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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】クラッチを制御するシステム
(51)【国際特許分類】
   F16D 27/118 20060101AFI20240319BHJP
   F16D 48/06 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
F16D27/118
F16D48/06 101B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022570802
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2020047844
(87)【国際公開番号】W WO2022137321
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】矢口 裕
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-190720(JP,A)
【文献】特開2018-96382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 27/118
F16D 48/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチを制御するシステムであって、
前記クラッチと駆動的に結合し、前記クラッチを脱連結する第1の位置と前記クラッチを連結する第2の位置との間で軸方向に可動なスラスト部材と、
電力の投入に応じて磁束を生じるソレノイドと、
前記磁束を受容するべく配置され、前記スラスト部材と駆動的に結合した可動子であって、前記磁束により運動を生じて前記第1の位置と前記第2の位置との間で前記スラスト部材を駆動する可動子と、
前記電力に交流電力を重畳して前記ソレノイドに印加する電気回路と、
前記電気回路に電気的に接続されたコントローラであって、前記重畳した交流電力において電圧に対する電流の位相差を検出し、前記検出された位相差を参照値と比較することにより、前記スラスト部材が前記第1の位置か前記第2の位置かを判定するコントローラと、
を備えたシステム。
【請求項2】
前記電気回路は、前記電圧および前記電流をそれぞれパルスに変換するコンパレータと、前記パルスの間の時間差に応じた電位を生ずる検出器と、を備える、請求項1のシステム。
【請求項3】
前記コントローラは、前記検出器が生ずる前記電位を利用して前記位相差を前記参照値と比較し、以って前記スラスト部材が前記第1の位置か前記第2の位置かを判定する、請求項2のシステム。
【請求項4】
回転運動を軸方向の直線運動に変換する変換機構であって、前記直線運動を前記クラッチ部材へ伝達するべく前記可動子と前記スラスト部材との間に介在した変換機構をさらに備え、
前記可動子は、前記クラッチと軸を共有するように配置されて前記変換機構と結合し、前記磁束により前記軸の周りに前記回転運動をする、請求項1のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、クラッチの連結および脱連結を制御するシステムに関し、特に特別なメカニズムを必要とせずにクラッチの連結および脱連結を判定することができるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両に使用される回転機械は、その機能を選択的に稼動および休止するために、しばしばクラッチを利用する。例えば所謂ロックアップデファレンシャルはドッグクラッチを内蔵し、通常時にはドッグクラッチは脱連結しており出力軸間の差動を許容し、外部のアクチュエータによりドッグクラッチを連結させると差動をロックする。
【0003】
回転機械に内蔵されたクラッチを外部から操作するべく、油圧シリンダ、モータを利用したカム機構、あるいはソレノイドアクチュエータ等のアクチュエータが利用されている。特にソレノイドアクチュエータでは、回転機械と同軸にでき、コンパクトであって全体を一体的に取り扱えるものが工夫されている。
【0004】
