(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】光学ガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 3/093 20060101AFI20240319BHJP
【FI】
C03C3/093
(21)【出願番号】P 2022096346
(22)【出願日】2022-06-15
(62)【分割の表示】P 2018018199の分割
【原出願日】2018-02-05
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】野嶋 浩人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 早矢
(72)【発明者】
【氏名】二野宮 晟大
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第00/039041(WO,A1)
【文献】特開2005-037651(JP,A)
【文献】特開2003-292339(JP,A)
【文献】特開2000-247678(JP,A)
【文献】特開平05-193979(JP,A)
【文献】特開2006-030486(JP,A)
【文献】国際公開第2012/118029(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、
SiO
2成分 55.0~65.0%、
B
2O
3成分 14.0~22.0%、
Al
2O
3成分 4.22~9.22%、
ZnO成分 0%超6.0%以下、及び
Rn
2O成分(式中、RnはLi、Na、Kの少なくともいずれかである)の合計量 10.39~18.0%であり、
屈折率(n
d)が1.47~1.54、アッベ数(ν
d)が60~68の範囲の光学定数を有し、
-30~+70℃における平均線膨張係数α[×10
-7/℃]と、ヤング率E[×10
8N/m
2]と、の積α×Eが60000以下である
、レーザ光または直射日光の照射によって加熱される光学機器用光学ガラス。
【請求項2】
前記光学機器が監視カメラ、アクションカメラ、レーザプロジェクタ、ヘッドライト又は車載用カメラ
である、請求項
1記載の
レーザ光または直射日光の照射によって加熱される光学機器用光学ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスに関し、より具体的には耐熱衝撃性の高い光学ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
光学ガラスは、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野において用いられており、これらの機器において、光学系を構成するレンズやプリズム等の用途に用いられている。
【0003】
ここで、屈折率(nd)が1.47~1.54、アッベ数(νd)が60~68の範囲の光学定数を有する光学ガラスとしては、特許文献1~4に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-089183号公報
【文献】特開2002-020136号公報
【文献】特開2002-356348号公報
【文献】特開2003-341557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、プロジェクタの用途においては、2013年ごろから、光源として白熱光に代わってレーザ光源が用いられるようになり、直進性が高く、エネルギー量及びエネルギー密度の高いレーザ光が、レンズやプリズムを構成する光学ガラスに当たることで光学ガラスが急激に加熱され、その熱衝撃によって光学ガラスが破損する問題が生じるようになった。
【0006】
加えて、光源としてレーザ光源が用いられるようになることで、光学系の小型化がより一層進むこととなり、レーザ光源を用いたレーザプロジェクタの小型化もより一層進むこととなった。他方で、レーザ光源による排熱は白熱光と比べても大きいため、光学系ひいては光学機器の全体が熱を持ちやすくなり、それによりレンズやプリズムを構成する光学ガラスが加熱され、その熱衝撃によっても光学ガラスが破損していた。
【0007】
このような熱衝撃による光学ガラスの破損の問題は、監視カメラ、アクションカメラ、車載用カメラ又はヘッドライトの用途においても生じていた。特に、屋外で用いられるこれらの用途では、直射日光によって光学ガラスや光学機器全体が急激に加熱されたり、加熱された後に雨等の水によって急冷されたりするため、熱衝撃によって光学ガラスが破損する同様の問題が生じていた。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、熱衝撃による破損が生じ易い用途にも用いることが可能な光学ガラスを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、SiO2成分とB2O3成分、アルカリ金属成分を含有する光学ガラスにおいて、耐熱衝撃性の高い光学ガラスが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)酸化物基準の質量%で、
SiO2成分 30.0~80.0%、
B2O3成分 1.0~30.0%及び
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kの少なくともいずれかである) 1.0~30.0%であり、
屈折率(nd)が1.47~1.54、アッベ数(νd)が60~68の範囲の光学定数を有し、
-30~+70℃における平均線膨張係数α[×10-7/℃]と、ヤング率E[×108N/m2]と、の積α×Eが60000以下である光学ガラス。
【0011】
