(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】電気コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 12/91 20110101AFI20240319BHJP
H01R 12/71 20110101ALI20240319BHJP
【FI】
H01R12/91
H01R12/71
(21)【出願番号】P 2022098824
(22)【出願日】2022-06-20
(62)【分割の表示】P 2018158582の分割
【原出願日】2018-08-27
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390012977
【氏名又は名称】イリソ電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榛葉 大地
(72)【発明者】
【氏名】小椋 由幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘明
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075337(JP,A)
【文献】特開2014-229407(JP,A)
【文献】特開2017-139101(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0193995(US,A1)
【文献】特開2017-220431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R12/00-12/91
H01R24/00-24/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に固定される固定ハウジングと、
前記固定ハウジングに対して変位可能に配列され、各々に設けられた挿入室に対して配列方向と直交する挿入方向に接続対象物がそれぞれ挿入される複数の可動ハウジングと、 前記固定ハウジングと前記複数の可動ハウジングとの間にそれぞれ架け渡され、各々が各前記挿入室の内部で各前記接続対象物と接続される一対の相手側接続部を有すると共に、前記固定ハウジングに対する前記複数の可動ハウジングの変位を弾性変形によって許容する弾性変形部を各々が有する複数の端子と、
を備え、
1つの前記可動ハウジングにつき1つの前記端子を有し、
前記一対の相手側接続部は、前記配列方向及び前記挿入方向と直交する架渡方向に対向しており、
前記弾性変形部は、前記一対の相手側接続部に対して前記架渡方向の一方側へ延びており、
前記可動ハウジングは、前記配列方向の寸法が前記架渡方向の寸法よりも小さく形成されており、
前記複数の可動ハウジングは、互いの間に隙間が確保されるように前記配列方向の寸法を設定されて
おり、
前記複数の可動ハウジングの間に前記固定ハウジングの一部が介在していない電気コネクタ。
【請求項2】
前記複数の可動ハウジングは、何れも同一の形状に形成されている請求項1に記載の電気コネクタ。
【請求項3】
各前記端子は、前記挿入方向から見て前記架渡方向を長手方向としており、各前記端子の長手方向中間部が前記弾性変形部とされている請求項1又は請求項2に記載の電気コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気コネクタに関し、より具体的には、接続対象物が挿入される複数の可動ハウジングが固定ハウジングに対して変位可能とされた電気コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載されたコネクタは、基板に固定される固定ハウジングと、接続対象物が挿入される複数の嵌合室(挿入室)が設けられた可動ハウジングと、固定ハウジングと可動ハウジングとの間にそれぞれ架け渡され、各々が各挿入室の内部で各接続対象物と接触する複数の端子と、を備えている。上記各挿入室に対する各接続対象物の挿入方向の手前側には、それぞれテーパ状の誘導面が設けられており、各誘導面によって各接続対象物を各挿入室に誘導するようにしている。また、可動ハウジングは、複数に分割されており、各端子の弾性変形によって固定ハウジングに対する相対変位を許容される。