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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】生理的グルコースの閉ループ制御
(51)【国際特許分類】
   G16H 20/17 20180101AFI20240319BHJP
【FI】
G16H20/17
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022135659
(22)【出願日】2022-08-29
(62)【分割の表示】P 2020533615の分割
【原出願日】2018-12-14
(65)【公開番号】P2022172230
(43)【公開日】2022-11-15
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】62/608,834
(32)【優先日】2017-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520350258
【氏名又は名称】イプスメッド・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100221327
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 亮
(72)【発明者】
【氏名】ヤーメイ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】ハオダ・フー
(72)【発明者】
【氏名】パラグ・ガルハン
(72)【発明者】
【氏名】アーマド・モハマド・ハイダル
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・アール・ジョーンズ・ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・コバルチック
(72)【発明者】
【氏名】マリー・カーニー・シラー
(72)【発明者】
【氏名】モニカ・リクスマン・スウィニー
(72)【発明者】
【氏名】ハワード・アラン・ウォルパート
【審査官】吉田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-512945(JP,A)
【文献】特表2013-520279(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0203037(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16H 10/00 - 80/00
A61M 3/00- 9/00
A61M 31/00
A61M 39/00-39/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のグルコースを制御するためのシステムであって、前記システムが、
薬剤を前記患者に送達するように構成されている、薬剤送達デバイスと、
前記薬剤送達デバイスと通信するコントローラであって、
1の間隔でマルチモデル予測コントローラアルゴリズムを実行することであって、前記マルチモデル予測コントローラアルゴリズムが、値のセットを有する複数のモデルパラメータを含み、前記マルチモデル予測コントローラアルゴリズムが、複数の状態ベクトルから選択された選択状態ベクトルおよびそれに関連付けられたモデルを前記コントローラで使用して第1の薬剤投与量を決定する、
実行することと、
前記患者の安静度合いを示す状態を決定することと、
前記患者の前記決定された安静度合いを示す状態に少なくとも部分的に基づいて、前記第1の間隔とは異なる第2の間隔で、前記マルチモデル予測コントローラアルゴリズムを実行することと、
を行うように動作可能である制御ロジックを含む、コントローラと、を含む、システム。
【請求項2】
前記第2の間隔が、前記患者の前記安静度合いを示す状態が覚醒状態であると前記制御ロジックが決定すると、前記第1の間隔よりも短い、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記制御ロジックが、前記コントローラと通信するユーザインターフェースからの入力に応答して、前記患者の前記安静度合いを示す状態を決定すること、
を行うようにさらに動作可能である、請求項1~2のいずれかに記載のシステム。
【請求項4】
前記制御ロジックが、時刻に応答して、前記患者の前記安静度合いを示す状態を決定すること、
を行うようにさらに動作可能である、請求項1~2のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記制御ロジックが、検出された食事パターンに応答して、前記患者の前記安静度合いを示す状態を決定すること、
を行うようにさらに動作可能である、請求項1~2のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
制御ロジックが、ユーザ入力へのアクセスの頻度に応答して、前記患者の前記安静度合いを示す状態を決定すること、
を行うようにさらに動作可能である、請求項1~2のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
制御ロジックが、加速度計データに応答して、前記患者の前記安静度合いを示す状態を決定すること、
を行うようにさらに動作可能である、請求項1~2のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
第2の薬剤投与量を決定するために、前記第2の間隔で前記マルチモデル予測コントローラアルゴリズムを実行すること、
を行うようにさらに動作可能である、請求項1~7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
前記第2の薬剤投与量の薬剤が前記薬剤送達デバイスによって送達されるようにすること、
を行うようにさらに動作可能である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記薬剤送達デバイスが、前記第2の間隔に従って、前記薬剤を前記患者に送達するように制御される、請求項1~9のいずれかに記載のシステム。
【請求項11】
前記患者の前記決定された安静度合いを示す状態に少なくとも部分的に基づいて、前記薬剤送達デバイスが所与の期間内により少ないポンプストロークを実行するようにすること、
を行うようにさらに動作可能である、請求項1~10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
前記患者の前記決定された安静度合いを示す状態に少なくとも部分的に基づいて、前記薬剤送達デバイスに基礎送達の間の期間を短縮させること、
を行うようにさらに動作可能である、請求項1~7のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
前記第2の間隔での前記マルチモデル予測コントローラアルゴリズムの実行が、前記第1の間隔での前記マルチモデル予測コントローラアルゴリズムの実行と比較して、前記コントローラの消費電力を増加させる、請求項1~12のいずれかに記載のシステム。
【請求項14】
前記第2の間隔での前記マルチモデル予測コントローラアルゴリズムの実行が、前記第2の間隔でグルコースデータを収集すること、および前記第2の間隔で前記モデルを使用して前記複数の状態ベクトルを伝搬することの少なくとも1つを含む、請求項1~13のいずれかに記載のシステム。
【請求項15】
前記安静度合いを示す状態は、覚醒している、眠っている、ほとんど眠っている、および/またはほとんど覚醒しているから選択される、請求項1~14のいずれかに記載のシステム。
【請求項16】
前記システムが、
前記コントローラと通信しており、かつ前記患者に関連付けられたグルコースデータを測定するように構成されている、グルコース測定デバイスをさらに含む、請求項1~15のいずれかに記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2017年12月21日に提出された米国仮出願第62/608,834号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、生理的グルコース濃度の制御に関する。より具体的には、本開示は、患者の生理的グルコース濃度を制御するための閉ループシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
皮下インスリン補充療法は、糖尿病を制御するための最適なレジメンであることが証明されている。インスリンは、毎日複数回の注射または注入ポンプのいずれかを介して投与され、投与量は、血中グルコース計によって1日数回行われる毛細管グルコース測定によって通知される。この従来の手法は、日々の(および実際には瞬間的な)変動が大きくなる可能性があるため、不完全であることが知られている。さらに、この手法は、繰り返し指を刺すこと、食物摂取の厳密な監視、およびインスリン送達の用心深い制御を必要とするため、患者にとって負担となり得る。
【0004】
連続グルコースモニタ(CGM)などのグルコース測定デバイスの出現により、閉ループ人工膵臓(AP)システムを開発できる可能性が生まれている。APシステムは、注入ポンプに指示を与えるコントローラで実行される投与/制御アルゴリズムでCGMによって提供されるグルコースデータを使用し、ポンプは患者に薬剤を投与する。このようなシステムは、よりよい血糖制御の可能性を提供するため、糖尿病治療に革命を起こす可能性がある。さらに、このようなシステムは、警戒についての患者の要求を減らし、したがって、生活の質の向上を促進する。
【0005】
人工膵臓システムの一部の既存の制御アルゴリズムは、わずかな変動範囲内での動作に制限されるか(非適応コントローラの場合)、またはグルコース動態の急激な変化にゆっくりと反応するように制限されるかのいずれかである。いくつかの既存の制御アルゴリズムには、一般に人体にインスリンのモデルが含まれていないものもあれば、単一の固定モデルまたはゆっくりと適応するモデルであるモデルが含まれているものもある。これらの制限された制御アルゴリズムは、グルコース動態が一定であるか、またはゆっくりと変化する場合のいずれかでのみ、グルコース濃度を適切に制御することができる。現在のAPシステムには、グルコース動態の急激な変動だけでなく、緩やかな変化を特に処理するように設計された制御方法が欠けている。
【発明の概要】
【0006】
実施例1:患者のグルコースを制御するためのシステムが開示され、システムは、薬剤投与量を患者に送達するように構成されている、薬剤送達デバイスと、薬剤送達デバイスと通信し、かつ制御ロジックを含む、コントローラと、を含む。制御ロジックは、第1の薬剤投与量を決定するために、モデル予測コントローラアルゴリズムを実行することであって、第1のモデル予測コントローラアルゴリズムが、第1のセットの値を有する複数のモデルパラメータを含む、実行することと、血糖パターンおよび薬剤のタイプのうちの少なくとも1つの変化を決定することと、第2の薬剤投与量を決定するために、血糖パターンおよび薬剤のタイプのうちの少なくとも1つの決定された変化に応じて、第2のセットの値を有する複数のモデルパラメータを含むモデル予測コントローラアルゴリズムを実行することと、を行うように動作可能である。
【0007】
実施例2:第2のセットの値は、第1の複数のモデルパラメータの第1のセットの値とは異なる、実施例1に記載のシステム。
【0008】
実施例3:第1の実行されたモデル予測コントローラアルゴリズムは、第1の数のモデルパラメータを有する複数のモデルパラメータを含み、第2の実行されたモデル予測コントローラアルゴリズムは、第2の数のモデルパラメータを有する複数のモデルパラメータを含み、第2の数のモデルパラメータが、第1の数のモデルパラメータと同じ数である、実施例1および2に記載のシステム。
【0009】
実施例4:複数のモデルパラメータは、インスリン感受性、インスリン時定数、食事行動時定数、センサ時定数、インスリンと炭水化物との比率、ユーザインターフェースからの入力、およびコントローラゲイン値のうちの少なくとも1つを含む、実施例1~3のいずれかに記載のシステム。
【0010】
実施例5:モデルパラメータの第2のセットの値は、モデルパラメータの第1のセットの値と比較して、食事ボーラス投与の積極性を高める、実施例1~4のいずれかに記載のシステム。
【0011】
実施例6:モデルパラメータの第2のセットの値は、モデルパラメータの第1のセットの値と比較して、増加した生理的グルコース目標を含む、実施例1~5のいずれかに記載のシステム。
【0012】
実施例7:モデルパラメータの第2のセットの値は、モデルパラメータの第1のセットの値と比較して、共分散行列のインスリンコンパートメントについての減少した値を含む、実施例1~6のいずれかに記載のシステム。
【0013】
実施例8:モデルパラメータの第2のセットの値は、モデルパラメータの第1のセットの値と比較して、基礎速度の増加を引き起こす、実施例1~7のいずれかに記載のシステム。
【0014】
実施例9:制御ロジックは、あかつき現象の開始を検出するようにさらに動作可能であり、モデルパラメータの第2のセットの値は、あかつき現象の開始を検出することに応じて、モデルパラメータの第1のセットの値と比較して、基礎速度の増加を引き起こす、実施例8に記載のシステム。
【0015】
実施例10:モデルパラメータの第2のセットの値は、モデルパラメータの第1のセットの値と比較して、ボーラスサイズの増加、インスリンの一時停止の遅延、およびインスリン送達のより早い再開のうちの1つを引き起こす、実施例1~9のいずれかに記載のシステム。
【0016】
実施例11:モデルパラメータの第2のセットの値は、モデルパラメータの第1のセットの値と比較してより少ない値を含む、実施例1、2および4~10のいずれかに記載のシステム。
【0017】
実施例12:制御ロジックは、第2のモデル予測コントローラアルゴリズムを実行する前に、警報を開始するようにさらに動作可能である、実施例1~11のいずれかに記載のシステム。
【0018】
実施例13:血糖パターンの変化は、患者のグルコース濃度値をデータベースのグルコース濃度値と比較することによって決定される、実施例1~12のいずれかに記載のシステム。
【0019】
実施例14:データベースのグルコース濃度値は、インスリン薬物動態と関連付けられている、実施例13に記載のシステム。
【0020】
実施例15:血糖パターンの変化を決定することは、現在の血糖パターンを既知のインスリンと炭水化物との比率と比較することを含む、実施例1~14のいずれかに記載のシステム。
【0021】
実施例16:血糖パターンの変化を決定することは、所定のボーラスを標準化された食事とともに送達することと、所定のボーラスおよび標準化された食事の消費に対する患者の応答を決定することと、を含む、実施例1~15のいずれかに記載のシステム。
【0022】
実施例17:血糖パターンの変化を決定することは、データベース内の値を、炭水化物摂取およびインスリン投与からグルコースレベルの最大減少までの経過時間、炭水化物摂取およびインスリン投与からグルコースレベルの最大減少に至る中間点までの経過時間、炭水化物摂取およびインスリン投与から、グルコースレベルの最大減少の後にベースラインに戻る中間点までの経過時間、所定の期間にわたるグルコース曲線下の面積、およびインスリン送達のグルコース曲線下の面積で割ったグルコース曲線下の面積のうちの1つと比較することを含む、実施例1~16のいずれかに記載のシステム。
【0023】
実施例18:制御ロジックは、現在のグルコース曲線下の面積(AUC)と既知のAUCとの間の比較に応じて、インスリンのタイプを決定するようにさらに動作可能である、実施例1~17のいずれかに記載のシステム。
【0024】
実施例19:制御ロジックは、インスリン送達後の第1の時間の間の現在のグルコース曲線下の面積(AUC)と既知のAUCとの間の比較に応じて、インスリンのタイプを決定するようにさらに動作可能である、実施例1~18のいずれかに記載のシステム。
【0025】
実施例20:制御ロジックは、第1の間隔でモデル予測コントローラアルゴリズムを実行するように動作可能であり、制御ロジックは、その後に、血糖パターンの決定された変化および/または薬剤のタイプに応じて、第1の間隔とは異なる第2の間隔でモデル予測コントローラアルゴリズムを実行するようにさらに動作可能である、実施例1~19のいずれかに記載のシステム。
【0026】
実施例21:第2の間隔は、患者が速効型インスリンを使用していると決定することに応じて、第1の間隔よりも短い、実施例20に記載のシステム。
【0027】
実施例22:制御ロジックは、第1の間隔でモデル予測コントローラアルゴリズムを実行するように動作可能であり、制御ロジックは、その後に、患者の安静状態の決定に応じて、第1の間隔とは異なる第2の間隔でモデル予測コントローラアルゴリズムを実行するようにさらに動作可能である、実施例1~21のいずれかに記載のシステム。
【0028】
実施例23:第2の間隔は、患者が覚醒していると決定することに応じて、第1の間隔よりも短い、実施例22に記載のシステム。
【0029】
実施例24:制御ロジックは、ユーザインターフェースからの入力に応じて、患者の安静状態を決定するようにさらに動作可能である、実施例1~23のいずれかに記載のシステム。
【0030】
実施例25:制御ロジックは、時刻に応じて、患者の安静状態を決定するようにさらに動作可能である、実施例1~24のいずれかに記載のシステム。
【0031】
実施例26:制御ロジックは、検出された食事パターン、グルコース変動の小休止、ユーザ入力へのアクセス頻度、および患者のウェアラブルデバイスからの入力のうちの1つに応じて、患者の安静状態を決定するようにさらに動作可能である、実施例25に記載のシステム。
【0032】
実施例27:薬剤のタイプは、超高速インスリンまたは速効型インスリンのいずれかである、実施例1~26のいずれかに記載のシステム。
【0033】
実施例28:速効型インスリンは、インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、およびインスリングルリジンを含む、実施例27に記載のシステム。
【0034】
実施例29:薬剤送達デバイスは、決定された第1の薬剤投与量および決定された第2の薬剤投与量に応じて、患者にインスリンを送達するように構成されている、実施例1~28のいずれかに記載のシステム。
【0035】
実施例30:患者のグルコースを制御するためのシステムが開示され、システムは、薬剤投与量を患者に送達するように構成されている、薬剤送達デバイスと、薬剤送達デバイスと通信し、かつ動作可能である制御ロジックを含む、コントローラと、を含む。制御ロジックは、第1の薬剤投与量を決定するために、第1の間隔でモデル予測コントローラアルゴリズムを実行することであって、第1のモデル予測コントローラアルゴリズムが、第1のセットの値を有する複数のモデルパラメータを含む、実行することと、患者の安静状態を決定することと、患者の決定された安静状態に少なくとも部分的に基づいて、第1の間隔とは異なる第2の間隔で、モデル予測コントローラアルゴリズムを実行することと、を行うように動作可能である。
【0036】
実施例31:第2の間隔は、患者が覚醒していると決定することに応じて、第1の間隔よりも短い、実施例30に記載のシステム。
【0037】
実施例32:制御ロジックは、ユーザインターフェースからの入力に応じて、患者の安静状態を決定するようにさらに動作可能である、実施例30または31に記載のシステム。
【0038】
実施例33:制御ロジックは、時刻に応じて、患者の安静状態を決定するようにさらに動作可能である、実施例30または31に記載のシステム。
