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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-18
(45)【発行日】2024-03-27
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240319BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240319BHJP
   C08K 5/5397 20060101ALI20240319BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240319BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L51/04
C08K5/5397
C08K5/13
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023570280
(86)(22)【出願日】2023-09-06
(86)【国際出願番号】 JP2023032448
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2023052715
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望田 諭嗣
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-028135(JP,A)
【文献】特開2015-212349(JP,A)
【文献】特表2009-518515(JP,A)
【文献】特開2006-328355(JP,A)
【文献】特開2006-219515(JP,A)
【文献】特開2005-112907(JP,A)
【文献】特開平9-048918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 51/04
C08K 5/5397
C08K 5/13
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量が17500~30000のポリカーボネート樹脂(A)55~90質量%、及び芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体(B)10~45質量%を含有する(A)及び(B)の合計100質量部に対し、
アリールホスフィンオキシド(C)0.001~0.3質量部、及びフェノール構造を有する化合物(D)0.001~0.3質量部を含有し、
フェノール構造を有する化合物(D)が4-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、4-α-クミルフェノール、ビスフェノールAのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
アリールホスフィンオキシド(C)が、トリフェニルホスフィンオキシドである請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、アリールホスフィン(E)を、前記(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.001~0.3質量部を含有する請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
アリールホスフィン(E)が、トリフェニルホスフィンである請求項3に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物のペレット。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
【請求項7】
請求項5に記載のポリカーボネート樹脂組成物のペレットからなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、耐候性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性等の機械的特性に優れ、且つ耐熱性、透明性等にも優れるので、各種光学部品、電気・電子機器部品、自動車内外装部品、OA機器部品、シート、機械部品、建材などの多くの用途に広く用いられている。
しかし、ポリカーボネート樹脂は耐候性が十分ではなく、例えば、屋外での使用、または蛍光灯照射下での室内使用においては、製品の変色あるいは強度の低下が見られることから使用がある程度制限されていた。
【0003】
このため、従来から種々の光安定剤が単独であるいは数種組み合わせて用いられており、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤を配合することが知られている。しかし、このような紫外線吸収剤をポリカーボネート樹脂へ配合した場合には、溶融混練・成形加工時における熱劣化により、ポリカーボネート樹脂組成物の色相を悪化させる問題がある。
また、各種の添加剤を含有させることで高機能化することも行われており、例えば、特許文献1では、ポリカーボネート樹脂85~95質量%にトリフェニルホスフェートを5~15質量%混合することにより、寸法安定性、機械的強度、流動性に優れた繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物が得られることが記載されている。
【0004】
近年は、各種機器の高機能化、高性能化が急速に進展する中で、ポリカーボネート樹脂には、特に耐候性の向上が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3308657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的(課題)は、耐候性に優れ、良好な耐衝撃性や耐熱性、流動性(成形性)を有するポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、ABS樹脂等のグラフト重合体との樹脂アロイにおいて、アリールホスフィンオキシド及び特定のフェノール構造を有する化合物をそれぞれ少量含有するポリカーボネート樹脂組成物が、良好な耐衝撃性や耐熱性を有しながら、耐候性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物及び成形体に関する。
【0008】
1.粘度平均分子量が17500~30000のポリカーボネート樹脂(A)55~90質量%、及び芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体(B)10~45質量%を含有する(A)及び(B)の合計100質量部に対し、
アリールホスフィンオキシド(C)0.001~0.3質量部、及びフェノール構造を有する化合物(D)0.001~0.3質量部を含有し、
フェノール構造を有する化合物(D)が4-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、4-α-クミルフェノール、ビスフェノールAのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
