者が経時的に経験する典型的な重症度の程度のプロットを示すグラフである。
図2図2は、本発明の装置の好ましい実施形態の図を概略的な形態で示す。
図3図3は、図2の装置が本発明の監視プロセスに適用される場合に適用されるシステム論理の概略図である。
図4図4は、図2に概略的に示すような装置の分解図である。
図5図5は、粘着パッチを分離した、図2の装置の組み立て図である。
図6図6は、図5に示すような組立状態における、図4の装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
次に、図2のシステム10のような喘息管理システムを参照して、本発明の実施形態を説明する。このシステムは、ユーザの呼吸健康を追跡及び/又は記録することができる。このシステムは、慢性症状発生(例えば、喘息発作)のような予見可能な有害事象を検出するのを助けるために、データのフィルタリング及び処理の技術を使用する。このシステムはまた、この目的のために機械学習を使用してもよい。
【0066】
当該システムは、有害事象の発症の事前警告を提供することができる。それによって、このシステムは、例えば喘息発作等の有害事象を取り除く、又は軽減するための改善措置を前もって、又は少なくとも時宜を得て行うことを可能にすることができる。
【0067】
当該システムは、通常モード及び上昇モードで動作することができる。そのような実施形態では、上記システムは、被験者(例えば、患者)が有害な状態を患うリスクがあるとシステムが判定するまで、通常動作モードのままであってもよい。例えば、被験者の呼吸器系又は他の生理系のセンサ(1又は複数)からの現在のセンサ測定値に基づいて、このシステムは、続いて予想されるセンサ測定値を予測してもよい。上記システムは、続いて予想されるセンサ測定値をセンサから受け取り、それを予測と比較する。その比較に基づいて、このシステムは、被験者が安定であるかどうかを判定し、そうである場合、通常の動作モードのまま留まる。このシステムは、発作前兆が特定された場合、例えば、上記比較が有害な状態が差し迫っていることを示唆する場合、上昇モードに入る。上昇モードでは、第1の通常動作モードで行われた判定を確認するために、機械学習が実施される。
【0068】
使用例において、当該システムは、呼吸パラメータ(例えば、呼吸数、呼吸周期、又は吸息及び/若しくは呼息のタイミング又は比)を使用して、被験者が安定した状態又は被験者の現在の重症度を維持するために次の呼吸パラメータが何であるべきかを予測してもよい(図1を参照)。次の呼吸事象が上記予測と同等である(例えば、予測と同じ又は予測から所定の期間/閾値内)と上記システムが判定する場合、このシステムは、通常動作モードのままである。上記のように判定しない場合、このシステムは、上昇動作モードに進入する。いくつかの実施形態では、誤警告を減らすために、上記予測は、当該システムが上昇動作モードに進入する前に、又はシステムがアラーム/フィードバックを生成する前に、生理系の所定の数の周期(例えば、呼吸器系については所定の数の呼吸事象)の間、繰り返し実行されてもよい。
【0069】
有害事象の潜在的な発症が特定されると、システム10は、触覚的若しくは運動感覚的なフィードバック又は通信(例えば、警告24を介して)を提供してもよい。このようなフィードバックは、ユーザに力、振動、又は動作を加えることを含む。そのようなフィードバックはまた、生体からのフィードバックを受け取るためにタッチセンサを使用することを含む。加えて、又は代わりに、警告24は、デジタル記録、テキストメッセージ、及びチャットボットインターフェースを備えた音声呼出のようなデジタル警告を生成し、送信することを含むことができる。音声呼出及びテキストメッセージは、単独であってもよく、単に、状態及び対象に関連する情報(例えば、発症の可能性、患者の場所、状態の種類等)を含んでもよい。音声呼出及びテキストメッセージは、代わりに、呼出又はメッセージの受信者(例えば、被験者、臨床医又は介護者)がシステム10と対話してさらなる情報を収集することを可能にするために、所定の応答を許可してもよい。同様に、チャットボットインターフェースをスマートフォン上で生成し、警告の受信者がチャットボットと対話して状態及び対象に関連する情報を収集することを可能にすることができる。
【0070】
当該システムは、ロボット工学分野で適用される計算モデルであるカルマンフィルタも使用する。カルマンフィルタは、動的システム(例えば、患者の患者の呼吸器系)の一連の測定値が時間の経過につれて行われ、その動的システムの現在の状態についての不確実な情報のみが利用可能である応用例に適している。それゆえ、カルマンフィルタは、一連の測定値及び不確実な情報を使用して、システムがどのようなことをするか(例えば、システムが次にどのような状態に入るか)についての教育された推測を行う。本発明の文脈において、カルマンフィルタリングは、患者が現在正常又は異常(例えば、有害な)呼吸状態を経験しているかどうかを推測するために使用されてもよい。