【0039】
実施例34:制御ロジックは、検出された食事パターン、グルコース変動の小休止、ユーザ入力へのアクセス頻度、および患者のウェアラブルデバイスからの入力のうちの1つに応じて、患者の安静状態を決定するようにさらに動作可能である、実施例30または31に記載のシステム。
【0040】
実施例35:患者のグルコースを制御するためのシステムが開示され、システムは、薬剤投与量を患者に送達するように構成されている、薬剤送達デバイスと、薬剤送達デバイスと通信し、かつ動作可能である制御ロジックを含む、コントローラと、を含む。制御ロジックは、第1の薬剤投与量を決定するために、制御アルゴリズムを実行することであって、制御アルゴリズムが、第1のセットの調整可能なパラメータを含む、実行することと、血糖パターンおよび薬剤のタイプのうちの少なくとも1つの変化を決定することと、血糖パターンおよび薬剤のタイプのうちの少なくとも1つの決定された変化に応じて、第2のセットの調整可能なパラメータを使用して、第2の薬物投与量を決定するために制御アルゴリズムを実行することと、を行うように動作可能である。
【0041】
実施例36:制御アルゴリズムは、モデル予測コントローラアルゴリズム、比例積分微分(PID)制御アルゴリズム、およびファジー論理制御アルゴリズムのうちの1つである、実施例35に記載のシステム。
【0042】
実施例37:制御アルゴリズムは、比例積分微分(PID)制御アルゴリズムであり、調整可能なパラメータは、グルコースの変化率、測定されたグルコースレベルと目標グルコースレベルとの間の差、およびオンボードインスリンのうちの少なくとも1つを含む、実施例35または36に記載のシステム。
【0043】
実施例38:調整可能なパラメータのうちの1つは、オンボードインスリンを含み、第2のセットの調整可能なパラメータは、第1のセットの調整可能なパラメータに含まれるオンボードインスリンよりも多いまたは少ないオンボードインスリンを含む、実施例35~37のいずれかに記載のシステム。
【0044】
実施例39:コントローラと通信しており、かつ患者からの入力を受信するように構成されている、ユーザインターフェースをさらに含む、実施例1~38のいずれかに記載のシステム。
【0045】
実施例40:コントローラと通信しており、かつ患者と関連付けられたグルコースデータを測定するように構成されている、グルコース測定デバイスをさらに含む、実施例1~39のいずれかに記載のシステム。
【0046】
実施例41:患者のグルコースを制御するためのシステムが開示され、システムは、第1の薬剤投与量を患者に送達するように構成されている、薬剤送達デバイスと、薬剤のタイプの変化および血糖パターンの変化のうちの少なくとも1つを決定するための手段と、薬剤のタイプおよび血糖パターンのうちの少なくとも1つの変化に応じて、第2の薬剤投与量を決定するための手段と、を含む。
【0047】
本開示の上述および他の特徴および利点、ならびにそれらを達成する様式は、本発明の実施形態の以下の説明を添付の図面と併せて参照することによってより明らかになり、またよりよく理解されることとする。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】生理的グルコースを制御するためのシステムの代表的なブロック図を示す。
図2】生理的グルコースを制御するためのシステムの代表的なブロック図を示す。
図3図1および図2のシステムの電子コントローラ上で実行するように構成されている、例示的なモデル予測制御アルゴリズムの例示的なブロック図を示す。
図4】最適な基礎インスリン偏差を計算する例示のブロック図を示す。
図5】例示的なコンパートメントモデルのブロック図を示す。
図6】関連付けられたモデルおよび共分散行列を使用した状態ベクトルの伝搬およびフィルタリングのブロック図を示す。
図7】共分散行列の実施例を示す。
図8】最適な基礎偏差が変更を必要とするかどうかを決定するために実行され得る、いくつかの例示の操作を詳細に説明するフローチャートを示す。
図9】グルカゴン投与量を決定するために実行され得る、いくつかの例示の操作を詳細に説明するフローチャートを示す。
図10】食事ボーラスで送達されるべき薬物(例えば、インスリン)の量を決定する際に適用され得る、様々な例示のロジックを詳細に説明するフローチャートを示す。
図11】送達されるべき薬物(例えば、インスリン)の量を決定する際に適用され得る、様々な例示のロジックを詳細に説明するフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
複数の図全体を通して、対応する参照符号は、対応する部品を示す。本明細書に記載される例証は、本発明の例示の実施形態を例示し、そのような例証は、いかなる様式においても本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0050】
本開示の特定の実施形態は、様々な薬物動態を伴う様々なタイプの薬剤(例えば、インスリン)での使用に適合可能な閉ループシステムにおいて、生理的グルコース濃度を制御するためのシステム、方法、およびデバイスを含む。本開示の特定の実施形態はまた、所与のタイプの薬剤(例えば、インスリン)について経時的に変化する薬物動態プロファイルに対応することができる閉ループシステムにおいて、生理的グルコース濃度を制御するためのシステム、方法、およびデバイスを含む。
【0051】
インスリンが異なれば、薬物動態プロファイルも異なる。例えば、ある1つのタイプのインスリンは、異なるタイプのインスリンと比較して、血中グルコースのより速い減少を引き起こす薬物動態プロファイルを有し得る。現在ポンプ療法での使用が承認されている市販のインスリン(例えば、インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、およびインスリングルリジン)の薬物動態プロファイルは、超高速インスリンまたは速効型インスリンアスパルトなどの他のインスリンと比較してより遅く作用し、ヒトのインスリンを模倣しようとする。市販のインスリンと比較して、速効型インスリン(例えば、超高速インスリン)は、皮下空間から血流への輸送がより速い。このように、速効型インスリンは、患者の食事ボーラスのタイミングの柔軟性をより高めるだけでなく、ボーラス投与量計算のエラーをより迅速に補正することができるため、高血糖のリスクを軽減する。速効型インスリンはまた、所与の瞬間にインスリン送達を増加および/または減少させることにより、患者に対してより厳格な血糖制御をより積極的に標的とする機会を提供する。市販の閉ループシステムは、速効型インスリンと関連付けられた薬物動態プロファイルを考慮して、または適応可能に最適に使用することができるように設計されていない。したがって、本開示の特定の実施形態は、生理的グルコース濃度の制御において、複数のタイプのインスリンおよびそれらに関連付けられた薬物動態プロファイルに対応することができる閉ループシステムを含むシステム、方法、およびデバイスを対象とする。
【0052】
インスリンの薬物動態プロファイルは、連続皮下インスリンが単一の注入部位に1日より長く注入されると、経時的に変化する可能性がある。この薬物動態プロファイルの変化は、「タンボレーン効果」と呼ばれることもある。発生することが知られている同様の効果には、注入部位の有効性が徐々に失われることが含まれる。これは、通常のインスリン投与レジメンでは患者が補正することができないグルコースレベルの上昇によって証明される場合がある。この有効性の喪失は、多くの場合患者に固有であり、一般に4~5日間にわたって発生するが、患者ごとに長くなることも短くなることもあり得る。本開示の特定の実施形態は、血中グルコースを制御すること、および薬物動態プロファイルの経時的な変化に対応することを対象とする。
【0053】
システムハードウェア
本明細書で使用する「ロジック」または「制御ロジック」という用語には、1つ以上のプログラマブルプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、ハードワイヤードロジック、またはそれらの組み合わせで実行されるソフトウェアおよび/またはファームウェアが含まれ得る。したがって、実施形態によれば、様々なロジックは、任意の適切な様式で実装され得、かつ本明細書で開示される実施形態に従っている。
【0054】
本明細書では、生理的グルコースの閉ループ制御を提供するための方法が開示されている。システムの例示的なハードウェア要素には、体内の生理的グルコース濃度を測定するためのセンサ、ユーザデータを受信するためのユーザインターフェース、インスリンを送達するためのポンプ、およびデータを統合し、アルゴリズムを実行し、かつポンプを制御することを行うように動作可能である制御ロジックを含む電子コントローラが含まれる。さらに、様々な要素が互いに通信する場合がある。図1および図2は、生理的グルコースを制御するためのシステム10の例示的で代表的なブロック図を示す。システム10は、薬物送達デバイス12、ユーザインターフェース20、グルコースを測定するためのデバイス22、およびコントローラ24を含む。
【0055】
薬物送達デバイス12は、例示的に注入ポンプ12である。例示的なポンプ12は、2013年3月7日に出願された、「Infusion Pump Assembly」という名称のLanigan et al.の米国特許出願第13/788,280号に記載されたものなどの歩行用注入ポンプを含む。ポンプ12は、第1の薬剤を含む少なくとも1つの薬剤リザーバ16を含むことができる。第1の薬剤は、生理的グルコースの制御に関与するホルモンであり得る。いくつかの特定の実施形態では、第1の薬剤は、インスリンなどの生理的グルコース濃度を低下させるホルモンであり得る。他の実施形態では、薬物送達デバイスは、SGLT-1またはSGLT-2などの経口薬剤と組み合わせて使用されてもよい。他の実施形態は、第1の薬剤に拮抗するホルモンであり得る、第2の薬剤用の追加のリザーバ16を含み得る。例えば、追加のリザーバ16に保存される第2の薬剤は、生理的グルコース濃度を上昇させる薬物またはグルカゴンなどのホルモンであり得る。別の実施例では、第2の薬剤は、GLP-1、プラムリンチド、アミリン、または別のアミリン類似体などの別の好適なグルコース管理薬物であり得る。本明細書におけるアミリンという用語の使用は、アミリンまたはその任意の類似化合物が使用され得ることを意味すると理解されるものとする。薬剤送達デバイス12は、ポンプ12から患者14への流体経路を提供する注入セット18を介して、患者14に少なくとも1つの薬剤を送達することができる。注入セット18は、例えば、ポンプ12から患者14内の皮下目的地への流体経路を提供することができる。いくつかの実施形態では、ポンプ12は、患者14内の皮下目的地への流体経路を提供する。ポンプ12または注入セット18は、患者の皮下組織に挿入するための針またはカニューレを含み得る。
【0056】
システム10は、グルコース測定デバイス22などの分析物センサを含む。グルコース測定デバイス22は、独立型デバイスであってもよいし、または歩行用デバイスであってもよい。グルコース測定デバイスの一実施例は、連続グルコースモニタ(CGM)22である。特定の実施形態では、CGM22は、Dexcom G4またはG5シリーズ連続グルコースモニタなどのグルコースセンサであってもよいが、任意の好適な連続グルコースモニタが使用されてもよい。CGM22は、例示的に患者14によって装着され、患者14内の生理的空間(例えば、間質または皮下空間)と通信し、またはそれを監視し、かつ患者14の分析物(例えば、グルコース)濃度を検知できる、1つ以上のセンサを含む。いくつかの実施形態では、CGM22は、間質液中のグルコース、例えば間質グルコース(IG)の濃度と関連付けられた値を報告する。CGM22は、IG値を表す信号を、ユーザインターフェース20、ポンプ12、コントローラ24、または別の受信機に送信することができる。
【0057】
システム10は、システム10にユーザデータを入力し、値を変更し、かつシステム10によって生成された情報、プロンプト、データなどを受信するために使用され得る、ユーザインターフェース(UI)デバイス20を含む。UI20は、英数字データをコントローラ24に提供するためのキーボードまたはキーパッドなどの入力デバイスを含むことができる。キーボードまたはキーパッドには、良好な視力なしでの使用を容易にする触覚インジケータ、または照明なしで使用するためのバックライト付きキーが含まれ得る。UI20は、デバイスと通信するためのボタンまたはスイッチを含むことができる。一実施例では、UI20は、食事、運動の開始、運動の終了、緊急停止などのイベントを知らせるボタンまたはスイッチを有する。いくつかの実施形態では、UIは、ディスプレイを備えたグラフィカルユーザインターフェース(GUI)であり、ここで、ユーザは、提示された情報、メニュー、ボタンなどと相互作用して、システム10から情報を受信し、かつシステム10に情報を提供する。UI20は、UI20と相互作用するためのポインター、ローラーボール、およびボタンを含むことができる。加えて、UI20は、画像およびテキストを表示することができ、タッチを介して入力を検出することができるタッチスクリーン上に実装され得る。UI20は、専用デバイスであってもよいし、または電話、タブレットなどの個人用スマートデバイス上で実行されるアプリケーションまたはアプリを介して実装されてもよい。UI20は、ポンプ12およびCGM22と通信してもよい。ポンプ12およびCGM22はまた、互いに通信していてもよい。
【0058】
コントローラ24は、薬物送達デバイス12(図2を参照)に、またはポンプ12の外部、例えば、UI20(図1を参照)に含まれてもよい。代替的に、UI20およびポンプ12は各々、コントローラ24を含むことができ、システム10の制御は、2つのコントローラ24の間で分割されてもよい。コントローラ24は、コントローラ24のメモリに格納されたソフトウェアおよび/またはファームウェアを実行する、少なくとも1つのプロセッサ(例えば、マイクロプロセッサ)を含むことができる。ソフトウェア/ファームウェアコードは、プロセッサによって実行されると、コントローラ24に本明細書に記載の制御アルゴリズムの機能を実施させる命令を含む。代替的に、コントローラ24は、1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、ハードワイヤードロジック、またはそれらの組み合わせを含み得る。コントローラ24は、システム10の複数の構成要素から情報を受信し、かつその情報(例えば、ポンプデータ、グルコースデータ、薬物送達データ、ユーザデータ)を、ポンプ12の動作を部分的に制御することができる少なくとも1つの薬物送達制御パラメータを決定する制御アルゴリズム内に供給することができる。いくつかの特定の実施形態では、コントローラ24は、ポンプ12からポンプデータを、CGM22からグルコースデータを、およびUI20からユーザデータを受信し得る。特定の実施形態では、コントローラ24は、遠隔に配置されたデバイス(例えば、サーバ、医師のコンピューティング/通信デバイスなど)からユーザデータを受信する。受信されたポンプデータは、ポンプ12によって患者14に送達された薬物投与量に対応する薬物送達データを含み得る。ポンプデータは、投与量が送達されるときに、または所定のスケジュールでポンプ12によって供給されてもよい。コントローラ24によって受信されたグルコースデータは、CGM22からのグルコース濃度データを含むことができる。グルコースデータは、時折または事前定義された間隔(例えば、5分または10分ごと)で、連続的な速度で供給されてもよい。
【0059】
ポンプデータ、グルコースデータ、薬物送達データ、およびユーザデータは、取得されたときにコントローラ24に、事前定義されたスケジュールで提供されるか、またはメモリでキューに入れられ、要求時にコントローラ24に提供され得る。ユーザデータは、UI20によって生成され、および/または訓練中に指示されるように患者14によって言明されたユーザ/患者プロンプトに応じて、UI20に入力され得る。いくつかの実施形態では、ポンプデータ、グルコースデータ、および/またはユーザデータのうちの少なくとも一部は、コントローラ24と関連付けられたメモリから取り出されてもよく、このデータの一部は、ポンプ12内のメモリから取り出されてもよい。いくつかの実施形態では、UI20とのユーザ相互作用は最小限であってもよく、患者14は、コントローラ24によって実装されるアルゴリズムの実行を開始し、かつ食事および/または運動の告知を提供するように促される。他の実施形態では、コントローラ24によって実装されるアルゴリズムを初期化するために、様々な追加データを提供するようにユーザに促すことができる。例えば、ユーザは、UI20を介して、24時間にわたる様々な時間と関連付けられた基礎パターン(例えば、24時間の経過にわたる15分、30分、60分間隔ごとなどの基礎パターン)を入力することができる。これらのユーザ入力の基礎パターンは、以下でより詳細に説明するように、所与の24時間にわたって様々なボーラスで補足され得る。
【0060】
コントローラ24のメモリは、プロセッサによってアクセス可能な任意の好適なコンピュータ可読媒体である。メモリは、単一のストレージデバイスまたは複数のストレージデバイスであり得、コントローラ24の内部または外部に配置され得、さらに揮発性および不揮発性の両方の媒体を含み得る。例示的なメモリには、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、電気的消去可能プログラマブルROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、CD-ROM、デジタル多用途ディスク(DVD)または他の光ディスクストレージ、磁気ストレージデバイス、またはデータを保存するように構成され、かつコントローラ24によってアクセス可能な任意の他の好適な媒体が含まれる。
【0061】
ユーザデータには、インスリン/炭水化物の比率、食事のサイズ、食事の炭水化物の比率、および運動が含まれ得るが、これらに限定されない。ユーザデータはまた、本明細書でインスリン必要量データと称される一群のデータを含んでもよい。インスリン必要量データには、1日の総インスリン投与量(TDD)、1日の合計基礎投与量(TDB)、基礎投与量、および基礎プロファイルが含まれ得るが、これらに限定されない。例示の実施形態では、TDDは、24時間にわたって送達されるすべてのインスリンの合計であり、TDBは、24時間にわたって送達されるすべての基礎インスリンの合計である。一実施形態では、TDBは、TDDから食事ボーラスの合計を引いたものにほぼ等しい。例示の実施形態では、基礎投与量は、事前定義された期間にわたってユーザが必要とする開ループまたは公称インスリン投与量である。一実施例では、基礎投与量は、CGMからコントローラによって受信されたグルコース測定間の各期間または間隔の持続時間に対してユーザが必要とするインスリンの量である。別の実施例では、時間tでの基礎投与量は、時間tでの基礎プロファイルである。例示の実施形態では、基礎プロファイルは、24時間の経過にわたる事前定義された時変インスリン流量である。一実施例では、基礎プロファイルは、インスリン流量のリスト、または流量と時間のペアのリストとして表されてもよい。別の実施例では、基礎プロファイルは、方程式として表されてもよい。これらのユーザデータ値のうちの1つ以上は、必要に応じてUI20から更新されてもよい。いくつかの実施形態では、TDDおよびTDBは、コントローラ24によって定期的に更新され、ここで、値は、1日以上にわたってユーザに供給される総インスリンおよび基礎インスリンの記録量に基づいている。いくつかの実施形態では、TDDおよび/またはTDBは、臨床医またはユーザによってUI20で入力されるか、またはコントローラ24によって読み取り可能なメモリに記憶されてもよい。
