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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】電気化学素子の運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/32 20060101AFI20240319BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20240319BHJP
   B01D 53/81 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
B01D53/32 ZAB
B01D53/62
B01D53/81
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023563005
(86)(22)【出願日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2023007056
(87)【国際公開番号】W WO2023167138
(87)【国際公開日】2023-09-07
【審査請求日】2023-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2022033856
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】菅 博史
(72)【発明者】
【氏名】鳥井 淳史
(72)【発明者】
【氏名】中川 剛佑
(72)【発明者】
【氏名】飯田 和希
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-533470(JP,A)
【文献】国際公開第2021/041734(WO,A1)
【文献】特開2017-202941(JP,A)
【文献】国際公開第2022/185903(WO,A1)
【文献】VOSKIAN, Sahag, et al.,Faradaic electro-swing reactive adsorption for CO2 capture,Energy & Environmental Science,ROYAL SOCIETY OF CHEMISTRY,2019年,Vol.12,P.3530-3547
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/32
B01D 53/62
B01D 53/02
C01B 32/50
H01M 12/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の活物質を含む機能電極と、第2の活物質を含むカウンター電極とを備え、所定のガスを吸着および放出するように構成される電気化学素子の運転方法であって、
前記機能電極に前記所定のガスを供給するとともに、第1の吸着電圧を前記機能電極に印加する工程と、
前記機能電極に対する前記所定のガスの供給を維持しながら、前記第1の吸着電圧を前記第1の吸着電圧よりも大きな第2の吸着電圧に切り替える工程と、を含み、
前記機能電極が、前記所定のガスを吸着および放出するように構成されている、
電気化学素子の運転方法。
【請求項2】
前記電気化学素子に流れる電流値を基準として、前記第1の吸着電圧を前記第2の吸着電圧に切り替える、
請求項1に記載の電気化学素子の運転方法。
【請求項3】
前記機能電極に対して前記第2の吸着電圧を印加した後、吸着電圧と逆極性の放出電圧を前記機能電極に印加する工程を、さらに含む、
請求項1または2に記載の電気化学素子の運転方法。
【請求項4】
前記第2の吸着電圧を前記機能電極に印加する工程後に、前記機能電極がさらに前記ガスを吸着し得る第2の吸着残量は、前記第1の吸着電圧を前記機能電極に印加する工程後に、前記機能電極がさらに前記ガスを吸着し得る第1の吸着残量よりも小さい、
請求項1または2に記載の電気化学素子の運転方法。
【請求項5】
前記所定のガスは、二酸化炭素であり、
前記第1の活物質は、アントラキノンを含み、
前記第2の活物質は、ポリビニルフェロセンを含み、
前記第1の吸着電圧は、1.2V以上1.6V未満であり、
前記第2の吸着電圧は、1.6V以上である、
請求項1または2に記載の電気化学素子の運転方法。
【請求項6】
単位時間あたりの平均吸着電圧が、1.4V以下である、
請求項5に記載の電気化学素子の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス混合物から所定のガスを分離・回収する技術の開発が継続的に進められている。特に近年、地球温暖化を軽減するために二酸化炭素(CO)排出量を抑制する必要があり、ガス混合物から二酸化炭素を分離・回収する取り組みがなされている。そのような取り組みの代表例として、二酸化炭素回収・利用・貯留(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage:CCUS)サイクルが知られている。ここで、二酸化炭素の回収に関しては、例えば、化学吸着法、物理吸着法、深冷分離法、膜分離法、電気化学的回収方法が知られている。