これにより、各接続対象物の挿入位置の位置ずれや振動等を上記の相対変位によって吸収し、各端子と各接続対象物との摺動を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電子機器の小型化に伴い、コネクタ等の電子部品には小型化の要請がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、可動ハウジングの配列方向に小型化することができる電気コネクタを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明に係る電気コネクタは、基板に固定される固定ハウジングと、前記固定ハウジングに対して変位可能に配列され、各々に設けられた挿入室に対して配列方向と直交する挿入方向に接続対象物がそれぞれ挿入される複数の可動ハウジングと、前記固定ハウジングと前記複数の可動ハウジングとの間にそれぞれ架け渡され、各々が各前記挿入室の内部で各前記接続対象物と接続される一対の相手側接続部を有すると共に、前記固定ハウジングに対する前記複数の可動ハウジングの変位を弾性変形によって許容する弾性変形部を各々が有する複数の端子と、を備え、1つの前記可動ハウジングにつき1つの前記端子を有し、前記一対の相手側接続部は、前記配列方向及び前記挿入方向と直交する架渡方向に対向しており、前記弾性変形部は、前記一対の相手側接続部に対して前記架渡方向の一方側へ延びており、前記可動ハウジングは、前記配列方向の寸法が前記架渡方向の寸法よりも小さく形成されており、前記複数の可動ハウジングは、互いの間に隙間のみが確保されるように前記配列方向の寸法を設定されており、前記複数の可動ハウジングの間に前記固定ハウジングの一部が介在していない。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る電気コネクタによれば、可動ハウジングの配列方向に小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る電気コネクタの斜視図であり、接続対象物の挿入状態を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電気コネクタの斜視図であり、接続対象物の非挿入状態を示す図である。
【
図3】
図2のF3-F3線に沿った切断面を示す斜視断面図である。
【
図4】
図2のF4-F4線に沿った切断面を示す斜視断面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る電気コネクタの平面図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る電気コネクタの固定ハウジングを示す斜視図である。
【
図9】本発明の実施形態に係る電気コネクタの固定ハウジングを示す斜視図である。
【
図10】本発明の実施形態に係る電気コネクタの可動ハウジングを示す斜視図である。
【
図11】本発明の実施形態に係る電気コネクタの可動ハウジングを示す斜視図である。
【
図12】本発明の実施形態に係る電気コネクタの可動ハウジングを示す平面図である。
【
図13】本発明の実施形態に係る電気コネクタの可動ハウジングを示す底面図である。
【
図14】本発明の実施形態に係る電気コネクタの端子を示す斜視図である。
【
図15】本発明の実施形態に係る電気コネクタの固定部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、
図1~
図15を用いて、本発明の一実施形態に係る電気コネクタ10について説明する。なお、説明の便宜上、各図中に適宜記す矢印FRを電気コネクタ10の前方とし、矢印LHを電気コネクタ10の左方とし、矢印UPを電気コネクタ10の上方とする。以下、単に前後、左右、上下の方向を用いて説明する場合、電気コネクタ10に対する方向を示すものとする。これらの方向は、電気コネクタ10の使用状態での方向とは無関係である。また、各図においては、図面を見易くする関係から、一部の符号を省略している場合がある。
【0010】
(構成)
図1~
図7に示されるように、本実施形態に係る電気コネクタ10は、基板12に実装され、相手側コネクタ14(
図1~
図4参照)と電気的に接続されるものであり、固定ハウジング20と、複数(ここでは6つ)の可動ハウジング50と、複数(ここでは6つ)の端子90とを備えている。相手側コネクタ14は、ピン形状に形成された複数(ここでは6つの)の相手側端子16と、複数の相手側端子16を保持する絶縁部材18とによって構成されている。複数の相手側端子16は、それぞれ本発明における「接続対象物」に相当する。
【0011】
固定ハウジング20は、固定部材36(
図15参照)を用いて基板12に固定されている。複数の可動ハウジング50は、電気コネクタ10の左右方向に配列されており、固定ハウジング20に対して変位可能とされている。これらの可動ハウジング50には、それぞれ挿入室60が設けられている。各挿入室60には、複数の可動ハウジング50の配列方向と直交する挿入方向に相手側端子16がそれぞれ挿入される構成になっている。また、各挿入室60に対する上記挿入方向の手前側には、各相手側端子16を各挿入室60に誘導する複数のテーパ状の前後誘導面74及び複数のテーパ状の左右誘導面80が設けられている。左右誘導面80は、本発明における「誘導面」に相当する。