【0062】
コントローラ24によって決定される少なくとも1つの薬物送達パラメータは、薬剤投与量(複数可)であり得、これは、ポンプ12を介した患者14への薬物投与を少なくとも部分的に管理し得る。インスリン送達の場合、薬物送達パラメータを使用して、基礎速度または微量ボーラス投与量、食事ボーラス投与量または食事ボーラス適用量が計算され得る。デュアルホルモンシステムでは、データは、インスリン、およびグルカゴンまたはアミリンなどの第2の薬剤のいずれかまたはその両方の送達を通知し得る。一実施形態では、ポンプ12に提供される薬物送達パラメータは、特定の量またはボリュームの薬剤を送達するようにポンプ12に要求する制御信号である。一実施形態では、薬物送達パラメータは、ポンプ12が薬剤の量もしくはボリュームまたはいくつかのポンプストロークに変換する、アナログまたはデジタル信号である。いくつかの実施形態では、薬物送達パラメータは、基礎インスリン投与量または基礎インスリンプロファイルの現在値からの偏差である。偏差は、インスリンの量もしくはボリューム、または基礎インスリン投与量の割合であり得る。したがって、システム10は、血糖制御を行うために初期起動後に患者14からの相互作用を最小限に抑えるか、または全く必要としない、閉ループ設定で動作し得る。
【0063】
本明細書における生理的グルコースという用語は、体内のグルコースの測定濃度を指す。いくつかの実施形態では、生理的グルコースは、血中グルコースと称されることもある血液中のグルコースの濃度であり得る。他の実施形態では、生理的グルコースは、血漿グルコースと称されることがある血漿中のグルコースの濃度であり得る。血漿グルコースの決定では、血液の血球が除去されているため、血漿グルコースの測定値は通常、血中グルコースよりも10~12%高くなる。血漿グルコースと血中グルコースとの間の関係は、ヘマトクリットに依存し、患者ごとに、かつ経時的に変化することができる。本明細書ではPGと省略される生理的グルコースは、間質グルコースおよび略称IGと称される間質液中のグルコース濃度を測定することにより、間接的に測定され得る。
【0064】
例示の実施形態では、システム10は、基礎送達またはボーラス送達としてインスリンを身体に供給することができる。基礎送達は、患者の血液中のグルコースレベルを所望のレベルに維持するために、患者が必要とする基礎速度でのインスリンの連続送達である。ポンプ12は、微量ボーラスまたは基礎投与量で基礎送達を提供し得、基礎速度に平均化されるゼロ流量の期間が続く。一実施例では、ポンプ12は、固定間隔で基礎投与量を供給し、基礎投与量は、所望の基礎速度に間隔の継続時間を掛けたものに等しい。食事を食べるなどの活動、またはユーザの代謝に影響を与える他の活動の変化により、ユーザはより多量のインスリンを必要とする場合がある。このより多量のインスリンは、本明細書では食事ボーラスと称される。食事ボーラスは、一般に短期間に供給される特定の量のインスリンである。ポンプ12の性質は、ある期間のインスリンの連続的な流れとして、またはある期間にわたって供給される一連のより小さな別個のインスリン量として、ボーラスを送達することを必要とする場合がある。消化器系が大量のグルコースを血流に供給するため、食事ボーラスは、グルコースレベルの維持を促進する。
【0065】
MMPCアルゴリズム
マルチモデル予測コントローラ(MMPC)は、複数の状態ベクトルおよびそれらのモデルをモデル予測制御アルゴリズムと組み合わせる、人工膵臓アルゴリズムを実行するコントローラ24の制御ロジックを含む。MMPCは、複数の状態ベクトルを伝搬し、かつ過去のデータに最適な状態ベクトルおよびそのモデルを選択することにより、コントローラ24の身体および環境の変化に対する改善された適応性を追加する。次に、選択状態ベクトルおよびそのモデルをコントローラ24で使用して、インスリンの次の基礎速度または基礎投与量を決定し、所望の生理的グルコースレベルを達成するために患者に送達する。複数の状態ベクトルおよびそれらのモデルを使用すると、代謝、消化、活動の変化、または他の変化に対するアルゴリズムの応答性が向上する。
【0066】
MMPCは、モデル、グルコースデータ、およびカルマンフィルタ付きの共分散行列を使用して、各時間間隔で状態ベクトルの各々を伝搬する。いくつかの実施形態では、MMPCは一定期間にわたる各状態ベクトルの以前の値を保持し、各状態ベクトルが伝搬されて、各状態ベクトルの最新値を生成するにつれて、各状態ベクトルの最も古い値が上書きされる。いくつかの実施形態では、各状態ベクトルの最新値のみが、メモリに保存される。各状態ベクトルは、一意のモデルおよび一意の共分散行列と関連付けられている。MMPCは、過去の期間における間質グルコース(IG)の状態変数がIGの測定値とどれだけ一致しているかに基づいて、最適な状態ベクトルおよびそのモデルを選択する。次に、MMPCは、選択状態ベクトルおよびそのモデルを、モデル予測コントローラで使用する。MMPCは、選択状態ベクトルを予測ホライズンに伝搬し、生理的グルコース値の予測セットを経時的に生成する。対応する時間におけるセットの予測グルコース値は、本明細書では予測軌道と称される。MMPCは、生理的グルコース軌道および目的関数を使用して、インスリン値に1つ以上の制限がある最適なインスリン軌道を決定する。
【0067】
いくつかの実施形態では、最適なインスリン軌道は、本明細書では基礎偏差軌道と称される、基礎インスリンまたは基礎プロファイルからの偏差の軌道である。これらの実施形態では、身体に送達されるインスリンの量は、事前定義された基礎インスリンに、インスリン軌道から決定された最適な基礎偏差を加えたものである。これらの実施形態では、モデルは、基礎インスリン入力または内因性グルコース産生を含まない。むしろ、モデルおよび目的関数は、食事に対する身体の応答、および事前定義された基礎インスリン速度を超えるまたは下回るインスリンレベルを考慮する。
【0068】
予備インスリン速度、投与量、または最適な基礎偏差は、第1の間隔のインスリン軌道の値から取得される。MMPCは、速度または投与量要求を送達デバイスに渡す前に、この予備インスリン速度、投与量または最適な基礎偏差を制限してもよい。最適なインスリン軌道が基礎プロファイルからの偏差である実施形態では、投与量要求は、制限された基礎偏差と基礎プロファイルの合計である。制限されたインスリン速度、制限された投与量、または制限された基礎偏差は、次いで、次の間隔でのインスリン速度または投与量を決定するためのインスリン入力として、ブロック110Aの複数の状態ベクトルにフィードバックされる。例示的なMMPCは、UI20からユーザデータを受信し、CGM22からグルコース濃度データを受信し、ポンプ12が患者14に送達するための薬剤の量を決定する。
【0069】
図3および図4は、IGデータを規則的に受信し、1つ以上の状態モデルを使用して、最適なインスリン投与量を決定し、プロセスを繰り返す前に対応する投与量要求をインスリンポンプ12に送信する、MMPCアルゴリズム100の代表的なブロック図を示している。MMPCアルゴリズム100は、ブロック105Aにおいて、患者の身体または他のグルコース測定デバイスに配置された連続グルコースモニタ(CGM)から間質グルコース(IG)の測定値を受信する。ブロック110Aで、MMPCアルゴリズム100は、その関連付けられたモデルを使用して、各状態ベクトルを伝搬すること、ブロック105AからのIGデータを使用してカルマンフィルタで状態ベクトルをフィルタリングすること、ならびに食事炭水化物および食事ボーラスを状態ベクトルに追加して、更新された状態ベクトルを生成することを含む、各状態ベクトルを伝搬する。
【0070】
いくつかの実施形態では、MMPCアルゴリズム100は、ブロック120で最適な基礎偏差を決定することにより、グルコースデータ105Aを受信し、状態ベクトル110Aを伝搬するステップに続く。他の実施形態では、グルコースデータを受信し、状態ベクトルを伝搬するステップは、ブロック120で最適な基礎偏差を計算する前に、ブロック105Bおよび110Bで繰り返される。IGデータまたはグルコースデータが、受信され(105A、105B)、更新された状態ベクトルが、モデル更新期間(τUPD)102に等しい規則的な間隔で計算される(110A、110B)。更新期間の長さは、グルコースセンサ22からの出力間の期間に等しくてもよい。
【0071】
注入期間(τINJ)には、最適な基礎偏差を決定し120、インスリン制限をチェックし130、投与量を要求する135前に、グルコースデータを受信し、状態ベクトルを伝搬する少なくとも1組が含まれる。状態ベクトルが注入期間ごとに1回伝搬される120実施形態では、注入期間は更新期間に等しい。グルコースデータが注入期間ごとに2回受信される(例えば、ブロック105Aおよび105B)実施形態では、グルコースデータを受信し、状態ベクトルを伝搬するステップが繰り返され、注入期間は更新期間の2倍に等しい。いくつかの実施形態では、注入時間は固定され、更新時間はCGM22の出力に基づいて変化する可能性があるため、グルコースデータを受信する間の時間が注入時間より短い場合、状態ベクトルは、インスリン送達または注入の間で複数回伝搬され得る。いくつかの実施形態では、グルコースセンサ22からのグルコースデータが利用できないか、またはグルコースデータが信頼できない場合、ブロック120の最適な基礎偏差の決定に進む前に、カルマンフィルタステップを伴わないで状態ベクトルが伝搬される110。
【0072】
ブロック120は、基礎プロファイルからの最適な偏差を決定して、患者の生理的グルコースを制御し、ブロック135は、最適な偏差および基礎プロファイルに基づいて、患者に新しいインスリン基礎速度または投与量を送達するように、ポンプ12に要求する。ブロック120において、MMPCアルゴリズム100は、過去の所与の期間にわたってグルコースデータを推定する決定された最良の記録を有する、状態ベクトルおよびモデルを選択する。さらに、ブロック120において、MMPCアルゴリズム100は、選択された状態ベクトルおよびモデル予測アルゴリズムのモデルを使用して、次の最適な基礎偏差を決定する。次の最適な基礎偏差の決定は、ブロック115からのユーザデータを含んでもよい。基礎プロファイルからの最適な偏差は、ブロック130に渡され、ここで、最適な偏差は1つ以上の規則によって制限されてもよい。すなわち、最適な基礎偏差がそのインスリン閾値を超える場合、偏差の値は、インスリン閾値の値に変更される。ブロック130のインスリン閾値または制限は、選択状態ベクトルによって推定される生理的グルコースの事前定義された値または所定の関数であり得る。次に、ブロック130の制限された基礎偏差はブロック135に渡され、ここで、制限された基礎偏差および基礎プロファイルの合計から、インスリン投与量要求が決定される。ブロック135で、MMPCアルゴリズム100は、インスリン投与量要求をポンプ12に送信し、次の状態ベクトルの伝搬に含めるために、インスリン投与量値をブロック110Aに渡す。ポンプ12は、注入セット18を介して、要求されたインスリン投与量を患者に送達する。
【0073】
図4は、最適な基礎偏差を決定する例示的なブロック120をさらに示している。ブロック126では、伝搬された状態ベクトルおよび対応する状態ベクトルが評価されて、前の期間にわたって測定されたIGデータに最も一致する状態ベクトルおよびモデルを識別する。いくつかの実施形態において、測定されたIGデータは、一定の履歴期間にわたって状態ベクトルの対応するIG値と比較されて、状態ベクトルとグルコースデータとの間の最良の一致を決定する。いくつかの実施形態では、状態ベクトルとグルコースデータとの間の最良の一致は、測定されたIGデータと状態ベクトルの対応するIG値との間の差の二乗の合計に基づいている。この実施形態では、二乗された差は、指数関数的に減衰する重みで、経時的に合計される。本明細書では、IGの対応する推定値は、IGデータの時点での状態ベクトルのIG値を指す。
【0074】
いくつかの実施形態では、グルコースデータが受信されると、各更新間隔(τUPD)で各状態ベクトルに対して識別誤差が計算される。各更新間隔での識別誤差は、状態ベクトルごとに保存される。ブロック126では、各状態ベクトルのすべての識別誤差が重み付けされ、履歴期間にわたって合計されて、各状態ベクトルの性能インデックスが決定される。モデル予測制御アルゴリズムの次のステップ127~124のために、最低性能インデックスを持つ状態ベクトルを、少なくともそのモデルとともに選択することができる。
【0075】
ブロック127で、MMPCアルゴリズム100は、時間に関して生理的グルコースの現在の導関数(dPG/dt)を決定する。生理的グルコースの変化速度は、インスリン送達の制限を設定し、食事ボーラスを決定し、グルカゴンボーラスを決定するなど、MMPCアルゴリズム100のいくつかの実施形態で使用される。生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)は、いくつかの方法で決定され得る。いくつかの実施形態では、dPG/dtは、生理的グルコースの最新のいくつか(例えば、3つ)の推定値(PGj-2、PGj-1、PG)に基づいており、ここで、二次方程式が3つの推定値に適合し、dPG/dtは、jでの方程式の勾配に等しく設定される。生理的グルコース濃度の3つの最新の推定値は、選択された状態ベクトルモデルに応じて、異なる状態ベクトルから得られてもよい。いくつかの実施形態では、dPG/dtは、最新の生理的グルコース値(PG、PGj-1、PGj-2、…PGj-n)への直線適合の勾配である。いくつかの実施形態では、dPG/dtは、PGJ-1とPGとの間の差であり、これは、PGの連続する値間の時間差が一定であるときの勾配である。いくつかの実施形態では、dPG/dtは、時間間隔(τUPD)で割った連続した値の間の差(PGj-1-PG)である。
【0076】
ブロック128では、選択状態ベクトルおよびそのモデルを使用して、現在の時間から予測ホライズン(PGj+1、PGj+2、PGj+3、…PGj+m)までのPGレベルを予測する。現在の時間から予測ホライズンまでの期間は、本明細書では予測期間と称される。予測期間は1時間以上になる場合がある。いくつかの実施形態では、予測時間は4時間半である。将来のPG値の予測は、カルマンフィルタおよび食事の補正を伴わないで、そのモデルを使用して状態ベクトルを伝搬することによって行われる。PGの値は、基礎インスリン投与量、インスリン食事ボーラスおよび食品を伴わないことを想定して予測される。この実施例では、将来のグルコースデータが不明であるため、カルマンフィルタは使用されない。
【0077】
ブロック122において、生理的グルコース目標(PGTGT)は、食事、運動、測定された間質グルコース濃度、および/または選択状態ベクトルの生理的グルコース濃度の補正を伴う所定の生理的グルコース濃度である。例示的な所定の生理的グルコース濃度は、6ミリモル/リットル(mmol/L)であるが、他の好適な目標を使用してもよい。
【0078】
ブロック124では、現在の時間から予測ホライズンまでの将来の期間について、最適な基礎偏差が決定される。いくつかの実施形態では、最適な基礎偏差は、基礎プロファイルに対する最適なインスリン軌道である。他の実施形態では、最適な基礎偏差は、単に最適なインスリン軌道である。最適な基礎偏差または最適なインスリン軌道は、可能性のあるインスリン値または偏差値に1つ以上の制限を設定して、1つ以上の目的関数を最小化する軌道である。いくつかの実施形態では、目的関数は、将来の期間にわたる予測された生理的グルコース値と目標グルコース値との間の差を合計する。いくつかの実施形態では、目的関数はまた、将来の期間にわたる基礎偏差またはインスリン投与量を合計してもよい。いくつかの実施形態では、合計値は、食事からの時間に基づいて、異なって重み付けされてもよい。コスト関数および重み付けは、食事からの時間、食事のサイズ、運動レベルを含むがこれらに限定されない、以下の値のうちの1つ以上に依存する。第1の注入期間104の基礎インスリンまたはインスリン軌道は、速度または量としてブロック130に渡されてもよく、ここで、速度または量は、推定された生理的グルコース、生理的グルコースの変化速度、および/またはポンプ12による過去のインスリン送達に基づいて制限され得る。
【0079】
モデル
モデルには、患者の体内の生理的または血清グルコース(PG)および間質グルコース(IG)のレベルを計算する制御ロジックによって実行される、セットの線形差分方程式が含まれる。いくつかの実施形態では、モデルは、体内のインスリン、炭水化物、およびグルコースの運動および持続性を追跡する、8つのコンパートメントを含む。いくつかの実施形態では、モデルは、グルコースの外部源(炭水化物)および基礎プロファイルとは異なるインスリンのレベルを考慮する。これらの実施形態では、ブロック124の最適化ステップにおけるモデルの出力は、基礎インスリンプロファイルからの最適な基礎偏差(δ)である。MMPCアルゴリズム100は、ポンプ12からインスリン投与量を要求する前に、ブロック135において、基礎インスリンプロファイル値をインスリン偏差に追加する。
【0080】
インスリン、炭水化物、およびグルコースの運動および持続性は、いくつかのモデルパラメータによって駆動される場合がある。計算されたPG値は、患者に送達され得るインスリンの次の微量ボーラス、グルカゴンボーラス、および/または食事ボーラスを決定するために使用され得る。計算されたIGは、測定されたIGと比較され得る。MMPCアルゴリズム100は、各々がモデルパラメータの一意の組み合わせを備えたモデルを有する、状態ベクトルの大きな組を備えてもよい。
【0081】
モデルパラメータには、インスリン感受性(S)、インスリン時定数(k)、食事行動時定数(k)、センサ時定数(kSENSOR)、インスリンと炭水化物との比率(ICR)が含まれ得るが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、インスリン感受性(S)は、推定される基礎インスリン必要量の関数であり、
【数1】
であり、ここで、Sは、生理的グルコースに対するインスリンの効果を少なくとも部分的に制御するモデルパラメータである。インスリンの推定基礎必要量(IEBN)は、TDDおよびTDBの関数である。吸収時定数(k)は、モデル内のインスリンコンパートメントからの輸送速度を少なくとも制御するモデルパラメータである。いくつかの実施形態において、吸収時定数(k)は、約30分~90分の範囲の値を含む。食事行動時定数(k)は、モデルのコンパートメント間の炭水化物の輸送速度に少なくとも影響するモデルパラメータである。いくつかの実施形態では、食事行動時定数の値は、約30分~90分の範囲であり得る。センサ時定数(ksensor)は、生理的コンパートメントと間質コンパートメントとの間のグルコースの輸送速度に部分的に影響するモデルパラメータである。センサ時定数はまた、間質グルコースと生理的グルコースとの間の関係に影響を与える可能性がある。インスリンと炭水化物との比率(ICR)は、血液から所与の量のグルコースを除去するのに必要なインスリンの量を反映している。インスリンの炭水化物に対する値は、食事ごとに異なっていてもよい。すなわち、朝食については第1の値、昼食については第2の値、夕食については第3の値であってもよい。モデルパラメータには、UI20での入力値、アルゴリズムでのプログラム値、またはコントローラ24で読み取り可能なメモリの保存値、もしくはこれらのオプションの組み合わせが含まれ得る。
【0082】