カルマンフィルタリングは、雑音のある信号のフィルタリング、観測不可能な状態の生成、及び将来の状態の予測を含む多くの応用例に使用され得る。予測された将来の状態、すなわち、予測がなされている将来の周期について予測された状態は、発作前(例えば、喘息発作前)の状態又は発作中の状態であると予測されてもよく、従って、将来の周期(すなわち、状態が予測された周期に対応するセンサ出力)が、予測と同じであるか、又は予測の予め設定された限界値若しくは閾値の範囲内である場合、図3のボックス54によって警告が発せられてもよい。あるいは、予測される将来の状態は、正常な呼吸又は回復/発作後であると予測されてもよく、この場合、図3のボックス54によって発生した警告は、将来の周期が予測と同じであるか、又は予測の予め設定された限界値若しくは閾値の範囲内である場合、取り消されてもよいし、又はそうでなければ発生されなくてもよい。将来の周期が事前に設定された限界値又は閾値の外にある場合、警告は、想定されるように発生されるか、又は維持されてよい。
【0071】
カルマンフィルタは、予測方程式と更新方程式の2つのタイプの方程式に対して動作する。予測方程式は、前の状態と指令された作用に基づいて、系の現在の状態を予測する。更新方程式は、系の入力センサ、各センサに対する信頼レベル、及び全体的な状態推定における信頼レベルを見る。このフィルタは、予測方程式を使用して現在の状態を予測し、その後、更新方程式を使用して、ジョブの予測の良さをチェックすることで機能する。このプロセスは、現在の状態を更新するために連続的に繰り返される。
【0072】
拡張カルマンフィルタ(EKF)は、非線形システムにおいて予測技法を適用する。それゆえ、問題のシステムモデルの予備的な線形化が必要である。これには、ヤコビアン(Jacobian)の実行が必要になる可能性があり、これは、異なる値を異なってスケーリングすることを可能にする。2番目でより簡単なアプローチは、区分近似値を使用することである。この場合、データは線形に近い領域に分解され、各領域に対して異なるA行列とB行列を形成する。これにより、データの確認及びフィルタにおける適切なA行列及びB行列の使用が可能になり、系の遷移状態を正確に予測することができる。
【0073】
図1のグラフは、時間に対する喘息発作の重症度のプロットである曲線を示している。この曲線は原点から始まり、Y軸から水平方向に伸びる点線によって区別される、重症度が増加するゾーンを通過する。このゾーンでは、喘息の重症度が増すにつれて、対応して次第に劇的な医学的介入が必要となる。このシステムは、介護者又は補助提供者に、装置の装着者が曲線上のどこにいるかを示すグラフの表示を出力する。例えば、親は、発作の任意の所与の段階で子供が罹患している階層を直ちに見ることができる。子供は、ネブライザーによる噴霧を必要とする重症度の段階に達するまで、自分自身の認識できる症状をしばしば軽視したり無視したりする。親も、差し迫った発作の初期の徴候を見逃す可能性がある。いったん症状が観測可能になれば、両親は「症状が認められる」中間領域3から治療を試み、噴霧が遅すぎて、例えば入院(ステージ5)等の深刻な結果を招く可能性が高い。本発明は、1(最も好ましい)及び2とマークされた領域において、初期段階で応答を実施することを可能にする。
【0074】
図1のグラフ中のゾーン1~5は、急性喘息増悪強度研究スコア(AAIRS-すなわち、Y軸「喘息重症度」は、AAIRS喘息重症度である)に従って判定される。図2に記載されるシステム10によって使用されるゾーンを区別するために測定される基準は、センサが測定可能であるものであり、これらは、AAIRS評価で使用される基準の一部若しくは全部、又は、例えばAAIRS評価に対して有効性が評価されている基準(音響センサによって測定される音声特徴等)のいずれかであってよい。例えば、音響センサが使用される場合、信号は、センサに可聴であるか、又は呼吸が完全に停止した場合、可聴でないか、若しくは正常な可聴信号がないとして測定される。
【0075】
一実施形態では、当該システムは、図1に示すような重症度に関する運用データ(例えば、被験者の生理系の予測されたセンサ測定値と実際のセンサ測定値との間の比較結果)を受信し、ユーザ又は指定された介護者に応答プロンプト(促し)、例えば、薬剤の投与に関するリマインダーを提供するための命令を実行するように構成されたソフトウェアアプリケーション(「アプリ」)を含む。このシステムは、例えば、図1に示すグラフを出力し、被験者の現在の重症度レベルがそのグラフ上にどこにあるかを特定し、又は被験者の現在の呼吸状態があるゾーン及び/又はそのゾーンに関する説明又は警告を出力することができる。当該システムは、被験者の現在の重症度レベルの表示のために、及び/又はユーザ又は介護者にネブライザーによる噴霧を行うように促す、又は緊急サービスに警告する等の応答プロンプトを提供するために、スマートフォンに出力を送ることができる。
【0076】
システムハードウェアは、上記アプリを実行するプログラムされたスマートフォンと、周知のBluetooth(登録商標)プロトコル等のプロトコルに従って動作する近距離無線通信装置とを含む。あるいは、接続性は、モバイル電話又はWi-Fi通信網を介することを含め、他の適切な公知の手段によって行われてもよい。
