(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】AI制御方式の遠心分離装置
(51)【国際特許分類】
C02F 11/127 20190101AFI20240319BHJP
B04B 1/20 20060101ALI20240319BHJP
B04B 13/00 20060101ALI20240319BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240319BHJP
【FI】
C02F11/127
B04B1/20 ZAB
B04B13/00
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2023023889
(22)【出願日】2023-02-19
(62)【分割の表示】P 2021141384の分割
【原出願日】2017-01-11
【審査請求日】2023-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591162022
【氏名又は名称】巴工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129539
【氏名又は名称】高木 康志
(72)【発明者】
【氏名】岸上 隆行
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-008500(JP,A)
【文献】特開平11-226591(JP,A)
【文献】特開平04-171066(JP,A)
【文献】特開平01-099620(JP,A)
【文献】特開2006-281159(JP,A)
【文献】特開平08-052458(JP,A)
【文献】特開平10-118627(JP,A)
【文献】米国特許第05857955(US,A)
【文献】中国特許出願公開第101497487(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-11/20
B04B 1/00-15/12
G06N 20/00-20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥を含む下水由来の処理液を脱水ケーキと分離液に分離する遠心分離装置において、
前記遠心分離装置が設置されている下水処理施設の操業情報の中から複数種類の情報を選択収集する情報収集手段と、運転条件に従って前記遠心分離装置が動作するように制御する動作制御手段と、を備え、
前記運転条件は、前記遠心分離装置を実際に運転したときの脱水ケーキ及び/又は分離液の性状、前記遠心分離装置の付帯設備の負荷状況の中から選択収集した所定の情報を含む前記操業情報に基づいて所望の含水量の脱水ケーキが得られるようにコンピュータシステムが
AI(人工知能機能)によって生成した運転条件であって、該運転条件は遠心力,トルク,差速,薬液注入量の2種以上の各設定値を含むことを特徴とするAI制御方式の遠心分離装置。
【請求項2】
汚泥を含む下水由来の処理液を脱水ケーキと分離液に分離する遠心分離装置において、
前記遠心分離装置が設置されている下水処理施設の操業情報の中から複数種類の情報を選択収集する情報収集手段と、運転条件に従って前記遠心分離装置が動作するように制御する動作制御手段と、を備え、
前記運転条件は、前記遠心分離装置を実際に運転したときの脱水ケーキ及び/又は分離液の性状、前記遠心分離装置の付帯設備の負荷状況の中から選択収集した所定の情報を含む前記操業情報に基づいて所望の含水量の脱水ケーキが得られるようにコンピュータシステムがAI(人工知能機能)によって生成したものであって且つ運転を繰り返すことでその完成度を高めた運転条件であり、該運転条件は遠心力,トルク,差速,薬液注入量の2種以上の各設定値を含むことを特徴とするAI制御方式の遠心分離装置。
【請求項3】
汚泥を含む下水由来の処理液を脱水ケーキと分離液に分離する遠心分離装置において、
前記遠心分離装置が設置されている下水処理施設の操業情報と前記遠心分離装置が処理することとなる下水回収対象エリアの環境情報の中から
複数種類の情報を選択収集する情報収集手段と、運転条件に従って前記遠心分離装置が動作するように制御する動作制御手段と、を備え、
前記運転条件は、前記遠心分離装置を実際に運転したときの脱水ケーキ及び/又は分離液の性状、前記遠心分離装置の付帯設備の負荷状況の中から選択収集した所定の情報を含む前記操業情報
と前記環境情報に基づいて所望の含水量の脱水ケーキが得られるようにコンピュータシステムが設定した運転条件
