(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】車輌用前照灯の製造方法
(51)【国際特許分類】
F21S 41/29 20180101AFI20240319BHJP
F21V 17/00 20060101ALI20240319BHJP
F21W 102/10 20180101ALN20240319BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240319BHJP
【FI】
F21S41/29
F21V17/00 200
F21W102:10
F21Y115:10
(21)【出願番号】P 2021528142
(86)(22)【出願日】2020-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2020022865
(87)【国際公開番号】W WO2020255826
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2019115320
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003410
【氏名又は名称】弁理士法人テクノピア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116942
【氏名又は名称】岩田 雅信
(74)【代理人】
【識別番号】100167704
【氏名又は名称】中川 裕人
(72)【発明者】
【氏名】西崎 昌彦
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084545(WO,A1)
【文献】特開2010-161048(JP,A)
【文献】特開2005-339988(JP,A)
【文献】特開2012-178301(JP,A)
【文献】特開2013-196844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 2/00 ー 45/70
F21V 17/00 ー 17/20
F21K 9/00 ー 9/90
B23K 26/00 ー 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリルによって形成された投影レンズとポリカーボネイトによって形成されたレンズホルダーとがレーザー溶着によって接合される車輌用前照灯の製造方法であって、
前記投影レンズが溶着面を有し透明に形成され、
前記レンズホルダーが前記溶着面と接合される接合面を有し透明に形成され、
前記レンズホルダーを透過される1850nm~1960nmの波長のレーザー光が前記溶着面に照射されることにより前記投影レンズと前記レンズホルダーが接合される
車輌用前照灯の製造方法。
【請求項2】
レーザー光の光路上に集光レンズが配置された
請求項1に記載の車輌用前照灯の製造方法。
【請求項3】
レーザー光の光路上にポリカーボネイトによって形成されたフィルターが配置された
請求項1又は請求項2に記載の車輌用前照灯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投影レンズとレンズホルダーがレーザー溶着によって接合される車輌用前照灯についての技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
車輌用前照灯にはランプハウジングとカバーによって構成された灯具外筐の内部に灯具ユニットが配置され、灯具ユニットが投影レンズとレンズホルダーを有する所謂プロジェクタータイプがある。
【0003】
このような車輌用前照灯には、投影レンズとレンズホルダーがレーザー溶着によって接合されるものがある(例えば、特許文献1参照)。レーザー溶着は小さい接合範囲で高い接合強度が得られる点や接着剤やネジ等の消耗材が必要なく製造コストを抑制することが可能な点等の利点を有しており、投影レンズとレンズホルダーの接合方法として広く普及している。
【0004】
投影レンズは光源から出射される光を透過させるために透明にされ、配光性能を確保するために厚肉形状に形成し易いアクリルによって形成されることが多く、入射される光を制御する半球状の光制御部と光制御部から外方に張り出されたフランジ部とを有している。一方、投影レンズを保持するレンズホルダーは高い耐熱性を確保するためにポリカーボネイトによって形成されることが多く、レンズホルダーにはレーザー溶着においてレーザー光が照射されたときに熱を吸収する黒色顔料が含有されている。
