(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】電動パワーステアリングのモータの制御量の制限
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240319BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240319BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240319BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2021559294
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 EP2020056579
(87)【国際公開番号】W WO2020216523
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】102019110703.2
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ベルクヴァイラー・トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ザウアー・アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】コルティ・ペーター
(72)【発明者】
【氏名】マケヴィット・ガレス
(72)【発明者】
【氏名】ヘル・マルティン
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0023319(US,A1)
【文献】特開2018-039419(JP,A)
【文献】特開2018-012473(JP,A)
【文献】特開2018-177026(JP,A)
【文献】特開2017-202774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動横方向操舵を備えた自動車のための電動パワーステアリングのモータ(EM)の制御量(M,M’)を制限する方法であって、以下のステップ:
・ 目標操舵角(SLW)の取得、
・ 目標操舵角(SLW)に応じた制御量(M)の決定、
・ 実際操舵角(ILW)の取得、
・ 目標操舵角(SLW)と実際操舵角(ILW)に応じた仮想トーションバートルクの決定、
・ 仮想トーションバートルクに応じた制御量(M,M’)に対する少なくとも一つの制限値(G)の決定および
・ 少なくとも一つの制限値(G)に応じた制御量(M,M’)の制限
を有する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記制御量(M,M’)は、モータ(EM)に対する目標トルクである方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記制御量(M,M’)は、操舵トルクである方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法であって、仮想トーションバートルクに応じた制御量(M,M’)に対する少なくとも一つの制限値(G)の決定は、以下のステップ:
・ 仮想トーションバートルクに応じた制御量(M,M’)に対する上限値の決定および
・ 仮想トーションバートルクに応じた制御量(M,M’)に対する下限値の決定
を含む方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、
・
仮想トーションバートルクに応じて第一の制御量(M,M’)に対
する第一の上限値と第一の下限値を決定し且つ
・
仮想トーションバートルクに応じて第二の制御量(M,M’)に対
する第二の上限値と第二の下限値を、第二の上限値と第二の下限値との間の隔たりが概ね第一の上限値と第一の下限値との間の隔たりに相当するように決定する方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法であって、ルックアップテーブル(LUT)を用いて目標操舵角(SLW)と実際操舵角(ILW)に応じて仮想トーションバートルクの決定を行なう方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法であって、
・ 第一の仮想トーションバートルクに
応じて第一の制限値を決定し且つ
・ 第一の仮想トーションバートルクよりも大きい第二の仮想トーションバートルクに
応じて、第一の制限値よりも大きい第二の制限値を決定する方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の方法であって、少なくとも自動横方向操舵による自動運転のための走行システム(FS)から目標操舵角を取得する方法。
【請求項9】
自動横方向操舵を備えた自動車のための電動パワーステアリングのモータ(EM)の制御量(M,M’)を制限する操縦装置であって、
・ 目標操舵角(SLW)を取得し、
・ 目標操舵角(SLW)に応じて制御量(M)を決定し、
・ 実際操舵角(ILW)を取得し、
・ 目標操舵角(SLW)と実際操舵角(ILW)に応じて仮想トーションバートルクを決定し、
・ 仮想トーションバートルクに応じて制御量(M,M’)に対して少なくとも一つの制限値(G)を決定し、
・ 少なくとも一つの制限値(G)に応じて制御量(M,M’)を制限する
