(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】導波管接続構造及びそれを用いた導波管スイッチ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/04 20060101AFI20240319BHJP
H01P 1/12 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
H01P1/04
H01P1/12
(21)【出願番号】P 2022072389
(22)【出願日】2022-04-26
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武元 佑紗
(72)【発明者】
【氏名】待鳥 誠範
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-374101(JP,A)
【文献】特開2007-336299(JP,A)
【文献】特開2020-077955(JP,A)
【文献】特開2016-116015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/04
H01P 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの導波路(11,21)がそれぞれ形成された2つの導波管(10,20)の端面(10b,20a)が、所定の隙間を開けて平行に対向する導波管接続構造(1~4)であって、
前記2つの導波管の少なくとも一方の前記端面において、前記少なくとも1つの導波路の長方形の開口の周囲を囲む位置に設けられた、漏出防止対象周波数に対応する管内波長の1/4に相当する深さのチョーク溝(22)と、
前記2つの導波管の前記端面のうち、前記チョーク溝が設けられた端面と面一な端面(24a)を有する非溝部(24)と、を含み、
前記チョーク溝は、前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第1の内周楕円及び第1の外周楕円を境界とする第1の帯状領域(R1)内に設けられた第1の楕円状溝部(22-1)を含み、
前記第1の内周楕円の短半径は、前記管内波長の1/4に相当し、
前記第1の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第1の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、
前記非溝部は、
前記開口と前記第1の内周楕円の間に設けられた本体部(25)と、
少なくとも前記第1の帯状領域内に設けられ、前記本体部から前記開口の対角線方向に沿って前記開口から離れる方向に延伸する4つの突出壁部(25a,25b,25c,25d)と、を有し、
前記第1の楕円状溝部は、前記開口の長辺側に位置する2つの部分溝部(22a,22b)と、前記開口の短辺側に位置する2つの部分溝部(22c,22d)と、を含み、
前記チョーク溝は、4つの前記部分溝部を、前記第1の帯状領域内又は前記第1の帯状領域外で連通する連通溝部(23)を更に含むことを特徴とする導波管接続構造。
【請求項2】
前記連通溝部は、前記第1の楕円状溝部から前記開口の対角線方向に沿って前記開口から離れる方向に延伸する4つの突出溝部(23a,23b,23c,23d)を前記第1の帯状領域外に含むことを特徴とする請求項1に記載の導波管接続構造。
【請求項3】
前記チョーク溝は、
前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第2の内周楕円及び第2の外周楕円を境界とする第2の帯状領域(R2)内に設けられた第2の楕円状溝部(22-2)と、
前記第1の楕円状溝部と前記第2の楕円状溝部とを連通する帯状領域間溝部(28)と、を更に含み、
前記第2の楕円状溝部は、前記第1の楕円状溝部の外側に設けられ、
前記非溝部は、前記第1の外周楕円と前記第2の内周楕円に接する4つの所定厚さの第1の壁部(29-1a,29-1b,29-1c,29-1d)を更に有し、
前記第2の内周楕円の短半径及び長半径は、前記第1の外周楕円の短半径及び長半径にそれぞれ前記第1の壁部の厚さを加えた値であり、
前記第2の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第2の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、
各前記第1の壁部の端部(29-1e)と前記4つの突出壁部の側壁面(25f)が、前記帯状領域間溝部を挟んで対向し、
前記連通溝部は、前記帯状領域間溝部と前記第2の楕円状溝部とからなることを特徴とする請求項1に記載の導波管接続構造。
【請求項4】
前記チョーク溝は、
前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第3の内周楕円及び第3の外周楕円を境界とする第3の帯状領域(R3)内に設けられた第3の楕円状溝部(22-3)と、
前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第4の内周楕円及び第4の外周楕円を境界とする第4の帯状領域(R4)内に設けられた第4の楕円状溝部(22-4)と、を更に含み、
前記第3の楕円状溝部は、前記第2の楕円状溝部の外側に設けられ、
前記第4の楕円状溝部は、前記第3の楕円状溝部の外側に設けられ、
前記非溝部は、前記第2の外周楕円と前記第3の内周楕円に接する所定厚さの第2の壁部(29-2)と、前記第3の外周楕円と前記第4の内周楕円に接する所定厚さの第3の壁部(29-3)とを更に有し、
前記第3の内周楕円の短半径及び長半径は、前記第2の外周楕円の短半径及び長半径にそれぞれ前記第2の壁部の厚さを加えた値であり、
前記第4の内周楕円の短半径及び長半径は、前記第3の外周楕円の短半径及び長半径にそれぞれ前記第3の壁部の厚さを加えた値であり、
前記第3の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第3の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、
前記第4の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第4の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、
前記第3の楕円状溝部と前記第2の楕円状溝部とは前記第2の壁部で分離されており、
前記第4の楕円状溝部と前記第3の楕円状溝部とは前記第3の壁部で分離されていることを特徴とする請求項3に記載の導波管接続構造。
【請求項5】
ベース部(31)と、
前記ベース部に固定され、金属壁で囲まれた少なくとも1つの導波路(41,42,43)が第1の端面(40a)から第2の端面(40b)まで貫通して形成された第1の固定導波管ブロック(40)と、
前記ベース部に固定され、前記第1の固定導波管ブロックの前記第2の端面に平行な第3の端面(50a)を有し、金属壁で囲まれた少なくとも1つの導波路(51)が前記第3の端面から第4の端面(50b)まで貫通して形成された第2の固定導波管ブロック(50)と、
前記第1の固定導波管ブロックの前記第2の端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第5の端面(60a)と、第2の固定導波管ブロックの前記第3の端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第6の端面(60b)とを有し、金属壁で囲まれた複数の導波路(61,62,63)が、前記第5の端面から前記第6の端面まで貫通して形成され、前記第1の固定導波管ブロックの前記第2の端面及び第2の固定導波管ブロックの前記第3の端面に対して平行にスライド移動可能な状態で前記ベース部に支持された可動導波管ブロック(60)と、
前記ベース部に設けられ、前記可動導波管ブロックをスライド移動させる駆動装置(70)と、を有し、
前記可動導波管ブロックは、前記第1の固定導波管ブロック及び前記第2の固定導波管ブロックに対してスライド移動し、異なる複数の位置で、前記可動導波管ブロックの前記複数の導波路のいずれかが、前記第1の固定導波管ブロックの少なくとも1つの導波路のいずれかと前記前記第2の固定導波管ブロックの少なくとも1つの導波路のいずれかとの間を選択的に接続する導波管スイッチであって、
前記第1の固定導波管ブロックの前記第2の端面と、前記可動導波管ブロックの前記第5の端面との少なくとも一方、並びに、前記第2の固定導波管ブロックの前記第3の端面と、前記可動導波管ブロックの前記第6の端面との少なくとも一方において、各前記導波路の長方形の開口の周囲を囲む位置に設けられた、漏出防止対象周波数に対応する管内波長の1/4に相当する深さのチョーク溝(22)と、
前記第2の端面、前記第3の端面、前記第5の端面、及び前記第6の端面のうち、前記チョーク溝が設けられた端面と面一な端面を有する非溝部(24)と、を含み、