(2)光の照射によって加熱される光学機器に用いられる、(1)記載の光学ガラス。
【0012】
(3)監視カメラ、アクションカメラ、レーザプロジェクタ、ヘッドライト又は車載用カメラの用途に用いられる、(1)又は(2)記載の光学ガラス。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、熱衝撃による破損が生じ易い用途にも用いることが可能な光学ガラスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の光学ガラスが好適に用いられる、レーザプロジェクタの光学系の構造を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の光学ガラスが好適に用いられる、輸送機用ヘッドライトの構造を示す模式断面図である。
【
図3】本発明の光学ガラスが好適に用いられる、車載カメラの光学系の構造を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光学ガラスは、光学ガラスは、酸化物基準の質量%で、SiO2成分を30.0~80.0%、B2O3成分を1.0~30.0%及びRn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kの少なくともいずれかである)を1.0~30.0%含有し、屈折率(nd)が1.47~1.54、アッベ数(νd)が60~68の範囲の光学定数を有し、-30~+70℃における平均線膨張係数α[×10-7/℃]と、ヤング率E[×108N/m2]と、の積α×Eが60000以下である。SiO2成分とB2O3成分、アルカリ金属成分を含有する光学ガラスにおいて、耐熱衝撃性の高い光学ガラスが得られる。そのため、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、熱衝撃による破損が生じ易い用途にも用いることが可能な光学ガラスを得ることができる。
【0016】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0017】
≪ガラス成分≫
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量は、全て酸化物換算組成のガラス全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0018】
<必須成分、任意成分について>
SiO2成分は、ガラス形成酸化物として欠かすことの出来ない必須成分であり、ガラスの平均線膨張係数を小さくする成分である。また、ガラスの化学的耐久性を高められる成分である。
特に、SiO2成分を30.0%以上含有することで、ガラスの着色を低減でき、耐失透性を高められ、また、化学的耐久性を高めることができる。また、ヤング率を降下させることができる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは46.0%、さらに好ましくは50.0%、さらに好ましくは55.0%、さらに好ましくは60.0%を下限とする。
一方で、SiO2成分の含有量を80.0%以下にすることで、ガラス転移点や屈伏点の上昇を抑え、且つ屈折率の低下を抑えることができる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは80.0%、より好ましくは78.0%、さらに好ましくは74.0%、さらに好ましくは70.0%、さらに好ましくは65.0%を上限とする。
【0019】
B2O3成分は、ガラス形成酸化物として欠かすことの出来ない必須成分であり、熔融粘度を小さくして均質なガラスを得る成分である。
特に、B2O3成分を1.0%以上含有することで、ガラスの耐失透性を高められ、且つガラスの分散を小さくできる。また、ヤング率を降下させることが出来る。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは3.0%、さらに好ましくは6.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは14.0%を下限とする。
一方、B2O3成分の含有量を30.0%以下にすることで、より高い屈折率を得易くでき、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは22.0%、さらに好ましくは19.0%を上限とする。
【0020】
Rn2O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)の合計量は、1.0~30.0%が好ましい。
特に、この合計量を1.0%以上とすることで、ガラス転移点や屈伏点を下げることができ、また、ガラス作製時の溶融性を向上させることができる。従って、Rn2O成分の質量和は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは8.0%、さらに好ましくは11.0%、さらに好ましくは12.5%を下限とする。
他方で、この合計量を30.0%以下とすることで、ガラスの屈折率を低下し難くでき、ガラスの化学的耐久性を高めることができ、また、耐失透性を高められる。さらに、ヤング率の大幅な上昇を抑制することができる。従って、Rn2O成分の質量和は、好ましくは30.0%、より好ましくは26.0%、さらに好ましくは22.0%、さらに好ましくは18.0%、さらに好ましくは16.0%を上限とする。
【0021】
Li2O成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善し、ガラス転移点を低くでき、また、プレス成形時の成形性を高められる任意成分である。従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは2.0%、さらに好ましくは4.0%、さらに好ましくは5.5%を下限としてもよい。
