IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エーエムエスエル イノベーションズ ピーティーワイ リミテッドの特許一覧

特許7457175電動垂直離着陸(VTOL)機用の翼傾斜作動システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】電動垂直離着陸(VTOL)機用の翼傾斜作動システム
(51)【国際特許分類】
   B64C 29/00 20060101AFI20240319BHJP
   B64U 10/20 20230101ALI20240319BHJP
   B64U 30/12 20230101ALI20240319BHJP
   B64U 50/19 20230101ALI20240319BHJP
   B64U 50/23 20230101ALI20240319BHJP
   B64D 27/24 20240101ALI20240319BHJP
   B64C 11/46 20060101ALI20240319BHJP
   B64C 3/38 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B64C29/00 A
B64U10/20
B64U30/12
B64U50/19
B64U50/23
B64D27/24
B64C11/46
B64C3/38
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023024268
(22)【出願日】2023-02-20
(62)【分割の表示】P 2020537810の分割
【原出願日】2018-09-06
(65)【公開番号】P2023058697
(43)【公開日】2023-04-25
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】2017903864
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2018901154
(32)【優先日】2018-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2017904036
(32)【優先日】2017-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】520097618
【氏名又は名称】エーエムエスエル イノベーションズ ピーティーワイ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】AMSL INNOVATIONS PTY LTD
【住所又は居所原語表記】42 Stafford Street, Stanmore, New South Wales 2048, Australia
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムーア,アンドリュー ダドリー
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0288903(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0042509(US,A1)
【文献】国際公開第2016/135697(WO,A1)
【文献】特公昭39-002026(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 3/10- 3/16
B64C 3/38- 3/56
B64C 11/46-11/50
B64C 23/00-23/08
B64C 25/06
B64C 27/26-27/28
B64C 29/00
B64D 27/24
B64U 10/20
B64U 30/12-30/16
B64U 50/19
B64U 50/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の前翼と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の後翼と、を備え
前記翼それぞれは、固定された前縁部とほぼ水平な軸を中心に枢動する後部操縦翼面とを有しており、
前記翼に設置された電動のローターをそれぞれが有する複数の電動モーターであって、前記ローターは、各ローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と、各ローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で前記後部操縦翼面と共に枢動する、複数の電動モーターをさらに備え、
前記第1の前翼、第2の前翼、前記第1の後翼および第2の後翼の少なくとも1つは、前記翼の上面および下面に対してオフセットされかつ共通の後部操縦翼面と共に枢動する前記ローターのうちの第1および第2のローターを有し、