しかし、現在、これらの技術はいずれも、二酸化炭素の回収能力が不十分であり、かつ、回収に非常に大きなエネルギーが必要であり、実用化に向けて種々の検討課題が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2018-533470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、省エネルギーで効率的に所定のガスを分離・回収することができる電気化学素子の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本発明の実施形態による電気化学素子の運転方法は、第1の活物質を含む機能電極と、第2の活物質を含むカウンター電極とを備え、所定のガスを吸着および放出するように構成される電気化学素子の運転方法であって、前記機能電極に前記所定のガスを供給するとともに、第1の吸着電圧を前記機能電極に印加する工程と、前記機能電極に対する前記所定のガスの供給を維持しながら、前記第1の吸着電圧を前記第1の吸着電圧よりも大きな第2の吸着電圧に切り替える工程とを含む。
[2]上記[1]に記載の電気化学素子の運転方法において、前記電気化学素子に流れる電流値を基準として、前記第1の吸着電圧を前記第2の吸着電圧に切り替えてもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載の電気化学素子の運転方法は、前記機能電極に対して前記第2の吸着電圧を印加した後、吸着電圧と逆極性の放出電圧を前記機能電極に印加する工程をさらに含んでいてもよい。
[4]上記[1]から[3]のいずれかに記載の電気化学素子の運転方法において、前記第2の吸着電圧を前記機能電極に印加する工程後に、前記機能電極がさらに前記ガスを吸着し得る第2の吸着残量は、前記第1の吸着電圧を前記機能電極に印加する工程後に、前記機能電極がさらに前記ガスを吸着し得る第1の吸着残量よりも小さくてもよい。
[5]上記[1]から[4]のいずれかに記載の電気化学素子の運転方法において、前記所定のガスは、二酸化炭素であってもよく、前記第1の活物質は、アントラキノンを含んでいてもよく、前記第2の活物質は、ポリビニルフェロセンを含んでいてもよく、前記第1の吸着電圧は、1.2V以上1.6V未満であってもよく、前記第2の吸着電圧は、1.6V以上であってもよい。
[6]上記[1]から[5]のいずれかに記載の電気化学素子の運転方法において、単位時間あたりの平均吸着電圧が、1.4V以下であってもよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、省エネルギーで効率的に所定のガスを分離・回収することができる電気化学素子の運転方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態の電気化学素子の運転方法に係る電気化学素子の概略斜視図である。
図2図1の電気化学素子のセルが延びる方向に平行な方向の概略断面図である。
図3図1および図2の電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
図4】本発明の別の実施形態に係る電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
図5】本発明のさらに別の実施形態に係る電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
図6】本発明のさらに別の実施形態に係る電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
図7】本発明のさらに別の実施形態に係る電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。
図8】本発明の1つの実施形態の電気化学素子の運転方法を説明する工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
本発明の実施形態による電気化学素子の運転方法は、電気化学的プロセスにより所定のガス(例えば、二酸化炭素)を吸着および放出するように構成される電気化学素子を用いて、ガス混合物から所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収するものである。
【0010】
A.電気化学素子
図1は、本発明の1つの実施形態の電気化学素子の運転方法に係る電気化学素子の概略斜視図であり;図2は、図1の電気化学素子のセルが延びる方向に平行な方向の概略断面図であり;図3は、図1および図2の電気化学素子のセルが延びる方向に直交する方向の要部拡大概略断面図である。図示例の電気化学素子100は、機能電極50と、カウンター電極60とを備える。
【0011】
A-1.機能電極
機能電極は、第1の活物質を含み、所定のガス(例えば、二酸化炭素)を回収および放出するよう構成されている。第1の活物質としては、代表的には、アントラキノンが挙げられる。アントラキノンは、後述する電気化学反応により、二酸化炭素を回収(捕捉、吸着)および放出することができる。アントラキノンは、ポリアントラキノン(すなわち、重合体)であってもよい。ポリアントラキノンとしては、例えば、下記式(I)で表されるポリ(1,4-アントラキノン)、ポリ(1,5-アントラキノン)、ポリ(1,8-アントラキノン)、ポリ(2,6-アントラキノン)が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。
【化1】
【0012】