であって、該運転条件は遠心力,トルク,差速,薬液注入量の2種以上の各設定値を含むことを特徴とするAI制御方式の遠心分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥を含む下水由来の処理液を脱水ケーキと分離液に分離する遠心分離装置に関し、特に、人工知能(Artificial Intelligence; AI)方式の制御機能を付与して遠心分離装置の全自動化運転を実現するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理施設内に設置され、汚泥を含む下水由来の処理液を脱水ケーキと分離液に固液分離する装置として、デカンタと称される遠心分離装置が知られている。
図4は、デカンタの基本構造を、概略的に示している。横型のデカンタ1は、水平軸廻りに回転するボウル11とスクリューコンベア12を備えている。なお、図示は省略するが、ボウル11とスクリューコンベア12が鉛直軸廻りに回転する竪型のデカンタも知られている。
【0003】
ボウル11は、一端側又は両端が円錐形状に形成された円筒形状体で構成されている。スクリューコンベア12は、ボウル11内で分離された固形相を搬送するためのスクリュー羽根12aを備えた回転式の搬送手段である。スクリューコンベア12は、回転中心軸線に沿って空洞になっており、遠心分離される処理液の供給ノズル13が、スクリューコンベア12と接触しないように僅かなクリアランスをもって挿入されている。供給ノズル13の先端から吐出される処理液は、スクリューコンベア12内の処理液室に供給され、遠心力の作用によって外周面に形成されている供給孔14から吐出されて、ボウル11内に供給される。
【0004】
このような構成において、下水処理施設内の沈殿槽等で処理が施された下水由来の処理液を連続的にボウル11内に供給すると共に、ボウル11を所定の回転数で回転させると、遠心力の作用によりボウル11内にて処理液が固形相と液相とに分離される。固形相は、スクリューコンベア12によってボウル11の一端側に向けて搬送され、円錐形状となっている部分で液相から離脱し、固形相出口15を介して脱水ケーキとして排出される。一方、液相(分離液)は、反対側の液相出口16から溢流して排出される。
【0005】
上述のデカンタ1で所望の含水率にした脱水ケーキを得る制御方法としては、スクリューコンベア12のトルク値を制御指標として用い、所定のトルク値となるように差速を可変制御する方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。すなわち、ボウル11内の固形相を固形相出口15に向けて搬送するスクリューコンベア12の負荷が、固形相の含水率によって変わることに着目した制御方法である。デカンタ1から排出される脱水ケーキの含水率を正確に測定し得る含水率計が少ないことから、前述のトルク制御は、所望の含水率の脱水ケーキを得るための有効な制御方法となっている。
【0006】
しかしながら、例えばデカンタ1を運転するに際し、どの位の遠心力を付与すればよいか(すなわち、ボウルの回転速度をどの位に設定するか)や、目標トルク値をどの位に設定するかなど具体的な制御指針は、前日の運転条件を引き継ぐのが通常であり、必ずしも適切な運転条件に設定しているとは言えない場合がある。下水処理施設に流入される下水の性状は、日々大きく異なる場合があるからである。そのような場合、前日の運転条件のままでは所望の含水率の脱水ケーキを得ることができず、オペレータが後発的に運転条件の改善を行うことになる。しかし、このときも、どの位変更すればよいかをオペレータの感に頼ることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5442099号公報
【文献】特許第5118262号公報
【文献】特許第3690169号公報
【文献】特開平11-226591号公報
【文献】特開平04-171066号公報
【文献】特開2005-242524号公報
【文献】特開平01-99620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、下水処理施設内外にある種々の情報を収集し、収集した情報を活用して遠心分離装置の適切な運転パターンを設定(或いは、再設定)することで全自動化運転を実現可能にしたAI(人工知能)制御方式の遠心分離装置を提供することにある。
【0009】