他方で、Li2O成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くでき、ガラスの化学的耐久性を高めることができ、また、耐失透性を高められる。従って、Li2O成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは11.0%、さらに好ましくは8.0%を上限とする。
【0022】
Na2O成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善し、ガラスの耐失透性を高め、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。
他方で、Na2O成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くでき、ガラスの化学的耐久性を高めることができ、また、ヤング率の大幅な上昇を抑制することができる。従って、Na2O成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは7.0%、さらに好ましくは4.0%を上限とする。
【0023】
K2O成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔融性を改善し、ガラスの耐失透性を高め、且つガラス転移点を低くできる任意成分である。従って、K2O成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは2.0%、さらに好ましくは6.6%を下限としてもよい。
他方で、K2O成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くでき、ガラスの化学的耐久性を高めることができ、また、ヤング率の大幅な上昇を抑制することができる。従って、K2O成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは23.0%、さらに好ましくは20.0%、さらに好ましくは17.0%、さらに好ましくは14.0%、さらに好ましくは9.0%を上限とする。
【0024】
Al2O3成分は、0%超含有する場合に、ガラスの平均線膨張係数を小さくする成分である。また、ガラスの化学的耐久性を高め、且つガラスの分相を抑え、また、耐失透性を高める成分である。従って、Al2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは5.0%を下限としてもよい。
他方で、Al2O3成分の含有量を23.0%以下にすることで、これらの過剰な含有によるガラスの耐失透性の低下を抑えられ、ガラスの屈伏点の上昇を抑え、また、ガラスの成形時における粘度を低くしてプレス成形し易くすることができる。従って、Al2O3成分の含有量は、好ましくは23.0%、より好ましくは19.0%、さらに好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは9.0%を上限とする。
【0025】
SiO2成分、B2O3成分及びAl2O3成分の合計量は、50.0%以上が好ましい。これにより、所望の屈折率及びアッベ数を有し、プレス成形に適した低屈伏点及び粘度が得られ、また、優れた化学的耐久性や耐失透性を得ることができる。従って、質量和(SiO2+B2O3+Al2O3)は、好ましくは50.0%、より好ましくは60.0%、さらに好ましくは68.0%、さらに好ましくは75.0%、さらに好ましくは83.0%を下限とする。他方で、この合計量は、好ましくは98.0%、より好ましくは94.0%、さらに好ましくは90.0%を上限としてもよい。
【0026】
TiO2成分は、0%超含有する場合に、ガラスのソラリゼーションによる着色を低減し、化学的耐久性を向上し、また、ガラスの屈折率を高く、アッベ数を低く調整し、且つ耐失透性を高められる任意成分である。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.01%、さらに好ましくは0.05%、さらに好ましくは0.10%を下限としてもよい。
他方で、TiO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められ、また、アッベ数の低下を抑えられる。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは3.0%、さらに好ましくは1.0%を上限とする。
【0027】
Nb2O5成分及びWO3成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を高められる任意成分である。また、WO3成分は、ガラス転移点を低くできる成分でもある。
他方で、Nb2O5成分及びWO3成分の含有量を各々10.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められ、また、アッベ数の低下を抑えられる。従って、Nb2O5成分及びWO3成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0028】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、ガラス転移点や屈伏点を低くでき、成型時の粘度を低く調整することができ、また、化学的耐久性を高められる任意成分である。そのため、ZnO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%、さらに好ましくは0.5%を下限としてもよい。