【0077】
上記システムは、パッチ及びドッキングステーションの形態の装着可能な装置をさらに含み、そこで、バッテリ再充電のために装置をドッキングすることができる。好ましくは、このドッキングステーションは、医学的に関連するデータ、例えば、気象条件及び予報、並びに測定及び予測される汚染及び花粉レベルを装着者に中継するように構成される。中継は、ビジュアルインタフェース、オーディオメッセージ等によって行われてもよい。上記ステーションは、さらに、装着者に、それらの薬剤使用に関する入力を促し、入力を受信するように構成されてもよい。入力は後で参照できるように記録される。プロンプト(促し)は、装着者の応答と同様に、音声メッセージを介して伝達されてもよい。
【0078】
この例示的な、非限定的な好ましい実施形態における粘着パッチの形態である当該装着可能な装置は、図2に概略的に表され、数字10で示される。当該装着可能な装置は、裏面14を有する成形されたプラスチック筐体12を含む。裏面は、医療グレードのシリコーン系のシートを裏面に適用することによって、ユーザの皮膚上に貼付するために粘着性(接着性)にされる。このシートは、粘着性を回復させるために、一時的に取り外し可能で洗浄可能である。シートが使用不可となった場合は、シートは筐体とは別に交換してもよい。機能的な電子部品は、筐体内に封入される。それらは、以下に記載されるように動作可能に接続される。
【0079】
図4~6に示される実施形態400等の装置は、装着可能なパッチであってもよい。センサが音響センサである場合、パッチは装着可能な聴診器のように作用してもよい。聴診器の性質を有する(すなわち、音響信号を登録するための)装置は、胸部上に置かれ、下気道内の気流音響を記録してもよい。次いで、装着可能な胸部パッチは、親、保護者又は介護者が患者の喘息を監視するのを助けるために、親、保護者又は介護者に、例えばスマートフォンにインストールされたアプリを介して、生のフィードバック及び警告を提供することができる。スマートフォンアプリは、喘息増悪(すなわち、状態の悪化)の徴候があり、親、保護者又は介護者が管理及び治療に関して情報を得た決定を行うことを可能にする可能性を有する場合、警告を送信する。
【0080】
患者の呼吸の音声信号は、患者の上胸部領域に保持された音響センサ/監視パッチ(図6のセンサ414参照)を通して収集される。この監視パッチは、小型化されたコンデンサマイクとそれに付随する電子装置で構成されている。このパッチは、USBケーブルを介してコンピュータに接続することができる。このケーブルは、電力及びデータ送信を提供する。この接続は、記録中に適所にあってよく、従って、コンピュータは、リアルタイムで、患者からの記録を受信する。あるいは、データは、メモリ(図4のメモリを含むPCB404を参照)に記憶され、定期的にワイヤレスで、又は有線接続を介してコンピュータに送られてもよい。
【0081】
上記パッチは、市販の生体適合性材料である両面ボディテープを介して患者上に保持される(例えば、図4の粘着性パッチ420)。両面テープのみが患者の皮膚に直接接触し、各単回使用後に廃棄される。モニター筐体(例えば、図4の筐体402)は3D印刷ABSで作られ、これは使用のたびにアルコールワイプで洗浄される。データには患者固有の識別コードが表示され、一般に患者名は表示されない。
【0082】
特に、図4図6に示される実施形態に関して、装置400は、筐体402、プリント回路基板(PCB)404、バッテリ406、及び警告コンポーネント408を備える。筐体402は、図5及び図6に示されるように、PCB 404、バッテリ406、及び警告コンポーネント408を筐体402内で封入するために、例えば公知の様式でスナップ嵌め又は干渉嵌めを用いて係合する基部410及び上部412から形成される。PCB 404は、図2の装置のトランシーバ(無線通話機)、CPU、調整(コンディショニング)モジュール及びメモリを備えることができる。警告コンポーネント408は振動コンポーネントを備えることができ、この振動コンポーネントを通して、装置400は、振動を介して、装着者(すなわち、被験者)に、警告状態が特定されたこと(例えば、急性の医学的状態が切迫していること)を示すことができる。
【0083】
筐体402は、本実施形態では、その基部410は、センサ414(1又は複数)を支持する(図2のセンサ20も参照されたい)。センサ414は、図6に示すように、筐体402が組み立てられた状態にあるとき、突出部416に受容される。基部410の突出部416は、粘着パッチ420の対応する凹部418に受容される。凹部418は、突出部416の形状と協働する形状である。粘着パッチ420を通る凹部418の深さは、突出部416の高さと実質的に同じである。従って、粘着パッチ420と筐体402とが係合されると、突出部416の下面422は、被験者の皮膚と接触しているときに、粘着パッチ420の底面424と実質的に同一平面上にある。これにより、センサ414は、使用中に被験者にできるだけ近づけることができる。