【0012】
複数の端子90は、固定ハウジング20と複数の可動ハウジング50との間に架け渡されている。これらの端子90は、各挿入室60の内部で各相手側端子16と接触すると共に、固定ハウジング20に対する複数の可動ハウジング50の変位を各々の弾性変形によって許容する構成になっている。
【0013】
なお、各図中に適宜示される矢印Xは、固定ハウジング20と複数の可動ハウジング50との間での複数の端子90の架け渡し方向(架渡方向)であり、矢印Yは、複数の可動ハウジング50及び複数の端子90の配列方向(固定ハウジング20の長手方向)であり、矢印Zは、各挿入室60に対する各相手側端子16の挿抜方向であり、矢印Z1は、各挿入室60に対する各相手側端子16の挿入方向である。上記の架渡方向Xは、電気コネクタ10の前後方向と一致しており、上記の配列方向Yは、電気コネクタ10の左右方向と一致しており、上記の挿抜方向Zは、電気コネクタ10の上下方向と一致しており、上記の挿入方向Z1は、電気コネクタ10の下方と一致している。以下の説明では、架渡方向Xを「前後方向」と称し、配列方向Yを「左右方向」と称し、挿抜方向Zを「上下方向」と称する場合がある。
【0014】
(固定ハウジングについて)
図1~
図9に示されるように、固定ハウジング20は、左右方向(配列方向Y)を長手とし且つ下方側が開放された箱状に形成されている。この固定ハウジング20は、例えば合成樹脂等の絶縁性材料によって製造されたものであり、前壁20A、後壁20B、左壁20C、右壁20D及び上壁20Eを備えている。前壁20A及び後壁20Bは前後方向に対向しており、左壁20C及び右壁20Dは左右方向に対向しており、上壁20Eは、前壁20A、後壁20B、左壁20C及び右壁20Dの上端部を前後左右に繋いでいる。
【0015】
上壁20Eの前部側には、左右方向を長手とする長尺矩形状の開口部22が形成されている。この開口部22の縁部の上面側には、開口部22側へ向かって下り勾配に傾斜した傾斜面24が形成されている。また、開口部22の右縁部には、傾斜面24よりも下方側に離れた位置から左方側かつ下方側へ延びる右端傾斜面26が形成されている。さらに、開口部22の左縁部には、傾斜面24の下端部付近から右方側かつ下方側へ延びる左端傾斜面28が形成されている。右端傾斜面26の上端は、左端傾斜面28の下端よりも若干下方側に位置している。右端傾斜面26は、本発明における「第4傾斜面」に相当しており、左端傾斜面28は、本発明における「第5傾斜面」に相当している。以下、右端傾斜面26を「第4傾斜面26」と称し、左端傾斜面28を「第5傾斜面28」と称する。
【0016】
左壁20C及び右壁20Dの下面には、固定ハウジング20を基板12に位置決めするための円柱状の位置決めボス30が形成されている。これらの位置決めボス30は、基板12に形成された円形の位置決め孔(図示省略)内に嵌合されている。また、左壁20C及び右壁20Dの下部には、左右方向外側へ突出した左右の脚部32が形成されている。これらの脚部32には、それぞれ固定溝34が形成されている。左側の脚部32に形成された固定溝34は、左方、上方及び下方へ向けて開口しており、右側の脚部32に形成された固定溝34は、右方、上方及び下方へ向けて開口している。これらの固定溝34は、固定部材36に対応している。
【0017】
固定部材36(
図15参照)は、例えば金属板が所定の形状に打ち抜かれて曲げ加工されたものであり、左右の脚部32にそれぞれ取り付けられている。各固定部材36は、左右方向を板厚方向とする矩形板状に形成されたハウジング固定部36Aと、ハウジング固定部36Aの下端部から左右方向外側へ延出された基板固定部36Bとによって構成されている。ハウジング固定部36Aは、上記固定溝34に嵌め込まれている。ハウジング固定部36Aの前後両端部には、前後方向両側へ突出した複数の爪部37が上下方向に並んで形成されている。これらの爪部37が固定溝34の内面に食い込むことで、ハウジング固定部36Aが脚部32に保持されている。基板固定部36Bは、脚部32の下側に配置されており、半田付け等の手段で基板12に固定されている。
【0018】
前壁20Aの下部には、下方側から切り欠かれた切欠部38が形成されている。この切欠部38は、前後方向視で矩形状をなしている。後壁20Bの下端部は、基板12に対して上方側に離間して配置されており、後壁20Bの下端部と基板12との間には、隙間40が形成されている。また、