2.アリールホスフィンオキシド(C)が、トリフェニルホスフィンオキシドである上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.さらに、アリールホスフィン(E)を、前記(A)及び(B)の合計100質量部に対し、0.001~0.3質量部を含有する上記1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
4.アリールホスフィン(E)が、トリフェニルホスフィンである上記3に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
5.上記1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物のペレット。
6.上記1~4のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
7.上記5に記載のポリカーボネート樹脂組成物のペレットからなる成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高度の耐候性を有し、且つ耐衝撃性や耐熱性、流動性(成形性)に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、粘度平均分子量が17500~30000のポリカーボネート樹脂(A)55~90質量%、及び芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体(B)10~45質量%を含有する(A)及び(B)の合計100質量部に対し、アリールホスフィンオキシド(C)0.001~0.3質量部、及びフェノール構造を有する化合物(D)0.001~0.3質量部を含有し、
フェノール構造を有する化合物(D)が4-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、4-α-クミルフェノール、ビスフェノールAのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0012】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明において使用するポリカーボネート樹脂(A)は、その種類に制限は無く、また、1種のみを用いてもよく、2種以上を、任意の組み合わせ及び任意の比率で、併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。中でも、ポリカーボネート樹脂(A)としては、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0013】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0014】
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0015】
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0016】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0017】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-t-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-t-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0018】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0019】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0020】
これらの中ではビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0022】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0023】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0024】
ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。これらの中では、界面重合法、溶融エステル交換法によるものが耐湿熱性の向上効果がより高い点から好ましく、界面重合法が特に好ましい。
【0025】
ポリカーボネート樹脂(A)は、粘度平均分子量(Mv)が17500~30000の範囲にあるものを使用する。粘度平均分子量(Mv)がこのような範囲にあるものを使用し、アリールホスフィンオキシド(C)及びアリールホスフィン(D)を含有することで、良好な耐衝撃性や耐熱性、流動性(成形性)を有し、耐候性に優れたポリカーボネート樹脂組成物とすることができる。Mvが17500より低いポリカーボネート樹脂を用いた場合は耐衝撃性が不十分であり、耐候性も悪くなり、耐熱性も低下しやすい。30000を超えるポリカーボネート樹脂を用いた場合は流動性が悪くなりやすく、300℃以上での高温成形が必要となるためグラフト共重合体(B)の熱劣化を起こし耐衝撃性が悪くなりやすい。
粘度平均分子量(Mv)は、好ましくは18000以上、中でも18500以上、19000以上、19500以上であり、特に20000以上が好ましく、好ましくは29000以下、より好ましくは26000以下である。
なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合して、上記範囲に調整することでもよい。
【0026】
なお、ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量Mvとは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0027】
また、成形体の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1500以上、好ましくは2000以上であり、また、通常9500以下、好ましくは9000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートオリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0028】
さらにポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよく、バージン原料とリサイクル樹脂の両方を含有することも好ましく、リサイクルポリカーボネート樹脂からなることでもよい。ポリカーボネート樹脂(A)中のリサイクルポリカーボネート樹脂の割合は40%以上、50%以上、60%以上、80%以上が好ましく、100%であることも特に好ましい。
【0029】
