(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20240321BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20240321BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240321BHJP
F16C 33/82 20060101ALI20240321BHJP
F16C 19/52 20060101ALN20240321BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16C33/82
F16C19/52
(21)【出願番号】P 2019163283
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】堀越 大裕
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-101696(JP,A)
【文献】特開2004-360823(JP,A)
【文献】特開平4-73419(JP,A)
【文献】特開2011-256895(JP,A)
【文献】米国特許第5161902(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
33/30-33/66
33/72-33/82
41/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪の間に転動体を備えた軸受において、
前記転動体を保持する保持器と、
前記内輪および外輪と同軸の円環状に形成された円環部材とを備え、
前記円環部材は磁性体から形成されていて、
前記円環部材は前記内輪の側方に設けられ、該円環部材の外輪側の端部が直接又は間接に前記外輪または保持器に固定されていて、
前記内輪は前記円環部材を配置する分前記外輪よりも幅が狭く形成されていて、
軸に伝搬した高周波ノイズを前記円環部材によって減衰させることを特徴とする軸受。
【請求項2】
内輪および外輪の間に転動体を備えた軸受において、
前記内輪および外輪と同軸の円環状に形成された円環部材を備え、
前記円環部材は磁性体から形成されていて、
前記円環部材の幅は前記内輪の幅より狭く、該円環部材が前記内輪の側方に突出しない状態に、前記内輪の内周面の一部である切欠きに埋め込まれていて、
軸に伝搬した高周波ノイズを前記円環部材によって減衰させることを特徴とする軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内輪および外輪の間に転動体を備えた軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、EV車(electric car)やHV車(hybrid car)等の開発の進展もあり、一台の自動車に搭載される高電圧部品の数が増加しつつある。高電圧部品の数が増えると、部品同士の電磁気的干渉も大きくなる。例えば、高周波ノイズが車載ラジオなどの電子機器に伝搬すると、雑音や誤動作の原因となる。そのため、現在、自動車における高周波ノイズ対策が要望されている。なかでも、本願発明者らによって、自動車の各所に設置される軸受を利用した高周波ノイズの除去が検討されている。
【0003】
ここで、通電することを想定した軸受として、例えば特許文献1には転がり軸受10が開示されている。この転がり軸受10は、主に転動体13の電食による損傷防止を目的として、保持器14に磁性体の円環状フェライト16を埋め込んでいる。円環状フェライト16は、転動体13のインピーダンスを高めることで、転動体13の周囲の急激な放電を緩和したり交流電流を抑制したりし、転動体13等の電食による損傷を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者らは、上述した軸受による高周波ノイズの除去を検討するにあたって、軸を伝搬経路とする高周波ノイズに対して、軸受を経由して外部へと迂回させる構成の実現を試みた。しかしながら、高周波ノイズを効率よく低減させるためには、さらなる工夫が必要であった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、軸に伝搬した高周波ノイズを効率よく低減させることが可能な軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる軸受の代表的な構成は、内輪および外輪の間に転動体を備えた軸受において、内輪および外輪と同軸の円環状に形成された円環部材を備え、円環部材は、磁性体から形成されていて、軸に伝搬した高周波ノイズを円環部材によって減衰させることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、円環部材をいわゆるフェライトコアとして利用し、軸にインダクタンス成分をもたらすことで高周波ノイズを効率よく減衰させ、これによって電子機器の電磁障害を防ぐことが可能となる。円環状部材に用いる磁性体は、例えばフェライトまたは磁性ゴム等を好適に用いることができる。