他方で、ZnO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの平均線膨張係数を小さくすることができる。また、耐失透性の低下を抑えられる。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは6.0%、さらに好ましくは4.0%を上限とする。
【0029】
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の熔融性やガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの平均線膨張係数を小さくすることができる。また、これらの成分の過剰な含有による、屈折率の低下や耐失透性の低下を抑えられる。従って、MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0030】
RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の合計(質量和)は、12.0%以下が好ましい。これにより、RO成分の過剰な含有による、ガラスの屈折率の低下や耐失透性の低下を抑えられる。従って、RO成分の質量和は、好ましくは12.0%以下、より好ましくは10.0%未満、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0031】
La2O3成分、Gd2O3成分、Y2O3成分及びYb2O3成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つアッベ数を高められる任意成分である。
他方で、La2O3成分、Gd2O3成分、Y2O3成分及びYb2O3成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、必要以上の屈折率の上昇を抑えられ、また、ガラスの耐失透性を高められる。従って、La2O3成分、Gd2O3成分、Y2O3成分及びYb2O3成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0032】
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の含有量の和(質量和)は、10.0%以下が好ましい。
この和を10.0%以下にすることで、必要以上の屈折率の上昇を抑えられ、また、ガラスの耐失透性を高められる。従って、Ln2O3成分の質量和は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0033】
P2O5成分は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、P2O5成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えられる。従って、P2O5成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0034】
GeO2成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ耐失透性を向上できる任意成分である。しかしながら、GeO2は原料価格が高いため、その量が多いと材料コストが高くなる。従って、GeO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とし、最も好ましくは含有しない。
【0035】
ZrO2成分は、0%超含有する場合に、ガラスの高屈折率化及び低分散化に寄与でき、且つガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、ZrO2成分の含有量を10.0%以下にすることで、ZrO2成分の過剰な含有によるガラスの耐失透性の低下を抑えられる。従って、ZrO2成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0036】
Ta2O5成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、耐失透性を高め、且つ熔融ガラスの粘性を高められる任意成分である。
他方で、高価なTa2O5成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの材料コストが低減されるため、より安価な光学ガラスを作製できる。また、これにより、原料の熔解温度が低くなり、原料の熔解に要するエネルギーが低減されるため、光学ガラスの製造コストをも低減できる。従って、Ta2O5成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0037】
Bi2O3成分及びTeO2成分は、0%超含有する場合に、屈折率を高め、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
一方で、Bi2O3成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められ、且つ、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高められる。
また、TeO2は白金製の坩堝や、溶融ガラスと接する部分が白金で形成されている溶融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。
従って、Bi2O3成分及びTeO2成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0038】
SnO2成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの酸化を低減して清澄し、且つガラスの可視光透過率を高められる任意成分である。