前記チョーク溝は、前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第1の内周楕円(e11)及び第1の外周楕円(e12)を境界とする第1の帯状領域(R1)内に設けられた第1の楕円状溝部(22-1)を含み、
前記第1の内周楕円の短半径は、前記管内波長の1/4に相当し、
前記第1の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第1の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、
前記非溝部は、
前記開口と前記第1の内周楕円の間に設けられた本体部(25)と、
少なくとも前記第1の帯状領域内に設けられ、前記本体部から前記開口の対角線方向に沿って前記開口から離れる方向に延伸する4つの突出壁部(25a,25b,25c,25d)と、を有し、
前記第1の楕円状溝部は、前記開口の長辺側に位置する2つの部分溝部(22a,22b)と、前記開口の短辺側に位置する2つの部分溝部(22c,22d)と、を含み、
前記チョーク溝は、4つの前記部分溝部を、前記第1の帯状領域内又は前記第1の帯状領域外で連通する連通溝部(23)を更に含むことを特徴とする導波管スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管接続構造及びそれを用いた導波管スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
今後更なる増大が予想されるモバイルトラフィックに対応するため、数十Gbps級の伝送速度を実現することが可能なミリ波・テラヘルツ波帯を無線通信に利用することが強く求められており、例えばIEEE802.15.3dでは、252~325GHzの使用が検討されている。
【0003】
例えば、WR-3帯域(220~325GHz)の電磁波を伝搬させる伝搬経路としては、内寸が0.864mm×0.432mmの方形導波管が用いられる。このような方形導波管同士を結合するためのチョークフランジとしては、導波管開口からの電磁波の漏れを防ぐために、長方形のチョーク溝が形成された構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図18は、フランジ面において導波路91の開口の周囲に長方形のチョーク溝92-1~92-3が形成されたWR-3帯域用の導波管90を、フランジ面が平坦な導波管80に所定の隙間gを設けて結合する従来の導波管接続構造を示している。
【0005】
図19は、
図18に示した3重のチョーク溝92-1~92-3の拡大図である。各チョーク溝92-1~92-3は、所定幅と所定深さを有する矩形枠状に連続した溝であり、導波路91の開口の中心位置に対して互いに同心に設けられている。各チョーク溝92-1~92-3の深さと、導波路91の開口の端から最も近いチョーク溝92-1の内側までの距離は、管内波長をλgとすると、それぞれλg/4に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図20(a)は、チョーク溝が形成されていない2つの方形の導波管80',90'を、所定の隙間gを開けて平行に対向させた従来の導波管接続構造を示す斜視図である。導波管80'には導波路81'が形成され、導波管90'には導波路91'が形成されている。導波管80',90'は、WR-3帯域を透過帯域とするWR-3導波管に相当する。
【0008】
図20(b)は、
図20(a)の構造において、使用周波数を280GHzとし、隙間gを300μmとした場合の電界の面内分布のシミュレーション結果を示している。なお、
図20(b)では、シミュレーション結果の画像に、導波路91'の位置を示す長方形と、電磁波の等位相面(波面)の位置を示す楕円及び円を重ね合わせている。
【0009】
図20(b)のシミュレーション結果によれば、導波路91'から放射されて隙間gの空隙へ漏れ出る電磁波の等位相面は、導波路91'の中心から1波長以上離れるとほぼ円形(例えば、図中のwf1)となるが、導波路91'の中心付近では楕円に近い形状(例えば、図中のwf2)となる。また、隙間gの空隙へ漏れ出る電磁波の電界は、扇状に広がっており、導波路91'の長方形の開口の長辺に垂直な方向が最も強いことが分かる。
【0010】
しかしながら、
図18及び
図19に示したような従来のチョークフランジは、チョーク溝92-1~92-3の形状が、扇状に広がる電界に対応したものではなかったため、WR-3帯域において、不要な共振モードの存在により、電磁波の漏出を実用上の許容範囲内に抑えることができないという問題があった。このチョークフランジにおける不要な共振モードは、直線的なチョーク溝92-1~92-3により反射された電磁波が、チョーク溝92-1~92-3への入射波と打ち消し合うことなく、導波路91'とチョーク溝92-1~92-3の間で互いに干渉することで生じるものと考えられる。
【0011】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、対向する2つの導波管の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる導波管接続構造及びそれを用いた導波管スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る導波管接続構造は、少なくとも1つの導波路がそれぞれ形成された2つの導波管の端面が、所定の隙間を開けて平行に対向する導波管接続構造であって、前記2つの導波管の少なくとも一方の前記端面において、前記少なくとも1つの導波路の長方形の開口の周囲を囲む位置に設けられた、漏出防止対象周波数に対応する管内波長の1/4に相当する深さのチョーク溝と、前記2つの導波管の前記端面のうち、前記チョーク溝が設けられた端面と面一な端面を有する非溝部と、を含み、前記チョーク溝は、前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第1の内周楕円及び第1の外周楕円を境界とする第1の帯状領域内に設けられた第1の楕円状溝部を含み、前記第1の内周楕円の短半径は、前記管内波長の1/4に相当し、前記第1の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第1の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、前記非溝部は、前記開口と前記第1の内周楕円の間に設けられた本体部と、少なくとも前記第1の帯状領域内に設けられ、前記本体部から前記開口の対角線方向に沿って前記開口から離れる方向に延伸する4つの突出壁部と、を有し、前記第1の楕円状溝部は、前記開口の長辺側に位置する2つの部分溝部と、前記開口の短辺側に位置する2つの部分溝部と、を含み、前記チョーク溝は、4つの前記部分溝部を、前記第1の帯状領域内又は前記第1の帯状領域外で連通する連通溝部を更に含む構成である。
【0013】
つまり、本発明に係る導波管接続構造は、2つの導波管の間の所定の隙間に漏れる電磁波の電界の強い領域をカバーする形状のチョーク溝が、2つの導波管の少なくとも一方の端面に形成された構造である。また、本発明に係る導波管接続構造は、チョーク溝を構成する4つの部分溝部を、第1の帯状領域の内部又は外部で互いに連通する連通溝部を含む構造である。このような構成により、本発明に係る導波管接続構造は、導波管とチョーク溝の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、対向する2つの導波管の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0014】
また、本発明に係る導波管接続構造においては、前記連通溝部は、前記第1の楕円状溝部から前記開口の対角線方向に沿って前記開口から離れる方向に延伸する4つの突出溝部を前記第1の帯状領域外に含む構成であってもよい。
【0015】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、チョーク溝を構成する4つの部分溝部を第1の帯状領域外で互いに連通することにより、導波管とチョーク溝の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、対向する2つの導波管の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0016】
