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特許7457033アルドース還元酵素阻害剤の塩、及びその製造方法と使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】アルドース還元酵素阻害剤の塩、及びその製造方法と使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20240319BHJP
   A61K 31/5025 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240319BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C07D487/04 147
C07D487/04 CSP
A61K31/5025
A61P43/00 111
A61P17/00
A61P35/00
A61P9/00
A61P13/12
A61P9/10 101
A61P3/10
A61P25/00
A61P27/02
A61P31/00
A61P9/10
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021550163
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 CN2020077233
(87)【国際公開番号】W WO2020173495
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】201910152719.X
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】506417359
【氏名又は名称】石薬集団中奇制薬技術(石家庄)有限公司
【氏名又は名称原語表記】CSPC ZHONGQI PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY(SHIJIAZHUANG)CO.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】No.896,Zhongshan East Road,High-Tech Zone,Shijiazhuang,Hebei,050035,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100112656
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 英毅
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】楊占坤
(72)【発明者】
【氏名】楊漢▲ユ▼
(72)【発明者】
【氏名】李鵬飛
(72)【発明者】
【氏名】劉曉鵬
(72)【発明者】
【氏名】周彩虹
(72)【発明者】
【氏名】王軍玲
(72)【発明者】
【氏名】李春娜
(72)【発明者】
【氏名】劉喜宝
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-505040(JP,A)
【文献】特表2013-531062(JP,A)
【文献】国際公開第2019/023648(WO,A1)
【文献】ファルマシア,2016年,Vol.52, No.5,pp.387-391
【文献】薬剤学,2013年,Vol.73,No.3,pp.176-182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式A-Nで表される化合物であって、
前記化合物は、結晶形であり、
前記式A-Nで表される化合物の結晶形は、Cu-Kα線を用いた2θ角で表されるX線粉末回折において、17.2±0.2°、21.4±0.2°、21.9±0.2°、25.9±0.2°に特徴的なピークを有する、式A-Nで表される化合物。
【化1】
【請求項2】
前記化合物の赤外スペクトルが、波長の逆数(cm-1)として、1675.5、1611.0、1379.6、1333.4、1152.6、1119.1に吸収ピークを有することを特徴とする、請求項1に記載の式A-Nで表される化合物。
【請求項3】
前記式A-Nで表される化合物の結晶形は、Cu-Kα線を用いた2θ角で表されるX線粉末回折において、7.1±0.2°、12.5±0.2°、17.2±0.2°、21.4±0.2°、21.9±0.2°、24.1±0.2°、25.9±0.2°に特徴的なピークを有することを特徴とする、請求項1に記載の式A-Nで表される化合物。
【請求項4】