一方で、SnO2成分の含有量を3.0%以下にすることで、熔融ガラスの還元によるガラスの着色や、ガラスの失透を低減できる。また、SnO2成分と熔解設備(特にPt等の貴金属)の合金化が低減されるため、熔解設備の長寿命化を図れる。従って、SnO2成分の含有量は、好ましくは3.0%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.5%を上限とする。
【0039】
Sb2O3成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスを脱泡できる任意成分である。
一方で、Sb2O3成分の含有量が多すぎると、可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる。従って、Sb2O3成分の含有量は、好ましくは2.0%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.5%を上限とする。
【0040】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb2O3成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0041】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0042】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0043】
また、PbO等の鉛化合物及びAs2O3等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0044】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0045】
≪製造方法≫
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、酸化物、炭酸塩、硝酸塩及び水酸化物等の原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200~1500℃の温度範囲で2~4時間熔融し、攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから金型に鋳込み、徐冷することにより作製される。
【0046】
≪物性≫
本発明の光学ガラスは、高アッベ数(低分散)を有することが好ましい。特に、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは60を下限とし、好ましくは68、より好ましくは65を上限とする。このような低分散を有することで、単レンズであっても光の波長による焦点のずれ(色収差)が小さくなる。加えて、このような低分散を有することで、例えば高分散(低いアッベ数)を有する光学素子と組み合わせた場合に、高い結像特性等を図ることができる。
【0047】
また、本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.47、より好ましくは1.48を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは1.54、より好ましくは1.53であってもよい。
【0048】
本発明の光学ガラスは、このように高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、その場合であっても、熱衝撃による破損が生じ難いガラスである。
特に、本発明の光学ガラスは、-30~+70℃における平均線膨張係数α[×10-7/℃]と、ヤング率E[×108N/m2]との積α×Eが60000以下であることが好ましい。
ガラスを急冷させたときに耐えることができる温度差θは、上記α×Eの逆数に比例することが、従来から知られている(Everett又はStott・Irvineの式)。そのため、α×Eの数値の小さなガラスであれば、ガラスをより大きな温度差で急激に温度変化させて熱衝撃を与えても、ガラスへの破損を生じ難くすることができる。
【0049】
本発明の光学ガラスは、平均線膨張係数(α)が小さいことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの-30~+70℃における平均線膨張係数は、好ましくは100×10-7K-1、より好ましくは90×10-7K-1、さらに好ましくは80×10-7K-1を上限とする。これにより、光学ガラスが局所的かつ急激に温められたとしても、その箇所に蓄積されるストレスが低減されるため、ガラスへの破損を生じ難くすることができる。また、熱膨張による応力に起因した、結像特性等への影響を低減させることができる。
【0050】
他方で、本発明の光学ガラスは、ヤング率(E)が小さいものであってもよい。特に、本発明の光学ガラスのヤング率は、好ましくは1100×108N/m2、より好ましくは1000×108N/m2、さらに好ましくは900×108N/m2を上限としてもよい。
【0051】
本発明の光学ガラスは、可視光透過率、特に可視光のうち短波長側の光の透過率が高く、それにより着色が少ないことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率80%を示す最も短い波長(λ80)は、好ましくは400nm、より好ましくは370nm、さらに好ましくは350nmを上限とする。
また、本発明の光学ガラスにおける、厚み10mmのサンプルで分光透過率5%を示す最も短い波長(λ5)は、好ましくは360nm、より好ましくは340nm、さらに好ましくは320nmを上限とする。