【0005】
レーザー溶着により投影レンズとレンズホルダーが接合される場合には、レーザー光が投影レンズのフランジ部を透過されてレンズホルダーの溶着面に照射され、黒色顔料がレーザー光によって反応しレンズホルダーにおいてレーザー光が照射された部分が発熱して溶融する。溶着面にレーザー光が照射されたときにはレンズホルダーにおいて発生した熱が投影レンズのフランジ部に伝達されフランジ部の一部が溶融され、レンズホルダーにおいて溶融された部分と投影レンズにおいて溶融された部分とが溶着されることにより接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、レーザー溶着によって投影レンズとレンズホルダーを接合することにより両者の高い接合強度を確保することが可能であるが、レンズホルダーは黒色顔料を含有するため黒色に形成されており、車輌用前照灯に入射される可能性のある太陽光にも反応する可能性がある。従って、車輌用前照灯の内部に太陽光が入射されると、入射された光量によってはレンズホルダーが意図せず溶融するおそれがある。
【0008】
また、車輌用前照灯においては、被視認性の向上を図るために、レンズホルダーも投影レンズと同様に透明に形成されることが望まれている。
【0009】
そこで、本発明車輌用前照灯は、投影レンズとレンズホルダーの高い接合強度を確保した上でレンズホルダーの溶融を防止すると共に被視認性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1に、本発明に係る車輌用前照灯の製造方法は、アクリルによって形成された投影レンズとポリカーボネイトによって形成されたレンズホルダーとがレーザー溶着によって接合される車輌用前照灯の製造方法であって、前記投影レンズが接合面を有し透明に形成され、前記レンズホルダーが前記接合面と接合される溶着面を有し透明に形成され、前記投影レンズを透過される1550nm~1640nmの波長のレーザー光が前記溶着面に照射されることにより前記投影レンズと前記レンズホルダーが接合されるものである。
【0011】
これにより、透明に形成された投影レンズを透過される1550nm~1640nmの波長のレーザー光が透明に形成されたレンズホルダーの溶着面に照射されることにより投影レンズとレンズホルダーが接合される。
【0012】
第2に、上記した本発明に係る車輌用前照灯の製造方法においては、レーザー光の光路上に集光レンズが配置されることが望ましい。
【0013】
これにより、集光レンズによってレーザー光が集光された状態で投影レンズを透過されるため、投影レンズの入射面において光のエネルギー密度が低くなって発熱が生じ難くなると共にレンズホルダーの溶着面において光のエネルギー密度が高くなって発熱し易くなる。
【0014】
第3に、上記した本発明に係る車輌用前照灯の製造方法においては、レーザー光の光路上にアクリルによって形成されたフィルターが配置されることが望ましい。
【0015】
これにより、投影レンズにおいて吸収されるレーザー光の波長成分が投影レンズの透過前にフィルターによって吸収される。
【0016】
第4に、別の本発明に係る車輌用前照灯の製造方法は、アクリルによって形成された投影レンズとポリカーボネイトによって形成されたレンズホルダーとがレーザー溶着によって接合される車輌用前照灯の製造方法であって、前記投影レンズが溶着面を有し透明に形成され、前記レンズホルダーが前記溶着面と接合される接合面を有し透明に形成され、前記レンズホルダーを透過される1850nm~1960nmの波長のレーザー光が前記溶着面に照射されることにより前記投影レンズと前記レンズホルダーが接合されるものである。
【0017】
これにより、透明に形成されたレンズホルダーを透過される1850nm~1960nmの波長のレーザー光が透明に形成された投影レンズの溶着面に照射されることにより投影レンズとレンズホルダーが接合される。
【0018】
第5に、上記した別の本発明に係る車輌用前照灯の製造方法においては、レーザー光の光路上に集光レンズが配置されることが望ましい。
【0019】
これにより、集光レンズによってレーザー光が集光された状態でレンズホルダーを透過されるため、レンズホルダーの入射面において光のエネルギー密度が低くなって発熱が生じ難くなると共に投影レンズの溶着面において光のエネルギー密度が高くなって発熱し易くなる。
【0020】
第6に、上記した別の本発明に係る車輌用前照灯の製造方法においては、レーザー光の光路上にポリカーボネイトによって形成されたフィルターが配置されることが望ましい。