例示的なモデル200は、図5に示されるように互いに相互作用する、8つのコンパートメントとして表され得る。皮下注入部位から血流への体内のインスリンの貯蔵および運動は、血液コンパートメント220に接続されている、2つの皮下コンパートメント210、215としてモデル化され得る。インスリン微量ボーラスは、血液チャンバーまたはコンパートメント220に輸送される前に、第1の皮下チャンバーまたはコンパートメント210に加えられ、次に第2の皮下チャンバーまたはコンパートメント215に輸送されてもよい。コンパートメント間のインスリンのモデル化された輸送は、インスリン時定数(k)および2つのコンパートメント210、215間のインスリン濃度の差によって部分的に制御され得る。
【0083】
引き続き図5を参照すると、胃から血流への炭水化物の輸送は、血液コンパートメント220に接続された第2の炭水化物コンパートメント235に接続されている、第1の炭水化物コンパートメント230としてモデル化され得る。第1および第2の炭水化物コンパートメントへの炭水化物の添加は、本明細書に記載されている。コンパートメント230、235間のモデル化された炭水化物の輸送は、食事行動時間(k)および2つのコンパートメント230、235間の炭水化物濃度の差によって部分的に制御され得る。
【0084】
さらに図5を参照すると、皮下注入部位から血流への食事ボーラスインスリンの貯蔵および運動は、血液コンパートメント220に接続されている、2つの食事ボーラスコンパートメント240、245としてモデル化され得る。食事ボーラスは、第1および第2の食事ボーラスチャンバーまたはコンパートメント240、245に追加され、第1のボーラスチャンバー240から第2のボーラスチャンバー245に輸送され、次いで血液コンパートメント220に輸送され得る。コンパートメント間のインスリンのモデル化された輸送は、インスリン時定数(k)および2つのコンパートメント240、245間のインスリン濃度の差によって部分的に制御され得る。
【0085】
さらに図5を参照すると、血液チャンバーまたはコンパートメント220は、血流への微量ボーラスインスリン、炭水化物、および食事ボーラスインスリンの輸送、ならびに生理的グルコース濃度に対するインスリンおよび炭水化物の影響をモデル化する。モデル化された生理的グルコース濃度は、以前の生理的グルコース値、インスリン感受性(S)、第2の皮下チャンバー(IS2)のインスリン濃度、第2の炭水化物チャンバー(C)の炭水化物濃度、第2のボーラスチャンバー(IB、2)のインスリン濃度、インスリン時定数(k)、および食事行動時間(k)によって制御され得る。
【0086】
皮下グルコースコンパートメント225は、連続グルコースモニタ(CGM)がグルコース濃度を測定するとき、血流コンパートメント220から皮膚下の間質組織へのグルコースの輸送をモデル化する。血液コンパートメント220と皮下コンパートメント225との間のグルコースのモデル化された輸送は、センサ定数(kSENSOR)および2つのコンパートメント220、225間のグルコース濃度の差によって部分的に制御され得る。
【0087】
図5に記載されている例示のモデルはまた、次のセットの線形差分方程式によっても説明され得る。
【数2】
各状態ベクトルは、これらの方程式を含むが定数の一意の組を持つ、一意のモデルと関連付けられる。
【0088】
引き続き図5を参照すると、8つのコンパートメントにおけるインスリン、炭水化物、およびグルコースの濃度は、状態ベクトルx(t)として説明され得る。ここで、x(t)は次の成分を持つ。x(t)=IG、x(t)=PG、x(t)=IS2、x(t)=IS1、x(t)=C、x(t)=C、x(t)=IB2、およびx(t)=IB1。状態ベクトルは、時間(t)での重要なPGおよびIG値を含む身体の状態を説明する。次の状態ベクトル(x(t+τ))は、現在の状態ベクトル(x(t))と図5で説明した関係から決定される。
【0089】
上記の状態空間方程式は、行列方程式として書くことができる。
【数3】
ここで、x(t)は時間tにおける状態ベクトルであり、x(t+τ)はτ分後の状態ベクトルであり、Adtは、モデルの方程式(式1)を表すシステム行列であり、ここで、bはゼロである。一実施形態では、Bは、第1のインスリンコンパートメントについての行におけるbを含む入力ベクトルであり、u(t)は、最適な基礎偏差(δ)である。状態ベクトルを更新周期(τUPD)だけ前に伝搬するために、
【数4】
の乗算をN回繰り返すことができ、ここで、N=τUPD/dtであり、
【数5】
の乗算が実行され得る。式2は、各状態ベクトルを進めるために実行される。ここで、各状態ベクトルは、一意のモデル行列Adtおよび外乱行列Bを持つ。
【0090】
図5および式1で説明されるモデルは、MMPCアルゴリズムにおけるモデルの例示的な実施形態を説明する。他の実施形態では、モデルコンパートメントの数は、8個より少なくてもよく、または多くてもよい。一実施形態では、1つのインスリンコンパートメントおよび1つの炭水化物コンパートメントを含む最小モデルが使用され、ここで、各コンパートメントは、生理的グルコースチャンバーに接続されている。この最小モデルは、式1Aでラベル付けされたより単純なセットの方程式で説明され得る。
【数6】
他の実施形態では、基礎インスリンとは別個にモデル化されるボーラスインスリン用の別のコンパートメントが追加されてもよく、ボーラスインスリンコンパートメントは、生理的グルコースコンパートメントに接続される。さらに他の実施形態では、間質液中のインスリンをモデル化するためにコンパートメントが追加されてもよく、このコンパートメントは、生理的グルコースコンパートメントに接続される。
【0091】
状態ベクトルの伝搬
図6は、MMPCアルゴリズム100において各状態ベクトルx(t)を状態ベクトルx(t+τ)に伝搬する例示的な概略図を示している。各状態ベクトルx(t)から状態ベクトルx(t+τ)への伝搬は、状態ベクトルと関連付けられた状態モデル、およびブロック145の式2を使用して、各状態ベクトルx(t)をその予備状態ベクトルx(t+τ)に進めることによって始まる。各予備状態ベクトルx(t+τ)は、現在の状態の予備推定である。現在のグルコースデータがCGMから入手可能である場合、ブロック160で、各予備状態ベクトルx(t+τ)をカルマンフィルタでフィルタリングして、フィルタリングされた状態ベクトルx(t+τ)を生成することができる。グルコースデータが利用できない場合、またはカルマンフィルタが呼び出されない場合、予備状態ベクトルは、ブロック145を通過する。ブロック165において、各予備状態ベクトルx(t+τ)または各フィルタリング状態ベクトルx(t+τ)のボーラスインスリンおよび炭水化物の状態の値は、最新の更新期間中に発生する食事に対してさらに補正されて、伝搬された状態ベクトルx(t+τ)を決定することができる。最新の更新期間中に食事が発生しなかった場合、予備状態ベクトルx(t+τ)またはフィルタリングされた状態ベクトルx(t+τ)は、変更されずにブロック165を通過して、伝搬された状態ベクトルx(t+τ)になる。実例として、状態ベクトルx(t)への参照は、j=1~Jであり、かつJが状態ベクトルの数である場合、すべての状態ベクトルx(t)を意味する。したがって、状態ベクトルx(t)、k、Sなどのモデル定数、共分散行列P、Q、共分散行列の要素、および性能指標P(t)への参照である。これらの変数は各々、状態ベクトルx(t)などの複数の値を参照する。
【0092】
例示の実施形態では、MMPCアルゴリズム100は、現在の時間、IGの推定値、インスリンの総日投与量(TDD)、総日基礎投与量(TBD)、基礎パターン、過去4時間の食事履歴、過去4時間のインスリンボーラス履歴、およびインスリンと炭水化物との比率(ICR)を含むが、これらに限定されないパラメータのリストのうちの1つ以上を使用して、複数の状態ベクトルを初期化する。MMPCアルゴリズム100は、間質グルコース値および生理的グルコース値に関するIGの推定値で、状態ベクトルを初期化する。炭水化物およびボーラスのインスリン値は、食事の履歴およびインスリンボーラス履歴、ならびに以下に説明する式3~6と同様の式から決定される。
【0093】
図6を参照すると、予備状態ベクトルx(t+τ)は、ブロック160でカルマンフィルタを用いてフィルタリングされて、グルコースセンサ22ならびに共分散行列P(t)、Q(t)、およびR(t)から測定されたグルコースデータに基づいて、各予備状態ベクトルx(t)の状態変数を更新する。共分散行列R(t)は、グルコース測定の不確実性であり、かつブロック150で更新され得る。各状態ベクトルの不確実性は、共分散行列P(t)およびQ(t)に含まれている。各状態ベクトルは、一意の共分散行列PおよびQと関連付けられている。各共分散行列P(t)は、ブロック155で各更新間隔(τUPD)で更新される。共分散行列P(t)の値は、食事のサイズおよびまたはタイミングに基づいて、ブロック155でさらに修正されてもよい。
【0094】
共分散行列P(t)の実施例は、図7の行列300として表される。対角項310は、時間tにおける状態ベクトル内の状態変数の不確実性を列挙している。非対角項は、本明細書では交差相関項または交差項と称される。相互項は、1つの状態変数の不確実性が他の状態変数に与える影響を列挙している。一実施例では、第1のコンパートメントの炭水化物の不確実性(第1の炭水化物状態変数)は、4行目と4列目の要素σC1であり、第2のコンパートメントの炭水化物の不確実性(第2の炭水化物状態変数)は、5行目と5列目の要素σC2である。4および5行目320および4および5列目330の非対角要素は、IG、PG、皮下コンパートメント1および2のインスリン、ならびにボーラスコンパートメント1および2のインスリンを含む、他の身体ベクトル値の不確実性に対する炭水化物の不確実性の影響である。Q(t)共分散行列は、対角310に沿った各状態変数の初期不確実性およびすべての交差項のゼロを含む対角行列である。Q(t)行列は、MMPCアルゴリズム100が以下で説明するように1つ以上の値を変更し得る場合の食事に応じた変化を除いて一定である。
【0095】
ブロック155では、各共分散行列P(t)が、式3ごとの更新間隔で進められる。
【数7】
ここで、Adtは、上述のシステム行列である。式4の状態ベクトルにカルマンフィルタが適用される前に、P行列が更新される。ブロック160では、グルコースデータ(IGDATA)がグルコースセンサから利用可能である場合、ブロック145からの予備状態ベクトルx(t+τ)を、カルマンフィルタでフィルタリングすることができる。カルマンフィルタは、カルマン行列に記述されているように、グルコースセンサからの情報ならびにデータおよび状態変数の不確実性を処理して、予備状態ベクトルの状態変数の推定値を改善する。各状態ベクトルのカルマン行列K(t)は、予備状態ベクトルがフィルタリングされる前に、式3からの最新の共分散行列P(t)で更新される。カルマン行列K(t)は、式4ごとに更新される。
【数8】
ここで、Cは単位変換行列、Rは、グルコース測定IGDATA.variableの不確実性である。フィルタリングされた状態ベクトルx(t)は、式5に従って計算される。
【数9】
ここで、IG(t)は、予備状態ベクトルx(t)における間質グルコースの現在の推定値であり、Kはカルマン行列である。最後に、カルマン行列Kが式6に従って計算された後、共分散行列Pがさらに修正される。
【数10】
【0096】
いくつかの実施形態では、対称対角共分散行列Q(t)は、対角グルコース項σIG、σPG、および皮下インスリン項σI1、σI2に対するグルコースおよび皮下インスリンの誤差の標準偏差の推定値を有する。平均食事時間が所定の時間よりも長い場合、炭水化物(σC1、σC2)およびボーラスインスリン(σIB1、σIB2)の共分散行列Q(t)の対角項はゼロである。平均食事時間は、過去の所定の時間における食事の加重平均であり、各食事時間は、その食事で消費された炭水化物の量によって重み付けされる。別の実施形態では、Q(t)共分散行列の炭水化物およびボーラスインスリン項は、最新の事前定義された期間に食事が発生しなかった場合、ゼロである。別の実施形態では、Q共分散行列の炭水化物およびボーラスインスリン項は、最後の事前定義された数分間に事前定義された炭水化物量を超える食事が発生しなかった場合、ゼロである。炭水化物の例示的な事前定義された量は、5グラムであり、例示的な事前定義された時間は、120分であるが、他の好適な閾値が実施されてもよい。
【0097】
Q(t)行列の対角値を設定する一実施例では、状態変数の誤差の推定標準偏差は、推定されたインスリン必要量(IEBN)の割合である。
【0098】
一実施形態では、所定のサイズの食事が過去の所定期間内に消費された場合、炭水化物(σC1、σC2)およびボーラスインスリン(σIB1σIB2)のQ(t)行列の対角項は、炭水化物(C、C)およびボーラスインスリン(IB1、IB2)値の誤差の標準偏差の推定値に設定される。一実施例では、炭水化物(σC1、σC2)の誤差の推定標準偏差は、炭水化物コンパートメント1および2の炭水化物の合計の割合(例えば、10%)に基づいており、ボーラスインスリン値(σIB1、σIB2)の誤差の推定標準偏差は、IEBNの割合に基づいている。
【0099】
一実施例では、炭水化物およびボーラスインスリンの不確実性の対角項は、炭水化物コンパートメントの炭水化物の合計が閾値(例えば、5グラム)を超え、かつ平均食事時間が低い閾値(例えば、40分)と高い閾値(例えば、210分)の間である場合、非ゼロ値に設定される。一実施形態では、平均食事時間は、過去210分における食事の加重平均であり、各食事時間は、その食事で消費された炭水化物の量によって重み付けされる。
【0100】
一実施形態では、食事が所定の時間消費されなかった場合、共分散行列PおよびQのすべての炭水化物およびボーラスインスリン項は、ゼロに変更される。ここで図7を参照すると、炭水化物項は、項σC1、σC2および項σC1、σC2(320、330)と整列したP行列300の要素を指す。同様に、共分散行列Pのボーラスインスリン項は、ボーラスインスリン項σIB1、σIB2および項σIB1、σIB2と整列した項である。Q行列の炭水化物とボーラスインスリン項は、炭水化物とボーラスインスリン状態変数の不確実性の対角項である。一実施形態では、食事が事前定義された期間発生していない場合、PおよびQ行列の両方において、すべての炭水化物およびボーラスインスリン項がゼロに設定される。一実施形態では、事前定義された期間は210分である。共分散行列P、Qの食事およびボーラスインスリン値をゼロに設定すると、事前定義された時間窓内で所定量未満の炭水化物が消費された場合に、モデルの安定性が向上する可能性が高くなり得る。
【0101】
フィルタリングされた状態変数の制限
再び図6を参照すると、ブロック160は、カルマンフィルタおよびグルコースデータを予備状態ベクトルに適用することから生じる、フィルタリングされた状態ベクトルx(t)の変数を制限またはクリップする補正のうちの1つ以上を含み得る。いくつかの実施形態では、MMPCアルゴリズム100は、フィルタリングされた状態ベクトルx(t)内の皮下インスリン状態変数の合計を、所定の最小インスリン濃度を超える値に制限する。一実施例では、すべての皮下コンパートメントのインスリンの合計が基礎インスリンの所定の因子未満である場合、各コンパートメントのインスリンは増加し、その結果、新しいインスリン値の合計は、所定のインスリン値に等しくなる。いくつかの実施形態では、インスリン状態変数の値は、同じ状態ベクトル内のある1つのインスリン状態変数と別のインスリン状態変数の比が変わらないように変更される。一実施形態では、インスリン値に因子を乗算することにより、インスリン値を増加させることができる。いくつかの実施形態では、基礎インスリンに所定のインスリン因子を乗算した値は、所定のインスリン値に等しい。一実施例では、所定の因子は、推定基礎必要量(IEBN)の約半分である。
【0102】
いくつかの実施形態では、MMPCアルゴリズム100は、炭水化物およびボーラスインスリンについて、予備的またはフィルタリングされていない状態変数とカルマンフィルタリングされた状態変数との間の差を制限する。いくつかの実施例では、フィルタリングされた状態ベクトルの炭水化物の合計が、フィルタリングされていない状態ベクトルの炭水化物の合計の第1の所定の因子よりも大きい場合、炭水化物のフィルタリングされた値は減少し、それらの合計は、第2の所定の因子とフィルタリングされていない炭水化物の合計の積に等しくなる。一実施例では、第1および第2の所定の因子は等しい。
【0103】
いくつかの実施形態では、フィルタリングされた状態ベクトル値のボーラスインスリンの合計が、フィルタリングされていない状態ベクトルのボーラスインスリンの合計の第1の所定の分率未満である場合、ボーラスインスリンのフィルタリングされた値は増加し、それらの合計は、フィルタリングされていないボーラスインスリン値の合計の第2の所定の分率に等しい。一実施例では、第1および第2の所定の分率は等しい。
【0104】
上述のようにカルマンフィルタで補正され得るものを有する複数のフィルタリングされた状態ベクトルx(t+τ)は、次にブロック165に渡され、ここで、フィルタリングされた状態ベクトルは、食事および関連付けられたインスリンボーラスの影響を含むように更新される。食事の効果、および前のτUPD分の間に発生した食事ボーラスは、ブロック165でフィルタリングされた状態ベクトルx(t+τ)に追加されて、伝搬された状態ベクトルx(t+τ)を生成する。食事の炭水化物は、状態ベクトルの各々の炭水化物状態変数に直接追加される。いくつかの実施形態では、モデルが炭水化物の2つのコンパートメントを含む場合、炭水化物状態変数は、式7、8ごとに更新される。
【数11】
【数12】
ここで、CarboRatioは、炭水化物のグラムを1リットルあたり(例えば、mmol/Lまたはμmol/L)の炭水化物の濃度に変換する単位変換因子であり、Δtは、食事と現在の計算の時間との間の時間であり、MealCarboは、食事中の炭水化物の量である。
【0105】
インスリンの食事ボーラスの影響は、以下の式ごとに補正された更新されている状態ベクトル(IB、1、IB、2、)のインスリンボーラス値に直接追加され得る。
【数13】
【数14】
ここで、Δtはボーラス注入と現在の計算時間との間の時間であり、ボーラスは、式7、9の変数MealCarboに追加された炭水化物を補うために決定されたインスリンの量である。いくつかの実施形態では、ボーラスの値は、ポンプによって送達されるボーラスに等しくなくてもよく、むしろモデルの炭水化物コンパートメントに追加された炭水化物の量から計算されてもよい。いくつかの実施形態では、モデルに追加された炭水化物から計算されたボーラスを使用すると、モデルの安定性が向上し、かつ将来の生理的グルコース値の予測が向上する場合がある。いくつかの実施形態では、ボーラス値は、MealCarboおよび推定されたインスリン基礎必要量に基づいて、Bolus=MealCarbo/IEBNFcとして計算され、ここで、Fcは単位変換定数である。
【0106】
いくつかの実施形態では、ブロック165は、生理的グルコース(PG)の値を増加させることにより状態ベクトルx(t+τ)をさらに補正して、グルカゴンボーラスの送達によるグルコースの出現を反映する。PG値の補正は、以下によって定義される。
【数15】
ここで、Nは以前のグルカゴンボーラスの数であり、u(i)はグルカゴンボーラスのサイズであり、t(i)はグルカゴンボーラス投与の時間であり、kGLNは、皮下グルカゴン送達とその作用との間のラグタイムを表す転送速度パラメータである。次に、複数の伝搬、フィルタリング、および補正された状態ベクトルx(t+τ)が、ブロック110から渡される。いくつかの実施形態では、複数の状態ベクトルx(t+τ)がブロック120に渡され、ここで、最適な基礎インスリン偏差が決定される。
【0107】