これらにより、ガラスの吸収端が紫外領域に入るようになり、可視光に対するガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスを、レンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。また、ガラスに入射する光の吸収が減ることで、入射光のエネルギーによって生じる熱が低減されるため、熱衝撃による破損をより生じ難くすることができる。
【0052】
本発明の光学ガラスは、比重が小さいことが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの比重は4.50[g/cm3]以下であることが好ましい。これにより、光学素子の質量が低減されることで、光学素子から光学素子のホルダー等に掛かる力が低減されるため、光学素子の破壊をより低減させることができる。従って、本発明の光学ガラスの比重は、好ましくは4.50、より好ましくは4.30、さらに好ましくは4.00、さらに好ましくは3.80を上限とする。なお、本発明の光学ガラスの比重は、概ね2.00以上、より詳細には2.20以上であることが多い。
本発明の光学ガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05-1975「光学ガラスの比重の測定方法」に基づいて測定する。
【0053】
本発明の光学ガラスは、耐失透性が高いことが好ましく、その指標として、低い液相温度を有することが挙げられる。例えば、本発明の光学ガラスの液相温度は、好ましくは1300℃、より好ましくは1200℃、さらに好ましくは1100℃を上限としてもよい。これにより、より低い温度で熔融ガラスを流出しても、作製されたガラスの結晶化が低減されるため、特に熔融状態からガラスを形成したときの失透を低減でき、ガラスを用いた光学素子の光学特性への影響を低減できる。また、ガラスの熔解温度を低くしてもガラスを成形できるため、ガラスの成形時に消費するエネルギーを抑えることで、ガラスの製造コストを低減できる。一方、本発明の光学ガラスの液相温度の下限は特に限定しないが、本発明によって得られるガラスの液相温度は、好ましくは550℃、より好ましくは600℃、さらに好ましくは700℃を下限としてもよい。なお、本明細書中における「液相温度」は、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1350℃で完全に熔融状態にし、所定の温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察し、結晶が認められない一番低い温度を表す。ここで降温する際の所定の温度は、550~1300℃までの10℃刻みの温度である。
【0054】
≪光学ガラスの用途≫
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製したり、光学ガラスから作製したプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0055】
このように、本発明の光学ガラスから形成したガラス成形体は、様々な光学素子及び光学設計に有用である。その中でも特に、光の照射によって加熱される用途に用いることが好ましく、例えば、監視カメラ、アクションカメラ、レーザプロジェクタ、ヘッドライト又は車載用カメラの用途に用いることが好ましい。
【0056】
<レーザ光源を有する装置への用途>
より具体的には、本発明の光学ガラスから形成したガラス成形体は、レーザ光源からの光によって加熱される用途に用いることが好ましい。このような用途としては、レーザプロジェクタや、レーザ光源を備えた輸送機用のヘッドライトが挙げられる。
【0057】
[レーザプロジェクタの用途]
このうち、レーザプロジェクタとしては、例えば
図1に示すような、光源装置1を備えたものを用いることができる。ここで、光源装置1は、レーザ光を射出する光源11と、光源11の光軸上に配置される発光ホイール14と、発光ホイール14を回転駆動するホイールモータ13と、を備え、ホイールモータ13によって発光ホイール14を回転駆動して、光源11からのレーザ光が入射する発光ホイール14から、例えば赤色、青色及び緑色の光を射出することができる。
【0058】
ここで、光源11の射出側にはコリメータレンズ12が配置されることが好ましく、発光ホイール14の射出面側には複数のレンズから構成された集光光学系が配置されて導光装置18に発光ホイール14からの射出光を入射させている。この集光光学系は、発光ホイール14の近傍に配置された集光レンズ群15と、集光レンズ群15の光軸上に配置されたコンデンサレンズ16と、コンデンサレンズ16の光軸上であって導光装置18の入射面近傍に配置された導光装置入射レンズ17とから構成されている。
【0059】
光源11としては、例えば青色又は紫外光の波長域、つまり、約500nm以下のレーザ光を射出するレーザダイオードが用いられるが、これに限定されない。そして、光源11からの射出光は、例えば、コリメータレンズ12によって平行光に変換され、発光ホイール14にレーザ光として照射される。そして、発光ホイール14からの射出光は、例えば、集光レンズ群15によって集光された後、コンデンサレンズ16で更に集光されて導光装置入射レンズ17に入射する。導光装置入射レンズ17に入射した光線束は、導光装置18の入射面に照射されて導光装置18内に入射し、導光装置18で均一な強度分布の光にして、その後の光学系に射出してもよく、例えば画像生成ブロックを経て投影側ブロックに射出することができる。
【0060】
ここで、画像生成ブロックは、導光装置18から射出された光線束の光軸方向を変更する光軸変更ミラーと、この光軸変更ミラーにより反射した光を表示素子に集光させる複数枚の集光レンズと、これらの集光レンズを透過した光線束を表示素子に所定の角度で照射する照射ミラーと、を備えることができる。
【0061】
