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特許7457009紫外線アシスト光開始フリーラジカル重合
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】紫外線アシスト光開始フリーラジカル重合
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/32 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
C08F2/32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021518067
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019053955
(87)【国際公開番号】W WO2020072417
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】16/148,010
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519408962
【氏名又は名称】ソレニス・テクノロジーズ・エル・ピー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ドレンドルフ
(72)【発明者】
【氏名】マルクス・ブレッハー
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ビーアガンス
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101550202(CN,A)
【文献】特開昭50-074689(JP,A)
【文献】国際公開第2018/096211(WO,A1)
【文献】特開平08-311425(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外光感受性開始剤を、モノマーを含む逆相エマルションモノマー配合物に導入する工程と、
前記モノマー配合物を、予め決めた強度において紫外光源(UV光源)で照射する工程と、
反応が、予め設定した第1の温度に達したら、紫外光源の強度(UV光源の強度)を調節し;
反応の温度がプラトーに達するまで、UV光源の強度を増加させる工程と、
持続的なUV照射の下で、エマルションを予め設定した第2の温度まで冷却する工程、
を含む、逆相エマルション重合反応を通して重合生成物を製造する方法であって、
前記重合生成物は、UV照射された前記紫外光感受性開始剤の存在下で、前記モノマーの重合によって形成される、方法。
【請求項2】
前記紫外光感受性開始剤が、官能基R-N=N-Rを有するアゾ化合物(式中、R及びRは、アリール並びに/又はアルキルである)、アゾビスイソブチロニトリル、2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネート及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記紫外光感受性開始剤が、280nmから420nmの吸収バンド幅を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記紫外光の強度が、0.15mW/cmから100mW/cmの範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記逆相エマルション重合反応は、紫外線で誘発された重合プロセスである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記逆相エマルション重合反応の初期温度は、0から100℃である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、紫外線(UV)アシスト光開始フリーラジカル重合に起因する、ノニオン性、アニオン性及びカチオン性アクリルアミドベースの逆相エマルションホモ-及びコ-ポリマーを等温で生成するための改善された重合プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
逆相エマルション重合において、(しばしば水性溶液中にある)親水性モノマーは、油中水型乳化剤を用いて連続した油層中で乳化され、油溶性開始剤又は水溶性開始剤のどちらかを用いて重合され;生成物は連続した油層においてコロイド状に懸濁された、超顕微鏡的で、水膨潤な親水性ポリマー粒子からなる粘性格子である。この技術は、多種多様な親水性モノマー及び油媒体に適用可能である。
【0003】