【0009】
上記の円環部材は、転動体を保持する保持器に固定されていてもよい。この構成によって、磁性体から形成された円環部材を軸の周囲に配置することが可能となる。
【0010】
上記の円環部材は、外輪に固定されていてもよい。この構成によっても、磁性体から形成された円環部材を軸の周囲に配置することが可能となる。
【0011】
上記の円環部材は、内輪の内周面に埋め込まれていてもよい。この構成によっても、磁性体から形成された円環部材を軸の周囲に配置することが可能となる。
【0012】
上記の内輪および外輪の間にて転動体を側方から覆うシールをさらに備え、シールは、導電性を有する樹脂材料から形成されていて、円環部材のインダクタンスと、前記シールのキャパシタンスによって、軸に伝搬した高周波ノイズに対するLCフィルタを構成してもよい。
【0013】
上記構成によれば、軸を高周波ノイズの伝搬経路としたとき、円環部材をインダクタ、そしてシールを経由する回路をコンデンサに見立てたLCフィルタが形成できる。インダクタは高い周波数の交流ほど通しにくく、コンデンサは高い周波数の交流ほど通しやすいという性質がある。したがって、上記構成によれば、軸に伝搬した高周波ノイズに対するローパスフィルタを実現し、高周波ノイズをより効率よく除去することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軸に伝搬した高周波ノイズを効率よく低減させることが可能な軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態にかかる軸受の概要を示した図である。
【
図2】軸受のノイズフィルタ機能を回路図で例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態にかかる軸受100の概要を示した図である。当該軸受100は、内輪102と外輪104との間に転動体として一列の玉106および保持器108を備えた、単列の深溝玉軸受として具現化されている。当該軸受100は、例えばEV車の内部機構に利用することを想定していて、以下に説明する各構成要素によって、モータ等の高電圧部品から軸110へと伝搬する高周波ノイズを低減する機能(ノイズフィルタ機能)を有している。
【0018】
軸受100は、一方の側部に金属製のシールド112を備え、他方側にゴムシール114を備えている。シールド112およびゴムシール114は、それぞれ内外の軌道輪の間にて玉106を側方から覆っていて、潤滑油の漏洩や異物の侵入防止などを行っている。
【0019】
シールド112は、円環状かつ断面L字の金属板で、外輪104の内周面に面接触するよう圧入された状態になっている(しまりばめ)。上述したノイズフィルタ機能を実現する要素として、シールド112には磁性体から形成された円環部材116が一体に固定されている。
【0020】
円環部材116は、軸110の周囲に配置された、内輪102および外輪104と同軸の円環状に形成された磁性体からなる部材である。円環部材116は、シールド112と内輪102の側面との間に位置するようにして、シールド112の内径側に固定されている。このとき、円環部材116は、内輪102には触れておらず、シールド112を介して外輪104に固定された状態となっている。円環部材116に用いる磁性体としては、例えばフェライトまたは磁性ゴム等を好適に用いることができる。
【0021】
円環部材116は、当該軸受100が支える軸110を導体と考えたとき、いわゆるフェライトコアとしての役割を果たす。円環部材116は、磁性体から形成されていることで、中央を通る軸にインダクタンス成分をもたらす。一般に、インダクタ(コイル)は、周波数の高い電流が流れるほどインピーダンスが高くなり、電流を通し難くなる。これと同様に、磁性体から成る円環部材116は、軸110に伝搬した高周波ノイズを減衰させる。これによって、当該軸受100は、軸110を介して電子機器に高周波ノイズが伝搬されることを防ぎ、電子機器の電磁障害を防いでいる。
【0022】
当該軸受100はさらに、円環部材116に加えて、ゴムシール114も上記ノイズフィルタ機能に役立っている。詳しくは、ゴムシール114は、導電性を有する樹脂材料から形成され、内輪102と外輪104との間で導電回路を形成することが可能になっている。
【0023】
ゴムシール114は、接触型であって、外輪104のシール溝115に嵌め込んで固定されている。ゴムシール114は、導電性を有する樹脂材料から成る樹脂部分118と、耐圧性能や強度、および導電性を補うための中心側の芯金120によって形成されている。樹脂部分の内輪102側にはリップ部122が形成されていて、ゴムシール114はリップ部122で内輪102に接触することで異物の侵入防止等を行っている。このとき、リップ部122と内輪102との間には薄い油膜が存在し、ゴムシール114と内輪102は絶縁された状態となっていて、電気的にはコンデンサとして機能する。