最適な基礎インスリン偏差の決定
ここで図4を参照すると、ブロック120のMMPCアルゴリズム100は、CGMデータから過去の間質グルコースデータ(IGDATA)に最も一致する状態ベクトルおよびそのモデルを選択すること(ブロック126)、選択状態ベクトルおよびそのモデルを使用して、予測ホライズンまでの次の予測期間全体のグルコース濃度を予測すること(ブロック128)、ならびに目的関数、122で決定されたグルコース目標、115からの基礎プロファイル、および本明細書に記載のインスリン送達速度の1つ以上の制限に基づいて、ブロック124において予測期間にわたる基礎プロファイルからの最適な偏差を決定することによって、最適な基礎インスリン偏差を決定することができる。第1の注入期間のインスリン軌道に等しいインスリンの量は、基礎プロファイルからの最適な基礎偏差としてブロック130に渡される。
【0108】
ブロック126で、MMPCアルゴリズム100は、履歴期間にわたってグルコースデータまたはIGDATA値に最もよく一致する状態ベクトルおよびそのモデルを選択する。いくつかの実施形態では、IGDATA値は、ユーザの身体に置かれたCGM22によって測定される。他の実施形態では、グルコースデータは、グルコースセンサで測定される。一実施形態では、識別誤差e(t)は、各状態変数IG(t)と時間tでのIGDATAとの差として、各更新間隔で各状態ベクトルについて計算される次に、性能インデックスP(t)が、各状態ベクトルjに対して計算され、一定期間にわたる識別誤差e(t)が合計される。いくつかの実施形態では、性能値、P(t)は、時間内の移動窓(例えば、2時間または他の好適な窓)にわたる加重および二乗された識別誤差の合計である。いくつかの実施形態では、より最近の識別誤差に対して、重み付けが増加する。
【0109】
一実施形態では、性能値は、二乗誤差の加重和であり、ここで、加重は、より最近のデータにより大きな加重を与える指数的減衰関数である。一実施形態では、各モデルjの性能値は次のように定義される。
【数16】
ここで、aおよびbは、インデックスに対する瞬間的および長期的な正確性の寄与を決定する定数であり、誤差e(t)は、現在の時間tでのモデルjの測定値と決定されたIG値との間の差であり、e(i)は、j番目のモデルe(i)={e(1)、e(2)、…e(M)}の以前の誤差値のベクトルであり、Mは、各状態ベクトルの移動窓内の誤差ベクトルe(i)の保存された誤差値の数であり、モデルj、cは、誤差E(i)の重み付けに使用される指数的減衰関数を定義する定数である。いくつかの実施形態では、性能インデックスを使用して、状態モデルを選択すると、MMPCアルゴリズム100の安定性の可能性が高まる。
【0110】
MMPCアルゴリズム100は、ブロック126で、現在値が最も低い性能値Pj(t)を有する状態ベクトルおよびモデルを選択し、選択された状態ベクトルおよびモデルをブロック128に渡すことができる。
【0111】
いくつかの実施形態では、食事時間の後に、状態ベクトルのサブセットがブロック126で考慮されて、過去のIGデータに対する最良の一致を識別する。いくつかの実施形態では、考慮される状態ベクトルのサブセットは、モデルのインスリン吸収値が比較的速い状態ベクトルのみを含む。インスリン吸収時間が比較的遅いモデルと関連付けられた状態ベクトルは、過去のIGデータに最適な状態ベクトルを決定するための考慮から除外される。いくつかの実施形態では、MMPCアルゴリズム100は、ブロック126で考慮された状態ベクトルを、インスリン吸収時間が第1のインスリン吸収閾値未満のモデルと関連付けられた状態ベクトルに制限する。例示的な第1のインスリン吸収閾値は、約1時間または他の好適な閾値である。
【0112】
ブロック128のMMPCアルゴリズム100は、選択された状態ベクトルと関連付けられたモデルを使用してブロック126で選択された状態ベクトルを進め、生理的グルコース濃度PG(t)を予測ホライズンまで予測する。現在の時間から予測ホライズンまでの期間は、本明細書では予測期間と称される。いくつかの実施形態では、選択状態ベクトルは、食事入力および食事インスリンボーラスが発生しない定常状態条件下で進められる。いくつかの実施形態では、選択された状態ベクトルは、基礎インスリン投与量を仮定して進められる。基礎インスリン投与量は、ゼロ基礎偏差、基礎プロファイルまたは一定基礎投与量であり得る。好ましい実施形態では、選択状態ベクトルは、予測期間中に基礎偏差がゼロであり、かつ食事もインスリンボーラスもないと仮定して進められる。ブロック128は、結果として生じる予測された生理的グルコース濃度値PGP、Iをブロック124に渡し、ここで、基礎プロファイル値からの最適なインスリン偏差が決定される。
【0113】
例示的なMMPCアルゴリズム100は、ブロック124で、予測期間にわたって食事がないと仮定して、基礎プロファイルからの最適な偏差を決定する。基礎プロファイルからの最適な偏差は、目的関数を最小化する予測期間にわたる一連のインスリン投与量偏差であり得る。いくつかの実施形態では、目的関数は、予測期間にわたる各時間ステップでの加重二乗グルコース差を含む。グルコース差は、目標グルコース値と予測される生理的グルコース状態変数の値との間の差である。目的関数は、予測期間にわたる各時間ステップでの加重二乗インスリン基礎偏差(δ)の合計をさらに含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、目的関数は、各時間ステップでの加重インスリン投与量の合計をさらに含み得る。各時間ステップは、更新期間(τUPD)または注入時間(τINJ)と等しくてもよい。グルコース差またはインスリン投与量のうちのいずれかの重み付けは、時間の関数であってもよく、または食事後の時間とともに変化してもよい。一実施形態では、目的関数は、式13によるグルコース差および基礎偏差の両方を含む。
【数17】
ここで、KINSULINは基礎インスリン投与量からの偏差の重み係数であり、phは予測期間に含まれるサンプルまたは予測の数であり、重み関数w(i)は予測期間にわたって変化し得る。いくつかの実施形態では、重み関数は、予測された生理的グルコースPG(ph)と目標グルコースPGTGT(ph)との間の最終的な差に、より有意に大きな加重を与えることができる。さらに、いくつかの実施形態では、最終重み付けw(ph)は、以前の重み付け値w(1)からw(ph-1)の合計よりも大きい。いくつかの実施形態では、食事後の期間については、重み関数w(i)を減少させることができる。さらに、いくつかの実施形態では、重み関数w(i)は、食事期間よりも長い間隔の公称値であり、かつ食事期間よりも短い間隔の公称値よりもはるかに小さくてもよい。いくつかの実施形態では、重み関数は、食事後の食事期間の前半については公称値の1%未満であり、食事後の食事期間の後半中に公称値の1%未満から公称値まで増加してもよい。いくつかの実施形態では、食事期間は3時間を超える。目標グルコース数、PGTGT(i)は、規定の目標グルコース値、運動、食事後の時間の一部であるが、これに限定されない関数であり得る。
【0114】
最適化プロセスでのインスリン偏差の制限
上記のコスト関数の最小化は、インスリン偏差の値δ(i)の制限によってさらに制約されるインスリン偏差δ(i)の制限は、例えば、開ループインスリン速度IOLに基づくことができる。インスリン偏差は、インスリン投与量が0~IMAXの間に留まるように制限される場合がある。したがって、インスリン偏差δ(i)は、以下の範囲に制限される。
【数18】
ここで、IOLは以下で定義され、IMAX(i)は最大基礎投与量である。一実施形態では、最大基礎投与量は、ユーザまたは臨床医によって事前定義された固定値であってもよい。別の実施形態では、最大基礎投与量は、推定された生理的グルコース値、PG、総日基礎インスリン、TDB、および/または開ループインスリンIOLに依存し得る。
【0115】
いくつかの実施形態において、最大基礎投与量、IMAX(i)は、開ループインスリンおよび推定された生理的グルコース値、PGの関数である。この実施形態では、最大基礎投与量は、第1の因子と、第1の事前定義されたグルコース閾値未満の生理的グルコース値についての開ループ基礎投与量との積に等しくてもよい。同様に、最大基礎投与量は、事前定義された第2のグルコース閾値よりも大きい生理的グルコース値について、第2の因子と開ループ基礎投与量の積に等しくてもよく、ここで、第2の因子は第1の因子よりも大きい。最大基礎投与量は、第1および第2のグルコース閾値間の生理的グルコース値についての生理的グルコース値に基づいて、第1および第2の因子間の補間に開ループ基礎投与量を掛けたものに等しくてもよい。いくつかの実施形態では、第1の因子は約3であり、第1のグルコース閾値は約7mmol/Lである。いくつかの実施形態では、第2の因子は約5であり、第2のグルコース閾値は約12mmol/Lである。
【0116】
いくつかの実施形態では、上記のコスト関数の最小化は、インスリン制限とラベル付けされたセクションに列挙されている、インスリン偏差の値δ(i)の制限によってさらに制約される。以下に列挙するインスリン制限は、予測期間中の対応する時点での予測生理的グルコース値および生理的グルコース値の変化速度(例えば、δ(i)=fcn(PG(i)、dPG(i)/dt))を適用することにより、予測期間中の各時点でブロック124の最適化プロセスに適用され得る。
【0117】
式13のコスト関数を最小化する最適なインスリン偏差コマンドのセットを見つけるための、多数の数値アルゴリズム{δ(1)、δ(2)…δ(ph)}が存在する。数値アルゴリズムがブロック120におけるインスリン偏差コマンドの最適な組を見つけると、MMPCアルゴリズム100は、第1の更新間隔(δ(1))の最適な基礎偏差をブロック135に渡し、ここで、最適な偏差は、次の投与量要求に等しくなるように基礎プロファイルと合計される。
【0118】
インスリン項
MMPCアルゴリズム100は、インスリン必要量という項の下でグループ化され得る複数のインスリン値を使用する。いくつかの実施形態におけるインスリン必要量は、UI20で患者または臨床医によって入力されたデータである。別の実施形態では、インスリン必要量データは、UI20、コントローラ24、またはポンプ12上のメモリに格納されてもよい。インスリン必要量には、単一の値または基礎プロファイルが含まれる場合がある。いくつかの実施形態では、インスリン必要量データは、以下のインスリン値:インスリンの総日投与量(TDD)、総基礎投与量(TBD)、単一投与量速度であり、通常は単位/時間である基礎投与量(IBD)、および1日間の基礎インスリン投与量を定義するリストまたは式である基礎プロファイル(IBP(i))のうちの1つ以上を含む。基礎投与量は、ユーザがUI20に入力した値であってもよく、またはTDDの分率として計算されてもよい。いくつかの実施形態では、基礎投与量は、基礎因子にTDDを24で割ったものであり、ここで、基礎因子は1未満である。いくつかの実施形態では、因子は0.55または別の好適な分率である。他の実施形態において、基礎投与量は、基礎インスリンがTDBを24で割ったものである。
【0119】
開ループ基礎速度、IOL(t)は、上限値と下限値によって制限される入力基礎プロファイル、IBP(t)である。IOL(t)は、IBP(t)が下限値未満である場合を除いて、IBP(t)に等しく、ここで、IBP(t)は下限値に等しい。IOL(t)は、IBP(t)が上限値よりも大きい場合を除いて、IBP(t)に等しく、ここで、IBP(t)は上限値に等しい。一実施形態では、下限値はTDB/24の半分であり、上限値はTDB/24の1.5倍である。
【0120】
推定されたインスリン基礎必要量、IEBNは、インスリン感受性、フィルタリングされたインスリン値の共分散制限の初期値、およびインスリンボーラス計算の設定に使用される、インスリンの総日投与量(TDD)および総日基礎インスリン(TDB)の関数である。一実施例では、IEBNの値は、TDD/24の分率である。別の実施例では、IEBNは、上限および下限によって制限され、ここで、上限および下限は、TDDおよびTDBに基づいている。
【0121】
インスリンの総日投与量(TDD)および総日基礎インスリン(TDB)は、一定であってもよく、または使用中に更新されてもよい。一実施形態では、TDDおよびTDBは、所定の値である。別の実施形態では、TDDおよびTDBは、ユーザまたは臨床医によってユーザインターフェースで入力されるか、またはコントローラ24に直接通信される。別の実施形態において、TDDは、過去2週間にわたって毎日送達されるインスリンを平均化するために、コントローラによって更新される。別の実施形態において、TDBは、送達される毎日の基礎インスリンの2週間平均に、コントローラ24によって更新され得る。別の実施形態では、TDDおよびTDBは、過去3日間にわたるそれぞれの総日インスリンおよび合計基礎インスリンの平均を表す。別の実施形態では、TDDおよびTDBはそれぞれ、過去24日間にわたる総日インスリンおよび合計基礎インスリンの平均を表す。
【0122】
目標グルコース
上述のように、コントローラによって実施されるブロック124(図4)の例示のMMPCアルゴリズム100は、基礎プロファイルからの最適な偏差を決定するときに目標生理的グルコース値(PGTGT)を使用する。いくつかの実施形態では、PGTGTは固定値である。他の実施形態では、PGTGTは、様々な条件が存在するか、または様々なイベントが発生したときに、公称値またはプリセット値(PGNOM)から修正される。目標生理的グルコース値は、UI20の入力を介してシステム10に通信されるユーザデータに基づいて決定され得る。目標生理的グルコース値のそのような調整は、例えば、食事および/または運動の告知に応じて起こり得る。目標グルコース値の調整は、少なくとも部分的に目標修正式によって管理されてもよく、または特定の状況が存在するときに使用されるべき事前定義された値に基づいていてもよい。また、目標値の調整は、条件またはイベントが発生した後もしばらく続く場合がある。調整は、この期間にわたる静的または固定調整であってもよく、または期間が経過するにつれて大きさが変化する(例えば、大きさが直線的に減少する)場合もある。
【0123】
ここで図4に示されるブロック120を参照すると、グルコース目標は、ブロック122で決定され、かつブロック124に提供され、次いで、上述のように基礎プロファイルからの最適な偏差を決定し得る。ブロック122は、ブロック115から食事および運動入力データを受信し、目標生理的グルコース値を変更し得る。ブロック120で基礎プロファイルの最適な偏差を決定する部分として、公称の目標グルコース値を、その公称値から調整することができる。例示的な公称の目標グルコース値は、5~6mmol/Lであるが、他の好適な値および範囲(例えば、5~5.5mmol/L)が実装されてもよい。いくつかの実施形態では、MMPCアルゴリズム100がブロック120で基礎プロファイルの最適な偏差を決定している間に患者14が運動を告知し、まだ運動を終了していない場合、目標グルコース値を調整することができる。他の実施形態では、現在の時間の事前定義された時間内に所定の期間にわたって運動期間が発生した場合、運動のために目標グルコース値を修正することができる。いくつかの実施形態では、患者14が最適な基礎偏差の決定の事前定義された期間内に食事を知らせた場合、食事データは、目標生理的グルコース値を変更し得る。
【0124】
運動告知は、生理的グルコース目標値を、プリセット値または公称値から運動目標値に修正する場合がある。いくつかの実施形態では、運動目標値は、プリセットまたは公称目標値であってもよく、またはそれよりも約3mmol/L大きくてもよい。いくつかの実施形態では、プリセットまたは公称目標値は、6mmol/Lまたは約6mmol/Lであり得、運動目標値は、9mmol/Lまたは約9mmol/Lであり得る。
【0125】
食事告知または食事データを式に入力して、食事に対する近接性に基づいて目標値を増加させることができる。この式は、食事が食事に時間的に近接した目標値により大きな影響を与えるように構成され得る。食事の消費からの時間が増加するにつれて、目標値は、より少ない程度に変更され得る。特定の事前定義された期間が経過した後、食事入力データは、もはや目標値調整の決定に影響を及ぼさなくなる可能性があり、かつプリセットまたは公称目標値が使用される場合がある。目標生理的グルコース値に対する食事イベントの影響は、時間の経過とともに線形の様式に変化する(例えば、減少する)場合がある。
【0126】
生理的グルコース目標値が設定された後、生理的グルコース目標に基づいて、いくつかのチェックが実行され得る。これらのチェックにより、場合によっては、グルコース目標値(PGTGT)が修正され、最終値が変更される場合がある。
【0127】
インスリン制限チェック
状態ベクトルが伝搬され、ブロック120で基礎プロファイルからの最適な偏差が決定された後、コントローラ24は、図3のブロック130で、基礎プロファイルからの最適な偏差を1つ以上のインスリン制限と比較またはチェックすることができる。いくつかの実施形態では、複数の基準が使用されてもよい。基礎プロファイルからの最適な偏差(δ)は、生理的グルコースまたは選択された状態ベクトルの生理的グルコースの変化速度に基づいて、制限内に送達されるインスリンを保持するように変更されてもよい。最適な偏差の変更はまた、インスリンの総日投与量(TDD)および/または総日基礎インスリン(TDB)に基づいている。いくつかの実施形態では、基礎プロファイルからの最適な偏差が複数の制限チェックを通過するときに、基礎プロファイルからの最適な偏差を、1回または複数回更新することができる。次に、結果として得られる制限チェックされた最適な基礎偏差(δ)は、投与量要求ブロック135に渡され得、ここで、基礎投与量または基礎プロファイルは、ポンプ12に送信される要求されたインスリン投与量を生成するために、チェックされた基礎偏差に追加される。
【0128】
図8は、基礎プロファイルからの最適な偏差が変更を必要とするかどうかを決定するために実行され得る、いくつかの例示の操作を詳細に説明する例示的なフローチャート1200を示す。基礎プロファイルからの最適な基礎偏差は、ブロック1206で、コントローラ24によって第1の基準または第1の制限チェックと比較される。ブロック1208で、比較が、第1のインスリン制限チェックに基づいて修正が必要ないことを示す場合、最適な基礎偏差は、ブロック1212で、次のインスリン制限チェックと比較され得る。ブロック1208で、最適な基礎偏差が変更を必要とすることを比較が示す場合、ブロック1210で、最適な基礎偏差を、更新された基礎偏差に変えることができる。次に、更新された基礎偏差は、ブロック1212で、コントローラ24によって次のインスリン制限チェックと比較され得る。
【0129】
ブロック1214において、最適な、または更新された基礎偏差が変更を必要とすることを比較が示す場合、ブロック1216で、基礎偏差は、更新された基礎偏差に更新され得る。ブロック1216での修正後、またはブロック1214で、インスリン制限チェックに基づいて、比較が、修正が不要であることを示す場合、ブロック1218で、すべてのインスリン制限チェックが完了したかどうかを決定することができる。ブロック1220で、すべてのインスリン制限チェックが完了していない場合、コントローラ24はブロック1212に戻り、次のインスリン制限チェックを実行することができる。これは、「n」回のインスリン制限チェックがコントローラ24によって行われるまで、繰り返されてもよい。いくつかの実施形態では、「n」は最大で6までであり得る。ブロック1220で、すべてのインスリン制限チェックが完了した場合、最適な基礎偏差または更新された基礎偏差は、チェックされた基礎偏差としてポンプ12に提供され、ポンプ12は、患者14に微量ボーラス量の薬剤を投与することができる。