第1の活物質は、所定のガス(例えば、二酸化炭素)を回収および放出(特に、回収)することができる限りにおいて、アントラキノン以外の任意の適切な物質を用いることができる。このような物質としては、例えば、テトラクロロヒドロキノン(TCHQ)、ヒドロキノン(HQ)、ジメトキシベンゾキノン(DMBQ)、ナフトキノン(NQ)、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、ジヒドロキシベンゾキノン(DHBQ)、およびこれらのポリマーが挙げられる。
【0013】
機能電極は、基質をさらに含んでいてもよい。ここで「基質」とは、電極(層)を賦形し、その形状を維持する成分をいう。さらに、基質は、第1の活物質を担持し得る。基質は、代表的には導電性である。基質としては、例えば、炭素質材料が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、カーボンナノチューブ(例えば、単壁カーボンナノチューブ、多壁カーボンナノチューブ)、カーボンブラック、KetjenBlack、カーボンブラックSuper P、またはグラフェンが挙げられる。基質としてこのような炭素質材料を用いることにより、電子移動を容易に行うことができるので、第1の活物質の酸化還元反応を良好に行うことができる。例えば第1の活物質としてアントラキノンまたはポリアントラキノンを用いる場合、基質の平均細孔径は、好ましくは2nm~50nmであり、より好ましくは2nm~20nmであり、さらに好ましくは3nm~10nmである。平均細孔径が小さすぎると、第1の活物質を内部に担持することができない場合がある。平均細孔径が大きすぎると、機能電極作動中に第1の活物質が脱落する場合がある。基質の平均細孔径は、第1の活物質に応じて変化し得る。例えば第1の活物質としてナフトキノンを用いる場合には、平均細孔径は、上記の2/3程度のサイズが好ましい。なお、平均細孔径は、例えば窒素ガス吸着法におけるBJH解析を用いて算出することができる。
【0014】
機能電極における第1の活物質の含有量は、機能電極の全体質量に対して、例えば10質量%~70質量%であり得、また例えば20質量%~50質量%であり得る。第1の活物質の含有量がこのような範囲であれば、良好なガス回収・放出性能を実現することができる。
【0015】
A-2.カウンター電極
カウンター電極は、第1の活物質の還元の電子源として機能することができ、かつ、第1の活物質の酸化の際の電子の受け手として機能することができる。すなわち、カウンター電極は、機能電極が良好に機能するための補助的な役割を果たす。カウンター電極は、第2の活物質を含む。第2の活物質としては、機能電極との間で電子の授受が良好に機能し得る限りにおいて任意の適切な物質が用いられ得る。第2の活物質としては、例えば、ポリビニルフェロセン、ポリ(3-(4-フルオロフェニル))チオフェン等が挙げられる。カウンター電極は、最も高電位となるためガス混合物中の酸素による酸化耐性が求められる。酸化耐性が得られるならば炭素材を用いて第2の活物質としてもよい。
【0016】
カウンター電極は、基質をさらに含んでいてもよい。基質については、機能電極に関して上記A-1項で説明したとおりである。1つの実施形態においては、第2の活物質は、基質に分散されている。第2の活物質が基質に分散されていることにより、電極内での優れた電子伝導性を実現できる。
【0017】
カウンター電極は、イオン性液体をさらに含んでいてもよい。カウンター電極がイオン性液体を含むことにより、カウンター電極を立体的に機能させることができ、電子の授受の容量を増大させることができる。イオン性液体としては、目的、電気化学素子の構成等に応じて任意の適切なイオン性液体を用いることができる。イオン性液体は、代表的には、アニオン成分とカチオン成分とを含み得る。イオン性液体のアニオン成分としては、例えば、ハロゲン化物、硫酸、スルホン酸、炭酸、重炭酸、リン酸、硝酸、硝酸、酢酸、PF 、BF 、トリフレート、ノナフレート、ビス(トリフリル)アミド、トリフルオロ酢酸、ヘプタフルオロブタン酸、ハロアルミネート、トリアゾリド、アミノ酸誘導体(例えば窒素上のプロトンが除去されているプロリン)が挙げられる。イオン性液体のカチオン成分としては、例えば、イミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ホスホニウム、アンモニウム、スルホニウム、チアゾリウム、ピラゾリウム、ピペリジニウム、トリアゾリウム、ピラゾリウム、オキサゾリウム、グアナジニウム、ジアルキルモルホリニウムが挙げられる。イオン性液体は、例えば、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩([Bmim][BF)であり得る。分離・回収するガス種が二酸化炭素である場合は、電位窓の関係から水が電気分解する場合があるので、非水系イオン性液体を用いることが好ましい。
【0018】
カウンター電極における第2の活物質の含有量は、カウンター電極の全体質量に対して、例えば10質量%~90質量%であり得、また例えば30質量%~70質量%であり得る。第2の活物質の含有量がこのような範囲であれば、電解液(イオン性液体)の使用量を低減できるとともに、カウンター電極内の第2の活物質を有効的に活用することができる。
【0019】
カウンター電極にイオン性液体が含有される場合、その含有量は、カウンター電極の全体質量に対して、例えば10質量%~90質量%であり得、また例えば30質量%~70質量%であり得る。イオン性液体の含有量がこのような範囲であれば、長期間にわたって電解液(イオン性液体)を機能電極に供給し続けることができる。
