(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】プロパンの酸化的脱水素化のための触媒及びプロセス
(51)【国際特許分類】
B01J 27/199 20060101AFI20240319BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240319BHJP
C07C 11/06 20060101ALI20240319BHJP
C07C 5/48 20060101ALI20240319BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
B01J27/199 Z
B01J37/08
C07C11/06
C07C5/48
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021534743
(86)(22)【出願日】2019-12-16
(86)【国際出願番号】 BR2019050540
(87)【国際公開番号】W WO2020124182
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】BR102018076221-4
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(73)【特許権者】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ - ペトロブラス
(73)【特許権者】
【識別番号】521261854
【氏名又は名称】ウニベルシダーデ フェデラル ド エスタド ド リオ デ ジャネイロ-ユーエフアールジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム エオン,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス ギマランイス,サブリナ
(72)【発明者】
【氏名】ガウヴァオ シケイラ,ベルナルド
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-031596(JP,A)
【文献】特開2012-077039(JP,A)
【文献】特表2016-531739(JP,A)
【文献】PINHEIRO, Pedro Schames et al.,Isomer distribution in α-Keggin structures [XW12-nVO40]-(q+n) X=Si, P (0≦n≦4): A DFT study of free energy and vibrational spectra,C. R. Chimie,フランス,Elsevier Masson SAS,2016年07月01日,Vol. 19, No. 10,pp. 1352-1362,DOI: 10.1016/j.crci.2016.05.021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)オキソメタレートの水に対する質量比が30~40%m/mであるポリオキソメタレートの水溶液が得られるように、40~80℃の温度で、モル比W:V及びV:
ニオブアンモニウム塩が2~8のW、V及び
ニオブアンモニウム塩のオキソメタレートのアルカリ又はアルカリ土類金属塩を水に溶解する工程と、
b)工程(a)で得られた前記水溶液に、pHが6.5~7.5となるまで無機酸を添加し、前記溶液を、3~4時間の間、150~180℃の温度まで加熱する工程と、
c)タングステン、バナジウム及びニオブのポリオキソメタレートの混合塩の析出が生じるまで、一定の攪拌下で、(b)で得られた前記水溶液に、アルカリ又はアルカリ土類金属塩の飽和溶液を、前記飽和溶液に対するポリオキソメタレート溶液の量が60~80%v/vとなるように添加する工程と、
d)工程(c)で得られた前記ポリオキソメタレート塩を、25~
80℃の温度でろ過・乾燥する工程と、
e)3~5時間、350~550℃の温度且つ空気流下で、(d)で得られた材料のか焼を促進して、タングステンブロンズの構造をもつW、V及びNbの混合酸化物を得る工程と
を有することを特徴とする、プロパンの酸化的脱水素化のための触媒を調製する方法。
【請求項2】
請求項1の方法で得られる触媒と、1%~2%及び10%超の体積比のプロパン及び空気の混合物を含むチャージとを固定床リアクターに供給することを含み、運転条件が、10
3~10