図9に示されるように、後壁20Bの前面(前壁20Aとの対向面)には、上下方向に延びる複数(ここでは6つ)の端子固定溝42が左右方向に並んで形成されている。これらの端子固定溝42は、後方側が前方側よりも左右方向に幅広に形成されており、端子90に対応している。また、上壁20Eの後部の下面には、下方側へ突出した複数(ここでは6つ)の凸部44が配列方向に並んで形成されている。複数の凸部44と複数の端子固定溝42とは、左右方向の位置を揃えて配置されている。
【0019】
(可動ハウジングについて)
図1~
図7、
図10~
図13に示されるように、複数の可動ハウジング50は、上下方向(挿抜方向Z)を長手とする略直方体状に形成されており、左右方向(配列方向Y)の寸法が前後方向(架渡方向X)の寸法よりも小さく設定されている。これらの可動ハウジング50は、何れも同一の形状に形成されており、左右方向に並んで固定ハウジング20の内部に収容されている。複数の可動ハウジング50は、互いの間及び固定ハウジング20の左壁20C及び右壁20Dとの間に若干の隙間が確保されるように左右方向の寸法を設定されている。
【0020】
各可動ハウジング50の下部の前端部には、前方側かつ下方側へ突出した前突部52が形成されている。この前突部52の下部の前部側は、斜めに面取りされている。この前突部52は、固定ハウジング20の切欠部38内に挿入されている。また、各可動ハウジング50の下部の後端部における左右両端部には、下方側へ突出した左右一対の後脚部54が形成されている。各可動ハウジング50の下面からの左右の後脚部54の突出量は、各可動ハウジング50の下面からの前突部52の突出量と同等に設定されている。各可動ハウジング50の上下方向寸法は、固定ハウジング20の上壁20Eの下面から基板12の上面までの距離よりも若干小さく設定されている。
【0021】
各可動ハウジング50の前面は、固定ハウジング20の前壁20Aに対して近接して対向している。各可動ハウジング50の上部には、後方側へ突出した後突出部56が形成されている。これにより、各可動ハウジング50の上部において、各可動ハウジング50の前後方向寸法が拡大されている。後突出部56の後面には、上下方向に延びる縦溝58が形成されている。この縦溝58は、上方及び後方へ向けて開口している。この縦溝58には、固定ハウジング20の凸部44が挿入されている。この凸部44と固定ハウジング20の前壁20Aとによって、固定ハウジング20に対する各可動ハウジング50の前後方向の変位が所定(一定)の範囲内に制限されている。また、凸部44の左右方向寸法は、縦溝58の左右方向寸法よりも若干小さく設定されており、固定ハウジング20に対する各可動ハウジング50の左右方向の変位が所定(一定)の範囲内に制限されている。つまり、各可動ハウジング50は、固定ハウジング20に対して前後左右上下に所定(一定)の範囲内で相対変位可能とされている。
【0022】
各可動ハウジング50の上下方向視での略中央部には、上下方向に延びる挿入室(端子嵌合室)60が形成されている。挿入室60は、上下方向視で矩形状をなしており、各可動ハウジング50の下面で開口している。
図13に示されるように、挿入室60の前方側かつ右方側の角部には、前方側へ凹んだ溝部62が形成されており、挿入室60の後方側かつ左方側の角部には、左方側へ凹んだ溝部64が形成されている。また、挿入室60の上端部には、天壁66が設けられており、当該天壁66の中央部には、上下方向視で矩形状をなす挿入口68が形成されている。
【0023】
挿入口68よりも上方側で可動ハウジング50の上部の左側には、左方側(配列方向Yの一方側)へ段差状に突出した側方突出部70が形成されている。また、挿入口68よりも上方側で可動ハウジング50の上部の右側には、左方側へ段差状に凹んだ側方凹み部72が形成されている。このため、可動ハウジング50の上部は、前後方向視で略クランク状に形成されている。側方突出部70の下面は、下方側を向いた段差面70Aとされており、側方凹み部72の下面は、上方側を向いた段差面72Aとされている。この段差面72Aは、段差面70Aよりも若干下方側に位置している。
【0024】
また、挿入口68よりも上方側で各可動ハウジング50の上部には、相手側端子16を挿入口68(挿入室60)へ誘導するテーパ状の前後誘導面(架渡方向誘導面)74及び左右誘導面(配列方向誘導面)80が設けられている。前後誘導面74は、可動ハウジング50の上端部の前端部から挿入口68へ向かって下り勾配に延びる前側傾斜面76と、可動ハウジング50の上端部の後端部から挿入口68へ向かって下り勾配に延びる後側傾斜面78とによって構成されている。前側傾斜面76と後側傾斜面78とは、前後方向(架渡方向X)に対向しており、挿入口68側へ向かうほど互いに接近するようにテーパ状に傾斜している。前側傾斜面76の上端と後側傾斜面78の上端とは、同等の高さに位置しており、可動ハウジング50の上端に配置されている。
【0025】