アクチュエータを作動させても、たまたまクラッチ歯同士が噛み合いに適当でない位置関係にある等の稀な条件において、クラッチが連結し損なうことがありうる。またアクチュエータを逆転させても、潤滑油の粘性や磁化などによりクラッチ歯同士が一時的に固着して脱連結が滞ることがありうる。すなわちアクチュエータのスイッチを入り切りすることとクラッチの連結/脱連結とは、対応するとは限らない。回転機械が不測の動作を起こすことを防止するべく、クラッチが連結しているか否かを検出する装置がしばしば追加的に必要である。
【0005】
特許文献1から3は、関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際特許出願公開WO2018/109874A1
【文献】日本国特許出願公開2004-208460号
【文献】国際特許出願公開WO2018/118912A1
【発明の概要】
【0007】
特許文献1の各図から理解できるように、検出装置はキャリア側にプルスイッチのごとき構造的要素の付加を必要とする。そのこと自体がコストアップ要因であるし、またキャリア側の要素はデファレンシャル本体とは独立した取り付けを必要とするので、車両の組立作業を面倒なものにしてしまう。特許文献2,3が開示する技術によれば、ソレノイドにパルス電流を印加してその応答を検出することにより、アクチュエータの状態を電気的に検出している。これらは構造的要素の付加を必要としないが、かかるパルス電流はそれ自体が駆動力を生じるので、それに応じてアクチュエータは機械的にまたは音響的にノイズを生じ、甚だしい場合にはその動作が不安定になりかねない。
【0008】
以下に開示する装置は、上述の問題に鑑みて工夫されたものである。
【0009】
クラッチを制御するシステムは、前記クラッチと駆動的に結合し、前記クラッチを脱連結する第1の位置と前記クラッチを連結する第2の位置との間で軸方向に可動なスラスト部材と、電力の投入に応じて磁束を生じるソレノイドと、前記磁束を受容するべく配置され、前記スラスト部材と駆動的に結合した可動子であって、前記磁束により運動を生じて前記第1の位置と前記第2の位置との間で前記スラスト部材を駆動する可動子と、前記電力に交流電力を重畳して前記ソレノイドに印加する電気回路と、前記電気回路に電気的に接続されたコントローラであって、前記重畳した交流電力において電圧に対する電流の位相差を検出し、前記検出された位相差を参照値と比較することにより、前記スラスト部材が前記第1の位置か前記第2の位置かを判定するコントローラと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、クラッチを制御するシステムを含む車両のブロックダイヤグラムである。
図2図2は、一例に基づくシステムとロックアップデファレンシャルとの組み合わせの部分分解斜視図である。
図3図3は、システムとロックアップデファレンシャルとの組み合わせの断面立面図であって図2のIII-III線から取られたものである。
図4図4は、システムとフリーランニングデファレンシャルとの組み合わせの断面立面図である。
図5図5は、他の例に基づくシステムとロックアップデファレンシャルとの組み合わせの断面立面図であって、図3に対応するものである。
図6図6は、電圧に対する電流の位相差を説明する模式的な波形図であって、可動子の位置が位相差に及ぼす影響を示す図である。
図7図7は、一例に基づきコントローラがスラスト部材の位置を判定するプロセスを説明するフローチャートである。
図8図8は、一例に基づく位相差を電位に変換する電気回路のブロックダイヤグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。以下の説明および添付の請求の範囲において、特段の説明がなければ軸はアクチュエータの中心軸を意味し、通常には回転体および回転体に連結するシャフトの回転軸とも一致する。図面は必ずしも正確な縮尺により示されておらず、従って相互の寸法関係は図示されたものに限られないことに特に注意を要する。
【0012】
以下に開示するシステムは、概して、可動子が移動することによるソレノイドのインダクタンス変化を利用して可動子に結合したスラスト部材の位置を検出し、ひいてはクラッチが連結しているか脱連結しているかを判定する。かかるシステムは、車両を駆動する何れかの回転機械と組み合わせて使用するクラッチを制御する目的で利用することができ、特に、回転機械の外部からクラッチを連結および脱連結してその機能を制御する目的で利用することができる。クラッチが連結したときには、車両を駆動するトルクがクラッチを介して伝達され、脱連結したときには切断される。
【0013】