逆相エマルション重合は、当業者に知られている任意の方法で実行され得る。その例は、例えば、Allcock及びLampeによる、Contemporary Polymer Chemistry(Englewood Cliffs, N.J., PRENTICE-HALL, 1981)の3~5章を含む、多くの参考文献において見出され得る。
【0004】
逆相エマルション重合は、高分子量水溶子ポリマー又はコポリマーを調製するための標準的な化学プロセスである。一般的に、逆相エマルション重合プロセスは、1)モノマーの水性溶液を調製する工程、2)水性溶液を適切な乳化界面活性剤又は界面活性剤混合物を含有する炭化水素液と接触させ、逆相モノマーエマルションを形成する工程、3)モノマーエマルションをフリーラジカル重合に供する工程、及び任意選択で4)ブレーカー界面活性剤(breaker surfactant)を添加し、水を添加した場合にエマルションの逆転(inversion)を増進する工程によって行われる。逆相エマルション重合の他の形態は、使用前に溶融させた固体乳化剤を使用し、乳化剤は水相ではなく油層に添加される。
【0005】
逆相エマルションポリマーは、典型的には、イオン性又は非イオン性のモノマーに基づく水溶性ポリマーである。2つ又は複数のモノマーを含有するポリマーは、コポリマーとも呼ばれ、同様のプロセスによって調製され得る。これらのコ-モノマーは、アニオン性、カチオン性、両性イオン性、非イオン性、又はこれらの組み合わせであり得る。
【0006】
逆相エマルション重合は、通常、水、モノマー、及び界面活性剤を組み込んだ水相を、連続した油相中に乳化させることで始まるラジカル重合のタイプである。逆相エマルション重合の最も一般的なタイプは油中水型エマルションであり、連続した油層中で、水及びモノマーの液滴が界面活性剤により乳化される。特定のポリビニルアルコール又はヒドロキシエチルセルロース等の水溶性ポリマーも、乳化剤/安定剤として作用するために用いられ得る。逆相エマルション重合は、いくつかの商業的に重要なポリマーの製造に使用され、分散体それ自体が最終製品である。
【0007】
様々な開始剤系を用いて、水溶性ポリマー及び水膨潤性ポリマーを生成することが知られている。ラジカル重合等の連鎖成長重合では、熱又は光により開始を制御するために開始剤が頻繁に使用される。例えば、レドックス開始剤カップルを用いて水溶性モノマーン重合を行うことが一般的であり、還元剤及び酸化剤であるレドックスカップルをモノマーと混合することによりラジカルを発生させる。
【0008】
反応プロセスにおいて、開始剤を、単独で又は他の開始剤系と組み合わせて使用することが従来行われており、熱開始剤等の開始剤は、高温でラジカルを放出する任意の好適な開始剤化合物を含む。他のコンセプトに基づく他の開始剤系は、レドックスペア系又は特定の波長での光誘発性の開始剤の分解が含まれる。
【0009】
熱重合開始剤は、熱にさらされるとラジカル又はカチオンを発生する化合物である。例えば、2,2′-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)等のアゾ化合物及び過酸化ベンゾイル(BPO)等の有機過酸化物が良く知られた熱ラジカル開始剤であり、ベンゼンスルホン酸エステル及びアルキルスルホニウム塩が熱カチオン開始剤として開発されている。
【0010】
熱プロセスでは、残留モノマーを、高温で又は長い反応時間で処理しなければならない。熱プロセスにおいて、特定の温度で開始剤の分解が引き起こされる。したがって、エマルションは、反応を開始するために加熱されなければならない。その後、エマルションはさらに高い温度で処理され、より多くの開始剤の分解を引き起こし、残留モノマーを低減させる。別の方法では、重合の最後にレドックス又は他のタイプの開始剤を添加し、残留モノマーのちょうを低減させる。
【0011】
熱プロセスと共に、重合がほとんど完了した後、標準的な熱プロセスでは、残留モノマーを減らすためにより高い温度での追加時間を必要とする。このより高い温度から、エマルションは蒸留プロセスを通して冷却されなければならない。これらの工程は、かなり多大な時間を要する。
【0012】
重合プロセスを加速する及び/又は残留未反応モノマーを減少させるための試みがなされてきたが、成功は限定的である。これらの試みのいくつかは、2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、及び過酸化ジクミル等の様々な熱開始剤、並びにベンジル(4-ヒドロキシフェニル)メチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモナート、ジシアンジアミド、シクロヘキシル、p-トルエンスルホネート、ジフェニル(メチル)スルホニウムテトラフルオロボラート、及び(4-ヒドロキシフェニル)メチル(2-メチルベンジル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモナート等の熱カチオン重合開始剤の使用によるものである。