左右誘導面80は、可動ハウジング50の上端部の左端部から挿入口68へ向かって下り勾配に延びる左側傾斜面82と、可動ハウジング50の上端部の右端部から挿入口68へ向かって下り勾配に延びる右側傾斜面84とを備えている。左側傾斜面82と右側傾斜面84とは、左右方向(配列方向Y)に対向しており、挿入口68側へ向かうほど互いに接近するようにテーパ状に傾斜している。左側傾斜面82の上端は、前側傾斜面76及び後側傾斜面78の各上端よりも下方側に位置しており、右側傾斜面84の上端は、左側傾斜面82の上端よりも下方側に位置している。この右側傾斜面84の上端は、前述した側方凹み部72の段差面72Aに繋がっている。さらに、可動ハウジング50の上部には、左側傾斜面82の上端から左方側かつ下方側へ向かって下り勾配に延びる外側傾斜面86が形成されている。この外側傾斜面86は、前述した側方突出部70に形成されている。この外側傾斜面86の下端は、右側傾斜面84の上端よりも若干上方側に位置している。
【0026】
上記の左側傾斜面82は、本発明における「第1傾斜面」に相当しており、上記の右側傾斜面84は、本発明における「第2傾斜面」に相当しており、上記の外側傾斜面86は、本発明における「第3傾斜面」に相当する。以下、左側傾斜面82を「第1傾斜面82」と称し、右側傾斜面84を「第2傾斜面84」と称し、外側傾斜面86を「第3傾斜面86」と称する。
【0027】
(端子について)
複数の端子90(
図14参照)は、例えば導電性を有する金属板が所定の形状に打ち抜かれて曲げ加工されたものであり、前後方向(架渡方向X)を長手方向とする長尺状に形成されている。各端子90は、固定ハウジング20に固定される固定部90Aと、固定部90Aから延出されて基板12に接続される基板接続部90Bと、可動ハウジング50に固定される可動側固定部90Cと、可動側固定部90Cから延出されて相手側端子16と接続される前後一対の相手側接続部90D1、90D2と、固定部90Aと可動側固定部90Cとの間に架け渡された弾性変形部90Eとを一体に備えている。
【0028】
固定部90Aは、前後方向を板厚方向とする板状に形成されており、固定ハウジング20に形成された左右の固定溝34に下方側から嵌め込まれている。固定部90Aの左右両端部には、左右方向両側へ突出した複数の爪部91が上下方向に並んで形成されている。これらの爪部91が固定溝34の内面に食い込むことで、固定部90Aが固定ハウジング20に保持されている。基板接続部90Bは、固定ハウジング20の後壁20Bの下端と基板12との間の隙間40を通って後壁20Bの後方側へ延びており、半田付け等の手段で基板12に固定(電気的に接続)されている。
【0029】
可動側固定部90Cは、前後方向に対向する前壁90C1及び後壁90C2と、前壁90C1及び後壁90C2の右端部を前後方向に繋いだ右壁90C3とを備えており、上下方向視で左方側が開放された略U字状(略コ字状)をなしている。この可動側固定部90Cは、可動ハウジング50の挿入室60内に下方側から嵌め込まれている。後壁90C2の左端部には、左方側へ突出した複数の爪部93が上下方向に並んで形成されており、右壁90C3の前端部には、前方側へ突出した複数の爪部92が上下方向に並んで形成されている。複数の爪部92は、挿入室60の前側かつ右側の角部に形成された溝部62内に挿入されて当該溝部62の内面に食い込んでおり、複数の爪部93は、挿入室60の後側かつ左側の角部に形成された溝部64内に挿入されて当該溝部64の内面に食い込んでいる。これにより、可動側固定部90Cが可動ハウジング50に保持されている。
【0030】
前後一対の相手側接続部90D1、90D2は、可動側固定部90Cの前壁90C1及び後壁90C2の上端から上方側へ延びている。相手側接続部90D1、90D2の上下方向中間部には、互いに接近するように屈曲された接点部CP1、CP2が形成されている。これらの接点部CP1、CP2を含む相手側接続部90D1、90D2の間には、挿入室60内へ挿入された相手側端子16が挿入される。これにより、各接点部CP1、CP2が相手側端子16と接触し、端子90が挿入室60内で相手側端子16と電気的に接続される構成になっている。
【0031】
弾性変形部(ばね部)90Eは、端子90の長手方向中間部を構成しており、固定ハウジング20内において可動ハウジング50の後突出部56の下方側に配置されている。この弾性変形部90Eは、固定部90Aの上端から上方へ延びる固定側縦延部90E1と、固定側縦延部90E1の上端から前方側かつ若干上方側へ延びる上側横延部90E2と、上側横延部90E2の前端から下方側へ延びる可動側縦延部90E3と、可動側縦延部90E3の下端から前方側へ延びる下側横延部90E4とによって構成されている。下側横延部90E4の前端部は、上方側へ向けて屈曲されており、可動側固定部90Cの後壁90C2の下端に一体に接続されている。この弾性変形部90Eの弾性変形によって、固定ハウジング20に対する可動ハウジング50の前後左右上下の相対変位が許容される構成になっている。