また、本発明に係る導波管接続構造においては、前記チョーク溝は、前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第2の内周楕円及び第2の外周楕円を境界とする第2の帯状領域内に設けられた第2の楕円状溝部と、前記第1の楕円状溝部と前記第2の楕円状溝部とを連通する帯状領域間溝部と、を更に含み、前記第2の楕円状溝部は、前記第1の楕円状溝部の外側に設けられ、前記非溝部は、前記第1の外周楕円と前記第2の内周楕円に接する4つの所定厚さの第1の壁部を更に有し、前記第2の内周楕円の短半径及び長半径は、前記第1の外周楕円の短半径及び長半径にそれぞれ前記第1の壁部の厚さを加えた値であり、前記第2の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第2の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、各前記第1の壁部の端部と前記4つの突出壁部の側壁面が、前記帯状領域間溝部を挟んで対向し、前記連通溝部は、前記帯状領域間溝部と前記第2の楕円状溝部とからなる構成であってもよい。
【0017】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、チョーク溝22を構成する4つの部分溝部を第1の帯状領域外で互いに連通することにより、導波管とチョーク溝の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、対向する2つの導波管の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0018】
また、本発明に係る導波管接続構造においては、前記チョーク溝は、前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第3の内周楕円及び第3の外周楕円を境界とする第3の帯状領域内に設けられた第3の楕円状溝部と、前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第4の内周楕円及び第4の外周楕円を境界とする第4の帯状領域内に設けられた第4の楕円状溝部と、を更に含み、前記第3の楕円状溝部は、前記第2の楕円状溝部の外側に設けられ、前記第4の楕円状溝部は、前記第3の楕円状溝部の外側に設けられ、前記非溝部は、前記第2の外周楕円と前記第3の内周楕円に接する所定厚さの第2の壁部と、前記第3の外周楕円と前記第4の内周楕円に接する所定厚さの第3の壁部とを更に有し、前記第3の内周楕円の短半径及び長半径は、前記第2の外周楕円の短半径及び長半径にそれぞれ前記第2の壁部の厚さを加えた値であり、前記第4の内周楕円の短半径及び長半径は、前記第3の外周楕円の短半径及び長半径にそれぞれ前記第3の壁部の厚さを加えた値であり、前記第3の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第3の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、前記第4の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第4の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、前記第3の楕円状溝部と前記第2の楕円状溝部とは前記第2の壁部で分離されており、前記第4の楕円状溝部と前記第3の楕円状溝部とは前記第3の壁部で分離されている構成であってもよい。
【0019】
この構成により、本発明に係る導波管接続構造は、チョーク溝を構成する4つの部分溝部を、第1の帯状領域外で互いに連通することにより、導波管とチョーク溝の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、対向する2つの導波管の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0020】
特に、本発明に係る導波管接続構造は、最も内側の第1の内周楕円から最も外側の第4の外周楕円に向かうにつれて、各内周楕円及び外周楕円の楕円率が1に近づいていく構造である。これは、
図20(b)に示した隙間gの空隙へ漏れ出る電磁波の等位相面の変化に沿った構造になっている。これにより、本発明に係る導波管接続構造は、上記の他の導波管接続構造よりも更に効果的に、対向する2つの導波管の接続箇所からの電磁波の漏出を抑えることができる。
【0021】
また、本発明に係る導波管スイッチは、ベース部と、前記ベース部に固定され、金属壁で囲まれた少なくとも1つの導波路が第1の端面から第2の端面まで貫通して形成された第1の固定導波管ブロックと、前記ベース部に固定され、前記第1の固定導波管ブロックの前記第2の端面に平行な第3の端面を有し、金属壁で囲まれた少なくとも1つの導波路が前記第3の端面から第4の端面まで貫通して形成された第2の固定導波管ブロックと、前記第1の固定導波管ブロックの前記第2の端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第5の端面と、第2の固定導波管ブロックの前記第3の端面に所定の隙間を開けて平行に対向する第6の端面とを有し、金属壁で囲まれた複数の導波路が、前記第5の端面から前記第6の端面まで貫通して形成され、前記第1の固定導波管ブロックの前記第2の端面及び第2の固定導波管ブロックの前記第3の端面に対して平行にスライド移動可能な状態で前記ベース部に支持された可動導波管ブロックと、前記ベース部に設けられ、前記可動導波管ブロックをスライド移動させる駆動装置と、を有し、前記可動導波管ブロックは、前記第1の固定導波管ブロック及び前記第2の固定導波管ブロックに対してスライド移動し、異なる複数の位置で、前記可動導波管ブロックの前記複数の導波路のいずれかが、前記第1の固定導波管ブロックの少なくとも1つの導波路のいずれかと前記前記第2の固定導波管ブロックの少なくとも1つの導波路のいずれかとの間を選択的に接続する導波管スイッチであって、前記第1の固定導波管ブロックの前記第2の端面と、前記可動導波管ブロックの前記第5の端面との少なくとも一方、並びに、前記第2の固定導波管ブロックの前記第3の端面と、前記可動導波管ブロックの前記第6の端面との少なくとも一方において、各前記導波路の長方形の開口の周囲を囲む位置に設けられた、漏出防止対象周波数に対応する管内波長の1/4に相当する深さのチョーク溝と、前記第2の端面、前記第3の端面、前記第5の端面、及び前記第6の端面のうち、前記チョーク溝が設けられた端面と面一な端面を有する非溝部と、を含み、前記チョーク溝は、前記開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が前記開口の長辺に平行な第1の内周楕円及び第1の外周楕円を境界とする第1の帯状領域内に設けられた第1の楕円状溝部を含み、前記第1の内周楕円の短半径は、前記管内波長の1/4に相当し、前記第1の外周楕円の短半径及び長半径は、前記第1の内周楕円の短半径及び長半径よりも前記管内波長の1/4に相当する長さだけ長く、前記非溝部は、前記開口と前記第1の内周楕円の間に設けられた本体部と、少なくとも前記第1の帯状領域内に設けられ、前記本体部から前記開口の対角線方向に沿って前記開口から離れる方向に延伸する4つの突出壁部と、を有し、前記第1の楕円状溝部は、前記開口の長辺側に位置する2つの部分溝部と、前記開口の短辺側に位置する2つの部分溝部と、を含み、前記チョーク溝は、4つの前記部分溝部を、前記第1の帯状領域内又は前記第1の帯状領域外で連通する連通溝部を更に含む構成である。
【0022】
この構成により、本発明に係る導波管スイッチは、上記の導波管接続構造を可動導波管ブロック、第1の固定導波管ブロック、及び第2の固定導波管ブロックに用いることで、不要な共振モードによる周波数特性劣化を広帯域にわたって改善し、第1の固定導波管ブロックと可動導波管ブロックの間の隙間と、第2の固定導波管ブロックと可動導波管ブロックの間の隙間における意図しない電磁波の漏出を抑えることができる。
【0023】
また、本発明に係る導波管スイッチは、上記の導波管接続構造を可動導波管ブロック、第1の固定導波管ブロック、及び第2の固定導波管ブロックに用いることで、第1の固定導波管ブロックと可動導波管ブロックの間の隙間と、第2の固定導波管ブロックと可動導波管ブロックの間の隙間を従来よりも広く取れるため、機械加工精度が緩和され、経年変化への耐性も高くなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、対向する2つの導波管の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる導波管接続構造及びそれを用いた導波管スイッチを提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造を示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造におけるチョーク溝の構成の一例と、導波管接続構造の導波路の開口の中心を含む断面を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造における第1の帯状領域を説明するための図である。
【