前記第1および第2のローターの各々の本体部分は、前記共通の後部操縦翼面に固定され、前記第1のローターの第1の推力線は、前記共通の後部操縦翼面をヒンジ線の周りで第1の方向に回転させるように位置決めされ、前記第2のローターの第2の推力線は、前記共通の後部操縦翼面を前記ヒンジ線の周りで第2の方向に回転させるように位置決めされ、前記第1の方向は、前記第2の方向とは反対方向である、
垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項2】
前記第1のローターは前記翼の下面の下側に位置し、前記第2のローターは前記翼の上面の上側に位置していることを特徴とする、
請求項1に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項3】
前記電動モーターおよびローターは、前記翼の下面の下側および前記翼の上面の上側の位置に前記翼に沿って互い違いに分配されていることを特徴とする、
請求項1または2に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項4】
前記機体から最も遠い前記前翼それぞれの先端部分が隣接する前記後翼の先端部分に接続部材によって接続されて箱型翼構造を画定していることを特徴とする、
請求項1~3のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項5】
前記前翼それぞれが隣接する前記後翼に1つ以上のストラットまたはタイバーによって接続されていることを特徴とする、
請求項1~4のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項6】
前記操縦翼面が約80~100度の範囲で枢動することを特徴とする、
請求項1~5のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項7】
前記操縦翼面が約90度の範囲で枢動することを特徴とする、
請求項6に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項8】
機体と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の前翼と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の後翼であって、前記前翼それぞれが隣接する前記後翼に先端接続部材またはストラットによって接続されて箱型翼構造またはストラットブレース翼構造を画定する、第1および第2の後翼と、を備え
前記翼それぞれは、固定された前縁部とほぼ水平な軸を中心に枢動する後部操縦翼面とを有しており、
前記第1の前翼、第2の前翼、前記第1の後翼および第2の後翼の1つに設置された電動の第1および第2のローターであって、前記ローターは、各ローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と、各ローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で前記後部操縦翼面と共に枢動する、第1および第2のローターをさらに備え、
前記第1および第2のローターの各々の本体部分は、前記共通の後部操縦翼面に固定され、前記第1のローターの第1の推力線は、前記共通の後部操縦翼面をヒンジ線の周りで第1の方向に回転させるように位置決めされ、前記第2のローターの第2の推力線は、前記共通の後部操縦翼面を前記ヒンジ線の周りで第2の方向に回転させるように位置決めされ、前記第1の方向は、前記第2の方向とは反対方向である、
垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項9】
前記翼の少なくとも1つは、前記翼の上面および下面に対してオフセットされた第1のローターを有する第1の電動モーターおよび第2のローターを有する第2の電動モーターを有していることを特徴とする、
請求項8に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項10】
前記電動モーターおよびローターは、前記翼の下面の下側および前記翼の上面の上側の位置に前記翼に沿って互い違いに分配されていることを特徴とする、
請求項8または9に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項11】
前記ローターそれぞれが、同一の前記翼に設置された隣接するローターに対して長手方向に、前記ローターの回転軸方向に関してオフセットされていることを特徴とする、
請求項1~10のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項12】
前記ローターの回転軸に直交する面で見ると、前記ローターそれぞれの外径が、同一の前記翼に設置された隣接する前記ローターの外径に重なっていることを特徴とする、
請求項11に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項13】