本発明の更なる目的は、遠心分離装置の運転を開始した後にも種々の情報を収集し、収集した情報に基づいて運転パターンを補正し以後使用することによって、より完成度の高い全自動化運転を実現可能にしたAI(人工知能)制御方式の遠心分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1)本発明のAI制御方式の遠心分離装置は、汚泥を含む下水由来の処理液を脱水ケーキと分離液に分離する遠心分離装置において、前記遠心分離装置が処理することとなる下水回収対象エリアの環境情報、及び/又は、前記遠心分離装置が設置されている下水処理施設の過去の操業情報の中から所定の情報を選択収集する情報収集手段と、前記遠心分離装置の制御方法を予め複数の運転パターンにして有する運転パターン記憶手段と、前記情報収集手段が収集する情報に基づいて前記複数の運転パターンの中から少なくとも一つを選択する運転パターン選択・決定手段と、前記運転パターン選択・決定手段が選択した運転パターンに従って前記遠心分離装置が動作するように制御する動作制御手段と、を含む全自動化運転制御部と、を備えたことを特徴とする。
(2)さらに、前記運転パターンに従って遠心分離装置の運転を行っている最中に、脱水ケーキ及び/又は分離液の性状の情報、遠心分離装置の付帯設備の負荷状況、下水処理施設における遠心分離装置よりも下流の工程に配置された処理設備の運転状況の中から所定の情報を収集する運転情報収集手段と、前記運転情報収集手段が収集した情報に基づいて運転パターンの選択の適否を判定すると共に、判定結果が否の場合に別の運転パターンを再選択する運転パターン再選択手段と、を更に前記全自動化制御部が備えた構成とすることができる。
(3)この場合、前記再選択された運転パターンは、前記情報収集手段が選択収集した前記所定の情報と関連付けて前記運転パターン記憶手段に新たに記憶され、前記運転パターン選択・決定手段は、該所定の情報の組み合わせとなった場合は該再選択された運転パターンを第一候補として選択する構成とすることができる。
(4)また、前記運転パターンに従って遠心分離装置の運転を行っている最中に、脱水ケーキ及び/又は分離液の性状の情報、遠心分離装置の付帯設備の負荷状況、下水処理施設における遠心分離装置よりも下流の工程に配置された処理設備の運転状況の中から所定の情報を収集する運転情報収集手段と、前記運転情報収集手段が収集した情報に基づいて前記運転パターンの制御方法を補正する運転パターン補正手段と、を更に前記全自動化制御部が備えた構成とすることができる。
(5)この場合、前記補正された運転パターンは、前記情報収集手段が選択収集した前記所定の情報と関連付けて前記運転パターン記憶手段に新たに記憶され、前記運転パターン選択・決定手段は、該所定の情報の組み合わせとなった場合は該補正された運転パターンを第一候補として選択する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、汚泥を含む下水由来の処理液を脱水ケーキと分離液に分離する遠心分離装置において、前記遠心分離装置が処理することとなる下水回収対象エリアの環境情報、及び/又は、前記遠心分離装置が設置されている下水処理施設の過去の操業情報の中から所定の情報を選択収集する情報収集手段と、前記遠心分離装置の制御方法を予め複数の運転パターンにして有する運転パターン記憶手段と、前記情報収集手段が収集する情報に基づいて前記複数の運転パターンの中から少なくとも一つを選択する運転パターン選択・決定手段と、前記運転パターン選択・決定手段が選択した運転パターンに従って前記遠心分離装置が動作するように制御する動作制御手段と、を含む全自動化運転制御部と、を備えたことにより、下水処理施設内外で収集した情報を活用して遠心分離装置の適切な運転パターンを設定(或いは、再設定)して全自動化運転を実現可能にすることができる。
【0012】
さらに、前記運転パターンに従って遠心分離装置の運転を行っている最中に、脱水ケーキ及び/又は分離液の性状の情報、遠心分離装置の付帯設備の負荷状況、下水処理施設における遠心分離装置よりも下流の工程に配置された処理設備の運転状況の中から所定の情報を収集する運転情報収集手段と、前記運転情報収集手段が収集した情報に基づいて前記運転パターンの制御方法を補正する運転パターン補正手段と、を更に前記全自動化制御部が備えた構成としたことにより、より完成度の高い全自動化運転を実現可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の好ましい実施形態に従う遠心分離装置が配置された下水処理施設の概略構成及び施設内外から情報を収集する情報網を示す図である。
【