【0084】
粘着パッチ420と筐体402との間の接続を維持するために、粘着パッチ420の底面424及び上面426の両方が粘着性であり、当業者は、この状況で使用される粘着剤が、意図されたときに容易に破壊され得る粘着をもたらし、従って患者の皮膚との永久的な接合が生じないことを理解する。さらに、粘着パッチ420及び筐体402の一方は、粘着パッチ420及び筐体402の他方の隆起部分430の周囲に受容されるように適合されたリップ428を含む。本実施形態では、粘着パッチ420がリップ428を含み、筐体402が隆起部分430を含む。従って、リップ428は、粘着パッチ420と筐体402との間の相対的な横方向の移動を制限する。加えて、筐体402は、粘着パッチ420内の対応する穴(図示せず)に受容されるプロング432をさらに含む。プロング432は、粘着パッチ420と筐体402との間の相対的な移動をさらに制限する。
【0085】
中央処理装置/処理装置(又はCPU)16は、メモリモジュール18にデータを転送し、そこからデータを検索し、調整用電子回路22を介してセンサ部20から入力を受信するように接続されている。センサ部20は、装置10が被験者の皮膚の上に置かれたときに、被験者の皮膚にできるだけ近くなるように、医療グレードのシリコンの背後に、一般に隣接して配置される。
【0086】
上記プロセッサは警告装置24に出力を送る。上記プロセッサは無線トランシーバ26にも接続される。このコンポーネントの電源はバッテリ28である。
【0087】
センサ部20は、装着者の皮膚に対して配置可能な音響ピックアップ又は音響センサを含む。任意の適切なピックアップを使用することができる。一部の実施形態では、圧電ピックアップが好ましく、他の実施形態では、微小電気機械システム(MEMS:例えば、人工内耳に使用されるMEMS等)を使用することができる。このセンサは、呼吸器における喘鳴周波数又は他の炎症の徴候をピックアップするために選択及び構成される。
【0088】
警告装置24は、装着者の医学的状態の差し迫った悪化が予測される場合、その装着者に物理的刺激を提供する触覚出力を生成する。非限定的な例として、物理的刺激は、装着者への生の触覚フィードバックの形態であってもよい。医療分野に必ずしも限定されない示唆は、アプリによって生成され、スマートフォンを介して出力され、ユーザが自分の個人の喘息プランに忠実であるのを助ける。この示唆は、テキストメッセージ、自動電話、又は自動再生のための音声ファイルによって伝達されてもよい。
【0089】
センサ部(例えば、音響センサを含む)を介してプロセッサ16上で実行されるソフトウェアは、例えば、上気道に発生する予期せぬ状態又は不健康な状態を信号伝達する装着者の通常の呼吸の変化の検出を可能にする。例えば、プロセッサ16上で実行されるソフトウェアは、音響センサからの音響(すなわち、音声)信号を使用して、呼吸周期の呼息部分についての時間、又は呼息部分と吸息部分の両方についての時間を決定してもよい。呼息部分が短くなり、かつ/又は呼息のノイズ量が増加する場合(例えば、喘鳴又はきしり音)、これは、呼吸がより困難になることを示すことができる。例えば、呼吸周期の呼息部分が短くなった場合、これは、気道が収斂又は収縮したことを示すことができ、この収斂又は収縮は、呼吸流出を速め、喘鳴を引き起こす粘液生成を引き起こす。それゆえ、システム10は、例えば、被験者の胴体又は背中に配置された音響センサを使用して、気道収縮及び息切れをモニターすることができ、これから、システム10は被験者が有害な状態(例えば、喘息発作)を発症するリスクがあるかどうかを判定することができる。
【0090】
1つの実施形態では、システム10は、被験者の呼吸のアナログ音を収集するための音響センサを含む。このアナログ音は、収集時の被験者の呼吸信号を表すデジタル信号に変換される。次いで、このデジタル信号は、時間領域変換、主成分分析等の種々の標準的な信号処理ツール及び/又はツールの組み合わせで処理することができる。呼吸の異常についてのいくつかの同時判定が可能であり、これには、一つの呼吸周期から次の呼吸周期への劇的な変化、並びに吸息呼息比、喘鳴、咳及びポンという音等の粘液蓄積並びに/又は筋収縮についての典型的な前駆徴候が含まれる。劇的な変化とは、例えば、吸息若しくは呼息、又はそれらの間の比が、10%(又は任意の他の所望の閾値)を超えて予想外に変化する場合であってもよい。
【0091】
このようにして、パッチ10は、肺機能を聴くための装着可能な聴診器として動作することができる。従って、上記音響センサは、被験者からの音を直接測定することができ、その音から呼吸パラメータを決定することができる。それゆえ、音響センサ20は、代替(プロキシ)測定(例えば、心拍数)及びその代替測定によって表される呼吸パラメータの推論を使用して呼吸パラメータを決定する必要性を回避する。
【0092】