【0130】
方程式15~17は、図3のブロック130で適用され得る例示的なインスリン制限チェックを示している。一実施形態では、式15~17は、ブロック120で生成された最適な基礎偏差に順次適用される。他の実施形態は、基礎インスリン偏差に関する以下の制限の一部またはすべてを含み得る。これらのインスリンの制限は、図3および図4のブロック120で生成されたインスリン基礎プロファイルの最適な偏差または最適な基礎偏差(δI)に適用され、ブロック135に供給される更新された基礎偏差を生成し、ここで、送達される投与量は、ポンプ12から要求される。
【0131】
MMPCアルゴリズム100を、基礎速度とは異なる速度でインスリンを送達する要求に非対称的に応答させるために、一実施形態では、インスリン制限ブロック130は、負の基礎偏差の大きさを大きくすること、および正の基礎偏差を変更しないままにすることによって、基礎インスリンまたは基礎プロファイルからの変更を低投与量に偏向させる。例えば、ブロック120からの最適な基礎偏差が負の場合、次に式15に従って、最適な基礎偏差の大きさをさらに増加させることができる。
【数19】
ここで、F1は1よりも大きい値である。最適な基礎偏差が正の場合、最適な基礎偏差は変更されない。必要に応じて、最適な基礎偏差の大きさを増加させた後、コントローラ24は、次のインスリン制限チェックを実行する。
【0132】
いくつかの実施形態におけるMMPCアルゴリズム100は、生理的グルコースが高い場合に、最小のインスリン送達を確実にする。いくつかの実施形態では、コントローラ24は、選択状態ベクトルの推定生理的グルコースが所定の高グルコース閾値を超える場合、最適な基礎偏差をゼロ以上に制限する。最適な基礎偏差をゼロ以上に保持すると、送達されたインスリンが基礎プロファイル以上になることがもたらされる。一実施例では、基礎偏差は、式16による高グルコース閾値に基づいて制限される。
【数20】
ここで、PGMAXは、高い生理的グルコース閾値である。一実施例では、高い生理的閾値は、約13.7mmol/Lである。A=max(B、C)の方程式形式は、AがBまたはCの大きい値に等しく設定されることを意味する。
【0133】
いくつかの実施形態におけるMMPCアルゴリズム100は、生理的グルコースが低い場合、インスリン送達を制限する。いくつかの実施形態では、コントローラ24は、選択状態ベクトルの生理的グルコースが所定の低い生理的グルコース閾値未満である場合、最適な基礎偏差を第1の所定の低い値以下に制限する。
【0134】
いくつかの実施形態におけるMMPCアルゴリズム100は、生理的グルコースが低く低下している場合、インスリン送達をさらに制限する。いくつかの実施形態では、コントローラ24は、選択状態ベクトルの生理的グルコースが所定の低い生理的グルコース閾値未満であり、時間とともに減少する場合、最適な基礎偏差を第2の所定の低い値以下に制限する。第2の所定の低い値は、第1の所定の低い値よりも小さくてもよい。
【0135】
いくつかの実施形態におけるMMPCアルゴリズム100は、生理的グルコースが非常に低い場合、インスリン送達をさらに制限する。いくつかの実施形態では、コントローラ24は、選択状態ベクトルの生理的グルコースが第2の所定の低い生理的グルコース閾値未満である場合、最適な基礎偏差を第3の所定の低い値以下に制限する。
【0136】
いくつかの実施形態におけるMMPCアルゴリズム100は、所定の期間の低インスリン投与後に最小レベルのインスリンを供給することにより、比較的長い時間スケールにわたってインスリンの最小送達を確実にする。いくつかの実施形態では、コントローラ24は、事前定義された期間にわたる平均インスリン投与量が事前定義された投与量閾値を下回る場合、インスリン投与量を最小投与量以上に制限する。平均送達インスリン投与量は、図3のブロック135においてMMPCアルゴリズム100により要求されたインスリン投与量を事前定義された期間にわたって平均することにより、コントローラ24により決定され得る。いくつかの実施形態では、事前定義された期間は約2時間である。送達されたインスリン閾値は、小さな正の値である場合がある。いくつかの実施形態では、送達されるインスリン閾値は、1時間あたり約0.05単位のインスリンに設定される。
【0137】
いくつかの実施形態において、事前定義された期間にわたる平均送達インスリン投与量が送達インスリン閾値未満である場合、最適な基礎偏差を第1の所定の閾値以上に制限することにより、最小長期送達が確実にされ得る。一実施形態では、第1の所定の閾値はゼロであるため、送達されるインスリンは、少なくとも基礎プロファイルに等しくなる。一実施形態では、このインスリン制限は式17に説明されている。
【数21】
(i)は過去に要求されたインスリン投与量であり、IMINは送達されたインスリン閾値である。
【0138】
グルカゴンの閉ループ制御
いくつかの実施形態では、システム10は、複数の薬剤リザーバ16を含むことができる。例えば、1つの薬剤リザーバ16はインスリンを含むことができ、別のリザーバはグルカゴンを含むことができる。CGM22からのデータを使用して、グルカゴンは、インスリンとともに閉ループ様式で患者14に送達され得る。いくつかのシステムでは、インスリンに加えてグルカゴンを投与すると、患者14が正常血糖状態で過ごす時間をさらに増加させるのに役立つ場合がある。
【0139】
患者14へのグルカゴン送達は、実施形態に応じて変化し得る、いくつかの事前定義されたグルカゴン規則によって制御され得る。いくつかの実施形態では、所与の日に患者14への送達に割り当てられるグルカゴンボーラスのサイズは、最近の食事、運動、生理的グルコース濃度、グルコース濃度の変化速度、基礎インスリンデータ、および推定オンボードインスリン(IOB)を含むがこれらに限定されない、因子のうちの1つ以上の関数であり得る。いくつかの実施形態では、ユーザが運動を指示した場合、グルカゴンボーラスを増加させることができる。いくつかの実施形態では、運動中にグルカゴンの投与量を増加させることができる。いくつかの実施形態では、グルカゴンボーラスは、ゼロに設定されるか、または食事後一定期間キャンセルされる場合がある。一実施形態では、グルカゴンボーラスは、食事後120分間ゼロに設定される。
【0140】
いくつかの実施形態では、グルカゴンボーラスは、生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)がグルコース速度閾値(RPG)未満である場合にのみ送達され得る。グルコース速度閾値は、推定生理的グルコース(PG)の関数であり得る。グルコース速度閾値(RPG)は、推定生理的グルコース(PG)に反比例して増加する場合があり、その結果、グルコース速度閾値は、より低い生理的グルコース(PG)値とともに増加する。コントローラ24は、PGレベルが低下するにつれて、dPG/dt値がより高くなるとグルカゴンを送達する。いくつかの実施形態では、グルコース速度閾値はゼロ未満であるため、グルカゴンは、PGがグルコース速度閾値よりも速く低下している場合にのみ送達される。これらの実施形態では、生理的グルコースが増加するにつれて、グルコース速度閾値は増加し、より小さい大きさを有する。いくつかの実施形態では、グルコース速度閾値はゼロよりも大きくてもよく、その結果、PGがグルコース速度閾値よりもゆっくりと上昇する場合にのみグルカゴンが送達される。これらの実施形態では、生理的グルコースが増加するにつれて、グルコース速度閾値が増加し、より大きい大きさを有する。いくつかの実施形態では、グルコース速度閾値は、生理的グルコース値が高い場合はゼロ未満であり、生理的グルコース値が低い場合はゼロよりも大きい。これらの実施形態において、グルカゴンは、より高い生理的グルコースレベルおよびより低い生理的グルコース値でPGがグルコース速度閾値よりも速く低下する場合にのみ送達され、PGがグルコース速度閾値よりもゆっくり上昇する場合にのみグルカゴンが送達される。
【0141】
グルカゴンボーラス(Gln)のサイズまたはボリュームは、生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)および生理的グルコースの推定値(PG)の両方に比例する。いくつかの実施形態では、生理的グルコースの変化速度とともに増加するグルカゴンボーラス。いくつかの実施形態では、グルカゴンボーラスの量は、生理的グルコース濃度のレベルが低下するにつれて増加し得る。いくつかの実施形態において、グルカゴンボーラスは、モデル内の活性インスリンの量とともに増加し得る。
【0142】
いくつかの実施形態では、グルカゴンは、図9のフローチャート1440に示される例示的な方法に基づいて、コントローラ24により、さらにまたは代替的に制御され得る。ブロック170のコントローラ24は、ブロック115からの食事および運動に関するユーザデータの受信、選択状態ベクトル126(図4)における生理的グルコースの現在の推定、およびブロック127からの生理的グルコースの変化の速度(dPG/dt)に基づいて、グルカゴンの要求されたボーラス量を決定し得る。ブロック1420において、コントローラ24は、食事が事前定義された期間(τ)内に消費されたかどうかをチェックする。一実施形態では、τは120分である。食事がτ未満の期間内に消費された場合、コントローラは、ブロック1435でグルカゴンボーラスをゼロに設定し、かつブロック170を終了する。食事が過去τ期間内に消費されなかった場合、コントローラは、ブロック1425中のグルコース入力(G)を決定する。グルコース入力は、選択状態ベクトル126の生理的グルコース(PG)に等しい。いくつかの実施形態では、ユーザがブロック115で運動を指示する場合、グルコース入力は、生理的グルコース濃度から運動因子を引いたものに等しくなり得る。一実施形態では、運動因子は3mmol/Lである。次に、グルコース入力値(G)は、グルコース入力値およびブロック127で決定された生理的グルコース濃度の変化速度に基づいてグルカゴンボーラスのサイズを設定する、一連のif-then-elseロジック決定(例えば、ブロック1430~1468)に渡される。結果として生じるグルカゴンボーラスは、選択された状態ベクトルのインスリンと推定基礎インスリン必要量(IEBN)の合計の関数としてブロック1470で更新されてもよい。
【0143】
if-then-elseロジック(例えば、ブロック1430~1468)およびグルカゴンボーラス修正1470について以下に説明する。ブロック1430では、グルコース入力(G)が、一次グルコース閾値(G)と比較される。入力グルコースが一次グルコース閾値(G)よりも大きい場合、コントローラは、ブロック1435でグルカゴンボーラスをゼロに設定し、ブロック170を終了する。入力グルコース(G)が一次グルコース閾値(G)未満である場合、コントローラは、ブロック1448、ならびに推定値および生理的グルコースの変化速度に基づいてグルカゴンボーラスを設定する、連続するif-then-elseロジックステップに進む。
【0144】
ブロック1448において、グルコース入力(G)が第1のグルコース閾値(G)よりも大きい場合、次に、グルカゴンボーラスは、生理的グルコース濃度の変化速度(dPG/dt)または連続する生理的グルコース値の差(dy1、dy2)に基づいて、ブロック1450で第1の関数によって決定される。連続する生理的グルコース値間の差[PG(i)-PG(i-1)またはPG(i)-PG(i-2)]は、生理的グルコースの連続値が固定間隔で取得される場合、生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)と見なすことができる。グルコース入力が第1のグルコース閾値未満である場合、ロジックはブロック1452に進む。
【0145】
ブロック1450の第1の関数では、グルカゴンボーラスは、グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて決定される。グルコースの変化速度が第1の速度閾値(RPG1)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスはゼロに設定される(Gln=0)。ブロック1450でグルカゴンボーラスを設定した後、コントローラ24はブロック1470に進む。
【0146】
ブロック1452において、グルコース入力(G)が第2のグルコース閾値(G)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスは、生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて、ブロック1454の第2の関数によって決定される。グルコース入力が第2のグルコース閾値未満である場合、ロジックはブロック1456に進む。
【0147】
ブロック1454の第2の関数では、グルカゴンボーラスは、グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて決定される。グルコースの変化速度が第2の速度閾値(RPG2)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスはゼロに設定される(Gln=0)。ブロック1454でグルカゴンボーラスを設定した後、コントローラ24はブロック1470に進む。
【0148】
ブロック1456で、グルコース入力(G)が第3のグルコース閾値(G)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスは、生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて、ブロック1458の第3の関数によって決定される。グルコース入力が第3のグルコース閾値未満である場合、ロジックはブロック1460に進む。
【0149】
ブロック1458の第3の関数では、グルカゴンボーラスは、グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて決定される。グルコースの変化速度が第3の速度閾値(RPG3)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスはゼロに設定される(Gln=0)。ブロック1458でグルカゴンボーラスを設定した後、コントローラ24はブロック1470に進む。
【0150】
ブロック1460において、グルコース入力(G)が第4のグルコース閾値(G)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスは、生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて、ブロック1462の第4の関数によって決定される。グルコース入力が第4のグルコース閾値未満である場合、ロジックはブロック1464に進む。
【0151】
ブロック1462の第4の関数では、グルカゴンボーラスは、グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて決定される。グルコースの変化速度が第4の速度閾値(RPG4)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスはゼロに設定される(Gln=0)。ブロック1462でグルカゴンボーラスを設定した後、コントローラ24はブロック1470に進む。
【0152】
ブロック1464において、グルコース入力(G)が第5のグルコース閾値(G45)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスは、生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて、ブロック1466の第5の関数によって決定される。グルコース入力が第5のグルコース閾値未満である場合、ロジックはブロック1468に進む。
【0153】
ブロック1466の第5の関数では、グルカゴンボーラスは、グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて決定される。グルコースの変化速度が第5の速度閾値(RPG5)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスはゼロ(Gln=0)に設定される。ブロック1466でグルカゴンボーラスを設定した後、コントローラ24はブロック1470に進む。
【0154】
ブロック1468の第6の関数では、グルカゴンボーラスは、グルコースの変化速度(dPG/dt)に基づいて決定される。グルコースの変化速度が第6の速度閾値(RPG6)よりも大きい場合、グルカゴンボーラスはゼロに設定される(Gln=0)。ブロック1468でグルカゴンボーラスを設定した後、コントローラ24はブロック1470に進む。
【0155】
例示の実施形態では、一次グルコース閾値は第1のグルコース閾値よりも大きく、第1のグルコース閾値は第2のグルコース閾値よりも大きく、第2のグルコース閾値は第3のグルコース閾値よりも大きく、第3のグルコース閾値は第4のグルコース閾値よりも大きく、かつ第4のグルコース閾値は第5のグルコース閾値よりも大きい。
【0156】
ブロック1470では、第1の関数から第6の関数のうちの1つによって、ブロック1450~1468のうちの1つで決定されたグルカゴンボーラスは、体内の活性インスリンおよび推定基礎インスリン必要量(IEBN)に基づいて更新され得る。体内の活性インスリンまたはオンボードインスリン(IOB)は、選択状態ベクトルのインスリンコンパートメントのインスリンの合計である。図5および式1に表される一実施形態では、インスリンコンパートメントは、2つの皮下コンパートメント(IS1、IS1)および2つのボーラスコンパートメント(IB1、IB1)を含む。IOBは、図4のブロック120、130によって要求される経時的な基礎偏差に基づいている。次に、ブロック1470からのグルカゴンボーラス要求または1435からのゼロ要求は、グルカゴンボーラスブロック180に渡される。
【0157】
食事ボーラス
ここで図10に示されるフローチャート700を参照すると、患者14に食事ボーラスで送達されるべき薬物(例えば、インスリン)の量を決定し、生理的グルコース濃度を、食事中および食事後の所望のレベルまたは範囲に維持するときに、様々なロジック規則が適用され得る。ブロック702では、現在の生理的グルコース濃度(PG)濃度および食事データが受信される。ブロック704において、コントローラ24は、少なくとも生理的グルコース濃度の変化速度(dPG/dt)を決定してもよい。dPG/dtは、本明細書で説明される少なくとも1つの方法を含む任意の好適な方法によって決定されてもよい。食事ボーラスは、食事中の炭水化物の量(CHO)、インスリンと炭水化物との比率(ICR)、およびボーラス減衰因子(PCHO)から決定され、ここで、生理的グルコースが比較的低い場合、および/または値が減少している場合、ボーラス減衰因子は、食事ボーラスを減少させる。MMPCアルゴリズム100により提供される生理的グルコースの閉ループ制御は、正常血糖を維持する必要がある場合、食事ボーラスの減少を補うために、追加のインスリンを提供するための方法を提供する。
【0158】
一実施形態では、生理的グルコース濃度値は、CGM22から直接提供される。いくつかの実施形態では、生理的グルコース濃度は、図4のブロック126に関連して上述したような選択状態ベクトルの現在の生理的グルコース濃度である。別の実施形態では、食事ボーラスアルゴリズムは、CGM22によるグルコース測定から推定された生理的グルコース値を使用する。
【0159】