図4】(a)は本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造の反射損失及び挿入損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(b)は(a)の0dB付近を拡大したグラフであり、(c)は本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造の隙間からの電磁波の漏出のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図5】(a)は本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造におけるチョーク溝の構成の他の一例を示す図であり、(b)は4つの突出壁部の延伸方向の長さを変化させたときの本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造の挿入損失の共振ピーク周波数の変化を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る導波管接続構造におけるチョーク溝の構成の一例を示す図である。
【
図7】(a)は本発明の第2の実施形態に係る導波管接続構造の反射損失及び挿入損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(b)は(a)の0dB付近を拡大したグラフであり、(c)は本発明の第2の実施形態に係る導波管接続構造の隙間からの電磁波の漏出のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図8】(a)は本発明の第3の実施形態に係る導波管接続構造におけるチョーク溝の構成の一例を示す図であり、(b)は本発明の第3の実施形態に係る導波管接続構造における第1及び第2の帯状領域を説明するための図である。
【
図9】(a)は本発明の第3の実施形態に係る導波管接続構造の反射損失及び挿入損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(b)は(a)の0dB付近を拡大したグラフであり、(c)は本発明の第3の実施形態に係る導波管接続構造の隙間からの電磁波の漏出のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図10】本発明の第4の実施形態に係る導波管接続構造におけるチョーク溝の構成の一例を示す図である。
【
図11】本発明の第4の実施形態に係る導波管接続構造における第1~第4の帯状領域を説明するための図である。
【
図12】(a)は本発明の第4の実施形態に係る導波管接続構造の反射損失及び挿入損失のシミュレーション結果を示すグラフであり、(b)は(a)の0dB付近を拡大したグラフであり、(c)は本発明の第4の実施形態に係る導波管接続構造の隙間からの電磁波の漏出のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図13】本発明の実施形態に係る導波管接続構造を備える導波管スイッチの分解斜視図である。
【
図14】本発明の実施形態に係る導波管接続構造を備える導波管スイッチの側面図である。
【
図15】本発明の実施形態に係る導波管接続構造を備える導波管スイッチの平面図である。
【
図16】本発明の実施形態に係る導波管スイッチの動作説明図(その1)である。
【
図17】本発明の実施形態に係る導波管スイッチの動作説明図(その2)である。
【
図18】従来の導波管接続構造を示す斜視図である。
【
図19】従来の導波管接続構造におけるチョーク構造を示す拡大正面図である。
【
図20】(a)は従来の導波管接続構造の他の例を示す斜視図であり、(b)は(a)の導波管接続構造の隙間における電界の面内分布のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る導波管接続構造及びそれを用いた導波管スイッチの実施形態について、図面を用いて説明する。
【0027】
(第1の実施形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る導波管接続構造1は、2つの導波管10,20の端面10b,20aが、所定の隙間gを開けて平行に対向する構造である。導波管10には導波路11が形成され、導波管20には導波路21が形成されている。例えば、導波管10と導波管20は、内寸が0.864mm×0.432mmであり、WR-3帯域(220~325GHz)を透過帯域とするWR-3導波管に相当する。なお、後述する第1の固定導波管ブロック40や可動導波管ブロック60のように、導波管10,20には複数の導波路が形成されていてもよい。
【0028】
導波管10の端面10b又は導波管20の端面20aのいずれか一方又は両方には、導波路11又は導波路21のいずれか一方又は両方の長方形の開口の周囲を囲む位置に、端面10b,20a間の隙間gからの電磁波漏出を防止するためのチョーク溝22が設けられている。以下では、主に、導波管20の端面20aに設けられたチョーク溝22に注目して説明する。
【0029】
チョーク溝22の内壁面は、端面20aに対して垂直である。また、チョーク溝22の深さは、漏出防止対象周波数に対応する管内波長λgの1/4に相当する。本実施形態においては、漏出防止対象周波数は、WR-3帯域(220~325GHz)の中心周波数である272.5GHzとする。このとき、管内波長λgは、約1.43mmである。ここで、管内波長λgの1/4に相当する深さとは、管内波長λgの1/4の±20%の範囲の深さを指すものとする。なお、漏出防止対象周波数は、上記の値に限定されるものではなく、導波管10及び導波管20のサイズに応じたWR-3帯域又はそれ以外の所望の周波数帯域内の任意の周波数であってもよい。
【0030】
図2の上段は、チョーク溝22の構成例を示している。
図2の下段は、導波管接続構造1の導波路11,21の開口の中心を含む断面を示している。幾何光学的には、電磁波の等位相面に沿った曲面鏡を電磁波の伝搬経路上に置けば、曲面鏡で反射された電磁波の反射波は、曲面鏡に入射した電磁波の入射波の進行方向を逆向きにたどる。このため、導波路21の開口の中心から位相推移がπ/2(1/4波長)となる位置に、導波路21から空隙に漏れて導波路11に直接入射しない放射波の等位相面に沿った楕円形状の曲面鏡(チョーク溝22)を形成すれば、チョーク溝22での放射波の反射波は、放射波の入射波と逆相になり打ち消し合う。つまり、チョーク溝22により不要な放射波を抑圧できると推測される。
【0031】
チョーク溝22は、導波路21の長方形の開口の中心を中心とするとともに、第1の帯状領域R1内に設けられた第1の楕円状溝部22-1を含む。ここで、第1の帯状領域R1とは、
図3に示すように、長軸方向が導波路21の長方形の開口の長辺に平行な第1の内周楕円e11及び第1の外周楕円e12を境界とする領域である。第1の内周楕円e11及び第1の外周楕円e12の中心は、導波路21の長方形の開口の中心に等しい。
【0032】
ここで、第1の内周楕円e11の短半径rs11は、管内波長λgの1/4に相当する長さである。また、第1の外周楕円e12の短半径rs12及び長半径rl12は、第1の内周楕円e11の短半径rs11及び長半径rl11よりも管内波長λgの1/4に相当する長さだけ長い。ここで、管内波長λgの1/4に相当する長さとは、管内波長λgの1/4の±20%の範囲の長さを指すものとする。
【0033】
図2に戻り、第1の楕円状溝部22-1は、導波路21の開口の長辺側に位置する2つの部分溝部22a,22bと、導波路21の開口の短辺側に位置する2つの部分溝部22c,22dと、を含む。さらに、チョーク溝22は、第1の楕円状溝部22-1の4つの部分溝部22a~22dを、第1の帯状領域R1内又は第1の帯状領域R1外で連通する連通溝部23を含む。
【0034】
2つの部分溝部22a,22bは、第1の帯状領域R1内において、第1の内周楕円e11及び第1の外周楕円e12に接している。これら2つの部分溝部22a,22bは、
図20(b)のシミュレーション結果で示した、扇状に広がる電界の強い領域をカバーした形状となっている。また、2つの部分溝部22c,22dも、第1の帯状領域R1内において、第1の内周楕円e11及び第1の外周楕円e12に接している。
【0035】
連通溝部23は、第1の楕円状溝部22-1から導波路21の開口の対角線方向に沿って導波路21の開口から離れる方向に延伸する4つの突出溝部23a,23b,23c,23dを第1の帯状領域R1外に含む。
【0036】
さらに、導波管接続構造1は、端面10b及び端面20aのうち、チョーク溝22が設けられた端面と面一な端面24a(
図1参照)を有する非溝部24を含む。非溝部24は、導波路21の開口と第1の内周楕円e11の間に設けられた本体部25と、少なくとも第1の帯状領域R1内に設けられ、本体部25から導波路21の開口の対角線方向に沿って導波路21の開口から離れる方向に延伸する4つの突出壁部25a,25b,25c,25dと、を有する。
【0037】
本実施形態の導波管接続構造1におけるチョーク溝22の寸法の一例は下記のとおりである。