前記式A-Nで表される化合物の結晶形は、Cu-Kα線を用いた2θ角で表されるX線粉末回折において、7.1±0.2°、10.1±0.2°、10.9±0.2°、12.5±0.2°、13.7±0.2°、14.4±0.2°、17.2±0.2°、19.4±0.2°、21.4±0.2°、21.9±0.2°、24.1±0.2°、25.9±0.2°に特徴的なピークを有することを特徴とする、請求項1に記載の式A-Nで表される化合物。
【請求項5】
前記式A-Nで表される化合物の結晶形は、Cu-Kα線を用いた下図1に示されているX線粉末回折スペクトルを有することを特徴とする、請求項1に記載の式A-Nで表される化合物。
図1
【請求項6】
前記式A-Nで表される化合物の結晶形は、260~270℃で顕著に分解し始めることを特徴とする、請求項1に記載の式A-Nで表される化合物。
【請求項7】
前記式A-Nで表される化合物の結晶形は、下図2に示されているDSC-TGAパターンを有することを特徴とする、請求項1に記載の式A-Nで表される化合物。
図2
【請求項8】
式Aの化合物を水に懸濁させ、アルカリ性ナトリウム化合物の水溶液を加えて塩形成反応を行い、固体を分離、乾燥することにより、式A-Nで示される化合物を得ることを含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の式A-Nで表される化合物の製造方法;
前記式Aの化合物と水との質量体積比は、1:5~50であり、
前記アルカリ性ナトリウム化合物は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウムからなる群より選択され、
前記アルカリ性ナトリウム化合物の水溶液の質量体積濃度は、1~50%であり、
前記アルカリ性ナトリウム化合物と式Aの化合物とのモル比は、1~3:1であり、
前記アルカリ性ナトリウム化合物の水溶液の添加温度は、0~50℃であり、
前記塩形成反応の反応温度は、20~80℃であり、
反応終了後、-5~10℃に冷却し、8~24時間放置して結晶化させ、
乾燥条件は、乾燥温度が40~70℃、圧力が真空度>0.090Mpa、乾燥時間が10~50時間である。
【化1】
【化2】
【請求項9】
前記アルカリ性ナトリウム化合物は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムであり、
前記アルカリ性ナトリウム化合物の水溶液の質量体積濃度は、5~20%であり、
前記アルカリ性ナトリウム化合物と式Aの化合物とのモル比は、1~1.1:1であることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記アルカリ性ナトリウム化合物の水溶液の添加温度は、10~25℃であり、
前記塩形成反応の反応温度は、60~65℃であることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項11】
前記式Aの化合物と水との質量体積比は、1:10~20であることを特徴とする、請求項8に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載の式A-Nで表される化合物を含む医薬組成物。
【請求項13】
治療効果のある量の化合物または医薬組成物を、それを必要とする対象へ投与することによる、その対象におけるアルドース還元酵素活性の阻害において使用するための、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
治療効果のある量の化合物または医薬組成物を、それを必要とする対象へ投与することによる、その対象における皮膚の健康的な老化の促進、皮膚障害の治療、血管新生障害の治療、組織損傷の治療、心血管障害の治療、腎障害の治療、進行性心筋梗塞の治療に使用するための、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
治療効果のある量の化合物または医薬組成物を、それを必要とする対象へ投与することによる、その対象における癌、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、皮膚感染症、末梢血管疾患、脳卒中から選択される疾患の治療において使用するための、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項16】
医薬品の製造における、請求項1~7のいずれか一項に記載の式A-Nで表される化合物の使用であって、前記医薬品は、治療効果のある量の化合物または医薬組成物を、それを必要とする対象へ投与することによる、その対象におけるアルドース還元酵素活性の阻害において使用される、式A-Nで表される化合物の使用。
【請求項17】