【0020】
A-3.支持体
本発明の1つの実施形態においては、機能電極50およびカウンター電極60は、支持体80に支持される。支持体80は、外周壁10と;外周壁10の内側に配設され、第1端面20aから第2端面20bまで延びる複数のセル30、30、・・・を規定する隔壁40と;を有する。
【0021】
複数のセル30、30、・・・は、第1のセル30aと第2のセル30bとを有する。第1のセル30aを規定する隔壁40の表面には、第1の活物質を含む機能電極50が形成されている。このような構成であれば、十分な強度を確保しながら所定流量のガス混合物(実質的には、分離・回収すべきガス)と機能電極との接触面積を非常に大きくすることができる。その結果、きわめて高効率で所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収することができる。さらに、小規模設備で効率的に所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収することが可能となり、かつ、当該ガスの分離・回収に必要とされるエネルギーを大幅に削減することができる。このように、本発明の1つの実施形態によれば、電気化学素子の基本構造として上記のようないわゆるハニカム構造を採用することにより、省エネルギーおよび小規模設備で効率的にガスを分離・回収することができる。
【0022】
第1のセル30aのセルが延びる方向に直交する方向の断面における中央部(すなわち、機能電極50が形成されていない部分)には、ガス流路70が形成されている。機能電極50は、図示例のように隔壁40の全面に(すなわち、ガス流路70を包囲するようにして)形成されてもよく、隔壁の表面の一部に形成されてもよい。ガスの分離・回収効率を考慮すると、機能電極50は隔壁40の全面に形成されていることが好ましい。
【0023】
機能電極50の厚みは、例えば20μm~300μmであり得、また例えば100μm~200μmであり得る。機能電極の厚みがこのような範囲であれば、良好なガス回収・放出性能を維持しつつ、所望のガス流路を確保することができる。
【0024】
機能電極50は、例えば、第1の活物質と基質と結着用バインダーとを含む機能電極形成材料を隔壁表面に乾式減圧塗布および熱処理することにより形成され得る。
【0025】
第2のセル30bの内部には、第2の活物質を含むカウンター電極60が配置されている。第2のセル30bは、代表的には、カウンター電極60で充填されている。セル30bがカウンター電極で充填されることにより、長期間にわたって電解液(イオン性液体)を機能電極に供給し続けることができる。
【0026】
カウンター電極60は、例えば、第2の活物質と基質と好ましくはイオン性液体と必要に応じて溶媒または分散媒とを含むカウンター電極形成材料をセル内に配置することにより(代表的には、セルを充填することにより)形成され得る。
【0027】
第1のセル30aおよび第2のセル30bの配列パターンは、本発明の実施形態による効果が得られる限りにおいて、目的に応じて適切に設定され得る。図1図3に示す例においては、第1のセル30aおよび第2のセル30bは交互に(すなわち、市松パターンで)配列されている。このような構成であれば、カウンター電極を良好に機能させることができるので、機能電極における電気化学反応を良好に行うことができる。また、カウンター電極が機能し得る数(割合)を確保し得る限りにおいて、複数のセル30、30、・・・における第2のセル30bの割合を減らしてもよい。すなわち、第1のセル30a(実質的には、機能電極50およびガス流路70)の割合を増やしてもよい。例えば、図4図7に示す例においては、第2のセル30bは、互いに隣接しないように配列されている。この場合、第1のセル30aは、互いに隣接するように配列されていてもよい。ここで、「互いに隣接しない」とは、2つのセルが、それぞれのセルを規定する隔壁の各辺も頂点も共有しないことをいう。このような構成であれば、所定流量のガス混合物(実質的には、分離・回収すべきガス)と機能電極との接触面積をさらに大きくすることができ、その結果、ガスの分離・回収性能をさらに増大させることができる。この場合、第1のセル30aは、代表的には、少なくとも1つの第2のセル30bと隔壁40を共有し得る。例えば、第2のセル30bは、図4図7のそれぞれに示すように配列されてもよい。
【0028】
セル30、30、・・・は、セルの延びる方向に直交する方向において、任意の適切な断面形状を有する。図1図5に示す例においては、セルを規定する隔壁40が互いに直交し、外周壁10と接する部分を除いて四角形(図示例では正方形)の断面形状を有するセルが規定される。1つの実施形態においては、セルの断面形状は、同一形状の四角形(例えば、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形)である。セルの断面形状は、正方形以外に、円形、楕円形、三角形、五角形、六角形以上の多角形などの形状としてもよい。例えば、図6および図7に示す例において、セルの断面形状は、六角形である。このような構成であれば、機能電極およびカウンター電極の形成が容易であり、かつ、ガスを流したときの圧力損失が小さく、分離・回収性能が優れるという利点がある。
【0029】