加えて、ドッキングステーション又はスマートフォンが使用される場合、そのドッキングステーション又はスマートフォンは、(例えば、オンラインソースから)空気質データを収集し、その空気質データをパッチ10に送ることができる。好ましくは、空気質データは、被験者の近傍の空気に関するものである。次いで、空気質データをセンサ20からのデータで補強して、精度を向上させ、誤警告を減らすことができる。例えば、空気質が良好である場合、呼吸特性又は呼吸パラメータのいくつかの変化は、被験者がスポーツを行っていることを示す可能性がある。従って、システムは応答しない可能性がある。空気質が悪い場合(例えば、高い汚染や花粉のレベル)、生理系(例えば、患者の呼吸器系)が被験者が良質な空気中でスポーツをしているときと実質的に同じパラメータ(例えば、呼吸数、呼息期間)を有するにもかかわらず、システムは警告を発生することができる。
【0093】
誤警告をさらに減らすために、加速度計又は時計がパッチ10に組み込まれてもよく、かつ/又は当該システムがスマートフォン加速度計又は時計と通信してもよい。例えば、被験者が通常、1日の特定の時間帯にランニングに入る場合、呼吸は、1日のその時間帯にわたって速い可能性があり、当該システムは、1日の他の時間帯に比べて異なった応答をしてもよい。この点に関して、上記システムは、所定の閾値(例えば、20呼吸/分)を超える生理系の測定値に基づいて、ユーザ又はその介護者に警告するかどうかを決定することができるので、当該システムは、呼吸数がその閾値を超えると、最初に、スマートフォンを介して被験者に警告メッセージを送信してもよい。被験者が、例えば、スマートフォンタッチスクリーン上の「警告クリア」ボタンを押すことによって、1日の特定の時間帯に一貫して警告をクリアする場合、当該システムは、1日のその時間帯に、警告が不必要に発生されないように、閾値を調整しなければならないことを学習してもよい。上記システムは、同様に、ベースライン(すなわち、生理系の予想される「安静時」活動)及び睡眠中に測定された所定の閾値を、センサ測定値が日中に比較されるベースライン及び閾値として使用することを回避することを学習することができる。あるいは、加速度計の測定値に基づいて、被験者が運動しているように見える場合、システムは閾値を上昇させてもよい。一日のその時間帯が経過するか、又は運動が停止すると、閾値を元のレベルに戻してもよい。
【0094】
システム10は、メモリ18を含む。メモリ18は、被験者の生理学的健康の縦断的な研究又は学習を容易にするために、病歴データ(例えば、センサ測定値)を記憶することができる。プロセッサ16によって実行される機械学習アルゴリズムは、病歴データ上で実行され、システム挙動の変化を判定することができる。いくつかの例は、上記のように、1日の異なる時間帯、又はより高い及びより低い活動(例えば、運動)の期間の間に、システム挙動を適応させるためのものである。加えて、機械学習アルゴリズムは、経時的に、被験者の生理系が変化していることを特定することができる。例えば、被験者は、毎分12呼吸の呼吸数、又は1呼吸当たり3秒の呼息期間を有していた可能性がある。長期間(例えば、2か月)にわたり、また、呼吸数又は呼息時間のわずかな変化量を伴って、被験者は、毎分15回の呼吸に向かうか、又は1呼吸あたり2秒間の呼息時間に向かうかのいずれかに、漸進的に向かう可能性がある。これは、例えば、空気中の粒子状及び有害なガスが呼吸器系に有害な影響を生じ得る鉱山又は化学工場の作業者の場合、被験者の呼吸器系又は被験者周辺の環境の進行性悪化を示してもよい。
【0095】
このような場合、上記システムは、悪化条件によって定義される閾値を設定(例えば、ベースライン呼吸数を毎分16呼吸に増加させること)してもよい。次のセンサ測定値が予測されるセンサ測定値からの所定の閾値を外れている場合に警告を発するのではなく、システムは、次のセンサ測定値がその閾値内である場合に、警告を発してもよい。
【0096】
図3を参照すると、この好ましい実施形態における上記システムの論理は、図2のパッチ10を参照して明らかにされる。このシステムは、喘息を有するユーザの現在の呼吸状態を判定し、喘息事象の発生を予測するために2モード方法を使用する。第1の工程は、次の吸息又は呼息信号を予測するように構成された拡張カルマンフィルタ(EKF)である。健康な定期的な吸息又は呼息に関連しない信号が検出されると、システムは高認識又は上昇モードに入る。システム認識(すなわち、サンプル解像度又はサンプルレート)は、機械学習を容易にするために、第2の工程中に増加される。
【0097】
この実施形態では、一旦システムが(工程36で)起動されると、センサ部20は、状態関連データ42を収集し、抽出モジュール22にフィードする。装着者によって行われる毎回の呼吸は、吸息及び呼息の期間を含み、これらは、センサ部内のセンサを使用して、検出され捕捉される(例えば、メモリに記憶される)。
【0098】