医薬品の製造における、請求項1~7のいずれか一項に記載の式A-Nで表される化合物の使用であって、治療効果のある量の化合物または医薬組成物を、それを必要とする対象へ投与することによる、その対象における皮膚の健康的な老化の促進、皮膚障害の治療、血管新生障害の治療、組織損傷の治療、心血管障害の治療、腎臓障害の治療、進行性心筋梗塞の治療に使用される、式A-Nで表される化合物の使用。
【請求項18】
医薬品の製造における、請求項1~7のいずれか一項に記載の式A-Nで表される化合物の使用であって、治療効果のある量の化合物または医薬組成物を、それを必要とする対象へ投与することによる、その対象における癌、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、皮膚感染症、末梢血管疾患、脳卒中から選択される疾患の治療において使用される、式A-Nで表される化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品化学の分野に属し、特にアルドース還元酵素阻害剤の塩、及びその製造方法と用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、最も一般的な慢性障害の1つである。高血糖レベルは、インスリン産生および/またはインスリン感受性の欠乏に起因する。高血糖を有する個体は、グルコース~ソルビトール~フルクトースの経路を介して、インスリン非感受性細胞、例えば、水晶体、末梢神経、および糸球体においてより多くのグルコースを代謝する。これにより、細胞膜を通って拡散し難い細胞内のソルビトールが過剰になる。ソルビトール濃度の増加は、細胞内への水の流入を誘発し、腫脹および潜在的な損傷を引き起こす。
【0003】
アルドース還元酵素は、体の多くの部分に存在する酵素であり、グルコースからフルクトースを形成するためのソルビトール経路におけるステップの1つである、グルコースのソルビトールへの還元を触媒する。組織においてインスリン感受性が欠乏した糖尿病状態でグルコース濃度が上昇すると、アルドース還元酵素活性が上昇する。これらの組織には、例えば、水晶体、末梢神経、および糸球体が含まれる。ソルビトールは、細胞膜を通って容易に拡散することができずに蓄積するため、浸透損傷を引き起こす。これは、網膜症、神経障害、及び腎障害をもたらす。このため、アルドース還元酵素の阻害は、糖尿病患者のインスリン非感受性細胞におけるソルビトールの蓄積を防止することができ、且つ糖尿病患者の大血管症および小血管症と言う合併症を予防するための新規の方法が提案されている。さらに、アルドース還元酵素阻害剤、例えば、ゾポルレスタットは、このような影響を抑えるまたは改善することに役立ち、且つ糖尿病動物モデルの角膜上皮の創傷治癒において有効性を示している。
【0004】
中国発明特許CN201180034944.5には、以下の式Iで表されるアルドース還元酵素阻害剤が開示され、
そのうち、実施例1および2には、以下の構造の化合物が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、式Aの化合物が水に不溶であることは、その創薬可能性に重大な影響を及ぼすことを見出した。したがって、式Aの化合物の構造を、製薬上の要求を満たすように改良することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、式A-Nで表される化合物を提供した。
【0007】
いくつかの実施形態で、式A-Nで表される化合物は、その赤外スペクトルが、波長の逆数(cm-1)として、1675.5、1611.0、1379.6、1333.4、1152.6、1119.1に吸収ピークを有する。
【0008】
いくつかの実施形態で、式A-Nで表される化合物は、結晶形である。
【0009】
いくつかの実施形態で、式A-Nで表される化合物の結晶形は、Cu-Kα線を用いた2θ角で表されるX線粉末回折において、17.2±0.2°、21.4±0.2°、21.9±0.2°、25.9±0.2°に特徴的なピークを有する。
【0010】
いくつかの実施形態で、式A-Nで表される化合物の結晶形は、Cu-Kα線を用いた2θ角で表されるX線粉末回折において、7.1±0.2°、12.5±0.2°、17.2±0.2°、21.4±0.2°、21.9±0.2°、24.1±0.2°、25.9±0.2°に特徴的なピークを有する。
【0011】
いくつかの実施形態で、式A-Nで表される化合物の結晶形は、Cu-Kα線を用いた2θ角で表されるX線粉末回折において、7.1±0.2°、10.1±0.2°、10.9±0.2°、12.5±0.2°、13.7±0.2°、14.4±0.2°、17.2±0.2°、19.4±0.2°、21.4±0.2°、21.9±0.2°、24.1±0.2°、25.9±0.2°に特徴的なピークを有する。
【0012】