4h-1のGHSV、大気圧及び300~550℃の温度である、プロパンの 酸化的脱水素化のためのプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリウム塩触媒を使用したプロパンからのプロペンの製造に関する。より具体的には、本発明は、六方晶タングステンブロンズの構造をもつ、バナジウム及びニオブ又は由来の混合酸化物で部分的に置換されたドデカタングストリン酸塩イオンからのカリウム塩の調製、並びに、プロパンの酸化的脱水素化(ODH)を介したプロペンの製造へのその適用に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化触媒反応は、大きな塊状の価値ある製品を得る際の非常に大きな応用可能性をもつため、化学産業において主要な技術である。また、石油又は天然ガス及びアルカンから直接得られる芳香族の機能化には特に関心が高く、その需要は主に、オレフィンと比較して低いコスト及び毒性によって増大している。
【0003】
酸化反応の中でも、オレフィンの形成に繋がる、炭素鎖の短いアルカンの酸化的脱水素化は特に関心が高い。これらのオレフィンは、プラスチック及び繊維の製造のためのポリエチレン又はポリプロピレンの工業合成において、また、とりわけアセトン、イソプロパノール、ハロゲン化物、アクリロニトリルの合成における化学中間体として重要な用途を見出している。
【0004】
プロパンのアクリル酸への酸化反応とは異なり、プロパンのODH反応を介したプロペンの製造のための経済的に実行可能な触媒式を請求する特許出願はまだ見られない。オープンな文献報告における刊行物は、主にその反応メカニズムを研究しており、触媒のプロペンに対する選択性を規定するのに責任をもつ主要因子を評価しようとしている。ほとんどの刊行された研究は、バルク又は担持された混合酸化物におけるV及びMoの役割を分析することである。これは、これらの元素が、他の遷移金属よりも触媒に対して増大した活性及び選択性をもたらすためである。従って、これらの元素の三級又は四級混合組成物を使用して、2つ又は3つのバナジウム原子により共有される架橋酸素を分離することが試みられている。触媒活性的な金属元素を、明確に定義され且つ制御された組成多価陰イオンに導入することによって、その熱分解後に均質な組成酸化物を得ることができる。
【0005】
先行技術には、プロパンのODH反応に採用される数多くの不均質な触媒が記載されているが、いずれも活性及び選択性の満足のいく組み合わせを有していない。
【0006】
この点に関し、非特許文献1には、PV4W8O40の組成物と混合された、Keggin構造を有するポリオキソメタレート塩の獲得が記載されている。しかしながら、ポリオキソメタレート塩の熱分解により得られた混合酸化物の構造を推測することを可能とする系統的な研究はない。
【0007】
そして、非特許文献2には、六方晶ブロンズ構造を示す、タングステン、モリブデン及びバナジウムに基づく混合酸化物の触媒を得ることが記載されている。この文献において、著者は、アクリル酸へのグリセロールの脱水酸化反応でのW-Mo-V-O系における混合酸化物の触媒特性を特性化・評価している。報告にある材料は、20%を超えるMo/W比と、V及びMoの含有率に応じて実現可能な構造とを示している。なお、反応における選択性材料は、六方晶ブロンズ構造を示さないが、文献ではMi(タイプM5O14)と称する相と相関がある疑似結晶構造と呼ばれる構造を示す。start-of-period遷移金属により形成される数多くの混合酸化物として、対応する相の結晶構造は、構造ReO3と相関し、ここで、正八面体配位を有する金属は、配位多面体の頂点のみを共有している。この文献において、触媒は、タングステンの六方晶ブロンズ構造を効率的に有するが、バナジウム源として硫酸バナジルVOSO4を採用しているため、バナジウムは、+4の酸化数をもつ。バナジウムの還元が、これらの条件におけるブロンズ相の形成において不可欠である。
【0008】
また、非特許文献3では、様々な温度での、処理後のKeggin構造をもつポリオキソメタレートの挙動を評価している。この文献において最も顕著なケースは、カリウム塩K
3PW
12O
40の熱分解に関しており、ここで、
図1(c)において、その塩が800℃の温度まで安定を維持するが、900℃で分解し、WO
3(幾つかの同質異形種を有する)及びおそらくK
2WO
4の形成を示していることを検証することができる。
図1において、14°周辺のピークと、25°よりも下方の3つのピーク(2シータでの)を識別することが可能であり、第1のピークのみが六方晶相であり(ICSD-無機結晶構造データベースに基づく)、第2の群のピークは三斜晶又は単斜晶相を示すため、所望の六方晶相と両立しない。更に、4つのピークの相対強度は、六方晶相又は層の混合物の強度に応じたものではない。
【0009】