[グラフト共重合体(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物が含有するグラフト共重合体(B)は、芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体である。グラフト共重合体(B)は、好ましくは、芳香族ビニル単量体成分(b1)40~80質量%、シアン化ビニル単量体成分(b2)10~30質量%、ジエン系ゴム質重合体成分(b3)10~50質量%からなることが好ましく、さらにその他の単量体成分(b4)0~30質量%を含有することもできる。
【0030】
グラフト共重合体(B)における芳香族ビニル単量体成分(b1)としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等が挙げられ、特にスチレンが好ましい。
芳香族ビニル単量体成分(b1)のグラフト共重合体(B)中の割合は、グラフト共重合体(B)100質量%中、好ましくは40~80質量%の範囲であり、より好ましくは45質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下、特に好ましくは65質量%以下である。
【0031】
グラフト共重合体(B)におけるシアン化ビニル単量体成分(b2)としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
シアン化ビニル単量体成分(b2)のグラフト共重合体(B)中の割合は、グラフト共重合体(B)100質量%中、好ましくは10~30質量%の範囲であり、より好ましくは12質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは28質量%以下、さらに好ましくは26質量%以下、特に好ましくは25質量%以下である。
【0032】
グラフト共重合体(B)のジエン系ゴム質重合体成分(b3)としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体等のゴム成分が用いられ、ジエン系ゴム質重合体成分(b3)のグラフト共重合体(B)中の割合は、グラフト共重合体(B)100質量%中、好ましくは10~50質量%の範囲であり、より好ましくは13質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上、特に好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは45質量%以下である。
【0033】
さらに、これらと共重合可能なその他の単量体成分(b4)を共重合したものでもよく、この場合、共重合可能な他のビニルモノマーとしては、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド系モノマー、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和酸無水物、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和酸、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート等が挙げられる。
その他の単量体成分(b4)のグラフト共重合体(B)中の割合は、グラフト共重合体(B)100質量%中、好ましくは0~30質量%の範囲であり、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、中でも5質量%以下、とりわけ3質量%以下、特には2質量%以下であることが好ましい。
【0034】
グラフト共重合体(B)の具体例としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン-α-メチルスチレングラフト共重合体、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン共重合体等が好ましく例示され、中でもアクリロニトリル-ブタジエン-スチレングラフト共重合体(ABS樹脂)が特に好ましい。
【0035】
グラフト共重合体(B)は、通常、塊状重合、溶液重合、懸濁重合及び乳化重合等の方法で製造され、いずれの方法によるものでも使用可能である。
【0036】
グラフト共重合体(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)とグラフト共重合体(B)の合計100質量%基準で、10~45質量%であり、好ましくは12質量%以上、より好ましくは15質量%以上、好ましくは42質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。含有量がこのような範囲にあることで樹脂組成物の耐熱性と流動性に優れたものとすることが出来る。グラフト共重合体(B)の量が45質量%を超えると耐熱性が低下し、10質量%未満では流動性が低下する。
【0037】
[アリールホスフィンオキシド(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、アリールホスフィンオキシド(C)を含有する。ここでアリール基とは、置換基を有してもよい、単環式又は多環式の芳香族基を含む基を意味し、特に好ましくは置換基を有してもよいフェニル基を意味する。
アリールホスフィンオキシド(C)としては、トリフェニルホスフィンオキシド、ジフェニルブチルホスフィンオキシド、ジフェニルオクタデシルホスフィンオキシド、トリス(p-トリル)ホスフィンオキシド、トリス(p-ノニルフェニル)ホスフィンオキシド、トリス(ナフチル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(ヒドロキシメチル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(アセトキシメチル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(β-エチルカルボキシエチル)ホスフィンオキシド、トリス(p-クロロフェニル)ホスフィンオキシド、トリス(p-フルオロフェニル)ホスフィンオキシド、ジフェニルベンジルホスフィンオキシド、ジフェニル-β-シアノエチルホスフィンオキシド、ジフェニル(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキシド、ジフェニル-1,4-ジヒドロキシフェニル-2-ホスフィンオキシド、フェニルナフチルベンジルホスフィンオキシド等が好ましく挙げられ、トリアリールホスフィンオキシドが好ましく、特に好ましくはトリフェニルホスフィンオキシドである。
【0038】
アリールホスフィンオキシド(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、0.001~0.3質量部である。このような量で、フェノール構造を有する化合物(D)と組み合わせて含有する樹脂組成物が優れた耐候性を達成することができる。アリールホスフィンオキシド(C)の含有量は、好ましくは0.002質量部以上であり、さらに好ましくは0.003質量部以上、特に好ましくは0.004質量部以上であり、また、好ましくは0.25質量部以下であり、中でも0.2質量部以下、0.15質量部以下、0.13質量部以下、特に好ましくは0.1質量部以下である。