図1を参照するに、車両はエンジン又はモータ31を備え、エンジン又はモータ31が発生したトルクは、トランスミッション33、トランスファ35、およびプロペラシャフト37を介してデファレンシャル3に伝えられ、後車軸43へ分配される(FR車の場合)。あるいはトランスファ35は前車軸41へもトルクを分配する場合(4WD車)があるし、トランスミッション33からフロントデファレンシャルを介して前車軸41へのみトルクが分配される場合(FF車)があり、その何れにも後述のシステムを適用することができる。デファレンシャル3は、その動作を制御するためにしばしばドッグクラッチ10を内蔵し、これは外部から適宜のアクチュエータ1により駆動される。
【0014】
以下に開示するシステムは、種々の回転機械に適用しうるが、その一例はトルクを左右の車軸に差動的に分配するデファレンシャル3である。例えば図2,3,5は所謂ロックアップデファレンシャルと組み合わせた例であり、図4は所謂フリーランニングデファレンシャルと組み合わせた例である。
【0015】
図2に組み合わせて主に図3を参照するに、デファレンシャル3は、軸Xの周りの回転Tをすることが可能な、クラッチ10を内部に備えた回転体である。デファレンシャル3は、そのケース27に結合したデファレンシャルギア組21を備え、デファレンシャルギア組21はサイドギア23,25を備え、これらはそれぞれ後車軸43に結合する。すなわちデファレンシャルギア組21は、ケース27が受容したトルクをサイドギア23,25へ、差動を許容しながら分配する媒介となる。図3はベベルギア式のものを例示するが、もちろんフェイスギア式や遊星ギア式など他の形式を利用してもよい。
【0016】
かかる例ではケース27からトルクを伝達しうるクラッチ部材11は軸方向に可動であり、サイドギア23は例えばクラッチ歯を備えてクラッチ部材11と連結可能であり、クラッチ部材11とクラッチ歯との組み合わせはクラッチ10を構成する。アクチュエータ1がクラッチ部材11を駆動してクラッチ10が連結したときには、サイドギア23はケース27と一時的に一体となってトルクを伝達する。このとき他方のサイドギア25はサイドギア23に対して差動ができなくなるので、デファレンシャル3は差動作用を失った所謂デフロックの状態となる。アクチュエータ1がクラッチ10を脱連結させたときには、デファレンシャル3はケース27が受容したトルクを両車軸43へ差動的に分配する。
【0017】
あるいは図4を参照するに、デファレンシャル3のケースはトルクを受容するアウタケース27と、これに同軸であって相対的に回転可能なインナケース29とに分かれている。この例ではデファレンシャルギア組21はインナケース29に結合しており、インナケース29の例えば一端がドッグ歯を備えてクラッチ10を構成する。アクチュエータ1がクラッチ10を連結したときには、トルクはアウタケース27からインナケース29へ伝達され、さらにデファレンシャルギア組21を介して両車軸へ差動的に分配される。アクチュエータ1がクラッチ10を脱連結させたときには、デファレンシャルギア組21はアウタケース27からトルクを受けず、両車軸43は動力系から自由になる。
【0018】
図2乃至4に示した例に共通して、アクチュエータ1は、可動子13に軸X周りの回転運動Rを引き起こす中空軸モータ5と、回転運動Rを軸方向の直線運動に変換する変換機構7と、を備える。変換機構7はカム面9cを備えたスラスト部材9を備え、回転運動Rを軸Xに沿う方向のスラスト部材9の直線運動として出力する。スラスト部材9はクラッチ部材11に当接または結合しており、少なくとも最も後退した位置においてクラッチ10を脱連結させ、少なくとも最も前進した位置においてクラッチ10を連結させる。
【0019】
あるいは図5に示した例のごとく、アクチュエータ1は可動子13に直接に直線運動を引き起こすように構成されていてもよい。例えばコア17がソレノイド15を囲み、ただし可動子13に向いた側においてコア17がギャップを保持していれば、磁束はかかるギャップを迂回して可動子13に流れ、可動子13を軸方向に駆動する。もちろん可動子13を直線的に駆動する限り、他の適宜の構造を採用することができる。この場合にスラスト部材9は可動子13に直接に結合し、あるいは一体化されていてもよいが、スラスト部材9と可動子13との間に何らかの機構が介在していてもよい。上述と同様に、スラスト部材9の前進/後退に対応してクラッチ10が連結/脱連結する。
【0020】