また、投影側ブロックは、表示素子で反射されて画像を形成する光をスクリーンに放出する投影側光学系のレンズ群を有している。より具体的には、固定鏡筒に内蔵する固定レンズ群と、可動鏡筒に内蔵する可動レンズ群とを備えて、ズーム機能を備えた可変焦点型レンズユニットとすることができる。
【0062】
しかし、このようなレーザプロジェクタは、光源11から発される青色レーザ光や紫外線レーザ光等のレーザ光が、光学系を構成する光学ガラスに当たることで光学ガラスが急激に加熱され、その熱衝撃が光学ガラスの破損を引き起こしていた。特に、光源11に最も近いレンズ(
図1に示されるコリメータレンズ12)は、光源11から発されるレーザ光によって急激に加熱されることが多い。
【0063】
そこで、本発明の光学ガラスを、レーザプロジェクタの光学系を構成するレンズ等の光学素子、より好ましくは光源装置1を構成する光学素子、さらに好ましくはコリメータレンズ12に用いることで、これらの光学素子が熱衝撃を受けた場合であっても、熱衝撃による破損を起こり難くすることができる。
【0064】
また、レーザプロジェクタは、装置全体がより小型化されており、レーザ光源による排熱は白熱光と比べても大きいため、光学系や装置の全体が熱を持ちやすくなり、その際の加熱による熱衝撃が、光学ガラスの破損を引き起こしていた。そのため、本発明の光学ガラスは、光源11から遠い光学素子、例えば画像生成ブロックにおけるレンズやミラー、投影側ブロックにおけるレンズに用いることも好ましい。
【0065】
[輸送機用ヘッドライトの用途]
また、輸送機用ヘッドライト2としては、例えば
図2に示すように、レーザ光を射出する光源22と、光源22の光軸上に配置される波長変換要素23と、を備え、光源22からのレーザ光が入射する波長変換要素23から、白色等の所望の色温度を有する光(複数の単色光の重畳によるものを含む)を射出することができる。
【0066】
光源22としては、例えば青色又は紫外光の波長域、つまり、約500nm以下のレーザ光を射出するレーザダイオードが用いられるが、これに限定されない。そして、光源11からの射出光は、例えば、必要に応じて集光レンズ27を用いて波長変換要素23の方向に集め、波長変換要素23にレーザ光として照射する。
【0067】
そして、波長変換要素23からの射出光は、必要に応じてリフレクター24を用いて、射出光の放射方向D2を輸送機用ヘッドライト2の主要放射方向D1に光路の方向を転換し、また、輸送機用ヘッドライト2の所望の光像を生成した上で、任意に設けられる透明なカバー部材28から、光を取り出すことができる。ここで、波長変換要素23の直前に、又は波長変換要素23を固定するように導光要素29を設け、それにより光源22から来た光を波長変換要素23に案内してもよい。また、光源22からの光を波長変換要素23や導光要素29に照射したときに生じる反射光を吸収させるため、この反射光の光路上にシールド要素25を設けてもよい。また、波長変換要素23をリフレクター24内に固定するキャリア要素として、クーリングフィン26を設けてもよい。
【0068】
しかし、このような輸送機用ヘッドライト2は、光源22から発される青色レーザ光や紫外線レーザ光等が、集光レンズ27等の光学系や、カバー部材28を構成する光学ガラスに当たることで光学ガラスが急激に加熱され、その熱衝撃が光学ガラスの破損を引き起こしていた。特に、光源22に最も近いレンズ(
図2に示される集光レンズ27)は、光源22から発されるレーザ光によって加熱されることが多い。
【0069】
そこで、本発明の光学ガラスを、輸送機用ヘッドライト2の光学系を構成するレンズ等の光学素子、より好ましくは光源22と波長変換要素23の間に設けられる集光レンズ27に用いることで、これらの光学素子が熱衝撃を受けた場合であっても、熱衝撃による破損を起こり難くすることができる。
【0070】
<直射日光が照射される装置への用途>
より具体的には、本発明の光学ガラスから形成したガラス成形体は、直射日光によって加熱される用途に用いることも好ましい。このような用途としては、車載用のカメラや、輸送機用のヘッドライトが挙げられる。
【0071】
[車載カメラの用途]
このうち、車載カメラは、自動車の車体の外方側に搭載されるカメラであって、
図3に示すように、車載カメラ用レンズ(撮像レンズ)31と、この車載カメラ用レンズ31が結像する像を撮像する撮像素子(CCD)32と、を有する。このうち、撮像レンズ31は、複数枚のレンズ等の光学素子によって構成され、物点(被写体)側となる第1レンズ31aより被写体からの光束が入射するものである。第1レンズ31aより入射した光束は、第2以降のレンズに順次入射し、撮像素子32の撮像面上において、被写体の像として結像する。
【0072】
車載カメラとしては、車体の後方部に搭載されて後方の確認に用いられるものや、車体の前方部に搭載されて前方や側方の確認、また、前車との距離の確認に用いられるもの等が挙げられる。
【0073】
しかし、このような車載カメラは、直射日光を受けると急激に加熱されて車体温度が60℃以上に達し、また、雨や洗車の水によって急冷されることで、熱衝撃を受けることがある。特に、第1レンズ31aは、雨や洗車の水によって急冷されることが多い。
【0074】
そこで、本発明の光学ガラスを、車載カメラに用いられる撮像レンズ31、より好ましくは被写体(物点)側の第1レンズ31aに用いることで、これらの撮像レンズ31が熱衝撃を受けた場合であっても、熱衝撃による破損を起こり難くすることができる。
【0075】
なお、車載カメラ用レンズとしては、複数枚のレンズのうちの少なくとも一の面を非球面としてもよい。これにより、レンズによって生じる収差を減少させ、解像度を向上させること等によって、光学特性の向上を図ることができる。
【0076】
[輸送機用ヘッドライトの用途]
他方で、上述したような輸送機用ヘッドライトの用途でも、車載カメラの用途と同様に、直射日光を受けると急激に加熱されて車体温度が60℃以上に達し、また、雨や洗車の水によって急冷されることで、熱衝撃を受けることがある。