【0021】
これにより、レンズホルダーにおいて吸収されるレーザー光の波長成分がレンズホルダーの透過前にフィルターによって吸収される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、透明に形成された投影レンズ又はレンズホルダーを透過される所定の波長のレーザー光が透明に形成されたレンズホルダー又は投影レンズの溶着面に照射されることにより投影レンズとレンズホルダーが接合されるため、投影レンズとレンズホルダーの高い接合強度を確保した上でレンズホルダーの溶融を防止することができると共に被視認性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図2乃至
図9と共に本発明車輌用前照灯の実施の形態を示すものであり、本図は、車輌用前照灯を示す断面図である。
【
図2】投影レンズとレンズホルダーを示す図である。
【
図3】アクリルの分光透過率を示すグラフ図である。
【
図4】ポリカーボネイトの分光透過率を示すグラフ図である。
【
図5】集光レンズとフィルターがレーザー光の光路上に配置された例を示す図である。
【
図6】
図7乃至
図9と共に投影レンズとレンズホルダーの接合部分の別の構成を示すものであり、本図は、投影レンズとレンズホルダーを示す図である。
【
図7】集光レンズとフィルターがレーザー光の光路上に配置された例を示す図である。
【
図8】保持部がフィルターの外周面を外周側から覆う構成にされた例を示す図である。
【
図9】保持部がフィルターの前面を前側から覆う構成にされた例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明車輌用前照灯を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。
【0025】
<車輌用前照灯の構成>
先ず、車輌用前照灯1の構成について説明する(
図1参照)。
【0026】
車輌用前照灯1は、それぞれ車体の前端部における左右両端部に取り付けられて配置されている。
【0027】
車輌用前照灯1は前端に開口を有するランプハウジング2とランプハウジング2の開口を閉塞するカバー3とを備えている。ランプハウジング2とカバー3によって灯具外筐4が構成され、灯具外筐4の内部の空間が灯室4aとして形成されている。
【0028】
灯室4aには灯具ユニット5が配置されている。灯具ユニット5はブラケット6と配置ベース7と基板8と光源9とリフレクター10とレンズホルダー11と投影レンズ12を有している。
【0029】
ブラケット6は前後方向を向く板状の環状に形成され、透過孔6aを有している。
【0030】
配置ベース7は放熱性の高い金属材料によって形成され、ブラケット6の後面における下端側の部分に取り付けられている。配置ベース7はヒートシンクとして機能すると共に光源を配置する光源配置部として機能する。
【0031】
基板8は配置ベース7の上面に配置され、図示しない所定の回路パターンを有している。基板8は図示しない電源回路に接続されている。
【0032】
光源9は基板8の上面に搭載され、上方へ向けて光を出射する出射面を有している。光源9としては、例えば、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)が用いられている。光源9には電源回路から基板8を介して駆動電流が供給される。
【0033】
リフレクター10は下端部が配置ベース7の後端部における上面に取り付けられ、内面が反射面10aとして形成されている。リフレクター10は光源9から出射された光を反射面10aで前方へ向けて反射する機能を有している。
【0034】
レンズホルダー11はポリカーボネイトによって透明に形成され、後端部がブラケット6の前面に取り付けられている。レンズホルダー11は軸方向が前後方向にされた略円筒状の保持部13と保持部13の後端部から外方に張り出されたフランジ状の被取付部14とを有し、被取付部14がブラケット6に取り付けられている。レンズホルダー11の内部の空間は光通過空間11aとして形成されている。
【0035】
保持部13の前面は溶着面13aとして形成されている。
【0036】
投影レンズ12はアクリルによって透明に形成され、前方に凸の略半球状に形成された光制御部15と光制御部15の後端部から外方に張り出されたフランジ部16とから成る。フランジ部16は後面が接合面16aとして形成され前面が入射面16bとして形成されている。投影レンズ12とレンズホルダー11はレーザー溶着によって接合されている。