【0013】
光重合開始剤は、生成された活性種(ラジカル、カチオン、アニオン)によって3つの群におおまかに分類される。ベンゾイン誘導体等の従来の光重合開始剤は、光を照射するとフリーラジカルを発生させる。光を照射するとカチオン(酸)を生成する光酸発生剤は、1990年代後半に実用的用途が見いだされた。光を照射するとアニオン(塩基)を生成する光塩基発生材は、実用化のために研究されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Contemporary Polymer Chemistry(Allcock, Lampe, Englewood Cliffs, N.J., PRENTICE-HALL, 3~5章, 1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、最終生成物中の残留モノマーを低減しながら、より速いバッチ生産を行う等のプロセス改善が常に目的である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示は、逆相エマルション重合反応を通して重合生成物を生成する方法に向けられている。方法は、紫外(UV)光感受性開始剤を、モノマーを含む逆相エマルションモノマー配合物に導入する工程と、モノマー配合物を紫外光源で照射する工程と、を含み、重合生成物(porimerized)は、照射された紫外光感受性開始剤の存在下で、モノマーの重合から形成される。生成されたポリマーが、例えば、分子量、性能、低い残留モノマー量を含む個々の製品仕様を満たし、重合生成物を形成した場合にプロセスは完了する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】標準温度とUV-LEDで誘発されたカチオン性逆相エマルションポリマーの実験室バッチ生産の温度プロファイル比較
図2】別の標準温度とUV-LEDで誘発されたカチオン性逆相エマルションポリマーの実験室バッチ生産の温度プロファイル比較
図3】別の標準温度とUV-LEDで誘発されたアニオン性逆相エマルションポリマーの実験室バッチ生産の温度プロファイル比較
図4】別の標準温度とUV-LEDで誘発されたアニオン性逆相エマルションポリマーの実験室バッチ生産の温度プロファイル比較
図5】別の標準温度とUV-LEDで誘発されたアニオン性逆相エマルションポリマーの実験室バッチ生産の温度プロファイル比較
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の詳細な説明は、本質的に単に例示的なものであり、本開示又は本開示の適用及び用途を限定することを意図しない。さらに、本開示の前述の背景又は以下の詳細な説明に示される理論に拘束される意図はない。
【0019】
本開示は、紫外(UV)光感受性開始剤を、逆相エマルションモノマー配合物に導入し、モノマー配合物を紫外光源で照射して、重合生成物を形成することにより、逆相エマルション重合反応を改善する方法に関する。
【0020】
反応全体の間一定の光照射であるため、残留物を減らすためにエマルションを高温にする必要が無く、したがってこの高温から室温まで蒸留する必要が無い。
【0021】
驚くべきことに、逆相重合反応の間、UVのみの開始剤を用いると、反応の優れた制御が得られることが見いだされた。通常、熱開始剤の分解は、特定の温度及び特定の速度(rate)で起こる。高温では、分解速度は増加する。より分解された開始剤は、より多くの開始ポリマー鎖を意味し、より多くの発熱を伴うポリマー連鎖成長をもたらす。これは、低温と比較して、より多くの熱の発生及びより多くの開始剤の分解という結果をもたらす。
【0022】
また、標準的な熱で誘発される逆相エマルション重合プロセスと比較して、紫外線(UV)アシストフリーラジカル重合技術を用いることにより、特性、残留モノマー又は性能への悪影響を与えることなく生成時間を減らす方法で、非イオン性、アニオン性、及びカチオン性アクリルアミドベースのホモポリマー及びコポリマーの生成が改善し得ることも見出された。
【0023】
現在の方法では、発生した熱は蒸留によって制御されている。逆相エマルション重合反応においてUVのみの開始剤を使用する場合、ポリマー鎖の成長を開始することによる上昇された温度は、より多くの開始剤の分解をもたらさないことが見いだされた。したがって、反応の熱及び重合反応それ自体も、UV光源の強度により制御され得る。