セルの延びる方向に直交する方向におけるセル密度(すなわち、単位面積当たりのセル30、30、・・・の数)は、目的に応じて適切に設定され得る。セル密度は、例えば4セル/cm~320セル/cmであり得る。セル密度がこのような範囲であれば、所定流量のガス混合物(実質的には、分離・回収すべきガス)と機能電極との接触面積を非常に大きくすることができる。その結果、きわめて高効率で所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収することができる。例えば、機能電極とカウンター電極とをセパレーターを介して対向させた平板状のガス分離素子の実装密度が0.2m/L程度であるのに対し、上記のような構成であれば2m/L程度(約10倍)の実装密度を確保することができる。その結果、小規模設備で効率的に所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収することが可能となり、かつ、当該ガスの分離・回収に必要とされるエネルギーを大幅に削減することができる。さらに、このような実装密度を確保することにより、大気中からの二酸化炭素の分離・回収(Direct Air Capture:DAC)が可能となり得る。
【0030】
支持体80(外周壁10および隔壁40)は、代表的には、絶縁性セラミックスを含む多孔体で構成されている。絶縁性セラミックスは、代表的には、コージェライト、アルミナあるいは炭化珪素および珪素(以下、炭化珪素-珪素複合材と称する場合がある)を含有する。セラミックスは、コージェライト、アルミナ、炭化珪素および珪素を合計で例えば90質量%以上、また例えば95質量%以上含有する。このような構成であれば、外周壁および隔壁の400℃における体積抵抗率を十分に高くすることができ、電子伝導性に起因するリーク電流を抑えることができる。したがって、機能電極50およびカウンター電極60の全体にわたって所望の電気化学反応のみを良好に行うことができる。セラミックスには、炭化珪素-珪素複合材以外の物質が含まれていてもよい。このような物質としては、例えばストロンチウムが挙げられる。
【0031】
炭化珪素-珪素複合材は、代表的には、骨材としての炭化珪素粒子と、炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素と、を含む。炭化珪素-珪素複合材は、例えば、複数の炭化珪素粒子が炭化珪素粒子間に細孔(空隙部)を形成するようにして珪素により結合されている。すなわち、炭化珪素-珪素複合材を含む隔壁40および外周壁10は、例えば多孔体であり得る。
【0032】
炭化珪素-珪素複合材における珪素の含有比率は、好ましくは10質量%~40質量%であり、より好ましくは15質量%~35質量%である。珪素の含有比率が小さすぎると、外周壁および隔壁の強度が不十分となる場合がある。珪素の含有比率が大きすぎると、外周壁および隔壁の焼成時に形状を保持できない場合がある。
【0033】
炭化珪素粒子の平均粒子径は、好ましくは3μm~50μmであり、より好ましくは3μm~40μmであり、さらに好ましくは10μm~35μmである。炭化珪素粒子の平均粒子径がこのような範囲であれば、外周壁および隔壁の体積抵抗率を上記のような適切な範囲とすることができる。炭化珪素粒子の平均粒子径が大きすぎると、外周壁および隔壁を成形する際に、成形用の口金に原料が詰まってしまう場合がある。炭化珪素粒子の平均粒子径は、例えばレーザー回折法により測定され得る。
【0034】
支持体80(外周壁10および隔壁40)の平均細孔径は、好ましくは2μm~20μmであり、より好ましくは10μm~20μmである。外周壁および隔壁の平均細孔径がこのような範囲であれば、イオン性液体を良好に含浸させることができる。平均細孔径が大きすぎると、カウンター電極または機能電極中の炭素質材料が隔壁内部に流出する場合があり、その結果、内部短絡が発生する場合がある。平均細孔径は、例えば水銀ポロシメータにより測定され得る。
【0035】
支持体80(外周壁10および隔壁40)の気孔率は、好ましくは15%~60%であり、より好ましくは30%~45%である。気孔率が小さすぎると、外周壁および隔壁の焼成時の変形が大きくなってしまう場合がある。気孔率が大きすぎると、外周壁および隔壁の強度が不十分となる場合がある。気孔率は、例えば水銀ポロシメータにより測定され得る。
【0036】
隔壁40の厚みは、目的に応じて適切に設定され得る。隔壁40の厚みは、例えば50μm~1.0mmであり、また例えば70μm~600μmであり得る。隔壁の厚みがこのような範囲であれば、電気化学素子の機械的強度を十分なものとすることができ、かつ、開口面積(断面におけるセルの総面積)を十分なものとすることができ、ガスの分離・回収効率を顕著に向上させることができる。
【0037】
隔壁40の密度は、目的に応じて適切に設定され得る。隔壁40の密度は、例えば0.5g/cm~5.0g/cmであり得る。隔壁の密度がこのような範囲であれば、電気化学素子を軽量化することができ、かつ、機械的強度を十分なものとすることができる。密度は、例えばアルキメデス法により測定され得る。
【0038】
外周壁10の厚みは、本発明の1つの実施形態においては、隔壁40の厚みより大きい。このような構成であれば、外力による外周壁の破壊、割れ、クラック等を抑制することができる。外周壁10の厚みは、例えば0.1mm~5mmであり、また例えば0.3mm~2mmであり得る。
【0039】