一方、特許文献1には、幅広い組成範囲(Mo-V-X-Y-O)内でのパラフィンからオレフィンへの変換に有用な触媒の形成のためのプロセスが記載されている。より詳細には、オレフィン、より具体的にはエテンを形成するための炭化水素の酸化的脱水素化(ODH)に有用な触媒の調製に関している。なお、しかしながら、実質的な例の全てが、エテンへのエタンのODH反応において、Mo/V比が3周辺の系Mo-V-Nb-Teにおける酸化物特性について述べている。これらの材料において、優位な元素はMoであり、本発明とは異なり、触媒は、その組成にカリウムを示さない。
【0010】
戦略の有効性を確認するため、ガンマ-アルミナ吸着置換Lindqvistイオン(gamma-alumina adsorbing substituted Lindqvist ions)VxW6-xO19(x=1,2)に配置された、バナジウム及びタングステンの混合酸化物が、プロパンのODH反応における触媒性能の改善に繋がったことを観察した(非特許文献4)。Lindqvistの多価陰イオンとなおも呼ばれるヘキサメタレートは、しかしながら、記載の2つの理論混合比をもつ二元組成物に限定され、例えばKegginの多価陰イオンの化学組成物の多用途性を示さない。
【0011】
Lindqvistイオンの上述の欠点に対処することによって、プロペンへのプロパンのODH反応における用途のために、本発明の目的である触媒が開発された。
【0012】
このため、タングステン、ニオブ及びバナジウムに基づく一連のKegginのポリオキソメタレート塩の熱分解によって得られる触媒の調製、並びに、プロパンの酸化的脱水素化によるプロペン製造プロセスにおけるその用途が期待される技術水準の報告がないことが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【非特許文献】
【0014】
【文献】Heteropoly 12-Metallophosphates Containing Tungsten and Vanadium.Preparation,Voltammetry,and Properties of Mono-,Di-,Tetra- and Hexavanade Complexes(M.T.Pope,D Smith.Inorganic Chemistry,12,No.2,1973)
【文献】“Multi-Element Crystalline and Pseudocrystalline Oxydes as Efficient Catalysts For the Direct Transformation of Glycerol into Acrylic Acid”(A.Chieregato,M.D.Soriano,E.Garcia-Gonzalez,G.Puglia,F.Basile,P.Concepcion,C Bandinelli,J.M.L.Nieto,F.Cavani,ChemSusChem,8,p.398-406,2015)
【文献】“Thermal decomposition behavior of metal-oxygen clusters with Keggin Structure”(Kong,AG et al.Chemical Journal of Chinese University-Chinese I 26(11):2002-2006 NOV 10,2005)
【文献】Kaezer Franca M.C.,Aguiar da Silva San Gil R.,Eon J.-G.,Catal.Today 78 (2003) 105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、プロパンのプロペンへの酸化的脱水素化反応(ODH)に有用な、バナジウム及びニオブ、又はタングステンブロンズの構造由来の酸化物と部分的に置換されたドデカタングストリン酸塩イオンのカリウム塩の形態の、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)の混合酸化物の触媒に関する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そのような触媒は、熱分解が起こることでタングステンブロンズの構造(
図1b)を有するW、Nb及びVの混合酸化物の形成へと繋がる、Keggin構造(
図1a)をもつW、Nb及びVのポリオキソメタレート塩の水溶液における直接合成により調製される。
【0017】
本発明の目的及び他の利点は、以下の説明及び添付の図面からより明らかとなろう。
【0018】
以下に述べる詳細な説明は、以下の添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1aは、頂点により結合された4つの八面体基M
3O
13のうちの接続を実証する一般式XM
12O