ここで図1および図2を参照すると、食事ボーラスを決定するとき、システム10は、グルコースセンサ22およびUI20のうちの少なくとも1つからの入力を用いて、食事ボーラス量を決定することができる。食事ボーラスの予備値は、食事の炭水化物含有量をインスリンと炭水化物との比率で割った値であり得る。食事ボーラスの予備値は、コントローラ24によって決定された生理的グルコース値に基づいて減衰されてもよい。食事の炭水化物含有量は、UI20で明示的に入力されてもよいし、またはUI20で供給された食事データからコントローラ24によって推測されてもよい。インスリンと炭水化物との比率は、UI20で入力され、および/またはコントローラ24によって読み取り可能なメモリに格納されてもよい。食事の炭水化物含有量は、ユーザの定性的判断として、ユーザが入力してもよい。例えば、ユーザは、システム10のUI20を介して、食事のサイズを示すことができる。いくつかの実施形態では、食事のサイズは、小、中、大、またはスナックなどの複数のカテゴリーから選択され得るが、これらに限定されない。
【0160】
再び図10のフローチャート700を参照すると、食事ボーラス(BOL)は、食事の炭水化物含有量(CHO)、インスリンと炭水化物との比率(ICR)、および減衰因子から計算され得る。減衰因子は、生理的グルコース濃度および生理的グルコースの変化速度に依存し、ブロック706で事前定義された式から決定される。食事ボーラスは、ブロック708で決定される。ブロック712において、食事ボーラスは、ブロック712における総日インスリン(TDD)の事前定義された分率未満に制限される。結果として得られた食事ボーラスは、送達要求としてポンプ12に渡され、ポンプ12は、インスリン食事ボーラスをユーザに送達することができる。
【0161】
食事ボーラスアルゴリズムは、少量の食事の食事ボーラスを、大量の食事とは異なる方法で減衰させる場合がある。例えば、食事の炭水化物含有量が炭水化物閾値(CTHD)を超えると推定される場合、食事ボーラスは、炭水化物値(CHO)と減衰因子(ACHO)の積を、インスリンと炭水化物との比率(ICR)で割ったものとして計算され得る。
【数22】
この実施例を続けると、炭水化物含有量が同じ炭水化物閾値よりも少ないと推定される場合、食事ボーラス計算は次のように変更されてもよい。
【数23】
食事ボーラスの方程式(式19)は、所与のACHOのボーラス減衰の大きさが炭水化物閾値未満で一定になるように、減衰因子(ACHO)によって少量の食事の食事ボーラスの減少を修正する。式19では、ボーラス減衰の大きさは、炭水化物閾値を超える食事の炭水化物含有量に比例し、かつ同じ炭水化物閾値を下回るより少量の食事の炭水化物閾値に比例する。いくつかの実施形態では、炭水化物閾値は70グラムであるが、他の好適な閾値が提供されてもよい。
【0162】
減衰因子ACHOは、生理的グルコースと生理的グルコースの変化速度の関数である。減衰因子は、生理的グルコースの増加および生理的グルコースの変化速度の増加の両方で増加する。減衰因子は、下限値および上限値によって制限される場合がある。いくつかの実施形態では、減衰因子の下限は0.8である。いくつかの実施形態では、減衰因子の上限は1.0である。いくつかの実施形態では、減衰因子は、PGおよびdPG/dtのスプラインフィットから表Iの値に決定することができる。
【表1】
【0163】
いくつかの実施形態では、コントローラ24は、生理的グルコース(PG)値および生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)値のセットの線形補間から減衰因子を決定してもよい。生理的グルコースは、CGMによっておよび/または選択状態ベクトル(図3のブロック126)から決定された推定生理的グルコース(PG)であってもよい。生理的グルコースの変化速度(dPG/dt)は、いくつかの様式で決定され得る。いくつかの実施形態では、PGの変化速度は、60(PG(t)-PG(t-dt))/dtであり、ここで、dtは20分であり、dPG/dtはmmol/L/hrの単位を有する。
【0164】
この実施例では、食事減衰(ACHO)は1.0~0.8の範囲であり、生理的グルコース濃度が低い(例えば、6.5mmol/L未満)場合と時間とともに減少する場合、減衰値はより低くなる。
【0165】
ここで図10を参照すると、ブロック708からの減衰された食事ボーラス(BOL)は、インスリンの総日投与量(TDD)に基づいて、ブロック712で制限され得る。いくつかの実施形態では、食事ボーラスは、所定の上限以下に制限される。食事ボーラスが所定の上限よりも大きい場合、食事ボーラスは所定の上限に等しく設定される。いくつかの実施形態では、上限はTDDの分率である。一実施形態では、上限はTDDの5分の1である。次いで、ブロック712から得られた制限された食事ボーラスは、ブロック714に渡される。
【0166】
ブロック708で決定された食事ボーラス(BOL)に加えて、上述のようにブロック704で決定された推定生理的グルコースに基づいて、ブロック710で補正ボーラス(BOL)が決定される。いくつかの実施形態では、補正ボーラスはまた、モデル内のオンボードインスリン(IOB)または活性インスリンに基づいている。IOBは、現在の時間での選択状態ベクトルのインスリン状態変数の合計である。インスリン状態変数は、モデルのインスリンコンパートメント内のインスリンの量または濃度を表す。図5および式1に表されるいくつかの実施形態では、インスリンコンパートメントは、2つの皮下コンパートメント(IS1、IS1)およびボーラスコンパートメント(IB1、IB1)を含む。いくつかの実施形態では、モデルの様々なコンパートメントのインスリンは、経時的なインスリンボーラスと経時的な基礎偏差の合計から、血液コンパートメント220で輸送または変換されたインスリンを差し引いたものを表す。一実施形態において、モデルおよびIOBは、これらがこの実施形態においてもモデルに含まれない内因性グルコース産生を補償すると想定される場合、基礎プロファイルインスリンまたは基礎投与量インスリンを含まない。いくつかの実施形態では、ブロック714で、補正ボーラスが制限食事ボーラスに追加され、結果として得られたボーラスが、インスリン送達デバイス12から要求される。他の実施形態では、制限食事ボーラスの要求は、補正ボーラスの要求とは独立してポンプ12に渡される。
【0167】
補正ボーラス(Bol)は、推定生理的グルコース値(PG)および推定オンボードインスリン(IOB)に基づいて変化する。実例として、補正ボーラスは、低PG閾値未満のPG値ではゼロであり、PGが低PG閾値を超えると増加する。PGを使用したボーラス補正値の増加速度は、高PG閾値を超えると減少する。
【0168】
薬物動態プロファイルの差異および/または変更を使用したグルコースの閉ループ制御
上記のように、インスリンが異なれば、薬物動態プロファイルも異なる。例えば、一部のインスリンは、他のインスリンよりも速く血中グルコースを下げるように設計されている。これらのより速い(例えば、超高速型)インスリンは、より遅い(例えば、従来の速効型)インスリン(例えば、インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、およびインスリングルリジン)と比較して、皮下空間から血流への輸送がより速い。さらに、インスリンの薬物動態プロファイルは、例えば、連続皮下インスリンが単一の注入部位に1日より長く注入されると、経時的に変化する可能性がある。また、特定の患者は、経時的にインスリンに対する反応が異なる。
【0169】
異なるおよび/または変化する(例えば、漸進的な)薬物動態プロファイルに対応するために、システム10は、コントローラ24を介して、所与の時点における患者のインスリンの最適な投与量を決定する第1のアルゴリズムを実行し、次にその後の時点におけるインスリンの最適な投与量を決定する第2のアルゴリズムを実行することができる。例えば、異なるまたは変化する薬物動態プロファイルは、UI20を介してユーザが入力した患者の血糖パターン、告知、または製品コードの変化を検出すること、無線周波数識別(RFID)などを介したインスリンリザーバからのシグナリング、(例えば、インスリンセットのコンポーネントに印刷された)バーコードを読み取ることなどによって決定され得る。血糖パターンを介する異なるまたは変化する薬物動態プロファイルの決定に応じて、システム10は、コントローラ24を介して、更新されたパラメータ値のセットを使用するアルゴリズムを実行して、現在の薬物動態プロファイルに対応する最適なインスリン投与量を決定することができる。様々な薬物動態プロファイルに対応する様々な実施例が、本明細書で説明されている。
【0170】
特定の実施形態において、MMPCアルゴリズム100は、上述の異なるおよび/または変化する(例えば、漸進的な)薬物動態プロファイルに対応するように適合され得る。コントローラ24は、薬物動態プロファイルが変化した(例えば、経時的に進行した)および/または他の点で異なると決定し、それに応じて、決定された薬物動態プロファイルに対応するためにMMPCアルゴリズム100を実行することができる。上記のように、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100を介して、特定の時間間隔で複数の状態モデルを計算し、計算された状態モデルのうちの1つ以上を使用して、所与の時点での最適なインスリン投与量を決定する。状態モデルは、様々なモデルパラメータ、および各モデルがインスリン投与量を決定する方法に影響を与えるそれらの値に基づいて計算される。特定の実施形態では、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルを決定すると、コントローラ24は、状態モデルを多かれ少なかれ頻繁に計算する(例えば、MMPCアルゴリズム100を多かれ少なかれ実行する)。特定の実施形態では、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルを決定すると、コントローラ24は、モデルパラメータの新しいセットおよび/またはモデルパラメータの値の新しいセットを適用することによって状態モデルを計算する。
【0171】
特定の実施形態では、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルを決定するために、コントローラ24は、患者のグルコースレベル(例えば、血糖パターン)の傾向を監視する。例えば、コントローラ24は、CGM22によって提供される生理的グルコース濃度値を監視し、生理的グルコース濃度値を、生理的グルコース濃度値および関連付けられたインスリン薬物動態学(例えば、インスリン薬物動態学値および/またはプロファイル)のデータベース(例えば、表)と比較する。生理的グルコース濃度値のデータベースは、所与の量の送達されたインスリンの予想されるまたは過去の生理的グルコース濃度値、速度、および/または期間を含むことができる。別の実施例では、コントローラ24は、CGM22によって提供される生理的グルコース濃度値を監視し、生理的グルコース濃度値を、患者の個々の代謝パターンに適応した学習アルゴリズムによって決定されたそれらの生理的グルコース濃度値および関連付けられたインスリン薬物動態(例えば、インスリン薬物動態値および/またはプロファイル)と比較する。例えば、学習アルゴリズムは、個々の患者がインスリンにどのように反応するかを経時的に決定するデータ処理および分析を含み得る。
【0172】
特定の実施形態では、コントローラ24は、既知のインスリンと炭水化物との比率を利用することによって患者の血糖パターンを決定する。例えば、コントローラ24は、UI20を介して、患者に、空腹後、グルコースタブレット、キャンディー、または既知の量の多量養素(例えば、既知の量の単純な炭水化物)を持つ他の食品などの標準化された食事(スナックなどの少量の食事を含み得る)を消費することを要求し得る。標準化された食事とともに、コントローラ24は、標準化された食事とともに消費される炭水化物の量(例えば、既知のインスリンと炭水化物との比率)に基づいて、所定のインスリンボーラスの送達を引き起こす。次に、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100を介して、食事およびインスリンボーラスに対する患者の応答の血糖パターンを分析することができる。特定の実施形態において、血糖パターンの分析は、グルコースtmax(例えば、炭水化物摂取およびインスリン投与からグルコースレベルの最大減少までの経過時間)、早期50%のtmax(例えば、炭水化物摂取およびインスリン投与から、グルコースレベルの最大減少に至る中間点までの経過時間)、後期50%のtmax(例えば、炭水化物の摂取およびインスリン投与から、グルコースレベルの最大減少の後にベースラインに戻る中間点までの経過時間)、および所定の期間にわたるグルコース曲線下面積(AUC)のうちの少なくとも1つを決定すること、ならびに値(複数可)をルックアップテーブルと比較することを含む。他の実施形態では、患者は、UI20を介して、一晩絶食した後、食事時間外にグルコースタブレット、キャンディーなどを摂取するのではなく、炭水化物含有量が正確に分かっている標準化された朝食を告知することができる。
【0173】
患者の血糖パターンを決定することに加えて、コントローラ24は、使用されているインスリンのタイプを決定し、それに応じてインスリン送達(例えば、基礎速度)を調整することができる。例えば、コントローラ24は、新しい注入部位が使用されていることを決定すると(例えば、ポンプカートリッジの変化を検出することによって、ポンププライミングコマンドを検出することによって)、患者の血糖パターンを分析して、使用されているインスリンのタイプ、または異なるインスリンが使用されていることを決定する。そのような決定は、インスリンボーラス投与後の現在のまたは予想される増分AUCを、セットの期間にわたる既知の増分AUCと比較することを含み得る。例えば、注入セットの0~1日目のインスリン送達後の第1の時間では、超高速インスリンの予想される増分グルコースAUCは、従来の速効型インスリンのそれよりも約20~45%低くなる。
【0174】
いくつかの実施形態では、監視された生理的グルコース濃度値がデータベース内の比較値と異なる場合、これは、患者が特定のインスリンを予想とは異なる方法で処理していることを示している可能性があり、注入部位の有効性の喪失を示している可能性がある。特定の実施形態では、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルは、リアルタイムまたはほぼリアルタイムで監視および識別される。
【0175】
特定の実施形態では、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルを決定すると、コントローラ24は、状態モデルを多かれ少なかれ頻繁に計算する。上述のように、コントローラ24は、所定の間隔(例えば、5または10分ごと)でCGM22からグルコースデータ(患者のグルコース濃度を含む)を受信する。作用の遅いインスリンでは、各事前定義された間隔で状態モデルを計算するメリットがほとんどないか、まったくない場合がある。しかしながら、速効型インスリンはより早く効果を発揮する(すなわち、血中グルコースの変化がより早く起こる)ので、速効型インスリンの使用を検出すると、コントローラ24は、グルコースデータを収集し、かつ/またはより頻繁に(例えば、10分ごとではなく5分ごとに)状態モデルを計算して、より厳密な血糖制御を維持することができる。逆に、作用の遅いインスリンは効果が遅くなるため、作用の遅いインスリンの使用を検出すると、コントローラ24は、グルコースデータを収集し、かつ/または状態モデルを計算する頻度が少なくなる(例えば、5分ごとではなく10分ごと)。
【0176】
特定の実施形態では、コントローラ24は、患者が使用しているインスリンのタイプに関係なく、患者の安静状態に基づいて、グルコースデータを収集し、かつ/または多かれ少なかれ頻繁に状態モデルを計算する(例えば、多かれ少なかれ頻繁にMMPCアルゴリズム100を実行する)。例えば、コントローラ24は、患者が覚醒している、眠っている、ほとんど眠っている、および/またはほとんど覚醒しているかどうかに応じて、グルコースデータを収集し、かつ/または多かれ少なかれ頻繁に状態モデルを計算し得る。患者が眠っている場合、例えば食事が消費されないため、および患者が運動していないため、患者のグルコースの変化は、よりゆっくりと発生する。したがって、特定の実施形態では、コントローラ24は、患者が眠っているときに、グルコースデータを収集し、かつ/または状態モデルをあまり頻繁に計算しないようにプログラムされている。例えば、コントローラ24は、患者が眠っている1日の所定の特定の時間(例えば、午後10時~午前6時)で、グルコースデータを収集し、かつ/またはより少ない頻度で状態モデルを計算するようにプログラムされ得る。例えば、午前6時~午後10時の時間の間、コントローラ24は、5分ごとに状態モデルを計算するが、午後10時~午前6時の時間の間、コントローラ24は、10分ごとに状態モデルを計算する。状態モデルを計算する頻度は低くなり、バッテリの電力を節約することができる。特定の実施形態では、計算間隔および/または収集間隔の変更をトリガーする特定の時間は、UI20を介して患者が修正することができる。特定の実施形態では、コントローラ24は、睡眠の開始、覚醒状態、および/または食事パターン(例えば、患者の典型的な食事パターンの決定)、グルコース変動の小休止、ウェアラブルからの加速度計データ、UI20へのユーザのアクセスなどの頻度に応じた患者特有の傾向を検出するように構成される。そのような検出時に、コントローラ24は、グルコースデータの収集および/または状態モデルの計算のタイミングを変更することができる。患者の安静状態に基づいて多かれ少なかれ頻繁に状態モデルを計算することに加えて、またはそれとは独立して、コントローラ24は、マイクロボーラスおよび/または基礎送達の間の期間を短縮することができる。例えば、コントローラ24は、所与の期間(例えば、5または10分ごとの1回のポンプストロークから15分ごとまで)により少ないポンプストロークを実行するように、ポンプ12にコマンドを発行することができる。ポンプストローク数を減らすと、消費電力を削減することができる。
【0177】
特定の実施形態では、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルを決定すると、コントローラ24は、決定された薬物動態プロファイルに対応するために、異なるセットのモデルパラメータで状態モデルを計算する。上記のように、状態モデルを計算するために、MMPCアルゴリズム100は、インスリン感受性(S)、インスリン時定数(k)、食事行動時定数(k)、センサ時定数(kSENSOR)、インスリンと炭水化物との比率(ICR)、UI20での入力値、コントローラ24によって読み取り可能なメモリに予めプログラムされた/記憶された値、および/またはこれらのオプションの組み合わせなどのモデルパラメータを使用する。これらのモデルパラメータの値のうちの1つ以上を変更して、更新されたセットのモデルパラメータ値を使用して状態モデルを計算することができる。以下の段落の下は、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルを決定すると、コントローラ24が異なるセットのモデルパラメータ値を用いて状態モデルを計算し得る方法の実施例である。これらの実施例はまた、異なるインスリンが患者によって使用されている、または使用されるという入力の受信(例えば、UI20などを介する)に応じて、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルをコントローラ24が決定する状況にも適用可能である。特定の実施形態では、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルを決定すると、所定の生理的グルコース濃度が(例えば、6mmol/L~5mmol/Lに)低下する。