【0032】
ここで、本実施形態では、
図6に示されるように、左右方向(配列方向Y)に隣り合う一対の可動ハウジング50(以下、単に「隣り合う可動ハウジング50」と称する場合がある)において、右側の可動ハウジング50の側方突出部70は、左側の可動ハウジング50の側方凹み部72の内側に入り込んでいる。つまり、隣り合う可動ハウジング50は、挿入方向Z1(挿抜方向Z)から見て部分的に重なり合っている。なお以下、左右方向に隣り合う一対の可動ハウジング50のうち右側の可動ハウジング50を「右隣の可動ハウジング50」と称し、左側の可動ハウジング50を「左隣の可動ハウジング50」と称する場合がある。
【0033】
また、本実施形態では、左隣の可動ハウジング50(すなわち隣り合う可動ハウジング50の一方)に設けられた挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80の一部が、右隣の可動ハウジング50(すなわち隣り合う可動ハウジング50の他方)に形成されている。詳細には、左隣の可動ハウジング50に設けられた挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80は、左隣の可動ハウジング50に形成された第1傾斜面82及び第2傾斜面84と、左隣の可動ハウジング50の第2傾斜面84に対する挿入方向Z1の手前側(上側;矢印UP側)で右隣の可動ハウジング50に形成された第3傾斜面86とを含んで構成されている。この第3傾斜面86は、左隣の可動ハウジング50の第1傾斜面82に対して配列方向Yに対向している。そして、挿入方向Z1から見た場合、左隣の可動ハウジング50の第2傾斜面84と、右隣の可動ハウジング50の第3傾斜面86とが部分的に重なり合っている。
【0034】
また、本実施形態では、
図5に示されるように、右端(一番右側)の可動ハウジング50(本発明における「配列方向の一端に位置する可動ハウジング」に相当)に設けられた挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80は、右端の可動ハウジング50に形成された第1傾斜面82及び第2傾斜面84と、右端の可動ハウジング50の第2傾斜面84に対する挿入方向Z1の手前側で固定ハウジング20に形成された第4傾斜面26とによって構成されている。この第4傾斜面26は、右端の可動ハウジング50の前記第1傾斜面82に対して配列方向Yに対向している。つまり、本実施形態では、右端の可動ハウジング50に設けられた挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80は、右端の可動ハウジング50の一部と、固定ハウジング20の一部とによって構成されている。また、挿入方向Z1から見た場合に、右端の可動ハウジング50の第2傾斜面84と、第4傾斜面26とが部分的に重なり合っている。
【0035】
さらに、本実施形態では、
図5及び
図6に示されるように、左端(一番左側)の可動ハウジング50(本発明における「配列方向の他端に位置する可動ハウジング」に相当)に設けられた挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80は、左端の可動ハウジング50に形成された第1傾斜面82及び第2傾斜面84と、左端の可動ハウジング50の右隣の可動ハウジング50に形成された第3傾斜面86と、左端の可動ハウジング50の第1傾斜面82に対する挿入方向Z1の手前側で固定ハウジング20に形成された第5傾斜面28とによって構成されている。つまり、本実施形態では、左端の可動ハウジング50に設けられた挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80は、左端の可動ハウジング50の一部と、当該左端の可動ハウジング50の右隣の可動ハウジング50の一部と、固定ハウジング20の一部とによって構成されている。そして、挿入方向Z1から見た場合に、左端の可動ハウジング50の第1傾斜面82と第5傾斜面28とが部分的に重なっている。
【0036】
また、本実施形態では、
図6に示されるように、隣り合う可動ハウジング50の間には、挿入方向Z1に沿った両者の相対変位(すなわち隣り合う可動ハウジング50同士の挿抜方向Zの相対変位)を許容する可動間隙94(
図6以外では符号省略)が形成されている。この可動間隙94は、左隣の可動ハウジング50の段差面72A(
図10~
図13参照;
図6では符号省略)と、右隣の可動ハウジング50の段差面70A(