【0038】
図2に示すように、第1の内周楕円e11の短半径rs11は0.4mmであり、これはWR-3帯域の管内波長λgの1/4に相当する距離である。第1の内周楕円e11の長半径rl11は0.55mmである。第1の外周楕円e12の短半径rs12は、0.76(=0.4+0.25λg)mmである。第1の外周楕円e12の長半径rl12は0.91(=0.55+0.25λg)mmである。4つの突出壁部25a~25dの延伸方向が第1の内周楕円e11及び第1の外周楕円e12の長軸に対して成す角度は、いずれも26.5°である。4つの突出壁部25a~25dの幅W1は0.1mmである。チョーク溝22の深さは、0.34(=0.24λg)mmである。端面10b,20a間の隙間gは、0.1mmである。
【0039】
4つの突出壁部25a~25dの延伸方向の長さL1は、いずれも0.424mmである。ここで、長さL1は、各突出壁部25a~25dの先端面25eから、導波路21の開口の頂点を通り各突出壁部25a~25dの延伸方向に垂直な直線までの距離である。
【0040】
4つの突出溝部23a~23dの幅W2は、いずれも0.3mmである。4つの突出溝部23a~23dの延伸方向の長さL2は、いずれも0.554mmである。ここで、長さL2は、各突出溝部23a~23dの先端面23eから、導波路21の開口の頂点を通り各突出溝部23a~23dの延伸方向に垂直な直線までの距離である。
【0041】
なお、各突出壁部25a~25dの先端面25eが、第1の帯状領域R1外に到達するとともに、各突出溝部23a~23dの先端面23eとの間に隙間を設けるように、突出壁部25a~25dが延伸していてもよい。
【0042】
図4(a)、(b)及び(c)は、
図2の構造における導波路11と導波路21の間の反射損失S
11、挿入損失S
21、及び電磁波の漏出のシミュレーション結果を示している。
図4(b)は
図4(a)の0dB付近を拡大したグラフである。このシミュレーションでは、
図2に示すポートP1側の導波管10から、ポートP2側の導波管20に向かって電磁波が入射するとしている。ここで、漏出(Leak)は、下記の式(1)で表される。
【0043】
Leak (dB) = 10log{1-(S11
2+S21
2)} ・・・(1)
【0044】
図4(a)に示すように、WR-3帯域(220~325GHz、比帯域約40%)を含む広い周波数範囲にわたって、反射損失S
11が-15dB未満に抑えられることが確認できた。また、
図4(b)に示すように、挿入損失S
21については、WR-3帯域にわたって、-0.25dBよりも高い(0dBに近い)良好な値を示すことが確認できた。さらには
図4(c)に示すように、
図2の構造における導波路11と導波路21の間からの電磁波の漏出については、WR-3帯域にわたって、-15dB未満に抑えられることが確認できた。
【0045】
なお、ポートP1側を導波管20とし、ポートP2側を導波管10とした場合も、導波路11と導波路21の間の反射損失S11、挿入損失S21、及び漏出の値に変化はなかった。
【0046】
図5(a)は、本実施形態の導波管接続構造1におけるチョーク溝22の寸法の他の例を示している。
【0047】
第1の内周楕円e11の短半径rs11は0.4mmであり、第1の内周楕円e11の長半径rl11は0.6mmである。第1の外周楕円e12の短半径rs12は、0.76(=0.4+λg/4)mmである。第1の外周楕円e12の長半径rl12は0.96(=0.6+λg/4)mmである。4つの突出壁部25a~25dの延伸方向が第1の内周楕円e11及び第1の外周楕円e12の長軸に対して成す角度は、いずれも26.5°である。チョーク溝22の深さは、0.36(=λg/4)mmである。
【0048】
4つの突出壁部25a~25dの幅W1は0.1mmである。4つの突出溝部23a~23dの幅W2は、いずれも0.2mmである。4つの突出溝部23a~23dの延伸方向の長さL2は、いずれも0.813mmである。
【0049】
図5(b)は、4つの突出壁部25a~25dの延伸方向の長さL1を変化させたときの挿入損失S
21の共振ピーク周波数の変化を示すグラフである。具体的には、L1が0.381mm、0.467mm、0.554mm、0.640mm、0.727mmのときの共振ピーク周波数は、それぞれ、209.2GHz、198.4GHz、192.4GHz、188.8GHz、187.6GHzである。このように、L1を長くするほど、挿入損失S
21の共振ピーク周波数が低周波数側にシフトする。このとき、共振ピーク周波数はL2の長さに依存しない。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係る導波管接続構造1は、導波管10と導波管20の間の所定の隙間gに漏出する電磁波の電界の強い領域をカバーする形状のチョーク溝22が、端面10b及び端面20aのいずれか一方又は両方に形成された構造である。また、本実施形態に係る導波管接続構造1は、チョーク溝22を構成する4つの部分溝部22a~22dを、第1の帯状領域R1外で互いに連通する連通溝部23を含む構造である。このような構成により、本実施形態に係る導波管接続構造1は、導波管20とチョーク溝22の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、対向する2つの導波管10,20の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0051】
例えば、本実施形態に係る導波管接続構造1は、管内波長λgの1/15波長程度までの所定の隙間gに対して、WR-3導波管の動作周波数範囲全体(比帯域約40%)にわたり、反射損失S11を-15dB未満に抑え、挿入損失S21の絶対値を0.25dB未満に抑え、電磁波の漏出を-15dB未満に抑えることができる。
【0052】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係る導波管接続構造について、図面を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0053】
図6は、本実施形態の導波管接続構造2におけるチョーク溝22の構成を示している。本実施形態の導波管接続構造2は、連通溝部23が4つの突出溝部23a~23dを含まない点で、第1の実施形態の導波管接続構造1と異なる。
【0054】
本実施形態の導波管接続構造2においては、チョーク溝22は、第1の帯状領域R1内に設けられた第1の楕円状溝部22-1のみからなる。4つの突出壁部25a~25dの先端面25eと、第1の外周楕円e12に沿った第1の楕円状溝部22-1の内壁面22-1aとの間には隙間が設けられており、この隙間が連通溝部23を構成する。
【0055】
すなわち、本実施形態における連通溝部23は、4つの部分溝部22a~22dを第1の帯状領域内Rで連通するようになっている。
【0056】
図7(a)、(b)及び(c)は、本実施形態の導波管接続構造2における導波路11と導波路21の間の反射損失S
11、挿入損失S
21、及び電磁波の漏出のシミュレーション結果を示している。
図7(b)は
図7(a)の0dB付近を拡大したグラフである。このシミュレーションでは、ポートP1側の導波管10から、ポートP2側の導波管20に向かって電磁波が入射するとしている。また、チョーク溝22は、導波管20の端面20a側のみに形成されているとしている。
【0057】
図7(a)に示すように、WR-3帯域(220~325GHz、比帯域約40%)を含む広い周波数範囲にわたって、反射損失S
11が-15dB未満に抑えられることが確認できた。また、
図7(b)に示すように、挿入損失S
21については、WR-3帯域にわたって、-0.25dBよりも高い(0dBに近い)良好な値を示すことが確認できた。さらには
図7(c)に示すように、導波路11と導波路21の間からの電磁波の漏出については、WR-3帯域にわたって、-15dB未満に抑えられることが確認できた。
【0058】
なお、ポートP1側を導波管20とし、ポートP2側を導波管10とした場合も、導波路11と導波路21の間の反射損失S11、挿入損失S21、及び漏出の値に変化はなかった。
【0059】
以上説明したように、本実施形態に係る導波管接続構造2は、導波管10と導波管20の間の所定の隙間gに漏出する電磁波の電界の強い領域をカバーする形状のチョーク溝22が、端面10b及び端面20aのいずれか一方又は両方に形成された構造である。また、本実施形態に係る導波管接続構造2は、チョーク溝22を構成する4つの部分溝部22a~22dを、第1の帯状領域R1内で互いに連通する連通溝部23を含む構造である。このような構成により、本実施形態に係る導波管接続構造2は、導波管20とチョーク溝22の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、対向する2つの導波管10,20の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0060】