なお、センサ部は、センサ非依存的(センサの種類を問わない)であってもよく、この実施形態では、音響センサだけでなく、心電図(ECG)センサ及び位置センサ(GPS)を含む。パッチの装着者の他の生理学的状態のデータを得るために、追加のセンサが含まれてもよい。場合によっては、温度センサ、又は皮膚表面水分センサが配備されてもよく、例えば、温度センサは、被験者の呼息の温度を監視し、被験者の呼息の温度の変化を記録してもよい。温度の上昇は、肺への血流の増加の指標として使用されてもよい。喘息等の呼吸窮迫による炎症が原因で肺血流量が増加することがある。
【0099】
パッチの表面を画定するシートは、例えば、必要に応じてアパーチャ(開口部)を通る直接的な皮膚接触を可能にするように、配備されるセンサの要件に従って適合される。本発明におけるセンサ非依存性は、センサ出力に作用するカルマンフィルタにおける観測及び信頼値の性質に起因して可能になる。カルマンフィルタは、時間の経過につれて取得される一連の測定値を使用して、本発明の文脈において、次のセンサ測定値又は将来のある時点で取得されるセンサ測定値のような未知の変数を確率的に決定する。
【0100】
吸息又は呼息の事象からの生のセンサ信号は、多くの場合、信号ノイズ、不必要なデータ及び他の不純物又は望ましくない信号アーチファクトを除去するために前処理を必要とする。プロセッサは、公知の方法に従って、生の信号データに対して信号整流及びフィルタリングルーチン42を実行する。これらの方法は、ある場合には、正当な理由がある場合には、例えば適切なドメインへの信号変換を含むことができる。得られたよりクリーンな信号は、次に、最も有意な信号ベクトルを抽出するための主成分分析(PCA)を受ける。
【0101】
PCA工程では、フィルタリングされた信号は、センサごとに別々に処理される。フィルタリングされた信号は、公知の方法に従って、分散に基づいて、それらの主成分に分解される。この実施形態では、信号は、一般に単一のセンサから取得された10個以上の読み取り値の分解されていないストリング(記号列)である(特定の分析については適宜10個未満の読み取り値が使用されてもよい)。このストリングは、センサ測定値の上にウィンドウをスライドさせることによって形成され、このため、同じ測定値が複数のストリングに現れてもよく、例えば、測定値1、2、3、4、5、及び3つのスライディングウィンドウについては、1つのストリングは、測定値1、2、3を有してもよく、別のストリングは、測定値2、3、4を有してもよい、等である。他の長さのストリングが選択されてもよい。PCAによって生成されたベクトルの有意性は、当該ユーザについて蓄積された病歴データ及び学習の助けを借りて(工程44で)判定されてもよい。最も有意なベクトルは、メモリモジュール18内の基板記憶チップに記録される。
【0102】
病歴データは、当該装置のセンサから、又は他の装置によって取得された以前の測定値からの病歴出力であってもよい。例えば、病歴データには、呼吸状態の開始を示す典型的な呼吸異常のラベルを含む臨床的なプールデータが含まれていてもよい。あるいは、病歴データは、特定の患者のための事前記録を構成してもよい。そうすれば、評価/比較に、当該患者の特定の呼吸状態、例えば喫煙者の状態、年齢、鼻呼吸又は口呼吸等、を考慮に入れることになるであろう。
【0103】
記憶チップは、後述する拡張カルマンフィルタ(EKF)から得られる予測吸息呼息信号を保持するためにも使用される。記憶容量が利用可能な場合、処理された出力の導出に用いられる生信号も記憶される。
【0104】
プロセッサは、スクリーニング工程として、PCAによって分離された主要ベクトルにEKFを適用する。メモリ18は、PCA及びEKFからの最も有意なベクトル及び予測される吸息信号又は呼息信号をそれぞれ記憶又は記録するために使用されてもよい。EKFは、パッチ装着者の直近の吸息又は呼息の事象のデータから、次のそのような有害事象を特徴付けるべき信号(複数可)を予測するように構成される。EKFプロトコルに従って、センサ部で使用される各センサは、公知の方法で、信号品質及び関連性に基づいて、信頼値が割り当てられる。EKFは、入力信号データを結合して操作し、そこから次の吸気又は呼息信号の値及びその中のベクトルを予測する。
【0105】
次に、次の事象から得られた実際の信号(複数可)が、予測された信号と比較される。分散が計算される。直近で監視された呼吸事象(例えば、単一の呼吸事象のセンサ測定値、又は複数の呼吸事象を含んでもよい、上記のストリングの形態のセンサ測定値)に従うと健康な呼吸状態にあるパッチ装着者が、次の実際の信号として、健康な通常の吸息又は呼息と整合しない異常を構成する信号を返すと、当該システムは、上昇動作認識のモードに入るようにトリガされる。異常は、予め設定されたか若しくは所定の閾値に達するか又はそれを超える分散によって定義されてもよく、例えば、3秒の呼息期間が予測される場合、又は吸息に対する呼息の時間の予測比が3:2である場合、閾値は、1.5秒の呼息期間又は3:4の比であってもよい。
【0106】