【0037】
上記のように構成された車輌用前照灯1において、光源9から光が出射されると、出射された光はリフレクター10の反射面10aで反射されブラケット6の透過孔6aとレンズホルダー11の光通過空間11aを通って投影レンズ12の光制御部15に入射され、光制御部15によって平行光にされてカバー3を透過され前方へ向けて照射される。
【0038】
<投影レンズとレンズホルダーの接合>
次に、投影レンズ12とレンズホルダー11の接合について説明する(
図2乃至
図4参照)。
【0039】
投影レンズ12とレンズホルダー11の接合は接合面16aと溶着面13aがレーザー溶着により溶着されることにより行われる(
図2参照)。レーザー溶着は所定の波長のレーザー光が投影レンズ12のフランジ部16に形成された入射面16bへ向けて出射され、レーザー光が入射面16bから入射されてフランジ部16を透過されホルダー11の溶着面13aに照射されることにより行われる。このときレーザー光は、例えば、溶着面13aに直交するP方向から溶着面13aに照射される。レーザー光が溶着面13aに照射されると、保持部13の溶着面13aを含む部分が発熱して溶融され、発生した熱がフランジ部16の接合面16aを含む部分に伝達されて溶融され、溶融された両部分が溶着される。
【0040】
レーザー光の波長は1550nm~1640nmの範囲にされている。この範囲の波長のレーザー光について、
図3及び
図4のグラフ図を参照して説明する。尚、以下においては、1550nm~1640nmの範囲の波長を波長Aとして説明する。
【0041】
図3は、投影レンズ12の材料であるアクリルの分光透過率を示すグラフ図であり、例として、厚さが3mmのアクリルについてのデータである。
図3において、横軸は波長であり、縦軸は透過率である。
図3のA1に示すように、波長Aのレーザー光は、アクリルに関して60%以上の高い透過率にされている。
【0042】
図4は、レンズホルダー11の材料であるポリカーボネイトの分光透過率を示すグラフ図であり、例として、厚さが3mmのポリカーボネイトについてのデータである。
図4において、横軸は波長であり、縦軸は透過率である。
図4のA2に示すように、波長Aのレーザー光は、1600nm付近において透過率が約10%以下の極小にされ、ポリカーボネイトに関して低い透過率にされている。
【0043】
このように波長Aのレーザー光は、アクリルに関して高い透過率を有し、ポリカーボネイトに関して低い透過率を有している。従って、波長Aのレーザー光が投影レンズ12の入射面16bへ向けて出射されたときに、投影レンズ12に対するレーザー光の高い透過率が確保されると共にレンズホルダー11に対するレーザー光の高い吸収率が確保され、溶着面13aに十分な光量のレーザー光が照射されて溶着面13aにおいて十分な発熱量が生じ、溶着面13aと接合面16aにおける良好な溶融状態が確保される。
【0044】
尚、上記した1550nm~1640nmの範囲の波長Aのレーザー光を用いてレーザー溶着を行う場合において、レーザー光の照射装置によっては波長Aのレーザー光が照射されるときに1640nmを超える波長の光が僅かながら含まれている可能性がある。このような1640nmを超える波長の光が照射されると、レーザー光が入射面16bからフランジ部16に入射されたときにレーザー光の一部がアクリルによって形成されたフランジ部16に吸収され、発熱により入射面16bが変形するおそれがある。
【0045】
そこで、レーザー光の光路上にレーザー光を集光する集光レンズ17が配置されてもよい(
図5参照)。レーザー光の光路上に集光レンズ17が配置されることにより、レーザー光が集光レンズ17によって集光され溶着面13aに焦点を結ぶ状態で照射される。
【0046】
このとき集光レンズ17によってレーザー光が集光された状態で投影レンズ12のフランジ部16を透過されるため、入射面16bにおいて光のエネルギー密度が低くなって発熱が生じ難くなると共に溶着面13aにおいて光のエネルギー密度が高くなって発熱し易くなる。従って、入射面16bの熱による変形を防止することができると共に投影レンズ12とレンズホルダー11の高い接合強度を確保することができる。
【0047】
また、レーザー光の光路上に投影レンズ12と同じ材料であるアクリルによって形成されたフィルター18が配置されてもよい(
図5参照)。レーザー光の光路上にフィルター18が配置されることにより、レーザー光がフィルター18を透過される。
【0048】