本発明の1つの実施形態において、隔壁40および外周壁10の空隙部には、イオン性液体が含浸されている。このような構成であれば、隔壁および外周壁(特に、隔壁)が、機能電極とカウンター電極との間のセパレーターとして良好に機能し得る。さらに、イオン性液体が含浸されることにより、電子伝導性を抑え、所望の電気化学反応のみを効率的に行うことができる。1つの実施形態においては、機能電極に含まれるイオン性液体は、外周壁および隔壁(特に、隔壁)に含まれるイオン性液体と同一である。このような構成であれば、電気化学素子の製造が簡便・容易であり、機能電極の電気化学反応に対する悪影響が防止され得る。
【0040】
電気化学素子の形状は目的に応じて適切に設計され得る。図示例の電気化学素子100は円柱状(セルの延びる方向に直交する方向の断面形状が円形)であるが、電気化学素子は、断面形状が例えば楕円形または多角形(例えば、四角形、五角形、六角形、八角形)の柱状であってもよい。電気化学素子の長さは、目的に応じて適切に設定され得る。電気化学素子の長さは、例えば5mm~500mmであり得る。電気化学素子の直径は、目的に応じて適切に設定され得る。電気化学素子の直径は、例えば20mm~500mmであり得る。なお、電気化学素子の断面形状が円形でない場合には、電気化学素子の断面形状(例えば、多角形)に内接する最大内接円の直径を電気化学素子の直径とすることができる。電気化学素子のアスペクト比(直径:長さ)は、例えば1:12以下であり、また例えば1:5以下であり、また例えば1:1以下である。アスペクト比がこのような範囲であれば、集電抵抗を適切な範囲とすることができる。
【0041】
上記では、便宜上、1つの電気化学素子100を図示して、電気化学素子100の構成を説明したが、本発明の1つの実施形態に用いられる電気化学素子は、複数であってもよい。複数の電気化学素子が用いられる場合、複数の電気化学素子は、ガス流路が互いに通じるように、セルの延びる方向に並んでいてもよい。また、本発明の1つの実施形態では、セルの延びる方向に並ぶ複数の電気化学素子の列は、セルの延びる方向と直交する方向に複数配置されていてもよい。
【0042】
なお、上記した本発明の1つの実施形態では、電気化学素子100は、複数のセル30を有する支持体80を備え、支持体80が機能電極50およびカウンター電極60を支持するが、電気化学素子は、これに限定されない。例えば、電気化学素子は、機能電極とカウンター電極とをセパレーターを介して対向させた平板状のガス分離素子を、ガス分離素子の厚み方向と平行な方向に互いに間隔を空けて複数備えてもよい。そのような電気化学素子として、例えば、特表2018-533470号公報に記載される電気化学セルが挙げられる。
【0043】
A-4.電気化学反応
電気化学素子100の動作の概要について説明する。例えば、分離・回収すべきガスが二酸化炭素であり、機能電極50の第1の活物質がアントラキノンを含み、カウンター電極60の第2の活物質がポリビニルフェロセンを含む場合について説明する。機能電極50のアントラキノンは、充電モード(機能電極が負極)において、吸着電圧として正電圧が印加されると還元され得る。
【0044】
ここで、電気化学素子のガス流路70に二酸化炭素を含むガス混合物を流すと、機能電極50の還元状態のアントラキノンと二酸化炭素との間で以下の反応(1)が起こり、二酸化炭素がアントラキノンに捕捉される。このようにして、二酸化炭素を回収することができる。
【化2】
【0045】
このとき、カウンター電極60のポリビニルフェロセンは酸化され得る。すなわち、ポリビニルフェロセンは、充電モードにおいて、アントラキノンの還元の電子源として機能することができる。
【0046】
また、機能電極50のアントラキノンは、放電モード(機能電極が正極)において、吸着電圧と逆極性の放出電圧として負電圧が印加されると酸化され得る。
【0047】
ここで、機能電極50において二酸化炭素を捕捉したアントラキノンが酸化されると、以下の反応(2)が起こり、アントラキノンに捕捉されていた二酸化炭素は、アントラキノンとの結合が解かれる。このようにして、二酸化炭素を機能電極50からガス流路70に放出することができる。
【化3】
【0048】
このとき、カウンター電極60のポリビニルフェロセンは還元され得る。すなわち、ポリビニルフェロセンは、放電モードにおいて、アントラキノンの酸化の際の電子の受け手として機能することができる。
【0049】
以上のように、機能電極(および必然的にカウンター電極)の極性を入れ替えることにより、電気化学素子(実質的には、機能電極)は、二酸化炭素を回収(捕捉、吸着)および放出することができる。特に、充電モードにおける還元状態のアントラキノンを利用することにより、ガス混合物から二酸化炭素を分離・回収(捕捉)することができる。このようにして、電気化学素子100は、二酸化炭素を回収することができる。
【0050】
以下、電気化学素子の運転方法について説明する。
【0051】
B.電気化学素子の運転方法