【0039】
[フェノール構造を有する化合物(D)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、フェノール構造を有する化合物(D)を含有する。
本発明において、フェノール構造を有する化合物(D)はベンゼン環に直接ヒドロキシ基が結合した化合物であり、後記するフェノール系酸化防止剤は含まない。本発明において、フェノール構造を有する化合物(D)は4-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、4-α-クミルフェノール、ビスフェノールAのうちの少なくとも1種を含有する。これらの中でも、4-t-ブチルフェノール、4-α-クミルフェノール、4-t-ブチルフェノールがより好ましい。
フェノール構造を有する化合物(D)は、1種を単独で含有してもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0040】
フェノール構造を有する化合物(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、0.001~0.3質量部である。フェノール構造を有する化合物(D)を2種以上含有する場合は、それらの合計量である。ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)に、このような量でアリールホスフィンオキシド(C)と共に含有する樹脂組成物が、高度な耐候性に優れ、且つ耐衝撃性や耐熱性、流動性(成形性)に優れる。
【0041】
フェノール構造を有する化合物(D)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.0015質量部以上であり、より好ましくは0.002質量部以上、特に好ましくは0.003質量部以上であり、また、好ましくは0.25質量部以下であり、中でも0.2質量部以下、0.1質量部以下、0.05質量部以下、0.01質量部以下、特に好ましくは0.005質量部以下である。
【0042】
フェノール構造を有する化合物(D)として、4-t-ブチルフェノールを含有する場合の含有量は、(A)、(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.0012~0.01質量部であり、より好ましくは0.0015~0.005質量部、中でも0.002~0.0048、特に好ましくは0.003~0.0045質量部である。
フェノール構造を有する化合物(D)として、2,4-ジ-t-ブチルフェノールを含有する場合の含有量は、(A)、(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.0012~0.01質量部であり、より好ましくは0.0015~0.005質量部、中でも0.002~0.0048、特に好ましくは0.003~0.0045質量部である。
4-α-クミルフェノールを含有する場合の含有量は、(A)、(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.0012~0.01質量部、より好ましくは0.0015~0.005質量部、中でも0.002~0.0048、特に好ましくは0.003~0.0045質量部である。
フェノール構造を有する化合物(D)として、ビスフェノールAを含有する場合の含有量は、(A)、(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.002~0.03質量部、より好ましくは0.004~0.01質量部である。
【0043】
4-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、4-α-クミルフェノール、あるいはビスフェノールAは、ポリカーボネート樹脂(A)の製造時に使用または副生したもの、あるいはリサイクルしたポリカーボネート樹脂由来のものが、フリーの状態で存在していてもよく、これらの量もフェノール構造を有する化合物(D)の量として含まれる。
【0044】
[アリールホスフィン(E)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、アリールホスフィン(E)を含有することも好ましい。ここでアリール基とは、置換基を有してもよい、単環式又は多環式の芳香族基を含む基を意味し、特に好ましくは置換基を有してもよいフェニル基を意味する。
アリールホスフィン(E)としては、例えばトリフェニルホスフィン、ジフェニルブチルホスフィン、ジフェニルオクタデシルホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(p-ノニルフェニル)ホスフィン、トリス(ナフチル)ホスフィン、ジフェニル(ヒドロキシメチル)ホスフィン、ジフェニル(アセトキシメチル)、ジフェニル(β-エチルカルボキシエチル)ホスフィン、トリス(p-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(p-フルオロフェニル)ホスフィン、ジフェニルベンジルホスフィン、ジフェニル-β-シアノエチルホスフィン、ジフェニル(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン、ジフェニル-1,4-ジヒドロキシフェニル-2-ホスフィン、フェニルナフチルベンジルホスフィン等が好ましく挙げられ、トリアリールホスフィンが好ましく、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン等が好ましく挙げられ、特に好ましくはトリフェニルホスフィンである。
【0045】
アリールホスフィン(E)を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~0.3質量部である。このような量で、アリールホスフィンオキシド(C)とフェノール構造を有する化合物(D)と併せて含有する樹脂組成物が、さらに耐候性を向上させることができる。アリールホスフィン(E)の含有量は、より好ましくは0.005質量部以上であり、中でも0.008質量部以上、特に好ましくは0.01質量部以上であり、また、より好ましくは0.25質量部以下であり、中でも0.2質量部以下、0.15質量部以下、0.1質量部以下、0.05質量部以下、特に0.04質量部以下が好ましい。
【0046】
[トリアリールホスファイト]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらにトリアリールホスファイトを含有することも好ましい。ここでアリール基とは、置換基を有してもよい、単環式又は多環式の芳香族基を含む基を意味し、特に好ましくは置換基を有してもよいフェニル基を意味する。
【0047】
トリアリールホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(p-トリル)ホスファイト、トリス(p-ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(モノノニル/ジノニル・フェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ナフチル)ホスファイト、トリス(p-クロロフェニル)ホスファイト、トリス(p-フルオロフェニル)ホスファイト、ジフェニルベンジルホスフィン、ジフェニル(p-ヒドロキシフェニル)ホスファイト、ジフェニル-1,4-ジヒドロキシフェニル-2-ホスファイト、フェニルナフチルベンジルホスフィン等が好ましく挙げられ、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。
【0048】
トリアリールホスファイトを含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~0.3質量部である。このような量で、アリールホスフィンオキシド(C)及びフェノール構造を有する化合物(D)と組み合わせて含有することで、滞留熱安定性が更に優れたものにすることができる。トリアリールホスファイトの含有量は、より好ましくは0.005質量部以上であり、中でも0.008質量部以上、特に好ましくは0.01質量部以上であり、また、より好ましくは0.25質量部以下であり、中でも0.2質量部以下、0.15質量部以下、0.1質量部以下、0.05質量部以下、特に0.04質量部以下が好ましい。
【0049】
[フェノール系酸化防止剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらにフェノール系酸化防止剤を含有することも好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく挙げられる。その具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3”,5,5’,5”-ヘキサ-t-ブチル-a,a’,a”-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-t-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0050】
中でも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが特に好ましい。
なお、フェノール系酸化防止剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0051】
フェノール系酸化防止剤を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。フェノール系酸化防止剤の含有量を前記範囲の下限値以上とすることで、フェノール系酸化防止剤としての効果を十分得ることができる。また、フェノール系酸化防止剤の含有量が前記範囲の上限値以下にすることにより、効果が頭打ちになることなく、経済的である。
【0052】
[離型剤]
本発明の樹脂組成物は離型剤を含有することも好ましい。
離型剤としては、例えば、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0053】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6~36の一価または二価カルボン酸であり、炭素数6~36の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0054】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルにおける脂肪族カルボン酸としては、例えば、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがさらに好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する用語として使用される。
【0055】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0056】
なお、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0057】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0058】
数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ-トロプシュワックス、炭素数3~12のα-オレフィンオリゴマー等が挙げられる。なお、ここで脂肪族炭化水素としては、脂環式炭化水素も含まれる。また、これらの炭化水素は部分酸化されていてもよい。
これらの中では、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスまたはポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、パラフィンワックス、ポリエチレンワックスがさらに好ましい。
また、前記の脂肪族炭化水素の数平均分子量は、好ましくは5000以下である。
なお、脂肪族炭化水素は、単一物質であってもよいが、構成成分や分子量が様々なものの混合物であっても、主成分が上記の範囲内であれば使用できる。
【0059】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられる。
【0060】
なお、上述した離型剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0061】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。離型剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、離型性の効果が十分でない場合があり、離型剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などが生じる可能性がある。
【0062】
[紫外線吸収剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有することも好ましい。
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オキサニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明の樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0063】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等が挙げられ、中でも2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]が好ましく、特に2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0064】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-n-ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0065】