前記機体は、前方を向いており上方に開くように上部領域でヒンジ固定されたドアから乗り込むことができるキャビンを有していることを特徴とする、
請求項1~12のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【請求項14】
前記第1および第2の後翼のそれぞれは、前記VTOL機を支持する1つ以上の車輪を有し下方および後方に延在しているウィングレットを備えていることを特徴とする、
請求項1~13のいずれか1項に記載の垂直離着陸(VTOL)機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動垂直離着陸(VTOL)機用の翼傾斜作動システムに関する。特に、本発明は、旅客および/または軍事的用途の電動VTOL機のための翼傾斜作動システムおよび機構に関する。
【背景技術】
【0002】
VTOL機は、垂直にまたは垂直に近い角度で離着陸することが可能である。この形式の航空機には、ヘリコプターや特定の固定翼機が含まれ、軍事用途によく使用されている。有利には、VTOL機は、限られたスペースでの離着陸が可能であるため、長い滑走路が不要であり、船の甲板やビルなどの建造物上の離着陸場といった小さなスペースでの離着陸が可能である。
【0003】
ヘリコプターは、その上昇と前進との両方がローターによって行われる形式の航空機である。ヘリコプターに関しては、高レベルのノイズ出力など、一部の用途で問題になる可能性のあるいくつかの問題がある。ヘリコプターに関連するそのような欠点の1つは、飛行において重要なローターの設計に関係している。通常、設計には冗長性が無く、そのため、ローター(あるいは各ローター)の動作が重要である。このように冗長性が欠如していることにより、ローターおよび駆動系統のあらゆる部品に対して高い安全性を確保する必要が生じ、その結果、ヘリコプターの重量と製造コストとが大幅に増加している。
【0004】
さまざまな商業的および安全上の理由から電動航空機への関心が高まっている。近年、ほぼピッチ円径の間隔に配置される複数の電動ローターを一般的に用いるドローン技術に関して数多くの開発が行われている。通常、ドローンはそれぞれがほぼ垂直な軸を中心に回転する電動ローターで動作する。
【0005】
ドローンは、積載量の小さな物を運ぶために商業的に成長してきている一方で、ローターの回転軸が垂直であるため、一般的に比較的低い飛行速度に制限されている。さらに、バッテリーの充電1回あたりの移動範囲がかなり狭い傾向がある。
【0006】
ティルトウィング型の航空機が利用されており、それは一般に離着陸に際しては垂直プロペラ軸の原理に基づいて動作する。その翼は傾斜可能に構成されており、翼を傾斜させることで、プロペラが離着陸のための垂直軸を有する形態と、プロペラが前進飛行のための水平軸を有する形態とを取ることができる。
【0007】
上記のティルトウィング構成によって、空母や離着陸場などの利用可能な空きスペースが限られている領域での離着陸が可能になるという利点が得られる。さらに、ティルトウィング機は、従来のプロペラ駆動の固定翼機に匹敵する飛行速度を実現可能である。
【0008】
ティルトウィング機は一般に、翼に直接設置されたプロペラまたはダクト付きファンを駆動する電動モーターまたはガスタービンエンジンを備えている。翼全体が垂直と水平の間で回転することで、推力ベクトルを垂直から水平に傾けたり戻したりすることが可能である。
【0009】
定義として、「推力ベクトル」とも呼ばれる「推力線」は、プロペラの推力であり、プロペラの回転軸とほぼ同じである。「ヒンジ線」はヒンジ回転の軸である。
【0010】
既存のティルトウィング機にはいくつかの固有の欠点がある。欠点の1つは、離着陸用形態と前進飛行用形態との間の翼の傾斜角度を制御するために必要なアクチュエータやベアリングまたはその他の機構に関する。アクチュエータは、前進飛行中に翼を所望の傾斜でロックするようにも機能する。ただし、実際には、アクチュエータやベアリングによって航空機の重量がかなり増加している。その結果、輸送できる人員や貨物などの積載量が減少している。さらに、翼傾斜作動システムとベアリングの重要な性質のため、壊滅的な故障のリスクを減らすために十分な冗長性を備えて設計する必要がある。
【0011】
電動VTOLジェット機は現在、Lilium Jet(登録商標)ブランドでLilimu Aviation社によって設計およびテストが行われている。そのプロトタイプは、2つの翼と約36個の電動モーターを備えた2人乗りの軽量コミューター機としての利用が想定されている。
【0012】
Lilium Jet(登録商標)型の航空機の欠点は、ファンが覆われた形式のモーターである電動モーターに関係している。この構成ではエネルギーを大量に消費するため、特定のバッテリーサイズでの飛行可能範囲が狭くなってしまう。
【0013】
さらに、覆われた形状のファンは、指定された離着陸場や滑走路などの舗装された表面での離着陸時にのみ稼働可能である。このため、この航空機の有用性が制限され、公園、野原、運動場などの未舗装表面での離着陸時に稼働させることができない。これは軍事用途では望ましくなく、遠隔地での即時着陸に対応できていない。