このような高認識モードでは、当該システムは、臨床データから訓練された強化された教師あり異常検出モデルである機械学習(ML)アルゴリズム46を起動する。訓練された/MLモデルは、ユーザ(例えば、患者又は被験者)の呼吸状態を分類するために、ユーザの皮膚に貼付されるパッチ又は装置において使用される。状態は以下のとおりである:正常呼吸、喘息事象前、喘息事象中及び喘息事象後。従って、アルゴリズムMLモデルは、現在のデータ及び病歴データ(急性の医学的状態の差し迫った発症の指標であろうとなかろうと、急性の医学的状態からの差し迫った回復の指標であろうとなかろうと、示した状態に基づいてラベル付けされたラベル付けされたデータ又は他のラベルを含む)を使用し、これらのデータはまた、その信号データの主成分(PC)を含んでもよい。これにより、例えば、センサ測定値(すなわち、信号)をラベル付けされたデータと比較し、公知の方法(例えば、PCA)を使用して、信号に最も近似するデータに適用されるラベルを参照することによって、被験者の状態を判定することによって、ユーザの呼吸状態を判定する。不規則な呼吸が検出された場合、機械学習出力及びユーザフィードバック(例えば、「警告をクリア」、「介護者に連絡」又は「緊急サービスに連絡」)等の追加データも記録される。次いで、この追加データをMLモデルに供給することができる。機械学習アルゴリズムは、例えば、システムが上昇動作モードに進入するたびに、一貫して再配備されて、個人の状態によりよく適合することができる。
【0107】
当該システムが高認識モードにある場合、より多くの病歴データが使用され、これは、精度を高めながら計算時間を増加させる。異常な呼吸が検出され、上記システムが高認識モード又は上昇モードに移動すると、警告がユーザに送信される。例えば、パッチが振動し、LEDが点滅してもよい。警告が送信されると、ユーザは警告を確認するように求められる。この情報は、後で機械学習アルゴリズムを改善するためにデータベースに記録される。通常の監視は、警告が送信された後、電力効率モードで再開される。さらに、前の警告が送信されてから指定された時間が経過するまで、新しい警告が送信されなくてもよい。被験者が警告をクリアしない場合、又はシステムが有害な状態が悪化したと判定した場合、スマートフォン警告が、登録された任意の電話機(例えば、被験者のスマートフォンにおいて緊急時に連絡する電話として特定された電話機、又は緊急サービス)に送信されてもよく、この警告は、位置情報、及び有害な状態の種類/重症度を含んでもよい。この情報は、ユーザの位置特定及び/又は医療支援のための呼びかけに使用することができる。高認識モードは、サンプリング時間を遅くし、CPUから追加の熱を生成するので、一貫して使用されるべきではない。
【0108】
システムが正常な呼吸状態が再開したと判定した場合、システムは、通常の動作モードでセンサデータを収集するために戻るべきである。より低いデータ要件は、上昇動作モードと比較して、電力効率的である通常モードをもたらし、結果として、計算時間及びCPU負荷が低減される。
【0109】
訓練済みモデルは、ユーザの肺機能の状態を分類するために使用される。状態のカテゴリーは以下のように定義される:正常な呼吸(例えば、吸息期間及び呼息期間は患者にとって健康な比にある);喘息事象前(例えば、吸息期間と比較して呼息期間がある程度増加する);喘息事象中(例えば、吸息期間と比較して呼息期間が有意に増加する);喘息事象後、-これは、信号(例えば、音響信号)上で観測された異常の持続、又は図1を参照して議論されているような回復の特徴を示す呼吸として判定される。上記システムは、各々のカテゴリー又は重症度のレベルに対して、異なる反応を示すこと、-例えば、正常な呼吸に反応しないこと、被験者に警告することにより「喘息事象前」カテゴリーに応答すること、緊急サービスに警告することにより「喘息事象中」に応答すること等があってもよい。訓練済みモデルは、パッチ装着者の呼吸状態を判定するために、現在のデータ及び病歴データ44を使用する。
【0110】
パッチセンサからの最新の観測された呼吸信号は、訓練済みモデルの出力に対して検定又は比較される。パッチ装置装着者が、EKFから得られた予測信号と整合する信号を返す場合、これは非脅威状態を表し、制御は信号収集工程40に戻される。
【0111】
最新の観測された(すなわち、測定又は感知された)信号が、予測された信号から統計的に有意な分散を示す場合、それは、システムの機械学習局面において後に使用するためにフラグが付けられる。これに関して、「統計的に有意」は、予測された次のセンサ測定値の所定の閾値内で、予測された次のセンサ測定値の10%以内を意味してもよく、又は実際の次のセンサ測定値を主張するための任意の他の所望の機構が予測された次のセンサ測定値を十分に表すか表さないことを意味してもよい。
【0112】