図10~
図13参照;
図6では符号省略)との間に形成されている。
【0037】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0038】
上記構成の電気コネクタ10では、基板12に固定される固定ハウジング20に対して、複数の可動ハウジング50が変位可能に配列されている。そして、各可動ハウジング50に設けられた挿入室60に対して、各可動ハウジング50の配列方向Yと直交する挿入方向Z1に相手側端子16がそれぞれ挿入される。各挿入室60に対する挿入方向Z1の手前側には、各相手側端子16を各挿入室60に誘導する複数のテーパ状の左右誘導面80が設けられている。また、固定ハウジング20と複数の可動ハウジング50との間には、複数の端子90が架け渡されている。これらの端子90は、各挿入室60の内部で各相手側端子16と接触すると共に、固定ハウジング20に対する複数の可動ハウジング50の相対変位を各々の弾性変形によって許容する。これにより、各相手側端子16の挿入位置の位置ずれや振動等を上記の相対変位によって吸収し、各端子90と各相手側端子16との摺動を抑制することができる。
【0039】
しかも、本実施形態では、配列方向Yに隣り合う可動ハウジング50同士が相手側端子16の挿入方向Z1から見て部分的に重なり合っている。また、隣り合う可動ハウジング50の一方に設けられた挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80の一部(外側傾斜面86)が、隣り合う可動ハウジング50の他方(右隣の可動ハウジング50)に形成されている。これにより、端子90の配置間隔の狭ピッチ化(すなわち挿入室60の狭ピッチ化)を図る場合でも、左右誘導面80を設けるためのスペースを確保し易くなるので、左右誘導面80による相手側端子16の誘導量を十分に確保しつつ、本電気コネクタ10を配列方向Yに小型化することができる。その結果、本電気コネクタ10が設けられる電子機器の小型化が可能となる。
【0040】
また、本実施形態では、配列方向Y(左右方向)に隣り合う可動ハウジング50の一方(左隣の可動ハウジング50)に設けられた挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80は、第1傾斜面82、第2傾斜面84及び第3傾斜面86を含んで構成されている。第1傾斜面82及び第2傾斜面84は、左隣の可動ハウジング50に形成されており、互いに配列方向Yに対向している。第3傾斜面86は、右隣の可動ハウジング50に形成されており、左隣の可動ハウジング50の第2傾斜面84に対して挿入方向Z1の手前側に配置されている。この第3傾斜面86によって相手側端子16を第2傾斜面84に誘導すると共に、当該第2傾斜面84によって相手側端子16を挿入室60に誘導することができる。このように相手側端子16が誘導される挿入室60と上記の第2傾斜面84とは、同じ可動ハウジング50(左隣の可動ハウジング50)に形成されているので、挿入室60への相手側端子16の誘導が安定する。
【0041】
つまり、例えば左隣の可動ハウジング50の第2傾斜面84を省略する(無くす)と共に、右隣の可動ハウジング50の第3傾斜面86を下方側(上記省略した第2傾斜面84の下端側)へ延長すれば、第1傾斜面82及び第3傾斜面86のみで左右誘導面80を構成することができる。しかしながら、その場合、右隣の可動ハウジング50の第3傾斜面86から、左隣の可動ハウジング50の挿入室60に直接相手側端子16を誘導することになるため、第3傾斜面86と挿入室60とが相対変位することにより、挿入室60への相手側端子16の誘導が不安定になる可能性があるが、本実施形態ではこれを回避することができる。
【0042】
しかも、本実施形態では、挿入方向Z1から見た場合に、左隣の可動ハウジング50の第2傾斜面84と、右隣の可動ハウジング50の第3傾斜面86とが、部分的に重なり合っている。これにより、挿入方向Z1から見た場合に、第2傾斜面84と第3傾斜面86との間に隙間や段差等が形成されないようにすることができるので、相手側端子16が上記の隙間や段差等に引っ掛かる等して損傷することを防止できる。
【0043】
また、本実施形態では、右端の可動ハウジング50の挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80は、右端の可動ハウジング50の第2傾斜面84に対する挿入方向Z1の手前側で固定ハウジング20に形成された第4傾斜面26を含んで構成されている。このため、右端の可動ハウジング50の挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80を、上記の第4傾斜面26によって配列方向Yに拡大することができる。