40のKegginイオンの異性体の構造を示す。これらのM
3O
13基は、XO
4四面体と結合して、その構造を完成させる。このイオンにおいて、Xは、P、Si、Geに対応し、Mは、Nb、V、更にはCu、Ni等で部分的に置換されてもよいW、Mo等の遷移金属を表す。
【
図2】
図2は、ポリオキソメタレートの赤外吸収スペクトルを示す。
【
図3】
図3は、本発明の様々な触媒の一つのX線ディフラクトグラム及びシミュレーションを示す。
【
図4】
図4は、本発明の様々な触媒の一つのX線ディフラクトグラム及びシミュレーションを示す。
【
図5】
図5は、本発明の様々な触媒の一つのX線ディフラクトグラム及びシミュレーションを示す。
【
図6】
図6は、本発明の様々な触媒の一つのX線ディフラクトグラム及びシミュレーションを示す。
【
図7】
図7は、本発明の様々な触媒の一つのX線ディフラクトグラム及びシミュレーションを示す。
【
図8】
図8は、分析時間に応じたプロパン変換及びプロペン選択性のための安定性曲線を示す。
【
図9】
図9は、分析時間に応じたプロパン変換及びプロペン選択性のための安定性曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、プロパンのプロペンへのODH反応に使用される、タングステンブロンズの構造をもつ、バナジウム及びニオブ、又はW、V及びNb由来の混合酸化物で部分的に置換されたドデシルメルカプタンイオンのカリウム塩の合成及び特性化に関する。
【0021】
本発明の第一の目的は、W、V及びNbに基づくKeggin型構造のポリオキソメタレート(POM)塩の熱分解から調製されたそのような触媒の説明である。
【0022】
図1に、Keggin型構造を示す。ここで、一般式[XM
12O
40]
-n(式中、X=K、M=W、V及びNb)のポリオキソメタレートが、頂点により結合された4つの八面体基M
3O
13間の接続を示していることが分かる。この種の構造では、M
3O
13基がXO
4四面体に結合し、酸素原子は、その結合の種類に応じて4つの種類、O
a、O
b、O
c、及びO
d又はO
tに分類される。O
aにより識別される酸素原子は、中心原子に結合する酸素を示し且つ基M
3O
13により共有され、O
bにより表されるものは、異なるM
3O
13基の2つの金属原子に結合し、O
cにより識別されるものは、同じ基M
3O
13の2つの金属原子に結合した酸素を示し、O
d又はO
tは、金属原子に結合した酸素原子、すなわち末端位置にある酸素である。
【0023】
しかしながら、ODH反応においてプロペン-選択性触媒を得るためには、触媒表面上に利用可能な酸素が存在する必要があり、これは、例えばニオブ及びタングステン酸化物と比較して、バナジウム酸化物のようなより還元可能な酸化物、つまりより活性の高い酸化物の存在により実現できる。
【0024】
このため、本発明において提案するようにW、V及びNbの三級混合組成物を使用すると、2つ又は3つのバナジウム原子により共有される架橋酸素原子の分離が促進され、最終的にこの種の反応における触媒の選択性が増大する。
【0025】
更に、選択性の増大に加えて、触媒に対する他の重要な特性は、この場合350~550℃の高い反応温度に晒されたときのその活性の維持である。
【0026】
プロパンの酸化的脱水素化反応(ODH))の反応において有用なそのような触媒を、それらの調製に従って、以下に説明する。調製は、W、V及びNbの混合酸化物を得るために、一般式[PW-VxNbyO40]n-Zm+(式中、1≦x≦6、y≦3及び4≦m≦n≦11であり、ZはNa、K又はCsアルカリ金属又はMg、Ca、Baから選択されるアルカリ土類金属である)で表される、タングステン、バナジウム及びニオブに基づくKeggin型構造のポリオキソメタレート塩の熱分解を含む
【0027】
プロパンの酸化的脱水素化反応に使用されるW、V及びNbの混合酸化物を調製する好適な手順は、
a)オキソメタレートの水に対する質量比が30~40%m/mであるポリオキソメタレートの水溶液が得られるように、40~80℃の温度で、モル比W:V及びV:Nbが2~8のW、V及びNbのオキソメタレートのアルカリ又はアルカリ土類金属塩を水に溶解する工程と、
b)工程(a)で得られた水溶液に、pHが6.5~7.5となるまで無機酸を添加し、その溶液を、3~4時間の時間、150~180℃の温度まで加熱する工程と、
c)タングステン、バナジウム及びニオブのポリオキソメタレートの混合塩の析出が生じるまで、一定の攪拌下で、(b)で得られた水溶液に、アルカリ又はアルカリ土類金属塩の飽和溶液を、飽和溶液に対するポリオキソメタレート溶液の量が60~80%v/vとなるように添加する工程と、
d)工程(c)で得られたポリオキソメタレート塩を、25~50℃の温度でろ過・乾燥する工程と、