このときフランジ部16において吸収されるレーザー光の波長成分がフランジ部16の透過前にフィルター18によって吸収されるため、フランジ部16にはこの波長成分の光が入射されず、入射面16bの熱による変形を防止することができる。
【0049】
また、集光レンズ17とフィルター18を組み合わせて使用することにより、入射面16bの熱による変形の大きな防止効果を得ることができると共に投影レンズ12とレンズホルダー11の高い接合強度を確保することができる。
【0050】
尚、フィルター18は投影レンズ12と同じ材料であるアクリルによって形成されており、1640nmを超える波長の光による発熱によってフィルター18が変形する可能性があるため、フィルター18に変形が生じフィルター18の機能が低下した場合にはフィルター18を新たなフィルター18に交換することが望ましい。
【0051】
<まとめ>
以上に記載した通り、車輌用前照灯1にあっては、投影レンズ12を透過される1550nm~1640nmの波長Aのレーザー光が溶着面13aに照射されることによりアクリルによって形成された透明な投影レンズ12とポリカーボネイトによって形成された透明なレンズホルダー11とが接合される。
【0052】
従って、透明に形成された投影レンズ12を透過される波長Aのレーザー光が透明に形成されたレンズホルダー11の溶着面13aに照射されることにより投影レンズ12とレンズホルダー11が接合される。これにより、レンズホルダー11が透明であり見栄えが良く太陽光による溶融も生じ難いため、投影レンズ12とレンズホルダー11の高い接合強度を確保した上でレンズホルダー11の溶融を防止することができると共に被視認性の向上を図ることができる。
【0053】
<投影レンズとレンズホルダーの別の構成>
以下に、投影レンズとレンズホルダーの接合部分における別の構成について説明する(
図6参照)。
【0054】
別の構成に係るレンズホルダー11Aはポリカーボネイトによって透明に形成され、別の構成に係る投影レンズ12Aはアクリルによって透明に形成されている。レンズホルダー11Aは保持部13の外周面における上端部が入射面13bとして形成されている。レンズホルダー11Aには溶着面13aに変えて接合面13cが形成され、投影レンズ12Aには接合面16aに変えて溶着面16cが形成されている。接合面13cと溶着面16cは前後方向に対して傾斜され、対向して位置されている。
【0055】
投影レンズ12Aとレンズホルダー11Aの接合は溶着面16cと接合面13cがレーザー溶着により溶着されることにより行われる。レーザー溶着は所定の波長のレーザー光がレンズホルダー11Aの保持部13に形成された入射面13bへ向けて出射され、レーザー光が保持部13を透過され投影レンズ12Aの溶着面16cに照射されることにより行われる。このときレーザー光は、例えば、溶着面16cに直交するP方向から溶着面16cに照射される。レーザー光が溶着面16cに照射されると、フランジ部16の溶着面16cを含む部分が発熱して溶融され、発生した熱が保持部13の接合面13cを含む部分に伝達されて溶融され、溶融された両部分が溶着される。
【0056】
レーザー光の波長は1850nm~1960nmの範囲にされている。この範囲の波長のレーザー光について、
図3及び
図4のグラフ図を参照して説明する。尚、以下においては、1850nm~1960nmの範囲の波長を波長Bとして説明する。
【0057】
図3のB1に示すように、波長Bのレーザー光は、1900nm付近において透過率が約10%の極小にされ、アクリルに関して低い透過率にされている。
図4のB2に示すように、波長Bのレーザー光は、1900nm付近において透過率が60%以上の極大にされ、ポリカーボネイトに関して高い透過率にされている。
【0058】
このように波長Bのレーザー光は、アクリルに関して低い透過率を有し、ポリカーボネイトに関して高い透過率を有している。従って、波長Bのレーザー光がレンズホルダー11Aの入射面13bへ向けて出射されたときに、レンズホルダー11Aに対するレーザー光の高い透過率が確保されると共に投影レンズ12Aに対するレーザー光の高い吸収率が確保され、溶着面16cに十分な光量のレーザー光が照射されて溶着面16cにおいて十分な発熱量が生じ、接合面13cと溶着面16cにおける良好な溶融状態が確保される。
【0059】
尚、波長Bのレーザー光を用いる場合において、レーザー光の照射装置によっては波長Bのレーザー光が照射されるときに1960nmを超える波長の光が僅かながら含まれている可能性があり、レーザー光が入射面13bから保持部13に入射されたときにレーザー光の一部がポリカーボネイトによって形成された保持部13に吸収され、発熱により入射面13bが変形するおそれがある。