【0044】
しかも、本実施形態では、挿入方向Z1から見た場合に、右端の可動ハウジング50の第2傾斜面84と、固定ハウジング20の第4傾斜面26とが、部分的に重なり合っている。これにより、上記挿入方向Z1から見た場合に、上記の第2傾斜面84と第4傾斜面26との間に隙間や段差等が形成されないようにすることができるので、相手側端子16が上記の隙間や段差等に引っ掛かる等して損傷することを防止できる。
【0045】
また、本実施形態では、左端の可動ハウジング50の挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80は、左端の可動ハウジング50に形成された第1傾斜面82に対して挿入方向Z1の手前側で固定ハウジング20に形成された第5傾斜面28を含んで構成されている。このため、左端の可動ハウジング50の挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80を、第5傾斜面28によって配列方向Yに拡大することができる。
【0046】
しかも、本実施形態では、挿入方向Z1から見た場合に、左端の可動ハウジング50の第1傾斜面82と、固定ハウジング20の第5傾斜面28とが、部分的に重なり合っている。これにより、上記挿入方向Z1から見た場合に、上記の第1傾斜面82と第5傾斜面28との間に隙間や段差等が形成されないようにすることができるので、相手側端子16が上記の隙間や段差等に引っ掛かる等して損傷することを防止できる。
【0047】
また、本実施形態では、隣り合う可動ハウジング50の間には、挿入方向Z1に沿った両者の相対変位を許容する可動間隙94が形成されている。これにより、隣り合う可動ハウジング50が、相手側端子16の挿入方向Z1に沿って互いに独立して変位可能となるので、各相手側端子16の挿入位置の位置ずれや振動等を吸収し易くなる。
【0048】
さらに、本実施形態では、複数の可動ハウジング50が何れも同一の形状に形成されている。これにより、例えば同一の成形金型で複数の可動ハウジング50を製造することが可能となるので、製造効率が向上する。
【0049】
また、本実施形態では、複数の端子90は、挿入方向Z1から見て配列方向Yと直交する架渡方向Xを長手方向としており、各端子90の長手方向中間部が弾性変形可能な弾性変形部90Eとされている。このため、配列方向Yにおける各端子90の寸法を小さく設定しつつ、各端子90の弾性変形量を十分に確保することができる。
【0050】
<実施形態の補足説明>
上記実施形態では、複数の可動ハウジング50が何れも同一の形状に形成された構成にしたが、これに限るものではない。例えば右端の可動ハウジング50が、他の可動ハウジング50とは異なる形状に形成された構成にしてもよい。その場合、例えば右端の可動ハウジング50の第2傾斜面84を上方側に延長することで、固定ハウジング20の第4傾斜面26を省略するようにしてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、固定ハウジング20が第5傾斜面28を有する構成にしたが、これに限らず、固定ハウジング20が第5傾斜面28を有しない構成にしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、挿入方向Z1から見た場合に、左隣の可動ハウジング50の第2傾斜面84と、右隣の可動ハウジング50の第3傾斜面86とが、部分的に重なり合った構成にしたが、これに限るものではない。すなわち、挿入方向Z1から見た場合に、左隣の可動ハウジング50の第2傾斜面84と、右隣の可動ハウジング50の第3傾斜面86とが、間隔を空けずに隣接した構成にしてもよい。この点は、右端の可動ハウジング50の第2傾斜面84と固定ハウジング20の第4傾斜面26との関係、及び、左端の可動ハウジング50の第1傾斜面82と固定ハウジング20の第5傾斜面28との関係についても同様である。
【0053】
また、上記実施形態では、左隣の可動ハウジング50に設けられた挿入室60に相手側端子16を誘導する左右誘導面80が、第1傾斜面82、第2傾斜面84及び第3傾斜面86を含んだ構成にしたが、これに限るものではない。例えば左隣の可動ハウジング50の第2傾斜面84を省略すると共に、右隣の可動ハウジング50の第3傾斜面86を下方側(上記省略した第2傾斜面84の下端側)へ延長し、第1傾斜面82及び第3傾斜面86のみで左右誘導面80を構成してもよい。
【符号の説明】
【0054】
10 電気コネクタ
12 基板
16 相手側端子(接続対象物)
20 固定ハウジング
50 可動ハウジング
60 挿入室
90 端子
90D1、90D2 相手側接続部
90E 弾性変形部
X 架渡方向
Y 配列方向
Z1 挿入方向