図3】上記遠心分離装置の運転パターンの一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態に従うAI制御方式の遠心分離装置について、添付図面を参照しながら詳しく説明する。但し、以下に説明する実施形態によって本発明の技術的範囲は何ら限定解釈されることはない。
【0015】
(全体構成の説明)
図1は、遠心分離装置の好ましい一例としてデカンタ2が配置された下水処理施設3の全体概略構成、及び、施設内外の種々の情報を収集してデカンタ2を全自動化運転するための情報網の一例を示している。
【0016】
下水処理施設3は、大別すると水処理施設と汚泥処理施設に分けられる。水処理施設は、最初沈殿槽31、エアレーションタンク、最終沈殿槽等の設備によって構成されている。エアレーションタンクと最終沈殿槽等は、作図の便宜上、「下流工程」と図示している。そして、例えば複数の市町村等を含むように区画された下水回収対象エリアから回収した下水を最初沈殿槽31に供給して上澄液と初沈汚泥に固液分離する。上澄液はエアレーションタンクに移送し、初沈汚泥は汚泥処理施設に送る。エアレーションタンクに供給された最初沈殿槽31からの上澄液は、エアレーションタンク内で活性汚泥により生物処理される。生成された活性汚泥の一部は、最終沈殿槽に供給して上澄液と沈殿汚泥に固液分離する。上澄液はさらに無害化した後に放流し、沈殿汚泥は一部をエアレーションタンクに返送し、残りは余剰汚泥として汚泥処理施設に送る。
【0017】
汚泥処理施設は、前述の水処理施設で発生する汚泥を処理する施設であり、濃縮設備、消化設備、脱水設備等によって構成されている。
図1には、分離濃縮方式の設備の一例を示している。この場合、最初沈殿槽31からの初沈汚泥を重力式濃縮槽32で重力濃縮し、最終沈殿槽からの余剰汚泥は機械式濃縮機33で機械濃縮する。機械式濃縮機33は、ベルト式濾過濃縮機などであり、デカンタタイプの遠心濃縮機が使用される場合もある。重力式濃縮槽32及び機械式濃縮機33で濃縮された汚泥(濃縮汚泥)は、濃縮汚泥タンク34からポンプ35を介して脱水機としてのデカンタ2に供給するか、あるいは消化した後にデカンタ2に供給する。デカンタ2は、処理液である汚泥(濃縮汚泥)を脱水ケーキと分離液に固液分離する。そして、デカンタ2からの脱水ケーキは、圧送ポンプや搬送コンベアなどの移送設備36を介して焼却炉37に供給され、焼却処理される。焼却以外の処理がなされることもある。なお、下水処理施設3の全体構成は一例であり、本実施形態のAI制御方式のデカンタ2を除いて、他の設備構成や処理方式が異なっていてもよい。
【0018】
続いて、
図1を参照しながらデカンタ2が全自動化運転を実現するために情報を収集する情報網について説明する。先ず、下水処理施設3内で収集する情報についてみると、処理施設3内にある各設備(31~37)を中央制御するオペレーション室38に設けられたサーバの一つが、該処理施設3の過去の操業状況を読み出し自在に記憶部(例えば、HDD)に保存している。この過去の操業状況の情報は、例えばデカンタ2や焼却炉37等の各設備(31~37)の運転状況、汚泥に凝集剤等の薬液を注入するための薬注設備や圧送ポンプ等の付帯設備の負荷情報、各設備(31~37)で処理された汚泥や液の性状、高分子系や無機系凝集剤等の薬品の種類と薬注方式、各設備(31~37)の整備や故障の履歴などの情報が含まれる。これらの情報は、例えば所定の決められた時間毎に各種データを記録した日報形式の運転記録などを利用するようにしてもよい。全自動化運転を実現するために使用する情報の一例を、以下に列記する。なお、係る情報は、デカンタ2を運転するに際し適切な運転パターンを事前選択・決定するのに使用される。
【0019】
(A)下水処理施設の過去の操業情報の一例
・デカンタ2の運転状況の記録
例えば、遠心力、差速、トルク、消費電力、インバータ周波数、薬品・薬注方式など
・脱水ケーキの搬送設備の負荷の記録
例えば、圧送ポンプの吐出圧やモーター電流値、搬送コンベアのモーター電流値など
・焼却炉37の運転状況の記録
例えば、炉の温度、燃料使用量など
・各設備の運転トラブル、故障、整備の履歴
例えば、各設備の運転トラブルや故障の原因、整備計画又は過去の整備記録など
【0020】
さらに、オペレーション室38に設けられたサーバの一つは、例えば情報網の好ましい一例としてインターネット回線4を通じて下水処理施設3外の情報を収集可能なように構成されている。勿論、インターネット以外の情報網が含まれていてもよい。さらには、インターネットに代わる情報網を採用してもよい。下水処理施設外の情報の一例については、以下に列記する。係る情報は、該施設が処理することとなる下水回収対象エリアの種々の環境情報であり、デカンタ2を運転するに際し適切な運転パターンを事前選択・決定するのに使用される。