【0024】
反応の最後における光の強度が高いほどより多くの開始剤の分解をもたらし、これはより少ない残留モノマーを意味し、逆もまた同様である、すなわち少量の開始剤での最初におけるより高い強度は、依然として重合の開始を意味することも見出された。例えば、UV光を消すと、追加の開始剤の分解をもたらさない。したがって、重合反応は、UV光の強度及び/又は蒸留で制御され得る。これは、重合反応をよりいっそう制御可能にし、より短い反応時間をもたらす。
【0025】
熱開始剤の使用又は必要性が無いため、逆相エマルション重合反応はより低い温度で開始され得、反応の間、温度は厳密に規定された温度で維持される必要がなくなる。これにより、さらに時間を節約することができる。
【0026】
モノマー配合物は、逆相エマルション重合反応で使用される任意のそのような配合物であり得る。水性溶液への低い溶解性を有する非イオン性モノマーは、会合性ポリマーの調製で使用され得る。例には、アルキルアクリルアミド(alkylacryamide);ペンダント芳香族を及びアルキル基を有するエチレン性不飽和モノマー;エーテル、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド及びブチレンオキシド;及びビニルアルコキシレート;アリル(ally);アルコキシレート;及びアリルフェニルポリオールエーテルサルフェートが含まれる。例示的な原料には、これらに限定されないが、メチルメタクリレート、スチレン、t-オクチルアクリルアミド、及びEmulsogen(商標)APG 2019としてClariant社から市販されているアリルフェニルポリオールエーテルサルフェートが含まれる。
【0027】
アニオン性モノマーには、例えば、アクリル酸;メタクリル酸;マレイン酸;イタコン酸;アクリルアミドグリコール酸;2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸;3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸;スチレンスルホン酸;ビニルスルホン酸;ビニルホスホン酸;及び2-アクリルアミド-2-メチルプロパンホスホン酸の遊離酸並びに塩が含まれる。
【0028】
カチオン性モノマーには、例えば、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド等のジアリルジアルキルアンモニウムハライドの遊離塩基又は塩等のカチオン性エチレン性不飽和モノマー;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、アミノエチル(メタ)アクリレート、並びにその塩及び四級化物(quaternaries)等のジアルキルアミノアルキル化合物の(メタ)アクリレート;N,N-ジメチルアミノエチルアクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、並びにその塩及び四級化物が含まれる。
【0029】
非イオン性モノマーには、例えば、アクリルアミド;メタクリルアミド;N-メチルアクリルアミド等のN-アルキルアクリルアミド;N,N-ジメチルアクリルアミド等のN,N-ジアルキルアクリルアミド;メチルアクリレート;メチルメタクリレート;アクリロニトリル;N-ビニルメチルアセトアミド;N-ビニルホルムアミド;N-ビニルメチルホルムアミド;ビニルアセテート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のN-ビニルピロリドン;ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0030】
コモノマーは、任意の割合で存在してよい。結果として生じる会合性ポリマーは、非イオン性、カチオン性、アニオン性、又は両性(カチオン電荷及びアニオン電荷の両方を含有する)であり得る。
【0031】
現在の方法のいくつかの態様において、UV光感受性開始剤は、UV光にのみ感受性を有する。しかしながら、レドックス開始剤、熱開始剤、光開始剤等の追加の開始剤、又はこれらの組み合わせを、任意選択で、逆相エマルションモノマー配合物に添加することができる。
【0032】
現在の方法のいくつかの態様において、UV光感受性開始剤は、官能基R-N=N-Rを有するアゾ化合物(式中、R及びRは、アリール基又はアルキル基であり得る)、アゾビスイソブチロニトリル、2,2′-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド(VA-044)、2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-65)、過酸化ベンゾイル、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィネート(Irgacure(登録商標)TPO-L)又は任意の他の光感受性開始剤及びこれらの組み合わせであり得る。