例えば、本実施形態に係る導波管接続構造2は、管内波長λgの1/15波長程度までの所定の隙間gに対して、WR-3導波管の動作周波数範囲全体(比帯域約40%)にわたり、反射損失S11を-15dB未満に抑え、挿入損失S21の絶対値を0.25dB未満に抑え、電磁波の漏出を-15dB未満に抑えることができる。
【0061】
(第3の実施形態)
続いて、本発明の第3の実施形態に係る導波管接続構造について、図面を参照しながら説明する。なお、第1及び第2の実施形態と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0062】
図8(a)は、本実施形態の導波管接続構造3におけるチョーク溝22の構成を示している。チョーク溝22は、第1の帯状領域R1内に設けられた第1の楕円状溝部22-1と、第2の帯状領域R2内に設けられた第2の楕円状溝部22-2と、第1の楕円状溝部22-1と第2の楕円状溝部22-2とを連通する帯状領域間溝部28と、を含む。すなわち、本実施形態においては、連通溝部23は、帯状領域間溝部28と第2の楕円状溝部22-2とからなる。
【0063】
第2の楕円状溝部22-2は、第1の楕円状溝部22-1の外側に設けられる。ここで、第2の帯状領域R2とは、
図8(b)に示すように、長軸方向が導波路21の長方形の開口の長辺に平行な第2の内周楕円e21及び第2の外周楕円e22を境界とする領域である。第2の内周楕円e21及び第2の外周楕円e22の中心は、導波路21の長方形の開口の中心に等しい。
【0064】
ここで、第2の内周楕円e21の短半径rs21は、第1の外周楕円e12の短半径rs12に後述する第1の壁部29-1a,29-1b,29-1c,29-1dの短半径方向の厚さd1を加えた値である。同様に、第2の内周楕円e21の長半径rl21は、第1の外周楕円e12の長半径rl12に第1の壁部29-1a~29-1dの長半径方向の厚さd1を加えた値である。
【0065】
また、第2の外周楕円e22の短半径rs22及び長半径rl22は、第2の内周楕円e21の短半径rs21及び長半径rl21よりも管内波長λgの1/4に相当する長さだけ長い。
【0066】
図8(a)に戻り、非溝部24は、本体部25と、4つの突出壁部25a~25dと、第1の外周楕円e12と第2の内周楕円e21に接する4つの所定厚さの第1の壁部29-1a~29-1dと、を有する。各第1の壁部29-1a~29-1dの端部29-1eと4つの突出壁部25a~25dの側壁面25fは、帯状領域間溝部28を挟んで対向している。
【0067】
図8(a)及び(b)に示した例では、突出壁部25a~25dの先端面25eが第2の内周楕円e21に一致しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、突出壁部25a~25dの先端面25eが、第2の帯状領域R2に到達するとともに、第2の外周楕円e22に沿った第2の楕円状溝部22-2の内壁面22-2aとの間に隙間を設けるように、突出壁部25a~25dが延伸していてもよい。
【0068】
また、第1の壁部29-1a~29-1dは、4つに分離されていなくてもよく、第1の外周楕円e12と第2の内周楕円e21に接する1つの楕円枠状の壁部であってもよい。この場合には、突出壁部25a~25dの先端面25eが、第1の帯状領域R1内で、1つの楕円枠状の第1の壁部の第1の外周楕円e12に沿った内壁面22-1aとの間に隙間を設けるように、突出壁部25a~25dが延伸することになる。
【0069】
図9(a)、(b)及び(c)は、本実施形態の導波管接続構造3における導波路11と導波路21の間の反射損失S
11、挿入損失S
21、及び電磁波の漏出のシミュレーション結果を示している。
図9(b)は
図9(a)の0dB付近を拡大したグラフである。このシミュレーションでは、ポートP1側の導波管10から、ポートP2側の導波管20に向かって電磁波が入射するとしている。また、チョーク溝22は、導波管20の端面20a側のみに形成されているとしている。
【0070】
図9(a)に示すように、WR-3帯域(220~325GHz、比帯域約40%)を含む広い周波数範囲にわたって、反射損失S
11が-15dB未満程度に抑えられることが確認できた。また、
図9(b)に示すように、挿入損失S
21については、WR-3帯域にわたって、-0.35dBよりも高い(0dBに近い)良好な値を示すことが確認できた。さらには
図9(c)に示すように、導波路11と導波路21の間からの電磁波の漏出については、WR-3帯域にわたって、-30dB未満に抑えられることが確認できた。
【0071】
なお、ポートP1側を導波管20とし、ポートP2側を導波管10とした場合も、導波路11と導波路21の間の反射損失S11、挿入損失S21、及び漏出の値に変化はなかった。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る導波管接続構造3は、導波管10と導波管20の間の所定の隙間gに漏出する電磁波の電界の強い領域をカバーする形状のチョーク溝22が、端面10b及び端面20aのいずれか一方又は両方に形成された構造である。また、本実施形態に係る導波管接続構造3は、チョーク溝22を構成する4つの部分溝部22a~22dを、第1の帯状領域R1外で互いに連通する連通溝部23を含む構造である。このような構成により、本実施形態に係る導波管接続構造3は、導波管20とチョーク溝22の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、対向する2つの導波管10,20の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0073】
例えば、本実施形態に係る導波管接続構造3は、管内波長λgの1/15波長程度までの所定の隙間gに対して、WR-3導波管の動作周波数範囲全体(比帯域約40%)にわたり、反射損失S11を-15dB未満に抑え、挿入損失S21の絶対値を0.35dB未満に抑え、電磁波の漏出を-30dB未満に抑えることができる。
【0074】
(第4の実施形態)
続いて、本発明の第4の実施形態に係る導波管接続構造について、図面を参照しながら説明する。なお、第1~第3の実施形態と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
【0075】
図10は、本実施形態の導波管接続構造4におけるチョーク溝22の構成を示している。チョーク溝22は、第1の帯状領域R1内に設けられた第1の楕円状溝部22-1と、第2の帯状領域R2内に設けられた第2の楕円状溝部22-2と、第3の帯状領域R3内に設けられた第3の楕円状溝部22-3と、第4の帯状領域R4内に設けられた第4の楕円状溝部22-4と、第1の楕円状溝部22-1と第2の楕円状溝部22-2とを連通する帯状領域間溝部28と、を含む。すなわち、本実施形態においては、連通溝部23は、帯状領域間溝部28と第2の楕円状溝部22-2とからなる。
【0076】
第3の楕円状溝部22-3は、第2の楕円状溝部22-2の外側に設けられる。第4の楕円状溝部22-4は、第3の楕円状溝部22-3の外側に設けられる。
【0077】
ここで、第3の帯状領域R3とは、
図11に示すように、長軸方向が導波路21の長方形の開口の長辺に平行な第3の内周楕円e31及び第3の外周楕円e32を境界とする領域である。第3の内周楕円e31及び第3の外周楕円e32の中心は、導波路21の長方形の開口の中心に等しい。
【0078】
また、第4の帯状領域R4とは、
図11に示すように、長軸方向が導波路21の長方形の開口の長辺に平行な第4の内周楕円e41及び第4の外周楕円e42を境界とする領域である。第4の内周楕円e41及び第4の外周楕円e42の中心は、導波路21の長方形の開口の中心に等しい。
【0079】
ここで、第3の内周楕円e31の短半径rs31は、第2の外周楕円e22の短半径rs22に後述する第2の壁部29-2の短半径方向の厚さd2を加えた値である。同様に、第3の内周楕円e31の長半径rl31は、第2の外周楕円e22の長半径rl22に第2の壁部29-2の長半径方向の厚さd2を加えた値である。
【0080】
同様に、第4の内周楕円e41の短半径rs41は、第3の外周楕円e32の短半径rs32に後述する第3の壁部29-3の短半径方向の厚さd3を加えた値である。同様に、第4の内周楕円e41の長半径rl41は、第3の外周楕円e32の長半径rl32に第3の壁部29-3の長半径方向の厚さd3を加えた値である。
【0081】
また、第3の外周楕円e32の短半径rs32及び長半径rl32は、第3の内周楕円e31の短半径rs31及び長半径rl31よりも、それぞれ管内波長λgの1/4に相当する長さだけ長い。
【0082】
同様に、第4の外周楕円e42の短半径rs42及び長半径rl42は、第4の内周楕円e41の短半径rs41及び長半径rl41よりも、それぞれ管内波長λgの1/4に相当する長さだけ長い。
【0083】