ように設けられている操縦装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリングのモータの制御量を制限する方法および操縦装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この文書の文脈において、「自動運転」という用語は、進行方向または横方向の自動操縦による走行、または進行方向および横方向の自動操縦による自律走行を意味する。「自動運転」という用語には、あらゆる自動化レベルでの自動運転が含まれる。自動化レベルの例は、支援運転、部分自動運転、高度自動運転ないし完全自動運転である。これらの自動化レベルは、連邦交通制度協会(Bundesanstalt fuer Strassenwesen)(BASt)によって定義がなされた(BASt公報「Forschung kompakt(リサーチコンパクト)」,20212年11月刊行を参照)。支援運転では、ドライバーが進行方向または横方向の操縦を継続的に実行しながら、システムが一定の制限内で他の機能を担う。部分自動運転(TAF)では、システムが一定期間および/または特殊な状況のもとで進行方向および横方向の操縦を担うが、支援運転時のようにドライバーがシステムを常に監視していなければならない。高度自動運転(HAF)では、ドライバーがシステムを常に監視する必要なしにシステムが一定期間進行方向および横方向の操縦を担うが、ドライバーは、一定時間内に車両の操縦を引き受けることができなければならない。完全自動運転(VAF)では、或る特化した利用例についてシステムがいかなる状況でも自動で運転を管理し、この利用例についてはもはやドライバーを必要としない。BAStの定義による上述した四つの自動化レベルは、SAE J3016規格(SAE-Society of Automotive Engineering(自動車技術者協会))のSAE-レベル1-4に対応する。例えば、BAStに依拠した高度自動運転(HAF)は、SAE J3016規格のレベル3に対応する。また、SAE J3016には、BAStの定義に含まれていない最高の自動化レベルとしてSAEレベル5が設けられている。SAEレベル5は無人運転に対応し、その場合には、システムは、全走行期間中、人間のドライバーであるかのようにあらゆる状況に自動で対処することができ、基本的にもはやドライバーを必要としない。
【0003】
自動車用の電動パワーステアリングが公知である。この電動パワーステアリングは、ドライバーが操舵のために加える力を電気モータにより増強することで、自動車のハンドルを操作するのに必要な力を軽減する。
【0004】
電気モータのトルクが誤って決定されることによる危険を防ぐために、従来の電動パワーステアリングでは、決定される電気モータのトルクがリミッタにより制限される。この場合、この制限は、自動車のドライバーによりハンドルに加えられるトーションバートルクないし操舵トルクに応じて行なわれる。
【0005】
しかしながら、この従来の制限の仕方は、少なくとも自動横方向操舵による自動運転の場合には不可能である。というのも、この場合、自動車のドライバーは、ちょうどそのとき自動車のハンドルに一切トーションバートルクを加えていないからである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、少なくとも自動横方向操舵による自動運転時に電動パワーステアリングの電気モータのトルクが誤って決定されることによる危険を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は、独立請求項の特徴により解決される。有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。独立特許請求項に従属する特許請求項の追加的な特徴部は、独立特許請求項の特徴部が無くても、または、独立特許請求項の特徴部の一部と組み合わされるだけでも、独立特許請求項の全ての特徴部を組み合わせたものから独立した独自の発明を形成することができ、それが独立特許請求項の対象、分割出願の対象または後願の対象になり得ることを指摘しておく。このことは、明細書に記載された技術的教示にも同様に当てはまり、独立特許請求項の特徴部から独立した発明を形成することができる。
【0008】
本発明の第一の側面は、自動横方向操舵を備えた自動車のための電動パワーステアリングのモータの制御量を制限する方法に関する。
【0009】
電動パワーステアリングでは、ステアリング機構(ステアリングコラムまたはステアリングギア)のプログラム制御式電動サーボモータが、ドライバーのステアリング動作をサポートし、ステアリング動作に重なり合わさる。
【0010】
この方法の一のステップは、特に、目標操舵角を少なくとも自動横方向操舵による自動運転のための走行システムから取得し、特に自動車のハンドルからは取得しないことである。
【0011】
この方法の次のステップは、目標操舵角に応じて制御量を決定することである。
【0012】
制御量は、特に、モータの目標トルクであるか又は操舵角コントローラの入力信号としての操舵トルク(Handmoment)であり、操舵角コントローラは、この操舵トルクからモータの目標トルクを決定する。
【0013】
この方法の次のステップは、例えば、電動パワーステアリングのモータから又は別個の操舵角センサから、実際操舵角を取得することである。
【0014】
この方法の次のステップは、目標操舵角と実際操舵角に応じて仮想トーションバートルクを決定することである。
【0015】
特に、ルックアップテーブル、つまり変換テーブルを用いて目標操舵角と実際操舵角に応じて仮想トーションバートルクが決定される。