【0033】
現在の方法の他の態様において、UV光感受性開始剤は、約280ナノメートル(nm)から約420nmの吸収バンド幅を有し、約320nmから約400nmであり得、365nmであってもよい。好ましい方法において、紫外光感受性開始剤は、365nmでの吸収を示す。しかし、重合プロセス、開始剤、及び光源が変化する場合、本方法はこれらの範囲外に拡張され得ることが想定される。
【0034】
365nmでのUV-LED光放出に感受性を有する紫外線のみの開始剤は、通常、水に不溶であり、比較的容易に見つけることができる。他の吸収極大を有する開始剤は見つけるのがより困難であり、ほとんどの場合、より高価である。
【0035】
現在の方法のいくつかの態様において、UV光源は、チューブ、ランス(lance)、又は任意の他の形状であり得る。光源は、蛍光ランプ、水銀ランプ若しくは任意の他のタイプのUV光放出源、例えばLED光源、又はこれらの組み合わせであり得る。
【0036】
さらに、UV光源としてのLEDの使用は、反応を開始するためにより多くのエネルギーを提供し得、多くの他の光源よりも長い寿命を有し、実施のためのスペースをより必要とせず、必要な場合に応じて、他の重合プロセスで動作するように他の波長に調整することができる。
【0037】
現在の方法のいくつかの態様において、UV光はエマルションに適用され得る。例えば、ランスの末端に高輝度のLEDが追加されたガラスランスをエマルションの中に直接置くことができたり、若しくはUV源をガラス反応器の外側に置くことができたり、又はこれらを組み合わせたりすることができる。
【0038】
重合反応を開始し、完了するために必要である、UV光源の強度に対するいくつかの決定因子がある。例えば、エマルションの不透明度は変化し、いくつかの配合物及び反応は他のより高い照射強度を必要とするものよりも不透明であるため、反応を通して、光の強度は変化する。
【0039】
本方法のいくつかの態様において、UV光源の強度は0.15mW/cm以上であり得、及び20mW/cm以上であり得る。さらに、光源の強度は、反応を通して任意の点で変化し得る。
【0040】
驚くべきことに、反応を促進するものはUV光源の強度であり、開始剤の量でないことを見出した。UV光源の強度は、開始剤の量よりも重要であると考えられる。例えば、重合反応は、より少ない量の開始剤を用いて開始され得る。それに対して、より低い強度の光源を使用する場合、より多い量の開始剤が必要となり、より長い反応時間をもたらす可能性がある。
【0041】
現在の方法のいくつかの態様において、逆相エマルション反応の初期温度は、約0℃から約100℃であり得、約20℃から約80℃であり得、約30℃から約50℃であってもよい。用いられるプロセス及び開始剤のタイプに応じて、蒸留物の認識可能な滴下(drop)があるまで及び/又は温度が発生するまで、重合を実行する。
【0042】
現在の方法は、より速い製造時間、より少ない蒸留、及びより優れた反応の制御を提供する。さらに、開始剤はUVにだけ感受性を有するので、開始剤の熱分解が無く、より低い温度で反応させることができるため、より速い反応だけでなく、より安全な反応も提供する。
【0043】
以下の実施例は、重合プロセスのいくつかの態様を説明するために提供される。
【実施例
【0044】
標準的な熱で誘発された逆相エマルション重合反応と、現在の紫外線で誘発された逆相エマルション重合反応とを比較すると、UVで誘発された手順はプロセスの改善により時間の節約を保証する。これらの改善は、より多くの開始剤の分解を誘発し、したがって残留モノマーの量を減少させるために高温での追加の反応時間を必要としないことによるものである。標準的な熱重合プロセスは、蒸留を用いて温度を維持し、したがって開始剤の分解と重合を一定の速度で維持する。通常は、反応がほとんど完了した後、攪拌を停止し、周囲圧力を設定することによりポリマーエマルションをより高い温度に到達させていた。開始剤の分解と重合のエネルギーによりエマルションの温度が増加し、より多くの開始剤の分解をもたらし、残留モノマーが減少する。特定の温度(Tmax)において、更なる温度の上昇は観察できず、蒸留を用いてバッチ生産を終了するための温度に到達させた。
【0045】
熱及び/又はUVのみの感受性を有する開始剤を使用しながら、重合の間の一定のUV照射及びバッチの完了のために約40℃に温度を下げるための蒸留は、同様の製品仕様及び性能を維持しながら、同等又はより少ない残留モノマーを保証する。