【0077】
そこで、本発明の光学ガラスを、例えば
図2に示される輸送機用ヘッドライト2において、カバー部材28や、集光レンズ27等の光学要素に用いることで、これらの撮像レンズ31が急激な加熱や冷却によって熱衝撃を受けた場合であっても、熱衝撃による破損を起こり難くすることができる。
【実施例】
【0078】
本発明の実施例(No.1~No.12)及び比較例(No.A)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、平均線膨張係数αとヤング率Eの積、分光透過率が5%及び80%を示す波長(λ5及びλ80)並びに比重の結果を表1~表2に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0079】
本発明の実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200~1500℃の温度範囲で2~4時間熔融した後、攪拌均質化してから金型等に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0080】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(νd)は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(nF)、C線(656.27nm)に対する屈折率(nC)の値を用いて、アッベ数(νd)=[(nd-1)/(nF-nC)]の式から算出した。
【0081】
また、実施例及び比較例のガラスの平均線膨張係数(α)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS08-2003「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に従い、-30~+70℃における平均線膨張係数を求めた。また、実施例及び比較例のガラスのヤング率(E)を超音波法により測定し、平均線膨張係数(α)とヤング率(E)の積を求めた。
【0082】
また、実施例及び比較例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200~800nmの分光透過率を測定し、λ5(透過率5%時の波長)及びλ70(透過率70%時の波長)を求めた。
【0083】
また、実施例及び比較例のガラスの比重は、日本光学硝子工業会規格JOGIS05-1975「光学ガラスの比重の測定方法」に基づいて測定した。
【0084】
【0085】
【0086】
表に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、平均線膨張係数(α)とヤング率(E)の積(α×E)が60000以下、より詳細には57000以下であった。他方で、比較例(No.A)のガラスは、平均線膨張係数(α)とヤング率(E)の積(α×E)が60000を上回っていた。
【0087】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(nd)が1.47~1.54、アッベ数(νd)が60~68の範囲内にあり、所望の範囲内であった。
【0088】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ80(透過率80%時の波長)がいずれも400nm以下、より詳細には350nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ5(透過率5%時の波長)がいずれも360nm以下、より詳細には320nm以下であった。
【0089】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも比重が4.50以下、より詳細には3.70以下であり、所望の範囲内であった。
【0090】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも-30~+70℃における平均線膨張係数(α)が100×10-7K-1以下、より詳細には70×10-7K-1以下であり、所望の範囲内であった。
【0091】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも失透しておらず、安定なガラスであった。
【0092】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)が所望の範囲内にありながら、平均線膨張係数(α)とヤング率(E)の積(α×E)が小さいことが明らかになった。そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、急激な温度変化に強いため、熱衝撃による破損が生じ易い用途にも用いることが可能であると推察される。
【0093】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、着色が少なく、比重が小さいものであることも明らかになった。
【0094】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。
【符号の説明】
【0095】
1 光源装置
11 光源
12 コリメータレンズ
13 ホイールモータ
14 発光ホイール
15 集光レンズ群
16 コンデンサレンズ
17 導光装置入射レンズ
18 導光装置
2 輸送機用ヘッドライト
22 光源
23 波長変換要素
24 リフレクター
25 シールド要素
26 クーリングフィン
27 集光レンズ
28 カバー部材
29 導光要素
D100 主要放射方向
D200 放射方向
31 撮像レンズ
31a 第1レンズ
32 撮像素子