【0021】
(B)下水回収対象エリアの下水関連情報の一例
・下水回収エリアの情報
例えば、エリア内の住宅・商業施設・工場の比率、分流式や合流式等の回収方式など
・下水回収対象エリアの各ポンプ場41に流入する下水流入情報
例えば、各ポンプ場内のポンプ流量と下水貯留量、エリア内主要マスの下水流量など
・下水回収対象エリアの下水関連施設の工事情報
例えば、各ポンプ場のメンテンス工事、エリア内の下水管やマスの取替工事など
・下水回収対象エリア内で開催されるイベント開催情報
例えば、スポーツやコンサート等のエリア外から人が集まる大きなイベント情報など
【0022】
(C)下水回収対象エリアの天候情報の一例
・天気、気温、湿度、降雨量など(翌日或いは数日先の予報など)
例えば、エリア内を市単位、区単位、町単位などで細分化した予報の情報など
・天候、気温、湿度、降雨量など(当日の状況)
例えば、エリア内を市単位、区単位、町単位などで細分化した現状の情報など
【0023】
(D)下水回収対象エリアのその他の情報の一例
・エリア内を流れる河川水量、ダムの堆積砂排出が行われるなど
・電力会社の発電状況など
【0024】
上述の情報は、例えば、所定の決められた時間にインターネット等を通じて検索(例えば、検索エンジンを利用)して収集するようにしたプログラムを、オペレーション室38に設けられたサーバが実行することによって収集するのが望ましい。一例として、気象庁のホームページ、水道局のホームページ、自治体のホームページ、アリーナやコンサートホール等の施設のホームページ、電力会社のホームページなど特定の情報サイトにリンクして入手するようにする。特定の情報サイトが無い場合、例えばポンプ場41などの特定の施設に対しては、専用回線を設置して情報を入手するようにしてもよい。情報は、例えばデカンタ2の運転パターンを事前選択・決定する前日や予め決めた日数前に入手したものを使用する。情報の入手は、一日に1回でもよく、例えば昼間と夜間といったように時間を決めて2回以上行ってもよい。
【0025】
さらにまた、オペレーション室38に設けられたサーバの少なくとも一つには、デカンタ2を運転しているときの現在の下水処理施設3の操業状況、例えばデカンタ2や焼却炉37等の各設備(31~37)の運転状況、汚泥に凝集剤等の薬液を注入するための薬注設備や圧送ポンプ等の付帯設備の負荷情報、各設備(31~37)で処理された汚泥や液の性状、高分子系や無機系凝集剤等の薬品について選択した種類や薬注方式、各設備(31~37)の整備や故障状況などの、現在の実情報が集められるようになっている。これら実情報は、各設備の夫々が有する制御部(例えば、制御盤)42から伝送されたり、現場を巡回するオペレータが通信機器43を用いて伝送したりして、集められる。かかる実情報は、施設外から集められた情報をも利用して、事前選択・決定したデカンタ2の運転パターンが適切だったか否かを判定し、適切でなかった場合に運転パターンを再設定するために使用される。さらに、運転パターンが適切でなかったと判定された場合、運転パターンそのものを補正するのに使用される。運転パターンを再設定或いは補正するのに使用する情報の一例を、以下に列記する。
【0026】
(E)下水処理施設の現在の操業情報の一例
・デカンタ2の現在の運転状況
例えば、遠心力、差速、トルク、消費電力、インバータ周波数、薬品・薬注方式など
・脱水ケーキの搬送設備の負荷
例えば、圧送ポンプの吐出圧やモーター電流値、搬送コンベアのモーター電流値など
・焼却炉37の運転状況
例えば、炉の温度、燃料使用量など
・各設備の運転トラブルや故障の発生状況
例えば、各設備の運転トラブルや故障の発生状況とその原因など
(F)下水回収対象エリアの現在の天候情報の一例
・天候、気温、湿度、降雨量などの現在の状況
例えば、エリア内を市単位、区単位、町単位などで細分化した実情報など
【0027】
(デカンタ2の構成の説明)
続いて、デカンタ2の構成の一例について
図2を参照しながら説明する。デカンタ2は、
図2に示すように、固形相出口20と液相出口21が下面側に形成されているケーシング2と、ケーシング内に配置されたボウル5と、ボウル5内で遠心分離された固形相を搬送するスクリューコンベア6と、濃縮汚泥タンク34から送られてくる下水由来の処理液をボウル5内に供給するための供給ノズル7を備えている。ボウル5は、例えばケーシング2の外部に配置されるベアリング等の軸受機構22によって、その両軸が支持されている。さらにスクリューコンベア6は、コンベアベアリング等の軸受機構23によって、その両軸が支持されている。なお、符号24は、ケーシング2内の空間を区画する仕切壁である。