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4-t-ブチルフェニルサリシレート等が挙げられる。
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等が挙げられる。
オキサニリド化合物の具体例としては、例えば、2-エトキシ-2’-エチルオキサリックアシッドビスアリニド等が挙げられる。
マロン酸エステル化合物としては、2-(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく、2-(1-アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。
【0066】
紫外線吸収剤を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対して、通常0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、耐候性、耐光性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ金型汚染を引き起こす可能性がある。
紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0067】
[添加剤等]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記した以外のその他の添加剤、例えば、蛍光増白剤、顔料(酸化チタン等を含む)、染料、難燃剤、耐衝撃改良剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤を含有することができる。これらの添加剤は一種又は二種以上を含有してもよい。
【0068】
また、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)以外の他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂(GPPS)、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。
ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)以外のその他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)及びグラフト共重合体(B)の合計100質量部に対し、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下がより好ましく、さらには5質量部以下、特には3質量部以下とすることが好ましい。
【実施例
【0069】
以下、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の効果を確認するため、ポリカーボネート樹脂組成物を以下のように調整して製造したが、本発明は以下の例に限定して解釈されるものではない。
使用した成分は、以下の表1の通りである。
【0070】
【表1】
【0071】
(実施例1~13、比較例1~9)
上記した各成分を、後記表2以下に記した割合(質量部)で配合し、二軸押出機(東芝機械社製「TEM26SX」)に供給し、スクリュー回転数150rpm、吐出量25kg/時、バレル温度260℃の条件で混練し、押出ノズル先端からストランド状に押し出した。ストランドを水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてカットしてペレット化し、ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0072】
<MVR>
上記の方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、ISO1133に準拠して測定温度250℃、荷重2.16kgfの条件でMVR(メルトボリュームレイト、単位:g/10min)を測定した。
【0073】
<ノッチ付きシャルピー強度>
上記の方法で得られたペレットを100℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80III」)にて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃の条件で射出成形し、ISO多目的試験片(4mmt)を製造した。
得られたISO多目的試験片(4mmt)を用い、ISO規格179に基づき、温度23℃で、ノッチ付きシャルピー強度(単位:kJ/m)を測定した。
【0074】
<耐熱性 DTUL(荷重たわみ温度)>
ISO75-1およびISO75-2に基づき、4mm×10mmのISO多目的試験片(4mmt)の中央に、一定の曲げ荷重(1.80MPa)をフラットワイズ方向に加え、等速度で昇温させ、中央のひずみが0.34mmに達した時の温度(単位:℃)を測定した。
【0075】
<耐候性(ΔE)>
得られたペレットを、東芝機械社製の射出成形機「EC50SXII」を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度60℃の条件で射出成形することにより、縦90mm、横60mm、厚さ2mmのプレート状成形品を得た。
得られたプレート状成形品をキセノンウェザオ試験機(ATLAS社製、「Ci4000」)を用い、波長300-400nmの光で、温度:89℃、照射強度:約55W/m、処理時間:100hrs(カーボンブラック添加系は処理時間200hrs)の条件にて、耐光処理を行い、日本電色工業社製「SE6000」にて、D65、10°視野、反射条件にて、耐光処理前後の色相を測定し、色差ΔEを求め、耐光性を評価した。
ΔEは、7.5以下であることが好ましい。また、カーボンブラック添加系の場合は3.0以下であることが好ましい。
【0076】
以上の評価結果を、下記表2以下に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、高度の耐候性を有し、且つ耐衝撃性や耐熱性、流動性(成形性)に優れるので、各種の成形品に好適に利用できる。
【要約】
粘度平均分子量が17500~30000のポリカーボネート樹脂(A)55~90質量%、及び芳香族ビニル単量体成分(b1)、シアン化ビニル単量体成分(b2)及びジエン系ゴム質重合体成分(b3)を含むグラフト共重合体(B)10~45質量%を含有する(A)及び(B)の合計100質量部に対し、
アリールホスフィンオキシド(C)0.001~0.3質量部、及びフェノール構造を有する化合物(D)0.001~0.3質量部を含有し、
フェノール構造を有する化合物(D)が4-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、4-α-クミルフェノール、ビスフェノールAのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。