【0060】
そこで、レーザー光の光路上にレーザー光を集光する集光レンズ17が配置されてもよい(
図7参照)。レーザー光の光路上に集光レンズ17が配置されることにより、レーザー光が集光レンズ17によって集光され溶着面16cに焦点を結ぶ状態で照射される。
【0061】
このとき集光レンズ17によってレーザー光が集光された状態でレンズホルダー11Aの保持部13を透過されるため、入射面13bにおいて光のエネルギー密度が低くなって発熱が生じ難くなると共に溶着面16cにおいて光のエネルギー密度が高くなって発熱し易くなる。従って、入射面13bの熱による変形を防止することができると共に投影レンズ12Aとレンズホルダー11Aの高い接合強度を確保することができる。
【0062】
また、レーザー光の光路上にレンズホルダー11Aと同じ材料であるポリカーボネイトによって形成されたフィルター19が配置されてもよい(
図7参照)。レーザー光の光路上にフィルター19が配置されることにより、レーザー光がフィルター19を透過される。
【0063】
このとき保持部13において吸収されるレーザー光の波長成分が保持部13の透過前にフィルター19によって吸収されるため、保持部13にはこの波長成分の光が入射されず、入射面13bの熱による変形を防止することができる。
【0064】
また、集光レンズ17とフィルター19を組み合わせて使用することにより、入射面13bの熱による変形の大きな防止効果を得ることができると共に投影レンズ12Aとレンズホルダー11Aの高い接合強度を確保することができる。
【0065】
尚、フィルター19はレンズホルダー11Aと同じ材料であるポリカーボネイトによって形成されており、1960nmを超える波長の光による発熱によってフィルター19が変形する可能性があるため、フィルター19に変形が生じフィルター19の機能が低下した場合にはフィルター19を新たなフィルター19に交換することが望ましい。
【0066】
また、波長Bのレーザー光を用いて投影レンズ12Aとレンズホルダー11Aのレーザー溶着による接合を行う場合に、レーザー光がレンズホルダー11Aを透過されて投影レンズ12Aに照射される構成であればよく、例えば、保持部13がフランジ部16の外周面を外周側から覆う構成にしてレーザー溶着を行うことが可能である(
図8参照)。この場合には投影レンズ12Aにおけるフランジ部16の外周面が溶着面16cとして形成され、レンズホルダー11Aにおける溶着面16cに接する面が接合面13cとして形成される。このときレーザー光は、例えば、溶着面16cに直交するP方向から溶着面16cに照射される。
【0067】
さらに、波長Bのレーザー光を用いて投影レンズ12Aとレンズホルダー11Aのレーザー溶着による接合を行う場合に、例えば、保持部13がフランジ部16の前面を前側から覆う構成にしてレーザー溶着を行うことも可能である(
図9参照)。この場合には投影レンズ12Aにおけるフランジ部16の前面が溶着面16cとして形成され、レンズホルダー11Aにおける溶着面16cに接する面が接合面13cとして形成される。このときレーザー光は、例えば、溶着面16cに直交するP方向から溶着面16cに照射される。
【0068】
上記したように、車輌用前照灯1における別の構成にあっては、レンズホルダー11Aを透過される1850nm~1960nmの波長Bのレーザー光が溶着面16cに照射されることによりアクリルによって形成された透明な投影レンズ12Aとポリカーボネイトによって形成された透明なレンズホルダー11Aとが接合される。
【0069】
従って、透明に形成されたレンズホルダー11Aを透過される波長Bのレーザー光が透明に形成された投影レンズ12Aの溶着面16cに照射されることにより投影レンズ12Aとレンズホルダー11Aが接合される。これにより、レンズホルダー11Aが透明であり見栄えが良く太陽光による溶融も生じ難いため、投影レンズ12Aとレンズホルダー11Aの高い接合強度を確保した上でレンズホルダー11Aの溶融を防止することができると共に被視認性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0070】
1…車輌用前照灯、11…レンズホルダー、12…投影レンズ、13a…溶着面、16a…接合面、16b…入射面、17…集光レンズ、18…フィルター、19…フィルター、11A…レンズホルダー、13b…入射面、13c…接合面、12A…投影レンズ、16c…溶着面