【0028】
そして、駆動機構である主モーター25の動力が回転ベルト25aを介してボウル5側のプーリー25bに伝達されると、ボウル5が回転し、さらに差速発生装置であるギアボックス26及びスプラインシャフト26aを通じてスクリューコンベア6に回転動力が伝達され、これによりボウル5とスクリューコンベア6とが相対的な差速をもって回転する。通常運転の一例として、500~8000rpmの範囲内で選択される所定の回転数でボウル5を回転させ、ボウル5に対して0.5~50rpmの差速をもってスクリューコンベア6を回転させて遠心分離を行う。
【0029】
ギアボックス26には、バックドライブモーター27と称されるモーターが回転ベルト27a及びプーリー27bを介して連結されている。バックドライブモーター27は、スクリューコンベア6がボウル5よりも遅く回転するようにブレーキをかけるためのものである。ブレーキをかけることによってバックドライブモーター27に発生する回生電力は、主モーター25に供給するようにすることができる。但し、バックドライブモーター27は必ずしも設けなくともよい。なお、符号28は、デカンタ2の支持架台であり、符号29は、供給ノズル5を支持する支持部材である。
【0030】
ボウル5は、円筒状の胴部の一端側に円錐形状部51が形成されており、他端側にはフロントハブ52と称する円盤状部材が設けられている。ボウル5の胴部は、ボウル5内に供給される処理液のプール(液溜り)部を形成する。一方、円錐形状部51は、スクリューコンベア6によって搬送される固形相が液相から離脱するビーチ部を形成しており、その端部に脱水汚泥である脱水ケーキを排出する固形相排出口53が設けられている。さらにフロントハブ52には、分離液である液相が溢流して排出される液相排出口54が設けられている。液相排出口54は、フロントハブ52を貫通する円形状の開口穴である。
【0031】
スクリューコンベア6の外周面には、ボウル5内の固形相を搬送するためのスクリュー羽根61が螺旋状に設けられている。さらに、スクリューコンベア6の外周面には、供給孔62が設けられている。供給孔62は、スクリューコンベア6の先端側内部に形成されている液供給室63と連通している。
【0032】
供給ノズル7は、回転するボウル5及びスクリューコンベア6とは接触しないようにして、液供給室63内まで接近又は挿入されている。供給ノズル7の基端側には、例えばポンプ35などの送液手段(
図2では不図示)からの配管が接続されるようになっている。送液手段によって送られてくる処理液は、供給ノズル7の先端から液供給室63内に吐出され、さらに液供給室63内に供給された処理液は、回転するスクリューコンベア6の遠心力の作用によって供給孔62から吐出されてボウル5内に供給され、前述した作用によって脱水ケーキと分離液とに分離されて排出される。
【0033】
デカンタ2は、運転パターンを事前選択・決定し、その運転パターンに従って主モーター25等のデカンタ2の各構成要素、及び薬注設備や圧送ポンプ等の付帯設備の動作を制御する制御部8を備えている。この制御部8は、デカンタ2の制御盤42に設けられたコンピュータシステム及び/又はオペレーション室38に設けられたコンピュータシステム等によって構成されている。コンピュータシステムは、例えばCPU、メモリおよび記憶部(例えば、HDD)などを含み、記憶部に記憶されているプログラムを読み出してCPUによって実行することにより、所望の処理機能を実現する。すなわち、これらコンピュータシステムによって、AI制御方式を実行するための情報収集手段、運転パターン記憶手段、運転パターン選択・決定手段、動作制御手段、運転情報収集手段、運転パターン再選択手段、運転パターン補正手段が構成される。
【0034】
運転パターンは、例えば
図3に模式的に示すように、種々の遠心力(G)をパラメータとしたスクリューコンベアのトルク(N・m)と脱水ケーキの含水率(%)の相関関係を、「標準運転モデル」、「降雨後の運転モデル」、「下水量が多いときの処理量増加モデル」の3つにパターン化したものが一例として挙げられる。これら複数の運転パターンの情報は、制御部8が読み出し自在に記憶部(例えば、HDD)に保存している。なお、この3つの運転パターンは予め準備した基本形であり、好ましい一例を以下に説明するように、運転を重ねる毎に人工知能機能によって運転パターンの数が増加及び/又はパターンが複雑化されていき、より多くの運転パターンを適用可能にすることで、より完成度の高い全自動化運転が具現化されていくことになる。従って、基本形パターンのデフォルトの数は特に3つでなくてもよく、1以上の任意の数で設けることができる。