つまり、最も内側の第1の内周楕円e11から最も外側の第4の外周楕円e42に向かうにつれて、各内周楕円及び外周楕円の楕円率は1に近づいていく。
【0084】
非溝部24は、本体部25と、4つの突出壁部25a~25dと、第1の外周楕円e12と第2の内周楕円e21に接する4つの所定厚さの第1の壁部29-1a~29-1dと、第2の外周楕円e22と第3の内周楕円e31に接する所定厚さの第2の壁部29-2と、第3の外周楕円e32と第4の内周楕円e41に接する所定厚さの第3の壁部29-3と、を有する。各第1の壁部29-1a~29-1dの端部29-1eと4つの突出壁部25a~25dの側壁面25fは、帯状領域間溝部28を挟んで対向している。
【0085】
第3の楕円状溝部22-3と第2の楕円状溝部22-2とは第2の壁部29-2で分離されている。同様に、第4の楕円状溝部22-4と第3の楕円状溝部22-3とは第3の壁部29-3で分離されている。
【0086】
本実施形態の導波管接続構造4におけるチョーク溝22の寸法の一例は下記のとおりである。
【0087】
図10に示すように、第1の内周楕円e11の短半径rs11は0.4mmである。第1の内周楕円e11の長半径rl11は0.6mmである。第1の外周楕円e12の短半径rs12は、0.71(=0.4+0.22λg)mmである。第1の外周楕円e12の長半径rl12は0.91(=0.6+0.22λg)mmである。4つの突出壁部25a~25dの延伸方向が第1の内周楕円e11及び第1の外周楕円e12の長軸に対して成す角度は、いずれも26.5°である。
【0088】
4つの突出壁部25a~25dの幅W1は0.12mmである。チョーク溝22の深さは、0.36(=λg/4)mmである。端面10b,20a間の隙間gは、0.05mmである。第1の壁部29-1a~29-1d、第2の壁部29-2、第3の壁部29-3の短半径方向及び長半径方向の厚さd1,d2,d3は、それぞれ0.12mmである。
【0089】
また、第1の内周楕円e11と第1の外周楕円e12との間、第2の内周楕円e21と第2の外周楕円e22との間、第3の内周楕円e31と第3の外周楕円e32との間、並びに第4の内周楕円e41と第4の外周楕円e42との間の短半径方向及び長半径方向の距離は、それぞれ0.22λgである。
【0090】
図12(a)、(b)及び(c)は、本実施形態の導波管接続構造4における導波路11と導波路21の間の反射損失S
11、挿入損失S
21、及び電磁波の漏出のシミュレーション結果を示している。
図12(b)は
図12(a)の0dB付近を拡大したグラフである。このシミュレーションでは、ポートP1側の導波管10から、ポートP2側の導波管20に向かって電磁波が入射するとしている。また、チョーク溝22は、導波管20の端面20a側のみに形成されているとしている。
【0091】
図12(a)に示すように、WR-3帯域(220~325GHz、比帯域約40%)を含む広い周波数範囲にわたって、反射損失S
11が-20dB未満に抑えられることが確認できた。また、
図12(b)に示すように、挿入損失S
21については、WR-3帯域にわたって、-0.05dBよりも高い(0dBに近い)良好な値を示すことが確認できた。さらには
図10(c)に示すように、導波路11と導波路21の間からの電磁波の漏出については、WR-3帯域にわたって、-40dB未満に抑えられることが確認できた。
【0092】
なお、ポートP1側を導波管20とし、ポートP2側を導波管10とした場合も、導波路11と導波路21の間の反射損失S11、挿入損失S21、及び漏出の値に変化はなかった。
【0093】
上記の説明では、導波管接続構造4が4つの楕円状溝部を含むとしたが、本発明はこれに限定されず、以下に述べるように、導波管接続構造4が5つ以上の楕円状溝部を含んでもよい。以下、nは5以上の連続する整数であるとする。
【0094】
すなわち、チョーク溝22は、導波路21の開口の中心を中心とするとともに、長軸方向が導波路21の開口の長辺に平行な第nの内周楕円及び第nの外周楕円を境界とする第nの帯状領域Rn内に設けられた第nの楕円状溝部を更に含んでいてもよい。第nの楕円状溝部は、第n-1の楕円状溝部の外側に設けられる。
【0095】
第nの内周楕円の短半径及び長半径は、第n-1の外周楕円の短半径及び長半径にそれぞれ第n-1の壁部の短半径方向及び長半径方向の厚さを加えた値である。第nの外周楕円の短半径及び長半径は、第nの内周楕円の短半径及び長半径よりも管内波長λgの1/4に相当する長さだけ長い。
【0096】
非溝部24は、第n-1の外周楕円と第nの内周楕円に接する所定厚さの第n-1の壁部を更に含む。第nの楕円状溝部と第n-1の楕円状溝部とは、第n-1の壁部で分離されている。
【0097】
以上説明したように、本実施形態に係る導波管接続構造4は、導波管10と導波管20の間の所定の隙間gに漏出する電磁波の電界の強い領域をカバーする形状のチョーク溝22が、端面10b及び端面20aのいずれか一方又は両方に形成された構造である。また、本実施形態に係る導波管接続構造4は、チョーク溝22を構成する4つの部分溝部22a~22dを、第1の帯状領域R1外で互いに連通する連通溝部23を含む構造である。このような構成により、本実施形態に係る導波管接続構造4は、導波管20とチョーク溝22の間に生じる不要な共振モードを取り除いて、対向する2つの導波管10,20の接続箇所からの電磁波の漏出を効果的に抑えることができる。
【0098】
特に、本実施形態に係る導波管接続構造4は、最も内側の第1の内周楕円e11から最も外側の第4の外周楕円e42に向かうにつれて、各内周楕円及び外周楕円の楕円率が1に近づいていく構造である。これは、
図20(b)に示した隙間gの空隙へ漏れ出る電磁波の等位相面の変化に沿った構造になっている。これにより、本実施形態に係る導波管接続構造4は、第1~第3の実施形態の導波管接続構造1~3よりも更に効果的に、対向する2つの導波管10,20の接続箇所からの電磁波の漏出を抑えることができる。
【0099】
例えば、本実施形態に係る導波管接続構造4は、管内波長λgの1/30波長程度までの所定の隙間gに対して、WR-3導波管の動作周波数範囲全体(比帯域約40%)にわたり、反射損失S11を-20dB未満に抑え、挿入損失S21の絶対値を0.05dB未満に抑え、電磁波の漏出を-40dB未満に抑えることができる。
【0100】
(第5の実施形態)
以下、本発明の第1~第4の実施形態の導波管接続構造1~4のいずれかを備える導波管スイッチ100の構成について説明する。一般に、導波管スイッチなどの可動部の周りには隙間が必要であるが、機械加工精度の制約から、許容される隙間の大きさには下限がある。また、可動部を支持している機構の摺動部の摩耗などによって隙間が広がることもある。使用周波数が高い(波長が短い)ほど、同じ大きさの隙間でも波長に対して実質的に広くなるため、電磁波の漏出が増加することになる。本実施形態の導波管スイッチ100は、このような可動部の周りの隙間における電磁波の漏出を抑制するものである。
【0101】
図13は、本発明の実施形態の導波管接続構造1を備える導波管スイッチ100の分解斜視図、
図14は側面図、
図15は平面図である。なお、これらの図には各部の方向が分かりやすいように、X、Y、Zの直交軸を示している。
【0102】
これらの図に示しているように、導波管スイッチ100は、ベース部31、第1の固定導波管ブロック40、第2の固定導波管ブロック50、可動導波管ブロック60、及び駆動装置70を有している。第1の固定導波管ブロック40、第2の固定導波管ブロック50、及び可動導波管ブロック60は、
図1等に示したWR-3帯域を透過帯域とする導波管10又は導波管20に相当する。
【0103】
ベース部31は外形が矩形の板状に形成され、その上面31aの一端側には第1の固定導波管ブロック40が固定され、他端側には第2の固定導波管ブロック50が固定されている。
【0104】
第1の固定導波管ブロック40は直方体状に形成され、金属壁で囲まれた所定口径の少なくとも1つ(この例では3つ)の導波路41,42,43が、第1の端面40aからその反対側の第2の端面40bまで貫通するように形成されている。ここで、導波路41~43は、ベース部31の上面31aから同一の高さで、第1の端面40a及び第2の端面40bに直交する向きで、所定間隔をあけて平行に形成されている。
【0105】
これらの導波路41~43の口径及び高さは、後述する第2の固定導波管ブロック50の導波路51と同一である。導波路42は、導波路51の中心を通過する線上に形成されている。また、他の2つの導波路41,43は、それらの開口の中心位置を通る延長線が導波路51の開口の中心位置を通る延長線を対称に挟むように配置される。
【0106】
一方、第2の固定導波管ブロック50は、第1の固定導波管ブロック40と外形が同等の直方体状に形成され、第1の固定導波管ブロック40の第2の端面40bに、第3の端面50aを所定距離開けて平行に対向させた状態でベース部31に固定されており、金属壁で囲まれた少なくとも1つ(この例では1つ)の導波路51が第3の端面50aからその反対側の第4の端面50bまで貫通するように形成されている。この導波路51の口径及び高さは、第1の固定導波管ブロック40の導波路41~43と同一である。また、導波路51は、第3の端面50a及び第4の端面50bに直交する向きで、導波路42の中心を通過する線上に形成されている。