【0016】
この方法の次のステップは、仮想トーションバートルクに応じて、例えば、同じようにしてルックアップテーブルを用いて、制御量に対する少なくとも一つの制限値を決定することである。
【0017】
この方法の次のステップは、少なくとも一つの制限値に応じて制御量を制限することである。
【0018】
この制限は、制御量が制限値を下回っている場合に、その制御量が変更されずに伝達されるように行なうことができる。制御量が制限値を上回っている場合は、代わりに制限値を伝達することができる。
【0019】
有利な実施形態では、仮想トーションバートルクに応じて制御量に対する少なくとも一つの制限値を決定することは、以下のステップを含む:
・仮想トーションバートルクに応じて制御量に対する上限値を決定すること及び
・仮想トーションバートルクに応じて制御量に対する下限値を決定すること。
【0020】
さらに有利な実施形態では、第一の制御量に対して第一の上限値と第一の下限値が決定される。
【0021】
第二の制御量に対して第二の上限値と第二の下限値が、第二の上限値と第二の下限値との間の隔たりが概ね第一の上限値と第一の下限値との間の隔たりに相当するように決定される。
【0022】
第二の制御量は、特に、時間的に第一の制御量の後に続く。各上限値と各下限値は、制御量の区間を決める。第二の上限値と第二の下限値との間の隔たりが概ね第一の上限値と第一の下限値との間の隔たりに相当する結果、この区間は、実質的にスライドされるに過ぎない。
【0023】
さらに有利な実施形態において、第一の仮想トーションバートルクに対して第一の制限値が決定される。
【0024】
この第一の仮想トーションバートルクよりも大きい第二の仮想トーションバートルクに対して、第一の制限値よりも大きい第二の制限値が決定される。
【0025】
従って、仮想トーションバートルクと制限値との間には概ね線形的な関係が存在する。
【0026】
本発明の第二の側面は、自動横方向操舵を備えた自動車のための電動パワーステアリングのモータの制御量を制限する操縦装置に関する。
【0027】
この操縦装置は、目標操舵角を取得し、目標操舵角に応じて制御量を決定し、実際操舵角を取得し、目標操舵角と実際操舵角に応じて仮想トーションバートルクを決定し、仮想トーションバートルクに応じて制御量に対して少なくとも一つの制限値を決定し、少なくとも一つの制限値に応じて制御量を制限するように設けられている。
【0028】
本発明の第一の側面による本発明の方法についての上記の説明は、本発明の第二の側面による本発明の装置に対しても相応に当てはまり、本発明の装置の有利な実施例は、本発明の方法の上記の有利な実施例に対応する。ここで明示的に述べられていない本発明の車両の有利な実施例は、上述した本発明の方法の有利な実施例に対応する。
【0029】
以下に、本発明を添付の図面を用いながら実施例に基づいて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】自動横方向操舵を備えた自動車のための電動パワーステアリングのモータEMの制御量M,M’を制限する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
制御量M,M’は、例えばモータEMの目標トルクである。
【0032】
一のステップは、例えば、少なくとも自動横方向操舵による自動運転のための走行システムFSから、目標操舵角SLWを取得することである。
【0033】
次のステップは、目標操舵角SLWに応じて制御量Mを決定することである。このステップは、例えば、操舵角コントローラLWRにより実行することができる。
【0034】
次のステップは、例えば、電動パワーステアリングのモータEMから、実際操舵角ILWを取得することである。
【0035】
次のステップは、目標操舵角SLWと実際操舵角ILWに応じて仮想トーションバートルクを決定することであり、ルックアップテーブルLUTを用いて目標操舵角SLWと実際操舵角ILWに応じて仮想トーションバートルクの決定を行なう。
【0036】
次のステップは、仮想トーションバートルクに応じて制御量M,M’に対する少なくとも一つの制限値Gを決定することである。
【0037】
特に、仮想トーションバートルクに応じて制御量M,M’に対する少なくとも一つの制限値Gを決定することは、仮想トーションバートルクに応じて制御量M,M’に対する上限値を決定すること及び仮想トーションバートルクに応じて制御量M,M’に対する下限値を決定することを含む。
【0038】
このとき、例えば、第一の制御量M,M’に対して第一の上限値と第一の下限値が決定され、第二の制御量M,M’に対して第二の上限値と第二の下限値が、第二の上限値と第二の下限値との間の隔たりが概ね第一の上限値と第一の下限値との間の隔たりに相当するように決定される。
【0039】
特に、時間的に連続する第一および第二の仮想トーションバートルクについて、第一の仮想トーションバートルクに対して、第一の制限値が決定され、この第一の仮想トーションバートルクよりも大きい第二の仮想トーションバートルクに対して、第一の制限値よりも大きい第二の制限値が決定される。
【0040】
この方法の次のステップは、少なくとも一つの制限値Gに応じて制御量M,M’を制限することである。
【0041】
この制限は、例えばリミッタLMを用いて、制御量Mが制限値Gを下回っている場合に、その制御量Mが変更されずに制御量M’として伝達されるように行なうことができる。制御量Mが制限値Gを上回っている場合は、その代わりに制御量M’として制限値Gを伝達することができる。