【0046】
表1~5及び代表図1~5は、UVのみに感受性を有する開始剤を用いた、現在のUVプロセスと比較した熱的に生成されたポリマーの時間の節約を示す。図1図5で見られるように、特定のポリマー配合物及び生成物の特定の“Tmax”の温度に応じて、20~90分の時間の節約があった。
【0047】
反応の最後及び蒸留においてより高いUV光源の強度を有すると、たとえ開始剤の量が少なくても、標準的な熱プロセスと比較して、残留モノマーの量はより少ない範囲である。
【0048】
以下のUV光で誘発される重合の実施例は、4-ダイオード源を使用し、唯一の開始剤としてDMPAを、標準的に使用される熱開始剤と比較してモル基準で同等若しくはより少ない量で用いた。
【0049】
<実施例1:熱開始剤を用いたカチオン性アクリル酸誘導体高分子電解質>
【0050】
267.7グラムの43%水性アクリルアミド溶液、0.2グラムのTrilon(登録商標)C(10%溶液、ジエチレントリアミン五酢酸)、110.5グラムの軟水、430.8グラムの80%(2-アクリロイルオキシ-エチル)-トリメチルアンモニウムクロリド(ADAME-Quat)溶液及び0.14グラムのギ酸の20%溶液を含む水相を用いて、逆相エマルションを調製した。持続的な攪拌の下で、2.3グラムの硫酸の50%溶液を用いて、3.02のpHを調整した。
【0051】
254.9グラムのShellsol(商標)D80(脂肪族の鉱油)中に、18グラムのLumisorb(商標)SMO(ソルビタンモノオレート界面活性剤)、13.1グラムのGenapol(商標)LA070S(エトキシ化脂肪アルコール界面活性剤)及び8グラムのRohamere(商標)3059 L(ポリマー界面活性剤)を溶解させることにより、油相を調製し、持続的な攪拌の下で、0.025グラムの2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-65)を添加した。
【0052】
ホモジナイザーを用いて油相中に水相を溶解させることによりエマルションを調整し、安定した油中水型エマルションを得た。
【0053】
温度計、アンカースターラー、セプタム及び付属の真空ポンプを有する蒸留ブリッジを含む重合リアクターに移した後、30分間真空を介して酸素を取り除いた。
【0054】
エマルションを56℃まで加熱し、持続的な攪拌の下で、53~56℃で維持した。
【0055】
95mLの蒸留物を回収した後、攪拌を停止し、窒素条件下で真空を周囲圧力に設定した。
【0056】
温度がプラトーに達した後、持続的な攪拌の下で、蒸留によって40℃の温度までエマルションを冷却し、その時に5グラムのペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液(水中で25質量%)及び9.4グラムのピロ亜硫酸ナトリウム溶液(水中で25質量%)を、持続的な攪拌の下で添加し、続いて7.5グラムのGenapol(商標)LA070Sを添加した。
【0057】
表1及び図1は、標準的な温度で誘発された及びUV-LEDで誘発されたアニオン性逆相エマルションポリマーPraestol(商標)K275 FLXの実験室バッチ生産の温度プロファイル比較を示す。図1は、それぞれ個々の生産工程を示しており、UV-LEDで誘発された重合の時間の節約を示している。
【0058】
<実施例2:光感受性のみを有する開始剤を用いたカチオン性アクリル酸誘導体高分子電解質>
【0059】
熱感受性開始剤及び次の以下に記載する例外を除いて、実施例1で記載したように実施例2の生成物を調製した。
【0060】
365nmLEDs及び3.5Wを有するUV LEDモジュールを、ガラスリアクターのそばに、エマルションと同じ高さで置いた。他のバリエーションとしては、ガラスリアクター内のエマルション表面の下にUV-ランスを置いたり、又は、その上部シェル(upper shell)の中の/上の/後方のリアクター内にUV源を置くことができる。
【0061】
DMPA(2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、Shellsol(商標)D80中の1質量%)の2.6グラム溶液を、窒素で30分間除去し、持続的な攪拌の下で脱酸素化した油中水型エマルションに加えた。
【0062】
エマルションの温度が53℃~57℃まで上昇するようにUV強度を調整した。ガラスリアクターの外壁での初期強度を2.85mW/cmで開始し、反応の間、0.17mW/cmに変化させた。異なるUVの形状(geometry)、出力、配置、及び開始剤の量により、必要な強度はこの特定の生成物のものとは異なることがあり得る。温度を53℃~57℃に維持し、30mLの蒸留物を回収した後、追加の2.6グラムのDMPA(Shellsol(商標)D80中の1質量%)溶液をエマルションに添加し、UV-LED強度を1mW/cmから2.85mW/cmに増加させた。