呼吸事象は、前と同様に監視され続けられるが、出力装置24を使用して警告がトリガされる54。出力装置は、振動パッド、ラウドスピーカ等の可聴出力装置等のうちの1つ以上であってもよい。加えて、トランシーバは、公知の無線通信手段を使用して、装着者の介護者、親及び装着者自身に関連づけられた携帯電話ハンドセット等の1つ以上のユーザ選択の移動通信装置に無線信号を送信するようにプログラムされる。信号は、装着者の差し迫った予期される状態及び介入の必要性について、ハンドセットのユーザに警告するように適合されてもよい。トランシーバは、さらに、医療事象が信号伝達された場合に、トランシーバが、装着者が予め選択し連絡先の人々のグループのうちの地理的に最も近い連絡先に、又は装着者の所定の範囲内の人に警告を送信することを装着者が選択することができる設定を提供するようにプログラムされてもよい。近接性の判定は、装着者によって指定された人のハンドセット及び装着者自身のハンドセットからアプリへの入力として受信された全地球的測位座標を使用して行われる。装着者には、警告が発せられるべき媒体を選択するオプションが与えられる:例えば、アプリ内通知、テキストメッセージ、ソーシャルメディアベースのメッセージングアプリ、又は電話による。一定の時間内に装着者の装置によって連絡された装置(複数可)から確認応答が来ない場合、装着者の装置は、装着者の事前設定に従って、携帯電話番号又は固定電話番号のいずれかを呼び出すように自動的にプログラムされる。
【0113】
加えて、症状が、図1の段階に従って重症度の高いレベル、例えば、ネブライザーが適用されるべき4とマークされた段階、まで急速に進行した場合、警告は、医療緊急第1応答者サービスに送信されてもよい。
【0114】
当該システムが上昇又は高認識モードにある場合、通常の動作モード下で供給される量と比較して、増加した量の病歴データ44が参照され、かつ/又はより高いセンササンプリングレートが使用され、追加の病歴データ及び/又はセンサ測定値が、比較評価のために学習モデルに供給される。これは、計算時間を増加させるが、モデル出力の精度及びパッチ装着者の状態の認知も高める。高認識モードは、サンプリング時間を遅くし、CPUに増加した熱を発生させるので、あまり使用されない。バッテリの消耗の加速も結果として生じる。機械学習出力やユーザフィードバック等の追加データもデータベース形式で記録され、メモリモジュール18に記憶される。
【0115】
入力信号及び予測信号の主成分は、デフォルトとしてシステムに記憶されてもよい。記憶する上での制限がない限り、記憶されるデータは生の信号も含む。正常な呼吸の間の機械学習モジュールからのログ状態及び装着者フィードバックは保持されない。
【0116】
プロセッサによってコンパイルされ、メモリモジュール18に記憶されたデータベースは、任意選択的に、しかし好ましくは、トランシーバ26を介してリモートストレージ60、例えばクラウドストレージにアップロードされる。それゆえ、データベースは、機械学習アルゴリズムを改善するために、リモートでアクセスされ、使用されてもよく、その機械学習アルゴリズムは、パッチ装置コンポーネントのファームウェアアップデートとして再配備されることになる。
【0117】
このモデルは、標識された臨床データについて訓練される。これは、プロセス出力が、そのプロセス出力が導出されるもととなる入力データと一致することを意味する。これには、規則的な呼吸信号、並びに喘息事象の前、最中及び後に収集された呼吸信号が含まれる。喘息事象には、急性喘息発作及び喘鳴が含まれるが、必ずしもこれらに限定されるわけではない。例えば、音響データは、被験者の胸部に配置された本発明の装置を使用して収集されてもよい。この装置がハードワイヤードダウンロードを必要とする場合、装置は、2時間毎に(例えば、データの一貫性のために同様に較正された装置を用いて)変更されてもよく、又は、データがダウンロード及び分析されるために、例えば機械学習アルゴリズムに組み込まれるために、胸部上でその場でコンピュータに接続されてもよい。いくつかの実施形態では、装置自体もまた、分析を実行してもよい。それゆえ、この装置は、充電だけは必要とするが、それ以外は機械学習アルゴリズムの外部更新に依存しない実質的に独立した装置である。入院中に定期的(例えば、30分毎)に臨床データも取得され(例えば、AAIRSスケールを用いて組み立てたデータ)、記録される。投薬、病棟への転棟、退院等の介入についても、患者/保護者/介護者等への関連するアンケートとともに、記載される。このプロセスは、上記データ及び当該装置によってなされた予測を、精密化すること、及び臨床設定で獲得され、現在の至適基準(ゴールドスタンダード)を使用して標識されたデータに対してクロスチェックすることを可能にする。
【0118】
本発明は、EKFが使用される例示的な実施形態によって例示されているが、同様の効果を与える他の技術がある。非限定的な例は、カルマンフィルタ及びUKF、ベイズ(Bayes)推定量、パーティクルフィルタ、時系列等の変形例である。しかしながら、本発明者らは、EKFが本発明の医学的状況に最も適していることを見出した。
【0119】
これらの実施形態は、単に、生理学的性能信号の監視及び望ましくない医学的状態の発症の早期予測のための手段を提供する本発明の方法、キット及び装置の特定の例を例示するに過ぎない。この開示から得られた理解により、当業者は、請求項に係る発明を実施するための手段によってさらなる実施形態を識別するために十分な立場にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6