本発明の1つの実施形態による電気化学素子の運転方法は、機能電極に所定のガス(例えば、二酸化炭素)を供給するとともに、第1の吸着電圧を機能電極に印加する工程と;機能電極に対する所定のガス(例えば、二酸化炭素)の供給を維持しながら、第1の吸着電圧を第1の吸着電圧よりも大きな第2の吸着電圧に切り替える工程とを含む。第1の吸着電圧を機能電極に印加する工程、および、第1の吸着電圧を第2の吸着電圧に切り替える工程は、機能電極に所定のガス(例えば、二酸化炭素)を吸着させるガス吸着工程である。このような方法によれば、単位時間あたりの平均吸着電圧の低減を図りながら、きわめて高効率で所定のガス(例えば、二酸化炭素)を分離・回収することができる。例えば、工場や火力発電所の排ガスは10%程度の二酸化炭素を含むところ、そのような排ガスと同様の構成のガス混合物を、本発明の1つの実施形態による電気化学素子の運転方法により、二酸化炭素濃度を0.1%以下まで低減することができる。その結果、電気化学素子の劣化を抑制でき、電気化学素子の長寿命化を図りながら、所定のガス(例えば、二酸化炭素)の分離・回収に必要とされるエネルギーを大幅に削減することができる。
【0052】
このように、本発明の1つの実施形態によれば、ガス吸着工程の前段(初期段階)において比較的小さい吸着電圧を機能電極に印加し、ガス吸着工程の後段(末期段階)において比較的大きい吸着電圧を機能電極に印加することにより、省エネルギーで効率的にガスを分離・回収することができる。図8は、本発明の実施形態による電気化学素子の運転方法を説明する工程フロー図である。以下、各工程について図8を参照して説明する。
【0053】
まず、機能電極50に所定のガス(例えば、二酸化炭素)を供給するとともに、第1の吸着電圧を機能電極50に印加する。本発明の1つの実施形態において、機能電極50に二酸化炭素を含むガス混合物を供給するとともに、第1の吸着電圧E1を機能電極50に印加する。より詳しくは、機能電極50に対する第1の吸着電圧E1の印加を開始した後(S1)、ガス流路70に二酸化炭素を含むガス混合物を通過させて、機能電極50に対するガス混合物の供給を開始する(S2)。第1の吸着電圧E1は、例えば、定電圧電源から機能電極50に印加される。
【0054】
本発明の1つの実施形態において、第1の吸着電圧E1は、例えば、1.0V~1.6Vである。第1の活物質がアントラキノンを含む場合、第1の吸着電圧E1は、好ましくは1.2V~1.6V、より好ましくは1.2V~1.4V、特に好ましくは1.2V~1.3Vである。
第1の吸着電圧E1がこのような範囲であれば、単位時間あたりの平均吸着電圧の低減を図り、電気化学素子の劣化を抑制できるとともに、所定のガスの吸着工程の前段において、第1の活物質に所定のガスを安定して吸着させることができる。例えば、所定のガスが二酸化炭素であり、機能電極の第1の活物質がアントラキノンを含む場合、第1の吸着電圧E1が機能電極に印加されると、以下の式(1-1)のように、アントラキノンが有する2つのカルボニル基のうち、一方のカルボニル基がアニオン化するとともに他方のカルボニル基がラジカル化し、アニオン化したカルボニル基が二酸化炭素と反応して二酸化炭素を捕捉し得る。
【化4】
このようにして、第1の吸着電圧が機能電極に印加されたときに、アントラキノン1分子は、二酸化炭素1分子を捕捉できる。
【0055】
次いで、本発明の1つの実施形態では、電気化学素子100に流れる電流値Iを基準として、第1の吸着電圧を第2の吸着電圧に切り替える。このような方法によれば、電気化学素子100に流れる電流値Iにより、機能電極50に対する所定のガス(例えば、二酸化炭素)の吸着量を確認しながら、適切なタイミングで第1の吸着電圧を第2の吸着電圧に切り替えることができる。そのため、所定のガス(例えば、二酸化炭素)の分離・回収に要するエネルギーの低減をより一層図ることができる。
【0056】
具体的には、機能電極50に対する第1の吸着電圧E1の印加を開始した後、電気化学素子100に流れる電流値Iをモニタリングする。機能電極50に所定のガスの吸着が進むにつれて、機能電極50の抵抗は大きくなり得る。これによって、一定の第1の吸着電圧E1の印加を継続すると、電気化学素子100に流れる電流値Iは、徐々に低下し得る。
【0057】
その後、電気化学素子100に流れる電流値Iが、予め設定された第1の閾値T1未満となるまで、機能電極50に対する第1の吸着電圧E1の印加を継続する(S3のno)。
【0058】
電気化学素子100に流れる電流値Iが、予め設定された第1の閾値T1未満となると(S3のYes)、機能電極50に対するガス混合物の供給を維持しながら、第1の吸着電圧を第2の吸着電圧に切り替える(S4)。
【0059】
第1の閾値T1は、第1の吸着残量に基づいて予め設定できる。例えば、吸着電圧E1における機能電極50の吸着残量が30%に到達したときの電流値Iを実測(あるいはシュミレーションにより算出)して、当該電流値Iを第1の閾値T1とすることができる。
第1の吸着残量は、第1の吸着電圧を機能電極に印加する工程(第1印加工程)における目標値であって、第1印加工程後に機能電極がさらにガスを吸着し得る吸着能を意味する。第1の吸着残量は、機能電極の初期吸着容量(最大吸着容量)から、第1印加工程で使用される機能電極の吸着容量(第1吸着容量)を減算することにより求められる。
所定のガスが二酸化炭素である場合、機能電極の初期吸着容量(最大吸着容量)は、機能電極に5~20体積%の二酸化炭素を含むガス混合物(残ガスをNバランスさせたもの)を供給するとともに、機能電極に2.0V(上限電圧)を印加し、電圧印加1分後の電流を(i 0)としたときに、(i 0)の1/100まで電流が低下するまでのクーロン量(単位はクーロンC、あるいはアンペアアワーAhでもよい)と定義される。
所定のガスが二酸化炭素である場合、第1の吸着残量は、二酸化炭素の脱離処理が終了した後、第1印加工程で二酸化炭素を吸着させたクーロン量を(i 1)としたときに、(i 0 - i 1)と定義される。測定の誤差により第1の吸着残量がマイナスとなる場合は、残量ゼロと定義される。