上述の各例では、システムは後車軸43にトルクを分配するデファレンシャルと組み合わされて使用されるが、もちろん前車軸41にトルクを分配するデファレンシャルと組み合わせることができる。あるいはデファレンシャルに限らず、既に述べた通り、ドッグクラッチを包含する広範な回転機械にシステムを組み合わせることができ、その例はトランスミッション33、トランスファ35、あるいはカップリング装置等である。またクラッチは例えばドッグ歯を備えた所謂ドッグクラッチだが、クロークラッチ等の他の形式、より一般的には、摩擦ではなく互いに噛合する構造によりトルクを伝達する形式のクラッチは、概して利用可能だろう。
【0021】
何れの例においても、可動子13の位置とクラッチ10の連結/脱連結とが対応するように、アクチュエータ1は構成されている。アクチュエータ1は、概して、電力の投入に応じて磁束を生じるソレノイド15と、磁束を導くコアないしステータ17と、磁束により回転運動ないし直線運動を生じる可動子13とを備える。可動子13は、磁束を受容するように配置され、またスラスト部材9と駆動的に結合してこれを駆動する。図2ないし5に示した例ではソレノイド15はコアないしステータ17と共に概して不動であり可動子13のみが可動だが、コアないしステータ17のみが不動であってソレノイド15は可動子13と共に可動であってもよい。
【0022】
図1に戻って参照するに、ソレノイド15はケーブル19を介して外部の電気回路51に電気的に接続される。あるいは電気回路51は、部分的にまたは全体的に、アクチュエータ1に内蔵されていてもよい。車両は、通常、その各部を電子的に制御するべく複数のプログラマブルな電子制御装置(ECU)を備える。各ECUはコマンドおよびデータを格納する記憶装置と、記憶装置からこれらを読みだしてコマンドを実行できるマイクロコントローラとを備える。複数のECUは、例えば所謂コントロールドエリアネットワーク(CAN)を介した通信により互いに情報を通信ないし共有する。
【0023】
その一のECU55が電気回路51に電気的に接続されてその機能を制御する。電気回路51はさらに電源53に接続され、ECU55による制御の下、ソレノイド15に電力を投入し、また切断する。ソレノイド15に投入される電力は、アクチュエータ1の駆動原理に応じて直流、交流、脈流、パルスでありうる。
【0024】
電気回路51は発振器を備え、特定の周波数の交流電力を生成し、これをアクチュエータ1を駆動するための電力に重畳する。可動子13の挙動に影響を及ぼさないよう、重畳する電力は、駆動のための電力に比べて十分に小さくすることができる。また周波数は、可動子13の挙動に影響を与えないよう、また駆動のための電力から分離する都合を考慮して、適宜に選択することができる。
【0025】
図6を参照するに、ソレノイド15は固有のインダクタンスを有するために、重畳された交流電力において、電圧Vに対して電流Iには位相差Δθrefを生ずる。コアないしステータ17に対して可動子13が第1の位置から第2の位置へ移動すると、位置の変化に応じてソレノイド15のインダクタンスも変化し、結果として電圧Vに対する電流Iの位相差Δθも変化する。一方、適宜のバンドパスフィルタ(あるいは場合によりハイパスフィルタないしローパスフィルタ)を利用すれば、重畳される交流電力は駆動のための電力から容易に分離することができるので、そこからさらに位相差Δθを検出することも容易である。かかる位相差Δθの変化を検出することにより可動子13の位置を判定することができる。例えば可動子13が第1の位置にあるときにクラッチ10が脱連結し、第2の位置にあるときにクラッチ10が連結する場合に、位相差Δθの変化から可動子13が何れの位置にあるかを判定することにより、クラッチ10が脱連結しているか連結しているかを判定することができる。
【0026】
本実施形態においては、可動子13の移動のみによってインダクタンスが変化するが、これに代えて、または加えて、他の部材の移動がインダクタンスを変化させてもよい。例えば可動子13に連動する一の磁性部材が、他の磁性部材に接する、あるいは離れることによりインダクタンスの変化が起こり得る。また本実施形態においては、判定にソレノイド15のインダクタンスの変化を利用するが、これに代えて、ソレノイド15からは独立した電磁コイルを利用してもよい。スラスト部材9、クラッチ部材11、あるいはこれらに結合した何れかの可動部材の移動に応じて当該電磁コイルのインダクタンスが変化する限り、判定に利用することができる。またインダクタンスの変化に代えて、キャパシタンスの変化を利用してもよい。
【0027】
例えばECU55は、図7に例示したフローチャートのごときアルゴリズムに従って、クラッチ10が脱連結しているか連結しているかを判定する。
【0028】