e)3~5時間、350~550℃の温度且つ空気流下で、(d)で得られた材料のか焼を促進して、タングステンブロンズの構造をもつW、V及びNbの混合酸化物を得る工程と
を含む。
【0028】
好適には、このプロセスの工程(a)で採用されるアルカリ又はアルカリ土類金属塩は、NaWO4、NaVO3及び(NH4)3[NbO(C2O4)3].2 H2Oから選択されるものである。
【0029】
このプロセスの工程(b)で記載され、Kegginのヘテロ多価陰イオンの形成に寄与するpHの補正のために、HCl、HNO3及びH3PO4から選択される無機酸が使用される。
【0030】
工程(c)において、溶液のpHを変えることなくポリオキソメタレートの析出に繋がるため、金属塩KCl又はKNO3が好適に使用される。
【0031】
そのような混合酸化物のタングステンブロンズ構造は、過酸化することなく炭化水素分子を活性化且つ酸化するのに十分な数で触媒表面上の利用可能な酸素の増加に繋がる活性部位の分離のために、ODH反応におけるプロパンのプロペンへの変換における選択性の増大に寄与すると考えられており、
図3及び
図4並びに表3に示す。
【0032】
図3は、例えば、文字a、b、c又はdで識別された4つの異なる合成(合成dにおいてはニオブ源における変更)に対応する、化学式K
7PW
8V
2Nb
2O
40の、V及びNbで置換されたKeggin多価陰イオンのカリウム塩のX線ディフラクトグラムを示す。ほとんどの試料は、X線回折パターンICSD80443(無機結晶構造データベース-基準は同形相K
6[PMo
3W
9O
40].13H
2Oに対応)に対応する相の特性ピークを示し、報告された異なる強度は、触媒結晶化度における変化を示し、ひいてはプロパンのODH反応におけるそれらの触媒性能の変化に繋がり、触媒構造が、実現される結果に影響を及ぼすことを実証している。
【0033】
次に、
図4は、同じか焼された材料K
7PW
8V
2Nb
2O
40-C(ここで表現-Cはか焼に関連し、対応する合成コード(a、b、c、d)により識別される)、及び、触媒試験に使用した同じ試料(a’、b’、c’、d’)のX線ディフラクトグラム(DRX)を示す。全ての試料が、ICSD61222規格に応じたタングステンの六方晶ブロンズ相の特性ピークを示した。それぞれのか焼された材料と触媒試験で使用されたものとの間のDRX結果において、触媒の相における顕著な変化は観察されなかった。表3から、特にか焼された材料(表3において(C)として識別される)と、触媒試験において使用したもの(表3において(TC)として識別される)とを比較した際に、調査された条件におけるプロパンのODH反応中の触媒の構造的安定性が分かる。
【0034】
本発明の更なる目的は、特に採用される触媒のタングステンブロンズ構造により生じる効果のために、選択性が50%までの変換に対して、60%を超える、プロパンの酸化的脱水素化プロセスを提供することである。
【0035】
このプロセスは、1~3%の体積比のプロパン及び空気の混合物を含むフィラーに好適に適用される。
【0036】
反応の促進のために、チャージが、以下の条件:103~104h-1のGHSV、大気圧及び350~520℃の温度で運転する固定床リアクターへと供給される。
【0037】
図6及び
図7は、か焼された材料K
4PW
11V
1O
40-C及び触媒試験で使用したもの(CTC)のX線ディフラクトグラムを示す。Kegginイオン塩の優位性とともに、Kegginイオンのカリウム塩のピークの傍に、タングステン(HTB)の六方晶ブロンズのピークの出現が観察できる。使用された試料の触媒試験後の結果は、それらの試料内に存在するブロンズ相(HTB)における顕著な増大を示している。これは、触媒が、ODH反応中には安定した構造を有さないが、分析時間中に安定した変換及び選択結果を示すことを示している。
【0038】
以下の説明は、本発明の好適な実施形態を起点とする。本主題における技術者には明白であろうが、本発明は、これらの特定の実現に限定されない。
(実施例)
触媒の合成
【0039】
タングステン及びバナジウムに基づくポリオキソメタレートの工程(a)を、8mLの水に溶解した1.3943gのメタバナジン酸ナトリウム(NaVO3)と、予め60℃に加熱した10mLの水に溶解した6.3149gのタングステン酸ナトリウム二水和物(Na2WO4、H2O)とから行った。そして、リン酸(H3PO4-85%)を、7.5のpHに達するまでゆっくり添加した。その溶液をテフロン(登録商標)リアクターに移送し、175℃の温度で1時間、マイクロ波装置に保持した。
【0040】