【0107】
ベース部31の上面31aで、第1の固定導波管ブロック40の第2の端面40bと第2の固定導波管ブロック50の第3の端面50aの間には、第2の端面40b及び第3の端面50aに対して平行にスライド移動可能な状態で可動導波管ブロック60が支持されている。可動導波管ブロック60は、第1の固定導波管ブロック40の第2の端面40bと第2の固定導波管ブロック50の第3の端面50aとの距離より僅か(例えば200μm)に短い長さと、第1及び第2の固定導波管ブロック40,50の高さとほぼ同じ高さの直方体状に形成され、金属壁で囲まれた複数(この例では、第1の固定導波管ブロック40に形成された導波路41~43の数に対応した3つ)の導波路61,62,63が、第5の端面60aから第6の端面60bまで貫通するように形成されている。ここで、第5の端面60aは、第1の固定導波管ブロック40の第2の端面40bに対して隙間g(例えばg=100μm)を開けて平行に対向し、第6の端面60bは、第2の固定導波管ブロック50の第3の端面50aに対して隙間g(例えばg=100μm)を開けて平行に対向している。
【0108】
可動導波管ブロック60の導波路61~63の口径及び高さは、第1の固定導波管ブロック40の導波路41~43及び第2の固定導波管ブロック50の導波路51と同一である。導波路62は、第5の端面60a及び第6の端面60bに直交する向きで形成されている。また、他の2つの導波路61,63は、第5の端面60a及び第6の端面60bに対して斜めに形成されている。金属壁で囲まれたこれら複数の導波路61~63は、内部に共振板や誘電体共振器を配置するなどの公知の方法で、ミリ波帯内で異なる通過帯域特性が付与されている。
【0109】
図15に示した位置(以下、「中立位置」という)において、中央の導波路62の第5の端面60a側の開口は、第1の固定導波管ブロック40の導波路42の第2の端面40b側の開口と同心に並び、中央の導波路62の第6の端面60b側の開口は、第2の固定導波管ブロック50の導波路51の第3の端面50a側の開口と同心に並ぶ。したがって、
図15の中立位置では、第1の固定導波管ブロック40の導波路42と第2の固定導波管ブロック50の導波路51の間が、可動導波管ブロック60の導波路62を介して接続される。
【0110】
また、中立位置において、第5の端面60a側の導波路61,63の開口位置は、第1の固定導波管ブロック40の導波路41,43の開口位置からそれぞれ外側にLだけ離間し、第6の端面60b側の導波路61,63の開口位置は、第2の固定導波管ブロック50の導波路51の開口位置から両側にそれぞれLだけ離間するように設けられている。
【0111】
したがって、
図16に示すように、中立位置から可動導波管ブロック60を幅方向(X方向)に-Lだけスライド移動させた第1の位置では、第1の固定導波管ブロック40の第2の端面40b側の導波路41の開口位置と可動導波管ブロック60の第5の端面60a側の一方の導波路61の開口位置とが一致し、第2の固定導波管ブロック50の第3の端面50a側の導波路51の開口位置と可動導波管ブロック60の第6の端面60b側の導波路61の開口位置とが一致して、第1の固定導波管ブロック40の導波路41と第2の固定導波管ブロック50の導波路51の間が、導波路61を介して接続される。
【0112】
また、
図17に示すように、中立位置から可動導波管ブロック60を幅方向にLだけスライド移動させた第2の位置では、第1の固定導波管ブロック40の第2の端面40b側の導波路43の開口位置と可動導波管ブロック60の第5の端面60a側の導波路63の開口位置とが一致し、第2の固定導波管ブロック50の第3の端面50a側の導波路51の開口位置と可動導波管ブロック60の第6の端面60b側の導波路63の開口位置とが一致して、第1の固定導波管ブロック40の導波路43と、第2の固定導波管ブロック50の導波路51の間が、導波路63を介して接続される。
【0113】
このようにして、可動導波管ブロック60は、第1の固定導波管ブロック40及び第2の固定導波管ブロック50に対してスライド移動し、異なる複数の位置(中立位置、第1の位置、及び第2の位置)で、導波路61~63のいずれかが、第1の固定導波管ブロック40の導波路41~43のいずれかと、第2の固定導波管ブロック50の導波路51とを選択的に接続させるようになっている。
【0114】
なお、この例では、第1の固定導波管ブロック40の導波路42の中心を通る線の延長線上に第2の固定導波管ブロック50の導波路51が位置し、中立位置において可動導波管ブロック60の3つの導波路61~63もその延長線に対して線対称となる構造となっている。一方、第2の固定導波管ブロック50の導波路51が、第1の固定導波管ブロック40の導波路42の中心を通る線の延長線上にない非対称な構造も可能であり、その場合、可動導波管ブロック60の3つの導波路61~63も非対称な配置となる。
【0115】
可動導波管ブロック60は、ベース部31に設けられた駆動装置70によってスライド移動可能に支持されている。この駆動装置70の構造は任意であるが、例えば、ベース部31の下面側から可動導波管ブロック60を支持する支持部材に対し、ステッピングモータの回転運動を直進運動に変換して伝達する構造になっている。この場合、可動導波管ブロック60の位置と移動距離をセンサやエンコーダ等で検出して、少なくとも
図15の中立位置、
図16の第1の位置、及び
図17の第2の位置に選択的に移動できるように制御すればよい。
【0116】
第1の固定導波管ブロック40の第2の端面40bと、可動導波管ブロック60の第5の端面60aとの少なくとも一方において、導波路41~43又は導波路61~63の長方形の開口の周囲を囲む位置には、第1~第4の実施形態で説明したようなチョーク溝22が設けられている。同様に、第2の固定導波管ブロック50の第3の端面50aと、可動導波管ブロック60の第6の端面60bとの少なくとも一方において、導波路51又は導波路61~63の長方形の開口の周囲を囲む位置には、第1~第4の実施形態で説明したようなチョーク溝22が設けられている。
【0117】
例えば、第1の固定導波管ブロック40の第2の端面40b側における導波路41~43の長方形の開口の周囲を囲む位置と、第2の固定導波管ブロック50の第3の端面50a側における導波路51の長方形の開口の周囲を囲む位置に、チョーク溝22が設けられてもよい。
【0118】
第1~第4の実施形態と同様に、非溝部24は、第2の端面40b、第3の端面50a、第5の端面60a、及び第6の端面60bのうち、チョーク溝22が設けられた端面と面一な端面24aを有している。
【0119】
以上説明したように、本実施形態に係る導波管スイッチ100は、第1~第4の実施形態の導波管接続構造1~4のいずれかを、可動部(可動導波管ブロック60)、第1の固定導波管ブロック40、及び第2の固定導波管ブロック50に用いた構造である。この構成により、本実施形態に係る導波管スイッチ100は、不要な共振モードによる周波数特性劣化を広帯域にわたって改善し、第1の固定導波管ブロック40と可動導波管ブロック60の間の隙間と、第2の固定導波管ブロック50と可動導波管ブロック60の間の隙間における意図しない電磁波の漏出を抑えることができる。
【0120】
また、本実施形態に係る導波管スイッチ100は、上記の導波管接続構造1を可動部(可動導波管ブロック60)、第1の固定導波管ブロック40、及び第2の固定導波管ブロック50に用いることで、第1の固定導波管ブロック40と可動導波管ブロック60の間の隙間と、第2の固定導波管ブロック50と可動導波管ブロック60の間の隙間を従来よりも広く取れるため、機械加工精度が緩和され、経年変化への耐性も高くなる。
【符号の説明】
【0121】
1~4 導波管接続構造
10,20 導波管
10b,20a 端面
11,21 導波路
22 チョーク溝
22-1~22-4 第1~第4の楕円状溝部
22a,22b,22c,22d 部分溝部
23 連通溝部
23a,23b,23c,23d 突出溝部
24 非溝部
24a 端面
25 本体部
25a,25b,25c,25d 突出壁部
25f 側壁面
28 帯状領域間溝部
29-1a,29-1b,29-1c,29-1d 第1の壁部
29-1e 端部
29-2 第2の壁部
29-3 第3の壁部
31 ベース部
31a 上面
40 第1の固定導波管ブロック
40a 第1の端面
40b 第2の端面
41,42,43 導波路
50 第2の固定導波管ブロック
50a 第3の端面
50b 第4の端面
51 導波路
60 可動導波管ブロック
60a 第5の端面
60b 第6の端面
61,62,63 導波路
70 駆動装置
100 導波管スイッチ
R1~R4 第1~第4の帯状領域
λg 管内波長