【0060】
また、第1の吸着電圧E1と第2の吸着電圧E2との切り替えの基準は、電気化学素子に流れる電流値に限定されない。第1の吸着電圧E1と第2の吸着電圧E2との切り替えの基準は、例えば、第1の吸着電圧E1の印加時間であってもよい。
【0061】
本発明の1つの実施形態において、第2の吸着電圧E2は、例えば、1.4V~2.0Vである。第1の活物質がアントラキノンを含む場合、第2の吸着電圧E2は、好ましくは1.6V~2.0V、より好ましくは、1.8V~2.0Vである。第2の吸着電圧E2の上限値は特に限定されず、使用される電解液やイオン液体の分解に対する電位窓によって2.0Vより高く設定してもよい。
第2の吸着電圧E2がこのような範囲であれば、所定のガスの吸着工程の後段において、第1の活物質に所定のガスを十分に吸着させることができる。例えば、所定のガスが二酸化炭素であり、機能電極の第1の活物質がアントラキノンを含む場合、第2の吸着電圧E2が機能電極に印加されると、上記した式(1-1)でラジカル化したカルボニル基は、以下の式(1-2)のように、電子を受容してアニオン化した後、二酸化炭素と反応して二酸化炭素を捕捉し得る。
【化5】
このようにして、第2の吸着電圧が機能電極に印加されたときに、アントラキノン1分子は、二酸化炭素1分子をさらに捕捉できる。
【0062】
その後、電流値Iが、第2の吸着電圧E2へと切り替え1分後の電流値(初期電圧I)の1/10以下となるまで、あるいは、第2の吸着残量が10%未満となるまで、機能電極50に対するガス混合物の供給を維持しながら、機能電極50に対する第2の吸着電圧E2の印加を継続する(S5のno)。なお、図8では、便宜上、電流値Iが初期電圧Iの1/10以下となるまで、第2の吸着電圧E2の印加を継続する実施形態を示す。
【0063】
本発明の1つの実施形態において、第2の吸着残量は、上記した第1の吸着残量よりも小さい。
第2の吸着残量は、第1の吸着電圧を第2の吸着電圧に切り替え、第2の吸着電圧を機能電極に印加する工程(第2印加工程)後に機能電極がさらにガスを吸着し得る吸着能を意味する。第2の吸着残量は、上記した初期吸着容量(最大吸着容量)から、第1印加工程および第2印加工程で使用された機能電極の吸着容量(第2吸着容量)を減算することにより求められる。
所定のガスが二酸化炭素である場合、第2の吸着残量は、二酸化炭素の脱離処理が終了した後、第1印加工程および第2印加工程で二酸化炭素を吸着させたクーロン量の総和を(i 1)としたときに、(i 0 - i 1)と定義される。測定の誤差により第2の吸着残量がマイナスとなる場合は、残量ゼロと定義される。
【0064】
電流値Iが初期電圧Iの1/10以下、あるいは、第2の吸着残量が10%未満となると(S5のYes)、機能電極50に対するガス混合物の供給を停止した後(S6)、機能電極50に対する第2の吸着電圧E2の印加を停止する(S7)。
【0065】
以上によって、ガス吸着工程が完了する。
第2の吸着電圧E2の印加時間は、好ましくは、第1の吸着電圧E1の印加時間以下である。本発明の1つの実施形態において、第2の吸着電圧E2の印加時間の割合は、第1の吸着電圧E1の印加時間と第2の吸着電圧E2の印加時間との総和に対して、例えば、10%~50%、好ましくは、20%~30%である。
【0066】
本発明の1つの実施形態において、ガス吸着工程における単位時間当たりの平均吸着電圧は、好ましくは1.5V以下、よりこの好ましくは1.4Vである。なお、ガス吸着工程における単位時間当たりの平均吸着電圧は、下記式により算出できる。
ガス吸着工程における単位時間当たりの平均吸着電圧=((第1の吸着電圧E1×第1の吸着電圧E1の印加時間)+(第2の吸着電圧E2×第2の吸着電圧E2の印加時間))/(第1の吸着電圧E1の印加時間と第2の吸着電圧E2の印加時間との総和)
【0067】
また、本発明の1つの実施形態による電気化学素子の運転方法は、機能電極50に対して第2の吸着電圧E2を印加した後、吸着電圧と逆極性の放出電圧を機能電極50に印加するガス放出工程をさらに含む。言い換えれば、本発明の1つの実施形態による電気化学素子の運転方法は、ガス吸着工程の完了後に、ガス放出工程を含んでもよい。
【0068】
ガス放出工程では、機能電極50(および必然的にカウンター電極60)の極性を入れ替えて、機能電極50に放出電圧としての負電圧が印加される。すると、機能電極50に捕捉されていた所定のガス(例えば、二酸化炭素)がガス流路70に放出され得る。放出された所定のガス(例えば、二酸化炭素)は、回収されて各種用途(例えば、メタン化反応の原料)に使用される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の実施形態による電気化学素子の運転方法は、ガス混合物からの所定ガスの分離・回収に好適に用いられ得、特に、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)サイクルに好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0070】
10 外周壁
30 セル
30a 第1のセル
30b 第2のセル
40 隔壁
50 機能電極
60 カウンター電極
70 ガス流路
100 電気化学素子

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8