タングステン、バナジウム及びニオブに基づくポリオキソメタレートの工程(a)は、同じ手順に従ったが、まず、4mLの水に溶解した0.6971gのNaVO3と、予め60℃に加熱した4mLの水に溶解した1.8335gのシュウ酸ニオブアンモニウム(NH4)3[NbO(C2O4)3)].2H2Oとを使用した。
【0041】
工程(b)は、析出を開始するために、冷却後、塩化カリウム(KCl)、すなわち1gの固体及び9gの飽和溶液を過剰に添加することで構成される。析出物を、30分一定の攪拌下に置き、その後オーブン内で80℃でろ過・乾燥した。
【0042】
工程(c)は、30mL/分の流量で3時間、合成空気雰囲気下、5℃/分の加熱率で、500℃でポリオキソメタレート塩を熱分解(か焼)することで構成される。
【0043】
表1は、シリーズ1、K
7PW
8V
2Nb
2O
40の様々な触媒に対してx線蛍光技術により行った化学分析の結果を示す。この結果は、試料に挿入されたニオブの実験モル含有率の変化を示し、試料dは、理想値に最も近い組成を示す。試料a、b及びcは、同じ手順及び試薬を使用して調製したが、ニオブ源試料においては、それを変更し、ニオブ酸化物の代わりにニオブアンモニウム塩を使用した。この変更がおそらく、構造におけるNbのより多くの挿入に寄与した。
【表1】
【0044】
表2は、W:V比が11:1に等しい、試料シリーズ2に対してx線蛍光により行った化学分析の結果を示す。この実験結果は、理論比よりも低いバナジウム含有率を示す。しかしながら、これらの結果は、合成の再現性を実現できることを示している。
【表2】
【0045】
本発明において試験した触媒のより高い効率性を立証するために、従来のフロー系を使用したプロパンのODH反応において試験を行った。500mgの触媒を、パイレックス(登録商標)又はクオーツ製で大気圧下で運転し1%(v/v)のプロパン/合成空気の混合物が供給されるU字形状の固定床リアクター内に載置した。混合物の流れは、Brooksマスフローコントローラーによって30ml/分に固定した。試薬(C3H8)及び反応生成物(C3H6、CO2及びCO)を、AgilentGC-7820Aクロマトグラフにおいてオンラインで分析した。この分析において、気体試料は、Porapak Qキャピラリーカラムによる気体成分の分離後且つFID検出器の前に、メタン化器を通過させた。炭素収支は、システムの実験エラーに応じて100%に達した。
【0046】
温度を300~550℃の範囲に上昇させて試験を行った。反応温度に達してから約15分後、合計45分の反応となるように、15分の間隔で3回の注入を行った。図示の結果は、各温度におけるこれら3回の注入の平均に対応している。検討した触媒は、工業的関心のより掘り下げた検討のために満足できる範囲での変換及び選択性で関連する安定性を示した。
【0047】
本発明で報告した例において、プロパンのODH反応は、プロパン及び酸化炭素のみを生成した。プロパンの選択性をガスクロマトグラフィで定量化したところ、殆どの試料で、選択性は70%を超えた。
【0048】
表3は、記載の様々な試料に対する温度に応じたプロパンODH反応の触媒試験の結果を示す。観察できるように、全ての試料において、温度の上昇と共に変換は増大し、試料K
7PW
8V
2Nb
2O
40(c’)及びK
7PW
8V
2Nb
2O
40(d)では、それぞれ490℃での最大変換が28%及び49%に達した。それ以前の試料は高い変換を有したが、
図8及び9に示すように、プロパン選択性の最良値である約80%が、約11%及び22%というより低い変換を有する試料であるK
7PW
8V
2Nb
2O
40(c)及びK
7PW
8V
2Nb
2O
40(a及びb))について得られ、それらは分析の300分を通じて安定を維持した。分析の条件のために、約20%の収率が満足できるものであり、工業スケールでの使用のためのこれらの触媒の大きな可能性を示した。ニオブに基づく試料のBET表面積は顕著な値を示さず、W:V比が11:1に等しい試料については、化学組成物が同様なため、1回の測定のみが行われた。か焼された材料は、5.9m
2/gに等しい比面積を示したが、同じ試料において、触媒試験後では、比面積は2.2m
2/gに減少した。
【表3】
【0049】
表4は、本発明の説明に記載の触媒ファミリーに典型的な変換及び選択性結果を、最良の性能を示した触媒系に対応する文献データと比較するものである。
【表4】
【0050】
本発明に係るプロセスは、70~85%のプロペン選択性を実現するのに寄与する。
【0051】
上述の本発明の主題の説明は、1以上の可能な実施形態としてのみみなされるべきであり、それらの任意の特定の特徴は、理解を容易にするために書かれたものとしてのみ理解されるべきである。従って、それらは、本発明を限定するものとみなされるべきではなく、本発明は、以下の特許請求の範囲に限定される。