【0014】
別のコンセプトのVTOL機には、Joby Aviation社によるS2 electric(登録商標)がある。この設計では、複数の電動モーターを備えた固定翼を有し、好ましくはそれぞれの翼に4つのモーターが設置されている。さらに4つのモーターが後部スタビライザーまたはテールに設置されている。このコンセプトの航空機の欠点は、各電動モーターが独立して作動するため、モーターごとに個別のアクチュエータが必要になることである。上記のように、このことによって作動モーターシステムのために相当な重量が増加することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、上記の欠点の1つ以上を実質的に克服または少なくとも改善すること、または有用な代替物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1の態様において、本発明は垂直離着陸(VTOL)機を提供し、該垂直離着陸(VTOL)機は、
機体と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の前翼と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の後翼と、を備え
前記翼それぞれが固定された前縁部とほぼ水平な軸を中心に枢動する後部操縦翼面とを有しており、
前記翼に設置されたローターを有する複数の電動モーターであって、該ローターは、各ローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と、各ローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で前記後部操縦翼面と共に枢動する、複数の電動モーターをさらに備え、
前記翼の少なくとも1つは、それぞれが互いに平行ではない回転軸を持つように配置された第1のローターを有する第1の電動モーターおよび第2のローターを有する第2の電動モーターを有し、前記第1および第2のローターの推力線が異なっている。
【0017】
好ましくは、前記第1のローターの推力線がヒンジ線の上方を通るように傾けられ、前記第2のローターの推力線が前記ヒンジ線の下方を通るように傾けられている。
【0018】
好ましくは、前記第1のローターの回転軸は前記操縦翼面の前部および後部を通る面に対して上方に傾けられ、前記第2のローターの回転軸は前記操縦翼面の前部および後部を通る面に対して下方に傾けられている。
【0019】
前記第1および第2のローターが同じ回転速度で動作している場合、前記第1および第2のローターのそれぞれによって発生され、前記操縦翼面に作用する回転モーメントが互いに相殺される。
【0020】
好ましくは、前記第1および第2の電動モーターが前記固定前縁部の下側に枢動可能に設置されている。
【0021】
好ましくは、前記第1および第2の電動モーターが前記後部操縦翼面に固定されている。
【0022】
第2の態様において、本発明は垂直離着陸(VTOL)機を提供し、該垂直離着陸(VTOL)機は、
機体と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の前翼と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の後翼と、を備え
前記翼それぞれが固定された前縁部とほぼ水平な軸を中心に枢動する後部操縦翼面とを有しており、
前記翼に設置されたローターをそれぞれが有する複数の電動モーターであって、該電動モーターおよびローターは、各ローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と、各ローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で前記後部操縦翼面と共に枢動する、複数の電動モーターをさらに備え、
前記翼の少なくとも1つは、前記翼の上面および下面に対してオフセットされた第1のローターを有する第1の電動モーターおよび第2のローターを有する第2の電動モーターを有している。
【0023】
好ましくは、前記第1のローターは前記翼の下面の下側に位置し、前記第2のローターは前記翼の上面の上側に位置している。
【0024】
好ましくは、前記電動モーターおよびローターは、前記翼の下面の下側および前記翼の上面の上側の位置に前記翼に沿って互い違いに分配されている。
【0025】
好ましくは、前記機体から最も遠い前記前翼それぞれの先端部分が隣接する前記後翼の先端部分に接続部材によって接続されて箱型翼構造を画定している。
【0026】
好ましくは、前記前翼それぞれが隣接する前記後翼に1つ以上のストラットまたはタイバーによって接続されている。
【0027】
好ましくは、前記操縦翼面が約80100度の範囲で枢動する。好ましくは、前記操縦翼面が約90度の範囲で枢動する。
【0028】