【0024】
ゴムシール114の樹脂部分118は、例えば導電性フィラーを含むアクリルゴム製となっている。この構成であれば、導電性だけでなく、耐熱性も確保することができる。これによって、ゴムシール114は、車両の内部機構等の温度の高くなりやすい環境においても、有効に機能することが可能になる。
【0025】
図2は、軸受100のノイズフィルタ機能を回路図で例示した図である。当該軸受100は、EV車やHV車のうち、例えば特に差動装置などのシャフト(軸110)とハウジング124との間に有効に設置することができる。軸110は、ノイズ源であるモータ側126と、ホイールに向かうドライブシャフト側128とをつないでいる。
【0026】
軸には、軸受100の円環部材116(
図1参照)によるインダクタンス130と、軸受100のゴムシール114によるキャパシタンス132が生じる。すなわち、軸受100は、軸110を高周波ノイズの伝搬経路としたとき、円環部材116をインダクタ、そしてゴムシール114を経由してハウジング124に向かう回路をコンデンサに見立てたLCフィルタを形成する。一般に、インダクタは高い周波数の交流ほど通しにくく、コンデンサは高い周波数の交流ほど通しやすいという性質がある。したがって、当該軸受100によれば、軸110に伝搬した高周波ノイズに対するローパスフィルタを実現し、高周波ノイズをより効率よく除去することが可能になっている。
【0027】
以上のように、本発明に係る軸受100は、軸110を介して電子機器に高周波ノイズが伝搬することを防ぎ、電子機器の電磁障害を防ぐことが可能になっている。当該軸受100は、深溝玉軸受や円すいころ軸受など、各種の軸受として好適に実現することが可能である。いずれの軸受として実現された場合であっても、円環部材116およびゴムシール114によるノイズフィルタ機能によって、設置対象由来の高周波ノイズを好適に低減することが可能である。
【0028】
なお、ゴムシール114の樹脂材料には、導電性アクリルゴムの他にも様々な樹脂材料を採用することが可能である。例えば、ニトリルゴムは耐摩耗性に優れ、フッ素ゴムは高い耐熱性と耐薬品性を備えている。また、シリコンゴムは、高い耐熱性と耐寒性を備えている。これらの樹脂材料においても、導電性フィラーによって導電性を付与することで、各材料の有する特性を生かし、設置対象に応じた特性のゴムシール114、および高周波ノイズの低減を行うことの可能な軸受100を実現することができる。
【0029】
(変形例)
以下、上述した各構成要素の変形例について説明する。
図3および
図4の各図では、既に説明した構成要素と同じものについては、同じ符号を付することによって説明を省略する。また、以下の説明では、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有するものとする。
【0030】
図3は、第1変形例の軸受150を例示した図である。当該軸受150では、円環部材152が、保持器108に一体に固定されている。円環部材152は、
図1の円環部材116と同様に、磁性体から形成された円環状の部材である。この構成の軸受150によっても、磁性体から形成された円環部材152を軸110の周囲に配置し、軸110に伝搬した高周波ノイズを減衰することが可能である。
【0031】
図4は、第2変形例の軸受160を例示した図である。当該軸受160では、円環部材162が、内輪102の内周面側に埋め込まれている。円環部材162は、磁性体を円管状に形成することによって実現されている。内輪102は、軸方向に円環部材162が挿入できるよう、片側の側面から切り欠かれた切欠き164を有している。また、円環部材162は内輪102の一部として軸110を支える際に軸110と絶縁できるよう、内側に絶縁性の樹脂フィルムや塗料などによる絶縁層166を有すると好適である。これら構成の軸受160によっても、磁性体から形成された円環部材162を軸110の周囲に配置し、軸110に伝搬した高周波ノイズを減衰することが可能である。
【0032】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、内輪および外輪の間に転動体を備えた軸受として利用することができる。
【符号の説明】
【0034】
100…軸受、102…内輪、104…外輪、106…玉、108…保持器、110…軸、112…シールド、114…ゴムシール、116…円環部材、118…樹脂部分、120…芯金、122…リップ部、124…ハウジング、126…モータ側、128…ドライブシャフト側、130…インダクタンス、132…キャパシタンス、150…第1変形例の軸受、152…円環部材、160…第3変形例の軸受、162…円環部材、164…切欠き、166…絶縁層