いくつかの実施形態で、式A-Nで表される化合物の結晶形は、Cu-Kα線を用いた2θ角で表されるX線粉末回折において、7.1±0.2°、10.1±0.2°、10.9±0.2°、12.5±0.2°、13.7±0.2°、14.4±0.2°、17.2±0.2°、19.4±0.2°、21.4±0.2°、21.9±0.2°、24.1±0.2°、25.9±0.2°、27.6±0.2°、30.6±0.2°に特徴的なピークを有する。
【0013】
いくつかの実施形態で、前記式A-Nで表される化合物の結晶形は、実質的に図1に示されるX線粉末回折スペクトル(XRPD)を有する。
【0014】
いくつかの実施形態で、前記式A-Nで表される化合物の結晶形は、260~270℃で顕著に分解し始める。
【0015】
いくつかの実施形態で、前記式A-Nで表される化合物の結晶形は、実質的に図2に示されるDSC-TGAパターンを有する。
【0016】
本発明は、さらに、上記式A-Nで表される化合物の製造方法であって、
式Aで示される化合物を水に懸濁させ、アルカリ性ナトリウム化合物の水溶液を加えて塩形成反応を行い、固体を分離、乾燥することにより、式A-Nで示される化合物を得ることを含む、製造方法を提供する。
【0017】
本発明における式Aの化合物の製造は、特許文献CN201180034944.5の実施例1及び2に記載の方法を参考して製造することができる。
【0018】
本発明の製造方法によれば、前記アルカリ性ナトリウム化合物は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウムからなる群より選択され、好ましくは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムであり、より好ましくは炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムである。
【0019】
本発明の製造方法によれば、前記アルカリ性ナトリウム化合物の水溶液は、任意の適宜な濃度であればよく、好ましくは1~50%、より好ましくは5~20%、例えば5%、10%、20%の質量体積濃度を有する。
【0020】
本発明の製造方法によれば、前記アルカリ性ナトリウム化合物と式Aの化合物とのモル比は、1~3:1、好ましくは1~1.5:1、より好ましくは1~1.1:1であり、前記アルカリ性ナトリウムのモル数は、一価として計算される。
【0021】
本発明の製造方法によれば、前記アルカリ性ナトリウム化合物の水溶液の添加温度は、0~50℃、好ましくは10~40℃、より好ましくは10~25℃である。
【0022】
本発明の製造方法によれば、前記塩形成反応の反応温度は、20~80℃であり、好ましくは40~70℃であり、より好ましくは60~65℃である。
【0023】
本発明の製造方法によれば、前記式Aの化合物と水との質量体積比は、1:5~50、好ましくは1:5~20、より好ましくは1:10~20である。
【0024】
本発明の製造方法によれば、前記反応が終了した後、-5~10℃に降温し、8~24時間静置晶析し、固体を分離、乾燥して、上記式A-Nで表される化合物の結晶形を得る。
【0025】
本発明の製造方法によれば、前記分離工程は、得られた式A-Nで表される化合物の結晶を、濾過、遠心分離などの適宜な方法で、晶析液から分離することを含む。
【0026】
本発明の製造方法によれば、前記乾燥方法は、任意の適宜な既知の方法、好ましくは、減圧下(真空中)での乾燥を使用することができる。具体的な乾燥条件として、例えば、温度は好ましくは40~70℃、より好ましくは45~65℃であり、圧力は好ましくは真空度>0.090Mpaであり、乾燥時間は好ましくは10~50時間、より好ましくは20~40時間である。いずれの乾燥手段を採用しても、得られる製品中の溶媒残留量は品質基準を満たすことが望ましい。
【0027】
別の態様において、本発明はまた、上記式A-Nで表される化合物を含む医薬組成物に関する。
【0028】
さらに別の態様において、本発明は、上記式A-Nで表される化合物または上記式A-Nで表される化合物を含む医薬組成物の医薬品の製造のための用途であって、前記医薬品は、対象におけるアルドース還元酵素活性の阻害、例えば、皮膚の健康的な老化の促進、皮膚障害の治療、癌などの血管新生障害の治療、組織損傷の治療、心血管障害の治療、腎障害の治療、進行性心筋梗塞の治療、糖尿病に起因する合併症などの様々な他の疾患の治療において使用される、用途に関する。これらの疾患としては、限定されるものではないが、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、皮膚感染症、末梢血管疾患、脳卒中などが挙げられる。
【0029】