第3の態様において、本発明は垂直離着陸(VTOL)機を提供し、該垂直離着陸(VTOL)機は、
機体と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の前翼と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の後翼であって、前記前翼それぞれが隣接する前記後翼に先端接続部材またはストラットによって接続されて箱型翼構造またはストラットブレース翼構造を画定する、第1および第2の後翼と、を備え
前記翼それぞれが固定された前縁部とほぼ水平な軸を中心に枢動する後部操縦翼面とを有しており、
前記翼に設置されたローターを有する複数の電動モーターであって、該ローターを有する電動モーターは、各ローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と、各ローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で前記後部操縦翼面と共に枢動する、複数の電動モーターをさらに備えている。
【0029】
好ましくは、前記翼の少なくとも1つは、前記翼の上面および下面に対してオフセットされた第1のローターを有する第1の電動モーターおよび第2のローターを有する第2の電動モーターを有している。
【0030】
好ましくは、前記第1の電動ローターは前記翼の下面の下側に位置し、前記第2の電動ローターは前記翼の上面の上側に位置している。
【0031】
前記電動モーターおよびローターは、前記翼の下面の下側および前記翼の上面の上側の位置に前記翼に沿って互い違いに分配されている。
【0032】
第4の態様において、本発明は垂直離着陸(VTOL)機を提供し、該垂直離着陸(VTOL)機は、
機体と、
前記機体の互いに反対側に取り付けられた第1および第2の前翼であって、各翼は固定された前縁部とほぼ水平な枢動軸を中心に枢動する後部操縦翼面とを有する、第1および第2の前翼と、を備え
前記翼それぞれが、第1のローターを有する第1の電動モーターおよび第2のローターを有する第2の電動モーターであって、該電動モーターおよびローターは、各ローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と、各ローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で前記後部操縦翼面と共に枢動する、第1および第2の電動モーターを有しており、
各モーターおよびローターを制御するための制御システムをさらに備え、
前記制御システムは、前記第1の電動モーターおよび第1のローターと前記第2の電動モーターおよび第2のローターとを異なる回転速度で選択的に動作させて、前記枢動軸を中心に前記操縦翼面を枢動させる回転モーメントを発生させるように構成されている。
【0033】
好ましくは、前記翼の少なくとも1つには第1および第2の電動ローターが設けられ、前記第1の電動ローターの推力線がヒンジ線の上方を通るように傾けられ、前記第2の電動ローターの推力線が前記ヒンジ線の下方を通るように傾けられている。
【0034】
好ましくは、前記電動ローターは前記翼のそれぞれの下側に位置している。
【0035】
好ましくは、前記ローターそれぞれが、同一の前記翼に設置された隣接するローターに対して長手方向に、前記ローターの回転軸方向に関してオフセットされている。
【0036】
好ましくは、前記ローターの回転軸に直交する面で見ると、前記ローターそれぞれの外径が、同一の前記翼に設置された隣接する前記ローターの外径に重なっている。
【0037】
好ましくは、前記機体は、前方を向いており上方に開くように上部領域でヒンジ固定されたドアから乗り込むことができるキャビンを有している。
【0038】
好ましくは、前記第1および第2の後翼のそれぞれは、前記VTOL機を支持する1つ以上の車輪を有し下方および後方に延在しているウィングレットを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
添付の図面を参照して、本発明の好適な実施形態を具体的な例に基づいて以下に説明する。
図1】離着陸形態における本発明の垂直離着陸(VTOL)機を示す概略図である。
図2】第2の前進飛行形態における図1のVTOL機を示す概略図である。
図3図1および図2の航空機の翼に配置された電動モーターの、ローターが垂直(離着陸)位置にある場合の配置構成を示す概略図である。
図4】ローターが部分的に傾斜した位置にある場合の図3の構成のさらなる概略図である。
図5】ローターがさらに傾斜した位置にある場合の図3の構成のさらなる概略図である。
図6】ローターが水平(前進飛行)位置にある場合の図3の構成のさらなる概略図である。
図7】VTOL機のさらなる実施形態を示す斜視図である。
図8図7の翼構成の側面図である。
図9図7の翼構成の上面図である。
図10】ローターブレードが収納された状態における、図7の翼構成の斜視図である。
図11A】航空機の翼に配置された電動モーターの配置構成(水平ローター軸)を示す概略側面図である。