【0035】
その他の運転パターンの一例としては、デカンタ2の機種・仕様と処理液の性状を対応付けた運転条件、差速-処理液の性状-薬液注入量を対応付けた運転条件などを採用することができ、夫々、例えば「標準運転モデル」、「降雨後の運転モデル」、「下水量が多いときの処理量増加モデル」などにパターン化することができる。勿論、「標準」、「降雨後」、「下水量が多いとき」の分け方に限定されることもない。
【0036】
続いて、デカンタ2の全自動化運転の一例を説明する。
例えば運転当日の朝に、オペレーション室38のサーバが前日の下水処理施設3の操業状況のデータを記憶部から読みだし、前日のデカンタ2の運転条件が「標準運転モデル」、「降雨後の運転モデル」、「下水流入量が多いときの処理量増加モデル」のいずれで行われていたかを判定する。その際、デカンタ2は、起動前停止中であってもよく運転中であってもよい。ここでは、一例として、一昨日に雨が降って、前日は「降雨後の運転モデル」に従って運転されていたとする。
【0037】
一方で、例えばインターネット回線4を通じて前日に発表された運転当日の天候予報が、季節が夏(7月~8月)で天候晴れ、気温30℃、湿度70%の予報の場合、制御部8は、運転パターンの中から「標準運転モデル」で運転することを候補とする。ただし、例えばインターネット回線4を通じて得られる環境情報の中で大きなイベントが開催される予定になっている場合、エリア外から多数の人が集まってくる分、下水流量が増えるとして「下水流入量が多いときの処理量増加モデル」を別の候補とする。さらに、例えば複数あるポンプ場41の一部がメンテナンス工事で一時運転中止になる予定となっている場合、その分、下水処理施設3へ送られてくる下水量が少なくなるとして「標準運転モデル」を選択することを決定する。但し、イベントに起因する下水増加分を考慮して遠心力(G)を高めの設定にすることとする。さらには、季節が夏の場合、汚泥の腐食劣化により凝集性が悪くなる分、遠心力を高めに設定しようとする。
【0038】
すなわち、「天候が晴れ」の場合は「標準運転モデル」を選択することを基本形とするが、さらに「季節が夏」-「イベント有」-「工事有」の条件が組み合わされている為、最終的に、「標準運転モデル」において遠心力の初期設定を最も高い1800Gとし、所望の含水率として71%の脱水ケーキを得るために、スクリューコンベア6のトルク値(制御値)が32N・mとなるように運転することを決定する。この例では、季節、天候、イベント、工事の4つの環境情報を基にして運転パターンを選択・決定したが、勿論、収集するその他の情報に基づいて運転パターンを選択・決定してもよい。さらに、各環境情報に関して、影響が翌日に出るものや影響が翌々日に出るものなど時期を考慮するようにしてもよい。
【0039】
こうしてデカンタ2の運転が開始されて所定の時間(例えば数時間)が経過すると、制御部8は、施設内・外から情報を収集して、選択した運転パターンの適否を判定する。例えば一例として、脱水ケーキの性状について砂が多く含まれ、それゆえトルク値が32N・mの設定では含水率が下がり過ぎ、脱水ケーキを搬送する移送設備36としての圧送ポンプの負荷が増大していたとする。圧送ポンプの負荷は、例えば吐出圧の閾値を予め設定しておき、閾値を超えている場合に負荷が増大した状態にあると判定する。他の情報についても閾値を用いた判定を行うことができる。この場合、制御部8は、天気予報が晴れの場合でも、一昨日に雨が降っていたときには例えばその降雨量に応じて「降雨後の運転モデル」に変更(再選択)して運転を続けるようにする。具体的には、当日の予報が晴れであっても一昨日に予め設定した閾値(例えば200ミリ)以上の雨が降っていたとして「降雨後の運転モデル」へ変更するようにする。例えば、エリア内の一部区域にゲリラ雷雨が起きた場合も同様にする。
【0040】
そしてさらに、制御部8は、今後の運転パターンの選択方法を改め、「季節が夏」-「天候が晴れ」-「イベント有」-「工事有」の組み合わせの場合は「標準運転モデル」を第一候補とするが、例外として「季節が夏」-「天候が晴れ」-「但し一昨日に閾値以上の降雨有」-「イベント有」-「工事有」の組み合わせの場合には「降雨後の運転モデル」を選択するようにする。このように、運転を重ねる毎に、運転パターンの選択肢となる情報の組み合わせを細分化していくことによって、AI制御機能を向上させていくことができる。一例として、制御部8は、情報の組み合わせと選択する運転パターンをマトリックス状にしたデータベースを作成(更新)することによって制御機能を実行していく。運転パターンの選択には、既述したようにパターン内での各種設定(遠心力,薬品等)の選択も含む。