さらに別の態様において、本発明は、対象におけるアルドース還元酵素活性の阻害、例えば、皮膚の健康的な老化の促進、皮膚障害の治療、癌などの血管新生障害の治療、組織損傷の治療、心血管障害の治療、腎障害の治療、進行性心筋梗塞の治療、糖尿病に起因する合併症などの様々な他の疾患の治療において使用される、上記式A-Nで表される化合物または上記式A-Nで表される化合物を含む医薬組成物に関する。これらの疾患としては、限定されるものではないが、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、皮膚感染症、末梢血管疾患、脳卒中などが挙げられる。
【0030】
さらに別の態様において、本発明は、式A-Nで表される化合物または式A-Nで表される化合物を含む医薬組成物を患者に投与することによって、患者における疾患を治療する方法であって、前記患者における疾患を治療することは、対象におけるアルドース還元酵素活性を阻害することであり、例えば、皮膚の健康的な老化を促進すること、皮膚障害を治療すること、癌などの血管新生障害を治療すること、組織損傷を治療すること、心血管障害を治療すること、腎障害を治療すること、進行性心筋梗塞を治療すること、糖尿病に起因する合併症などの様々な他の疾患を治療することである、方法にも関する。これらの疾患としては、限定されるものではないが、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、皮膚感染症、末梢血管疾患、脳卒中などが挙げられる。
【0031】
上記の「対象」および「患者」は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ネコ、サル、イヌ、ウマ、ブタなど)およびヒトを含むが、これらに限定されない動物界のすべてのメンバーを含む。
【0032】
本発明は、式Aの化合物のナトリウム塩を提供した。本発明者らは、驚くべきことに、この塩は、式Aの化合物と比較して、著しく改善された溶解度を有し、且つ低い吸湿性を有し、安定して存在することができる結晶形に製造でき、したがって、式Aの化合物または式Aの化合物の他の塩と比較して、より容易に創薬することができることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、式Aの化合物のナトリウム塩のXRPDスペクトルである。
図2図2は、式Aの化合物のナトリウム塩の示差熱-熱重量分析(DSC-TGA)パターンである。
図3図3は、式Aの化合物のナトリウム塩の赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明の技術案をさらに詳しく説明する。以下の実施例は、本発明を例示的に説明及び解釈するためのものであり、本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。本発明の上述の内容に基づいて実現される技術は、本発明の保護範囲内に含まれる。
【0035】
以下の実施例で用いられる原料および試薬は、特に断りのない限り市販品を用いてもよく、公知の方法で製造してもよい。
【0036】
以下の実施例において、XRPDスペクトル、DSC-TGAパターン、および赤外吸収スペクトルの検出条件は、以下の通りである。
【0037】
XRPD検出条件:
機器:ドイツBRUKER D2 PHASER粉末X線回折装置
条件:Cu-Kα1照射、管圧40kV、管電流150mA、2θ スキャン範囲1.5~40°、スキャン速度0.15°/秒、ステップサイズ0.02°とした。
【0038】
DSC-TGA検出条件:
機器:Mettler Toledo熱分析装置
条件:初期温度30℃、300℃まで10℃/分で昇温、27.5分間保持、400℃まで10℃/分で昇温とした。
【0039】
赤外吸収スペクトル:
機器:PerkinElmer Spectrum100赤外分光光度計。
【0040】
製造例1、式Aの化合物の製造
【0041】
特許文献CN201180034944.5の実施例1に記載の方法を参考にして、式Aで示される化合物23.0gを得た。
【0042】
実施例1:式Aの化合物のナトリウム塩(式A-Nで表される化合物)の製造
【0043】
式Aの化合物(5.2g、12.35mmol)および水(52mL)を反応瓶に入れ、20分間撹拌し、10~25℃で10%炭酸ナトリウム溶液(7.2mL、6.79mmol)を加え、反応液を60~65℃に加熱し、2時間撹拌反応させた。濾過し、濾液を0~5℃に降温し、12時間保温静置し、濾過し、濾過ケーキを45~60℃で20時間真空乾燥して、式Aの化合物のナトリウム塩(4.5g、収率82.2%)を得た。
【0044】