図11B図11Aの配置構成の斜視図である。
図11C】ローター軸が垂直である場合の図11Aの配置構成を示す概略側面図である。
図11D図11Cの配置構成の斜視図である。
図12図7図11Dのいずれか1つの航空機における翼構成の垂直位置と水平位置との間の移行を示す概略断面図である。
図13】アクセスハッチが開いた状態の航空機の駐機形態を示す概略斜視図である。
図14】ローターが垂直軸位置にある状態の航空機を示す側面図である。
図15】ローターが水平軸位置にある状態の航空機を示す上面図である。
図16】ローターが垂直軸位置にある状態の航空機を示す斜視図である。
図17】ローターが水平軸位置にある状態の航空機を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
垂直離着陸(VTOL)機10が開示されている。好適な実施形態では、図示されているように、2対の翼を有している。すなわち、前翼20、22と後翼30、32である。前翼20、22のそれぞれは、機体24の横方向に反対側の領域に取り付けられている。同様に、後翼30、32のそれぞれも、胴体24の横方向に反対側の領域に取り付けられている。図示される実施形態では、航空機10は単座機あるいは双座機10として示されている。しかしながら、より大きな複数人用の実施形態も想定される。航空機10は、その内部においてパイロットにより操縦されてもよいし、遠隔操作されてもよい。
【0041】
図示される実施形態では、2対の翼20、22、30、32が箱型翼構造または閉じた翼構造を画定するように、前翼20、22および後翼30、32の先端部分が接続部材またはウェブ42によって接続されている。
【0042】
別の実施形態(図示せず)では、前翼20、22および後翼30、32は、タイバーまたはストラットで接続されたストラットブレース翼であってもよい。ストラットブレース翼は通常、従来の片持翼よりも軽量である。
【0043】
本明細書に記載されているVTOL機10は、箱型翼機またはストラットブレース型航空機10であるが、航空機10が、前翼20、22および後翼30、32が分離され相互接続されていない従来の片持翼機であってもよいことは当業者には理解されるであろう。さらに、航空機10は、一対の翼のみを有するものであってもよい。
【0044】
図を参照すると、前翼20、22および後翼30、32は垂直方向に分離されており、前翼20、22が後翼30、32の垂直方向下側に位置している。
【0045】
図2に示されるように、後翼30、32の先端部分40は、下方および後方に延在している。この翼端部分、すなわちウィングレット40は、翼端渦を低減するのに役立つ。ウィングレット40は、静止している際および離着陸時において航空機10を支持する1つ以上の車輪39(図13および14)を備えてよい。航空機10にはさらに、機体24の下部、一般には機体24の前方部分付近に位置する車輪もしくは1組の車輪41を備えている。このように、後部車輪39および前部車輪41が二等辺三角形の頂点に位置している。車輪39がウィングレット40に位置していることで、前述の二等辺三角形の幅が最大化され、航空機10の安定性が増加することになる。
【0046】
図14の側面図を参照すると、ウィングレット40と接続部材42とが、翼構造のほぼT字型の部分を画定している。
【0047】
図13図17に示す実施形態を参照すると、キャビンには、ヒンジ85によって乗組員の上方でヒンジ固定されているドアすなわちハッチ82から乗り込むことができる。図13図18に示す実施形態においては、2つのヒンジ85と上方に開くハッチ82とが備えられている。
【0048】
ハッチ82を固定するための上方に位置するヒンジ85の構成と上方に開くハッチ82とによって、複数の機能的に有利な点がもたらされる。第1に、この構成では、乗組員がローター70に近づくことなく航空機10の前方からキャビンに乗り込むことができる。この構成により、単に着座位置から立ち上がって航空機10から離れるように前に移動するというように、航空機10からの降機が特に簡略化される。
【0049】
ハッチ82が上方に開くことによって、ハッチが開く際にキャビンのほぼ上方にあるため、乗り降りの際の雨よけに関しても改善できる。
【0050】
さらに、ハッチ82によって、キャビンの前方部分を地面の近くに位置させることが可能になる。地面からキャビンに乗り込む際の段差の高さは約250mmであり、他の軽量飛行機と比較して、乗り降りの際の快適さや容易さの点において大幅に改善されている。
【0051】
再度図2を参照すると、各ウィングレット40の近位側は、隣接する前翼20と後翼30とを接合する接続部材42に接続されている。別の接続部材42は、機体の反対側で隣接する前翼22と後翼32とを接合している。
【0052】
前翼20、22および後翼30、32のそれぞれは、固定された前縁部25、35を有している。前縁部25、35は、翼の一部の形状を成す湾曲した輪郭を有している。前縁部は機体24に対して回転あるいは移動しないということが重要である。
【0053】