【0041】
またさらに、一昨日の雨が例えば夕立のような短時間の降雨であって、「降雨後の運転モデル」で運転すると次第に含水率が高めに推移し、焼却炉37の燃料使用量が増えていったとする。この場合、制御部8は、現在揃えている運転パターンでは対応できないと判定し、新たな運転パターンを生成する。判定は、例えば閾値を設定して判定することができある。具体的には、例えばトルクと含水率の相関曲線の傾きを「標準運転モデル」と「降雨後の運転モデル」の中間位に設定した新たな「短期降雨後の運転モデル」を生成し、記憶部に保存する。そして、今後は、「季節が夏」-「天候が晴れ」-「但し一昨日に閾値以上の“短期”降雨有」-「イベント有」-「工事有」の組み合わせに対して「短期降雨後の運転モデル」を選択するようにする。このように、運転を重ねる毎に、選択可能な運転パターンの数を増やし、きめ細かい制御を行えるようにすることで、AI制御機能をさらに向上させていくことができる。
【0042】
上記の制御の一例で用いた情報以外にも、例えばエリア内の住宅・商業施設・工場の比率の情報は、例えば一週間単位でみた平日と週末の下水流量と性状の推移を制御に反映させる情報として利用でき、分流式や合流式等の回収方式の情報は、降雨量の影響度合(大・中・小)をパラメータ化するなどに利用できる。また、エリア内を市単位、区単位、町単位などで細分化した天候情報は、繰り返し上記制御に利用していく中で下水に影響が出る分布マップを生成して制御に用いるようにしてもよい。例えば、A市~D市などで回収エリアが構成されている場合にA市とC市の降雨量が多いと影響が大きいなどである。
【0043】
また、電力会社の発電状況については、例えば猛暑で送電エリア内の電力使用量が増える場合に、例えば夜間に処理流量を増やしたモデルを選択し昼間は処理流量を下げたモデルで運転してデカンタ2の消費電力を抑えた運転を行うのに使用することができる。すなわち、省電力化に寄与した全自動化運転を実現する。
【0044】
さらに、各設備の運転トラブルや故障の履歴は、例えばそのときの環境条件や操業条件と対応付けた情報(データベース)として記憶部に保存しておき、運転トラブルや故障を回避するのに利用することができる。すなわち、例えば環境条件が上記した「季節が夏」-「天候が晴れ」-「イベント有」-「工事有」の組み合わせの場合に、ある操業条件(遠心力、トルク、薬注方式など)で運転トラブルが起きた経歴がある場合は、制御部8は、その操業条件を選択しないようにする。これにより、設備の運転トラブルや故障を回避する全自動化運転を実現することができる。
【0045】
上述の実施形態によれば、下水回収対象エリアの環境情報、及び/又は、下水処理施設3の過去の操業情報の中から所定の情報を選択収集し、収集した情報に基づいて運転パターンを選択・決定し、選択した運転パターンに従ってデカンタ2を制御することにより、下水処理施設3内外で収集した情報を活用してデカンタ2の適切な運転パターンを設定(或いは、再設定)することのできる全自動化運転を実現可能にすることができる。なお、ここでいう全自動化運転は、これまで詳述したように、最適な運転ができるようにデカンタ2自身が知的制御を実行することを意味する。例えば装置の起動作業や流量調整のための操作など、制御の一部にオペレータ等が関与していたとしても実質的にデカンタ2自身が知的制御を行っていれば全自動化運転に含まれる。
【0046】
さらに、運転パターンに従ってデカンタ2の運転を行っている最中に、脱水ケーキ及び/又は分離液の性状の情報、デカンタ2の付帯設備の負荷状況、焼却炉37などの処理設備の運転状況の中から所定の情報を収集し、収集した情報に基づいて運転パターンを補正することにより、より完成度の高い全自動化運転を実現可能にすることができる。
【0047】
以上、本発明を具体的な実施形態に則して詳細に説明したが、形式や細部についての種々の置換、変形、変更等が、特許請求の範囲の記載により規定されるような本発明の精神及び範囲から逸脱することなく行われることが可能であることは、当該技術分野における通常の知識を有する者には明らかである。
【符号の説明】
【0048】
2 デカンタ
3 下水処理施設
38 オペレーション室
4 インターネット回線
5 ボウル
6 スクリューコンベア
8 制御部