【0063】
別の60mLの蒸留物を回収した後、UV-LED強度を2分間隔で2.85mW/cm、9.7mW/cm、及び16.1mW/cmに上げ、その時UV-LED強度を16.1mW/cmから23mW/cmで約2~5分間維持し、持続的なUV照射の下でエマルションを40℃まで冷却した。他の配合物、開始剤の量、UV強度等を用いた場合、蒸留物の量が変化する可能性があることに留意すべきである。
【0064】
温度が40℃に達した時点で、UV照射を停止し、5グラムのペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液(水中で25質量%)及び9.4グラムのピロ亜硫酸ナトリウム溶液(水中で25質量%)を、持続的な攪拌の下でエマルションに添加し、続いて7.5グラムのGenapol(商標)LA070S(エトキシ化脂肪アルコール界面活性剤)を添加した。
【0065】
表1及び図1は、標準的な温度で誘発された及びUV-LEDで誘発されたアニオン性逆相エマルションポリマーPraestol(商標)K275 FLX(カチオン性逆相エマルションポリマー)の実験室バッチ生産の温度プロファイル比較を示しており、UV-LEDで誘発された重合の時間の節約を示している。
【0066】
【表1】
【0067】
図2は、標準的な温度で誘発された及びUV-LEDで誘発されたアニオン性逆相エマルションポリマーPraestol(商標)K233(カチオン性逆相エマルションポリマー)の別の実験室バッチ生産の温度プロファイル比較を示しており、UV-LEDで誘発された重合の時間の節約を示している。
【0068】
<実施例3:光感受性のみを有する開始剤を用いたアニオン性アクリル酸誘導体高分子電解質>
【0069】
実施例1で使用した熱感受性開始剤、水相組成物及び油相組成物、並びに次の以下に記載する例外を除いて、実施例1で記載したように実施例3を調製した。
【0070】
水相は、459.8グラムの43質量%水性アクリルアミド溶液、0.61グラムのTrilon(登録商標)C(10質量%溶液、ジエチレントリアミン五酢酸)、100グラムの軟水、及び85.9グラムのアクリル酸を含んでいた。持続的な攪拌の下で、147.3グラムの水酸化ナトリウムの32質量%溶液を加えることで、pHを7.9に調整した。
【0071】
250グラムのテトラ-n-ブタン中に、25グラムのZephrym(商標)7053(ポリマー界面活性剤)及び12グラムのIntrasol(商標)FA 1218/5(エトキシ化脂肪アルコール界面活性剤)を溶解させることにより、油相を調製し、持続的な攪拌の下で、0.14グラムのDMPA(2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)を添加した。
【0072】
油中水型エマルションの温度が53℃から57℃に上昇するようにUV強度を調製し、75mLの蒸留物を回収するまでエマルションをその温度で維持し、その時点でUV-LED強度を2分間隔で2.85mW/cm、9.7mW/cm、及び16.1mW/cmに上げ、その時強度を16.1mW/cmから23mW/cmで2~5分間維持した。エマルションを、持続的なUV照射の下で40℃まで冷却した。
【0073】
40℃に到達した後、UV照射を停止し、3.8グラムのペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液(水中で25質量%)及び17グラムのピロ亜硫酸ナトリウム溶液(水中で25質量%)を、持続的な攪拌の下でエマルションに添加し、続いて30グラムのImbentin(商標)C125/060(エトキシ化脂肪アルコール界面活性剤)を添加した。
【0074】
表2及び図3は、標準的な温度で誘発された及びUV-LEDで誘発されたアニオン性逆相エマルションポリマーPraestol(商標)3040 L(アニオン性逆相エマルションポリマー)の実験室バッチ生産の温度プロファイル比較を示しており、UV-LEDで誘発された重合の時間の節約を示している。
【0075】
【表2】
【0076】
表3及び図4は、標準的な温度で誘発された及びUV-LEDで誘発されたアニオン性逆相エマルションポリマーPraestol(商標)3030 GB(アニオン性逆相エマルションポリマー)の実験室バッチ生産の温度プロファイル比較を示しており、UV-LEDで誘発された重合の時間の節約を示している。
【0077】
【表3】
【0078】
<実施例4:熱感受性開始剤を用いたアニオン性アクリル酸誘導体高分子電解質>
【0079】