ECU55は、判定のための適宜の参照値をセットする(ステップS1)。次いでECU55は、電圧および電流の位相をそれぞれ検出し、位相差を算出する(ステップS3)。ECU55はさらに、位相差と参照値との差を算出し(ステップS5)、算出された差が0未満か0以上かを判定する(ステップS7)。例えば差が0未満の場合(すなわち位相差が参照値よりも小さい場合)にはクラッチは脱連結していると判定し(ステップS9)、0以上の場合(すなわち位相差が参照値よりも大となった場合)にはクラッチは連結していると判定する(ステップS11)。あるいはコアないしステータ17と可動子13との関係によっては、0未満の場合に連結しており、0以上の場合に脱連結していると判定すべき場合もありうる。
【0029】
ECU55は、例えば他のECUからの要求に基づき、検出を継続すべき状態か否かを判断する(ステップS13)。継続すべき状態の場合には、ECU55は位相を検出する段階に戻る(ステップS3)。あるいは、アクチュエータ1の温度等の変化に応じてインダクタンスも変化しうるので、参照値をセットし直してもよい(ステップS1)。参照値の時間変化は、メモリに予め記憶しておいてもよく、あるいは温度等のパラメータに対する補償値の表の形式でメモリ等に予め記憶しておき、その都度最適な参照値を算出してこれをセットしてもよい。いずれにせよ、これらのサイクルを繰り返すことにより、クラッチ10が連結しているか脱連結しているかを継続的に判定し続けることができる。
【0030】
上述の判定は、上述のアルゴリズムに従うプログラムにより動作するECUによることができるが、あるいは部分的に又は全体的に上述のアルゴリズムと均等な動作を行うように設計された特定用途の集積回路によってもよい。その場合に、ECU55は、かかる集積回路とCAN通信あるいは専用バスを介して通信し、算出値および/または判定結果を受信するように構成されていてもよい。
【0031】
位相差と参照値との比較は、例えば図8のブロックダイヤグラムで表される回路を利用して実行することができる。この図において、ソレノイドに印加される電力における電流を電位Voutに変換し、ソレノイドに印加される入力電圧Vinとの間で位相を比較する例が示されている。もちろんこれとは逆に、入力電圧を電流に変換して電流間で位相を比較してもよい。電位Voutと電圧Vinとは、それぞれバンドパスフィルタ(あるいは既に述べた通り、ハイパスフィルタないしローパスフィルタ)63V,63Aに通された後、それぞれコンパレータ65V,65Aにより0Vと比較することにより、パルス化される。図6中の破線を参照して理解される通り、パルス間の時間差Δtは位相差Δθと等価である。
【0032】
図8に戻って参照するに、コンパレータ65V,65Aにより取り出されたパルスは排他的論理和(XOR)ゲート67に入力される。その出力はパルス間の排他的論理和であるから、位相差に比例したデューティ比を有しており、デューティ比検出器69に入力すれば結果として位相差に比例した電位が出力される。かかる電位を直接に読み取って数値化してECU55へ出力することができる。あるいは出力電位をさらにコンパレータ71に入力して参照電位Vthと比較し、その出力をECU55へ出力してもよい。参照値に対応した参照電位Vthを入力すれば、コンパレータ71の出力は、図7のステップS7における判断値(YES:1,NO:0)として利用できる。
【0033】
上述の説明は一例に過ぎず、2つの信号入力間の位相差を表す電圧信号を生成する何れの位相検出器ないし位相比較器も利用することができる。
【0034】
上述の何れの実施形態によっても、クラッチを駆動する電力に僅かな交流電力を重畳するだけで、追加的な構造を必要とせずにクラッチの状態を外部から判定することができる。重畳する電力は駆動電力に比べて小さくすることができるし、これは交流であって平均すれば駆動力を生じないし、またかかる交流にはスラスト部材が追従できない程度の高い周波数を採用できるので、重畳する電力がスラスト部材を動かしてクラッチの動作に影響を与えてしまうことはない。また省電力であるためにエネルギ効率の悪化や関係部品の過熱を招くこともない。判定は電力供給がある限り継続的に行うことができ、クラッチの動作確認のみならず誤動作や故障の発見にも役立てることができる。もちろん判定をそれが必要な時に限定することができ、以ってさらなるエネルギ効率の向上を図ってもよい。
【0035】
幾つかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8