1H NMR(600MHz,d6-DMSO) δ:3.664(s,2H),5.828(s,2H),7.767~7.781(d,1H),8.332~8.346(d,1H),8.372(s,1H),9.135~9.138(d,1H),9.215~9.218(d,1H);[M+H]+:444.0353,[M+Na]+:466.0177;ナトリウム含有量5.03%(理論値5.19%)である。赤外吸収スペクトルは図3に示すように、1675.5、1611.0、1379.6、1333.4、1152.6、1119.1に強い吸収ピーク(cm-1)を有する。
【0045】
得られたナトリウム塩は、良好な結晶化度を示し、そのXRPD特徴付けのスペクトルは、図1に示されている。図2はDSC-TGA検出の結果を示し、測定結果は、サンプルが結晶水または結晶溶媒を含まず、260~270℃で顕著に分解し始めることを示した。
【0046】
実施例2:式Aの化合物のナトリウム塩(式A-Nで表される化合物)の製造
式Aの化合物(5.2g、12.35mmol)および水(52mL)を反応瓶に入れ、20分間撹拌し、10~25℃で5%水酸化ナトリウム溶液(10mL、12.5mmol)を加え、反応液を60~65℃に加熱し、2時間撹拌反応させた。濾過し、濾液を0~5℃に降温し、12時間保温静置し、濾過し、濾過ケーキを45~60℃で20時間真空乾燥して、式Aの化合物のナトリウム塩(4.2g,収率76.7%)を得た。得られたナトリウム塩は、良好な結晶化度を示し、そのXRPD特徴付けのスペクトルは、実質的に図1に示されている。
【0047】
実施例3:式Aの化合物のナトリウム塩(式A-Nで表される化合物)の製造
式Aの化合物(5.2g、12.35mmol)および水(52mL)を反応瓶に加え、20分間撹拌し、10~25℃で20%炭酸水素ナトリウム溶液(5.7mL、13.57mmol)を加え、反応液を60~65℃に加熱し、2時間撹拌反応させた。濾過し、濾液を0~5℃に降温し、12時間保温静置し、濾過し、濾過ケーキを45~60℃で20時間真空乾燥して、式Aの化合物のナトリウム塩(4.4g,収率80.4%)を得た。得られたナトリウム塩は、良好な結晶化度を示し、そのXRPD特徴付けのスペクトルは、実質的に図1に示されている。
【0048】
比較例1~5:式Aの化合物の他の塩の製造
(1)カルシウム塩の製造
式Aの化合物(5.2g)および水(52mL)を反応瓶に入れ、20分間撹拌し、10~25℃で10%炭酸ナトリウム溶液(7.2mL)を加え、反応液を60~65℃に加熱し、10%塩化カルシウム水溶液(9.5mL)を加え、2時間撹拌反応させた。0~5℃に降温し、濾過し、濾過ケーキを45~60℃で20時間真空乾燥して、式Aの化合物のカルシウム塩を得た。
【0049】
(2)マグネシウム塩の製造
式Aの化合物(5.2g)と水(52mL)を反応瓶に入れ、20分間撹拌し、10~25℃で10%炭酸ナトリウム溶液(7.2mL)を加え、反応液を60~65℃に加熱し、10%塩化マグネシウム水溶液(8.1mL)を加え、2時間撹拌反応させた。0~5℃に降温し、濾過し、濾過ケーキを45~60℃で20時間真空乾燥して、式Aの化合物のカルシウム塩を得た。
【0050】
(3)アルカリ性アミノ酸塩の製造
実施例1の製造方法を参照して、式Aの化合物のアルカリ性アミノ酸塩:リジン塩、アルギニン塩、プロリン塩の製造を行い、反応溶媒はメタノールである。
【0051】
(4)カリウム塩の製造
実施例1の製造方法において、塩基を炭酸カリウムに代えた以外は、実施例1と同様にして、式Aの化合物のカリウム塩を得た。
【0052】
上記比較例の実験結果は、以下の通りである。
【0053】
【0054】
比較例7~14:式Aの化合物のナトリウム塩の製造方法の検討
実施例1の製造方法において、反応溶媒の水を他の溶媒に代え、塩基の種類と反応温度を適宜調整した以外は、実施例1と同様にした。実験結果は、以下の通りである。
【0055】
【0056】
試験例1:溶解度試験
実施例1、比較例1、2および6で得られた塩、及び式Aの化合物の水への溶解度を、以下の方法で試験した。
【0057】
試験方法:一定量の被検試料を採取し、精製水に徐々に添加し、飽和状態になるまで揺動を続け、被検試料の秤量量と溶媒使用量を記録し、試料溶解時の濃度を計算した。試験結果を下記の表に示す。
【0058】
【0059】
試験例2:安定性試験
実施例1で得られた式Aの化合物のナトリウム塩(包装条件:低密度ポリエチレン袋+ポリエステル/アルミニウム/ポリエチレン医薬品包装用複合袋)を40℃±2℃/75%RH±5%RHの条件で加速試験を行った。結果は次の通りである。
【0060】
【0061】
以上のように、本発明の式Aの化合物のナトリウム塩は、溶解性がよく、吸湿性が小さく、品質が安定しており、式Aの化合物又は他の塩よりも容易に創薬することができる。
図1
図2
図3