各固定された前縁部25、35の後方側で、前翼20、22および/または後翼30、32には、枢動可能に設置された補助翼すなわち操縦翼面50が設けられている。各操縦翼面50は、(図1に示されるような)離着陸のためのほぼ垂直な形態と(図2に示されるような)前進飛行のためのほぼ水平な形態との間で枢動する。
【0054】
操縦翼面50は、翼20、22、30、32の全長に沿って連続的に延在する単一の面であってもよい。あるいは、各翼20、22、30、32は、1つまたは複数の独立した枢動操縦翼面50を有していてもよく、操縦翼面50が他の操縦翼面50とは独立して前縁部25、35を中心に枢動できるように構成されていてもよい。
【0055】
垂直離着陸(VTOL)機10は、複数の電動モーター60を備えている。各モーター60は、プロペラすなわちローター70を有する。図示されるように、各モーター60の本体部分62は、可動操縦翼面50の上面または下面に隣接して、一般に固定前縁部25、35の前側に設置されている。操縦翼面50は、水平飛行モード(図2)および垂直飛行モード(図1)の両方への移行のために、約80100度の範囲で、好ましくは約90度回転することができる。
【0056】
モーター60は、翼構造に接触することなくローターブレードを後方に折りたたむことができるように、固定された前縁部25、35の十分前方に設置することができる。しかしながら、好適な実施形態においては、可変ピッチ機構を有する折りたたみできないローター70を用いる。固定ピッチのブレードを用いることもできる。
【0057】
モーター60および操縦翼面50については、例えば以下の2つの配置構成が可能である。すなわち:
a)各モーター60が、固定前縁部25、35の1つに枢動可能に接続されており、操縦翼面50が、モーター60の本体部分62に固定される構成;または、
b)操縦翼面50が、固定前縁部25、35の1つに枢動可能に接続されており、操縦翼面がさらにモーター60の本体部分62に固定される構成。
【0058】
電動モーター60はそれぞれ、各モーター60のローターがほぼ垂直な回転軸を有する第1の位置と各モーター60のローターがほぼ水平な回転軸を有する第2の位置との間で、操縦翼面50と共に前縁部25、35を中心に枢動する。
【0059】
図1図6に示す実施形態では、翼20、22、30、32の少なくとも1つは、操縦翼面50を通る平面に対して互いにオフセットされた第1および第2のモーター60を有する。図1図6の図面に示される実施形態では、このことは、翼20、22、30、32の対向する上側および下側にモーター60を配置することによって達成される。図1図6に示される実施形態では、各翼に4つの電動モーター60が設けられる。すなわち、翼20、22、30、32の上側に2つの電動モーター60が、翼20、22、30、32の下側に2つの電動モーター60が、互い違いの構成で配置される。別の実施形態では、各翼20、22、30、32に2つの電動モーター60が設けられている。
【0060】
電動モーター60およびそれらの設置用パイロンは、それぞれ枢動操縦翼面50に配置されている。各モーター60はヒンジ点33を中心に回転する。4つのモーター60は、異なる推力線で設置されている。特に、2つのモーター60は、操縦翼面50を水平方向に回転させる推力線を有し、他の2つのモーターは、翼20、22、30、32を垂直方向に回転させる推力線を有している。4つすべてのモーター60が一斉に作動すると、モーメントが相殺され、垂直飛行モードでの安定化が達成される。
【0061】
図3図6に示す一連の翼の調節過程では、離陸翼位置から前進飛行翼位置へ移行する際の、モーター60および操縦翼面50の傾斜の変化が示されている。これらの図に示されるように、前縁部25、35は静止しており、枢動しない。対照的に、モーター60および操縦翼面50は、一体的に枢動する。
【0062】
図6を参照すると、翼が前進飛行のための最終水平位置に到達すると、前縁部25、35と操縦翼面50とが係合し、翼20、22、30、32がそれ以上枢動することが防止される。このことは、翼20、22、30、32および操縦翼面50が相補的な係合面を有していることにより起こる。
【0063】
本発明の第2の実施形態を図7図12に示す。本実施形態では、4つのモーター60はそれぞれ、翼20、22、30、32の下側に配置されている。特に、各モーター60は翼20、22、30、32の下側の位置にヒンジ固定されており、これを用いて前縁部スロット72が形成されることで、揚力係数がさらに増加され、降下中の高傾斜角度でのバフェットが低減される。
【0064】
前縁部スロット72は、前縁部25、35と傾斜操縦翼面50との間の隙間である。スロット72は、図3、4、および5において見ることができ、図6では閉位置にある。前縁部スロット72は図11Aにおいても見られる。
【0065】