【0178】
一実施例では、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100が食事告知に対処する方法に影響を与えるモデルパラメータ値を変更する。上述のように、食事が告知されると(例えば、UI20を介して)、生理的グルコース目標(PGTGT)は、0.9~1.4mmol/L上昇し、次に食事告知後の所定の期間(例えば、210分)の経過にわたって、線形減衰プロファイルを介して徐々にその開始点に戻る。速効型インスリンを使用すると、食事ボーラス投与の積極性を高めることができる。積極性の増加には、インスリンと炭水化物との比率(ICR)の増加、基礎速度の増加、食事告知後の所定の期間の減少(例えば、210分から80~120分まで)、上述のコスト関数の効果の大きさ(または重み付け)の10~30%の減少(例えば、食事の効果の減衰の増加)、生理的グルコースに対するインスリンの少なくとも部分的な効果を制御するスケーリング係数である、モデルパラメータSの10~20%の増加、および/またはコントローラ24のゲイン値(例えば、全体的なゲイン値)の増加を含む多くの形があり得る。
【0179】
別の実施例では、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100が、直接測定および/または収集されないことがある生理的インスリンレベルの推定における誤差に対処する方法に影響を与えるモデルパラメータの値を変更する。生理的インスリンレベルを推定する際の誤差は、状態モデルの共分散行列のインスリンコンパートメントを介してMMPCアルゴリズム100によって説明される。速効型インスリンを使用すると、生理的インスリンレベルの推定が、より正確になる傾向がある。したがって、インスリンコンパートメントは、例えば、デフォルトのインスリンコンパートメントと比較して、インスリンコンパートメントを10~30%減少させることによって調整され得る。
【0180】
別の実施例では、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100が「あかつき現象」と呼ばれることがあるものに対処する方法に影響を与えるモデルパラメータの値を変更する。あかつき現象は、多くの患者にとってやや予期せぬ形で発生し、患者の血中グルコースが早朝の時間に上昇する状況を含む。これはインスリン感受性を低下させ、補正が困難な高血糖症につながる可能性がある。作用の遅いまたは速効型インスリンでは、基礎速度を増加させ、あかつき現象の検出、またはあかつき現象が発生しようとしていることに応じて、目標グルコースレベルをより積極的に制御することができる。コントローラ24は、例えば、患者が覚醒する1~3時間前に患者のグルコース値の上昇傾向を含む血糖パターン(複数可)を分析および識別することによって、そのような検出を行うことができる。それに応じて、コントローラ24は、作用の遅いインスリンが使用されている場合、予測される開始に先立って、第1の所定の期間(例えば、1.5~2時間)で、または速効型インスリンが使用されている場合、第2のより短い所定の期間(例えば、1~1.5時間)で基礎速度を増加させることができる。特定の実施形態では、あかつき現象を検出すると、コントローラ24は、別の方法では、インスリン感受性(S)のより高い値のうちの1つ以上を利用するであろうモデルを計算しないことにより、より少ないモデルを計算する。特定の期間後(例えば、夜明け前の時間後)、コントローラ24は、インスリン感受性について格納された値のすべてを用いた計算モデルに戻ることができる。
【0181】
別の実施例では、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100が運動の告知に対処する方法に影響を与えるモデルパラメータの値を変更する。上述のように、運動が告知されると(例えば、UI20を介して)、生理的グルコース目標(PGTGT)は、3mmol/Lだけ上昇する。速効型インスリンは、グルコースレベルの変化に対するアルゴリズムのより迅速な応答を可能にするため、生理的グルコース目標(PGTGT)をわずか2mmol/Lだけ上げることができ、運動後の血中グルコースの回復がより速くなる。特定の実施形態では、前日中に運動が告知された場合、コントローラ24は、別のやり方では、インスリン感受性(S)のより低い値のうちの1つ以上を利用するモデルを計算しないことにより、夜明け前の時間中により少ないモデルを計算する。しかしながら、あかつき現象を検出すると、コントローラ24は、インスリン感受性について格納された値のすべてを用いた計算モデルに戻ることができる。
【0182】
別の実施例では、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100が基礎速度を含む基礎パターンを変更する方法および時期に影響を与えるモデルパラメータの値を変更する。例えば、基礎パターンは、あかつき現象(上述のような)、タンボレーン効果(上述)を含むサイト有効性の問題、または食後のグルコースパターンの変化、および/または1日の平均グルコースレベルに応じて変更され得る。基礎パターンが変化すると、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100が基礎パターンが変化する量および速度をどのように制限するかに影響を与えるモデルパラメータ値を変更することができる。例えば、MMPCアルゴリズム100は、基礎パターンの積極性および基礎パターンのあらゆる変化を制限して、患者に対する低血糖症のリスクを低減する、一連の安全性チェックを含み得る。いくつかの実施形態では、MMPCアルゴリズム100は、基礎速度が増加または減少され得る量に対する制限を含まない。例えば、注入セットの1~3日目について、MMPCアルゴリズム100は、基礎速度上限を削除し、3日目を超えて、基礎速度上限を増加させることができる。特定の実施形態では、制限に達したとき、患者に対する警告または警報が、UI20を介して開始される。特定の実施形態では、モデルパラメータ値をより積極的な基礎パターンに変更するか、または薬物動態プロファイルが変化している(例えば、注入部位の有効性が失われる)と決定すると、警告または警報が開始される。例えば、警告または警報は、システム10と関連付けられた注入セット18が変更されるべきであることを患者に合図することができる。いくつかの実施形態では、超高速インスリンを使用する患者は、0~1日目と比較して2~3日目の投与から15分以内に約58%多いインスリンが血流に輸送されると予想する可能性があり、一方で、Humalogなどの従来の速効型インスリンを使用している患者は、3日目と1日目との間でわずか約38%の差しかない。部位の有効性が2~3日目に変化すると、次に、コントローラ24は、基礎およびボーラスのタイミングとパターンを調整して、インスリン投与の最初の15分以内に予想される約58%の増加に対応することができる。加えて、単一の注入部位が維持されるため、高血糖時に大きなボーラスを送達すること、傾向のある低血糖時のインスリンの一時停止を遅らせること(以下で説明)、一時停止後のインスリン送達のより早い再開(以下で説明)などにより、患者が従来の速効型インスリンと比較して超高速インスリンを使用している場合、コントローラ24はより積極的になる可能性がある。
【0183】
実施形態では、単一の注入部位が維持されるため、コントローラ24は、患者が特定のインスリンを経時的に異なって処理することによる注入部位の有効性の喪失を検出する。例えば、コントローラ24は、基礎またはマイクロボーラスクラスタリング、大きさ、および/または総日投与量の傾向を監視し、より多くの基礎インスリンを送達することにより、有効性の喪失に対応する。有効性の喪失に対応することで、患者は通常の2~3日よりも長い時間(例えば、24時間余分)の注入セットを使用できるようになる。しかしながら、いくつかの実施形態では、コントローラ24は、0~1日目からのそれと比較して、基礎送達または総日投与量の増加を制限し、制限に達すると、UI20を介してコントローラ24は、変更する必要がある注入セットを患者に示すことができる。
【0184】
別の実施例では、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100によって使用されるモデルパラメータ値の数を制限することによって、MMPCアルゴリズム100によって計算される状態モデルの数を制限する。例えば、速効型インスリンが患者によって使用されている場合、MMPCアルゴリズム100は、長いインスリン作用時間(例えば、インスリン時定数(k))および食事作用時間(例えば、食事作用時定数(k))と関連付けられたモデルパラメータを含むモデルを計算する必要がない場合がある。速効型インスリンでは、長い作用時間は、患者の代謝の妥当な概算ではない可能性があり、したがって、MMPCアルゴリズム100による最適なインスリン投与量の決定に役立つ可能性は低い。コントローラ24によって計算されるモデルの数を減らすことは、バッテリ電力および/またはシステム10が使用するメモリの量を減らすことができる。特定の実施形態において、コントローラ24は、例えば、57~78分から47~68分までの範囲を減少させることによって、τisubのインスリン作用時間の範囲を減少させるために、モデルパラメータ値を変更し、さらに血糖制御を改善する。
【0185】
別の実施例では、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100が食事時間ボーラスに対処する方法に影響を与えるモデルパラメータの値を変更する。上述のように、開ループシステムと閉ドループシステムの両方で使用される食事時間ボーラスカルキュレータは、ボーラスの計算に使用されるインスリンオンボード(IOB)パラメータおよび/またはインスリンと炭水化物との比率(ICR)を減衰させることにより、食事の補正を支援するように調整され得る。例えば、単一の注入部位の使用の3日目に使用されるIOBおよび/またはICRは、0日目に使用されるIOBおよび/またはICRと比較して減衰され得る。このような適応ボーラスカルキュレータは、インスリン薬物動態の変化が検出されると、経時的に積極性を高める適応基礎パターンと組み合わせて使用され得る。
【0186】
別の実施例では、コントローラ24は、MMPCアルゴリズム100がインスリン送達を一時停止する方法に影響を与えるモデルパラメータの値を変更する。MMPCアルゴリズム100は、生理的グルコース濃度ならびに/または生理的グルコース濃度の変化の速度および変化の方向に基づいて、インスリン送達を一時停止するようにプログラムされ得る。特定の状況では、インスリン送達を一時停止すると、低血糖症のリスクが低下する。インスリン送達を一時停止するためのガイドライン(例えば、ルールセット)は、特定の条件によって異なる場合がある。例えば、MMPCアルゴリズム100によって推定された所与の範囲の生理的グルコース濃度値について、推定された生理的グルコース濃度の変化が関連付けられた閾値を超える場合、インスリン送達を一時停止するように、MMPCアルゴリズム100をプログラムすることができる。MMPCアルゴリズム100は、異なる条件について1セットのガイドラインに従うことができる。例えば、MMPCアルゴリズム100は、食事または運動が告知されていない場合、1セットのガイドライン(例えば、生理的グルコース濃度値の範囲および関連付けられた閾値を各々含むルールセット)、食事または運動が告知された場合の状況に関する別の組のガイドライン、および食事または運動が告知されたかどうかに関係なく適用される全体的な組のガイドラインに従うことができる。特定の実施形態では、異なるおよび/または変化する薬物動態プロファイルを決定すると、コントローラ24は、インスリン送達を一時停止および/または再開するかどうかを決定するときに、ガイドラインの様々なセットの各々内でより少ないルールセットを利用する。例えば、ガイドラインのセットに5つのルールセット(例えば、生理的グルコース濃度値ならびに一時停止および/または再開の関連付けられた閾値の5つの範囲)が含まれている場合、コントローラ24は、5つのルールセットのうち3つだけを利用して、インスリン送達を一時停止および/または再開するかどうかを決定することができる。利用されていないルールセットは、より保守的なルールセット(例えば、一時停止および/または再開についての生理的グルコース濃度値ならびに関連付けられた閾値の範囲が比較的高いルールセット)である可能性がある。
【0187】
基礎インスリン送達が一時停止または減衰した後、システム10は、ガイドラインの基準が適用されなくなるか、または最大期間(例えば、2時間)のいずれか早い方の後で、通常の基礎インスリン送達を再開する。特定の実施形態では、基礎インスリン送達が2時間以上一時停止される場合、システム10は、自動的に開ループモードに戻り、患者は、システム10を再初期化して、閉ループ治療を再開しなければならない。持続的なインスリン一時停止のリスクは、肝グルコース産生の調節の喪失と関連付けられた高血糖であり、これは、基礎インスリン送達が再開されるとタイムリーな方法で補正することが困難であり得、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)につながる可能性がある。速効型インスリンを使用すると、生理的グルコース濃度の補正が、より迅速に行われ、高血糖症およびDKAのリスクが軽減される。さらに、速効型インスリンでは、基礎インスリン送達の一時停止および再開のガイドラインを調整して、一時停止を遅らせて、より迅速に再開できるため、より厳密な血糖制御および低血糖または高血糖のリスクの低減を実現することができる。例えば、告知された食事または運動がない場合、生理的グルコース濃度レベルの閾値が低下し得、かつ/または懸濁液を誘発するのに必要な変化率が増加し得る。これにより、一時停止が遅延し、ガイドラインの基準が満たされなくなると、より早い再開が誘発される。別の実施例では、食事または運動の告知により、生理的グルコース濃度の閾値レベルが低下し得、かつ/または懸濁液を誘発するのに必要な変化率が増加し得、および/または再開を誘発するのに必要な変化率が低下し得る。これにより、これらの基準が満たされなくなると、一時停止が遅延され、より早い再開が誘発される。別の実施例では、任意の条件下で、一時停止する生理的グルコース濃度の閾値がわずかに低くなることがある。別の実施例では、懸濁液に許容される最大時間を短縮することができ(例えば、90分)、結果として、他の点では、インスリン送達によって阻害される肝グルコース産生の増加によって引き起こされる、懸濁液後のリバウンド高血糖のリスクが減少する。
【0188】
特定の実施形態では、コントローラ24は、ボーラス推奨を計算して、UI20を介して患者に提供する。ボーラス推奨は、食事中の炭水化物、脂肪、および/またはタンパク質の量、ならびに/または注入セットの摩耗時間などの要因に依存する可能性がある。ボーラス推奨は、第1のボーラスウェーブで、食事の告知直後のボーラス推奨が予測されるボーラス必要量の一部である、マルチウェーブパターンである場合がある。例えば、0~1日の間、大量のまたは複雑な食事に応じて推奨されるマルチウェーブボーラスは、食事の告知直後にボーラスの50%超(例えば、60~80%)の第1のウェーブ、および食事の告知後の一定期間(例えば、3時間)にわたって送達されるボーラスの残りの部分を含み得る。2日目以降、推奨されるマルチウェーブボーラスは、ボーラスの約50%の第1のウェーブに分割され、残りの約50%のボーラスは、食事の告知後の期間にわたって送達される。特定の実施形態では、マルチウェーブボーラスの少なくとも一部は、方形波に似ている。特定の実施形態では、第2のボーラスウェーブの前に、コントローラ24は、UI20を介して、更新された食事告知を受信して、第2のボーラスウェーブで与えられるボーラスの量を変更することができる。これにより、患者が最初に予測された量よりも消費が多いかまたは少ない場合に食事の告知を更新することができるため、低血糖症につながる可能性のある過剰予測および過剰摂取のリスクが軽減される。速効型インスリンでは、食事告知のタイミング(したがって食事時のボーラス)は、作用の遅いインスリンの場合ほど重要ではない。そのため、ボーラス推奨は、食事の開始前10分から食事の開始後10分までのどの時点においても患者に提供され得る。作用が遅いインスリンの場合、タンボレーン効果が検出された、または開始が予測されると、ボーラス推奨のタイミングは、速効型インスリンのボーラス推奨と同様になり得る。
【0189】
本開示から逸脱することなく、当業者によって様々な代替および修正が考案され得る。特に、本開示はモデルベースのコントローラを使用して、最終的に適切な量のインスリンを決定して患者に送達するが、本開示の特徴は、他のタイプの制御アルゴリズム(例えば、比例積分微分(PID)制御アルゴリズム、ファジー論理制御アルゴリズムなど)に適用することができる。図11は、様々な制御アルゴリズムを使用して、システム10によって実行され得るステップを有する例示的な方法1500を示している。方法1500は、第1のセットの調整可能なパラメータを使用して制御アルゴリズムを実行し、第1の薬剤投与量を決定することを含む(ステップ1502)。血糖パターンおよび/または薬剤のタイプの変化を決定すると(ステップ1504)、方法1500は、第2のセットの調整可能なパラメータを使用して制御アルゴリズムを実行し、第2の薬剤投与量を決定することを含む(ステップ1506)。モデルベースの制御アルゴリズムと同様に、PID制御アルゴリズムは、調整可能なパラメータを使用して、インスリン送達量を計算し得る。一実施例としてPID制御アルゴリズムを使用すると、調整可能なパラメータには、オンボードインスリン(例えば、PIDの比例)、測定されたグルコースレベルと目標のグルコースレベルの差(例えば、PIDの積分)、およびグルコースの変化率(例えば、PIDの微分)が含まれ得る。これらの調整可能なパラメータは、血糖パターンおよび/または薬剤のタイプの変化を決定することに応じて変更され得る。例えば、オンボードインスリンは、そのような変更の検出に応じて増加または減少され得る。したがって、検出された変更の後、PID制御アルゴリズムは、オンボードインスリンの増加または減少を使用して、最終的にインスリン送達量を計算する。
【0190】
したがって、本開示は、そのようなすべての代替、修正、および変更を包含することを意図している。さらに、本開示のいくつかの実施形態が図面に示され、および/または本明細書で説明されているが、本開示は、本開示が当技術分野が許容する範囲内で広範であり、かつ本明細書も同様に読まれることが意図されているので、それらに限定されることを意図していない。したがって、上記の説明は、限定するものとして解釈されるべきではなく、特定の実施形態の単なる例示として解釈されるべきである。
【0191】
さらに、説明または特許請求の範囲で使用される「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、類似の要素を区別するために提供され、必ずしも順序または時系列を説明するためのものではない。そのように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり(特に明確に開示されていない限り)、本明細書に記載の開示の実施形態は、本明細書に記載または図示されているもの以外の他のシーケンスおよび/または配置で動作可能であることを理解されたい。
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