以下に記載する例外を除いて、実施例1で記載したように実施例4のエマルションを調製した。
【0080】
300グラムのExxsol(商標)D100 ULA(脂肪族の鉱油)、18グラムのSpan(商標)80及び20グラムのHypermer(登録商標)B246(ポリマー界面活性剤)を混合することにより油相を調製し、油相の温度を35℃から40℃に調整した。
【0081】
321グラムの43質量%水性アクリルアミド溶液、145グラムのアクリル酸、190グラムの軟水及び1.5グラムのTrilon(登録商標)C(10質量%溶液、ジエチレントリアミン五酢酸)を含む水相を、別で調製した。90.3グラムの25質量%水性水酸化アンモニウム溶液を用いてpHを5.3に調整した。中和の後の温度は39℃であった。
【0082】
水相及び油相をホモジナイズし、30~60分間窒素を散布しながら、4-ブレードガラススターラーを用いて混合した。窒素の散布の間、エマルションの温度を40℃から45℃に調整した。
【0083】
6.4グラムの過酸化ラウロイル(Exxsol(商標)D100 ULA(脂肪族の鉱油)中の1.5質量%、30分間窒素で散布された)を添加することにより重合を開始させ、温度を約60℃に上昇させ、40分間その温度で維持し、その時点で攪拌を停止し、窒素下で真空を周囲圧力に設定した。
【0084】
温度がプラトーに達した後、持続的な攪拌の下で、40℃の温度までエマルションを冷却し、その時に水酸化アンモニウムの25質量%水性溶液を20グラム、12グラムのピロ亜硫酸ナトリウム溶液(水中で25質量%)、15グラムのCirrasol(商標)G 1086(非イオン性ポリマー界面活性剤)、5グラムのTetronic(商標)1301(エトキシ化脂肪アルコール界面活性剤)、及び5グラムのSynperonic(商標)AB 6(エトキシ化脂肪アルコール界面活性剤)を、持続的な攪拌の下で添加した。
【0085】
表4及び図5は、標準的な温度で誘発された及びUV-LEDで誘発されたカチオン性逆相エマルションポリマーPerform(商標)SP7200(アニオン性逆相エマルションポリマー)の実験室バッチ生産の温度プロファイル比較を示しており、UV-LEDで誘発された重合の時間の節約を示しており、一方で表5は生成された生成物の特性を示している。
【0086】
<実施例5:光感受性開始剤を用いたアニオン性アクリル酸誘導体高分子電解質>
【0087】
熱感受性開始剤を除いて、実施例4で記載したように実施例5を調製した。また、実施例3で記載されたようなUV-LEDアシスト光重合を使用した。現在の実施例において、脱酸素後、3.5グラムのDMPA溶液(Exxsol(商標)D100 ULA(脂肪族の鉱油)中の0.1質量%、30分間窒素で散布された)をエマルションに添加し、続いて25分後に第二の量の3.5グラムのDMPA溶液、続いて10分後に第三の量の3.5グラムのDMPA溶液を添加した。UV-LED強度を常に調整し、反応温度を55℃から60℃に維持した。
【0088】
前述のUV重合は、45℃、50℃、55℃、65℃等の蒸留温度で追行され得ることに留意すべきである。温度プロファイルは、UV強度及び系から熱/エネルギーを奪う真空/蒸留に大きく依存する。
【0089】
表4及び図5は、標準的な、熱的に誘発された逆相エマルション反応を用いた逆相エマルション重合により製造されたポリマーPerform(商標)SP7200と、現在の光開始技術を用いて製造された生成物の特性を示す。光開始反応を、標準的なOsram UVランプ(Philips Cleo Performance 40W)及び365nm、3.5Wの4ダイオードを有するUV-LEDデバイスを用いて開始させ、UV-LEDで誘発された重合の時間の節約を示し、一方で表5は生成された生成物の特性を示す。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
少なくとも1つの例示的な実施形態が前述の詳細な説明で提示されているが、膨大な数の変形が存在することを理解すべきである。例示的な実施形態(単数)又は例示的な実施形態(複数)は単なる例であって、いかなる方法においても、本開示の範囲、適用可能性、又は構成(configuration)を制限することを意図するものではないことも理解すべきである。むしろ、前述の詳細な説明は、例示的な実施形態を実施するための便利なロードマップを当業者に提供するものであり、添付された特許請求の範囲及びそれらの法的に同意義のものに記載されている本開示の範囲から逸脱することなく、例示的な実施形態に記載されている要素の機能及び配置に様々な変更を加えることができることが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5