図8を参照すると、この構成では、モーター60の回転軸は互いに平行ではない。特に、モーター60のそれぞれの対について、各奇数番モーター60は、操縦翼面50に対して下向きに傾斜した回転軸XXを有し、各偶数番モーター60は、操縦翼面50に対して上向きに傾斜した回転軸YYを有している。このようにして、一方のモーター60は、操縦翼面50を時計回りに回転させる推力線を有し、他方のモーターは、操縦翼面50を反時計回りに回転させる推力線を有している。対のモーター60が同等の回転速度で一斉に作動すると、モーメントが相殺され、垂直飛行モードでの安定化が達成される。
【0066】
航空機10は、各モーター60に別々に制御された電源を供給する。これにより、各モーターに異なる電圧を供給することができるため、各モーター60で可変動力出力を選択的に生成して、左旋回や右旋回などの所望の飛行状態を実現できる。
【0067】
さらに、モーター60の独立した動力により、モーター60を用いて、翼20、22、30、32の後縁部に位置する操縦翼面50を傾斜させることができる。
【0068】
図11A図11Dは、翼20、22、30、32の1つの下側に設置されたモーター60の概略側方図である。ヒンジプレート28は、固定された前縁部25、35に接続され、下向きに延在している。モーター60は、ヒンジ点33でヒンジプレート28に枢動可能に接続されている。プロペラ70およびパイロン構造は、ヒンジ点33を中心に回転する操縦翼面50に固定されている。
【0069】
第2実施形態ではモーター60が翼の下側に設置され、垂直離陸翼位置と水平前進飛行翼位置との間を移行する際の一連の翼の調節過程における、モーター60および操縦翼面50の傾斜の変化が図11A図11Dに示されている。第1の実施形態と同様に、前縁部25、35は静止しており枢動せず、モーター60および操縦翼面50は一体的に枢動する。
【0070】
図12は、図7図11Dのいずれか1つの翼構成における垂直位置と水平位置との間の移行を示す概略断面図である。図示されるように、前翼と後翼との間の垂直方向および水平方向における間隔が示されている。図12には、各翼上の隣接するモーターの推力線が互いに非平行であることも示されており、これにより、ヒンジ点33を中心にモーメントが生じ、これを選択的に使用することで操縦翼面50を回転させることができる。
【0071】
図1図17に示された実施形態では、2つまたは4つのモーター60が各翼20、22、30、32に設置されている。しかしながら、追加のモーター60を航空機10に、例えば翼20、22、30、32、機体24の機首または翼接続部材42に設置してもよい。
【0072】
図15図17に示される実施形態では、2つのモーター60が各翼20、22、30、32に設置されている。設置するモーター60の数を減らすことで、ローター70の直径を大きくすることができる。図17の実施形態に示すように、前方から見ると、ローターブレード70の直径は隣接するローターブレードと重なっている。この重なった構成に適合させるために、モーター60は、ローターブレードの各組が隣接するローターブレードの組に対して(回転軸に対して)長手方向にオフセットされるように設置され、そうすることで隣接するローター同士が接触しないようにするとともに、直径の大きなローターを配置することが可能となる。これを図15に示す。
【0073】
一実施形態においては、ヒンジ機構をモーターポッド構造に統合することで、構造重量をさらに低減することができる。さらに考えられる改善点としては、モーターポッドが複数ある場合、各ポッドにヒンジベアリングを搭載する構成がある。
【0074】
図10を参照すると、モーター60のローターブレード70は、非使用時に下向きに折りたたむことができる。さらに、離着陸時と比較して前進飛行モードでは通常必要とされる推進力が少ないため、前進飛行モードのときにはローターブレード70のいくつかを下向きおよび後ろ向きに折りたたむことができる。
【0075】
有利には、航空機10においては、各モーター60に対して、より小さな分散型ヒンジベアリングの使用が可能であり、これにより冗長化が図られ、大幅な直径の縮小化(したがって、軽量化)が実現する。
【0076】
本発明は、降下中にティルトウィング機が経験するバフェットを劇的に減少させるスロット付き前縁部を備えることができる。
【0077】
揚力および/または前進速度を増加させるために、機体などの翼以外の構造に電動モーター(図示せず)を追加して設置することも可能である。
【0078】
有利には、箱型翼構造は、同じサイズの従来の翼よりも空気力学的に効率的であり、構造的により効率的(したがってより軽量)であり得る。
【0079】
有利には、箱型翼構造を用いることで剛性が増す。
【0080】
有利には、航空機10では、従来のティルトウィング機と比較して、必要とされるベアリングおよび傾斜構造の重量が低減される。これは、従来のティルトウィングでは、回転する堅い構造の1対の大きなベアリング(航空機の機体の両側に1つずつ)が必要なためである。
【0081】
本発明を具体的な例を参照して説明したが、本発明が他の多くの形態で具現化され得ることは当業者には理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図12
図13
図14
図15
図16
図17